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特開2023-30114新しい免疫調節細胞およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023030114
(43)【公開日】2023-03-07
(54)【発明の名称】新しい免疫調節細胞およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0786 20100101AFI20230228BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20230228BHJP
   A61K 35/15 20150101ALI20230228BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 7/06 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 9/14 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 11/02 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20230228BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20230228BHJP
【FI】
C12N5/0786
C12M1/00 A
A61K35/15
A61P1/04
A61P1/16
A61P3/10
A61P7/06
A61P9/10
A61P9/14
A61P11/02
A61P11/06
A61P17/00
A61P19/02
A61P25/00
A61P29/00
A61P29/00 101
A61P37/02
A61P37/06
A61P37/08
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205946
(22)【出願日】2022-12-22
(62)【分割の表示】P 2020200766の分割
【原出願日】2017-03-13
(31)【優先権主張番号】16159985.7
(32)【優先日】2016-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】518322746
【氏名又は名称】トリゼル ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】ハッチンソン ジェイムズ
(72)【発明者】
【氏名】ガイスラー エドワード
(57)【要約】      (修正有)
【課題】様々な免疫学的および非免疫学的な疾患および症状を処置するのに有用な新規免疫調節性マクロファージ細胞を提供する。
【解決手段】免疫調節性マクロファージ細胞を作製するための方法は、
(a)対象の血液試料からCD14陽性単球を単離することと;
(b)該単球を気体透過性バッグ内で、(i)M-CSFおよび/またはGM-CSFならびに(ii)CD16リガンドを含有する培地中で培養することと;
(c)該細胞をIFN-γと接触させることと;
(d)該培地から該免疫調節性マクロファージ細胞を得ることと
を含む。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)対象の血液試料からCD14陽性単球を単離することと;
(b)該単球を気体透過性バッグ内で、(i)M-CSFおよび/またはGM-CSFならびに(ii)CD16リガンドを含有する培地中で培養することと;
(c)該細胞をIFN-γと接触させることと;
(d)該培地から該免疫調節性マクロファージ細胞を得ることと
を含む、免疫調節性マクロファージ細胞を作製するための方法。
【請求項2】
ステップ(b)において該培地がヒト血清、例えばヒトAB血清を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(b)において該M-CSFおよび/またはGM-CSFの濃度が5~100ng/ml、好ましくは20~25ng/mlの範囲である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(b)において該単球がIFN-γ刺激に先立って少なくとも3日間、少なくとも4日間、少なくとも5日間、少なくとも6日間、または少なくとも7日間培養される、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
該気体透過性バッグがプラスチック、好ましくはポリオレフィンで作られている、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ステップ(c)において該IFN-γの濃度が5~100ng/ml、好ましくは20~25ng/mlの範囲である、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
請求項1~6に記載の方法によって得られる免疫調節性マクロファージ細胞。
【請求項8】
以下のマーカー:CD38、CD209およびシンデカン-3のうちの1つ以上を発現しない、免疫調節性マクロファージ細胞。
【請求項9】
マーカーCD103、CD10およびClec-9aのうちの少なくとも1つを発現する、免疫調節性マクロファージ細胞。
【請求項10】
マーカーCD85hおよびCD258のうちの少なくとも1つをさらに発現する、請求項8または9に記載の免疫調節性マクロファージ細胞。
【請求項11】
請求項7~10のいずれかに記載の該免疫調節性マクロファージ細胞またはその細胞レベル以下の画分を含む医薬組成物。
【請求項12】
移植拒絶反応を抑制しかつ/または移植物を受けている対象における移植生存期間を延ばす方法において使用するための、請求項7~10のいずれかに記載の免疫調節性マクロファージ細胞もしくはその細胞レベル以下の画分または請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記移植物が同種異系移植物である、請求項12のいずれかに記載の方法において使用するための免疫調節性マクロファージ細胞もしくはその細胞レベル以下の画分または医薬組成物。
【請求項14】
生着または調節性T細胞に基づく医薬品の効果を促進させるかまたは持続させる方法において使用するための、請求項7~10のいずれかに記載の免疫調節性マクロファージ細胞もしくはその細胞レベル以下の画分または請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項15】
自己免疫疾患、炎症性疾患または過敏性反応を処置または防止する方法において使用するための、請求項7~10のいずれかに記載の免疫調節性マクロファージ細胞もしくはその細胞レベル以下の画分または請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記自己免疫疾患が、全身性紅斑性狼瘡(SLE)、強皮症、シェーグレン症候群、多発性筋炎、皮膚筋炎およびその他の全身性自己免疫症状;関節リウマチ(RA)、若年性関節リウマチおよびその他の炎症性関節炎;潰瘍性大腸炎、クローン病およびその他の炎症性腸疾患;自己免疫性肝炎、原発性胆汁性肝硬変およびその他の自己免疫性肝疾患;皮膚小血管性血管炎、多発血管炎性肉芽腫症、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、ベーチェット病、閉塞性血栓性血管炎、川崎病、および自己免疫を病因とするその他の大型、中型または小型の血管炎;多発性硬化症(MS)および神経免疫学的障害;I型糖尿病、自己免疫性甲状腺機能障害、自己免疫性下垂体機能障害およびその他の自己免疫性内分泌学的障害;溶血性貧血、血小板減少性紫斑病、および血液および骨髄のその他の自己免疫障害;乾癬、尋常性天疱瘡、類天疱瘡およびその他の自己免疫性皮膚症状からなる群から選択される、請求項15に記載の方法において使用するための免疫調節性マクロファージ細胞もしくはその細胞レベル以下の画分または医薬組成物。
【請求項17】
前記炎症性疾患が、動脈閉塞性疾患、例えば末梢動脈閉塞性疾患(pAOD)、重症虚血肢、動脈硬化症、脳梗塞、心筋梗塞、腎梗塞、腸梗塞、狭心症および、動脈の閉塞または狭窄によって引き起こされるその他の症状;心臓シンドロームXとしても知られる微小血管狭心症;II型糖尿病および肥満関連メタボリックシンドロームを含めた全身的に代謝障害に関連する炎症;湿疹を含めた皮膚疾患からなる群から選択される、請求項15に記載の方法において使用するための免疫調節性マクロファージ細胞もしくはその細胞レベル以下の画分または医薬組成物。
【請求項18】
前記過敏性反応が、喘息、湿疹、アレルギー性鼻炎、血管性浮腫、薬物過敏症および肥満細胞症の群から選択される、請求項15に記載の方法において使用するための免疫調節性マクロファージ細胞もしくはその細胞レベル以下の画分または医薬組成物。
【請求項19】
組織再構築、組織再生、血管新生、血管発生、または線維症の防止/制限に関与することによって組織修復プロセスを促進する方法において使用するための、請求項7~10のいずれかに記載の免疫調節性マクロファージ細胞もしくはその細胞レベル以下の画分または請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項20】
(a)CD3eマイクロビーズを使用して対象のT細胞を得ることと;
(b)該T細胞を、請求項14~18のいずれかに記載の免疫調節性マクロファージ細胞またはその細胞レベル以下の画分と共に培養することと;
(c)培地から該免疫調節性T細胞を得ることと
を含む、免疫調節性T細胞を作製するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、様々な免疫学的および非免疫学的な疾患および症状を処置するのに有用な新規免疫調節性マクロファージ細胞に関する。細胞は、他の細胞とは区別される特異なマーカーおよび活性パターンによって特徴付けられる。本発明はさらに、血液単球から免疫調節性マクロファージ細胞を作製するための方法を提供する。さらなる他の態様では、本発明は、本発明の免疫調節性マクロファージ細胞またはその細胞レベル以下の画分を含む医薬組成物に関する。本発明の免疫調節性マクロファージ細胞の細胞レベル以下の画分を作製するための方法も提供する。
【背景技術】
【0002】
レシピエントに寛容性を確立する手段として寛容ドナーから不寛容レシピエントへ免疫調節細胞を移すことは、実験的免疫学において周知の技術であるが、その臨床的応用は現在になってようやく真剣な注目を集めている[1]。現在のところ、調節性T細胞[2]、寛容原性樹状細胞[3]および調節性マクロファージ[4]を含めたいくつかの免疫調節細胞種が前臨床開発の時点に到達しつつあり、そのことは、免疫抑制剤としてそれらを初期治験で調査するのを可能にするであろう。
【0003】
T細胞およびB細胞によって媒介される自己免疫疾患、慢性炎症性障害、移植片対宿主疾患(GVHD)および移植拒絶反応を含めた幅広い免疫学的症状が、細胞に基づく免疫調節療法による処置を受けることができる可能性がある。これらの症状では、細胞に基づく免疫調節療法は、全身的な免疫抑制療法または抗炎症療法の必要性を低減または除去さえしてそれによって患者をその付随合併症から救う可能性を有する。調節細胞によって支援される類の免疫寛容は優勢かつ自己持続性であるため、細胞に基づく免疫調節療法が、それ以外ならば長期の全身的な免疫抑制療法または抗炎症療法を必要とするであろう疾患において、治療選択肢を提供する、という可能性が存在する。
【0004】
移植において補助的免疫抑制剤としての使用のためにとりわけ有望な1つの候補細胞種は、免疫調節性マクロファージ(本明細書中および文献中では「Mreg」と呼ぶ)である。Mreg細胞は、マクロファージ分化の特有の状態を反映しており、その堅牢な表現型および強力なT細胞抑制剤機能によって他の活性状態にあるマクロファージとは区別される[5]。ヒトMregは、試験管内でマイトジェン刺激によるT細胞増殖を強力に抑制し、それは、インターフェロン(IFN)γ誘導性インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ活性と接触依存的な活性化T細胞除去とに起因するものであり得る。加えて、Mregは、活性化誘導調節性T細胞の発達を促し、代わってそれはエフェクターT細胞の増殖を抑制しかつ樹状細胞の成熟を抑制する。したがって、Mregをレシピエントに投与する場合には免疫調節のフィードフォワードループが開始されて外来移植物の長期の免疫許容性または免疫病態の防止をもたらすものと仮定される。一連の事例研究および2つの初期治験において、Mreg含有細胞調合薬が補助的免疫抑制処置の一形態として合計19名の腎移植レシピエントに投与された[5]~[9]。これらの試験的研究は、固形臓器移植のためのこの技術の妥当性を明確に実証している。
【0005】
別の2名の生体腎移植レシピエントは現在、約8.0×106細胞/kgのより純粋なドナー由来Mregで処置されている[5]。これら2名の患者は今や移植から6年超が経っており、彼らの単独の維持用免疫抑制としての低用量タクロリムス単剤療法において腎機能は安定している。生体腎移植におけるMreg療法のさらなる治験は今や、ONE Study(Clinicaltrials.gov:NCT02085629)の枠組み内で規制上の承認を得ている。この治験は、外科手術の7日前における500mg/日のミコフェノール酸モフェチルによる援護下で用量2.5×106~7.5×106個/kg体重のドナー由来Mreg細胞によって16名の患者を処置することを目的としている。
【0006】
免疫調節細胞の分野において近年偉大な進歩が遂げられたにもかかわらず、治療目的のため、例えばレシピエントにおける外来移植物の免疫許容性を誘導するために使用することができる調節細胞、およびこれらの細胞を最も効率的な方法で作製する方法は必要とされ続けている。特に、通常患者に対する高毒性に関連した一般的に使用される免疫抑制医薬を減らすのを可能にする、細胞に基づく療法が必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、以前に記載されたMregとは著しく異なる新規な類のMreg細胞を提供する。Mreg細胞を製造するための改変された方法が新規な類のMreg細胞を生じさせることが予期せずして見出された。具体的には、本発明者らは、Mreg細胞を作製するために使用する単球細胞を培養フラスコの代わりに気体透過性バッグ内で培養した場合、Mreg細胞を細胞に基づく療法の手法に大いに適したものにする免疫調節特性を働かせる特有の表現型のMreg細胞が得られることを見出した。これらの細胞は、本明細書において、これらを既知のMregと区別するために「Mreg-bc」と称される。
【0008】
かくして、第1の態様において本発明は、対象の血液試料からの単球を気体透過性バッグ内でM-CSF/GM-CSF、CD16リガンド(例えば免疫グロブリン)およびIFN-γの存在下で培養することを含む、新規な類のマクロファージを作製する方法に関する。
【0009】
第2の態様において本発明は、本発明の第1の態様において言及した方法によって得ることができる新規な類のMreg細胞、すなわちMreg-bc細胞に関する。Mreg-bc細胞は、従来技術ではみられなかった特有の表現型を有する。Mreg-bc細胞は、この細胞種に特有でありかつ従来技術では記述がなかった有用な治療特性をもたらす生物学的活動を媒介する。
【0010】
第3の態様において本発明は、本発明の第2の態様に係るMreg-bc細胞または上記細胞の細胞レベル以下の画分を含む医薬組成物に関する。本発明の新しい細胞種を含有する医薬組成物は、必要に応じてさらなる活性成分または賦形剤を含有していてもよい。
【0011】
第4の態様において本発明は、治療目的のため、とりわけ有害な免疫学的反応の抑制のための、本発明の第2の態様に係るにMreg-bc細胞もしくはその細胞レベル以下の画分または本発明の第3の態様に係る医薬組成物の使用に関する。
【0012】
第5の態様において本発明は、Mreg-bc細胞を適切な条件下で分解することによって本発明の第2の態様に係るMreg-bc細胞の細胞レベル以下の画分を作製するための方法に関する。
【0013】
最後に、第6の態様において本発明は、対象の血液試料からのT細胞を本発明の第2の態様に係るMreg-bc細胞またはその細胞レベル以下の画分と共に培養することによって免疫調節性T細胞を作製するための方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、FcγRIIIライゲーションがMregの発達を促すことを示す。(A)10%のHABSを補充した培地中で発生したヒトMregは特徴的な広がった形態を呈するが、10%のFCSを含有する培地中でそれ以外を同一にした条件下で成長させたIFN-γMΦは、一様でない長細い形状を獲得する(バー=50μm)。(BおよびC)クロロホルムによるHABSの処理(Chl-HABS)の後、そのMreg誘導能は失われず、Mreg発達に寄与するヒト血清の非脂質成分の存在を示唆していた(n=6)。(D)Ig除去ヒト血清中での単球の培養は、10%のHABS中で成長させたMregに比べてDHRS9 mRNAの発現を減少させた(n=4)。血清から精製したIgかIVIGかのどちらかを添加することでDHRS9 mRNAの発現が回復した。(DおよびE)10%のFCS中で培養したマクロファージによるDHRS9 mRNA発現は、精製IgおよびIVIgのどちらによってもある程度誘導することができた。(H)FcγRIIIに対する抗体は、Mreg培養条件下で成長させたマクロファージによるDHRS9 mRNAのHABS誘導性発現を防止するのに最も効果的であった(n=5)。(G)FcγRIIIに対する遮断抗体の添加は、単球がMreg形態を獲得するのを防止したが、他のFcγ受容体の場合はそうならなかった(バー=50μm)。(H)siRNAを使用したFcγRIII発現のサイレンシングは、血清免疫グロブリンによるMreg表現型の誘導におけるFcγRIIIの役割を裏付けた。全ての事例において、棒グラフは平均±SEMを表す。
図2図2は、フラスコ内で培養したMregとMreg-bcとでの表現型の比較を示す。(A)フラスコ内で培養したMreg(赤線)およびMreg-bc(青線)は、Mregを特徴付ける細胞表面マーカー群CD14-/low CD16-/low CD80-/low CD86+ CD85h+ CD258+を表した。アイソタイプ対照信号を灰色で示す。(B)ある割合のMreg-bcは、抗原CD10、Clec9aおよびCD103を発現したが、フラスコ内で培養したMregではそうならなかった。(C)フラスコ内で培養したMregは、高レベルの抗原CD209、シンデカン-3およびCD38を発現したが、Mreg-bcではそうならなかった。
図3図3は、デヒドロゲナーゼ/レダクターゼ(SDRファミリー)メンバー9(DHRS9)発現が独特にMreg表現型を同定することを示す。(A)ASOT1 mAbはMregによって発現される抗原を識別したが、他のマクロファージタイプではそうはならなかった。(B)約35kDの抗原がASOT1によって特異的に沈降した。沈降したこの抗原は、質量分析によってDHRS9として同定された。(C)MregではDHRS9 mRNAの強い発現が検出されたが、他のマクロファージタイプではそうならなかった(n=6)。(D)ASOT1は、抗DHRS9ウサギpAbおよびマウスmAbによっても識別された抗原を沈降させ、ASOT1がDHRS9を識別することが裏付けられた。(E)ウサギ抗DHRS9 pAbを使用するイムノブロットは、タンパク質レベルでのDHRS9発現によってMregが他のマクロファージタイプとは区別されることを実証した。
図4図4は、MregによるIDOとアルギナーゼ-1との共発現を示す。(A)Mreg、IFN-γ刺激なしで生成させたMreg、およびリポ多糖処理されたMregは、比較用のマクロファージタイプと比べて著しくより高いレベルのARG1 mRNAを発現した(n=3;平均±SEM)。(B)フローサイトメトリー染色は、個々のMreg細胞によるIDOおよびArg1の共発現を明らかにする。
図5図5は、Mreg-bcと共に培養されたT細胞がT細胞増殖を阻害することを示す。同種異系CD3+T細胞におけるMreg-bcへの曝露の機能的重大性を共培養実験で調査した。(A)2mMのGlutamaxおよび25ng/mlのrhM-CSFを補充したX-vivo10培地中で5日間、末梢血CD14+単球から発生させたヒトMreg-bcと、CD3マイクロビーズ(Miltenyi)を使用して単離した同種異系CD3+T細胞とを1:1の比で共培養した。あるいは、Mreg-bcと、ナイーブCD4+T細胞負単離キット(Miltenyi)マイクロビーズを使用して単離された同種異系ナイーブCD4+T細胞とを1:1の比で共培養し、次にそれをCD3マイクロビーズ(Miltenyi)と共にインキュベートした。5日間の共培養の後、フローサイトメトリーによる表現型決定のためにT細胞を再単離した。細胞表面および細胞内の染色のための従来の方法、例えばFoxp3固定および透過用緩衝剤キット(eBiosciences)を用いて、共培養したT細胞をCD4+ CD25+ TIGIT+ FoxP3+ Tregについて濃縮する。あるいは、再単離したT細胞を、抗CD3によって刺激されるCFSE希釈に基づく同種異系T細胞増殖アッセイにおいてサプレッサー細胞として使用した。(B)プレートに結合した抗CD3によって刺激される、CFSE標識された応答CD4+ T細胞の増殖は、単独で5日間培養されたT細胞による場合よりも、同種異系Mreg共培養T細胞による場合の方が、より大きい度合いで阻害された(n=6;平均±SEM)。(C)同種異系Mreg-bcと共に5日間培養したCD3+T細胞をCD25+ FoxP3+ Tregについて濃縮したが、それは、αCD3/αCD28ビーズを使用して5日間刺激されたCD25+ FoxP3low ポリクローナル活性化T細胞とは容易に区別がついた(データはn=4ドナー対を表す)。
図6図6は、Mregが特有の形態および細胞表面表現型を呈することを示す。(A)培養されているMregは独特の形態を獲得する(バー=50μm)。(B)Mregの透過型電子顕微鏡検査は、培養面への密着、十分豊富なクロマチンを伴った活動的な核、数多くの細胞プロセス、および脂質封入体を示す。(C)Mregは、培養中でのそれらの特徴的形態によって他のマクロファージ分極状態とは確実に区別される。(D)Mregは、細胞表面マーカー群:CD14-/low CD16- TLR2-/lowおよびCD163-によって比較マクロファージのパネルとは区別される(n=6;平均±SEM)。
図7図7は、マイクロアレイ分析によってヒトMregのマーカーとして同定されたCD85h(LILRA2;ILTl)およびCD258(TNFSF14;LIGHT)の発現を示し、フローサイトメトリーで実証されるとおりそれらはMregによって細胞表面に発現するが、IFN-γマクロファージによって発現することはない。
図8図8は、Mreg-bcが生体内でIL-10産生性TIGIT+ Tregを生み出すことを示す。(A)免疫不全(NSG)マウスモデルを使用して、ヒトMreg-bc細胞が生体内でTIGIT+ iTregを誘導する能力を調べた。NSGマウスを、(i)5×106個のヒトナイーブCD4+ T細胞単独での静注かまたは、(ii)5×106個のヒトナイーブCD4+T細胞の静注に加えて行う別個の5×106個の同種異系ヒトMregの静注かのどちらかに供した。5日後、ヒトIL-10の血清レベルおよび脾臓ヒトTIGIT+ Treg頻度を評価した(n=12ドナー対)。(B)Mreg処置されたレシピエントは、未処置対照動物に比べてより高い脾臓Treg頻度およびいくぶんより高いTIGIT+ CD4+ T細胞頻度を呈した。(C)Mreg処置レシピエントでは、血清ヒトIL-10レベルが対照よりも著しく高かった。
図9図9は、Mreg-bc細胞がモノホスホリルリピドA(MPLA)による刺激を受けると血管形成因子VEGF-Aを産生するか否かを試験するための、実験の段取りを示す。
図10図10は、リポ多糖(LPS)による刺激時または高張培養条件下での、Mregによる血管内皮増殖因子ファミリーメンバーの発現を示す。(A)LPS刺激はVEGF-A、VEGF-Cの発現を誘発したが、VEGF-Dの発現は誘発せず;それにもかかわらずLPS刺激は、強力な炎症性サイトカインであるTNF-αの発現も誘導した。(B)Mregは、VEGF-AまたはVEGF-Dを分泌することではなくVEGF-Cを分泌することによってNaCl濃度の上昇に応答し;極めて重要なことに、高張はTNF-α発現を誘発しなかった。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明によれば、Mreg-bc細胞はヒトCD14+血液単球から誘導される。Mreg-bc細胞の特徴的な生物学的特性を引き出すためには、単球を成長因子、サイトカインおよび受容体リガンドの特定の組み合わせで処理する。本発明の方法によって得られた細胞は、それらと血液単球、他の類の単球由来マクロファージ、単球由来樹状細胞、および従来技術において記載されているその他の抑制性骨髄単球細胞産物とを区別させる、特有の表現型によって特徴付けられる。
【0016】
したがって、第1の態様において本発明は、新規な類の免疫調節性マクロファージ細胞を作製するための方法であって、
(a)対象の血液試料からCD14陽性単球を単離することと;
(b)単球を気体透過性バッグ内で、(i)M-CSFおよび/またはGM-CSFならびに(ii)CD16のリガンドを含有する培地中で培養することと;
(c)細胞をIFN-γと接触させることと;
(d)培地から免疫調節性マクロファージ細胞を得ることと
を含む方法に関する。
【0017】
本発明の方法は、出発物質として血液単球を使用する。ヒト血液単球からMreg-bc細胞を生み出すために本発明の方法を用いることが好ましいであろうものの、本発明は、ヒト由来の細胞の分化に限定されない。事実、本発明は他の類の非ヒト細胞、とりわけ脊椎動物細胞、例えば非ヒト霊長類またはブタの細胞にも適用可能である。このように、本発明は、異種移植片移植医薬の分野に重要な寄与をもたらす。
【0018】
好ましい実施形態によれば、本発明の方法は、ヒトドナーのCD14陽性単球をMreg-bcに分化させるために用いられる。本発明の方法の出発物質としての役割を果たす単球は、ヒトドナーの末梢血から得られる。ドナーは、健常な対象または、1つ以上の疾患に罹患している患者であり得る。一実施形態において、単球ドナーは、意図される分化Mreg-bc細胞のレシピエントである(自家手法)。別の実施形態では、単球ドナーは、意図される分化Mreg-bc細胞のレシピエントとは別個の人物である(同種異系手法)。後者の場合、ドナーおよびレシピエントは遺伝的な関連があってもなくてもよい。別の実施形態では、単球ドナーは、意図される分化Mreg-bc細胞のレシピエントとは別個の人物であるが、同レシピエントへ移植される他の細胞、組織または臓器のドナーでもある。ドナーとレシピエントとの好ましい関係性は、臨床用途に依存する。自家Mreg-bc細胞の使用は、特定の有害反応を回避するために役立ち得る。したがって、再生療法または抗炎症療法の事例においては自家Mreg-bc細胞を使用することが好ましい。移植の場面においては、ドナー由来のMreg-bc細胞を免疫抑制療法として使用することが好ましい、というのも、ドナー抗原発現細胞はレシピエント由来細胞よりも効果的であるからである[11]。
【0019】
末梢血からの単核球の濃縮のためには当該技術分野において様々な方法が知られており、これらの方法の各々を本発明との関連において使用することができる。例えば、静脈穿刺によって得た血液を抗凝血剤で処理することができ、続いて分離用媒体、例えばFicoll-Paque Plusを使用することによって分離することができる。このためにはFicoll-Paque Plus溶液上に抗凝血剤処理済み血液試料を積層して遠心分離し、それによって種々の細胞種を含有する層が形成されることになる。底層は、Ficoll-Paque Plus試薬によって凝集および沈降した赤血球を含有する。赤血球層のすぐ上の層は、大部分において、Ficoll-Paque Plus層を通って移動した顆粒球を含有する。単球およびリンパ球は、それらのより低い密度のために、血漿とFicoll-Paque Plusとの間の界面に見つかる。単核球画分の濃縮は、層の単離ならびにそれに続く洗浄および遠心分離によって成し遂げることができる。
【0020】
単核白血球を血液試料から分離するための別の慣例的に用いられている方法は、白血球搬出法を含む。白血球搬出法は、末梢血から白血球をそれらの相対密度によって連続工程で得る特異な類のアフェレーシスである。この手順において対象の血液は、選択された白血球の画分を収集して残りの血球および血漿をドナーに返す特別な遠心分離装置に通される。白血球搬出法は、今日においては白血球または幹細胞を末梢血から得るための慣例的な臨床手段である。本発明との関連において白血球搬出法を行うために使用することができる種々の装置はいくつかの製造業者から入手することができ、例えば、Teru mo BCTからのCOBE(登録商標)Spectra Apheresis Systemがある。COBE(登録商標)Spectra Apheresis Systemの使用によって白血球搬出法を実施する場合、製造業者によって提供される操作説明書プロトコールを用いることが好ましい、というのも、このプロトコールはAutoPBSCプロトコールに比べてより良い品質の単球をもたらすことが分かったからである。
【0021】
Ficoll-Paque Plusのような分離用媒体の使用および白血球搬出装置の使用はどちらも、単球だけでなくリンパ球も含有する細胞画分をもたらすものである。本発明によれば、単球は、本発明の作製方法に細胞を導入する前に既知の方法、例えば、磁気ビーズ分離、フローサイトメトリーによる選別、浄化、濾過またはプラスチック付着によってリンパ球から濃縮および分離され得る。しかしながら、本発明の方法で一様な単球画分を使用することは必須ではない。実際、単球画分における0.1~20%、好ましくは10~20%の量のリンパ球の存在は、調節性マクロファージへの単球の分化に良い影響を与え得る。
【0022】
本発明の一実施形態では、本発明の方法で使用する単球画分は本質的に純粋であり、非単球性の有核血球、例えばリンパ球または顆粒球を15%未満、10%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満または1%未満の割合で含有する。単球が濃縮された単核球製剤を得るためには、末梢血単核球を例えばCD14陽性単球と結合するCD14マイクロビーズに接触させてもよい。一実施形態では、ステップ(a)の単球を白血球搬出法によって単離し、続いてCD14親和性分子、好ましくはCD14抗体を使用する分離ステップに供する。そのような精製ステップは非単球による出発物質の汚染を大いに軽減する。T細胞汚染の軽減は、患者の安全性の視点から非常に価値がある、というのも、それはドナー対レシピエント反応の潜在的なリスクを最小限に抑えるからである。本発明の好ましい実施形態では、本発明の方法において使用されるCD14単球をCliniMACS(登録商標)技術(Miltenyi Biotec GmbH、Bergisch Gladbach、ドイツ)によって単離した。
【0023】
白血球搬出法および/またはその他の方法によって単離した単球画分は、M-CSFおよび/もしくはGM-CSFならびにCD16リガンドと共にインキュベートすることによる分化のために直接使用することができ、またはそれをさらなる使用のときまで抗凝血性クエン酸デキストロース溶液(ACD-A)中もしくはその他の任意の適切な緩衝剤を補充した自家血漿中に貯蔵することができる。単離した単球画分を別の分化工程実施場所へ輸送しなければならない場合には、細胞の単離から24時間以内、好ましくは単球の単離から18時間以内、12時間以内、6時間以内、4時間以内または2時間以内に、M-CSF/GM-CSFとのインキュベーションによる細胞の分化を開始する配慮がなされなければならない。長期間の貯蔵のためには、単球分画を適切な凍結保存溶液中に再懸濁させて20℃未満の温度、好ましくは80℃未満の温度で長期間貯蔵してもよい。
【0024】
単球を単離した後、細胞をM-CSF/GM-CSFおよびCD16リガンドの存在下でインキュベートする。例えば、M-CSFおよび/またはGM-CSFならびにCD16リガンドを含有する培地中で細胞を懸濁させてもよい。あるいは、細胞培養の開始からしばらく経った後にM-CSF/GM-CSFおよびCD16リガンドを添加することも可能である。上記方法のステップ(b)で使用する培地は、単球および/またはマクロファージの培養での使用に適したものとして文献に記載されているいかなる培地であってもよい。適する培地としては、例えば、PromoCellマクロファージ生成培地(PromoCell GmbH、Heidelberg、ドイツ)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、DMEM:F12混和物、Medium199、またはRPMI-1640培地が挙げられる。培地は、化学的に規定された培地であることが好ましい。培地は、M-CSF/GM-CSFの他に、Mregの生存および分化を促進する他の因子、例えば、成長因子およびサイトカイン、例えば上皮成長因子(EGF)、またはIL-4;脂肪酸、コレステロールおよびその他の脂質;ビタミン、トランスフェリンおよび微量元素;インスリン、グルココルチコイド;コレカルシフェロールまたはエルゴカルシフェロール、およびその他のホルモン;非特異的免疫グロブリンおよびその他の血漿タンパク質を含有してもよい。本発明の好ましい実施形態では、培地は、RPMI-1640またはそれに由来する培地である。
【0025】
単離したCD14陽性単球をインキュベートするために使用する培地は、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF、CSF1としても知られる)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)またはその両方を含有する。M-CSFは、当該技術分野において、単球、マクロファージおよび骨髄前駆細胞の増殖、分化および生存に影響を与える造血性成長因子として知られている。顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF、CSF2としても知られる)は、サイトカインとして機能し、マクロファージ、T細胞、マスト細胞、NK細胞、上皮細胞および線維芽細胞によって分泌される、単量体型糖タンパク質である。様々な種からのM-CSFおよびGM-CSFタンパク質について記述されており、様々な製造業者からの購入が可能である。本発明の方法において使用されるM-CSFおよび/またはGM-CSFの選択は、Mreg-bc細胞へと分化させる単球の由来に依存するであろう。例えば、本明細書に記載の方法を用いてヒト単球をMreg-bcに分化させるのであれば、使用する培地はヒトM-CSFおよび/またはヒトGM-CSF、好ましくは組換えヒトM-CSFおよび/または組換えヒトGM-CSFを含有するであろう。同様に、分化方法においてブタ単球を使用するのであれば、培地に添加するM-CSFおよび/またはGM-CSFはブタ由来のものであろう。本発明の特に好ましい実施形態では、M-CSFおよび/またはGM-CSFはヒト由来のもの、例えば組換えヒトM-CSFおよび/またはGM-CSFであり、単球はヒト単球である。
【0026】
当業者であれば、慣例的方法によって高い割合の単球をMreg-bcへと分化させるのに適するM-CSFおよび/またはGM-CSFの量を見出すことができるであろう。大抵、上記方法のステップ(b)の培地中のM-CSFの濃度は、培地1mlあたり1~100ngタンパク質の範囲である。培地中のM-CSFの量を測定する経過実験は、初期用量5ng/mlのM-CSFを使用した培養物が培養2日目までに生理学的レベル以下の濃度を含んでいたようにM-CSFが経時的に消費または分解され、それにひきかえ初期用量25ng/mlのM-CSFを使用した培養物が7日間の培養期間全体を通して10ng/mlを上回る濃度を維持したということを明らかにした。このことから、本発明の好ましい実施形態では、培地中のM-CSFの濃度は20~75ng/ml、20~50ng/mlまたは20~25ng/mlの範囲である。培地1mlあたり少なくとも25ngのM-CSFの濃度は特に好ましい。上記濃度は、好ましくは組換えヒトM-CSFを指す。
【0027】
M-CSFの代わりにGM-CSFを使用する場合、M-CSFに関して上に概説したのと同じ濃度を培地中で用いることができる。GM-CSFはM-CSFよりも強力であると思われることから、本発明においては培地1mlあたり0.1~100ngタンパク質のGM-CSFの濃度が示唆される。M-CSFとGM-CSFとの両方を培地で使用する場合、これら2つの成長因子の全体濃度は上記の範囲内、すなわち20~75ng/ml、20~50ng/mlまたは20~25ng/mlの範囲内であろう。M-CSFおよびGM-CSFの全体濃度は、培地1mlあたりM-CSFが25ngであることが特に好ましい。
【0028】
上記方法のステップ(b)で使用する培地は、M-CSFおよび/またはGM-CSFの他に、CD16リガンドも含む。単球上のCD16細胞表面受容体の刺激はそれらのMreg-bc細胞への分化を誘導するために必要であることが分かった。より具体的には、本発明の過程で行った実験から、ヒトAB血清(HABS)を補充した培地中で成長させた単球はMregへと発達するが、ウシ胎仔血清(FCS)を補充した培地中で成長させた単球はMregへと発達しないということが明らかになった。両血清の等量混合物中で成長させた単球は、Mreg表現型を発達させる。したがって、HABSは明確にMreg誘導活性を含んでいる(図1のAおよびBを参照のこと)。HABSのクロロホルム抽出可能な画分の除去は、HABSのMreg誘導活性が主にクロロホルム抵抗性画分中に存在していることを実証し、それゆえタンパク質である可能性があった(図1のBおよびCを参照のこと)。サイズ分画によって、Mreg-bc発達を担うHABSの主要タンパク質成分は100kDaを上回ることが分かり、未知の因子が免疫グロブリン(Ig)であるという仮説につながった。プロテインA/Gセファロースを使用してIgが除去されたHABSは、Mreg-bc形態の発達およびDHRS9 mRNA発現を支援することができなかった(図1Dを参照のこと)。浄化されたIgをIg除去血清に再び添加し戻すこと(またはIVIgの添加)は、DHRS9発現を誘導するその能力を回復させた(図1Dを参照のこと)。同様に、ヒトIgを補充したFCS中で単球を培養した場合、FCS単独の対照に比べてDHRS9 mRNA発現の増加が認められ、正常なMreg-bc形態が獲得された(図1のDおよびE)。抗FcγRIII抗体で処理された単球は、抗FcγRI(CD64)、抗FcγRIIa/b(CD32a/b)または対照抗体で処理された単球に比べてより著しく低いレベルでDHRS9 mRNAを発現し(図1Fを参照のこと)、Mreg-bc形態を発達させなかった(図1Gを参照のこと)。FcγRIIbまたはDC-SIGNを単独で、または両受容体共に遮断することは、DHRS9+Mregの発生に何ら影響を与えなかった(図1Hを参照のこと)。Mreg-bc発生にFcγRIIIが必要であるという見解を強化するために、siRNAを使用してFcγRIII発現をサイレンシングした(図1Iを参照のこと)。10%のHABS中で培養された単離して間もない単球では、FCGR3AおよびFCGR3B転写産物発現の一過的な抑制が成し遂げられ、重要なことに、FCGR2B発現はこの操作によって減少しなかった。フローサイトメトリーによってタンパク質レベルでのFcγRIIIのノックダウンが実証された(陰性対照siRNAを使用して35.2%±4.4 CD16+細胞であるのに対し、FCGR3 siRNAでは15.3%±3.7;n=4、p=0.002)。FcγRIII発現のサイレンシング(但し、MAPK1発現の抑制または陰性対照siRNAによる処理ではない)は、DHRS9 mRNA発現の著しい下方制御をもたらした(図1Iを参照のこと)。
【0029】
上記知見から、血清IgはFcγRIII(CD16)を介してMreg表現型を誘導するように作用すると結論付けられた。Mreg分化のFcγRIIIへの依存は、Mregと、従来技術において記述されているその他のIg複合体誘導型マクロファージ類とを区別する。特に、誘導の様式は、FcγRIII誘導性Mregを、従来技術において記述されたFcγRIIb誘導性マクロファージ、FcγRI誘導性マクロファージおよび免疫グロブリンの非存在下で発生したマクロファージと区別する。
【0030】
CD16細胞表面受容体の刺激は所望のMreg-bc表現型への分化にとって決定的となるため、本発明の方法は、ステップ(b)において単球をCD16リガンドと共にインキュベートすることを含む。受容体に結合するリガンドは、好ましくは、ヒトまたは非ヒト免疫グロブリン、より好ましくはヒト免疫グロブリンまたはその断片であろう。免疫グロブリン断片は、例えば、免疫グロブリンのFc断片であり得る。免疫グロブリンまたは免疫グロブリン断片は、無血清培地に添加することが好ましい。あるいは、免疫グロブリンまたは免疫グロブリン断片の配列、例えばヒト免疫グロブリンの配列を含む組換えタンパク質を使用してもよい。別の実施形態では、Mreg-bc分化を促進するために、抗原認識ドメインによってCD16に特異的に結合する非ヒトもしくはヒト抗体またはその断片を使用する。さらに別の実施形態では、Mreg-bc分化を促進するために、小分子を使用してCD16シグナル伝達経路を刺激する。
【0031】
好ましい実施形態では、Mreg-bc細胞を発生させるために使用する培地は、1~20%のヒト血清または当量の特定血清成分、例えば免疫グロブリンを含有する。より好ましくは、培地に10%の血清を補充する。本発明の方法を実施するために血清含有培地を使用する場合、培地は5~15%、好ましくは10%のヒト血清を含む。10%のヒトAB血清を含有する培地は特に好ましい。別の言い方をすれば、血清は約0.01~10mg/ml、好ましくは約0.1~1mg/ml、より好ましくは約1mg/mlの濃度で添加することが好ましい。CD16リガンドとして免疫グロブリンまたは免疫グロブリン断片を使用する場合にはわずかにより低い濃度を用いることができる。免疫グロブリンまたはその他のCD16リガンドを組織培養面上、ビーズ上またはその他の物理的母材上に固定する場合には実質的により低い濃度を用いてもよい。ヒト血清、例えばAB血清は男性ドナー由来のものであることがさらに好ましい。女性ドナーからの血清を使用する場合には、ドナーがプロゲステロン避妊薬またはプロゲステロン-エストロゲン避妊薬を使用していないことの配慮をしなければならない。上記培地は、単球またはMreg-bc細胞、または任意の中間体形態、例えば主要組織適合分子に対する抗体を含有していないことがさらに好ましい。
【0032】
培地中の抗体は、本発明の方法によって産生されたMreg-bcの生存能、収率、表現型または抑制機能に対して測定可能な影響を何ら与えなかったことも見出された。したがって、本発明の方法のステップ(b)で使用する培地はいかなる抗生物質も含有しないことが好ましい。
【0033】
Mreg-bc細胞が、血管新生の誘導が望まれる治療的用途(以下を参照)での使用のために意図される場合、本発明の方法のステップ(b)で単球を培養するために使用する培地は、VEGF-Aのような血管新生因子の産生を増強するためにM-CSFおよび/またはGM-CSFならびにCD16リガンドの他にtoll様受容体(TLR)リガンド、例えば、リポ多糖(LPS)、モノホスホリルリピドA(MPLA)またはHigh Mobility Group Boxタンパク質1(HMGB1)を含み得る。TLRリガンドは、1000ng/ml~1μg/ml、好ましくは50~500ng/mlの濃度範囲、例えば100ng/ml、200ng/ml、300ng/ml、または400ng/mlで培地に添加され得る。1つ以上のTLRリガンドを添加する場合には、これらのリガンドの全体濃度を上記範囲内にしなければならない。TLRリガンドは、製造方法のいかなる段階で添加してもよい。単球を培養するために使用される初期培地中に、つまり培養の0日目にそれが存在していてもよいし、または後の段階、例えば培養の5、6もしくは7日目にそれを添加してもよい。好ましくは、TLRリガンドをIFN-γの添加と同時に添加する。
【0034】
本発明によれば、Mreg-bc細胞を作製する方法は、M-CSF/GM-CSFおよびCD16リガンドの存在下で単球を気体透過性バッグ内で培養することを含む。単球を適切な培地中に懸濁させたならばすぐに細胞懸濁液を培養および分化のために気体透過性バッグへ移す。細胞培養用のバッグは様々な提供元、例えば、Miltenyi Biotec GmbH(Bergisch Gladbach、ドイツ)、Thermo Fisher Scientific(Schwerte、ドイツ)、またはMerck(Darmstadt、ドイツ)から入手することができる。バッグは、培養バッグの内面への培養細胞の接着を可能にする材料で作られることになる。プラスチック製のバッグ、例えば、ポリオレフィンまたはポリエチレンからなるバッグが好ましい。
【0035】
バッグは、内部培養面1cm2あたり1~2×106単球の細胞播種密度を可能にするように設計されることが好ましかろう。これは、少なくとも90cm2でありかつ180cm2以下である内部表面積を有するバッグ内で180×106個の単球を含有する細胞懸濁液が好適に培養されることを意味する。懸濁液中の細胞の最適密度は、好ましくは約1×105細胞/ml~1×107細胞/ml、より好ましくは1×106細胞/mlである。バッグ容積に対する細胞懸濁液体積の比率は、培養の最後にMreg-bcの濃縮が行われなければならない培地の量を最小限に抑えるために、少なくとも1.0、好ましくは0.2、より好ましくは0.06である。これは、3Lの培養バッグに1L以下、好ましくは600ml以下、より好ましくは180ml以下の細胞懸濁液を充填することになることを意味する。本発明の方法の好ましい実施形態では、M-CSF/GM-CSFおよびCD16リガンドを補充した培地中で単球を培養するために使用されるバッグの容積は少なくとも3Lである。
【0036】
単球を培養バッグへ移した後、IFN-γ刺激に先立って細胞をバッグ内で少なくとも3日間、M-CSF/GM-CSFおよびCD16リガンド、例えばヒト血清またはヒト免疫グロブリンの存在下でインキュベートする。本明細書中で使用する場合、「1日」の培養期間は、24時間の培養を指す。したがって、「少なくとも3日」の培養期間は72時間以上の培養を指す。IFN-γ刺激の最適期間は少なくとも12時間、好ましくは18時間、より好ましくは24時間である。本発明によれば、合計培養期間、すなわち単球を培養バッグに導入してからMreg-bcを採集するまでの期間は、少なくとも4日であるが、好ましくは少なくとも5日、少なくとも6日、少なくとも7日、または少なくとも8日である。別の言い方をすれば、合計培養期間は4~8日、好ましくは6~8日、より好ましくは7日である。培養バッグ内の単球は、それらがMreg-bc細胞へと成長および分化するのを可能にする条件下でインキュベートされる。単球またはマクロファージを培養するための一般的条件は細胞培養の分野の業者に知られている。
【0037】
例えば、懸濁液を含有するバッグを、規定された温度、湿度およびCO2の条件の選択を可能にするインキュベーションチャンバに移すことができる。適する温度条件は、30~40℃、好ましくは32~38℃、より好ましくは37~38℃の範囲、例えば37℃である。培養に用いる湿度は、普通は30~70%、好ましくは40~60%、より好ましくは50~60%の範囲、例えば湿度60%である。インキュベーションチャンバは10%以下のCO2を含み得る。5%以下のCO2、4%以下のCO2、3%以下のCO2、2%以下のCO2、または1%以下のCO2の含有量が特に好ましい。インキュベーションの間、バッグはインキュベーションチャンバの棚に平置きすることが好ましい。
【0038】
バッグ内の単球は、培養バッグの下面へのそれらの半付着的な接着を可能にすべく時折緩やかに撹拌されることが好ましい。好ましくは、バッグの反対面へのそれらの付着を可能にすべく全培養期間内にバッグを少なくとも1回反転させる。別の実施形態では、全培養期間中にバッグを少なくとも2回反転させる。別の実施形態では、全培養期間中にバッグを少なくとも3回または4回反転させる。さらに他の実施形態では、全培養期間中にバッグを24時間毎に反転させる。別の実施形態では、全培養期間中にバッグを36時間毎に反転させる。さらに別の実施形態では、全培養期間中にバッグを48時間毎に反転させる。
【0039】
本発明の方法のステップ(c)では、サイトカインであるインターフェロンガンマ(IFN-γ)に細胞を接触させる。サイトカインは、30個超の遺伝子の転写を変化させてそれによって様々な生理学的応答および細胞応答を生じさせることが当該技術分野において既知である。IFN-γタンパク質は、様々な種から単離されており、様々な製造業者から購入することができる。本発明の方法において使用するIFN-γの選択は、本発明の方法に供される単球の由来に依存するであろう。例えば、本明細書に記載の方法を用いてヒト単球をMreg-bcへと分化させるのであれば、添加するIFN-γはヒトIFN-γ、好ましくは組換えヒトIFN-γであろう。同様に、分化方法においてブタ単球を使用するのであれば、培地に添加するIFN-γはブタ由来のものであろう。本発明の特に好ましい実施形態では、IFN-γはヒトIFN-γであり、より好ましくは組換えヒトIFN-γである。
【0040】
培養物における単球によるインドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)の発現を誘導するのに効果的ないかなる量のIFN-γを添加してもよい。好ましくは、単球培養物に添加すべきIFN-γの量は、5~100ng/ml、より好ましくは10~80ng/ml、よりいっそう好ましくは20~50ng/mlの範囲であろう。本発明においては培地1mlあたり25ngの量のIFN-γが特に好ましい。
【0041】
IFN-γは、M-CSF/GM-CSFおよびCD16リガンドと同時に培地に添加することができ、それは、例えば培養バッグ内へ単球を導入する時にサイトカインを添加してもよいことを意味する。そのような実施形態では、本発明の方法によって分化させる単球を培養期間全体にわたってM-CSF/GM-CSF、CD16リガンドおよびIFN-γの存在下で培養することになる。しかしながら、IFN-γの存在下での培養期間はM-CSF/GM-CSFの存在下での培養期間よりもかなり短いことが好ましく、それは、細胞をM-CSF/GM-CSFの存在下で少なくとも3日間培養してから初めてIFN-γを添加することを意味する。好ましい実施形態では、細胞をM-CSF/GM-CSFの存在下で3~6日間培養した後にIFN-γを添加する。好ましくは、細胞をM-CSF/GM-CSFの存在下で少なくとも3日間、少なくとも4日間、少なくとも5日間、または少なくとも6日間培養してからIFN-γを添加する。特に好ましい実施形態では、細胞をM-CSF/GM-CSFの存在下で3~6日間培養した後にIFN-γを添加し、そしてさらに18~72時間培養を継続する。
【0042】
本発明の特に好ましい実施形態では、分化させた細胞を7日目、例えば、M-CSF/GM-CSFおよびCD16リガンドを含有する培地中での単球の6日間の培養に続いてIFN-γ刺激を18~24時間行った後に、採集する。いくつかのバッグを並行して培養した場合には、バッグの中身を培養工程の最後にまとめ合わせてもよい。分化マクロファージは、マクロファージに使用するのに適合した緩衝液によって洗浄してもよい。例えば、遠心分離および上清のデカンテーションによって緩衝液を連続交換することにより細胞を洗浄するために、リンガー液またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、好ましくはそれに5%のヒト血清アルブミンを補充したものを使用することができる。本発明の過程において、トリプシンの使用は免疫調節性マクロファージの収率を向上させないことが分かった。それゆえ、本発明においてはトリプシンの添加を採集ステップに含まないことが好ましい。
【0043】
これらのMreg-bc細胞を輸血バッグ、ガラス製点滴装置、または処置施設もしくは患者のベッド脇への細胞搬送を可能にする別の閉鎖系容器に移して貯蔵することができる。このためには、分化細胞を適切な保存培地中に懸濁させることになる。保存培地は、例えば、5%のヒト血清アルブミンが補充されていることが好ましいリンガー液であり得る。特に好ましい実施形態では、保存培地は、無血清かつ/またはタンパク質不含の既製培地である。商業的に入手可能な適する既製培地は、HypoThermosol(登録商標)FRS(Stemcell Technologies SARL、ケルン、ドイツ)である。好ましくは、培地のpHは6.5~8.0、より好ましくは7.0~7.5、例えば7.4である。細胞液は、エネルギー消費および細胞付着を最小限に抑えるために4℃で貯蔵しなければならない。あるいは、Mreg-bc細胞を凍結保存溶液中に再懸濁させて最終的な使用まで凍結形態で貯蔵してもよい。
【0044】
本発明の分化マクロファージ細胞の表現型および機能の安定性は、賦形剤および貯蔵温度の選択に依存する。ヒト血清アルブミンが補充されたリンガー液中に再懸濁させる場合、本発明のマクロファージは20~25℃で、細胞採集後24時間まで安定である。HypoThermosol(登録商標)FRS中に再懸濁させる場合、マクロファージを2~8℃、好ましくは4℃で、細胞採集後少なくとも72時間貯蔵することができる。より長い貯蔵期間が要求される場合には細胞を冷凍または凍結保存に供してもよい。全般的に本発明の細胞はそれらの免疫抑制性の表現型で安定であることが分かった。炎症促進メディエーター、例えばリポ多糖による処理は、刺激性表現型の発達を促さない。
【0045】
本発明のMreg-bc細胞を作製する方法は、一般的な方法に従って、例えば、細胞処理の作業流れを効率化する統合的解決法を提供するGMPに則した基盤を用いることによって自動化することができる。方法は、密封型消耗品、管一式と緩衝剤と試薬の任意選択的特注生産、滅菌フィルターを備えた多数の流入ライン、任意での工程内管理用流出ライン、および実質的に軽減されたクリーンルーム要件を活用する「閉鎖系」で起こることが好ましい。例えば、当該基盤には、白血球画分から単球を分離するのを可能にする細胞分離システムが備わっていてもよい。細胞分離システムは、開始体積100~1000mlのアフェレーシス済み液または全末梢血から単球を分離することができなければならない。その後、単離された単核性白血球画分中に含まれる単球は、例えばCD14+細胞と結合する磁気ビーズによって単離され得る。その後、これらの細胞を適切な培地中で培養する。当該基盤は、多数の流入ポートを介して細胞培養物に培地、成長因子および/またはサイトカインを供給するのを可能にする。培養工程の最後に細胞は自動的に洗浄され、採集され、適切な無菌送達用バッグ内へ移される。PVC管およびEVA管の無菌封止を可能にする特注生産された管封止材を使用してもよい。細胞性製品にはバーコードを付けてもよく、品質制御目的で製造業者による工程全体をオンラインで監視してもよい。
【0046】
第2の態様において、本発明は、本発明の第1の態様の方法によって得ることができる、Mreg-bc細胞と呼称される新規な類のMreg細胞に関する。本発明によって提供される細胞は、単球由来のヒトマクロファージであり、それゆえ一般的な白血球マーカーおよびマクロファージ系統のマーカー、とりわけCD45、CD11b、CD33およびHLA-DRを発現する。Mregは、一群の系統マーカーおよび活性化マーカー-つまり、CD14-/low CD16-/low CD80-/low CD86+ CD85h+ CD258+図2Aを参照のこと)によって単球、比較マクロファージのパネル(すなわち、休止マクロファージ、M1、M2aおよびM2cマクロファージ)および単球由来DCとは区別される。CD85hは、Mregおよび単球に発現するが、休止マクロファージ、M1マクロファージ、M2aマクロファージ、M2b(Ig複合体によって刺激された)マクロファージ、M2c(デキサメタゾンで処理された)マクロファージ、および単球由来樹状細胞においてその発現は失われる。CD258はMregおよびM2bマクロファージに発現するが、単球、休止マクロファージ、M1マクロファージ、M2aマクロファージ、M2c(デキサメタゾンで処理された)マクロファージ、および単球由来樹状細胞においてそれは発現されない。
【0047】
Mreg-bcすなわちバッグ内で培養された細胞と、それ以外は同等の条件下でフラスコ内で培養されたMregとを比較すると、Mreg-bcは常にフラスコ培養細胞よりも低いレベルのCD14、CD16およびCD80を発現する。Mreg-bcは常にフラスコ培養Mregよりも高いレベルのCD85hおよびCD258を発現した。Mreg-bcは、マーカーClec-9a、CD10およびCD103の発現によって、フラスコ内で培養されたものとは区別することができる(図2Bを参照のこと)。あるいは、一般的なMregとは対照的に、Mreg-bcはマーカーCD38、CD209およびシンデカン-3を発現しない(または低量でしか発現しない)(図2Cを参照のこと)。特徴として、バッグ培養であるかフラスコ培養であるかにかかわらず、あらゆるヒトMregは、レチノール脱水素酵素のSDRファミリーのレチノール脱水素酵素であるDHRS9を比較的高いレベルで発現する(図3を参照のこと)。バッグ培養であるかフラスコ培養であるかにかかわらず、単一のヒトMreg細胞は、従来技術において記述されている他の単球由来マクロファージの類にはみられないインドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)とアルギナーゼ-1(Arg1)とを両方とも同時に発現する(図4を参照のこと)。
【0048】
したがって、本発明は、マーカーCD38、CD209およびシンデカン-3のうちの1つ以上を発現しない(またはこれらのマーカーを低レベルでしか発現しない)Mreg-bc細胞を提供する。本明細書では、フローサイトメトリーで測定される細胞の蛍光強度が、対応するアイソタイプ対照染色試料の99百分位点の蛍光強度未満である場合、細胞は特定の表面マーカーに関して陰性である。好ましくは、本発明のMreg-bc細胞はCD209に対して陰性である。Mreg-bc細胞はさらに、CD38に対して陰性であるかまたはそれらが低レベルのCD38を発現するかのどちらかである。Mreg-bc細胞を発生させる間、単球の初期集団は細胞表面でのCD38発現を下方制御する。Mreg-bc発達中のCD38の下方制御は、培養0日目(d0)の単球と比較したときの7日目のMreg-bcでのCD38発現の百分率として表すことができる。CD38の発現は、アイソタイプ対照染色細胞と特異的CD38信号との間での平均蛍光強度の差に比例する。したがって、下方制御%=100-100×(CD38d7-Isod7)/(CD38d0-Isod0)であり、ここで、CD38d7は7日目の特異的信号であり;Isod7は7日目のアイソタイプ対照信号であり;CD38d0は0日目の特異的信号であり;Isod0は0日目のアイソタイプ対照信号である。Mreg-bc細胞によるCD38の下方制御は、標準的なフローサイトメトリー法を用いて簡便に判定することができる。好ましい実施形態によれば、Mreg-bc細胞によるCD38の発現は、培養0日目の単球によるCD38の初期発現に比べて50%より多く下方制御され、より好ましくは、60%より多く、70%より多く、80%より多く、90%より多く、95%より多く、または99%より多く下方制御される。
【0049】
同様に、Mreg-bc細胞を発生させる間、単球の初期集団が細胞表面での低レベルのシンデカン-3発現を獲得するのに対し、フラスコ内で培養されたMreg細胞は細胞表面でのより高いレベルのシンデカン-3発現を獲得する。したがって、本発明の方法によって得られた分化Mreg-bc細胞は、マーカーシンデカン-3を発現しないかまたは当該マーカーを比較的低いレベルでしか発現しない。Mreg-bc細胞によるシンデカン-3の発現は、フラスコ培養Mregでのシンデカン-3発現と関係付けて表すことができる。シンデカン-3の発現は、アイソタイプ対照染色細胞と特異的シンデカン-3信号との間での平均蛍光強度の差に比例する。したがって、発現%=(シンデカン-3Mreg-bc-IsoMreg-bc)/(シンデカン-3フラスコ-Isoフラスコ)であり、ここで、シンデカン-3Mreg-bcは、7日目のシンデカン-3染色Mreg-bc細胞の特異的信号であり;IsoMreg-bcは、7日目のアイソタイプ対照染色Mreg-bc細胞の信号であり;シンデカン-3フラスコは、7日目のシンデカン-3染色フラスコ培養Mreg細胞の特異的信号であり;Isoフラスコは、7日目のアイソタイプ対照染色フラスコ培養Mreg細胞の信号である。Mreg-bc細胞およびフラスコ培養Mregによるシンデカン-3の相対発現は、標準的なフローサイトメトリー法を用いて簡便に判定することができる。好ましい実施形態によれば、フラスコ培養Mregと比較したときのMreg-bc細胞によるシンデカン-3の相対発現は(%表示で表して)、50%未満、より好ましくは40%未満、30%未満、20%未満、15%未満、10%未満、5%未満、または1%未満である。
【0050】
好ましくは、本発明のMreg-bc細胞は、マーカーCD85hおよびCD258のうちの少なくとも一方、より好ましくはその両方のマーカーを発現する。Mreg-bc細胞は、マーカーClec-9a、CD103およびCD10のうちの1つ以上を発現することが好ましい。別の言い方をすれば、本発明は、マーカーClec-9、CD103およびCD10のうちの1つ以上を発現するMreg-bc細胞を提供する。好ましくは、上記細胞は、マーカーCD85hおよびCD258のうちの少なくとも一方、より好ましくはその両方を発現する。Mreg-bc細胞はさらに、マーカーCD38、CD209およびシンデカン-3のうちの1つ以上を発現しない(またはこれらのマーカーのうちの1つ以上を比較的低いレベルでしか発現しない)ことが好ましい。特に好ましい実施形態では、本明細書において提供されるMreg-bc細胞は、マーカーCD38、CD209およびシンデカン-3を発現せず、それと同時に、マーカーCD85h、CD258、Clec-9、CD103およびCD10を発現する。したがって、本発明の方法によって提供されるMreg-bc細胞は、以下のマーカーパターンのうちの1つによって表現されることができるマクロファージである:
(1). CD45+、CD85h+、CD38-/low
(2). CD45+、CD85h+、CD209-/low
(3). CD45+、CD85h+、シンデカン3-/low
(4). CD45+、CD258+、CD38-/low
(5). CD45+、CD258+、CD209-/low
(6). CD45+、CD258+、シンデカン3-/low
(7). CD45+、CD85h+、CD258+、CD38-/low
(8). CD45+、CD85h+、CD258+、CD209-/low
(9). CD45+、CD85h+、CD258+、シンデカン3-/low
(10). CD45+、CD85h+、CD258+、CD38-/low、CD209-/low
(11). CD45+、CD85h+、CD258+、CD38-/low、シンデカン3-/low
(12). CD45+、CD85h+、CD258+、CD209-/low、シンデカン3-/low
(13). CD45+、CD85h+、CD258+、CD38-/low、CD209-/low、シンデカン3-/low
(14). CD33+、CD85h+、CD38-/low
(15). CD33+、CD85h+、CD209-/low
(16). CD33+、CD85h+、シンデカン3-/low
(17). CD33+ CD258+、CD38-/low
(18). CD33+、CD258+、CD209-/low
(19). CD33+、CD258+、シンデカン3-/low
(20). CD33+、CD85h+、CD258+、CD38-/low
(21). CD33+、CD85h+、CD258+、CD209-/low
(22). CD33+、CD85h+、CD258+、シンデカン3-/low
(23). CD33+、CD85h+、CD258+、CD38-/low、CD209-/low
(24). CD33+、CD85h+、CD258+、CD38-/low、シンデカン3-/low
(25). CD33+、CD85h+、CD258+、CD209-/low、シンデカン3-/low
(26). CD33+、CD85h+、CD258+、CD38-/low、CD209-/low、シンデカン3-/low
(27). CD11b+ CD85h+、CD38-/low
(28). CD11b+ CD85h+、CD209-/low
(29). CD11b+、CD85h+、シンデカン3-/low
(30). CD11b+、CD258+、CD38-/low
(31). CD11b+、CD258+、CD209-/low
(32). CD11b+、CD258+、シンデカン3-/low
(33). CD11b+、CD85h+、CD258+、CD38-/low
(34). CD11b+、CD85h+、CD258+、CD209-/low
(35). CD11b+、CD85h+、CD258+、シンデカン3-/low
(36). CD11b+、CD85h+、CD258+、CD38-/low、CD209-/low
(37). CD11b+ CD85h+、CD258+、CD38-/low、シンデカン3-/low
(38). CD11b+、CD85h+、CD258+、CD209-/low、シンデカン3-/low
(39). CD11b+、CD85h+、CD258+、CD38-/low、CD209-/low、シンデカン3-/low
(40). CD45+、CD11b+、CD85h+、CD38-/low
(41). CD45+、CD11b+、CD85h+、CD209-/low
(42). CD45+、CD11b+、CD85h+、シンデカン3-/low
(43). CD45+、CD11b+、CD258+、CD38-/low
(44). CD45+、CD11b+、CD258+、CD209-/low
(45). CD45+、CD11b+、CD258+、シンデカン3-/low
(46). CD45+、CD11b+、CD85h+、CD258+、CD38-/low
(47). CD45+、CD11b+、CD85h+、CD258+、CD209-/low
(48). CD45+、CD11b+、CD85h+、CD258+、シンデカン3-/low
(49). CD45+、CD11b+、CD85h+、CD258+、CD38-/low、CD209-/low
(50). CD45+、CD11b+、CD85h+、CD258+、CD38-/low、シンデカン3-/low
(51). CD45+、CD11b+、CD85h+、CD258+、CD209-/low、シンデカン3-/low
(52). CD45+ CD11b+ CD85h+ CD258+ CD209-/low Clec-9a+
(53). CD45+、CD11b+、CD85h+、CD258+、CD38-/low、CD209-/low、シンデカン3-/low
【0051】
Mreg-bc細胞は、CD34を発現しないかまたは顕著な程度にまで発現しないことが特に好ましい。CD34は、臨床血液学において造血幹細胞および前駆細胞のために一般的に使用されるマーカーである。本発明の方法によって得られたMreg-bc細胞は、7日間の培養の後に好ましくは30%未満、より好ましくは20%未満、15%未満、10%未満、5%未満または1%未満がCD34を発現する。本発明の一実施形態では、本発明のマクロファージ細胞は、ヒト対象由来、すなわちヒト起源である。
【0052】
Mreg-bc細胞のマーカープロファイルは、標準的なフローサイトメトリー法を用いて簡便に判定することができる。細胞の表面マーカーを決定するのに有用な方法および試薬は文献において幅広く記載されている。好ましくは、本発明のMreg-bc細胞のマーカー表現型は、実施例の部で記載されているとおりに決定される。
【0053】
本発明では、単球から調節性マクロファージへの遷移が徐々に起こることが分かった。細胞を発生させる間、CD14+単球の初期集団は細胞表面でのCD14発現が徐々に失われる。したがって、別の好ましい実施形態では、本発明の方法から得られた分化Mreg-bc細胞は、単球系統に特徴的なマーカーCD14を発現しないかまたは顕著な程度にまで発現しない。Mreg-bc発達中でのCD14の下方制御は、培養0日目の単球と比較したときの7日目のMreg-bcにおけるCD14発現の百分率として表すことができる。CD14の発現は、アイソタイプ対照染色細胞と特異的CD14信号との間での蛍光強度の差に比例する。したがって、下方制御%=100-100×(CD14d7-Isod7)/(CD14d0-Isod0)であり、ここで、CD14d7は7日目の特異的信号であり;Isod7は7日目のアイソタイプ対照信号であり;CD14d0は0日目の特異的信号であり;Isod0は0日目のアイソタイプ対照信号である。Mreg-bc細胞によるCD14の下方制御は、標準的なフローサイトメトリー法を用いて簡便に判定することができる。好ましくは、単球からMreg-bcへの分化の工程中にCD14の発現は、25%より多く下方制御され、好ましくは50%、60%、70%、80%、90%より多く下方制御され、より好ましくは95%より多く下方制御される。
【0054】
Mreg-bc細胞は、以下により詳しく説明するように、治療目的のために使用するのに特に適している。概念上、Mreg-bc療法は、免疫抑制機能、抗炎症機能または組織修復機能を有するMreg-bc細胞の投与がレシピエントにおけるそれらの細胞機能の欠如を補完することになるという意味で機能獲得型療法である。適切な多さの用量を適用することによって、レシピエントにおける上記活性を回復させるかまたは凌駕する事が可能であろう。移植モデルおよび自己免疫モデルにおいて、Mreg-bc処置は、レシピエントにおいてそれら自身の寿命を超えて持続する治療効果を有する。この永久的な効果は、レシピエントT細胞に対するMreg-bc処理の影響によって説明することができる。Mreg-bc細胞の投与は、3つの補完的方法でレシピエントT細胞応答に影響を与え得る。
(a)Mreg-bc細胞はレシピエントT細胞と直接的に相互作用して、特異的なT細胞除去、または活性化された誘導性調節性T細胞(iTreg)への変換をもたらす。
(b)Mreg-bc細胞は、直接的相互作用または抗炎症メディエーターの放出によってレシピエント樹状細胞の挙動を改変する。Mreg-bc細胞の1つの重要な機能は、適切に自己調節された環境において死滅して抗原をレシピエント樹状細胞へ受け渡し、それが今度はレシピエントT細胞を特異的に抑制する、ということであり得る。
(c)Mreg-bc細胞またはその細胞レベル以下の画分は、直接作用し得るかまたはレシピエント骨髄単球細胞を通じて作用を働かせ得る可溶メディエーターの放出によって、能動的または受動的な非特異的抑制を働かせる。
【0055】
本発明のMreg-bc細胞は、それらのT細胞抑制作用に加えて、それらを治療的用途のために価値のあるものにするさらなる特徴的な特性を呈する。実施例6に示されているように、本発明のMreg-bc細胞は、toll様受容体(TLR)リガンド、例えば、リポ多糖(LPS)、モノホスホリルリピドA(MPLA)またはHigh Mobility Group Boxタンパク質1(HMGB1)による刺激を受けると生物学的に妥当な量の血管内皮増殖因子(VEGF-A)およびその他の血管新生促進メディエーターを分泌する。結果として、本発明のMreg-bc細胞は、血管新生の誘導が望まれる疾患および症状、例えば虚血性の疾患および症状を処置するのに適している。
【0056】
第4の態様において、本発明は、本発明の第2の態様のMreg-bc細胞またはその細胞レベル以下の画分を含む医薬組成物に関する。医薬組成物は、第1成分として、本発明のMreg-bc細胞またはその細胞レベル以下の画分を有効量含むことになる。本明細書中で使用する場合、患者に投与されるMreg-bc細胞の有効量は、処置される患者に関して約1×104~約1×108/kg体重、好ましくは約1×105~約1×107/kg体重、より好ましくは約1×106~約9×106/kg体重の範囲、例えば、約1×106/kg、約2×106/kg、約3×106/kg、約4×106/kg、約5×106/kg、約6×106/kg、約7×106/kgまたは約8×106/kg体重であろう。同様に、本発明が本発明のMreg-bc細胞の細胞レベル以下の画分の投与を含む場合、これらの画分は、細胞の投与に関して上述した範囲のうちの1つに対応するMreg-bc細胞の量に基づいて調合されることが好ましかろう。本明細書中で使用する場合、Mreg-bc細胞の細胞レベル以下の画分は、壊死細胞粒子、アポトーシス細胞粒子、または細胞の主要組織適合(MHC)分子を含んだエクソームを含み得る。低浸透圧溶液による細胞の処理、洗浄剤もしくは酸を使用する溶解、凍結解凍もしくは加熱、音波処理、照射、機械的破壊または長期貯蔵によって調製される細胞溶解物を使用してもよい。細胞レベル以下の画分は、完全細胞タンパク質、膜タンパク質、細胞質タンパク質または精製MHC分子を含有する細胞抽出物を含んでいてもよい。
【0057】
医薬組成物は細胞または細胞の細胞レベル以下の画分の他に、賦形剤、例えば、緩衝剤、pH調整剤、保存料などをさらに含むことができる。本発明の医薬組成物に含められる賦形剤の性質および量は、意図される投与経路に依存するであろう。大抵、本発明のMreg-bc細胞またはその細胞レベル以下の画分を処置が必要な患者に提供するのに様々な投与経路が利用可能である。好ましくは、本発明の医薬組成物は非経口投与、例えば、皮下、筋肉内、静脈内または皮内への投与のために製剤化されることになる。特に好ましくは、Mreg-bc細胞もしくはその細胞レベル以下の画分、または上記細胞もしくは画分を含む組成物は静脈内投与によって患者に投与される。
【0058】
本発明のMreg-bc細胞またはそれらの細胞レベル以下の画分を医薬組成物に製剤化することは、薬物製剤化の分野において知られている慣例的方法を適用することによって成し遂げることができる。適する方法は、例えば標準的な教本に記載されている。注射または輸注による静脈内投与に適する医薬組成物は、通常、無菌の溶液または懸濁液および、無菌の水溶液または懸濁液を即席で調製するための無菌粉末を含む。注射用に意図された組成物は、無菌でなければならず、かつシリンジまたは輸注バッグでの簡便な取り扱いを可能にすべく流体であるべきである。
【0059】
組成物は、投与条件下で安定であるべきであり、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどを組成物中に含むことによって、細菌および真菌などの微生物の汚染作用から保護されることが好ましい。静脈内投与の場合、適する担体は、生理食塩水、静菌水、Cremophor EL(商標)(BASF)またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を含み得る。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび脂質ポリエチレングリコールなど)、およびそれらの適切な混合物を含有する、溶媒または分散媒であってもよい。適度な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング剤を使用すること、分散体の場合に必要な粒径を維持すること、および界面活性剤を使用することによって維持することができる。無菌注射液は、必要な量の細胞または細胞レベル以下の画分を適切な溶媒中に1つ以上の上記成分と共に組み入れ、その後に滅菌濾過することによって、調製することができる。一般に、懸濁液は、基礎分散媒とその他の上記のものからの他の必要な成分とを含有する無菌ビヒクル中に活性合成物、すなわち細胞またはその細胞レベル以下の画分を組み入れることによって調製される。無菌注射液を調製するための無菌粉末の場合、調製方法は、細胞またはその細胞レベル以下の画分と、任意の所望の付加的成分を、前もって滅菌濾過されたその溶液から得たものとを加え合わせた粉末をもたらす、真空乾燥および凍結乾燥である。
【0060】
輸注または注射が意図される組成物は、50~500mLの体積を有することとなり、この場合、90ml~250mlの体積が特に好ましく、90ml~150mlの体積がさらにいっそう好ましい。
【0061】
Mreg-bc細胞は、様々な投与計画による処置を必要とする患者に投与することができる。例えば、細胞または細胞画分を静脈内輸注によって患者に投与する場合、投与するMreg-bc細胞またはMreg-bc細胞画分の総量は1つまたは2つ以上の輸注によって供給されることができる。好ましい実施形態では、Mreg-bc細胞または細胞画分は、200μmフィルターを備えた輸注器具一式によって患者へ供給される。Mreg-bc細胞またはMreg-bc細胞画分を含む懸濁液には0.9%のNaClで初回刺激を行ってもよい。懸濁液は単回輸注で与えられてもよく、より好ましくは、60分未満、例えば60分以内、30分以内、20分以内または15分以内の短時間輸注で与えられてもよい。Mreg-bc懸濁液を投与するためには中心静脈カテーテルを使用することが好ましい。
【0062】
Mreg-bc細胞または細胞画分の投与には、前もって、同時に、または後に他の活性剤を投与することを伴うことができる。例えば、臓器移植を受けている患者の免疫応答を防止するために本発明のMreg-bc細胞または細胞画分を投与する場合、免疫抑制薬を本発明の細胞または細胞画分と一緒に投与してもよい。移植医学の分野で慣例的に使用される免疫抑制薬としては、限定されないが例えば、シクロスポリンA(CSA)、タクロリムス、アザチオプリン(AZA)、ミコフェノール酸モフェチル、ラパマイシンおよびステロイド(STE)が挙げられる。一般に、レシピエントの血中における免疫抑制薬の存在は本発明の細胞または細胞画分の有効性に影響を与えない。
【0063】
本発明の第1の態様において記載した方法から得られるMreg-bc細胞は安定な表現型を呈するが、Mreg-bc細胞またはMreg-bc細胞から得られる細胞レベル以下の画分は、それらを細胞培養物から採集してから24時間以内に投与されることが安全性の理由から推奨される。好ましくは、細胞は、培養物から細胞を採集してから20時間以内、16時間以内、12時間以内、8時間以内または4時間以内に投与される。
【0064】
第4の態様において、本発明は、本発明の第2の態様に係るMreg-bc細胞もしくはその細胞レベル以下の画分または本発明の第3の態様に係る組成物の治療的用途に関する。本明細書中の他の所に示されているように、本発明によって提供されるMreg-bc細胞は、それらを免疫抑制療法、抗炎症療法または組織修復療法において使用されるのに大いに適したものにする数々の薬理特性、例えば、免疫抑制特性、免疫調節特性、血管新生特性および抗炎症特性を呈する。例えば、本発明の人工的に誘導したMreg-bc細胞はT細胞抑制性であり、活性化T細胞の能動的除去を媒介する。このように、当該細胞は様々な免疫介在性疾患、例えば臓器移植における補助的免疫抑制療法としての使用に大いに適している。
【0065】
したがって、本発明の一実施形態において、本発明の第2の態様に係るMreg-bc細胞もしくはその細胞レベル以下の画分または本発明の第3の態様に係る医薬組成物は、移植拒絶反応を抑制しかつ/または移植物を受けている対象における移植物生存期間を延長する方法において使用される。かくして、本発明は、移植拒絶反応を抑制しかつ/または移植物を受けている対象における移植物生存期間を延長する方法であって、(i)本発明の第2の態様に係るMreg-bc細胞もしくはその細胞レベル以下の画分を有効量投与すること、または(ii)本発明の第3の態様に係る医薬組成物を投与することを含む方法に関する。好ましくは、移植物は臓器、組織または細胞移植物である。移植される臓器の種類は本発明によって限定されないが、腎臓、肝臓、心臓、肺または膵臓であることが好ましかろう。特に好ましくは、レシピエントに移植される臓器はヒト臓器である。
【0066】
本発明のMreg-bcは、移植物が臓器移植物ではなく組織移植物である場合には、移植拒絶反応を抑制しかつ/または移植物生存期間を延長するために使用することもできる。この場合も、レシピエントへ移植される組織は特に限定されない。レシピエント内の同種異系ドナーに由来していたいかなる組織の拒絶反応も、本発明のMreg-bcによって防止または改善することができる。移植される組織は、ヒト組織、例えば、腸、角膜、皮膚、複合組織、骨髄、または膵島組織であることが好ましかろう。
【0067】
本発明の方法に従って作製されるMreg-bcはさらに、レシピエントにおける免疫応答の抑制によってレシピエント内への細胞移植物の導入を支援することができる。移植物が細胞移植物である場合、移植される細胞の性質は概して限定されないが、移植される細胞は、成体幹細胞移植物、単離肝細胞移植物、または白血球細胞移植物からなる群から選択されることが好ましい。本発明のMreg-bc細胞はさらに、成体幹細胞のホーミングおよび生着を促進する可溶性因子、例えばカテリシジンを産生することができる。本発明の好ましい実施形態では、Mreg-bc細胞は、骨髄移植後またはHSC移植後の造血幹細胞(HSC)の生着を促進するために使用される。
【0068】
レシピエントにおける移植拒絶反応を抑制し、同種異系の臓器、組織または細胞移植物の許容性を誘導するために、本発明のMreg-bc細胞または、Mreg-bc細胞もしくはその細胞レベル以下の画分を含む医薬組成物は、上記のように注射または輸注によって静脈内投与することができる。注射または輸注は、術前または術後のどちらかにおいて与えることができる。Mreg-bc細胞を術前に投与する場合、それらを少なくとも1回、好ましくは2回、より好ましくは3回、術前にレシピエントに投与することになる。Mreg-bcは、術前1週間以内、例えば手術の6日前、5日前、4日前、3日前、2日前または1日前にレシピエントに投与されることが好ましい。Mreg-bc細胞を術後に投与する場合には、1回目の投与は、好ましくは術後24時間以内、より好ましくは術後36時間以内、48時間以内、60時間以内、72時間以内に与えることになる。あるいは、安定的に免疫抑制された移植レシピエントにおいては、Mreg-bc療法を移植後のいかなる時間に投与してもよい。あるいは、急性または慢性の移植拒絶反応を被っている移植レシピエントにMreg-bcを投与してもよい。Mreg-bcはその後、移植物に対するレシピエントの免疫系のT細胞応答を排除することができ、そしてレシピエントに長期間の移植許容性を付与するのに十分に長い間、レシピエントの体(特に、脾臓、肝臓、肺および骨髄)の中で存続することができる。
【0069】
移植物を受けている対象において移植拒絶反応を抑制するかまたは移植物生存期間を延長するために本発明のMreg-bcを使用する場合、移植物は普通は、同種異系移植物、すなわち、遺伝的には異なるがレシピエントと同一の種に属するドナーに由来する移植物であろう。この場合には、上記ドナーから得られた血液単球に基づいてMreg-bc細胞を発生させる。単球は、生きているドナーまたは死亡したドナーから得ることができる。死亡したドナー、すなわち献体の場合、ドナーの身体には普通、臓器保存のために主動脈の疎通によって灌流媒体を流す。静脈血は、身体から除去され、本明細書に記載の方法に従ってMreg-bcを作製するために採取されることができる。あるいは、ドナーの脾臓から単離される骨髄単核球からMreg-bcを作製することもできる。死ドナーから作製されたMreg-bcを術後適用する場合、臓器移植中にこの目的のために慣例的に使用される免疫抑制薬を投与することによって移植臓器の拒絶反応を防止することができる。
【0070】
別の実施形態では、生着または調節性T細胞に基づく医薬品の効果を促進または維持する方法において、本発明の第2の態様に係るMreg-bc細胞もしくはその細胞レベル以下の画分または本発明の第3の態様に係る医薬組成物を使用する。したがって、本発明はさらに、対象における生着または調節性T細胞に基づく医薬品の効果を促進または維持する方法であって、(i)本発明の第2の態様に係るMreg-bc細胞もしくはその細胞レベル以下の画分を有効量投与すること、または(ii)本発明の第3の態様に係る医薬組成物を投与することを含む方法に関するものである。
【0071】
本発明のMreg-bc細胞は、免疫調節特性および免疫抑制特性の他に、慢性炎症的な免疫プロセスを無効にするのを可能にする抗炎症特性を有する。したがって、本明細書において提供されるMreg-bc細胞は、調節解除された免疫状態または過剰な炎症反応によって特徴付けられる疾患または障害、特に慢性炎症性疾患を処置するのにも有用である。そのような疾患または障害としては、例えば、自己免疫疾患、炎症性疾患および過敏反応が挙げられる。
【0072】
したがって、さらに別の実施形態では、本発明の第2の態様に係るMreg-bc細胞もしくはその細胞レベル以下の画分または本発明の第3の態様に係る医薬組成物は、自己免疫疾患、炎症性疾患または過敏反応を処置または防止する方法において使用される。
【0073】
自己免疫疾患を処置するためにMreg-bcを使用する場合、上記疾患は、(a)主にT細胞によって媒介されるもの、(b)主に抗体によって媒介されるもの、または(c)主に免疫系のその他の細胞成分によって媒介されるものであり得る。疾患は限局性または全身性の自己免疫症状であり得る。Mreg-bc療法で処置される自己免疫症状の種類は本発明によって限定されないが、例えば、全身性紅斑性狼瘡(SLE)、強皮症、シェーグレン症候群、多発性筋炎、皮膚筋炎およびその他の全身性自己免疫症状;関節リウマチ(RA)、若年性関節リウマチおよびその他の炎症性関節炎;潰瘍性大腸炎、クローン病およびその他の炎症性腸疾患;自己免疫性肝炎、原発性胆汁性肝硬変およびその他の自己免疫性肝疾患;皮膚小血管性血管炎、多発血管炎性肉芽腫症、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、ベーチェット病、閉塞性血栓性血管炎、川崎病、および自己免疫を病因とするその他の大型、中型または小型の血管炎;多発性硬化症(MS)および神経免疫学的障害;I型糖尿病、自己免疫性甲状腺機能障害、自己免疫性下垂体機能障害およびその他の自己免疫性内分泌学的障害;溶血性貧血、血小板減少性紫斑病、および血液および骨髄のその他の自己免疫障害;乾癬、尋常性天疱瘡、類天疱瘡およびその他の自己免疫性皮膚症状が挙げられる。
【0074】
Mreg-bc細胞は、急性または慢性の炎症性疾患、および病態生理学的に重要な炎症性構成要素を有する疾患を処置するためにも有効である。処置される炎症性疾患は、限局性または全身性であり得る。Mreg-bcでの処置による恩恵を受ける炎症性の疾患または症状の種類としては、限定されないが、動脈閉塞性疾患、例えば末梢動脈閉塞性疾患(pAOD)、重症虚血肢、動脈硬化症、脳梗塞、心筋梗塞、腎梗塞、腸梗塞、狭心症および、動脈の閉塞または狭窄によって引き起こされるその他の症状;心臓シンドロームXとしても知られる微小血管狭心症;II型糖尿病および肥満関連メタボリックシンドロームを含めた全身的に代謝障害に関連する炎症;湿疹を含めた皮膚疾患が挙げられる。好ましくは、処置される炎症性疾患は、動脈壁の内膜の慢性炎症によって特徴付けられるもの、例えば、心筋梗塞、脳卒中、重症虚血肢性血管炎およびpAODである。
【0075】
過敏反応の処置が望まれる場合には、過敏反応は、好ましくは、喘息、湿疹、アレルギー性鼻炎、血管性浮腫、薬物過敏症および肥満細胞症の群から選択される。
【0076】
pAODの処置が特に好ましい。動脈閉塞の程度もしくは場所かまたは顕著な併存疾患かのどちらかのために血管再生術に適さない患者においてpAODは、甚だしく消耗性であること、および切断術が唯一の治療選択肢となる一般的にみられる症状であることが知られている。切断術は、相変わらず最終手段の処置であり、比較的高い死亡率との関連があり、ごく少数の患者だけが後に完全な可動性を回復させる。本発明の過程において、本明細書に記載の方法によって得られるMreg-bc細胞は、血管新生特性を有することが見出された。Mreg-bcは、VEGF、FIGF(VEGF-D)、PDGFBおよびMDKなどの血管新生促進性成長因子の基礎発現および刺激発現によって新生血管形成、すなわち新しい血管の形成を能動的に促進する。詳しくは、Mreg-bc細胞は、TLR4リガンドで刺激されると高レベルの血管内皮増殖因子(VEGF)を産生する。
詳しくは、Mreg-bcは、血管内皮増殖因子C(VEGF-C)の発現を誘導することが本発明において見出された。文献では、VEGF-Cは、生体内で新生血管形成を効果的に刺激する血管新生因子であることが報告されている[16]。
【0077】
一実施形態において、Mreg-bc細胞は、虚血肢内に筋肉内注射または皮下注射される。虚血組織内でMreg-bc細胞は、不可避的に、TLR4作動物質として作用する細菌構成要素および壊死組織構成要素(例えばHMGB1)に曝されることになる。それゆえ、Mreg-bcは、血管新生促進性成長因子の局所的分泌によって組織再生を促進するために使用することができる。別の実施形態では、製造工程中に生体外でMreg-bc細胞をTLRリガンドで刺激して、それらによるVEGFの高レベルの産生を確保してもよい。上記TLRリガンドとしては、限定されないが、例えば、リポ多糖(LPS)またはモノホスホリルリピドA(MPLA)が挙げられる。本発明のMreg-bcで処置されるpAODは、いかなる等級または部類のpAODであってもよい。例えば、pAODは、I度のpAOD、区分1~4、またはII~IV度のpAODであり得る。
【0078】
本発明のMreg-bcは、血管新生特性を有し、新生血管形成を必要とする他の疾患または症状におけるそれらの使用は本発明において企図される。それゆえ、本発明はさらに、低酸素組織における血管新生もしくは血管発生を誘導する方法、組織再構成、組織再生、線維症の防止もしくは軽減に関与することによって組織修復プロセスを促進する方法、虚血性疼痛を軽減する方法、または大幅な肢切断術を回避する方法において使用される、本発明の第2の態様に係るMreg-bc細胞もしくはその細胞レベル以下の画分または本発明の第3の態様に係る医薬組成物に関する。したがって、本発明は、低酸素組織における血管新生もしくは血管発生を誘導する方法、組織再構成、組織再生、線維症の防止もしくは軽減に関与することによって組織修復プロセスを促進する方法、虚血性疼痛を軽減する方法、または大幅な肢切断術を回避する方法であって、(i)本発明の第2の態様に係るMreg-bc細胞もしくはその細胞レベル以下の画分を有効量投与すること、または(ii)本発明の第3の態様に係る医薬組成物を投与することを含む方法に関する。
【0079】
自己免疫疾患、炎症性疾患または過敏反応の処置は、移植用途との関連において上に述べた、患者にとって同種異系である単球に由来するMreg-bcか、または処置を必要とする患者にとって自家である単球かのどちらかによって達成することができる。可能な場合には、自己免疫疾患、炎症性疾患または過敏反応の処置は、自家単球を使用して行うことになる。この目的のために、Mreg-bcは、同時的な局所筋肉内注射を伴って、または伴わずに、静脈内投与されることができる。
【0080】
さらに別の実施形態では、本発明の第2の態様に係るMreg-bc細胞もしくはその細胞レベル以下の画分または本発明の第3の態様に係る医薬組成物は、遺伝子療法を送達するためのビヒクルとして使用する。したがって、本発明は、遺伝子療法を送達する方法であって、(i)導入遺伝子を含んだ、本発明の第2の態様に係るMreg-bc細胞を有効量投与すること、または(ii)導入遺伝子を含んだ、本発明の第2の態様に係るMreg-bc細胞を含む医薬組成物を投与することを含む、当該方法に関する。
【0081】
第5の態様によれば、本発明は、免疫調節性マクロファージ細胞の細胞レベル以下の画分を作製するための工程であって、
(a)本発明の第1の態様との関連において記載した免疫調節性マクロファージを提供することと、
(b)免疫調節性マクロファージ細胞を分解して細胞レベル以下の画分を提供することと、
(c)細胞レベル以下の画分を得ることと
を含む工程に関する。
【0082】
本発明のMreg-bc細胞は、従来の方法にしたがって分解することができる。例えば、Mreg-bc細胞を低浸透圧溶液、洗浄剤または酸で処理することによって細胞を溶解させることができる。あるいは、凍結解凍もしくは加熱、音波処理、照射、機械的破壊または長期貯蔵によって細胞を分解することができる。方法の最後のステップでは、完全タンパク質画分、膜タンパク質画分、細胞質タンパク質画分などの、細胞の細胞レベル以下の画分が得られる。これらの画分は、上記治療目的のために生Mreg-bc細胞の代わりに使用することができる。あるいは、画分をさらに精製して特定タンパク質、例えばMHCタンパク質を単離することができる。
【0083】
したがって、第6の態様によれば、本発明は、免疫調節性T細胞を作製するための工程であって、
(a)対象のT細胞を得ることと;
(b)T細胞を、請求項14~18のいずれかに記載の免疫調節性マクロファージ細胞またはその細胞レベル以下の画分と共に培養することと;
(c)培地から免疫調節性T細胞を得ることと
を含む工程に関する。
【0084】
本明細書中の他の所に記載されているように、Mreg-bcと共に培養されたT細胞は、T細胞増殖を阻害する。したがって、上記方法から得られた免疫調節性T細胞を、単独で、または本発明のMreg-bc細胞と組み合わせて、本明細書中の他の所で述べた疾患または障害のいずれかの処置のために使用することができる。最初のステップでは、対象の血液試料からのT細胞を得る。細胞は、例えば、血液試料もしくはアフェレーシス済み液から、または対象の組織から、例えば骨髄もしくは脾臓から、得ることができる。細胞は、従来の方法によって、例えば血液からの細胞の場合には静脈穿刺によって、得ることができる。上記方法で使用するT細胞は、例えば、CD3+ T細胞またはそのサブセットであろう。CD3+ T細胞は、Mreg-bc細胞と共に培養する前に、従来の方法、例えば磁気マイクロビーズ分離またはフローサイトメトリー選別によって精製または濃縮することができる。
【0085】
その後、T細胞を本発明のMreg-bcと接触させる。様々なMreg:Treg比で細胞を接触させることができる。例えば、1:5~5:1、好ましくは1:2~2:1のMreg:Treg比で細胞画分を接触させることができる。より好ましくは、Mreg:Treg比は約1:1である。共培養法のために様々な培地を使用することができる。培地は、Mreg-bc細胞を作製する方法との関連において上に記載したものであり得る。好ましい実施形態では、培地は、LonzaからのX-vivo10である。培地は、さらなる添加剤、例えばM-CSFおよび/またはGM-CSF、好ましくはヒト組換えM-CSFおよび/またはGM-CSFを含有し得る。M-CSFおよび/またはGM-CSFの量は、本明細書中の他の所で言及した範囲、例えば5~100ng/ml、好ましくは20~25ng/mlにあるであろう。培地はさらに、他の添加剤、例えばGlutamaxを1~5mM、好ましくは2mMの量で含有してもよい。
【0086】
細胞は、1~8日間、好ましくは少なくとも3日間、少なくとも4日間、または少なくとも5日間共培養されることになる。所定の培養期間の後、T細胞は、従来の方法、例えばCD4+ CD25+ TIGIT+ FoxP3+ Tregに関して細胞を濃縮することによって、再単離され得る。必要であれば、細胞をさらに医薬品として製剤化することができる。
【0087】
第7の態様によれば、本発明は、免疫調節性マクロファージ細胞を検出する方法であって、
(a)マクロファージ細胞を含む試料を提供することと;
(b)上記試料においてDHRS9タンパク質の存在および/またはDHRS9遺伝子の発現を検出することと
を含み、DHRS9タンパク質の存在および/またはDHRS9遺伝子の発現が、免疫調節性マクロファージ細胞を試料中に含んでいることを指し示すものである方法に関する。
【0088】
方法は、免疫調節性マクロファージ細胞(Mreg)と、その他の活性化状態にあるマクロファージ、例えば単球由来マクロファージ(Mφ)、例えば、休止Mφ、LPS+IFNγ刺激Mφ、IL-4刺激Mφおよび免疫グロブリン(Ig)刺激Mφとを、区別するために使用することができる。DHRS9の発現はMregにおいてのみ認められたことから、このマーカーは、マクロファージの異種集団、例えばMregと少なくとも1つの以下のマクロファージ種:休止Mφ、LPS+IFNγ刺激Mφ、IL-4刺激Mφおよび免疫グロブリン(Ig)刺激Mφの中のMregを含む集団を識別するために使用することができる。DHRS9マーカーの検出は、DHRS9ポリペプチドまたはその断片に対する標準的な抗体を使用してフローサイトメトリーによって達成することができる。DHRS9の発現は、PCR、RT-PCR、リアルタイムPCRおよびその他の慣例的な方法によって検出することができる。
【0089】
第8の態様において本発明は、マクロファージの異種集団から免疫調節性マクロファージ細胞を単離する方法であって、
(a)マクロファージの異種集団を提供することと;
(b)免疫調節性マクロファージ細胞を、DHRS9タンパク質に特異的に結合する分子に対するそれらの親和性によって単離することと
を含む方法を提供する。
【0090】
例えば、一実施形態において、マクロファージの異種集団の中の免疫調節性マクロファージ細胞は、DHRS9に対して向けられる抗体と結合させることによって単離することができる。そのような抗体は、モノクローナル由来のものであってもよいし、ポリクローナル由来ものであってもよい。好ましい実施形態では、抗DHRS9抗体は、固相、例えばマイクロタイタープレートウェルの底に固定され得る。マクロファージ集団は、免疫調節性マクロファージ細胞の表面に存在するDHRS9に対する抗DHRS9抗体の結合を可能にすべくウェル内でインキュベートされる。未結合のマクロファージを洗い流した後、免疫調節性マクロファージ細胞の一様な集団が得られる。別の実施形態では、抗DHRS9抗体を磁気ビーズの表面に固定することができる。ビーズは、DHRS9に対する抗体の結合を可能にすべくマクロファージ集団と共にインキュベートされる。マクロファージ集団を含有する溶液からビーズを分離した後、免疫調節性マクロファージ細胞の一様な集団が得られる。
【0091】
したがって、さらに別の態様において本発明は、DHRS9に特異的に結合する分子、特に抗DHRS9抗体の、免疫調節性マクロファージ細胞の検出または単離のための使用に関する。
【実施例0092】
Mreg-bc細胞は、無菌医薬品の製造に関する現行のGMP原則に準拠して製造した。各処理ステップにおいて、製品、材料および設備を汚染物および不純物から保護する注意を払う。
【0093】
実施例1:Mreg-bc細胞の作製
健常ヒトドナーを白血球搬出に供して、Mreg-bc生成の出発物質として使用する末梢血単核球(PBMC)を採集した。全てのドナーは、白血球搬出の30日前までに感染性疾患を含めた該当する疾患マーカーに関してスクリーニングされた。ドナーは白血球搬出の日に同じ疾患マーカーに関して再スクリーニングされた。白血球搬出は、Terumo BCT Cobe Spectra装置またはそれに相当するものを使用して行った。
【0094】
Miltenyi CliniMACS(登録商標)システムを製造業者の使用説明書に従って使用してCD14+単球を白血球搬出産物から単離した。簡単に述べると、0.5%のヒト血清アルブミン(HSA)を含有するPBS/EDTA緩衝液で満たしたバッグ内に白血球搬出産物を移した。製造業者の使用説明書に従って、細胞を、CliniMACS(登録商標)CD14試薬で標識する前に1回洗浄した。標識細胞懸濁液を無菌管材一式に連結し、磁気分離によってCD14+単球を単離すべくCliniMACS(登録商標)装置に取り付けた。正に単離されたCD14+単球画分を培地で洗浄してCliniMACS(登録商標)分離用緩衝剤を除去した。
【0095】
その後、細胞培地の単球密度を106細胞/mlに調製した。工程内管理としてのフローサイトメトリーによる分析のためにCD14+単球を採取した。工程関連の計算において細胞数は、WBCパラメーターを全白血球数として用いて自動血液計数器を使用して決定した。全ての細胞種の生存能をフローサイトメトリーによって評価した。
【0096】
10%の男性限定ヒトAB血清(まとめ合わせて熱不活性化させたもの)と、2mMのGlutaMAX(商標)と25ng/mlの組換えヒト単球コロニー刺激因子(M-CSF)とを補充したRPMI培地中に、単離したCD14+単球を106細胞/mlの密度で再懸濁させた。
【0097】
この単球懸濁液をMiltenyi(登録商標)細胞分化バッグ内へ、各バッグに1×106細胞/cm2内面積が播種されるように分配した。培養のために、36~38℃、5±1%のCO2、60%以上の湿度に設定したインキュベータ内の棚に分化バッグを平置きした。単球を1日間にわたって培養バッグの下面上に沈降させた。1日目にバッグを反転させて反対側の面に単球を付着させた。培養物をさらに5日間インキュベータ内に維持した。
【0098】
単球からMreg-bcへの最終分化を誘導しかつインドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)発現を誘導するために、単球を25ng/mlのIFN-γの添加で刺激した。IFN-γの添加後、分化バッグをもう1回反転させた。次いでバッグをさらに18~24時間、36~38℃、5±1%のCO2、60%以上の湿度でインキュベートした。
【0099】
7日目に分化Mreg-bcを採集した。並行する全ての培養バッグからの細胞をまとめ合わせ、表現型および機能の分析に先立って洗浄した。
【0100】
実施例2:Mreg-bcの表現型特性評価
実施例1の方法で得られたMreg-bcの表現型を詳しく分析した。培養中、マクロファージは、細胞が敷き詰められた上皮様形態を採用した独特の形態を呈して、ほぼコンフルエントな単層を形成する(図6Aを参照のこと)。個々のマクロファージは、突出した中央本体と培養容器の表面を対称的に覆って広がる細胞質の薄い裾部とを有する大型の密集した顆粒状の細胞である。透過型電子顕微鏡検査によるマクロファージの超微形態的調査によって、下地面に非常に密接して付着している大型の平坦な細胞の印象が確認される(図6Bを参照のこと)。大部分の点において、マクロファージの超微形態的外観は活性化マクロファージに典型的なものである:突起部が細胞の外周および上面から伸長し;核が十分豊富なクロマチンを伴って活動的に見受けられ;そして、細胞質が多数の細胞内小胞、脂質封入体および顕著な滑面小胞体を含有する。
【0101】
Mreg-bc細胞の細胞表面表現型はフローサイトメトリーによって特徴付けられた。フローサイトメトリーによる分析のためのMreg-bc細胞を作製するために、細胞を採集してCa2+/Mg2+不含DPBSで1回洗浄し、その後、1%のBSAと0.02%のNaN3と10%のFcR block(Miltenyi)とを含有するCa2+/Mg2+不含DPBS中に1~5×105細胞/100μlで再懸濁させた。次いで、試料を4℃で15分間インキュベートした。様々な製造業者から蛍光色素結合抗体を入手し、細胞懸濁液と接触させ、試料を渦流撹拌してから暗所にて4℃で20分間インキュベートした。10μlの7-AADを添加した後、各試料をしばらく渦流撹拌し、さらに10分間4℃で暗所にてインキュベートした。続いて、試料を冷たいCa2+/Mg2+不含DPBSで2回洗浄し、分析のために再懸濁させた。製造業者の説明書に従ってFASER試薬(Miltenyi)を2回使用することを用いてClec-9a信号を増強した。細胞内染色のために、細胞をまず上記の細胞表面抗原について染色し、その後、細胞内固定&透過化用緩衝剤セット(eBioscience)を製造業者の説明書に従って使用して固定および透過化を行った。10%のFcR blockを含有する透過化用緩衝液中に細胞を再懸濁させ、その後、暗所にて4℃で15分間インキュベートした。蛍光色素結合抗体を細胞懸濁液と接触させ、試料をしばらく渦流撹拌し、その後、暗所にて30分間4℃でインキュベートした。細胞を透過化用緩衝液で2回洗浄し、分析のために再懸濁させた。データはCanto IIフローサイトメータ(BD Biosciences、ドイツ)で取得し、FlowJo7.6ソフトウェア(TreeStar、米国)またはKaluza1.1ソフトウェア(Beckman Coulter、ドイツ)で解析した。
【0102】
このフローサイトメトリー分析は、本発明の生ヒトMreg-bc細胞がCD14-/low CD209-/low CD16-/low CD80-/low CD86+ CD10+/- CD103+/- CD38-/low CD85h+ CD258+ シンデカン-3-/low Clec-9a+の表現型を呈することを明らかにした(図2)。
【0103】
実施例3:Mreg表現型の特有性
形態学、細胞表面マーカー発現、サイトカイン産生および全体的な遺伝子発現プロファイルの観点からMregと比較するためのマクロファージ種のパネルを生成することによって、Mregと当該技術分野において既知のその他の活性化状態にあるマクロファージとの表現型の関係性をはっきりさせた。Mregは、それらの特徴的な形態(図6Cを参照のこと)およびそれらの際立った細胞表面表現型(図6Dを参照のこと)によって容易にこれら全ての他のマクロファージ種と区別することができた。詳しくは、Mregは、CD14を下方制御する点およびそれらに細胞表面のCD16、TLR2およびCD163の発現が欠如している点において独特であることが分かった。
【0104】
Mregと比較マクロファージのパネルは、それらのサイトカインおよびケモカインの産生プロファイルによっても区別された。Mregは恒常的にごく少量のTNF-αおよびIL-6を産生し、検出可能な量のIL-12p40を分泌しない。Mregは、検出可能なレベルのTGF-βおよび多量のIL-1Raを発現するが、IL-10については他のマクロファージ種に比べて発現が著しく少ない。このサイトカイン分泌プロファイルは、IFN-γおよびLPSへの曝露後に比較的安定的に保たれる。
【0105】
Mregによって排他的に発現されるマーカーを同定するために、以前に記載された方法[10]に従って、健常ドナーからの血小板採集の副産物として得られる末梢血白血球からMregとIFN-γ-Mφとを発生させた。手短に述べると、抗CD14マイクロビーズ(Miltenyi、Bergisch-Gladbach)による正の選択によって、Ficollにより調製されたPBMCからCD14+単球を単離し、次いで、6ウェルCell+プレート(Sarstedt、Numbrecht)において、10%の熱不活性化ヒトAB血清(Lonza)と2mMのGlutamax(Invitrogen、Karlsruhe)と100U/mLのペニシリン(Lonza)と100μg/mLのストレプトマイシン(Lonza)と、0.1%のヒトアルブミン(CSL-Behring、Hattersheim-am-Main)を担体とした25ng/mlのrhM-CSF(R&D Systems、Wiesbaden-Nordenstadt)とを補充したRPMI-1640(Lonza、Cologne)中に105細胞/cm2で播種した。培養6日目に、25ng/mlのrhIFN-γ(Chemicon、Billerica、MA)で細胞をさらに18~24時間刺激した。ヒト血清を10%の熱不活性化ウシ胎仔血清(FCS)(Biochrom、ベルリン)で置き換えた以外はMregの場合と同一の条件下でCD14+単球を培養することによって、IFN-γ刺激されたマクロファージ(IFN-γ-Μφ)を発生させた。他の規定の分極状態にあるマクロファージ(Μφ)は、文献[12]~[15]から採用したプロトコールに従って正の単離されたCD14+単球から発生させた。手短に述べると、以下:休止Μφの場合、20%のFCSと100ng/mlのM-CSFとを補充、7日間;リポ多糖(LPS)活性化Μφの場合、20%のFCSと100ng/mlのM-CSFとを補充、さらに6日目に100ng/mlのLPS(Enzo Life Sciences)と20ng/mlのIFN-γとを添加;IL-4刺激Μφの場合、20%のFCSと100ng/mlのM-CSFとを補充、さらに6日目に20ng/mlのIL-4(R&D Systems)を添加;Ig刺激Μφの場合、10%のFCSと100ng/mlのM-CSFとを補充、プラスチック製品内で成長した細胞をヒトIVIg(PrivigenTM、CSL Behring)で前コート、6日目に100ng/mlのLPSを添加;グルココルチコイド(GC)刺激Μφの場合、20%のFCSと100ng/mlのM-CSFとを補充、さらに6日目に10-7Mのデキサメタゾン(Sigma-Aldrich)を添加、という補充された100U/mlのペニシリンと100μg/mlのストレプトマイシンと2mMのGlutaMAXTMとを含有するRPMIに基づく培地中で105細胞/cm2で単球を7日間、Cell+プラスチック製品(Sarstedt)内で培養した。
【0106】
マウスにヒトMreg溶解物をワクチン接種することによって一連のモノクローナル抗体(mAb)を発生させた。これらのmAbを免疫細胞化学によってスクリーニングすることによって、Mregと強く反応するが休止MφとLPS+IFNγ刺激MφとIL-4刺激Mφと免疫グロブリン(Ig)刺激Mφとを含めた他の単球由来マクロファージ(Mφ)とは反応しないmAbクローン(ASOT1)を同定した(図3Aを参照のこと)。その抗原を免疫沈降させて配列決定することにより、ASOT1 mAbは、あまり研究されていないSDRファミリーのレチノール脱水素酵素であるDHRS9を認識することが示された(図3Bを参照のこと)。定量PCRは、DHRS9 mRNA発現がMregに限定されていることを裏付けた(図3C)。DHRS9のN末端エピトープに対して発生させたウサギポリクローナル抗体は、ASOT1によって免疫沈降させた約35kDのタンパク質と反応した(図3Dを参照のこと)。DHRS9を認識する市販のモノクローナル抗体(クローン3C6)も、ウサギ抗体によって検出された同タンパク質と反応したことから、ASOT1もウサギポリクローナル抗体もDHRS9を認識すると確信を持って結論付けることができる。このウサギpAbを使用して、DHRS9タンパク質発現はMregに独特のものであることが示された(図3E)。
【0107】
全ゲノム発現プロファイリングを用いて、Mregと他の活性化状態のマクロファージとの間での表現型近縁性についての包括的見識を得た。3名の別個のドナーから並行して作製された9つの比較マクロファージ種のパネルについてマイクロアレイ分析を行った。任意の2つの試料間で20倍超の差を有して発現される遺伝子を選択し、階層的にクラスター化させたところ、Mreg試料は他のいかなるマクロファージ試料よりもIFN-γ未処理MregおよびLPS刺激Mregに最も類似していることが明らかになった。このクラスタリングパターンは、全ての顕著に異なる発現をするプローブを解析に使用した場合、安定したままであった。Mreg試料は、他のマクロファージ種よりもIg刺激M2bマクロファージにより類似しており、態様1のステップ(c)に係るMreg表現型の発達におけるIgによる刺激の重要性が強調された。休止マクロファージおよびIFN-γ刺激マクロファージはM2aマクロファージおよびM2cマクロファージと共にクラスター化された。古典的に活性化されたM1マクロファージと比較マクロファージ種との類似性は、比較マクロファージ同士の類似性よりも低かった。これらの観察結果から、Mregは独特の活性化状態にあり、LPSでの刺激によるM1表現型への再分極に対して比較的不応性であると結論付けられ得る。
【0108】
マイクロアレイのアレイ結果は、Mregとその他全ての比較マクロファージとを区別する下方制御遺伝子の一覧の中にCD163、IL-10およびCD14が見当たらなかった限りにおいて、フローサイトメトリーでの知見と一致していた。Mregによって独特に上方制御された遺伝子セットの中でもCD258(TNFSF14、LIGHT)およびCD85H(ILT1、LILRA2)は、Mreg同一性についての有用なマーカーであると同定された。IFN-γ刺激マクロファージによるのではなくMregによるCD258およびCD85bの発現がフローサイトメトリーによって確認された(図7)。
【0109】
CD45+ CDllb+ CDllc+ CD14-/low CD209-/low CD16-/low CD80-/low CD86+ CD10+/- CD103+/- CD38-/low CD85h+ CD258+ シンデカン-3-/low Clec-9a+ DHRS9+およびArg-1+およびIDO+の一群は、Mregの表現型の厳密な安定した定義である。
【0110】
実施例4:NOD/SCID/IL2rγnullマウスにおける同種異系Mreg-bc処置による活性化末梢血由来ヒトTregの発生
本発明のMreg-bc細胞を実施例1に記載されているとおりに作製した。ヒトT細胞を使用して免疫不全NOD/SCID/IL2rγnull(NSG)マウスを再構成した。これらのマウスは、本発明のMreg-bc細胞で処置されたかまたは処置されなかったかのどちらかであった(図8Aを参照のこと)。Mreg-bc細胞処置から5日後にヒトT細胞をレシピエントマウスの脾臓から回収した。Mreg処置マウス中のT細胞集団は、Mreg-bcで処置されなかったレシピエントと比べてFoxP3+ TregおよびTIGIT+ FoxP3+ Tregが富化されていた(図8Bを参照のこと)。Mreg-bc細胞で処置されたNSGマウスでは、未処置動物に比べてヒトIL-10の血清レベルが有意に高かった(図8Cを参照のこと)。この実施例は、ヒトMreg-bcが生体内で同種異系ヒトT細胞と直接相互作用してTreg発達を誘導することができることを実証している。
【0111】
実施例5:術前におけるMreg-bc細胞による腎移植レシピエントの処置
本発明のMreg-bc細胞を実施例1に記載されているとおりに作製した。多発性嚢胞腎に起因する末期腎不全を有する43歳の有望な生体ドナー腎移植レシピエントにMreg-bc細胞を投与した。Mreg-bc細胞は、後に息子に腎提供したレシピエントの健常な62歳の父親から採取した単球から作ったものである。ドナーおよびレシピエントは、HLA-A、-Bおよび-DR遺伝子座に単一の不一致を有していた。
【0112】
合計4.75×108個の生Mreg-bcを緩徐な中心静脈輸注によって投与した。副作用には遭遇しなかった。具体的には、肺血管閉塞、右心負荷、輸血反応、過敏反応または生化学的障害の兆候はなかった。Mreg-bc細胞による処置は、抗ドナーHLA抗体をレシピエントが産生することを引き起こさなかった。
【0113】
レシピエントは今や同種異系移植片の機能が安定しており移植後から15ヶ月以上経っている。レシピエントは現在、タクロリムスおよびMMFを含む低用量免疫抑制計画で維持されている。この事例は、Mreg-bc細胞を術前腎移植レシピエントに投与することの妥当性を例証している。
【0114】
実施例6:Mreg-bc細胞による血管新生因子の産生
Mreg-bc細胞がモノホスホリルリピドA(MPLA)によって刺激されると血管新生因子VEGF-Aを産生するか否かを試験した。この実験の段取りを図9に描写する。
【0115】
1つ目の試験条件では、6日目の25ng/mlのIFN-γによる標準的刺激を含めて、実施例1に記載しているとおりに7日目までMreg-bcを成長させた。7日目にMreg-bc細胞を採集し、24ウェルプレートにおいて1ウェルあたり0.5×106個の細胞を、1mlのRPMI-1640+1%のHABS+Pen-Strep+2mMのGlutaMAXの中に再播種した。次いで、これらの再播種したMreg-bc細胞を1μg/mlのLPSで刺激するかあるいは刺激しなかった。並行して、Mreg-bc細胞を採集し、フローサイトメトリーによってCD14、CD10、CD16、CD38、CD80、CD86、CD85h、CD103、CD258、CD209およびシンデカン-3について調査した。
【0116】
2つ目の条件では、Mreg-bc細胞を培養6日目に100ng/mlのMPLAによって追加で刺激し、それと同時にIFN-γを添加した。7日目に、条件2から採集したMreg-bc細胞を条件1と同様に再播種および刺激した。さらに、条件2からのMreg-bc細胞をフローサイトメトリーによってマーカーCD14、CD10、CD16、CD38、CD80、CD86、CD85h、CD103、CD258、CD209およびシンデカン-3について分析した。
【0117】
3つ目の条件では、Mreg-bc細胞を通常どおり6日目に25ng/mlのIFN-γで刺激した。7日目に細胞をさらに24時間、100ng/mlのMPLAでさらに刺激した。次いで8日目に、条件1および2と同様に分析のために細胞を採集した。
【0118】
3つ全ての条件からの細胞によるVEGF-Aの分泌をELISAによって測定した。3つ全ての条件からの細胞の表現型をフローサイトメトリーによって比較して、Mreg-bcを特徴付ける細胞表面表現型の試験条件下での安定性を評価した。
【0119】
結果:VEGF-A判定の結果を図9に描写する。6日目または7日目における100ng/mlのMPLAによる処理は、LPSによって誘導されるVEGF発現を増強することが分かった。100ng/mlのMPLAによる処理はMreg-bc表現型を24時間以内に劇的に変化させず、CD80発現のごく僅かな上方制御のみが認められた。これらの例は、Mreg-bc培養中のMPLA処理が、Mreg-bc細胞によるVEGF-Aの産生を患者への適用前に増強する有用な方法であり得たことを指し示している。
【0120】
実施例7:Mreg-bc細胞による血管新生因子の産生
Mreg-bc細胞が血管新生関連因子を産生するか否かを試験した。この目的のために、5名の新たなドナーから30×106CD14+単球/ドナーよりも多く単離した。培地(RPMI-1640+10%のHABS+2mMのGlutaMax+PS+25 ng/mlの組換えヒトM-CSF)を5個の500mlバッグのために調製した。ドナー1人あたり1つの500mlバッグに30×106単球/バッグを充填した。6日目に全てのバッグをIFN-γで刺激した。7日目にMregを採集して数を数えた。
【0121】
続いて、Mreg培地(RPMI-1640+10%のHABS+2mMのGlutaMax+PS+25 ng/mlの組換えヒトM-CSF)を再培養のために調製した。正確に15mlの培地を8本の50ml管の各々に加えた。NaCl溶液または10ng/mlのLPS(Enzo)を以下のとおりに添加し、渦流撹拌した。
【0122】
24ウェルプレートに1×106細胞/ウェルのMregを播種した。1条件および1ドナーあたり1ウェルとした。
【0123】
培養物を正確に48時間インキュベートした。上清を採集して浄化した。500μl以上のアリコート2つを調製した。試料は、VEGF-A、VEGF-C、VEGF-DおよびTNF-αについてELISAにより分析する時まで-80℃で貯蔵した。
【0124】
結果:ELISAの結果を図10に示す。図10Aから分かるように、LPSと組み合わせたMregはVEGF-A、VEGF-CおよびTNF-αを誘導したが、VEGF-Dを誘導しなかった。高張条件下でMregは、VEGF-Cを発現するがVEGF-A、VEGF-DまたはTNF-αを発現しないように誘導された(図10B)。
【0125】
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