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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023030242
(43)【公開日】2023-03-08
(54)【発明の名称】安全帯取付具
(51)【国際特許分類】
   E04G 5/00 20060101AFI20230301BHJP
   E04G 21/32 20060101ALI20230301BHJP
   A62B 35/00 20060101ALI20230301BHJP
   F16B 2/10 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
E04G5/00 301B
E04G21/32 D
A62B35/00 J
F16B2/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021135275
(22)【出願日】2021-08-23
(71)【出願人】
【識別番号】000223687
【氏名又は名称】藤井電工株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中村 政彦
【テーマコード(参考)】
2E184
3J022
【Fターム(参考)】
2E184JA03
2E184KA04
2E184KA11
2E184LA12
3J022DA11
3J022EA42
3J022EB14
3J022EC17
3J022EC22
3J022ED23
3J022GB22
3J022GB25
(57)【要約】
【課題】横方向の滑り、並びにそれに伴う下方向の滑りを防止し得る安全帯取付具を提供することにある。
【解決手段】本発明の安全帯取付具は、足場構成部材に着脱自在に取付けられる取付部12と、安全帯のフックが係止可能な環状部14と、を備えた安全帯取付具10であり、前記取付部12が軸58により軸着されて開閉自在に構成されており、横滑り防止爪16が前記軸58の少なくとも下側に設けられたことを特徴とするものである。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
足場構成部材に着脱自在に取付けられる取付部と、
安全帯のフックが係止可能な環状部と、
を備えた安全帯取付具において、
前記取付部が軸により軸着されて開閉自在に構成されており、横滑り防止爪が前記軸の少なくとも下側に設けられた
ことを特徴とする安全帯取付具。
【請求項2】
前記横滑り防止爪は、前記取付部が閉状態のときに形成される前記足場構成部材の保持空間側が少なくとも円弧状に形成され、前記円弧側に鋸歯状の押圧部が形成された
請求項1に記載の安全帯取付具。
【請求項3】
前記横滑り防止爪は、前記軸に対して回動自在に取付けられ、
前記横滑り防止爪が回動したときに、前記押圧部が前記保持空間内に保持された前記足場構成部材を押圧するように構成された
請求項2に記載の安全帯取付具。
【請求項4】
前記横滑り防止爪が前記軸の上下にそれぞれ設けられた
請求項1に記載の安全帯取付具。
【請求項5】
前記取付部が閉状態のときに前記横滑り防止爪の回動を制限する回動制限部材を更に備えた
請求項1に記載の安全帯取付具。
【請求項6】
前記横滑り防止爪には凹部が、前記回動制限部材には凸部がそれぞれ設けられ、
前記凸部が前記凹部に嵌め込まれた状態に維持されることで前記取付部が閉状態のときの前記横滑り防止爪の回動が制限された
請求項5に記載の安全帯取付具。
【請求項7】
前記回動制限部材は、所定以上の荷重がかかったときに前記凸部が破断することで前記横滑り防止爪の回動制限が解除されるように構成された
請求項6に記載の安全帯取付具。
【請求項8】
前記回動制限部材は前記軸に取付けられてなり、前記軸より着脱可能に構成された
請求項5ないし7のいずれか一項に記載の安全帯取付具。
【請求項9】
前記環状部は前記軸により軸着され、前記横滑り防止爪の円弧側とは反対側に位置する領域に立設部が設けられてなり、前記立設部が前記環状部の回動に伴う荷重を前記横滑り防止爪に伝えるように構成された
請求項2に記載の安全帯取付具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築現場などで組んだ足場の縦部材に取付けて使用する安全帯のフックを係止するための安全帯取付具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築現場などにおいて、外壁の外側に単管パイプなどの部材で足場を組むことが一般的に行われている。手摺りが設置されている足場では、作業者は安全帯のロープ先端に連結されたフックを手摺りに係止させ、安全性を確保した上で作業を行う。
一方で、手摺りが設置されていない足場で作業するには、フックを頭上の横部材か、又はその階層の縦部材に係止させることになる。
頭上の横部材にフックを係止させる場合、通常の係止位置よりも高い位置になるため安全帯のロープに余裕がなく、作業者の移動可能範囲、即ち作業範囲がかなり制限される。
【0003】
縦部材にフックを係止させる場合、縦部材に交差する突出物がない限り、フックは下方の横部材との交差箇所まで落下してしまう。フックがその階層の足下の横部材まで落下してしまうと、墜落時の落下距離が長くなり、非常に危険である。
また、縦部材の中間部に横部材が交差しており、その交差部でフックを係止できたとしても、係止したフックが水平状態になるため、墜落時にはフックの鉤部に対して横方向の曲げ荷重がかかり、破断して外れることがある。
【0004】
上述のような横部材、縦部材にフックを直接係止させた際に生じる不具合を解消するため、現在では、例えば図20に示すようなクランプが用いられている(例えば、特許文献1)。
このクランプ110は、縦部材102に外嵌可能な一対の係合片111,112が開閉自在に蝶着され、一方の係合片111の端部にはナット115を螺合したボルト113が連結され、他方の係合片112の端部には凹溝114が形成されている。また、係合片111には環状部116が設けられている。
縦部材102を両係合片111,112で挟み込み、ボルト113を凹溝114に嵌入し、ナット115で両係合片111,112の端部間を締め付けることで、縦部材102の任意箇所に当該クランプ110を取り付けることができる。そして、環状部116にフック104を係止させることで、上記不具合の発生を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-310040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のようなクランプ110を縦部材102に取付けたときの環状部116の方向を正面(0度)とした場合、作業者は正面から左右45度を越える範囲となる位置においても作業を行うことが往々にしてあり得る。即ち、クランプ110の環状部116に対して横向きに近い作業範囲で使用した場合である。
このような作業位置で作業者が万が一墜落してしまうと、クランプ110には下方向だけでなく、横方向に対しても大きく荷重がかかる。そして、クランプ110に対して、クランプ110と縦部材102との間に生じている静止摩擦力以上の横方向荷重がかかった場合、クランプ110は縦部材102を軸として動き始める。動き出してからの摩擦力は静止摩擦係数よりも小さい動摩擦係数の動摩擦力となるため、動摩擦力以上の横方向荷重がかかったクランプ110は引き続き縦部材102の周りをまわる。即ち、クランプ110の横滑りが生じる。そうした場合、動摩擦力以上の横方向荷重による横滑りだけでなく、動摩擦力以上の下方向荷重によって下方向にも滑り、クランプ110が縦部材102を軸として周りながらずり下がるおそれがあることが判明した。
【0007】
取付け時の締め付け具合によって、クランプ110と縦部材102との間に生じる静止摩擦力の大きさは異なることから、この静止摩擦力が横方向荷重よりも大きくなるほどの強い締め付けの場合には問題は生じ難い。しかしながら、作業者が作業場所に応じてその都度取付けを行っていることから、締め付けを手締めで行っていることも想定される。この場合、例えば、締め付けトルクが10N・mに満たないような緩い締め付けになることもあり得るため、その対応が必要であった。
本発明の目的は、横方向の滑り、並びにそれに伴う下方向の滑りを防止し得る安全帯取付具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の安全帯取付具は、足場構成部材に着脱自在に取付けられる取付部と、安全帯のフックが係止可能な環状部と、を備えた安全帯取付具であり、前記取付部が軸により軸着されて開閉自在に構成されており、横滑り防止爪が前記軸の少なくとも下側に設けられたことを特徴とする。
本発明の安全帯取付具では、前記横滑り防止爪は、前記取付部が閉状態のときに形成される前記足場構成部材の保持空間側が少なくとも円弧状に形成され、前記円弧側に鋸歯状の押圧部が形成されたことが好ましい。
本発明の安全帯取付具では、前記横滑り防止爪は、前記軸に対して回動自在に取付けられ、前記横滑り防止爪が回動したときに、前記押圧部が前記保持空間内に保持された前記足場構成部材を押圧するように構成されたことが好ましい。
【0009】
本発明の安全帯取付具では、前記横滑り防止爪が前記軸の上下にそれぞれ設けられたことが好ましい。
本発明の安全帯取付具では、前記取付部が閉状態のときに前記横滑り防止爪の回動を制限する回動制限部材を更に備えたことが好ましい。
本発明の安全帯取付具では、前記横滑り防止爪には凹部が、前記回動制限部材には凸部がそれぞれ設けられ、前記凸部が前記凹部に嵌め込まれた状態に維持されることで前記取付部が閉状態のときの前記横滑り防止爪の回動が制限されたことが好ましい。
【0010】
本発明の安全帯取付具では、前記回動制限部材は、所定以上の荷重がかかったときに前記凸部が破断することで前記横滑り防止爪の回動制限が解除されるように構成されたことが好ましい。
本発明の安全帯取付具では、前記回動制限部材は前記軸に取付けられてなり、前記軸より着脱可能に構成されたことが好ましい。
本発明の安全帯取付具では、前記環状部は前記軸により軸着され、前記横滑り防止爪の円弧側とは反対側に位置する領域に立設部が設けられてなり、前記立設部が前記環状部の回動に伴う荷重を前記横滑り防止爪に伝えるように構成されたことが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る安全帯取付具では、横滑り防止爪が軸の少なくとも下側に設けられている。そのため、墜落して横方向に大きく荷重がかかった場合でも横滑り防止爪が足場構成部材の側面に食い込んでその動きを抑えるため、安全帯取付具の横方向の滑りを防止することができる。また、落下時は安全帯取付具が環状部を起点として下方向へと引っ張られるが、軸の下側に取付けた横滑り防止爪が足場構成部材の側面に食い込んで把持するため、取付け時の締め付けが緩い場合であっても下方向への滑りも防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態の安全帯取付具の斜視図である。
図2図1の平面図である。
図3図1の正面図である。
図4】第一係合片の斜視図である。
図5図4の平面図である。
図6図4の正面図である。
図7】第二係合片の斜視図である。
図8図7の平面図である。
図9図7の背面図である。
図10】第一係合片と第二係合片を対向状態で配設した状態を示す図である。
図11】連結部材のネジ部にナットが螺合されている状態を示す図である。
図12】各係合片を接続した状態を示す図である。
図13】横滑り防止爪の平面図である。
図14】回動制限部材の正面図である。
図15図14の平面図である。
図16】環状部の平面図である。
図17図16の正面図である。
図18】取付部が開状態のときの安全帯取付具の平面図である。
図19】縦部材に本実施形態の安全帯取付具を取付けた状態を示す図である。
図20】従来のクランプを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る実施の形態について説明する。
図1は本実施形態の安全帯取付具の斜視図であり、図2はその平面図であり、図3はその正面図である。
図1図3に示すように、本実施形態の安全帯取付具10は、取付部12と、環状部14と、横滑り防止爪16とを備えている。
【0014】
<取付部の構成>
取付部12は、安全帯取付具10を足場構成部材に着脱可能に取付けるための部材である。
取付部12は対向する一対の円弧状の第一係合片18及び第二係合片20を備えている。
図4は第一係合片の斜視図であり、図5はその平面図であり、図6はその正面図である。図7は第二係合片の斜視図であり、図8はその平面図であり、図9はその背面図である。図10は第一係合片と第二係合片を対向状態で配設した状態を示す図である。
図4図6に示すように、第一係合片18は、第一軸部22と第一円弧部24と第一連結部26とから構成されている。第一円弧部24の一端側には第一軸部22が、他端側には第一連結部26がそれぞれ設けられている。
【0015】
図7図9に示すように、第二係合片20は、第二軸部28と第二円弧部30と第二連結部32とから構成されている。第二円弧部30の一端側には第二軸部28が、他端側には第二連結部32がそれぞれ設けられている。
図10に示すように、第一係合片18及び第二係合片20を対向状態で配設することで、両係合片18,20の円弧部24,30により円柱状の内部空間34が形成される。この内部空間34が足場構成部材の保持空間36となる。
第一係合片18及び第二係合片20の円弧部の軸部との境界付近の内部空間34側には、取付部12を閉状態としたときに、後述する回動制限部材が挟み込まれる溝38,40がそれぞれ形成されている。
【0016】
図4図6に戻って、本実施形態では、第一係合片18の第一軸部22は略コ字状に形成され、その両端部に軸孔42がそれぞれ設けられている。第一係合片18の第一連結部26は略コ字状に形成され、その両端部に連結部材と接続するための接続孔44が設けられている。
図7図9に示すように、第二係合片20の第二軸部28は略コ字状に形成され、その両端部に軸孔46がそれぞれ設けられている。第二係合片20の第二連結部32には、略U字に形成された開口を有する二股部48が設けられている。
本実施形態では、第一係合片18の第一軸部22のコ字状の間隔は、第二係合片20の第二軸部28のコ字状の間隔よりも、その上下の厚み分だけ幅広に形成されている。即ち、両係合片18、20を軸部で重ね合わせたときに、第一係合片18の第一軸部22が外側に、第二係合片20の第二軸部28が内側に配置されるように構成されている。
図11は連結部材のネジ部にナットが螺合されている状態を示す図である。
図11に示すように、連結部材50は略棒状体から構成され、その基端には第一係合片18と接続するための接続孔52が設けられている。また先端にはネジ部54が設けられている。ネジ部54はネジ溝を有しており、ナット56が螺合されている。なお、ネジ部54には、ナット56の脱落防止のため抜け止め処理が施されることが好ましい。抜け止め処理としては、ネジ部54先端をかしめる、ネジ部54先端に抜け止めワッシャーを固定する、ネジ部54先端に横穴を設けそこに抜け止めのスナップピンを取り付けるなどの方法が挙げられる。
【0017】
<係合片の接続>
図12は各係合片を接続した状態を示す図である。
そして、図12に示すように、この第一係合片18及び第二係合片20が、円柱状の内部空間34を形成するように対向状態で配設され、第一係合片18の軸孔42及び第二係合片20の軸孔46を重ね合わせ、そこに軸58を挿通することで第一係合片18と第二係合片20とが接続されている。また、第一係合片18の接続孔44と連結部材50の接続孔52を重ね合わせ、そこに軸60を挿通することで第一係合片18の第一連結部26に連結部材50が接続されている。これらの接続により、両係合片18,20が軸58により軸着され、連結部材50により開閉自在に構成されている。
【0018】
<横滑り防止爪の構成>
図1図3に戻って、横滑り防止爪16は、軸58の少なくとも下側に設けられ、横方向の滑りと、それに伴う下方向の滑りを防止するための部材である。本実施形態では、横滑り防止爪16は軸58の上下にそれぞれ設けられる。
図13は横滑り防止爪の平面図である。
図13に示すように、横滑り防止爪16は、円弧状部62と軸部64とから構成されている。
本実施形態では円弧状部62は半割楕円形状であり、楕円形側66は鋸歯状に形成されており、押圧部68として機能する。円弧状部62の中央位置には、押圧部68の一部を切り欠くように凹部70が設けられている。この凹部70は後述する回動制限部材の凸部が嵌め込み可能な幅及び深さを有している。
【0019】
円弧状部62の直線側72には略円形状の軸部64が延出して設けられ、この軸部64に軸孔74が設けられている。軸部64は、円弧状部62の楕円の長径よりも小径に形成されている。
図2に示すように、横滑り防止爪16は、取付部12が閉状態のときに形成される足場構成部材の保持空間36側に押圧部68が配置されるように取付け向きが決められ、上記軸58に対して回動自在に取付けられる。より詳しくは、取付部12が閉状態のときに凹部70が保持空間36側に面するように取付位置が決められる。
そして、横滑り防止爪16が回動したときには、押圧部68が保持空間36内に保持された足場構成部材の側面を押圧するように構成されている。即ち、凹部70が保持空間36側に面しているときは、横滑り防止爪16は保持空間36側には突出せず、左右のいずれかに回動することで押圧部68が保持空間36側に突出する配置となっている。
【0020】
<回動制限部材の構成>
図1図3に示すように、本実施形態の安全帯取付具10では、回動制限部材76を更に備えている。回動制限部材76は、取付部12が閉状態のときの横滑り防止爪16の回動を制限するために取付けられている。
図14は回動制限部材の正面図であり、図15はその平面図である。
図14及び図15に示すように、この回動制限部材76は、基部78と円弧部80と凸部82とから構成されている。
基部78は略長方形上の平板部材から形成されている。基部78の短辺84は、取付部12を閉状態としたときに、各係合片18,20の一端側に形成した溝38,40間に挟み込まれる程度の長さを有している。基部78の長辺86は軸58の上下に取付けられた2枚の横滑り防止爪16,16の内側面の間隔と同程度、或いは該間隔よりも若干短い長さに形成されている。
【0021】
円弧部80は、基部78の両長辺86の中央領域からそれぞれ屹立し、短辺84側からみてその内側が円弧状に形成されており、両円弧部80により上記軸58が嵌入可能な内径を有する円形状領域88が形成されている。また、両円弧部80の上端部90は間隔を空けて設けられており、この間隔T1は上記軸58の径よりも狭く形成され、回動制限部材76を上記軸58に取付ける際に、嵌め込み可能な程度の幅に設定されている。長辺86側からみたときの円弧部80の幅T2は、重ね合わせた両係合片18,20の軸部の最も内側に位置する面間の幅と同程度、或いは該幅よりも若干短い長さに形成されている。本実施形態では、円弧部80の幅T2は、両係合片18,20を軸部で重ね合わせたときに内側に位置する第二係合片20の第二軸部28のコ字状の幅と同程度、或いは該幅よりも若干短い長さに形成されている。
【0022】
凸部82は、基部78の両短辺84の中央領域から外方に向かって延出するようにそれぞれ設けられており、前述した横滑り防止爪16の凹部70に嵌め込み可能な厚み、幅及び高さを有している。
この凸部82は、所定以上の荷重が付加されたときに破断するように設定されている。凸部82が通常作業において生じる荷重では破断せず、かつ所定以上の荷重の付加で破断するように、材質の種類の選択や凸部82の形状、厚み、幅、高さなどが適宜調整される。本実施形態では、2~3kNの荷重の付加で凸部82が破断するように調整した。上記範囲内であれば、通常作業において生じる荷重では破断は生じず、一方で墜落時に横方向に大きく荷重がかかった場合に破断される。
回動制限部材76を構成する材質としては、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリスチレン樹脂(PS)、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS)、ナイロン樹脂(PA)などが挙げられる。このうち、ナイロン樹脂(PA)が特に好ましい。
【0023】
回動制限部材76は、両円弧部80で形成された円形状領域88に軸58を嵌め込むことで軸58に回動自在に取付けられる。また、取付けられた回動制限部材76は、軸58から取外し可能に構成されている。図1及び図2に示すように、回動制限部材76は、取付部12の保持空間36側から外方に向かって軸58に嵌め込むように取付け向きが決められる。
このように回動制限部材76を軸58に取付けることで、凸部82が上記横滑り防止爪16の凹部70に嵌め込まれる。これにより、横滑り防止爪16の回動と回動制限部材76の回動とが連動する。
また、回動制限部材76は、上記取付部12を閉状態としたときに、各係合片18,20の軸側に設けられた溝38,40間に基部78が挟み込まれるように構成されている。これにより、取付部12を閉状態としたときの回動制限部材76の回動が制限される。この回動制限部材76の回動制限に伴って、回動制限部材76と連動している横滑り防止爪16の回動も制限される。
【0024】
<環状部の構成>
図16は環状部の平面図であり、図17はその正面図である。
図16及び図17に示すように、環状部14は、安全帯のフックを係止させるための部材である。
環状部14は、胴部92と軸部94と立設部96とから構成されている。
胴部92は略長方形状の平板部材が中央部分で折り曲げられた略U字状に形成されている。胴部92の両末端には略円形状の軸部94がそれぞれ設けられ、この軸部94に軸孔98が形成されている。この環状部14の軸部94は、上記横滑り防止爪16の軸部64の径とほぼ同径に形成されている。
立設部96は、軸部94の胴部92と隣接する位置から、軸孔98中心を中心として略放射状に延出し、更に外方に向かって立設するように設けられている。立設部96は、軸孔98中心を中心としたとき、上記横滑り防止爪16の軸部64の径よりも大径であって、円弧状部62の楕円の長径よりも小径となる位置に立設するように形成されている。また、この立設部96は、胴部92を挟んで左右にそれぞれ設けられている。
【0025】
図2~3に示すように、環状部14は、取付部12が閉状態のときに形成される保持空間36から外れた位置に略U字状の胴部92が配置されるように取付け向きが決められ、上記軸58に対して回動自在に取付けられる。この環状部14が軸58により軸着されることで、この環状部14と軸58とで、安全帯のフックを係止させるための環100が形成される。
立設部96は、横滑り防止爪16の軸部64よりも外方に位置する領域に配置される。環状部14が回動することによる立設部96の回動軌跡M(図2中において一点鎖線で示す。)は、軸部64よりも外側であって、円弧状部62の楕円の長径の軌跡よりも内側に位置する。また、環状部14を回動させた際に、この立設部96が円弧状部62の直線側72に接触するように構成されている。
【0026】
<安全帯取付具の使用方法>
次に、上記構成の安全帯取付具の使用方法を説明する。
この安全帯取付具10は主として建築現場にて組まれた足場において、作業を行う階層の縦部材に取付けられる。そして、作業者はこの取付けた安全帯取付具に安全帯のフックを係止させた状態で作業を行うものである。
図18は取付部が開状態のときの安全帯取付具の平面図である。図19は縦部材に本実施形態の安全帯取付具を取付けた状態を示す図である。
図18に示すように、連結部材50は二股部48から外されており、取付部12は開状態となっている。この開状態のとき回動制限部材76は溝38,40に挟み込まれていないため、回動制限部材76及びこれと連動する横滑り防止爪16は回動が自由に行える状態にある。
なお、安全帯取付具10に回動制限部材76が取り付けられていない場合は、上下の横滑り防止爪16は、それぞれ独自に回動することが可能な状態になる。安全帯取付具10を足場構成部材に取付ける際に横滑り防止爪16がそれぞれ独自に回動した状態だと、押圧部68が保持空間36側に突出する配置になるため、押圧部68が足場構成部材の側面に当たってしまい、このままでは足場構成部材に安全帯取付具10を取り付けることができない。したがって、安全帯取付具10を足場構成部材に取付ける際には、横滑り防止爪16の位置を凹部70が保持空間36側に面するように配置し直さなければならない。
【0027】
回動制限部材76を取り付けることで、凹部70に凸部82が嵌め込まれ、回動制限部材76とその上下に位置する横滑り防止爪16とがそれぞれ連結され、連動することになる。
両係合片18,20で縦部材102を挟み込み、取付部12を閉じて閉状態とする。これにより、回動制限部材76の基部78の長辺86が各係合片18,20の溝間38,40に挟み込まれる。この挟み込まれた状態では、回動制限部材76の回動が制限される。そして、回動制限部材76と連動する横滑り防止爪16の回動も制限される。
また、この挟み込みにより、回動制限部材76の凸部82が保持空間36側に面するように配置される。このため、凸部82と嵌め込み状態の横滑り防止爪16の凹部70も保持空間36側に面するように配置される。
そして、連結部材50を二股部48に嵌入し、ナット56で両係合片18,20の端部間を締め付ける。好適な締め付けトルクは25~35N・mである。これにより、図19に示すように、安全帯取付具10の縦部材102への取付けが完了する。
【0028】
上述のように縦部材102に取付けた安全帯取付具10は、環状部14に安全帯のフックを係止させて使用する。
以下、安全帯取付具10を縦部材102に取付けたときの環状部14の方向を正面(0度)とした場合、正面から左右45度以内の範囲となる位置での作業を「通常範囲作業」、正面から左右45度を越える範囲となる位置での作業を「横方向範囲作業」という。
【0029】
通常範囲作業時では、墜落時に横方向にかかる荷重は小さい。このため、横方向荷重が安全帯取付具10と縦部材102との間に生じている静止摩擦力を越えることはなく、安全帯取付具10の横滑りは防止される。
また、下方向への荷重に対しては、安全帯取付具10の連結部材50による締め付けによって、安全帯取付具10の下方向への滑りが防止される。
なお、縦部材102への締め付けが緩い場合でも、落下時は安全帯取付具10が環状部14を起点として引っ張られ、安全帯取付具10は斜め下方へと傾き、軸58の下側に設けられた横滑り防止爪16の押圧部68が縦部材102の側面に食い込んで把持する。このため、安全帯取付具10が縦部材102から滑り落ちることなく、安全性が保たれる。
【0030】
横方向範囲作業時は、墜落時に横方向にかかる荷重が大きい。所定以上の横方向荷重が付加された場合、環状部14は荷重が付加された方向に回動し、立設部96が横滑り防止爪16の円弧状部62の直線側72に接触して横滑り防止爪16に荷重が伝えられる。
横滑り防止爪16に伝えられた荷重は、凹部70と嵌め込み状態の回動制限部材76の凸部82に伝えられる。所定以上の荷重がかかった凸部82は破断して、回動制限部材76と横滑り防止爪16との連結が外れる。即ち、所定以上の横方向荷重が付加された場合に横滑り防止爪16の回動制限が解除される。
回動自在となった横滑り防止爪16は荷重が付加された方向に回動し、その押圧部68が縦部材102の側面に食い込んで把持する。これにより、安全帯取付具が横滑りすることがなく、安全性が保たれる。
【0031】
<実施形態の作用効果>
このような本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
本実施形態では、横滑り防止爪16が軸58の少なくとも下側に設けられている。横方向範囲作業時での墜落で横方向に大きな荷重がかかった場合でも横滑り防止爪16が縦部材102に食い込んでその動きを抑えるため、安全帯取付具10の横滑りを防止することができる。落下時は安全帯取付具10が環状部14を起点として下方向へと引っ張られるが、軸58の下側に取付けた横滑り防止爪16が縦部材102に食い込んで把持するため、取付け時の締め付けが緩い場合であっても安全帯取付具10は縦部材102から滑り落ちることなく、安全性が保たれる。
【0032】
また、この横滑り防止爪16の楕円形側66に鋸歯状の押圧部68が形成された構成としている。落下の際にはこの鋸歯状の押圧部68が縦部材102にしっかりと食い込むので安全帯取付具10の横滑りを強固に防止できる。
また、横滑り防止爪16は、軸58に対して回動自在に取付けられ、横滑り防止爪16が回動したときに、押圧部68が保持空間36内に保持された縦部材102を押圧する構成としている。これにより、横方向範囲作業時での墜落で、横方向に所定以上の荷重がかかって横滑り防止爪16が回動したときには、その押圧部68が縦部材102の側面に食い込んで把持する。
また、横滑り防止爪16が軸58の上下にそれぞれ設けられている。この構成では、作業者が安全帯取付具10を上下逆様に取付けたとしても、必ず横滑り防止爪16が軸58の下側に位置することになる。したがって、作業者は上下方向を気にすることなくこの安全帯取付具10を取付けることができ、上下いずれの取付け向きでも、横方向の滑り、並びにそれに伴う下方向の滑りを防止することができる。
【0033】
また、横滑り防止爪16の回動を制限する回動制限部材76を備えた構成としている。この回動制限部材76により、通常作業時は横滑り防止爪16の動きを制限することができる。したがって、通常作業時には横滑り防止爪16の回動による縦部材102への食い込みを生じることがなく、縦部材102の表面を傷めることがない。
横滑り防止爪16には凹部70が、回動制限部材76には凸部82がそれぞれ設けられており、凸部82が凹部70に嵌め込まれた状態に維持される構成としている。凹部70と凸部82とが嵌め込み状態に維持されることで、横滑り防止爪16と回動制限部材76は連結され、それらの動作が連動する。したがって、安全帯取付具10の縦部材102への取付け時には、横滑り防止爪16がそれぞれ独自に回動することがなく、回動制限部材76の向きに連動して、横滑り防止爪16も適切な方向を向くように配置されるので、安全帯取付具10の縦部材102への取付を容易に行うことができる。
【0034】
また、回動制限部材76は、所定以上の荷重がかかったときにその凸部82が破断することで横滑り防止爪16の回動制限が解除される構成としている。これにより、墜落時に所定以上の横方向への荷重がかかったときだけ横滑り防止爪の回動制限が解除される。
回動制限部材76が軸58に取付けられており、軸58から着脱可能な構成としている。これにより、回動制限部材76が万が一破損して回動制限機能が喪失した場合でも、この回動制限部材76を交換することで安全帯取付具10の回動制限機能を回復させることができる。
環状部14は軸58により軸着され、横滑り防止爪16の円弧側とは反対側に位置する領域に立設部96が設けられてなり、立設部96が環状部14の回動に伴う荷重を横滑り防止爪14に伝えるように構成されている。これにより、墜落時に所定以上の横方向への荷重が付加されたときに、環状部14から横滑り防止爪16へと荷重が伝えられる。
【0035】
<変形例>
なお、本発明は前述の各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良は本発明に含まれるものとする。
上記実施形態では、足場構成部材を両係合片18,20で挟み込んで取付部12を閉状態とし、連結部材50を二股部48に嵌入してナット56を締め込むことで固定する構成としたが、これに限定されない。例えば、両係合片18,20の閉状態を維持し得るラッチ機構を設けた構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0036】
以上説明された安全帯取付具は、手摺りが設けられていない足場での作業で使用するのに適する。
【符号の説明】
【0037】
10 安全帯取付具
12 取付部
14 環状部
16 横滑り防止爪
36 保持空間
58 軸
68 押圧部
70 凹部
76 回動制限部材
82 凸部
96 立設部

図1
図2
図3
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図5
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