(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023030372
(43)【公開日】2023-03-08
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池の放電方法、リチウムイオン二次電池の制御装置、移動体の制御システム
(51)【国際特許分類】
H01M 10/44 20060101AFI20230301BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20230301BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230301BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20230301BHJP
G01R 31/378 20190101ALI20230301BHJP
G01R 31/3842 20190101ALI20230301BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20230301BHJP
H01M 4/505 20100101ALN20230301BHJP
H01M 4/525 20100101ALN20230301BHJP
【FI】
H01M10/44 P
H01M10/48 P
H01M4/36 E
H01M4/58
G01R31/378
G01R31/3842
H02J7/00 B
H01M4/505
H01M4/525
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021135463
(22)【出願日】2021-08-23
(71)【出願人】
【識別番号】515090628
【氏名又は名称】株式会社スリーダムアライアンス
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一也
(72)【発明者】
【氏名】吉田 孝
(72)【発明者】
【氏名】▲柳▼澤 良太
【テーマコード(参考)】
2G216
5G503
5H030
5H050
【Fターム(参考)】
2G216BA02
2G216BA04
5G503BB02
5G503DA02
5H030AA01
5H030AA10
5H030AS08
5H030BB21
5H030FF44
5H050CA01
5H050CA09
(57)【要約】
【課題】リチウムイオン二次電池の放電深度が深い領域において放電容量を効率良く引き出す。
【解決手段】一実施形態のリチウムイオン二次電池の放電方法において、リチウムイオン二次電池は、正極集電体上に正極活物質層の形成された正極と、負極集電体上に負極活物質層の形成された負極と、電解液と、を少なくとも含み、正極は、正極活物質として、連続する範囲の充電率の間で電池の充電率を放電方向に変化させたとき、充電率の変化に対して電圧の変化量が相対的に大きい第一範囲から、電圧の変化量が相対的に小さい第二範囲に移行する第一の正極活物質を少なくとも含む。この放電方法は、リチウムイオン二次電池の充電率が第二範囲に達した場合に、放電レートを低くすることを含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池の放電方法であって、
前記リチウムイオン二次電池は、正極集電体上に正極活物質層の形成された正極と、負極集電体上に負極活物質層の形成された負極と、電解液と、を少なくとも含み、
前記正極は、正極活物質として、連続する範囲の充電率の間で電池の充電率を放電方向に変化させたとき、前記充電率の変化に対して電圧の変化量が相対的に大きい第一範囲から、電圧の変化量が相対的に小さい第二範囲に移行する第一の正極活物質を少なくとも含み、
前記方法は、
前記リチウムイオン二次電池が前記第二範囲に達した場合に、放電レートを低くすることを含む、リチウムイオン二次電池の放電方法。
【請求項2】
前記リチウムイオン二次電池の充電率が前記第二範囲に達した場合に、前記リチウムイオン二次電池の残容量に基づいて以降の放電における放電レートを決定すること、をさらに含む、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池の放電方法。
【請求項3】
前記リチウムイオン二次電池において、放電終止状態に設定される充電率をSOCEとし、充電終止状態に設定される充電率をSOCBとし、前記第二範囲に対応する充電率をSOCIPとしたとき、
(SOCIP-SOCE)/(SOCB-SOCE)の値が0.05以上0.10以下である、
請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池の放電方法。
【請求項4】
前記正極は、正極活物質として、
前記第一の正極活物質と、
前記第一の正極活物質と異なる第二の正極活物質と、を少なくとも含む、
請求項1から3のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池の放電方法。
【請求項5】
前記正極活物質の重量の総和を100重量部としたとき、前記第一の正極活物質の占める重量が50重量部未満である、
請求項4に記載のリチウムイオン二次電池の放電方法。
【請求項6】
前記第一の正極活物質がリン酸マンガン鉄リチウムであり、
前記リチウムイオン二次電池が前記第二範囲にあるときの放電電圧が3.3V~3.5Vの範囲である、
請求項1から4のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池の放電方法。
【請求項7】
前記第二の正極活物質が層状構造を持つリチウム金属複合酸化物である、
請求項5又は6に記載のリチウムイオン二次電池の放電方法。
【請求項8】
リチウムイオン二次電池の制御装置であって、
前記リチウムイオン二次電池は、正極集電体上に正極活物質層の形成された正極と、負極集電体上に負極活物質層の形成された負極と、電解液と、を少なくとも含み、
前記正極は、正極活物質として、連続する範囲の充電率の間で電池の充電率を放電方向に変化させたとき、前記充電率の変化に対して電圧の変化量が相対的に大きい第一範囲から、電圧の変化量が相対的に小さい第二範囲に移行する第一の正極活物質を少なくとも含み、
前記制御装置は、
前記リチウムイオン二次電池が前記第二範囲に達した場合に、放電レートを低くする放電レート変更部を備えた、
リチウムイオン二次電池の制御装置。
【請求項9】
前記変更部は、リチウムイオン二次電池が前記第二範囲に達した場合に、前記リチウムイオン二次電池の残容量に応じて、以降の放電における放電レートを決定する、
請求項8に記載のリチウムイオン二次電池の制御装置。
【請求項10】
前記リチウムイオン二次電池において、放電終止状態に設定される充電率をSOCEとし、充電終止状態に設定される充電率をSOCBとし、前記第二範囲に対応する充電率をSOCIPとしたとき、
(SOCIP-SOCE)/(SOCB-SOCE)の値が0.05以上0.10以下である、
請求項8または9に記載のリチウムイオン二次電池の制御装置。
【請求項11】
前記正極は、正極活物質として、
前記第一の正極活物質と、
前記第一の正極活物質と異なる第二の正極活物質と、を少なくとも含む、
請求項8から10のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池の制御装置。
【請求項12】
前記正極活物質の重量の総和を100重量部としたとき、前記第一の正極活物質の占める重量が50重量部未満である、
請求項11に記載のリチウムイオン二次電池の制御装置。
【請求項13】
前記第一の正極活物質がリン酸マンガン鉄リチウムであり、
前記リチウムイオン二次電池が前記第二範囲にあるときの放電電圧が3.3V~3.5Vの範囲である、
請求項8から12のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池の制御装置。
【請求項14】
請求項8から13のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池の制御装置を有し、前記リチウムイオン二次電池が移動体の駆動源として用いられる移動体の制御システムであって、
前記リチウムイオン二次電池を動作させる第一の運行モードと、前記第一の運行モードよりも小さい放電レートにより前記リチウムイオン二次電池を動作させる第二の運行モード、のいずれかの運行モードで前記移動体を運行するように制御する運行制御部を備え、
前記運行制御部は、前記第一の運行モードにより前記移動体を運行中に前記リチウムイオン二次電池が前記第二範囲に達した場合には、運行モードを前記第二の運行モードに切り替える、
移動体の制御システム。
【請求項15】
前記移動体の目的地までの運行に必要な前記リチウムイオン二次電池の放電容量である運行容量を算出する算出部と、
前記推定部により推定された前記リチウムイオン二次電池の残容量と、前記算出部により算出された運行容量とを比較する比較部と、
をさらに備え、
前記運行制御部は、前記第一の運行モードにより前記移動体を運行中に前記リチウムイオン二次電池が前記第二範囲に達した場合には、それ以降に前記第一の運行モードで運行を続けた場合に前記残容量が前記運行容量より少ないことを条件として、運行モードを前記第二の運行モードに切り替える、
請求項14に記載の移動体の制御システム。
【請求項16】
前記移動体が飛行体である、請求項14又は15に記載の移動体の制御システム。
【請求項17】
前記移動体が、専ら前記リチウムイオン二次電池を駆動源として有する二輪以上の車輪を有する車両である、請求項14又は15に記載の移動体の制御システム。
【請求項18】
前記移動体が、専ら前記リチウムイオン二次電池を駆動源として有する船舶もしくは潜水体である、請求項14又は15に記載の移動体の制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池の放電方法に関する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータ、ビデオカメラ等の携帯型コードレス製品は益々小型化、ポータブル化が進んでいる。また、大気汚染や二酸化炭素の増加等の環境問題の観点から、ハイブリッド自動車、電気自動車、電動船舶や、ドローンをはじめとする小型飛行体等の電動移動体の開発がすすめられ、実用化の段階となっている。これら電子機器や電気自動車等のなど電動移動体には、高効率、高出力、高エネルギー密度、軽量等の特徴を有する優れた二次電池が求められている。このような特性を有する二次電池の開発、研究が盛んに行われ、リチウム電池やリチウムイオン電池等の二次電池が種々実用化されている。
その中でも、層状の結晶構造であるニッケル、コバルト、マンガンなどの複合酸化物は、その層間に電気的に活性なリチウムイオンが脱挿入されることにより、高エネルギー密度のリチウムイオン電池の正極活物質として好んで用いられる(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、正極活物質として、上記の層状金属酸化物のみを用いたリチウムイオン二次電池においては、放電深度(DOD)が深い領域で徐々に電圧が低下した後、DOD100%近傍の領域で急速に電圧が低下する放電曲線を示す。このため、このような正極活物質で作製した正極を含む二次電池を、特にドローン等の、飛行中に大電流放電を必要とする移動体の駆動源として用いた場合、突如として電池が作動しなくなるという問題が生じやすかった。
【0005】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、リチウムイオン二次電池の放電深度が深い領域において放電容量を効率良く引き出すことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の観点は、リチウムイオン二次電池の放電方法であって、前記リチウムイオン二次電池は、正極集電体上に正極活物質層の形成された正極と、負極集電体上に負極活物質層の形成された負極と、電解液と、を少なくとも含み、前記正極は、正極活物質として、連続する範囲の充電率の間で電池の充電率を放電方向に変化させたとき、前記充電率の変化に対して電圧の変化量が相対的に大きい第一範囲から、電圧の変化量が相対的に小さい第二範囲に移行する第一の正極活物質を少なくとも含み、前記方法は、前記リチウムイオン二次電池の充電率が前記第二範囲に達した場合に、放電レートを低くすることを含む、リチウムイオン二次電池の放電方法である。
【0007】
本発明の第2の観点は、リチウムイオン二次電池の制御装置であって、前記リチウムイオン二次電池は、正極集電体上に正極活物質層の形成された正極と、負極集電体上に負極活物質層の形成された負極と、電解液と、を少なくとも含み、前記正極は、正極活物質として、連続する範囲の充電率の間で電池の充電率を放電方向に変化させたとき、前記充電率の変化に対して電圧の変化量が相対的に大きい第一範囲から、電圧の変化量が相対的に小さい第二範囲に移行する第一の正極活物質を少なくとも含み、前記制御装置は、前記リチウムイオン二次電池の充電率が前記第二範囲に達した場合に、放電レートを低くする放電レート変更部を備えた、リチウムイオン二次電池の制御装置である。
【0008】
本発明の第3の観点は、上記リチウムイオン二次電池の制御装置を有し、前記リチウムイオン二次電池が移動体の駆動源として用いられる移動体の制御システムであって、前記リチウムイオン二次電池を動作させる第一の運行モードと、前記第一のモードよりも小さい放電レートにより前記リチウムイオン二次電池を動作させる第二の運行モード、のいずれかの運行モードで前記移動体を運行するように制御する運行制御部を備え、前記運行制御部は、前記第一の運行モードにより前記移動体を運行中に前記リチウムイオン二次電池が前記第二範囲に達した場合には、運行モードを前記第二の運行モードに切り替える、移動体の制御システムである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のある態様によれば、リチウムイオン二次電池の放電深度が深い領域において放電容量を効率良く引き出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態と比較例の二次電池セルの放電曲線を示す図である。
【
図3】一実施形態の移動体の制御システムの構成を示す図である。
【
図4】一実施形態の移動体の制御システムの動作を示すフローチャートである。
【
図5】変曲点判定処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
オリビン構造を有するリン酸塩系の正極活物質(リン酸鉄リチウム(LFP)及びリン酸マンガン鉄リチウム(LMFP))を用いた二次電池(以下、適宜単に「電池」という。)では、放電電圧3.3~3.5V付近において、ある一定の容量の変化に対して電圧の変化がほとんどないプラトー領域が出現することが知られている。中でも、正極活物質としてリン酸マンガン鉄リチウムを用いた電池は、放電時に同じようにプラトー領域が出現するリン酸鉄リチウムを用いた電池に比べて容量が大きく、電池の高エネルギー密度化に適している。
【0012】
リン酸塩系の正極活物質として、層状金属酸化物と混合して用いたリチウムイオン二次電池においては、DOD(放電深度)100%近傍で急速に電圧が低下する前に、セル容量とセル電圧の関係を示す放電曲線上に、上記のプラトー領域に起因した変曲点が生じる。
層状金属酸化物は限定しないが、例えば、層状構造を持つリチウム金属複合酸化物であるニッケルマンガンコバルト酸リチウム(以下、「NMC」という。)が挙げられる。本願発明者は、層状金属酸化物をリン酸塩系の正極活物質に混合したものを正極活物質として使用することで、リチウムイオン二次電池の放電末期の電圧の変化をモニタしやすくなり、その結果、電池の急停止に先駆けて、放電電流を抑える制御を行うことが可能となることを見出した。
【0013】
NMCをリン酸塩系の正極活物質に混合するのは、以下の点で都合が良い。
NMCに由来する変曲点は、放電終止電圧より僅かに高い3.2~3.5V付近であり、リチウムイオン二次電池の放電末期をモニタしやすい。また。NMCの比容量と、リン酸鉄リチウム又はリン酸マンガンリチウムの比容量との差が小さいため、両者を混合して用いてもエネルギー密度が大きく低下しない。
そのため、NMCをリン酸塩系の正極活物質に混合する場合に、特に本願の効果が発揮される。リン酸塩系の正極活物質の中でも、容量が大きい電池を実現可能である点でリン酸マンガン鉄リチウムを正極活物質として用いることが好ましい。
【0014】
図1に、一実施形態と比較例の電池セルの放電曲線を示す。
図1には、比較例に係る電池セルとして、正極活物質としてNMC532(LiNi
0.5Mn
0.3Co
0.2O
2)のみを用いて活物質層を形成した正極を用いた電池セルの放電曲線(NMC532のみ)を含む。
図1にはさらに、一実施形態に係る電池セルとして、正極活物質の重量の総和を100重量部としたとき、NMC532を80重量部、リン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)を20重量部混合して活物質層を形成した正極を用いた電池セルの放電曲線(NMC532:LMFP=80:20)と、正極活物質の総重量を100重量部としたとき、NMC532を60重量部、リン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)を40重量部混合して活物質層を形成した正極を用いた電池セルの放電曲線(NMC532:LMFP=60:40)とを含む。
ここで、リン酸マンガン鉄リチウムは第一の正極活物質の一例であり、NMC532は第二の正極活物質の一例である。
【0015】
図1の放電曲線において電池セルの放電深度が比較的高い領域を拡大して示すように、正極活物質としてNMC532のみを用いて形成した正極を用いた比較例の電池セルでは、放電末期においてセル電圧が急激に低下する。そのため、当該電池セルが例えばドローン等の移動体に搭載されていたならば、放電末期においてセル電圧が急激に放電終止電圧まで低下し、移動体の運行に突然の支障が生じうる。
【0016】
図1に示すように、正極活物質としてNMC532とリン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)とを混合して活物質層を形成した正極を用いた一実施形態の電池セルでは、放電曲線に沿って放電しているとき、すなわち、連続する範囲の充電率の間で電池の充電率を放電方向に変化させたとき、充電率の変化に対して電圧の変化量(低下量)が相対的に大きい第一範囲R1と、電圧の変化量(低下量)が相対的に小さい第二範囲R2と、を有する。別の観点では、放電曲線に沿って充電率が放電方向に変化しているときにセル電圧を関数V(t)で表す場合、V(t)の2階微分の符号が変化する前のセル容量の範囲が第一範囲R1に対応し、符号が変化した後のセル容量の範囲が第二範囲R2に対応する。
なお、
図1の範囲R1,R2は、正極活物質としてNMC532とリン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)とを60:40の割合で混合して形成した正極を用いた電池セルの場合について示している。
【0017】
電池セルを使用して放電しているときに(つまり、
図1の放電曲線に沿ってセル電圧が低下している場合)、正極活物質としてNMC532とリン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)とを混合して活物質層を形成した正極を用いた電池セルでは、放電末期において第一範囲R1から第二範囲R2に移行する。ここで、第一範囲R1から第二範囲R2に切り替わる点は、リン酸マンガンリチウムの放電特性のプラトー領域に起因する変曲点Pである。
図1に示すように、一実施形態の電池セルでは、充電率が低下して第二範囲R2に達した場合、つまり、変曲点Pに達した場合の放電電圧は、3.3V~3.5Vの範囲である。
【0018】
一実施形態の電池セルは変曲点Pを有するため、当該電池セルが動作中に変曲点Pに達したか否かモニタすることで、放電終止電圧が近いか否か判断することができる。一実施形態の電池セルを移動体に搭載した場合、変曲点Pに達したことを検知した場合には、電池セルの放電終止電圧が近いことを認識できるとともに、それ以降の放電レートを低下させることで電池セルの残容量を有効活用できるようになる。
【0019】
正極活物質としてNMC532とリン酸マンガン鉄リチウムとを混合する場合のリン酸マンガン鉄リチウムの比率は限定しないが、正極活物質の重量の総和を100重量部としたとき、リン酸マンガン鉄リチウムの占める重量が50重量部未満である。リン酸マンガン鉄リチウムの占める重量が50重量部以上になると、変曲点Pに達するまでに使用可能な電池の容量が減少する。
【0020】
次に、
図2及び
図3を参照して、一実施形態の航空機制御システム1(移動体の制御システムの一例)について説明する。
図2は、航空機制御システム1が実装された航空機AV(飛行体の一例)の斜視図である。航空機AVは限定しないが、例えばドローン等の無人航空機である。航空機AVの翼部12には、駆動部4によって動作するプロペラ14が設けられる。例えば翼部12には、電池モジュールBTが設置され、駆動部4に電力を供給する。航空機AVの胴体部16には、電池モジュールBTと電気的に接続されるECU(Electrical Control Unit)2が設けられる。
【0021】
図3に、航空機制御システム1の概略的なシステム構成を示す。
図3に示すように、航空機制御システム1は、ECU2、電源部3、駆動部4、データ取得部6、ストレージ7、及び、通信部8を備える。
【0022】
ECU2は、プロセッサおよびメモリ(RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory))を有し、所定のプログラムを実行することで、航空機制御システム1の全体を制御する。ECU2は、データ取得部6によって取得されるデータに基づいて、飛行制御(例えば、自律航行制御)等の様々な制御を行う。
なお、ECU2は、運行制御部の一例である。
【0023】
データ取得部6は、
図3に示すように、例えば、GPS受信機61及び対気速度センサ62を含む。ECU2は、データ取得部6の各装置によって取得されたデータを逐次、あるいは必要に応じて、ストレージ7に記録する。ストレージ7は、HDD(Hard Disk Drive)等の大規模記憶装置である。
【0024】
GPS(Global Positioning System)受信機61は、GPS衛星から受信する信号を基に航空機AVの位置(経緯度の値)を特定する。対気速度センサ62は、例えばピトー管を利用して航空機AVの対気速度を検出する。
【0025】
ECU2は、GPS受信機61から飛行位置情報を逐次取得する。飛行位置情報は、航空機AVの現在の経緯度の情報である。
ECU2は、通信部8を介して取得されるか、又は予めオペレータから予め入力された目的地の情報(経緯度の情報)と、飛行位置情報とに基づいて、目的地までに必要なセル容量(以下、「運行容量」という。)を算出する。
ECU2は、現在の放電レート(現在レート)でのセル容量を電源部3から取得し、取得したセル容量と、運行容量とを比較し、比較結果に応じて放電レートを変更するための処理を行う。
ECU2は、運行制御部、算出部、及び、比較部の一例である。
【0026】
駆動部4は、ESC(Electric Speed Controller)41およびモータ42を含む。
モータ42は、電池モジュールBTの電力によって動作する航空機AVの動力源である。ESC41は、ECU2からの航空機AVの要求速度指令に基づいてモータ42の回転数の制御を行う。
通信部8は、航空機AVを管理するオペレータが操作する外部の通信機器(図示せず)から、航空機AVの運行経路及び/又は運行速度等の指示情報を受信し、ECU2に通知する。ECU2は、通信部8から受信する指示情報に基づいて航空機AVの自律航行制御を行う。通信部8はまた、ECU2が故障を検出した場合、ECU2による指示に基づいて、外部の通信機器に対して故障通知を送信する。
【0027】
図3に示すように、電源部3は、BMS(Battery Management System)31、充電部34、電圧センサ36、電流センサ37、及び、電池モジュールBTを備える。BMS31は、リチウムイオン二次電池の制御装置の一例である。
BMS31は、プロセッサおよびメモリ(RAMおよびROM)を有し、所定のプログラムを実行することで電源部3の全体を制御する。BMS31は、ECU2と通信可能に構成されている。
電池モジュールBTは、例えば、複数の電池セルを直列及び/又は並列に接続してモジュール化したものである。各電池セルは、NMC532にリン酸マンガン鉄リチウムを混合した正極活物質を用いたものであり、上述した変曲点を有する。なお、電池モジュールBTに含まれる各電池セルの放電特性や充電率は、概ね同じであるとみなしてよいため、適宜、単一の電池セルに対する制御について言及する。
【0028】
BMS31は、現在の充放電サイクル数を記憶する不揮発性メモリを含む。電池モジュールBTに対する充電が行われる度に、不揮発性メモリに記憶されている充放電サイクル数が更新される。不揮発性メモリには、後述するマップデータも記憶されている。
【0029】
電圧センサ36は、電池モジュールBTの充電電圧(閉回路電圧)を検出するように構成される。電流センサ37は、電池モジュールBTに接続される配線を流れる電流を検出するように構成される。
電圧センサ36及び電流センサ37の検出信号は、逐次BMS31に送信される。
【0030】
充電部34は、例えば航空機AVの離陸前(つまり、運行開始前)に、図示しない外部の充電器(あるいは充電ステーション)に接続して電池モジュールBTの充電を行うためのインタフェースである。充電部34を介した外部の充電器による電池モジュールBTに対する充電は、BMS31による制御の下で行われる。
【0031】
BMS31は、電源部3内の各センサからの検出信号を受信し、各検出信号をデジタル信号に変換するA/D変換器を有する。各検出信号のデジタル信号がプロセッサに取り込まれる。BMS31では、プロセッサがプログラムを実行することで、例えば、電圧センサ36及び電流センサ37の検出信号(デジタル値)を基に、電池モジュールBTのSOC(State of Charge;充電率)を算出する。
BMS31は、電池モジュールBTの各セルが変曲点(
図1の変曲点Pを参照)に達したか否か判定する処理を行う。BMS31はまた、ECU2から放電レートの変更指示を受信した場合に、電池モジュールBTの放電レートを変更する処理を行う。
【0032】
次に、一実施形態の航空機制御システム1において、ECU2及び電源部3によって実行される処理について、
図4および
図5を参照して説明する。
図4は、一実施形態の航空機制御システム1の動作を示すフローチャートである。
図4において、ステップS2~S4は、実質的に電源部3のBMS31において実行される処理であり、電池モジュールBTの各電池セルが変曲点に達したか否かを判定する処理に相当する。
BMS31は、電圧センサ36から電池モジュールBTの閉回路電圧の取得タイミングになる度に(ステップS2:YES)、変曲点判定処理を実行する(ステップS4)。閉回路電圧の取得タイミングは限定しないが、後述する変曲点の判定に支障が生じない程度の時間の間隔に適宜設定される。ステップS4の変曲点判定処理の詳細を
図5のフローチャートに示す。
【0033】
図5を参照すると、BMS31は、電圧センサ36及び電流センサ37からそれぞれ、電池セルの閉回路電圧及び電流の値を取得し(ステップS20)、セル容量に対するセル電圧Vの関数をV(t)としたときのV(t)の2階微分の符号が変化したか否かを判断する(ステップS22)。言い換えれば、放電量Q(=電池セルの電流I×時間t)に対するセル電圧Vの変化率の符号が変化したか否か判断する。
なお、放電量Qに対するセル電圧Vの変化率は、セル電圧の充電率に対するセル電圧Vの変化率と等価である。
【0034】
図1に示した放電曲線に沿って電池セルが動作している場合に、放電曲線の横軸は、放電量Qに対応しているため、V/(I・t)(あるいは、単位時間当たりの電圧の低下量)が相対的に大きい範囲が第一範囲R1に対応し、V/(I・t)が相対的に小さい領域が第二範囲R2に対応する。あるいは、放電曲線に沿って充電率が放電方向に変化しているときに、セル容量に対するセル電圧Vの関数をV(t)としたときのV(t)の2階微分の符号がプラスである範囲が第一範囲R1に対応し、当該2階微分の符号がマイナスである範囲が第二範囲R2に対応する。
なお、電池セルの電圧及び電流の離散値からセル容量に対するセル電圧Vの関数をV(t)としたときのV(t)の2階微分の値、すなわち上記V/(I・t)の変化率を算出するために、BMS31は、ステップS20において取得した電圧及び電流の値の前回値等をメモリに記録しておく。ステップS22における閾値Thは、使用する電池セルの正極の特性(例えば
図1に示した放電曲線)に基づいて予め決定しておく。
【0035】
V(t)の2階微分の符号が変化していない場合には(ステップS22:NO)、BMS31は、電池セルの充電率が第一範囲R1にあり、未だ変曲点に達していないと判断する(ステップS24)。
【0036】
他方、V(t)の2階微分の符号が変化した場合であっても(ステップS22:YES)、BMS31は、直ちに変曲点に達したとは判断しない。
図1において、例えば正極活物質としてNMC532とリン酸マンガン鉄リチウムとの混合割合が60:40であるように活物質層を形成した正極を用いた電池セルの放電曲線(NMC532:LMFP=60:40)において顕著に見られるように、セル電圧が高く充電率が高い場合においてもV(t)の2階微分の符号が変化する変曲点が存在する。そのため、本来検出すべき変曲点(つまり、充電率が低いときの変曲点)として、充電率が高いときの変曲点を誤って検出してしまわないように、条件が設定されている。
具体的には、BMS31は、セル電圧が3.2~3.4Vの範囲内にあるという条件(ステップS26)、又は、充電率が所定範囲内にあるという条件(ステップS28)の少なくともいずれかを満たす場合に、充電率が低いときの変曲点であると判断する(ステップS30)。
【0037】
充電率が所定範囲内にあるという条件(ステップS28)は、放電終止状態に設定される充電率をSOCEとし、充電終止状態に設定される充電率をSOCBとし、変曲点に対応する充電率をSOCIPとしたとき、(SOCIP-SOCE)/(SOCB-SOCE)の値が0.05以上0.10以下である、というものである。ここで、SOCIPは、ステップS20において取得した電圧及び電流の値に基づいて算出された充電率である。
【0038】
変曲点判定処理において変曲点であるか否かの判定が完了すると、
図4のステップS6の処理に移る。変曲点判定処理において変曲点でないと判定された場合には(ステップS6:NO)、ステップS8~S14の処理は行われない。
変曲点判定処理において変曲点であると判定された場合には(ステップS6:YES)、BMS31はECU2に対して電池セルが変曲点に達したことを通知し、当該通知に応じてECU2は、ステップS8~S14の処理を行う。電池セルが変曲点に達したことは各電池セルのセル電圧が充電終止電圧に近付いていることを意味するため、ECU2は、必要に応じて電池セルの放電レートを変更する処理を行う。その処理がステップS8~S14である。
【0039】
ECU2は、先ずGPS受信機61から飛行位置情報を取得する(ステップS8)。次いで、ECU2は、現在の飛行位置から目的地(既知)までに必要なセル容量CR(以下、適宜「運行容量」という。)を算出する(ステップS10)。
セル容量CRは、例えば以下のようにして算出できる。現在の飛行位置から目的地までの距離Lとし、現在の速度Sをとしたとき、目的地までの時間はL/Sである。このとき、現在の放電レートに相当する電流がICである場合、必要なセル容量CRはIC×(L/S)である。
次に、ECU2は、現在の放電レートでのセル容量(つまり、残容量)と、必要なセル容量CR(運行容量)とを比較する。なお、ECU2は、各電池セルの残容量をBMS31から取得する。
【0040】
BMS31は、電池セルの残容量を特定するために、マップデータを記憶している。具体的には、BMS31は、(i)充放電サイクルを横軸、満充電容量を縦軸としたときの放電レート違いのデータである第1のマップデータと、(ii)セル容量を横軸、セル電圧を縦軸としたときの放電レート違いのデータ(
図1の放電曲線の放電レート違いのデータに相当する)である第2のマップデータと、を記憶している。
そして、BMS31は、電池モジュールBTの現在の充放電サイクル数と現在までの代表的な放電レートから、第1のマップデータを参照して、現在の満充電容量を特定する。
BMS31は次いで、現在の満充電容量と、現在のセル電圧と、第2のマップデータとに基づいて、電池セルの残容量を算出する。なお、BMS31は、第2のマップデータを参照せずに、直前の充電後の電池セルに流れる電流を積算し、その積算値と、現在の満充電容量とに基づいて、電池セルの残容量を算出してもよい。
【0041】
残容量が運行容量よりも少ない場合には(ステップS12:YES)、現在の放電レートでは目的地まで辿り着かないため、ECU2は、放電レートを低下させる変更を行うことを決定する(ステップS14)。放電レートを変更することが決定された場合、ECU2は、放電レートの変更をBMS31に指示し、指示に応じてBMS31が放電レートの変更を行う。なお、放電レートの変更前の運行が第一の運行モードの一例であり、放電レートの変更後の運行が第二の運行モードの一例である。
逆に、残容量が運行容量と同じかそれ以上である場合には(ステップS12:NO)、現在の放電レートで目的地まで辿り着くため、ECU2は、放電レートの変更を行わないことを決定する。
【0042】
ステップS14で放電レートを変更する際には、BMS31は、電池セルの残容量に基づいて以降の放電における放電レートを決定する。
一実施形態では、必要以上に低速で運行させる必要はないため、残容量が運行容量と等しくなるように放電レートを変更する。放電レートごとに電池セルから引き出せる電気量が異なるため、BMS31は、上記第2のマップデータを参照して、残容量が運行容量と等しくなるよう放電レートを決定する。余裕を考慮して、残容量が運行容量よりも少し大きくなる放電レートとしてもよい。
【0043】
ステップS2~S14の一連の処理は、飛行終了となるまで繰り返し行われ(ステップS16:NO)、例えば目的地に着地する等、飛行終了とともに終了する。
【0044】
以上説明したように、一実施形態の航空機制御システム1によれば、変曲点を有する複数の電池セルからなる電池モジュールBTから電力を得る航空機AVに対して、電池モジュールBTの各電池セルの電圧及び電流の値を逐次取得し、電池セルが変曲点に達するかモニタする。そのため、電池セルが放電終止電圧に近い放電末期であるか適時に判断することができる。電池セルが変曲点に達した場合には、電池モジュールBTの残容量が運行容量よりも少ない場合に放電レートを下げる変更が行われる。そのため、電池モジュールBTの容量を効率的に引き出して航空機AVが目的地まで辿り着けるようにその航続距離を延ばすことができる。
【0045】
なお、
図4に示したフローチャートでは、変曲点判定処理において、電池セルが変曲点に達したか否かを判断したが、変曲点に達したか否かを、放電レートを変更する契機にする場合に限られない。V/(I・t)の変化率が比較的大きい範囲が第一範囲R1からV/(I・t)の変化率が比較的小さい領域が第二範囲R2に移行したことを契機として放電レートを変更すればよいため、変曲点に達した直後に限られず、第二範囲R2内の任意の充電率において放電レートを変更してもよい。
【0046】
図5のフローチャートのステップS22では、V/(I・t)の変化率が所定の閾値Th以上になった場合に、近似的に変曲点であると判断するように構成したが、その限りではない。V/(I・t)の2階微分の値の符号が変化した場合に変曲点であると判断してステップS26に進んでもよい。
【0047】
移動体は、飛行体である場合に限られない。
一実施形態では、移動体は、専ら電池モジュールを駆動源として有する二輪以上の車輪を有する車両であってもよい。
別の実施形態では、移動体は、専ら電池モジュールを駆動源として有する船舶もしくは潜水体であってもよい。
【0048】
以上、本発明のリチウムイオン二次電池の放電方法、リチウムイオン二次電池の制御装置、及び、移動体の制御システムの実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されない。また、上記の実施形態は、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更が可能である。例えば、上述した実施形態において言及された個々の技術的特徴は、技術的矛盾がない限り、適宜組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0049】
AV…航空機
12…翼部
14…プロペラ
16…胴体部
1…航空機制御システム
2…ECU
3…電源部
BT…電池モジュール
31…BMS
34…充電部
36…電圧センサ
37…電流センサ
4…駆動部
41…ESC
42…モータ
6…データ取得部
61…GPS受信機
62…対気速度センサ
7…ストレージ
8…通信部