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特開2023-30371リチウムイオン二次電池の充電システム、リチウムイオン二次電池の充電方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023030371
(43)【公開日】2023-03-08
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池の充電システム、リチウムイオン二次電池の充電方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/44 20060101AFI20230301BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20230301BHJP
   H02J 7/10 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
H01M10/44 Q
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H02J7/10 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021135460
(22)【出願日】2021-08-23
(71)【出願人】
【識別番号】515090628
【氏名又は名称】株式会社スリーダムアライアンス
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】吉田 孝
【テーマコード(参考)】
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
5G503AA01
5G503BA03
5G503BB02
5G503CA01
5G503CA08
5G503CA11
5G503CB11
5G503GD03
5G503GD06
5H030AA01
5H030AA10
5H030AS03
5H030AS08
5H030AS14
5H030FF22
5H030FF42
(57)【要約】
【課題】装置の動力源として用いられるリチウムイオン二次電池から、装置が必要とする際により多くの容量を引き出すことを可能とする。
【解決手段】一実施形態は、装置の動力源として用いられるリチウムイオン二次電池(電池)の充電システムである。このシステムは、装置を作動させる際に電池を充電する第一の充電モード、又は、装置を作動させる際に電池を充電する第二の充電モードであって第一の充電モードよりも電池の容量が大きくなるように電池を充電する第二の充電モード、のいずれかの充電モードを選択する選択部と、第二の充電モードで充電するときの目標容量を設定する設定部と、第二の充電モードでの充電時に電池を第一の充電モードの場合よりも高い設定温度に制御する温度制御部と、を備える。温度制御部は、設定部により設定された目標容量と、電池の温度と容量との関係とに基づいて、設定温度を決定する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置の動力源として用いられるリチウムイオン二次電池の充電システムであって、
前記装置を作動させる際に前記リチウムイオン二次電池を充電する第一の充電モード、又は、前記装置を作動させる際に前記リチウムイオン二次電池を充電する第二の充電モードであって、前記第一の充電モードよりも前記リチウムイオン二次電池の容量が大きくなるように前記リチウムイオン二次電池を充電する第二の充電モード、のいずれかの充電モードを選択する選択部と、
前記リチウムイオン二次電池の温度と容量との関係を記憶する記憶部と、
前記第二の充電モードで充電するときの目標容量を設定する設定部と、
前記第二の充電モードでの充電時に、前記リチウムイオン二次電池を前記第一の充電モードの場合よりも高い設定温度に制御する温度制御部と、
を備え、
前記温度制御部は、前記設定部により設定された前記目標容量と、前記記憶部が記憶する前記リチウムイオン二次電池の温度と容量との関係とに基づいて、前記設定温度を決定する、
リチウムイオン二次電池の充電システム。
【請求項2】
前記第二の充電モードによる過去の充電回数と設定温度とを含む充電履歴情報を記憶する第二の記憶部を更に備え、
前記温度制御部は、前記設定温度を決定する際に、前記第二の記憶部が記憶する充電履歴情報に基づいて、前記設定温度を制限する、
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池の充電システム。
【請求項3】
前記リチウムイオン二次電池の現在の満充電容量を推定する推定部を更に備え、
前記温度制御部は、更に前記推定部が推定した前記リチウムイオン二次電池の現在の満充電容量に基づいて、前記設定温度を決定する、
請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池の充電システム。
【請求項4】
閾値に基づいて前記リチウムイオン二次電池の過充電状態を検出する検出部を更に備え、
前記検出部は、前記第二の充電モードでの充電後の閾値を前記第一の充電モードでの充電後の閾値よりも大きくする、
請求項1から3のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池の充電システム。
【請求項5】
前記リチウムイオン二次電池は、
集電体上に正極活物質層が形成された正極と、集電体上に負極活物質層が形成された負極と、電解液と、を含み、
前記正極は、正極活物質として、層状構造を持つリチウム遷移金属複合酸化物を含む、
請求項1から4のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池の充電システム。
【請求項6】
装置の動力源として用いられるリチウムイオン二次電池の充電システムであって、
プロセッサを有し、
前記プロセッサは、
前記リチウムイオン二次電池を充電するときの目標容量に基づいて、前記リチウムイオン二次電池を充電するように制御し、
前記リチウムイオン二次電池の充電時において、
前記目標容量が所定値未満である場合は、前記リチウムイオン二次電池の温度を予め定めた第一の上限温度未満に制御する一方、
前記目標容量が前記所定値以上である場合は、前記リチウムイオン二次電池の温度を前記第一上限温度以上であって予め定めた第二の上限温度未満に制御する、
リチウムイオン二次電池の充電システム。
【請求項7】
装置の動力源として用いられるリチウムイオン二次電池の充電システムであって、
プロセッサを有し、
前記プロセッサは、
前記リチウムイオン二次電池を充電するときの目標容量に基づいて、前記リチウムイオン二次電池を充電するように制御し、
前記リチウムイオン二次電池の充電時において、
前記目標容量が所定値未満である場合は、前記リチウムイオン二次電池の温度を予め定めた上限温度以上に制御することを禁止する一方、
前記目標容量が前記所定値以上である場合は、前記リチウムイオン二次電池の温度を前記上限温度以上に制御することを許容する、
リチウムイオン二次電池の充電システム。
【請求項8】
装置の動力源として用いられるリチウムイオン二次電池の充電方法であって、
前記装置を作動させる際に前記リチウムイオン二次電池を充電する第一の充電モード、又は、前記装置を作動させる際に前記リチウムイオン二次電池を充電する第二の充電モードであって、前記第一の充電モードよりも前記リチウムイオン二次電池の容量が大きくなるように前記リチウムイオン二次電池を充電する第二の充電モード、のいずれかの充電モードを選択するステップ(A)と、
前記第二の充電モードで充電するときの目標容量を設定するステップ(B)と、
前記ステップ(B)において設定された前記目標容量と、予め記憶された前記リチウムイオン二次電池の温度と容量との関係とに基づいて、前記第二の充電モードで充電するときの設定温度として、前記第一の充電モードの場合よりも高い温度に設定するステップ(C)と、
前記第二の充電モードでの充電時に前記設定温度に制御するステップ(D)と、
を含む、リチウムイオン二次電池の充電方法。
【請求項9】
前記ステップ(C)では、前記設定温度を決定する際に、前記第二の充電モードによる過去の充電回数と設定温度と含む充電履歴情報に基づいて、前記設定温度を制限する、
請求項8に記載のリチウムイオン二次電池の充電方法。
【請求項10】
前記リチウムイオン二次電池の現在の満充電容量を推定するステップ(E)を更に含み、
前記ステップ(C)では、更に前記ステップ(E)において推定した前記リチウムイオン二次電池の現在の満充電容量に基づいて、前記設定温度を決定する、
請求項8又は9に記載のリチウムイオン二次電池の充電方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池の充電制御の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータ、ビデオカメラ等の携帯型コードレス製品は益々小型化、ポータブル化が進んでいる。また、大気汚染や二酸化炭素の増加等の環境問題の観点から、ハイブリッド自動車、電気自動車、電動船舶や、ドローンをはじめとする小型飛行体等の電動移動体の開発が進められ、実用化の段階となっている。これら電子機器や電気自動車等のなど電動移動体には、高効率、高出力、高エネルギー密度、軽量等の特徴を有する優れた二次電池が求められている。さらに、夜間電力や太陽光等の自然エネルギーで発電した電気を効率的に蓄電する手段としても、二次電池の有効利用に注目が集まっている。このような特性を有する二次電池の開発、研究が盛んに行われ、リチウム電池やリチウムイオン電池等の二次電池が種々実用化されている。
その中でも、層状の結晶構造であるニッケル、コバルト、マンガンなどの複合酸化物は、その層間に電気的に活性なリチウムイオンが脱挿入されることにより、高エネルギー密度のリチウムイオン電池の正極活物質として好んで用いられる(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-184528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えば、上記の二次電池を蓄電池として用いる場合、災害などで電力供給インフラが遮断された際には通常使用時よりも多量の電力を供給することが求められる。また、上述のドローンには、災害時に交通網が遮断された地域への物資の供給などの機能も要請されており、そうした場合、より多くの荷物を長距離運搬するために、通常使用時よりも多量の電力を供給することが求められる。
【0005】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、装置の動力源として用いられるリチウムイオン二次電池から、装置が必要とする際により多くの容量を引き出すことを可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の観点は、装置の動力源として用いられるリチウムイオン二次電池の充電システムであって、前記装置を作動させる際に前記リチウムイオン二次電池を充電する第一の充電モード、又は、前記装置を作動させる際に前記リチウムイオン二次電池を充電する第二の充電モードであって、前記第一の充電モードよりも前記リチウムイオン二次電池の容量が大きくなるように前記リチウムイオン二次電池を充電する第二の充電モード、のいずれかの充電モードを選択する選択部と、前記リチウムイオン二次電池の温度と容量との関係を記憶する記憶部と、前記第二の充電モードで充電するときの目標容量を設定する設定部と、前記第二の充電モードでの充電時に、前記リチウムイオン二次電池を前記第一の充電モードの場合よりも高い設定温度に制御する温度制御部と、を備え、前記温度制御部は、前記設定部により設定された前記目標容量と、前記記憶部が記憶する前記リチウムイオン二次電池の温度と容量との関係とに基づいて、前記設定温度を決定する、リチウムイオン二次電池の充電システムである。
【0007】
本発明の第2の観点は、装置の動力源として用いられるリチウムイオン二次電池の充電システムであって、プロセッサを有し、前記プロセッサは、前記リチウムイオン二次電池を充電するときの目標容量に基づいて、前記リチウムイオン二次電池を充電するように制御し、前記リチウムイオン二次電池の充電時において、前記目標容量が所定値未満である場合は、前記リチウムイオン二次電池の温度を予め定めた第一の上限温度未満に制御する一方、前記目標容量が前記所定値以上である場合は、前記リチウムイオン二次電池の温度を前記第一上限温度以上であって予め定めた第二の上限温度未満に制御する、リチウムイオン二次電池の充電システムである。
【0008】
本発明の第3の観点は、装置の動力源として用いられるリチウムイオン二次電池の充電システムであって、プロセッサを有し、前記プロセッサは、前記リチウムイオン二次電池を充電するときの目標容量に基づいて、前記リチウムイオン二次電池を充電するように制御し、前記リチウムイオン二次電池の充電時において、前記目標容量が所定値未満である場合は、前記リチウムイオン二次電池の温度を予め定めた上限温度以上に制御することを禁止する一方、前記目標容量が前記所定値以上である場合は、前記リチウムイオン二次電池の温度を前記上限温度以上に制御することを許容する、リチウムイオン二次電池の充電システムである。
【0009】
本発明の第4の観点は、装置の動力源として用いられるリチウムイオン二次電池の充電方法であって、前記装置を作動させる際に前記リチウムイオン二次電池を充電する第一の充電モード、又は、前記装置を作動させる際に前記リチウムイオン二次電池を充電する第二の充電モードであって、前記第一の充電モードよりも前記リチウムイオン二次電池の容量が大きくなるように前記リチウムイオン二次電池を充電する第二の充電モード、のいずれかの充電モードを選択するステップ(A)と、前記第二の充電モードで充電するときの目標容量を設定するステップ(B)と、前記ステップ(B)において設定された前記目標容量と、予め記憶された前記リチウムイオン二次電池の温度と容量との関係とに基づいて、前記第二の充電モードで充電するときの設定温度として、前記第一の充電モードの場合よりも高い温度に設定するステップ(C)と、前記第二の充電モードでの充電時に前記設定温度に制御するステップ(D)と、を含む、リチウムイオン二次電池の充電方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のある態様によれば、装置の動力源として用いられるリチウムイオン二次電池から、装置が必要とする際により多くの容量を引き出すことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】リチウムイオン二次電池において異なる材料の正極活物質を用いた場合に、温度と正極容量との関係を例示する図である。
図2】一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の充電システムのシステム構成を示すブロック図である。
図3】一実施形態のリチウムイオン二次電池の充電制御を示すフローチャートである。
図4図3の温度制御処理の詳細なフローチャートである。
図5】一実施形態のリチウムイオン二次電池の充電制御を示すフローチャートである。
図6】一実施形態のリチウムイオン二次電池の充電制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。
集電体上に正極活物質層が形成された正極と、集電体上に負極活物質層が形成された負極と、電解液と、を含むリチウムイオン二次電池では、正極活物質として、層状の結晶構造である層状の結晶構造を持つリチウム遷移金属複合酸化物が高エネルギー密度のリチウムイオン電池の正極活物質として好んで用いられる。このようなリチウムイオン二次電池は、温度の上昇に伴って、正極活物質の一部が相転移反応を起こし、若干の層構造の変化が発生することによって充電容量が増大する特徴がある。その反面、層状へのリチウムイオンの脱挿入反応が進みにくくなる傾向があることから、電池の使用寿命が減少する傾向にあるため、リチウムイオン電池を高温環境下で用いることは一般的には好ましくないとされている。
【0013】
しかし、本願の発明者が鋭意研究した結果、リチウムイオン二次電池を充電する際の温度を適切に制御することで、上記の相転移現象を適切に制御することができ、その結果、電池の使用寿命の減少を抑制しながらも、正極活物質の容量を一時的に増やすことができることを見出した。リチウムイオン二次電池(以下、適宜単に「電池」又は「電池セル」という。)を装置の動力源として用い、かつ、装置の動作に必要となる容量が予めわかっている場合、当該容量(目標容量)まで充電されるように、電池セルを充電するときの設定温度を制御することで、電池セルの容量を装置の動作に最適な値とすることができる。
【0014】
図1に、電池セルにおいて異なる材料の正極活物質を用いた場合に、温度と正極容量との関係を例示する。図1では、三元系正極活物質として、Li(Ni,Co,Al)O(〇で示す)とLi(Ni,Co,Mn)O(◇で示す)、三元系ではない正極活物質としてLiMn(マンガン酸リチウム)(△で示す)を図示している。
図1に示すように、特に三元系正極活物質を用いた電池セルでは、温度の変化に対する容量の変化が大きく、容量の温度依存性を有していることに加え、温度と容量の関係が概ね線形であり、温度に対する電池セルの容量の推定が行いやすいことがわかる。
そこで、図1に示した温度と電池セルの容量との関係を記述したマップデータを、電池セルを充電するときに参照することで、電池セルを目標容量まで充電することができる。
【0015】
次に、図2を参照して、一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の充電システム(以下、単に「充電システム」という。)について説明する。
図2に示すように、一実施形態の充電システムは、複数の電池セルから構成される電池モジュール2と、電池制御装置1と、電池モジュール2を充電するための充電装置5とを含む。電池制御装置1は、電池モジュール2と一体的に構成されてもよい。なお、以下の説明では、電池モジュール2は、電気自動車や小型飛行体等の移動体の動力源に用いられるものとする。移動体を作動させる前に予め電池モジュール2の充電が行われる。
【0016】
電池モジュール2の充電を行う際には、電池モジュール2と充電装置5が図示しないコネクタにより連結され、電池モジュール2を充電するための閉回路が形成される。閉回路が形成された場合、充電装置5の電源回路部52から供給される充電電流によって電池モジュール2が充電可能な状態となる。
【0017】
図2に示すように、電池制御装置1は、プロセッサ11、記憶装置12、セル監視部13、及び、通信部14を備える。
プロセッサ11は、マイクロプロセッサを主体として構成され、マイクロプロセッサが所定のプログラムを実行することで、電池制御装置1の動作を制御する。
記憶装置12(記憶部の一例)は、不揮発性メモリであり、マップデータ及び充電履歴情報を含む。
マップデータは、図1に例示した温度と電池セルの容量との関係を記述したデータである。充電履歴情報は、現在までの電池モジュール2に対する充電の履歴に関する情報であり、例えば、第二の充電モードによる過去の充電回数と設定温度とを含む。
【0018】
プロセッサ11がプログラムを実行することで、充電モード選択部111、容量設定部112、及び、温度制御部113として機能する。
【0019】
充電モード選択部111は、例えば移動体を作動させる際に電池モジュール2を充電する第一の充電モード、又は、移動体を作動させる際に電池モジュール2を充電する第二の充電モードであって、第一の充電モードよりも電池モジュール2の容量が大きくなるように電池モジュール2を充電する第二の充電モード、のいずれかの充電モードを選択する。
ここで、第一の充電モードは、例えば、移動体を通常動作させるときの充電モードである。第二の充電モードは、移動体を通常よりも長時間させる場合等、通常よりも多く電池の容量が必要となるときの充電モードである。
【0020】
一実施形態では、充電モード選択部111は、図示しない入力装置に入力されるデータ、又は、外部のホストコンピュータから通信部14を介して受信するデータに基づいて、第一の充電モード又は第二の充電モードのいずれかを選択することができる。移動体の運用者は、移動体の運行計画等により移動体の運行速度や運行距離等の情報がわかっているため、その情報を基に、いずれかの充電モードを決定し、いずれかの充電モードを示すデータを入力装置に入力、又は、ホストコンピュータから電池制御装置1に送信することができる。なお、電池制御装置1は、移動体の運行制御装置(図示せず)から充電モードを示すデータを受信してもよい。
【0021】
別の実施形態では、充電モード選択部111は、自律的に第一の充電モード又は第二の充電モードのいずれかを選択してもよい。例えば、充電モード選択部111は、移動体の運行制御装置から、移動体の現在地と移動体の目的地のデータを取得し、そのデータから目的地に辿り着くために必要な容量(必要運行容量)を算出し、必要運行容量に基づいて第一の充電モード又は第二の充電モードのいずれかを選択する。
【0022】
充電モード選択部111によって第二の充電モードが選択された場合、容量設定部112は、第二の充電モードで充電するときの目標容量を設定する。目標容量を設定するのは、必要以上に電池モジュール2を加熱して電池の使用寿命が減少することを防止するためである。
一実施形態では、容量設定部112は、移動体の運行制御装置から容量の要求値を受信する場合には、当該要求値を目標容量とすることができる。別の実施形態では、容量設定部112が自ら必要運行容量を算出し、算出した必要運行容量を目標容量としてもよい。
【0023】
温度制御部113は、第二の充電モードでの充電時において、電池モジュール2を第一の充電モードの場合よりも高い設定温度に制御する。このとき、温度制御部113は、容量設定部112により設定された目標容量と、記憶装置12が記憶するマップデータとに基づいて、設定温度を決定する。
上述したように、マップデータには、温度と電池セルの容量との関係が記述されている。そのため、温度制御部113は、マップデータを参照することで、目標容量に対応する温度を設定温度として決定することができる。電池モジュール2を設定温度に制御するために、温度制御部113は、電池モジュール2の近傍に配置された温度センサ133によって検出される温度の値をモニタしつつ、電池モジュール2の近傍に設けられるヒータ3(図2参照)に対して制御信号を送信する。
【0024】
図2に示すように、充電装置5は、制御部51、電源回路部52、通信部53、及び、電流センサ54を備える。
制御部51は、マイクロプロセッサを主体として構成され、充電装置5に接続された電池モジュール2に対する充電制御を行う。電流センサ54は、電池モジュール2を含む閉回路上に配置される。制御部51は、電流センサ54によって検出される電流値、及び/又は、電池制御装置1から供給される電池モジュール2の電圧値を基に、CCCV充電を行うように電源回路部52を制御する。
電源回路部52は、制御部51による制御の下、充電装置5に接続された電池モジュール2に対して充電電流を供給する。
通信部53は、電池制御装置1の通信部14との間で、充電方式に応じた通信プロトコルでデータ通信を行う。
【0025】
次に、図3及び図4のフローチャートを参照して、一実施形態の充電システムによる電池モジュール2に対する充電動作について説明する。図3及び図4のフローチャートは、電池制御装置1のプロセッサ11によって実行される。
図3を参照すると、プロセッサ11は、先ず充電モードを選択する(ステップS2)。前述したように、充電モードの選択は、例えば、入力装置に入力されるデータ、又は、外部のホストコンピュータから通信部14を介して受信するデータに基づいて決定される。
第一の充電モードが選択された場合、充電を行う前の温度制御を行う必要がないため、プロセッサ11は、直ちに充電処理を実行する(ステップS8)。すなわち、プロセッサ11は、充電装置5との間で電池モジュール2の充電を行うための通信を開始する。
【0026】
ステップS2で第二の充電モードが選択されたことは、通常よりも容量を増加させる必要があることを意味する。そこで、プロセッサ11は、電池モジュール2の目標容量の設定を行う(ステップS4)。目標容量の設定は、例えば上述したように、移動体の運行制御装置から容量の要求値や自ら算出した必要運行容量を基に行われる。
【0027】
次いで、プロセッサ11は、温度制御処理を実行する(ステップS6)。温度制御処理は、電池の使用寿命の減少を抑制しながらも電池モジュール2の容量を一時的に増やすことを目的として行われる。すなわち、必要以上に電池モジュール2を加熱しないように電池モジュール2に与える熱エネルギーを制御しつつ必要とされる容量が得られるよう温度制御がなされる。
【0028】
一実施形態の温度制御処理が図4に示される。
図4を参照すると、プロセッサ11は、温度と電池セルの容量との関係が記述されたマップデータを参照することで、ステップS4で設定された目標容量に対応する温度を設定温度として決定する(ステップS10)。
【0029】
次いで、プロセッサ11は、充電履歴情報を記憶装置12から読み出し(ステップS12)、充電履歴情報に基づいて制限付き温度制御を実行するか否か判断する(ステップS14)。制限付き温度制御とは、例えば、ヒータ3を介して電池モジュール2に与える熱エネルギーを制限しつつ行われる温度制御である。つまり、制限付き温度制御が実行される場合、電池モジュール2の設定温度が制限される(ステップS16)。電池モジュール2の設定温度が制限された場合、ステップS10で決定された設定温度が引き下げられることがあり得る。
【0030】
なお、ステップS14での制限付き温度制御を実行するか否かの判断、及び、制限付き温度制御を実行する場合にどの程度制限するかについては、充電履歴情報に基づいて様々な実施形態を含み得る。
一実施形態では、充電履歴情報において過去の第二の充電モードによる充電回数の情報が含まれている場合、過去の充電回数が所定の閾値以上のときに制限付き温度制御を実行することを決定する。制限付き温度制御を実行する場合、過去の充電回数が多いほど設定温度が低く抑えられるように、ステップS10で決定された設定温度が制限される。
別の実施形態では、充電履歴情報において過去の第二の充電モードにおける設定温度の情報が含まれている場合、過去の設定温度の最大値若しくは平均値が所定の閾値以上のときに制限付き温度制御を実行することを決定する。制限付き温度制御を実行する場合、過去の設定温度の最大値若しくは平均値が大きいほど設定温度が低く抑えられるように、ステップS10で決定された設定温度が制限される。
【0031】
次いで、プロセッサ11は、ステップS10で決定された設定温度、あるいは、ステップS16で制限された設定温度に基づいて、温度制御を実行する(ステップS18)。温度制御では、プロセッサ11がヒータ3に対して制御信号を送信し、それによって電池モジュール2が加熱される。プロセッサ11は、温度センサ133によって検出される温度の値が設定温度に到達したか否かモニタし(ステップS20)、設定温度に到達した場合には設定温度を維持するようにヒータ3を制御する。
【0032】
図3のフローチャートに戻る。
第二の充電モードが選択された場合、温度制御処理(ステップS6)によって電池モジュール2の温度が設定温度まで上昇した後は、プロセッサ11は、充電処理を行う(ステップS8)。この充電処理は、例えばCCCV充電等の一般的な充電でよいが、電池モジュール2を設定温度に維持した状態で行われる。それによって、第二の充電モードでは、充電完了時において第一の充電モードの場合よりも電池モジュール2の容量を高くすることができる。
充電完了後に電池モジュール2を移動体に装着した後は、電池モジュール2の温度が低下するが、いったん加熱により増加した容量が失われることはない。
【0033】
以上説明したように、一実施形態の充電システムでは、加熱することで正極活物質の容量を一時的に増やすことができるリチウムイオン二次電池を動力源として装置に用いる場合に適用される。この充電システムでは、装置を作動させる前の充電モードとして第二の充電モードが選択された場合には、電池を加熱しながら充電することで、通常よりも高い容量で装置内の電池を動作させることができる。
電池を充電する際には、電池が必要以上に高温とならないように温度制御される。すなわち、装置の作動に必要となる目標容量を基に、電池の温度と容量との関係が記述されるマップデータを参照して設定温度が決定される。電池を必要以上に加熱しないため、電池の使用寿命の減少を抑制することができる。
好ましくは、充電履歴情報に含まれる過去の第二の充電モードによる充電回数及び/又は設定温度の情報に基づいて、電池に対する設定温度が制限される。それによって、電池の使用寿命の減少をさらに抑制することができる。
【0034】
なお、一実施形態では、電池セルのサイクル劣化を考慮して設定温度を決定することが好ましい。すなわち、電池セルのサイクル劣化に伴い満充電容量が低下するため、その満充電容量の低下を補うように設定温度を決定することが好ましい。
その場合、プロセッサ11は、電池モジュール2の現在の満充電容量を推定する推定部として機能する。温度制御部113は、推定部が推定した電池モジュール2の現在の満充電容量に基づいて、設定温度を決定する。例えば、初期の満充電容量を100%とし、1000サイクル後に推定された満充電容量が80%(20%低下)である場合を想定する。その場合、所定の目標容量に対して初期の充電時に決定される設定温度がTであるとすると、同じ目標容量に対して1000サイクル時の充電時に決定される設定温度T1000は、初期と比較して20%低下した満充電容量を補うように温度Tよりも高い値とする。それによって、満充電容量の低下にも関わらず同じ容量を得ることができる。
【0035】
このような現在のサイクル数に応じた処理が、例えば図4のステップS10で行われる。
例えば、記憶装置12に、初期の満充電容量の値を記憶させておく。設定温度を決定する際には、プロセッサ11は、先ず、現在の満充電容量を推定し、初期の満充電容量と比較することで補正係数を決定する。例えば、初期の満充電容量をFCCとし、現在の満充電容量をFCCとした場合、補正係数P=FCC/FCC(ここで、0<P<1)とする。
記憶装置12に記憶されているマップデータは初期状態の電池セルに対するデータであるため、プロセッサ11は、補正係数に基づいてマップデータを補正する。例えば、所定の温度に対応する容量に補正係数を乗じた値とすることでマップデータが補正される。そしてプロセッサ11は、補正後のマップデータに基づいて、目標容量に対応する設定温度を決定する。
【0036】
一実施形態では、電池制御装置1のプロセッサ11が、電池モジュール2の電圧、又は各電池セルの電圧を閾値と比較することで電池の過充電状態を検出する検出部として機能する場合、第二の充電モードでは、第一の充電モードと比較して閾値を大きくすることが好ましい。つまり、第二の充電モードでは、第一の充電モードの場合よりも電池モジュール2の容量が増大し、充電直後の電池モジュール2、又は各電池セルの電圧が第一の充電モードの場合よりも上昇する。その際に、上昇した電圧を基に過充電状態であると誤検出することがないように、閾値を引き上げておくとよい。
【0037】
次に、別の実施形態の充電システムによる電池モジュール2対する充電動作について、図5のフローチャートを参照して説明する。図5のフローチャートは、電池制御装置1のプロセッサ11によって実行される。この実施形態の充電動作では、充電モードの選択はなく、目標容量に応じた温度制御が行われる。
【0038】
図5を参照すると、プロセッサ11は先ず、電池モジュール2の目標容量を設定する(ステップS20)。この目標容量の設定処理は、図3のステップS4と同じである。
次いでプロセッサ11は、ステップS20で設定された目標容量と所定値とを比較し(ステップS32)、その比較結果に応じて設定温度を決定する。すなわち、プロセッサ11は、目標容量が所定値未満である場合は(ステップS32:NO)、電池モジュール2の設定温度を予め定めた第一の上限温度LMT1未満とする(ステップS34)。つまり、目標容量が比較的低い場合には、電池モジュール2の容量を必要以上に増加させる必要がないため、設定温度が抑制される。
例えば、ステップS30で設定された目標容量に対応する温度が30℃であり、第一の上限温度LMT1が35℃である場合、設定温度は30~35℃の範囲内の任意の値とする。
【0039】
プロセッサ11は、目標容量が所定値以上である場合は(ステップS32:YES)、電池モジュール2の温度を第一の上限温度LMT1以上であって予め定めた第二の上限温度LMT2未満とする(ステップS36)。つまり、目標容量が比較的高い場合には、電池モジュール2の容量をより多く引き出すために設定温度を比較的高くする。その場合であっても、電池の使用寿命の減少を抑制するために、設定温度は、高くても第二の上限温度LMT2に制限される。
例えば、ステップS30で設定された目標容量に対応する温度が60℃であり、第一の上限温度LMT1が35℃、第二の上限温度LMT2が50℃である場合、設定温度は50℃とする。
【0040】
次いでプロセッサ11は、ステップS34又はS36で決定された設定温度に基づいてヒータ3に対する温度制御を実行する(ステップS38)。そして、温度センサ133によって検出される温度の値が設定温度に到達した場合には(ステップS40:YES)、充電処理を実行する(ステップS42)。充電処理では、図3のステップS8と同様に、電池モジュール2を設定温度に維持した状態で行われる。それによって、電池モジュール2の容量を、設定された目標容量、あるいは目標容量に近い値まで一時的に増加させることができる。
【0041】
次に、さらに別の実施形態の充電システムによる電池モジュール2対する充電動作について、図6のフローチャートを参照して説明する。図6のフローチャートは、電池制御装置1のプロセッサ11によって実行される。この実施形態の充電動作では、充電モードの選択はなく、目標容量に応じた温度制御が行われる。
【0042】
図6を参照すると、プロセッサ11は先ず、電池モジュール2の目標容量を設定する(ステップS30)。この目標容量の設定処理は、図3のステップS4と同じである。
次いでプロセッサ11は、ステップS30で設定された目標容量と所定値とを比較し(ステップS32)、その比較結果に応じて設定温度の条件を決定する。具体的には、プロセッサ11は、目標容量が所定値未満である場合は(ステップS32:NO)、電池モジュール2の設定温度を予め定めた上限温度LMT以上とすることを禁止する(ステップS35)。つまり、目標容量が比較的低い場合には、電池モジュール2の容量を必要以上に増加させる必要がないため、設定温度が上限温度LMT未満に抑制される。
例えば、ステップS30で設定された目標容量に対応する温度が35℃であり、上限温度LMTが50℃である場合、設定温度を50℃とすることが禁止される。なお、この例では、設定温度を35~50℃の間の値とすることができる。
【0043】
プロセッサ11は、目標容量が所定値以上である場合は(ステップS32:YES)、電池モジュール2の設定温度を上限温度LMT以上とすることを許容する(ステップS37)。つまり、目標容量が比較的高い場合には、電池モジュール2の容量をより多く引き出すために設定温度を上限温度LMT以上とすることが可能となる。
例えば、ステップS30で設定された目標容量に対応する温度が60℃であり、上限温度LMTが50℃である場合、設定温度を60℃とすることが許容される。
【0044】
次いでプロセッサ11は、ステップS35又はS37で決定された条件を満たす設定温度に基づいてヒータ3に対する温度制御を実行する(ステップS39)。そして、温度センサ133によって検出される温度の値が設定温度に到達した場合には(ステップS40:YES)、充電処理を実行する(ステップS42)。充電処理では、図3のステップS8と同様に、電池モジュール2を設定温度に維持した状態で行われる。それによって、電池モジュール2の容量を、設定された目標容量、あるいは目標容量に近い値まで一時的に増加させることができる。
【0045】
以上、本発明のリチウムイオン二次電池の充電システム、及び、リチウムイオン二次電池の充電方法の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されない。また、上記の実施形態は、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更が可能である。例えば、上述した各実施形態に記載した個々の技術的特徴は、技術的矛盾がない限り、適宜組み合わせることが可能である。
例えば、温度制御のための設定温度を決定する際、目標容量と温度との関係を記述したマップデータを参照しなくてもよい。目標容量と温度の関係を近似する関数に基づいて、目標容量に対応する温度を演算して求めてもよい。
また、本発明のリチウムイオン二次電池の充電システム、及び、リチウムイオン二次電池の充電方法は、移動体に搭載されるリチウムイオン二次電池に限られず、定置型の電力貯蔵システム(Energy Storage System:ESS)などに適用することもできる。
【符号の説明】
【0046】
1…電池制御装置
11…プロセッサ
111…充電モード選択部
112…容量設定部
113…温度制御部
12…記憶装置
13…セル監視部
131…電圧センサ
132…電流センサ
133…温度センサ
14…通信部
2…電池モジュール
3…ヒータ
5…充電装置
51…制御部
52…電源回路部
53…通信部
54…電流センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6