(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023030053
(43)【公開日】2023-03-07
(54)【発明の名称】電子装置、及び電子装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H05F 1/02 20060101AFI20230228BHJP
H05F 3/04 20060101ALI20230228BHJP
H01T 19/04 20060101ALI20230228BHJP
H01T 23/00 20060101ALI20230228BHJP
C08J 7/044 20200101ALI20230228BHJP
【FI】
H05F1/02 K
H05F3/04 J
H01T19/04
H01T23/00
C08J7/044 CER
C08J7/044 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200933
(22)【出願日】2022-12-16
(62)【分割の表示】P 2020104857の分割
【原出願日】2020-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】394006037
【氏名又は名称】株式会社松本技研
(71)【出願人】
【識別番号】000106900
【氏名又は名称】シシド静電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】松本 頼興
(72)【発明者】
【氏名】松本 亘弘
(72)【発明者】
【氏名】山口 晋一
(72)【発明者】
【氏名】竹内 隆一
(57)【要約】
【課題】誘導帯電現象の緩和に優れた電子装置を提供する。
【解決手段】本発明の電子装置は、除電対象物の近傍で使用される電子装置であって、電気部品と、電気部品に高圧電源の電力を送電する配線部と、電気部品及び配線部を収容する筐体と、を備え、電気部品の少なくとも一部を覆うカバー部を備え、カバー部の表面抵抗率が10
4Ω/□以上10
11Ω/□以下となる構成、及び、筐体の表面抵抗率が10
4Ω/□以上10
11Ω/□以下となる構成の少なくとも一方の構成を有するものである。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
除電対象物の近傍で使用される電子装置であって、
電気部品と、
前記電気部品に高圧電源の電力を送電する配線部と、
前記電気部品及び前記配線部を収容する筐体と、を備え、
前記電気部品の少なくとも一部を覆うカバー部を備え、前記カバー部の表面抵抗率が104Ω/□以上1011Ω/□以下となる構成、及び、前記筐体の表面抵抗率が104Ω/□以上1011Ω/□以下となる構成の少なくとも一方の構成を有する、電子装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電子装置であって、
前記筐体および前記カバー部の少なくとも一方が、
絶縁性、又は導電性の層と、
前記層の表面の少なくとも一部に形成された、表面抵抗率が104Ω/□以上1011Ω/□以下の静電気拡散性層と、を有する、電子装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電子装置であって、
前記静電気拡散性層が、静電気拡散性塗料からなる膜で構成される、電子装置。
【請求項4】
請求項3に記載の電子装置であって、
前記静電気拡散性塗料が、導電性成分とバインダー成分とを含む、電子装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の電子装置であって、
前記高圧電源が、交流発生回路を備える、電子装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の電子装置であって、
前記カバー部の表面抵抗率が104Ω/□以上109Ω/□以下となる構成を有する、電子装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の電子装置であって、
前記筐体の表面抵抗率をAとし、前記カバー部の表面抵抗率をBとしたとき、
AおよびBが、103/1012≦A/B<1を満たす、電子装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の電子装置であって、
前記電気部品が、コロナ放電を発生させる電極、又はグロー放電を発生させる電極を含む、電子装置。
【請求項9】
請求項8に記載の電子装置であって、
前記カバー部が、前記電極の周囲を覆うカバー構造、及び/又は前記電極の先端の前方を覆うカバー構造を有しており、前記カバー構造における表面抵抗率が104Ω/□以上1011Ω/□以下である、電子装置。
【請求項10】
請求項9に記載の電子装置であって、
第一の前記電極と、第二の前記電極と、第一の前記電極を覆う第一の前記カバー部と、第二の前記電極を覆う第二の前記カバー部と、を少なくとも備えており、
第一の前記カバー部と第二の前記カバー部とが電気的に接続するように構成される、電子装置。
【請求項11】
請求項8~10のいずれか一項に記載の電子装置であって、
前記筐体に設けられており、前記電極の周囲を覆うように構成される、筒状のノズル部と、
前記筒状のノズル部に着脱自在に装着されており、前記電極の少なくとも先端を覆うように構成されるガード部と、を備えており、
前記カバー部が、前記筒状のノズル部と前記ガード部とで構成される、電子装置。
【請求項12】
請求項11に記載の電子装置であって、
前記筐体と前記カバー部とが電気的に接続するように構成される、電子装置。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の電子装置であって、
前記筐体がアースされた状態である、電子装置。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の電子装置であって、
前記除電対象物が電子部品・電子機器であり、前記除電対象物の製造・組立工程における現場で用いられる、電子装置。
【請求項15】
電気部品と、前記電気部品に高圧電源の電力を送電する配線部と、前記電気部品及び前記配線部を収容する筐体と、を備え、除電対象物の近傍で使用される電子装置の製造方法であって、
表面抵抗率が104Ω/□以上1011Ω/□以下であり、前記電気部品の少なくとも一部を覆うカバー部、及び表面抵抗率が104Ω/□以上1011Ω/□以下である前記筐体の少なくとも一方を用いて、電子装置の構成部品を組み立てることにより前記電子装置を得る、組立工程を含む、電子装置の製造方法。
【請求項16】
請求項15に記載の電子装置の製造方法であって、
前記筐体および前記カバー部の少なくとも一方において、絶縁性、又は導電性の層の表面に、表面抵抗率が104Ω/□以上1011Ω/□以下の静電気拡散性塗料からなる膜を形成する膜形成工程を、含む、電子装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子装置、及び電子装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで電子部品・電子機器やその製造工程における静電気対策について様々な開発がなされてきた。この種の技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1には、コロナ放電を生じてイオンを発生する放電針を備えるイオナイザが記載されている(特許文献1の請求項1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者が検討した結果、上記特許文献1に記載のイオナイザ等の電子装置において、その使用時に近傍に存在する電子部品・電子機器等の除電対象物における誘導帯電現象の緩和の点で改善の余地があることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者はさらに検討したところ、電子部品、筐体を備え、高圧電源で駆動する電子装置について、電気部品を覆うカバー部及び/又は筐体の表面抵抗率を適切に制御することにより、電子装置の使用時において、その近傍に存在する除電対象物に発生する誘導帯電現象を緩和できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明によれば、
除電対象物の近傍で使用される電子装置であって、
電気部品と、
前記電気部品に高圧電源の電力を送電する配線部と、
前記電気部品及び前記配線部を収容する筐体と、を備え、
前記電気部品の少なくとも一部を覆うカバー部を備え、前記カバー部の表面抵抗率が104Ω/□以上1011Ω/□以下となる構成、及び、前記筐体の表面抵抗率が104Ω/□以上1011Ω/□以下となる構成の少なくとも一方の構成を有する、電子装置が提供される。
【0007】
また本発明によれば、
電気部品と、前記電気部品に高圧電源の電力を送電する配線部と、前記電気部品及び前記配線部を収容する筐体と、を備え、除電対象物の近傍で使用される電子装置の製造方法であって、
表面抵抗率が104Ω/□以上1011Ω/□以下であり、前記電気部品の少なくとも一部を覆うカバー部、及び表面抵抗率が104Ω/□以上1011Ω/□以下である前記筐体の少なくとも一方を用いて、電子装置の構成部品を組み立てることにより前記電子装置を得る、組立工程を含む、電子装置の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、誘導帯電現象の緩和に優れた電子装置、及び電子装置の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】測定システム10における測定機器の接続図を模式的に示す図である。
【
図2】
図1の測定システム10における各部の静電容量の関係を示す等価回路図である。
【
図3】誘導電圧の測定方法を説明するための図である。
【
図4】イオナイザ(除電装置)の構造を模式的に示す断面図である。
【
図6】その他のイオナイザの構造を模式的に示す図である。
【
図7】その他のイオナイザの構造を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。
なお、本実施の形態では図示するように前後左右上下の方向を規定して説明する。しかし、これは構成要素の相対関係を簡単に説明するために便宜的に規定するものである。したがって、本発明を実施する製品の製造時や使用時の方向を限定するものではない。
【0011】
本実施形態の電子装置について概説する。
【0012】
本実施形態の電子装置は、電気部品と、電気部品に高圧電源の電力を送電する配線部と、電気部品及び配線部を収容する筐体と、を備え、電気部品の少なくとも一部を覆うカバー部を備え、そのカバー部の表面抵抗率が104Ω/□以上1011Ω/□以下となる構成、及び、筐体の表面抵抗率が104Ω/□以上1011Ω/□以下となる構成の少なくとも一方の構成を有する。
このような電子装置は、電子部品・電子機器等の除電対象物の近傍において使用される。
【0013】
電子部品・電子機器の製造・組立工程においては、静電気放電(ESD:Electro Static Discharge)による製品へのダメージを抑制することを目的として、各種の静電気対策が採用されている。
【0014】
静電気対策の一つとして、除電装置(イオナイザ)を使用することが幅広く行われている。除電装置は、電子部品・電子機器における帯電電荷を中和することによって、ESDの発生を抑制できる。除電装置が採用される理由として、安全性が比較的高い事、設置場所への制約が少ない事、扱いやすい事等が挙げられる。
【0015】
近年、電子部品・電子機器の微細化や高速化、低動作電圧化、高機能化等に伴い、静電気放電(ESD)への耐久性が低下する恐れがあるため、静電気管理電圧を、数ボルト(V)~十数(V)程度の非常に低い値とすることが要求されてきている。例えば、静電気放電への感受性が非常に高いハードディスクドライブの磁気ヘッド・スライダー工程、CMOSイメージセンサー、SAWデバイス、高周波デバイス、SiC技術を採用したインバーター、レーザーダイオード、白色LED、高輝度LED等において、このような課題が顕著である。
【0016】
このような背景を踏まえ、本発明者らが検討した結果、静電気管理電圧が低く設定される電子部品・電子機器の製造工程において、除電装置が除電対象物の帯電電荷を中和するとき、その高圧電源等に起因した電界によって、除電対象物にイオンが流入せずとも電位が誘導されることにより、静電気障害を引き起こす恐れがあることが判明した。
【0017】
これまでの除電装置の開発において、除電装置自体に静電気対策が施されてはいなかった。なぜならば、これまでは静電気管理電圧が比較的高い基準が設けられていたため、除電装置による除電対象物に生じる誘導帯電ついて着眼、検討されていなかったためである。すなわち、除電装置による誘導帯電について検討事項から除外したとしても、除電速度やイオンバランスなどの除電性能を高めれば、静電気対策として有効な除電装置を提供できていた。
しかしながら、今回、数ボルト(V)~十数(V)程度の静電気管理電圧が比較的低い基準が設定された。この場合、除電装置による除電対象物に生じる誘導帯電量は、無視できるレベルの静電気量ではなく、静電気対策の対象とすることがESDの発生抑制に有効でることが、本発明者の知見によって明らかとなった。
【0018】
さらに鋭意検討したところ、除電装置の筐体の表面抵抗率及び/又は電気部品を覆うカバー部の表面抵抗率を適切に制御することにより、除電装置の使用時において、その近傍に存在する除電対象物に発生する誘導帯電現象を緩和できることが見出された。
【0019】
本実施形態によれば、除電対象物の近傍において、除電装置等の電子装置を使用するによって、静電誘導により除電対象物に発生する誘導電圧を低減させること、すなわち、誘導帯電現象の緩和が可能になる。
これにより、電子部品・電子機器の製造工程において、歩留まりを向上させること、品質のバラツキを低減させること等が期待できる。
また、本実施形態によれば、数ボルト(V)~十数(V)程度の静電気管理電圧が比較的低い基準においても、ESDの発生を抑制できる除電装置等の電子装置を提供できる。
【0020】
以下、本実施形態の電子装置について詳述する。
【0021】
電子装置は、例えば、コロナ放電型除電装置(イオナイザ)、光照射型除電装置等が用いられる。コロナ放電型除電装置は、コロナ放電を発生させる放電針(電極)を備えるもので、電圧印加方式や自己放電方式がある。光照射型除電装置は、放射線の種類に応じて、紫外線方式、軟エックス線方式、若しくはα線方式がある。
【0022】
なお、電子装置は、電子部品・電子機器やその製造工程において、除電対象物の近傍で使用されるものであれば、除電装置以外の一般的な電子装置であってもよい。
近傍とは、除電装置においては、除電処理を施すときの除電対象物と除電装置との距離にあることを意味してもよいが、同じ室内、同じ作業台、製造ライン上にあることでもよい。
【0023】
除電装置は、設置タイプでも、ハンディータイプでもよい。除電装置の型式は、例えば、バー型、オーバーヘッドコンソール型、デスクトップ型(ブロア型・ファン型)、ノズル型(スポット型)、ガン型、ペン型、ボックス型等が用いられる。
【0024】
除電装置の印可電圧方式は、例えば、DC(直流)方式、パルスDC方式、SSDC方式、AC(交流)方式、高周波AC方式、パルスAC方式、HDC-AC方式などが挙げられる。
【0025】
高圧電源の電圧は、例えば、100V以上でもよく、好ましくは1kV以上でもよく、2kV以上でもよい。高圧電源の電圧の上限は、特に限定されない。高圧電源は、必要に応じて、公知の各種変換回路を有してもよい。
なお、除電装置において、電気部品の一つである電極に印可される出力電圧は、好ましくは1kV以上でもよく、より好ましくは2kV以上である。
【0026】
高圧電源の周波数は、例えば、商用周波数型の50Hzや60Hz等、低周波型の数Hz~30Hz、高周波型の約20kHz~80kHz等を用いてもよい。
【0027】
高圧電源は、内蔵電源でも、外部電源でもよい。内蔵電源は、例えば、電子部品を収容する筐体の内部に設置される。外部電源は、例えば、電子装置が使用される施設に敷設された電源やバッテリー等が用いられる。
【0028】
本実施形態の電子装置について、コロナ放電を発生させる除電装置の一つである、バー型のイオナイザ100を用いた一例について、
図4、5を用いて説明する。
図4は、イオナイザ100の構造を模式的に示す断面図である。
図5は、
図4中のα領域の拡大図を示す図である。
【0029】
図5のイオナイザ100は、一または二以上の電極130(電気部品)と、電極130に高圧電源120の電力を送電する配線部170と、電極130及び配線部170を収容する筐体110と、を備える。
収容とは、筐体110の内部空間の内部に、収容物の一部または全体が含まれた状態を意味する。
【0030】
電極130は、コロナ放電を発生させる電極、又はグロー放電を発生させる電極のいずれかが用いられており、先端が徐々に縮径する針状の金属棒、すなわち、放電針で構成される。
【0031】
電極130の構成材料は、タングステン、ステンレス、シリコン、及び、ガラス等が用いられる。
タングステン製、ステンレス製等の金属製放電針、シリコン製(ポリシリコン製)の非金属製放電針は、それぞれの構成材料を高純度に含むように構成され得るが、必要に応じて他の材料が僅かに含まれることを許容する。ガラス製の放電針は、表面にシリコンコートが施されたものを使用できる。
【0032】
電極130の個数、電極130のピッチ間隔、複数の電極130が設置されるラインの長さ(電極長さ)等については、設置場所や除電能等を考慮して、設定可能である。
【0033】
電極130に高圧電源120から電力が配線部170を介して送電されると、電極130からイオン140が放出される。放出されたイオン140によって、除電対象物Wの表面における帯電を中和(除電処理)できる。
【0034】
イオナイザ100の電圧印加方式は、上述の方式から選択でき、特に限定されないが、例えば、AC(交流)方式、高周波AC方式、パルスAC方式、HDC-AC方式等の交流方式を用いてもよい。
交流方式の場合、交流の高圧電源120を用いてもよく、又は、直流の高圧電源120に交流発生回路を組み合わせたものを用いてもよい。
【0035】
図4のイオナイザ100が備える高圧電源120は、筐体110中に収容された内蔵電源であるが、この態様に限定されない。本実施形態によれば、高圧電源120が筐体110に内蔵された場合でも、除電対象物に発生する誘導帯電現象を緩和できる。
【0036】
図4のイオナイザ100は、電極130の少なくとも一部を覆うカバー部(ノズル部150、ガード部160)を備える。
【0037】
イオナイザ100中、カバー部が、筒状のノズル部150及び/又はガード部160で構成されてもよい。筒状のノズル部150の一例は、筐体110に設けられており、電極130の周囲を覆うように構成されてもよい。ガード部160の一例は、筒状のノズル部150に着脱自在に装着されており、電極130の少なくとも先端132を覆うように構成されてもよい。
【0038】
図5は、
図4のα領域を拡大した図であり、カバー部に設置された電極130を模式的に示す図である。
図5(a)は、電極130の軸心方向を先端132側から見た図、
図5(b)は、
図5(a)のA-A断面視における図、
図5(c)は、
図5(b)のB-B断面視における図である。
【0039】
図5(b)中、カバー部は、電極130の先端132の周囲を覆うカバー構造(ノズル部150)、及び電極130の先端132の前方を覆うカバー構造(ガード部160)を有している。
バー型のイオナイザ100は、ノズル部150のみ有してもよいが、ノズル部150及びガード部160の両者を有する態様が好ましい。
【0040】
ノズル部150は、電極130の後方の一部を支持するソケット構造を有していて、筐体110の取付孔に着脱自在に装着される。電極130が損耗したとき、新しい電極130を有するノズル部150に交換することが可能となるため、メンテナンスが容易になる。着脱方法は、機械的結合などの公知の方法が使用できる。
なお、ノズル部150と筐体110は別部材で構成されてもよいが、両部材が一体化してなる一体部材で構成されてもよい。
【0041】
ノズル部150は、電極130の軸芯方向における周囲を覆う壁部に一または二以上の穴部190を有してもよい。穴部190を介してエアを供給することが可能となり、電極130の除電特性を調整することが可能になる。エアは、筐体110中のコンプレッサから供給されるように構成されてもよい。
【0042】
ノズル部150は、軸芯方向に対して周方向における電極130の表面の少なくとも一部を覆うカバー構造を有し、さらにソケット構造から突出した電極130の部分からその先端132までの周方向の表面全体を覆うような筒状のカバー構造を有してもよい。
【0043】
また、ガード部160は、電極130の先端132前方に存在するノズル部150の開口134を覆うようなカバー構造を有する。このようなガード部160は、
図5(a)に示す開口134内にある電極130の先端132が誤って操作者に触れてしまうことを防止できるため、フィンガーガードとして機能する。
【0044】
ガード部160は、ノズル部150に着脱自在に装着される。ガード部160のみを交換可能となる。着脱方法は、機械的結合などの公知の方法が使用できる。
なお、ガード部160とノズル部150は別部材で構成されてもよいが、一体部材で構成されてもよい。
【0045】
本実施形態のイオナイザ100において、電極130(電気部品)の少なくとも一部を覆うカバー部(ノズル部150、及び/又はガード部160)を備え、カバー部の表面抵抗率が104Ω/□以上1011Ω/□以下となる構成A、及び、筐体110の表面抵抗率が104Ω/□以上1011Ω/□以下となる構成の少なくとも一方の構成Bを有する。
構成A及び構成Bの表面抵抗率は、それぞれ同一でも異なってもよい。
イオナイザ100は、構成Aのみ、又は構成Bのみを有してもよいが、好ましくは構成Aおよび構成Bの両方を有する。
【0046】
構成A:カバー部の表面抵抗率は、1.0×104Ω/□以上1.0×1011Ω/□以下、好ましくは1.0×104Ω/□以上1.0×1010Ω/□以下、より好ましくは1.0×104Ω/□以上1.0×109Ω/□以下、さらに好ましくは1.0×105Ω/□以上1.0×109Ω/□以下である。
【0047】
構成B:筐体110の表面抵抗率は、それぞれ同一でも異なってもよく、1.0×104Ω/□以上1.0×1011Ω/□以下、好ましくは1.0×104Ω/□以上1.0×1010Ω/□以下、より好ましくは1.0×104Ω/□以上1.0×109Ω/□以下、さらに好ましくは1.0×105Ω/□以上1.0×109Ω/□以下である。
【0048】
本明細書において、表面抵抗率とは、例えば、温度:22.5℃±10%、湿度:50%RH±5℃の環境下で、IEC 61340 5-1,5-2規格で定義された(ESD Association standardsに順応した)表面抵抗計を使用し、CRプローブ或いは2Pプローブを用いて測定した値(Ω/□)を採用できる。
【0049】
上記の構成A及び構成Bの少なくとも一方を備えることによって、イオナイザ100から発生する電界が、除電対象物Wに引き起こす誘導帯電現象を緩和できる。
【0050】
詳細なメカニズムは定かではないが、上記の表面抵抗率を有するカバー部や筐体によって、絶縁性材料と比較して電荷の移動がスムーズになる一方で、導電性材料と比較して電極130から発生するイオンの引きつけ量の増大を抑制できるため、除電時において除電対象物Wに生じる誘導電圧を低減できる一方で、イオナイザ100の除電性能の低下を抑制できる、と考えられる。
【0051】
筐体110の表面抵抗率をAとし、カバー部の表面抵抗率をBとしたとき、AおよびBが、例えば、103/1012≦A/B<1、好ましくは104/1011≦A/B<1、より好ましくは104/109≦A/B<1を満たすようにイオナイザ100が構成されてもよい。これにより、カバー部による除電能の低下を抑制しつつも、カバー部から筐体110に電荷の移動をスムーズに行う事が可能になる。
なお、他の態様として、AおよびBが、例えば、1<A/B≦103/1012を満たすようにイオナイザ100が構成されてもよい。
【0052】
イオナイザ100において、筐体110およびカバー部(ノズル部150、ガード部160)の少なくとも一方が、絶縁性の層又は導電性の層と、その層の表面の少なくとも一部に形成された、表面抵抗率が104Ω/□以上1011Ω/□以下の静電気拡散性層180と、を有するように構成されてもよい。
【0053】
ここで、イオナイザの技術分野において、放電針が設置されたノズルや、ノズルのフィンガーガードには、通常、絶縁性材料を使用し、導電性材料を使用しないことが一般的に行われている。これは、導電性材料が、放電針から放出されたイオンを引きつけてしまうため、イオナイザの除電能を低下させ、その結果、除電対象物Wが十分に除電されない恐れがあるためであった。しかしながら、通常の絶縁性材料を使用すると、上述の通り、除電対象物Wに生じる誘導電圧が高くなり、ESDが発生する恐れがあった。
【0054】
これに対して、絶縁性層の上に静電気拡散性層を積層する第一積層構造、あるいは、導電性層の上に静電気拡散性層を積層する第二積層構造のいずれか一方を採用することによって、イオナイザの除電能の低下を抑制しつつも、除電時において除電対象物Wに生じる誘導電圧を低減させることが可能になる。
【0055】
このような積層構造は、電極130の軸芯方向における周囲を覆うノズル部150、電極130の先端132と除電対象物Wとの間に存在するガード部160、及び電極130を設置する筐体110のうち、少なくとも1以上に形成されることで、除電対象物Wに生じる誘導帯電現象を緩和できる。
この中でも、電極130のから生じたイオンの進行方向を妨げる位置に設置されるガード部160に積層構造が形成されることが好ましい。これにより、誘導電圧をより低減させることができる。また、より好ましくはガード部160及びノズル部150、さらに好ましくはノズル部150、ガード部160及び筐体110に積層構造が形成される。ガード部160が接触する部材や、その部材とさらに接触する別部材においても、上記の積層構造を形成することによって、より一層、除電対象物Wに生じる誘導電圧を低減できる。詳細なメカニズムは定かではないが、電極130から生じたイオンの移動が、ガード部160を介してスムーズに行われるため、除電時において除電対象物Wに生じる誘導電圧を低減できると考えられる。
【0056】
積層構造中の静電気拡散性層180の表面抵抗率の測定は、単独ではなく、下地層である絶縁性層または導電性層に積層した状態で測定されるものである。例えば、導電性層の下地層を用いることで、表面抵抗率の値を、単独の場合よりも小さく調整することが可能である。
【0057】
第一積層構造中の絶縁性層には、例えば、ABS、PC、PE、PP、PMMA、PS、PVC、POM、その他のエラストマー樹脂やエンプラ樹脂、これらの樹脂を2種以上含むポリマーアロイ樹脂などの熱可塑性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂は、金属材料と比べて軽量で、成形性に優れ、所望の部材形状が得られる。
【0058】
また、第二積層構造中の導電性層には、SUS、SPCC、S〇〇C等の合金鋼等の鉄鋼材、Al合金、Cu合金等の合金材等の金属材料を用いてもよく、カーボンやAg等の導電材を上記の熱硬化性樹脂等の樹脂に練り込んだ導電性樹脂などを用いることが可能である。
【0059】
詳細なメカニズムは定かではないが、第一積層構造では、下地の表面に形成された静電気拡散性層中を通って電荷が移動するのに対し、第二積層構造では、静電気拡散性層中のみならず、静電気拡散性層から下地の導電性層に移動した電荷が、その導電性層中も移動することが可能にあるため、より効率的に誘導帯電現象を緩和できる、と考えられる。
【0060】
静電気拡散性層を、絶縁性層または導電性層上に形成する方法としては、例えば、塗料を用いて塗膜を成膜する方法、薄膜フィルムを積層する方法、成形材料を用いて成形する方法等が挙げられる。静電気拡散性層を単独で形成してよいが、2色成形などの手法を用いることで、絶縁性層または導電性層の下地層と静電気拡散性層とを同時に形成することも可能である。
【0061】
なお、筐体110、ノズル部150、ガード部160のそれぞれは、静電気拡散性材料の単独で構成されてもよいが、上記の積層構造を有するように、導電性材料及び静電気拡散性材料、絶縁性材料及び静電気拡散性材料を組み合わせて構成されてもよい。
筐体110、ノズル部150、ガード部160において、それぞれが同一または異なる静電気拡散性材料、導電性材料、絶縁性材料を用いてもよい。
【0062】
一例として、絶縁性樹脂で構成された筐体110の外表面及び/または内表面の少なくとも一方に、静電気拡散性材料の塗膜が形成されたコーティング品、また、絶縁性樹脂で構成された筐体110の外表面及び/または内表面の少なくとも一方に、静電気拡散性材料の膜が形成された2色成形品、等が挙げられる。
【0063】
イオナイザ100中のカバー部は、電極130の周囲を覆うカバー構造(ノズル部150)、及び/又は電極130の先端132の前方を覆うカバー構造(ガード部160)を有しており、これらのカバー構造における表面抵抗率が104Ω/□以上1011Ω/□以下となるように構成されてもよい。これにより、電極130からの誘導帯電現象を緩和することができる。
ここで、前方とは、電極130の先端132から除電対象物Wまでの方向で見たときの前方を意味する。
また、ノズル部150及びガード部160の表面抵抗率の数値範囲は、これらが静電気拡散性材料の単独で構成された場合のみならず、上記の積層構造を有するよういに構成された場合にも適用する。
【0064】
図5(c)のガード部160は、表面162上に静電気拡散性層180が形成される。静電気拡散性層180は、表面162の少なくとも一部を被覆してもよいが、全面を被覆してもよい。すなわち、ガード部160の一例は、絶縁性材料または導電性材料の内部構造と、内部構造の表面に形成された静電気拡散性材料の被覆層とで構成されてもよい。この構成は、ノズル部150や筐体110にも適用できる。
【0065】
静電気拡散性層180は、例えば、静電気拡散性塗料からなる膜(塗膜)で構成される。静電気拡散性塗料をガード部160の表面162上に塗布、乾燥することにより、静電気拡散性層180が形成される。塗料を用いることによって、様々な形状を有するガード部160の表面162上に静電気拡散性層180を比較的均一に、製造安定的に形成可能になる。
【0066】
また、ガード部160のグリット形状は、電極130の先端132を覆うような形状であれば特に限定されないが、例えば、放射線状、格子状、スリット状、十字状、同心円状、平織・綾織・撚糸織・杉綾織等の織物状等が挙げられる。これにより、放電電極からの誘導帯電現象を緩和できる。
【0067】
イオナイザ100とカバー部とが電気的に接続するように構成されてもよい。これにより、より効率的に誘導帯電現象を緩和できる。
【0068】
また、本実施形態において、イオナイザ100が複数の電極130を備える場合、イオナイザ100は、第一の電極と、第二の電極と、第一の電極を覆う第一のカバー部と、第二の電極を覆う第二のカバー部と、を少なくとも備えており、第一のカバー部と第二のカバー部とが電気的に接続するように構成されてもよい。これにより、より効率的に誘導帯電現象を緩和できる。
【0069】
筐体110がアースされた状態でもよく、アース状態の筐体110にカバー部(ノズル部150及び/またはガード部160)が電気的に接続するように構成されてもよい。これにより、より効率的に誘導帯電現象を緩和できる。
【0070】
本実施形態の除電装置は、バー型のイオナイザ100のみならず、他のイオナイザにも適用可能である。
図6、
図7は、他のイオナイザの構造を模式的に示す図である。
【0071】
図6(a)は、ボックス型のイオナイザ200を示す。このイオナイザ200は、電極230と、高圧電源220から電極230に電力を供給する配線部270と、電極230及び配線部270を収容する筐体210と、電極230の少なくとも一部を覆うノズル部材260と、を備える。
【0072】
図6(b)は、ハンドガン型のイオナイザ300を示す。このイオナイザ300は、電極330と、高圧電源320から電極330に電力を供給する配線部370と、電極330及び配線部370を収容する筐体310と、電極330の少なくとも一部を覆うノズル部材360と、操作者の持ち手となるグリップ部312と、を備える。
【0073】
図6(c)は、ペン型のイオナイザ400を示す。このイオナイザ400は、電極430と、高圧電源420から電極430に電力を供給する配線部470と、電極430及び配線部470を収容する筐体410と、電極430の少なくとも一部を覆うノズル部材460と、電極430からイオンを放出するトリガーとなるスイッチ部412と、を備える。
【0074】
図6(d)は、ノズル型のイオナイザ500を示す。このイオナイザ500は、電極530と、高圧電源520から電極530に電力を供給する配線部570と、電極530及び配線部570を収容する筐体510と、電極530の少なくとも一部を覆うノズル部材560と、変形自在なチューブ部512と、を備える。
【0075】
図7は、ブロア(送風)型のイオナイザ600を示す。
図7中、(a)は側面図、(b)は正面図。このイオナイザ600は、複数の電極630と、電極630を支持する支持部632と、高圧電源520から電極630に電力を供給する配線部670と、電極630及び配線部670を収容する筐体610と、電極630の前方の少なくとも一部を覆うルーパー部660と、電極630の後方に配置され、電極630からルーパー部660に向かってエアを送るファン部680と、を備える。
【0076】
イオナイザ200、300、400、500、600は、それぞれ、カバー部としてノズル部材260、ノズル部360、ノズル部460、ノズル部560、ルーパー部660を備える。これらのカバー部、筐体は、イオナイザ100のカバー部、筐体と同様の構成を採用し得る。
このようなイオナイザにおいても、イオナイザ100と同様に、誘導帯電現象の緩和が可能となる。
【0077】
本実施形態の電子装置は、電子部品・電子機器等の除電対象物の製造・組立工程における現場で用いることが可能である。
【0078】
また本実施形態の電子装置は、半導体製造工程における前処理工程や後処理工程に使用される装置の近傍や内部において、好適に用いることが可能である。
半導体製造工程に用いる装置としては、例えば、ワイヤーボンディング装置、チップボンディング装置、CVD、PVD、搬送装置(シリコンウエファー)、ICテスター、バーイン装置、ダイシング装置、グラインダー装置、SMT装置等の半導体関連装置、LCD基板切断装置、搬送装置(LCD基板)等のLCD関連装置などが挙げられる。
【0079】
本実施形態の電子装置の製造方法の一つは、電気部品と、電気部品に高圧電源の電力を送電する配線部と、電気部品及び配線部を収容する筐体と、を備え、除電対象物の近傍で使用される電子装置の製造方法であって、表面抵抗率が104Ω/□以上1011Ω/□以下であり、電気部品の少なくとも一部を覆うカバー部、及び表面抵抗率が104Ω/□以上1011Ω/□以下である筐体の少なくとも一方を用いて、電子装置の構成部品を組み立てることにより電子装置を得る、組立工程を含む。
適切な表面抵抗率の構成部品を用いて電子装置を組み立てることによって、電子装置を使用したとき、近傍に存在する除電対象物に生じる誘導帯電現象の緩和を実現することができる。
【0080】
また、本実施形態の電子装置の製造方法は、筐体およびカバー部の少なくとも一方において、絶縁性、又は導電性の樹脂層の表面に、表面抵抗率が104Ω/□以上1011Ω/□以下の静電気拡散性塗料からなる膜を形成する膜形成工程を含んでもよい。これにより、除電時において除電対象物Wに生じる誘導電圧を低減できる。
本実施形態の除電装置の組立方法の一つは、ノズル部やガード部等のカバー部において、表面に表面抵抗率が104Ω/□以上1011Ω/□以下の静電気拡散性層を形成する工程と、静電気拡散性層が形成されカバー部を、除電装置に取り付ける工程と、を含む。これにより、除電装置における静電誘導抑制能を高められる。
また、この組立工程は、除電装置からカバー部を取り外す工程をさらに含んでもよい。これにより、部品ごとに交換可能である。
静電気拡散性層を形成する方法は、上述の方法を採用できるが、静電気拡散性塗料を用いて塗布する方法を用いてもよい。これにより、作業性、メンテナンス容易性を高められる。
【0081】
本実施形態のカバー部(ノズル部、ガード部、ルーパー部等)は、除電装置、具体的にはイオナイザに用いるものであって、表面における表面抵抗率が104Ω/□以上1011Ω/□以下となるように構成される。このカバー部は、上述のような積層構造を有してもよい。
【0082】
以下、本実施形態の静電気拡散性材料の概要について説明する。
【0083】
本実施形態の静電気拡散性材料によれば、電子部品・電子機器の構成部品における表面抵抗率を適切に制御できるため、誘導帯電耐性に優れた電子部品・電子機器を提供できる。
この中でも、イオナイザを用いた除電時に発生する誘電帯電現象を緩和させるが可能となる。したがって、静電気拡散性材料は、誘導電圧についてより一層高い水準が要求される電子部品・電子機器やこれらの製造・組立工程に適用可能である。
【0084】
本明細書中、表面抵抗率が1011Ω/□超えの場合を絶縁性、104Ω/□以上1011Ω/□以下の場合を静電気拡散性、104Ω/□未満の場合を導電性と定義する。
【0085】
静電気拡散性材料は、電子部品・電子機器の構成部材を成形するための成形材料でもよく、電子部品・電子機器の構成部材の表面にコーティングを施す塗料やフィルム材料等であってもよい。
【0086】
成形材料は、射出成形、プレス成形、インサート成形、二色成形などの通常の成形方法を用いて、構成部品の一部又は全体となる成形品を成形できる。
すなわち、成形品は、静電気拡散性材料の単独で構成されてもよく、絶縁性層又は導電性層の上の表面に静電気拡散性材料からなる静電気拡散性成形層が積層した積層構造を少なくとも有するように構成されてもよい。
【0087】
また、塗料は、構成部品中の表面上に塗布する等の方法によって、構成部品中の絶縁性部材又は導電性部材の表面に、静電気拡散性塗膜を形成できる。
また、フィルム材料は、構成部品中の表面上に化学的及び又は物理的に接着する方法によって、構成部品中の絶縁性部材又は導電性部材の表面に静電気拡散性フィルムを形成できる。
【0088】
積層構造中の静電気拡散性成形層、静電気拡散性塗膜や静電気拡散性フィルムなどの静電気拡散性層における表面抵抗率が、例えば、104~1011Ω/□、好ましくは104~1010Ω/□、より好ましくは105~109Ω/□となるように、静電気拡散性材料が構成される。
【0089】
積層構造中、静電気拡散性層における表面抵抗率について、下地層となる絶縁性層や導電性層の抵抗値に応じて、その数値を変動できる。
絶縁性層の一例としてABS樹脂層、導電性層の一例としてSUS板を採用し、これらを下地層としたときの静電気拡散性層の表面抵抗率を指針として、静電気拡散性材料の抵抗値を適切に調整することによって、積層構造中の静電気拡散性層における表面抵抗率を所望の範囲内とすることが可能である。
【0090】
以下、静電気拡散性材料の成分について説明する。
【0091】
(導電性成分)
静電気拡散性材料は、導電性成分を含む。
導電性成分は、例えば、導電性樹脂などが挙げられる。導電性樹脂は、高分子材料に機能を付与する材料として導電性添加剤を配合したものや、樹脂自体が導電性をもつ導電性ポリマーを用いることができる。
この導電性樹脂の抵抗値は、104~1010Ωが好ましく、105~109Ωがより好ましい。
【0092】
静電気拡散性材料は、成形材料、塗料、フィルム材料などに用いる場合、必要に応じて、通常使用される成分をさらに含んでもよい。
【0093】
静電気拡散性成形材料は、導電性成分、及び熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂等の樹脂成分を含んでもよい。静電気拡散性成形材料の製造方法の一例は、樹脂成分中に導電性成分を、混練などの方法を用いて、混合することにより得られる。
【0094】
静電気拡散性塗料は、導電性成分、及び、バインダー成分を含んでもよい。また、この塗料は、上記の成分に加えて、各種の添加剤、溶剤を含むことができる。
【0095】
静電気拡散性塗料の成膜後の抵抗値は、104~1010Ωが好ましく、105~109Ωがより好ましい。
【0096】
(バインダー成分)
バインダー成分の一例として、バインダー樹脂を用いることができ、具体的には、例えば、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、アミノアルキド樹脂などの合成樹脂、その他の合成樹脂や天然樹脂が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0097】
バインダー成分は、塗膜と下地とを接着させることができる。また、バインダー成分には、使用環境に適合した物性のものを選択してもよく、添加剤が分散できるものを選択してもよい。
【0098】
また、バインダー樹脂としては、自身が導電性を有するポリマー導電材料であることが望ましい。
ポリマー導電材料を用いた塗膜は、絶縁体であるバインダー樹脂を用いた塗膜と比べて、ミクロ視点において導電域が絶縁域中に比較的一様に混在した状態で構成されると考えられるため、接着性を向上できるとともに、塗膜中における導電性のバラツキを抑制し、安定した静電気拡散性層を形成できる。
また、ポリマー導電材料を用いることによって、必要に応じて添加剤の含有比率を低く調整可能である。
【0099】
(添加剤)
添加剤は、塗料の状態を制御するものや、成膜後の特性を付与する役割を持つものを使用できる。
添加剤の一例としては、導電性添加剤、シリコーン系添加剤、シリカ粉末等が挙げられるが、添加できる材料はこれらの材料に限定されるわけではない。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
導電性添加剤は、塗膜の導電性を調整できる。導電性添加剤は、目標の抵抗値やバインダー成分によって、材料や添加量を選定する。導電性添加剤の一例は、例えば、カーボン系、金属系、金属酸化物系、金属酸化物皮膜系の粉末状もしくは繊維状の材料に加え、イオン導電性付与材、帯電防止剤などが挙げられる。これらは、単体を使用しても良いし、複数を組み合わせても良く、その構成と材料は限定されない。
シリコーン系添加剤は、レベリング性や濡れ性を向上できる。
シリカ粉末は、増粘や艶消しを付与できる。
【0100】
(溶剤)
溶剤は、バインダー成分や添加剤を、溶解または分散できる成分を含むものが使用できる。
溶剤として、環境性能の点から水やエタノールが好ましい。有機溶剤は、バインダー成分の溶解能力が比較的高く、バインダー成分の選択域が比較的広くいものが多いため、使用してもよい。また、塗膜性能の観点から、下地への接着性を高められる有機溶剤の種類を選択してもよい。
【0101】
また、静電気拡散性塗料は、カーボンブラックが実質的に含まれないように構成されてもよい。これによりパーティクルの発生を抑制できるため、クリーンルームや半導体製造プロセスにおいて、本実施形態の電子装置が使用可能となる。
電子装置のイオナイザにおいて、カバー部の表面がカーボンブラックを静電気拡散性塗料からなる塗膜でコーティングされてもよい。コロナ放電が生じる放電電極の近傍の塗膜において、カーボンブラックを含まないように構成することによって、よりパーティクル・粉塵の発生を抑制できる。カバー部に加えて、筐体の表面における塗膜もカーボンブラック等の導電性粒子を含まないように構成されてもよい。導電性粒子を実質的に含まない静電気拡散性塗料においては、導電性成分として、ポリマー導電材料を用いることが可能である。
【0102】
静電気拡散性塗料は、必要に応じて、顔料及び又は染料を含んでもよい。これにより、静電気拡散性を有する領域を着色できるため、操作者による視認性を高められる。そのため、電子装置の取り扱い性を向上できる。着色の色は、例えば、絶縁性のバインダー樹脂等のバインダー成分の色と異なる色を採用できる。この中でも、黒色は、導電性があるという共通認識が比較的高いため、採用してもよいが、これに限定されない。
【0103】
(帯電防止剤)
また、静電気拡散性塗料として、帯電防止剤を用いてもよい。
帯電防止剤は、構成部品の表面に塗布することによって、簡便に帯電防止能を付与し、その表面における表面抵抗率を適切に制御できる。
帯電防止剤は、一般的に、下地への接着力が弱く、擦れや水などの溶剤によって剥がれ落ちる恐れがあるものの、都度、塗布することにより帯電防止性能をできるため、メンテナンスが容易になる。また、擦れが生じにくく、溶剤に接しない環境下で使用する場合、帯電防止剤は、比較的長期に亘り帯電防止性能を保持できる。
【0104】
(塗工方法)
静電気拡散性塗料の塗工方法は、塗膜が形成されるものである限り限定されず、下地の種類や形状応じて、公知の方法から選択できる。この塗工方法の一例は、例えば、刷毛塗り、ディッピング(浸漬)、スプレー、グラビア方式等が挙げられる。
【0105】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例0106】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0107】
<静電気拡散性塗料の調製>
(製造例A)
バインダーとしてポリウレタン樹脂(大日精化工業社製 商品名レザミンME-44LP)100重量部、導電性添加剤としてケッチエンブラック(ライオン・スペシャリティ・ケミカル社製 商品名ケッチエンブラックEC-300J)を3.5重量部、溶剤としてジメチルホルムアミドを150重量部、メチルエチルケトンを500重量部添加した後、混合撹拌して、静電気拡散性塗料Aを得た。
【0108】
得られた静電気拡散性塗料Aを、エアスプレーガンを用いて、被対象物としてABS樹脂製の板部材に塗布し、その表面に乾燥後の厚みが10μmとなるように塗膜を形成した。塗膜を、60℃のオーブンで1時間乾燥させて、静電気拡散性層Aを得た。
静電気拡散性層Aの表面抵抗率について、温度:22.5℃±10%、湿度:50%RH±5℃に制御した環境下で、下記の方法で測定した結果、1.0×105(Ω/□)の値を示した。
【0109】
表面抵抗率の測定方法については、IEC 61340 5-1,5-2規格で定義された(ESD Association standardsに順応した)表面抵抗計を使用し、CRプローブ或いは2Pプローブを用いて測定した値を表面抵抗率(Ω/□)とした。
【0110】
(製造例B)
バインダーとしてポリウレタン樹脂(DIC社製 商品名クリスボンASPU-112)100重量部、導電性添加剤として白色系導電性フィラー(大塚化学社製 商品名デントールWK-200B)を13重量部、溶剤としてイソプロピルアルコールを750重量部添加した後、混合撹拌し、静電気拡散性塗料B得た。
【0111】
得られた静電気拡散性塗料Bを、エアスプレーガンを用いて、被対象物としてABS樹脂製の板部材に塗布し、その表面に乾燥後の厚みが10μmとなるように塗膜を形成した。塗膜を、60℃のオーブンで2時間乾燥し、静電気拡散性層Bを得た。
静電気拡散性層Bの表面抵抗率について、温度:22.5℃±10%、湿度:50%RH±5℃に制御した環境下で、静電気拡散層Aと同様にして測定した結果、1.0×106(Ω/□)の値を示した。
【0112】
<除電対象物における誘起電圧の測定>
図1は、測定システム10における測定機器の接続図を模式的に示す。
図2は、測定システム10における各部の静電容量の関係を示す等価回路図を示す。
このような
図1の測定システム10は、イオナイザ100が、除電によって除電対象物Wに引き起こす誘導電圧を測定できる。
【0113】
具体的な誘起電圧の測定手順(1)~(3)は以下の通りである。
(1)
図1に示す測定システム10の準備
□150mmの金属板22、24、26のそれぞれを用いて、絶縁した状態で3段構造を形成して、容量分圧式帯電プレート20を準備した。
容量分圧式帯電プレート20のそれぞれの金属板22、24、26を、三重同軸ケーブル30(TEKTRONIX社製、237-ALG-2)を介して、エレクトロメータ40(KEITHLEY社製、6517A)に接続した。エレクトロメータ40のアナログOUT端末を、ケーブルを介して、モニタ50(TEKTRONIX社製、オシロスコープ TDS503B)に接続した。
高圧電源Eを有する除電装置の一つとして、イオナイザ100を使用した。このイオナイザ100を、容量分圧式帯電プレート20の最上部の金属板22に対して、測定距離Dだけ離れた上部に配置した。
図1中、Gは接地を表す。
図1の測定システム10の等価回路図を示す
図2中の容量は、容量計を用いて測定した。
【0114】
(2)容量分圧式帯電プレート20におけるV
out、分圧比(C2/C1)の算出
図3は、誘導電圧の測定方法を説明するための図である。
電圧源E、上記(1)と同じ容量分圧式帯電プレート20、エレクトロメータ40を電気的に接続して、
図3に示す測定システム12を準備した。
図3中、Gは接地を表す。
測定システム12中、E
0(V)に校正された直流の電圧源Eを金属板22に接続させ、金属板24をエレクトロメータ40に接続させた。
ここで、金属板22、24間の静電容量をC1とし、金属板24、26間の静電容量をC2とし、エレクトロメータ40で測定される出力電圧をV
outとした。
測定システム12中の接続回路は、式1:V
out=[C1/(C1+C2)]×E
0を満たす。
式1から分圧比Pを表す式2:C2/C1=(E/V
out)-1が算出できる。
図3の測定システム12を用いて、V
outを測定し、得られたV
outの測定値から分圧比Pを求めた。
なお、電圧源Eから見た合成容量Ci(C1×C2/(C1+C2))が20pF±2pFの範囲ないとなり、C1が20.4pF、C2が460pFであった。容量は、容量計を用いて測定した。
【0115】
(3)静電電圧の算出
図3中の電圧源Eを、所定のイオナイザ100に置き換えることによって、
図1中の最上部の金属板22に静電誘導された誘導電圧V
eiについては、
図1中で測定されたV
outに、上記(2)で求められた分圧比Pを積算することによって求められる。すなわち、誘導電圧V
eiは、式3:V
ei=分圧比P×V
outに基づいて求められる。
以下、実験例1~4に示すイオナイザ、環境条件を採用して、
図1中のV
outを測定し、そのV
outを使用して、式3に基づいて、誘導電圧V
eiを算出した。
【0116】
<比較例>
(実験例1)
温度:24℃、湿度:38%RH、測定距離D:100mm、エア圧力:無風の条件下で、上記(1)~(3)の手順に従って、
図1の測定システム10中におけるV
outを測定し、最上部の金属板22に静電誘導された誘導電圧V
eiを求めた。
図1の測定システム12中に使用したイオナイザ100の構造の概要を
図4に示す。
図4は、使用したイオナイザ100の構造を模式的に示す断面図である。
実験例1で使用したイオナイザ(ACコロナ放電方式)は、ABS樹脂製の筐体110に収容された高圧電源120(交流型高圧電源、出力電圧:10kV
0-p)と、10個の電極130(タングス製放電針、電極長さ:600mm、電極間のピッチ:250mm、)と、を有する。
図5は、
図4のα領域の拡大図を示す。
図5に示す通り、ABS樹脂製のノズル部150の筒内部に電極130が配置されていて、ノズル部150の先端には、カバー部としてABS樹脂製のガード部160(ノズルガード)が装着されている。
実験例1の誘導電圧V
eiは294V
p-pであった。
なお、ABS樹脂製の筐体110、ノズル部150、及びガード部160における表面抵抗率は、10
16Ω/□であった。
【0117】
<実施例>
(実験例2)
図4中の筐体110の表面112及び、
図5中のノズル部150の表面152の全面において、静電気拡散性塗料Aを、エアスプレーガンを用いて塗布し、その表面に乾燥後の厚みが10μmとなるように塗膜を形成し、60℃のオーブンで1時間乾燥させて、静電気拡散性層Aを形成したイオナイザを使用した以外は、実験例1と同様にして、誘導電圧V
eiを求めた。
実験例1の誘導電圧V
eiは162V
p-pであった。
【0118】
(実験例3)
図4中の筐体110の表面112及び、
図5中のノズル部150の表面152の全面において、静電気拡散性塗料Aを、エアスプレーガンを用いて塗布し、その表面に乾燥後の厚みが10μmとなるように塗膜を形成し、60℃のオーブンで1時間乾燥させて、静電気拡散性層Aを形成した点、
図5中のガード部160の表面162の全面において、静電気拡散性塗料Bを、エアスプレーガンを用いて塗布し、その表面に乾燥後の厚みが10μmとなるように塗膜を形成し、60℃のオーブンで2時間乾燥させて、静電気拡散性層Bを形成した点、筐体110上の静電気拡散性層A及びガード部160上の静電気拡散性層Bを配線で電気的に接続した上で接地させた点を有するイオナイザを使用した以外は、実験例1と同様にして、誘導電圧V
eiを求めた。
実験例1の誘導電圧V
eiは52V
p-pであった。
【0119】
(実験例4)
測定距離Dを300mmとした以外は、実験例3と同様にして、誘導電圧Veiを求めた。
実験例1の誘導電圧Veiは22Vp-pであった。
【0120】
実施例である実験例3のイオナイザ(除電装置)を使用することによって、比較例である実験例1と比べて、イオナイザの静電誘導により除電対象物に発生する誘導電圧を低減できる結果を示した。
【0121】
また、実験例2~4において、ガード部160の表面抵抗率を104Ω/□、105Ω/□、107Ω/□、108Ω/□、109Ω/□に変更した場合でも、実験例1と比べて、イオナイザの静電誘導により除電対象物に発生する誘導電圧を低減できることが分かった。
【0122】
また、実験例2~4で使用したバー型のイオナイザ100(電圧印可式除電装置)において、電極長さを350mm、1600mm、3100mm、電極をシリコン製の放電針、又は電源を直流に仕様を変更した場合でも、それぞれは、同様の条件に仕様変更した実験例1と比べて、イオナイザの静電誘導により除電対象物に発生する誘導電圧を低減できることが分かった。
【0123】
また、内蔵した除電電極と除電電極の先端を覆うABS樹脂製のノズルとを備える、ボックス型イオナイザ、ガン式イオナイザ、ペン型イオナイザ、又はノズル型イオナイザにおいて、当該ノズルの表面に静電気拡散性層Bを形成したものと、形成しないものを準備した。これらの静電気拡散性層を有するイオナイザは、ノズルの表面に静電気拡散性層Bを形成しないものと比較して、イオナイザの静電誘導により除電対象物に発生する誘導電圧を低減できることが分かった。
【0124】
内蔵した除電電極と除電電極の前方に設けられたABS樹脂製の正面ルーパーと後方に設けられたファンとを備える送風型イオナイザにおいて、当該正面ルーパーの表面に静電気拡散性層Bを形成したものと、形成しないものを準備した。静電気拡散性層を有する送風型イオナイザは、正面ルーパーの表面に静電気拡散性層Bを形成しないものと比較して、イオナイザの静電誘導により除電対象物に発生する誘導電圧を低減できることが分かった。
【0125】
実施例のイオナイザ等の除電装置は、除電対象物の製造工程や組立工程中、その近傍に存在する除電対象物である電子部品・電子機器等において、除電時に発生する誘電帯電現象を緩和させることが可能である。