(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023003046
(43)【公開日】2023-01-11
(54)【発明の名称】炭素繊維前駆体用処理剤及び炭素繊維前駆体
(51)【国際特許分類】
D06M 15/643 20060101AFI20221228BHJP
D06M 15/53 20060101ALI20221228BHJP
【FI】
D06M15/643
D06M15/53
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021103971
(22)【出願日】2021-06-23
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】原田 美弥子
【テーマコード(参考)】
4L033
【Fターム(参考)】
4L033AA05
4L033AB01
4L033AC09
4L033CA48
4L033CA59
4L033CA60
4L033CA64
(57)【要約】
【課題】毛羽を低減できる炭素繊維前駆体用処理剤及び炭素繊維前駆体を提供する。
【解決手段】本発明の炭素繊維前駆体用処理剤は、下記のアミド変性シリコーン(A)及び非イオン界面活性剤(B)を含有することを特徴とする。アミド変性シリコーン(A)は、所定のアミノ変性シリコーンと、所定のカルボン酸化合物との縮合反応によって得られるものである。本発明の炭素繊維前駆体は、前記炭素繊維前駆体用処理剤が付着していることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のアミド変性シリコーン(A)、及び非イオン界面活性剤(B)を含有することを特徴とする炭素繊維前駆体用処理剤。
アミド変性シリコーン(A):下記の一般式(1)で示されるアミノ変性シリコーンと、下記のカルボン酸化合物との縮合反応によって得られるアミド変性シリコーン。
カルボン酸化合物:炭素数2以上24以下の1価の脂肪酸、炭素数4以上24以下の2価以上4価以下の多塩基酸、及びそれらの誘導体から選ばれる少なくとも1つ。
【化1】
(一般式(1)において、
a:4以上1200以下の整数。
b:0以上100以下の整数。
c:0以上100以下の整数。(ただし、a+b+c=4以上1400以下を満たす整数である。)
X
1,X
2,X
3:メチル基、炭素数1以上4以下のアルコキシ基、ヒドロキシ基、又は下記の一般式(2)で示されるアミノ変性基(ただし、X
1、X
2及びX
3のうち少なくとも1つは下記の一般式(2)で示されるアミノ変性基であり、X
3が複数存在する場合は、1種単独又は2種以上とすることができ、cが0の場合は、X
3は存在せず、X
1及びX
2のうち少なくとも1つが下記の一般式(2)で示されるアミノ変性基である。)。
R
1:炭素数2以上24以下のアルキル基、炭素数2以上24以下のアルケニル基、フェニル基、又は炭素数7以上31以下のアラルキル基(ただし、R
1が複数存在する場合は、1種単独又は2種以上とすることができる。)。
ただし、一般式(1)を構成する各構成単位の順序は順不同である。)
【化2】
(一般式(2)において、
R
2,R
3:炭素数1以上5以下のアルキレン基(ただし、前記一般式(1)において、一般式(2)で示されるアミノ変性基が複数存在する場合は、R
2及びR
3は、それぞれ1種単独又は2種以上とすることができる。)。
r:0又は1の整数。)
【請求項2】
前記一般式(2)におけるrが、1の整数である請求項1に記載の炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項3】
前記カルボン酸化合物が、炭素数2以上24以下の1価の脂肪酸又はその誘導体である請求項1又は2に記載の炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項4】
前記非イオン界面活性剤(B)が、炭素数12以上16以下のアルキル基を有するポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含むものである請求項1~3のいずれか一項に記載の炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項5】
前記アミド変性シリコーン(A)及び前記非イオン界面活性剤(B)の含有割合の合計を100質量部とすると、前記アミド変性シリコーン(A)を5質量部以上95質量部以下、及び前記非イオン界面活性剤(B)を5質量部以上95質量部以下の割合で含有する請求項1~4のいずれか一項に記載の炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項6】
さらに、アミノ変性シリコーン(C)及びポリエーテル変性シリコーン(D)から選ばれる少なくとも1つを含有する請求項1~4のいずれか一項に記載の炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項7】
さらに、アミノ変性シリコーン(C)を含有し、
前記アミド変性シリコーン(A)、前記非イオン界面活性剤(B)、及び前記アミノ変性シリコーン(C)の含有割合の合計を100質量部とすると、前記アミド変性シリコーン(A)を5質量部以上92質量部以下、前記非イオン界面活性剤(B)を5質量部以上92質量部以下、及び前記アミノ変性シリコーン(C)を3質量部以上80質量部以下の割合で含有する請求項1~4のいずれか一項に記載の炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項8】
さらに、ポリエーテル変性シリコーン(D)を含有し、
前記アミド変性シリコーン(A)、前記非イオン界面活性剤(B)、及び前記ポリエーテル変性シリコーン(D)の含有割合の合計を100質量部とすると、前記アミド変性シリコーン(A)を5質量部以上92質量部以下、前記非イオン界面活性剤(B)を5質量部以上92質量部以下、及び前記ポリエーテル変性シリコーン(D)を3質量部以上80質量部以下の割合で含有する請求項1~4のいずれか一項に記載の炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項9】
さらに、アミノ変性シリコーン(C)及びポリエーテル変性シリコーン(D)を含有し、
前記アミド変性シリコーン(A)、前記非イオン界面活性剤(B)、前記アミノ変性シリコーン(C)、及び前記ポリエーテル変性シリコーン(D)の含有割合の合計を100質量部とすると、前記アミド変性シリコーン(A)を5質量部以上89質量部以下、前記非イオン界面活性剤(B)を5質量部以上89質量部以下、前記アミノ変性シリコーン(C)を3質量部以上80質量部以下、及び前記ポリエーテル変性シリコーン(D)を3質量部以上80質量部以下の割合で含有する請求項1~4のいずれか一項に記載の炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の炭素繊維前駆体用処理剤が付着していることを特徴とする炭素繊維前駆体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定のアミド変性シリコーンを含有する炭素繊維前駆体用処理剤及びそれにより得られた炭素繊維前駆体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、炭素繊維は、例えばエポキシ樹脂等のマトリックス樹脂と組み合わせた炭素繊維複合材料又は難燃・防炎素材として、建材、輸送機器等の各分野において広く利用されている。例えば、炭素繊維は、炭素繊維前駆体として例えばアクリル繊維を紡糸する工程、繊維を延伸する工程、耐炎化工程、及び炭素化工程を経て製造される。炭素繊維前駆体には、炭素繊維前駆体の紡糸工程において集束性を付与するために、炭素繊維前駆体用処理剤が用いられることがある。
【0003】
従来、特許文献1に開示される炭素繊維前駆体用処理剤が知られている。特許文献1は、所定のアミノ変性ポリオルガノシロキサンと所定の多環芳香族化合物とを合計で55質量%以上含有し且つ該アミノ変性ポリオルガノシロキサン/該多環芳香族化合物=95/5~60/40(質量比)の割合で含有して成る炭素繊維製造用合成繊維処理剤について開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、従来の炭素繊維前駆体用処理剤は、炭素繊維前駆体の毛羽の低減効果が不十分であるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、所定のアミド変性シリコーン(A)及び非イオン界面活性剤(B)を含有する炭素繊維前駆体用処理剤がまさしく好適であることを見出した。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様の炭素繊維前駆体用処理剤では、下記のアミド変性シリコーン(A)、及び非イオン界面活性剤(B)を含有することを要旨とする。
【0008】
アミド変性シリコーン(A):下記の一般式(1)で示されるアミノ変性シリコーンと、下記のカルボン酸化合物との縮合反応によって得られるアミド変性シリコーン。
カルボン酸化合物:炭素数2以上24以下の1価の脂肪酸、炭素数4以上24以下の2価以上4価以下の多塩基酸、及びそれらの誘導体から選ばれる少なくとも1つ。
【0009】
【化1】
(一般式(1)において、
a:4以上1200以下の整数。
【0010】
b:0以上100以下の整数。
c:0以上100以下の整数。(ただし、a+b+c=4以上1400以下を満たす整数である。)
X1,X2,X3:メチル基、炭素数1以上4以下のアルコキシ基、ヒドロキシ基、又は下記の一般式(2)で示されるアミノ変性基(ただし、X1、X2及びX3のうち少なくとも1つは下記の一般式(2)で示されるアミノ変性基であり、X3が複数存在する場合は、1種単独又は2種以上とすることができ、cが0の場合は、X3は存在せず、X1及びX2のうち少なくとも1つが下記の一般式(2)で示されるアミノ変性基である。)。
【0011】
R1:炭素数2以上24以下のアルキル基、炭素数2以上24以下のアルケニル基、フェニル基、又は炭素数7以上31以下のアラルキル基(ただし、R1が複数存在する場合は、1種単独又は2種以上とすることができる。)。
【0012】
ただし、一般式(1)を構成する各構成単位の順序は順不同である。)
【0013】
【化2】
(一般式(2)において、
R
2,R
3:炭素数1以上5以下のアルキレン基(ただし、前記一般式(1)において、一般式(2)で示されるアミノ変性基が複数存在する場合は、R
2及びR
3は、それぞれ1種単独又は2種以上とすることができる。)。
【0014】
r:0又は1の整数。)
前記炭素繊維前駆体用処理剤において、前記一般式(2)におけるrが、1の整数であってもよい。
【0015】
前記炭素繊維前駆体用処理剤において、前記カルボン酸化合物が、炭素数2以上24以下の1価の脂肪酸又はその誘導体であってもよい。
前記炭素繊維前駆体用処理剤において、前記非イオン界面活性剤(B)が、炭素数12以上16以下のアルキル基を有するポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含むものであってもよい。
【0016】
前記炭素繊維前駆体用処理剤において、前記アミド変性シリコーン(A)及び前記非イオン界面活性剤(B)の含有割合の合計を100質量部とすると、前記アミド変性シリコーン(A)を5質量部以上95質量部以下、及び前記非イオン界面活性剤(B)を5質量部以上95質量部以下の割合で含有してもよい。
【0017】
前記炭素繊維前駆体用処理剤において、さらに、アミノ変性シリコーン(C)及びポリエーテル変性シリコーン(D)から選ばれる少なくとも1つを含有してもよい。
前記炭素繊維前駆体用処理剤において、さらに、アミノ変性シリコーン(C)を含有し、前記アミド変性シリコーン(A)、前記非イオン界面活性剤(B)、及び前記アミノ変性シリコーン(C)の含有割合の合計を100質量部とすると、前記アミド変性シリコーン(A)を5質量部以上92質量部以下、前記非イオン界面活性剤(B)を5質量部以上92質量部以下、及び前記アミノ変性シリコーン(C)を3質量部以上80質量部以下の割合で含有してもよい。
【0018】
前記炭素繊維前駆体用処理剤において、さらに、ポリエーテル変性シリコーン(D)を含有し、前記アミド変性シリコーン(A)、前記非イオン界面活性剤(B)、及び前記ポリエーテル変性シリコーン(D)の含有割合の合計を100質量部とすると、前記アミド変性シリコーン(A)を5質量部以上92質量部以下、前記非イオン界面活性剤(B)を5質量部以上92質量部以下、及び前記ポリエーテル変性シリコーン(D)を3質量部以上80質量部以下の割合で含有してもよい。
【0019】
前記炭素繊維前駆体用処理剤において、さらに、アミノ変性シリコーン(C)及びポリエーテル変性シリコーン(D)を含有し、前記アミド変性シリコーン(A)、前記非イオン界面活性剤(B)、前記アミノ変性シリコーン(C)、及び前記ポリエーテル変性シリコーン(D)の含有割合の合計を100質量部とすると、前記アミド変性シリコーン(A)を5質量部以上89質量部以下、前記非イオン界面活性剤(B)を5質量部以上89質量部以下、前記アミノ変性シリコーン(C)を3質量部以上80質量部以下、及び前記ポリエーテル変性シリコーン(D)を3質量部以上80質量部以下の割合で含有してもよい。
【0020】
上記課題を解決するために、本発明の別の態様の炭素繊維前駆体は、前記炭素繊維前駆体用処理剤が付着していることを要旨とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、炭素繊維前駆体の毛羽を低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<第1実施形態>
以下、本発明の炭素繊維前駆体用処理剤(以下、単に処理剤ともいう)を具体化した第1実施形態を説明する。本実施形態の処理剤は、下記のアミド変性シリコーン(A)及び非イオン界面活性剤(B)を含有する。
【0023】
(アミド変性シリコーン(A))
アミド変性シリコーン(A)は、下記の一般式(1)で示されるアミノ変性シリコーンと、下記のカルボン酸化合物との縮合反応によって得られるアミド変性シリコーンである。
【0024】
カルボン酸化合物は、炭素数2以上24以下の1価の脂肪酸、炭素数4以上24以下の2価以上4価以下の多塩基酸、及びそれらの誘導体から選ばれる少なくとも1つである。カルボン酸化合物は、一種のカルボン酸化合物を使用してもよく、また二種以上のカルボン酸化合物を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
炭素数2以上24以下の1価の脂肪酸としては、公知のものを適宜採用でき、飽和脂肪酸であっても、不飽和脂肪酸であってもよい。また、直鎖状のものであっても、分岐鎖構造を有するものであってもよい。上記の飽和脂肪酸の具体例としては、例えば酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ヘキサン酸(カプロン酸)、オクチル酸(2-エチルヘキサン酸)、オクタン酸(カプリル酸)、ノナン酸、デカン酸(カプリン酸)、ドデカン酸(ラウリン酸)、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、エイコサン酸(アラキジン酸)、ドコサン酸(ベヘン酸)、テトラコサン酸等が挙げられる。上記不飽和脂肪酸の具体例としては、例えばクロトン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、エイコセン酸、リノール酸、αリノレン酸、γリノレン酸、アラキドン酸等が挙げられる。
【0026】
炭素数4以上24以下の2価以上4価以下の多塩基酸の具体例としては、例えば(1)コハク酸、フマル酸、マレイン酸、アジピン酸、セバシン酸等の二塩基酸、(2)アコニット酸等の三塩基酸、(3)安息香酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、(4)トリメリット酸等の芳香族トリカルボン酸、(5)ピロメリット酸等の芳香族テトラカルボン酸等が挙げられる。
【0027】
上記炭素数2以上24以下の1価の脂肪酸、炭素数4以上24以下の2価以上4価以下の多塩基酸の誘導体としては、下記の一般式(1)で示されるアミノ変性シリコーンとの縮合反応によってアミド変性シリコーン(A)を生成できるものであれば、特に限定されない。誘導体としては、例えばカルボン酸エステル、カルボン酸ハロゲン化物、カルボン酸無水物、カルボン酸アジド、活性エステル等が挙げられる。
【0028】
カルボン酸エステルの具体例としては、例えばラウリン酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、オレイン酸メチル、コハク酸ジメチル、フマル酸ジメチル、マレイン酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、セバシン酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジメチル、ジメチルテレフタル酸、ジメチルイソフタル酸、ジメチル-2,6-ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。
【0029】
カルボン酸ハロゲン化物を構成するハロゲンの具体例としては、例えばフッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。
カルボン酸無水物の具体例としては、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水安息香酸、ピロメリット酸無水物等が挙げられる。
【0030】
これらのカルボン酸化合物の中で炭素数2~24の1価の脂肪酸又はその誘導体が好ましい。これらの化合物の場合、毛羽をより低減できる。
アミド変性シリコーン(A)の原料となるアミノ変性シリコーンは、下記の一般式(1)で示される。
【0031】
【化3】
(一般式(1)において、
a:4以上1200以下の整数。
【0032】
b:0以上100以下の整数。
c:0以上100以下の整数。(ただし、a+b+c=4以上1400以下を満たす整数である。)
X1,X2,X3:メチル基、炭素数1以上4以下のアルコキシ基、ヒドロキシ基、又は下記の一般式(2)で示されるアミノ変性基(ただし、X1、X2及びX3のうち少なくとも1つは下記の一般式(2)で示されるアミノ変性基であり、X3が複数存在する場合は、1種単独又は2種以上とすることができ、cが0の場合は、X3は存在せず、X1及びX2のうち少なくとも1つが下記の一般式(2)で示されるアミノ変性基である。)。
【0033】
R1:炭素数2以上24以下のアルキル基、炭素数2以上24以下のアルケニル基、フェニル基、又は炭素数7以上31以下のアラルキル基(ただし、R1が複数存在する場合は、1種単独又は2種以上とすることができる。)。
【0034】
ただし、一般式(1)を構成する各構成単位の順序は順不同である。)
【0035】
【化4】
(一般式(2)において、
R
2,R
3:炭素数1以上5以下のアルキレン基(ただし、前記一般式(1)において、一般式(2)で示されるアミノ変性基が複数存在する場合は、R
2及びR
3は、それぞれ1種単独又は2種以上とすることができる。)。
【0036】
r:0又は1の整数。)
上記R1を構成する炭素数2以上24以下のアルキル基の具体例としては、例えばエチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、イコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基等が挙げられる。
【0037】
上記R1を構成する炭素数2以上24以下のアルケニル基の具体例としては、例えばエテニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、イコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基、テトラコセニル基等が挙げられる。
【0038】
上記R1を構成する炭素数7以上31以下のアラルキル基の具体例としては、例えばベンジル基、α-メチルベンジル基、フェネチル基、α-メチルフェネチル基等が挙げられる。
【0039】
上記X1等を構成する炭素数1以上4以下のアルコキシ基の具体例としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。
上記R2等を構成する炭素数1以上5以下のアルキレン基の具体例としては、例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基等が挙げられる。
【0040】
上記一般式(2)におけるrは、1の整数であることが好ましい。rが1の場合、毛羽をより低減できる。
アミド変性シリコーン(A)は、上述した一般式(1)で示されるアミノ変性シリコーンとカルボン酸化合物との縮合反応させることによって得られる。縮合反応は、公知の方法により行うことができる。また、縮合反応時において、必要により酸又はアルカリ等の触媒を使用してもよく、反応が促進する温度まで加熱してもよい。縮合反応時における一般式(1)で示されるアミノ変性シリコーンとカルボン酸化合物のモル比率は、特に限定されないが、好ましくは1:0.1以上2以下、より好ましくは1:0.2以上1以下である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0041】
アミド変性シリコーン(A)は、以下の一般式(3)で示されるアミド変性シリコーンの構造を有しているものと推定される。
【0042】
【化5】
(一般式(3)において、
a:4以上1200以下の整数。
【0043】
b:0以上100以下の整数。
c:0以上100以下の整数。(ただし、a+b+c=4以上1400以下を満たす整数である。)
X1,X2,X3:メチル基、炭素数1以上4以下のアルコキシ基、ヒドロキシ基、又は下記の一般式(4)で示されるアミノ変性基(ただし、X1、X2及びX3のうち少なくとも1つは下記の一般式(4)で示されるアミノ変性基であり、X3が複数存在する場合は、1種単独又は2種以上とすることができ、cが0の場合は、X3は存在せず、X1及びX2のうち少なくとも1つが下記の一般式(4)で示されるアミノ変性基である。)。
【0044】
R1:炭素数2以上24以下のアルキル基、炭素数2以上24以下のアルケニル基、フェニル基、又は炭素数7以上31以下のアラルキル基(ただし、R1が複数存在する場合は、1種単独又は2種以上とすることができる。)。
【0045】
ただし、一般式(3)を構成する各構成単位の順序は順不同である。)
【0046】
【化6】
(一般式(4)において、
R
2,R
3:炭素数1以上5以下のアルキレン基(ただし、前記一般式(3)において、一般式(4)で示されるアミド変性基が複数存在する場合は、R
2及びR
3は、それぞれ1種単独又は2種以上とすることができる。)。
【0047】
R4,R5:水素原子、炭素数2以上24以下の1価の脂肪酸からカルボキシ基を構成する水酸基を除いた残基、又は炭素数4以上24以下の2価以上4価以下の多塩基酸からカルボキシ基を構成する一つの水酸基を除いた残基(ただし、前記一般式(3)において、一般式(4)で示されるアミド変性基が複数存在する場合は、R4及びR5は、それぞれ1種単独又は2種以上とすることができる。また、R4,R5がともに水素原子の場合を除く。)。
【0048】
r:0又は1の整数。)
処理剤中におけるアミド変性シリコーン(A)の含有量は、適宜設定されるが、好ましくは5質量%以上95質量%以下、より好ましくは10質量%以上80質量%以下である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。かかる数値範囲に規定されることにより、毛羽をより低減できる。
【0049】
(非イオン界面活性剤(B))
非イオン界面活性剤(B)としては、例えば、アルコール類又はカルボン酸類にアルキレンオキサイドを付加させた(ポリ)オキシアルキレン構造を有するもの、カルボン酸類と多価アルコールとのエステル化合物にアルキレンオキサイドを付加させた(ポリ)オキシアルキレン構造を有するエーテル・エステル化合物、アミン化合物としてアルキルアミン類にアルキレンオキサイドを付加させた(ポリ)オキシアルキレン構造を有するもの、カルボン酸類と炭素数3以上6以下の環状構造を有する多価アルコール等との部分エステル化合物等が挙げられる。これらの非イオン界面活性剤(B)は、一種類の非イオン界面活性剤を単独で使用してもよいし、又は二種以上の非イオン界面活性剤を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0050】
非イオン界面活性剤(B)の原料として用いられるアルコール類の具体例としては、例えば、(1)メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、エイコサノール、ヘンエイコサノール、ドコサノール、トリコサノール、テトラコサノール、ペンタコサノール、ヘキサコサノール、ヘプタコサノール、オクタコサノール、ノナコサノール、トリアコンタノール等の直鎖アルキルアルコール、(2)イソプロパノール、イソブタノール、イソヘキサノール、2-エチルヘキサノール、イソノナノール、イソデカノール、イソドデカノール、イソトリデカノール、イソテトラデカノール、イソトリアコンタノール、イソヘキサデカノール、イソヘプタデカノール、イソオクタデカノール、イソノナデカノール、イソエイコサノール、イソヘンエイコサノール、イソドコサノール、イソトリコサノール、イソテトラコサノール、イソペンタコサノール、イソヘキサコサノール、イソヘプタコサノール、イソオクタコサノール、イソノナコサノール、イソペンタデカノール等の分岐アルキルアルコール、(3)テトラデセノール、ヘキサデセノール、ヘプタデセノール、オクタデセノール、ノナデセノール等の直鎖アルケニルアルコール、(4)イソヘキサデセノール、イソオクタデセノール等の分岐アルケニルアルコール、(5)シクロペンタノール、シクロヘキサノール等の環状アルキルアルコール、(6)フェノール、ノニルフェノール、ベンジルアルコール、モノスチレン化フェノール、ジスチレン化フェノール、トリスチレン化フェノール等の芳香族系アルコール等が挙げられる。
【0051】
非イオン界面活性剤(B)の原料として用いられるカルボン酸類の具体例としては、例えば、(1)オクチル酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸、ヘンエイコサン酸、ドコサン酸等の直鎖アルキルカルボン酸、(2)2-エチルヘキサン酸、イソドデカン酸、イソトリデカン酸、イソテトラデカン酸、イソヘキサデカン酸、イソオクタデカン酸等の分岐アルキルカルボン酸、(3)オクタデセン酸、オクタデカジエン酸、オクタデカトリエン酸等の直鎖アルケニルカルボン酸、(4)安息香酸等の芳香族系カルボン酸、(5)レシノール酸等のヒドロキシカルボン酸等が挙げられる。
【0052】
非イオン界面活性剤(B)の(ポリ)オキシアルキレン構造を形成する原料として用いられるアルキレンオキサイドの具体例としては、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等が挙げられる。アルキレンオキサイドの付加モル数は、適宜設定されるが、好ましくは0.1モル以上60モル以下、より好ましくは1モル以上40モル以下、さらに好ましくは2モル以上30モル以下である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。なお、アルキレンオキサイドの付加モル数は、仕込み原料中におけるアルコール類又はカルボン酸類1モルに対するアルキレンオキサイドのモル数を示す。複数種類のアルキレンオキサイドが用いられる場合、ブロック付加物であってもランダム付加物であってもよい。
【0053】
非イオン界面活性剤(B)の原料として用いられる多価アルコールの具体例としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール、グリセリン、2-メチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、トリメチロールプロパン、ソルビタン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられる。
【0054】
非イオン界面活性剤(B)の原料として用いられるアルキルアミンの具体例として、例えばメチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、オクタデシルアミン、オクタデセニルアミン、ヤシアミン等が挙げられる。
【0055】
非イオン界面活性剤(B)の具体例としては、例えばイソドデシルアルコールのエチレンオキサイド10モル付加物、イソヘキサデシルアルコールのエチレンオキサイド5モル付加物、ステアリルアルコールのエチレンオキサイド5モル付加物、硬化ひまし油のエチレンオキサイド20モル付加物等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル等が挙げられる。
【0056】
非イオン界面活性剤(B)は、炭素数12以上16以下のアルキル基を有するポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含むものが好ましい。かかる構成により処理剤の安定性を向上できる。
【0057】
処理剤中における非イオン界面活性剤(B)の含有量は、適宜設定されるが、好ましくは5質量%以上95質量%以下、より好ましくは10質量%以上80質量%以下である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。かかる数値範囲に規定されることにより、毛羽をより低減できる。
【0058】
処理剤中において、アミド変性シリコーン(A)及び非イオン界面活性剤(B)の含有割合の合計を100質量部とすると、アミド変性シリコーン(A)を5質量部以上95質量部以下、及び非イオン界面活性剤(B)を5質量部以上95質量部以下の割合で含有することが好ましい。かかる数値範囲に規定されることにより、毛羽をより低減できる。
【0059】
(アミノ変性シリコーン(C))
処理剤は、さらにアミノ変性シリコーン(C)を含有してもよい。アミノ変性シリコーンを含有することにより、最終的に得られる炭素繊維の強度を向上できる。
【0060】
アミノ変性シリコーン(C)は、(-Si-O-)の繰り返しからなるポリシロキサン骨格を持ち、そのケイ素原子のアルキル側鎖の一部がアミノ変性基により変性されたものである。アミノ変性基は、主鎖であるシリコーンの側鎖と結合してもよいし、末端と結合してもよいし、またその両方と結合してもよい。アミノ変性基としては、例えばアミノ基、アミノ基を有する有機基等が挙げられる。アミノ基を有する有機基としては、下記の一般式(5)が例示される。なお、アミノ変性シリコーン(C)は、アミド変性シリコーン(A)に該当するものは含まれない。
【0061】
【化7】
(一般式(5)において、R
6及びR
7は、炭素数2~4のアルキレン基であり、それぞれ同じでも異なっていてもよい。zは、0又は1の整数である。)
アミノ変性シリコーン(C)の25℃の動粘度の下限は、特に制限はないが、好ましくは100mm
2/s以上、より好ましくは300mm
2/s以上である。動粘度の下限が100mm
2/s以上の場合、炭素繊維の強度をより向上させる。アミノ変性シリコーンの25℃の動粘度の上限は、特に制限はないが、好ましくは7000mm
2/s以下、より好ましくは5000mm
2/s以下である。動粘度の上限が7000mm
2/s以下の場合、水性液の経時安定性をより向上させる。なお、アミノ変性シリコーンが複数種類使用される場合の動粘度は、使用する複数のアミノ変性シリコーンの混合物の実際の測定値が適用される。
【0062】
アミノ変性シリコーン(C)のアミノ当量は、特に制限はないが、好ましくは500g/mol以上5000g/mol以下である。
処理剤中におけるアミノ変性シリコーン(C)の含有量は、適宜設定されるが、好ましくは3質量%以上80質量%以下、より好ましくは4質量%以上60質量%以下である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。かかる数値範囲に規定されることにより、最終的に得られる炭素繊維の強度を向上できる。
【0063】
処理剤において、アミド変性シリコーン(A)、非イオン界面活性剤(B)、及びアミノ変性シリコーン(C)の含有割合の合計を100質量部とすると、アミド変性シリコーン(A)を5質量部以上92質量部以下、非イオン界面活性剤(B)を5質量部以上92質量部以下、及びアミノ変性シリコーン(C)を3質量部以上80質量部以下の割合で含有することが好ましい。かかる数値範囲に規定されることにより、最終的に得られる炭素繊維の強度を向上できる。
【0064】
(ポリエーテル変性シリコーン(D))
処理剤は、さらにポリエーテル変性シリコーン(D)を含有してもよい。ポリエーテル変性シリコーンを含有することにより、集束性を向上できる。
【0065】
ポリエーテル変性シリコーン(D)としては、公知のものを適宜採用することができ、構成としては、特に制限はなく、例えば、ABn型ポリエーテル変性シリコーン、側鎖型ポリエーテル変性シリコーン、両末端型ポリエーテル変性シリコーン、ポリエーテル基とアルキル基の両方が側鎖、又は、末端に導入されたアルキルポリエーテル変性シリコーン、側鎖型ポリエーテル変性シリコーンのポリエーテル鎖末端部分が脂肪族化合物、又は、脂肪酸化合物で封鎖されたもの、両末端型ポリエーテル変性シリコーンのポリエーテル鎖末端部分が脂肪族化合物、又は、脂肪酸化合物で封鎖されたもの等が挙げられる。
【0066】
ポリエーテル変性シリコーン(D)の構成としては、例えば以下の構造を有することが好ましい。
【0067】
【化8】
一般式(6)において、Xは、下記の一般式(7)で示される有機基を示す。Yは、下記の一般式(8)で示される有機基を示す。X,Yの繰り返しは、それぞれブロック又はランダムのいずれの方法で繰り返されてもよい。a,bは、それぞれ1以上の整数を示す。
【0068】
【化9】
一般式(7)において、R
8は、水素原子、炭素数1~20のアルキル基又は炭素数2~20のアルケニル基を示す。
【0069】
【化10】
一般式(8)において、R
9は、炭素数3~6のアルキレン基を示す。R
10は、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、又は炭素数2~8のアシル基を示す。c,dは、c+d=1~200となるような整数(ただし、c≧0、d≧0。)を示す。
【0070】
ポリエーテル変性シリコーン(D)の25℃の動粘度の下限は、特に制限はないが、好ましくは100mm2/s以上、より好ましくは300mm2/s以上である。動粘度の下限が100mm2/s以上の場合、集束性をより向上させる。アミノ変性シリコーンの25℃の動粘度の上限は、特に制限はないが、好ましくは7000mm2/s以下、より好ましくは5000mm2/s以下である。動粘度の上限が7000mm2/s以下の場合、水性液の経時安定性をより向上させる。なお、ポリエーテル変性シリコーンが複数種類使用される場合の動粘度は、使用する複数のポリエーテル変性シリコーンの混合物の実際の測定値が適用される。
【0071】
ポリエーテル変性シリコーン(D)のシリコーン主鎖/ポリエーテル側鎖の質量比は、特に制限はないが、好ましくは20/80~60/40である。
ポリエーテル変性シリコーン(D)のエチレンオキサイド/プロピレンオキサイドのモル比は、特に制限はないが、好ましくは40/60~100/0である。
【0072】
処理剤中におけるポリエーテル変性シリコーン(D)の含有量は、適宜設定されるが、好ましくは3質量%以上80質量%以下、より好ましくは4質量%以上60質量%以下である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。かかる数値範囲に規定されることにより、集束性を向上できる。
【0073】
処理剤において、アミド変性シリコーン(A)、非イオン界面活性剤(B)、及びポリエーテル変性シリコーン(D)の含有割合の合計を100質量部とすると、アミド変性シリコーン(A)を5質量部以上92質量部以下、非イオン界面活性剤(B)を5質量部以上92質量部以下、及びポリエーテル変性シリコーン(D)を3質量部以上80質量部以下の割合で含有することが好ましい。かかる数値範囲に規定されることにより、集束性をより向上できる。
【0074】
処理剤において、アミド変性シリコーン(A)、非イオン界面活性剤(B)、アミノ変性シリコーン(C)、及びポリエーテル変性シリコーン(D)の含有割合の合計を100質量部とすると、アミド変性シリコーン(A)を5質量部以上89質量部以下、非イオン界面活性剤(B)を5質量部以上89質量部以下、アミノ変性シリコーン(C)を3質量部以上80質量部以下、及びポリエーテル変性シリコーン(D)を3質量部以上80質量部以下の割合で含有することが好ましい。かかる数値範囲に規定されることにより、本発明の効果をより向上できる。
【0075】
<第2実施形態>
次に、本発明に係る炭素繊維前駆体を具体化した第2実施形態について説明する。本実施形態の炭素繊維前駆体は、第1実施形態の処理剤が付着している。
【0076】
炭素繊維前駆体としては、後述する炭素化処理工程を経ることにより炭素繊維となる合成繊維であることが好ましい。炭素繊維前駆体を構成する繊維原料としては、特に限定されないが、例えば(1)ポリエチレンテレフタラート、ポリプロピレンテレフタラート、ポリ乳酸エステル等のポリエステル系繊維、(2)ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維、(3)ポリアクリル、モダアクリル等のポリアクリル系繊維、(4)ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維、(5)セルロース系繊維、(6)リグニン系繊維、(7)フェノール樹脂、(8)ピッチ等が挙げられる。さらに、ポリアクリル系繊維としては、少なくとも90モル%以上のアクリロニトリルと、10モル%以下の耐炎化促進成分とを共重合させて得られるポリアクリロニトリルを主成分とする繊維から構成されることが好ましい。耐炎化促進成分としては、例えばアクリロニトリルに対して共重合性を有するビニル基含有化合物が好適に使用できる。
【0077】
第1実施形態の処理剤を炭素繊維前駆体に付着させる割合に特に制限はないが、処理剤(溶媒を含まない)を炭素繊維前駆体に対し0.1質量%以上2質量%以下となるように付着させることが好ましく、0.3質量%以上1.2質量%以下となるように付着させることがより好ましい。
【0078】
第1実施形態の処理剤を炭素繊維前駆体に付着させる際の形態としては、例えば有機溶媒溶液、水性液等が挙げられる。
処理剤を炭素繊維前駆体に付着させる方法としては、例えば、第1実施形態の処理剤、及び水を含有する水性液又はさらに希釈した水溶液を用いて、公知の方法、例えば浸漬法、スプレー法、ローラー法、計量ポンプを用いたガイド給油法等によって付着させる方法を適用できる。
【0079】
次に、本実施形態の炭素繊維前駆体を用いた炭素繊維の製造方法について説明する。
炭素繊維の製造方法は、下記の工程1~3を経ることが好ましい。
工程1:炭素繊維前駆体となる原料を紡糸するとともに、第1実施形態の処理剤を付着させる紡糸工程。
【0080】
工程2:前記工程1で得られた炭素繊維前駆体を好ましくは200℃以上300℃以下、より好ましくは230℃以上270℃以下の酸化性雰囲気中で耐炎化繊維に転換する耐炎化処理工程。
【0081】
工程3:前記工程2で得られた耐炎化繊維をさらに好ましくは300℃以上2000℃以下、より好ましくは300℃以上1300℃以下の不活性雰囲気中で炭化させる炭素化処理工程。
【0082】
なお、上記工程2と工程3とによって焼成工程が構成されるものとする。
処理剤は、紡糸工程のどの段階で炭素繊維前駆体の原料繊維に付着させてもよいが、延伸工程前に一度付着させておくことが好ましい。さらに延伸工程後のどの段階で再度付着させてもよい。例えば、延伸工程直後に再度付着させてもよいし、巻取り段階で再度付着させてもよいし、耐炎化処理工程の直前に再度付着させてもよい。
【0083】
耐炎化処理工程における酸化性雰囲気は、特に限定されず、例えば、空気雰囲気を採用することができる。
炭素化処理工程における不活性雰囲気は、特に限定されず、例えば、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、真空雰囲気等を採用することができる。
【0084】
本実施形態の処理剤及び炭素繊維前駆体の作用及び効果について説明する。
(1)本実施形態の処理剤では、所定のアミド変性シリコーン(A)及び非イオン界面活性剤(B)を含有する。したがって、処理剤が付着した炭素繊維前駆体の毛羽を低減できる。また、処理剤が付着した炭素繊維前駆体の集束性を向上できる。特に、ポリエーテル変性シリコーン(D)を含有する場合、集束性をより向上できる。よって、ローラーへの巻き付きが抑制されることにより操業性の低下を抑制でき、また糸品質の低下を抑制できる。
【0085】
(2)また、最終的に得られる炭素繊維の強度を向上できる。特に、アミノ変性シリコーン(C)を含有する場合、炭素繊維の強度をより向上できる。
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
【0086】
・本実施形態の処理剤には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、処理剤の品質保持のための安定化剤や制電剤として、上記以外の界面活性剤、帯電防止剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の通常処理剤に用いられる成分をさらに配合してもよい。
【実施例0087】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0088】
試験区分1((A)アミド変性シリコーンの調製)
・アミド変性シリコーン(A-1)
アミノ変性シリコーン(a=500,b=0,c=20,X1=メチル基,X2=メチル基,X3=アミノエチルアミノプロピル基)2018gにオレイン酸282gをガラス製の反応容器内に入れ、撹拌しつつ120℃まで昇温し、窒素気流下で4時間反応を行った。その後、反応物を冷却し、アミド変性シリコーン(A-1)を得た。
【0089】
・アミド変性シリコーン(A-2~A-21,A-23~A-25)
アミド変性シリコーン(A-2~A-21,A-23~A-25)は、表1に示される各成分を使用し、アミド変性シリコーン(A-1)と同様の方法にて調製した。
【0090】
・アミド変性シリコーン(A-22)
アミノ変性シリコーン(a=500,b=0,c=20,X1=メチル基,X2=メチル基,X3=アミノエチルアミノプロピル基)2018gにテレフタル酸166gをガラス製の反応容器内に入れ、撹拌しつつ120℃まで昇温し、窒素気流下で4時間反応を行った。その後、反応物を冷却し、アミド変性シリコーン(A-22)を得た。
【0091】
アミド変性シリコーンの原料であるアミノ変性シリコーンの種類及びカルボン酸化合物の種類を、表1の「アミノ変性シリコーン」欄及び「カルボン酸化合物」欄にそれぞれ示す。
【0092】
また、表1のアミノ変性シリコーンを構成する一般式(1)中のa,b,cの数値、a,b,cの数値の合計、X1,X2,X3,R1の種類を、表2の「一般式(1)中のa,b,c」欄、「a+b+c」欄、「一般式(1)中のX1,X2,X3,R1」欄にそれぞれ示す。
【0093】
また、表1のアミノ変性シリコーンを構成する一般式(2)中のR2,R3の種類、rの数値を、表3の「一般式(2)中のR2,R3」欄、及び「一般式(2)中のr」欄にそれぞれ示す。
【0094】
【0095】
【0096】
【表3】
試験区分2(処理剤の調製)
(実施例1)
実施例1の処理剤は、アミド変性シリコーン(A-1)を40部(%)、アミノ変性シリコーン(25℃における動粘度が650mm
2/s、アミノ当量が1800g/molであるアミノ変性シリコーン)(C-1)を10部(%)、ポリエーテル変性シリコーン(25℃における動粘度が1700mm
2/s、シリコーン主鎖/ポリエーテル側鎖=50/50(質量比)、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド=50/50(モル比))(D-1)を10部(%)、非イオン性界面活性剤としてイソドデシルアルコールのエチレンオキサイド10モル付加物(B-1)を40部(%)をビーカーに加えてよく混合し、実施例1の処理剤を調製した。
【0097】
(実施例2~36、比較例1~6)
実施例2~36及び比較例1~6の各処理剤は、表4に示される各成分を使用し、実施例1と同様の方法にて調製した。
【0098】
各例の処理剤中におけるアミド変性シリコーン(A)の種類と含有量、アミノ変性シリコーン(C)の種類と含有量、ポリエーテル変性シリコーン(D)の種類と含有量、非イオン界面活性剤(B)の種類と含有量、その他成分の種類と含有量は、表4の「アミド変性シリコーン(A)」欄、「アミノ変性シリコーン(C)」欄、「ポリエーテル変性シリコーン(D)」欄、「非イオン界面活性剤(B)」欄、「その他成分」欄に示すとおりである。
【0099】
【表4】
表4に記載するアミノ変性シリコーン(C)、ポリエーテル変性シリコーン(D)、非イオン界面活性剤(B)、その他の詳細は以下のとおりである。
【0100】
(アミノ変性シリコーン(C))
C-1:25℃における動粘度が650mm2/s、アミノ当量が1800g/molであるアミノ変性シリコーン
C-2:25℃における動粘度が4500mm2/s、アミノ当量が1200g/molであるアミノ変性シリコーン
(ポリエーテル変性シリコーン(D))
D-1:25℃における動粘度が1700mm2/s、シリコーン主鎖/ポリエーテル側鎖=50/50(質量比)、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド=50/50(モル比)のポリエーテル変性シリコーン
D-2:25℃における動粘度が600mm2/s、シリコーン主鎖/ポリエーテル側鎖=30/70(質量比)、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド=100/0(モル比)のポリエーテル変性シリコーン
(非イオン界面活性剤(B))
B-1:イソドデシルアルコールのエチレンオキサイド10モル付加物
B-2:イソヘキサデシルアルコールのエチレンオキサイド5モル付加物
B-3:ステアリルアルコールのエチレンオキサイド5モル付加物
B-4:硬化ひまし油のエチレンオキサイド20モル付加物
(その他)
E-1:オクチル酸
E-2:酢酸
*:希釈液の安定性が悪いため未評価
試験区分3(炭素繊維前駆体及び炭素繊維の製造)
試験区分2で調製した処理剤を用いて、炭素繊維前駆体及び炭素繊維を製造した。
【0101】
まず、工程1として、アクリル樹脂を湿式紡糸した。具体的には、アクリロニトリル95質量%、アクリル酸メチル3.5質量%、メタクリル酸1.5質量%からなる極限粘度1.80の共重合体を、ジメチルアセトアミド(DMAC)に溶解してポリマー濃度が21.0質量%、60℃における粘度が500ポイズの紡糸原液を作成した。紡糸原液は、紡浴温度35℃に保たれたDMACの70質量%水溶液の凝固浴中に孔径(内径)0.075mm、ホール数12,000の紡糸口金よりドラフト比0.8で吐出した。
【0102】
凝固糸を水洗槽の中で脱溶媒と同時に5倍に延伸して水膨潤状態のアクリル繊維ストランド(炭素繊維前駆体)を作成した。このアクリル繊維ストランドに対して、固形分付着量が1質量%(溶媒を含まない)となるように、試験区分2で調製した処理剤を給油した。処理剤の給油は、処理剤の4%イオン交換水溶液を用いた浸漬法により実施した。その後、アクリル繊維ストランドに対して、130℃の加熱ローラーで乾燥緻密化処理を行い、更に170℃の加熱ローラー間で1.7倍の延伸を施した後に巻き取り装置を用いて糸管に巻き取った。
【0103】
次に、工程2として、巻き取られた炭素繊維前駆体から糸を解舒し、230~270℃の温度勾配を有する耐炎化炉で空気雰囲気下1時間、耐炎化処理した後に、搬送用ローラーを経由して糸管に巻き取ることで耐炎化糸(耐炎化繊維)を得た。
【0104】
次に、工程3として、巻き取られた耐炎化糸から糸を解舒し、窒素雰囲気下で300~1300℃の温度勾配を有する炭素化炉で焼成して炭素繊維に転換後、糸管に巻き取ることで炭素繊維を得た。
【0105】
試験区分4(評価)
各実施例及び比較例の処理剤について、炭素繊維前駆体の毛羽及び集束性、炭素繊維の強度、処理剤の安定性を評価した。各試験の手順について以下に示す。また、試験結果を表4の「毛羽」欄、「集束性」欄、「強度」欄、「安定性」欄にそれぞれ示す。
【0106】
(毛羽)
処理剤が給油された炭素繊維前駆体について、巻き取る直前の炭素繊維前駆体の毛羽の発生の有無を目視で観察し、以下の基準で評価した。
【0107】
・毛羽の評価基準
◎◎(優れる):全く毛羽が見られない場合
◎(良好):ほとんど毛羽が見られない場合
○(可):わずかに毛羽が見られるが、操業に問題になるレベルではない場合
×(不可):毛羽が目立ち、ローラーへの巻き付けも発生し、操業性に影響した場合
(集束性)
処理剤が給油された炭素繊維前駆体について、巻き取り前の炭素繊維前駆体糸の集束状態を目視で観察して、以下の基準で集束性の評価を行った。
【0108】
・集束性の評価基準
◎(良好):集束しており、トウ幅が一定である場合
○(可):集束しているが、トウ幅が一定ではない場合
×(不可):繊維束中に空間があり、集束していない場合
(強度)
試験区分3の工程3で得られた炭素繊維を用いて、JIS R 7606に準じて炭素繊維の強度を測定した。以下の基準で評価した。
【0109】
・強度の評価基準
◎(良好):強度が4.0GPa以上
○(可):強度が3.5GPa以上、4.0GPa未満
×(不可):強度が3.5GPa未満
(安定性)
処理剤の不揮発分が5%となるようにイオン交換水で希釈して、50℃で7日間静置後の外観を目視にて確認した。
【0110】
・安定性の評価基準
◎(良好):ほとんど分離、沈殿は見られず、外観が均一の場合
○(可):わずかにクリーミングや分離が見られるが、実用上問題ないレベルの場合
×(不可):明らかな沈殿又は分離が発生している場合
表4の結果から、本発明によれば、炭素繊維前駆体の毛羽の低減効果及び集束性を向上できる。また、得られた炭素繊維の強度を向上できる。また、処理剤の安定性を向上できる。