(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023030501
(43)【公開日】2023-03-08
(54)【発明の名称】抗ウイルス性組成物、繊維、及び成形物
(51)【国際特許分類】
A01N 41/10 20060101AFI20230301BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20230301BHJP
D06M 13/265 20060101ALI20230301BHJP
D06M 15/03 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
A01N41/10 A
A01P1/00
D06M13/265
D06M15/03
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021135669
(22)【出願日】2021-08-23
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】511027699
【氏名又は名称】株式会社シクロケムバイオ
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 陽日
(72)【発明者】
【氏名】吉村 正史
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 啓二
(72)【発明者】
【氏名】石田 善行
【テーマコード(参考)】
4H011
4L033
【Fターム(参考)】
4H011AA04
4H011BB07
4H011DA13
4L033AB01
4L033AB04
4L033AC10
4L033BA30
4L033BA31
4L033CA02
(57)【要約】
【課題】抗ウイルス効果を示す抗ウイルス性組成物を提供する。
【解決手段】ジヨードメタン化合物を含有する抗ウイルス性組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジヨードメタン化合物を含有する抗ウイルス性組成物。
【請求項2】
さらにシクロデキストリン誘導体を含有する請求項1に記載の抗ウイルス性組成物。
【請求項3】
前記シクロデキストリン誘導体が、β-シクロデキストリン誘導体である請求項2に記載の抗ウイルス性組成物。
【請求項4】
前記β-シクロデキストリン誘導体が、メチル-β-シクロデキストリンである請求項3に記載の抗ウイルス性組成物。
【請求項5】
前記ジヨードメタン化合物が、ジヨードメチル-p-トリルスルホンである請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の抗ウイルス性組成物。
【請求項6】
対象ウイルスが、エンベロープウイルスである請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の抗ウイルス性組成物。
【請求項7】
前記エンベロープウイルスが、インフルエンザウイルスである請求項6に記載の抗ウイルス性組成物。
【請求項8】
請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の抗ウイルス性組成物を含む繊維。
【請求項9】
請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の抗ウイルス性組成物を含む成形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、抗ウイルス性組成物、繊維、及び成形物に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルスは、ゲノム核酸を有するもののそれ単独では生育できず、生物とは異なる非細胞性生物として分類されている。前記ゲノム核酸は、カプシドと呼ばれる外殻タンパク質の中に保持される。ウイルスは、前記ゲノム核酸としてDNAを有するか又はRNAを有するかによって二種類に大別され、さらには、前記カプシドが脂質二重膜からなるエンベロープで覆われているか又はそうでないかによっても分類される。具体的には、ゲノム核酸としてDNAを有し、かつカプシドがエンベロープで覆われているものとして、ヘルペスウイルス等が挙げられる。ゲノム核酸としてDNAを有し、かつカプシドがエンベロープで覆われていないものとして、アデノウイルス等が挙げられる。ゲノム核酸としてRNAを有し、かつカプシドがエンベロープで覆われているものとして、インフルエンザウイルス等が挙げられる。ゲノム核酸としてRNAを有し、かつカプシドがエンベロープで覆われていないものとして、ノロウイルス及びポリオウイルス等が挙げられる。
【0003】
インフルエンザウイルス、コロナウイルス、及びノロウイルス等のウイルスは、種々の疾病の原因となることから、それらに対して抗ウイルス効果を有する組成物が望まれている。特許文献1には、例えば、ピリチオン亜鉛は、SARSウイルス(具体的にはSARS-COV-P5及びSARS-COV-P11、いずれもコロナウイルス分離株)に効果を示すことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、依然として、抗ウイルス効果を有する抗ウイルス性組成物の開発が望まれている。
【0006】
本開示は上記を鑑みてなされたものであり、本開示は、抗ウイルス効果を示す抗ウイルス性組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための具体的な手段には、以下の態様が含まれる。
<1> ジヨードメタン化合物を含有する抗ウイルス性組成物。
<2> さらにシクロデキストリン誘導体を含有する前記<1>に記載の抗ウイルス性組成物。
<3> 前記シクロデキストリン誘導体が、β-シクロデキストリン誘導体である前記<2>に記載の抗ウイルス性組成物。
<4> 前記β-シクロデキストリン誘導体が、メチル-β-シクロデキストリンである前記<3>に記載の抗ウイルス性組成物。
<5> 前記ジヨードメタン化合物が、ジヨードメチル-p-トリルスルホンである前記<1>~<4>のいずれか一つに記載の抗ウイルス性組成物。
<6> 対象ウイルスが、エンベロープウイルスである前記<1>~<5>のいずれか一つに記載の抗ウイルス性組成物。
<7> 前記エンベロープウイルスが、インフルエンザウイルスである前記<6>に記載の抗ウイルス性組成物。
<8> 前記<1>~<7>のいずれか一つに記載の抗ウイルス性組成物を含む繊維。
<9> 前記<1>~<7>のいずれか一つに記載の抗ウイルス性組成物を含む成形物。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、抗ウイルス効果を示す抗ウイルス性組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本開示において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示における基(原子団)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は、置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。
【0010】
≪抗ウイルス性組成物≫
本開示の抗ウイルス性組成物は、ジヨードメタン化合物を含有する。本開示の抗ウイルス性組成物は、抗ウイルス効果を示す。以下、本開示における抗ウイルス性組成物について詳細に説明する。
【0011】
<ジヨードメタン化合物>
本開示の抗ウイルス性組成物は、ジヨードメタン化合物を含有する。
本開示の抗ウイルス性組成物は、ジヨードメタン化合物を含有することで、抗ウイルス性を示すことができる。
【0012】
本開示におけるジヨードメタン化合物としては、公知のジヨードメタン化合物を用いることができるが、良好な抗ウイルス性を得る観点から、下記一般式(1)で表される化合物が好ましい。以下、一般式(1)で表されるヨード化合物を特定ヨード化合物と称することがある。
【0013】
【0014】
一般式(1)において、R1は、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~7のアシル基、炭素数2~7のアルコキシカルボニル基、炭素数2~7のアルキルアミノカルボニル基又は炭素数3~13のジアルキルアミノカルボニル基を示し、R2は、ハロゲン原子又は炭素数1~6のアルキル基を示し、nは0又は1を示す。
また、L1は、カルボニル基又はスルホニル基を示す。
【0015】
R1で表される炭素数1~6のアルキル基は、直鎖アルキル基であっても分岐を有するアルキル基であっても環状構造を有するアルキル基であってもよく、直鎖アルキル基又は分岐を有するアルキル基であることが好ましい。
R1で表されるアルキル基の炭素数は、1~3であることが好ましく、1~2であることがより好ましい。
R1で表される炭素数1~6のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、2-メチルブチル基、ネオペンチル基、1-エチルプロピル基、シクロペンチル基、n-へキシル基、4-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、1-メチルペンチル基、3,3-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0016】
R1で表される炭素数1~7のアシル基の具体例としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ペンタノイル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
【0017】
R1で表される炭素数2~7のアルコキシカルボニル基を構成するアルコキシ基としては、炭素数1~6のアルコキシ基であることが好ましく、炭素数1~3のアルコキシ基であることがより好ましく、炭素数1~2のアルコキシ基であることが更に好ましい。
炭素数2~7のアルコキシカルボニル基を構成するアルコキシ基は、直鎖アルコキシ基であっても分岐を有するアルコキシ基であっても環状構造を有するアルコキシ基であってもよく、直鎖アルコキシ基又は分岐を有するアルコキシ基であることが好ましい。
炭素数2~7のアルコキシカルボニル基を構成するアルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、シクロプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基、シクロブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、2-メチルブトキシ基、ネオペンチルオキシ基、1-エチルプロポキシ基、シクロペンチルオキシ基、n-へキシルオキシ基、4-メチルペンチルオキシ基、3-メチルペンチルオキシ基、2-メチルペンチルオキシ基、1-メチルペンチルオキシ基、3,3-ジメチルブトキシ基、2,2-ジメチルブトキシ基、1,1-ジメチルブトキシ基、1,2-ジメチルブトキシ基、1,3-ジメチルブトキシ基、2,3-ジメチルブトキシ基、2-エチルブトキシ基、シクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。
【0018】
R1で表される炭素数2~7のアルキルアミノカルボニル基又は炭素数3~13のジアルキルアミノカルボニル基を構成するアルキル基としては、炭素数1~6のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~3のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1~2のアルキル基であることが更に好ましい。
炭素数2~7のアルキルアミノカルボニル基又は炭素数3~13のジアルキルアミノカルボニル基を構成するアルキル基は、直鎖アルキル基であっても分岐を有するアルキル基であっても環状構造を有するアルキル基であってもよく、直鎖アルキル基又は分岐を有するアルキル基であることが好ましい。
炭素数2~7のアルキルアミノカルボニル基又は炭素数3~13のジアルキルアミノカルボニル基を構成するアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、2-メチルブチル基、ネオペンチル基、1-エチルプロピル基、シクロペンチル基、n-へキシル基、4-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、1-メチルペンチル基、3,3-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0019】
R1で表される炭素数3~13のジアルキルアミノカルボニル基を構成する2つのアルキル基は、同じであってもよく、異なっていてもよい。また、2つのアルキル基が互いに結合して環状構造を形成してもよい。
【0020】
R1としては、水素原子又は炭素数2~7のアルコキシカルボニル基であることが好ましく、水素原子又はエトキシカルボニル基であることがより好ましい。
【0021】
R2で表される炭素数1~6のアルキル基は、直鎖アルキル基であっても分岐を有するアルキル基であっても環状構造を有するアルキル基であってもよく、直鎖アルキル基又は分岐を有するアルキル基であることが好ましい。
R2で表されるアルキル基の炭素数は、1~3であることが好ましく、1~2であることがより好ましく、1であることが更に好ましい。
R2で表される炭素数1~6のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、2-メチルブチル基、ネオペンチル基、1-エチルプロピル基、シクロペンチル基、n-へキシル基、4-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、1-メチルペンチル基、3,3-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0022】
R2で表されるハロゲン原子の具体例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子が挙げられる。
【0023】
R2の置換位置は特に限定されるものではない。R2の置換位置は、一般式(1)のベンゼン環におけるL1の結合した炭素を基準として、オルト位であってもメタ位であってもパラ位であってもよく、パラ位であることが好ましい。
【0024】
R2としては、メチル基、又はエチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0025】
nは0又は1を示し、1が好ましい。
【0026】
L1は、カルボニル基又はスルホニル基を示す。上記の中でも、抗ウイルス性の観点から、スルホニル基が好ましい。
【0027】
本開示のジヨードメタン化合物としては、例えば、ジヨードメチル-p-トリルスルホン(以下、DMTSともいう)、ジヨードメチル-o-トリルスルホン、ジヨードメチル-m-トリルスルホン、ジヨードメチル-p-クロロフェニルスルホン、ジヨードメチル-p-ブロモフェニルスルホン、ジヨードメチル-p-エチルフェニルスルホン、ジヨードメチル-p-プロピルフェニルスルホン、ジヨードメチルフェニルケトン、ジヨードメチル(4-メチルフェニル)ケトン、ジヨードメチル(4-クロロフェニル)ケトン、メチル 2,2-ジヨード-3-オキソ-3-フェニルプロピオネート等が挙げられる。上記の中でも、良好な抗ウイルス性を得る観点から、ジヨードメチル-p-トリルスルホン、ジヨードメチル-o-トリルスルホン、ジヨードメチル-m-トリルスルホン、ジヨードメチル-p-クロロフェニルスルホンが好ましく、ジヨードメチル-p-トリルスルホンがより好ましい。
【0028】
本開示におけるジヨードメタン化合物は市販品を用いてもよく、市販品としては、例えば、ヨートルDP95(三井化学株式会社製)等が挙げられる。
【0029】
なお後述の製剤化についての説明で記載されるように、本開示の抗ウイルス性組成物は、溶媒に溶解又は懸濁させることで、溶液又は懸濁液(すなわちスラリー液)として使用してもよい。前記溶媒は、後述するように、例えば、水(例えば滅菌精製水若しくはイオン交換水等)、親水性有機溶媒(例えばアルコール等を含む溶媒)、緩衝液、又は生理食塩水等が挙げられる。
本開示の抗ウイルス性組成物を、溶媒に溶解又は懸濁し、抗ウイルス性組成物を含む溶液又は懸濁液として使用する場合、前記溶液におけるジヨードメタン化合物の濃度又は前記懸濁液におけるジヨードメタン化合物の含有質量は、特に制限されない。なお、本開示において「ジヨードメタン化合物の濃度」は、溶液に溶解されているジヨードメタン化合物の質量を意味し、すなわち、「ジヨードメタン化合物の有効濃度」ともいえる。本開示において「ジヨードメタン化合物の含有質量」は、懸濁液中に含有されるジヨードメタン化合物の質量を意味し、すなわち、溶媒に溶解されているジヨードメタン化合物及び溶解されていないジヨードメタン化合物の両方が算入された質量である。
【0030】
抗ウイルス性組成物を含む溶液中のジヨードメタン化合物の濃度の下限値は、特に制限されないが、良好な抗ウイルス性を得る観点から、10ppm以上が好ましく、50ppm以上がより好ましく、300ppm以上がさらに好ましく、1000ppm以上が特に好ましい。溶液中のジヨードメタン化合物の濃度の上限値は、特に制限されないが、ジヨードメタン化合物を溶媒へ良好に溶解させやすい観点から、70,000ppm以下であることが好ましく、30,000ppm以下であることがより好ましい。溶液中のジヨードメタン化合物の濃度が高いとき、ジヨードメタン化合物とウイルスとの接触時間が短い場合であっても、高い抗ウイルス効果が示されると推測される。
【0031】
本開示の抗ウイルス性組成物が、溶媒に溶解されているとき、溶液中のジヨードメタン化合物の濃度(すなわち、ジヨードメタン化合物の有効濃度)は、以下の方法により測定する。
溶液中のジヨードメタン化合物の濃度は、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)を用いて下記の方法により求める。
溶液中のジヨードメタン化合物の濃度は、予め作成した絶対検量線に基づいて求める。なお、上記絶対検量線は、溶媒に、DMTS(ジヨードメチル-p-トリルスルホン)を溶解させた溶液についてHPLC分析を行った場合における、溶液中のジヨードメタン化合物の濃度と、ピークのArea%と、の関係を示すグラフである。
HPLCの条件は、以下の通りである。
-HPLCの条件-
・カラム:(株)ワイエムシィ製「YMC-Pack ODS-A」(150×6mm)
・移動相:アセトニトリル:H2O(0.1質量%トリフルオロ酢酸)=5:5→10:0 Over 15min、retention 10min、流速0.5mL/min
・温度:40℃
・検出波長:230nm
【0032】
抗ウイルス性組成物を含む懸濁液中のジヨードメタン化合物の含有質量の下限値は、特に制限されないが、良好な抗ウイルス性を得る観点から、10ppm以上が好ましく、50ppm以上がより好ましく、300ppm以上がさらに好ましく、1000ppm以上が特に好ましい。懸濁液中のジヨードメタン化合物の含有質量の上限値は、特に制限されないが、ジヨードメタン化合物を溶媒へ良好に懸濁させやすい観点から、70,000ppm以下であることが好ましく、30,000ppm以下であることがより好ましい。懸濁液中のジヨードメタン化合物の含有質量が高いとき、ジヨードメタン化合物とウイルスとの接触時間が短い場合であっても、高い抗ウイルス効果が示されると推測される。
【0033】
本開示の抗ウイルス性組成物が、溶媒に懸濁されているとき、懸濁液中のジヨードメタン化合物の含有質量は、懸濁液の質量及び添加されたジヨードメタン化合物の質量から算出できる。
【0034】
<シクロデキストリン誘導体>
本開示の抗ウイルス性組成物は、ジヨードメタン化合物及びシクロデキストリン誘導体を含有することが好ましい。本開示の抗ウイルス性組成物において、抗ウイルス効果を示すジヨードメタン化合物が、例えばシクロデキストリン誘導体に包接される場合、本開示の抗ウイルス性組成物は抗ウイルス効果を示しやすいと推定される。なお本開示は、前記推定機構には何ら制限されない。
【0035】
例えば、シクロデキストリン誘導体を含有する本開示の抗ウイルス性組成物を溶媒に溶解又は懸濁させた場合、シクロデキストリン誘導体はジヨードメタン化合物を包接し(つまりシクロデキストリン誘導体及び上記ジヨードメタン化合物は包接化合物として存在し)、ジヨードメタン化合物の溶媒への溶解性又は懸濁性を向上させやすくすることができる。なお本開示において懸濁性とは、固体粒子が液体中に分散しやすいことをいう。
なお、本開示においてシクロデキストリン誘導体とは、シクロデキストリン又はその誘導体を含むシクロデキストリン系化合物のことであり、シクロデキストリン及び置換基を有するシクロデキストリンを含む。
【0036】
シクロデキストリン誘導体における置換基としては、アルキル基、ヒドロキシアルキル基等が挙げられる。
上記アルキル基及びヒドロキシアルキル基における炭素数は1~10が好ましく、1~3がより好ましく、1がさらに好ましい。
【0037】
本開示におけるシクロデキストリン誘導体としては、α-、β-又はγ-シクロデキストリン誘導体のいずれでもよく、これらの混合物でもよい。
上記の中でも、ジヨードメタン化合物の良好な包接性の観点から、β-シクロデキストリン誘導体(すなわちβ-シクロデキストリン又はその誘導体を含むβ-シクロデキストリン系化合物)が好ましい。
【0038】
本開示におけるシクロデキストリン誘導体としては、メチル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、メチル-γ-シクロデキストリン、メチル-α-シクロデキストリン等が挙げられる。
本開示の抗ウイルス性組成物を溶媒に溶解又は懸濁させる場合に、ジヨードメタン化合物の溶媒への溶解性又は懸濁性を向上させることでより良好な抗ウイルス性を有する溶液又は懸濁液を得る観点から、上記の中でも、メチル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンが好ましく、メチル-β-シクロデキストリンがより好ましい。
【0039】
β-シクロデキストリン誘導体としては、市販品を用いてもよく、例えば、CAVASOL W7 M(メチル-β-シクロデキストリン、シクロケム社製)、CAVASOL W7 HP(ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、シクロケム社製)、化学修飾サイクロデキストリン メチル-β-CD(塩水港精糖社製)、化学修飾サイクロデキストリン HP-β-CD(塩水港精糖社製)、セルデックス HP-β-CD(日本食品化工社製)等を用いることができる。
【0040】
なお後述の製剤化についての説明で記載されるように、本開示の抗ウイルス性組成物は、溶媒に溶解又は懸濁させることで、溶液又は懸濁液として使用してもよい。
本開示の抗ウイルス性組成物を、溶媒に溶解又は懸濁し、抗ウイルス性組成物を含む溶液又は懸濁液として使用する場合、前記溶液又は懸濁液におけるシクロデキストリン誘導体の濃度は、特に制限されない。
溶液又は懸濁液中のシクロデキストリン誘導体の濃度の下限値は、特に制限されないが、ジヨードメタン化合物の溶解性又は懸濁性を向上させやすい観点から、10質量%以上とすることができる。溶液又は懸濁液中のシクロデキストリン誘導体の濃度の上限値は、特に制限されないが、溶液又は懸濁液の粘度を低下させ、溶液又は懸濁液の攪拌効率を向上させ、及び製造コストを低減させやすい観点から、60質量%以下とすることができる。
【0041】
≪抗ウイルス性組成物の用途≫
本開示の抗ウイルス性組成物は、抗ウイルス性の組成物として種々の用途に用いることができる。
上記用途としては、例えば、各種工業用製品及び日用品等として使用される、部材及び製品等の全てを含む。具体的には、上記用途としては、例えば、農業分野(例えば、農薬等)、林業分野(例えば、木材保存剤等)、漁業分野(例えば、浮具、漁具、及び水槽等)、畜産分野(例えば、飼料、飼槽、及びカーフジャケット等)、建設分野(例えば、壁紙、壁用ボード、壁材、及び床材等の内装建材、塗料、接着剤、フィルター、タイル、セメント、コンクリート、建材等に対する防蟻剤及び防虫剤、並びに木材等の資材等)、食料品分野(例えば、食品保存料等)、飲料・たばこ・飼料分野(例えば、水及びたばこ等)、繊維分野(例えば、衣類及び布団等)、パルプ・紙・紙加工品分野(例えば、包装紙等の包装材料等)、化学工業分野(例えば、金属加工液、洗浄剤、冷却水、メッキ液等の表面処理剤、プラスチック用又はガラス用等の切削液(例えばレンズ加工液)、インキ、印刷用トナー、医薬品、化粧品、トイレタリー製品、サニタリー用品、殺菌消毒剤、防臭剤、防腐剤、及び洗剤等)、プラスチック製品分野(例えば、樹脂成形体、フィルム、及び合成皮革(例えばポリウレタン系合成皮革)等)、ゴム製品分野、なめし革・同製品・毛皮分野(例えば、皮革等)、窯業・土石製品分野(例えば、食器類等の陶磁器等)、電気機械器具分野(例えば、冷蔵庫及び空調機等の家庭用電気機器並びにそれらの部材等)、輸送用機械器具分野(例えば、自動車及び物流用の船舶等)、精密機械器具分野(例えば、ハイテク機器及び光学機器等)、その他の製品分野(例えば、スポーツ用品、学用品、筆記具用インキ、玩具、プラスチック製等の雑貨、及び家庭用品等)、並びに医療・福祉サービス分野(例えば、病院、老人ホーム、及び公共施設等で用いる部材及び製品等)等の様々な分野において、それぞれで例示した部材及び製品等に用いることができる。
【0042】
上記の例示の中でも、本開示の抗ウイルス性組成物の用途としては、内装建材、塗料、インキ、印刷用トナー、壁紙、接着剤、金属加工液、表面処理剤、プラスチック用又はガラス用等の切削液(例えばレンズ加工液)、成形物(例えば、フィルム、シート、及びプラスチック製品(例えば樹脂成形体及び合成皮革(例えばポリウレタン系合成皮革)等))、繊維(衣類及び布団等)、陶磁器(食器類等)、紙・パルプ製品、洗浄剤、防臭剤、防腐剤、並びにゴム製品分野が好適である。
【0043】
すなわち、上記で例示した分野における部材及び製品等が、本開示の抗ウイルス性組成物を含有するよう加工することにより、部材及び製品等に抗ウイルス性を付与することが可能となる。あるいは、上記で例示した分野における部材及び製品等の表面の一部又は表面全部を、本開示の抗ウイルス性組成物が被覆するよう加工することにより、部材及び製品等に抗ウイルス性を付与することが可能となる。なお抗ウイルス性とは、部材及び製品等に付着したウイルスが不活性化されることで、ウイルス感染価が低下することをいう。
【0044】
≪抗ウイルス性組成物の製剤化≫
本開示の抗ウイルス性組成物は、抗ウイルス性組成物を製剤化したうえで、種々の用途に用いてもよい。抗ウイルス性組成物を製剤化して用いることで、本開示の抗ウイルス性組成物を、上記したような、分野、部材及び製品等に対して、より適用しやすくなる場合がある。製剤化により得られる剤型は、特に制限されず、水系、粉体系、及び溶剤系等の各種剤型(例えば、油剤、乳剤、可溶化製剤、水和剤、フロアブル剤(水中懸濁剤、水中乳濁剤等)、マイクロカプセル剤、粉剤、錠剤、エアゾール剤、及び炭酸ガス製剤等)が適用可能である。本開示の抗ウイルス性組成物は、一般的に製剤化に用いられる任意成分と共に製剤化されることができる。
【0045】
本開示の抗ウイルス性組成物は、例えば溶媒を加えて製剤化してもよい。かかる製剤化の際に使用される溶媒としては、滅菌精製水及びイオン交換水等の水、緩衝液、生理食塩水、エタノール、イソプロパノール、フェノキシエタノール、ベンジルアルコール等の一価アルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコール系溶剤及びその誘導体、グリセリン、ジグリセリン等のグリセリン系溶剤及びその誘導体、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、γ-ブチロラクトン等の環状有機溶媒、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、セバシン酸エステル等のエステル系溶媒、メチルナフタレン、フェニルキシリルエタン、アルキルベンゼン等の芳香族系溶媒、ノルマルパラフィン、イソパラフィン等の脂肪族炭化水素溶媒、菜種油、綿実油、大豆油、並びにヒマシ油等が挙げられる。これら溶媒は、単独で使用してもよく、2種類以上を併用することも可能である。
【0046】
前記製剤化の際には、さらに他の成分を配合させてもよく、例えば、界面活性剤、pH調整剤、消泡剤、防錆剤、粘度調整剤(例えば、増粘剤)、金属封鎖剤(キレート剤)、光安定化剤、紫外線吸収剤、促進剤、付着増進剤、香料、スケール防止剤、帯電防止剤、樹脂バインダー、柔軟加工剤、抗菌成分、他の抗ウイルス剤、及びその他の剤等を配合させてもよい。これら界面活性剤、pH調整剤、消泡剤、防錆剤、粘度調整剤(例えば、増粘剤)、金属封鎖剤(キレート剤)、光安定化剤、紫外線吸収剤、促進剤、付着増進剤、香料、スケール防止剤、帯電防止剤、樹脂バインダー、増粘剤、柔軟加工剤、抗菌成分、他の抗ウイルス剤、及びその他の剤は、単独又は2種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0047】
前記界面活性剤としては、例えばポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンとポリオキシプロピレンのブロックコポリマー、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン硬化ヒマシ油等のノニオン界面活性剤、アルキルサルフェート塩、アルキルエーテルサルフェート塩、アルキルスルホサクシネート塩、アルキルスルホネート塩、アルキルアリルスルホネート塩、脂肪酸アミドスルホネート塩、リグニンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルホスフェート塩、アルキルエーテルホスフェート塩、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物塩等のアニオン界面活性剤、アルキルアミン塩、アルキルアンモニウム塩等のカチオン界面活性剤、グリシン型、ベタイン型、イミダゾリン型等の両性界面活性剤が挙げられる。
【0048】
前記pH調整剤としては、コハク酸、クエン酸、酒石酸、酢酸等の有機酸及びそれらの塩、リン酸、ポリリン酸、ホウ酸等の無機酸及びそれらの塩等が挙げられる。
前記消泡剤としては、鉱油系、シリコーン系、ポリエーテル系等が挙げられる。
前記防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロヘキシルアンモニウム亜硝酸塩、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素アンモニウム等が挙げられる。
前記粘度調整剤(例えば、増粘剤)としては、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アラビアガム、ジェランガム、プルラン等が挙げられる。
前記金属封鎖剤(キレート剤)としては、エチレンジアミン四酢酸又はその塩、ニトリロ三酢酸又はその塩、ジエチレントリアミン五酢酸又はその塩、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸又はその塩、トリエチレンテトラミン六酢酸又はその塩、1,3-プロパンジアミン四酢酸又はその塩、1,3-ジアミノ-2-ヒドロキシプロパン四酢酸又はその塩、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸又はその塩、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸又はその塩、ジヒドロキシエチルグリシン又はその塩、グリコールエーテルジアミン四酢酸又はその塩、ジカルボキシメチルグルタミン酸又はその塩、ニトリロトリスメチレンリン酸又はその塩等が挙げられる。
前記光安定剤としては、アミド系化合物又はヒドラジド系化合物のラジカル連鎖開始阻止剤、ヒンダートアミン系化合物、フェノール系酸化防止剤に代表されるラジカル捕捉剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤に代表される過酸化物分解剤等が挙げられる。
前記紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、トリアジン系化合物等が挙げられる。
前記促進剤としては、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
前記付着増進剤としては、3-メタクロリキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
前記香料としては、天然香料、天然精油、各種合成香料等が挙げられる。
前記スケール防止剤としては、ポリリン酸系、ホスホン酸系、ホスフィン酸系、ポリカルボン酸系等の化合物等が挙げられる。
前記帯電防止剤としては、導電性高分子、導電性粒子、アルカリ金属塩、有機カチオン-アニオン塩等が挙げられる。
前記樹脂バインダーとしては、アルギン酸、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。
前記柔軟加工剤としては、ヒアルロン酸、γ-オリザノール、ビタミン、糖の脂肪酸エステル、カゼインナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、グリセリン、ポリエチレングリコール、スクワラン、ゼラチン、コレステロール、α-アミノ酸、ホホバ油、月見草油等が挙げられる。
【0049】
前記抗菌成分としては、2-ベンズイミダゾールカルバミン酸メチル、2-(4-チアゾリル)-ベンズイミダゾール、1-[[2-(2,4-ジクロロフェニル)-4-プロピル-1,3-ジオキソラン-2-イル]メチル]-1H-1,2,4-トリアゾール、(±)-α-[2-(4-クロロフェニル)エチル]-α-(1,1-ジメチルエチル)-1H-1,2,4-トリアゾール-1-エタノール、(RS)-2-(2,4-ジクロロフェニル)-1-(1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)ヘキサン-2-オール、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、N-n-ブチル-1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、N-メチル-1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、N-エチル-1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、2-エチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-n-ブチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、メチレンビスチオシアネート、2-(4-チオシアノメチルチオ)ベンゾチアゾール、1-[2-(2,4-ジクロロフェニル)-2-(2-プロペニルオキシ)エチル]-1H-イミダゾール、2-ブロモーニトロプロパン-1,3-ジオール、2,2-ジブロモ-2-ニトロエタノール、2,3,5,6-テトラクロロ-4-(メチルスルホニル)ピリジン、2,4,5,6-テトラクロロイソフタロニトリル、o-フェニルフェノール、o-フェニルフェノールナトリウム、イソプロピルメチルフェノール、パラクロロメタキシレノール、p-オキシ安息香酸アルキルエステル、塩化ベンザルコニウム、塩化ジメチルジデシルアンモニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、ジメチルジデシルアンモニウム炭酸/重炭酸塩、ジメチルジデシルアンモニウムプロピオネート、1,4-ビス(3,3’-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシブタン)ブロミド等が挙げられる。
【0050】
前記他の抗ウイルス剤としては、無機系材料であってもよく有機系材料であってもよく、アルコール類、フェノール類(例えば、フェノール(石炭酸)、フェノキシエタノール、2-イソプロピル-5-メチルフェノール(チモール)、3-メチル-4-イソプロピルフェノール(イソプロピルメチルフェノール)、レゾルシン、オルトフェニルフェノール等)、ポリフェノール類(例えば、茶カテキン等)、芳香族カルボン酸類(例えば、安息香酸、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸エステル、サリチル酸及びそれらの誘導体等)、非ベンゼン系芳香族化合物(例えば、アズレン、ヒノキチオール等)、脂肪酸(例えば、ソルビン酸、ウンデシレン酸誘導体等)、エステル類(例えば、脂肪酸グリセリンエステル、5-ヒドロキシメチル-2-フルフラール有機酸エステル等)、アルデヒド類(例えば、グルタルアルデヒド等)、イミダゾール類(例えば、2-(4-チアゾリル)ベンズイミダゾール、2-ベンズイミダゾリルカルバミン酸メチル等)、チアゾリン類(例えば、2-メチルイソチアゾロン、N-n-ブチルベンゾイソチアゾロン、N-オクチルイソチアゾロン、1,2-ベンゾイソチアゾロン、5-クロロ-2-メチルイソチアゾロン等)、チオシアネート類(例えば、メチレンビスチオシアネート等)、有機硫黄化合物(例えば、チアントール、チオキソロン、アルキルベンゼンスルホン酸若しくはその塩、スルホン酸基若しくはその塩を有する重合体等)、有機フッ素化合物(例えば、ハロカルバン等)、有機塩素化合物(例えば、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、パラクロロメタクレゾール、パラクロロメタキシレノール、クロロフェネシン、テトラクロロイソフタロニトリル、2,3,5,6-テトラクロロ-4-(メチルスルホニル)ピリジン、トリクロサン(トリクロロヒドロキシジフェニルエーテル)、トリクロロカルバニリド、ヘキサクロロフェン、塩化クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン等)、有機臭素化合物(例えば、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール、1,2-ジブロモ-2,4-ジシアノブタン等)、有機ヨウ素化合物(例えば、ヨードプロピニルブチルカーバメート(IPBC)、ジヨードメチルパラトリルスルホン、パラクロロフェニル-3-ヨードプロパギルホルマール等)、ナトリウム塩(例えば、次亜塩素酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ジアミノベンゼンスルホン酸ナトリウム、2-ヒドロキシ-4,6-ジクロロ-1,3,5-トリアジンナトリウム、モノニトログアヤコールナトリウム等)、カリウム塩(例えば、ソルビン酸カリウム等)、カルシウム塩(例えば、貝殻焼成カルシウム、消石灰(CaOH)、ハイドロキシアパタイト)、4級アンモニウム塩(例えば、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、オクタデシルジメチルアンモニウムクロライド、ポリ-オキシエチレン(ジメチルイミノ)エチレン(ジメチルイミノ)エチレンジクロライド等)、イソキノリンアルカロイド類(例えば、ベルベリン等)、ポリマー類(例えば、ポリヘキサメチレンビグアニド、ポリリジン等)、ポリペプチド類(例えば、塩化リゾチーム等)、植物由来成分(例えば、ウイキョウエキス、サンショウエキス等)、銅、銀、チタン、スズ、鉄、ニッケル、若しくは亜鉛等を含む化合物(例えば、酸化タングステン、銀担持無機粒子、銅担持無機粒子、銀ゼオライト、銀塩、ジンクピリチオン等)、銀-アミノ酸錯体(例えば、システインのSH基に銀を結合させたもの等)等が挙げられる。
【0051】
前記その他の剤としては、ポリカルボン酸、アルデヒド化合物、N-メチロール化合物、分子内にエポキシ基(グリシジル基)を有する化合物、分子内にビニル基を有する化合物、イソシアネート化合物、メラミン化合物、過酸化水素混合物、多孔質ガラス、多孔質炭酸カルシウム、シリカゲル等が挙げられる。
【0052】
≪対象ウイルス≫
本開示の抗ウイルス性組成物の対象ウイルスの種類、すなわち、本開示の抗ウイルス性組成物を適用し得るウイルスの種類は、特に制限されない。
前記対象ウイルスの種類は、エンベロープウイルス(すなわち、カプシドがエンベロープで覆われているウイルス)であってもよく、ノンエンベロープウイルス(すなわち、カプシドがエンベロープで覆われていないウイルス)であってもよい。さらには、前記対象ウイルスの種類は、DNAウイルス(すなわち、ゲノム核酸としてDNAを有するウイルス)であってもよく、RNAウイルス(すなわち、ゲノム核酸としてRNAを有するウイルス)であってもよい。
【0053】
エンベロープを有するDNAウイルスとしては、例えば、ヒトヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、及びB型肝炎ウイルス等が挙げられるが、これらに限定されない。
エンベロープを有するRNAウイルスとしては、例えば、インフルエンザウイルス、SARSコロナウイルス、RSウイルス、ムンプスウイルス、ラッサウイルス、デングウイルス、風疹ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、麻疹ウイルス、C型肝炎ウイルス、エボラウイルス、黄熱ウイルス、及び日本脳炎ウイルス等が挙げられるが、これらに限定されない。
エンベロープを有さないDNAウイルスとしては、例えば、アデノウイルス、B19ウイルス、パポバウイルス、及びヒトパピローマウイルス等が挙げられるが、これらに限定されない。
エンベロープを有さないRNAウイルスとしては、例えば、ノロウイルス、ポリオウイルス、エコーウイルス、A型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルス、ライノウイルス、アストロウイルス、ロタウイルス、コクサッキーウイルス、エンテロウイルス、サポウイルス、及びネコカリシウイルス等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0054】
前記対象ウイルスは、本開示の抗ウイルス性組成物が優れた抗ウイルス効果を示す観点から、エンベロープウイルスであることが好ましく、インフルエンザウイルスであることがより好ましい。
【0055】
≪抗ウイルス性組成物を含む水溶液の製造方法≫
本開示の抗ウイルス性組成物を含む水溶液の製造方法としては、例えば、反応器に、希釈溶媒である水とジヨードメタン化合物(例えばジヨードメチル-p-トリルスルホン)とを装入し、加熱攪拌する。あるいは、例えば、反応器に、シクロデキストリン誘導体(例えば、メチル-β-シクロデキストリン、750g)と希釈溶媒である水(1500mL)とを装入した後、ジヨードメタン化合物(例えばジヨードメチル-p-トリルスルホン、65g)を添加し、加熱攪拌する。そして加熱攪拌の後、ろ過を行うことで、本開示の抗ウイルス性組成物を含む水溶液を製造することができる。
【0056】
攪拌温度は、所望のジヨードメタン化合物の濃度によって調整することができるが、30℃~130℃としてもよく、40℃~100℃としてもよい。
【0057】
攪拌時間は、所望のジヨードメタン化合物の濃度によって調整することができるが、3時間~7時間としてもよく、4時間~6時間としてもよい。
【0058】
≪抗ウイルス性組成物を含む懸濁液の製造方法≫
本開示の抗ウイルス性組成物を含む懸濁液の製造方法としては、例えば、反応器に、希釈溶媒である水とジヨードメタン化合物(例えばジヨードメチル-p-トリルスルホン)とを装入し、室温(例えば25℃)で攪拌することで、本開示の抗ウイルス性組成物を含む懸濁液を製造することができる。
【0059】
攪拌温度は、所望のジヨードメタン化合物の濃度によって調整することができるが、10℃~130℃としてもよく、20℃~100℃としてもよい。
【0060】
攪拌時間は、所望のジヨードメタン化合物の濃度によって調整することができるが、0.1時間~3時間としてもよく、0.5時間~1時間としてもよい。
【実施例0061】
以下、本開示を実施例により更に具体的に説明するが、本開示はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0062】
≪実施例1~実施例3≫
<抗ウイルス性組成物を含む水溶液の調製>
以下に記載の方法により、水、ジヨードメタン化合物及びシクロデキストリン誘導体を含有する水溶液を調製した。
反応器(3000mL)に、シクロデキストリン誘導体でありβ-シクロデキストリン誘導体(βCD誘導体)でもあるM-βCD(メチル-β-シクロデキストリン、シクロケム社、商品名 CAVASOL W7 M、750g)と、希釈溶媒としての水(1500mL)とを装入した。その後、ジヨードメタン化合物としてのDMTS(ジヨードメチル-p-トリルスルホン、三井化学社、商品名 ヨートルDP95、DMTS粉体、65g)を添加し、50℃で5時間攪拌した。その後、0.3MPa下で加圧ろ過を行い、本開示の抗ウイルス性組成物を含む水溶液を得た。
【0063】
<水溶液中のDMTSの濃度の測定>
前記水溶液におけるDMTSの濃度(すなわち、DMTSの有効濃度)を、以下の方法により測定した。
水溶液中のDMTSの濃度を、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)を用いて下記の方法により求めた。
水溶液中のDMTSの濃度は、予め作成した絶対検量線に基づいて求めた。なお、上記絶対検量線は、水溶媒にDMTSを溶解させた溶液についてHPLC分析を行った場合における、溶液中のDMTSの濃度と、ピークのArea%と、の関係を示すグラフであり、以下の方法で作成した。
アセトニトリル:水=1:1である溶媒を用いて、濃度の異なるDMTS溶液を3種類用意し、HPLCを用いてDMTSに相当するピークのArea%を算出した。その後、DMTS濃度を縦軸、得られたArea%を横軸として絶対検量線を作成した。
HPLCの条件は、以下の通りとした。
-HPLCの条件-
・カラム:(株)ワイエムシィ製「YMC-Pack ODS-A」(150×6mm)
・移動相:アセトニトリル:H2O(0.1質量%トリフルオロ酢酸)=5:5→10:0 Over 15min、retention 10min、流速0.5mL/min
・温度:40℃
・検出波長:230nm
なお、実施例において「DMTSの濃度」は、水溶液に溶解されているDMTSの質量を意味し、すなわち、「DMTSの有効濃度」である。
【0064】
<ウイルス液の調製>
インフルエンザウイルスH1N1株(Influenza A virus(H1N1) A/PR/8/34 ATCC VR-1469)を、MDCK細胞(大日本製薬株式会社)で培養した。具体的には、細胞増殖培地を用いて、MDCK細胞を組織培養フラスコ内で単層培養した。単層培養後に、フラスコ内から前記細胞増殖培地を除去し、前記ウイルスを接種した。次に、細胞維持培地を加えて炭酸ガスインキュベーター内で1日間~5日間培養した(CO2濃度:5%、37±1℃)。培養後、MDCK細胞の形態を観察し、細胞に形態変化(細胞変性効果)が起こっていることを確認した。そして、培養した液を遠心分離(300rpm、10分)し、上澄み液を採取し、この上澄み液を試験用ウイルス液(以下「ウイルス液」という)とした。
【0065】
<中和作業の条件の確認>
細胞増殖培地を用いて、MDCK細胞を組織培養用96穴プレートで単層培養したのち、前記細胞増殖培地を除去し、細胞維持培地を0.1mLずつ加えた。次に、抗ウイルス性組成物を細胞維持培地で種々の濃度に希釈し、前記希釈した液0.1mL又は前記抗ウイルス性組成物の原液0.1mLを、それぞれ4穴ずつに接種し、炭酸ガスインキュベーター内で7日間培養した(CO2濃度:5%、37±1℃)。培養後、顕微鏡を用いて細胞の形態変化(細胞変性効果)を確認し、細胞変性効果が見られない検体の希釈濃度を決定した。以降の操作における中和作業は、本操作により確認した希釈濃度で実施することとした。
【0066】
<作用液の調製及び回収>
(実施例1における作用液の調製及び回収)
前記本開示の抗ウイルス性組成物を含む水溶液に、滅菌精製水を添加することにより、DMTSが所定濃度(前記水溶液中のDMTSの濃度が1000ppm)になるよう希釈した。この希釈した水溶液1mLに、前記ウイルス液0.1mLを添加及び混合することにより、「作用液」を得た。
前記作用液を室温にて静置し、静置開始から10分後又は2時間後に、それぞれ、細胞維持培地を用いて中和作業を行い、各作用液(静置10分後の作用液又は静置2時間後の作用液)を回収した。なお中和作業は、前記した<中和作業の条件の確認>において確認した希釈濃度で実施した。
【0067】
(実施例2における作用液の調製及び回収)
所定濃度を、「水溶液中のDMTSの濃度が300ppm」に変更したこと以外は、実施例1と同様に、各作用液の調製及び回収を行った。
【0068】
(実施例3における作用液の調製及び回収)
所定濃度を、「水溶液中のDMTSの濃度が50ppm」に変更したこと以外は、実施例1と同様に、各作用液の調製及び回収を行った。
【0069】
≪実施例4~実施例6≫
<抗ウイルス性組成物を含む懸濁液の調製、作用液の調製及び回収>
(実施例4における懸濁液の調製、作用液の調製及び回収)
以下に記載の方法により、水及びジヨードメタン化合物を含有する懸濁液を調製した。 詳細には、ジヨードメタン化合物としてのDMTS(ジヨードメチル-p-トリルスルホン、三井化学社、商品名 ヨートルDP95、DMTS粉体)に、滅菌精製水を添加することにより、DMTSが所定含有質量(スラリー液中、DMTSを1000ppm含有する)になるようスラリー液(すなわち、本開示の抗ウイルス性組成物を含む懸濁液)を調製した。なお、スラリー液は、単にDMTSが懸濁された液であるため、スラリー液中のDMTSの濃度(すなわち、DMTSの有効濃度)の測定は実施しなかった。すなわち、DMTSの含有質量は、スラリー液の質量及び添加したDMTSの質量から算出した。このスラリー液1mLに、≪実施例1~実施例3≫において調製したウイルス液0.1mLを添加及び混合することにより、「作用液」を得た。
前記作用液を室温にて静置し、静置開始から10分後又は2時間後に、それぞれ、細胞維持培地を用いて中和作業を行い、各作用液(静置10分後の作用液又は静置2時間後の作用液)を回収した。なお中和作業は、≪実施例1~実施例3≫における<中和作業の条件の確認>において確認した希釈濃度で実施した。
【0070】
(実施例5における懸濁液の調製、作用液の調製及び回収)
所定含有質量を、「スラリー液中、DMTSを300ppm含有する」に変更したこと以外は、実施例4と同様に、作用液の調製及び回収を行った。
【0071】
(実施例6における懸濁液の調製、作用液の調製及び回収)
所定含有質量を、「スラリー液中、DMTSを50ppm含有する」に変更したこと以外は、実施例4と同様に、作用液の調製及び回収を行った。
【0072】
≪比較例≫
(比較例1における作用液の調製及び回収)
精製水1mLに、≪実施例1~実施例3≫において調製したウイルス液0.1mLを添加及び混合することにより、「作用液」を得たこと以外は、実施例1と同様に、作用液の調製及び回収を行った。すなわち、比較例1の作用液中のDMTSの含有質量は0ppmとした。
【0073】
≪評価≫
<ウイルス感染価の算出>
前記実施例1~実施例6及び比較例1において回収した作用液(静置10分後の作用液又は静置2時間後の作用液)のウイルス感染価を、TCID50法にてそれぞれ算出した。具体的には、細胞増殖培地を用いて、MDCK細胞を組織培養用96穴プレートで単層培養したのち、前記細胞増殖培地を除去し、細胞維持培地を0.1mLずつ加えた。次に、実施例1~実施例6及び比較例1において回収した作用液を、細胞維持培地を用いて10倍ずつ希釈し、希釈系列を作製した。各希釈液0.1mLをそれぞれ4穴ずつに接種し、炭酸ガスインキュベーター内で4日間~7日間培養した(CO2濃度:5%、37±1℃)。培養後、顕微鏡を用いて細胞の形態変化(細胞変性効果)を観察し、Reed-Muench法により50%組織培養感染量(TCID50、50% Tissue Culture Infectious Dose:宿主細胞のうち半分がウイルスに感染した時のウイルスの濃度)を算出した。ウイルス感染価の算出結果は、logTCID50/mLとして示した。なお静置させなかった作用液(すなわち、前記本開示の抗ウイルス性組成物を含む水溶液1mLと、前記ウイルス液0.1mLとを添加及び混合したのち、静置させず、すぐさまTCID50を算出した作用液)のlogTCID50/mLは7.8であった。
【0074】
ウイルス感染価の算出結果を表1に示す。表1中、「<3.5」は、ウイルス感染が検出されなかったことを示す。表1中、「DMTS」は、実施例1~実施例3においては「DMTSの濃度(すなわちDMTSの有効濃度)」を示し、実施例4~実施例6及び比較例1においては「DMTSの含有質量」を示す。また本開示においては、陰性対照(すなわち、本開示における比較例1)に対してlogTCID50/mLの値に2以上の減少差がある場合、抗ウイルス活性有りと判定した。
【0075】
【0076】
表1に示されるように、実施例1では、静置10分後及び静置2時間後のいずれにおいても、抗ウイルス効果が確認された。実施例2~実施例6では、静置2時間後において、抗ウイルス効果が確認された。
すなわち、上記したように、本開示において、抗ウイルス効果を示す抗ウイルス性組成物が提供された。