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特開2023-30374リチウム金属電池の放電方法、リチウム金属電池の充放電方法、リチウム金属電池の制御装置、組電池の制御方法、組電池の制御システム
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  • 特開-リチウム金属電池の放電方法、リチウム金属電池の充放電方法、リチウム金属電池の制御装置、組電池の制御方法、組電池の制御システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023030374
(43)【公開日】2023-03-08
(54)【発明の名称】リチウム金属電池の放電方法、リチウム金属電池の充放電方法、リチウム金属電池の制御装置、組電池の制御方法、組電池の制御システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/44 20060101AFI20230301BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20230301BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230301BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20230301BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20230301BHJP
   H02J 7/02 20160101ALI20230301BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
H01M10/44 P
H01M10/48 P
H01M10/052
H01M10/0567
H01M10/0568
H02J7/02 H
H02J7/02 B
H02J7/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021135465
(22)【出願日】2021-08-23
(71)【出願人】
【識別番号】515090628
【氏名又は名称】株式会社スリーダムアライアンス
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】永原 良樹
(72)【発明者】
【氏名】浜中 信秋
【テーマコード(参考)】
5G503
5H029
5H030
【Fターム(参考)】
5G503BB02
5G503CA01
5G503HA02
5H029AL03
5H029AL12
5H029AM05
5H029AM07
5H029HJ10
5H029HJ17
5H029HJ18
5H029HJ19
5H030AA10
5H030AS08
5H030BB01
5H030BB06
5H030BB21
5H030FF41
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
(57)【要約】
【課題】リチウム金属電池からなる電池セルの厚みの増加を抑制する。
【解決手段】本発明のある態様は、正極と、負極と、電解質とを備えたリチウム金属二次電池の充放電方法である。ここで、負極は、あらかじめ負極集電体上に金属リチウム層が形成されているか、又は、充電時に負極集電体上に金属リチウム層が析出するものである。この充放電方法は、放電時に1.0mA/cm以上の放電電流密度で放電を行うことを含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、電解質とを備えたリチウム金属電池の放電方法であって、
1.0mA/cm以上の放電電流密度で放電を行うことを含む、
リチウム金属電池の放電方法。
【請求項2】
正極と、負極と、電解質とを備えたリチウム金属二次電池の充放電方法であって、
前記負極は、あらかじめ負極集電体上に金属リチウム層が形成されているか、又は、充電時に負極集電体上に金属リチウム層が析出するものであり、
放電時に1.0mA/cm以上の放電電流密度で放電を行うことを含む、
リチウム金属電池の充放電方法。
【請求項3】
前記放電は、連続的に一定の電流値を放電する連続放電、又は、パルス放電のいずれかである、
請求項2に記載のリチウム金属電池の充放電方法。
【請求項4】
0.8mA/cm以下の充電電流密度で充電を行うことをさらに含む、
請求項2又は3に記載のリチウム金属電池の充放電方法。
【請求項5】
前記電解質が、リチウムイミド塩を含み、
前記リチウムイミド塩は、リチウムイオンと、含フッ素スルホニルイミドアニオンとの塩である、
請求項2から4のいずれか一項に記載のリチウム金属電池の充放電方法。
【請求項6】
前記電解質が、2.5モル/リットル乃至3.3モル/リットルのリチウムイミド塩を含む、
請求項5に記載のリチウム金属電池の充放電方法。
【請求項7】
前記電解質が、アルキルイミダゾリムカチオン、アルキルアンモニウムカチオン、アルキルピリジニウムカチオン、アルキルピロリジニウムカチオンからなる群から選ばれる一種のカチオンと、ホウ素化物アニオン、アミドアニオン、イミドアニオン、スルフェートアニオン、スルフォネートアニオン、リン酸アニオンからなる群から選ばれる一種のアニオンとからなるイオン液体および一般式(1)で示されるエーテル化合物の少なくとも一方を溶媒として含む、
請求項2から6のいずれか一項に記載のリチウム金属電池の充放電方法。
(一般式(1)中、R及びRは、同一又は異なって炭素数1~4のアルキル基であり、nは、1~6の整数である。)
【化1】
【請求項8】
前記電解質に、前記エーテル化合物が含まれている場合、前記エーテル化合物の割合が体積比で40%以上である、
請求項7に記載のリチウム金属電池の充放電方法。
【請求項9】
リチウム金属電池の制御装置であって、
前記リチウム金属電池は、正極と、負極と、電解質とを備え、
前記制御装置は、
前記リチウム金属電池の放電時の放電電流密度を、1.0mA/cm以上に設定する設定部と、
前記設定部により設定された放電電流密度に基づいて、前記リチウム金属電池の放電方向に電流を印加する処理を実行する実行部と、
を備えるリチウム金属電池の制御装置。
【請求項10】
前記設定部は、
放電時の電流の印加方法として、連続的に一定の電流値を放電する連続放電、又は、パルス放電のいずれか一つを選択する、
請求項9に記載のリチウム金属電池の制御装置。
【請求項11】
前記設定部は、前記リチウム金属電池の充電時の充電電流密度を、0.8mA/cm以下に設定し、
前記実行部は、前記設定部により設定された充電電流密度に基づいて、前記リチウム金属電池の充電方向に電流を印加する処理を実行する、
請求項9又は10に記載のリチウム金属電池の制御装置。
【請求項12】
負荷装置に電力を供給するN個の電池が接続された組電池の制御方法であって、
前記N個の電池は、前記負荷装置に電力を供給する回路において互いに並列に接続され、
前記N個の電池の各電池は、正極と、負極と、電解質とを備えたリチウム金属二次電池であり、
前記N個の電池の各々を前記回路に接続又は非接続とするためのスイッチが設けられており、
前記制御方法は、
前記負荷装置に流れる電流を検出するステップと、
前記N個の電池の各電池の放電電流密度が1.0mA/cmとなるときに各電池に流れる電流をXmAとしたときに、前記検出した電流がN×XmA以上であるか否か判定するステップと、
前記検出した電流がN×XmA以上である場合に前記N個の電池が前記回路に接続され、前記検出した電流がN×XmA未満である場合に前記N個の電池のうち一部が前記回路に接続されるように、前記スイッチを制御するステップと、を有する、
組電池の制御方法。
【請求項13】
複数の電池が接続された組電池の制御方法であって、
前記複数の電池は、第一の電池及び第二の電池を含み、
前記第一の電池及び前記第二の電池は、正極と、負極と、電解質とを備えたリチウム金属二次電池であり、
前記第一の電池を請求項2から8のいずれか一項に記載の充放電方法により放電する場合に、前記第一の電池から放電された電気量を用いて前記第二の電池を充電するように制御する、
組電池の制御方法。
【請求項14】
前記第一の電池と前記第二の電池のSOC又は電圧が実質的に同一となるように、前記第二の電池を充電するように制御する、
請求項13に記載の組電池の制御方法。
【請求項15】
負荷装置に電力を供給するN個の電池が接続された組電池の制御システムであって、
前記N個の電池は、前記負荷装置に電力を供給する回路において互いに並列に接続され、
前記N個の電池は、正極と、負極と、電解質とを備えたリチウム金属二次電池であり、
前記制御システムは、
前記N個の電池の各々を前記回路に接続又は非接続とするためのスイッチと、
前記負荷装置に流れる電流を検出する電流検出部と、
前記N個の電池の各電池の放電電流密度が1.0mA/cmとなるときに各電池に流れる電流をXmAとしたときに、前記電流検出部によって検出した電流がN×XmA以上である場合に前記N個の電池が前記回路に接続され、前記検出した電流がN×XmA未満である場合に前記N個の電池のうち一部が前記回路に接続されるように、前記スイッチを制御する制御部と、を備えた、
組電池の制御システム。
【請求項16】
複数の電池が接続された組電池の制御システムであって、
前記複数の電池は、第一の電池及び第二の電池を含み、
前記第一の電池及び前記第二の電池は、正極と、負極と、電解質とを備えたリチウム金属二次電池であり、
放電電流密度を制限せずに動作させる第一の放電動作モード、又は、前記リチウム金属電池の放電電流密度を1.0mA/cm以上に設定して動作させる第二の放電動作モード、のいずれかの放電動作モードで前記組電池の組電池を放電させるように制御する動作制御部を備え、
前記動作制御部は、前記組電池のうち前記第一の電池が前記第二の放電動作モードで動作するとき、前記第一の電池から放電された電気量を用いて前記第二の電池を充電するように制御する、
組電池の制御システム。
【請求項17】
前記動作制御部は、前記組電池のうち前記第一の電池が前記第二の放電動作モードで動作するとき、前記第一の電池と前記第二の電池のSOC又は電圧が実質的に同一となるように、前記第二の電池を充電するように制御する、
請求項16に記載の組電池の制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム金属電池の放電方法及び/又は充電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、よりエネルギー密度の高い電池が志向されることから、負極活物質層としてリチウム金属を用いたリチウム金属電池が一次電池又は二次電池として開発され、様々な改良が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-122528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、リチウム金属二次電池では、場合によっては使用に伴って厚さが増大し、電極間での反応が進行し難くなる結果、容量劣化が引き起こされるという問題が指摘されている。
この問題に関し、本願発明者がリチウム金属二次電池からなる電池セルのサイクル試験を行った後に電池セルを解体して調査したところ、負極表面での電解質との界面の所で数十μm程度の堆積物が生じており、それによって電池セルのセル膜厚が増加していることが認められた。また、負極表面に対してX線光電分光法による解析(XPS解析)を行ったところ、電解質成分に由来する元素を含んでいることが判明したことから、負極表面に生じた堆積物は、負極と電解質との反応生成物であると推定された。この堆積物は負極表面に不均一に生じており、堆積物による電池セルの厚みの増加量は面内でばらつきがあることから、負極と正極の間の極板間距離が相対的に短い位置での正極活物質が優先的に電池反応に寄与することになり、電極全体で均一に反応が生じなくなるため、サイクル劣化の原因となり得る。
【0005】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、リチウム金属電池からなる電池セルの厚みの増加を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の観点は、正極と、負極と、電解質とを備えたリチウム金属電池の放電方法である。
この放電方法は、1.0mA/cm以上の放電電流密度で放電を行うことを含む。
【0007】
本開示の第2の観点は、正極と、負極と、電解質とを備えたリチウム金属二次電池の充放電方法である。
前記負極は、あらかじめ負極集電体上に金属リチウム層が形成されているか、又は、充電時に負極集電体上に金属リチウム層が析出するものである。
この充電方法は、放電時に1.0mA/cm以上の放電電流密度で放電を行うことを含む。
【0008】
本開示の第3の観点は、リチウム金属電池の制御装置である。前記リチウム金属電池は、正極と、負極と、電解質とを備える。
この制御装置は、
前記リチウム金属電池の放電時の放電電流密度を、1.0mA/cm以上に設定する設定部と、
前記設定部により設定された放電電流密度に基づいて、前記リチウム金属電池の放電方向に電流を印加する処理を実行する実行部と、を備える。
【0009】
本開示の第4の観点は、負荷装置に電力を供給するN個の電池が接続された組電池の制御方法である。
前記N個の電池は、前記負荷装置に電力を供給する回路において互いに並列に接続され、前記N個の電池の各電池は、正極と、負極と、電解質とを備えたリチウム金属二次電池であり、前記N個の電池の各々を前記回路に接続又は非接続とするためのスイッチが設けられている。
この制御方法は、
前記負荷装置に流れる電流を検出するステップと、
前記N個の電池の各電池の放電電流密度が1.0mA/cmとなるときに各電池に流れる電流をXmAとしたときに、前記検出した電流がN×XmA以上であるか否か判定するステップと、
前記検出した電流がN×XmA以上である場合に前記N個の電池が前記回路に接続され、前記検出した電流がN×XmA未満である場合に前記N個の電池のうち一部が前記回路に接続されるように、前記スイッチを制御するステップと、を有する。
【0010】
本開示の第5の観点は、複数の電池が接続された組電池の制御方法である。
前記複数の電池は、第一の電池及び第二の電池を含み、前記第一の電池及び前記第二の電池は、正極と、負極と、電解質とを備えたリチウム金属二次電池である。
この制御方法は、前記第一の電池を請求項2から8のいずれか一項に記載の充放電方法により放電する場合に、前記第一の電池から放電された電気量を用いて前記第二の電池を充電するように制御する。
【0011】
本開示の第6の観点は、負荷装置に電力を供給するN個の電池が接続された組電池の制御システムである。
前記N個の電池は、前記負荷装置に電力を供給する回路において互いに並列に接続され、前記N個の電池は、正極と、負極と、電解質とを備えたリチウム金属二次電池である。
この制御システムは、
前記N個の電池の各々を前記回路に接続又は非接続とするためのスイッチと、
前記負荷装置に流れる電流を検出する電流検出部と、
前記N個の電池の各電池の放電電流密度が1.0mA/cmとなるときに各電池に流れる電流をXmAとしたときに、前記電流検出部によって検出した電流がN×XmA以上である場合に前記N個の電池が前記回路に接続され、前記検出した電流がN×XmA未満である場合に前記N個の電池のうち一部が前記回路に接続されるように、前記スイッチを制御する制御部と、を備える。
【0012】
本開示の第7の観点は、複数の電池が接続された組電池の制御システムである。
前記複数の電池は、第一の電池及び第二の電池を含み、前記第一の電池及び前記第二の電池は、正極と、負極と、電解質とを備えたリチウム金属二次電池である。
この制御システムは、
放電電流密度を制限せずに動作させる第一の放電動作モード、又は、前記リチウム金属電池の放電電流密度を1.0mA/cm以上に設定して動作させる第二の放電動作モード、のいずれかの放電動作モードで前記組電池を放電させるように制御する動作制御部を備える。
前記動作制御部は、前記組電池が前記第二の放電動作モードで動作するとき、前記第一の電池から放電された電気量を用いて前記第二の電池を充電するように制御する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のある態様によれば、リチウム金属電池からなる電池セルの厚みの増加を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】二次電池セルの負極表面におけるリチウムの析出、溶解を概念的に示す図である。
図2】二次電池セルのSOCとセル電圧との関係を示す図である。
図3】二次電池セルの充放電サイクル試験結果の一例を示す図である。
図4】二次電池セルの充放電サイクル試験結果の一例を示す図である。
図5】二次電池セルの充放電サイクル試験結果の一例を示す図である。
図6】一実施形態の組電池制御システムの構成例を示す図である。
図7】一実施形態の組電池制御システムの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本願発明者が、負極に金属リチウムを使用するリチウム金属電池(LMB)からなる二次電池セル(以下、適宜、「電池セル」又は単に「セル」という。)に対してサイクル試験を行ったところ、負極表面での電解質との界面の所で堆積物が生じ、それによって電池セルの厚みの増加が生じたことは既に述べたとおりである。この堆積物の主成分は、析出されたリチウム(リチウムデンドライト、デッドリチウム)、及び、負極と電解質との反応生成物である。リチウムデンドライトとは、充電時に電池セルの負極表面にリチウムがウィスカー状に析出、成長したものである。デッドリチウムとは、電池セルの電気化学反応に寄与しないリチウムを意味する。
【0016】
図1に概念的に示すように、負極表面でのリチウムの析出はリチウム金属電池の充電時に発生する。ここで、負極表面の表面粗さ(ラフネス)により反応が集中しやすい部分(凸部分)と、凸部ほど反応が集中しない部分(相対的に凹である部分)とがあり、リチウムの析出は負極表面で均一ではない。すなわち、リチウム金属電池においては、負極活物質中に金属イオンが吸蔵またはインターカレーションされることがないため、常に負極表面にリチウムの析出が生じており、さらに、負極表面の僅かな凹凸に応じて、局所的な電解集中が起こり、凸部ほど金属析出しやすくなる傾向があるため、上記のウィスカー状の金属成長が顕著に発生する。
【0017】
主反応であるリチウムの析出に付随して、副反応として負極と電解質との反応が進行し、その反応生成物も負極表面に堆積する。負極と電解質との反応生成物も負極表面の凸部分に集中しやすくなる。その結果、リチウム金属電池の充電時には、負極表面の凸部における堆積物(つまり、充電時に析出されたリチウム、及び、負極と電解質との反応生成物)によりセル厚みが増加する。
【0018】
そこで、本願発明者が電池セルの厚みの増加を抑制すべく鋭意研究した結果、電池セルを放電させるときの放電電流密度を上昇させることで、充放電サイクルにおいて電池セルの厚みの増加量を抑制できるという知見が得られた。なお、放電は、連続的に一定の電流値を放電する連続放電でもよいし、パルス放電でもよく、いずれかを選択的に行うことができる。
本願発明者は、放電電流密度を上昇させることで電池セルの厚みの増加量を抑制できる理由を以下のように推定している。
【0019】
第1の理由は、放電電流密度を上昇させることでリチウム金属電池の負極表面の表面粗さを低下させることができる点である。
リチウム金属電池の放電時には、負極表面においてリチウムの溶解反応が生ずる。この溶解反応は、負極表面の凸部ほど進行しやすいため、放電電流密度を上昇させることで、より効果的に負極表面の凸部分における堆積物の溶解を促進させ、結果として負極表面の表面粗さを低下させることができる。放電時に負極表面の表面粗さが低下すると、後続する充電時に負極表面の凸部分における堆積物の集中が抑制される。すなわち、充放電サイクルの進行に伴って負極表面において堆積物が不均一に発生することが抑制されることから、セル厚みの増加を抑制することができる。
【0020】
第2の理由は、充放電サイクルにおいて充電時の電池セルに対する充電量(充電電気量)が相対的に少なくなる点である。
通常、電池セルの放電を行うときには、電池セルの電圧が予め決定された下限値に到達した場合に放電終了としている。ここで、放電電流密度を上昇させた場合、実質的に電流が上昇することで抵抗過電圧が増加するため、放電電流密度を上昇させる前と比較すると、早めに下限値に到達し、より高いSOC(State of Charge)で放電終了となる。その後の充電の際には、より高いSOCから充電が行われることになり、1回の充電処理における充電量が相対的に少なくなる。結果として、放電電流密度を上昇させた場合には、その後の充電時において負極表面に上記堆積物が発生し難くなると考えられる。
【0021】
本願発明者は、上記知見を得る過程において、放電時の放電電流密度と充電時の充電電流密度を変更したときの充放電サイクル試験を行った。その充放電サイクル試験の1サイクルにおけるSOCとセル電圧の関係を図2に示す。図2では、充電電流密度を0.72mA/cm又は1.80mA/cmとする場合と、放電電流密度を0.72mA/cm又は1.80mA/cmとする場合とを示している。
なお、このときの評価セルは、以下のような構成の積層セルであり、20サイクル終了する度にセルの厚みの増加量を測定した。
正極:三元系正極材(NMC)
負極:金属リチウム
セパレータ:ポリプロピレン製セパレータ
電解液:2.6モル/リットル LiFSIおよびスルホラン/エチレングリコールジメチルエーテル/ハイドロフルオロエーテル混合物
【0022】
この充放電サイクル試験では、上記第1の理由のみに着目するため、以下のようにして行った。すなわち、上述したように、放電電流密度を変更すると抵抗過電圧の影響により放電終了時のSOCが変化するため、放電終了時に上記下限値に到達しないように、充放電サイクル試験では、サイクルの実施前に電池セルのSOCを0%から10%まで上昇させ、そこから10~50%の範囲で充放電サイクルを実施した。
【0023】
図3図5は、それぞれ充放電サイクル試験結果の一例を示しており、横軸にサイクル数、縦軸にセル厚みの増加量(μm)をプロットした図である。
図3は、以下の3条件での試験結果を示している。
・充電電流密度:0.72mA/cm、放電電流密度:1.80mA/cmとする条件
・充電電流密度:0.72mA/cm、放電電流密度:0.72mA/cmとする条件
・充電電流密度:1.80mA/cm、放電電流密度:0.72mA/cmとする条件
図4は、充電電流密度を一定値(0.72mA/cm)とし、放電電流密度を0.72~3.60mA/cmの範囲で変化させたときの試験結果を示している。
【0024】
図3から、放電電流密度が大きいほどセル厚みの増加量が少なく、また、放電電流密度が高い場合(1.80mA/cm)には約40サイクルでセル厚みの増加量が飽和していることがわかる。また、図3から、充電電流密度が大きいほどセル厚みの増加量が大きいことがわかる。
図4からも、放電電流密度が大きいほどセル厚みの増加量が少ないことが確かめられた。また、図4から、放電電流密度を1.0mA/cm以上とすることにより約40サイクル以降でセル厚みの増加量が抑制されることがわかる。
【0025】
図5は、充電電流密度と放電電流密度を一定(0.72mA/cm及び3.60mA/cm)としたときの試験結果を示している。
図5に示すように、充電電流密度と放電電流密度を一定とした場合には、電流密度が大きいほどサイクル数に応じたセル厚みの増加量が大きくなる。このことから、放電によるセル厚みの抑制効果よりも充電によるセル厚みの促進効果が相対的に高いと推察される。
【0026】
本願発明者が、様々な値の放電電流密度と充電電流密度の組合せについて充放電サイクル試験を行ったところ、放電時に1.0mA/cm以上の放電電流密度で放電を行うことでセル厚みの増加量が飽和し、セル厚みの増加が抑制されることが確認された。
【0027】
放電時の放電電流密度を上昇させたとしても充電時の充電電流密度も上昇させた場合には、充電時の負極表面の堆積物の厚みが相対的に増加すると考えられ、セル厚みの増加の抑制効果が低下すると考えられる。しかし、本願発明者が、様々な値の放電電流密度と充電電流密度の組合せについて充放電サイクル試験を行ったところ、放電時の放電電流密度を1.0mA/cm以上とした場合には、充電時の充電電流密度を0.8mA/cm以下とすることでセル厚みの増加を抑制する効果が維持されることが確認された。
【0028】
リチウム金属電池の負極表面に生ずる堆積物には負極と電解質との反応生成物が含まれることは既に述べたが、負極と電解質との反応は電解質の成分によって異なる。そのため、リチウム金属電池に使用する電解質を適切に選択することで、より低い放電電流密度でセル厚みの増加を抑制する効果を発揮させることができる。
上記観点から、電解質は、リチウムイミド塩を含み、リチウムイミド塩は、リチウムイオンと、含フッ素スルホニルイミドアニオンとの塩である。リチウムイミド塩の例として、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTSFI)、4,4,5,5-テトラフルオロ-1,3,2-ジチアゾリジン-1,1,3,3-テトラオキシドリチウム塩(LiCTFSI)およびリチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(LiBETI)を挙げることができる。
好ましくは、電解質は、2.5モル/リットル乃至3.3モル/リットルのリチウムイミド塩を含む。
【0029】
電解質は、アルキルイミダゾリムカチオン、アルキルアンモニウムカチオン、アルキルピリジニウムカチオン、アルキルピロリジニウムカチオンからなる群から選ばれる一種のカチオンと、ホウ素化物アニオン、アミドアニオン、イミドアニオン、スルフェートアニオン、スルフォネートアニオン、リン酸アニオンからなる群から選ばれる一種のアニオンとからなるイオン液体および一般式(1)で示されるエーテル化合物の少なくとも一方を溶媒として含んでもよい。
(一般式(1)中、R及びRは、同一又は異なって炭素数1~4のアルキル基であり、nは、1~6の整数である。)
【化1】

エーテル化合物の例として、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル(ジグリム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグリム)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(テトラグリム)、ヘキサエチレングリコールジメチルエーテルを挙げることができる。
【0030】
電解質に上記エーテル化合物が含まれている場合、エーテル化合物の割合が体積比で40%以上であることが好ましい。
【0031】
一実施形態の制御装置は、リチウム金属電池からなるセルの放電時の放電電流密度を、1.0mA/cm以上に設定する設定部と、設定部により設定された放電電流密度に基づいて、上記セルの放電方向に電流を印加する処理を実行する実行部と、を備える。
この場合、制御装置は、セルを複数有する組電池を制御する電池管理ユニット(BMU:Battery Management Unit)であってもよい。電池管理ユニットは、組電池と一体で構成されてもよいし、別体で構成されてもよい。
一実施形態では、制御装置は、プロセッサとメモリを備え、放電時の放電電流密度のデータをメモリに格納する。プロセッサは、メモリから放電時の放電電流密度のデータを読み出し、所定のプログラムを実行することでセルに流す放電方向の電流を決定する。この場合、プロセッサがプログラムを実行することで上記設定部及び実行部の機能を実現する。
一実施形態では、制御装置は、ASIC(application specific integrated circuit)やFPGA(field-programmable gate array)等のハードウェアにより上記設定部及び実行部の機能を実現してもよい。
一実施形態では、設定部は、放電時の電流の印加方法として、連続的に一定の電流値を放電する連続放電、又は、パルス放電のいずれか一つを選択するように構成される。
一実施形態では、設定部が、セルの充電時の充電電流密度を、0.8mA/cm以下に設定し、実行部が、設定部により設定された充電電流密度に基づいて、セルの充電方向に電流を印加する処理を実行する。
【0032】
次に、リチウム金属電池からなる複数の電池セルを有する組電池に対する好ましい制御方法について説明する。
上述したように、リチウム金属電池からなる電池セルでは、放電時に1.0mA/cm以上の放電電流密度で放電を行うことでセル厚みの増加が抑制される。そこで、一実施形態の組電池の制御方法では、組電池に含まれる電池セルの放電電流密度が1.0mA/cm以上となるように、組電池の各電池セルの導通状態が制御される。
【0033】
以下、一実施形態の組電池の制御方法について、図6を参照してより具体的に説明する。図6は、例示的な組電池制御システム1Aの構成を示している。
図6に概略的に示す組電池制御システム1Aは、例えばドローンや電気自動車等の負荷装置LDに対して電力を供給する組電池AB1と、組電池AB1に対する充放電制御を行う電池管理ユニット5Aと、を有する。電池管理ユニット5Aは、組電池AB1と一体構造であっても組電池AB1とは別体構造であってもよい。
一実施形態では、組電池AB1は、負荷装置LDに電力を供給する閉回路内に並列に接続された電池セルBC1~BC4を含む。各電池セルは、リチウム金属二次電池からなる。図6に例示する組電池AB1は、2以上の電池セルが直列に接続される場合について例示しているが、その限りではなく、並列に接続された電池セルの組合せが複数、直列に接続された形態でもよい。
【0034】
組電池制御システム1Aはさらに、電池セルBC1~BC4の各々の両端の電圧を検出する電圧センサ11~14と、電池セルBC1~BC4の各々を流れる電流を検出する電流センサ21~24と、各電池セルを閉回路に接続又は非接続とするためのスイッチS1~S4と、を備える。電流センサ21~24は、負荷装置LDに流れる電流を検出する電流検出部を構成する。スイッチは、例えば、MOSFET、IGBT、又はリレーによって構成可能である。
【0035】
電池管理ユニット5Aは、制御部51とメモリ52を有する。制御部51は、マイクロコンピュータを主体として構成され、所定のプログラムを実行することでスイッチS1~S4の導通状態を制御する。
メモリ52は、不揮発性メモリであり、例えば、各電池セルの放電電流密度を1.0mA/cmとするときに電池セルに流すべき放電電流の値(後述するX(mA))を記憶する。
【0036】
制御部51は、負荷装置LDに流す電流に応じて組電池AB1に含まれる複数の電池セルBC1~BC4を選択的に閉回路に接続させる(導通状態とする)ように制御する。例えば、電池セルの放電電流密度が1.0mA/cmとなるときに電池セルに流れる電流をX(mA)とする。このとき、制御部51は、電流センサ21~24によって検出した電流の合計が4×X(mA)以上である場合、つまり負荷装置LDに流れる電流が4×X(mA)以上である場合には、各電池セルにX(mA)以上の電流を流すことができるため、すべての電池セルが閉回路に接続されるようにスイッチS1~S4をすべてONとする。
【0037】
また、電流センサ21~24によって検出した電流の合計が4×X(mA)未満である場合(つまり、負荷装置LDに流れる電流が4×X(mA)未満である場合)には、すべての電池セルが閉回路に接続したときに各電池セルに流れる電流がX(mA)未満となってしまう。そこで、制御部51は、4個の電池のうち一部が閉回路に接続されるように、スイッチS1~S4の一部をONとする。スイッチS1~S4のうちONとするスイッチの数は、負荷装置LDに流れる電流に応じて決定される。
【0038】
図6では、組電池AB1が4個の電池セルを有する場合について例示したが、その限りではなく、任意のN個の電池セルを有する場合に適用できる。すなわち、N個の電池セルにそれぞれ対応するN個のスイッチを設け、負荷装置LDに流れる電流に応じて、電池セルに流れる電流がX(mA)以上となるようにN個のスイッチの導通状態が個別に制御される。
【0039】
次に、リチウム金属電池からなる複数の電池セルを有する組電池に対する一実施形態の制御方法について説明する。この実施形態では、組電池に含まれる放電中の電池セルの放電電流密度が1.0mA/cmとなるように制御するとともに、その放電電流が無駄とならないように他の電池セルの充電に使用される。すなわち、組電池に含まれるある電池セルを放電電流密度が1.0mA/cmとなるように放電させた場合に、その放電電流により組電池内の他の電池セルを充電するように制御することで、組電池に蓄積される電気が効率的に利用される。
【0040】
図7に概略的に示す組電池制御システム1Bは、組電池AB2と、組電池AB2に対する充放電制御を行う電池管理ユニット5B(動作制御部の一例)と、を有する。
組電池制御システム1Bはさらに、コイルL1~L3と、電池セルBC1~BC4の各々の両端の電圧を検出する電圧センサ11~14と、電池セルBC1~BC4の各々を流れる電流を検出する電流センサ21~24と、スイッチS11~S16と、を備える。
コイルL1~L3は、電池セルから放電された電力を蓄積し、その後に電池セルに対して電力を供給するために設けられる。
【0041】
例えば、前述したように、電池セルの放電電流密度が1.0mA/cmとなるときに電池セルに流れる電流をX(mA)とする。そして、電流センサ21によって測定される電流値(電池セルBC1を流れる電流の値)がX(mA)以上となるように電池セルBC1を放電させる場合、その放電電流の少なくとも一部がスイッチS11を介してコイルL1に供給されて電力として蓄積され、その後、電池セルBC2に対して電力を供給するように、スイッチS11及びS12のオン/オフが制御される。
同様に、例えば、電流センサ22によって測定される電流値(電池セルBC2を流れる電流の値)がX(mA)以上となるように電池セルBC2を放電させる場合、その放電電流の少なくとも一部がスイッチS16を介してコイルL2に供給されて電力として蓄積され、その後、電池セルBC3に対して電力を供給するように、スイッチS15及びS16のオン/オフが制御される。
【0042】
以上のようにして、組電池AB2を構成する電池セルBC1~BC4のいずれかの電池セル(「放電セル」という;第一の電池の一例)の放電電流密度が1.0mA/cm以上となるような放電電流で放電する場合、当該放電電流をコイルに電力として蓄積し、蓄積した電力によって放電セル以外の電池セル(「充電セル」という;第二の電池の一例)を充電するように、スイッチS11~S16が制御される。
図7では、組電池AB2が4個の電池セルを有する場合について例示したが、その限りではなく、任意のN個の電池セルを有する場合に適用できる。
【0043】
一実施形態では、電池管理ユニット5Bは、放電電流密度を制限せずに動作させる第一の放電動作モード、又は、電池セルの放電電流密度を1.0mA/cm以上に設定して動作させる第二の放電動作モード、のいずれかの放電動作モードで組電池AB2の各電池セルを放電させるように制御する。
一実施形態では、電池管理ユニット5Bは、組電池AB2のうち放電セルが第二の放電動作モードで動作するとき、放電セルから放電された電気量を用いて充電セルを充電するように制御する。
電池管理ユニット5Bは、組電池AB2のうち放電セルが第二の放電動作モードで動作するとき、放電セルと充電セルのSOC又は電圧が実質的に同一となるように、充電セルを充電するように制御する。すなわち、電池管理ユニット5は、実質的にバランシング動作を行ってもよい。
【0044】
以上、本発明のリチウム金属電池の放電方法、リチウム金属電池の充放電方法、リチウム金属電池の制御装置、組電池の制御方法、及び、組電池の制御システムの実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されない。
例えば、図6及び図7を参照して具体的に説明した事項は、一例に過ぎない。例えば、図7において、放電セルによる放電電流によって充電セルを充電させる回路構成は、図7に例示したものに限られず、他の如何なる公知の回路構成をも適用可能である。
また、上記実施形態では、リチウム金属電池からなる二次電池セルについて言及したが、その限りではなく、本発明はリチウム金属電池からなる一次電池に適用することができる。すなわち、リチウム金属電池の放電方法において、1.0mA/cm以上の放電電流密度で放電を行うことも有効である。
【0045】
上記の実施形態は、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更が可能である。例えば、上述した各実施形態及び各変形例に記載した個々の技術的特徴は、技術的矛盾がない限り、適宜組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0046】
1A,1B…組電池制御システム
5A,5B…電池管理ユニット(BMU)
51…制御部
52…メモリ
11~14…電圧センサ
21~24…電流センサ
S1~S4,S11~S16…スイッチ
AB1,AB2…組電池
BC1~BC4…電池セル
L1~L3…コイル
LD…負荷装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7