(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023030373
(43)【公開日】2023-03-08
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池の充電方法、リチウムイオン二次電池の充電装置
(51)【国際特許分類】
H01M 10/44 20060101AFI20230301BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20230301BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20230301BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230301BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20230301BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20230301BHJP
H02J 7/10 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
H01M10/44 A
H01M10/44 Q
H01M10/48 P
H01M10/0566
H01M10/052
H01M4/525
H01M4/505
H02J7/10 C
H02J7/10 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021135464
(22)【出願日】2021-08-23
(71)【出願人】
【識別番号】515090628
【氏名又は名称】株式会社スリーダムアライアンス
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一也
(72)【発明者】
【氏名】江 恒▲ウェイ▼
【テーマコード(参考)】
5G503
5H029
5H030
5H050
【Fターム(参考)】
5G503AA01
5G503BA01
5G503BB02
5G503CA03
5G503CA08
5G503CA12
5G503CA17
5G503EA05
5G503FA06
5G503GD03
5G503GD04
5G503GD06
5H029AJ02
5H029AK03
5H029AL12
5H029AM01
5H029DJ17
5H029HJ02
5H029HJ18
5H029HJ19
5H030AA01
5H030AS03
5H030AS08
5H030AS11
5H030AS14
5H030BB01
5H030BB02
5H030BB03
5H030BB04
5H030FF41
5H030FF42
5H030FF43
5H050AA02
5H050BA16
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB12
5H050FA19
5H050HA02
5H050HA18
5H050HA19
(57)【要約】
【課題】リチウムイオン二次電池を充電する際に、寿命劣化を抑制しつつ充電容量を確保する。
【解決手段】一実施形態に係るリチウムイオン二次電池を充電する方法において、リチウムイオン二次電池は、集電体上に正極活物質層が形成された正極と、負極と、電解液と、を少なくとも含み、正極は、正極活物質として、層状構造からなるリチウム複合酸化物を少なくとも含む。この方法は、連続する範囲で電池の充電率を上昇する方向に変化させたとき、充電率の変化に対して電圧の変化量が相対的に大きい第一範囲から、電圧の変化量が相対的に小さい第二範囲に移行する変曲点に達した場合に、充電電圧を維持または減少させるように充電を行うステップ、を有する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池を充電する方法であって、
前記リチウムイオン二次電池は、集電体上に正極活物質層が形成された正極と、負極と、電解液と、を少なくとも含み、前記正極は、前記正極活物質として、層状構造からなるリチウム複合酸化物を少なくとも含み、
前記方法は、
連続する範囲で電池の充電率を上昇する方向に変化させたとき、前記充電率の変化に対して電圧の変化量が相対的に大きい第一範囲から、電圧の変化量が相対的に小さい第二範囲に移行する変曲点に達した場合に、充電電圧を維持または減少させるように充電を行うステップ、を有する、
リチウムイオン二次電池の充電方法。
【請求項2】
前記充電を行うステップは、
前記変曲点に対応する電圧までは定電流(CC)充電を行うステップ(A)と、
前記変曲点に対応する電圧に達した後、定電圧(CV)充電に切換えて前記変曲点に対応する電圧を維持するように充電電流を減少させながら充電を行うステップ(B)と、
を有する
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池の充電方法。
【請求項3】
前記リチウムイオン二次電池において、放電終止状態に設定される充電率をSOCEとし、充電終止状態に設定される充電率をSOCBとし、前記変曲点に対応する充電率をSOCIPとしたとき、
(SOCB-SOCIP)/(SOCB-SOCE)の値が0.05以上0.10以下である、
請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池の充電方法。
【請求項4】
前記所定電圧が4.2V以上である、
請求項1から3のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池の充電方法。
【請求項5】
前記リチウム複合酸化物がLixNiyCozMnwM(1-y-z-w)O2
(0.8≦x≦1.2、0<y<1、0<z<1、0≦w<1、0≦1-y-z-w<1であり、MはAl、Ti、Zr、W、Mo、Znから選ばれる一つ以上の金属元素)である、
請求項1から4のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池の充電方法。
【請求項6】
リチウムイオン二次電池を充電する充電装置であって、
前記リチウムイオン二次電池は、集電体上に正極活物質層が形成された正極と、負極と、電解液と、を少なくとも含み、前記正極は、前記正極活物質として、層状構造からなるリチウム複合酸化物を少なくとも含み、
前記充電装置は、前記リチウムイオン二次電池に対する充電を制御するプロセッサを有し、
前記プロセッサは、
連続する範囲で前記電池の充電率を上昇する方向に変化させたとき、前記充電率の変化に対して電圧の変化量が相対的に大きい第一範囲から、電圧の変化量が相対的に小さい第二範囲に移行する変曲点に達した場合に、充電電圧を維持または減少させるように充電を行うように制御する、
リチウムイオン二次電池の充電装置。
【請求項7】
前記プロセッサは、
連続する範囲で前記電池の充電率を上昇する方向に変化させたとき、前記変曲点に対応する電圧までは定電流(CC)充電を行い、
前記変曲点に対応する電圧に達した後、定電圧(CV)充電に切換えて前記変曲点に対応する電圧を維持するように充電電流を減少させながら充電を行うように制御する、
請求項6に記載のリチウムイオン二次電池の充電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に対する充電技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータ、ビデオカメラ等の携帯型コードレス製品は益々小型化、ポータブル化が進んでいる。また、大気汚染や二酸化炭素の増加等の環境問題の観点から、ハイブリッド自動車、電気自動車、電動船舶や、ドローンをはじめとする小型飛行体等の電動移動体の開発が進められ、実用化の段階となっている。これら電子機器や電気自動車等の電動移動体には、高効率、高出力、高エネルギー密度、軽量等の特徴を有する優れた二次電池が求められている。さらに、夜間電力や太陽光等の自然エネルギーで発電した電気を効率的に蓄電する手段としても、二次電池の有効利用に注目が集まっている。このような特性を有する二次電池の開発、研究が盛んに行われ、リチウム電池やリチウムイオン電池等の二次電池が種々実用化されている。
その中でも、層状の結晶構造であるニッケル、コバルト、マンガンなどの複合酸化物は、その層間に電気的に活性なリチウムイオンが脱挿入されることにより、高エネルギー密度のリチウムイオン電池の正極活物質として好んで用いられる。
【0003】
リチウムイオン二次電池の充電方法としてはCCCV充電(定電流定電圧充電)が知られており、このCCCV充電の改良に関する種々の提案がなされている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、リチウムイオン二次電池に対してCCCV充電を行う場合、上記特許文献1においても記載されているように、CC充電(定電流充電)からCV充電(定電圧充電)に切り替えるタイミングは、充電電圧が予め決められた充電電圧に達したときである。
しかし、CC充電(定電流充電)からCV充電(定電圧充電)に切り替えるときの充電電圧を固定値とし、その固定値を比較的高い値とした場合、正極活物質の結晶構造の変化に起因して電池のサイクル劣化が加速するという問題がある。
他方、CV充電からCC充電に切り替える充電電圧を比較的低い値に設定した場合、充電容量が低くなってしまう。充放電サイクルの経過に伴って電池の抵抗が増加するため、例えばCV充電の電圧を4.2Vに設定している場合、初期状態では4.2Vまで充電されていたとしても、相当数のサイクル経過後には、4.2Vよりも低い電圧に相当する容量までしか充電されないことになる。つまり、サイクルの経過とともに充電容量がさらに低くなる。
【0006】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、リチウムイオン二次電池を充電する際に、寿命劣化を抑制しつつ充電容量を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の観点は、リチウムイオン二次電池を充電する方法である。前記リチウムイオン二次電池は、集電体上に正極活物質層が形成された正極と、負極と、電解液と、を少なくとも含み、前記正極は、前記正極活物質として、層状構造からなるリチウム複合酸化物を少なくとも含む。
この方法は、連続する範囲で電池の充電率を上昇する方向に変化させたとき、前記充電率の変化に対して電圧の変化量が相対的に大きい第一範囲から、電圧の変化量が相対的に小さい第二範囲に移行する変曲点に達した場合に、充電電圧を維持または減少させるように充電を行うステップ、を有する。
【0008】
本発明の第2の観点は、リチウムイオン二次電池を充電する充電装置である。前記リチウムイオン二次電池は、集電体上に正極活物質層が形成された正極と、負極と、電解液と、を少なくとも含み、前記正極は、前記正極活物質として、層状構造からなるリチウム複合酸化物を少なくとも含む。
前記充電装置は、前記リチウムイオン二次電池に対する充電を制御するプロセッサを有する。このプロセッサは、連続する範囲で前記電池の充電率を上昇する方向に変化させたとき、前記充電率の変化に対して電圧の変化量が相対的に大きい第一範囲から、電圧の変化量が相対的に小さい第二範囲に移行する変曲点に達した場合に、充電電圧を維持または減少させるように充電を行うように制御する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のある態様によれば、リチウムイオン二次電池を充電する際に、寿命劣化を抑制しつつ充電容量を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態の二次電池セルの充電曲線を示す図である。
【
図2】
図1の充電曲線における変曲点近傍を拡大して示す図である。
【
図3】サイクル数と比容量の関係について、実施例と比較例を比較して示す図である。
【
図4】一実施形態に係る充電システムの構成を示す図である。
【
図5】一実施形態の充電方法を示すフローチャートである。
【
図6】変曲点判定処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
層状構造からなるリチウム複合酸化物を正極活物質として用いた二次電池(以下、適宜単に「電池」という。)では、充電電圧4.1~4.3V付近において、ある一定の容量の変化に対して電圧の変化がほとんどないプラトー領域が出現することが知られている。中でも、ニッケルを多く含む複合酸化物を用いた電池は、電池の高エネルギー密度化に適している。
【0012】
正極活物質として、層状の結晶構造を有する複合酸化物を用いたリチウムイオン二次電池においては、充電終止電圧に達する前に、セル容量とセル電圧の関係を示す充電曲線上に、上記のプラトー領域に起因した変曲点が生じる。
複合酸化物は限定しないが、リチウム複合酸化物がLixNiyCozMnwM(1-y-z-w)O2である。ここで、0.8≦x≦1.2、0<y<1、0<z<1、0≦w<1、0≦1-y-z-w<1であり、MはAl、Ti、Zr、W、Mo、Znから選ばれる一つ以上の金属元素である。リチウム複合酸化物の一例として、ニッケルマンガンコバルト酸リチウム(以下、「NMC」という。)が挙げられる。
【0013】
ところで、上述した課題、すなわち、リチウムイオン二次電池を充電する際に寿命劣化を抑制しつつ充電容量を確保するという課題に対して本願発明者が鋭意研究を進めた結果、上記複合酸化物を含む正極活物質を正極に用いた場合に、電池の寿命劣化を促進させている要因は、高電位に電池が保たれることのみならず、CCCV充電(定電流定電圧充電)充電を行う際のCC充電(定電流充電)のステップを過剰に行うことにあることを見出した。そして、上記複合酸化物を正極活物質として正極に用いた場合に、正極活物質に由来する変曲点が出現したタイミングをCC充電からCV充電に切り替えるタイミングとすることで、電池の寿命劣化を抑制しつつ、1回当たりの充電容量の過度な低下を抑制できることを見出した。
正極活物質に由来する変曲点は、NMCを正極活物質として用いた正極の場合に充電終止状態に近い4.2V以降に出現する。
【0014】
また、本願発明者は、層状の結晶構造である複合酸化物の中でも、4.3V付近と比較的低電圧で劣化が加速されるニッケルを多く含む複合酸化物を用いた場合に、とりわけ本発明の効果が高いことを見出した。さらに本願発明者は、負極の活物質として金属リチウムを用いた場合には、充放電サイクルを繰り返すにつれ、活物質の不活化や電解液の枯渇が進み易く、電池全体の抵抗が増加しやすくなるため、本発明の効果が高いことを見出した。
【0015】
図1及び
図2に、一実施形態の二次電池セルの充電曲線を示す。
図1は、一実施形態に係る電池セルとして、NMCとして組成式、Li
1Ni
0.8Co
0.1Mn
0.1O
2で示される正極活物質と、導電助剤と、結着剤とを含む正極合材層を形成した正極を用いた電池セルについて、充放電サイクル(以下、適宜単に「サイクル」という。)が1回目の場合と50回目の場合とで充電曲線を示している。
図2は、
図1の充電曲線においてセル電圧が4.2V近傍の部分を拡大した図である。なお、
図1と
図2では、縦横比が異なる点に注意されたい。
図1及び
図2に示すように、この電池セルの充電曲線には、セル電圧が4.2V近傍に、NMCに由来する変曲点が発生する。各図では、1回目のサイクルの充電曲線において発生する変曲点をP
1とし、50回目のサイクルの充電曲線において発生する変曲点をP
50としている。
【0016】
図1に示すように、一実施形態の電池セルでは、充電曲線に沿って充電しているとき、すなわち、連続する範囲で電池の充電率を上昇する方向に変化させたとき、充電率の変化に対して電圧の変化量が相対的に大きい第一範囲と、電圧の変化量が相対的に小さい第二範囲と、を有する。
図1では、1回目のサイクルの充電曲線に対応する第一範囲R1と第二範囲R2とを示している。第一範囲R1と第二範囲R2の境界が変曲点P
1である。別の観点では、充電曲線に沿って充電率が充電方向に変化しているときにセル電圧を関数V(t)で表す場合、V(t)の2階微分の符号が変化する前のセル容量の範囲が第一範囲R1に対応し、符号が変化した後のセル容量の範囲が第二範囲R2に対応する。
【0017】
50回目のサイクルの充電曲線は、1回目のサイクルの充電曲線と比べて、全体的に
図1の左側にシフトしており、それに伴って変曲点P
50に対応するセル容量は、変曲点P
1に対応するセル容量よりも低くなっている。また、変曲点P
50に対応するセル電圧は、変曲点P
1に対応するセル電圧よりも僅かに高くなっている(ΔV=10mV)。図示しないが、サイクル数がさらに進むにつれて、充電曲線が全体的にさらに左側にシフトするとともに、変曲点に対応するセル容量が低下し、変曲点に対応するセル電圧が増加する。
【0018】
上述したように、一実施形態の電池セルの充電方法では、変曲点が出現したタイミングをCC充電からCV充電に切り替えるタイミングとすることで、1回当たりの充電容量の過度な低下を抑制する。セル電圧が変曲点を超えてからCV充電に切り替えた場合には、正極の活物質層の結晶構造の変化によりリチウムを受け入れる能力が低下するため、正極における抵抗が増大し、電池セルのサイクル特性が悪化する。そのため、変曲点が出現したタイミングでCV充電に切り替えることが好ましい。
図1に示すように、サイクルの経過に伴って変曲点が移動するため、変曲点が出現したタイミングでCV充電に切り替える制御を行うためには、各サイクルにおける電池セルの充電中において変曲点を実時間で検出する必要がある。
【0019】
変曲点に対応するセル電圧(以下では、適宜、「変曲点電圧」という。)は、充電曲線においてセル容量(つまり、充電率)に対するセル電圧の変化量が大きい範囲から小さい範囲に切り替わる位置であるため、当該変化率の極値としてコンピュータ上で求めることができる。代替的に、セル容量に対するセル電圧の傾きの変化率が所定の閾値以上であることを条件として変曲点電圧を検出してもよい。
変曲点電圧は、充電電圧に対する充電量の変化量(dQ/dV)が極大値をとるときの充電電圧として算出することもできる。
【0020】
なお、
図1に示す充電曲線では目立たないが、充電率が低い領域において、変曲点が出現する場合がある。そこで、充電末期における変曲点を確実に検出するために、変曲点電圧が4.2V以上であることを条件として変曲点を検出するとよい。
あるいは、放電終止状態に設定される充電率をSOC
Eとし、充電終止状態に設定される充電率をSOC
Bとし、変曲点に対応する充電率をSOC
IPとしたとき、(SOC
B-SOC
IP)/(SOC
B-SOC
E)の値が0.05以上0.10以下であることを条件として変曲点を検出するとよい。
このような条件を設定することで、充電初期に出現し得る変曲点を、誤って充電末期の変曲点として検出することが避けられる。
【0021】
図3に、
図1と同様に、NMCとして組成式、Li
1Ni
0.8Co
0.1Mn
0.1O
2で示される正極活物質と、導電助剤と、結着剤とを含む正極合材層を形成した正極を用いた電池セルについて、充放電サイクル数(1~40サイクル)と比容量との関係をプロットしたものを示す。
図3の実施例は、各サイクルにおいて、充電時に変曲点が検出されたタイミングでCC充電からCV充電に切り替えるように制御した充電方法の場合の例である。この例での変曲点電圧は、例えば1サイクル目が4.210Vであり、50サイクル目が4.220Vである。
図3の比較例1は、サイクル数に応じてCC充電からCV充電に移行する電圧を段階的に低下させた場合の例である。具体的には、初回のサイクルを4.3VでCV充電に移行させ、以後、10サイクル毎にCVに移行させる電圧を5mV低下させた場合の例である。
図3の比較例2は、サイクル数によらずにCC充電からCV充電に移行する電圧を一定値とした場合の例である。具体的には、CC充電からCV充電に移行する電圧を4.3V一定とした場合の例である。
【0022】
図3に示すように、変曲点においてCV充電に切り替える実施例では、比較例1,2に対して、サイクル数が経過しても容量劣化を抑制できていることがわかる。
比較例1では、CV充電に移行する電圧を段階的に下げることで変曲点電圧以下の電圧でCV充電に移行しているため、比較例2の場合よりもサイクル数に応じた容量の劣化を抑制できているが、変曲点電圧まで充電できていないために容量を十分に引き出せていない。
比較例2では、変曲点電圧を超えた電圧でCV充電に移行しているため、正極の活物質層の結晶構造の変化に起因してサイクル数に応じた容量劣化が促進されている結果となっている。
【0023】
以上説明したように、一実施形態のリチウムイオン二次電池の充電方法では、連続する範囲で電池の充電率を上昇する方向に変化させたとき、充電率の変化に対して電圧の変化量が相対的に大きい第一範囲R1から、電圧の変化量が相対的に小さい第二範囲R2に移行する変曲点に達した場合、それ以降では充電電圧を維持させるように充電を行う。それによって、変曲点電圧を超えるまで充電することによって生ずる正極の活物質層の結晶構造の変化が避けられるため、サイクル数に応じた容量の劣化が抑制される。また、充電電圧を変曲点電圧よりも低い電圧に維持した場合には充電容量が十分に引き出せない状態となるが、変曲点電圧を維持することでそのような状態となることが避けられる。
【0024】
なお、別の実施形態の充電方法では、変曲点に達した場合に充電電圧を減少させるように充電を行ってもよい。この場合であっても、正極の活物質層の結晶構造の変化が避けられるため、サイクル数に応じた容量の劣化が抑制される。
【0025】
次に、
図4を参照して、一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の充電システム(以下、単に「充電システム」という。)について説明する。
図4に示すように、一実施形態の充電システムは、複数の電池セルから構成される電池モジュール2と、電池制御装置1と、電池モジュール2を充電するための充電装置5とを含む。電池制御装置1は、電池モジュール2と一体的に構成されてもよい。電池モジュール2の各電池セルは、正極活物質として層状の結晶構造を有する複合酸化物を用いたリチウムイオン二次電池である。
【0026】
電池モジュール2の充電を行う際には、電池モジュール2と充電装置5が図示しないコネクタにより連結され、電池モジュール2を充電するための閉回路が形成される。閉回路が形成された場合、充電装置5の電源回路部52から供給される充電電流によって電池モジュール2が充電可能な状態となる。
【0027】
図4に示すように、電池制御装置1は、電池モジュール2に対する各種の制御を行う装置であり、プロセッサ11、セル監視部13、及び、通信部14を備える。
プロセッサ11は、マイクロプロセッサを主体として構成され、マイクロプロセッサが所定のプログラムを実行することで、電池制御装置1の動作を制御する。
セル監視部13は、電圧センサ131及び電流センサ132を含む。電圧センサ131は、電池モジュール2の各電池セルの電圧を検出する。電流センサ132は、電池モジュール2を流れる電流を検出する。セル監視部13は、電池モジュール2のSOC等の状態情報を算出することで電池モジュール2の各電池セルの状態を監視する。
通信部14は、充電装置5の通信部53との間で、充電方式に応じた通信プロトコルでデータ通信を行う。
【0028】
図4に示すように、充電装置5は、プロセッサ51、電源回路部52、通信部53、及び、電流センサ54を備える。
プロセッサ51は、マイクロプロセッサを主体として構成され、充電装置5に接続された電池モジュール2に対する充電制御を行う。電流センサ54は、電池モジュール2を含む閉回路上に配置される。プロセッサ51は、電流センサ54によって検出される電流値、及び/又は、電池制御装置1から供給される電池モジュール2の電圧値を基に、CCCV充電を行うように電源回路部52を制御する。
電源回路部52は、プロセッサ51による制御の下、充電装置5に接続された電池モジュール2に対して充電電流を供給する。
【0029】
通信部53は、電池制御装置1の通信部14との間で、充電方式に応じた通信プロトコルでデータ通信を行う。
例えば、通信部53は、電池モジュール2の充電中に逐次、電池モジュール2の各電池セルの電圧値を取得する。プロセッサ51は、電流センサ54によって検出される電流値と、通信部53を通して取得する各電池セルの電圧値とに基づいて、電池セルの変曲点を検出する。後述するように、プロセッサ51は、電池モジュール2に対する充電を開始してから変曲点を検出するまではCC充電を行い、変曲点を検出した場合はCC充電からCV充電に移行するように電源回路部52を制御する。
【0030】
次に、一実施形態の充電システムにおいて、充電装置5のプロセッサ51によって実行される処理について、
図5および
図6を参照して説明する。
図5は、一実施形態の充電システムにおいて電池モジュール2を充電する場合の動作を示すフローチャートである。
【0031】
図5を参照すると、プロセッサ51は、電池モジュール2が充電装置5に接続されると電池モジュール2に対してCC充電を開始する(ステップS2)。CC充電の場合、プロセッサ51は、電源回路部52が所定の定電流値の充電電流を流すように電源回路部52を制御する。
プロセッサ51は、電池モジュール2の電池セルの閉回路電圧の取得タイミングになる度に(ステップS4:YES)、変曲点判定処理を実行する(ステップS6)。閉回路電圧の取得タイミングは限定しないが、後述する変曲点の判定に支障が生じない程度の時間の間隔に適宜設定される。ステップS6の変曲点判定処理の詳細を
図6のフローチャートに示す。
【0032】
図6を参照すると、プロセッサ51は、通信部53を介して電池制御装置1から電池セルの閉回路電圧を取得し、電流センサ54から電池セルを流れる電流の値を取得し(ステップS20)、セル容量に対するセル電圧Vの関数をV(t)としたときにV(t)の2階微分の符号が変化したか否かを判断する(ステップS22)。言い換えれば、充電量Q(=電池セルの電流I×時間t)に対するセル電圧Vの傾きV/(I・t)の変化率の符号が変化したか否か判断する。なお、充電量Qに対するセル電圧Vの傾きは、充電率に対するセル電圧Vの傾きと等価である。
【0033】
図1に示した充電曲線に沿って電池セルが動作している場合に、充電曲線の横軸は、充電量Qに対応しているため、充電量に対する電圧の傾きV/(I・t)(あるいは、単位時間当たりの電圧の増加量)が相対的に大きい範囲が第一範囲R1に対応し、V/(I・t)が相対的に小さい領域が第二範囲R2に対応する。あるいは、セル容量に対するセル電圧Vの関数をV(t)としたときのV(t)の2階微分の符号がマイナスである範囲が第一範囲R1に対応し、当該2階微分の符号がプラスである範囲が第二範囲R2に対応する。
【0034】
電池セルの電圧及び電流の離散値からセル容量に対するセル電圧Vの関数をV(t)としたときのV(t)の2階微分の値、すなわち上記V/(I・t)の変化率を算出するために、プロセッサ51は、ステップS20において取得した電圧及び電流の値の前回値等をメモリに記録しておく。ステップS22における閾値Thは、使用する電池セルの正極の特性(例えば
図1に示した充電曲線)に基づいて予め決定しておく。
【0035】
V(t)の2階微分の符号が変化していない場合には(ステップS22:NO)、プロセッサ51は、電池セルの充電率が第一範囲R1にあり、未だ変曲点に達していないと判断する(ステップS24)。
【0036】
他方、V(t)の2階微分の符号が変化した場合であっても(ステップS22:YES)、プロセッサ51は、直ちに変曲点に達したとは判断しない。前述したように、セル電圧が低く充電率が低い場合においても変曲点が存在する場合がある。そのため、本来検出すべき変曲点(つまり、充電率が高いときの変曲点)として、充電率が低いときの変曲点を誤って検出してしまわないように、条件が設定されている。
具体的には、プロセッサ51は、セル電圧が4.2V以上であるという条件(ステップS26)、又は、充電率が所定範囲内にあるという条件(ステップS28)の少なくともいずれかを満たす場合に、充電率が高いときの変曲点であると判断する(ステップS30)。
【0037】
充電率が所定範囲内にあるという条件(ステップS28)は、放電終止状態に設定される充電率をSOCEとし、充電終止状態に設定される充電率をSOCBとし、変曲点に対応する充電率をSOCIPとしたとき、(SOCB-SOCIP)/(SOCB-SOCE)の値が0.05以上0.10以下である、というものである。ここで、SOCIPは、ステップS20において取得した電圧及び電流の値に基づいて算出された充電率である。
【0038】
変曲点判定処理において変曲点であるか否かの判定が完了すると、
図5のステップS8の処理に移る。変曲点判定処理において変曲点でないと判定された場合には(ステップS8:NO)、プロセッサ51は、CC充電が継続して行われるように電源回路部52を制御する。
変曲点判定処理において変曲点であると判定された場合には(ステップS8:YES)、プロセッサ51は、CC充電からCV充電に移行するように電源回路部52を制御する(ステップS10)。充電装置5は、CV充電を継続し、所定の充電終了条件(例えば、SOCが所定値以上等の条件)を満たした場合に(ステップS12:YES)、電池モジュール2に対する充電を終了する。
なお、充電曲線によってはセル電圧が4.0V以上の比較的高電圧においても、演算上2以上の変曲点が検出される場合があり得るが、その場合、最初に検出された変曲点においてCV充電に移行すればよい。
【0039】
以上説明したように、一実施形態の充電システムによれば、プロセッサ51は、電池モジュール2を充電する際に、先ずCC充電を行い、充電率の変化に対して電圧の変化量が相対的に大きい第一範囲から、電圧の変化量が相対的に小さい第二範囲に移行する変曲点に達したか否かを逐次判断する。プロセッサ51は、変曲点に達したと判断すると、CC充電からCV充電に切り替えて、充電電圧を変曲点電圧に維持する。そして、CV充電において変曲点電圧に維持されるため、変曲点電圧を超えるまで充電することによって生ずる正極の活物質層の結晶構造の変化が避けられ、その結果、サイクル数に応じた劣化が抑制される。また、充電電圧を変曲点電圧よりも低い電圧に維持した場合には充電容量が十分に引き出せない状態となるが、変曲点電圧を維持することでそのような状態となることが避けられる。
【0040】
以上、本発明のリチウムイオン二次電池の充電方法、リチウムイオン二次電池の充電装置、及び、移動体の制御システムの実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されない。また、上記の実施形態は、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更が可能である。例えば、上述した実施形態において言及された個々の技術的特徴は、技術的矛盾がない限り、適宜組み合わせることが可能である。
【0041】
一実施形態のリチウムイオン二次電池の充電方法は、CCCV充電に限られない。すなわち、リチウムイオン二次電池の変曲点電圧を超えないようにして充電すればよく、その充電方法はCCCV充電に限定されない。
【符号の説明】
【0042】
1…電池制御装置
11…プロセッサ
13…セル監視部
131…電圧センサ
132…電流センサ
14…通信部
2…電池モジュール
5…充電装置
51…プロセッサ
52…電源回路部
53…通信部
54…電流センサ