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特開2023-3049ステンレス鋼複合材及びステンレス鋼複合材製造方法
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  • 特開-ステンレス鋼複合材及びステンレス鋼複合材製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023003049
(43)【公開日】2023-01-11
(54)【発明の名称】ステンレス鋼複合材及びステンレス鋼複合材製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 26/00 20060101AFI20221228BHJP
   B32B 15/01 20060101ALI20221228BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20221228BHJP
【FI】
C23C26/00 F
B32B15/01 A
C23C28/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021103975
(22)【出願日】2021-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】504136889
【氏名又は名称】株式会社ファルテック
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】竪谷 薫
(72)【発明者】
【氏名】田中 渉
(72)【発明者】
【氏名】大貫 壮二
【テーマコード(参考)】
4F100
4K044
【Fターム(参考)】
4F100AA23B
4F100AB04A
4F100AK01C
4F100BA02
4F100BA03
4F100DD09C
4F100GB32
4F100JK09
4F100JK09C
4K044AA03
4K044BA12
4K044BA21
4K044BB03
4K044BB14
4K044BB16
4K044BC09
4K044CA04
4K044CA16
4K044CA53
(57)【要約】
【課題】酸化被膜層の耐摩耗性が向上されたステンレス鋼複合材を提供可能とする。
【解決手段】ステンレス鋼複合材100であって、表面に光の干渉作用に基づく干渉色を発現する酸化被膜層111が設けられたステンレス鋼からなるステンレス鋼基材110と、ステンレス鋼基材110の表面にて酸化被膜層111に形成された凹部113に充填された摩耗抑止充填部材120とを備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に光の干渉作用に基づく干渉色を発現する酸化被膜層が設けられたステンレス鋼からなるステンレス鋼基材と、
前記ステンレス鋼基材の表面の少なくとも一部の範囲にて前記酸化被膜層に形成された凹部に充填された摩耗抑止充填部材と
を備えることを特徴とするステンレス鋼複合材。
【請求項2】
前記摩耗抑止充填部材は、前記凹部に充填された樹脂部材からなることを特徴とする請求項1記載のステンレス鋼複合材。
【請求項3】
前記ステンレス鋼基材の表面に、前記耐摩耗抑止充填部材が設けられた耐摩耗性向上範囲と、前記摩耗抑止充填部が設けられていない範囲とを有することを特徴とする請求項1または2記載のステンレス鋼複合材。
【請求項4】
ステンレス鋼からなるステンレス鋼基材の表面に光の干渉作用に基づく干渉色を発現する酸化被膜層を形成する酸化被膜層形成工程と、
前記ステンレス鋼基材の表面の少なくとも一部の範囲にて前記酸化被膜層に形成された凹部に充填された摩耗抑止充填部材を形成する摩耗抑止充填部材形成工程と
を有することを特徴とするステンレス鋼複合材製造方法。
【請求項5】
前記摩耗抑止充填部材形成工程では、テープ基材の表面に前記摩耗抑止充填部材の形成材料が接着されたテープを前記酸化被膜層に押圧することにより前記摩耗抑止充填部材の形成材料を前記凹部に充填することを特徴とする請求項4記載のステンレス鋼複合材製造方法。
【請求項6】
前記摩耗抑止充填部材の形成材料が流動性を有する樹脂材料からなることを特徴とする請求項5記載のステンレス鋼複合材製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス鋼複合材及びステンレス鋼複合材製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼の表面に光の干渉作用に基づく干渉色を発現させる酸化被膜を形成することで、ステンレス鋼に干渉色を付与することができる。車両等にはステンレス鋼によって形成された部品が多く用いられている。このような車両等に用いられる部品に干渉色が付与されたステンレス鋼を用いることで優れた意匠性が得られる。例えば、特許文献1には、ステンレス鋼によって形成された芯材を備えるアウトサイドモールが開示されている。この他、車両には、ステンレス鋼によって形成されたサッシュモールが設置される場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平7-5847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方で、ステンレス鋼の表面に形成された酸化被膜層は、付着力及び耐摩耗性が低いことから硬膜処理が行われている。例えば、クロム酸系の溶液に浸漬してクロム化合物を酸化被膜層に充填することで、酸化被膜層の付着力及び耐摩耗性が向上される。しかしながら、車両等に設置され、雨風に晒されたり、人が触れたりする部品に用いられるステンレス鋼においては、干渉色を発現させる酸化被膜のさらなる耐摩耗性を向上させることが望まれている。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、酸化被膜層の耐摩耗性が向上されたステンレス鋼複合材を提供可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、以下の構成を採用する。
【0007】
本発明の第1の態様は、ステンレス鋼複合材であって、表面に光の干渉作用に基づく干渉色を発現する酸化被膜層が設けられたステンレス鋼からなるステンレス鋼基材と、上記ステンレス鋼基材の表面の少なくとも一部の範囲にて上記酸化被膜層に形成された凹部に充填された摩耗抑止充填部材とを備えるという構成を採用する。
【0008】
本発明の第2の態様は、上記第1の態様において、上記摩耗抑止充填部材が、上記凹部に充填された樹脂部材からなるという構成を採用する。
【0009】
本発明の第3の態様は、上記第3の態様において、上記ステンレス鋼基材の表面に、上記摩耗抑止充填部材が設けられた耐摩耗性向上範囲と、上記耐摩耗抑止充填部が設けられていない範囲とを有するという構成を採用する。
【0010】
本発明の第4の態様は、ステンレス鋼複合材製造方法であって、ステンレス鋼からなるステンレス鋼基材の表面に光の干渉作用に基づく干渉色を発現する酸化被膜層を形成する酸化被膜層形成工程と、上記ステンレス鋼基材の表面の少なくとも一部の範囲にて上記酸化被膜層に形成された凹部に充填された摩耗抑止充填部材を形成する摩耗抑止充填部材形成工程とを有するという構成を採用する。
【0011】
本発明の第5の態様は、上記第4の発明において、上記摩耗抑止充填部材形成工程では、テープ基材の表面に上記摩耗抑止充填部材の形成材料が接着されたテープを上記酸化被膜層に押圧することにより上記摩耗抑止充填部材の形成材料を上記凹部に充填するという構成を採用する。
【0012】
本発明の第6の態様は、上記第5の態様において、上記摩耗抑止充填部材の形成材料が流動性を有する樹脂材料からなるという構成を採用する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、酸化被膜層の凹部に対して摩耗抑止充填部材が充填される。このため、酸化被膜層の凹部が空隙である場合と比較して、酸化被膜層の強度を向上させることが可能になる。このため、本発明によれば、酸化被膜層の耐摩耗性が向上されたステンレス鋼複合材を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1実施形態におけるステンレス鋼複合材の概略構成を示す模式図であり、(a)が平面図であり、(b)が(a)のA-A断面図である。
図2】本発明の第1実施形態におけるステンレス鋼複合材の製造方法を説明するための模式図である。
図3】本発明の第2実施形態におけるステンレス鋼複合材の概略構成を示す模式図であり、(a)が平面図であり、(b)が(a)のB-B断面図である。
図4】本発明の第3実施形態におけるステンレス鋼複合材を用いたサッシュモール及びアウトサイドモールを備える車両の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明に係るステンレス鋼複合材及びステンレス鋼複合材製造方法の一実施形態について説明する。
【0016】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態のステンレス鋼複合材100の概略構成を示す模式図であり、(a)が平面図であり、(b)が(a)のA-A断面図である。本実施形態のステンレス鋼複合材100は、例えば車両用の部品として用いられる。ただし、本実施形態のステンレス鋼複合材100は、車両以外に設けられる部品に用いることも可能である。
【0017】
本実施形態のステンレス鋼複合材100は、板状の部材であり、表面101が意匠面とされている。図1(a)においては、ステンレス鋼複合材100の表面101側が図示されている。また、図1(b)においては、ステンレス鋼複合材100の表面101側の一部が図示されている。
【0018】
図1(b)に示すように、本実施形態のステンレス鋼複合材100は、ステンレス鋼基材110と、摩耗抑止充填部材120(樹脂部材)とを有している。ステンレス鋼基材110は、ステンレス鋼によって形成された基材であり、表面の全範囲に対して酸化被膜層111を有している。なお、ステンレス鋼基材110のうち、酸化されていない基材厚さ方向における中央部(酸化被膜層111ではない部位)については、基材基部112と称する。
【0019】
この酸化被膜層111は、光の干渉作用に基づく干渉色を発現するための層であり、表面に開口された多数の凹部113を有している。なお、光の干渉作用に基づく干渉色を発現するとは、外部から視認する者に対して、干渉現象により強められた波長に基づく色調を感じさせることを意味する。つまり、干渉色を発現する酸化被膜層111が設けられることにより、外部の者は、ステンレス鋼複合材100の酸化被膜層111を特定の色調にて視認する。なお、酸化被膜層111の膜厚寸法によって、酸化被膜層111が発現する干渉色の色調が変化する。このため、酸化被膜層111の膜厚寸法を変更することで、外部の者が視認する酸化被膜層111の色調を変化させることができる。このような酸化被膜層111は、例えば黒、赤、緑、青等の任意の色調の干渉色を膜厚寸法に応じて発現可能である。
【0020】
摩耗抑止充填部材120は、酸化被膜層111が有する複数の凹部113に対して充填されている。摩耗抑止充填部材120は、樹脂によって形成された樹脂部材であり、酸化被膜層111の表層の耐摩耗性を高める。より具体的には、摩耗抑止充填部材120は、例えばアクリル系の樹脂によって形成することができる。例えば、流動性を有する樹脂材料を凹部113に充填し、その後樹脂材料を乾燥等により硬化させることで摩耗抑止充填部材120を形成することができる。なお、摩耗抑止充填部材120に流動性が残っていても構わない。
【0021】
なお、図1(b)においては、作図の便宜上、凹部113が規則的に配列された状態で図示されている。しかしながら、実際の凹部113は図1(b)に示すよりも複雑に配列されている。このような凹部113に摩耗抑止充填部材120が充填されることで、摩耗抑止充填部材120が酸化被膜層111の表面を覆っていなくとも、ステンレス鋼基材110の耐摩耗性を向上させることが可能である。ただし、隣接する凹部113に摩耗抑止充填部材120同士が酸化被膜層111の表面側で互いに接続され、酸化被膜層111の表面が摩耗抑止充填部材120で覆われるようにしても良い。
【0022】
また、摩耗抑止充填部材120は、酸化被膜層111が発現する干渉色の色調に影響を与えない透明とすることができる。このように摩耗抑止充填部材120が透明である場合には、外部の者が視認するステンレス鋼複合材100の色調が、酸化被膜層111が発現する干渉色の色調から大きく外れることを防止することが可能である。
【0023】
ここで図2を参照して、本実施形態のステンレス鋼複合材100の製造方法(ステンレス鋼複合材製造方法)について説明する。図2は、本実施形態のステンレス鋼複合材100の製造方法を説明するための模式図である。
【0024】
まず、図2(a)に示すように、ステンレス鋼基材110を用意する。なお、一般的に、ステンレス鋼基材110の表面には、自然酸化被膜が形成されている。このため、必要に応じて自然酸化被膜を除去する。
【0025】
続いて、図2(b)に示すように、ステンレス鋼基材110の表面に、光の干渉作用に基づく干渉色を発現する酸化被膜層111を形成する。例えば、ステンレス鋼基材110を発色処理液に浸漬して酸化被膜を形成する。その後、必要に応じて酸化被膜を硬化処理することで酸化被膜層111を形成する。つまり、光の干渉作用に基づく干渉色を発現する酸化被膜層111は、いわゆる酸性酸化法によって形成することができる。ただし、酸化被膜層111の形成方法は、他の方法であっても良い。このような図2(b)に示す工程は、ステンレス鋼からなるステンレス鋼基材110の表面に光の干渉作用に基づく干渉色を発現する酸化被膜層111を形成する酸化被膜層形成工程に相当する。
【0026】
続いて、図2(c)に示すように、ポリエステル等からなるテープ基材131の表面に摩耗抑止充填部材120の形成材料132(樹脂材料)が接着された樹脂テープ130(テープ)を酸化被膜層111に押圧する。樹脂テープ130の形成材料132をステンレス鋼基材110側に向けて、形成材料132を酸化被膜層111に接触させるようにして、樹脂テープ130をステンレス鋼基材110に貼付する。
【0027】
図2(c)においては、ステンレス鋼基材110に貼付された樹脂テープ130をステンレス鋼基材110に向けて押圧することで、形成材料132を酸化被膜層111の凹部113の奥部まで進行させる。例えば、ステンレス鋼基材110に貼付された樹脂テープ130のテープ基材131をステンレス鋼基材110に向けて治具を用いて一定の圧力で均等に押圧する。
【0028】
また、形成材料132を凹部113の奥部まで進行させるためには、形成材料132の流動性が高いことが望ましい。このため、樹脂テープ130をステンレス鋼基材110に向けた押圧する前あるいは押圧中に、形成材料132を加熱することが望ましい。
【0029】
例えば、樹脂テープ130をステンレス鋼基材110に貼付した後に、樹脂テープ130を加熱することで形成材料132を加熱しても良い。また、樹脂テープ130をステンレス鋼基材110に貼付する前に加熱されたステンレス鋼基材110に樹脂テープ130を貼付することによって形成材料132を加熱するようにしても良い。
【0030】
例えば、ステンレス鋼基材110(ステンレス鋼複合材100)は、帯状体に形成されると共に巻回され、フープ材として搬送や保管等することが考えられる。帯状のステンレス鋼基材110を巻回してフープ材とする場合には、帯状のステンレス鋼基材110の異なる部位同士が面接触される。
【0031】
このため、巻回する前に樹脂テープ130を貼付しておくことで、治具等を用いて樹脂テープ130を押圧することなく、樹脂テープ130をステンレス鋼基材110に対して押圧することが可能になる。また、フープ材である状態では、ステンレス鋼基材110の面接触される異なる部位同士の間に樹脂テープ130が介挿された状態となる。このため、ステンレス鋼基材110の異なる部位同士が擦れることを樹脂テープ130によって防止することが可能になる。
【0032】
さらに、ステンレス鋼基材110に酸化被膜層111を形成した場合には、ステンレス鋼基材110をフープ材とする前に乾燥させても良い。このようにステンレス鋼基材110を乾燥させる際にステンレス鋼基材110を加熱した場合には、ステンレス鋼基材110が常温に戻る前に樹脂テープ130をステンレス鋼基材110に対して貼付及び押圧することが望ましい。これによって、ステンレス鋼基材110によって形成材料132が加熱され、形成材料132の流動性を高めることが可能となる。
【0033】
なお、ステンレス鋼基材110をフープ材とする場合であっても、フープ材から引き出した後にステンレス鋼基材110に対して樹脂テープ130を貼付及び押圧するようにしても良い。例えば、ステンレス鋼基材110を成形し、例えば車両用外装部品あるいは車両用外装部品の一部とした後に、ステンレス鋼基材110に対して樹脂テープ130を貼付及び押圧するようにしても良い。
【0034】
続いて、図2(d)に示すように、ステンレス鋼基材110に貼付された樹脂テープ130のテープ基材131を剥離する。このようにテープ基材131をステンレス鋼基材110から剥離することで、酸化被膜層111の凹部113に入り込んだ形成材料132は、凹部113に残存する。その後、凹部113に残存した形成材料132を必要に応じて乾燥等させて硬化させることで摩耗抑止充填部材120が形成される。
【0035】
これらの図2(c)及び図2(d)に示す工程は、ステンレス鋼基材110の表面にて酸化被膜層111に形成された凹部113に充填された摩耗抑止充填部材120を形成する摩耗抑止充填部材形成工程に相当する。
【0036】
このような工程を経ることによって本実施形態のステンレス鋼複合材100が形成される。この本実施形態のステンレス鋼複合材100は、表面に光の干渉作用に基づく干渉色を発現する酸化被膜層111が設けられたステンレス鋼からなるステンレス鋼基材110と、ステンレス鋼基材110の表面にて酸化被膜層111に形成された凹部113に充填された摩耗抑止充填部材120とを備えている。
【0037】
このような本実施形態のステンレス鋼複合材100によれば、ステンレス鋼基材110の表面に対して設けられた酸化被膜層111の凹部113に摩耗抑止充填部材120が充填されている。このような摩耗抑止充填部材120が酸化被膜層111の凹部113に充填されることによって、摩耗抑止充填部材120が充填されていない場合と比較して摩耗抑止充填部材120が充填された範囲の膜強度が高まり、ステンレス鋼複合材100の表面の耐摩耗性が向上する。また、摩耗抑止充填部材120は、酸化被膜層111の凹部113に充填されていることから、容易に脱落することがない。このため、耐摩耗性を長期に亘って維持することができる。したがって、本実施形態のステンレス鋼複合材100は、酸化被膜層111の凹部113が空隙である場合と比較して、酸化被膜層111の耐摩耗性が向上されたものとなる。
【0038】
また、上記実施形態においては、摩耗抑止充填部材120が樹脂部材からなる。このため、摩耗抑止充填部材120を容易に凹部113に対して充填させることが可能となり、また、凹部113に充填された摩耗抑止充填部材120の剥離を抑制することが可能となる。
【0039】
また、本実施形態のステンレス鋼複合材100の製造方法は、ステンレス鋼からなるステンレス鋼基材110の表面に光の干渉作用に基づく干渉色を発現する酸化被膜層111を形成する酸化被膜層形成工程と、ステンレス鋼基材110の表面にて酸化被膜層111に形成された凹部113に充填された摩耗抑止充填部材120を形成する摩耗抑止充填部材形成工程とを有する。
【0040】
このような本実施形態のステンレス鋼複合材100の製造方法によれば、ステンレス鋼基材110の表面に対して設けられた酸化被膜層111の凹部113に摩耗抑止充填部材120が充填されたステンレス鋼複合材100を形成することができる。このため、本実施形態のステンレス鋼複合材100の製造方法によれば、酸化被膜層111の凹部113が空隙である場合と比較して、酸化被膜層111の耐摩耗性が向上されたステンレス鋼複合材100を提供することが可能となる。
【0041】
また、本実施形態のステンレス鋼複合材100の製造方法においては、摩耗抑止充填部材形成工程では、テープ基材131の表面に摩耗抑止充填部材120の形成材料132が接着された樹脂テープ130を酸化被膜層111に押圧することにより摩耗抑止充填部材120の形成材料132を凹部113に充填した。このため、摩耗抑止充填部材120の形成材料132を凹部113の奥部まで進行させることができ、摩耗抑止充填部材120のステンレス鋼基材110に対する密着力を向上させることが可能になる。
【0042】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について、図3を参照して説明する。なお、本実施形態の説明において、上記第1実施形態と同様の部分については、その説明を省略あるいは簡略化する。
【0043】
図3は、本実施形態のステンレス鋼複合材100の概略構成を示す模式図であり、(a)が平面図であり、(b)が(a)のB-B断面図である。
【0044】
図3(a)に示すように、本実施形態においてステンレス鋼複合材100の表面101には、相対的に耐摩耗性が高い高耐摩耗領域R1(耐摩耗性向上範囲)と、相対的に耐摩耗性が低い標準領域R2とが設けられている。本実施形態では、図1(a)に示すように、2つの高耐摩耗領域R1の間に1つの標準領域R2が配置されている。ただし、高耐摩耗領域R1と標準領域R2との配置パターンはこれに限定されるものではなく、任意に変更可能である。
【0045】
本実施形態においては、高耐摩耗領域R1と標準領域R2との両方に同一の膜厚寸法の酸化被膜層111が設けられている。ただし、高耐摩耗領域R1と標準領域R2とのうち標準領域R2については、干渉色を発現する酸化被膜層111を設けないことも可能である。このため、例えば高耐摩耗領域R1を含む基材基部112の一部が干渉色を発現する酸化被膜層111によって覆われ、標準領域R2の全域あるいは一部領域が干渉色を発現しない自然酸化被膜で覆われた構成とすることも可能である。
【0046】
なお、本実施形態においては、上述のように、高耐摩耗領域R1と標準領域R2とに同一の膜厚寸法の酸化被膜層111が設けられている。このため、ステンレス鋼複合材100の全域にて酸化被膜層111が発現する干渉色の色調は同一となる。
【0047】
摩耗抑止充填部材120は、高耐摩耗領域R1にて酸化被膜層111が有する複数の凹部113に対して充填されている。本実施形態においては、高耐摩耗領域R1及び標準領域R2に対して酸化被膜層111が設けられ、標準領域R2では凹部113に摩耗抑止充填部材120が充填されておらず、高耐摩耗領域R1では凹部113に摩耗抑止充填部材120が充填されている。
【0048】
つまり、本実施形態において摩耗抑止充填部材120は、酸化被膜層111が有する複数の凹部113の一部に対して充填されている。なお、上述のように干渉色を発現する酸化被膜層111が高耐摩耗領域R1のみに設けられている場合には、摩耗抑止充填部材120は、干渉色を発現する酸化被膜層111の全域にて凹部113に充填される。
【0049】
摩耗抑止充填部材120は、樹脂によって形成された充填部材であり、ステンレス鋼基材110の表面の耐摩耗性を高める。つまり、摩耗抑止充填部材120が酸化被膜層111の凹部113に充填された領域は、摩耗抑止充填部材120が配置されていない領域に対して耐摩耗性が相対的に高まる。本実施形態では、摩耗抑止充填部材120が酸化被膜層111の凹部113に充填された領域が高耐摩耗領域R1として用いられ、摩耗抑止充填部材120が酸化被膜層111の凹部113に充填されてない領域が標準領域R2として用いられる。
【0050】
このような本実施形態のステンレス鋼複合材100によれば、表面の一部に選択的に高耐摩耗領域R1を設けることが可能となる。このため、全面を高耐摩耗領域R1とする場合と比較して、摩耗抑止充填部材120の形成材料を減らし、摩耗抑止充填部材120の形成工程を簡素化することが可能となる。
【0051】
なお、摩耗抑止充填部材120を透明としても良い。摩耗抑止充填部材120が透明である場合には、高耐摩耗領域R1の色調と標準領域R2との色調とを合わせ、高耐摩耗領域R1と標準領域R2との境界を外部の者に視認され難くすることが可能である。ただし、外部の者が視認する高耐摩耗領域R1の色調が標準領域R2と敢えて異なるように、摩耗抑止充填部材120の色を選択することも可能である。
【0052】
また、このような本実施形態のステンレス鋼複合材100を形成する場合には、例えば、樹脂テープ130は、高耐摩耗領域R1が形成される領域のみに貼付され、標準領域R2が形成される領域には貼付されない。
【0053】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について、図4を参照して説明する。なお、本実施形態の説明において、上記第1実施形態または第2実施形態と同様の部分については、その説明を省略あるいは簡略化する。
【0054】
図4は、車両30の側面図である。車両30には、フロントドア31、リアドア32及びリアサイドガラス33が設けられている。また、車両30には、アウトサイドモール34やサッシュモール35が設けられている。
【0055】
アウトサイドモール34は、フロントドア31とリアドア32との各々に設けられており、昇降式ウィンドウの下端部に配置されている。このアウトサイドモール34には、外部に露出した芯材を有している。本実施形態においては、このようなアウトサイドモール34の芯材に、上記第1実施形態または第2実施形態の耐摩耗性が高いステンレス鋼複合材100が用いられている。
【0056】
また、車両30は、フロントドア31の前部からフロントドア31の上縁部及びリアドア32の上縁部を経由して、リアドア32の後方に配置されたリアサイドガラス33の後部まで設けられた長尺状のサッシュモール35を備えている。本実施形態においては、このようなサッシュモール35に、上記第1実施形態または第2実施形態の耐摩耗性が高いステンレス鋼複合材100が用いられている。
【0057】
このような車両30によれば、アウトサイドモール34の芯材と、サッシュモール35との耐摩耗性を向上させることが可能である。このため、長期に亘って、車両用外装部品に適した干渉色を外部の者に視認させることが可能となる。
【0058】
なお、本実施形態においては、アウトサイドモール34の芯材と、サッシュモール35の両方に上記第1実施形態または第2実施形態の耐摩耗性が高いステンレス鋼複合材100が用いられる構成について説明した。しかしながら、アウトサイドモール34の芯材と、サッシュモール35とのいずれかに上記第1実施形態または第2実施形態の耐摩耗性が高いステンレス鋼複合材100を用いるようにしても良い。
【0059】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0060】
例えば、上記実施形態においては、摩耗抑止充填部材120が樹脂部材である構成について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。樹脂と異なる材料を用いて摩耗抑止充填部材120を形成することも可能である。
【0061】
また、上記第3実施形態においては、車両用外装部品にステンレス鋼複合材100を用いる構成について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。本発明のステンレス鋼複合材は、ステンレス鋼を用いて形成可能な部材に対して、広く用いることが可能である。
【符号の説明】
【0062】
100……ステンレス鋼複合材、101……表面、110……ステンレス鋼基材、111……酸化被膜層、112……基材基部、113……凹部、120……摩耗抑止充填部材(樹脂部材)、130……樹脂テープ(テープ)、131……テープ基材、132……形成材料、34……アウトサイドモール、35……サッシュモール、R1……高耐摩耗領域(耐摩耗性向上範囲)、R2……標準領域
図1
図2
図3
図4