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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023030194
(43)【公開日】2023-03-07
(54)【発明の名称】アノード上にSEI層を形成する方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20230228BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20230228BHJP
   H01M 4/1393 20100101ALI20230228BHJP
   H01M 4/1395 20100101ALI20230228BHJP
   H01M 4/1391 20100101ALI20230228BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20230228BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20230228BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20230228BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230228BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M10/058
H01M4/1393
H01M4/1395
H01M4/1391
H01M4/587
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M4/36 E
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023000308
(22)【出願日】2023-01-04
(62)【分割の表示】P 2020500700の分割
【原出願日】2018-07-09
(31)【優先権主張番号】62/530,609
(32)【優先日】2017-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】512138976
【氏名又は名称】ナノスケール コンポーネンツ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベガ、ホセ、エイ.
(72)【発明者】
【氏名】アカリージ、アセラ、マハ
(72)【発明者】
【氏名】ボール、ロナルド、エイ.
(57)【要約】
【課題】充電式金属イオン電池のアノード上にSEI層を形成する方法。
【解決手段】充電式金属イオン電池のアノード上にSEI層を形成する方法であって、a.アノードの不可逆的損失以上の用量までアノードを予備アルカリ化するステップと、b.予備アルカリ化アノード、カソード、セパレータ、および電解質を密閉セルに組み立てるステップと、c.外部電圧または電流を印加せずにセルを浸漬することによってSEI層を形成するステップと、d.任意選択的にセルを脱気するステップと、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
充電式金属イオン電池のアノード上にSEI層を形成する方法であって、
a.アノードの不可逆的損失以上の用量まで前記アノードを予備アルカリ化するステップと、
b.前記予備アルカリ化アノード、カソード、セパレータ、および電解質を密閉セルに組み立てるステップと、
c.外部電圧または電流を印加せずに前記セルを浸漬することによってSEI層を形成するステップと、
d.任意選択的に前記セルを脱気するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記予備アルカリ化ステップはリチウム化を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アノードは、黒鉛またはその他の炭素、ケイ素、スズ、ケイ素合金、酸化ケイ素、金属酸化物、またはこれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
SEI層を形成するステップは、前記セルを1時間から10日間浸漬することによって実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
SEI層を形成するステップは、前記セルを1時間から2日間浸漬することによって実行される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記SEI層は周囲温度で形成される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記SEI層は約10℃から60℃の間の温度で形成される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記SEI層は、前記セルを1時間から2日間浸漬することによって形成される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
充電式金属イオン電池の形成方法であって、
a.アノードの不可逆的損失以上の用量まで前記アノードを予備アルカリ化するステップと、
b.前記予備アルカリ化アノード、カソード、セパレータ、および電解質を密閉セルに組み立てるステップと、
c.外部電圧または電流を印加せずに前記セルを浸漬することによってSEI層を化学的に形成するステップと、
d.任意選択的に前記セルを脱気するステップと、
e.外部電圧および/または電流の印加を通じて前記アノードを充電するステップと、
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願
本出願は、2017年7月10日に出願された米国仮出願第62/530,609号明細書の恩典を主張する。上記出願の全教示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
金属イオンがアノードとカソードの間を往復する充電式金属イオン電池の分野では、電解質は、電極の表面上において様々な電圧で反応することができる。前記金属イオンの例は、リチウムを含む。
【0003】
パッシベーション膜は、充電式金属イオン電池の初期サイクル中に、カソードおよびアノードの表面上に形成される。前記パッシベーション層の形成は、金属イオン、活性被膜材料、有機溶媒、および有機溶媒中に溶解した塩の間の不可逆的反応を伴う。反応は、図1に示されるように、不溶性の生成物およびポリマー化合物を形成する、溶媒および塩の還元を伴う可能性がある。アノードで形成されたパッシベーション膜は、しばしば固体電解質界面(SEI)層と呼ばれ、これはパッシベーション層の形成中の不可逆的反応の大部分を担う。
【0004】
SEIは、アノードと溶媒/電解質とのさらなる不可逆的反応を防止および/または減速させる保護的役割を果たす。これらの反応の結果の例はリチウムイオン電池に見ることができ、これらは通常、5から40%の不可逆的な初期損失を有するものとして説明される。理想的なSEIは、薄く、多孔性が最小限で、電気化学的に不活性で、電気絶縁性で、イオン伝導性でなければならない。SEIの形成は、通常は電池カソード内に存在する金属イオン残量の一部を消費し、電池容量を減少させる、不可逆的損失を意味する。加えて、このSEI形成中に気体生成物が形成され、電池の内部に蓄積する。しかしながら、SEI形成がなければ電池のサイクル寿命が短くなるため、これは不可欠である。
【0005】
SEIの典型的な電気化学的形成は、しばしば形成サイクルと呼ばれる。特定の化学的性質に応じて、いくつかの電気化学的形成サイクルプロトコルが採用され得る。使用される最も一般的な方法のいくつかは、シングルステップおよびマルチステップの電流形成およびパルス形成である。無機金属塩など、室温動作では生成されない特定の生成物を形成するために、室温より高く電解質沸点より低い温度にセルを維持しながら、電流が印加され得る。電気化学的形成は、電解質の沸点未満に維持された高温での断続的な高温浸漬ステップと組み合わされる場合がある。適用される特定の化学的性質および形成プロトコルによっては、セルの内部に圧力が蓄積されて余分な脱気ステップを導入する結果になるのを防ぐために、形成サイクル中に発生したガスを除去する必要があるかも知れない。業界では、これらおよびその他のプロセスの独自の組み合わせが使用され、結果的に非常に複雑な形成サイクルプロトコルとなる可能性がある。
【0006】
形成プロトコルは、Liイオン電池製造に対して大きな経済的影響を及ぼす可能性がある。形成プロセスは、多数のサイクルステーションの設置を要する。ひいては、これにより、資本設備コスト、エネルギー消費、プラントサイズ、および温度制御要件が増加する。現在の研究は、形成サイクルが電池の全コストのおよそ5%を占める可能性があることを示している。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、アノードが予備アルカリ化されているセル内のSEI層の形成のための非電気化学的プロセスの発見に関する。新規なプロセスは、アルカリ化アノードの非電気化学的形成手順を提供することにより、電池セルの電気化学的形成の必要性を排除することができる。非電気化学的方法は、従来の充電、サイクル、および/または動作の前に、電池内部構成要素を電解質中に浸漬または維持することを伴う。
【0008】
この議論のために、形成とは、SEIが充電式金属イオン電池内に最初に構築されるプロセスを指す。電気化学的形成は、アノード表面上にSEIを形成するための、外部電気化学的駆動力(電圧または電流)の印加を伴う。非電気化学的形成は、電気化学的経路ではなく、化学的経路のみによるSEI形成を伴う。非電気化学的形成中には、外部電気化学的駆動力(電流または電圧)は利用されない。
【0009】
従来の電池(予備アルカリ化アノードなしで構築されたもの)は、アノードがゼロ電位/電圧に近い不活性電気化学状態で組み立てられる。この段階では、アノード、有機溶媒、および溶解した塩の間でSEI形成反応を実行するのに十分なエネルギーはない。したがって、アノード電極が、SEI反応の発生を可能にするエネルギー状態に到達できるように、電流または電圧が印加されなければならない。
【0010】
予備アルカリ化アノードを使用してセルが構築されると、このアノードは、アルカリ化の度合に応じたエネルギーレベルを有するようになる。予備アルカリ化の度合は、総アノード容量のわずか1%から99%までの範囲が可能であり、特定のアノードおよびカソード材料ならびにセルの負対正の比率に依存し得る。予備アルカリ化の後、アノードは、非ゼロ電位/電圧、したがって非不活性エネルギー状態となる。我々は、SEIが形成できる電圧よりも近い電位電圧を予備アルカリ化アノードが有するとき、および予備アルカリ化用量がアノードの1サイクル目の不可逆的損失以上である場合には、セルが構築された後にアノード電極表面の化学反応のみを通じて非電気化学的SEI形成を実行できることを見出した。
【0011】
予備アルカリ化アノードを有する電池の非電気化学的形成を独占的に組み込むことによって、製造コストを削減する好適なプロセスを通じてSEIが形成され得る。
【0012】
本発明は、セルの形成の方法を提供し、以下のステップを含む。
(a)アノードの1サイクル目の不可逆的損失以上の用量までアノードを予備アルカリ化するステップ。アノードは、黒鉛、コークス、その他の炭素、スズ、酸化スズ、ケイ素、酸化ケイ素、アルミニウム、リチウム活性金属、合金化金属材料、およびこれらの混合物であり得る。
(b)予備アルカリ化アノード、カソード、セパレータ、および電解質を密閉セルに組み立てるステップ。
(c)SEI層を形成するのに十分な条件および時間でセルを浸漬するステップ。
(d)任意選択的にセルを脱気するステップ。
【0013】
本発明は、市販の予備アルカリ化アノードを使用すること、または予備アルカリ化ステップを含むことができる。好適な実施形態では、アノードは、当該技術分野で既知の既存のプロセスにしたがって予備アルカリ化される。非電気化学的浸漬形成ステップ(c)は、1時間から10日間、好ましくは4時間から5日間、またはより好ましくは12時間から2日間にわたって実施され得る。浸漬温度は、-20℃から電解質の沸点まで、好ましくは10℃から60℃まで、さらに好ましくは20℃から40℃までであってもよい。なお、様々な沸点を有する広範な電解質が使用され得ることが、理解される。
【0014】
一実施形態では、予備アルカリ化アノードで構築された電池は、化学的SEI形成を完了するために、周囲温度で所定の時間にわたって浸漬される。
【0015】
別の実施形態では、予備アルカリ化アノードで構築された電池は、化学的SEI形成を完了するために、単一の制御された温度で所定の時間にわたって浸漬される。
【0016】
さらなる実施形態では、予備アルカリ化アノードで構築された電池は、化学的SEI形成を完了するために、異なる周囲温度または制御された温度で所定の時間にわたって浸漬される。
【0017】
本発明の前述およびその他の目的、特徴、および利点は、異なる図面にわたって類似の参照符号が同じ部分を指す添付図面に示されるように、本発明の好適な実施形態の以下のより詳細な説明から、明らかになるだろう。図面は必ずしも縮尺通りではなく、むしろ本発明の原理を説明することに重点が置かれている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】アノード上のSEI反応を示す図である。
図2】予備アルカリ化後、浸漬前のアノードの例を示す図である。
図3】予備アルカリ化および浸漬の後のアノードの例を示す図である。
図4】24、48、および72時間室温で浸漬したアルカリ化アノードのSEIを示す図である。
図5】25℃および40℃で24時間浸漬した予備アルカリ化アノードのSEIを示す図である。
図6】およそC/2のレートで広範囲の充電および放電サイクルにわたってテストしたNCM対ケイ素/黒鉛セル(電気化学的形成対非電気化学的形成)の面積容量を示す図である。
図7】電気化学的形成対非電気化学的形成のフルセルの容量維持を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
炭素または黒鉛を含むアノードなど、黒鉛、コークス、炭素、スズ、酸化スズ、ケイ素、酸化ケイ素、アルミニウム、リチウム活性金属、合金化金属材料、およびこれらの混合物を含むアノードは、カソード材料に由来する金属を用いて、組み立て後の電池動作の最初の充電ステップ中に、アルカリ化される。これらの場合、カソードは、電池の中で最も重く最も高額な構成要素である。加えて、この電気化学的形成ステップは、電池の製造に、時間、資本、およびエネルギーのリソースを追加する。したがって、電気化学的形成を排除する方法を設計することは、望ましく、商業的に重要であろう。非電気化学的形成の方法が実現されれば、製造時間および資本投資の大幅な削減を達成することができる。
【0020】
本発明は、予備アルカリ化された充電式金属イオン電池内のSEI層の非電気化学的形成の方法に関し、前記方法の利用は、製造時間、設備要件、およびエネルギー消費の削減をもたらす。非電気化学的方法は、従来の充電、サイクル、および/または動作の前に、電池内部構成要素を電解質中に浸漬または維持することを伴う。
【0021】
従来の製造中、炭素または黒鉛またはケイ素またはケイ素/炭素配合物を含むアノードは、カソード材料に由来する金属で、電池の最初の充電ステップ中にアルカリ化される。電気化学的形成と呼ばれるプロセスである。このプロセスで使用される特殊なサイクル機器は、任意の一回でサイクルできるセルの量に関して本質的に制限されている。特殊な機器上でサイクルされるセルの各バッチは、通常、完了するのに10~20時間かかる。したがって、充電式金属イオン電池技術における望ましい目的の1つは、電池の効率および性能を損なわずに電気化学的形成ステップを排除することである。電気化学的形成ステップの排除により、電池コストを削減し、製造上のボトルネックを排除することになる。
【0022】
本発明の好適な実施形態は、充電式金属イオン電池のアノード上にSEI層を形成する方法であって、
a.アノードの不可逆的損失以上の用量までアノードを予備アルカリ化するステップと、
b.予備アルカリ化アノード、カソード、セパレータ、および電解質を密閉セルに組み立てるステップと、
c.外部電圧または電流を印加せずにセルを浸漬することによってSEI層を形成するステップと、
d.任意選択的にセルを脱気するステップと、
を含む方法である。
【0023】
従来の電池が構築されると、電気化学的形成は、SEIの形成により、不可逆的損失をもたらす。この不可逆的損失は、使用されているアノード材料の種類に応じて、アノード容量の5~40%の範囲が可能である。本発明の好適な実施形態は、黒鉛、その他の炭素、ケイ素、ケイ素合金、金属酸化物、およびこれらの組み合わせなどのアノード材料を使用する。
【0024】
総アノード容量の15%のSEI形成に関連する不可逆的損失を有するアノードがその容量の20%の用量まで電気化学的に予備アルカリ化された場合、図2に示されるように、予備アルカリ化用量の約2/3はアノード表面上にSEIを形成し、用量の約1/3は、SEIが形成された領域でアノード活物質にインターカレートする。
【0025】
前述のように、セルは、予備アルカリ化アノード、カソード、セパレータ、および電解質を使用して組み立てられる。好適な実施形態では、セルはその後、制御された温度または周囲温度で1時間から10日間、好ましくは4時間から5日間、またはより好ましくは12時間から2日間にわたって浸漬されたままである。持続時間は、2つのメカニズムを介して予備アルカリ化用量によって影響を受ける。第一に、一般に、より高いレベルの予備アルカリ化は、電気化学的な予備アルカリ化プロセス中に、より大量のSEIをアノード表面上に形成させ、浸漬形成ステップ中に形成されなければならないものを少なくする。したがって、予備アルカリ化用量がより多いアノードを含むセルは、低容量のものよりも短い浸漬形成時間を要する。第二に、セルOCVによって測定されるように、より多くの予備アルカリ化用量は、アノードをより高いエネルギー状態のままにする。この高エネルギー状態は、浸漬中の化学的SEI形成に役立ち、SEI形成反応が起こる時間を短縮する。
【0026】
非電気化学的形成は、SEIのない領域へのインターカレートされたアルカリ金属の移動によって起こると考えられている。セルが電解質で濡れていると、インターカレートされたアルカリ金属は、濃度勾配により、インターカレートされた金属のない領域に移動する。このインターカレートされた金属が金属のない領域に移動すると、図3に示されるように、これらの領域内に追加のSEIが形成される。アノード電極の導電性は電位電圧を分配し、したがって、金属が所定位置に移動すると、金属のない領域に、SEI反応を実行するのに十分なエネルギーを与える。
【0027】
予備アルカリ化アノードで構築されたセルは、予備アルカリ化用量に応じた電圧を有する。電圧は、非予備アルカリ化アノードで構築されたセルの電圧よりも高い。たとえば、非アルカリ化アノードで構築された従来のセルは、通常、0.5V未満の初期開回路電圧(OCV)を有するが、予備アルカリ化アノードで構築されたセルは、通常、2Vを超える初期OCVを有する。予備アルカリ化用量が増加すると、結果的なセルの初期OCVも増加し、上限は、使用される特定のアノードおよびカソードによって決定されるが、およそ2.9から3.5Vである。
【0028】
好適な実施形態では、浸漬温度は、-20℃から電解質の沸点まで、好ましくは10℃から60℃まで、さらに好ましくは20℃から40℃までであってもよい。なお、様々な沸点を有する広範な電解質が使用され得ることが、理解される。室温より高温で所定時間にわたって浸漬形成を行うことも、SEI形成を支援することができる。一般に、化学反応は高温で加速されることがよく知られている。加えて、それを下回ると反応速度が無視できる温度閾値がある。したがって、室温より高温で浸漬形成を行うことで、非電気化学的形成を加速することができ、場合によっては、室温では形成されないような望ましい生成物を形成することができる。利用される室温より高い温度は、セル組み立て前の予備アルカリ化のアノードレベル、および所望のSEI特性に依存し、特定の電解質の沸点を超えてはならない。加えて、利用される室温より高い温度は、溶媒蒸気圧、セパレータの熱安定性、ならびにアノードおよびカソード電極の活性および不活性成分など、電池構成要素に関連するいくつかの要因に依存する。しかしながら、電池セル内に過剰な圧力が蓄積するリスクを防ぐために、温度は好ましくは電解質の沸点未満に維持されるべきである。
【0029】
セルの特定の化学的性質に応じて、従来の電気化学的形成と同様に、非電気化学的形成中に気体生成物が形成され得る。脱気ステップを通じた気体生成物の除去は、従来の電池形成の一部であるので、容易に実行される。本発明のプロセスは、特定の具体的な場合には単一の脱気ステップを必要とするかも知れないが、従来の形成は、通常、1つ以上の脱気ステップを必要とする。
【0030】
予備アルカリ化アノードで構築された電池がSEI形成を終了する程度まで非電気化学的形成を受けると、電池は直ちに動作速度でサイクルされ、その後の電気化学的形成の必要性を排除することができる。
【0031】
本発明のプロセスは、以下の実施例に関連してより良く理解されるが、これらは本発明の範囲の限定ではなく、例示のみを目的とするものである。
【0032】
実施例1
以下は、半セルでテストされた、予備アルカリ化アノードを有するセルの非電気化学的形成の詳細な例である。使用されたアノードは、およそ10.5%の不可逆的容量損失を有し、これをその総容量のおよそ15%まで予備アルカリ化した。ケイ素-黒鉛混合物からなるアルカリ化アノードを、およそ1.5×1.5cmの所望のサイズに打ち抜いた。次いで、パウチセルアセンブリ内でほぼ同じサイズのリチウム金属に対してアノード電極を組み立てた。使用したセパレータはCelgard2320であった。使用した電解質は、水分レベルが10ppm未満で2%のVCおよび10%のFECを有する3:7(EC:EMC)の1MのLiPFであった。存在する気体を除去して電極およびセパレータの濡れを改善するために、密閉中にセルに真空を印加した。室温または40℃で、24、48、または72時間にわたり、外部から電圧または電流を印加せずに、各セルを浸漬した。26℃に制御されたカスタムメイドの環境チャンバ内で、全ての電池テストを実行した。パウチセルをテストするために、Maccorモデル4300電池テスタを使用した。各セルを、形成サイクルと類似の低サイクル速度で動作させた。比較のために、非アルカリ化アノードを有する類似のセルを構築した。形成されたSEIの量をセルの初期不可逆性から予測できることは、当業者によく知られている。予備アルカリ化アノードの不可逆的損失を非アルカリ化アノードの不可逆的損失から差し引くことによって、予備アルカリ化アノードを有するセル内の非電気化学的形成を介して形成されたSEIを推定できる。
【0033】
図4は、24、48、および72時間にわたって室温で浸漬した予備アルカリ化アノードの推定SEIを示す。結果は、セルを24時間以上浸漬すると推定SEIの増加があることを示しており、したがってアルカリ化アノードの非電気化学的形成が行われている。図5は、25℃および40℃で24時間浸漬した予備アルカリ化アノードの推定SEIを示す。高温では推定SEIの増加があり、これは、アルカリ化アノード内のSEI形成反応が高温で加速され得ることを示している。浸漬時間および温度パラメータは、特定のアノードおよびセルの化学的性質向けに最適化される必要がある。しかしながら、図2および図3は、予備アルカリ化アノードを使用したときの非電気化学的セル形成の実現可能性を示している。
【0034】
実施例2
以下は、フルセルの調製および処理の詳細な例である。ケイ素-黒鉛混合物からなる予備アルカリ化アノードを、およそ3×5cmの所望のサイズに打ち抜いた。使用されたアノードは、およそ10.5%の不可逆的容量損失を有し、これをその総容量のおよそ15%まで予備アルカリ化した。次いで、パウチセルアセンブリ内でほぼ同じサイズのNCMカソードに対してアノード電極を組み立てた。使用したセパレータはCelgard2320であった。使用した電解質は、水分レベルが10ppm未満で2%のVCおよび10%のFECを有する3:7(EC:EMC)の1MのLiPFであった。存在する気体を除去して電極およびセパレータの濡れを支援するために、密閉中にセルに真空を印加した。セルを室温で24時間浸漬した。この後、パウチの過度に小さな切り込みを入れ、真空を印加して、真空下でセルに最終密閉を施した。26℃に制御されたカスタムメイドの環境チャンバ内で、全ての電池テストを実行した。パウチセルをテストするために、Maccorモデル4300電池テスタを使用した。開始時に従来の電気化学的形成サイクルを使用せず、通常のサイクル速度で1つのセルを動作させた。比較のために、開始時に2回の低速電気化学的形成サイクルを使用した後、通常のサイクル速度で別のセルを動作させた。
【0035】
図6および図7は、およそC/2のレートで広範囲の充電および放電サイクルにわたってテストした、非電気化学的形成および電気化学的形成のセルの面積容量および容量維持を示す。結果は、多くのサイクルを通じてセルを比較することによって、本発明の有効性および電気化学的形成を排除することの有効性を示している。
【0036】
本発明の好適な実施形態では、予備アルカリ化ステップにおいてリチウム化が使用される。参照のため本明細書に組み込まれる、米国特許出願公開第20130327648号明細書(Grantら)に見られるものなど、当該技術分野で既知のプロセスが存在するが、これらは本発明で優れた結果をもたらした。
【0037】
サイクルに利用可能なリチウムの量を増加させ、充電式電池の充電および放電中の可逆的容量を改善し、結果的により軽量な電池を提供する、リチウム化アノードを製造する方法が、好ましい。電解フィールドプレートは、アノードとフィールドプレートとの間に電解を確立するため、およびリチウムを箔上に、またはアノード基板またはシート内にめっきまたはインターカレートするためなど、アノードをリチウム化するため、もしくはアノード上にSEI層を形成するために必要な電圧に維持される。このための典型的な動作電圧は、4.1Vである。アノードの状態を監視するために、標的の負電極の近くに配置された、Bioanalytical Systems,Inc.のAg/AgNO非水性基準などの適切な基準電極が好ましいだろう。電圧または電流制御モードのいずれかでフィールドプレートを動作させることができる。電流制御では、完全な動作電位は直ちに得られないかも知れない。電流制御下でのこの動作は、より低い初期動作電圧をもたらす可能性がある。この低電圧は、ハロゲン化リチウム塩(たとえばLiCl)の解離および結果的なアノード材料のインターカレーションの代わりに、二次的な副反応を好む場合がある。電圧制御下で動作することにより、ハロゲン化リチウム塩の解離を促進して二次的な副反応を最小限に抑える十分な電位(たとえば、LiClで4.1ボルト)にフィールドプレート電位が直ちに設定されることを保証できる。あるいは、その後の動作電圧がハロゲン化リチウム塩解離閾値より高いままである場合には、電流制御を使用することができる。これは、二次的な副反応よりも解離を促進する十分に高い初期電流密度(たとえば約0.5から2mA/cmの間、好ましくは1mA/cm)を設定することによって実行できる。酸化電流がフィールドプレートに印加されるので、不活性材料または導電性酸化物を使用する必要がある。一実施形態では、フィールドプレートを構成する不活性材料は、ガラス状炭素、タンタル、金、白金、銀、およびロジウムから選択される。フィールドプレートを構成する不活性材料は、白金、金、または炭素から選択される。好ましくは、フィールドプレートを構成する不活性材料は、炭素またはガラス状炭素である。フィールドプレートはまた、金、白金、またはガラス状炭素などの不活性導電材料でめっきされたステンレス鋼などの基材を含んでもよい。フィールドプレートは、槽内に沈められて、アノードをフィールドプレート間に通過させる。フィールドプレートは、単一の制御電圧または電流密度で単一のエンティティとして動作することができ、または複数のゾーンにわたって電圧または電流密度の独立した制御を可能にする複数のプレートが実装されることも可能である。
【0038】
アノードは通常、電解セル内でアノードとして機能するいずれの材料であってもよい、適合性アノード材料を含む。アノードという用語は、負電極、導電性箔、アノードシート、アノード基板、または非反応性めっき可能箔という用語と同等である。一実施形態では、アノードは、リチウムインターカレーションアノードである。リチウムインターカレーションアノードを構成する材料の例は、炭素、黒鉛、酸化スズ、ケイ素、ケイ素合金、酸化ケイ素、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリル酸リチウム(LiPAA)、ポリアクリル酸(PAA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、またはポリイミド(PI)などの結合剤、およびこれらの混合物を含むが、これらに限定されない。さらなる実施形態では、リチウムインターカレーションアノード材料は、黒鉛、コークス、メソカーボン、カーボンナノワイヤ、炭素繊維、シリコンナノ粒子またはその他の金属ナノ材料、およびこれらの混合物から選択される。別の実施形態では、リチウム化の結果としてのリチウム金属の受け皿となるために、スズまたはアルミニウムなどの合金化金属が使用されてもよい。リチウムをインターカレートするような方法で、還元電流がアノードに印加される。アノードは、非水性溶媒および少なくとも1つの溶解したリチウム塩を含む溶液に浸される。非水性溶媒という用語は、無機イオン塩を溶媒和させる目的に役立つ電解質に添加される低分子量有機溶媒である。非水性溶媒の典型的な例は、ブチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルエチルカーボネート、アセトニトリル、ガンマブチロラクトン、トリグライム、テトラグライム、ジメチルスルホキシド、ジオキソラン、スルホラン、室温イオン性液体(RTIL)、およびこれらの混合物である。一実施形態では、非水性溶媒は、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、ガンマブチロラクトン、およびこれらの混合物から選択される。第2の実施形態では、非水性溶媒は、ガンマブチロラクトンである。第3の実施形態では、高品質のSEI形成をサポートするために、添加剤が導入され得る。添加剤は、ビニレンカーボネート、エチレンカーボネート、または無水マレイン酸であり得る。第4の実施形態では、塩可溶性を高め、イオン伝導率を高め、LiCOまたはLiSOのSEI層の形成をサポートし、リチウム化効率を向上させるために、COまたはSOなどの気体が非水性溶液中に散布される。
【0039】
アルカリ金属塩という用語は、非水性溶媒中での使用に適した無機塩を指す。アルカリ金属塩を含む適切なアルカリ金属カチオンの例は、Li、Na、K、Rb、Cs、Fr、およびこれらの混合物から選択されるものである。アルカリ金属塩を含む適切なハロゲンアニオンの例は、F、Cl、Br、I、およびこれらの混合物から選択されるものである。一実施形態では、アルカリ金属塩は、LiF、LiCl、LiBr、NaF、NaCl、NaBr、KF、KCl、KBr、およびこれらの混合物から選択される。LiNOなどのその他の塩が使用されてもよいが、好適な実施形態では、アルカリ金属塩はハロゲン化物LiClである。
【0040】
気体分解生成物を有する安価な塩は、LiCl、LiBr、およびLiFなどのハロゲン化物である。LiClおよびその他の単純な塩は、非水性溶媒中に溶解またはイオン化しにくい可能性がある。プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、およびアセトニトリルなどの溶媒は、AlClなどの錯化剤を使用せずに、溶液中の微量のLiClのみを担持する。AlClおよびその他の錯化剤は、水分管理および高腐食性に関して取り扱いが難しい場合がある。加えて、DMSOまたはテトラヒドロフラン(THF)など、ハロゲン化物塩を溶解できるいくつかの溶媒は、塩の完全なイオン化を許容せず、および/またはアノード複合材中の結合ポリマーを攻撃する。ガンマブチロラクトンは、望ましいアルカリ金属ハロゲン化物塩の溶解およびイオン化を促進することがわかっている。これは、アルカリ金属ハロゲン化物塩の良好な可溶性と、TFEテフロン(登録商標)、PVDF、ブタジエンゴム、およびその他の結合剤との適合性とを兼ね備えている。LiClなどの気体分解生成物を有するハロゲン化物塩の使用により、リチウム化プロセス中の固体沈殿物の生成を防止する。リチウム化プロセス生成物は主にリチウムイオンと気体なので、非水性溶媒溶液中に蓄積する固体沈殿物または中間化合物はほとんどない。非水性溶媒溶液からの溶存ガスの除去は、生産システムの長期連続運転中の固体沈殿物よりも好ましい。
【0041】
ガンマブチロラクトンはまた、標準水素電極(SHE)に対して-3ボルト付近のリチウム電位を含む、有能な電位窓も有する。これは、高誘電率および低凝固点を有する有能な電解質であり、1M濃度までのLiClを溶解およびイオン化することができる。この値に到達するために、適度の量の熱が使用され得る。一実施形態では、1M濃度までのLiClを溶解およびイオン化するための熱は、約38℃から55℃の間など、約30℃から約65℃の間である。しかしながら、温度が上昇するにつれてLiClの可溶性が低下することがわかっている。したがって、予備アルカリ化ステップに好適な温度は、ほぼ室温、すなわち約20℃から30℃の間である。リチウム化タンクは、局所的な塩濃度の低下を防ぐために、内部循環ポンプおよび分配マニホールドを有することもできる。
【0042】
COまたはSOなどの溶存ガスは、リチウム化プロセスを強化できる。これは、塩の可溶性、非水性溶媒のイオン伝導率を増加させ、リチウム化の効率を倍増させる。COは安価で、乾燥しやすく、化学的に安全で、高品質SEI層の潜在的な成分ガスであるので、好適な溶存ガスとして選択されてきた。COは、安定した不溶性のSEI材料(LiO、LiCOなど)を形成するために、リチウム化プロセス中に微量のHOおよびLiと優先的に反応する。リチウム化タンク内の水分レベルは、このプロセスによるCOおよびHOの消費によって低下し、タンク内の水分レベルを約5から20ppmに制御するように注意が払われる。このようにして、高品質SEI材料を用いたアノードリチウム化が連続的に行われる。
【0043】
ガンマブチロラクトン溶媒中の1MのLiClからのリチウムイオンのインターカレーションまたはめっきプロセス(または一般的なリチウム化)は、アノードシートと基準電極との間で測定して約4.1ボルトで、2mA/cm以上の還元電流密度まで行われる。インターカレーション速度がこの電流密度をはるかに超えて増加すると、デンドライトまたはリチウムめっきが発生し始め、これにより最終的な電池または電気化学セルの性能を損なう可能性がある。これは、黒鉛の多孔性などに応じて異なる。電流および依存電圧の両方を正確に制御するには、フィールドプレートをゾーンに分割する必要があるかも知れない。一例としてナトリウムを含む他の金属もまた、この方法でめっきまたはインターカレートすることができる。上述のように、ハロゲン化物アルカリ金属塩を使用したときのインターカレーションプロセスの副生成物は、対電極(フィールドプレート)における発生ガスである。好適な実施形態では、発生ガスは、F、Cl、Br、およびこれらの混合物から選択される。より好適な実施形態では、発生ガスはClである。
【0044】
リチウム化槽に入る前に、アノード材料は、電解質溶液中に予備浸漬され得る。アノード材料の予備浸漬により、リチウム化プロセスの開始前に、材料の完全な濡れを保証する。この予備浸漬槽は、リチウム塩ありまたはなし、散布ガスありまたはなし、およびSEI促進添加剤ありまたはなしの非水性溶媒を含むことができる。好ましくは、予備浸漬ステップは、リチウム塩なしである。
【0045】
フィールドプレートまたは対電極におけるガスの発生により、発生ガスが槽溶液に入り、および/またはそこから放出されることが可能である。その結果、たとえば塩素ガス発生中にHClを形成するために塩素ガスと反応するわずかな水汚染の仮説の場合のように、溶解または放出されたガスの蓄積を制御することで腐食を回避することが望ましい。タンクアセンブリは、液体の上で乾燥ガスブランケットを使用することによって、システム内への水分の導入を制御するように構成され得る。一実施形態では、乾燥ガス(1~10ppmの水分)は、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)、六フッ化硫黄(SF)、窒素(N)、乾燥空気、二酸化炭素(CO)、およびこれらの混合物から選択される。好適な実施形態では、乾燥ガスは、窒素、アルゴン、二酸化炭素、乾燥空気、およびこれらの混合物から選択される。水分の侵入はまた、システム内への空気の侵入を軽減するために逆流乾燥ガスが使用される、アノード膜の長く狭いギャップの出入り口トンネルを有することでも制御され得る。
【0046】
連続的なリチウム化プロセス中に、水分、ガス、および少量のリチウム化有機化合物を連続的に制御するプロセスおよび装置が、好ましい。液体は、一連の弁を通じて槽から引き出される。液体は、バッチモードで環流ユニットに送達され得るか、もしくは蒸留または逆浸透を含む調整ループを通じて連続的に循環され得る。環流ユニットは、液体から水分のみならず蓄積ガスも除去する真空環流プロセスを通じて、材料のバッチを取ることができる。一実施形態では、蓄積ガスは、F、Cl、Br、およびこれらの混合物から選択される。より好適な実施形態では、蓄積ガスはClである。蒸留プロセスの代わりに環流調整を使用することで、沈殿を通じて塩分含有量の損失を招く作動流体の塩濃度の変化を防ぐことができる。バッチ液体が指定された時間にわたって環流されると、液体は、より低い水分およびガス含有量で槽に戻ることができる。環流ユニットのサイズおよび速度は、槽液を最適条件に保つために、水分進入速度およびガス生成速度に適合することができる。複数の同時バッチの使用、ならびに回転蒸発装置および高真空条件などの高速環流機器の使用を通じて、環流速度を増加させることができる。環流バッチ水分含有量は通常、指数関数的に減衰し、代謝率は、最小限のエネルギー入力および機器コストで最大限の水分制御に合わせて調整され得る。
【0047】
環流ユニットは、塩投与ユニットの後に配置され得る。塩投与ユニットは、所望の塩を非水性溶媒溶液中に加えて混合するために使用され得る。投与ユニットの温度は、電解質中の塩の可溶性を最大化するように維持でき、環流ユニットの予熱ステップとして高温を使用することもできる。一実施形態では、投与ユニットは、約38℃から55℃の間など、約30℃から65℃の間の高いプロセス温度を維持する。しかしながら、今や好適な温度はほぼ室温、すなわち約20℃から30℃の間であることがわかっている。環流ユニットの前に投与ユニットで塩を投与する利点は塩が完全に乾燥した状態である必要がないことである。固相塩から水分を除去することは、非常に困難である。しかしながら、塩が溶液中に溶解すると、塩の含水量は、環流プロセスを通じて除去することができる。投与ユニットを高温に維持することで、非水性溶媒中のリチウム塩の可溶性を増加させ、環流ユニットの前に塩の完全溶解を保証する。
【0048】
調整/補充モードは、連続モードで動作し、膜接触器の使用を通じて槽液から溶存ガスを除去するためにも使用され得る。膜接触器および環流ユニットから出力されたガスは、プロセスによって生成された塩素ガスなどのあらゆる排出物を捕捉するためのスクラバを通過することができる。一実施形態では、溶存ガスは、F、Cl、Br、およびこれらの混合物から選択される。より好適な実施形態では、溶存ガスはClである。槽液はまた、望ましくないガスを除去するために、膜接触器内の真空または乾燥ガスと組み合わせられることも可能である。一実施形態では、乾燥ガスは、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)、六フッ化硫黄(SF)、窒素(N)、二酸化炭素(CO)、乾燥空気、およびこれらの混合物から選択される。好適な実施形態では、乾燥ガスは、窒素、アルゴン、二酸化炭素、乾燥空気、およびこれらの混合物から選択される。
【0049】
上述のように、施設の温度が変化しても、一定の槽動作条件を維持するために高いタンク温度を確立または維持するため、インラインヒータが使用され得る。リチウム化反応は発熱性なので、槽を冷却することが望ましいかも知れない。
【0050】
あらゆる蓄積した微粒子汚染を除去するために、フィルタユニットが使用され得る。フィルタユニットは、ポンプの前および塩投与ユニットの後を含む、ループの様々なポイントに配置され得る。フィルタユニットは、フィールドプレートに沈殿物が形成されるようにLiNOなどの非ハロゲン化リチウム塩が使用される場合に、非水性溶媒から微粒子を除去するために使用され得る。
【0051】
ハロゲン化リチウム塩は、塩投与ユニットを使用して非水性溶媒に添加され得る。長時間にわたってループ内および槽内のリチウム塩濃度を所望のレベル(すなわち、約0.5Mから1.0Mの飽和溶液)に維持するために、過剰量の固体リチウム塩は投与ユニット内に維持され得る。投与ユニットは、固体塩が槽または環流ユニットに侵入するのを防ぐように構成され得る。環流ユニットの前に塩を投与することにより、粒状状態においてその高い水結合エネルギーで塩を個別に乾燥させる必要はない。一実施形態では、塩投与ユニット内のリチウム塩は、LiF、LiCl、LiBr、およびこれらの混合物から選択される。好適な実施形態では、塩投与ユニット内のハロゲン化リチウム塩は、LiClである。溶解したリチウム塩は、ループの残部を通じて運ばれることが可能である。タンク内で一定のリチウム塩濃度を維持するために、流体循環ループポンプ速度を適合させることができる。所与のアノード基板プロセス速度で、適合するループ循環速度は、リチウム化プロセスで消費するのと同じ量のリチウム塩を投与する。アノードプロセス速度が上昇または低下すると、ループ循環速度は、槽内の平衡状態を維持するために修正され得る。
【0052】
特定のタンク条件に応じて、槽流体は、図2および図4に示されるように、循環ループ、環流ユニット、または蒸留ユニットを使用して処理され得る。循環ループは、塩を投与し、溶存ガスを除去し、槽温度を制御し、微粒子汚染物質を除去することができる。環流ユニットは、溶存ガスを除去し、溶液の塩分含有量を低下させずに水分含有量を除去するのに効果的である。蒸留ユニットは、溶存ガスを除去し、水分含有量を除去し、全ての塩分含有量を除去し、リチウム化された有機化合物を除去するのに効果的である。蒸留ユニットからの出力は、必要に応じて塩分含有量を再確立するために、投与および環流ユニットにフィードバックされ得る。蒸留ユニットからの排出物は、リチウム化プロセス内での再利用のために使用した塩を回収するため、収集および処理されることが可能である。たとえば、DMC溶媒は、塩が投与ユニットに再導入され得るように、不溶性塩以外の全てを洗い流す。再循環ループ、環流ユニット、および蒸留ユニットは、機器のサイズおよびコストを最小限に抑える手段として、異なる入力および出力要件を有する複数のタンクにわたって共有され得る。
【0053】
不可逆的かつ拡張したサイクル損失量の範囲でアノードがリチウム化されると、別途必要とされるよりも少ない量のリチウム含有カソード材料で充電式電池または電気化学セルに組み立てられ、これにより、コストを削減しながら、セルの比容量、比エネルギー、容積容量密度、および容積エネルギー密度を改善することができる。
【0054】
不可逆的かつ拡張したサイクル損失量、ならびに意図されるサイクル量の範囲でアノードがリチウム化されると、最初はリチウムを含有しないカソード材料で電池または電気化学セルに組み立てられることが可能である。このタイプのカソード材料は、カソード材料を含有するリチウムよりもはるかに安価であり得、例として、MnO、V、およびポリアニリンを含むが、これらに限定されない。
【0055】
実施例
以下は、アノードの調製および処理の詳細な例である。厚さ25ミクロンの銅箔を、油分および破片を除去するためにイソプロピルアルコールおよびKimberly-ClarkのKimwipesで洗浄し、その後空気中で乾燥させた。Arkema Fluoropolymers Div.の1,000,000重量PVDF2.1グラムをAldrich Chemicalの乾燥NMP溶媒95mlに加えて、溶液を調製した。PVDF材料を完全に溶解するために、溶液を撹拌棒で一晩混合した。光感受性の溶媒が反応するのを防ぐために、溶液を暗所に保管した。次いで、33.9mlのこのPVDF溶液を、Conoco PhilipsのCPreme G5黒鉛15グラムおよびアセチレンブラック0.33グラムに加え、混合玉を使わずに600RPMのボールミル内で2時間撹拌した。加熱機能を有する真空押えプレートを使用して、得られたスラリーを銅箔上にキャストした。キャストして120℃で乾燥した後の完成した黒鉛の厚さは、約100ミクロンまたは14mg/cmであった。次いで、アノードシートを15mm径のディスクに打ち抜き、その後、2032ボタン電池アセンブリで使用するために約3000psiおよび120℃で加圧した。その後、銅/黒鉛アノードディスクを、National Appliance Companyのモデル5851真空オーブン内で125℃および1mTorrで、少なくとも12時間真空焼成した。
【0056】
次に、圧縮乾燥空気によって供給される-65℃露点空気をKaeserの2段再生乾燥機に通しながら、Terra Universalの乾燥空気グローブボックス内にアノードディスクを移動させた。次いでアノードディスクに、0.5M濃度のLiCl塩溶液を有するGBL溶媒を真空浸透させた。この電解質溶液は、90℃に加熱してから約1mTorrで6時間真空管流して約10ppmまで水分を除去することによって、調製したものである。電流を通す前に、真空状態で半時間、大気圧状態で半時間、およびリチウム化容器自体に半時間、アノードディスクを浸漬した。リチウム化容器は、飽和レベルおよび30℃の温度を達成するために、COガスの一定の発泡を含んでいた。Maccorの4300電池テスタからのテストリードを、アノードサンプル(赤、作用)およびガラス状炭素(黒、対)電極に接続した。作用電極の電圧は、Ag/AgNO非水電極を介して監視される。合計1mAhr/cmに到達するまで、2mA/cmの還元電流を黒鉛アノードに印加した。次いで、予備リチウム化アノードディスクを、純粋な蒸留GBLですすぎ、真空乾燥した。次に、LiFePOまたはLiCoO2のいずれかの12mm径カソードディスクに対してアノードディスクを組み立てた。使用したセパレータはCelguard2400であり、約0.2mlの電解質をアセンブリに使用した。電解質は、1MのLiPF塩および1%のVCを有するEC:DMC:DECが1:1:1であり、水分レベルは約10ppmであった。MTIモデルMT-160D圧着工具で圧着する前に気泡を除去するため、組み立てたセルに真空を印加した。その後、12時間の遅延、少なくとも3.7ボルトまでの約C/12の形成サイクル2回、約C/3の充電/放電サイクル、およびこれらの間に20分の休止ステップを使用して、電池テスタユニット上で後続の電気テストを実行した。26℃に制御された自家製の環境チャンバ内で、全ての電池テストを実行した。
【0057】
CPreme黒鉛アノード、LiFePOまたはLiCoOカソード、およびCelguard2400セパレータで組み立てたCR2032サイズのボタン電池をテストするために、Maccorモデル4300電池テスタを使用した。1モル濃度のLiPF6塩および1%のVCを有するEC:DMC:DECの1:1:1混合物を含む電解質溶液を使用した。アノードおよびカソードの両方を、PVDF結合剤でキャストした。しばしば形成サイクルとも呼ばれる、最初の充電および放電サイクルを、およそC/12の電流率で実行した。LiFePOカソードに取り付けられた予備リチウム化および非予備リチウム化黒鉛アノードを使用して、最初のサイクルの不可逆的損失を比較することができる。2つのサンプルの初期絶対充電容量は、外部からのパッケージのばらつきのため異なる。しかしながら、不可逆的損失は、説明される方法を代表するものである。ボタン電池の可逆的容量は、56%であり得る。予備リチウム化アノードに適合したときのボタン電池の可逆的容量は、98%になり得る。典型的なLiCoO/黒鉛に対するLiCoO/予備リチウム化黒鉛であるが、それ以外ではおよそC/3のレートで広範な充電および放電サイクルにわたって同一のサンプルをテストすることができる。結果は、説明された方法を使用する予備リチウム化により、電池セルに長続きする利点があることを示している。
【0058】
リチウム化を実現するために本発明者が使用したLiCl以外の塩の例は、LiNOである。合理的なリチウム化率を、LiNOで達成した。しかしながら、LiNOを使用して予備リチウム化されたアノードをLiFePOカソードと対にすると、おそらく未確認の副生成物のため、不十分なサイクルとなった。この問題は、追加のアノード洗浄など、もう少しだけ複雑な除去プロセスによって解決できる。
【0059】
現時点で本発明の好適な実施形態と見なされるものを例示および説明してきたが、本発明の真の範囲から逸脱することなく、様々な変更および修正がなされてもよく、その要素を同等物に置き換えてもよいことは、当業者によって理解されるだろう。したがって、本発明は、開示された特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明は、添付請求項の範囲に含まれる全ての実施形態を含むことが、意図される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2023-02-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードであって、前記アノードは、充電式金属イオン電池のアノード上にSEI層を形成する方法により作製され、前記方法は、
a.アノードの不可逆的損失以上の用量まで前記アノードを予備アルカリ化するステップと、
b.前記予備アルカリ化アノード、カソード、セパレータ、および電解質を密閉セルに組み立てるステップと、
c.外部電圧または電流を印加せずに前記セルを浸漬することによってSEI層を形成するステップと、
d.任意選択的に前記セルを脱気するステップと、
を含む、アノード
【請求項2】
前記予備アルカリ化ステップはリチウム化を含む、請求項1に記載のアノード
【請求項3】
前記アノードは、黒鉛またはその他の炭素、ケイ素、スズ、ケイ素合金、酸化ケイ素、金属酸化物、またはこれらの組み合わせを含む、請求項1に記載のアノード
【請求項4】
SEI層を形成するステップは、前記セルを1時間から10日間浸漬することによって実行される、請求項1に記載のアノード
【請求項5】
SEI層を形成するステップは、前記セルを1時間から2日間浸漬することによって実行される、請求項4に記載のアノード
【請求項6】
前記SEI層は周囲温度で形成される、請求項5に記載のアノード
【請求項7】
前記SEI層は約10℃から60℃の間の温度で形成される、請求項5に記載のアノード
【請求項8】
前記SEI層は、前記セルを1時間から2日間浸漬することによって形成される、請求項7に記載のアノード
【請求項9】
充電式金属イオン電池のアノードであって、前記充電式金属イオン電池は、
a.アノードの不可逆的損失以上の用量まで前記アノードを予備アルカリ化するステップと、
b.前記予備アルカリ化アノード、カソード、セパレータ、および電解質を密閉セルに組み立てるステップと、
c.外部電圧または電流を印加せずに前記セルを浸漬することによってSEI層を化学的に形成するステップと、
d.任意選択的に前記セルを脱気するステップと、
e.外部電圧および/または電流の印加を通じて前記アノードを充電するステップと、
により作製される、アノード