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特開2023-29943チューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を有するタンパク質を精製する方法およびそのペプチド系阻害剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023029943
(43)【公開日】2023-03-07
(54)【発明の名称】チューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を有するタンパク質を精製する方法およびそのペプチド系阻害剤
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/64 20060101AFI20230228BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20230228BHJP
   C07K 7/08 20060101ALI20230228BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 21/04 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230228BHJP
【FI】
C12N9/64 Z
C07K14/47 ZNA
C07K7/08
A61K38/10
A61P43/00 111
A61P25/00
A61P25/28
A61P25/16
A61P25/18
A61P35/00
A61P21/04
A61P9/00
A61P15/00
A61P27/02
A61P43/00 105
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022193045
(22)【出願日】2022-12-01
(62)【分割の表示】P 2020502488の分割
【原出願日】2018-07-18
(31)【優先権主張番号】17305954.4
(32)【優先日】2017-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】592236245
【氏名又は名称】サントル・ナシオナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シアンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LARECHERCHE SCIENTIFIQUE
(71)【出願人】
【識別番号】515011944
【氏名又は名称】ウニヴェルシテ・ドゥ・モンペリエ
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【弁理士】
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】クシュシトフ・ログフスキー
(72)【発明者】
【氏名】シーム・ファン・デル・ラーン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】微小管の脱チロシン化の欠損を伴う障害の処置に使用するペプチド系阻害剤を提供する。
【解決手段】動物における微小管脱チロシン化の変化を伴う障害の処置における使用のためのペプチド系阻害剤であって、該ペプチド系阻害剤は化学修飾されているか、または化学修飾されていないアルファチューブリンの最もC末端の1~20アミノ酸で構成されるペプチド部分を含み、ここで該ペプチド部分はC末端の位置にYまたはFから選択されるアミノ酸を有し、およびここで該ペプチド系阻害剤はチューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を少なくとも部分的に阻害する、ペプチド系阻害剤である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む、生物学的抽出物からチューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を有するタンパク質を精製する方法:
(a)生物学的抽出物を、0~10℃に含まれる温度(好ましくは2~5℃に含まれる温度、より好ましくは2℃)で遠心分離する;
(b)工程(a)からの上清を回収し、次にGTPを添加し、混合物を35~40℃の温度(好ましくは37℃+/-2℃)でインキュベートすることによって第1の微小管重合サイクルを行い、その後遠心分離する;
(c)工程(b)のペレットを回収し、氷冷の緩衝液中に再懸濁し、4℃+/-1℃でインキュベートし、次にGTPを添加し、混合物を37℃+/-2℃でインキュベートすることによって第2の微小管重合サイクルを行い、その後遠心分離する;
(d)工程(c)のペレットを回収し、氷冷の緩衝液中に再懸濁し、4℃+/-1℃でインキュベートし、次にGTPを添加し、混合物を37℃+/-2℃でインキュベートすることによって第3の微小管重合サイクルを行い、その後遠心分離する;
(e)工程(d)のペレットを再懸濁し、混合物をイオン交換クロマトグラフィーに投入し、フロースルーを回収する;
(f)フロースルーのタンパク質を、60%飽和硫酸アンモニウム溶液を用いて沈澱させる;
(g)工程(f)の沈澱させた画分を疎水性クロマトグラフィーに投入し、硫酸アンモニウム濃度を0まで徐々に減少させることによって溶出し、チューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を有するタンパク質の画分を回収する。
【請求項2】
第1の重合サイクルが以下を含む:
(i)GTPを添加し、混合物を37℃+/-2℃で30分+/-10分間インキュベートする;
(ii)22,000g+/-1,000gおよび37℃+/-2℃で45分+/-10分間遠心分離する;および/または
第2の重合サイクルが以下を含む:
(i)混合物を氷上で30分+/-10分間インキュベートする;
(ii)150,000g+/-10,000gで30分+/-10分間遠心分離する;
(iii)上清を回収し、GTPを添加する;
(iv)混合物を37℃+/-2℃で30分+/-10分間インキュベートする;
(v)50,000g+/-1,000gおよび30℃~37℃に含まれる温度で30分+/-10分間遠心分離する;および/または
第3の重合サイクルが以下を含む:
(i)混合物を氷上で30分+/-10分間インキュベートする;
(ii)上清を回収し、GTPを添加する;
(iii)混合物を37℃+/-2℃で30分+/-10分間インキュベートする;
(iv)50,000g+/-1,000gおよび30℃~37℃に含まれる温度で30分+/-10分間遠心分離する、請求項1記載のタンパク質を精製する方法。
【請求項3】
工程(g)のタンパク質の画分の質量分析による特性評価の工程をさらに含み、かつ/またはプロテアーゼドメインを含むタンパク質を選択する工程をさらに含む、請求項1または2に記載のタンパク質を精製する方法。
【請求項4】
生体試料が、脳の抽出物、精巣の抽出物および肺の抽出物などの真核生物の抽出物、好ましくは動物の抽出物、より好ましくは哺乳類の抽出物から選択される、請求項1~3のいずれかに記載のタンパク質を精製する方法。
【請求項5】
チューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を有するタンパク質の画分が、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10および配列番号11から選択されるアミノ酸配列と少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%のアミノ酸配列同一性を有する少なくとも1つのタンパク質を含む、請求項1~4のいずれかに記載のタンパク質を精製する方法。
【請求項6】
チューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を有する天然または組換えタンパク質の画分を微小管にさらに接触させ、分離されたチロシン(Y)のレベルを測定し、それによりタンパク質の画分のチューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を確認し、ここで好ましくは微小管が標識されたC末端Yを含む合成された微小管および/またはαチューブリンを含む、請求項1~5のいずれかに記載のタンパク質を精製する方法。
【請求項7】
1~20アミノ酸で構成されるペプチド部分を含むペプチド系阻害剤の候補の中からチューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を阻害できるペプチド系阻害剤を選択する方法、ここで該ペプチド部分はC末端の位置にYまたはFから選択されるアミノ酸を有し、該方法は以下を含む:
(a)ペプチド系阻害剤の候補を、チューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を有する天然または組換えタンパク質の画分および(好ましくはC末端Yを含む合成された微小管および/またはαチューブリンを含む)微小管の両方を含む混合物に接触させる;
(b)分離されたYおよび/または脱チロシン化微小管のレベルを測定する。
【請求項8】
試料中の分離されたYのレベルを、請求項1~6のいずれかに記載のタンパク質を精製する方法を用いて得られたタンパク質抽出物および微小管のみを含む対照試料中の分離されたYのレベルと比較する、請求項7記載の方法。
【請求項9】
ペプチド系阻害剤の候補のペプチド部分が、アルファチューブリンの最もC末端の1~20アミノ酸で構成されている、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
ペプチド系阻害剤の候補のペプチド部分が、アミノ酸配列N末端-X1-X2-X3-X4-X5-X6-X7-X8-X9-X10-X11-X12-X13-X14-X15-X16-C末端の最もC末端の1~16アミノ酸で構成されており、ここで
X1、X2、X5、X7、X9およびX13が(好ましくはG、AまたはVから選択される)疎水性アミノ酸であり、
X3、X6、X8、X10、X11、X12、X14およびX15が(好ましくはEまたはDから選択される)負に帯電したアミノ酸であり、
X4が(好ましくはS、T、NまたはQから選択される)極性を有する非荷電性側鎖であり、かつ
X16が大型の疎水性アミノ酸であり、YまたはFから選択される、請求項7~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
ペプチド系阻害剤の候補のペプチド部分が、Y、EDY、EAYおよびEEYから選択されるアミノ酸配列を有する、請求項7~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
ペプチド系阻害剤の候補が、(好ましくはエポキシスクシニル、アシルオキシメチル、アルデヒドおよびケトンから選択される)反応性部分をさらに含む、請求項7~11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
動物における微小管脱チロシン化の変化を伴う障害の処置における使用のためのペプチド系阻害剤、ここで該ペプチド系阻害剤は1~20アミノ酸(好ましくは化学修飾されているか、または化学修飾されていないアルファチューブリンの最もC末端の1~20アミノ酸)で構成されるペプチド部分を含み、該ペプチド部分はC末端の位置にYまたはFから選択されるアミノ酸を有し、該ペプチド系阻害剤はチューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を少なくとも部分的に阻害する。
【請求項14】
ペプチド部分が、アミノ酸配列N末端-X1-X2-X3-X4-X5-X6-X7-X8-X9-X10-X11-X12-X13-X14-X15-X16-C末端の最もC末端の1~16アミノ酸で構成されており、ここで
X1、X2、X5、X7、X9およびX13が(好ましくはG、AまたはVから選択される)疎水性アミノ酸であり、
X3、X6、X8、X10、X11、X12、X14およびX15が(好ましくはEまたはDから選択される)負に帯電したアミノ酸であり、
X4が(好ましくはS、T、NまたはQから選択される)極性を有する非荷電性側鎖であり、かつ
X16が(好ましくはYまたはFから選択される)大型の疎水性アミノ酸である、請求項13記載の使用のためのペプチド系阻害剤。
【請求項15】
ペプチド部分が、Y、EDY、EAYおよびEEYから選択されるアミノ酸配列を有する、請求項13または14に記載の使用のためのペプチド系阻害剤。
【請求項16】
ペプチド系阻害剤が、(好ましくはエポキシスクシニル、アシルオキシメチル、アルデヒドおよびケトンから選択される)反応性部分をさらに含む、請求項13~15のいずれかに記載の使用のためのペプチド系阻害剤。
【請求項17】
ペプチド系阻害剤が、チューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を不可逆的または可逆的に阻害する、請求項13~16のいずれかに記載の使用のためのペプチド系阻害剤。
【請求項18】
障害が、(好ましくはアルツハイマー病、パーキンソン病、精神障害および神経障害から選択される)神経変性疾患、(好ましくは結腸がんおよび神経芽細胞腫から選択される)がん、筋ジストロフィー、心疾患、血管障害、不妊症、網膜変性および繊毛病から選択される、請求項13~17のいずれかに記載の使用のためのペプチド系阻害剤。
【請求項19】
障害が、神経変性疾患、がんおよび筋ジストロフィーから選択される、請求項18記載の使用のためのペプチド系阻害剤。
【請求項20】
治療有効量の請求項13~17のいずれかに記載のペプチド系阻害剤を含む医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的抽出物中のチューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を有するタンパク質を精製する方法に関する。本発明はさらに、チューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を阻害するのに適したペプチド系阻害剤を同定する方法に関する。本発明はまた、動物(好ましくは哺乳類)における微小管の脱チロシン化の欠損を伴う障害の処置における使用のためのそのようなペプチド系阻害剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
微小管(MT)は、真核生物の細胞骨格を構成する主要な種類のフィラメントである。MTは、2つの球状タンパク質の二量体であるαおよびβチューブリンヘテロ二量体の重合によって形成される。MTは、細胞内輸送(カーゴ輸送)、細胞運動性、細胞分裂、細胞形態形成を含む多様な機能に関与しており、機械的シグナルを細胞内エフェクターに伝達する(メカノトランスダクション)。細胞骨格の微小管系の本質的な動的不安定性は、神経リモデリング、可塑性および適応に重要である。それぞれの特定のMTの機能は、MT結合タンパク質(MAP)および分子モーターの特定のセットの補充を必要とする。多くのMAPおよびモーターは、MT表面から突出しているチューブリンのC末端と相互作用する(Ciferri et al, 2008; Mizuno et al, 2004; Roll-Mecak & Vale, 2008; Skiniotis et al, 2004)。したがって、MTを異なる機能に適応させる1つの方法は、翻訳後修飾によりチューブリンC末端テールの性質を変化させることである。
【0003】
チューブリンC末端テールの前記翻訳後修飾のうち、2つのポリ修飾(polymodification)、すなわちポリグルタミル化およびポリグリシル化が、αおよびβチューブリンの両方で生じる(Edde et al, 1992; Redeker et al, 1994)。ポリグルタミル化およびポリグリシル化は、グルタミン酸残基またはグリシン残基のいずれかで構成される側鎖の、両方のチューブリンのC末端に存在する一次配列のグルタミン酸への付加からなる。これらの修飾を触媒する酵素(Janke et al, 2005; Rogowski et al, 2009; van Dijk et al, 2007)およびポリグルタミル化を除去する酵素(Rogowski et al, 2010)が最近同定されている。ポリ修飾とは別に、脱チロシン化もC末端上で生じるが、これはαチューブリンに特異的である(Arce et al, 1975)。脱チロシン化はαチューブリンからの最もC末端のチロシンの除去からなり、いわゆるΔ1-チューブリンの生成をもたらす(図1)。
【0004】
現在まで、チューブリンカルボキシペプチダーゼ(TCP)活性を有する脱チロシン化の原因となる酵素は知られていない。注目すべきことに、様々な組織および/または生物から得られたタンパク質抽出物に含まれる天然のTCP活性は、脱チロシン化の原因となる酵素のセットが異なっている可能性がある。
【0005】
TCP活性を有する酵素の特異的な阻害剤の同定は、微小管脱チロシン化を伴う障害(神経変性疾患、神経再生障害、がん、筋ジストロフィー、心疾患、血管障害、網膜変性、不妊症または繊毛病など)を処置するために特に関心の対象となっている。
【0006】
したがって、TCP活性を有する酵素の同定を可能にする方法、および天然のTCP酵素活性に作用する分子の設計および同定を可能にする方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
興味深いことに、本発明は、元の組織および/または生物に関係なくTCP活性を有する酵素およびペプチド系阻害剤の両方を同定する方法を提案する。この目的のために、本発明は、生物学的抽出物からTCP活性を精製し、そのような精製された生物学的抽出物を使用することを提案し、該生物学的抽出物はペプチド系阻害剤を試験および同定するための天然のTCP活性を示す。より具体的には、本発明者らは驚くべきことに、チューブリンカルボキシペプチダーゼの天然の基質(すなわち、アルファチューブリンの最もC末端のアミノ酸)を修飾の部分または骨格として利用し、TCP活性を阻害できることを発見した。アルファチューブリンのC末端アミノ酸配列と配列相同性を有するペプチドは、TCP活性を有する酵素の天然の基質を模倣し得、結果としてその活性を阻害し得る。より具体的には、本発明者らは、MT構造に含まれる中空管から突出しているアルファチューブリンの最もC末端の可変長(1~20アミノ酸)配列で構成されているペプチドを発明的に用いて、生物学的抽出物中に含まれる天然のTCP活性を阻害した。TCP活性を特異的に調節し、細胞毒性が検出できず、高度に選択的で細胞透過性の可逆的または不可逆的(自殺リガンド)な修飾ペプチドを作成した。本発明はさらに、TCP活性を特異的に調節することにより微小管動態に薬理学的に作用する一群の化学修飾ペプチドを提案する。
【0008】
チューブリンカルボキシペプチダーゼ(TCP)活性を有する脱チロシン化の原因となる酵素は有用な薬理学的標的であり得るため、本発明はチューブリンカルボキシペプチダーゼ(TCP)活性を有する脱チロシン化の原因となる酵素を同定する方法を提案する。そのために、本発明者らは生物学的抽出物中に含まれるTCP活性を単離する生化学的手法を最初に設定し、次に微小管に結合できるあらゆるタンパク質の特異的な濃縮を設定した。そのようなものとして、微小管結合タンパク質(MAP)のセットを生化学的精製の工程の前後に同定した。したがって、本発明の1つの目的は、生物学的抽出物からチューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を有するタンパク質を精製する方法を提供することであり、該方法は以下を含む:
(a)生物学的抽出物を、0~10℃に含まれる温度(好ましくは2~5℃に含まれる温度、より好ましくは2℃)で遠心分離する;
(b)工程(a)からの上清を回収し、次にGTPを添加し、混合物を35~40℃の温度(好ましくは37℃+/-2℃)でインキュベートすることによって第1の微小管重合サイクルを行い、その後遠心分離する;
(c)工程(b)のペレットを回収し、氷冷の緩衝液中に再懸濁し、4℃+/-1℃でインキュベートし、次にGTPを添加し、混合物を37℃+/-2℃でインキュベートすることによって第2の微小管重合サイクルを行い、その後遠心分離する;
(d)工程(c)のペレットを回収し、氷冷の緩衝液中に再懸濁し、4℃+/-1℃でインキュベートし、次にGTPを添加し、混合物を37℃+/-2℃でインキュベートすることによって第3の微小管重合サイクルを行い、その後遠心分離する;
(e)工程(d)のペレットを再懸濁し、混合物をイオン交換クロマトグラフィーに投入し、フロースルーを回収する;
(f)フロースルーのタンパク質を、60%飽和硫酸アンモニウム溶液を用いて沈澱させる;
(g)工程(f)の沈澱させた画分を疎水性クロマトグラフィーに投入し、硫酸アンモニウム濃度を0まで徐々に減少させることによって溶出し、チューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を有するタンパク質の画分を回収する。
【0009】
本発明のさらなる目的は、1~20アミノ酸で構成されるペプチド部分を含むペプチド系阻害剤の候補の中からチューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を阻害できるペプチド系阻害剤を選択する方法を提供することであり、前記修飾ペプチドはYまたはFから選択されるアミノ酸をC末端の位置に有し、ここで該方法は、(a)ペプチド系阻害剤の候補を、チューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を有する天然または組換えタンパク質の画分および(好ましくは標識されたC末端Yを有する合成された微小管および/またはαチューブリンを含む)微小管の両方を含む混合物と接触させること;および(b)分離されたYおよび/または脱チロシン化された微小管のレベルを測定することを含む。
【0010】
有利なことに、チューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を有するタンパク質の画分は、上述したタンパク質を精製する方法を用いて得られる。
【0011】
ある実施態様において、微小管は、標識されたC末端Yを有する合成された微小管および/またはαチューブリンを含む。
【0012】
ある実施態様において、反応試料中の分離されたYのレベルを、チューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を有するタンパク質の画分および微小管のみを含む対照試料中の分離されたYのレベルと比較する。
【0013】
特定の実施態様において、ペプチド系阻害剤の候補のペプチド部分は、アルファチューブリンの最もC末端の1~20アミノ酸で構成されている。
【0014】
特定の実施態様において、ペプチド系阻害剤の候補のペプチド部分は、アミノ酸配列N末端-X1-X2-X3-X4-X5-X6-X7-X8-X9-X10-X11-X12-X13-X14-X15-X16-C末端の最もC末端の1~16アミノ酸で構成されており、ここで
X1、X2、X5、X7、X9およびX13は(好ましくはG、AまたはVから選択される)疎水性アミノ酸であり、
X3、X6、X8、X10、X11、X12、X14およびX15は(好ましくはEまたはDから選択される)負に帯電したアミノ酸であり、
X4は(好ましくはS、T、NまたはQから選択される)極性を有する非荷電性側鎖であり、かつ
X16は大型の疎水性アミノ酸であり、YまたはFから選択される。
【0015】
例えば、ペプチド系阻害剤の候補のペプチド部分は、Y、EAY、EDYおよびEEYから選択されるアミノ酸配列を有する。
【0016】
特定の実施態様において、ペプチド系阻害剤の候補は(好ましくはエポキシスクシニル、アシルオキシメチル、アルデヒドおよびケトンから選択される)反応性部分をさらに含む。ある実施態様において、反応基はペプチド配列内に組み込まれる。例えば、反応基はエポキシドであり、これは最もC末端の芳香族残基(好ましくはFまたはY)に隣接するグルタミン酸残基を置換する。
【0017】
本発明の別の目的は、動物における微小管脱チロシン化の変化を伴う障害の処置における使用のためのペプチド系阻害剤を提供することであり、ここで該ペプチド系阻害剤は1~20アミノ酸で構成されるペプチド部分を含み、該ペプチド部分はC末端の位置にYまたはFから選択されるアミノ酸を有し、該ペプチド系阻害剤はチューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を少なくとも部分的に阻害する。
【0018】
本発明において、ペプチド系阻害剤はチューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を不可逆的または可逆的に阻害する。
【0019】
障害は、好ましくは(好ましくはアルツハイマー病、パーキンソン病、精神障害および神経障害から選択される)神経変性疾患、神経再生障害、(好ましくは結腸がんおよび神経芽細胞腫から選択される)がん、筋ジストロフィー、心疾患、血管障害、不妊症、網膜変性および繊毛病から選択される。
【0020】
本発明の別の目的は、治療有効量のそのようなペプチド系阻害剤を含む医薬組成物を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】微小管の脱チロシン化およびチロシン化サイクルの概略図。これはチューブリンカルボキシペプチダーゼ(TCP)の使用によるαチューブリンからの最もC末端のチロシンの除去からなり、いわゆるΔ1-チューブリンの生成をもたらす。脱チロシン化された可溶性チューブリンの最もC末端におけるチロシン(Y)の取り込みは、チューブリンチロシンリガーゼ(TTL)によって得られる。
【0022】
図2】微小管結合タンパク質(MAP)を単離および精製するための脱重合/重合のサイクルによる脳抽出物からの天然TCP活性の単離。
【0023】
図3】硫酸アンモニウム沈澱および疎水性クロマトグラフィーを含む生化学的濃縮による濃縮の前(MAP)および後(濃縮された画分)におけるMAPの生化学的単離。(重合/脱重合法は、初期のMAPを取得するために使用される。濃縮された画分は、硫酸アンモニウムおよび疎水性クロマトグラフィーを含む生化学的手順の後である)
【0024】
図4】(A)脱チロシンアッセイ化の概略図、ここでHチロシンはTTLを用いて可溶性チューブリンに組み込まれる。重合サイクルの後に、H Tyr-チューブリンを微小管に組み込み、H Tyr-微小管を得る;(B)単離されたMAP画分に含まれるTCP活性の検証。
【0025】
図5】種々のアスパラギン酸プロテアーゼ阻害剤、システインプロテアーゼ阻害剤、メタロプロテアーゼ阻害剤およびセリンプロテアーゼ阻害剤(ASP=アスパラギン酸プロテアーゼ阻害剤、CYS=システインプロテアーゼ阻害剤、METALLO=メタロプロテアーゼ阻害剤、SER=セリンプロテアーゼ阻害剤)での処理による脳抽出物の天然のTCP活性の阻害。
【0026】
図6】個々のCRMPファミリーメンバーを異所的に発現するHEK293から得たタンパク質抽出物の免疫ブロット分析。Δ1-チューブリンは、脱チロシン化チューブリンの量を表す。HAは、異所的に発現したCRMPメンバーのレベルを示す。αチューブリン標識はローディングコントロールとして機能し、チューブリン全体に対する脱チロシン化チューブリンの比率の比較を可能にする。
【0027】
図7】CRMPファミリーの5つのメンバーを異所的に発現するU2OS細胞の免疫蛍光分析。左側のパネルは、異所的に発現したCRMPの免疫蛍光(IF)シグナルを示す。右側のパネルにおいて、脱チロシン化MTのシグナルが観察され得る。
【0028】
図8】siRNA干渉によるU2OS細胞における内在性CRMP1発現の特異的なノックダウンを示す免疫ブロット。αチューブリン標識はローディングコントロールとして機能し、チューブリン全体に対する脱チロシン化チューブリンの比率の比較を可能にする。
【0029】
図9】CRMP1タンパク質が枯渇したU2OS細胞の免疫蛍光分析。左側のパネルは、細胞ごとの総チューブリンレベルを示す。右側のパネルでは、脱チロシン化について標識された微小管のみが陽性に染色されている。
【0030】
図10】(A)CRMP1タンパク質が枯渇したU2OS細胞の免疫ブロット分析。細胞周期停止が、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤p21およびその下流のエフェクターp53の蓄積ならびにリン酸化ヒストン3(セリン-Ser10P)の量の減少によって示されている。(B)CRMP1が枯渇したU2OS細胞のバルクのDNA量のフローサイトメトリー分析。(C)対照(ルシフェラーゼ)およびCRMP1が枯渇したU2OS細胞由来の種々の細胞周期段階における細胞の相対数のグラフ表示。
【0031】
図11】(A)チューブリンのC末端配列(EDY、EEY)に基づく様々なペプチドとのインキュベーションに起因する脳由来MAPにおける天然のTCP活性の阻害。(B)増加していくEEY濃度の存在下におけるTCP活性の用量反応曲線。
【0032】
図12】C2C12筋分化モデル。TCP阻害剤EEYの存在下または非存在下における筋分化を模倣したC2C12細胞の時間経過。C2C12細胞の筋分化から得られたタンパク質抽出物の免疫ブロット分析。EEYとのインキュベーションは、チューブリンの脱チロシン化レベル(Δ1-チューブリン)の低下をもたらした。
【0033】
図13】SH-SY5Yの神経分化プロセス。(A)神経分化後0日目および8日目のSH-SY5Y細胞の位相差顕微鏡写真。(B)神経分化プロセス中におけるドーパミン作動性ニューロンのマーカーであるDDC(芳香族L-アミノ酸デカルボキシラーゼ)およびCRMP1(C1)発現の遺伝子発現分析。
【0034】
図14】対照細胞およびデュシェンヌ型筋ジストロフィーの原因となる遺伝子変異を含むDMD細胞の脱チロシン化チューブリン(deTyr-tub)の免疫ブロット分析。
【0035】
図15】対照細胞およびSH-SY5Y細胞の脱チロシン化チューブリン(deTyr-tub)の免疫ブロット分析。
【0036】
図16】対照細胞および2つの異なる家族性アルツハイマー病変異(Mut_1およびMut_2)を有する患者由来の皮膚線維芽細胞から作成されたiPSCの脱チロシン化チューブリン(deTyr-tub)の免疫ブロット分析。
【0037】
図17】TCPase阻害剤(Eps-Y)の存在下または非存在下における対照細胞、CHL-1細胞およびHEK細胞の脱チロシン化チューブリン(deTyr-tub)の免疫ブロット分析。
【0038】
図18】ペプチド部分および(例えばエポキシド基で構成される)反応基を含むペプチド系阻害剤の例。第1の一般的な例は、エポキシド基に結合した最もC末端のチロシン(Y)およびアルファチューブリンのC末端配列で構成される種々の阻害剤のサブタイプを示す(GEエポキシドY(inh1)など)。化学式において、R1はヒトアルファチューブリンのアミノ酸配列を表し、R2は多様なC末端修飾(限定されないが、COOH;CONH2、NH2、アルデヒド、pNA、Amc、ヒドラジド、ヒドロキサム酸、CMKなど)を表す。これらの修飾は、酵素分解の防止、天然タンパク質の模倣、ならびに例えばペプチドのC末端における水素結合の除去、および構造活性相関(SAR)の研究のための手段などに寄与し得る。第2の分子(inh2)は、短いバージョンのペプチド系阻害剤の式を表す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明は、TCP活性を有するタンパク質の天然の基質(すなわちαチューブリンの最もC末端の配列)をTCP活性を阻害するための薬理学的手段として利用することを最初に提案する。本発明者らは、制御および純化された生化学的アッセイおよびヒト細胞培養においてTCP活性を有するタンパク質のいくつかのファミリーを発見した。次に、本発明者らは、インセルロ(in cellulo)でデチロシナーゼ活性を(部分的または不可逆的に)特異的に阻害する薬理化合物を設計する方法を開発した。TCP活性に選択的に作用する多数の化合物が、研究ツールとしての適用のために、および最も有望なこととしていくつかの障害(神経変性疾患および精神障害など)の処置における適用のために本発明に従って設計され得る。
【0040】
チューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を有するタンパク質を精製する方法
本発明は、生物学的抽出物からチューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を有するタンパク質を精製するのに適した方法を提案する。
【0041】
本発明の文脈において、「チューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を有するタンパク質」または「TCP活性を有するタンパク質」または「TCPaseタンパク質」または「TCP」という用語は、Glu-Tyr結合を切断し、天然のチロシン化チューブリンからC末端チロシン残基を放出できるタンパク質の種類を指すために使用される(図1)。
【0042】
用語「生体試料」は、微小管を含む動物(多細胞生物または単細胞生物を含む)に由来するあらゆる試料を意味する。好ましくは、生体試料は(好ましくはブタ、サル、ヒト、ラットまたはマウスから選択される)哺乳類に由来する。そのような生体試料の例には、体液、組織、細胞試料、臓器、生検などが含まれる。最も好ましい試料は、脳抽出物、精巣抽出物および肺抽出物である。
【0043】
生体試料は、(例えば微小管を利用可能にするために)その使用の前に処理され得る。細胞溶解、微小管の濃縮または希釈の技術は当業者に公知である。
【0044】
本発明において、生物学的抽出物からチューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を有するタンパク質を精製する方法は、以下を含む:
(a)生物学的抽出物を、0~10℃に含まれる温度(好ましくは2~5℃に含まれる温度、より好ましくは2℃)で遠心分離する;
(b)工程(a)からの上清を回収し、次にGTPを添加し、混合物を35~40℃の温度(好ましくは37℃+/-2℃)でインキュベートすることによって第1の微小管重合サイクルを行い、その後遠心分離する;
(c)工程(b)のペレットを回収し、氷冷の緩衝液中に再懸濁し、4℃+/-1℃でインキュベートし、次にGTPを添加し、混合物を37℃+/-2℃でインキュベートすることによって第2の微小管重合サイクルを行い、その後遠心分離する;
(d)工程(c)のペレットを回収し、氷冷の緩衝液中に再懸濁し、4℃+/-1℃でインキュベートし、次にGTPを添加し、混合物を37℃+/-2℃でインキュベートすることによって第3の微小管重合サイクルを行い、その後遠心分離する;
(e)工程(d)のペレットを再懸濁し、混合物をイオン交換クロマトグラフィーに投入し、フロースルーを回収する;
(f)フロースルーのタンパク質を、60%飽和硫酸アンモニウム溶液を用いて沈澱させる;
(g)工程(f)の沈澱させた画分を疎水性クロマトグラフィーに投入し、硫酸アンモニウム濃度を0まで徐々に減少させることによって溶出し、チューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を有するタンパク質の画分を回収する。
特定の実施態様において、第1の重合サイクルは、(i)GTPを添加し、混合物を37℃+/-2℃で30分+/-10分間インキュベートすること;(ii)22,000g+/-1,000gおよび37℃+/-2℃で45分+/-10分間遠心分離することを含む。
【0045】
あるいは、またはさらに、第2の重合サイクルは、(i)混合物を氷上で30分+/-10分間インキュベートすること;(ii)150,000g+/-10,000gで30分+/-10分間遠心分離すること;(iii)上清を回収し、GTPを添加すること;(iv)混合物を37℃+/-2℃で30分+/-10分間インキュベートすること;(v)50,000g+/-1,000gおよび30℃~37℃に含まれる温度で30分+/-10分間遠心分離することを含み得る。
【0046】
あるいは、またはさらに、第3の重合サイクルは、(i)混合物を氷上で30分+/-10分間インキュベートすること;(ii)150,000g+/-10,000gで30分+/-10分間遠心分離すること;(iii)上清を回収し、GTPを添加すること;(iv)混合物を37℃+/-2℃で30分+/-10分間インキュベートすること;(v)50,000g+/-1,000gおよび30℃~37℃に含まれる温度で30分+/-10分間遠心分離することを含み得る。
【0047】
特定の実施態様において、本方法は、工程(g)のタンパク質の画分の質量分析による特性評価の工程をさらに含む。
【0048】
特定の実施態様において、本方法は、プロテアーゼドメインを含むタンパク質を選択する工程をさらに含む。脱チロシン化に必要とされるプロテアーゼ活性の種類を決定するために、システインプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、スレオニンプロテアーゼおよびメタロプロテアーゼの様々な阻害剤が試験され得る。
【0049】
特定の実施態様において、チューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を有するタンパク質の画分は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10および配列番号11から選択されるアミノ酸配列と少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%のアミノ酸配列同一性を有する少なくとも1つのタンパク質を含む。
【0050】
特定の実施態様において、チューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を有するタンパク質の画分は脳抽出物(ブタ由来の脳抽出物など)から取得され、質量分析のデータは対応するヒトタンパク質を同定するためにヒト参照配列とアラインされる。
【0051】
有利なことに、このようなタンパク質の画分は、ヒトユビキチンカルボキシ末端ヒドロラーゼ14(UBP14、配列番号1)、ヒトユビキチンカルボキシ末端ヒドロラーゼ5(UBP5、配列番号2)、ヒトメチオニンアミノペプチダーゼ2(MAP2、配列番号3)、ヒトXaa-Proアミノペプチダーゼ1(XPP1、配列番号4)、ヒトトリペプチジルペプチダーゼ2(TPP2、配列番号5)、ヒトバソヒビン1(VASH1、配列番号6)、ヒトジヒドロピリミジナーゼ関連タンパク質1(DPYL1、配列番号7)、ヒトジヒドロピリミジナーゼ関連タンパク質2(DPYL2、配列番号8)、ヒトジヒドロピリミジナーゼ関連タンパク質3(DPYL3、配列番号9)、ヒトジヒドロピリミジナーゼ関連タンパク質4(DPYL4、配列番号10)、およびヒトジヒドロピリミジナーゼ関連タンパク質5(DPYL5、配列番号11)から選択される少なくとも1つのタンパク質を含む。
【0052】
別の実施態様において、タンパク質の画分は、表1に記載のタンパク質から選択される少なくとも1つのタンパク質を含む。
【0053】
有利なことに、チューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を有するタンパク質の画分を微小管にさらに接触させ、分離されたチロシン(Y)のレベルを測定し、それによりタンパク質の画分のチューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を確認する。例えば、微小管は標識されたC末端Yを含む合成された微小管および/またはαチューブリンを含む。
【0054】
TCP活性を有すると推定されるタンパク質の画分を微小管と接触させた後、TCP活性を有すると推定されるタンパク質が微小管および/またはαチューブリンの脱チロシン化を行うのに適した条件下において、試料中の分離されたYまたは遊離のYの量を測定する。例えば、チューブリンチロシンリガーゼ(TTL)酵素は、放射活性標識されたH-チロシンを(例えば脳抽出物から得られた)脱チロシン化可溶性チューブリンの最もC末端に組み込む。放射活性標識されたチューブリンは重合サイクル中にMTに組み込まれ、放射活性標識されたMTが得られる。生体試料に含まれるTCP活性は放射活性標識されたチロシンを切断し、これはシンチレーション分析によって定量化され得る。あるいは、TCP活性は、生体試料への曝露の前後の脱チロシン化チューブリン対チロシン化チューブリンの比を免疫ブロット分析によって比較することによりモニターされ得る。
【0055】
いくつかの要素(温度、pH、酵素濃度、基質濃度、およびあらゆる阻害剤または活性化剤の存在)が酵素反応の進行速度に影響を与え得る。
【0056】
いくつかの実施態様において、微小管および/またはαチューブリンを脱チロシン化するTCP活性を有すると推定される酵素に最適な条件を提供するために、ヌクレオシド三リン酸(ATPなど)、塩化カリウム、塩化マグネシウム、および還元剤(DTTなど)を含む緩衝液が使用され得る。
【0057】
微小管および/またはαチューブリンを脱チロシン化するTCP活性を有すると推定される酵素に適切な条件を提供するために、pH値は好ましくは5~9の範囲である。pH値は、より好ましくは5.5~8.5であり、さらにより好ましくは6~8である。
【0058】
微小管および/またはαチューブリンを脱チロシン化するTCP活性を有すると推定される酵素に適切な反応時間は、5分~10時間、好ましくは10分~5時間、より好ましくは1時間~3時間の範囲であり得る。
【0059】
特定の実施態様において、微小管および/またはαチューブリンと接触させるチューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を有するタンパク質の画分の濃度は、微小管および/またはαチューブリンの脱チロシン化に最適な条件を提供するために、0.1μM~1mM、好ましくは0.25μM~500μM、より好ましくは0.5μM~300μM、さらにより好ましくは1μM~200μMの範囲である。
【0060】
特定の実施態様において、チューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を有するタンパク質の画分を少なくともαチューブリンと接触させる。別の特定の実施態様において、チューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を有するタンパク質の画分を、αチューブリンのC末端に対応するポリペプチドと接触させる。別の実施態様において、チューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を有するタンパク質の画分を、微小管およびαチューブリンの混合物と接触させる。
【0061】
有利なことに、微小管および/またはαチューブリンは合成された微小管/ペプチドおよび/またはαチューブリンを含み、ここでαチューブリンは、遊離のYを測定する工程が容易に実行され得るように標識されたC末端Yを含む。
【0062】
本発明において、試料中の検出可能な分離されたY/試料中の微小管および/またはαチューブリンが観察され、TCP活性を持たないタンパク質の画分(陰性対照)と比較された場合、タンパク質の画分のチューブリンカルボキシペプチダーゼ活性が確認される。
【0063】
「合成された微小管/ペプチドおよび/またはαチューブリン」は、化学的に作成された微小管またはαチューブリンを意味する。合成された微小管またはαチューブリンは、合成生物学の方法(固相ペプチド合成(SPPS)、事前のチオール捕獲戦略、ネイティブケミカルライゲーション(NCL)を含む)によって人工的に作成され得る。用語「合成された微小管および/またはαチューブリン」はまた、そのC末端アミノ酸を標識されたYに変更するように処理された天然の微小管またはαチューブリンを包含する。
【0064】
本発明において、標識されたYは、試料中のチロシンの存在および/または濃度を示す検出可能な(視覚的、電子的、放射性、またはその他の)信号を生成し得る分子または物質で標識されたチロシンからなる。それにより、例えば、試料中のチロシンの存在、位置および/または濃度が、検出可能な分子または物質により生成される信号を検出することによって検出され得る。標識されたYは、直接的または間接的に検出され得る。ある実施態様において、標識または検出可能な分子もしくは物質は、適切な基質(例えばルシフェリン)と反応して検出可能な信号を生成し得る。特に、検出可能な標識は、フルオロフォア、酵素(ペルオキシダーゼ、ルシフェラーゼ)、放射性同位体、蛍光タンパク質または蛍光色素であり得る。他の検出可能な分子または物質には、化学発光標識、電気化学発光標識、生物発光標識、ポリマー、ポリマー粒子、金属粒子、ハプテンおよび色素が含まれる。
【0065】
特定の実施態様において、試料中の分離されたYのレベルは、微小管および/またはαチューブリンのみを含む対照試料中の分離されたYのレベルと比較される。両者の分離されたYの量の差が前記化合物に起因し得るように、対照試料はチューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を有するタンパク質の画分を含まない。
【0066】
チューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を阻害できるペプチド系阻害剤
本発明において、ペプチド系阻害剤は、酵素のチューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を遮断または減少させる。ペプチド系阻害剤は、競合的阻害、不競合的阻害または非競合的阻害により作用し得る。本発明のペプチド系阻害剤は可逆的または不可逆的に結合し得、したがってこの用語にはTCP活性を有する酵素の自殺基質である化合物が含まれる。
【0067】
本発明は、αチューブリンの天然のC末端配列に基づいて選択および設計されたチューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を阻害できるペプチド系阻害剤を選択する方法に関する。
【0068】
より具体的には、本発明者らは、チューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を有するペプチドを同定および単離するために、1~20アミノ酸で構成されるペプチド部分を含むペプチド系阻害剤(最もC末端のアミノ酸はYまたはFから選択される)を動物由来の生物学的抽出物と接触させる方法を開発した。
【0069】
したがって、本発明の1つの目的は、1~20アミノ酸で構成されるペプチド部分を含むペプチド系阻害剤の候補の中からチューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を阻害できるペプチド系阻害剤を選択する方法を提供することであり、前記ペプチド部分はC末端の位置にYまたはFから選択されるアミノ酸を有し、該方法は、ペプチド系阻害剤の候補をチューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を有するタンパク質の画分および微小管の両方を含む混合物に接触させる工程(a)、ならびに分離されたYおよび/または脱チロシン化微小管のレベルを測定する工程(b)を含む。
【0070】
本明細書において、用語「チューブリンカルボキシペプチダーゼ阻害剤」または「ペプチド系阻害剤」は、チューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を有するタンパク質の活性を少なくとも部分的に標的として阻害し、それにより微小管の脱チロシン化を阻害する分子の種類を指す。
【0071】
本明細書において規定されるアミノ酸配列は以下の1文字コードを使用する:A:Ala(アラニン);R:Arg(アルギニン);N:Asn(アスパラギン);D:Asp(アスパラギン酸);C:Cys(システイン);Q:Gln(グルタミン);E:Glu(グルタミン酸);G:Gly(グリシン);H:His(ヒスチジン);I:Ile(イソロイシン);L:Leu(ロイシン);K:Lys(リジン);M:Met(メチオニン);F:Phe(フェニルアラニン);P:Pro(プロリン);S:Ser(セリン);T:Thr(スレオニン);W:Trp(トリプトファン);Y:Tyr(チロシン);V:Val(バリン)。
【0072】
アミノ酸配列は、天然に存在しないアミノ酸(アゼチジンカルボン酸、2-アミノアジピン酸、3-アミノアジピン酸、ベータアラニン、アミノプロピオン酸、2-アミノ酪酸、A-アミノ酪酸、6-アミノカプロン酸、2-アミノヘプタン酸、2-アミノイソ酪酸、3-アミノイソ酪酸、2-アミノピメリン酸、2,4-ジアミノイソ酪酸、デスモシン、2,2’-ジアミノピメリン酸、2,3-ジアミノプロピオン酸、N-エチルグリシン、N-エチルアスパラギン、ヒドロキシリジン、アロヒドロキシリジン、3-ヒドロキシプロリン、4-ヒドロキシプロリン、イソデスモシン、アロイソロイシン、N-メチルグリシン、N-メチルイソロイシン、N-メチルバリン、ノルバリン、ノルロイシン、オルニチン、セレノシステイン、ニトロチロシン、ジヒドロキシフェニルアラニンおよびピペコリン酸など)を含み得る。
【0073】
本明細書において、用語「ペプチド」は、ペプチド(アミド)結合によって連結したアミノ酸残基のポリマーを指す。また、前記用語はポリペプチドのフラグメントを包含する。前記フラグメントは好ましくは生物活性を有する。前記フラグメントは、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150、200、250、300、350、400、450またはそれ以上のアミノ酸長を有し得る。
【0074】
用語「ペプチド部分」は、少なくとも1つのアミノ酸および最大で20個のアミノ酸を含む部分を指す。ペプチド部分が2以上のアミノ酸を含む場合、前記アミノ酸はペプチド結合により連結され、化学修飾されているか、または化学修飾されていない。
【0075】
チューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を阻害できるペプチド系阻害剤を選択する本発明の方法において、ペプチド系阻害剤の候補をチューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を有するタンパク質の画分および微小管の両方を含む混合物に接触させ(工程a)、TCP活性の阻害率を分離されたYおよび/または脱チロシン化微小管のレベルを測定することによって計算する(工程b)。
【0076】
いくつかの実施態様において、1~20アミノ酸で構成されるペプチド部分を含むペプチド系阻害剤の候補の中からチューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を阻害できるペプチド系阻害剤を選択する前記方法、ここで前記ペプチド部分はC末端の位置にYまたはFから選択されるアミノ酸を有し、該方法は以下を含む:(a)ペプチド系阻害剤の候補を、チューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を有する天然または組換えタンパク質の画分および(好ましくは標識されたC末端Yを含む合成された微小管および/またはαチューブリンを含む)微小管の両方を含む混合物に接触させる;(b)分離されたYおよび/または脱チロシン化微小管のレベルを測定する。
【0077】
特定の実施態様において、推定されるTCPase酵素が微小管および/またはαチューブリンを脱チロシン化するのに最適な条件を提供するために、反応温度は、1℃~70℃(好ましくは5℃~65℃、より好ましくは10℃~60℃、さらにより好ましくは15℃~55℃、最も好ましくは19℃~43℃、例えば19℃~37℃)の範囲に維持される。
【0078】
本発明の方法は、αチューブリンのC末端アミノ酸配列と配列同一性または相同性を有する多くの種類のペプチド系阻害剤を用いて実施され得る。
【0079】
より具体的には、本発明のペプチド系阻害剤は1~20アミノ酸で構成されるペプチド部分を含み、前記ペプチド部分はC末端の位置にYまたはFから選択されるアミノ酸を有する。
【0080】
本発明では、ペプチド部分の三次元構造において、C末端のYまたはFは酵素(より具体的にはTCP活性を有するタンパク質)にアクセス可能である。
【0081】
好ましい実施態様において、ペプチド部分は、アルファチューブリンの最もC末端の1~20アミノ酸で構成されている。
【0082】
特定の実施態様において、ペプチド部分は、アミノ酸配列N末端-X1-X2-X3-X4-X5-X6-X7-X8-X9-X10-X11-X12-X13-X14-X15-X16-C末端(配列番号20)の最もC末端の1~16アミノ酸で構成されており、ここで
X1、X2、X5、X7、X9およびX13は(好ましくはG、AまたはVから選択される)疎水性アミノ酸であり、
X3、X6、X8、X10、X11、X12、X14およびX15は(好ましくはEまたはDから選択される)負に帯電したアミノ酸であり、
X4は(好ましくはS、T、NまたはQから選択される)極性を有する非荷電性側鎖であり、かつ
X16は(好ましくはYまたはFから選択される)大型の疎水性アミノ酸である。
【0083】
一般に「X」は、本明細書において他の指示がない限り、任意のアミノ酸を表し得る。
【0084】
物理化学的な分類は一般に以下のように規定される:非極性または疎水性アミノ酸(A、V、I、L、P、F、MおよびWを含む)、より狭義には非芳香族疎水性アミノ酸(A、V、I、L、PおよびMを含む);非荷電性極性基(G、S、T、C、Y、N、およびQを含む);負に帯電した極性基(EおよびDを含む);および正に帯電した極性基(RおよびKを含む)。
【0085】
X16はペプチド部分における最もC末端のアミノ酸を指す。好ましくは、X16はYである。他のアミノ酸は任意である。ペプチド部分は、数に関して配列番号12のアミノ酸の全部または一部を含み得、X1は存在する場合、ペプチド部分のN末端のアミノ酸である。
【0086】
特定の実施態様において、ペプチド部分のアミノ酸配列は、Y(X16)からなる。
【0087】
別の特定の実施態様において、ペプチド部分のアミノ酸配列は、EDYからなる。
【0088】
別の特定の実施態様において、ペプチド部分のアミノ酸配列は、EEYからなる。
【0089】
別の特定の実施態様において、ペプチド部分のアミノ酸配列は、EAYからなる。
【0090】
別の実施態様において、ペプチド部分のアミノ酸配列は、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18から選択されるアミノ酸配列を含むか、またはからなる。
【0091】
ペプチド系阻害剤は、チューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を不可逆的または可逆的に阻害し得る。例として、TCP活性を有するタンパク質に含まれるシステインと不可逆的に反応し得る化学修飾されたアミノ酸(触媒三残基など)は、不可逆的であるとみなされる。一方、共有結合的に反応しないか、または酵素に含まれるチオール基と可逆的な結合を形成するペプチドまたは化学修飾されたペプチドは洗い流され得、可逆的であるとみなされる。ヨードアセトアミドはあらゆるシステインペプチダーゼの不可逆的な阻害剤であり、触媒のシステイン残基のアルキル化から生じる阻害の機構を有する。
【0092】
本発明において、ペプチド系阻害剤の活性は、アミノ酸残基の数を増やすことにより、かつ/または(好ましくはエポキシスクシニル(Eps)、アシルオキシメチル、アルデヒドおよびケトンから選択される)反応性部分の使用により調節され得る。ペプチドをさらに機能化するこのような反応性部分は、当分野で公知の方法(与えられる実施例、合成医薬品化学の方法、様々な中間体、化合物の重水素化型およびその立体異性体の合成など)を用いてペプチド系阻害剤に連結され得る(図18)。
【0093】
例えば、ペプチド系阻害剤はEps-EEYである。このようなペプチド系阻害剤はTCPase活性の可逆的な阻害剤として作用する。
【0094】
したがって、本発明は、チューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を阻害できる多数のペプチド系阻害剤を設計する方法を提供する。
【0095】
ペプチド系阻害剤の治療用途
上述のように、微小管の脱チロシン化は、がんの進行、異常な神経回路網、弱い神経リモデリング、可塑性および/または適応に関連している。したがって、このようなペプチド系阻害剤の使用は、微小管の脱チロシン化を伴う障害の処置に良い影響を与え得る。例えば、本発明のペプチド系阻害剤は、微小管動態を増加させ、それにより神経再生に影響を与えるために使用され得る。
【0096】
したがって、本発明は、心疾患、血管障害、がん、神経変性障害、筋障害、不妊症、繊毛病、より一般的には動物(好ましくは限定されないが哺乳類)における微小管脱チロシン化の変化を伴う障害の処置における使用のためのペプチド系阻害剤に関し、ここでペプチド系阻害剤は1~20アミノ酸で構成されるペプチド部分を含み、前記ペプチド部分はC末端の位置にYまたはFから選択されるアミノ酸を有し、ペプチド系阻害剤はチューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を少なくとも部分的に阻害する。特定の実施態様において、ペプチド系阻害剤は、GVDSVEAEAEEGEEY(配列番号19)を含む。別の実施態様において、ペプチド系阻害剤はGEEYを含む。
【0097】
したがって、本発明のペプチド系阻害剤は、(好ましくは、アルツハイマー病、パーキンソン病、精神障害および神経障害から選択される)神経変性疾患、神経再生障害、(好ましくは結腸がんおよび神経芽細胞腫から選択される)がん、筋障害(筋ジストロフィーなど)、網膜変性、心疾患、血管障害、不妊症、および繊毛病を処置する優れた候補である。
【0098】
本発明の1つの目的は、神経変性疾患の処置における使用のためのペプチド系阻害剤を提供することである。特定の実施態様において、神経変性疾患はアルツハイマー病である。
【0099】
さらなる実施態様は、がんの処置における使用のためのペプチド系阻害剤を提供することである。
【0100】
さらなる実施態様は、筋ジストロフィー(特にデュシェンヌ型筋ジストロフィー)の処置における使用のためのペプチド系阻害剤を提供することである。
【0101】
本発明はさらに、治療有効量の本発明のペプチド系阻害剤を含む医薬組成物を提供する。
【0102】
「治療有効量」は、所望の治療効果を誘発する本発明のペプチド系阻害剤の量を意味する。正確な投与量は処置の目的に依存し、公知の技術を用いて当業者により確認できる。当分野で公知であるように、年齢、体重、総体的な健康、性別、食事、薬物相互作用および状態の重症度のための調整が必要であり得、これは当業者による日常的な実験で確認できる。
【0103】
本発明における医薬組成物は、1以上の薬学的に許容され得る担体をさらに含み得る。特定の実施態様において、用語「薬学的に許容され得る」は、動物(より具体的にはヒト)における使用について規制機関または他の一般的に認識されている薬局方によって承認されていることを意味する。
【0104】
薬学的に許容され得る担体は当分野で周知であり、例えば、ヒトまたは非ヒト対象への投与に適した水溶液(水、5%デキストロース、または生理緩衝食塩水など)または他の溶媒もしくは賦形剤(グリコール、グリセロール、オリーブ油などの油、または注射可能な有機エステルなど)を含む。いくつかの実施態様において、薬学的に許容され得る担体または組成物は無菌である。医薬組成物は、活性物質に加えて、(例えば、増量剤、充填剤、可溶化剤、安定剤、浸透物質、取り込み増強剤などとして作用する)生理学的に許容され得る化合物を含み得る。生理学的に許容され得る化合物には、例えば、炭水化物(グルコース、スクロース、ラクトース、デキストラン、マンニトールなどのポリオールなど)、抗酸化剤(アスコルビン酸またはグルタチオンなど)、保存剤、キレート剤、緩衝液、または他の安定剤もしくは賦形剤が含まれる。
【0105】
薬学的に許容され得る担体および/または生理学的に許容され得る化合物の選択は、例えば、活性物質の性質(例えば、溶解性、(物質が、通常の使用状況下において医薬組成物の医薬効果を実質的に低下させる様式で相互作用することなく、組成物中にともに存在できることを意味する)適合性)および/または組成物の投与経路に依存し得る。
【0106】
本発明の医薬組成物は、治療有効量の本発明における1つまたはいくつかのペプチド系阻害剤を含み、様々な形状(例えば、固体、液体、気体または凍結乾燥した形状)で処方され得、特に、軟膏、クリーム、経皮パッチ、ゲル、粉末、錠剤、溶液、エアロゾル、顆粒、丸剤、懸濁液、乳濁液、カプセル、シロップ、液体、エリキシル剤、抽出物、チンキ剤もしくは液体抽出物の形状、または局所投与もしくは経口投与に特に適した形状であり得る。様々な投与経路が本発明のポリペプチドの投与に適用可能であり、これは限定されないが、経口、局所、経皮、皮下、静脈内、腹腔内、筋肉内または眼内(intraocularly)を含む。しかしながら、所望の場合、他のあらゆる経路が当業者によって容易に選択され得る。
【0107】
本医薬組成物は、多種多様な異なる疾患および障害の処置に使用され得る。したがって、本発明はまた、治療有効量の本発明のペプチド系阻害剤を、それを必要とする対象に投与することを含む処置方法を包含する。対象は通常、哺乳類(例えばヒト)である。いくつかの実施態様において、対象は、ヒトに発症する疾患または障害のモデルとして機能する非ヒト動物である。動物モデルは、例えば前臨床試験において、例えば有効性を評価し、かつ/または適切な用量を決定するために使用され得る。
【0108】
いくつかの実施態様において、本発明のペプチド系阻害剤は、例えば疾患または障害の徴候または症状を示していない(しかし、障害を発症するリスクが高い可能性があるか、または疾患もしくは障害を発症することが予想される)対象に、予防的に投与される。
【実施例0109】
実施例1:脳抽出物からの天然のTCP活性の単離
本発明のチューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を有するタンパク質を精製する方法をブタ脳抽出物に対して行った。より具体的には、微小管結合タンパク質(MAP)を粗脳抽出物(図2)から以下に示すように単離した。
【0110】
材料および方法
PEM緩衝液の組成:
【表1】
【0111】
実験手順
ブタの脳を頭蓋骨から迅速に取り出し、振盪により氷冷水中で冷却し、氷上で保持した。脳物質10gごとに、1μlのβ-メルカプトエタノールを含む15mlのPEM緩衝液を添加した。脳をミキサーで事前にホモジナイズし、次に(氷上の)ポッター型ホモジナイザーに移した。抽出物を2℃、22,000gで1時間回転させ、上清を慎重に取り出した。
【0112】
第1の重合サイクル:
上清に1mM GTPを添加し、溶液を滑らかに攪拌しながら37℃で30分間インキュベートした。インキュベーション後、試料を22,000gで45分間遠沈させた。微小管および微小管結合タンパク質(MAP)を含むペレットを保持し、上清を廃棄した。
【0113】
第2および第3の重合サイクル:
ペレットを、0.1mM GTPを含む氷冷PEM緩衝液中に初期容量の0.1容量で再懸濁し、氷冷のポッター型ホモジナイザーで再度ホモジナイズした。次に、懸濁液を氷上で30分間インキュベートし、2℃、150,000g(50-2Tiローターで41,000rpm)で30分間遠心分離した。ペレットを廃棄した。
【0114】
上清を1mM GTPに調整し、計量済みの遠心管中で37℃で30分間インキュベートした後、30~37℃、50,000g(50-2Tiローターで24,000rpm)で30分間遠沈した。上清を廃棄し、微小管およびMAPを含むペレットを1mM GTPを添加したPEM緩衝液に再懸濁し、第3の重合サイクルを行った。
【0115】
第3のサイクルの後、微小管およびMAPを含むペレットを再懸濁し、DEAE-セファデックスイオン交換クロマトグラフィーを行った。この工程はチューブリン(微小管)を分離するのに役立ち、チューブリンはカラムに結合することが見出され、TCP活性を含むMAPはフロースルーに見出された。
【0116】
DEAEカラムからのフロースルーを回収し、MAPを濃縮した。差次的な硫酸アンモニウム沈澱を用いた。TCP活性の大部分は、60%の飽和硫酸アンモニウム溶液において回収された。これは実験的に得られた重要な工程であり、天然のTCP活性を含むMAPの画分をもたらす。
【0117】
TCP活性をさらに濃縮するために、疎水性相互作用に基づくクロマトグラフィーからなるさらなる発明的な工程を追加した。硫酸アンモニウム沈澱から回収したMAPの画分をフェニルセファロースクロマトグラフィー上にロードし、脳抽出物からの天然のTCP活性の回収を最適化するために硫酸アンモニウム濃度を徐々に低下させることによって溶出した。硫酸アンモニウムの存在は、水溶液の表面張力を大幅に増加させ、疎水性相互作用を促進する。
【0118】
溶出後、TCP活性が最も高い画分(図3)に対して質量分析による特性評価を行った。重要なことに、画分を脱チロシン化アッセイで分析し、TCPase活性の存在を確認した(図4)。濃縮した画分の質量分析(図3)は、以下の表1に示されるように合計584個の同定されたタンパク質をもたらし、プロテアーゼドメインの存在に基づいてTCPの候補を具体的に同定するためにこれらを機能的相同性検索によって分析した。TCPの候補はペプチド結合を加水分解する酵素であるペプチダーゼである。本発明の文脈において、プロテアーゼ、プロテイナーゼおよびタンパク質分解酵素は互換的に使用される。プロテアーゼドメインを含む潜在的な候補を検索するために、得られたペプチドのリストを保存ドメインについて分析した。この分析を、タンパク質の機能性ユニットに注釈を付けるキュレートされたデータベース(curated database)である(NCBIにより提供されている)保存ドメインデータベース(CDD)を用いて行った。ドメインモデルのコレクションにはNCBIによってキュレートされたセットが含まれており、これは3D構造を利用して配列/構造/機能の関係性に関する知見を与える。特異的な濃縮の後に得られたタンパク質のリストを、少なくとも1つの潜在的なプロテアーゼドメインを有する潜在的な候補に短縮するために、問合せを行った。また、ペプチダーゼに関する情報の第2の独立した供給源であるMEROPSデータベース(http://merops.sanger.ac.uk/about/index.shtml)を用いて、候補のさらなる記載を取得した。さらに、新たに同定されたプロテアーゼドメインを有するタンパク質を文献において選別した。これにより11の潜在的なTCPの候補(配列番号1から配列番号11)が選択され、そのうちコラプシン反応媒介タンパク質(CRMP)からなるタンパク質のファミリーを例として特徴付けた。
表1.精製の工程後に得られた微小管結合タンパク質のリスト(1ヒットあたり>2のペプチド)
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【表2-5】
【表2-6】
【表2-7】
【表2-8】
【表2-9】
【表2-10】
【表2-11】
【表2-12】
【表2-13】
【表2-14】
【表2-15】
【表2-16】
【0119】
本発明の1つの重要な目的は、候補阻害剤を天然の固有のTCP活性を含む粗タンパク質抽出物中で試験する可能性である。天然の固有の活性とは、生体試料中に含まれる天然に取得される酵素活性であると理解され、これは生体試料の特定の組織、臓器から記載された抽出方法のみによって取得される。天然の活性が天然、未修飾または未変化の状態であることを明確にすることは重要である。天然の活性は操作および適合されておらず、試験される生体試料(限定されないが、特定の組織/臓器など)中に生理的に存在する活性を反映する。一方、同定された種々のTCPaseの精製された組換えタンパク質もまた、脱チロシン化アッセイにおいて試験され得る。
【0120】
実施例2:TCP活性の検証
TCP活性を有するタンパク質の画分(MAP画分)の種々の化合物を試験する前に、TCP活性を脱チロシン化アッセイを用いて評価した(図4)。
【0121】
材料および方法
放射活性標識されたチロシン(H-Y)を含むアッセイを用いて、TCPase活性を定量的に決定した。脳チューブリンを単離および精製し、組換えTTLによって*Yで放射活性標識した。これを行うために、細菌で発現され、精製された組換えTTL(>90%純度)を数マイクログラムの精製されたブタ脳チューブリンと接触させた。反応試料を、放射活性標識されたH-YおよびATPの存在下において37℃で1時間インキュベートした。チューブリンへのH-Yの取り込みの後、GTPを添加し、37℃で30分間インキュベートすることによって重合サイクルを行った。次に、試料を遠心分離し、得られたペレットをPEM緩衝液で2回洗浄した。得られた放射活性標識されたMTを、さらに試験するまで-80℃で保存した。候補のTCPaseタンパク質を発現させ、Hisタグ精製戦略を用いて細菌から少なくとも80%の純度まで精製した。精製した組換えTCPaseの候補および放射活性標識されたMTの両方を取得した後、タンパク質を接触させ、様々な量のTCPaseをMTに提示した。候補のデチロシナーゼによる放射活性チロシンの除去を、液体シンチレーターカウンターを用いた反応物の可溶性画分および不溶性画分の両方の放射活性の定量化により測定した。
【0122】
TCPase活性を具体化し得る潜在的なプロテアーゼの知見をさらに得るために、粗脳抽出物から単離したMAPを特定のシステインプロテイナーゼ阻害剤、アスパラギン酸プロテイナーゼ阻害剤、メタロプロテイナーゼ阻害剤およびセリンプロテイナーゼ阻害剤からの選択物に曝露した。
【0123】
結果
予想されるように、MAP画分を微小管試料に添加した場合、脱チロシン化の増加がウエスタンブロット(Δ1-チューブリン)によって観察でき、これはMAP画分が脱チロシン化活性を含むことを示している(図4)。以前の観察と一致するように、TCPase活性がブタの脳から取得したタンパク質抽出物において見出され、これにより脳が(ニューロンに部分的に由来し得る)高い内在性TCPase活性を有していることが確認された。
【0124】
セリンプロテアーゼ阻害剤は脳MAPにおける天然のTCPase活性をほとんど低下させなかったが、すべてのメタロプロテアーゼ阻害剤(EDTAおよびEGTAキレート剤など)は脳MAPに含まれる総TCPase活性の最大で50%の著しい阻害をもたらした。しかし、E64およびヨードアセトアミド(不可逆的なシステイン阻害剤)などの化合物を用いたシステインプロテアーゼ阻害剤での処理は、TCPase活性の完全な阻害をもたらした(図5)。注目すべきことに、これらのデータに基づくと、様々な特定のタンパク質がTCPase活性を含んでいる可能性がある。
【0125】
実施例3:CRMPファミリーの研究
表1で同定されたタンパク質の一部として、コラプシン反応媒介タンパク質(CRMP)のファミリーを見出した。CRMPファミリーは、TCPase活性の調節に未だ関連付けられていない。
【0126】
これらのタンパク質のTCP活性の調節への関与を確立するために、個々のHA標識CRMPファミリーメンバーを異所的に発現するHEK293から得たタンパク質抽出物を用いてアッセイを行った。CRMPファミリーの5つのすべてのメンバーをpRK5-HAベクターにクローニングし、等量のプラスミドを6ウェルプレート中のHEK293細胞に遺伝子導入した。遺伝子導入の2日後に、細胞をLaemmli溶解緩衝液中に収集し、特定のΔ1-チューブリン抗体を用いて免疫ブロット分析を行った。CRMP1の過剰発現はチューブリンの脱チロシン化を著しく増加させたが、他のCRMPは脱チロシン化活性を示さなかった(図6)。
【0127】
CRMP1の過剰発現実験において観察されたTCPase活性をさらに検証するために、本発明者らはU2OS細胞に対する免疫蛍光分析を行った。CRMPファミリーの5つのすべてのメンバーを含む等量のpRK5プラスミドを、ポリエチレンイミン誘導体遺伝子導入試薬を用いて遺伝子導入した。遺伝子導入の2日後に、細胞をエタノールで固定し、HAタグおよびΔ1-チューブリンの免疫蛍光標識を行った(図7)。異所的に発現したすべてのCRMPタンパク質はHAで標識されているが、CRMP1を遺伝子導入した細胞のみがΔ1-チューブリン染色の増加を示した。
【0128】
siRNA干渉によるU2OS細胞における内在性CRMP1発現のノックダウンを評価するアッセイを行った。U2OS細胞を標準条件下で実験室において日常的に培養した。CRMP1を標的とする特定のRNAi配列のINTERFERin(Polyplus)を用いた遺伝子導入によってノックダウンを得た。遺伝子導入の72時間後に、細胞を収集し、Laemmli緩衝液中に溶解した。等量のタンパク質に対して免疫ブロットのプロトコルを行った。脱チロシン化およびアセチル化としてのチューブリンの翻訳後修飾の減少がCRMP1発現の減少と相関していることを示す(図8)。
【0129】
U2OS細胞におけるCRMP1のノックダウンによって観察されたTCPase活性の減少をさらに検証するため、日常的に培養した細胞を6ウェルプレートに播種し、エタノールで固定し、免疫蛍光標識によって分析した。予想されるように、CRMP1のノックダウンは、Δ1-チューブリン染色の減少をもたらした(図9)。
【0130】
興味深いことに、特定のRNAi配列の遺伝子導入によるCRMP1の枯渇は、ヒトU2OS細胞において細胞周期停止をもたらした。これは、枯渇した細胞のウエスタンブロット分析によって観察された。CRMP1のノックダウンは、細胞周期停止のマーカーであるp21およびp53のタンパク質レベルの増加をもたらした(図10A)。これをフローサイトメトリー分析によってさらに検証した。実際、CRMP1枯渇細胞は、G1停止を示す2nのバルクDNA量を有する細胞の増加を示した(図10B~C)。これは、無制御な細胞分裂を有するがん細胞の文脈において特に興味深い。
【0131】
実施例4:ペプチド系阻害剤の阻害剤活性
本発明の1つの重要な目的は、候補阻害剤を天然の固有のTCP活性を含む粗タンパク質抽出物中で試験する可能性である。天然の固有の活性とは、生体試料中に含まれる天然に取得される酵素活性であると理解され、これは生体試料の特定の組織、臓器から記載された抽出方法のみによって取得される。本発明において、「天然の活性」は、天然、未修飾または未変化の状態に対応する;天然の活性は操作および適合されておらず、試験される生体試料(限定されないが、特定の組織/臓器など)中に生理的に存在する活性を反映する。
【0132】
MTの表面上の天然の突出したアルファチューブリンテールを、ペプチド系阻害剤の開発のための基盤として用いた。本発明のペプチド系阻害剤の阻害剤活性を検証するために試験され得る様々なペプチドのうち、EDYおよびEEYから構成される2つのペプチドの代表的なセットを評価した。
【0133】
材料および方法
細菌で発現され、精製された組換えTTL(>90%純度)を数マイクログラムの精製されたブタ脳チューブリンと接触させた。反応試料を、放射活性標識されたH-YおよびATPの存在下において37℃で1時間インキュベートした。チューブリンへのH-Yの取り込みの後、GTPを添加し、37℃で30分間インキュベートすることによって重合サイクルを行った。次に、試料を遠心分離し、得られたペレットをPEM緩衝液で2回洗浄した。得られた放射活性標識されたMTを、さらに試験するまで-80℃で保存した。(実施例1で得た)粗脳抽出物から単離したMAPを、種々のペプチド系阻害剤の非存在下または存在下において、または増加していく濃度のペプチド系阻害剤において放射活性標識されたMTと接触させた。脳MAPを含む天然のTCPaseによる放射活性チロシンの放出を、液体シンチレーターカウンターを用いた反応物の可溶性画分および不溶性画分の両方の放射活性の定量化により測定した。
【0134】
結果
種々の性質を持つペプチド系阻害剤を選択および設計する方法は、選択性および効力の基準に基づいて阻害剤の種々の適用を可能にする。本発明者らは、3アミノ酸ペプチドEDYがMAP画分のTCP活性を部分的に遮断したことを観察した(図11A)。最も興味深いことに、トリペプチドEEYはこの設定においてTCP活性をほとんど完全に阻害した(図11A)。ペプチド系阻害剤をさらに薬理学的に記述するために、用量反応曲線分析を行った(図11B)。得られた阻害は、ペプチド系阻害剤によるTCPaseの特異的な阻害を反映していた(図11Aおよび11B)。
【0135】
実施例5:ペプチド系阻害剤を用いたTCPase活性のインセルロ阻害
EEYペプチドが関連するモデルにおいてTCP活性を阻害するためのインセルロでの有効性をさらに調べるために、C2C12筋細胞を培養し、分化させた。
【0136】
筋形成は複雑な現象であり、微小管の脱チロシン化状態に機構的に関連付けられる。デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は重症型の筋ジストロフィーであり、生化学的プロセスの変化の一部がC2C12筋細胞モデルにおいて模倣されている。
【0137】
材料および方法
C2C12細胞は、大腿筋細胞由来の衛星細胞に元々由来するマウス骨格筋芽細胞の不死細胞株である。C2C12細胞を、CO2インキュベーターにおいて37℃で日常的に増殖させた。細胞を2%ウマ血清を含む培地に切り替えることによってコンフルエントに達した際に筋分化を開始した。分子分析のために筋分化の開始時および6日間にわたって2日ごとに細胞を収集した。
【0138】
さらに、種々のモデルにおけるTCPaseの役割を評価するため、神経芽細胞腫の細胞株(SH-SY5Y)を用いて神経分化プロセスにおけるTCPase発現の分析をテストした。SH-SY5Y細胞を、分化の前にCO2インキュベーターにおいて37℃で日常的に培養した。細胞を増殖培地に再懸濁し、培養プレートに低密度で播種した。分化プロセスの後に光学顕微鏡検査を行い、8日目に明確な神経の表現型を観察できた。有糸分裂後のSH-SY5Y細胞は、伸長および神経突起の数の増加を示した。定量的PCRによる遺伝子発現分析のために、神経分化プロセス中において0、2、3、6、7および10日目に細胞を収集した。qPCRプローブをprimer3ソフトウェアを用いて設計し、CRMP1遺伝子発現を分析した。
【0139】
結果
TCPase阻害剤の使用をさらに研究するために、C2C12細胞をEEYペプチドを用いて、または用いずに処理した(図12)。ミオシンのタンパク質発現を、筋分化の対照としてウエスタンブロッティングによってモニターした。ビンキュリンはローディングコントロールとして働く。微小管のアセチル化および脱チロシン化を評価した。アセチル化は分化中に増加するが(Ac-チューブリン)、処理された細胞では状態における差異は観察できなかった。興味深いことに、脱チロシン化のレベルは筋分化の発生後にすでに増加していた。さらに、TCPase阻害剤の存在は脱チロシン化を明らかに阻害し(Δ-1チューブリン)、これはTCPase阻害剤が細胞透過性であり、内在性TCPase活性に作用するという考えをさらに支持する。
【0140】
予想されるように、神経分化プロセス中においてDDCの強い誘導が測定された。DDCはドーパミン作動性ニューロンのマーカーであり、実験中の神経分化プロセスを確認する(図13)。予想されるように、プロセス中にTCPase活性が増加するにつれて、CRMP1のレベルも増加した。これは、軸索投射の維持におけるTCPase活性の重要な役割と一致している。SH-SY5Y分化プロセスは、パーキンソン病および他の神経変性疾患において調節不全であることが知られている多くの分子機構を再現する。
【0141】
実施例6:筋ジストロフィーにおける微小管の脱チロシン化プロセスの研究
筋芽細胞を、健常な対照(Ctrl)、ならびに進行性の筋変性および筋力低下を特徴とする遺伝障害であるデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)と診断された患者から得た。DMDは、筋細胞をそのままの状態に保つのを助けるタンパク質であるジストロフィンの欠如によって生じる。
【0142】
DMD患者から得た細胞を配列決定した。これらの細胞は遺伝子変異のためにジストロフィンタンパク質が欠如している。外植片から筋芽細胞を単離および精製した後、細胞を5%CO2の存在下において標準的な加湿型組織培養インキュベーター中で37℃で培養した。細胞を、20%ウシ胎仔血清(FBS)、10%ウマ血清、精製された増殖因子および抗生物質(100U/mLペニシリンおよび100μg/mLストレプトマイシン)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(Gibco)中で増幅した。血清に富んだ増殖培地は、筋芽細胞の増殖および分化の両方を支持する。細胞を6cmの培養皿に播種し、筋分化の前にコンフルエントになるまで増殖させた。PBSにおける廃棄(scrap)および穏やかな遠心分離により、示された工程において細胞を収集した。PBS緩衝液を除去し、試料を液体窒素中で急速凍結させ、分析まで-80℃の冷凍庫で保存した。すべての試料には類似の量の細胞が含まれていた。変性Laemmli緩衝液(2%SDS、2.5%2-メルカプトエタノール、10%グリセロール、0.002%ブロモフェノールブルー、0.125M Tris HCl、6.8に調整したpHを含む)を添加し、試料を95℃で煮沸し、存在するタンパク質をさらに変性させた。冷却後、試料を10%ポリアクリルアミドゲル上にロードし、分離のために電気泳動を行い、ニトロセルロース膜(GE Healthcare)に転写した。脱チロシン化チューブリン(deTyr-tub)、ベータチューブリン(E7、ハイブリドーマ)およびビンキュリン(Sigma)を認識する抗体を用いてタンパク質レベルを検出した。目的のタンパク質の検出のために、HRPと結合した二次抗体(Cell Signaling)を用いた。
【0143】
基本条件におけるDMD細胞の脱チロシン化の基礎レベルは低かったが、分化後の脱チロシン化は著しく高かった(図14)。DMD患者由来の細胞において観察されたチューブリンの脱チロシン化の増加は、新規の治療機会を示し得る。
【0144】
実施例7:神経変性疾患における微小管の脱チロシン化プロセスの研究
a)タウオパチーは、ヒトの脳の神経原線維のもつれにおけるタウタンパク質として知られる微小管結合タンパク質(MAP)の病的凝集に関連する神経変性疾患の分類に属している。もつれはタウタンパク質の過剰リン酸化に起因し、これはタンパク質を微小管から解離させ、不溶性の凝集体を形成させる。脱チロシン化の変化は、負に帯電したグルタミン酸残基の露出をもたらす。
【0145】
ヒト細胞株SH-SY5Yは、アルツハイマー病、パーキンソン病およびより一般的な神経変性疾患の病態生理における分子事象を研究するために広く使用されているモデルである。SH-SY5Yを用いて、神経特異的なマーカーを発現する長く広範に分岐した神経突起を持つ神経形態を得るように分化させることができる。細胞を、抗生物質(100U/mLペニシリンおよび100μg/mLストレプトマイシン)の存在下において10%ウシ胎仔血清(FBS)を添加したダルベッコ改変イーグル培地:栄養混合物F-12(DMEM/F-12)中で培養した。細胞を日常的に継代し、5%CO2の存在下において標準的な加湿型組織培養インキュベーター中で37℃で培養した。分化の前に細胞をトリプシン処理し、自動細胞計数器(Countess II; Thermo Scientific)を用いて2回計数し、0.8x10を6ウェルプレート(Nunc)中に播種した。翌日、細胞をPBS、および10μMのオールトランスレチノイン酸(RA:Sigma R 2625)を含むB-27(Gibco)添加培地で2回洗浄した。神経分化が進行中のSH-SY5Y細胞の試料をRIPA緩衝液(50mM Tris HCl、150mM NaCl、1.0%(v/v)NP-40、0.5%(w/v)デオキシコール酸ナトリウム、1.0mM EDTA、pH7.4)中に毎日収集し、BCAキット(Thermo Fisher Scientific)を用いてタンパク質全体の定量化を行った。全細胞抽出物の20μgのタンパク質試料を10%SDS-PAGEで泳動し、ニトロセルロースに転写し、各抗体でプローブした。
【0146】
ウエスタンブロット分析で観察されるように、チューブリンの脱チロシン化は神経分化中に増加する。脱チロシン化のレベルを減少させることにより、MTからのタウの除去が妨げられ得、従って細胞内凝集体が減少し得る。b)最近の証拠は、疾患の経過中に脳内に蓄積するタウとして知られる微小管結合タンパク質の重要な役割に集中しているが、微小管修飾に作用することはこれまで無視されてきた。
【0147】
アルツハイマー病の病態生理における脱チロシン化の役割をさらに理解するために、家族性アルツハイマー病の変異を有する患者由来の皮膚線維芽細胞を取得し、人工多能性幹細胞(iPSC)を生成した。
【0148】
細胞を神経前駆細胞の段階で維持し、試料をRIPA緩衝液(50mM Tris HCl、150mM NaCl、1.0%(v/v)NP-40、0.5%(w/v)デオキシコール酸ナトリウム、1.0mM EDTA、pH7.4)中に毎日収集し、BCAキット(Thermo Fisher Scientific)を用いてタンパク質全体の定量化を行った。全細胞抽出物の20μgのタンパク質試料を10%SDS-PAGEで泳動し、ニトロセルロースに転写し、各抗体でプローブした。
【0149】
ウエスタンブロット分析により、遺伝子変異を有する細胞株のうち1つにおいてチューブリン脱チロシン化の著しい増加が示された(図16)。現在の医薬品の取り組みはタウタンパク質自体のリン酸化状態を標的としているが、この観察は治療介入のための完全に新規な手段をもたらす。デチロシナーゼの薬理学的阻害は微小管の脱チロシン化のレベルを直接調節することによって作用し、タウの微小管への結合を回復し得、神経変性において欠陥があることが知られているエンドソーム-リソソーム処理の効率を回復し得る。
【0150】
脱チロシン化の全体的な阻害は、1)タウ凝集体および他の凝集体の排除に重要な軸索輸送を回復し、2)微小管表面の負に帯電したアミノ酸のレベルを低下させ(脱チロシン化微小管は負に帯電したグルタミン酸を露出していた)、これは過剰にリン酸化されたタウタンパク質の捕捉の改善をもたらす。嵩高い疎水性芳香族残基(チロシンなど)は、グルタミン酸の負電荷を不明瞭にする能力を有している。
【0151】
実施例8:がんにおける微小管の脱チロシン化プロセスの研究
治療手段および個別化医療の大きな進歩にもかかわらず、原発腫瘍の遠隔臓器への広がりおよびその後の転移定着はがんに関連した死亡率の90%を未だに占めている。上皮組織から生じる腫瘍は、種々の二次的な臓器に転移する能力のために重篤ながんの大部分を占めている。したがって、腫瘍生物学における差し迫った問題は、これらの細胞の移動能、腫瘍の血管新生および定着を調節する因子および機構の解明である。
【0152】
蓄積されたデータは、腫瘍の悪性度の増加がチューブリンのチロシン化/脱チロシン化サイクルの誤調節に関連していることを示している。チューブリンの脱チロシン化のレベルの増加は、細胞遊走、血管内侵入および定着中に観察され、これは転移におけるこの修飾の重要な役割を示唆している。
【0153】
ヒト黒色腫細胞株であるCHL-1細胞および軟寒天中でコロニーを形成し、免疫不全マウス中で様々な頻度で種々のサイズの腫瘍を形成する能力が実証されているHEK細胞を用いて、タキソールによって誘導された脱チロシン化を減少させるためのペプチド系阻害剤の使用を分析した。細胞を5%CO2の存在下において標準的な加湿型組織培養インキュベーター中で37℃で日常的に培養し、6ウェル培養皿に播種した。細胞を、50μMのペプチド系阻害剤の非存在下または存在下において10μMタキソールで2時間処理した。
【0154】
細胞をRIPA緩衝液(50mM Tris HCl、150mM NaCl、1.0%(v/v)NP-40、0.5%(w/v)デオキシコール酸ナトリウム、1.0mM EDTA、pH7.4)中に収集し、BCAキット(Thermo Fisher Scientific)を用いてタンパク質全体の定量化を行った。全細胞抽出物の20μgのタンパク質試料を10%SDS-PAGEで泳動し、ニトロセルロースに転写し、各抗体でプローブした。
【0155】
ウエスタンブロット分析により、CHL-1細胞およびHEK細胞の両方においてタキソールで(2時間)処理した結果としてのチューブリン脱チロシン化の著しい減少が示された(図17)。
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【配列表】
2023029943000001.app
【手続補正書】
【提出日】2022-12-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物における微小管脱チロシン化の変化を伴う障害の処置における使用のためのペプチド系阻害剤であって、ここで該ペプチド系阻害剤は化学修飾されているか、または化学修飾されていないアルファチューブリンの最もC末端の1~20アミノ酸で構成されるペプチド部分を含み、ここで該ペプチド部分はC末端の位置にYまたはFから選択されるアミノ酸を有し、およびここで該ペプチド系阻害剤はチューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を少なくとも部分的に阻害する、ペプチド系阻害剤
【請求項2】
ペプチド部分が、アミノ酸配列N末端-X1-X2-X3-X4-X5-X6-X7-X8-X9-X10-X11-X12-X13-X14-X15-X16-C末端の最もC末端の1~16アミノ酸で構成されており、ここで
X1、X2、X5、X7、X9およびX13がG、A、V、I、L、P、F、MおよびWから選択される疎水性アミノ酸であり、
X3、X6、X8、X10、X11、X12、X14およびX15がEまたはDから選択される負に帯電したアミノ酸であり、
X4がS、T、C、Y、NまたはQから選択される極性を有する非荷電性側鎖であり、かつ
X16がYまたはFから選択される大型の疎水性アミノ酸である、請求項に記載の使用のためのペプチド系阻害剤。
【請求項3】
ペプチド部分が、Y、EDY、EAYおよびEEYから選択されるアミノ酸配列を有する、請求項またはに記載の使用のためのペプチド系阻害剤。
【請求項4】
ペプチド系阻害剤が、エポキシスクシニル、アシルオキシメチル、アルデヒドおよびケトンから選択される反応性部分をさらに含む、請求項のいずれかに記載の使用のためのペプチド系阻害剤。
【請求項5】
ペプチド系阻害剤が、チューブリンカルボキシペプチダーゼ活性を不可逆的または可逆的に阻害する、請求項のいずれかに記載の使用のためのペプチド系阻害剤。
【請求項6】
障害が、神経変性疾患、アルツハイマー病、パーキンソン病、精神障害神経障害、がん、結腸がん神経芽細胞腫、筋ジストロフィー、心疾患、血管障害、不妊症、網膜変性および繊毛病から選択される、請求項のいずれかに記載の使用のためのペプチド系阻害剤。
【請求項7】
障害が、神経変性疾患、がんおよび筋ジストロフィーから選択される、請求項6に記載の使用のためのペプチド系阻害剤。
【請求項8】
治療有効量の請求項のいずれかに記載のペプチド系阻害剤を含む医薬組成物。
【外国語明細書】