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特開2023-30370リチウムイオン二次電池の劣化推定装置、リチウムイオン二次電池の電池容量推定方法
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  • 特開-リチウムイオン二次電池の劣化推定装置、リチウムイオン二次電池の電池容量推定方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023030370
(43)【公開日】2023-03-08
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池の劣化推定装置、リチウムイオン二次電池の電池容量推定方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/42 20060101AFI20230301BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20230301BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20230301BHJP
   G01R 31/378 20190101ALI20230301BHJP
   G01R 31/367 20190101ALI20230301BHJP
   G01R 31/392 20190101ALI20230301BHJP
   G01R 31/387 20190101ALI20230301BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
H01M10/42 P
H01M10/48 P
H01M4/58
G01R31/378
G01R31/367
G01R31/392
G01R31/387
H02J7/00 Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021135459
(22)【出願日】2021-08-23
(71)【出願人】
【識別番号】515090628
【氏名又は名称】株式会社スリーダムアライアンス
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】吉田 孝
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一也
(72)【発明者】
【氏名】▲柳▼澤 良太
【テーマコード(参考)】
2G216
5G503
5H030
5H050
【Fターム(参考)】
2G216BA22
2G216BA26
2G216BA29
2G216BA34
2G216BA63
2G216CB05
2G216CB34
5G503BA03
5G503BB02
5G503DA04
5G503EA08
5H030AA10
5H030AS03
5H030AS08
5H030AS11
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB01
(57)【要約】
【課題】二次電池の劣化指標を、簡便な方法でありながらも高い確度で推定する。
【解決手段】リチウムイオン二次電池の正極は、連続する範囲の充電率の間で充電率を充電する方向と放電する方向のうち少なくとも一方に変化させたとき、充電率の変化に対して電圧の変化量が相対的に大きい範囲から、電圧の変化量が相対的に小さい範囲に移行する変曲点を2つ以上有する正極活物質を少なくとも含む。一実施形態の上記電池の劣化推定装置は、第一の変曲点における第一の容量値と、第一の変曲点とは電圧の異なる第二の変曲点における第二の容量値と、を取得する取得部と、第一の容量値と第二の容量値に基づいて現在の満充電容量を算出する算出部と、現在の満充電容量の値と、上記電池の初期状態における満充電容量の値とに基づいて、上記電池の劣化状態を推定する推定部と、を備える。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池の劣化を推定する劣化推定装置であって、
前記リチウムイオン二次電池は、正極集電体上に正極活物質層の形成された正極と、負極集電体上に負極活物質層の形成された負極と、電解液と、を少なくとも含み、
前記正極は、連続する範囲の充電率の間で充電率を充電する方向と放電する方向のうち少なくとも一方に変化させたとき、充電率の変化に対して電圧の変化量が相対的に大きい範囲から、電圧の変化量が相対的に小さい範囲に移行する変曲点を2つ以上有する正極活物質を少なくとも含み、
前記装置は、
第一の変曲点における第一の容量値と、前記第一の変曲点とは電圧の異なる第二の変曲点における第二の容量値と、を取得する取得部と、
前記取得部が取得した前記第一の容量値と前記第二の容量値に基づいて、現在の満充電容量を算出する算出部と、
前記算出部が算出した現在の満充電容量の値と、前記リチウムイオン二次電池の初期状態における満充電容量の値とに基づいて、前記リチウムイオン二次電池の劣化状態を推定する推定部と、
を備えた、リチウムイオン二次電池の劣化推定装置。
【請求項2】
前記正極活物質が、リン酸マンガン鉄リチウムである、
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池の劣化推定装置。
【請求項3】
前記リン酸マンガン鉄リチウムが化学式(1)で示されるものである、
請求項2に記載のリチウムイオン二次電池の劣化推定装置。
[化1]LiFeMn(1-v)PO4 (0.5<w<1.5、0.20≦v≦0.
55) 化学式(1)
【請求項4】
前記正極活物質と異なる少なくとも一つ以上の正極活物質をさらに含む、
請求項1から3のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池の劣化推定装置。
【請求項5】
前記取得部は、前記第一の容量値と前記第二の容量値を前記リチウムイオン二次電池の充電時に取得する、
請求項1から4のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池の劣化推定装置。
【請求項6】
電池の連続する範囲の充電率もしくは放電率を一定方向に変化させたとき、前記充電率もしくは放電率の変化に対して電圧の変化量が相対的に大きい範囲から、電圧の変化量が相対的に小さい範囲に移行する変曲点を2つ以上有する正極活物質を含むリチウムイオン二次電池の電池容量推定方法であって、
第一の変曲点における第一の容量値と、前記第一の変曲点とは電圧の異なる第二の変曲点における第二の容量値とを取得し、
取得した前記第一の容量値と前記第二の容量値に基づいて、現在の満充電容量を算出し、
算出した現在の満充電容量の値と、前記リチウムイオン二次電池の初期状態における満充電容量の値とに基づいて、前記リチウムイオン二次電池の劣化状態を推定すること、
を含むリチウムイオン二次電池の電池容量推定方法。
【請求項7】
前記第一の容量値と前記第二の容量値とを取得することは、前記リチウムイオン二次電池の充電時に行われる、
請求項6に記載のリチウムイオン二次電池の電池容量推定方法。
【請求項8】
リチウムイオン二次電池の劣化を推定する劣化推定装置であって、
前記リチウムイオン二次電池は、正極集電体上に正極活物質層の形成された正極と、負極集電体上に負極活物質層の形成された負極と、電解液と、を少なくとも含み、
前記正極は、連続する範囲の充電率の間で充電率を充電する方向と放電する方向のうち少なくとも一方に変化させたとき、充電率の変化に対して電圧の変化量が相対的に大きい範囲から、電圧の変化量が相対的に小さい範囲に移行する変曲点を2つ以上有する正極活物質を少なくとも含み、
前記装置は、
第一の変曲点における第一の電圧値と、前記第一の変曲点とは電圧の異なる第二の変曲点における第二の電圧値と、を取得する取得部と、
前記取得部が取得した前記第一の電圧値と前記第二の電圧値に基づいて、現在の満充電容量を算出する算出部と、
前記算出部が算出した現在の満充電容量の値と、前記リチウムイオン二次電池の初期状態における満充電容量の値とに基づいて、前記リチウムイオン二次電池の劣化状態を推定する推定部と、
を備えた、リチウムイオン二次電池の劣化推定装置。
【請求項9】
リチウムイオン二次電池の劣化を推定する劣化推定装置であって、
前記リチウムイオン二次電池は、正極集電体上に正極活物質層の形成された正極と、負極集電体上に負極活物質層の形成された負極と、電解液と、を少なくとも含み、
前記正極は、連続する範囲の充電率の間で充電率を充電する方向と放電する方向のうち少なくとも一方に変化させたとき、充電率の変化に対して電圧の変化量が相対的に大きい範囲から、電圧の変化量が相対的に小さい範囲に移行する変曲点を2つ以上有する正極活物質を少なくとも含み、
前記装置は、
前記リチウムイオン二次電池の使用状態において、第一の変曲点における第一の容量値と、前記第一の変曲点とは電圧の異なる第二の変曲点における第二の容量値と、を取得する第一の取得部と、
前記リチウムイオン二次電池の初期状態での前記第一の変曲点における第三の容量値と、前記第二の変曲点における第四の容量値と、を取得する第二の取得部と、
前記第一の容量値及び前記第三の容量値の差、並びに第二の容量値及び前記第四の容量値との差、が大きい場合は、小さい場合よりも前記リチウムイオン二次電池が劣化している状態であると推定する推定部と、
を備えた、リチウムイオン二次電池の劣化推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池の劣化を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータ、ビデオカメラ等の携帯型コードレス製品は益々小型化、ポータブル化が進んでいる。また、大気汚染や二酸化炭素の増加等の環境問題の観点から、ハイブリッド自動車、電気自動車、電動船舶や、ドローンをはじめとする小型飛行体等の電動移動体の開発が進められ、実用化の段階となっている。これら電子機器や電気自動車等の電動移動体には、高効率、高出力、高エネルギー密度、軽量等の特徴を有する優れた二次電池が求められている。さらに、夜間電力や太陽光等の自然エネルギーで発電した電気を効率的に蓄電する手段としても、二次電池の有効利用に注目が集まっている。このような特性を有する二次電池の開発、研究が盛んに行われ、リチウム電池やリチウムイオン電池等の二次電池が種々実用化されている。
【0003】
上述のリチウムイオン電池は、温度などの保管環境、充電状態や、充放電の回数に応じて、使用できる電気容量が低下する傾向があり、こうした電池の劣化状態(SOH)を正確に推定することが、二次電池を駆動源として用いたシステムの運用上極めて重要である。そのため、従来からリチウムイオン電池の劣化状態を推定する種々の手法が提案されている。
例えば、電池の使用履歴情報を記憶しておき、使用履歴情報に基づいて作成したモデルを用いて劣化状態(SOH)を推定する手法が試みられてきた。
また、二次電池の充放電時の電池容量及び電池電圧をパラメータとした微分曲線が二次電池の劣化状態に応じて形状が異なることを利用して、微分曲線上に現れる特徴点の推移や変化量等に基づき二次電池の劣化指標を推定する手法も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-184528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、使用履歴情報に基づいて作成したモデルを用いてリチウムイオン電池の劣化状態(SOH)を推定する手法では、当該電池自体についての膨大な使用履歴情報を記憶しておくために、電池自体に大規模な記憶装置を搭載する、もしくは、クラウドなどのシステムに記憶させた情報を、都度通信手段を用いて授受しなければならず、装置の大型化や通信手段への負荷増大などを考えると実用的とは言い難い。また、膨大な使用履歴情報を扱うため、計算が複雑化する傾向があり、プロセッサへの負荷が増大したり、推定結果の算出に時間がかかったりするという問題がある。
他方、微分曲線上に現れる特徴点の推移や変化量等に基づき二次電池の劣化指標を推定する手法では、測定値の微分を行う際のΔVの設定が不適切であったり、ノイズ等があったりすることで、自動的に微分曲線の形状の相違を判定することは困難であり、やはり実用的な推定手段とは言い難い。
【0006】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、二次電池の劣化指標を、簡便な方法でありながらも高い確度で推定することができる二次電池システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の観点は、リチウムイオン二次電池の劣化を推定する劣化推定装置であって、前記リチウムイオン二次電池は、正極集電体上に正極活物質層の形成された正極と、負極集電体上に負極活物質層の形成された負極と、電解液と、を少なくとも含み、前記正極は、連続する範囲の充電率の間で充電率を充電する方向と放電する方向のうち少なくとも一方に変化させたとき、充電率の変化に対して電圧の変化量が相対的に大きい範囲から、電圧の変化量が相対的に小さい範囲に移行する変曲点を2つ以上有する正極活物質を少なくとも含み、前記装置は、第一の変曲点における第一の容量値と、前記第一の変曲点とは電圧の異なる第二の変曲点における第二の容量値と、を取得する取得部と、前記取得部が取得した前記第一の容量値と前記第二の容量値に基づいて、現在の満充電容量を算出する算出部と、前記算出部が算出した現在の満充電容量の値と、前記リチウムイオン二次電池の初期状態における満充電容量の値とに基づいて、前記リチウムイオン二次電池の劣化状態を推定する推定部と、を備えた、リチウムイオン二次電池の劣化推定装置である。
【0008】
本発明の第2の観点は、電池の連続する範囲の充電率もしくは放電率を一定方向に変化させたとき、前記充電率もしくは放電率の変化に対して電圧の変化量が相対的に大きい範囲から、電圧の変化量が相対的に小さい範囲に移行する変曲点を2つ以上有する正極活物質を含むリチウムイオン二次電池の電池容量推定方法であって、第一の変曲点における第一の容量値と、前記第一の変曲点とは電圧の異なる第二の変曲点における第二の容量値とを取得し、取得した前記第一の容量値と前記第二の容量値に基づいて、現在の満充電容量を算出し、算出した現在の満充電容量の値と、前記リチウムイオン二次電池の初期状態における満充電容量の値とに基づいて、前記リチウムイオン二次電池の劣化状態を推定すること、を含むリチウムイオン二次電池の電池容量推定方法である。
【0009】
本発明の第3の観点は、リチウムイオン二次電池の劣化を推定する劣化推定装置であって、前記リチウムイオン二次電池は、正極集電体上に正極活物質層の形成された正極と、負極集電体上に負極活物質層の形成された負極と、電解液と、を少なくとも含み、前記正極は、連続する範囲の充電率の間で充電率を充電する方向と放電する方向のうち少なくとも一方に変化させたとき、充電率の変化に対して電圧の変化量が相対的に大きい範囲から、電圧の変化量が相対的に小さい範囲に移行する変曲点を2つ以上有する正極活物質を少なくとも含み、前記装置は、第一の変曲点における第一の電圧値と、前記第一の変曲点とは電圧の異なる第二の変曲点における第二の電圧値と、を取得する取得部と、前記取得部が取得した前記第一の電圧値と前記第二の電圧値に基づいて、現在の満充電容量を算出する算出部と、前記算出部が算出した現在の満充電容量の値と、前記リチウムイオン二次電池の初期状態における満充電容量の値とに基づいて、前記リチウムイオン二次電池の劣化状態を推定する推定部と、を備えた、リチウムイオン二次電池の劣化推定装置である。
【0010】
本発明の第4の観点は、リチウムイオン二次電池の劣化を推定する劣化推定装置であって、前記リチウムイオン二次電池は、正極集電体上に正極活物質層の形成された正極と、負極集電体上に負極活物質層の形成された負極と、電解液と、を少なくとも含み、前記正極は、連続する範囲の充電率の間で充電率を充電する方向と放電する方向のうち少なくとも一方に変化させたとき、充電率の変化に対して電圧の変化量が相対的に大きい範囲から、電圧の変化量が相対的に小さい範囲に移行する変曲点を2つ以上有する正極活物質を少なくとも含み、前記装置は、前記リチウムイオン二次電池の使用状態において、第一の変曲点における第一の容量値と、前記第一の変曲点とは電圧の異なる第二の変曲点における第二の容量値と、を取得する第一の取得部と、前記リチウムイオン二次電池の初期状態での前記第一の変曲点における第三の容量値と、前記第二の変曲点における第四の容量値と、を取得する第二の取得部と、前記第一の容量値及び前記第三の容量値の差、並びに第二の容量値及び前記第四の容量値との差、が大きい場合は、小さい場合よりも前記リチウムイオン二次電池が劣化している状態であると推定する推定部と、を備えた、リチウムイオン二次電池の劣化推定装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のある態様によれば、二次電池の劣化指標を、簡便な方法でありながらも高い確度で推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施形態の二次電池セルのサイクル数に応じた充放電曲線を示す図である。
図2図1の場合と異なる温度において、一実施形態の二次電池セルのサイクル数に応じた充放電曲線を示す図である。
図3】正極活物質のLMFPの含有率が異なる場合の二次電池セルの放電曲線と充電曲線を示す図である。
図4図3とは異なる材料の正極活物質を使用した二次電池セルの充放電曲線を示す図である。
図5】一実施形態の電池劣化推定装置の構成を示す図である。
図6】一実施形態の電池劣化推定装置に格納されるマップデータを示す図である。
図7】一実施形態の電池劣化推定装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
オリビン構造を有するリン酸塩系の正極活物質(リン酸鉄リチウム(LFP)及びリン酸マンガン鉄リチウム(LMFP))を用いた二次電池(以下、適宜単に「電池」という。)では、放電電圧3.3~3.5V付近において、ある一定の容量の変化に対して電圧の変化がほとんどないプラトー領域が出現することが知られている。中でも、正極活物質としてリン酸マンガン鉄リチウムを用いた電池は、放電時に同じようにプラトー領域が出現するリン酸鉄リチウムを用いた電池に比べて容量が大きく、電池の高エネルギー密度化に適している。
【0014】
リン酸塩系の正極活物質として、層状金属酸化物と混合して用いたリチウムイオン二次電池においては、充電初期と充電末期、及び、放電初期と放電末期において、セル容量とセル電圧の関係を示す充放電曲線上に上記のプラトー領域に起因した変曲点が生じる。
層状金属酸化物は限定しないが、例えば、層状構造を持つリチウム金属複合酸化物であるニッケルマンガンコバルト酸リチウム(以下、「NMC」という。)が挙げられる。本願発明者は、鋭意研究を行った結果、層状金属酸化物をリン酸塩系の正極活物質に混合したものを正極活物質として使用することで、リチウムイオン二次電池の充放電サイクルの経過に伴って変曲点が移動するため、この変曲点をモニタすることで電池の劣化状態を推定可能となることを見出した。
【0015】
なお、NMCをリン酸塩系の正極活物質に混合するのは、以下の点で都合が良い。
リン酸塩系の正極活物質に由来する変曲点は、NMCとリン酸塩系の正極活物質を混合した正極を用いた場合に放電終止状態と設定するセル容量に対応する電圧より僅かに高い3.2~3.5V付近に出現するため、モニタしやすい。また。NMCの比容量と、リン酸マンガンリチウムの比容量との差が小さいため、両者を混合して用いてもエネルギー密度が大きく低下しない。
そのため、NMCをリン酸塩系の正極活物質に混合する場合に、特に本願の効果が発揮される。リン酸塩系の正極活物質の中でも、容量が大きい電池を実現可能である点でリン酸マンガン鉄リチウムを正極活物質として用いることが好ましい。
【0016】
正極活物質に含まれるリン酸マンガン鉄リチウムは、化学式(1)で示されるものであることが好ましい。
[化1]LiFeMn(1-v)PO4 (0.5<w<1.5、0.20≦v≦0.
55) 化学式(1)
ここで、充電および放電の間にインタカレートおよびデインタカレートされるリチウム量を考慮して、0.5<w<1.5とすることが好ましい。
0.20≦v≦0.55とする理由は、後述するように、vがこの範囲である場合に充放電曲線上で変曲点を検出しやすいためである。
【0017】
図1に、正極活物質としてリン酸マンガン鉄リチウム(LiFeMn(1-v)PO4)を用いて活物質層を形成した正極を用いた電池セルについて、所定の条件下での充放電曲線の測定結果を示す。なお、ここで用いたリン酸マンガン鉄リチウムでは、LiFeMn(1-v)PO4において、v=0.3とした。
【0018】
図1には、充放電サイクルにおいて、100回目、400回目、800回目、1600回目の各々の充電サイクル及び放電サイクルにおける特性が示されている。図1から、充電曲線において充電初期と充電末期にそれぞれ、低電圧側の「1段目の変曲点(充電)」と高電圧側の「2段目の変曲点(充電)」が発生し、放電曲線において放電初期と放電末期にそれぞれ、高電圧側の「1段目の変曲点(放電)」と低電圧側の「2段目の変曲点(放電)」が発生することがわかる。しかも、これらの変曲点は、充放電サイクルの経過とともに移動することがわかる。具体的には、いずれの変曲点もサイクルの経過に伴って図1の左側にシフトする。
【0019】
そこで、充電曲線における低電圧側変曲点(「1段目の変曲点(充電)」)と高電圧側変曲点(「2段目の変曲点(充電)」)の変化をモニタすることで、電池セルの劣化度合いを推定することができる。例えば、初期状態(例えば1回目の充電サイクル)での低電圧側変曲点における容量値(Qc1INT)と高電圧側変曲点における容量値(Qc2INT)とを記憶しておき、現在の充電時の低電圧側変曲点における容量値(Qc1CUR)と高電圧側変曲点における容量値(Qc2CUR)とを特定し、両者を比較する。つまり、Qc1INTとQc1CURの差分、並びにQc2INTとQc2CURの差分が大きい場合には、その差分が小さい場合よりも電池セルが劣化している状態であると判断することができる。
なお、以下の説明では、変曲点における容量値を適宜「変曲点容量値」という。
【0020】
同様にして、放電曲線における高電圧側変曲点(「1段目の変曲点(放電)」)と低電圧側変曲点(「2段目の変曲点(放電)」)の変化をモニタすることで、電池セルの劣化度合いを推定することができる。
変曲点における容量をモニタするのは、電池セルの充電時の方が好ましい。電池セルの放電時には、負荷の状態や温度等の環境によって測定される変曲点容量値が変動しやすいのに対して、充電時には安定した変曲点容量値が得られるためである。
【0021】
また、別の観点では、初期状態からの変曲点の変化をモニタすることで、電池セルの現在のサイクル数を推定することができる。例えば、サイクル数(N)と、N回目の充電サイクル数における低電圧側の変曲点容量値Qc1及び高電圧側の変曲点容量値Qc2の関係、並びに、サイクル数(N)と、N回目の放電サイクル数における高電圧側の変曲点容量値Qd1及び低電圧側の変曲点容量値Qd2との関係をマップデータとして記憶しておく。そして、充電時における現在の低電圧側の変曲点容量値Qc1CURと高電圧側の変曲点容量値Qc2CUR、及び/又は、放電時における現在の高電圧側の変曲点容量値Qd1CURと低電圧側の変曲点容量値Qd2CURを取得して、マップデータを参照することで、電池セルの現在のサイクル数を特定できる。
このような処理は、現在の充放電曲線に基づいて行われるため、使用履歴の詳細がわからない電池であってもサイクル数を特定できる。
【0022】
電池セルの現在の満充電容量は、特定したサイクル数を公知の方法に適用することで得ることができる。また、初期状態の満充電容量を例えばメモリに記憶させておくことで、初期状態の満充電容量と、現在の満充電容量とに基づいて、電池セルのSOHを推定することができる。
このような電池セルのSOHの推定方法は、充放電曲線における変曲点を検出することで精度良く行うことができ、複雑な計算が必要ない。
【0023】
なお、図1に示した例では、低電圧側変曲点(「1段目の変曲点(充電)」と「2段目の変曲点(放電)」)では、サイクルが進むにつれてモニタし難くなっている。しかし、電池の劣化状態を推定するに際しては、図1に例示する充電曲線における低電圧側変曲点、高電圧側変曲点、及び、放電曲線における高電圧側変曲点、低電圧側変曲点の4つの変曲点の少なくとも一部をモニタできればよい。そのため、4つの変曲点のうち一部の変曲点がモニタし難くなったとしても電池の劣化状態を推定する上で障害とはならない。
【0024】
図2は、図1と同じリン酸マンガン鉄リチウムを正極活物質として用いて活物質層を形成した正極を用いた電池セルについて、図1と同じ条件下での充放電曲線の測定結果であるが、温度条件(電池の温度が図1では25℃、図2では45℃)が図1とは異なる。なお、図2では、充放電サイクルにおいて、100回目及び800回目の各々の充電サイクル及び放電サイクルにおける特性が示されている。
図2に示すように、温度が図1よりも高温の環境下においても、充電曲線において低電圧側変曲点及び高電圧側変曲点が発生し、放電曲線において高電圧側変曲点及び低電圧側変曲点が発生し、充放電サイクルの経過に伴って変曲点が図2の左側にシフトすることがわかる。
【0025】
図1図2を比較すると、高温(45℃)の環境下では比較的低温(25℃)の場合よりもサイクル劣化が大きいことがわかる。したがって、充放電曲線から電池セルのSOH等の劣化指標を算出する際には、電池セルの温度を考慮することが好ましい。
【0026】
図3に、異なる正極活物質を用いて活物質層を形成した正極を用いた電池セルの充放電曲線の測定結果を示す。
図3では、比較例に係る電池セルとして、正極活物質としてNMC532(LiNi0.5Mn0.3Co0.2)のみを用いて活物質層を形成した正極を用いた電池セルの放電曲線と充電曲線(NMC532のみ)を実線で示す。図3では、一実施形態に係る電池セルとして、正極活物質の総重量を100重量部としたとき、NMC532を80重量部、リン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)を20重量部混合して活物質層を形成した正極を用いた電池セルの放電曲線と充電曲線(NMC532:LMFP=80:20)を破線で示す。図3では、一実施形態に係る電池セルとして、正極活物質の総重量を100重量部としたとき、NMC532を60重量部、リン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)を40重量部混合して活物質層を形成した正極を用いた電池セルの放電曲線と充電曲線(NMC532:LMFP=60:40)を点線で示す。
【0027】
図3に示すように、正極活物質としてリン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)が含まれない活物質層を形成した正極を用いた電池セルでは、4つの変曲点がいずれも発生しないため、充放電曲線を基に電池の劣化状態を推定するのが困難となる。
それに対して、正極活物質としてリン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)が含まれる活物質層を形成した正極を用いた電池セルでは、充電曲線における低電圧側変曲点、高電圧側変曲点、及び、放電曲線における高電圧側変曲点、低電圧側変曲点の4つの変曲点が発生する。そのため、充放電サイクルの経過に伴う変曲点の変化をモニタすることで電池の劣化状態を推定することが可能となる。図3に示すように、活物質層に含まれるリン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)の比率に応じて変曲点容量値は異なる。
【0028】
図4は、リン酸マンガン鉄リチウム(LFMP)においてMnの含有比率が異なる場合の充放電曲線を示している。なお、図4では、横軸を比容量、縦軸をセル電圧で表している。また、図4では、LiFeMn(1-v)PO4において、Mnの含有比率が70%の場合を実線で示し、Mnの含有比率が45%の場合を点線で示している。
図4に示すように、Mnの含有比率のいずれの場合においても、放電曲線において少なくとも高電圧側変曲点が発生し、充電曲線において低電圧側変曲点及び高電圧側変曲点が発生する。図示していないが、Mnの含有比率が少なくとも45~80%の範囲で、充放電曲線に変曲点が存在することが確認されている。
【0029】
次に、図5を参照して、一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の電池劣化推定装置1(以下、単に「電池劣化推定装置1」という。)について説明する。電池劣化推定装置1は、電池モジュール2に接続され、電池モジュール2の劣化指標の一例であるSOHを推定するように構成されている。
電池モジュール2は、例えば、複数の電池セルを直列及び/又は並列に接続してモジュール化したものである。各電池セルは、NMC532にリン酸マンガン鉄リチウムを混合した正極活物質を用いたものであり、上述した変曲点を有する。なお、電池モジュール2に含まれる各電池セルの充放電曲線は概ね同じであり、各電池セルの劣化特性も同じであるとみなしてよいため、適宜、単一の電池セルに対する制御について言及する。
【0030】
図5に示すように、電池劣化推定装置1は、プロセッサ11、記憶装置12、セル監視部13、及び、通信部14を備える。
プロセッサ11は、所定のプログラムを実行することで、電池劣化推定装置1の動作を制御する。
記憶装置12(記憶部の一例)は、不揮発性メモリであり、マップデータと電池セルの満充電容量の値を格納する。満充電容量の値は、例えば、電池モジュール2が製造された時点で記憶装置12に記録される。
【0031】
マップデータは、サイクル数(N)と、N回目の充電サイクル数における低電圧側の変曲点容量値Qc1及び高電圧側の変曲点容量値Qc2、及び、N回目の放電サイクル数における高電圧側の変曲点容量値Qd1及び低電圧側の変曲点容量値Qd2が記述されたものである。マップデータに記述される容量値は、例えば、予め電池セルに対して測定された代表的な値である。
一実施形態では、マップデータは、図6に示すように、N=1のときの初期状態の各変曲点容量値(上述したQc1INT,Qc2INT,Qd1INT,Qd2INTと同じ)からサイクル数が進んだときの各変曲点容量値の変動量(低下量)のデータを含む。
【0032】
記憶装置12は、電池セルの初期状態における満充電容量の値(FCCINT)を記憶する。この満充電容量の値は、例えば電池セルの製造時に取得して記憶装置12に記録しておく。
【0033】
セル監視部13は、電池モジュール2の各電池セルの状態を監視する部分であり、電圧センサ131及び電流センサ132を含む。
電圧センサ131は、電池セルの充電電圧(閉回路電圧)を検出するように構成される。電流センサ132は、電池セルを流れる電流を検出するように構成される。
電圧センサ131及び電流センサ132の検出信号は、逐次プロセッサ11に送信される。
【0034】
通信部14は、電池モジュール2の充電時において図示しない充電機器と予め定められた充電仕様に準拠した通信プロトコルで通信を行うとともに、電池モジュール2の放電時において図示しない負荷装置と予め定められた通信プロトコルで通信を行う通信インタフェースとして機能する。
【0035】
プロセッサ11がプログラムを実行することで、以下の(i)~(iii)の各部として機能する。
(i)現在の低電圧側及び高電圧側の変曲点容量値を取得する取得部
(ii)取得部が取得した現在の低電圧側及び高電圧側の変曲点容量値に基づいて、現在の満充電容量を算出する算出部
(iii)算出部が算出した現在の満充電容量の値(FCCCUR)と、記憶装置12に記憶されている電池セルの初期状態における満充電容量の値(FCCINT)とに基づいて、電池セルの劣化状態としてSOH(=FCCCUR/FCCINT)を推定する推定部
【0036】
(i)において、プロセッサ11は、電圧センサ131及び電流センサ132からの検出信号を受信し、各検出信号をデジタル信号に変換するA/D変換器を有する。プロセッサ11は、各検出信号のデジタル信号に基づいて低電圧側及び高電圧側の変曲点容量値を算出する。
例えば電池モジュール2の充電を行う間に変曲点を特定する場合、充電開始からの経過時間(t)と電池セルの電圧(V)と電池セルを流れる電流(I)とをモニタする。図1に例示したような充電曲線では、横軸のセル容量がI・tと等価である。したがって、経過時間(t)と電池セルの電圧(V)と電流(I)とをモニタすることで、プロセッサ11による処理を行う上で充電曲線を離散的に再現することが可能である。
ここで、変曲点は、充電曲線又は放電曲線の2階微分の符号が変化する場合に生ずるため、当該符号が変化するタイミングで変曲点を検出することができる。言い換えれば、充電曲線又は放電曲線での傾きV/(I・t)の変化率の符号が変化するタイミングにおいて変曲点を検出することができる。変曲点が発生したときのI・tの値が変曲点容量値となる。
【0037】
変曲点容量値を取得する際には、変曲点が生じたときのセル電圧Vに基づいて当該変曲点が低電圧側変曲点であるか高電圧側変曲点であるかを判別できる。例えば、変曲点が生じたときのセル電圧Vが4.0V~4.2Vの範囲である場合に当該変曲点が高電圧側変曲点であると判断し、変曲点が生じたときのセル電圧Vが3.3V~3.5Vの範囲である場合に当該変曲点が低電圧側変曲点であると判断する。
なお、低電圧側変曲点、高電圧側変曲点の各々について、充電曲線又は放電曲線によっては演算上2以上の変曲点が検出される場合があり得るが、その場合、最初に検出される変曲点を低電圧側変曲点又は高電圧側変曲点として特定すればよい。
【0038】
次に、一実施形態の電池劣化推定装置1において電池モジュール2のSOHを推定する処理について、図7のフローチャートを参照して説明する。
図7のフローチャートは、一例として電池モジュール2の充電を行う場合に電池劣化推定装置1のプロセッサ11によって実行される。
【0039】
図7を参照すると、プロセッサ11は、電池モジュール2の充電中に電圧センサ131及び電流センサ132からそれぞれ、電池セルの閉回路電圧(V)及び電流(I)の値を取得し、充放電曲線の傾きであるV/(I・t)の変化率の符号が変化するタイミングにおいて変曲点が検出されたと判断する。
電池モジュール2を充電する場合には、先ず低電圧側変曲点が検出され(ステップS2:YES)、低電圧側変曲点に対する変曲点容量値(Qc1CUR)を取得してメモリに記録する(ステップS4)。上述したように、より確実に低電圧側変曲点を検出する際には、セル電圧が所定の範囲内であることを検出の条件とすることが好ましい。
次いで、充電が進行してセル電圧が高くなると、プロセッサ11は、高電圧側変曲点を検出し(ステップS6:YES)、高電圧側変曲点に対応する変曲点容量値(Qc2CUR)を取得してメモリに記録する(ステップS8)。上述したように、より確実に高電圧側変曲点を検出する際には、セル電圧が所定の範囲内であることを検出の条件とすることが好ましい。
【0040】
低電圧側の変曲点容量値Qc1CURと高電圧側の変曲点容量値Qc2CURとを取得すると、プロセッサ11は、以下のようにして電池モジュール2の電池セルのSOHを算出する。
先ず、プロセッサ11は、マップデータ(図6)を参照して、取得した低電圧側の変曲点容量値(Qc1CUR)と高電圧側の変曲点容量値(Qc2CUR)とに対応するサイクル数(現在のサイクル数)を推定する(ステップS10)。すなわち、記憶装置12に記憶されているマップデータ(図6)には、N=1のときの初期状態の各変曲点容量値からサイクル数が進んだときの各変曲点容量値の低下量のデータが含まれる。そこで、プロセッサ11は、初期状態の変曲点容量値と、ステップS4,S8において取得した変曲点容量値との差分((Qc1INT-Qc1CUR)と(Qc2INT-Qc2CUR))に基づいてマップデータ(図6)を参照することで、対応するサイクル数を特定する。
【0041】
次いでプロセッサ11は、ステップS10で推定した現在のサイクル数を基に、現在の満充電容量の値(FCCCUR)を算出する(ステップS12)。サイクル数から満充電容量を算出する方法については公知の方法を採用することができる。例えば、サイクル数と満充電容量の関係を示すルックアップテーブルを参照してサイクル数を算出してもよいし、サイクル数の1/2乗と満充電容量の低下量(劣化量)とが線形の関係にあるという前提のモデル式からサイクル数を算出してもよい。
【0042】
プロセッサ11は、記憶装置12から電池セルの初期状態における満充電容量の値(FCCINT)を読み出すことによって取得し(ステップS14)、電池セルのSOH(=FCCCUR/FCCINT)を算出する(ステップS16)。
【0043】
図7を参照して、電池モジュール2の充電を行う場合の処理について説明したが、電池モジュール2が放電する場合についても同様の処理を行うことができる。すなわち、電池モジュール2が放電する場合には、プロセッサ11は、高電圧側変曲点と低電圧側変曲点をこの順に検出することで、高電圧側の変曲点容量値(Qd1CUR)と低電圧側の変曲点容量値(Qd2CUR)とを取得する。プロセッサ11は、取得した変曲点容量値の初期状態の値との差分((Qd1INT-Qd1CUR)と(Qd2INT-Qd2CUR))に基づいてマップデータ(図6)を参照することで、対応するサイクル数を特定する。
【0044】
以上説明したように、一実施形態の電池劣化推定装置によれば、電池セルの充電時又は放電時に充電曲線又は放電曲線に生ずる2つの変曲点を検出し、その2つの変曲点に対応する変曲点容量値を取得する。取得した変曲点容量値に基づいて電池セルの現在の満充電容量を算出し、この現在の満充電容量と、初期状態の満充電容量とに基づいて、SOH等の電池セルの劣化状態を推定する。
すなわち、一実施形態の電池劣化推定装置では、充電曲線又は放電曲線に現れる変曲点を用いて電池セルのSOHを推定でき、電池セルのSOHを推定するに際して電池セルの使用履歴に関する情報は必要ない。そのため、電池セルの使用履歴がわからない場合であっても電池セルのSOHを推定することができる。
上記変曲点容量値を算出する演算負荷は低いため、電池劣化推定装置に性能の高いプロセッサは不要であり、高速でSOHを推定することができる。
また、変曲点を特定する際には測定ノイズの影響を受け難いため、結果として精度の高いSOHを算出することができる。
【0045】
なお、図6では、マップデータは、N=1のときの初期状態の各変曲点容量値からサイクル数が進んだときの各変曲点容量値の変動量(低下量)のデータを含むように構成したが、その限りではない。同じ型の電池セルを使用する場合、各サイクルに対応する変曲点容量値はほとんどばらつきがないと考えられるため、各サイクル数(N)に対応する各変曲点容量値自体のデータを含むようにしてもよい。そのようにマップデータを構成した場合には、マップデータを参照して、検出された変曲点容量値と概ね一致する変曲点容量値に対応するサイクル数が特定される。
【0046】
一実施形態では、セル監視部13は、温度センサを備えてもよい。
図1及び図2に示したように、温度が高いほど電池セルの劣化が進みやすい。つまり、温度が高いほど、同じサイクル数であっても初期状態からの変曲点容量値の変化量が大きいため、温度センサによって検出される電池セルの温度に基づいて、マップデータ(図6)を補正してもよい。例えば、温度違いの複数のマップデータを記憶装置12に記憶させておき、温度センサから得られる温度を基に電池セルの代表的な使用環境における温度に対応するマップデータを参照して、サイクル数を特定する。それによって、電池セルの温度環境を考慮してサイクル数が特定されるため、電池劣化推定装置1において算出されるSOHの精度がさらに向上する。
【0047】
一実施形態の電池劣化推定装置では、変曲点容量値に代えて変曲点電圧値を取得し、取得した変曲点容量値に基づいて電池セルの劣化状態を推定してもよい。図1図4に示すように、サイクル数が進むにつれて、充放電曲線における変曲点に対応するセル電圧も変化するため、変曲点電圧値を取得することでも電池セルの劣化状態を推定できる。
その場合、電池劣化推定装置のプロセッサがプログラムを実行することで、以下の(iv)~(vi)の各部として機能するように構成してもよい。
(iv)現在の低電圧側及び高電圧側の変曲点電圧値を取得する取得部
(v)取得部が取得した現在の低電圧側及び高電圧側の変曲点電圧値に基づいて、現在の満充電容量を算出する算出部
(vi)算出部が算出した現在の満充電容量の値(FCCCUR)と、記憶装置に記憶されている電池セルの初期状態における満充電容量の値(FCCINT)とに基づいて、電池セルの劣化状態としてSOH(=FCCCUR/FCCINT)を推定する推定部
【0048】
前述したように、充電サイクルにおいて、初期状態での低電圧側の変曲点容量値(Qc1INT;第三の容量値の一例)と現在の低電圧側の変曲点容量値(Qc1CUR;第一の容量値の一例)の差分が大きい場合には、その差分が小さい場合よりも電池セルが劣化している状態であると判断することができる。充電サイクルにおいて、初期状態の高電圧側の変曲点容量値(Qc2INT;第四の容量値の一例)と現在の高電圧側の変曲点容量値(Qc2CUR;第二の容量値の一例)の差分が大きい場合には、その差分が小さい場合よりも電池セルが劣化している状態であると判断することができる。
同様に、放電サイクルにおいて、初期状態での高電圧側の変曲点容量値(Qd1INT;第四の容量値の一例)と現在の高電圧側の変曲点容量値(Qd1CUR;第二の容量値の一例)の差分が大きい場合には、その差分が小さい場合よりも電池セルが劣化している状態であると判断することができる。放電サイクルにおいて、初期状態の低電圧側の変曲点容量値(Qd2INT;第三の容量値の一例)と現在の低電圧側の変曲点容量値(Qd2CUR;第一の容量値の一例)の差分が大きい場合には、その差分が小さい場合よりも電池セルが劣化している状態であると判断することができる。
すなわち、電池セルの初期状態の変曲点容量値と、電池セルの現在の使用状態における変曲点容量値との差分をモニタすることで、相対的な劣化度合いを判断することができる。
【0049】
そこで、一実施形態の電池劣化推定装置では、プロセッサがプログラムを実行することで、以下の(vii)~(ix)の各部として機能するように構成してもよい。
(vii)電池セルの使用状態において、低電圧側の変曲点容量値(第一の容量値)と、高電圧側の変曲点容量値(第二の容量値)と、を取得する第一の取得部
(viii)電池セルの初期状態での低電圧側の変曲点容量値(第三の容量値)と、電池セルの初期状態での高電圧側の変曲点容量値(第四の容量値)と、を取得する第二の取得部
(ix)第一の容量値及び第三の容量値の差、並びに第二の容量値及び第四の容量値との差、が大きい場合は、小さい場合よりも電池セルが劣化している状態であると推定する推定部
【0050】
以上、本発明のリチウムイオン二次電池の劣化推定装置、及び、リチウムイオン二次電池の電池容量推定方法の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されない。また、上記の実施形態は、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更が可能である。例えば、上述した各実施形態及び各変形例に記載した個々の技術的特徴は、技術的矛盾がない限り、適宜組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0051】
1…電池劣化推定装置
2…電池モジュール
11…プロセッサ
12…記憶装置
13…セル監視部
131…電圧センサ
132…電流センサ
14…通信部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7