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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023030274
(43)【公開日】2023-03-08
(54)【発明の名称】故障検知方法及び故障検知装置
(51)【国際特許分類】
   B63B 43/00 20060101AFI20230301BHJP
   B63C 11/48 20060101ALI20230301BHJP
   B63C 11/00 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
B63B43/00 Z
B63C11/48 D
B63C11/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021135320
(22)【出願日】2021-08-23
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 秀輝
(74)【代理人】
【識別番号】100211052
【弁理士】
【氏名又は名称】奥村 大輔
(72)【発明者】
【氏名】須藤 拓
(57)【要約】
【課題】優れた検知能力で水中航走体の舵の故障を検知する。
【解決手段】一態様の故障検知方法は、複数の舵の正常性が確認された試験環境下において、特定のピッチ角又は特定のヨー角で航走する水中航走体のロール角を計測する第1ステップと、複数の舵の正常性が未確認の運用環境下において、特定のピッチ角又は特定のヨー角で航走する水中航走体のロール角を計測する第2ステップと、試験環境下で計測された水中航走体のロール角と、運用環境下で計測された水中航走体のロール角との差に基づいて、複数の舵のうち1つの舵の故障を検知する第3ステップと、を含む。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の舵を有する水中航走体の舵の故障を検知する故障検知方法であって、
前記複数の舵の正常性が確認された試験環境下において、特定のピッチ角又は特定のヨー角で航走する前記水中航走体のロール角を計測する第1ステップと、
前記複数の舵の正常性が未確認の運用環境下において、前記特定のピッチ角又は前記特定のヨー角で航走する前記水中航走体のロール角を計測する第2ステップと、
前記試験環境下で計測された前記水中航走体のロール角と、前記運用環境下で計測された前記水中航走体のロール角との差に基づいて、前記複数の舵のうち1つの舵の故障を検知する第3ステップと、
を含む、故障検知方法。
【請求項2】
前記複数の舵が、前記水中航走体のピッチ角を調整する左右一対の舵と、前記水中航走体のヨー角を調整する上下一対の舵とを含み、
前記第1ステップでは、前記試験環境下において前記特定のピッチ角で航走する前記水中航走体のロール角である第1ロール角を計測すると共に、前記試験環境下において前記特定のヨー角で航走する前記水中航走体のロール角である第2ロール角を計測し、
前記第2ステップでは、前記運用環境下おいて前記特定のピッチ角で航走する前記水中航走体のロール角である第3ロール角を計測すると共に、前記運用環境下おいて前記特定のヨー角で航走する前記水中航走体のロール角である第4ロール角を計測し、
前記第3ステップでは、前記第1ロール角と前記第3ロール角との差が第1閾値より大きい場合に前記左右一対の舵のうち一方の舵に故障が発生したと判定し、前記第2ロール角と前記第4ロール角との差が第2閾値より大きい場合に前記上下一対の舵のうち一方の舵に故障が発生したと判定する、請求項1に記載の故障検知方法。
【請求項3】
前記水中航走体の前記上下一対の舵のうち一方の舵の舵角をδa1に設定すると共に前記上下一対の舵のうち他方の舵の舵角を-δa1に設定するステップと、
前記舵角δa1を一定の角度ずつ変化させるステップと、
前記舵角δa1と、前記水中航走体のロール角との関係を示す第1相関データを生成するステップと、
前記第1相関データを使用して、前記第1ロール角と前記第3ロール角との差を小さくする前記上下一対の舵の補正舵角を決定するステップと、
決定された前記上下一対の舵の補正舵角に基づいて前記上下一対の舵の舵角を補正するステップと、
前記水中航走体の前記左右一対の舵のうち一方の舵の舵角をδa2に設定すると共に前記左右一対の舵のうち他方の舵の舵角を-δa2に設定するステップと、
前記舵角δa2を一定の角度ずつ変化させるステップと、
前記舵角δa2と、前記水中航走体のロール角との関係を示す第2相関データを生成するステップと、
前記第2相関データを使用して、前記第2ロール角と前記第4ロール角との差を小さくする前記左右一対の舵の補正舵角を決定するステップと、
決定された前記左右一対の舵の補正舵角に基づいて前記左右一対の舵の舵角を補正するステップと、
を更に含む、請求項2に記載の故障検知方法。
【請求項4】
前記複数の舵が、前記水中航走体のピッチ角を調整する左右一対の舵と、前記水中航走体のヨー角を調整する上下一対の舵とを含み、
前記第1ステップでは、前記試験環境下において、水平直進航走する前記水中航走体の第1ロール角Φ、前記左右一対の舵の舵角δl1,δr1、及び、前記上下一対の舵の舵角δu1,δd1を計測し、
前記第2ステップでは、前記運用環境下において、水平直進航走する前記水中航走体の第2ロール角Φ、前記左右一対の舵の舵角δl2,δr2、及び、前記上下一対の舵の舵角δu2,δd2を計測し、
前記第3ステップでは、
(Φ-Φ)が第1閾値より大きい場合、
(δl2-δl1)+(δr2-δr1)が第2閾値より大きい場合、又は、
(δu2-δu1)+(δd2-δd1)が第3閾値より大きい場合に、
前記複数の舵のうち一つの舵に故障が発生したと判定する、請求項1に記載の故障検知方法。
【請求項5】
前記試験環境下において、水平直進航走する前記水中航走体の前記左右一対の舵のうち一方の舵の舵角を角度δb1だけ増加させ、前記左右一対の舵のうち他方の舵の舵角を角度δb1だけ減少させたときの前記水中航走体のロール角である第3ロール角Φを計測するステップと、
第1ロール角Φ、第2ロール角Φ、第3ロール角Φ、前記試験環境下で計測された前記左右一対の舵の舵角δl1,δr1、前記運用環境下で計測された前記左右一対の舵の舵角δl2,δr2、及び、前記角度δb1に基づいて、前記左右一対の舵の舵角のオフセット角度を算出するステップと、
前記左右一対の舵の舵角の前記オフセット角度に基づいて、前記左右一対の舵の舵角を補正するステップと、
前記試験環境下において、水平直進航走する前記水中航走体の前記上下一対の舵のうち一方の舵の舵角を角度δb2だけ増加させ、前記上下一対の舵のうち他方の舵の舵角を前記角度δb2だけ減少させたときの前記水中航走体のロール角である第4ロール角Φを計測するステップと、
第1ロール角Φ、第2ロール角Φ、第4ロール角Φ、前記試験環境下で計測された前記上下一対の舵の舵角δu1,δd1、前記運用環境下で計測された前記上下一対の舵の舵角δu2,δd2、及び、前記角度δb2に基づいて、前記上下一対の舵の舵角のオフセット角度を算出するステップと、
前記上下一対の舵の舵角の前記オフセット角度に基づいて前記上下一対の舵の舵角を補正するステップと、
を更に含む、請求項4に記載の故障検知方法。
【請求項6】
複数の舵を有する水中航走体の舵の故障を検知する故障検知方法であって、
前記複数の舵の正常性が確認された試験環境下において、特定のピッチ角又は特定のヨー角で航走する前記水中航走体の前記複数の舵の舵角を計測するステップと、
前記複数の舵の正常性が未確認の運用環境下において、前記特定のピッチ角又は前記特定のヨー角で航走する前記水中航走体の前記複数の舵の舵角を計測するステップと、
前記試験環境下で計測された前記複数の舵の舵角と、前記運用環境下で計測された前記複数の舵の舵角とに基づいて、前記複数の舵のうち1つの舵の故障を検知するステップと、
を含む、故障検知方法。
【請求項7】
複数の舵を有する水中航走体の舵の故障を検知する故障検知装置であって、
前記複数の舵の正常性が確認された試験環境下において特定のピッチ角又は特定のヨー角で航走する前記水中航走体のロール角を取得すると共に、前記複数の舵の正常性が未確認の運用環境下において前記特定のピッチ角又は前記特定のヨー角で航走する前記水中航走体のロール角を取得する姿勢情報取得部と、
前記試験環境下において取得された前記水中航走体のロール角と、前記運用環境下において取得された前記水中航走体のロール角との差に基づいて、前記複数の舵のうち1つの舵の故障を検知する故障検知部と、
を備える、故障検知装置。
【請求項8】
前記複数の舵が、前記水中航走体のピッチ角を調整する左右一対の舵と、前記水中航走体のヨー角を調整する上下一対の舵とを含み、
前記姿勢情報取得部は、前記試験環境下において前記特定のピッチ角で航走する前記水中航走体のロール角である第1ロール角、及び、前記試験環境下において前記特定のヨー角で航走する前記水中航走体のロール角である第2ロール角を取得すると共に、前記運用環境下おいて前記特定のピッチ角で航走する前記水中航走体のロール角である第3ロール角、及び、前記運用環境下おいて前記特定のヨー角で航走する前記水中航走体のロール角である第4ロール角を取得し、
前記故障検知部は、前記第1ロール角と前記第3ロール角との差が第1閾値より大きい場合に前記左右一対の舵のうち一方の舵に故障が発生したと判定し、前記第2ロール角と前記第4ロール角との差が第2閾値より大きい場合に前記上下一対の舵のうち一方の舵に故障が発生したと判定する、請求項7に記載の故障検知装置。
【請求項9】
前記複数の舵の舵角を制御する舵角制御部と、
前記複数の舵の舵角を補正する補正部と、
を更に備え、
前記舵角制御部は、前記水中航走体の前記上下一対の舵のうち一方の舵の舵角をδa1に設定すると共に前記上下一対の舵のうち他方の舵の舵角を-δa1に設定し、前記舵角δa1を一定の角度ずつ変化させ、
前記故障検知部は、前記舵角δa1と、前記水中航走体のロール角との関係を示す第1相関データを生成し、
前記補正部は、前記第1相関データを使用して、前記第1ロール角と前記第3ロール角との差を小さくする前記上下一対の舵の補正舵角を決定し、決定された前記上下一対の舵の補正舵角に基づいて前記上下一対の舵の舵角を補正し、
前記舵角制御部は、前記水中航走体の前記左右一対の舵のうち一方の舵の舵角をδa2に設定すると共に前記左右一対の舵のうち他方の舵の舵角を-δa2に設定し、前記舵角δa2を一定の角度ずつ変化させ、
前記故障検知部は、前記舵角δa2と、前記水中航走体のロール角との関係を示す第2相関データを生成し、
前記補正部は、前記第2相関データを使用して、前記第2ロール角と前記第4ロール角との差を小さくする前記左右一対の舵の補正舵角を決定し、決定された前記左右一対の舵の補正舵角に基づいて前記左右一対の舵の舵角を補正する、請求項8に記載の故障検知装置。
【請求項10】
前記複数の舵が、前記水中航走体のピッチ角を調整する左右一対の舵と、前記水中航走体のヨー角を調整する上下一対の舵とを含み、
前記姿勢情報取得部は、前記試験環境下において水平直進航走する前記水中航走体の第1ロール角Φ、前記左右一対の舵の舵角δl1,δr1、及び、前記上下一対の舵の舵角δu1,δd1を取得すると共に、前記運用環境下において水平直進航走する前記水中航走体の第2ロール角Φ、前記左右一対の舵の舵角δl2,δr2、及び、前記上下一対の舵の舵角δu2,δd2を取得し、
前記故障検知部は、
(Φ-Φ)が第1閾値より大きい場合、
(δl2-δl1)+(δr2-δr1)が第2閾値より大きい場合、又は、
(δu2-δu1)+(δd2-δd1)が第3閾値より大きい場合に、
前記複数の舵のうち一つの舵に故障が発生したと判定する、
する、請求項7に記載の故障検知装置。
【請求項11】
前記複数の舵の舵角を補正する補正部を更に備え、
前記姿勢情報取得部は、前記試験環境下において、水平直進航走する前記水中航走体の前記左右一対の舵のうち一方の舵の舵角を角度δb1だけ増加させ、前記左右一対の舵のうち他方の舵の舵角を角度δb1だけ減少させたときの前記水中航走体のロール角である第3ロール角Φを取得し、
前記故障検知部は、第1ロール角Φ、第2ロール角Φ、第3ロール角Φ、前記試験環境下で計測された前記左右一対の舵の舵角δl1,δr1、前記運用環境下で計測された前記左右一対の舵の舵角δl2,δr2、及び、前記角度δb1に基づいて、前記左右一対の舵の舵角のオフセット角度を算出し、
前記補正部は、前記左右一対の舵の舵角の前記オフセット角度に基づいて、前記左右一対の舵の舵角を補正し、
前記姿勢情報取得部は、前記試験環境下において、水平直進航走する前記水中航走体の前記上下一対の舵のうち一方の舵の舵角を角度δb2だけ増加させ、前記上下一対の舵のうち他方の舵の舵角を前記角度δb2だけ減少させたときの前記水中航走体のロール角である第4ロール角Φを取得し、
前記故障検知部は、第1ロール角Φ、第2ロール角Φ、第4ロール角Φ、前記試験環境下で計測された前記上下一対の舵の舵角δu1,δd1、前記運用環境下で計測された前記上下一対の舵の舵角δu2,δd2、及び、前記角度δb2に基づいて、前記上下一対の舵の舵角のオフセット角度を算出し、
前記補正部は、前記上下一対の舵の舵角の前記オフセット角度に基づいて前記上下一対の舵の舵角を補正する、請求項10に記載の故障検知装置。
【請求項12】
複数の舵を有する水中航走体の舵の故障を検知する故障検知装置であって、
前記複数の舵の正常性が確認された試験環境下において特定のピッチ角又は特定のヨー角で航走する前記水中航走体の前記複数の舵の舵角を取得すると共に、前記複数の舵の正常性が未確認の運用環境下において前記特定のピッチ角又は前記特定のヨー角で航走する前記水中航走体の前記複数の舵の舵角を取得する取得する舵角取得部と、
前記試験環境下で取得された前記複数の舵の舵角と、前記運用環境下で取得された前記複数の舵の舵角とに基づいて、前記複数の舵のうち1つの舵の故障を検知する故障検知部と、
を備える、故障検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、舵の故障検知方法及び故障検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数の姿勢制御舵と、当該複数の姿勢制御舵を制御する複数の舵駆動源と、当該複数の舵駆動源の故障を検知する故障検知手段とを備える航走体について記載されている。この故障検知手段は、舵駆動源からの出力信号の電流値が所定の閾値以下になった場合、又は、舵駆動源の単位時間あたりの回転角の変化角度が上限値以上又は下限値以下である場合等に、複数の舵駆動源に故障が発生したと判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-107943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の故障検知手段は、舵駆動源の出力に基づいて舵駆動源の故障を検知しているため、舵駆動源によって操舵される姿勢制御舵に故障が発生した場合には、その故障を検知することが難しい。また、上述した故障検知手段は、舵駆動源からの出力が正しいことを前提としているため、舵駆動源の出力が正常でない場合には舵駆動源の故障を適切に検知できないことがある。
【0005】
したがって、本開示は、優れた検知能力で水中航走体の舵の故障を検知することができる故障検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様では、複数の舵を有する水中航走体の舵の故障を検知する故障検知方法が提供される。この故障検知方法は、複数の舵の正常性が確認された試験環境下において、特定のピッチ角又は特定のヨー角で航走する水中航走体のロール角を計測する第1ステップと、複数の舵の正常性が未確認の運用環境下において、特定のピッチ角又は特定のヨー角で航走する水中航走体のロール角を計測する第2ステップと、試験環境下で計測された水中航走体のロール角と、運用環境下で計測された水中航走体のロール角との差に基づいて、複数の舵のうち1つの舵の故障を検知する第3ステップと、を含む。
【0007】
試験環境下で計測された水中航走体のロール角と運用環境下で計測された水中航走体のロール角との間に差異が存在する場合には、運用環境下での複数の舵の動作が、試験環境下での複数の舵の動作と異なっていることが想定される。したがって、本態様の故障検知方法によれば、試験環境下で計測された水中航走体のロール角と運用環境下で計測された水中航走体のロール角との差に基づいて舵の故障を検知することができる。また、この方法では、計測された水中航走体の姿勢の差異に基づいて水中航走体の舵の故障を検知することにより、複数の舵の舵角の計測値が不正確な場合であっても舵の故障を検知することができる。したがって、優れた検知能力で水中航走体の舵の故障を検知することができる。
【0008】
一実施形態では、複数の舵が、水中航走体のピッチ角を調整する左右一対の舵と、水中航走体のヨー角を調整する上下一対の舵とを含み、第1ステップでは、試験環境下において特定のピッチ角で航走する水中航走体のロール角である第1ロール角を計測すると共に、試験環境下において特定のヨー角で航走する水中航走体のロール角である第2ロール角を計測し、第2ステップでは、運用環境下おいて特定のピッチ角で航走する水中航走体のロール角である第3ロール角を計測すると共に、運用環境下おいて特定のヨー角で航走する水中航走体のロール角である第4ロール角を計測し、第3ステップでは、第1ロール角と第3ロール角との差が第1閾値より大きい場合に左右一対の舵のうち一方の舵に故障が発生したと判定し、第2ロール角と第4ロール角との差が第2閾値より大きい場合に上下一対の舵のうち一方の舵に故障が発生したと判定してもよい。
【0009】
試験環境下で計測された第1ロール角と運用環境下で計測された第3ロール角の差が第1閾値より大きい場合には、左右一対の舵のうち一方の舵が正常に動作せず、その舵角が固定された状態になっている可能性が高い。一方、試験環境下で計測された第2ロール角と運用環境下で計測された第4ロール角の差が第2閾値より大きい場合には、上下一対の舵のうち一方の舵が正常に動作せず、その舵角が固定された状態になっている可能性が高い。この実施形態では、第1ロール角と第3ロール角との差が第1閾値より大きい場合に左右一対の舵のうち一方の舵に故障が発生したと判定し、第2ロール角と第4ロール角との差が第2閾値より大きい場合に上下一対の舵のうち一方の舵に故障が発生したと判定することにより、舵の固定を検知することができる。
【0010】
一実施形態に係る故障検知方法は、水中航走体の上下一対の舵のうち一方の舵の舵角をδa1に設定すると共に上下一対の舵のうち他方の舵の舵角を-δa1に設定するステップと、舵角δa1を一定の角度ずつ変化させるステップと、舵角δa1と、水中航走体のロール角との関係を示す第1相関データを生成するステップと、第1相関データを使用して、第1ロール角と第3ロール角との差を小さくする上下一対の舵の補正舵角を決定するステップと、決定された上下一対の舵の補正舵角に基づいて上下一対の舵の舵角を補正するステップと、水中航走体の左右一対の舵のうち一方の舵の舵角をδa2に設定すると共に左右一対の舵のうち他方の舵の舵角を-δa2に設定するステップと、舵角δa2を一定の角度ずつ変化させるステップと、舵角δa2と、水中航走体のロール角との関係を示す第2相関データを生成するステップと、第2相関データを使用して、第2ロール角と第4ロール角との差を小さくする左右一対の舵の補正舵角を決定するステップと、決定された左右一対の舵の補正舵角に基づいて左右一対の舵の舵角を補正するステップと、を更に含んでもよい。
【0011】
本実施形態では、第1ロール角と第3ロール角との差を小さくする上下一対の舵の補正舵角を決定し、当該補正舵角に基づいて上下一対の舵の舵角を補正すると共に、第2ロール角と第4ロール角との差を小さくする左右一対の舵の補正舵角を決定し、当該補正舵角に基づいて左右一対の舵の舵角を補正している。上記のように、複数の舵の舵角を補正することにより、水中航走体のロール角を正常時のロール角に近づけることができる。したがって、運用環境下で舵に故障が発生した場合であっても、水中航走体を継続して運用することが可能となる。
【0012】
一実施形態では、複数の舵が、水中航走体のピッチ角を調整する左右一対の舵と、水中航走体のヨー角を調整する上下一対の舵とを含み、第1ステップでは、試験環境下において、水平直進航走する水中航走体の第1ロール角Φ、左右一対の舵の舵角δl1,δr1、及び、上下一対の舵の舵角δu1,δd1を計測し、第2ステップでは、運用環境下において、水平直進航走する水中航走体の第2ロール角Φ、左右一対の舵の舵角δl2,δr2、及び、上下一対の舵の舵角δu2,δd2を計測し、第3ステップでは、(Φ-Φ)が第1閾値より大きい場合、(δl2-δl1)+(δr2-δr1)が第2閾値より大きい場合、又は、(δu2-δu1)+(δd2-δd1)が第3閾値より大きい場合に、複数の舵のうち一つの舵に故障が発生したと判定してもよい。
【0013】
(Φ-Φ)が第1閾値より大きい場合、(δl2-δl1)+(δr2-δr1)が第2閾値より大きい場合、又は、(δu2-δu1)+(δd2-δd1)が第3閾値より大きい場合には、複数の舵のうち一つの舵の指令舵角と実際の舵角との間に角度ずれ(オフセット角度)が生じている可能性が高い。この実施形態では、複数の舵のうち一つの舵にオフセット角度が存在する可能性が高い場合に、当該一つの舵に故障が発生したと判定するので、舵の故障を優れた検知能力で検知することができる。
【0014】
一実施形態に係る故障検知方法は、試験環境下において、水平直進航走する水中航走体の左右一対の舵のうち一方の舵の舵角を角度δb1だけ増加させ、左右一対の舵のうち他方の舵の舵角を角度δb1だけ減少させたときの水中航走体のロール角である第3ロール角Φを計測するステップと、第1ロール角Φ、第2ロール角Φ、第3ロール角Φ、試験環境下で計測された左右一対の舵の舵角δl1,δr1、運用環境下で計測された左右一対の舵の舵角δl2,δr2、及び、角度δb1に基づいて、左右一対の舵の舵角のオフセット角度を算出するステップと、左右一対の舵の舵角のオフセット角度に基づいて、左右一対の舵の舵角を補正するステップと、試験環境下において、水平直進航走する水中航走体の上下一対の舵のうち一方の舵の舵角を角度δb2だけ増加させ、上下一対の舵のうち他方の舵の舵角を角度δb2だけ減少させたときの水中航走体のロール角である第4ロール角Φを計測するステップと、第1ロール角Φ、第2ロール角Φ、第4ロール角Φ、試験環境下で計測された上下一対の舵の舵角δu1,δd1、運用環境下で計測された上下一対の舵の舵角δu2,δd2、及び、角度δb2に基づいて、上下一対の舵の舵角のオフセット角度を算出するステップと、上下一対の舵の舵角のオフセット角度に基づいて上下一対の舵の舵角を補正するステップと、を更に含んでもよい。
【0015】
本実施形態では、左右一対の舵及び上下一対の舵の舵角のオフセット角度に基づいて、左右一対の舵及び上下一対の舵の舵角を補正しているので、複数の舵の実際の舵角を所望の舵角に近づけることができる。したがって、運用環境下で舵に故障が発生した場合であっても、水中航走体を継続して運用することが可能となる。
【0016】
別の態様では、複数の舵を有する水中航走体の舵の故障を検知する故障検知方法が提供される。この故障検知方法は、複数の舵の正常性が確認された試験環境下において、特定のピッチ角又は特定のヨー角で航走する水中航走体の複数の舵の舵角を計測するステップと、複数の舵の正常性が未確認の運用環境下において、特定のピッチ角又は特定のヨー角で航走する水中航走体の複数の舵の舵角を計測するステップと、試験環境下で計測された複数の舵の舵角と、運用環境下で計測された複数の舵の舵角とに基づいて、複数の舵のうち1つの舵の故障を検知するステップと、を含む。
【0017】
試験環境下で計測された複数の舵の舵角と、運用環境下で計測された複数の舵の舵角との間に差異がある場合には、舵に欠け等の破損が生じ、複数の舵の舵揚力に差異が生じている可能性がある。したがって、本態様に係る故障検知方法では、試験環境下で計測された複数の舵の舵角と運用環境下で計測された複数の舵の舵角とに基づいて船の故障を検知することができる。
【0018】
一態様では、複数の舵を有する水中航走体の舵の故障を検知する故障検知装置が提供される。この故障検知装置は、複数の舵の正常性が確認された試験環境下において特定のピッチ角又は特定のヨー角で航走する水中航走体のロール角を取得すると共に、複数の舵の正常性が未確認の運用環境下において特定のピッチ角又は特定のヨー角で航走する水中航走体のロール角を取得する姿勢情報取得部と、試験環境下において取得された水中航走体のロール角と、運用環境下において取得された水中航走体のロール角との差に基づいて、複数の舵のうち1つの舵の故障を検知する故障検知部と、を備える。
【0019】
上記のように、本態様の故障検知装置によれば、試験環境下で計測された水中航走体のロール角と運用環境下で計測された水中航走体のロール角との差に基づいて舵の故障を検知することができる。また、故障検知装置は、計測された水中航走体の姿勢の差異に基づいて水中航走体の舵の故障を検知することにより、複数の舵の舵角の計測値が不正確な場合であっても舵の故障を検知することができる。したがって、優れた検知能力で水中航走体の舵の故障を検知することができる。
【0020】
一実施形態では、複数の舵が、水中航走体のピッチ角を調整する左右一対の舵と、水中航走体のヨー角を調整する上下一対の舵とを含み、姿勢情報取得部は、試験環境下において特定のピッチ角で航走する水中航走体のロール角である第1ロール角、及び、試験環境下において特定のヨー角で航走する水中航走体のロール角である第2ロール角を取得すると共に、運用環境下おいて特定のピッチ角で航走する水中航走体のロール角である第3ロール角、及び、運用環境下おいて特定のヨー角で航走する水中航走体のロール角である第4ロール角を取得し、故障検知部は、第1ロール角と第3ロール角との差が第1閾値より大きい場合に左右一対の舵のうち一方の舵に故障が発生したと判定し、第2ロール角と第4ロール角との差が第2閾値より大きい場合に上下一対の舵のうち一方の舵に故障が発生したと判定してもよい。
【0021】
試験環境下で計測された第1ロール角と運用環境下で計測された第3ロール角の差が所定の閾値より大きい場合には、左右一対の舵のうち一方の舵が正常に動作せず、その舵角が固定された状態になっている可能性が高い。一方、試験環境下で計測された第2ロール角と運用環境下で計測された第4ロール角の差が所定の閾値より大きい場合には、上下一対の舵のうち一方の舵が正常に動作せず、その舵角が固定された状態になっている可能性が高い。この実施形態では、第1ロール角と第3ロール角との差が第1閾値より大きい場合に左右一対の舵のうち一方の舵に故障が発生したと判定し、第2ロール角と第4ロール角との差が第2閾値より大きい場合に上下一対の舵のうち一方の舵に故障が発生したと判定することにより、舵の固定を検知することができる。
【0022】
一実施形態に係る故障検知装置は、複数の舵の舵角を制御する舵角制御部と、複数の舵の舵角を補正する補正部と、を更に備え、舵角制御部は、水中航走体の上下一対の舵のうち一方の舵の舵角をδa1に設定すると共に上下一対の舵のうち他方の舵の舵角を-δa1に設定し、舵角δa1を一定の角度ずつ変化させ、故障検知部は、舵角δa1と、水中航走体のロール角との関係を示す第1相関データを生成し、補正部は、第1相関データを使用して、第1ロール角と第3ロール角との差を小さくする上下一対の舵の補正舵角を決定し、決定された上下一対の舵の補正舵角に基づいて上下一対の舵の舵角を補正し、舵角制御部は、水中航走体の左右一対の舵のうち一方の舵の舵角をδa2に設定すると共に左右一対の舵のうち他方の舵の舵角を-δa2に設定し、舵角δa2を一定の角度ずつ変化させ、故障検知部は、舵角δa2と、水中航走体のロール角との関係を示す第2相関データを生成し、補正部は、第2相関データを使用して、第2ロール角と第4ロール角との差を小さくする左右一対の舵の補正舵角を決定し、決定された左右一対の舵の補正舵角に基づいて左右一対の舵の舵角を補正してもよい。
【0023】
本実施形態では、第1ロール角と第3ロール角との差を小さくする上下一対の舵の補正舵角を決定し、当該補正舵角に基づいて上下一対の舵の舵角を補正すると共に、第2ロール角と第4ロール角との差を小さくする左右一対の舵の補正舵角を決定し、当該補正舵角に基づいて左右一対の舵の舵角を補正している。上記のように、複数の舵の舵角を補正することにより、水中航走体のロール角を正常時のロール角に近づけることができる。したがって、運用環境下で舵に故障が発生した場合であっても、水中航走体を継続して運用することが可能となる。
【0024】
一実施形態では、複数の舵が、水中航走体のピッチ角を調整する左右一対の舵と、水中航走体のヨー角を調整する上下一対の舵とを含み、姿勢情報取得部は、試験環境下において水平直進航走する水中航走体の第1ロール角Φ、左右一対の舵の舵角δl1,δr1、及び、上下一対の舵の舵角δu1,δd1を取得すると共に、運用環境下において水平直進航走する水中航走体の第2ロール角Φ、左右一対の舵の舵角δl2,δr2、及び、上下一対の舵の舵角δu2,δd2を取得し、故障検知部は、(Φ-Φ)が第1閾値より大きい場合、(δl2-δl1)+(δr2-δr1)が第2閾値より大きい場合、又は、(δu2-δu1)+(δd2-δd1)が第3閾値より大きい場合に、複数の舵のうち一つの舵に故障が発生したと判定してもよい。
【0025】
(Φ-Φ)が第1閾値より大きい場合、(δl2-δl1)+(δr2-δr1)が第2閾値より大きい場合、又は、(δu2-δu1)+(δd2-δd1)が第3閾値より大きい場合には、複数の舵のうち一つの舵の指令舵角と実際の舵角との間に角度ずれ(オフセット角度)が生じている可能性が高い。この実施形態では、複数の舵のうち一つの舵にオフセット角度が存在する可能性が高い場合に、当該一つの舵に故障が発生したと判定するので、舵の故障を優れた検知能力で検知することができる。
【0026】
一実施形態に係る故障検知装置は、複数の舵の舵角を補正する補正部を更に備え、姿勢情報取得部は、試験環境下において、水平直進航走する水中航走体の左右一対の舵のうち一方の舵の舵角を角度δb1だけ増加させ、左右一対の舵のうち他方の舵の舵角を角度δb1だけ減少させたときの水中航走体のロール角である第3ロール角Φを取得し、故障検知部は、第1ロール角Φ、第2ロール角Φ、第3ロール角Φ、試験環境下で計測された左右一対の舵の舵角δl1,δr1、運用環境下で計測された左右一対の舵の舵角δl2,δr2、及び、角度δb1に基づいて、左右一対の舵の舵角のオフセット角度を算出し、補正部は、左右一対の舵の舵角のオフセット角度に基づいて、左右一対の舵の舵角を補正し、姿勢情報取得部は、試験環境下において、水平直進航走する水中航走体の上下一対の舵のうち一方の舵の舵角を角度δb2だけ増加させ、上下一対の舵のうち他方の舵の舵角を角度δb2だけ減少させたときの水中航走体のロール角である第4ロール角Φを取得し、故障検知部は、第1ロール角Φ、第2ロール角Φ、第4ロール角Φ、試験環境下で計測された上下一対の舵の舵角δu1,δd1、運用環境下で計測された上下一対の舵の舵角δu2,δd2、及び、角度δb2に基づいて、上下一対の舵の舵角のオフセット角度を算出し、補正部は、上下一対の舵の舵角のオフセット角度に基づいて上下一対の舵の舵角を補正してもよい。
【0027】
本実施形態では、左右一対の舵及び上下一対の舵の舵角のオフセット角度に基づいて、左右一対の舵及び上下一対の舵の舵角を補正しているので、複数の舵の実際の舵角を所望の舵角に近づけることができる。したがって、運用環境下で舵に故障が発生した場合であっても、水中航走体を継続して運用することが可能となる。
【0028】
一態様では、複数の舵を有する水中航走体の舵の故障を検知する故障検知装置が提供される。この故障検知装置は、複数の舵の正常性が確認された試験環境下において特定のピッチ角又は特定のヨー角で航走する水中航走体の複数の舵の舵角を取得すると共に、複数の舵の正常性が未確認の運用環境下において特定のピッチ角又は特定のヨー角で航走する水中航走体の複数の舵の舵角を取得する取得する舵角取得部と、試験環境下で取得された複数の舵の舵角と、運用環境下で取得された複数の舵の舵角とに基づいて、複数の舵のうち1つの舵の故障を検知する故障検知部と、を備える。
【0029】
試験環境下で計測された複数の舵の舵角と、運用環境下で計測された複数の舵の舵角との間に差異がある場合には、舵に欠け等の破損が生じ、複数の舵の舵揚力に差異が生じている可能性がある。したがって、本態様に係る故障検知装置は、試験環境下で計測された複数の舵の舵角と運用環境下で計測された複数の舵の舵角とに基づいて船の故障を検知することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の一態様及び種々の実施形態によれば、優れた検知能力で水中航走体の舵の故障を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】(a)は、例示的な水中航走体の側面図であり、(b)は、水中航走体の背面図である。
図2】水中航走体の機能構成を表すブロック図である。
図3】第1実施形態に係る故障検知方法を示すフローチャートである。
図4】第2実施形態に係る故障検知方法を示すフローチャートである。
図5】第3実施形態に係る故障検知方法を示すフローチャートである。
図6】第4実施形態に係る故障検知方法を示すフローチャートである。
図7】第5実施形態に係る故障検知方法を示すフローチャートである。
図8】第6実施形態に係る故障検知方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照して、本開示の実施形態について説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明は繰り返さない。図面は、理解の容易化のため、一部を簡略化又は誇張して描いている場合があり、寸法比率及び角度等は図面に記載のものに限定されない。説明の便宜上、図面には、XYZ直交座標系が示される。X軸方向は水中航走体の前後方向に一致し、Y軸方向は水中航走体の左右方向に一致し、Z軸方向は水中航走体の上下方向に一致した方向である。
て使用される。
【0033】
まず、一実施形態に係る故障検知方法が適用される水中航走体について説明する。水中航走体1は、例えば海底探査用の無人ロボットであり、水中を自律航走してソナー等の各種センサを利用して海底を探査する。
【0034】
図1(a)は、故障検知方法が適用される例示的な水中航走体1の側面図であり、図1(b)は、水中航走体1の背面図である。図2は、水中航走体1の機能構成を示すブロック図である。図1及び図2に示すように、水中航走体1は、船体2、推進部3、複数の舵4、INS(Inertial Navigation System)5及び制御装置10を備えている。
【0035】
推進部3は、船体2に推進力を付与する。推進部3は、推進器31及び推進駆動部32を含む。推進器31は、例えばプロペラ又はスラスター等の推進力を発生する装置であり、船体2の後端部に配置されている。推進駆動部32は、推進器31を駆動するアクチュエータである。推進駆動部32としては、例えば水中航走体1に搭載されたバッテリから電力を受けて駆動する電動モータが利用される。
【0036】
複数の舵4は、水中航走体1の姿勢を制御する。複数の舵4は、例えば十字舵であり、左舵4l、右舵4r、上舵4u及び下舵4dの4つの舵を含む。これら複数の舵4のうち左右一対の舵4l,4rは、水中航走体のピッチ角(Y軸周りの角度)を調整する。上下一対の舵4u,4dは、水中航走体1のヨー角(Z軸周りの角度)を調整する。
【0037】
図2に示すように、複数の舵4の各々は、舵本体41及び舵駆動部42を含む。舵本体41は、翼型を有する板状の部材であり、船体2の後端部に配置されている。図1(b)に示すように、複数の舵4の舵本体41は、X軸周りの周方向において0°,90°,180°,270°の位置にそれぞれ配置されている。各舵本体41は、水の流れ方向に対して所望の仰角を持つように回動可能に構成され、船体2の進行方向に直角な方向に舵揚力を発生させる。すなわち、水中航走体1のピッチ角及びヨー角は、左右一対の舵4l,4rの舵本体41の舵角(仰角)、及び、上下一対の舵4u,4dの舵本体41の舵角(仰角)が調整することにより制御される。なお、一実施形態では、舵本体41にフラップ等の補助翼が設けられ、補助翼の仰角が変更可能に構成されていてもよい。
【0038】
舵駆動部42は、舵本体41を駆動するアクチュエータである。舵駆動部42としては、例えばバッテリから受けた電力によって駆動するサーボモータが利用される。舵駆動部42は、制御装置10から制御信号を受けて、対応する舵本体41の舵角を指定された指令舵角に制御する。また、舵駆動部42は、対応する舵本体41の実際の舵角の計測値を出力する。複数の舵4の舵駆動部42によって舵本体41の舵角がそれぞれ制御されることにより、水中航走体1のピッチ角及びヨー角が制御され、その結果、水中航走体1が潜行、浮上、又は、左右に回頭することが可能となる。
【0039】
なお、水中航走体1は、当該水中航走体1のピッチ角を調整する浮量調整装置、又は、水中航走体1の重心位置を変化させる重錘移動装置を更に備えていてもよい。浮量調整装置は、例えばバラスト水を注入又は排出することによって水中航走体の姿勢を調整する。重錘移動装置は、例えば水中航走体1内部に配置された重錘を移動させることによって、重心位置を変化させる。
【0040】
INS5は、水中航走体1の姿勢情報及び位置情報を計測する装置である。INS5は、加速度センサ51及びジャイロセンサ52を含み、三軸周りの角速度を計測する機能を有する。具体的に、INS5は、ジャイロセンサ52によって計測された水中航走体1の三軸周りの角速度から、姿勢情報として水中航走体1のピッチ角、ヨー角及びロール角を取得する。また、INS5は、加速度センサ51によって計測された三軸方向の加速度情報を二回積分して、水中航走体1の位置情報を算出する。INS5は、計測した水中航走体1の姿勢情報及び位置情報を制御装置10に出力する。
【0041】
制御装置10は、推進部3及び複数の舵4を制御して水中航走体1を航走させる。また、制御装置10は、水中航走体1の舵4の故障を検知する故障検知装置として機能する。制御装置10は、例えば、CPU、ROM、RAMを含むコンピュータを主体として構成されており、所定の機能を実現するためのコンピュータプログラムがROMなどに記憶されている。そして、CPUやRAM上に上記のコンピュータプログラムを読み込ませ、CPUの制御の下で動作させることで、後述する各種機能が実現される。なお、一実施形態においては、制御装置10の各機能が集積回路によって実現されてもよい。
【0042】
図2に示すように、制御装置10は、機能的構成として、目標値決定部11、位置情報取得部12、姿勢情報取得部13、舵角取得部14、記憶部15、アクチュエータ制御部16、故障検知部17及び補正部18を備える。
【0043】
目標値決定部11は、水中航走体1の目標位置及び目標姿勢を決定する。目標位置は、将来時点での水中航走体1の位置の目標値である。目標姿勢は、将来時点での水中航走体1の姿勢情報(例えば、ピッチ角、ヨー角及びロール角)の目標値である。例えば目標値決定部11は、時刻毎の目標位置及び目標姿勢を記憶部15から読み出して、ある将来時点における水中航走体1の目標位置及び目標姿勢を決定する。
【0044】
位置情報取得部12は、INS5によって計測された水中航走体1の位置情報を取得し、取得した位置情報をアクチュエータ制御部16及び故障検知部17に出力する。姿勢情報取得部13は、INS5によって計測された姿勢情報、すなわち水中航走体1のピッチ角、ヨー角及びロール角を取得し、取得した姿勢情報をアクチュエータ制御部16及び故障検知部17に出力する。舵角取得部14は、複数の舵4の舵駆動部42の出力に基づいて、複数の舵4の舵角の計測値を取得する。舵角取得部14は、取得した複数の舵4の舵角をアクチュエータ制御部16及び故障検知部17に出力する。
【0045】
記憶部15は、水中航走体1の運動情報を記憶するデータベースである。例えば、記憶部15は、位置情報取得部12、姿勢情報取得部13及び舵角取得部14によって計測された水中航走体1の位置情報、水中航走体1の姿勢情報及び複数の舵4の舵角の計測値を、測定時刻と関連付けて記憶する。また、記憶部15には、各時刻における水中航走体1の目標位置及び目標姿勢が記憶される。
【0046】
アクチュエータ制御部16は、複数の舵4の舵角を制御する舵角制御部として機能する。アクチュエータ制御部16は、目標値決定部11から目標位置及び目標姿勢を取得すると共に、位置情報取得部12及び姿勢情報取得部13から水中航走体1の位置情報及び姿勢情報を取得する。そして、アクチュエータ制御部16は、水中航走体1の位置及び姿勢が目標位置及び目標姿勢に近づくように、推進部3及び複数の舵4を制御する。例えば、アクチュエータ制御部16は、現時点における水中航走体1の姿勢と目標姿勢との差に基づいて、水中航走体1を目標姿勢にするための三軸方向のモーメントを計算し、計算された三軸方向のモーメントを発生するための推進部3の推進力及び複数の舵4の舵角を決定する。そして、推進部3の推進力及び複数の舵4の舵角が、決定された推進力及び舵角になるように、推進部3及び複数の舵4を制御する。これにより、複数の舵4の舵角に応じた舵揚力が生じ、X軸、Y軸、Z軸周りのモーメントが発生する。その結果、水中航走体1が目標のピッチ角、ヨー角、ロール角に回頭し、水中航走体1が目標位置に向けて航走する。
【0047】
故障検知部17は、複数の舵4のうち一つの舵4の故障を検知する。例えば、故障検知部17は、複数の舵4の正常性が確認された試験環境下において特定のピッチ角又は特定のヨー角で航走する水中航走体1のロール角と、複数の舵4の正常性が未確認の運用環境下において特定のピッチ角又は特定のヨー角で航走する水中航走体1のロール角との差に基づいて、複数の舵4のうち1つの舵4の故障を検知する。なお、複数の舵4の正常性が確認された試験環境下とは、複数の舵4に故障が発生していないことが事前に確認された環境をいい、複数の舵4の正常性が未確認の運用環境下とは、複数の舵4に故障が発生しているか否かが不明な環境をいう。故障検知部17は、舵4の故障を検知すると、舵4に故障が発生したことを示す故障検知情報を補正部18に出力する。故障検知部17による舵4の故障検知方法の詳細は後述する。
【0048】
補正部18は、故障検知部17から故障検知情報を受け取ると、複数の舵4の舵角を補正する。補正部18は、複数の舵4の一つに故障が発生した場合に、複数の舵4の舵角を補正することにより、海底探査等のミッションの継続を可能にする。なお、補正部18による複数の舵4の舵角の補正方法の詳細は後述する。なお、アクチュエータ制御部16は、故障検知部17から故障検知情報が出力されたときに、海底探査等のミッションを中止し、水中航走体1を浮上させてもよい。この場合には、水中航走体1の制御装置10は、補正部18を備えていなくてもよい。
【0049】
(第1実施形態)
次に、第1実施形態に係る舵の故障検知方法について説明すると共に、制御装置10の機能の詳細について説明する。以下に説明する故障検知方法は、図2に示す水中航走体1を用いて実行される。図3は、第1実施形態に係る故障検知方法MT1を示すフローチャートである。この方法MT1は、左右一対の舵4l,4rの一方の舵4が正常に動作せず、その舵角が一定の角度で固定された状態にあることを検知する方法である。
【0050】
故障検知方法MT1では、まず準備ステップST11が行われる。準備ステップST11は、水中航走体1の正常時の運動情報を取得するためのステップである。準備ステップST11は、ステップST101~ST106を含む。これらステップST101~ST106は、複数の舵4の正常性が確認された試験環境下で行われる。
【0051】
準備ステップST11では、まず試験環境下で水中航走体1を特定のピッチ角で航走させる(ステップST101)。特定のピッチ角は、水中航走体1を潜航させるピッチ角度、水中航走体1を水平航走させるピッチ角度、又は、水中航走体1を浮上させるピッチ角度であってもよい。
【0052】
次に、制御装置10の姿勢情報取得部13は、特定のピッチ角で直進航走する水中航走体1のロール角(第1ロール角)Φを取得する(ステップST102)(第1ステップ)。姿勢情報取得部13は、取得されたロール角Φを特定のピッチ角と関連付けて記憶部15に保存する。次に、制御装置10の舵角取得部14は、特定のピッチ角で航走する水中航走体1の左右一対の舵4l,4rの舵角δl1,δr1を取得する(ステップST103)。舵角取得部14は、取得された舵角δl1,δr1を特定のピッチ角と関連付けて記憶部15に保存する。このとき、舵角取得部14は、左右一対の舵4l,4rの舵角δl1,δr1と共に、上下一対の舵4u,4dの舵角δu1,δd1を取得してもよい。
【0053】
次に、制御装置10のアクチュエータ制御部16が、上下一対の舵4u,4dの舵角をδa1,-δa1にそれぞれ設定する(ステップST104)。すなわち、上下一対の舵4u,4dは、水中航走体1の進行方向を基準として互いに逆方向に操舵される。次に、アクチュエータ制御部16が、δa1を一定角度ずつ変化させる(ステップST105)。例えば、アクチュエータ制御部16は、上下一対の舵4u,4dの舵角(δa1,-δa1)を(25°,-25°)、(20°,-20°)、(15°,-15°)、(10°,-10°)、(5°,-5°)と5°ずつ変化させる。このとき、故障検知部17は、上下一対の舵4u,4dの舵角毎に水中航走体1のロール角を取得し、舵角δa1と水中航走体1のロール角との関係を示す第1相関データを生成する(ステップST106)。生成された第1相関データは記憶部15に記憶される。
【0054】
準備ステップST11が終了すると、検知ステップST12が行われる。検知ステップST12は、水中航走体1の舵4の故障を検知すると共に、舵4の故障が検知されたときに複数の舵4の舵角を補正する。検知ステップST12は、後述するステップST107~ST113を含む。ステップST107~ST113は、複数の舵4の正常性が未確認の運用環境下で行われる。
【0055】
検知ステップST12では、まず運用環境下で水中航走体1を特定のピッチ角で直進航走させる(ステップST107)。この特定のピッチ角は、ステップST101で航走した水中航走体1のピッチ角と同じ角度である。次に、制御装置10の姿勢情報取得部13は、特定のピッチ角で航走する水中航走体1のロール角(第3ロール角)Φを取得する(ステップST108)(第2ステップ)。姿勢情報取得部13は、取得されたロール角Φを特定のピッチ角と関連付けて記憶部15に保存する。次に、制御装置10の舵角取得部14は、特定のピッチ角で航走する水中航走体1の左右一対の舵4l,4rの舵角δl2,δr2を取得する(ステップST109)。舵角取得部14は、取得された舵角δl2,δr2を特定のピッチ角と関連付けて記憶部15に保存する。このとき、舵角取得部14は、左右一対の舵4l,4rの舵角δl2,δr2と共に、上下一対の舵4u,4dの舵角δu2,δd2を取得してもよい。
【0056】
次に、故障検知部17は、試験環境下で計測されたロール角Φと運用環境下で計測されたロール角Φとの差(|Φ-Φ|)が所定の閾値(第1閾値)よりも大きいか否かを判定する(ステップST110)。試験環境下で計測されたロール角Φと運用環境下で計測されたロール角Φとの差が所定の閾値よりも大きい場合には、左右一対の舵4l,4rのうち一方の舵の舵角が固定された状態である可能性が高い。そこで、故障検知部17は、|Φ-Φ|が所定の閾値よりも大きい場合には、左右一対の舵4l,4rのうち一方の舵に故障が発生したと判定し、故障検知情報を出力する(ステップST111)(第3ステップ)。
【0057】
なお、一実施形態では、故障検知部17は、水平航走時、潜航時又は浮上時の水中航走体1のロール角Φ及び左右一対の舵4l,4rの舵角δl2,δr2の舵角が一定値に安定しており、且つ、|Φ-Φ|が所定の閾値よりも大きい場合に、左右一対の舵4l,4rのうち一方の舵に故障が発生したと判定してもよい。一方、|Φ-Φ|が所定の閾値以下である場合には、左右一対の舵4l,4rには故障が発生していないと判定され、一連の処理が終了される。
【0058】
補正部18は、故障検知部17から故障検知情報を受け取ると、ステップST106で生成された第1相関データを使用して、試験環境下で計測されたロール角Φと運用環境下で計測されたロール角Φとの差を小さくする上下一対の舵4u,4dの補正舵角δc1を決定する(ステップST112)。すなわち、アクチュエータ制御部16は、上下一対の舵4u,4dの舵角δa1と水中航走体1のロール角との関係を示す第1相関データから、ロール角Φとロール角Φとの差を打ち消すようなロール角を発生させる舵角δa1を取得し、取得したδa1を補正舵角δc1として決定する。
【0059】
次に、補正部18は、決定された補正舵角δc1に基づいて上下一対の舵4u,4dの舵角を補正する(ステップST113)。例えば、補正部18は、アクチュエータ制御部16によって決定された上下一対の舵4u,4dの舵角δu2,δd2に補正舵角δc1を足し合わせ、上下一対の舵4u,4dの舵角をそれぞれ(δu2+δc1),(δd2-δc1)に補正する。このように上下一対の舵4u,4dの舵角を補正することにより、ロール角Φとロール角Φとの差を打ち消すようなモーメントが水中航走体1に発生し、水中航走体1のロール角Φが、正常時の水中航走体1のロール角Φに近づけられる。このように水中航走体1のロール角を補正することにより、海底探査等のミッションを継続して行うことが可能となる。
【0060】
上述のように、この方法MT1では、試験環境下で計測されたロール角Φと運用環境下で計測されたロール角Φと差が所定の閾値よりも大きいときに、左右一対の舵4l,4rのうち一方の舵に故障が発生したと判定しているので、舵4の舵角が固定されたことを検知することができる。また、この方法MT1では、試験環境下で計測されたロール角Φと運用環境下で計測されたロール角Φと差に基づいて水中航走体1の舵4の故障を検知しているので、舵角取得部14によって取得された複数の舵4の舵角の計測値が不正確な場合であっても舵の故障を検知することができる。
【0061】
なお、方法MT1では、故障検知部17によって舵の故障が検知された場合に、補正部18によって上下一対の舵4u,4dの舵角が補正されているが、一実施形態では、舵4の故障が検知された場合には、上下一対の舵4u,4dの舵角を補正せずに、水中航走体1の運用を中止し、水中航走体1を浮上させてもよい。この場合には、舵角の補正に関連する処理、具体的には、ステップST103~ST106、ステップST109、ステップST112及びステップST113は行われなくてもよい。
【0062】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る舵の故障検知方法について説明すると共に、制御装置10の機能の詳細について説明する。図4は、第2実施形態に係る故障検知方法MT2を示すフローチャートである。この方法MT2は、上下一対の舵4u,4dの一方の舵が正常に動作せず、その舵角が一定の角度で固定された状態にあることを検知する方法である。
【0063】
故障検知方法MT2では、まず準備ステップST21が行われる。準備ステップST21は、水中航走体1の正常時の運動情報を取得するためのステップである。準備ステップST21は、ステップST201~ST206を含む。ステップST201~ST206は、複数の舵4の正常性が確認された試験環境下で行われる。
【0064】
準備ステップST21では、まず試験環境下で水中航走体1を特定のヨー角で航走させる(ステップST201)。特定のヨー角は、水中航走体1を右旋回させるヨー角度、水中航走体1を左旋回させるヨー角度、又は、水中航走体1を直進航走させるヨー角度である。
【0065】
次に、制御装置10の姿勢情報取得部13は、特定のヨー角で航走する水中航走体1のロール角(第2ロール角)Φを取得する(ステップST202)(第1ステップ)。姿勢情報取得部13は、取得されたロール角Φを特定のヨー角と関連付けて記憶部15に保存する。次に、制御装置10の舵角取得部14は、特定のヨー角で航走する水中航走体1の上下一対の舵4u,4dの舵角δu1,δd1を取得する(ステップST203)。舵角取得部14は、取得された舵角δu1,δd1を特定のヨー角と関連付けて記憶部15に保存する。このとき、舵角取得部14は、上下一対の舵4u,4dの舵角δu1,δd1と共に、左右一対の舵4l,4rの舵角δl1,δr1を取得してもよい。
【0066】
次に、制御装置10のアクチュエータ制御部16が、左右一対の舵4l,4rの舵角をδa2,-δa2にそれぞれ設定する(ステップST204)。すなわち、左右一対の舵4l,4rは、水中航走体1の進行方向を基準として互いに逆方向に操舵される。次に、アクチュエータ制御部16が、δa2を一定角度ずつ変化させる(ステップST205)。例えば、アクチュエータ制御部16は、左右一対の舵4l,4rの舵角(δa2,-δa2)を(25°,-25°)、(20°,-20°)、(15°,-15°)、(10°,-10°)、(5°,-5°)と5°ずつ変化させる。このとき、故障検知部17は、左右一対の舵4l,4rの舵角毎に水中航走体1のロール角を取得し、舵角δa2と水中航走体1のロール角との関係を示す第2相関データを生成する(ステップST206)。生成された第2相関データは記憶部15に記憶される。
【0067】
準備ステップST21が終了すると、検知ステップST22が行われる。検知ステップST22は、水中航走体1の舵の故障を検知すると共に、故障が検知されたときに複数の舵4の舵角を補正する。検知ステップST22は、後述するステップST207~ST213を含む。ステップST207~ST213は、複数の舵4の正常性が未確認の運用環境下で行われる。
【0068】
検知ステップST22では、まず運用環境下で水中航走体1を特定のヨー角で航走させる(ステップST207)。この特定のヨー角は、ステップST201で航走した水中航走体1のヨー角と同じ角度である。次に、制御装置10の姿勢情報取得部13は、特定のヨー角で航走する水中航走体1のロール角(第4ロール角)Φを取得する(ステップST208)。姿勢情報取得部13は、取得されたロール角Φを特定のヨー角と関連付けて記憶部15に保存する。次に、制御装置10の舵角取得部14は、特定のヨー角で航走する水中航走体1の上下一対の舵4u,4dの舵角δu2,δd2を取得する(ステップST209)。舵角取得部14は、取得された舵角δu2,δd2を特定のヨー角と関連付けて記憶部15に保存する。このとき、舵角取得部14は、上下一対の舵4u,4dの舵角δu2,δd2と共に、左右一対の舵4l,4rの舵角δl2,δr2を取得してもよい。
【0069】
次に、故障検知部17は、試験環境下で計測されたロール角Φと運用環境下で計測されたロール角Φとの差(|Φ-Φ|)が所定の閾値(第2閾値)よりも大きいか否かを判定する(ステップST210)。試験環境下で計測されたロール角Φと運用環境下で計測されたロール角Φとの差が所定の閾値よりも大きい場合には、上下一対の舵4u,4dのうち一方の舵が固定された状態である可能性が高い。そこで、故障検知部17は、|Φ-Φ|が所定の閾値よりも大きい場合には、上下一対の舵4u,4dのうち一方の舵に故障が発生したと判定し、故障検知情報を出力する(ステップST211)。
【0070】
なお、一実施形態では、故障検知部17は、水平航走時、潜航時又は浮上時の水中航走体1のロール角Φ及び上下一対の舵4u,4dの舵角δu2,δd2の舵角が一定値に安定しており、且つ、|Φ-Φ|が所定の閾値よりも大きい場合に、上下一対の舵4u,4dのうち一方の舵に故障が発生したと判定してもよい。一方、|Φ-Φ|が所定の閾値以下である場合には、上下一対の舵4u,4dには故障が発生していないと判定され、一連の処理が終了される。
【0071】
補正部18は、故障検知部17から故障検知情報を受け取ると、ステップST206で生成された第2相関データを使用して、試験環境下で計測されたロール角Φと運用環境下で計測されたロール角Φとの差を小さくする左右一対の舵4l,4rの補正舵角δc2を決定する(ステップST212)。すなわち、アクチュエータ制御部16は、左右一対の舵4l,4rの舵角δa2と水中航走体1のロール角との関係を示す第2相関データから、ロール角Φとロール角Φとの差を打ち消す舵角δa2を取得し、取得した舵角δa2を補正舵角δc2として決定する。
【0072】
次に、補正部18は、決定された補正舵角δc2に基づいて左右一対の舵4l,4rの舵角を補正する(ステップST213)。例えば、補正部18は、アクチュエータ制御部16によって決定された左右一対の舵4l,4rの舵角δl2,δr2に補正舵角δc2を足し合わせ、左右一対の舵4l,4rの舵角をそれぞれ(δl2+δc2),(δr2-δc2)に補正する。このように左右一対の舵4l,4rの舵角を補正することにより、水中航走体1にロール角Φとロール角Φとの差を打ち消すようなX軸周りのモーメントが発生し、水中航走体1のロール角Φが、正常時の水中航走体1のロール角Φに近づけられる。このように水中航走体1のロール角を補正することにより、海底探査等のミッションを継続して行うことが可能となる。
【0073】
上述のように、この方法MT2では、試験環境下で計測されたロール角Φと運用環境下で計測されたロール角Φと差が所定の閾値よりも大きいときに、上下一対の舵4u,4dのうち一方の舵に故障が発生したと判定しているので、舵4の舵角が固定されたことを検知することができる。また、この方法MT2では、試験環境下で計測されたロール角Φと運用環境下で計測されたロール角Φと差に基づいて水中航走体1の舵4の故障を検知しているので、舵角取得部14によって取得された複数の舵4の舵角の計測値が不正確な場合であっても舵4の故障を検知することができる。
【0074】
なお、方法MT2では、故障検知部17によって舵4の故障が検知された場合に、補正部18によって左右一対の舵4l,4rの舵角が補正されているが、一実施形態では、舵の故障が検知された場合には、左右一対の舵4l,4rの舵角を補正せずに、水中航走体1の運用を中止し、水中航走体1を浮上させてもよい。この場合には、舵角の補正に関連する処理、具体的には、ステップST203~ST206、ステップST209、ステップST212及びステップST213は行われなくてもよい。
【0075】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態に係る舵の故障検知方法について説明すると共に、制御装置10の機能の詳細について説明する。図5は、第3実施形態に係る故障検知方法MT3を示すフローチャートである。この方法MT3は、左右一対の舵4l,4rにオフセット角度が存在することを検知する方法である。オフセット角度とは、舵4の指令舵角と実際の舵角との角度ずれを意味する。
【0076】
故障検知方法MT3では、まず準備ステップST31が行われる。準備ステップST31は、水中航走体1の正常時の運動情報を取得するためのステップである。準備ステップST31は、ステップST301~ST306を含む。ステップST301~ST306は、複数の舵4の正常性が確認された試験環境下で行われる。
【0077】
準備ステップST31では、まず試験環境下で水中航走体1を水平直進航走させる(ステップST301)。一実施形態では、水中航走体1を水平直進航走させるために、水中航走体1のピッチ角及びヨー角が特定の角度(例えば0°)に設定される。
【0078】
次に、制御装置10の姿勢情報取得部13が、水平直進航走する水中航走体1のロール角(第1ロール角)Φを取得する(ステップST302)。姿勢情報取得部13は、取得されたロール角Φを記憶部15に保存する。次に、制御装置10の舵角取得部14は、水平直進航走する水中航走体1の左右一対の舵4l,4rの舵角δl1,δr1を取得する(ステップST303)。舵角取得部14は、左右一対の舵4l,4rの舵角δl1,δr1を記憶部15に保存する。
【0079】
次に、アクチュエータ制御部16が、水平直進航走する水中航走体1の左舵4lの舵角を角度δb1だけ減少させ、右舵4rの舵角を角度δb1だけ増加させる(ステップST304)。すなわち、左舵4lの舵角を(δl1-δb1)に設定し、右舵4rの舵角を(δr1+δb1)に設定する。次に、姿勢情報取得部13は、左右一対の舵4l,4rの舵角の変化に伴って変化する水中航走体1のロール角(第3ロール角)Φを計測する(ステップST305)。そして、故障検知部17は、下記式(1)に従って、ロール角の変化量ΔΦを算出する(ステップST306)。
【0080】
ΔΦ=Φ-Φ …(1)
【0081】
次に、故障検知部17は、下記式(2)に基づいて、角度差1°あたりのロール角の変化量Φを算出する。算出されたΦは記憶部15に保存される。
【0082】
Φ=ΔΦ/2δb1 …(2)
【0083】
準備ステップST31が終了すると、検知ステップST32が行われる。検知ステップST32は、水中航走体1の故障を検知すると共に、故障が検知されたときに複数の舵4の舵角を補正する。検知ステップST32は、後述するステップST307~ST313を含む。ステップST307~ST313は、複数の舵4の正常性が未確認の運用環境下で行われる。
【0084】
検知ステップST32では、まず運用環境下で水中航走体1を水平直進航走させる(ステップST307)。次に、制御装置10の姿勢情報取得部13は、水平直進航走する水中航走体1のロール角(第2ロール角)Φを取得する(ステップST308)。姿勢情報取得部13、取得されたロール角Φを記憶部15に保存する。次に、制御装置10の舵角取得部14は、水平直進航走する水中航走体1の左右一対の舵4l,4rの舵角δl2,δr2を取得(ステップST309)する。舵角取得部14は、取得された舵角δl2,δr2を記憶部15に保存する。このとき、舵角取得部14は、左右一対の舵4l,4rの舵角δl2,δr2に加えて、上下一対の舵4u,4dの舵角δu2,δd2を取得してもよい。
【0085】
次に、故障検知部17が、以下の条件1又は条件2を満たすか否かを判定する(ステップST310)。
条件1:(Φ-Φ)が第1閾値TH1より大きい
条件2:(δl2-δl1)+(δr2-δr1)が第2閾値TH2より大きい
【0086】
条件1又は条件2を満たす場合には、左右一対の舵4l,4rにオフセット角度が存在する可能性が高い。そこで、条件1又は条件2を満たす場合には、故障検知部17は、左右一対の舵4l,4rのうち一方の舵に故障が発生したと判定し、故障検知情報を出力する(ステップST311)。なお、一実施形態では、故障検知部17は、条件1及び条件2の双方を満たすときに左右一対の舵4l,4rのうち一方の舵に故障が発生したと判定してもよい。一方、条件1又は条件2が成立しない場合には、左右一対の舵4l,4rには故障が発生していないと判定され、一連の処理が終了される。
【0087】
補正部18は、故障検知情報を受け取ると、左右一対の舵4l,4rのオフセット角度Δδ,Δδを算出する(ステップST312)。左右一対の舵4l,4rのオフセット角度Δδ,Δδは、下記式(3)及び(4)から算出される。
【0088】
Δδ=(B-A)/2 …(3)
Δδ=(B+A)/2 …(4)
【0089】
なお、式(3)及び(4)中のA及びBは、下記式(5)及び(6)のように定義される。したがって、オフセット角度は、ロール角Φ、ロール角Φ、ロール角Φ、試験環境下で計測された左右一対の舵4l,4rの舵角δl1,δr1、運用環境下で計測された左右一対の舵4l,4rの舵角δl2,δr2、及び、角度δb1に基づいて算出される。
【0090】
A=Δδ-Δδ=(Φ-Φ)/Φ …(5)
B=Δδ+Δδ=-{(δl2-δl1)+(δr2-δr1)} …(6)
【0091】
次に、補正部18は、左右一対の舵4l,4rの舵角をオフセット角度Δδ,Δδに基づいて補正する(ステップST313)。例えば、補正部18は、左右一対の舵4l,4rの舵角をオフセット角度Δδ,Δδだけ減少させる。すなわち、補正後の左右一対の舵4l,4rの舵角δl3,δr3は、下記式(7)及び(8)のように表される。
【0092】
δl3=δl2-Δδ …(7)
δr3=δr2-Δδ …(8)
【0093】
上述のように、この方法MT3では、(Φ-Φ)が第1閾値TH1より大きい場合、又は、(δl2-δl1)+(δr2-δr1)が第2閾値TH2より大きい場合に、左右一対の舵4l,4rのうち一方の舵に故障が発生したと判定しているので、左右一対の舵にオフセット角度が存在することを検知することができる。また、オフセット角度Δδ,Δδに基づいて左右一対の舵4l,4rを補正することにより、左右一対の舵4l,4rの実際の舵角を所望の舵角に近づけることができる。その結果、左右一対の舵4l,4rに故障が発生した場合であっても、水中航走体1の運用を継続することが可能となる。
【0094】
なお、方法MT3では、故障検知部17によって舵の故障が検知された場合に、補正部18によって左右一対の舵4l,4rの舵角が補正されているが、一実施形態では、舵の故障が検知された場合には、左右一対の舵4l,4rの舵角を補正せずに、水中航走体1の運用を中止し、水中航走体1を浮上させてもよい。この場合には、舵角の補正に関連する処理、具体的には、ステップST304~ST306、ステップST312、及びステップST313は行われなくてもよい。
【0095】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態に係る舵の故障検知方法について説明すると共に、制御装置10の機能の詳細について説明する。図6は、第4実施形態に係る故障検知方法MT4を示すフローチャートである。この方法MT4は、上下一対の舵4u,4dにオフセット角度が存在することを検知する方法である。
【0096】
故障検知方法MT4では、まず準備ステップST41が行われる。準備ステップST41は、水中航走体1の正常時の運動情報を取得するためのステップである。準備ステップST41は、ステップST401~ST406を含む。ステップST401~ST406は、複数の舵4の正常性が確認された試験環境下で行われる。
【0097】
準備ステップST41では、まず試験環境下で水中航走体1を水平直進航走させる(ステップST401)。一実施形態では、水中航走体1を水平直進航走させるために、水中航走体1のピッチ角及びヨー角が特定の角度(例えば0°)に設定される。
【0098】
次に、制御装置10の姿勢情報取得部13が、水平直進航走する水中航走体1のロール角(第1ロール角)Φを取得する(ステップST402)。姿勢情報取得部13は、取得されたロール角Φを記憶部15に保存する。次に、制御装置10の舵角取得部14は、水平直進航走する水中航走体1の上下一対の舵4u,4dの舵角δu1,δd1を取得する(ステップST403)。舵角取得部14は、上下一対の舵4u,4dの舵角δu1,δd1を記憶部15に保存する。
【0099】
次に、アクチュエータ制御部16が、水平直進航走する水中航走体1の上舵4uの舵角をδb2だけ減少させ、下舵4dの舵角をδb2だけ増加させる(ステップST404)。すなわち、上舵4uの舵角を(δu1-δb2)に設定し、下舵4dの舵角を(δd1+δb2)に設定する。次に、姿勢情報取得部13は、上下一対の舵4u,4dの舵角に伴って変化する水中航走体1のロール角Φ(第4ロール角)を計測する(ステップST405)。そして、故障検知部17は、下記式(9)に従って、ロール角の変化量ΔΦを算出する(ステップST406)。
【0100】
ΔΦ=Φ-Φ …(9)
【0101】
次に、故障検知部17は、下記式(10)に基づいて、角度差1°あたりのロール角の変化量Φを算出する。算出されたΦは記憶部15に保存される。
【0102】
Φ=ΔΦ/2δb2 …(10)
【0103】
準備ステップST41が終了すると、検知ステップST42が行われる。検知ステップST42は、水中航走体1の故障を検知すると共に、故障が検知されたときに複数の舵4の舵角を補正する。検知ステップST42は、後述するステップST407~ST413を含む。ステップST407~ST413は、複数の舵4の正常性が未確認の運用環境下で行われる。
【0104】
検知ステップST42では、まず運用環境下で水中航走体1を水平直進航走させる(ステップST407)。次に、制御装置10の姿勢情報取得部13は、水平直進航走する水中航走体1のロール角(第2ロール角)Φを取得する(ステップST408)。姿勢情報取得部13は、取得されたロール角Φを記憶部15に保存する。次に、制御装置10の舵角取得部14は、水平直進航走する水中航走体1の上下一対の舵4u,4dの舵角δu2,δd2を取得する(ステップST409)。舵角取得部14は、、取得された舵角δu2,δd2を記憶部15に保存する。このとき、舵角取得部14は、上下一対の舵4u,4dの舵角δu2,δd2に加えて、左右一対の舵4l,4rの舵角δl2,δr2を取得してもよい。
【0105】
次に、故障検知部17が、以下の条件1又は条件2を満たすか否かを判定する(ステップST410)。
条件1:(Φ-Φ)が第1閾値TH1より大きい
条件2:(δu2-δu1)+(δd2-δd1)が第3閾値TH3より大きい
【0106】
条件1又は条件2を満たす場合には、上下一対の舵4u,4dにオフセット角度が存在する可能性が高い。そこで、条件1又は条件2を満たす場合には、故障検知部17は、上下一対の舵4u,4dのうち一方の舵に故障が発生したと判定し、故障検知情報を出力する(ステップST411)。なお、一実施形態では、故障検知部17は、条件1及び条件2の双方を満たすときに上下一対の舵4u,4dのうち一方の舵に故障が発生したと判定してもよい。一方、条件1又は条件2が成立しない場合には、上下一対の舵4u,4dには故障が発生していないと判定され、一連の処理が終了される。
【0107】
補正部18は、故障検知情報を受け取ると、上下一対の舵4u,4dのオフセット角度Δδ,Δδを算出する(ステップST412)。上下一対の舵4u,4dのオフセット角度Δδ,Δδは、下記式(11)及び(12)から算出される。
【0108】
Δδ=(B-A)/2 …(11)
Δδ=(B+A)/2 …(12)
【0109】
なお、式(11)及び(12)中のA及びBは、下記式(13)及び(14)のように定義される。したがって、オフセット角度は、ロール角Φ、ロール角Φ、ロール角Φ、試験環境下で計測された上下一対の舵4u,4dの舵角δu1,δd1、運用環境下で計測された上下一対の舵4u,4dの舵角δu2,δd2、及び、角度δb2に基づいて算出される。
【0110】
A=Δδ-Δδ=(Φ-Φ)/Φ …(13)
B=Δδ+Δδ=-{(δu2-δu1)+(δd2-δd1)} …(14)
【0111】
次に、補正部18は、上下一対の舵4u,4dの舵角をオフセット角度Δδ,Δδに基づいて補正する(ステップST413)。例えば、補正部18は、上下一対の舵4u,4dの舵角をオフセット角度Δδ,Δδだけ減少させる。すなわち、補正後の上下一対の舵4u,4dの舵角δu3,δd3は、下記式(15)及び(16)のように表される。
【0112】
δu3=δu2-Δδ …(15)
δd3=δd2-Δδ …(16)
【0113】
上述のように、この方法MT4では、(Φ-Φ)が第1閾値TH1より大きい場合、又は、(δu2-δu1)+(δd2-δd1)が第2閾値TH2より大きい場合に、上下一対の舵4u,4dのうち一方の舵に故障が発生したと判定しているので、上下一対の舵4u,4dにオフセット角度が存在することを検知することができる。また、オフセット角度Δδ,Δδに基づいて上下一対の舵4u,4dを補正することにより、上下一対の舵4u,4dの実際の舵角を所望の舵角に近づけることができる。その結果、上下一対の舵4u,4dに故障が発生した場合であっても、水中航走体1の運用を継続することが可能となる。
【0114】
なお、方法MT4では、故障検知部17によって舵の故障が検知された場合に、補正部18によって上下一対の舵4u,4dの舵角が補正されているが、一実施形態では、舵の故障が検知された場合には、上下一対の舵4u,4dの舵角を補正せずに、水中航走体1の運用を中止し、水中航走体1を浮上させてもよい。この場合には、舵角の補正に関連する処理、具体的には、ステップST404~ST406、ステップST412、及びステップST413は行われなくてもよい。
【0115】
(第5実施形態)
次に、第5実施形態に係る舵の故障検知方法について説明する。図7は、第5実施形態に係る故障検知方法MT5を示すフローチャートである。この方法MT5は、左右一対の舵4l,4rの一方の舵本体41に欠け等の損傷が発生したことを検知する方法である。
【0116】
方法MT5では、まず準備ステップST51が行われる。準備ステップST51は、水中航走体1の正常時の運動情報を取得するためのステップである。準備ステップST51は、ステップST501~ST506を含む。ステップST501~ST506は、複数の舵4の正常性が確認された試験環境下で行われる。
【0117】
準備ステップST51では、まず試験環境下で水中航走体1を特定のピッチ角で直進航走させる(ステップST501)。特定のピッチ角は、水中航走体1を潜航させるピッチ角度、水中航走体1を水平航走させるピッチ角度、又は、水中航走体1を浮上させるピッチ角度であってもよい。
【0118】
次に、制御装置10の舵角取得部14は、特定のピッチ角で航走する水中航走体1の左右一対の舵4l,4rの舵角δl1,δr1を取得する(ステップST502)。舵角取得部14は、取得した舵角δl1,δr1を記憶部15に保存する。
【0119】
次に、故障検知部17が、水中航走体1を水平直進航走させた状態で左舵4lの舵角を一時的にΔδだけ増加させる(ステップST503)。例えば、故障検知部17は、左舵4lの舵角を瞬間的にδl1+Δδに切り増した後、左舵4lの舵角をδl1に戻す。その間、右舵4rの舵角はδr1に維持される。左舵4lの舵角が一時的に増加することにより、水中航走体1にはY軸周りのモーメントが発生する。次に、故障検知部17は、左舵4lの舵角の変化に伴って生じる水中航走体1の最大ピッチ角加速度αl0を計測する(ステップST504)。
【0120】
次に、故障検知部17が、水中航走体1を水平直進航走させた状態で右舵4rの舵角を一時的にΔδだけ増加させる(ステップST505)。例えば、故障検知部17は、右舵4rの舵角を瞬間的にδr1+Δδに切り増した後、舵角をδr1に戻す。その間、左舵4lの舵角はδl1に維持される。右舵4rの舵角が一時的に増加することにより、水中航走体1にはY軸周りのモーメントが発生する。次に、故障検知部17は、右舵4rの舵角の変化に伴って生じる水中航走体1の最大ピッチ角加速度αr0を計測する(ステップST506)。
【0121】
準備ステップST51が終了すると、検知ステップST52が行われる。検知ステップST52は、水中航走体1の故障を検知すると共に、故障が検知されたときに複数の舵4の舵角を補正する。検知ステップST52は、後述するステップST507~ST515を含む。ステップST507~ST515は、複数の舵4の正常性が未確認の運用環境下で行われる。
【0122】
検知ステップST52では、まず運用環境下で水中航走体1を特定のピッチ角で直進航走させる(ステップST507)。次に、制御装置10の舵角取得部14は、特定のピッチ角で航走する水中航走体1の左右一対の舵4l,4rの舵角δl2,δr2を取得する(ステップST508)。舵角取得部14は、取得された舵角δl2,δr2を記憶部15に保存する。このとき、舵角取得部14は、左右一対の舵4l,4rの舵角δl2,δr2に加えて、上下一対の舵4u,4dの舵角δu2,δd2を取得してもよい。
【0123】
次に、故障検知部17が、(δl2-δl1)-(δr2-δr1)が第3閾値TH3より大きいか否かを判定する(ステップST509)。(δl2-δl1)-(δr2-δr1)が第3閾値TH3より大きい場合には、左右一対の舵4l,4rの一方の舵本体41に欠け等の損傷が発生し、舵本体41が舵角に応じた舵揚力を発生できない状態である可能性が高い。そこで、故障検知部17は、(δl2-δl1)-(δr2-δr1)が第3閾値TH3より大きい場合には、左右一対の舵4l,4rのうち一方の舵に故障が発生したと判定し、故障検知情報を出力する(ステップST510)。一方、(δl2-δl1)-(δr2-δr1)が第3閾値TH3以下である場合には、左右一対の舵4l,4rに故障が発生していないと判定され、一連の処理が終了される。
【0124】
補正部18は、左右一対の舵4l,4rの故障を検知すると、左舵4lの舵角を一時的にΔδだけ増加させる(ステップST511)。次に、故障検知部17は、左舵4lの舵角の変化に伴って生じる水中航走体1の最大ピッチ角加速度αl1を計測する(ステップST512)。
【0125】
次に、補正部18は、右舵4rの舵角を一時的にΔδだけ増加させる(ステップST513)。次に、故障検知部17は、右舵4rの舵角の変化に伴って生じる水中航走体1の最大ピッチ角加速度αr1を計測する(ステップST514)。
【0126】
次に、補正部18は、試験環境下で計測された最大ピッチ角加速度αl0,αr0と、運用環境下で計測された最大ピッチ角加速度αl1,αr1とに基づいて、左右一対の舵4l,4rの舵角を補正する。左右一対の舵4l,4rの補正前の舵角をδl2,δr2とし、補正後の舵角をδlc,δrcとした場合には、例えば左右一対の舵4l,4rの舵力が舵角に比例すると仮定すると、補正後の舵角δlc,δrcは、下記式(17)及び(18)に従って求められる。
【0127】
δlc=δl2/k …(17)
δrc=δr2/k …(18)
【0128】
ここで、式(17)及び(18)中のk,kは、式(19)及び(20)のように定義される。
=αl1/αl0 …(19)
=αr1/αr0 …(20)
【0129】
なお、補正部18は、式(17)及び(18)に代えて、下記式(21)及び(22)に従って、補正後の舵角δlc,δrcを算出してもよい。
【0130】
δlc=asin(2sin(δl2)・cos(δl2)/k)/2 …(21)
δrc=asin(2sin(δr2)・cos(δr2)/k)/2 …(22)
【0131】
上述のように、この方法MT5では、(δl2-δl1)-(δr2-δr1)が第3閾値TH3より大きいときに、左右一対の舵4l,4rのうち一方の舵に故障が発生したと判定しているので、左右一対の舵4l,4rに欠け等の損傷が発生したことを検知することができる。また、試験環境下で計測された最大ピッチ角加速度αl0,αr0と、運用環境下で計測された最大ピッチ角加速度αl1,αr1とに基づいて、左右一対の舵4l,4rを補正することにより、左右一対の舵4l,4rに損傷が発生して舵揚力が減少した場合であっても、左右一対の舵4l,4rの舵揚力を正常時の舵揚力に近づけることができる。その結果、左右一対の舵4l,4rに故障が発生した場合であっても、水中航走体1の運用を継続することが可能となる。
【0132】
なお、方法MT5では、故障検知部17によって舵の故障が検知された場合に、補正部18によって左右一対の舵4l,4rの舵角が補正されているが、一実施形態では、舵の故障が検知された場合には、左右一対の舵4l,4rの舵角を補正せずに、水中航走体1の運用を中止し、水中航走体1を浮上させてもよい。この場合には、舵角の補正に関連する処理、具体的には、ステップST503~ST506、及び、ステップST511~ST515は行われなくてもよい。
【0133】
(第6実施形態)
次に、第6実施形態に係る舵の故障検知方法について説明する。図8は、第6実施形態に係る故障検知方法MT6を示すフローチャートである。この方法MT6は、上下一対の舵4u,4dの一方の舵本体41に欠け等の損傷が発生したことを検知する。
【0134】
方法MT6では、まず準備ステップST61が行われる。準備ステップST61は、水中航走体1の正常時の運動情報を取得するためのステップである。準備ステップST61は、ステップST601~ST606を含む。ステップST601~ST606は、複数の舵4の正常性が確認された試験環境下で行われる。
【0135】
準備ステップST61では、まず試験環境下で水中航走体1を特定のヨー角で直進航走させる(ステップST601)。特定のヨー角は、水中航走体1を潜航されるヨー角度、水中航走体1を水平航走させるヨー角度、又は、水中航走体1を浮上させるヨー角度であってもよい。
【0136】
次に、制御装置10の舵角取得部14は、特定のヨー角で航走する水中航走体1の上下一対の舵4u,4dの舵角δu1,δd1を取得する(ステップST602)。舵角取得部14は、取得した舵角δu1,δd1を記憶部15に保存する。
【0137】
次に、故障検知部17が、水中航走体1を水平直進航走させた状態で上舵4uの舵角を一時的にΔδだけ増加させる(ステップST603)。例えば、故障検知部17は、上舵4uの舵角を瞬間的にδu1+Δδに切り増した後、上舵4uの舵角をδu1に戻す。その間、下舵4dの舵角はδd1に維持される。上舵4uの舵角が一時的に増加することにより、水中航走体1にはZ軸周りのモーメントが発生する。次に、故障検知部17は、上舵4uの舵角の変化に伴って生じる水中航走体1の最大ヨー角加速度αu0を計測する(ステップST604)。
【0138】
次に、故障検知部17が、水中航走体1を水平直進航走させた状態で下舵4dの舵角を一時的にΔδだけ増加させる(ステップST605)。例えば、故障検知部17は、下舵4dの舵角を瞬間的にδd1+Δδに切り増した後、舵角をδd1に戻す。その間、上舵4uの舵角はδu1に維持される。下舵4dの舵角が一時的に増加することにより、水中航走体1にはZ軸周りのモーメントが発生する。次に、故障検知部17は、下舵4dの舵角の変化に伴って生じる水中航走体1の最大ヨー角加速度αd0を計測する(ステップST606)。
【0139】
準備ステップST61が終了すると、検知ステップST62が行われる。検知ステップST62は、水中航走体1の故障を検知すると共に、故障が検知されたときに複数の舵4の舵角を補正する。検知ステップST62は、後述するステップST607~ST615を含む。ステップST607~ST615は、複数の舵4の正常性が未確認の運用環境下で行われる。
【0140】
検知ステップST62では、まず運用環境下で水中航走体1を特定のヨー角で直進航走させる(ステップST607)。次に、制御装置10の舵角取得部14は、特定のヨー角で航走する水中航走体1の上下一対の舵4u,4dの舵角δu2,δd2を取得する(ステップST608)。舵角取得部14は、取得された舵角δu2,δd2を記憶部15に保存する。このとき、舵角取得部14は、上下一対の舵4u,4dの舵角δu2,δd2に加えて、上下一対の舵4u,4dの舵角δu2,δd2を取得してもよい。
【0141】
次に、故障検知部17が、(δu2-δu1)-(δd2-δd1)が第3閾値TH3より大きいか否かを判定する(ステップST609)。(δu2-δu1)-(δd2-δd1)が第3閾値TH3より大きい場合には、上下一対の舵4u,4dの一方の舵本体41に欠け等の損傷が発生し、舵本体41が舵角に応じた揚力を発生できない状態である可能性が高い。そこで、故障検知部17は、(δu2-δu1)-(δd2-δd1)が第3閾値TH3より大きい場合には、上下一対の舵4u,4dのうち一方の舵に故障が発生したと判定し、故障検知情報を出力する(ステップST610)。一方、(δu2-δu1)-(δd2-δd1)が第3閾値TH3以下である場合には、上下一対の舵4u,4dに故障が発生していないと判定され、一連の処理が終了される。
【0142】
補正部18は、上下一対の舵4u,4dの故障を検知すると、上舵4uの舵角を一時的にΔδだけ増加させる(ステップST611)。次に、故障検知部17は、上舵4uの舵角の変化に伴って生じる水中航走体1の最大ヨー角加速度αu1を計測する(ステップST612)。
【0143】
次に、補正部18は、下舵4dの舵角を一時的にΔδだけ増加させる(ステップST613)。次に、故障検知部17は、下舵4dの舵角の変化に伴って生じる水中航走体1の最大ヨー角加速度αd1を計測する(ステップST614)。
【0144】
次に、補正部18は、試験環境下で計測された最大ヨー角加速度αu0,αd0と、運用環境下で計測された最大ヨー角加速度αu1,αd1とに基づいて、上下一対の舵4u,4dの舵角を補正する。上下一対の舵4u,4dの補正前の舵角をδu2,δd2とし、補正後の舵角をδlc,δrcとした場合には、例えば上下一対の舵4u,4dの舵力が舵角に比例すると仮定すると、補正後の舵角δuc,δdcは、下記式(23)及び(24)に従って求められる。
【0145】
δuc=δu2/k …(23)
δdc=δd2/k …(24)
【0146】
式(23)及び(24)中のk,kは、式(25)及び(26)のように定義される。
=αu1/αu0 …(25)
=αd1/αd0 …(26)
【0147】
なお、補正部18は、式(23)及び(24)に代えて、下記式(27)及び(28)に従って、補正後の舵角δlc,δrcを算出してもよい。
【0148】
δlc=asin(2sin(δu2)・cos(δu2)/k)/2 …(27)
δrc=asin(2sin(δd2)・cos(δd2)/k)/2 …(28)
【0149】
上述のように、この方法MT6では、(δu2-δu1)-(δd2-δd1)が第3閾値TH3より大きいときに、上下一対の舵4u,4dのうち一方の舵に故障が発生したと判定しているので、上下一対の舵4u,4dに欠け等の損傷が発生したことを検知することができる。また、試験環境下で計測された最大ヨー角加速度αu0,αd0と、運用環境下で計測された最大ヨー角加速度αu1,αd1とに基づいて、上下一対の舵4u,4dを補正することにより、上下一対の舵4u,4dに損傷が発生して舵揚力が減少した場合であっても、上下一対の舵4u,4dの舵揚力を正常時の舵揚力に近づけることができる。その結果、上下一対の舵4u,4dに故障が発生した場合であっても、水中航走体1の運用を継続することが可能となる。
【0150】
なお、方法MT6では、故障検知部17によって舵の故障が検知された場合に、補正部18によって上下一対の舵4u,4dの舵角が補正されているが、一実施形態では、舵の故障が検知された場合には、上下一対の舵4u,4dの舵角を補正せずに、水中航走体1の運用を中止し、水中航走体1を浮上させてもよい。この場合には、舵角の補正に関連する処理、具体的には、ステップST603~ST606、及び、ステップST611~ST615は行われなくてもよい。
【0151】
以上、種々の実施形態に係る故障検知方法について説明してきたが、上述した実施形態に限定されることなく発明の要旨を変更しない範囲で種々の変形態様を構成可能である。例えば、上述の複数の舵4は水中航走体1の上下左右に配置された十字舵であるが、一実施形態では、複数の舵4は、水中航走体1の上下左右方向に対して45°傾けて配置されたX舵であってもよい。
【0152】
なお、上述した種々の実施形態は、矛盾のない範囲で組み合わせることが可能である。例えば、水中航走体1の制御装置10は、第1実施形態に係る故障検知方法MT1と第2実施形態に係る故障検知方法MT2を同時に実行してもよい。例えば、制御装置10は、試験環境下において、準備ステップST11及びST21を実行した後に、検知ステップST12及びST22を実行してもよい。同様に、水中航走体1の制御装置10は、第3実施形態に係る故障検知方法MT3と第4実施形態に係る故障検知方法MT4を同時に実行してもよい。例えば、制御装置10は、試験環境下において、準備ステップST31及びST41を実行した後に、検知ステップST32及びST42を実行してもよい。この場合には、制御装置10の故障検知部17は、(Φ-Φ)が第1閾値より大きい場合、(δl2-δl1)+(δr2-δr1)が第2閾値より大きい場合、又は、(δu2-δu1)+(δd2-δd1)が第3閾値より大きい場合に複数の舵4のうち一つの舵に故障が発生したと判定する。
【符号の説明】
【0153】
1 水中航走体
4 複数の舵
4l,4r 左右一対の舵
4u,4d 上下一対の舵
δc1,δc2 補正舵角
Δδ,Δδ,Δδ,Δδ オフセット角度
Φ ロール角(第1ロール角)
Φ ロール角(第2ロール角)
Φ ロール角(第3ロール角)
Φ ロール角(第4ロール角)
MT1,MT2,MT3,MT4,MT5,MT6 故障検知方法
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8