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特開2023-30112肥満細胞疾患の処置のための方法及び医薬組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023030112
(43)【公開日】2023-03-07
(54)【発明の名称】肥満細胞疾患の処置のための方法及び医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20230228BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 7/10 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 17/04 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 13/10 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 25/06 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 29/02 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20230228BHJP
   A61K 31/4402 20060101ALI20230228BHJP
   A61K 31/506 20060101ALI20230228BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P43/00 111
A61P17/00
A61P37/08
A61P7/10
A61P1/00
A61P1/04
A61P21/00
A61P13/12
A61P9/10 101
A61P9/10
A61P9/12
A61P9/04
A61P17/04
A61P25/00
A61P25/16
A61P25/28
A61P3/00
A61P3/10
A61P7/00
A61P3/02
A61P13/10
A61P35/00
A61P25/06
A61P17/06
A61P17/02
A61P25/04
A61P29/02
A61P25/02
A61P1/16
A61P19/02
A61P29/00 101
A61P37/02
A61K31/4402
A61P43/00 121
A61K31/506
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022205739
(22)【出願日】2022-12-22
(62)【分割の表示】P 2019561135の分割
【原出願日】2018-05-17
(31)【優先権主張番号】17305573.2
(32)【優先日】2017-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(71)【出願人】
【識別番号】515028470
【氏名又は名称】フォンダシオン・イマジネ
【氏名又は名称原語表記】FONDATION IMAGINE
(71)【出願人】
【識別番号】520053762
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・パリ・シテ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS CITE
(71)【出願人】
【識別番号】591140123
【氏名又は名称】アシスタンス ピュブリク-オピトー ドゥ パリ
【氏名又は名称原語表記】ASSISTANCE PUBLIQUE - HOPITAUX DE PARIS
(71)【出願人】
【識別番号】595040744
【氏名又は名称】サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】マウシェ-クレチアン,レイラ
(72)【発明者】
【氏名】ボーデメール,クリスティーヌ
(72)【発明者】
【氏名】エルミーヌ,オリヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】ポリーフカ,ラウラ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】肥満細胞疾患の処置法を提供する。
【解決手段】ヘッジホッグ阻害剤を投与する工程を含む、処置法である。ヘッジホッグ阻害剤は、ビスモデギブ又はGANT61である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療有効量のヘッジホッグ阻害剤を患者に投与する工程を含む、それを必要とする患者における肥満細胞疾患の処置法。
【請求項2】
肥満細胞疾患が、肥満細胞活性化症候群;肥満細胞症;特発性蕁麻疹;慢性蕁麻疹;アトピー性皮膚炎;特発性アナフィラキシー;IgEにより媒介される及びIgEにより媒介されないアナフィラキシー;血管浮腫;アレルギー疾患;過敏性腸症候群;肥満細胞性胃腸炎;肥満細胞性大腸炎;線維筋痛症;腎線維症;アテローム性動脈硬化症;心筋虚血;高血圧;うっ血性心不全;掻痒;慢性掻痒;慢性腎不全に続発する掻痒;肥満細胞に関連した心臓、血管、腸、脳、腎臓、肝臓、膵臓、筋肉、骨、及び皮膚の容態;CNS疾患、例えばパーキンソン病及びアルツハイマー病;代謝疾患、例えば糖尿病;鎌状赤血球症;自閉症;慢性疲労症候群;ループス;慢性ライム病;間質性膀胱炎;多発性硬化症;がん;片頭痛;乾癬;好酸球性食道炎;好酸球性胃腸炎;チャーグ・ストラウス症候群;好酸球増加症候群;好酸球性筋膜炎;好酸球性胃腸障害;慢性特発性蕁麻疹;心筋炎;ヒルシュスプルング病関連腸炎;術後腸閉塞;創傷治癒;脳卒中;一過性脳虚血発作;疼痛;神経痛;末梢神経障害;急性冠動脈症候群;膵炎;皮膚筋炎;線維性皮膚疾患;がん関連疼痛;潰瘍性大腸炎;炎症性腸疾患;放射線性腸炎;セリアック病;グルテン性腸症;放射線性膀胱炎;膀胱痛症候群;肝炎;肝線維症;肝硬変;関節リウマチ;全身エリテマトーデス;及び血管炎からなる群より選択される、請求項1の方法。
【請求項3】
肥満細胞疾患が、皮膚肥満細胞症;全身性肥満細胞症;及び全身性無痛性肥満細胞症からなる群より選択される、請求項1の方法。
【請求項4】
肥満細胞症の発病が、特にKITの突然変異が原因である、チロシンキナーゼ受容体KITの恒常的活性化に起因する、請求項2の方法。
【請求項5】
ヘッジホッグ阻害剤が、ビスモデギブ又はGANT61である、請求項1の方法。
【請求項6】
ヘッジホッグ阻害剤が、PKC412(ミドスタウリン)、アファチニブ、アリトレチノイン、アキシチニブ、バフェチニブ、ベキサロテン、BI-2536、ボスチニブ、ブリバニブ、カネルチニブ、セディラニブ、CP724714、クリゾチニブ、ダサチニブ、ダヌセルチブ、ドビチニブ、E7080、エルロチニブ、エベロリムス、フォスタマチニブ、ゲフィチニブ、イマチニブ、ラパチニブ、レスタウルチニブ、リンシチニブ、マシチニブ、モテサニブ、ネラチニブ、ニロチニブ、NVP TAE-684、OSI-027、OSI-420、OSI-930、パゾパニブ、ペリチニブ、PF573228、レゴラフェニブ、ロミデプシン、ルキソリチニブ、サラカチニブ、ソラフェニブ、スニチニブ、TAE226、TAE684、タンデュチニブ、テラチニブ、タウチニブ、テムシロリムス、トセラニブ、トファシチニブ、トザセルチブ、トレチノイン、バンデタニブ、バタラニブ、ベムラフェニブ、ボリノスタット、及びWZ4002などのチロシンキナーゼ阻害剤と組み合わせて患者に投与される、請求項1の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野:
本発明は、肥満細胞疾患の処置のための方法及び医薬組成物に関する。
【0002】
発明の背景:
肥満細胞疾患は、ヒトの健康において特に懸念されている。例えば、肥満細胞症は、1つ以上の組織における異常な肥満細胞の病的な増殖及び蓄積によって特徴付けられる疾患である。肥満細胞症には、皮膚に限定して発症する皮膚肥満細胞症(CM)(小児により多い)及び全身性肥満細胞症(SM)という2つの病型がある。全身性肥満細胞症では、肥満細胞は、1つ以上の皮膚外組織に蓄積する。全身性肥満細胞症は肥満細胞疾患の10%を占め、全身性肥満細胞症の大半(80%)は、チロシンキナーゼ受容体KITの機能獲得型D816V突然変異を示し、幹細胞因子の活性化とは独立して、KITシグナル伝達の恒常的活性化を誘導する。この突然変異により、肥満細胞の産生は増加し、皮膚外臓器への蓄積(骨髄、リンパ節、肝臓、消化管、脾臓)が起こり、これは臓器不全をもたらし得る。残念なことに、活性化させるD816V KIT突然変異は、FDAによって認可されている全身性肥満細胞症の現在利用可能なチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)であるイマチニブによる処置に対する耐性を伴うことが知られている。したがって、肥満細胞症の処置のための新規な効果的な治療薬は優先事項である。
【0003】
ヘッジホッグシグナル伝達経路は、胚細胞において重要な役割を果たし、動物の発達の重要な調節因子の1つである。ヘッジホッグシグナル伝達経路に関連している、ソニック・ヘッジホッグ(Shh)、インディアン・ヘッジホッグ(Ihh)、及びデザート・ヘッジホッグ(Dhh)という3つのヘッジホッグタンパク質(Hh)が存在する。ヘッジホッグタンパク質はPatched1受容体に結合する。Patched1受容体はSmo活性を阻害し、Patched-1にヘッジホッグタンパク質が結合すると、この阻害は軽減され、細胞の運命の決定及び増殖に関与しているGLI転写因子Gli1、Gli2、及びGli3が活性化される。ヘッジホッグ経路の異常な活性化は、多種多様ながん、例えば基底細胞癌、膵臓癌、髄芽腫、小細胞肺癌、及び前立腺癌に罹患している患者において関与している。しかしながら、肥満細胞症におけるこのシグナル伝達経路の役割は依然として研究されていない。
【0004】
発明の要約:
本発明は、肥満細胞疾患の処置のための方法及び医薬組成物に関する。特に、本発明は特許請求の範囲によって定義される。
【0005】
発明の詳細な説明:
本発明は、治療有効量のヘッジホッグ阻害剤を患者に投与する工程を含む、それを必要とする患者における肥満細胞疾患の処置法に関する。
【0006】
本明細書において使用する「肥満細胞」という用語は、過敏症反応を媒介する造血系由来細胞を指す。肥満細胞は、過敏症反応を媒介する細胞質内顆粒(ヒスタミン、コンドロイチン硫酸、プロテアーゼ)の存在、高いレベルのIgE受容体(FceRI)によって特徴付けられ、発達のために幹細胞因子及びIL3(サイトカイン)を必要とする。成熟肥満細胞は、循環中には見られないが、体中の様々な組織に存在する。
【0007】
本明細書において使用する「肥満細胞疾患」という用語は、病的な肥満細胞の増殖及び/又は活性化(例えば脱顆粒)によって特徴付けられるあらゆる疾患を指す。肥満細胞疾患の例としては、肥満細胞活性化症候群;肥満細胞症;特発性蕁麻疹;慢性蕁麻疹;アトピー性皮膚炎;特発性アナフィラキシー;IgEにより媒介される及びIgEにより媒介されないアナフィラキシー;血管浮腫;アレルギー疾患;過敏性腸症候群;肥満細胞性胃腸炎;肥満細胞性大腸炎;線維筋痛症;腎線維症;アテローム性動脈硬化症;心筋虚血;高血圧;うっ血性心不全;掻痒;慢性掻痒;慢性腎不全に続発する掻痒;肥満細胞に関連した心臓、血管、腸、脳、腎臓、肝臓、膵臓、筋肉、骨、及び皮膚の容態;CNS疾患、例えばパーキンソン病及びアルツハイマー病;代謝疾患、例えば糖尿病;鎌状赤血球症;自閉症;慢性疲労症候群;ループス;慢性ライム病;間質性膀胱炎;多発性硬化症;がん;片頭痛;乾癬;好酸球性食道炎;好酸球性胃腸炎;チャーグ・ストラウス症候群;好酸球増加症候群;好酸球性筋膜炎;好酸球性胃腸障害;慢性特発性蕁麻疹;心筋炎;ヒルシュスプルング病関連腸炎;術後腸閉塞;創傷治癒;脳卒中;一過性脳虚血発作;疼痛;神経痛;末梢神経障害;急性冠動脈症候群;膵炎;皮膚筋炎;線維性皮膚疾患;がん関連疼痛;潰瘍性大腸炎;炎症性腸疾患;放射線性腸炎;セリアック病;グルテン性腸症;放射線性膀胱炎;膀胱痛症候群;肝炎;肝線維症;肝硬変;関節リウマチ;全身エリテマトーデス;及び血管炎からなる群より選択される任意の疾患が挙げられる。
【0008】
本明細書において使用する「肥満細胞症」という用語はその一般的な意味を有し、病的な肥満細胞が組織内に蓄積する一群の障害を説明する。特に、該用語は、皮膚肥満細胞症及び全身性肥満細胞症(無痛性又は進行型)を含む。肥満細胞症の発病は、チロシンキナーゼ受容体KITの恒常的活性化に起因する。肥満細胞症患者の大半における、KITの調節解除されたチロシンキナーゼ活性は、タンパク質のアミノ酸816内の突然変異(D816V)に起因し、これはまた、インビトロ及びインビボにおいてイマチニブ又はメシル酸イマチニブに対する耐性も付与する。特に、本発明の方法は、全身性肥満細胞症の処置に特に適している。本明細書において使用する「全身性肥満細胞症」すなわち「SM(systemic mastocytosis)」という用語は、その場所及び悪性度に応じて世界保健機関(2016)によって定義された全身性肥満細胞症の5つのカテゴリーを包含する:無痛全身性肥満細胞症(ISM)、くすぶり型全身性肥満細胞症(SSM)、血液腫瘍を伴う全身性肥満細胞症(SM-AHN)、侵襲性全身性肥満細胞症(ASM)、及び肥満細胞白血病(MCL)。侵襲性肥満細胞症及び肥満細胞白血病の患者の予後は、細胞の侵襲的性質及び主腫瘍から細胞が脱着する傾向に因り悪い。これらの腫瘍の全てではないが多くは、それらを恒常的に活性化させる、チロシンキナーゼ受容体KIT(幹細胞因子受容体)における突然変異を有し、これにより、悪性肥満細胞(MC)の制御不能な増殖が起こる。成人全身性肥満細胞症における臨床症状は不均一であり、皮膚疾患(通常、色素性蕁麻疹)、肥満細胞メディエーター遊離症状(頭痛、潮紅、意識朦朧、失神、アナフィラキシーなど)、及び直接的又は間接的な臓器損傷(溶解性骨病変、骨粗鬆症、又は骨折による骨痛、肝脾腫、骨髄における発症による血球減少)を含む。さらに、全身性肥満細胞症患者の約20%は、かなりの及び時には孤立性の血中好酸球増加症を呈する場合がある。特に、本発明の方法は、KIT突然変異(例えば、D816V又はΔ417~419insY突然変異)を有する患者の処置に特に適している。「KIT」という用語は当技術分野におけるその一般的な意味を有し、ヒトKITを指す。KITはまた、「kit」、「c-kit」、「CD117」又は「幹細胞因子受容体」としても知られている。例示的なナイーブKITアミノ酸配列が、アクセッション番号P10721の下でUniProtKB/Swiss-Protに提供されている。KIT突然変異を検出する方法は当技術分野において周知であり、典型的にはPCRアッセイを含む。
【0009】
本明細書において使用する「肥満細胞活性化症候群」すなわち「MCAS(mast cell activation syndrome)」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、肥満細胞の不適切な活性化から生じる臨床徴候及び臨床症状の集合を包含し、ここでは肥満細胞の増殖も、又はさもなくば蓄積も観察されない。1つの実施態様によると、肥満細胞活性化症候群は、以下に定義されているような、Molderingsの基準、又はValentの診断基準、又はAkinの診断基準によって定義されている症候群に相当する。第一の実施態様では、肥満細胞活性化症候群は、Molderings et al.(Molderings et al., Journal of Hematology & Oncology, 2011, 4:10)に従って定義されている。
【0010】
本明細書において使用する「処置」又は「処置する」という用語は、予防的処置又は防止的処置、並びに、治癒的処置又は疾患修飾的処置(疾患に罹るリスクがあるか又は疾患に罹っていることが疑われる患者、並びに、病気であるか又は疾患若しくは医学的容態を患っていると診断されている患者の処置を含む)の両方を指し、これは臨床的再発の抑制も含む。障害又は再発している障害の1つ以上の症状を予防、治癒、その発症を遅延、その重症度を低減、又は寛解するために、あるいは、このような処置を行なわなかった時に予想される生存期間を超えて患者の生存期間を延長するために、医学的障害を有するか又は最終的に障害に罹る可能性のある患者に処置が投与され得る。「治療処方計画」によって、病気の処置のパターン、例えば療法中に使用される投薬パターンを意味する。治療処方計画は、誘導処方計画及び維持処方計画を含み得る。「誘導処方計画」又は「誘導期間」という語句は、疾患の初期処置に使用される治療処方計画(又は治療処方計画の一部)を指す。誘導処方計画の一般的目標は、処置処方計画の初期期間中に患者に高いレベルの薬物を提供することである。誘導処方計画は、(部分的に又は全体に)「負荷処方計画」を使用し得、これは医師が維持処方計画中に使用するであろうよりも多くの用量の薬物を投与すること、医師が維持処方計画中に薬物を投与するであろうよりも頻繁に薬物を投与すること、又はその両方を含み得る。「維持処方計画」又は「維持期間」という語句は、例えば、患者が長期間(数か月又は数年間)にわたり寛解を保つために、病気の処置中に患者の維持のために使用される、治療処方計画(又は治療処方計画の一部)を指す。維持処方計画は、連続的療法(例えば、定期的な間隔で、例えば週1回、月1回、年1回などに薬物を投与)又は断続的療法(例えば、間断的処置、断続的処置、再発時における処置、又は特定の予め決定された基準[例えば、疼痛、疾患の徴候など])の到達時の処置を使用し得る。
【0011】
本明細書において使用する「ヘッジホッグ経路」という用語は当技術分野におけるその一般的な意味を有し、ヘッジホッグ(Hh)シグナル伝達を指す。主経路は、ヘッジホッグ分泌細胞内においてヘッジホッグ前駆体タンパク質(45kDa)の誘導によって開始される古典的経路であり、その後、前駆体は、自己触媒的プロセシング及び修飾を受ける。前駆体は、20kDaのN末端シグナルドメインと25kDaのC末端触媒ドメインに切断される。続いて、コレステロール分子が、N末端ドメインのカルボキシ末端に共有結合し、これはその後、ヘッジホッグリガンドとして細胞質ゾルから分泌される。ヘッジホッグを受容する細胞の表面上には、経路の2つのタンパク質が存在する。一方は、12回膜貫通タンパク質であるPatched(Ptch)であり、ヘッジホッグリガンドと相互作用し、他方は、7回膜貫通タンパク質であるSmoothened(Smo)であり、これはシグナル伝達物質である。ヘッジホッグリガンドの非存在下では、PtchはSmoと相互作用することによりその機能を阻害し、下流シグナル伝達カスケードの活性化を妨げる。
【0012】
一旦、ヘッジホッグリガンドがヘッジホッグ相互作用性タンパク質と共にPtchに結合すると、Smo阻害は解かれる:これにより、下流シグナル伝達カスケードが活性化される。この活性化により、融合プロテインキナーゼA、GLI、及びおそらく他の成分のサプレッサーを含む微小管上の巨大分子複合体から、転写因子GLIが遊離する。GLIは核内に進入し、ヘッジホッグ経路の遺伝子をはじめとするいくつかの遺伝子の転写を改変させる。非古典的経路は、ヘッジホッグリガンドの非存在下、又はヘッジホッグ受容体とヘッジホッグリガンドとの間のあらゆる相互作用の非存在下において、Gli転写因子を活性化する。例えば、形質転換増殖因子β(TGF-β)は、機能的なSmad経路を通して、かつヘッジホッグ受容体シグナル伝達とは独立して、Gli1因子及びGli2因子を活性化する(Dennler S et al, Induction of sonic hedgehog mediators by transforming growth factor-beta: Smad3-dependent activation of Gli2 and Gli1 expression in vitro and in vivo. Cancer Res. 2007)。
【0013】
本明細書において使用する「ヘッジホッグ阻害剤」という用語は当技術分野におけるその一般的な意味を有し、ヘッジホッグ経路を阻害することが知られている1つ以上の分子を指す。特に、本発明のヘッジホッグ阻害剤は、古典的経路の阻害剤、又は非古典的経路の阻害剤である。
【0014】
ヘッジホッグ阻害剤は当技術分野において周知であり、典型的には以下の刊行物に記載されている:
【0015】
【表1】



【0016】
いくつかの実施態様では、ヘッジホッグ阻害剤は、国際特許出願の国際公開公報第2014191736号及び国際公開公報第2010147917号に記載されている化合物から選択される。
【0017】
ヘッジホッグ阻害剤の具体例としては、ゼルンボンエポキシド、スタウロスポリン、6-ヒドロキシスタウロスポリン、アルシリアフラビンC、5,6-ジヒドロキシアルシリアフラビンA、フィサリンF、フィサリンB、シクロパミン、HPI-1、HPI-2、HPI-3、及びHPI-4、三酸化二ヒ素(ATO)、亜ヒ酸ナトリウム、フェニルアルシン、GANT-58、GANT-61、及びゼルンボン(Kim et al., 2010, PNAS, 107:13432-37; Beauchamp et al. 2011, JCI 121:148-60; Lauth et al 2007, PNAS 104:8455-60; Hosoya et al., 2008, ChemBioChem 9:1082-92; Hyman et al, 2009, 106:14132-37;及びMas et al, 2010, Biochem. Pharm. 80:712-23、これらは全てここにその全体が参照により組み入れられる)が挙げられるがこれらに限定されない。他の例は、ビスモデギブ(GDC-0449、ジェネンテック社)、BMS-833923(XL139)、IPI-926(インフィニティ・ファーマシューティカルズ社)、LDE225、LEQ506(ノバルティス・ファーマシューティカルズ社)、TAK-441(ミレニアム・ファーマシューティカルズ社)、及びPF-04449913(ファイザー社)を単独で又は併用療法で含む。
【0018】
ヘッジホッグ阻害剤の他の例としては、4-フルオロ-N-メチル-N-(1-(4-(1-メチル-1H-ピラゾール-5-イル)フタラジン-1-イル)ピペリジン-4-イル)-2-(トリフルオロメチル)ベンズアミド、4-フルオロ-N-メチル-N-(1-(4-(1-メチル-1H-ピラゾール-5-イル)フタラジン-1-イル)ピペリジン-4-イル)-2-(トリフルオロメチル)ベンズアミド塩酸塩が挙げられる。
【0019】
いくつかの実施態様では、本発明のヘッジホッグ阻害剤は、
【化1】

で示される式によって特徴付けられるビスモデギブである。
【0020】
上記のような本発明のヘッジホッグ阻害剤の「治療有効量」によって、化合物の十分量を意味する。しかしながら、本発明の化合物及び組成物の1日総使用量は、妥当な医学的判断の範囲内で担当の医師によって決定されるであろうことが理解されるであろう。任意の特定の被験者に対する具体的な治療有効量レベルは、任意の特定の被験者に対する具体的な治療有効量レベルは、処置される障害及び障害の重症度;使用される具体的な化合物の活性;使用される具体的な組成;被験者の年齢、体重、全身の健康状態、性別及び食事;使用される具体的な化合物の投与時刻、投与経路、及び排泄速度;処置期間;使用される具体的なポリペプチドと組み合わせて又は同時に使用される薬物;並びに医学分野において周知である同様な因子をはじめとする、様々な因子に依存するだろう。例えば、所望の治療効果を達成するのに必要とされるよりも低いレベルで化合物の用量を開始し、所望の効果が達成されるまで用量を次第に増加させることは、十分に当業者の技能範囲内である。しかしながら、製品の1日量は、成人1人あたり1日あたり0.01~1,000mgの広い範囲におよび変更されてもよい。好ましくは、該組成物は、処置される予定の被験者への症状による用量の調整のために、0.01、0.05、0.1、0.5、1.0、2.5、5.0、10.0、15.0、25.0、50.0、100、250、及び500mgの活性成分を含有している。医薬品は典型的には、約0.01mgから約500mgの活性成分、好ましくは1mgから約100mgの活性成分を含有している。薬物の有効量は通常、0.0002mg/kgから約20mg/kg(体重)/日、特に約0.001mg/kgから7mg/kg(体重)/日の用量レベルで供給される。
【0021】
いくつかの実施態様では、本発明のヘッジホッグ阻害剤は、チロシンキナーゼ阻害剤と組み合わせて患者に投与される。本明細書において使用する「チロシンキナーゼ阻害剤」という用語は、受容体型及び/又は非受容体型チロシンキナーゼの選択的又は非選択的阻害剤として作用する、様々な治療剤又は治療薬のいずれかを指す。チロシンキナーゼ阻害剤及び関連する化合物は、当技術分野において周知である。チロシンキナーゼ阻害剤の例としては、PKC412(ミドスタウリン)、アファチニブ、アリトレチノイン、アキシチニブ、バフェチニブ、ベキサロテン、BI-2536、ボスチニブ、ブリバニブ、カネルチニブ、セジラニブ、CP724714、クリゾチニブ、ダサチニブ、ダヌセルチブ、ドビチニブ、E7080、エルロチニブ、エベロリムス、フォスタマチニブ、ゲフィチニブ、イマチニブ、ラパチニブ、レスタウルチニブ、リンシチニブ、マシチニブ、モテサニブ、ネラチニブ、ニロチニブ、NVP TAE-684、OSI-027、OSI-420、OSI-930、パゾパニブ、ペリチニブ、PF573228、レゴラフェニブ、ロミデプシン、ルキソリチニブ、サラカチニブ、ソラフェニブ、スニチニブ、TAE226、TAE684、タンデュチニブ、テラチニブ、タウチニブ、テムシロリムス、トセラニブ、トファシチニブ、トザセルチブ、トレチノイン、バンデタニブ、バタラニブ、ベムラフェニブ、ボリノスタット、及びWZ4002が挙げられるがこれらに限定されない。本発明において使用するのに適したさらなるチロシンキナーゼ阻害剤及び関連する化合物は、例えば、米国特許出願公開公報第2007/0254295号、米国特許第5,618,829号、第5,639,757号、第5,728,868号、第5,804,396号、第6,100,254号、第6,127,374号、第6,245,759号、第6,306,874号、第6,313,138号、第6,316,444号、第6,329,380号、第6,344,459号、第6,420,382号、第6,479,512号、第6,498,165号、第6,544,988号、第6,562,818号、第6,586,423号、第6,586,424号、第6,740,665号、第6,794,393号、第6,875,767号、第6,927,293号、及び第6,958,340号に記載され、これらは全てその全体が参照により本明細書に組み入れられる。特に、本発明のヘッジホッグ阻害剤は、マシチニブと組み合わせて患者に投与される。マシチニブの化学名は、4-(4-メチルピペラジン-1-イルメチル)-N-[4-メチル-3-(4-ピリジン-3-イルチアゾール-2-イルアミノ)フェニル]ベンズアミド(CAS番号790299-79-5)である。いくつかの実施態様では、本発明のヘッジホッグ阻害剤は、PKC412(ミドスタウリン)と組み合わせて患者に投与される。本明細書において使用する「PKC412」又は「ミドスタウリン」という用語は当技術分野におけるその一般的な意味を有し、N-[(9S,10R,11R,13R)-2,3,10,11,12,13-ヘキサヒドロ-10-メトキシ-9-メチル-1-オキソ-9,13-エポキシ-1H,9H-ジインドロ[1,2,3-gh:3’,2’,1’-lm]ピローロ[3,4-j][1,7]ベンゾジアゾニン-11-イル]-N-メチル-ベンズアミド(CAS番号:120685-11-2)を指す。該用語はまた、CGP41231、CGP41251、及びN-ベンゾイルスタウロスポリンとしても知られている。PKC412は、慣用的なPKCアイソフォーム(α、β、及びγ)、Syk、FLK1、Akt、PKA、c-Kit、C-Fgr、c-Src、FLT3、PDFRβ、VEGFR1、及びVEGFR2をはじめとする、いくつかのセリン/トレオニン及びチロシンキナーゼの細胞透過性で可逆性の阻害剤であり、IC50値の範囲は80~500nMである。
【0022】
本発明のヘッジホッグ阻害剤は、薬学的に許容される賦形剤、及び場合により持続放出マトリックス、例えば生分解性ポリマーと組み合わせることにより、治療組成物を形成し得る。「薬学的に」又は「薬学的に許容される」は、適宜、哺乳動物、特にヒトに投与された場合に、有害反応、アレルギー反応、又は他の望ましくない反応を生じない分子実体及び組成物を指す。薬学的に許容される担体又は賦形剤は、無毒性の固体、半固体、又は液体の充填剤、希釈剤、封入材料、又はあらゆる種類の製剤化助剤を指す。経口、舌下、皮下、筋肉内、静脈内、経皮、局所、又は直腸投与のための本発明の医薬組成物において、活性成分を単独で又は別の活性成分と組み合わせて、単位投与形で、従来の薬学的支持体との混合物として、動物及びヒトに投与することができる。適切な単位投与剤形は、経口経路剤形、例えば錠剤、ゲルカプセル剤、散剤、顆粒剤、及び経口用懸濁剤又は液剤、舌下及び頬側投与剤形、エアゾール、埋込剤、皮下、経皮、局所、腹腔内、筋肉内、静脈内、真皮下、経皮、くも膜下腔内、及び鼻腔内投与剤形、並びに直腸投与剤形を含む。小腸又は大腸に特に送達するために、生薬への応用が実施され得る。好ましくは、医薬組成物は、注射され得る製剤にとって薬学的に許容されるビヒクルを含有している。これらは、特に、等張で無菌の食塩水溶液(リン酸一ナトリウム若しくはリン酸二ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム若しくは塩化マグネシウムなど、又はこのような塩の混合物)、又は場合に応じて滅菌水若しくは生理食塩水を添加すると注射液の復元を可能とする乾燥させた、特に凍結乾燥させた組成物であり得る。注射用途に適した医薬剤形としては、無菌水溶液又は分散液;ゴマ油、ピーナッツ油、又は水性プロピレングリコールを含む製剤;及び、無菌注射液又は分散液の即時調製のための無菌粉末が挙げられる。全ての場合において、剤形は無菌でなければならず、シリンジが容易に扱える程度に流動性でなければならない。それは、製造及び保存の条件下で安定でなければならず、細菌及び真菌などの微生物の汚染作用から防腐されていなければならない。本発明のヘッジホッグ阻害剤を遊離塩基又は薬理学的に許容される塩として含む溶液は、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤と適切に混合された水中において調製され得る。分散液はまた、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、及びその混合物中において並びに油中において調製され得る。通常の保存及び使用の条件下で、これらの製剤は、微生物の増殖を防ぐ保存剤を含有している。本発明のヘッジホッグ阻害剤は、中性形又は塩の形の組成物へと製剤化され得る。薬学的に許容される塩としては、酸付加塩(タンパク質の遊離アミノ基を用いて形成される)が挙げられ、これは無機酸、例えば塩酸若しくはリン酸、又はこのような有機酸、例えば酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などを用いて形成される。遊離カルボキシル基を用いて形成される塩はまた、無機塩基、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、又は水酸化鉄、及びこのような有機塩基、例えばイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカインなどから誘導され得る。担体はまた、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコールなど)、その適切な混合物、及び植物油を含有している溶媒又は分散媒体であり得る。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング剤の使用によって、分散液の場合には必要とされる粒径の維持によって、及び界面活性剤の使用によって維持され得る。微生物の作用の防御は、様々な抗細菌剤及び抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによってもたらされ得る。多くの場合、等張剤、例えば糖又は塩化ナトリウムを含めることが好ましいだろう。注射用組成物の吸収延長は、該組成物中に吸収を遅延させる物質、例えばモノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンを使用することによってもたらされ得る。無菌注射液は、必要量の活性ポリペプチドを適切な溶媒中に、必要であれば上記に列挙された他の様々な成分と共に取り込み、その後、滅菌ろ過することによって調製される。一般的に、分散液は、様々な滅菌された活性成分を、基本分散媒体と上記に列挙された成分の中からの必要とされる他の成分とを含有している無菌ビヒクルに取り込むことによって調製される。無菌注射液の調製のための無菌粉末の場合、好ましい調製法は真空乾燥及び凍結乾燥技術であり、これにより、以前に滅菌ろ過されたその溶液から活性成分と任意の追加の所望の成分の粉末が得られる。製剤化時に、液剤は、投与製剤と適合性の様式で、かつ治療的に有効な量で投与されるだろう。製剤は、様々な剤形で、例えば上記のようなタイプの注射液で容易に投与されるが、薬物放出カプセルなども使用することができる。水溶液での非経口投与のために、例えば、液剤は、必要であれば適切に緩衝化されるべきであり、液体希釈剤は、まず、十分な食塩水又はブドウ糖を用いて等張とすべきである。これらの特定の水溶液は、静脈内、筋肉内、皮下、及び腹腔内投与のために特に適している。これに関連して、使用され得る無菌水性媒体は、本開示に鑑みて当業者には公知であろう。例えば、1用量を等張NaCl溶液1mlに溶解し、皮下点滴療法用の液体1000mlに加えるか又は提案された注入部位に注射し得る。用量の幾分の変更が、処置される被験者の容態に依存して必然的に行なわれるだろう。投与責任者は、いずれの事象においても、個々の被験者に対する適切な用量を決定するだろう。本発明のヘッジホッグ阻害剤は、治療用混合物内において、1用量あたり、約0.0001~1.0mg、又は約0.001~0.1mg、又は約0.1~1.0mg、又はさらには約10mgを含むように製剤化され得る。複数の用量を投与してもよい。静脈内注射又は筋肉内注射などの非経口投与のために製剤化された本発明のヘッジホッグ阻害剤の他に、他の薬学的に許容される剤形としては、例えば、経口投与用の錠剤又は他の固形剤;リポソーム製剤;徐放性カプセル剤;及び現在使用されている任意の他の剤形が挙げられる。
【0023】
本発明は、以下の図面及び実施例によってさらに説明されるだろう。しかしながら、これらの実施例及び図面は、いずれにしても、本発明の範囲を限定するものと捉えられるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1A】ヘッジホッグ標的遺伝子の発現。a)ROSA KIT WT細胞株、ROSA KIT D816V細胞株、及びROSA KIT K417細胞株におけるGLI1、GLI3、及びBcl2のイムノブロット;b)ROSA KIT WT細胞株、ROSA KIT D816V細胞株、白血病肥満細胞、及び初代肥満細胞における、アクチンのmRNAに対して標準化された、GLI1、GLI2、及びGLI3の相対的mRNAレベルを、定量RT-PCRによって実施した。3回の独立した実験を3回ずつ実施した。データは、平均値±標準偏差として示される。
図1B】ヘッジホッグ標的遺伝子の発現。a)ROSA KIT WT細胞株、ROSA KIT D816V細胞株、及びROSA KIT K417細胞株におけるGLI1、GLI3、及びBcl2のイムノブロット;b)ROSA KIT WT細胞株、ROSA KIT D816V細胞株、白血病肥満細胞、及び初代肥満細胞における、アクチンのmRNAに対して標準化された、GLI1、GLI2、及びGLI3の相対的mRNAレベルを、定量RT-PCRによって実施した。3回の独立した実験を3回ずつ実施した。データは、平均値±標準偏差として示される。
図2】2μM又は5μMのプルモルファミンによる刺激(12又は24時間)後の、ROSA KIT WT細胞株及びROSA KIT D816V細胞株におけるGLI1のイムノブロット。
図3A】ビスモデギブは、肥満細胞の増殖を阻害する。a)144時間の間における、DMSO(対照)、10、20、又は50μMのビスモデギブを用いて処置されたROSA KIT WTの集密率。b)144時間の間における、DMSO(対照)、10、20、又は50μMのビスモデギブを用いて処置されたROSA KIT D816Vの集密率。c)144時間の間における、DMSO(対照)、10、20、又は50μMのビスモデギブを用いて処置されたROSA KIT K417の集密率。d)DMSO又はビスモデギブを用いて処置された、ROSA KIT WT細胞株及びD816V細胞株におけるGLI1のイムノブロット。3回の独立した実験を、IncuCyte(登録商標)生細胞分析システムを使用して3回ずつ実施した。データは、平均値±標準偏差として示される。
図3B】ビスモデギブは、肥満細胞の増殖を阻害する。a)144時間の間における、DMSO(対照)、10、20、又は50μMのビスモデギブを用いて処置されたROSA KIT WTの集密率。b)144時間の間における、DMSO(対照)、10、20、又は50μMのビスモデギブを用いて処置されたROSA KIT D816Vの集密率。c)144時間の間における、DMSO(対照)、10、20、又は50μMのビスモデギブを用いて処置されたROSA KIT K417の集密率。d)DMSO又はビスモデギブを用いて処置された、ROSA KIT WT細胞株及びD816V細胞株におけるGLI1のイムノブロット。3回の独立した実験を、IncuCyte(登録商標)生細胞分析システムを使用して3回ずつ実施した。データは、平均値±標準偏差として示される。
図3C】ビスモデギブは、肥満細胞の増殖を阻害する。a)144時間の間における、DMSO(対照)、10、20、又は50μMのビスモデギブを用いて処置されたROSA KIT WTの集密率。b)144時間の間における、DMSO(対照)、10、20、又は50μMのビスモデギブを用いて処置されたROSA KIT D816Vの集密率。c)144時間の間における、DMSO(対照)、10、20、又は50μMのビスモデギブを用いて処置されたROSA KIT K417の集密率。d)DMSO又はビスモデギブを用いて処置された、ROSA KIT WT細胞株及びD816V細胞株におけるGLI1のイムノブロット。3回の独立した実験を、IncuCyte(登録商標)生細胞分析システムを使用して3回ずつ実施した。データは、平均値±標準偏差として示される。
図3D】ビスモデギブは、肥満細胞の増殖を阻害する。a)144時間の間における、DMSO(対照)、10、20、又は50μMのビスモデギブを用いて処置されたROSA KIT WTの集密率。b)144時間の間における、DMSO(対照)、10、20、又は50μMのビスモデギブを用いて処置されたROSA KIT D816Vの集密率。c)144時間の間における、DMSO(対照)、10、20、又は50μMのビスモデギブを用いて処置されたROSA KIT K417の集密率。d)DMSO又はビスモデギブを用いて処置された、ROSA KIT WT細胞株及びD816V細胞株におけるGLI1のイムノブロット。3回の独立した実験を、IncuCyte(登録商標)生細胞分析システムを使用して3回ずつ実施した。データは、平均値±標準偏差として示される。
図4A】GANT61は、肥満細胞の増殖を阻害する。A)144時間の間における、DMSO(対照)、10、30、又は50μMのGANT61を用いて処置されたROSA KIT WTの集密率。B)144時間の間における、DMSO(対照)、10、30、又は50μMのGANT61を用いて処置されたROSA KIT D816Vの集密率。C)144時間の間における、DMSO(対照)、10、30、又は50μMのGANT61を用いて処置されたROSA KIT K417の集密率。D)DMSO又はGANT61を用いて処置されたROSA KIT WT細胞株及びD816V細胞株におけるGLI1のイムノブロット。3回の独立した実験を、IncuCyte(登録商標)生細胞分析システムを使用して3回ずつ実施した。データは、平均値±標準偏差として示される。
図4B】GANT61は、肥満細胞の増殖を阻害する。A)144時間の間における、DMSO(対照)、10、30、又は50μMのGANT61を用いて処置されたROSA KIT WTの集密率。B)144時間の間における、DMSO(対照)、10、30、又は50μMのGANT61を用いて処置されたROSA KIT D816Vの集密率。C)144時間の間における、DMSO(対照)、10、30、又は50μMのGANT61を用いて処置されたROSA KIT K417の集密率。D)DMSO又はGANT61を用いて処置されたROSA KIT WT細胞株及びD816V細胞株におけるGLI1のイムノブロット。3回の独立した実験を、IncuCyte(登録商標)生細胞分析システムを使用して3回ずつ実施した。データは、平均値±標準偏差として示される。
図4C】GANT61は、肥満細胞の増殖を阻害する。A)144時間の間における、DMSO(対照)、10、30、又は50μMのGANT61を用いて処置されたROSA KIT WTの集密率。B)144時間の間における、DMSO(対照)、10、30、又は50μMのGANT61を用いて処置されたROSA KIT D816Vの集密率。C)144時間の間における、DMSO(対照)、10、30、又は50μMのGANT61を用いて処置されたROSA KIT K417の集密率。D)DMSO又はGANT61を用いて処置されたROSA KIT WT細胞株及びD816V細胞株におけるGLI1のイムノブロット。3回の独立した実験を、IncuCyte(登録商標)生細胞分析システムを使用して3回ずつ実施した。データは、平均値±標準偏差として示される。
図4D】GANT61は、肥満細胞の増殖を阻害する。A)144時間の間における、DMSO(対照)、10、30、又は50μMのGANT61を用いて処置されたROSA KIT WTの集密率。B)144時間の間における、DMSO(対照)、10、30、又は50μMのGANT61を用いて処置されたROSA KIT D816Vの集密率。C)144時間の間における、DMSO(対照)、10、30、又は50μMのGANT61を用いて処置されたROSA KIT K417の集密率。D)DMSO又はGANT61を用いて処置されたROSA KIT WT細胞株及びD816V細胞株におけるGLI1のイムノブロット。3回の独立した実験を、IncuCyte(登録商標)生細胞分析システムを使用して3回ずつ実施した。データは、平均値±標準偏差として示される。
図5A】KIT-D816V突然変異を有する又は有さない様々な肥満細胞系統におけるGLI転写因子の発現分析。A)GLI1、GLI2、GLI3L、及びGLI3Rの発現をウェスタンブロット分析によって決定した。β-アクチンをこれらの実験におけるローディング内部対照として使用した。GLI2は、いずれの細胞系統にも検出されなかった(データは示されていない)。B)棒グラフは、β-アクチンを用いての標準化後のウェスタンブロットデータから計算されたGLI3R/GLI3L比を示す。C)GLI1タンパク質の発現レベルは、肥満細胞株におけるGLI3R(GLI3の抑制形)の発現レベルと逆相関している。
図5B】KIT-D816V突然変異を有する又は有さない様々な肥満細胞系統におけるGLI転写因子の発現分析。A)GLI1、GLI2、GLI3L、及びGLI3Rの発現をウェスタンブロット分析によって決定した。β-アクチンをこれらの実験におけるローディング内部対照として使用した。GLI2は、いずれの細胞系統にも検出されなかった(データは示されていない)。B)棒グラフは、β-アクチンを用いての標準化後のウェスタンブロットデータから計算されたGLI3R/GLI3L比を示す。C)GLI1タンパク質の発現レベルは、肥満細胞株におけるGLI3R(GLI3の抑制形)の発現レベルと逆相関している。
図5C】KIT-D816V突然変異を有する又は有さない様々な肥満細胞系統におけるGLI転写因子の発現分析。A)GLI1、GLI2、GLI3L、及びGLI3Rの発現をウェスタンブロット分析によって決定した。β-アクチンをこれらの実験におけるローディング内部対照として使用した。GLI2は、いずれの細胞系統にも検出されなかった(データは示されていない)。B)棒グラフは、β-アクチンを用いての標準化後のウェスタンブロットデータから計算されたGLI3R/GLI3L比を示す。C)GLI1タンパク質の発現レベルは、肥満細胞株におけるGLI3R(GLI3の抑制形)の発現レベルと逆相関している。
図6】GANT61は肥満細胞の増殖を阻害し、肥満細胞のアポトーシスを誘発する。ROSA WT及びROSA D816Vを、漸増量のGANT61ヘッジホッグ阻害剤を用いて処置し、細胞増殖又は細胞アポトーシスに関連したタンパク質の発現を、ウェスタンブロットによって決定した。mTOR、p-AKT、AKT、MYC(上)、カスパーゼ3、BCL2、及びBCLX-L(下)のタンパク質発現レベルは、GANT61を用いて処置されたROSA WT及びROSA D816Vの両方において用量依存的に減少した。β-アクチンは、ローディング対照として使用された。
図7】Incucyte細胞イメージングシステムを使用した、ROSA KIT417肥満細胞の細胞増殖に対する、PKC412及びビスモデギブの併用効果。様々な用量のビスモデギブ及びPKC412(ミドスタウリン)を組み合わせて、ROSA417細胞株を処置し、細胞増殖に対するそれらの効果を決定した。分析は、300nMのPKC412と組み合わせた20μMのビスモデギブが、完全にROSA K417の増殖を阻害することを示す。
図8】ビスモデギブとPKC412の組合せは、PKC412単独又はビスモデギブ単独と比較して、ROSA WT及びROSA417の細胞死を有意に増加させる。A)20μMのビスモデギブと300nMのPKC412の組合せは、ROSA WTにおいて80%の細胞死亡率を誘発する。B)20μMのビスモデギブと300nMのPKC412の組合せは、ROSA417において70%の細胞死亡率を誘発する。
【0025】
実施例:
方法
細胞培養
様々な肥満細胞型(臍帯血CD34+細胞に由来する初代肥満細胞、ヒトMCL由来細胞株HMC-1、樹立された3つのヒト肥満細胞株ROSA-WT及びROSA-D816V、ROSA KITΔ417-419insY(Saleh R et al, A new human mast cell line expressing a functional IgE receptor converts to tumorigenic growth by KIT D816V transfection Blood 2014)、並びに肥満細胞症白血病患者の末梢血から選別された白血病肥満細胞)を使用して、肥満細胞増殖におけるヘッジホッグシグナル伝達経路の関与を示し、増殖停止及びアポトーシスに対するヘッジホッグ阻害剤の能力を実証した。ヒトMCL由来細胞株HMC-1は、フランス、パリのMichel Arock博士によって親切にも贈呈された。2つのサブクローン、すなわち、KIT V560Gを発現しているHMC-1.1、並びにKIT V560G及びKIT D816Vを発現しているHMC-1.2を使用した。
【0026】
ヒト初代肥満細胞、患者の白血病肥満細胞、及びROSA KIT-WT細胞株を、100U/mlのペニシリン/ストレプトマイシン(P/S)(インビトロジェン社)、1%のピルビン酸ナトリウム(インビトロジェン社)、1%のビタミン(インビトロジェン社)、1%のグルタミン(インビトロジェン社)、2%の非必須アミノ酸(インビトロジェン社)、1%の市販のインシュリン・トランスフェリン・亜セレン酸ナトリウム溶液(インビトロジェン社)、100ng/mlのヒト幹細胞因子の存在下における0.3%のウシアルブミン(BSA)(ミルテニーバイオテク社)の補充された、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)-グルタマックス(登録商標)(インビトロジェン社)中で培養した。「ROSA KIT D816V」肥満細胞、「ROSA KITΔ417-419insY」肥満細胞、及び突然変異したKIT受容体(CD117)を有するHMC-1株は、上記と同じ培地中で増殖させるが、ヒト幹細胞因子の非存在下で増殖させる。
【0027】
ウェスタンブロット及びRT-qPCR:
上記の各種細胞に由来する500万個の細胞を一晩かけて飢餓させた後、細胞を、様々な用量のヘッジホッグ経路の化学物質アゴニスト(例えばプルモルファミン)又はアンタゴニスト(例えばGant61)を用いて、いくつかの時間経過をかけて処置した。次いで、細胞を収集してRNA又はタンパク質を抽出し、RT-qPCR又はウェスタンブロット分析による遺伝子発現分析を実施した。ヘッジホッグ遺伝子Gli1-2-3、Smo、Patch受容体、SHH-IHH-DHHリガンド、及び腫瘍サプレッサーBcl2遺伝子を調べた。アポトーシス(Bcl2、カスパーゼ3、Bcl-xl)及びPI3K/AKT/mTOR経路に関与するタンパク質である、ヘッジホッグタンパク質(Gli1及びGli3)を調べた。
【0028】
細胞増殖及びアポトーシスアッセイ
細胞増殖の動態アッセイを、IncuCyte(登録商標)生細胞分析システムを使用して10000個の細胞/ウェルで3回ずつ、1週間の間に、化合物Gant61、ビスモデギブを個々に又は組み合わせたものの存在下又は非存在下において実施して、肥満細胞増殖に対するそれらの効果を決定した。化合物を初日に様々な用量で加え、培地は7日間にわたり変更しなかった。週の終わりに、肥満細胞の死滅を、7-アミノ-アクチノマイシン生存判定染色溶液を使用してフローサイトメトリーによって調べた。
【0029】
結果
肥満細胞におけるヘッジホッグ標的遺伝子の発現
肥満細胞(MC)におけるヘッジホッグ活性を評価するために、本発明者らは、様々な肥満細胞型(初代肥満細胞株、白血病肥満細胞株、及びヒト肥満細胞株)におけるGLI1-2-3遺伝子の発現を探索した(材料及び方法を参照)。ウェスタンブロット(図1a)及びRT-qPCR(図1b)によって得られた予備調査結果は、様々な細胞型において様々な発現パターンを有するGLI1及び/又はGLI2及び/又はGLI3の発現を実証し、これにより初めて、正常な及び異常なヒト肥満細胞におけるヘッジホッグシグナル伝達経路の活性化が実証された。
【0030】
肥満細胞における古典的なヘッジホッグシグナル伝達経路の活性化
肥満細胞におけるヘッジホッグ古典的経路を探索するために、本発明者らは、ヒト肥満細胞株におけるSMOアゴニストであるプルモルファミンによる刺激後に、GLI1タンパク質の発現を分析した。GLI1の発現は、プルモルファミンによる刺激後、特にROSA KIT D816Vにおいて刺激から24時間後に明瞭に増加した(図2)。これらの予備調査結果により本発明者らは、肥満細胞増殖に対する、ヘッジホッグ経路の阻害の結果、特に古典的経路の阻害の結果を探索した。
【0031】
ヘッジホッグシグナル伝達経路の阻害は、肥満細胞の増殖を阻害し、アポトーシスを誘発する
漸増量のビスモデギブ(10、20、50μM)を介したヘッジホッグシグナル伝達経路の阻害は、用量依存的にROSA細胞株の増殖を妨げた(図3)。この阻害は、ROSA KIT WT細胞株においてよりもKITの突然変異したROSA細胞株(ROSA KIT D816V及びK417)における方がより壮大であった(図3b及び3c)
【0032】
肥満細胞の増殖はまた、GANT61を用いての処置後にも阻害された。この阻害は、ビスモデギブによる阻害よりも劇的であり、効果はこれもまたKITの突然変異したROSA細胞株における方がより大きかった(図4)。細胞増殖を阻害する他に、GANT61により肥満細胞が死滅した。この細胞死は、5%(5μMのGANT61)から90%超(50μMのGANT61、データは示されていない)の範囲におよび、用量依存的であった。興味深いことに、GANT61は、白血病肥満細胞死も誘発した(データは示されていない)。
【0033】
どのような細胞型であれ、このような細胞死の誘導は、GANT61と比べてビスモデギブでははるかにあまり重要ではなかった(データは示されていない)。
【0034】
肥満細胞症におけるヘッジホッグ経路の関与
図5は、KIT-D816V突然変異を有する又は有さない様々な肥満細胞系統における、GLI転写因子の発現分析を示す。
【0035】
図6は、GANT61が肥満細胞の増殖を阻害し、肥満細胞のアポトーシスを誘発することを示す。
【0036】
図7は、Incucyte細胞イメージングシステムを使用した、ROSA KIT417肥満細胞の細胞増殖に対する、PKC412及びビスモデギブの併用効果を示す。
【0037】
図8は、ビスモデギブとPKC412の組合せが、PKC412単独又はビスモデギブ単独と比較して、ROSA WT及びROSA417の細胞死を有意に増加させることを示す。
【0038】
参考文献:
本出願全体を通して、様々な参考文献が、本発明が属する技術分野の最新技術を記載する。これらの参考文献の開示は、ここに参照することにより本開示に組み込まれる。
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
【手続補正書】
【提出日】2023-01-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書に記載される発明。
【外国語明細書】