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  • 特開-履物及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023030489
(43)【公開日】2023-03-08
(54)【発明の名称】履物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A43B 7/18 20060101AFI20230301BHJP
   A43B 13/04 20060101ALI20230301BHJP
   A43B 13/14 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
A43B7/18
A43B13/04 A
A43B13/14 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021135649
(22)【出願日】2021-08-23
(71)【出願人】
【識別番号】500146428
【氏名又は名称】バン産商株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000589
【氏名又は名称】弁理士法人センダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 拓
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 満
【テーマコード(参考)】
4F050
【Fターム(参考)】
4F050AA01
4F050HA05
4F050HA53
4F050HA56
4F050HA57
4F050HA58
4F050HA60
4F050HA64
4F050HA85
(57)【要約】      (修正有)
【課題】足趾、足関節等が変形した足を容易に収容し、かつ着脱することができる履物、及びそれを低コストで効率的に製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明の履物は、表地及び裏地を有するアッパー部11、前記アッパー部と接続した中底部12、及び前記中底部と接続した靴底部を有する履物1であって、前記アッパー部の少なくとも一部は、前記アッパー部の前記表地と前記裏地の間に熱可塑性樹脂の層101を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表地及び裏地を有するアッパー部、前記アッパー部と接続した中底部、及び前記中底部と接続した靴底部を有する履物であって、前記アッパー部の少なくとも一部は、前記アッパー部の前記表地と前記裏地の間に熱可塑性樹脂の層を有する、履物。
【請求項2】
前記靴底部がミッドソールを有する、請求項1に記載の履物。
【請求項3】
前記アッパー部の、着用者の足の変形に対応する部分が、前記熱可塑性樹脂の層の熱変形により拡張されている、請求項1に記載の履物。
【請求項4】
前記アッパー部の、着用者の足の変形に対応する部分が、前記熱可塑性樹脂の層の熱変形により拡張されており、前記ミッドソールが、場合によって着用者の歩行を補助するための加工された形状を有し、前記ミッドソールの上にアウトソールが設けられている、請求項2に記載の履物。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂の熱変形温度が、ASTM D648に準拠して測定したときに25℃~120℃(荷重1.82MPa)である、請求項1~4のいずれか1項に記載の履物。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂が、低密度ポリエチレンまたはエチレン-酢酸ビニル樹脂である、請求項1~4のいずれか1項に記載の履物。
【請求項7】
表地及び裏地を有するアッパー部、前記アッパー部と接続した中底部、及び前記中底部と接続した靴底部を有する履物の製造方法であって、前記アッパー部の少なくとも一部は、前記アッパー部の前記表地と前記裏地の間に熱可塑性樹脂の層を有し、前記アッパー部の前記裏地側から着用者の足の変形に対応した型を押し当て、前記型を押し当てた部分の前記アッパー部を加熱し、前記熱可塑性樹脂の層を前記型に沿って熱変形させ、前記熱変形させた熱可塑性樹脂の層を冷却することにより、前記熱可塑性樹脂の変形させた形状を固定し、それにより前記アッパー部を拡張することを含む、履物の製造方法。
【請求項8】
前記靴底部がミッドソールを有し、前記ミッドソールの形状を、着用者の歩行を補助するように加工することをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、足趾、足関節等が変形した足を容易に収容し、かつ着脱することができ、安定した歩行を補助することができる履物に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病性足病変、関節リウマチ、外反母趾等により足趾、足関節等が変形している場合、市販の履物をそのまま用いたのでは、変形した足を収容し、安定して歩行することが困難である。例えば、糖尿病性知覚神経障害により触覚・痛覚・温覚が低下すると無痛性外傷(靴擦れ、胼胝等)ができ、足趾や足の変形をきたし、足潰瘍や足壊疽に至る場合がある。また、関節リウマチにより関節に炎症、変形が起こり、極度に痛みを伴う場合がある。このような場合には、患部に対する圧迫を軽減し、損傷の進行を防止することが必要である。したがって、足潰瘍や足壊疽を有する場合、足趾、足関節に変形を有する場合には、足の状態に合わせたオーダーメイドの履物を使用することが一般に行われている。
【0003】
しかし、オーダーメイドの履物は、一件ごとに木型からすべての工程を手作りで製造するため一般に高価である。また、履物のアッパー部を足の変形に合わせて拡張する場合、従来は加工のし易さからアッパー部の素材に天然皮革を用い、足の変形に合わせた木型をアッパー部の内側から天然皮革に押し当て、木型で固定してアッパー部を物理的に拡張する方法がとられてきた。そのため、安定した拡張形状を得るのに数日を要し、生産効率が低いという問題があった。オーダーメイドの履物を効率的に生産し、製造コストを下げるためには、共通して使用できる中間形態の履物を大量生産し、供給された中間形態の履物に対して、使用する段階で個々の着用者の足の状態に合わせた加工をオーダーメイドで加え、最終形態の履物とするのが有効である。
【0004】
特開平11-178606号(特許文献1)には、糖尿病性足病変を予防するためのシリコーンラバーよりなる足底板が開示されている。また、実用新案登録第3222296号(特許文献2)には、靴内底面に、加工可能な第1インソールと第2インソールが積層して配置され、第2インソールの上に、踵部領域と踏み付け部領域とが同じ厚みに成型されたカップインソールが配置されている医療用短靴が開示されている。しかし、特許文献1に記載されている足底板は、足底板をシリコーンラバーで作製することにより荷重を分散し、糖尿病性足病変を予防することを目的としたものであり、特許文献2に記載の医療用短靴は、靴内底面の踵部から足趾部までの全面を平坦に成型することにより、足裏全面に均等な圧力がかかるようにし、胼胝や潰瘍などの症状の悪化を防止することを目的としたものである。これらの文献には、変形した足を容易に収容し、かつ着脱することができる履物、及びそれを低コストで効率的に製造する方法が全く開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-178606号公報
【特許文献2】実用新案登録第3222296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、足趾、足関節等が変形した足を容易に収容し、かつ着脱することができる履物、及びそれを低コストで効率的に製造する方法を提供することにある。特に糖尿病性足病変の進行を防止するのに有用な履物、及びそれを低コストで効率的に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、アッパー部の表地と裏地の間に熱可塑性樹脂の層が配設された履物をオーダーメイド履物の中間形態として提供すること、この中間形態の履物のアッパー部に熱拡張処理を施すことにより、アッパー部の表地と裏地の間に配設された熱可塑性樹脂の層が足の変形に沿って熱変形し、最終形態としてアッパー部が拡張されたオーダーメイド履物を効率的に製造できること、それにより製造コストを大幅に低減し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明の履物は、表地及び裏地を有するアッパー部、前記アッパー部と接続した中底(インソール)部、及び前記中底部と接続した靴底(ソール)部を有する履物であって、前記アッパー部の少なくとも一部は、前記アッパー部の前記表地と前記裏地の間に熱可塑性樹脂の層を有する。
【0009】
一形態において、本発明の履物は、靴底部がミッドソールを有する。本発明の履物は、オーダーメイド履物の中間形態として、ミッドソールのみ、またはミッドソールとアウトソールの両方を有していてもよい。
【0010】
本発明の履物を着用する段階(最終形態)において、アッパー部の、着用者の足の変形に対応する部分は、前記熱可塑性樹脂の層の熱変形により拡張されている。前記靴底部がミッドソールを有する場合、ミッドソールは、着用者の歩行を補助するための加工された形状を有していてもよい。靴底部がミッドソールを有する場合、最終形態として、ミッドソールの上にアウトソールが設けられている。
【0011】
前記熱可塑性樹脂の熱変形温度は、ASTM D648に準拠して測定したときに、25℃~120℃、または30℃~100℃、または30℃~80℃、または30℃~60℃である(荷重1.82MPa)。前記熱可塑性樹脂は、好ましくは低密度ポリエチレンまたはエチレン-酢酸ビニル樹脂である。前記アッパー部の表地と裏地の間に配設された熱可塑性樹脂の層は、好ましくは厚さが0.5mm~2.5mm、例えば1mm~2mm、または2.5mm~6mm、例えば3mm~5mmである。
【0012】
一形態において、前記アッパー部は、面ファスナーを備えたストラップを有する。また、別の一形態において、前記アッパー部の踵部は月形芯を有する。さらに別の一形態において、本発明の履物は中敷(インナーソール)が挿入されている。
【0013】
本発明の履物の製造方法は、前記履物が、表地及び裏地を有するアッパー部、前記アッパー部と接続した中底部、及び前記中底部と接続した靴底部を有し、前記アッパー部の少なくとも一部が、前記アッパー部の前記表地と前記裏地の間に熱可塑性樹脂の層を有し、前記アッパー部の前記裏地側から着用者の足の変形に対応した型を押し当て、前記型を押し当てた部分の前記アッパー部を加熱し、前記熱可塑性樹脂の層を前記型に沿って熱変形させ、前記熱変形させた熱可塑性樹脂の層を冷却することにより、前記熱可塑性樹脂の変形させた形状を固定し、それにより前記アッパー部を拡張することを含む。
【0014】
前記靴底部がミッドソールを有する場合、ミッドソールの形状を、着用者の歩行を補助するように加工することをさらに含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の1つの実施形態による履物を示す概略斜視図である。
図2図1に示す履物のA-A’断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の履物は、表地及び裏地を有するアッパー部、該アッパー部と接続した中底部、及び該中底部と接続した靴底部を有する。本発明の履物は、オーダーメイド履物の中間形態として提供されてもよい。提供された中間形態に対して、個々の着用者の足の変形に合わせて熱拡張処理を施すことにより、アッパー部が足の変形に合わせて拡張された最終形態の履物が得られる。また、靴底部はミッドソールを有してもよく、着用者の歩行を補助するために靴底部のミッドソールにさらに加工が加えられていてもよい。このような場合、本発明の履物は、靴底部がミッドソールのみの形態として提供され、オーダーメイドの段階で個々の着用者の足の状態に合わせてミッドソールが加工され、その後にミッドソール上にアウトソールが設けられてもよい。ミッドソールを加工をしない場合、本発明の履物は、靴底部がミッドソールとアウトソールを有する形態として提供されてもよい。
【0017】
アッパー部は表地及び裏地を有し、表地と裏地の間に熱可塑性樹脂の層が配設されている。熱可塑性樹脂の層は、着用者の足の変形に合わせて熱拡張処理を施すことにより熱変形し、それによりアッパー部は変形した足に沿って拡張される。熱可塑性樹脂は、熱拡張処理により容易に熱変形するものであればよく、特に限定されない。本発明に用いる熱可塑性樹脂は、ASTM D648に準拠して測定した熱変形温度(荷重1.82MPa)が、好ましくは25℃以上、または30℃以上、または40℃以上であり、120℃以下、または100℃以下、または80℃以下、または60℃以下である。例えば、熱可塑性樹脂の熱変形温度は25℃~120℃、または30℃~100℃、または30℃~80℃、または30℃~60℃である。熱可塑性樹脂の熱変形温度が低すぎると熱拡張処理により変形させた形状を維持するのが困難になり、熱変形温度が高すぎると熱拡張処理によりアッパー部の材料を痛めるおそれがある。
【0018】
熱可塑性樹脂はホモポリマーであってもコポリマーであってもよい。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、スチレン-アクリロニトリル樹脂、スチレン-ブタジエン-アクリロニトリル樹脂、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル樹脂、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、メタクリル-スチレン樹脂、ポリアミド系樹脂(ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12等)、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、酢酸セルロース、ニトロセルロース、エチルセルロース、プロピオン酸セルロース等が挙げられるが、本発明に用いる熱可塑性樹脂はこれらに限定されない。上記樹脂の中でも、熱収縮率が比較的低く、衝撃吸収性と柔軟性に優れた低密度ポリエチレン、及びエチレン-酢酸ビニル樹脂が特に好ましい。
【0019】
アッパー部の材料は表地及び裏地共に特に限定されず、履物のアッパー部として一般に使用される材料を用いることができる。例えば、天然皮革(牛革、馬革、豚革、羊革、山羊革、カンガルー革等)、合成皮革(繊維にポリウレタン、ナイロン等の合成樹脂をコーティングした素材)、人工皮革(布地にポリウレタン、ナイロン等の合成樹脂を塗布し、天然皮革に似せた人工素材)、天然繊維(天然の植物や動物の毛などから作られた繊維)、合成繊維(ナイロン、アクリル、ポリエステル等の化学繊維)が挙げられる。熱可塑性樹脂の層は、アッパー部の表地と裏地の間に配設される。熱可塑性樹脂の層は、例えば、熱可塑性樹脂からなるシート、または表地もしくは裏地の裏に塗布された熱可塑性樹脂のコーティング膜であってよい。
【0020】
熱可塑性樹脂の層は、着用者の足の変形部分をカバーできるように配設される。本発明の履物を広く中間形態の履物として提供するために、熱可塑性樹脂の層は様々な足の変形に対応できるように広範囲に配設されていてもよい。例えば、足趾に変形を有する着用者に提供する場合であっても、熱可塑性樹脂の層はアッパー部の足趾をカバーできる範囲だけでなく、アッパー部の前足部全体またはアッパー部の全体に配設されていてもよい。アッパー部の表地と裏地の間に配設された熱可塑性樹脂の層の厚さは、熱拡張処理によりアッパー部を拡張させることができる厚さであればよい。熱可塑性樹脂の層の厚さは、好ましくは、0.5mm~2.5mm、例えば1mm~2mm、または2.5mm~6mm、例えば3mm~5mmである。本発明の履物は、一定の中間形態の履物を提供し、それに熱拡張処理を施すことにより、様々に変形した足に広く対応することが可能である。
【0021】
本発明の履物は、アッパー部が中底部と接続し、中底部が靴底部と接続している。中底部は履物を履いたときに足の裏が触れる部分の部材である。中底部の材料は特に限定されず、中底部として一般に使用される材料を用いることができる。例えば、タンニン鞣し革、レザーボード、パルプボード、不織布等が挙げられる。靴底部の材料も特に限定されず、靴底部として一般に使用される材料を用いることができる。例えば、天然皮革、天然ゴム、合成ゴム[SBR(スチレン-ブタジエンゴム)、NBR(ニトリル-ブタジエンゴム)等]、エラストマー(スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー等)、PVC(ポリ塩化ビニル)、EVOH(エチレン-ビニルアルコール樹脂)、PU(ポリウレタン)等が挙げられる。
【0022】
本発明の履物は、足裏の患部に加わる圧力を分散し、摩擦による症状の悪化を防止するため、さらに中底部の上に中敷が挿入されていてもよい。中敷は個々の着用者の症状に合わせたオーダーメイドのものであってよい。中敷の厚さは特に限定されないが、一般に3mm~10mm程度である。
【0023】
本発明の履物は、靴底部がミッドソールを有していてもよい。ミッドソールは、中底部と、靴底部のアウトソール(地面と接する部分)との中間に位置し、主に着地する際の衝撃を吸収・分散するために用いられる。ミッドソールの材料は特に限定されず、ミッドソールとして一般に使用される材料を用いることができる。例えば、ポリウレタン、エチレン-酢酸ビニル樹脂等の合成樹脂、ゴムを発泡させたラバースポンジ等が挙げられる。ミッドソールは、個々の着用者の足の状態に合わせ、歩行を補助する目的で加工された形状を有していてもよい。例えば、ミッドソールは、歩くときの重心の移動を促進するために船底形状(ロッカーボトム)に加工されていてもよい。
【0024】
本発明の履物は、歩行時に足が脱げないようにする固定手段を有していてもよい。固定手段は、片手で操作が可能な手段、例えば面ファスナー、スナップ式ボタン等を備えたストラップ、または線ファスナーが挙げられるが、紐で結ぶタイプのものであってもよい。面ファスナーは固定する位置を容易に調節できるため、特に好ましい。アッパー部のトウボックス(履物のつま先側の空間)は、中底部からの高さが、変形した足趾を収容できる程度に高いものが好ましい。例えば、トウボックスの高さは中底部から3cm~5cmである。また、歩行時に着用者の足を支持し、歩行を安定させる目的で、アッパー部の踵部に月型芯(カウンター)が設けられていてもよい。月型芯は、合成樹脂、ゴム等の板からなり、アッパー部の表地と裏地の間、表地の裏面等に配設される。
【0025】
本発明の履物の一形態は、熱可塑性樹脂の層が足趾または足趾の付け根部分に対応するアッパー部の表地と裏地の間に配設され、月型芯が踵及びその周囲に対応するアッパー部の表地と裏地の間に配設されている。本発明の履物は、最終形態において、熱可塑性樹脂の層が配設された部分のアッパー部が、個々の着用者の足の変形に合わせて熱拡張処理されている。
【0026】
本発明の履物は、変形した足を収容できるように履き口が広く開口しているものが好ましい。また、オーダーメイドの中敷を挿入可能な深底構造を有するものが好ましい。深底構造は、好ましくは3mm~10mm程度の厚さを有する中敷を収容できる深さを有する。アッパー部の裏地は、皮膚への摩擦を防ぐ観点から緩衝機能を有する素材(例えば、ポリエステル、ナイロン等の熱可塑性樹脂またはその繊維)を用いたものが好ましく、縫い目がないものが好ましい。
【0027】
本発明の履物は、一般的な方法により製造が可能である。アッパー部と中底部の接続、及び中底部と靴底部の接続は一般に用いられる方法、例えば、縫合、接着、加硫圧着等により行うことができる。アッパー部の表地と裏地の間に熱可塑性樹脂の層を配設する方法は、例えば、アッパー部の表地と裏地の間に熱可塑性樹脂のシートを挟み、表地、熱可塑性樹脂シート、及び裏地の積層体を形成してもよい。その際、熱可塑性樹脂の層をアッパー部の所定の位置に配設するために、熱可塑性樹脂シートをアッパー部の表地または裏地の裏に貼着してもよい。また、アッパー部の表地及び裏地の少なくとも一方に溶融した熱可塑性樹脂を塗布し、表地と裏地を貼り合わせ、熱可塑性樹脂を冷却固化して表地と裏地の間に熱可塑性樹脂のコーティング層を形成してもよい。
【0028】
靴底部のミッドソールにオーダーメイドの加工を加える場合は、靴底部がミッドソールからなる履物を中間形態として提供してもよい。ミッドソールにオーダーメイドの加工を加えない場合は、ミッドソールの上にさらにアウトソールを貼り合わせた履物を中間形態として提供してもよい。
【0029】
中間形態の履物は変形した足を収容できるようにするため、義肢装具士等により個々の着用者の足の変形に合わせたオーダーメイドの加工が加えられる。具体的には、アッパー部の裏地側から着用者の足の変形に対応した型を押し当て、型を押し当てた部分を加熱して、アッパー部に熱拡張処理を施す。熱拡張処理は熱可塑性樹脂の熱変形温度以上の温度、例えば約80~150℃、好ましくは約100~120℃の温度で行う。加熱方法は特に限定されないが、例えば、熱可塑性樹脂を有するアッパー部に上記温度範囲の熱風または加熱具を当てることにより行う。熱可塑性樹脂の層を型に沿って熱変形させ、熱変形させた熱可塑性樹脂の層を冷却することにより、変形した熱可塑性樹脂の形状が固定され、アッパー部を着用者の足の変形に応じて拡張することができる。加熱した熱可塑性樹脂の層を冷却する方法は特に制限されないが、通常は放冷することにより行う。
【0030】
靴底部がミッドソールを有し、ミッドソールを着用者の歩行を補助するように加工する(例えば、船底形状に加工する)場合は、オーダーメイドの段階で、アッパー部を熱拡張処理すると共にミッドソールの形状を加工し、加工したミッドソールの上にアウトソールを設けて最終形態とする。
【0031】
本発明の履物は、変形した足を損傷の進行から保護するための医療用履物として有用である。本発明の履物は、例えば、靴(短靴、ブーツ、安全靴、スニーカー、ナースシューズ等)、サンダル、スリッパ等であってよい。
【0032】
アッパー部の表地と裏地の間にポリオレフィン樹脂等の熱可塑性樹脂を挟むと、アッパー部を靴型に吊り込む際に裏地に皺ができ易いことから、アッパー部の表地と裏地の間に熱可塑性樹脂を挟むことは一般に行われてこなかった。本発明は、アッパー部の表地と裏地の間に熱可塑性樹脂の層を配設し、熱可塑性樹脂の層を熱変形させることによりアッパー部を所望の形状に容易に拡張し得ることを見出したことに基づく。本発明によれば、アッパー部の表地と裏地の間に熱可塑性樹脂の層を配設した履物を中間形態として大量生産し、オーダーメイドの加工に供することができる。また、オーダーメイドの加工において、アッパー部を熱拡張処理によって拡張するため、アッパー部を木型で固定して物理的に拡張する従来の方法に比べ、短時間で効率的に加工することができる。したがって、オーダーメイドの加工を要する履物の製造コストを大幅に低減することができる。さらに、従来は加工のし易さからアッパー部の材料として専ら天然皮革が用いられてきたが、本発明の方法によれば、熱可塑性樹脂を熱変形させるため、アッパー部の材料は天然皮革に限られない。したがって、スニーカー等へも適用することが可能である。
【0033】
以下に本発明の履物を実施形態によりさらに詳細に説明する。図1及び図2に示す靴1は、アッパー部11、中底部12、靴底部13、ストラップ14、及びベロ(タン)15を有し、アッパー部11は中底部12に接着されており、中底部12はミッドソール13aに接着されている。アッパー部11は、天然皮革からなる表地11a及びポリエステルからなる裏地11bからなり、裏地11bは摩擦を防止するため縫い目を有しない。アッパー部11は、足趾の付け根部分に対応する左右両側のアッパー部11の表地11aと裏地11bの間に熱可塑性樹脂(エチレン-酢酸ビニル樹脂または低密度ポリエチレン)のシート101が配設されている。
【0034】
靴底部13は、後にミッドソール13aにオーダーメイドの加工を加える場合は、ミッドソール13aのみである。ミッドソール13aにオーダーメイドの加工を加えない場合は、ミッドソール13aの上にアウトソール13bが貼り付けられる。
【0035】
ストラップ14は一端部がアッパー部11に固定され、他端部に面ファスナー104が設けられている。着用者は片手でストラップ14を操作し、面ファスナー104を係合することができる。靴1には、オーダーメイドの中敷(図示せず)を挿入することができる。靴1は、3mm~10mm程度の厚さを有する中敷を収容することができる深底構造を有する。
【0036】
アッパー部の踵部の表地及び裏地の間には、着用者の歩行を安定させるため合成樹脂(ポリエチレン)のプレートからなる月型芯102が配設されている。前足部のトウボックスは、変形した足趾を収容できる程度の中底部からの高さ(約4.5cm)を有する。また、ベロ15はクッション機能を持たせるため、裏地材にポリウレタンを用いている。
【符号の説明】
【0037】
1・・・靴
11・・・アッパー部
11a・・・表地
11b・・・裏地
12・・・中底部
13・・・靴底部
13a・・・ミッドソール
13b・・・アウトソール
14・・・ストラップ
15・・・ベロ
101・・・熱可塑性樹脂の層
102・・・月型芯
104・・・面ファスナー
図1
図2