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特開2023-29914神経学的、筋肉、および不妊の疾患または症状の治療のための安定化無定形炭酸カルシウム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023029914
(43)【公開日】2023-03-07
(54)【発明の名称】神経学的、筋肉、および不妊の疾患または症状の治療のための安定化無定形炭酸カルシウム
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/10 20060101AFI20230228BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 11/04 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20230228BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20230228BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20230228BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20230228BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20230228BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230228BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20230228BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20230228BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20230228BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20230228BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20230228BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20230228BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20230228BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20230228BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20230228BHJP
   C12N 5/073 20100101ALI20230228BHJP
   C12N 5/075 20100101ALI20230228BHJP
   C12N 5/076 20100101ALI20230228BHJP
【FI】
A61K33/10
A61P21/00
A61P25/00
A61P27/02
A61P11/04
A61P43/00 105
A61P15/00
A61K9/20
A61K9/48
A61K9/14
A61K9/16
A61K9/08
A61K9/107
A61K47/04
A61K47/24
A61K47/12
A61K47/20
A61K47/26
A61K47/42
A61K47/36
A61K47/10
C12N5/073
C12N5/075
C12N5/076
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190118
(22)【出願日】2022-11-29
(62)【分割の表示】P 2021062622の分割
【原出願日】2017-01-17
(31)【優先権主張番号】62/279,844
(32)【優先日】2016-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/279,845
(32)【優先日】2016-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/279,843
(32)【優先日】2016-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/376,428
(32)【優先日】2016-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.トライトン
(71)【出願人】
【識別番号】515217694
【氏名又は名称】アモーフィカル リミテッド.
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ベン,ヨセフ
(72)【発明者】
【氏名】シャハル,アブラハム
(72)【発明者】
【氏名】アラブ,アミール
(57)【要約】      (修正有)
【課題】いくつかの神経学的、筋肉、および不妊の疾患または症状の治療のための医薬組成物ならびに方法を提供する。
【解決手段】医薬組成物であって、筋ジストロフィ-および軸索欠損から選択される疾患または症状を治療するのに使用するため、少なくとも1種類の安定化剤によって安定化された無定形炭酸カルシウムを含む、上記医薬組成物を提供する。さらに、補助的生殖技術において使用される改善された方法が提供される。このような方法の例は、インビトロ受精および精子の質の改善である。改善されたIVF法は、例えば、受精および胚発達の段階が生じる細胞培養培地への安定化された無定形炭酸カルシウムの添加を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬組成物であって、筋ジストロフィ-および軸索欠損から選択される疾患または症状を治療するのに使用するため、少なくとも1種類の安定化剤によって安定化された無定形炭酸カルシウム(ACC)を含む、上記医薬組成物。
【請求項2】
前記筋ジストロフィ-が、デュシェンヌ型、ベッカ-型、肢帯型、先天性、顔面肩甲上腕型、筋強直性、眼咽頭、遠位型、およびエメリ・ドレフュス型筋ジストロフィ-から選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記筋ジストロフィ-が、デュシェンヌ型筋ジストロフィ-(DMD)である、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記軸索欠損が軸索損傷である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
軸索損傷を治療することが、損傷した神経の再生を高めることを含む、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記欠損または損傷が、中枢神経系の神経または末梢神経系の神経に対するものである、請求項1、4、および5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記少なくとも1種類の安定化剤が、ポリリン酸、リン酸化アミノ酸、有機酸、リン酸化、ホスホン酸化、硫酸化、またはスルホン酸化有機化合物、ヒドロキシカルボン酸のリン酸または硫酸エステル、ビスホスホネ-ト、サッカライドおよびそれらの誘導体、タンパク質、ペプチド、リン酸化タンパク質、リン酸化ペプチド、天然および合成バイオポリマ-およびそれらの誘導体、ならびにそれらのいずれかの組み合わせから選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記安定化剤が、ホスホセリン、三リン酸、アデノシン三リン酸、アデノシン二リン酸、フィチン酸、クエン酸、エチドロン酸、ピロリン酸、エタノ-ル、ヘキサメタリン酸、キチン、およびそれらのいずれかの組み合わせから選択される、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記組成物が、全身投与を介して投与される、請求項1~8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記組成物が、経口によって投与される、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記医薬組成物が、錠剤、カプセル、ピル、粉末、または顆粒から選択される固体投与剤形、あるいはエリキシル、チンキ、懸濁液、シロップ、エマルション、コロイド、またはゲルから選択される液体または半液体投与剤形に製剤化される、請求項9または10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記疾患または症状が軸索欠損であり、前記医薬組成物が局所投与される、請求項1、および4~8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記ACCが、欠損または傷害がある神経に近接して投与される、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記投与が注射、注入による、またはポンプを介したものである、請求項12または13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記医薬組成物が、懸濁液、エマルション、コロイド、またはゲルから選択される液体または半液体投与剤形として製剤化される、請求項12~14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記安定化ACC一次粒子の平均直径が、約10nm~約500nmである、請求項1~15のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
インビトロ受精のための方法であって、(a)哺乳動物卵母細胞をインビトロ受精させ、(b)胚をインビトロ培養することを含み、ここでステップ(a)、ステップ(b)、または両ステップ(a)および(b)は少なくとも1種類の安定化剤によって安定化されたACCを含む細胞培養培地で実施される、上記方法。
【請求項18】
前記胚を少なくとも1種類の安定化剤によって安定化されたACCを含む細胞培養培地においてインビトロ培養することを含み、これによって胚発達を高める、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
ステップ(a)の前に、少なくとも1種類の安定化剤によって安定化されたACCを含む細胞培養培地における卵母細胞のインビトロ成熟のステップをさらに含む、請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
精子の質を改善するための方法であって、精子を少なくとも1種類の安定剤によって安定化された無定形炭酸カルシウム(ACC)に暴露することを含む、上記方法。
【請求項21】
前記精子の質を改善することが、精子運動率を高める、精子前進運動率を高める、精子数を増加する、およびそれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
精子数を増加することが、運動率または前進運動率処理を実施するときに当該精子数を増加することを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
XおよびY染色体を有する精子を分離するための方法であって、(a)精子サンプルを少なくとも1種類の安定剤によって安定化されたACCと接触させ、(b)スイムアップ法を実施し、(c)運動性精子を含む分画を得、(d)ステップ(c)で得られる分画の上相と下相を分離することを含み、ここで上相はY染色体を有する精子が豊富であり、下相はX染色体を有する精子が豊富である、上記方法。
【請求項24】
前記精子、卵母細胞、または胚が、ヒトまたは非ヒト哺乳動物の精子、卵母細胞、または胚である、請求項17~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記非ヒト哺乳動物が、家畜動物、家庭用愛玩動物、げっ歯類、および霊長類からなる群から選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記精子がヒト精子、卵母細胞、または胚である、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記少なくとも1種類の安定化剤が、ポリリン酸、リン酸化アミノ酸、有機酸、リン酸化、ホスホン酸化、硫酸化、またはスルホン酸化有機化合物、ヒドロキシカルボン酸のリン酸または硫酸エステル、ビスホスホネ-ト、サッカライドおよびそれらの誘導体、タンパク質、ペプチド、リン酸化タンパク質、リン酸化ペプチド、天然および合成バイオポリマ-およびそれらの誘導体、ならびにそれらのいずれかの組み合わせから選択される、請求項17~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
男性不妊を治療するのに使用するための医薬組成物であって、少なくとも1種類の安定剤によって安定化された無定形炭酸カルシウム(ACC)を含む、上記医薬組成物。
【請求項29】
前記男性不妊が、低い精子数、低い精子運動率、および低い精子前進運動率によって生じる男性不妊から選択される、請求項28に記載の医薬組成物。
【請求項30】
当該方法を必要とする被験体における筋ジストロフィ-および軸索欠損から選択される疾患または症状を治療するための方法であって、当該被験体に少なくとも1種類の安定化剤によって安定化された無定形炭酸カルシウム(ACC)を含む医薬品として許容可能な組成物を投与することを含む、上記方法。
【請求項31】
前記筋ジストロフィ-が、デュシェンヌ型、ベッカ-型、肢帯型、先天性、顔面肩甲上腕型、筋強直性、眼咽頭、遠位型、およびエメリ・ドレフュス型筋ジストロフィ-からなる群から選択され、あるいはここで前記軸索欠損が軸索損傷である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
当該方法を必要とする被験体における男性不妊を治療するための方法であって、当該被験体に少なくとも1種類の安定剤によって安定化された無定形炭酸カルシウム(ACC)の効果的な量を含む医薬組成物を投与することを含む、上記方法。
【請求項33】
前記男性不妊が、低い精子数と関連する男性不妊、低い精子運動率と関連する男性不妊、および低い精子前進運動率と関連する男性不妊からなる群から選択される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記安定化剤が、ポリリン酸、リン酸化アミノ酸、有機酸、リン酸化、ホスホン酸化、硫酸化、またはスルホン酸化有機化合物、ヒドロキシルカルボン酸のリン酸または硫酸エステル、ビスホスホネ-ト、サッカライドおよびそれらの誘導体、タンパク質、リン酸化タンパク質、天然および合成バイオポリマ-およびそれらの誘導体、ならびにそれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択される、請求項30または33に記載の方法。
【請求項35】
細胞成長を高めるための方法であって、細胞を少なくとも1種類の安定剤によって安定化されたACCに暴露することを含む、上記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特定の筋肉、神経学的、および不妊の疾患または症状の治療のための安定化無定形炭酸カルシウム(ACC)を提供する。さらに、安定化ACCは種々の補助的生殖技術、例えば、哺乳動物胚の成長を高めるまたは精子の質の改善において使用され得る。
発明の背景
【0002】
ACCの投与がカルシウム生物学的利用能の向上(Meironら,J Bone Miner Res.2011,26(2):364-72,Shaltielら,Health 5,2013,18-29、およびVaismanら,Journal of Bone and Mineral Research,2014,29 (10),pp 2203-2209)、つまりカルシウム吸収不全と関連する症状および疾患を緩和する上で特に重要となる効果をもたらしたことが、前臨床的および臨床的な生物学的利用能モデルで示されている。ACCの経口投与は骨パラメ-タに好ましい効果をもたらし、骨粗しょう症予防モデルにおける再吸収抑制作用、同化効果、および骨機械的強度の維持によって実証された(Shaltielら)。WO2013/088440は、カルシウム吸収不全および吸収不全関連障害、疾患、および症状の治療における使用のため、ならびにカルシウム吸収不全および骨代謝関連障害における骨塩密度を増加するため、無定形炭酸カルシウム組成物を開示する。
【0003】
WO2005/115414は、安定なACCを含む経口投与可能な組成物、ならびに骨粗しょう症、骨軟化症、および関連疾患を治療するための方法を記載している。WO2008/041236は、増殖性疾患、神経学的疾患、および筋骨格疾患を含む様々な病理学的症状を治療するのに有効である無定形または微細結晶炭酸カルシウムを含む製剤を記載している。WO2009/053967は、無定形炭酸カルシウム(ACC)、および少なくとも1種類のリン酸化アミノ酸またはリン酸化ペプチドを含む組成物を記載している。当該組成物は、本明細書において示される様々な疾患の治療のために使用され得る。
【0004】
神経傷害は臨床診療において一般的である。事故などによって生じた末梢神経の損傷が完全には回復されない多くの例がある。また、末梢神経が一般的に外科手術の結果として切除されなければならない臨床例も多い。中枢神経系(CNS)は神経線維の長期的で弱い自己修復を有し、末梢神経系(PNS)は迅速な神経線維再生による神経修復能力を有する。傷害後のPNS機能性の回復に関する研究が、軸索再生を促進して導くための適切な方法を探求することに専念され、急速に発展している分野になっている。
【0005】
様々な方法が、損傷した末梢神経を再生する試みで開発されている。このような1つの技術は、切断された神経の近位端と遠位端の実際の縫合を含む。切断された再生軸索の誘導のために、近位および遠位の神経断端間で縫合される様々な導管の使用が積極的に追求されている。
【0006】
現在十分な治療を欠如しているさらなる疾患は、筋ジストロフィ-と関連する。筋ジストロフィ-は筋骨格系を弱めて運動を妨げる筋疾患群である。筋ジストロフィ-は、進行性骨格筋の脱力、筋タンパク質の欠如、および筋細胞および組織の死によって特徴付けられる。このような疾患の一つは、デュシェンヌ型筋ジストロフィ-(DMD)であり、致死的な筋消耗性疾患に少年の約3500名に一人が罹患している。デュシェンヌ型の少年は、約20年の限られた平均余命を有する。障害はジストロフィン遺伝子における変異によって生じ、多くの異なる変異がタンパク質ジストロフィンの機能障害をもたらすものとして特定されている。これは進行性骨格筋消耗および変性によって特徴付けられ(Shinら,Int J Biochem Cell Biol.2013,45(10):2266-79)、異常なカルシウム恒常性も含む。筋ジストロフィ-の医療管理は、コルチコステロイドの使用を含んでいるが、これらのかなり有効な効果にも関わらず、コルチコステロイドによる長期化した治療は骨粗しょう症をもたらし得る。コルチコステロイドがなくとも、デュシェンヌ型筋ジストロフィ-は運動性の低下をもたらし、それ自体が骨折の機会増加および骨塩密度の低下と関連する(Nanetteら,Phys Med Rehabil Clin N Am.2012,23(4):773-99)。
【0007】
現在、DMDまたは神経傷害のための満足のいく治療は今までなく、徴候の重篤度を低下させ、これらの症状を有する患者の生活の質を改善することが成果として考えられ得る。
【0008】
補助的生殖技術(ART)の領域は、雄および雌不妊の両方の問題を解決することが目的とされる。主な技術の一つは、インビトロ受精(IVF)である。細胞培養培地の内容物は、受精および胚発達、そのため結果的に処置の成果に大きく影響し得る。IVFの成功率は、移植される胚の数、ならびに胚の品のような因子と主に関連している。培養培地を変更することは、インビトロ胚発達に大きく影響し得る。胚の質および胚の数を高めることが達成されるとき、進行した発達段階が受胎の成功する機会を増加させ得、インビトロ胚発達のための最適条件を見つけ出すことによってIVF全過程の効率を増加することができる。
【0009】
「男性要因」不妊は、1および4週離して収集された2回の精子分析の少なくとも1サンプルでの精子濃度および/または運動率および/または形態学における変化として認められる。ヒトでは、これは不妊の40~50%を占め、全男性の約7%に影響する。男性不妊は一般的に、低い精子数、運動率、および精子の異常な形態学に反映される精液または精液の質における欠如に起因する(Kumar and Singh,2015,J. Hum.Reprod.Sci.,8(4):191-196)。
【0010】
子宮内受精または従来のIVFのようなARTのほとんどの技術は、精子の少なくとも正常な運動率を必要とする。精子選択のいくつかの方法が現在存在し、例えば、従来の洗浄スイムアップ法が使用され、本来の精子運動率に基づいてほとんどの運動性精子を選択する。選択された精子は結果的にIVF処理に使用され得る。インビトロ精子改善に関する多くの技術が示唆されている。インビトロ実験の結果は、ビタミンEが酸化的損傷および運動率低下から精子を保護し得、ならびにハムスタ-卵貫通アッセイにおいて精子能力を高め得ることを示唆する(Agarwal&Sekhon,Human Fertility,December 2010,13(4):217-225)。Bhoumikら(Cell Biochem.Biophys.,2014,70:1177-1183)は、カルシウム無含有培地へのCa2+イオンの添加が精子前進運動率を20%まで増加することを実証した。
【0011】
男性不妊の現象は世界中で増加しており(KumarおよびSigh)、ますます多くの夫婦を補助的生殖技術に向かわせる。このため、インビトロで精子運動率を改善するための新規の方法が必要とされる。
【発明の概要】
【0012】
無定形炭酸カルシウム(ACC)は細胞の再生、発達、成熟、および分化をプラスに高めることができることが、驚くべきことに発見されている。部分的に本発明は、ACCが神経線維再生を加速する、筋管形成を促進する、精子の質を改善する、および限定されないが発達の進行した段階に達する胚の数を増加することを含めて胚の発達を高めるという、予期せぬ結果に基づいている。
【0013】
一つの態様では、本発明は神経筋欠損と関連する疾患または症状を治療するのに使用するため、少なくとも1種類の安定化剤によって安定化された無定形炭酸カルシウム(ACC)を含む医薬組成物を提供する。特定の実施形態により、疾患または症状は筋ジストロフィ-および軸索欠損から選択される。いくつかの実施形態により、医薬組成物は軸索欠損、例えば軸索損傷を治療するのに使用するためのものである。別の実施形態により、医薬組成物はデュシェンヌ型筋ジストロフィ-のような筋ジストロフィ-を治療するのに使用するためのものである。さらなる態様により、本発明はこの方法を必要とする被験体における筋ジストロフィ-および軸索欠損から選択される疾患または症状を治療するための方法を提供し、当該被験体に少なくとも1種類の安定化剤によって安定化された無定形炭酸カルシウム(ACC)を含む医薬品として許容可能な組成物を投与することを含む。
【0014】
別の実施形態により、本発明はインビトロ受精のための方法を提供し、(a)哺乳動物卵母細胞をインビトロ受精させ、(b)胚をインビトロ培養することを含み、ここでステップ(a)、ステップ(b)、または両ステップ(a)および(b)は少なくとも1種類の安定化剤によって安定化されたACCを含む細胞培養培地において実施される。本方法は、いくつかの実施形態では、ステップ(a)の前に、少なくとも1種類の安定化剤によって安定化されたACCを含む細胞培養培地における卵母細胞のインビトロ成熟のステップをさらに含み得る。いくつかの実施形態により、動物はヒトおよび非ヒト哺乳動物から選択される。
【0015】
特定の態様により、本発明は精子の質を改善または向上するための方法を提供し、精子を少なくとも1種類の安定剤によって安定化された無定形炭酸カルシウム(ACC)に暴露することを含む。いくつかの実施形態により、本方法は精子を少なくとも1種類の安定化剤によって安定化されたACCに暴露する、または接触させることを含む。一つの実施形態により、精子はヒト精子である。別の実施形態により、精子の質を改善することは、精子運動率を高める、精子前進運動率を高める、精子数を増加することを含み、従って、本発明の方法は、精子運動率を高める、精子前進運動率を高める、精子数を増加することを含む。
【0016】
別の実施形態により、本発明はXおよびY染色体を有する精子細胞を分離するための方法を提供し、当該方法は、(a)精子サンプルを少なくとも1種類の安定剤によって安定化されたACCと接触させ、(b)スイムアップ法を実施し、(c)運動性精子を含む分画を得、(d)ステップ(c)から得られる分画の上相と下相を分離することを含み、ここで上相はY染色体を有する精子が豊富であり、下相はX染色体を有する精子が豊富である。
【0017】
さらに別の態様により、本発明は男性不妊を治療するのに使用するため、少なくとも1種類の安定化剤によって安定化された無定形炭酸カルシウム(ACC)を含む医薬組成物を提供する。
【0018】
いくつかの態様により、本発明はこの方法を必要とする被験体における男性不妊を治療するための方法を提供し、当該被験体に少なくとも1種類の安定剤によって安定化された無定形炭酸カルシウム(ACC)の効果的な量を含む医薬組成物を投与することを含む。
【0019】
前記態様のいずれか一つにより、ACCは少なくとも1種類の安定化剤によって安定化される。一つの実施形態により、安定化剤は、ポリリン酸、リン酸化アミノ酸、有機酸、リン酸化、ホスホン酸化、硫酸化、またはスルホン酸化有機化合物、ヒドロキシル-カルボン酸のリン酸または硫酸エステル、ビスホスホネ-ト、サッカライドおよびそれらの誘導体、タンパク質、リン酸化タンパク質、天然および合成バイオポリマ-、およびそれらの誘導体、ならびにそれらのいずれかの組み合わせから選択される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】培養した脊髄-後根神経節(SC-DRG)スライスから得た神経発芽における異なるカルシウム源の効果を示す図である。下記のカルシウム化合物(2mMのCa2+濃度)に暴露されたSC-DRGスライスから成長した神経線維の免疫蛍光染色(抗神経細糸抗体)。(A)ACC-エチドロン酸、(B)ACC-ホスホセリン、(C)胃石、(D)結晶炭酸カルシウム(CCC)、および(E)CaCl溶液(対照)。原倍率×100。
図2】キトサンマイクロキャリア(MC)で培養された脳細胞から得られる神経発芽における、(A)エチドロン酸によって安定化されたACC、および(B)CaCl溶液(対照)の効果を示す図である。ACC-エチドロン酸またはCaClのどちらかの2mMの存在下での培養30日後に、脳細胞-キトサンMC凝集物から成長した神経線維の免疫蛍光染色(抗神経細糸抗体)を示す。
図3】健全な骨格筋培養における筋管の形成に対するACCの効果を示す図である。原倍率×40。骨格筋培養は、下記のカルシウム化合物に暴露させた(2mMの最終Ca2+濃度)。ACC-エチドロン酸、ACC-ADP、胃石、結晶炭酸カルシウム(CCC)、およびCaCl溶液(対照)。培養を4日および7日後に固定してギムザで染色した。骨格筋培養による筋管形成の向上がACC処理細胞で認められた。
図4】mdx細胞株培養における筋管の初期形成に対する培養培地中のACCの効果を示す図である。CaCl、ACC-ET、およびACC-ホスホセリン(ACC-PS)を含む培地に暴露された培養のギムザ染色を示す。原倍率×100。
図5】2種のACC調製物(ACC-ETおよびACC-PS)対CaClに暴露されたmdx筋細胞株で測定されたクレアチニンキナ-ゼ(CK)量を示す図である。
図6】mdxマウス一次培養における筋管の形成に対するACC(ACC-PS、ACC-PP対対照(CaCl))の効果(ギムザ染色、原倍率×50)を示す図である。
図7】mdxマウス一次培養における筋管の形成に対するACCの効果を、ミオシンの免疫染色によって実証して示す図である。対照(CaCl)、ACC-PS、ACC-ポリリン酸(ACC-PP)。原倍率×100。
図8】異なるタイプのカルシウムサプリメントが経口投与されたマウス(野生型およびmdxマウス)のクレアチニンキナ-ゼ値を示す図である。
図9】mdxマウスの四肢ハンギング試験におけるこれらの能力に対する安定化ACCの投与の効果を示す図である。
図10】ACCの種々の濃度を添加したワンステップ培地におけるインビトロでのマウス胚発達に対する安定化ACCの効果を示す図である。
図11】ワンステップ培地におけるインビトロでのマウス胚発達に対する安定化ACCの効果を示す図である。
図12】分割培地におけるインビトロでのマウス胚発達に対する安定化ACCの効果を示す図である。
図13】様々な培地処理の機能として培養10日後の骨芽細胞のアリザリンレッド染色を示す図である。培地はA-ACC、B-CaClの1mMの追加Ca2+が補充され、C-対照はCa2+未補充だった。
図14】様々な培地処理の機能として培養10日後の骨芽細胞のアルカリホスファタ-ゼ染色を示す図である。培地はA-ACC、B-CaClの1mMの追加Ca2+が補充され、C-対照はCa2+未補充だった。
図15】添加された1mMの追加Ca2+の異なる供給源による培地で成長させたmdx細胞株のアリザリンレッド染色(A~C)およびアルカリホスファタ-ゼ(D~F)を示す図である。AおよびD-ACC、BおよびE-CaCl、またはCおよびF-対照(カルシウムの追加補充なし)。
図16】卵母細胞を囲む顆粒膜細胞が完全であるインビトロ培養された卵巣(A)の安定化ACCの効果を、不完全な顆粒膜細胞および卵母細胞が胚胞段階で観察される対照(B)(培地にACC無添加)に対して示す図である。本発明の詳細な説明
【0021】
本発明は、細胞成長および成熟におけるACCの予期せぬ利点を開示する。これらの寄与は、後述で例示される細胞成長の様々な系で観察された。
【0022】
いくつかの特定の態様により、本発明は神経筋疾患または症状から選択される疾患または症状を治療するのに使用するため、少なくとも1種類の安定化剤によって安定化された無定形炭酸カルシウム(ACC)を含む医薬組成物を提供する。特定の実施形態では、疾患は筋ジストロフィ-および軸索欠損から選択され得る。本発明のいくつかの他の特定の態様により、少なくとも1種類の安定化剤によって安定化されたACCは補助的生殖技術(ART)において使用され得る。一つの実施形態により、ARTはインビトロ受精である。別の実施形態により、ARTは精子の質を改善することを含む。
【0023】
本発明の各態様のため、個別的および集合的に、次の用語が使用され、特定のパラメ-タが後述のように定められる。
【0024】
用語「医薬組成物」および「医薬品として許容可能な組成物」は本明細書において交換可能で使用され、1種類以上の医薬品として許容可能な担体とともに製剤化される、本明細書において後述で開示されるような、1種類以上の安定剤によって安定化されたACCを含む組成物を意味する。
【0025】
本明細書で使用される用語「医薬品として許容可能な担体」または「医薬品として許容可能な賦形剤」は、医薬品投与に適合性である、いずれかおよびすべての溶媒、分散メディア、保存剤、抗酸化剤、コ-ティング、等張剤、吸収緩徐剤、界面活性剤、緩衝剤などを意味する。医薬品として有効な成分のためのこのようなメディアおよび薬剤の使用は、従来技術で良く知られている。本組成物は、補助、追加、または増強された治療機能をもたらす他の有効薬剤を含み得る。
【0026】
いくつかの実施形態により、疾患または症状は軸索欠損であり、そのため本発明は軸索欠損を治療するのに使用するため、少なくとも1種類の安定化剤によって安定化されたACCを含む医薬組成物を提供する。
【0027】
本明細書で使用される用語「治療する」は、臨床的な結果を含む、有益または所望の結果を得る段階を実施することを意味する。有益または所望の臨床結果は、限定されないが、症状と関連する1つ以上の徴候の軽減または改善を含む。
安定化ACC:
【0028】
前記実施形態のいずれか一つにより、ACCは少なくとも1種類の安定化剤によって安定化される。用語「無定形炭酸カルシウム」および「ACC」は本明細書において交換可能で使用され、少なくとも1種類の安定化剤によって安定化された炭酸カルシウムの非結晶無定形型を意味する。用語「安定化剤」および「安定剤」は本明細書では交換可能で使用され、炭酸カルシウムをACC生産、製剤化、保存、および/または使用の際に無定形状態に維持するのに寄与するいずれかの物質を意味する。特定の実施形態では、安定化剤は単剤である。他の実施形態では、いくつかの安定化剤の使用が包含される。用語「安定化ACC」および「少なくとも1種類の安定化剤によって安定化されたACC」は、いくつかの実施形態では交換可能で使用され得る。
【0029】
ACCは天然源または化学的な合成から得ることが可能である。用語はまた、胃石から得られるACCのような自然に安定化されたACCを含む。
【0030】
本明細書で使用される用語「天然ACC」は、天然源から分離または派生されるいずれかのACCを意味する。ACCの天然源の非限定的な例には、淡水甲殻類の胃石が含まれる。
【0031】
本明細書で使用される用語「合成ACC」は、ヒトによって生体外で産生および/または派生されるいずれかのACCを意味する。
【0032】
安定剤は1つ以上の官能基を有する分子を含み得、限定されないが、ヒドロキシル、カルボキシル、エステル、アミン、ホスフィノ、ホスホノ、ホスフェ-ト、スルホニル、サルフェ-ト、またはスルフィン基から選択される。水酸化物と結合されるヒドロキシ含有化合物は、任意にカルボキシルなどの他の官能基も有するが、エステル化されないヒドロキシルを伴う。
【0033】
いくつかの実施形態により、安定剤は哺乳動物細胞または生物、特にヒトに対して毒性が低いまたは毒性を有さない。他の実施形態により、安定剤は食品、栄養補助食品、または医薬品グレ-ドである。
【0034】
特定の実施形態では、ACC安定化剤は各存在において独立して、有機酸;リン酸化、ホスホン酸化、硫酸化、またはスルホン酸化有機化合物;ヒドロキシルカルボン酸のリン酸または硫酸エステル;有機アミン化合物;ヒドロキシルを含む有機化合物;有機亜リン酸化合物またはその塩;リン酸化アミノ酸およびその誘導体、ビスホスホネ-ト;有機リン酸化合物;有機ホスホン酸化合物;有機ポリリン酸、無機ポリリン酸、無機亜リン酸、前記で定められる複数官能基を有する有機化合物;無機リン酸およびポリリン酸化合物;ポリリン酸鎖を有する有機化合物;有機界面活性剤;生体必須無機イオン;サッカライドおよびその誘導体、タンパク質、リン酸化タンパク質、天然および合成バイオポリマ-およびそれらの誘導体、あるいはそれらのいずれかの組み合わせである。いくつかの実施形態により、安定剤はまた医薬品活性を有し得、例えばビスホスホネ-トまたはATPである。
【0035】
このため、一つの実施形態では、安定化剤は、無機ポリリン酸のようなポリリン酸、有機酸、リン酸化、ホスホン酸化、硫酸化、またはスルホン酸化有機化合物、ヒドロキシカルボン酸のリン酸または硫酸エステル、リン酸化アミノ酸、ビスホスホネ-ト、有機ポリリン酸、サッカライドおよびそれらの誘導体、タンパク質、ペプチド、リン酸化タンパク質、リン酸化ペプチド、およびそれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択される。別の実施形態により、安定化剤は、ホスホセリン、アデノシン三リン酸、アデノシン二リン酸、フィチン酸、クエン酸、エチドロン酸、ピロリン酸、ポリリン酸、三リン酸、エタノ-ル、ヘキサメタリン酸、キチン、およびそれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択される。
【0036】
いくつかの実施形態により、安定剤は有機酸である。特定の実施形態により、有機酸はアスコルビン酸、クエン酸、乳酸、酢酸、シュウ酸、マロン酸、グルタコン酸、コハク酸、マレイン酸、乳酸、グルタミン酸、アコニット酸、および任意に少なくとも2つのカルボン酸を有して任意に250g/molを超えない分子量を有する化合物、例えばクエン酸、酒石酸、リンゴ酸などから選択される。一つの特定の実施形態により、安定剤はクエン酸である。
【0037】
別の実施形態では、安定剤はホスホエノ-ルピルビン酸のようなヒドロキシルカルボン酸のリン酸エステルである。別の実施形態では、ヒドロキシルカルボン酸のリン酸または硫酸エステルはアミノ酸を含む。このようなエステルの例はホスホセリン、ホスホトレオニン、スルホセリン、スルホトレオニン、およびホスホクレアチンである。
【0038】
別の実施形態では、安定剤はサッカライドである。一つの実施形態により、サッカライドは、モノ-、ジ-、トリ-、オリゴ-、およびポリサッカライドであり、スクロ-ス、マンノ-ス、グルコ-ス、キトサン、およびキチンなどである。安定剤は、いくつかの実施形態ではグリセロ-ルなどのポリオ-ルである。別の実施形態により、安定剤はアミノ酸であり、セリンまたはトレオニンなどである。それぞれの実現性は本発明の別々の実施形態を示す。
【0039】
天然および合成バイオポリマ-および誘導体の非限定例はポリヌクレオチドおよび糖タンパク質である。
【0040】
食品消費で承認されているようなACC安定剤におけるいくつかの具体的な非限定例は、自然食品またはヒトで認められており、フィチン酸、クエン酸、ピロリン酸ナトリウム二塩基性、アデノシン5’-一リン酸(AMP)ナトリウム塩、アデノシン5’-二リン酸(ADP)ナトリウム塩、およびアデノシン5’-三リン酸(ATP)二ナトリウム塩水和物、ホスホセリン、リン酸化アミノ酸、食品グレ-ド界面活性剤、ステアロイルラクチラ-トナトリウム、およびそれらの組み合わせを含む。
【0041】
いくつかの実施形態により、安定剤は、ホスホエノ-ルピルビン酸、ホスホセリン、ホスホトレオニン、スルホセリン、またはスルホトレオニンのようなヒドロキシルカルボン酸のリン酸または硫酸エステル、ならびに例えば、スクロ-ス、マンノ-ス、グルコ-スなどのモノ-、ジ-、トリ-、オリゴ-、およびポリサッカライドから選択されるサッカライドから選択される、少なくとも1種類の成分を含む。ヒドロキシ含有化合物はさらに、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのような、少なくとも1種類の水酸化アルカリを含み得る。リン酸化された酸は、オリゴペプチドおよびポリペプチドに存在し得る。本発明の別の実施形態では、安定剤はモノカルボン酸または多カルボン酸、例えば、ジカルボン酸またはトリカルボン酸から選択される有機酸である。それぞれの実現性は本発明の別々の実施形態を示す。有機酸は前記で定める通りであり得る。
【0042】
本発明のいくつかの実施形態では、ACC安定剤はリン酸化アミノ酸、ポリオ-ル、およびそれらの組み合わせから選択される。いくつかの実施形態では、安定なACCは安定剤としてリン酸化化合物を含み、ここでリン酸化は有機化合物のヒドロキシル基で実施される。いくつかの実施形態では、安定なACCはクエン酸、ホスホセリン、ホスホトレオニン、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。ホスフェ-ト、ホスファイト、ホスホネ-ト基、およびこれらの塩またはエステルを含む安定剤の非限定的な例は、フィチン酸、リン酸ジメチル、リン酸トリメチル、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸テトラエチル、リブロ-スビスホスフェ-ト、エチドロン酸、および他の医療用ビスホスホネ-ト、3-ホスホグリセリン酸塩、グリセルアルデヒド3-リン酸、1-デオキシ-D-キシルロ-ス-5-リン酸ナトリウム塩、ジエチレントリアミンペンタキス(メチルホスホン酸)、ニトリロトリ(メチルホスホン酸)、5-ホスホ-D-リボ-ス1-二リン酸五ナトリウム塩、アデノシン5’-二リン酸ナトリウム塩、アデノシン5’-三リン酸二ナトリウム塩水和物、α-D-ガラクトサミン1-リン酸、2-ホスホ-L-アスコルビン酸三ナトリウム塩、α-D-ガラクト-ス1-リン酸二カリウム塩五水和物、α-D-ガラクトサミン1-リン酸、O-ホスホリルエタノ-ルアミン,二ナトリウム塩水和物、2,3-ジホスホ-D-グリセリン酸五ナトリウム塩、ホスホ(エノ-ル)ピルビン酸一ナトリウム塩水和物、D-グリセルアルデヒド3-リン酸、sn-グリセロ-ル3-リン酸リチウム塩、D-(-)-3-ホスホグリセリン酸二ナトリウム塩、D-グルコ-ス6-リン酸ナトリウム塩、ホスファチジン酸、イバンドロン酸ナトリウム塩、ホスホノ酢酸、DL-2-アミノ-3-ホスホノプロピオン酸、またはそれらの組み合わせを含む。生体必須無機イオンは、とりわけ、Na、K、Mg、Zn、Fe、P、S、N、酸化物の相におけるPまたはS、あるいはアンモニアまたはニトロ基としてのNを含み得る。
【0043】
安定剤はさらにホスホン酸化合物を含み得、限定されないが、ビスホスホネ-ト、ポリリン酸など、限定されないがピロリン酸またはポリリン酸または有機ポリリン酸など、限定されないがアデノシン二リン酸(ADP)またはアデノシン三リン酸(ATP)などが挙げられる。
【0044】
任意にACCはホスホセリンおよびクエン酸の併用によって安定化される。別の実施形態では、ACCは三リン酸およびクエン酸によって安定化される。
【0045】
ACCは1種類を超える安定剤、例えば2種類の安定剤によって安定化され得る。いくつかの実施形態では、第一安定剤および第二安定剤は同一である。他の実施形態では、第一安定剤および第二安定剤は異なる安定剤を含む。第一および第二安定剤はそれぞれ独立して上記で定める通りであり得る。安定なACCは、2種類を超える安定剤を含むことができ、ここで安定剤は同一または異なり得る。安定なACCは2種類を超える安定剤を含むことができ、ここで1種類以上の安定剤はACCの形成および沈殿の際にACCに加えられ、そのため「内部」安定剤を構成し、別の1種類以上の安定剤はACC粒子表面にこれらの形成後に加えられ、そのため「外部」安定化剤を構成する。安定なACCおよびこの調製のためのさらなる例は、国際特許出願番号WO2009/053967、WO2014/024191、およびWO2016/193982に認められ得る。
【0046】
いくつかの実施形態では、安定化剤はタンパク質またはペプチドである。一つの実施形態では、タンパク質またはペプチドは、天然に産生されて精製されたタンパク質またはペプチドである。別の実施形態では、タンパク質は合成によって産生されたタンパク質である。いくつかの実施形態では、タンパク質はGAP65、GAP22、GAP21、およびGAP12タンパク質から選択される。別の実施形態では、タンパク質は、CqCDA1、キチナ-ゼ2、β-N-アセチルグルコサミニダ-ゼ、GAMP様タンパク質、キチン結合タンパク質、CqCBP、CAP10、GAP18.2、GAP02526、CqHc1、CqHc2、CqHc3、CqHc4、CqHc5、CqHc6、CqHc7、クリプトシアニン1、シクロフィリン、シスタチン1、シスタチン2、LPS-BP、LEAタンパク質、およびクリスタシアニンから選択され、任意に当該タンパク質はレッドクロウ由来である。特定の実施形態により、タンパク質はリン酸化タンパク質である。
【0047】
いくつかの実施形態では、安定化剤は、ポリリン酸、リン酸化アミノ酸、有機酸、リン酸化、ホスホン酸化、硫酸化、またはスルホン酸化有機化合物、ヒドロキシカルボン酸のリン酸または硫酸エステル、ビスホスホネ-ト、サッカライド、それらの誘導体、タンパク質、リン酸化タンパク質、天然および合成バイオポリマ-、およびそれらの誘導体、ならびにそれらのいずれかの組み合わせから選択される。他の実施形態では、安定化剤は、ホスホセリン、三リン酸、アデノシン三リン酸、アデノシン二リン酸、フィチン酸、クエン酸、エチドロン酸、ピロリン酸、エタノ-ル、ヘキサメタリン酸、キチン、およびそれらのいずれかの組み合わせから選択される。
【0048】
いくつかの実施形態では、安定化剤は、有機酸、リン酸化有機酸、ヒドロキシカルボン酸のリン酸または硫酸エステル、リン酸化アミノ酸、ビスホスホネ-ト、有機ポリリン酸、サッカライド、それらの誘導体、タンパク質、ならびにそれらのいずれかの組み合わせから選択される。
【0049】
いくつかの実施形態により、少なくとも1種類の安定剤は、ポリリン酸、ビスホスホネ-ト、リン酸化アミノ酸、クエン酸、およびそれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、1種類を超える安定剤、例えば、2、3、または4種類の安定剤が加えられる。
【0050】
いくつかの実施形態により、安定剤は、ポリリン酸または医薬品として許容可能なその塩である。いくつかの実施形態により、ポリリン酸は、ナトリウム、カリウム、およびポリリン酸の他の欠かせないカチオンからなる群から選択される、生理学的に適合性である水溶性ポリリン酸塩である。一つの実施形態では、ポリリン酸は有機または無機ポリリン酸である。本明細書で使用される用語「ポリリン酸」は、POの高分子量エステルを意味する。いくつかの実施形態により、ポリリン酸は、ポリリン酸ナトリウムおよびカリウムからなる群から選択される、生理学的に適合性である水溶性ポリリン酸塩である。いくつかの実施形態では、ポリリン酸は無機ポリリン酸またはその医薬品として許容可能な塩である。このような塩の非限定的な例は、Na、K、Mg、Mn、およびZnである。いくつかの実施形態により、無機リン酸は2~10個のリン酸基を含み、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個のリン酸基である。いくつかの実施形態により、ポリリン酸はピロリン酸、三リン酸、およびヘキサメタリン酸から選択される。一つの実施形態により、安定剤はピロリン酸またはその医薬品として許容可能な塩であり、ピロリン酸ナトリウムなどが挙げられる。別の実施形態により、安定剤は三リン酸またはその医薬品として許容可能な塩であり、三リン酸ナトリウムなどが挙げられる。用語「三リン酸」および「トリポリリン酸」は本明細書において交換可能で使用される。さらなる実施形態により、安定剤はヘキサメタリン酸またはその医薬品として許容可能な塩であり、ヘキサメタリン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0051】
いくつかの実施形態により、安定剤はビスホスホネ-ト、またはその医薬品として許容可能なその塩である。塩の非限定的な例は、Na、K、Mg、Mn、およびZnである。
【0052】
本明細書で使用される用語「ビスホスホネ-ト」は、2つのリン酸(PO(OH))基を有する有機化合物を意味する。用語はさらにPO-有機-POの骨格を有する化合物を意味する。最も一般的なものは、骨粗鬆症を治療する医薬品として使用される一連のビスホスホネ-トである。いくつかの実施形態により、ビスホスホネ-トは、エチドロン酸、ゾレドロン酸、メドロン酸、アレンドロン酸、およびそれらの医薬品として許容可能な塩からなる群から選択される。いくつかの実施形態により、安定剤はエチドロン酸またはその医薬品として許容可能な塩である。別の実施形態により、安定剤はゾレドロン酸またはその医薬品として許容可能なその塩である。さらなる実施形態により、安定剤はメドロン酸またはその医薬品として許容可能なその塩である。いくつかの実施形態により、安定剤はアレンドロン酸またはその医薬品として許容可能な塩である。
【0053】
特定の実施形態により、安定剤はリン酸化アミノ酸である。一つの実施形態により、リン酸化アミノ酸はホスホセリンである。別の実施形態により、リン酸化アミノ酸はホスホトレオニンである。
【0054】
いくつかの実施形態により、ACC組成物は前記で開示される安定剤の組み合わせを含む。
【0055】
いくつかの実施形態により、安定剤は前述で定められるポリリン酸またはビスホスホネ-トであり、安定剤のP原子とACCのCa原子の間のモル比(P:Caモル比)は、約1:90~1:1である。一つの実施形態では、P:Caモル比は約1:40~約1:1である。さらなる実施形態では、P:Caモル比は約1:35~約1:2である。特定の実施形態では、P:Caモル比は約1:30~約1:3である。特定の実施形態では、P:Caモル比は約1:28~約1:3である。他の実施形態では、P:Caモル比は約1:25~約1:4である。さらなる実施形態では、P:Caモル比は約1:20~約1:5である。別の実施形態では、P:Caモル比は約1:20~約1:6である。特定の実施形態では、P:Caモル比は約1:15~約1:5である。別の実施形態では、P:Caモル比は約1:25~約1:5である。いくつかの実施形態により、このようなポリリン酸は、ピロリン酸、三リン酸、ヘキサメタリン酸、またはそれらの医薬品として許容可能な塩である。別の実施形態により、ビスホスホネ-トは、アレンドロン酸、エチドロン酸、ゾレドロン酸、またはメドロン酸であり、P:Caモル比は前述で定められた通りである。
【0056】
いくつかの実施形態により、ポリリン酸またはビスホスホネ-トを含む安定化ACCのカルシウム含量(Ca含量)は、約1wt%~約39wt%、約5wt%~約39wt%、約10wt%~約39wt%、約15wt%~約39%、約20wt%~約38wt%、約25wt%~約38wt%、または約30wt%~約38wt%である。用語「Ca含量」および「カルシウム含量」は、本明細書において交換可能で使用され、ACCの最終組成物におけるカルシウムの含量を意味する。
【0057】
特定の実施形態では、P:Caモル比は約1:40~約1:1であり、Ca含量は約20wt%~約39wt%である。いくつかの実施形態では、モル比は約1:28~約1:3であり、Ca含量は約30wt%~約38wt%である。別の実施形態では、モル比は約1:25~約1:5であり、Ca含量は約30wt%~約36wt%である。
【0058】
いくつかの実施形態により、安定剤は、ポリリン酸、リン酸化アミノ酸、ビスホスホネ-ト、クエン酸、酒石酸、およびそれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択される。一つの実施形態により、ポリリン酸は、三リン酸、ピロリン酸、およびヘキサメタリン酸からなる群から選択され、リン酸化アミノ酸はホスホセリンまたはホスホトレオニンであり、ビスホスホネ-トはアレンドロン酸、エチドロン酸、ゾレドロン酸、およびメドロン酸からなる群から選択される。
【0059】
いくつかの実施形態により、安定化ACCは安定化剤を20wt%未満、15wt%未満、10wt%未満、または5wt%未満含む。いくつかの実施形態では、安定化ACCは安定化剤を5wt%まで含む。
【0060】
一つの実施形態により、安定化ACC一次粒子の平均直径は約10nm~約5μmである。別の実施形態により、ACC一次粒子の平均直径は約30~約400nmである。さらに別の実施形態により、ACC一次粒子の平均直径は約30nm~350nmである。特定の実施形態により、ACC一次粒子の平均直径は、約35nm~300nm、40nm~約250nm、約45nm~約200nm、約50nm~約150nm、または約60nm~約100nmである。さらに別の実施形態により、ACC一次粒子の平均直径は約30~00nmである。なお別の実施形態により、ACCの一次粒子は凝集され、凝集体の平均直径は0.5μm~300μmである。一つのさらなる実施形態により、ACC一次粒子の凝集体の直径は、約1~約100μm、約10~約50μm、または約20~約40μmである。別の実施形態により、ACC一次粒子の凝集体の平均直径は1μm~10μmである。
医薬組成物および投与の経路
【0061】
前記実施形態のいずれか一つにより、本発明の医薬組成物は投与の任意の既知経路によって投与され得る。用語として、被験体に物質、化合物、薬剤、または医薬組成物「を投与すること」または「の投与」は、従来技術の当業者によって知られている様々な方法の一つを用いて実施することができる。例えば、化合物、薬剤、または組成物は、経腸的または非経口的に投与することができる。経腸的は経口、舌下、または直腸を含む消化管を介した投与を意味する。非経口投与は、静脈内、皮内、筋肉内、腹腔内、皮下、眼、舌下、鼻腔内、吸入、脊髄内、脳内、および経皮(例えば皮膚管を通した、吸収による)による投与を含む。化合物または薬剤はまた、充電可能なまたは生物分解性ポリマ-のデバイスまたは他のデバイス、例えば、パッチおよびポンプによって、あるいは、化合物または薬剤の延長、緩徐、または制御された放出をもたらす製剤によって適切に導入することができる。投与することはまた、例えば、1回、複数回、および/または1回以上の延長期間にわたって実施することができる。いくつかの実施形態では、投与は、自己投与を含む直接的投与、および薬剤または医療食品を処方する行為を含む間接的投与の両方を含む。例えば、本明細書で使用されるとき、薬剤または医療食品を自己投与すること、または別の者によって投与される薬剤または医療食品を有することを患者に指図する、および/または患者に薬剤または医療食品のための処方を提供する医師は、患者に薬剤または医療食品を投与している。いくつかの実施形態により、医薬組成物は医薬食品または補助食品である。
【0062】
一つの実施形態では、安定化ACCを含む医薬組成物は、全身投与によって投与される。例えば、安定化ACCは経口、舌下、または直腸によって投与され得る。あるいは、安定化ACCは、静脈内、皮内、筋肉内、腹腔内、皮下、眼、舌下、鼻腔内、吸入、脊髄内、脳内、および経皮によって投与され得る。一つの具体的な実施形態では、安定化ACCは経口によって投与される。
【0063】
本発明による医薬組成物は、任意の既知の方法で調製され得る。特に、医薬組成物は、投与後に有効成分の迅速、持続、または遅延放出をもたらすような従来技術で知られた方法を用いて製剤化され得る。一つの特定の実施形態では、医薬組成物は錠剤、カプセル、粉末、または顆粒から選択される固体投与剤形として製剤化される。別の実施形態では、医薬組成物はエリキシル、チンキ、懸濁液、シロップ、エマルション、またはゲルから選択される液体または半液体投与剤形として製剤化される。医薬組成物はガムのような半固体剤形として製剤化され得る。
【0064】
経口使用のために意図された医薬組成物は、医薬組成物の製造のために従来技術で知られている任意の方法によって調製され得、さらに医薬品として洗練されて味の良い調製物を提供するために、甘味剤、香味剤、着色剤、および保存剤から選択される1種類以上の薬剤を含み得る。錠剤は有効成分を、錠剤の製造に適している非毒性の医薬品として許容可能な賦形剤と混合して含む。これらの賦形剤は、例えば、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクト-ス、リン酸カルシウム、またはリン酸ナトリウムのような不活性増量剤、コ-ンスタ-チまたはアルギン酸などの顆粒化および崩壊剤、結合剤、ならびに滑剤であり得る。錠剤は既知技術を用いて任意にコ-ティングして、消化管における崩壊および吸収を遅延させ、これによって長期間にわたる薬剤の延長放出をもたらす。

神経筋疾患または症状
【0065】
一つの実施形態により、本発明は軸索欠損を治療するのに使用するため、少なくとも1種類の安定化剤によって安定化された無定形炭酸カルシウム(ACC)を含む医薬組成物を提供する。
【0066】
用語「軸索欠損」は、末梢または中枢神経系の神経細胞の軸索部分に対するいずれかの欠損、損傷、または傷害を意味する。神経は外傷または疾患のどちらかによって損傷され得る。手根管症候群のような外傷性神経傷害は、神経の圧迫によって生じる。落下および交通事故のような他の外傷は、神経の断絶をもたらし得る。神経を害する疾患には、多発性硬化症、糖尿病、脊椎破裂、およびポリオが含まれる。例えば、多発性硬化症は、軸索を囲む遮断性ミオシンの分解を生じる。本発明のいくつかの実施形態により、欠損または損傷は、脳、脊髄、脊髄から末梢神経まで現れる求心性および遠心性神経に生じ得る。
【0067】
いくつかの実施形態により、軸索欠損を治療することは、傷害のような軸索損傷を治療することを含む。いくつかのさらなる実施形態により、軸索損傷を治療することは、損傷した神経の再生および/または回復を高めることを含む。別の実施形態により、軸索損傷を治療することは、神経再生を高めることを含む。いくつかの実施形態により、軸索損傷を治療することは、多発性硬化症のような疾患から生じる欠損を治療することを含む。
【0068】
いくつかの実施形態により、軸索欠損は軸索損傷であり、そのため、本発明の医薬組成物は、軸索損傷、例えば軸索傷害などを治療するのに使用するためのものである。
【0069】
一つの実施形態では、軸索損傷を治療することは、損傷した神経の再生および/または回復を高めることを含む。
【0070】
本明細書で使用される用語「ニュ-ロン再生」および「神経再生」は交換可能で使用され得、損傷した神経の機能の回復を意味する。具体的には、これは末梢または中枢神経系の損傷部位を修復すること、つまり軸索および樹状神経線維再成長による、神経を介したシグナル化の回復を含む。いくつかの実施形態では、神経再生は損傷した神経線維から発芽することを意味する。
【0071】
いくつかの実施形態により、局所投与される医薬組成物は、前述で定められる液体または半液体剤形に製剤化される。一つの実施形態では、液体または半液体製剤は、懸濁液、エマルション、コロイド、またはゲルから選択される。一つの特定の実施形態では、安定化ACCは懸濁液として投与される。
【0072】
損傷した神経の欠損は、末梢神経系(PNS)または中枢神経系(CNS)の神経であり得る。このため一つの実施形態では、本発明の医薬組成物は中枢神経系の神経に対する損傷を治療するためのものである。別の実施形態により、本発明の医薬組成物は末梢神経系の神経に対する損傷を治療するためのものである。本発明のいくつかの実施形態により、本発明の医薬組成物は、脳、脊髄、脊髄から末梢神経まで現れる求心性および遠心性神経、または末梢神経に生じた損傷を治療するためのものである。
【0073】
一つの実施形態により、医薬組成物は局所に投与される。一つのより具体的な実施形態では、医薬組成物は損傷した神経に近接して投与される。いくつかの実施形態により、医薬組成物は注射、注入、またはポンプ経由によって投与される。
【0074】
一つの実施形態により、少なくとも1種類の安定化剤によって安定化されたACCを含む医薬組成物は、軸索損傷のような軸索欠損を治療するのに使用するため、ホスホセリン、三リン酸、アデノシン三リン酸、アデノシン二リン酸、フィチン酸、クエン酸、エチドロン酸、ピロリン酸、エタノ-ル、ヘキサメタリン酸、キチン、およびそれらのいずれかの組み合わせから選択される。
【0075】
いくつかの実施形態により、疾患または障害は筋ジストロフィ-である。そのため一つの実施形態では、本発明は筋ジストロフィ-を治療するのに使用するため、安定化ACCを含む医薬品として許容可能な組成物を提供する。
【0076】
本明細書で使用される用語「筋ジストロフィ-」は、進行性骨格筋脱力および脆弱によって特徴付けられるいくつかの変性障害、疾患、または症状のいずれか一つを意味する。これらの疾患の多くは、ジストロフィン-糖タンパク質複合体(DGC)のタンパク質をコ-ドする遺伝子における変異から生じる。一つの実施形態では、筋ジストロフィ-は、デュシェンヌ型、ベッカ-型、肢帯型、先天性、顔面肩甲上腕型、筋強直性、眼咽頭、遠位型、またはエメリ・ドレフュス型筋ジストロフィ-として特定される疾患を意味する。一つの特定の実施形態では、筋ジストロフィ-はデュシェンヌ型筋ジストロフィ-(DMD)である。このため一つの実施形態では、本発明の医薬品として許容可能な組成物はDMDを治療するのに使用するためものである。
【0077】
一つの実施形態では、用語「治療する」は、筋ジストロフィ-と関連する1つ以上の徴候の軽減または改善、その障害の遅延化または緩徐化を意味する。いくつかの実施形態により、筋ジストロフィ-を治療することは筋管形成を促進することを含む。本明細書で使用される用語「筋管形成」は、筋芽細胞が多核化線維である筋管に融合する過程を意味する。いくつかの実施形態により、用語「筋ジストロフィ-を治療する」はさらにまた、当該筋管の自発的収縮活動の発症までの時間を低下することを含む。自発的収縮活動の発生までの時間は、筋芽細胞が融合して自発的に収縮するまでに必要とされる時間として定められる。
【0078】
本発明の教示により、ACCは前述で説明される少なくとも1種類の安定化剤によって安定化される。一つの実施形態により、安定化ACCは、胃石などの天然源から得られる天然ACCであり、あるいは化学的に合成される。
【0079】
一つの実施形態により、本発明はDMDを治療するのに使用するため、少なくとも1種類の安定化剤によって安定化されたACCを含む医薬組成物を提供し、ここで安定化剤はホスホセリン、三リン酸、アデノシン三リン酸、アデノシン二リン酸、フィチン酸、クエン酸、エチドロン酸、ピロリン酸、エタノ-ル、ヘキサメタリン酸、キチン、およびそれらのいずれかの組み合わせから選択される。いくつかの実施形態により、安定化剤はクエン酸とともに、ホスホセリン、三リン酸、ビスホスホネ-ト、およびそれらの組み合わせから選択される。一つの実施形態により、医薬組成物は全身に、例えば経口によって投与される。
【0080】
別の態様により、本発明は軸索欠損および筋ジストロフィ-から選択される疾患または症状の治療のための医薬品の調製のため、少なくとも1種類の安定化剤によって安定化されたACCの使用を提供する。
補助的生殖技術:
【0081】
本発明のいくつかの態様により、少なくとも1種類の安定化剤によって安定化されたACCは補助的生殖技術(ART)において使用され得る。
【0082】
別の実施形態により、本発明はインビトロ受精のための方法を提供し、(a)哺乳動物卵母細胞をインビトロ受精させ、(b)胚をインビトロ培養することを含み、ここでステップ(a)、ステップ(b)、または両ステップ(a)および(b)は少なくとも1種類の安定化剤によって安定化されたACCを含む細胞培養培地において実施される。一つの実施形態により、本発明はインビトロ受精のための方法を提供し、(a)哺乳動物卵母細胞をインビトロ受精させ、(b)少なくとも1種類の安定化剤によって安定化されたACCを含む細胞培養培地で胚をインビトロ培養することを含む。別の実施形態では、本発明はインビトロ受精のための方法を提供し、(a)哺乳動物卵母細胞を少なくとも1種類の安定化剤によって安定化されたACCを含む細胞培養培地でインビトロ受精させ、(b)胚をインビトロ培養することを含む。他の実施形態では、両ステップ、すなわち、(a)哺乳動物卵母細胞をインビトロ受精させ、(b)胚をインビトロ培養するステップは、少なくとも1種類の安定化剤によって安定化されたACCを含む細胞培養培地で実施される。
【0083】
いくつかの実施形態により、ステップ(a)および(b)の細胞培養培地は、一つの実施形態において、異なる培地であり得る。別の実施形態では、当該培地は同一培地であり得る。
【0084】
本明細書で使用される用語「胚」は、受精した哺乳動物卵母細胞、すなわち接合子、および発達のその初期段階で当該接合子から発達する多細胞生物を意味する。
【0085】
本発明の教示により、ACCを含む細胞培養培地において胚を培養することは、胚発達を高める。用語「胚形成」および「胚発達」は本明細書において交換可能で使用され、従来技術で知られているように、胚が生じて接合子段階から発達して胚になる過程を意味し、分割、緊密化、胚盤胞形成、または胚盤胞孵化の期に達する段階を含む。本明細書で使用される用語「分割」、「緊密化」、「胚盤胞」、および「孵化」は、発生学で日常的に使用される用語を意味する。用語「分割」は、早期胚における細胞の分裂である。元の接合子と同様なサイズの細胞クラスタ-を生じる。分割から得られる異なる細胞は卵割球と呼ばれる。本明細書で使用される用語「緊密化」は、接合子から生じた分裂細胞が極性化および接着によってこれらの互いの接触を最大にして、堅い結合によって互いを保持する密着球を形成する段階を意味する。本明細書で使用される用語「胚盤胞」は、緊密化段階後に発達され、引き続き胚を形成する内細胞塊、ならびに内細胞塊および胞胚腔と呼ばれる流体が充満した孔を囲む胚盤胞の外層を含む構造を意味する。本明細書で使用される用語「孵化」は、胚がその外殻(透明帯)を通って出現する段階を意味する。
【0086】
本明細書で使用される用語「胚発達を高める」は、発達過程の速度および/または効率を促進、向上、または改善すること、ならびに順調に成長および発達した胚の割合を意味する。向上は、同一処理を実施するが、細胞培養培地にACCが添加されていない対照サンプルと比較して測定される。このため一つの実施形態では、本方法は少なくとも1種類の安定化剤によって安定化されたACCを含む細胞培養培地において胚をインビトロ培養することを含み、これによって胚発達を高める、および/または胚の質を改善する。
【0087】
本明細書で使用される用語「胚の質」は、いずれかの知られている容認可能な方法による胚発達の評価を意味する。胚等級付けは、胚段階の選択および胚の質の評価基準に関して異なり得る。移植前の胚の質の評価に関していくつかの段階がある。これらの方法のいくつかはNasiriおよびEftekhari-Yazdi(Cell Journal,2015,16(4),392-405)で報告されている。一つの実施形態では、胚の質を改善することは、緊密化、胚盤胞形成、または透明帯孵化の段階に到達する胚の比率を増加することを含む。
【0088】
用語「細胞培養培地」、「成長培地」、および「培養培地」は本明細書において交換可能で使用され、細胞、組織、または器官の成長のために使用される、または成長を支持することができる細胞培養培地を意味する。細胞培養培地は液体、固体、または半固体であり得る。異なる細胞培養培地は異なる特性を有し得、異なる塩および栄養素を含むが、すべての培地は等張性培地であり、細胞成長に適した浸透圧を有する。このため、細胞培養培地は等張性細胞培養培地である。一つの特定の実施形態では、「成長培地」はヒト胚の成長に適している。胚細胞培養培地は従来技術で良く知られており、その内容物は、例えば胚の段階に応じて変化し得、従来技術の当業者はその必要に応じて細胞培養培地を適応させることを理解している。前記実施形態のいずれか一つにより、少なくとも1種類の安定剤によって安定化されたACCは、卵母細胞および/または胚の成長または発達に適したいずれかの既知の培地に加えられ得る。非限定例は、SAGE1-Step(商標)のような単一培養培地、および/またはQuinns Advantage(商標)逐次培地(ORIGIO)のような逐次培地である。
【0089】
いくつかの実施形態により、本方法はステップ(a)の前に、少なくとも1種類の安定化剤によって安定化されたACCを含む細胞培養培地における卵母細胞のインビトロ成熟のステップをさらに含む。そのため一つの実施形態では、本発明はインビトロ受精のための方法を提供し、(a)卵母細胞のインビトロ成熟、(b)哺乳動物卵母細胞をインビトロ受精させ、(c)胚をインビトロ培養することを含み、ここでステップ(a)およびステップ(b)、ステップ(a)および(c)、またはステップ(a)、(b)、および(c)は、少なくとも1種類の安定化剤によって安定化されたACCを含む細胞培養培地で実施される。
【0090】
本発明の教示により、少なくとも1種類の安定剤によって安定化されたACCを含む細胞培養培地において卵母細胞を培養することは卵母細胞成熟を高め、従って本方法は卵母細胞成熟を高めることを含む。用語「卵母細胞成熟」は、過程およびその段階のそれぞれを意味し、それによって卵母細胞は受精することができない未成熟状態から、受精可能で生きた胚を産生することができる減数分裂で成熟している卵母細胞に進行する。卵母細胞成熟を高めることは、過程の迅速化、ならびに卵母細胞が成熟期に達する確率を増加させることを意味する。従って一つの実施形態では、本方法は卵母細胞成熟を高めることを含む。他の実施形態では、本方法は少なくとも1種類の安定剤によって安定化された細胞培養培地における卵母細胞および胚の成熟を含み、従って、卵母細胞成熟および胚発達を高める。
【0091】
本明細書で使用される用語「高める」は、成長パラメ-タを促進、改善、増大、一般的には増加することを意味し、ACCが添加されない以外は同一培地で成長させる対照サンプルと比較して測定される。
【0092】
前記実施形態のいずれか一つにより、細胞培養培地における安定化ACCの最終濃度は、約0.1~約20mM、約0.5~約15mM、約1~約10mM、約2~約8mM、約3mM~約6mM、または約4mM~約5mMである。一つの実施形態により、ACCは約0.8mM~約5mM、または約1.3mM~約3.5mMの最終濃度、あるいは約1.7mM~約2.6mMの最終濃度で加えられる。より特定的な実施形態では、安定化ACCは、0.5~約4mM、約1~約3mM、約1.5~約2.5、あるいは約1、1.5、2、または2.5mMの濃度で存在する。いくつかの実施形態により、細胞培養培地における安定化ACCの濃度は、約0.0001%w/v~約1%w/v、約0.0005%w/v~約0.5%w/v、約0.001%w/v~約0.1%w/v、約0.005%w/v~約0.05%w/v、約0.01%w/v~約0.03%w/vである。
【0093】
一つの実施形態により、安定化ACCを卵母細胞および/または胚と接触させることは、胚発達および/または卵母細胞成熟を約10%~約300%、約20%~約250%、約30%~約200%、約40%~約150%、約60%~約100%、または約70%~約90%高める。100%の向上は2倍に増加したパラメ-タ、例えば増殖を意味し、200%の向上は3倍に増加したパラメ-タ、例えば胚発達を意味する、などである。いくつかの実施形態により、安定化ACCを卵母細胞および/または胚と接触させることは、胚発達および/または卵母細胞成熟を約50%~約300%、約100%~約250%、約150%~約250%高める。
【0094】
いくつかの実施形態により、卵母細胞成熟の向上および/または胚発達の向上は、IVFの結果を高める。従って一つの実施形態により、本発明はIVF処理を高めるための方法を提供し、当該方法は安定化ACCに卵母細胞を暴露する、胚を暴露する、または卵母細胞および胚の両方を暴露することを含む。別の実施形態により、本方法はさらに少なくとも1つの卵母細胞を哺乳動物の雌から回収する、および/または胚を哺乳動物の雌に移植することを含む。
【0095】
前記実施形態のいずれか一つでは、胚および/または卵母細胞は、ヒトまたは非ヒト哺乳動物の胚および/または卵母細胞である。一つの特定の実施形態では、胚および/または卵母細胞は、ヒトの胚および/または卵母細胞である。他の実施形態では、胚および/または卵母細胞は、非ヒト哺乳動物の胚および/または卵母細胞である。非ヒト哺乳動物胚および/または卵母細胞の非限定例は、家畜動物、家庭用愛玩動物、げっ歯類、ウサギ目、および霊長類の胚および/または卵母細胞である。一つの実施形態では、非ヒト胚は、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ラバ、ロバ、スイギュウ、またはラクダのような家畜動物の胚である。一つの特定の実施形態では、胚および/または卵母細胞は、ウシの胚および/または卵母細胞である。いくつかの他の実施形態では、家庭用愛玩動物の胚および/または卵母細胞はネコまたはイヌの胚および/または卵母細胞であり、げっ歯類の胚および/または卵母細胞はマウス、ラット、モルモット、またはハムスタ-の胚および/または卵母細胞であり、ウサギ目の胚および/または卵母細胞はウサギの胚および/または卵母細胞であり、霊長類の胚および/または卵母細胞はマカクのようなサルまたはチンパンジ-のような類人猿である。
【0096】
前記実施形態のいずれか一つにより、少なくとも1種類の安定剤によって安定化されたACCは、卵母細胞および/または胚の発達または成熟に適したいずれかの既知の培地に加えられ得る。このような培地の例は、SAGE1-Step(商標)のような単一培養培地、またはQuinns Advantage(商標)逐次培地(ORIGIO)のような逐次培地である。
【0097】
一つの実施形態により、本発明はインビトロ受精のための方法を提供し、(a)哺乳動物卵母細胞をインビトロ受精させ、(b)胚をインビトロ培養することを含み、ここでステップ(a)、ステップ(b)、または両ステップ(a)および(b)は、ホスホセリン、三リン酸、エチドロン酸、ピロリン酸、エタノ-ル、キチン、ヘキサメタリン酸、クエン酸、およびホスホセリン、三リン酸、エチドロン酸、またはヘキサメタリン酸のクエン酸との併用から選択される少なくとも1種類の安定化剤によって安定化されたACCが補充された細胞培養培地で実施される。別の実施形態により、本方法はステップ(a)の前に、少なくとも1種類の安定化剤によって安定化されたACCを含む細胞培養培地における卵母細胞のインビトロ成熟のステップを含む。そのため一つの実施形態では、本発明はインビトロ受精を高めるための方法を提供し、(a)卵母細胞のインビトロ成熟、(b)哺乳動物卵母細胞をインビトロ受精させ、(c)胚をインビトロ培養することを含み、ここでステップ(a)および(b)、ステップ(a)および(c)、またはステップ(a)、(b)、および(c)は少なくとも1種類の安定化剤によって安定化されたACCを含む細胞培養培地で実施される。一つの実施形態により、胚成長に適した培地は、SAGE1-Step(商標)のような単一培養培地、またはQuinns Advantage(商標)逐次培地(ORIGIO)のような逐次培地である。一つの実施形態により、ACCは約0.8mM~約5mM、または約1.3mM~約3.5mMの最終濃度、あるいは約1.7mM~約2.6mMの最終濃度で加えられる。一つの実施形態により、本方法は卵母細胞成熟を高める、および/または胚発達を高めることを含む。別の実施形態により、本方法は胚の質を改善する、従ってIVF成功率を増加することを含む。
【0098】
いくつかの実施形態により、本発明はインビトロ胚産生のための方法を提供し、(a)卵母細胞をインビトロで受精させ、(b)少なくとも1種類の安定化剤によって安定化されたACCを含む胚培養培地で胚をインビトロで成長させることを含む。いくつかの実施形態により、本方法はステップ(a)の前に哺乳動物の雌から少なくとも1つの卵母細胞を回収することを含む。
【0099】
一つの態様により、本発明は精子の質を改善するための方法を提供し、当該方法は精子を少なくとも1種類の安定剤によって安定化された無定形炭酸カルシウム(ACC)の効果的な量に暴露することを含む。
【0100】
本明細書において交換可能で使用される用語「精子(sperm)」および「精子(spermatozoa)」は、雄の生殖細胞を意味する。用語「精子サンプル」は、精子を含む1つ以上のサンプルを意味する。精子サンプルは、被験体から得られる精液、または処理した精液、液化精液、沈殿化および任意に再懸濁化精液などであり得る。
【0101】
一つの実施形態により、精子の質を改善することは、精子運動率を高める、精子前進運動率を高める、精子数を増加する、およびそれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択される。
【0102】
本明細書で使用される用語「精子運動率」は、所定の標本サンプルにおけるすべての精子細胞の中で動く精子の割合を意味する。本明細書で使用される用語「前進運動率」は、おおよそ一定方向に移動する精子の割合を意味する。本明細書で使用される用語「精子運動率を高める」および「精子前進運動率を高める」は、それぞれ運動性精子および前進運動性を有する精子の割合を増加することを意味する。従って、一つの実施形態では、本発明は精子運動率を高めるための方法を提供する。別の実施形態により、本発明は精子前進運動率を高めるための方法を提供する。精子運動率、前進運動率、および精子成熟期は、従来技術で知られている方法によって評価され得る。例えば、運動率はコンピュ-タ支援精子分析(CASA)法(Amann&Waberski,2014,Theriogenology,81:5-17)によって評価され得る。
【0103】
いくつかの実施形態により、精子数を増加することは、運動率または前進運動率処理における精子数を増加することを含む。一つの実施形態により、運動率または前進運動率処理はスイムアップ法である。
【0104】
用語「高める」は本明細書で定められるように使用される。いくつかの実施形態により、精子運動率を高める、精子前進運動率を高める、精子数を増加することは、約10%~約600%、約20%~約500%、約30%~約400%、約40%~約300%、約50%~約200%、約60%~約150%、または約70%~約100%、精子運動率を高める、精子前進運動率を高める、精子数を増加することを含む。100%高めることは、2倍増加したパラメ-タ、例えば運動率を意味する。いくつかの実施形態により、運動率または精子数は約100%~約500%、約120%~約400%、約150%~約300%高められる。
【0105】
前記実施形態のいずれか1つにより、精子はヒトまたは非ヒト哺乳動物の精子である。いくつかの実施形態により、非ヒト哺乳動物は、家畜動物、家庭用愛玩動物、げっ歯類、野生動物、および霊長類からなる群から選択される。
【0106】
一つの実施形態では、家畜動物は、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ラバ、ロバ、スイギュウ、およびラクダから選択される。いくつかの他の実施形態では、家庭用愛玩動物はネコまたはイヌであり、げっ歯類はラット、マウス、モルモット、またはハムスタ-であり、ウサギ目はウサギであり、霊長類はマカクのようなサルまたはチンパンジ-のような類人猿である。
【0107】
別の実施形態により、精子は非哺乳動物の精子である。いくつかの実施形態により、非哺乳動物は魚類、昆虫、および鳥類からなる群から選択される。
【0108】
一つの実施形態により、精子はヒト精子である。
【0109】
前記実施形態のいずれか一つにより、少なくとも1種類の安定化剤によって安定化されたACCに細胞を暴露することは、当該ACCを細胞培養培地に加えることを含む。用語「に暴露する」および「と接触させる」は、本明細書において交換可能で使用され、安定化ACCのような成分を含む環境の培地に細胞を配置するまたは移す、あるいは安定化ACCなどの成分を細胞が成長または培養される培地に加える、あるいは安定化ACCを精子が配置される環境に加えることを意味する。いくつかの実施形態により、安定化ACCに暴露することは、細胞を被験体の体内でACCと接触させることを含む。
【0110】
前記実施形態のいずれか一つにより、少なくとも1種類の安定化剤によって安定化されたACCは、精子ハンドリングまたは成熟に適しているいずれかの既知の培地に加えられ得る。いくつかの実施形態により、培地はISolate(登録商標)、PureCeption(商標)、Multipurpose Handling Medium(登録商標)(MHM(登録商標))のような精子分離培地、Quinns(商標)Sperm Washing Medium、Multipurpose Handling Medium(登録商標)(MHM(登録商標))、およびゲンタマイシン-HEPES添加改変HTF培地のような精子洗浄用培地、ならびにビガ-ズ-ウィッテン-ウィッティンガム(BWW)培地、ハム-F10、および改変タイロ-ド培地(HSM)のような受精能獲得用培地から選択される。
【0111】
前記実施形態のいずれか一つにより、細胞培養培地における安定化ACCの最終濃度は、約0.1~約20mM、約0.5~約15mM、約1~約10mM、約2~約8mM、約3mM~約6mM、または約4mM~約5mMである。一つの実施形態により、ACCは約0.8mM~約5mM、または約1.3mM~約3.5mMの最終濃度、あるいは約1.7mM~約2.6mMの最終濃度で加えられる。より特定的な実施形態では、安定化ACCは、0.5~約4mM、約1~約3mM、約1.5~約2.5、あるいは約1、1.5、2、または2.5mMの濃度で存在する。いくつかの実施形態により、細胞培養培地における安定化ACCの濃度は、約0.0001%w/v~約1%w/v、約0.0005%w/v~約0.5%w/v、約0.001%w/v~約0.1%w/v、約0.005%w/v~約0.05%w/v、約0.01%w/v~約0.03%w/vである。
【0112】
前記実施形態のいずれか一つにより、本方法はさらにIVFまたは子宮内受精における精子の使用を含む。
【0113】
さらなる実施形態により、本発明はXおよびY染色体を有する精子の分離のための方法を提供し、(a)精子サンプルを少なくとも1種類の安定剤によって安定化されたACCと接触させ、(b)前進運動率処理を実施し、(c)運動性精子を含む分画を得、(d)ステップ(c)で得られる分画の上相と下相を分離することを含み、ここで上相はY染色体を有する精子が豊富であり、下相はX染色体を有する精子が豊富である。本方法はX染色体を有する精子細胞とY染色体を有する精子細胞の間の分離を包含する。
【0114】
一つの実施形態により、前進運動率処理はスイムアップ法である。スイムアップ法は従来技術で良く知られている。一般的に、精子サンプルは試験管の底に配置されて、精子培地層で積層され、試験管を37℃で1時間培養して、運動性精子をサンプルから精子培地に移動させる。そして精子培地を収集して、Y染色体を有する精子が豊富である上相、およびX染色体を有する精子が豊富である下相に分離する。いくつかの実施形態により、短いインキュベ-ション時間、例えば10~30分を使用することができる。
【0115】
いくつかの実施形態により、本方法はさらに、IVFまたは子宮内受精における上相および/または下相の使用を含む。
【0116】
いくつかの態様により、本発明は補助的生殖技術(ART)における、少なくとも1種類の安定化剤によって安定化されたACCの使用を提供する。いくつかの実施形態により、ARTはインビトロ受精(IVF)、性選択、および精子改善から選択される。
【0117】
いくつかの態様により、本発明はIVFにおける、少なくとも1種類の安定化剤によって安定化されたACCの使用を提供する。一つの実施形態により、安定化ACCは、インビトロ卵母細胞成熟、哺乳動物卵母細胞をインビトロ受精させる、胚をインビトロ培養する、またはそれらのいずれかの組み合わせから選択される段階で細胞培養に加えられる。このため一つの実施形態では、安定化ACCは胚をインビトロ培養する段階で細胞培養培地に加えられる。別の実施形態では、安定化ACCは卵母細胞成熟の段階で細胞培養培地に加えられる。さらなる実施形態により、安定化ACCは卵母細胞成熟の間、および胚をインビトロ培養する間に加えられる。一つの実施形態により、安定化ACCは卵母細胞の成熟化および/または胚の発達を高める。
【0118】
別の実施形態により、本発明は精子の質を改善するために、少なくとも1種類の安定化剤によって安定化されたACCの使用を提供する。いくつかの実施形態により、精子の質を改善することは、精子運動率を高める、精子前進運動率を高める、精子数を増加する、およびそれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択される。いくつかの実施形態により、本方法によって得られる精子は子宮内受精またはIVFで使用され得る。
【0119】
別の実施形態により、本発明は性選択技術における、少なくとも1種類の安定化剤によって安定化されたACCの使用を提供する。一つの実施形態により、性選択技術は精子サンプルを1つのタイプの性染色体を有する精子を豊富にするステップを含む。本ステップは、(a)精子サンプルを少なくとも1種類の安定剤によって安定化されたACCと接触させ、(b)スイムアップ法を実施し、(c)運動性精子を含む分画を得、(d)ステップ(c)で得られる分画の上相と下相を分離することを含み、ここで上相はY染色体を有する精子が豊富であり、下相はX染色体を有する精子が豊富である。
【0120】
別の実施形態により、本発明は補助的生殖技術(ART)における使用のために少なくとも1種類の安定化剤によって安定化されたACCを提供する。いくつかの実施形態により、ARTはインビトロ受精(IVF)、性選択、精子改善から選択される。
【0121】
一つの実施形態により、安定化ACCは、IVFにおける使用ためのものである。一つの実施形態により、安定化ACCは、インビトロ卵母細胞成熟、哺乳動物卵母細胞をインビトロ受精させる、胚をインビトロ培養する、またはそれらのいずれかの組み合わせから選択される段階における使用のためのものである。いくつかの実施形態により、安定化ACCは、前述で定められるように、インビトロ卵母細胞成熟のための培地、哺乳動物卵母細胞をインビトロ受精させるための培地、および胚をインビトロ培養するための培地から選択される培地に加えられる。
【0122】
別の実施形態により、安定化ACCは精子の質を改善するのに使用するためのものである。いくつかの実施形態により、本方法は精子を安定化ACCに暴露することを含む。いくつかの実施形態により、精子の質を改善することは、精子運動率を高める、精子前進運動率を高める、精子数を増加する、およびそれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択される。いくつかの実施形態により、本方法によって得られる精子は子宮内受精またはIVFで使用され得る。
【0123】
さらなる実施形態により、安定化ACCは性選択技術における使用のためのものである。一つの実施形態により、安定化ACCはXおよびY染色体を有する精子を分離するために使用され、(a)精子サンプルを少なくとも1種類の安定剤によって安定化されたACCと接触させ、(b)スイムアップ法を実施し、(c)運動性精子を含む分画を得、(d)ステップ(c)で得られる分画の上相と下相を分離することを含み、ここで上相はY染色体を有する精子が豊富であり、下相はX染色体を有する精子が豊富である。
【0124】
前記実施形態のいずれか一つにより、卵母細胞または精子を安定化ACCと接触させることは、前述で定められる細胞培養培地に安定化ACCを加えることを含む。
【0125】
前記実施形態のいずれか一つにより、細胞培養培地における安定化ACCの最終濃度は、約0.1~約20mM、約0.5~約15mM、約1~約10mM、約2~約8mM、約3mM~約6mM、または約4mM~約5mMである。一つの実施形態により、ACCは約0.8mM~約5mM、または約1.3mM~約3.5mMの最終濃度、あるいは約1.7mM~約2.6mMの最終濃度で加えられる。より特定的な実施形態では、安定化ACCは、0.5~約4mM、約1~約3mM、約1.5~約2.5、あるいは約1、1.5、2、または2.5mMの濃度で存在する。いくつかの実施形態により、細胞培養培地における安定化ACCの濃度は、約0.0001%w/v~約1%w/v、約0.0005%w/v~約0.5%w/v、約0.001%w/v~約0.1%w/v、約0.005%w/v~約0.05%w/v、約0.01%w/v~約0.03%w/vである。
【0126】
別の態様により、本発明は男性不妊を治療するのに使用するため、少なくとも1種類の安定化剤によって安定化された無定形炭酸カルシウム(ACC)を含む医薬組成物を提供する。
【0127】
いくつかの実施形態により、男性不妊は、低精子数によって生じる男性不妊および男性不妊低精子運動率から選択される。用語「低精子運動率」は、IUIのための運動性精子の数が5百万未満である状態を意味する。
【0128】
いくつかの実施形態により、医薬組成物は前述のいずれかの既知の方法によって投与され得る。一つの実施形態により、医薬組成物は経口によって投与される。
【0129】
いくつかの態様により、この方法を必要とする被験体における男性不妊を治療するための方法を提供し、少なくとも1種類の安定剤によって安定化された無定形炭酸カルシウム(ACC)を含む医薬組成物を当該被験体に投与することを含む。
【0130】
別の態様により、本発明はこの方法を必要とする被験体における筋ジストロフィ-および軸索欠損から選択される疾患または症状を治療するための方法を提供し、当該被験体に少なくとも1種類の安定化剤によって安定化された無定形炭酸カルシウム(ACC)を含む医薬品として許容可能な組成物を投与することを含む。
【0131】
用語「医薬品として許容可能な組成物」、「ACC」、「安定化剤」、「軸索欠損」、および「筋ジストロフィ-」は、前述で定められる通りである。
【0132】
一つの実施形態により、本発明はこの方法を必要とする被験体における軸索欠損を治療するための方法を提供し、当該被験体に少なくとも1種類の安定化剤によって安定化されたACCの治療上効果的な量を含む医薬品として許容可能な組成物を投与することを含む。一つの実施形態により、軸索欠損は軸索損傷、例えば軸索傷害である。特定の実施形態により、軸索欠損または損傷は、中枢神経系の神経または末梢神経系の神経に対するものである。いくつかの実施形態により、軸索損傷を治療することは、損傷した神経の回復および/または再生を高めることを含む。
【0133】
いくつかの実施形態により、投与することは、医薬品として許容可能な組成物を、前述のように、全身投与または局所投与を介して投与することを含む。いくつかの実施形態により、全身投与は、腸内投与、すなわち、例えば経口、舌下、または直腸などの消化管を介した投与、および非経口投与、例えば静脈内、皮内、筋肉内、腹腔内、皮下、眼、舌下、鼻腔内、吸入、脊髄内、脳内、および経皮などを含む。一つの実施形態により、医薬組成物は経口によって投与される。他の実施形態により、投与は局所投与であり、特に、欠損、損傷、または傷害のある神経に近接している。一つの実施形態により、医薬品として許容可能な組成物は、注射、注入、またはポンプ経由によって投与される。
【0134】
別の実施形態により、本発明はこの方法を必要とする被験体における筋ジストロフィ-を治療するための方法を提供し、当該被験体に少なくとも1種類の安定化剤によって安定化されたACCの治療上効果的な量を含む医薬品として許容可能な組成物を投与することを含む。いくつかの実施形態により、筋ジストロフィ-は、デュシェンヌ型、ベッカ-型、肢帯型、先天性、顔面肩甲上腕型、筋強直性、眼咽頭、遠位型、およびエメリ・ドレフュス型筋ジストロフィ-からなる群から選択される。一つの特定の実施形態では、筋ジストロフィ-はデュシェンヌ型筋ジストロフィ-(DND)である。
細胞成長を高めるための方法:
【0135】
いくつかの態様により、本発明は細胞成長を高めるための方法を提供し、細胞を少なくとも1種類の安定剤によって安定化されたACCに暴露することを含む。
【0136】
本明細書で使用される用語「成長」は、増殖、成熟、繁殖、再生、分化、発達、およびこれらの任意の組み合わせのいずれかを包含し、細胞型に従って様々に使用され得る。
【0137】
前述で定められるように、用語「高める」は、成長パラメ-タを促進、改善、増大、一般的には増加することを意味し、ACCが添加されない以外は同一培地で成長させる対照サンプルと比較して測定される。このため一つの実施形態では、本方法は、細胞の増殖を高める、成熟を高める、繁殖を高める、再生を高める、および/または分化を高めることを含む。一つの実施形態では、成長を高めることは細胞の質を改善する、例えば、胚の質を改善することを含む。別の実施形態により、成長を高めることは、前記パラメ-タの2つ以上を高める、例えば増殖および分化を高めることを含む。
【0138】
前記実施形態のいずれか1つにより、細胞は真核細胞である。いくつかの実施形態により、真核細胞は動物、植物、および昆虫細胞から選択される。
【0139】
一つの実施形態により、細胞は動物細胞である。いくつかの実施形態により、動物細胞はヒトまたは非ヒト哺乳動物の細胞である。特定の実施形態により、非ヒト哺乳動物は、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ラバ、ロバ、スイギュウ、またはラクダのような家畜動物、ネコまたはイヌなどの家庭用愛玩動物、マウス、ラット、モルモット、またはハムスタ-のようなげっ歯類、ウサギのようなウサギ目、およびサル(例えば、マカク)または類人猿(例えば、チンパンジ-)などの霊長類から選択される。
【0140】
さらなる実施形態により、細胞は神経、筋肉、上皮、骨、脂肪、幹細胞、生殖細胞、血液細胞、および胚から選択される。
【0141】
一つの実施形態により、本発明は筋細胞の成長を高めるための方法を提供する。別の実施形態により、筋細胞の成長を高めることは筋管形成を高めることを含む。
【0142】
本明細書で使用される用語「筋管形成」は、筋芽細胞が多核化線維である筋管に融合する過程を意味する。
【0143】
いくつかの実施形態により、本発明はまた、当該筋管の自発的収縮活動の発生までの時間を低下することを含む。自発的収縮活動の発生までの時間は、筋芽細胞が融合して自発的に収縮するまでに必要とされる時間として定められる。
【0144】
一つの実施形態では、当該筋芽細胞から形成される筋細胞は骨格筋細胞または心筋細胞から選択される。より特定的な実施形態では、筋細胞は骨格筋細胞である。
【0145】
いくつかの実施形態により、本方法は、例えばデュシェンヌ型筋ジストロフィ-症例などの骨格筋細胞における筋管形成および/または収縮の発生を高めることを含む。
【0146】
他の実施形態により、本方法は神経細胞の成長を高めることを含む。一つの実施形態では、神経細胞の成長を高めることは、神経細胞再生を高めるおよび促進することを含む。そのため一つの実施形態では、本方法は、末梢および中枢神経系の軸索および樹状神経線維の再成長を高める、および/または損傷した神経線維から発芽させることを含む。
【0147】
いくつかの実施形態により、本方法は細胞の成熟を高める、例えば、卵母細胞のインビトロ成熟を高めることを含む。いくつかの実施形態により、卵母細胞はヒト卵母細胞または非ヒト哺乳動物卵母細胞から選択される。非ヒト哺乳動物は、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ラバ、ロバ、スイギュウ、またはラクダのような家畜動物、ネコまたはイヌなどの家庭用愛玩動物、マウス、ラット、モルモット、またはハムスタ-のようなげっ歯類、ウサギのようなウサギ目、およびサル(例えば、マカク)または類人猿(例えば、チンパンジ-)などの霊長類から選択される。
【0148】
他の実施形態により、本発明はインビトロで培養された胚の質を改善する、または胚発達を高めることを含む。用語「胚の質」は前述のように使用される。一つの実施形態では、胚の質を改善することは、緊密化、胚盤胞形成、および胚盤胞孵化期からなる群から選択される段階に到達する胚の比率を増加することを含む。別の実施形態では、胚の質を改善することは、緊密化、胚盤胞形成、および胚盤胞孵化期からなる群から選択される段階に到達するまでの時間によって測定される正常な胚形成を加速させることを含む。
【0149】
いくつかの実施形態により、胚はヒト胚または非ヒト哺乳動物胚から選択される。非ヒト哺乳動物は、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ラバ、ロバ、スイギュウ、またはラクダのような家畜動物、ネコまたはイヌなどの家庭用愛玩動物、マウス、ラット、モルモット、またはハムスタ-のようなげっ歯類、ウサギのようなウサギ目、およびサル(例えば、マカク)または類人猿(例えば、チンパンジ-)などの霊長類から選択される。
【0150】
細胞、組織、または器官の増殖、成熟、繁殖、再生、発達、および/または分化の向上は、前述で定められる対照との比較における向上の割合として測定され得る。従って、一つの実施形態により、安定化ACCが補充された細胞培養培地は、成長パラメ-タを約10%~約600%、約20%~約500%、約30%~約400%、約40%~約300%、約50%~約200%、約60%~約150%、または約70%~約100%高めることができる。100%の向上は2倍に増加したパラメ-タ、例えば増殖を意味し、200%の向上は3倍に増加したパラメ-タ、例えば胚発達を意味する、などである。いくつかの実施形態により、成長パラメ-タは約100%~約500%、約120%~約400%、約150%~約300%高められる。
【0151】
いくつかの実施形態により、本方法は幹細胞分化を高めることを含む。一つの実施形態により、本方法は幹細胞増殖を高めることを含む。さらなる実施形態により、本方法は幹細胞分化および増殖を高めることを含む。用語「幹細胞」は、異なる細胞型に増殖および分化する能力を有する細胞を意味する。いくつかの実施形態により、幹細胞は胚性、絨毛性、羊水、造血性、間葉性、神経、グリア、成体、および誘導多能性幹細胞から選択される。一つの実施形態により、幹細胞は胚幹細胞である。別の実施形態により、幹細胞は造血幹細胞である。さらなる実施形態により、幹細胞は間葉幹細胞である。さらに別の実施形態により、幹細胞は多能性幹細胞である。いくつかの実施形態により、幹細胞はヒト幹細胞である。別の実施形態により、幹細胞は非ヒト哺乳動物幹細胞である。一つの実施形態により、本方法はMBA13の骨芽細胞への分化のような幹細胞の分化を高めることを含む。
【0152】
いくつかの実施形態により、細胞培養培地は動物、植物、または昆虫細胞の成長に適している。一つの実施形態により、細胞培養培地は天然培地または人工培地であり得る。いくつかの実施形態により、天然培地は血漿、血清、リンパ、ヒト胎盤臍帯血、および羊水から選択される生物学的流体を含む。別の実施形態により、天然培地は、肝臓、脾臓、腫瘍、リンパ球、および骨髄の抽出物のような組織抽出物、ウシ胚およびニワトリ胚の抽出物を含む。さらなる実施形態により、天然培地は凝固剤または血餅を含む。いくつかの実施形態により、培地は補充された人工培地である。一つの実施形態により、人工培地は平衡化塩溶液である。平衡化塩溶液の例は、PBS、DPBS、HBSS、EBSS、タイロ-ドT6、WM1、プ-ルP1、Quinn’s HTF、およびガ-ドナ-G1である。別の実施形態により、人工培地は基礎培地である。いくつかの実施形態により、培地はさらに従来技術で良く知られているように補充され得る。一つの実施形態により、培地は血清、例えば、ウシ胎児血清によって補充される。さらなる実施形態により、人工培地は複合培地である。
【0153】
本明細書で使用される用語「基礎培地」は、無機塩、糖、アミノ酸の栄養素混合物を意味し、任意にまたビタミン、有機酸、および/または緩衝剤を含む。サプリメントを伴う基礎培地は、細胞の生命、成長、および再生産を支持するのに必要な栄養素を提供する。使用される基礎培地の選択は、培養に適したものであるべきである。
【0154】
一つの実施形態により、人工培地は無血清培地である。さらなる実施形態により、人工培地は血清含量が低下した細胞培養培地である。別の実施形態により、人工培地は無タンパク質培地である。
【0155】
安定化ACCが本発明に従って加えられて使用され得る細胞培地の例は、ダルベッコ改変イ-グル培地(DMEM)、最小必須培地(EMEM)、RPMI1640培地(ロズウェルパ-ク記念研究所で開発された)、およびイ-グル基礎培地(BME)である。本発明による培地のさらなる例は、ハム栄養混合物であり、ハムF-10、ハムF-12、DMEM/F-12(DMEMおよびハムF-12)が挙げられる。他の例は、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)、opti-MEM、およびグラスゴ-MEM(GMEM)である。昆虫細胞成長に適した培地の例は、IPL-41昆虫培地、シュナイダ-ショウジョウバエ培地、グレ-ス昆虫培地、無血清昆虫培地、Sf-900、TC-10、Shields and Sang M3昆虫培地、TC-100昆虫培地、TMM-FH昆虫培地、およびIPL-10である。胚成長に適した培地の例は、SAGE1-Step(商標)のような単一培養培地、またはQuinns Advantage(商標)逐次培地(ORIGIO)のような逐次培地である。植物細胞成長に適した培地の例は、ムラシゲスク-グ(MS)、B5、N6、およびニッチ培地である。
【0156】
培地の他の例は、改変培地、NCTC培地、MegaCell培地、クレイコム、クリック培地、L-15培地、培地199、MCDB培地、エイムス培地、BGJb培地(フィットン-ジャクソン改変)、クリック培地、CMRL-1066培地、マッコイ5A改変培地、NCTC培地、スイムS-77培地、ウェイマウス培地、ウィリアム培地E、ならびに体外受精培地、例えば、global(登録商標)、GM501、SSM(商標)、分割K-SICM、胚盤胞K-SIBM、Quinns Advantage(登録商標)分割、Quinns Advantage(登録商標)胚盤胞、FERTICULT(商標)IVF培地、FERTICULT(商標)G3培地、IVC-TWO(商標)、IVC-THREE(商標)、ECM(登録商標)、MultiBlast(登録商標)、EmbryoAssist(商標)、BlastAssist(商標)、ISM1、ISM2、G-1(商標)PLUS、G-2(商標)PLUS、IVF(商標)、およびCCM(商標)である。培地のさらなる例は、ISolate(登録商標)、PureCeption(商標)、Multipurpose Handling Medium(登録商標)(MHM(登録商標))のような精子分離用培地、Quinns(商標)Sperm Washing Medium、Multipurpose Handling Medium(登録商標)(MHM(登録商標))またはゲンタマイシン添加改変HTF培地のような精子洗浄用培地、および未成熟卵母細胞を移植に適した完全に発達した胚に培養することができる成熟用培地である。
【0157】
そのため一つの実施形態により、細胞培養培地は、DMEM、RPMI1640、MEM、IMDML-15培地(Leibovitz)、MCDB培地、培地199、opti-MEMおよびDMEM/F-12、シュナイダ-ショウジョウバエ培地、グレ-ス昆虫培地、IPL-41昆虫培地、Sf-900、無血清昆虫培地、Shields and Sang M3昆虫培地、TC-100昆虫培地、TNM-FH昆虫培地、ハムF-12、ハムF-10、GMEM、エイムス培地、イ-グル基礎培地(BME)、クレイコム、クリック培地、グラスゴ-最小必須培地(GMEM)、MegaCell培地、マッコイ5A改変培地、NCTC培地、ウィリアムズ培地E、ウェイマウス培地、TC-10、およびIPL-10培地から選択される。別の実施形態により、細胞培養培地は、DMEM、RPMI1640、MEM、IMDM、opti-MEM、GMEM、ハムF-12およびDMEM/F-12、シュナイダ-ショウジョウバエ培地、グリ-ス昆虫培地、Sf-900、TC-10、IPL-10培地、ならびに例えば、ISolate(登録商標)、PureCeption(商標)、Multipurpose Handling Medium(登録商標)(MHM(登録商標))、Quinns(商標)精子洗浄培地、Multipurpose Handling Medium(登録商標)(MHM(登録商標))、およびゲンタマイシン添加改変HTF培地などの精子分離、洗浄、または成熟用培地から選択される。
【0158】
前記実施形態のいずれか一つにより、用語「含む」は「からなる」の意味を含み、これによって置換され得る。
【0159】
本明細書で使用されるとき、用語「約」は、量、一時的期間などのような測定可能な値を意味する場合、特定された値から±10%、または±5%、±1%、またはさらに±0.1%の変動を包含することが意味される。
【0160】
本発明はここで全般的に説明されているが、同様なことは、図によって示され、本発明を制限することが意図されない、後述の例を参考にしてさらに容易に理解されるであろう。

例1.SC-DRG共培養におけるACCの効果
【0161】
方法
【0162】
培養培地
【0163】
培養培地は、カルシウム枯渇した(カルシウムイオン無添加培地、特別調製)ダルベッコ改変イ-グル培地-栄養素混合物F-12(DMEM-F12)が90%、10%熱不活化ウシ胎児血清(FBS)、6g/LのD-グルコ-ス、2mMグルタミン、25μg/mlゲンタマイシン、および0.05ng/mlインスリン用増殖因子1(IGF-I)(すべてBiological-Industries、イスラエルから購入)から構成された。
【0164】
神経培養用の基材としてのNVR-Gel
【0165】
Neural and Vascular Reconstruction Gel(神経および血管再構成ゲル)(NVR-Gel、NVR Labs所有権)は、2種の主成分である高分子ヒアルロン酸(HA、3×10Da、BTG、イスラエル)およびラミニン(シグマ)からなる。神経細胞培養では、1%のNVR-Gelを0.3~0.5%の最終濃度まで培養培地で希釈した。ゲルは粘性液体の組成を有し、これは組み込まれた細胞または外植片をプラスチックまたはガラスの基底に容易に適切に付着させ、神経線維の3Dパタ-ンにおける神経線維成長を可能にした。
【0166】
神経組織培養の調製
【0167】
すべての実験は、動物実験に関してイスラエル当局によって承認された地域倫理委員会によって実施され認可された。後根神経節(DRG)および脊髄(SC)の静置組織培養、ならびに分離された脳細胞の培養を、ラット胎児(妊娠15日、ルイス同系交配、harlan、イスラエル)から調製した。切除後直ちに、分離した組織をMacwain組織チョッパ-で小切片(厚さ400μm)に切断した。これらの試験では、2種の組織培養法を使用した。第一の方法では、組織片を0.3~0.5%NVR-Gel含有の1ml培養培地を含む12ウェル培養プレ-トに直接的に播種した。第二の方法では、組織片をさらにトリプシン-EDTAによって30分間解離させ、培養培地で洗浄した。続いて、解離した細胞をキトサン粉末または胃石粉末(マイクロ担体、MC)の懸濁液に加え、懸濁液中で37℃、4日間インキュベ-ションした。そして形成された浮遊性細胞/MC凝集体を収集して、0.3~0.5%NVR-Gel含有の1ml培養培地を含む12ウェル培養プレ-トに播種した。
【0168】
Ca2+サプリメント源
【0169】
Ca2+源(下表に示す)を1または2mMの最終濃度で、播種段階でゲルに一度加え、そして各引き続く補給時に栄養培地に加えた。カルシウム源は、ACC-エチドロン酸、(ACC-ET)(新鮮な懸濁液)、ACC-ホスホセリン(ACC-PS)(新鮮な懸濁液)、胃石(0.1MのHClで溶解し、1MのNaOHで中和)、胃石粉末、CCC-結晶炭酸カルシウムの水性懸濁液(市販ナノ粒子粉末)、およびCaCl溶液-対照だった。
【0170】
培養は、培養を進行設定した24時間後から開始した位相差顕微鏡観察によって毎日モニタリングした。
【0171】
新鮮なACC調製物の懸濁液は、安定な懸濁液を形成する粒子からなった。胃石はカニから分離された天然ACCであり、乾燥粉末としてのみ購入することができる。この剤形では、他の特徴的成分(カルシウムイオンおよびタンパク質など)は細胞に利用可能ではない。これらの生物利用能を高めるため、胃石粉末を0.1MのHCl(胃に存在する酸性を模倣する)に溶解してから1MのNaOHによって中和した。
【0172】
神経培養の免疫蛍光染色
【0173】
培養培地の除去後、後根神経節(DRG)培養をリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で洗浄し、4%ホルムアルデヒドで15分間固定して、再度PBSで洗浄した。固定した細胞を0.1%トライトンX-100含有PBSで透過処理してから1%ウシ血清アルブミン(BSA)含有PBSによって室温で1時間、免疫ブロッキング(非特異染色を回避するため)した。そして標本を抗神経細糸ウサギ抗体(NF、Novus Biologicals、1:500)と共にインキュベ-ションして神経突起成長を可視化した。第一抗体を0.1%BSAおよび0.05%ツイ-ン20含有PBS(希釈緩衝液)で希釈し、標本とともに4℃で一昼夜インキュベ-ションした。0.05%ツイ-ン20含有PBS(洗浄緩衝液)ですすいだ後、DRG標本を第二抗体であるAlexa-Flour-594共役体化ロバ抗ウサギIgG(Jackson ImmunoResearch,米国、希釈緩衝液で1:800)とともに室温で1時間インキュベ-ションした。最後に、サンプルを洗浄緩衝液で再度すすいで、封入剤(Immco Diagnostic、米国)によって封入した。画像はすべてオリンパスIX70顕微鏡によって観察した。
【0174】
結果
【0175】
様々なカルシウム調製物の効果をSC-DRG共培養で試験した。一般的に、培養は400ミクロンのSC片を、接着または分離されたDRG片とともに含んだ。試験したACC調製物のすべて(ACC-ET、ACC-PS、および胃石)が、神経線維再生をCCCおよびCaClと比べて有意に高めた。表1は、様々なカルシウム調製物(2mMのCa2+濃度)の存在または安定化剤のみの存在における培養4日後に発芽する神経線維を表す外植片の一部(6例のうち)を示す(安定剤は各ウェルに(5%のストック溶液から)0.05%の濃度で添加された)。最も強い発芽はACC-ET(外植片の100%)に暴露された培養で観察され、ACC-PSおよび胃石(外植片の66.6%)が続いたことが認められた。CCCおよびCaClは外植片の50%からのみの神経発芽を誘発し、安定化剤のみはさらに低い割合(0~33%)だった。培養の確立の間(培養の第一週の後)、神経ネットワ-クの形成まで、主に様々なACC調製物に暴露された場合、再生した神経線維はより長く、より厚く、そして分枝されるようになった(図1)。
【表1】
例2.脳培養におけるACCの効果
【0176】
ACCの効果を、懸濁液における4日後にゲルに播種された脳細胞-MC凝集体の培養で試験した(例1の方法部分を参照する)。結果を図2に示し、ACCが塩化カルシウムよりも有意に神経線維再生を高めたことを示す。このことは特に、2処置間で神経線維の数よび長さを比較したときに顕著である。
例3-健全な骨格筋細胞におけるACC調製物の効果
【0177】
方法
【0178】
骨格筋培養の調製
【0179】
静置骨格筋培養を健康な1日齢新生ラット(スプラグド-リ-、Harlan、イスラエル)から調製した。筋組織を後脚から切除し、完全に刻んだ。消化をトリプシン-EDTAによって、優しく粉砕しながら実施した。30分後、切除した細胞を含む上清を収集し、新鮮なトリプシン-EDTAを加えた。この手順を2回を超えて繰り返した。そして、すべての上清をプ-ルして遠心分離し、細胞ペレットを増殖培地に再懸濁させた。細胞をゼラチンコ-ティングした12ウェル培養培地プレ-トに、細胞1×10個/ウェルを含む増殖培地1mlで播種した。2日後、培地を融合培地に変更し、そして週に2回交換した。培養は、培養を設定して進行した24時間後から位相差顕微鏡観察によって毎日モニタリングした。所定の日に、培養をメタノ-ルで20分間固定し、そしてギムザによって染色して培養期間で形成された筋管の数を評価した。
【0180】
ゼラチンコ-ティング培養プレ-ト
【0181】
水に1%ブタゼラチンを含有するストック溶液を、オ-トクレ-ブで滅菌した。冷却後、溶液500μLを12ウェル培養プレ-トの各ウェルに加えた。室温で20分間インキュベ-ション後、過剰な溶液を取り除き、細胞を播種した。
【0182】
増殖培地
【0183】
増殖段階では、細胞はDMEM/F12(1mMのCa2+含有)+10%FBS、25μg/mlゲンタマイシン、および2mMのL-グルタミン中で培養した。
【0184】
融合培地
【0185】
融合段階では、増殖培地を融合培地に変更し、融合培地は、DMEM/F12(1mMのCa2+含有)、2%ウマ血清(HS)、2mMのL-グルタミン、25μg/mlゲンタマイシン、および4単位/100mlインスリン(すべてBiological-Industries、イスラエルから購入)によって調製した。
【0186】
試験したカルシウム調製物のリスト
【0187】
融合培地は表2にリスト化された様々なカルシウム調製物によって1mMのCa2+濃度で増加させた(培地は既に1mMのカルシウムイオンを含んだため、Ca2+の最終濃度は2mMだった)。対照培養はさらにカルシウムを加えることなく成長させる、または培養を遊離(可溶性)安定剤によって増加させた。実験は種々のカルシウム調製液に任意の番号のみを印すことによって盲検化した。
【0188】
成分は方法として、(i)乾燥材料の水性懸濁液、(ii)新鮮な材料(乾燥前)の水性懸濁液、または(iii)HClによる溶解(胃に存在する酸性度を模倣する。溶解が終了した後、生成された溶液を1MのNaOHで中和した。)の方法の一つで添加した。溶解が終了した後、生成された溶液を1MのNaOHで中和した。
【表2】
【0189】
結果
【0190】
健全な骨格筋における乾燥ACCの効果
【0191】
第一段階では、乾燥ACC粉末を使用した。粉末(これらの調製物で使用される安定化剤に従って表2に示す)を水に懸濁させ、ついで1mMの濃度で培養培地に加えた。培地は既に1mMのカルシウムイオンを含んだため、Ca2+の最終濃度は2mMだった。結果は、そのいくつかを図3(左図)で示すが、ACCに暴露された培養は、培養の4日以内で既に多くの筋管の初期形成を現わし、異なるACC調製物間で有意差はなかったことを示した。添加されたCCCまたはCaClに暴露された対照培養では、筋管形成は遅れて観察された。7日後、ACCによって処理された培養は多数の長くて厚い筋線維を示したが、一方、CCCおよびCaClによって処理された培養では、これよりも少ない薄く短い筋線維が発達した(図3、右図)。
【0192】
ACC調製物に暴露された培養では、筋収縮が播種の7日後に既に観察されたが、一方、添加されたCCCまたはCaClに暴露された培養では、筋収縮は10日以降でのみ現れたことも留意する。
【0193】
前記インビトロ結果から、すべてのACC調製物が健全な横紋筋培養の筋管形成および初期筋収縮を高めると結論付けられた。
例4.デュシェンヌ型筋ジストロフィ-筋細胞株におけるACCの効果を評価する-インビトロ試験
【0194】
方法
【0195】
mdx細胞調製
【0196】
異なるカルシウム調製物の影響を、イスラエルのワイツマン科学研究所からDavid Yaffe教授(名誉)によって厚意により提供されたmdx細胞株(デュシェンヌ型筋ジストロフィ-モデル)について検討した。
【0197】
mdx細胞株由来の株をゼラチンコ-ティングした12ウェル培養プレ-トに、細胞3×10個/ウェルを含む増殖培地1mlで播種した。2日後(約66%の密集)、培地を融合培地に変更し、週に2回交換した。様々なカルシウム調製物を、表3に記載された処理に従って融合培地に別々に加えた。培養は様々なカルシウム調製物によって、1mMのCa2+濃度で増加させた。培地は既に1mMのカルシウムイオンを含んだため、Ca2+の最終濃度は2mMだった。
【表3】
【0198】
細胞増殖、筋管を形成する融合、および筋収縮に対する試験した炭酸カルシウム調製物の効果を、位相差顕微鏡観察によって毎日モニタリングした。所定の日に、培養をメタノ-ルで20分間固定し、そしてギムザによって染色して培養時間で形成された筋管の数を評価した。
【0199】
筋組織培養におけるクレアチニンキナ-ゼ(CK)分析
【0200】
筋細胞培養では、CKは筋管形成における指標であり、CK量は筋培養における筋管形成の発達と正の相関で(組織培養プレ-ト中で)増加する。所定の日に、細胞を培養ウェルから収集し(ラバ-ポリスマンを使用)、分析するまで1mlのPBS(Ca2+無添加)中で-70℃に維持した。CK測定のため、細胞サンプルを小分けして、超音波処理装置を用いて物理的に溶解させて、筋管からCKを放出させた。CK濃度をクレアチニンキナ-ゼ活性アッセイキット(CK-NAC REAGENT SET,CURTISS,CHEM-INDEX INC,Hialeah,FL,米国)を用いて測定した。
【0201】
結果
【0202】
前記実験の結果を図4および5に示す。明確に示されるように、ACCの添加は、従来のカルシウム源(CaCl)の添加よりも筋管の細胞融合および形成を高めた。この驚くべき結果は、生化学的(CK活性)および形態学的(顕微鏡)分析の両方で実証された(図4および5)。さらに、ACC調製物に暴露された培養では、筋収縮が播種の7日後に既に観察されたが、一方、対照では、これは10日以降でのみ現れた。従って、ACCサプリメント添加はDMD患者を治療する可能性を有すると結論付けられる。
例5.一次mdxマウス細胞におけるカルシウム源の効果
【0203】
方法
【0204】
一次細胞の抽出
【0205】
大腿筋を新生(1日齢)mdxマウスの後脚から無菌条件下で取り出し、PBSで洗浄して過剰な血液細胞を取り除いた。筋肉を小さい断片に切り刻んだ。酵素的解離のため、筋断片をトリプシン-EDTA溶液(0.25mM)を含むビ-カ-に加えた。細胞分離を確実にするため、混合物をスタ-ラ-に設置し、室温で20分間静かに撹拌した。混合物を収集して300×gで5分間遠心分離した。ペレットをDMEM含有PBSで再懸濁させた。トリプリン処理段階を3回を超える回数で繰り返した。すべての上清を1本の試験管に集めた。細胞分離を目視(位相差顕微鏡を使用)によって測定した。細胞密度を、血球計算機を用いて測定した。
【0206】
細胞を12ウェルプレ-トに2×10個/ウェルの濃度で加えた。使用した培地は、15%FBSおよび2mMのL-グルタミン、ゲンタマイシン(25μg/ml)を添加したDMEM/F12 W/O Ca2+だった。カルシウムを表4に記載された処理に従って培地に別々に加えた。2日目(約66%密集)に、培地を融合培地(Ca2+無添加、10%HS、インスリン(4単位/100ml)、およびゲンタマイシン(25μ/ml)の添加)に変更した。培地は3日毎に交換した。
【表4】
【0207】
細胞増殖および融合は質的に毎日モニタリングした。培養を2、3、4、5、および7日目に固定して、ギムザまたはミオシン抗体を用いて染色した。
【0208】
結果
【0209】
結果を図6および7に示す。ACC製剤の有効な効果が対照と比べて、特に早い時点である3および4日目の筋管形成によって実証された。形成された筋管における差は、5および7日目で区別できなくなった。ギムザ染色とミオシンに対する染色の間に高い相関があった。
例6.マウスにおける筋ジストロフィ-に対するACCの効果を評価する-インビボ試験
【0210】
実験マウスに対照または試験品を経口投与した(給餌または飲水によって)。対照または試験品を試験終了まで(12週後)毎日繰り返し投与した。
【表5】
【0211】
試験システム
【0212】
種:マウス
【0213】
mdx系統:C57/BI 10ScSn/DMD mdx/J
【0214】
野生型系統:C57BL/6JOIaHsd.
【0215】
性別および齢:雄、試験開始時に3週齢
【0216】
体重:試験開始時の動物の体重変差は、性別の平均体重の±5%を超えない。
【0217】
飼育:試験開始前に動物を42.5×26.5×18.5cmの寸法のポリスチレンゲ-ジで飼育し、ペレット化食餌およびプラスチック容器中の飲用水を容易にするステンレス製天面網を備え、寝藁材としてカンナ屑((Harlan Teklad Aspen/ Sani-chips bedding)で満たした。寝藁材は少なくとも1週間に1回、ケ-ジとともに交換した。
【0218】
識別:耳タグおよびケ-ジカ-ド
【0219】
終了:試験の最後に、動物をCO窒息によって安楽死させた。
【0220】
正当性:MDXマウスはデュシェンヌ型筋ジストロフィ-(DMD)を評価するための一般的な動物モデルである。
【0221】
試験開始の定義
【0222】
最初の対照または試験品投与を「1日目」として定めた。
【0223】
試験終了の定義
【0224】
試験は開始から12週で終了した。
【0225】
愛護的最後
【0226】
瀕死状態が認められた動物、および重度の痛みを示していた、または重度な苦痛の徴候に耐えていた動物は、愛護上安楽死させた。最初の体重から20%を超える体重の低下を示す動物は報告された。
【0227】
試験品投与
【0228】
動物に食餌または飲料によってACCを投与した。動物に給餌によってCCCを投与した。対照は給餌によって投与した。対照または試験品を試験終了まで(12週後)毎日繰り返し投与した。
【0229】
試験および評価
【0230】
疾病率および死亡率観察
【0231】
疾病率および死亡率の徴候に関する観察を、毎日および試験終了時に実施した。
【0232】
体重測定
【0233】
体重測定を週に1回および試験終了時に、12週間記録した。
【0234】
クレアチニンキナ-ゼ(CK)量のための血液収集および血清調製
【0235】
試験終了時、血液サンプルをすべての動物から、ケタミン/キシラジンによる軽い麻酔下で、後眼窩静脈叢から直接的に採取した。
【0236】
血液200μLを、凝固活性剤ゲルを加えた黄色カップチュ-ブに収集した。チュ-ブを凝固化のために室温で少なくとも30分間維持し、室温で4000RPMによって10分間、遠心分離した。血清サンプルを、A.ML検査所でのCK分析のために送るまで、2~4℃で保存する。
【0237】
クレアチニンキナ-ゼ-結果
【0238】
クレアチニンキナ-ゼ試験の結果を図8に示し、明確な傾向を実証する。すべてのmdxマウスは野生型に比べて高いCK値を示し、筋破壊を表した。しかし、この増加は食餌によってACCが与えられた群(4M群)では、正常な食餌のみが与えられた群と比べて有意に穏やかだった(2M群:スチュ-デントt検定、P値=0.034)。CCCが与えられた3M群におけるマウスも、2M群(無処理)のマウスよりも穏やかな上昇を示したが、差は統計学的に有意ではなかった(スチュ-デントt検定、P値=0.45)。
【0239】
飲水によってACCが与えられた5M群は、食餌によってCCCが与えられた3M群と同様な結果を示した(それぞれ21,164±8,391および21,676±14,508IU/ml)。いかなる理論または作用メカニズムによっても拘束されることは望まないが、4M群(食餌中のACC)および5M群(飲水によるACC)間の結果における差の理由は、ACC懸濁液の異種性、従ってACCの不均一な投与に起因し得る。しかし、ACCの投与がmdxマウスにおけるDMDの徴候を有意に緩和したことは明らかである。
例7.MDXマウスにおける筋ジストロフィ-に対するACC消費の効果を評価する
【0240】
本例において、異なる安定剤によって安定化されたACCのmdxマウス(デュシェンヌ型筋ジストロフィ-のげっ歯類モデル)に対する効果を試験した。
【0241】
試験品
【0242】
マウスに安定化ACCを毎日経口によって(給餌)、または1週間に連続して6回、腹腔内注射によって投与した。対照または試験品は同様に投与した。
【0243】
試験システム
【0244】
種:マウス
【0245】
mdx系:C57/BI 10ScSn/DMD mdx/J
【0246】
野生型系統:C57BL/6JOIaHsd
【0247】
性別および齢:雄、試験開始時に3~5週齢
【0248】
体重:試験開始時の動物の体重変差は、性別の平均体重の±15%を超えない。
【0249】
群サイズ:表1、試験設計を参照する。
【0250】
群数:6(表6を参照)
【表6】
【0251】
実験手順:
【0252】
MDXマウスはデュシェンヌ型筋ジストロフィ-(DMD)を評価するための動物モデルである。
【0253】
試験終了の定義:試験は1~4群について開始から24週、および5~6群について開始から12週で終了する。
【0254】
試験品投与
【0255】
すべての動物(対照を除く)は、食餌(毎日)または腹腔内注射(1週間に6回連続)のどちらかによって安定化ACCが投与された。
【0256】
試験および評価
【0257】
臨床徴候観察
【0258】
動物は臨床徴候について試験終了まで週に1回観察した。
【0259】
観察は皮膚、毛、眼、粘膜、呼吸、分泌物の発生、および排泄(例えば、下痢)におけるいずれかの変化について実施した。異様な行動の存在として、足取り、姿勢、およびハンドリングに対する反応の変化、震戦、痙攣、睡眠、および昏睡も含めた。
【0260】
すべての観察された異常、毒性徴候、瀕死状態、および末期前を記録した。
【0261】
試験の間に愛護的に屠殺された動物は、試験の間に死亡した動物として試験結果の解釈のために考慮される。
【0262】
体重測定
【0263】
体重測定を週に1回、四肢ハンギング試験直前に記録した。試験開始時および終了時にも体重を測定した。
【0264】
機能試験-四肢ハンギング試験(グリップ試験)
【0265】
四肢ハンギング試験を使用して、筋強度をモニタリングし、神経筋障害および運動協調性について示した。試験を使用してACCの有効性を判断した。
【0266】
四肢ハンギング試験では、ワイヤグリッドシステムを使用して、重力に対して維持された四肢張力を示すマウスの能力を測定する。ハンギング時間は秒ならびに最小保持インパルス(保持インパルス=体重×ハンギング時間,[N秒],換算係数-9.806×10ニュ-トン/g)で測定される。
【0267】
グリップ試験(四肢ハンギング試験)をTREAT-NMD SOP番号DMD M.2.1.005プロトコルに従って実施した。簡単に説明する。
【0268】
マウス(最小齢-4週)をグリッド(グリッド平方サイズ約1×1cm)の天面に配置し、この環境に3~5秒順応させた。
【0269】
グリッドをマウスが逆さまになるようにひっくり返した。グリッドの高さをケ-ジ床の少なくとも35cm上に配置した。十分な量の柔軟な寝藁(5~7cm)をグリッドの下に配置して、安全な着地を確実にした。4~24週齢のマウスは、自然にグリッドに留まり、床への落下を避けるようにする。この高さは動物が傷を負うことがない十分な低さであり、落下を確実に避けるのに十分な高さである。
【0270】
各ハンギング期間は、4本のマウスの足すべてがグリッドを握ることによって開始しなければならない。ハンギング時間をストップウォッチで測定して記録した。
【0271】
試験を最大600秒まで、または少なくとも2分の休息間隔で3回繰り返して実施した。
【0272】
最長のハンギング時間を使用して保持インパルスを評価した。
【0273】
四肢ハンギング試験を全実験の間、各週で実施した。
【0274】
クレアチニンキナ-ゼ(CK)量のための血液収集および血清調製:
【0275】
試験終了時、血液サンプルをすべての動物から軽い麻酔下(ケタミン/キシラジンによる)で、後眼窩静脈叢から直接採取する。
【0276】
血液200μLを、凝固活性剤ゲルを加えた黄色カップチュ-ブに収集する。チュ-ブを凝固化のために室温で少なくとも30分間維持し、室温で4000RPMによって10分間、遠心分離する。血清サンプルを、A.ML検査所でのCK分析のために送るまで、2~4℃で保存する。
【0277】
試験終了および剖検
【0278】
最終採血後、動物を二酸化炭素窒息によって殺し、肉眼所見を実施して、主要組織および器官系を検査する。
【0279】
骨格筋収集
【0280】
剖検の際、すべての動物から選択した筋(横隔膜筋、心筋、および腓腹筋)を収集する。すべての動物から得る筋を、将来の組織病理学検査のために、10%中性緩衝化ホルマリン(約4%ホルムアルデヒド溶液)中で少なくとも24時間保存する。
【0281】
結果
【0282】
マウスは全群で体重が増加した。いずれの群の平均体重にも有意差は認められなかった。
【0283】
機能試験-四肢ハンギング試験-中間結果
【0284】
有意差が、標準食(カルシウムを含む)が投与された対照群に対して、ACC製剤が経口投与された両mdx群(安定剤1-ホスホセリン、安定剤2-三リン酸)の保持インパルス(HI)で認められた、図9を参照。差は試験の第2週で既に観察され、ACC処理マウスのHIは対照群のHIより2倍高かった。この差は試験が進むと増加し、約6~8週後にプラト-に達した。ACC処理マウスのHIは対照群よりも約2~3.8倍高かったことが図9から認められる。
例8.ACC補充培地における胚発達の向上
【0285】
材料および方法
【0286】
CBA雄マウスをBL C57雌マウスと交配させた。マウスを無制限の水および食餌供給によって、12時間の明暗サイクルで維持した。子を得た6~8週後、各雌マウスに妊馬血清性ゴナドトロピン(PMSG)の5IUを腹腔内注射した。
【0287】
48時間後、各雌マウスに5IUのヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)を腹腔内注射した。繁殖力が証明されている雄マウスを、過排卵雌と一緒にした。次の朝、雌マウスを膣栓の存在について検査した。膣栓を有した雌を24時間後(性交後約36時間)に安楽死させ、卵管をQuinn’s Advantage分割培地(SAGE,Origio,デンマ-ク)中で切開し、胚をミネラルオイルで積層したQuinn’s Advantage分割培地(SAGE,Origio,デンマ-ク)による20μL液滴に移し、5%COおよび大気酸素下、37℃で培養することによって、2細胞期の胚を卵管から回収した。収集した胚は胚盤胞/孵化期まで成長、すなわちインビトロ培養(IVC)を続けた。無定形炭酸カルシウムの効果を試験するため、Quinn’s Advantage分割培地(以後、「分割培地」)を異なる添加剤、すなわち、ポリリン酸によって安定化された無定形炭酸カルシウム(ACC-PP)、結晶炭酸カルシウム(CCC)、ポリリン酸(PP)、ホスホセリン(PS)、または炭酸ナトリウム(NaCO)で補充した。すべてのサプリメントは新たに調製した懸濁液として加え、ACCサプリメントの調製は無菌条件下で実施した。未処理分割培地(いずれの添加物の添加もない)を対照(Cont Qとして表示)として使用した。胚を、2細胞、緊密化期、胚盤胞形成、および孵化期の段階の検出のために顕微鏡観察によって毎日評価した。各期に到達した胚の割合(パ-セント)を計算した(2細胞胚の数を100%に設定した)。
【0288】
結果
【0289】
PPで安定化された無定形炭酸カルシウム(ACC-PP)の1.7mMが補充された分割培地における胚発達を、対照(Cont Q-未処理培地における発達)と比較した。各発達期の胚数および最初の胚数に対するこれらの割合(後者は括弧で示す)を表7に示す。
【表7】
例9.
【0290】
ACC-PPまたは塩化カルシウム(CaCl)のどちらかが1.7mM補充された分割培地における胚発達を2つの別々の検査で試験した(AおよびB)。試験Aでは胚を胚盤胞期まで、試験Bでは孵化期まで成長させた。各発達期の胚数および最初の胚数に対するこれらの割合(括弧内)を表8(試験A)および表9(試験B)に示す。
【表8】
【表9】
例10.
【0291】
1.7mMのCaCl、1.7mMのACC-PP、または0.85mMのACC-PP(ACC-PPの最初の濃度の半分、ACC-PP0.85として識別)が補充された分割培地における胚発達。各発達期の胚数および最初の胚数に対するこれらの割合(括弧内)を表10に示す。
【表10】
例11.
【0292】
1.7mMのCaCl、1.7mMまたは0.85mMのACC-PP(ACC-PP0.85)が補充された分割培地における胚発達を試験し、未処理培地における発達と比較した。各発達期の胚数および最初の胚数に対するこれらの割合(括弧内)を表11に示す。
【表11】
例12.
【0293】
この実験では、4匹の5月齢雌マウスを安楽死させた。各マウスから得る胚を材料および方法で記載されたように収集したが、胚は一緒にプ-ルせず、各マウスの各卵管からの胚を1.7mMのCaClまたは1.7mMのACC-PPが補充された分割培地のどちらかで成長させて、培養で別々に成長させた。この方法では、各雌から得る胚が同胞だったため、マウス間の差を評価することもできた。各発達期の胚数および最初の胚数に対するこれらの割合(括弧内)を表12に示す。
【表12】
例13.
【0294】
この実験では、7匹の6月齢雌マウスを安楽死させた。各マウスから、胚を材料および方法で記載されたように収集したが、マウスNo.1および2からは、胚は一緒にプ-ルせず、例5のように別々に成長させた。マウスNo.1から得る胚は、未処理分割培地または2.6mMのACC-PPを補充した培地(ACC-PP2.6)のどちらかで成長させた。マウスNo.2から得る胚は、ACC-PPの1.3mMまたは0.6mMが補充された分割培地(それぞれ、ACC-PP1.3およびACC-PP0.6で表す)で成長させた。マウスNo.3~7から得る胚はすべて一緒にプ-ルし、ポリリン酸の1.6mM添加で成長させた(PP)。さらに、胚盤胞の直径および容積を計算した。各発達期の胚数および最初の胚数に対するこれらの割合(括弧内)を表13に示す。
【表13】
【0295】
ACC-PPの2.6mM添加で成長させて孵化した胚盤胞は、対照よりも28%大きい直径および2倍大きい容積を有した。
例14.
【0296】
この実験では、7匹の6月齢雌マウスを安楽死させた。各マウスから得る胚を材料および方法(例6)に記載されたよう収集した。胚を一緒にプ-ルし、5群に分けて、未処理分割培地(Cont Q)、または2.6mM、1.3mM、0.6mMのACC-PP(それぞれ、ACC-PP2.6、ACC-PP1.3、およびACC-PP0.6として表す)、または1.6mMのポリリン酸(PP)が補充された培地で成長させた。各発達期の胚数および最初の胚数に対するこれらの割合(括弧内)を表14に示す。
【表14】
例15.
【0297】
この実験では、6匹の6月齢雌マウスを安楽死させた。各マウスから得る胚を材料および方法に記載されたよう収集した。胚を一緒にプ-ルして3つの群に分け、1つの群は対照(Cont Q)として使用し、他の2つの群では胚はACC-PPの3.3mM(ACC-PP3.3)または3.3mMの市販ナノメ-タ-結晶炭酸カルシウム(CCC)が補充された分割培地で成長させた。すべての培地は無菌条件下で調製した。各発達期の胚数および最初の胚数に対するこれらの割合(括弧内)を表15に示す。
【表15】
例16.
【0298】
この実験では、6匹の7月齢雌マウスを安楽死させた。各マウスから、胚を材料および方法(例6)に記載されたよう収集した。胚は一緒にプ-ルし、1.7mMのCaCl、1.7mMのACC-PP、0.8mMのACC-PP(ACC-PP0.8)、または1.7mMのホスホセリン(PS)が補充された分割培地において成長させた。各発達期の胚数および最初の胚数に対するこれらの割合(括弧内)を表16に示す。
【表16】
【0299】
この特定の実験では、塩化カルシウムを加えることは、胚発達に負の影響を及ぼし、胚盤胞および孵化胚盤胞の低い割合をもたらした。
例17.
【0300】
この実験では、6匹の6月齢雌マウスを安楽死させた。各マウスから得る胚を材料および方法(例6)に記載されたように収集したが、マウスNo.1および2から得る胚は一緒にプ-ルせず、同胞実験としてむしろ別々に成長させた(例10を参照)。雌No.1から得る胚を未処理分割培地または1.7mMのナノメ-タ-結晶炭酸カルシウム(CCC)が補充された培地で成長させた。マウスNo.2から得る胚を1.7mMのACC-PPまたは1.7mMの炭酸ナトリウム(NaCO)が補充された培地で成長させた。マウスNo.3~6から得る胚はすべて一緒にプ-ルし、未処理培地、あるいは1.7mMのNaCOまたは1.7mMのACC-PPが補充された培地で成長させた。さらに、胚盤胞の直径および容積を計算した(表17を参照)。
【表17】
【0301】
炭酸ナトリウムを添加することは、対照またはACC-PPの添加と比べて非常に乏しい胚発達をもたらしたことが認められる。ACC-PPの2.6mM補充した分割培地で成長させて孵化した胚盤胞は、対照よりも28%大きい直径および2倍大きい容積を有したことも認められた。
例18.細胞培養培地サプリメントとして製剤化された10%TP-1%クエン酸ACC(10%三リン酸および1%クエン酸によって安定化されたACC)の調製
【0302】
3%塩化カルシウム溶液36mlを0.27%クエン酸溶液4mlおよび0.5406%三リン酸溶液10mlと混合した。1.9485%炭酸ナトリウム溶液40mlを加えてACCを沈殿させた。0.5406%三リン酸を含む安定化溶液10mlをACC懸濁液に加えて安定化ACC懸濁液を得た。得られた懸濁液をQuinn’s(商標)分割培地またはQuinn’s(商標)1-Step培地にサプリメントとして使用した。懸濁液を1.7または3.4mMのACC最終濃度まで加えた。あるいは、懸濁液をブフナ-漏斗を用いてろ過し、固体物を水で洗浄し、固体物をさらにオ-ブンなどで乾燥させる。粉末を1.7または3.4mMの最終濃度まで分割培地に加える。
例19.
【0303】
この実験では、4匹の6~8週齢雌マウスを安楽死させた。各マウスから得る胚を材料および方法に記載されたように収集した。安定化ACC(10%三リン酸および1%クエン酸によって安定化されたACC)を例16で説明したように調製した。各雌から得る胚を分離し、第一部分を未処理SAGE1-Step(商標)培地で、第二部分を1.7mMのACC-PPまたは3.4mMのACC-PPが補充されたSAGE1-Step(商標)培地で成長させた。図10から認められるように、安定化ACCの添加は胚発達に正の効果を有し、特に3.4mMのACCによって胚盤胞および孵化胚盤胞の高い割合がもたらされた。予期せぬことに、孵化した胚盤胞の割合を増加するために、いずれの他の培地にも移すことが必要とされなかった。
例20.
【0304】
2つの異なる実験では、3匹の6~8週齢雌マウスを安楽死させた(各実験において)。各マウスから得る胚を材料および方法に記載されたよう収集した。安定化ACC(10%三リン酸および1%クエン酸によって安定化されたACC)を例17で説明したように調製した。一つの実験では(実験A)、各雌から得る胚を分離し、第一部分を未処理SAGE1-Step(商標)培地で、第二部分を3.4mMのACC-PPが補充されたSAGE1-Step(商標)培地で成長させた。第二の実験では(実験B)、各雌から得る胚を分離し、第一部分を未処理分割培地(SAGE)、および第二部分を3.4mMのACC-PPが補充された分割培地で成長させた。これらの実験の結果を図11(実験A)および図12(実験B)に示す。
【0305】
実験から認められるように、安定化ACCの添加は胚発達に正の効果を有し、特に胚盤胞および孵化胚盤胞の高い割合がもたらされた。予期せぬことに、両培地では、孵化した胚盤胞の割合を増加するために、いずれの他の培地にも移すことが必要とされなかった。
例21.細胞培養培地サプリメントとして製剤化されたACCの調製
【0306】
異なる安定化剤(三リン酸(TP)、ヘキサメタリン酸(HMP)、ピロリン酸(Pyr)、ホスホセリン(PS)、エチドロン酸(ET)、ゾレドロン酸(ZA)、またはメドロン酸(MA)を調製した)によって安定化されたACCの組成物を調製した。典型的な手順では、カルシウム溶液(水300ml、塩化カルシウム24g、および安定剤)および炭酸溶液(水200mlおよび炭酸ナトリウム17.3g)を一緒に混合してACCを沈殿させた。安定剤溶液(水100mlおよび安定剤、表18にカルシウムおよび安定剤溶液における安定剤の含量を示す)をACC懸濁液に加えて安定化ACC懸濁液を得た。懸濁液はサプリメントとして使用され得る。ついでACCをブフナ-漏斗によってろ過し、固体物を水で洗浄した。懸濁液を乾燥させて粉末を得た。粉末は細胞培養培地サプリメントとして加える、または水性培地に再懸濁させて懸濁液として加え得る。
【表18】
【0307】
他の例では、組成物は前述のように、最終組成物で1%クエン酸を得るように、カルシウム溶液へのクエン酸の添加によって調製した。懸濁液それ自体が培養培地サプリメントとして使用される。あるいは、懸濁液はさらに水で洗浄して乾燥させて粉末を得た。粉末は任意の細胞培養培地に加え得る、または水性培地で再懸濁させ得る。
【0308】
例22.MBA13幹細胞(骨髄間質細胞)の骨芽細胞への成長材料および方法
【0309】
解凍の2日後、MBA-13細胞(ワイツマン科学研究所、Dov Zipori教授から入手)を組換えトリプシン溶液に再懸濁し、MSC Nutristem(登録商標)XF基礎培地(Biological Industries、cat No.05-200-1A)に間葉幹細胞(MSC)補充混合培地(Biological Industries cat No.05-201-06)を50ml:300μLの割合で補充して用いて、96ウェルプレ-トに細胞1×10個/ウェルの濃度で播種した(0日目)。96ウェルプレ-トの1~4列のA~H行を、細胞播種のためにPBS(Ca2+、Mg2+イオン無添加)で1:100の比に希釈したMCS接着溶液によってプレコ-ティングした。96ウェルプレ-トの5~8列のA~H列を、0.1%ゼラチンによって室温、30分間プレコ-ティングした。
【0310】
2日目に、80%を超える細胞密集が達成されたとき(約48時間)、培地を骨芽細胞分化を促進する因子を含むMSCgo rapid osteogenic medium(迅速骨形成培地)(cat No.05-442-1B)に交換した。培地交換後、A~C行に10%三リン酸+1%クエン酸によって安定化された無定形炭酸カルシウム(ACC)由来の1mM追加カルシウム(全2.488mMカルシウム)を補充し、D~F行に塩化カルシウム由来の1mM追加カルシウム(全2.488mMカルシウム)を補充し、プレ-トのG行はMSCgo培地(全1.488mMカルシウム)で処理した。プレ-トのH行はMSC NutriStem(登録商標) XF栄養基礎培地+サプリメント混合物(全1.488mMカルシウム)で処理した。
【0311】
4日目に、培地をACCの新鮮な調製物に交換した。
【0312】
並行して、対照プレ-トもMDXマウスの損傷した筋肉由来のMDX細胞株で播種した。これらの細胞の染色を使用して、細胞本来のカルシウムのバックグランド染色を設定し、またACC処理のカルシウム沈着が染色される可能性を排除した。播種前に、ウェルをゼラチンでコ-ティングし、これはMDX細胞接着用の標準的基材として使用される。MDX細胞を24ウェルプレ-トに3×10個/ウェルの濃度で加えた。播種日を「0日」として定める。
【0313】
2日目に、ウェルの培地を次のように交換した。
【0314】
1および2列は施設内で調製する脊髄(SC)培地(0.6wt%D-グルコ-ス、2mMのL-グルタミン、25μg/mlゲンタマイシン、B27、N、0.1 mg/mlのBSA、Hepes、10%FBS、DMEM/F12、および50ng/mlのIGF-Iを含む培地)+ACC由来の1mMカルシウム(2mMの全カルシウム濃度)で処理した。3および4列はSC培地+CaCl由来の1mMで処理した。5および6列はSC培地で処理した。細胞の両タイプ(MBA13およびMDX)を10日目まで培養した。
【0315】
各タイプについて数ウェルの固定(4%ホルムアルデヒドで20分間)を、培地交換後の5、7、および10日目、すなわち試験の7、9、および12日目に実施した。
【0316】
細胞を固定してから、2種の染色試薬を使用して細胞外カルシウムまたは骨沈着を染色して骨芽細胞機能性を評価した。(i)アリザリンレッド(シグマ、A55333)および(ii)アルカリホスファタ-ゼ(DAKO、BCIP/NBT基質システムK0598)は次の通りだった。
【0317】
アリザリンレッド染色手順-pHを4.2に調整した。細胞をPBSで2回洗浄し、冷却エタノ-ルで5分間固定し、ついでPBSで再度洗浄した。アリザリン溶液を2%の濃度で15~20分間使用した。染色インキュベ-ション後、サンプルを水で2~3回洗浄して非特異的染色を取り除いた。
【0318】
アルカリホスファタ-ゼ染色-細胞をPBSで1または2回洗浄し、ついで4%パラホルムアルデヒドで20分間固定した。そしてPBSで3回洗浄し、残存PBSを除去後、BCIP/NBTキット溶液の3滴を使用して細胞を覆い、対照としていずれの細胞も含まない空ウェルを測定の質を高めるために含めた。アルカリホスファタ-ゼキットのインキュベ-ションを1時間実施し、ついで蒸留水ですすいだ。
【0319】
結果
【0320】
10日間培養し、アリザリンおよびアルカリホスファタ-ゼによって染色された細胞の結果を示す。10日前に実施された観察は、両染色法においていずれのカルシウム沈着もほとんど検出されなかった。
【0321】
細胞状態を2日および4日の2時点で光学顕微鏡(固定なし)によって観察した。両観察において、MSC接着溶液によってプレコ-ティングしたウェルに播種された細胞は、良好な状態でなく、細胞は丸みを帯びた。これに対し、ゼラチンでプレコ-ティングしたウェルに播種された細胞は良好な状態だった。だが、両タイプのプレコ-ティングで継続することにした。次の結果および染色手順は、接着基材として使用されたゼラチンにおける細胞成長に関するものである。
【0322】
アリザリンレッド染色では、カルシウム沈着はオレンジレッド色によって検出される。
【0323】
アリザリンレッド染色は、ACCが補充された骨芽細胞における非常に強いシグナルを、弱いシグナルのみを示したCaClが補充されたものと比較して実証した(図13)。シグナルに加え、大きいカルシウム沈着が染色され、これは対照処理のいずれでも観察されないことが図で認められる。
【0324】
MSCgo迅速培地で成長させた細胞のアリザリンレッド染色もまたカルシウム沈着のいくつかの染色を示したが、沈着のサイズおよびその量は有意に低く、CaClが補充された細胞で認められた形態学および量と類似する。カルシウム沈着はMSC NutriStem(商標)XFサプリメント(MSCsup、テ-タは示さず)で成長させた細胞では認められなかった。MSC NutriStem(商標)XFサプリメント培地は通常、細胞分化よりもむしろ細胞増殖を誘発するために使用される。実際、観察される細胞の数は多いが、カルシウム沈着は観察されない。
【0325】
観察は、ACC処理が骨芽細胞へのMBA13細胞分化を高め、細胞カルシウム沈着を増加させる、すなわちこれらの機能性を高めることを示唆する。
【0326】
骨芽細胞分化に関する別の独立したマ-カ-はアルカリホスファタ-ゼである。この酵素は、細胞のマトリックス成熟期が生じるとき、最大限に発現される。アルカリホスファタ-ゼ染色は、骨芽細胞分化および機能性を検出する補足的方法として使用し、アリザリン染色によって得られた結果を検証した。
【0327】
アルカリホスファタ-ゼ染色は黒色として示され、結果を図14に示す。ACCによって処理されたMBA13細胞は、他の処理と比べて強いシグナルを示した。実際、アルカリホスファタ-ゼ染色は、骨芽細胞分化がACCによって処置された培養で優れていることを裏付ける。
【0328】
ACC添加培地によって播種後10日間処理されたMDX細胞のアリザリン染色は、処理間で染色に大きな差のないことを示した(図15A~Cを参照)。これらの結果は、骨芽細胞のアリザリンレッド染色が、骨芽細胞によるカルシウム沈着に起因しており、処理それ自体によって生じたACC沈着によるものではないことを裏付ける(すなわち、実験上の人為的結果ではない)。
【0329】
MDX細胞株のアルカリホスファタ-ゼ染色(図15D~F)は、骨形成が生じなかったことを示した。興味深いことに、アルカリホスファタ-ゼ染色では、高められた筋管形成が、CaCl補充された培地または対照で成長された細胞と比べてACC処理細胞で観察された。
【0330】
結論
【0331】
異なる培地における播種の10日後のアリザリンレッドおよびアルカリホスファタ-ゼ染色である独立した両染色は、使用された対照と比べてACCが補充された培地で成長した骨芽細胞沈着のかなり強い染色を示した。
【0332】
細胞をACCの存在中で成長させたとき、大きいカルシウム沈着プラ-クが観察されたが、このような沈着はCaClが補充された培地で成長させた細胞では観察されなかった。染色がより多くのプラ-ク沈着を示したため、強いシグナルが高い機能性を示している可能性がある。MDX細胞染色によって得られる結果は、プラ-クがACC添加によるものではなく、骨芽細胞の機能による直接的な結果であることを示唆する。
例23.精子運動率向上のためのACC
【0333】
材料および方法
【0334】
ACCサプリメント調製
【0335】
3%塩化カルシウム溶液36mlを0.3%クエン酸溶液4mlおよび0.5%三リン酸溶液10mlと混合した。2%炭酸ナトリウム溶液40mlを加えてACCを沈殿させた。0.5%三リン酸を含む安定化溶液10mlをACC懸濁液に加えて安定化ACC懸濁液を得た。得られる懸濁液のカルシウム元素濃度は75mMだった。
【0336】
精子収集
【0337】
精子を同一ヒツジから3回(実験1)または3頭のヒツジから2回(実験2および3)採取し、室温で濃度および運動率を評価した。精子を、ミリQ水に107.70mMのNaCl、7.16mMのKCl、1.19mMのKHPO、1.71mMのCaCl、0.49mMのMgCl、25.07mMのNaHCO、3.30mMの乳酸ナトリウム、および1.50mMグルコ-ス(10)を含む合成卵管液(SOF)で5千万個/mlの濃度に希釈した。モル浸透圧濃度は270mOsmolおよびpH7.55となる。
【0338】
そして精子についてCASA(The riogenology,2014,Volume81,Issue1,Pages5-17)を用いで運動率を評価し、4℃まで1℃/分で冷却した。
【0339】
スイムアップ法
【0340】
スイムアップ法は38℃で実施し、原精子(10μL)をエッペンドルフ1mlバイアルに加え、0.25mlストロ-(CBS、フランス)に挿入されたSOF培地中で約1時間インキュベ-ションした。40~60分後、ストロ-に入った精子をスライドに加え、CASAによって評価した。
【0341】
結果
【0342】
新たに収集された精子の運動率を材料および方法セクションで説明されたように、無定形炭酸カルシウムの添加または無添加で試験した。結果を表19に示す。
【表19】
【0343】
ACCが補充された精子は未処理精子と比べて非常に高い前進運動率を有したことが認められる。
例24.スイムアップ実験における精子運動率に対するACCの効果
【0344】
精子運動率におけるACCの効果を評価するため、標準的なスイムアップ実験をACC懸濁液の17μL/mlおよび34μL/ml(それぞれ1.3および2.6mMのCa元素)の存在中で実施した。生存可能な精子を1時間後に計数し、結果を表20にまとめて示す。
【表20】
【0345】
ACCの添加はすべての実験において生存可能な精子の数を有意に増加したことが明確に認められる。ACCが補充されたサンプルでは、生存可能な精子の数は未処理サンプルよりも2~7倍高かった。

例25.スイムアップ実験における精子運動率に対するACC濃度の効果
精子の運動率におけるACC濃度の効果を、各ACCについて3種の異なるサンプルを用いてスイムアップ実験によって試験した。結果を表21にまとめて示す。
【表21】
【0346】
卵管液(SOF)溶液への17μL/mlのACC懸濁液の添加および38℃で1時間のインキュベ-ションは、運動性精子の濃度を少なくとも3倍増加した。興味深いことに、ACCの濃度が高くなるとスイムアップ後の移動性精子の濃度を低下させなかった。ACCはスイムアップ法後の精子濃度を高め、イオン性カルシウムにおけるいずれの二相性効果も有さなかった。最小の効果的用量を超えるいずれのACC濃度も運動率を増加させる。

例26ACCはインビトロで卵巣を維持する。
【0347】
材料および方法
【0348】
卵巣をマウス(6週齢)から収集して0.4mm×0.4mm片に切断した。卵巣を12ウェルプレ-トで培養した。培養培地は、培養培地は、カルシウム枯渇した(カルシウムイオン無添加培地、特別調製)ダルベッコ改変イ-グル培地-栄養素混合物F-12(DMEM-F12)が90%、10%ウシ胎児血清(FBS)、2mMグルタミン、25μg/mlゲンタマイシン、および0.3~0.5%NVR-Gelから、3.4mM安定化ACC-PPの添加または無添加で構成された。培養の48時間後、妊馬血清性ゴナドトロピン(PMSG)の5IUを培養皿に加えた。
【0349】
結果
【0350】
二次卵胞が安定化ACCの存在下でインビトロ培養の2週後に発達し、卵母細胞を囲む顆粒膜細胞は完全なものだったことが、図16で認められる。これに反し、対照群における二次卵胞は、不完全な顆粒膜細胞および胚胞卵母細胞を示す。かなり多くの卵胞がACC群で観察され、培養培地におけるACCの添加が卵胞の迅速で優れた成長を可能にすることを意味した。
【0351】
本発明はその好ましい実施形態の手段によって本明細書で前述されているが、添付の請求で定められる本発明の精神および性質から逸脱することなく変更され得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【手続補正書】
【提出日】2022-12-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
精子の質を改善するための方法であって、精子を少なくとも1種類の安定剤によって安定化された無定形炭酸カルシウム(ACC)に暴露することを含む、上記方法。
【請求項2】
前記精子の質を改善することが、精子細胞の運動率を高める、精子細胞の前進運動率を高める、精子細胞数を増加する、およびそれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記精子細胞数を増加することが、運動率または前進運動率処理を実施するときに当該精子数を増加することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記精子がヒトまたは非ヒト哺乳動物の精子である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記非ヒト哺乳動物が、家畜動物、家庭用愛玩動物、げっ歯類、および霊長類からなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記精子がヒト精子である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1種類の安定化剤が、ポリリン酸、リン酸化アミノ酸、有機酸、リン酸化、ホスホン酸化、硫酸化、またはスルホン酸化有機化合物、ヒドロキシカルボン酸のリン酸または硫酸エステル、ビスホスホネ-ト、サッカライドおよびそれらの誘導体、タンパク質、ペプチド、リン酸化タンパク質、リン酸化ペプチド、天然および合成バイオポリマ-およびそれらの誘導体、ならびにそれらのいずれかの組み合わせから選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
男性不妊を治療するのに使用するための医薬組成物であって、少なくとも1種類の安定剤によって安定化された無定形炭酸カルシウム(ACC)を含む、上記医薬組成物。
【請求項9】
前記男性不妊が、低い精子数、低い精子運動率、および低い精子前進運動率によって生じる男性不妊から選択される、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記安定化剤が、ポリリン酸、リン酸化アミノ酸、有機酸、リン酸化、ホスホン酸化、硫酸化、またはスルホン酸化有機化合物、ヒドロキシルカルボン酸のリン酸または硫酸エステル、ビスホスホネ-ト、サッカライドおよびそれらの誘導体、タンパク質、リン酸化タンパク質、天然および合成バイオポリマ-およびそれらの誘導体、ならびにそれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択される、請求項8または9に記載の医薬組成物。