(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023030518
(43)【公開日】2023-03-08
(54)【発明の名称】射出成形機およびその温度制御方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/78 20060101AFI20230301BHJP
B29C 45/62 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
B29C45/78
B29C45/62
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021135693
(22)【出願日】2021-08-23
(71)【出願人】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 清貴
【テーマコード(参考)】
4F206
【Fターム(参考)】
4F206AM32
4F206AP11
4F206AR061
4F206JA07
4F206JL02
4F206JN44
4F206JP12
4F206JP13
4F206JP18
4F206JQ46
(57)【要約】
【課題】射出される成形品の寸法精度の低下を防止又は抑制する。
【解決手段】射出成形機は、加熱シリンダ30に射出ノズル40を取り付けるためのノズルアダプタ50と、加熱シリンダ30と射出ノズル40とに連通する樹脂流路P1と、樹脂流路P1の周囲に設けられたアダプタ用ヒータ70と、樹脂流路P1を通過している溶融樹脂の温度が変動することを抑制するようにアダプタ用ヒータ70の出力を制御する制御部100と、を備える。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱シリンダに射出ノズルを取り付けるためのノズルアダプタと、
前記加熱シリンダと前記射出ノズルとに連通する樹脂流路と、
前記樹脂流路の周囲に設けられたアダプタ用ヒータと、
前記樹脂流路を通過している溶融樹脂の温度が変動することを抑制するように前記アダプタ用ヒータの出力を制御する制御部と、を備える、
射出成形機。
【請求項2】
前記射出ノズルにはノズル用ヒータが、前記加熱シリンダにはシリンダ用ヒータが、それぞれ配置されており、
前記制御部は、成形品の製造中において前記ノズル用ヒータおよび前記シリンダ用ヒータを稼働させ、前記成形品の寸法精度の低下状況に応じて前記アダプタ用ヒータの出力を制御する、
請求項1に記載の射出成形機。
【請求項3】
前記制御部は、成形品の製造中において前記成形品の肉厚が肥大傾向にある場合に前記アダプタ用ヒータの出力を上げ、前記成形品の肉厚が減少傾向にある場合に前記アダプタ用ヒータの出力を下げるように、前記アダプタ用ヒータの出力を制御する、
請求項1又は2に記載の射出成形機。
【請求項4】
前記制御部は、成形品の製造中において前記成形品の肉厚に関する値を入力し、該入力された値に基づいて、前記アダプタ用ヒータの出力を制御する、
請求項3に記載の射出成形機。
【請求項5】
前記アダプタ用ヒータは、第1ヒータと、前記第1ヒータよりも外側に配置された第2ヒータと、を含み、
前記制御部は、成形品の製造中において前記第2ヒータを稼働させ、前記成形品の寸法精度の低下状況に応じて前記第1ヒータの出力を制御する、
請求項1から4のいずれか1項に記載の射出成形機。
【請求項6】
射出成形機における温度制御方法であって、
加熱シリンダに射出ノズルを取り付けるためのノズルアダプタに配置されるアダプタ用ヒータの出力を、前記ノズルアダプタ内の樹脂流路を通過している溶融樹脂の温度が変動することを抑制するように制御する、
温度制御方法。
【請求項7】
前記成形品の肉厚が肥大傾向にある場合に前記アダプタ用ヒータの出力を上げ、前記成形品の肉厚が減少傾向にある場合に前記アダプタ用ヒータの出力を下げるように、前記アダプタ用ヒータの出力を制御する、
請求項6に記載の温度制御方法。
【請求項8】
前記射出成形機の稼働中、前記射出ノズルに配置されたノズル用ヒータおよび前記加熱シリンダに配置されたシリンダ用ヒータを稼働させ、前記成形品の寸法精度の低下状況に応じて前記アダプタ用ヒータの出力を制御する、
請求項6又は7に記載の温度制御方法。
【請求項9】
成形品の製造中において前記成形品の肉厚に関する値を入力し、該入力された値に基づいて、前記アダプタ用ヒータの出力を制御する、
請求項8に記載の温度制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形機およびその温度制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
所望形状の樹脂部材(樹脂成形品)を成形する射出成形機が知られている。一般的な射出成形機は、射出装置と型締装置とによって構成される。射出装置は、樹脂材料を溶融させ、溶融した樹脂材料(溶融樹脂)を型締装置に供給する。より特定的には、射出装置は、溶融樹脂を金型のキャビティー内に注入(射出)する。
【0003】
射出装置は、溶融樹脂を作る加熱シリンダと、溶融樹脂を射出する射出ノズルと、射出ノズルを加熱シリンダに取り付けるためのノズルアダプタと、を有する。加熱シリンダによって作られた溶融樹脂は、ノズルアダプタを通って射出ノズルに流入し、射出ノズルの先端から射出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ノズルアダプタを通過している間に溶融樹脂の温度が変動すると、射出される成形品の温度にばらつきが生じて成形品の寸法精度が下がる虞がある。
【0006】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態の射出成形機は、加熱シリンダに射出ノズルを取り付けるためのノズルアダプタと、加熱シリンダと射出ノズルとに連通する樹脂流路と、樹脂流路の周囲に設けられたアダプタ用ヒータを備える。このアダプタ用ヒータの出力は、制御部によって制御される。制御部は、かかる樹脂流路を通過している溶融樹脂の温度が変動することを抑制するように、アダプタ用ヒータの出力を制御する。
【発明の効果】
【0008】
一実施の形態によれば、射出される成形品の寸法精度の低下が防止又は抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】加熱シリンダと射出ノズルとの接続部分を示す部分断面図である。
【
図4】ノズルアダプタの組み立て手順を示す説明図である。
【
図5】射出装置の一変形例を示す部分断面図である。
【
図6】アダプタ用第1ヒータの他の構成例および温度制御の概要等を説明する図である。
【
図7】アダプタ用第1ヒータ以外の他のヒータの配置を示す図である。
【
図8】主としてアダプタ用第1ヒータの出力制御の処理を示すフローチャートである。
【
図9】本装置から射出された成形品の寸法測定の工程の例を説明する図である。
【
図10】射出された成形品の一例および寸法測定の例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、実施形態を説明するための全図において、同一又は実質的に同一の機能を有する部材や機器などには同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0011】
<射出成形機>
図1は、本実施形態に係る射出成形機を示す模式図である。図示されている射出成形機1は、型締装置2と射出装置3とから構成されている。型締装置2には金型11,12が取り付けられる。型締装置2は、取り付けられた金型11,12を開閉させる。射出装置3は、樹脂材料を加熱して溶融させる。射出装置3は、溶融させた樹脂材料(溶融樹脂)を型締装置2に取り付けられている金型11,12に注入する。より特定的には、射出装置3は、溶融樹脂を金型11,12のキャビティー内に射出する。
【0012】
<型締装置>
型締装置2は、共通のベッド13の上に設けられた固定盤14,型締ハウジング15及び可動盤16を備えている。固定盤14は、ベッド13に固定されている。一方、型締ハウジング15及び可動盤16は、ベッド13上をスライド可能である。
【0013】
固定盤14と型締ハウジング15とは、複数本のタイバー17によって連結されている。より特定的には、4本のタイバー17によって、固定盤14と型締ハウジング15とが連結されている。可動盤16は、固定盤14と型締ハウジング15との間で、これらの対向方向にスライド可能である。
【0014】
型締ハウジング15と可動盤16との間に、型締機構18が設けられている。より特定的には、型締ハウジング15と可動盤16との間に、リンク式の型締機構18が設けられている。別の見方をすると、型締ハウジング15と可動盤16との間に、トグル機構が設けられている。
【0015】
型締機構18は、可動盤16に取り付けられている金型11を固定盤14に取り付けられている金型12に対して進退させる。金型11が金型12に接すると、金型11,12が閉じられる。一方、金型11が金型12から離れると、金型11,12が開かれる。型締機構18は、金型11,12を閉じている間、金型11,12が開かないように、金型11を金型12に押し付けることができる。尚、型締機構18は、直圧式の型締機構(型締シリンダ)に置換することができる。
【0016】
<射出装置>
射出装置3は、ベッド13に隣接している基台20の上に設けられている。射出装置3は、加熱シリンダ30,射出ノズル40,シャットオフノズル90等から構成されている。射出装置3は、ノズルタッチ装置21により、型締装置2に近接する方向(前方)に駆動されるとともに、型締装置2から離反する方向(後方)にも駆動される。つまり、射出装置3は、型締装置2に対して前進及び後進(後退)する。射出装置3が所定位置まで前進すると、射出ノズル40の先端が金型12のスプルーブッシュに接触する。
【0017】
加熱シリンダ30の後端側にホッパ31が設けられている。ホッパ31は、加熱シリンダ30に樹脂材料を供給するための供給口である。樹脂材料は、ホッパ31に投入され、ホッパ31を通して加熱シリンダ30内に送り込まれる。
【0018】
加熱シリンダ30の内部には、スクリュ32が設けられている。スクリュ32は、カバー33に覆われている駆動機構により、加熱シリンダ30内で駆動される。別の見方をすると、スクリュ32は、加熱シリンダ30内で回転運動をする。また、スクリュ32は、加熱シリンダ30内で直線運動をする。尚、スクリュ32の直線運動の方向は、型締装置2に対する射出装置3の移動方向と同じである。つまり、スクリュ32は、加熱シリンダ30内で、型締装置2に近接する方向(前方)と、型締装置2から離反する方向(後方)とに直線的に駆動される。
【0019】
加熱シリンダ30は、供給された樹脂材料を加熱して溶融させる。加熱シリンダ30の周囲には、加熱シリンダ30を加熱するためのヒータが設けられている。例えば、1つ又は2つ以上のバンドヒータが加熱シリンダ30に巻かれている。加熱シリンダ30に供給された樹脂材料は、ヒータから発せられる熱と、スクリュ32の回転によって生じる剪断発熱とによって加熱され、溶融する。
【0020】
<樹脂成形品の製造方法>
次に、
図1に示されている射出成形機1を用いて樹脂成形品を製造する手順(プロセス)の一例について説明する。まず、型締装置2に取り付けられている金型11,12を開くとともに、射出装置3を後退させる。
【0021】
然る後、射出装置3のホッパ31に樹脂材料を投入する。例えば、ビーズ状やペレット状に加工された樹脂材料をホッパ31に投入する。もっとも、射出装置3を後退させる前にホッパ31に樹脂材料を予め投入しておいてもよい。
【0022】
ホッパ31に投入された樹脂材料は、加熱シリンダ30に供給される。加熱シリンダ30に供給された樹脂材料は、加熱されて溶融する。溶融した樹脂材料(溶融樹脂)は、スクリュ32の回転よって加熱シリンダ30の先端側に送られる。別の見方をすると、スクリュ32と射出ノズル40との間に溶融樹脂が充填される。
【0023】
その後、射出装置3を前進させ、射出ノズル40の先端を金型12(金型11,12は予め閉じられている)のスプルーブッシュに接触させる。次いで、スクリュ32を加熱シリンダ30内で前方に移動させる。このとき、スクリュ32は回転させない。すると、射出ノズル40の先端(射出口)から金型11,12のキャビティー内に溶融樹脂が注入(射出)される。
【0024】
スクリュ32は、キャビティー内に溶融樹脂を射出した後も溶融樹脂に圧力(保圧)を掛け続ける。キャビティー内の溶融樹脂に圧力が掛けられている状態を維持したまま金型11,12を冷却する。
【0025】
金型11,12を冷却している間に、スクリュ32を再び回転させて次の射出に備える。具体的には、スクリュ32を回転させ、溶融樹脂を加熱シリンダ30の先端側に送る。つまり、次に射出する溶融樹脂をスクリュ32と射出ノズル40との間に充填する。この結果、反力によってスクリュ32が後退する。溶融樹脂を前方に送りつつスクリュ32を後退させるこの工程は“計量”と呼ばれる。
【0026】
キャビティー内の溶融樹脂が凝固する温度以下の温度まで金型11,12が冷却された後、金型11,12を開いて樹脂成形品を取り出す。
【0027】
上記のプロセスを繰り返すことで、連続して同一形状の樹脂成形品が製造される。つまり、所望形状の樹脂成形品が量産される。
【0028】
<ノズルアダプタ>
次に、加熱シリンダ30と射出ノズル40との接続構造について説明する。
図2は、加熱シリンダ30と射出ノズル40との接続部分を示す部分断面図である。加熱シリンダ30と射出ノズル40との間にはノズルアダプタ50が介在している。射出ノズル40は、ノズルアダプタ50を介して加熱シリンダ30の先端に取り付けられている。
【0029】
ノズルアダプタ50の内部には、当該ノズルアダプタ50を軸方向に貫通し、加熱シリンダ30と射出ノズル40とに連通する樹脂流路P1が設けられている。射出ノズル40の内部には、当該射出ノズル40を軸方向に貫通する樹脂流路P2が設けられている。射出ノズル40内の樹脂流路P2の一端は、ノズルアダプタ50内の樹脂流路P1に連通し、
射出ノズル40内の樹脂流路P2の他端は、射出ノズル40の射出口41に連通している。この結果、加熱シリンダ30から射出ノズル40の射出口41に至る一連の樹脂流路Pが形成されている。以下の説明では、ノズルアダプタ50内の樹脂流路P1を“アダプタ流路P1”と呼び、射出ノズル40内の樹脂流路P2を“ノズル流路P2”と呼んで区別する場合がある。また、ノズルアダプタ50を“アダプタ50”と略称する場合がある。
【0030】
図3は、アダプタ50を示す断面図である。アダプタ50は、アダプタ本体51及び鍔部52を有し、アダプタ本体51は、接続端部53及び中間部54を含んでいる。接続端部53はアダプタ50の軸方向一端側(後端側)に設けられ、鍔部52はアダプタ50の軸方向他端側(先端側)に設けられている。また、中間部54は、接続端部53と鍔部52との間に設けられている。つまり、接続端部53,中間部54及び鍔部52は、軸方向に沿ってこの順で並んでいる。より特定的には、アダプタ50の後端側から先端側に向かって、接続端部53,中間部54及び鍔部52がこの順で並んでいる。別の見方をすると、樹脂流路Pの上流側から下流側に向かって、接続端部53,中間部54及び鍔部52がこの順で並んでいる。
【0031】
もっとも、アダプタ50は単一の部材ではなく、分割可能に一体化された2つの部材から構成されている。つまり、アダプタ50は分割式である。具体的には、アダプタ50は、アダプタ本体51を形成する金属部材51Aと、鍔部52を形成する金属部材52Bと、から構成されている。尚、アダプタ本体51を形成する金属部材51Aは、接続端部53及び中間部54を形成する金属部材でもある。
【0032】
アダプタ本体51を形成している一方の金属部材51Aは、全体として円柱形状を有する。また、鍔部52を形成している他方の金属部材52Bは、全体として円環形状を有する。これら2つの金属部材51A,52Bは、ねじ結合によって一体化している。
【0033】
<アダプタ本体>
アダプタ本体51は、軸方向に沿って外径が段階的に変化する段付き形状を有している。外径が最大であるアダプタ本体51の一部によって接続端部53が形成されている。接続端部53の外周面には、加熱シリンダ30の内周面に形成されている螺子と結合可能な螺子が形成されている。
【0034】
接続端部53の外周面に形成されている螺子が加熱シリンダ30の内周面に形成されている螺子に結合されることにより、アダプタ50が加熱シリンダ30に固定される。
【0035】
接続端部53を形成している部分よりも外径が小さいアダプタ本体51の一部によって中間部54が形成されている。
【0036】
中間部54を形成している部分よりもさらに外径が小さいアダプタ本体51の一部によって連結部56が形成されている。別の見方をすると、連結部56は、アダプタ本体51の先端面に設けられた凸部である。連結部56の外周面には、鍔部52の内周面に形成されている螺子と結合可能な螺子が形成されている。
【0037】
アダプタ流路P1は、アダプタ本体51を軸方向に貫通している。より特定的には、アダプタ流路P1は、接続端部53,中間部54及び連結部56を貫通している。中間部54には、アダプタ流路P1に向かって斜めに延びる挿入穴55が設けられている。
【0038】
<鍔部>
鍔部52の外径は、接続端部53の外径よりも大きい。また、鍔部52の内径は、中間部54の外径よりも小さく、連結部56の外径よりも大きい。鍔部52の内周面には、連結部56の外周面に形成されている螺子と結合可能な螺子が形成されている。鍔部52の内周面に形成されている螺子が連結部56の外周面に形成されている螺子に結合されることにより、鍔部52がアダプタ本体51に固定される。つまり、アダプタ本体51と鍔部52とが一体化され、アダプタ50が組み立てられる。
【0039】
鍔部52は、連結部56の高さ(突出長)よりも厚い。よって、アダプタ本体51と鍔部52とが上記のように一体化されても、連結部56が鍔部52から突出することはない。
【0040】
<溝部>
中間部54の周囲に、当該中間部54の周方向に沿う溝60が設けられている。溝60は、中間部54の全周に亘って設けられている。別の見方をすると、アダプタ50の外周面上に、全周に亘って凹部が設けられている。
【0041】
溝60は、接続端部53,鍔部52及び中間部54によって形成されている。具体的には、鍔部52と対向する接続端部53の端面53aによって溝60の一方の内側面61が形成されている。接続端部53と対向する鍔部52の端面52bによって溝60の他方の内側面62が形成されている。また、中間部54の外周面54cによって溝60の底面63が形成されている。
【0042】
別の見方をすると、対向する接続端部53の前面53aと鍔部52の背面52bとにより、溝60の内側面61,62が形成されている。但し、アダプタ本体51と鍔部52とが一体化されると、鍔部52の背面52bの一部は、中間部54の前面54aと対向し、前面54aに密着する。つまり、溝60の内側面62は、中間部54の前面54aから径方向外側に張り出している鍔部52の背面52bの一部(環状領域)によって形成されている。
【0043】
既述のとおり、アダプタ本体51の中間部54には、アダプタ流路P1に向かって延びる挿入穴55が設けられている。この挿入穴55は、中間部54の外周面54cからアダプタ流路P1に向かって斜めに延びている。つまり、挿入穴55は、中間部54の外周面54c(溝60の底面63)に穿孔されている。尚、挿入穴55のアダプタ流路P1に対する傾斜角度は適宜変更することができる。もっとも、挿入穴55は傾斜していなくてもよい。
【0044】
<ヒータ,断熱材>
アダプタ50は、樹脂流路P1の周囲に設けられたヒータ70を有する。より特定的には、中間部54の周囲に設けられている溝60にヒータ70が収容されている。さらに、ヒータ70の周囲には、当該ヒータ70を覆う断熱材71が配置されている。ヒータ70及び断熱材71の厚みの合計は、溝60の深さと同一又は略同一である。この結果、断熱材71の外周面は、接続端部53の外周面と面一又は略面一となっている。
【0045】
図4は、アダプタ50の組み立て手順を示す説明図である。ヒータ70は、アダプタ本体51の中間部54を挿入可能な内径を有する筒形状のマイクロヒータである。断熱材71は、ヒータ70を挿入可能な内径を有する筒形状の断熱板である。断熱材71には、例えば、積層されたガラス繊維のシートが結合剤や樹脂によってモールドされた硬質断熱板を用いることができる。
【0046】
アダプタ50を組み立てる際には、アダプタ本体51の中間部54をヒータ70の内側に挿入する。別の見方をすると、ヒータ70をアダプタ本体51の中間部54に被せる。その後、ヒータ70に断熱材71を被せる。次いで、鍔部52をアダプタ本体51に固定する。すると、中間部54の周囲に
図3に示される溝60が形成されるとともに、その溝60にヒータ70及び断熱材71が収容される。さらに、中間部54の外周面54c(溝60の底面63)がヒータ70によって覆われ、ヒータ70が断熱材71によって覆われる。
【0047】
ヒータ70が作動すると、アダプタ50が加熱され、アダプタ流路P1を通過する溶融樹脂が加熱される。よって、アダプタ50を通過する溶融樹脂の温度低下が防止又は抑制される。
【0048】
尚、ヒータ70はマイクロヒータに限られない。例えば、ヒータ70は、アダプタ50の外周面に巻かれたバンドヒータやニクロム線などに置換することができる。また、ヒータ70は、アダプタ50の内部に設けることもできる。例えば、ヒータ70は、アダプタ50に埋設された鋳込ヒータに置換することができる。断熱材71は硬質断熱板に限られない。断熱材71は省略することもできる。
【0049】
<温度センサ>
再び
図2を参照する。中間部54に設けられている挿入穴55には、熱電対を用いた温度センサ72が挿入されている。より特定的には、温度検出部を含む温度センサ72の一端側が挿入穴55に挿入され、温度センサ72の他端側がアダプタ50の外に引き出されている。
【0050】
挿入穴55は、アダプタ流路P1の近傍に至っている。よって、温度センサ72によってアダプタ流路P1近傍の温度を検出することができる。アダプタ流路P1近傍の温度は、アダプタ流路P1を流れる溶融樹脂の温度を反映する。
【0051】
温度センサ72から出力された電圧(信号)は、不図示のヒータ制御部に入力される。ヒータ制御部は、入力された信号に基づいてヒータ70を制御する。より特定的には、アダプタ流路P1近傍の温度が所定の温度範囲内に維持されるように、ヒータ70の発熱量を制御する。つまり、温度センサ72の測温結果に基づいてヒータ70をフィードバック制御する。
【0052】
なお、
図4に示される手順でアダプタ50を組み立てる際には、ヒータ70を中間部54に被せる前に、挿入穴55に温度センサ72を挿入しておく。
【0053】
<押え部材>
射出ノズル40とアダプタ50とは、2つの押え部材81,82によって互いに固定されている。押え部材81,82は、略環状の金属部材であって、アダプタ50の鍔部52を挟んで対向している。
【0054】
押え部材81は、アダプタ本体51の中間部54の周囲に配置され、溝60を覆っている。別の見方をすると、溝60と押え部材81とにより、ヒータ70及び断熱材71の収容空間が形成されている。一方、押え部材82は、射出ノズル40の基端部の周囲に配置され、当該基端部を取り囲んでいる。
【0055】
押え部材81には、周方向に沿って複数のボルト孔81aが等間隔で設けられている。押え部材82には、周方向に沿って複数の貫通孔82aが等間隔で設けられている。押え部材81は、位置決めピン83によって位置決めされ、押え部材82は、位置決めピン84によって位置決めされている。押え部材81,82が位置決めピン83,84によって位置決めされると、対応するボルト孔81aと貫通孔82aとが連通する。
【0056】
押え部材81,82は、貫通孔82aを貫通してボルト孔81aにねじ結合しているボルト85によって互いに固定されている。よって、ボルト85が締め込まれると、押え部材81,82に、これらを互い近接させようとする力が働く。すると、押え部材81がアダプタ50の鍔部52に押し付けられる。同時に、押え部材82が射出ノズル40の鍔部42に押し付けられ、射出ノズル40の後端面がアダプタ本体51の先端面に押し付けられる。
【0057】
この結果、射出ノズル40とアダプタ50とが互いに固定される。別の見方をすると、加熱シリンダ30に固定されているアダプタ50に、射出ノズル40が固定される。つまり、加熱シリンダ30に射出ノズル40が取り付けられる。
【0058】
尚、射出ノズル40の後端部(鍔部42よりも後方に突出している部分)は、鍔部52の内側に進入する。よって、射出ノズル40の後端面は、鍔部52の内側でアダプタ本体51の先端面に押し付けられる。別の見方をすると、アダプタ流路P1とノズル流路P2とは、鍔部52の内側で接続されている。
【0059】
<シャットオフノズル>
図2に示されているシャットオフノズル90は、ノズル流路P2を開閉する。シャットオフノズル90は、不図示の駆動機構(シリンダユニット)によって往復駆動されるニードル弁91を含んでいる。ニードル弁91の先端は、射出ノズル40に設けられているニードル孔43に挿入されている。
【0060】
ニードル弁91は、その先端がノズル流路P2に進入する第1の位置と、その先端がノズル流路P2から退避する第2の位置と、の間で往復駆動される。ニードル弁91が第2の位置から第1の位置に移動すると、ニードル弁91の先端によってノズル流路P2が閉鎖される。一方、ニードル弁91が第1の位置から第2の位置に移動すると、ニードル弁91の先端によって閉鎖されていたノズル流路P2が開放される。
【0061】
シャットオフノズル90を設けることにより、射出ノズル40からの溶融樹脂の射出を迅速かつ確実に停止させることができる。かかる利点は、射出装置3で扱う溶融樹脂の流動性が高い場合や、溶融樹脂が発泡性を有する場合などに特に有効である。一方、シャットオフノズル90を設けるためには、加熱シリンダ30と射出ノズル40との間にニードル弁91を配置するためのスペースを確保する必要がある。より特定的には、射出ノズル40を加熱シリンダ30から遠ざける必要がある。
【0062】
本実施形態では、アダプタ50の全長を、加熱シリンダ30と射出ノズル40との間にニードル弁91を配置するために必要十分なスペースが確保される長さとしてある。しかし、アダプタ50が長くなると、アダプタ50の表面積が大きくなり、放熱量が増加する。すると、アダプタ50を通過している間に溶融樹脂の温度が低下し、ボイドの発生が起こりやすくなる。
【0063】
以下、このボイドの発生に関する技術的な問題点および本発明者らの知見等を、より具体的に説明する。
【0064】
本実施形態の射出成形機1のように、オープンノズルとシャットオフノズルとを兼用するアダプタ50を設ける構成とする場合、射出される成形品の温度にばらつきが生じ、成形品の寸法精度が下がりやすい(ひいては成形不良品の発生につながる)問題があった。また、成形品の寸法精度が下がると、特に肉厚部分にボイドが発生し、肉厚部分の寸法が太り気味(肥大化ないし肥大傾向)になる問題があった。
【0065】
本発明者らは、上記の問題に対して鋭意研究を行った結果、以下のような現象が発生していることを見出した。すなわち、上記のような構成の射出成形装置では、溶融された樹脂等の原料(以下、「溶融樹脂」という)を射出シリンダのノズルに送り出すまでの流路中、アダプタ50を通過する領域の流路内で、アダプタ50に熱を奪われることにより、溶融樹脂の熱低下が発生する。この溶融樹脂の熱低下に伴って圧力の損失が発生することにより、溶融樹脂にガスが発生し、射出成形された成形品の肉厚部にボイドが発生する等の不具合が起きやすくなることが分かった。
【0066】
そこで、本実施形態では、上述のように、アダプタ50にヒータ(アダプタ用第1ヒータ)70を設け、溶融樹脂の温度低下を防止又は抑制可能としてある。
図2~
図5に示す例では、上述したように、アダプタ50の凹部(溝60)が形成されている中間部54の外周面54cに、略筒状の外形を有するマイクロヒータを、アダプタ用第1ヒータ70として配置している。
【0067】
図6は、アダプタ用第1ヒータの他の構成例および温度制御の概要等を説明する図である。アダプタ用第1ヒータ70の他の例として、
図6に示すように、略帯状(バンド形)の外形を有するバンドヒータを
図5等と同じ箇所に螺旋状に巻き付けるように配置してもよい。
【0068】
図7は、アダプタ用第1ヒータ以外の他のヒータの配置を示す図である。本実施形態では、溶融樹脂の流路に対するより細やかな温度制御を実現するため、射出ノズル40にノズル用ヒータ45を設けてノズル流路P2を加熱できるようにし、加熱シリンダ30にはシリンダ用ヒータ35を設けて加熱シリンダ30内の樹脂流路を加熱できる構成とした。
【0069】
一具体例では、ノズル用ヒータ45は、射出ノズル40の外面に被せられる略筒状のマイクロヒータを用いることができる。あるいは、ノズル用ヒータ45は、射出ノズル40の外面に螺旋状に巻き付けられるバンドヒータを用いてもよい。
【0070】
同様に、シリンダ用ヒータ35は、加熱シリンダ30の外面に被せられる略筒状のマイクロヒータを用いることができる。あるいは、シリンダ用ヒータ35は、加熱シリンダ30の外面に螺旋状に巻き付けられるバンドヒータを用いてもよい。
【0071】
また、本実施形態では、アダプタ50のフランジ部分(すなわちアダプタ用第1ヒータ70の外側)にもヒータ(アダプタ用第2ヒータ)86を設ける構成とした。
図5および
図7に示されるように、一具体例では、押え部材81,82の周囲に当該押え部材81,82を覆うアダプタ用第2ヒータ86が設けられる。図示されているアダプタ用第2ヒータ86は、押え部材81,82の外周面に巻かれたバンドヒータであって、必要に応じて作動状態と非作動状態とに切り替えられる。アダプタ用第2ヒータ86を設けることにより、溶融樹脂の温度低下がより一層防止又は抑制される。なお、アダプタ用第2ヒータ86はバンドヒータに限られない。例えば、アダプタ用第2ヒータ86は、アダプタ用第1ヒータ70と同様のマイクロヒータやその他のヒータに置換することもできる。
【0072】
さらに、本実施形態では、
図6に示すように、温度センサ72の測温結果に基づいてアダプタ用第1ヒータ70を制御する制御部100を備えた構成とする。制御部100は、本装置の内部または外部に設けられたCPU、MPUなどの各種のハードウェア・プロセッサ、種々のプログラムやデータが読み書きされるRAMやフラッシュROMなどの種々のメモリ、などにより構成される。
【0073】
また、制御部100は、図示しない入出力インタフェース等を介して、射出成形機1から射出成形された成形品の寸法測定結果の値を入力(取得)し(
図6を参照)、かかる入力値に基づいて、アダプタ用第1ヒータ70の出力を制御する。かかる制御内容の詳細については、
図8のフローチャートの説明で後述する。
【0074】
上記のような構成を有する本実施形態の射出成形機1によれば、アダプタ50を通過する溶融樹脂の温度を積極的に調節して、射出される成形品の寸法精度の低下を防止ないし抑制することができる。
【0075】
すなわち、この射出成形機1では、アダプタ用第1ヒータ70の出力が制御部100により制御されてアダプタ50の温度が調整されることにより、アダプタ50(樹脂流路P1)を通過する領域の流路内での溶融樹脂の熱の変動ひいては温度のばらつきを抑制することができる。したがって、本実施形態の射出成形機1によれば、射出される成形品の寸法精度の低下を防止又は抑制することができる。
【0076】
なお、上述した各々のヒータ35,45,70,86は、
図6で説明した制御部100または図示しない外部のプロセッサの制御により、環境、目的、使用する樹脂等の材質、等に応じた種々の態様で制御することができる。一方、簡明等のため、以下に説明する一具体例では、アダプタ用第1ヒータ70以外のヒータ35,45,86は、射出成形機1の稼働中において常に稼働状態(出力オン)とする場合を前提とする。
【0077】
図8は、主としてアダプタ用第1ヒータの出力制御の処理を示すフローチャートである。以下、
図8のフローチャートおよび
図9,
図10を参照して、アダプタ用第1ヒータ70ひいては樹脂流路の温度制御の一具体例について説明する。
【0078】
射出成形機1(以下、単に「本装置」と称する場合がある)の稼働開始後のステップS1において、制御部100は、上述したアダプタ用第1ヒータ70以外のヒータ(すなわち、シリンダ用ヒータ35、アダプタ用第2ヒータ86、ノズル用ヒータ45)を稼働させる(出力をONにする)。
【0079】
この例では、ステップS1以降は、本装置の稼働が終了するまでは、上記の各ヒータ35,45,86の稼働が続行される。これら各ヒータの稼働により、加熱シリンダ30から射出ノズル40に至るまでの流路内の温度が次第に上昇し、実用的な温度まで上昇したところで成形品の射出動作が開始されることになる。
【0080】
なお、制御部100は、温度調整等の必要に応じて、ステップS1の段階でアダプタ用第1ヒータ70の出力をONにしてもよい。
【0081】
成形品の射出動作を開始した後のステップS2において、制御部100は、成形品の寸法(肉厚)およびその誤差の値を取得する(適宜、
図6を参照)。この寸法(肉厚)およびその誤差の値を取得する処理は、本装置の稼働が終了するまで続行されることが望ましい。
【0082】
図9は、本装置から射出された成形品の寸法測定の工程の例を説明する図である。
図9では、成形品の移動の態様を分かりやすく示すために、種々の外部装置を示すとともに、本装置については概略的に表している。また、
図10は、射出された成形品の一例および寸法測定の例を説明する図である。
【0083】
図9に示す一具体例では、本装置から射出された成形品Mは、例えば時計方向に回転する回転テーブルT上に載せられて所定位置まで移動し、ロボットRのピックアップアームによってコンベアCへと移動させられる(
図9中の点線矢印を参照)。コンベアCは、例えばベルトコンベアであり、載置された成形品Mを、
図9中の左側から右側へと順次運搬する(
図9中の白抜き矢印を参照)。また、コンベアCの上方には、載置された成形品Mを撮像するカメラおよび演算プロセッサ等による画像検査装置Iが配置されている。画像検査装置Iは、カメラで撮像した成形品Mの外形形状に基づいて、演算プロセッサが成形品Mの寸法測定を行い、規定値に対する誤差測定を行うようになっている。
【0084】
画像検査装置Iの演算プロセッサは、例えば
図10に示すように、撮像した成形品Mの外形形状から、肉厚測定部分となる、成形品Mにおける主要部の幅寸法(
図10中、矢印xで示す)および高さ寸法(
図10中、矢印zで示す)を測定し、予め定められた規定値(発注者が要求する値)との誤差(寸法公差)を算出し、算出した値を寸法計測結果として制御部100に出力する(適宜、
図6を参照)。
【0085】
なお、上述した回転テーブルT、ロボットR、コンベアC、画像検査装置I等については、公知の構成であるため、さらなる詳細な説明を割愛する。また、コンベアCにおける搬送経路の途中に、成形品Mに対し、製品番号や製品名などに関する焼き印またはバーコード等を付与するための中間装置を配置することもでき、かかる中間装置についても、公知の構成であるため、詳細な説明を省略する。
【0086】
ここで、成形品Mの寸法(肉厚)を
図9で説明した画像検査装置I等により自動計測する場合、制御部100は、かかる計測値を、有線または無線の入出力インタフェース等を通じて画像検査装置Iから受信(取得)する。
【0087】
他の例として、成形品Mの寸法(肉厚)を手作業で測定する場合、公知の寸法測定器やノギス等を使用して肉厚測定が行われる。この場合、制御部100は、かかる測定値を、例えばオペレータによるキーボード等の入力操作を通じて取得すればよい。また、制御部100は、現在射出動作の対象となっている成形品M(以下、「現製造品」と称する場合がある)の肉厚の製品仕様値(いわば理想値)と、取得された計測値(測定値)との差分を算出することにより、誤差(理想値との乖離)を取得する。なお、かかる差分算出の処理は、本装置に接続ないし通信可能な他の外部装置が行っても構わない。
【0088】
かくして、誤差(理想値との乖離)を取得した後のステップS3において、制御部100は、かかる誤差が第1の範囲よりも大きくなったか否かを判定する。
【0089】
ここで、「第1の範囲」は、現製造品の発注者が要求する精度または誤差許容値、この例では肉厚の許容上限値および許容下限値のうち、「肉厚の許容上限値」に対応する範囲であり、より厳密には、肉厚の許容上限値よりも幾分下の値に設定される。このような設定とすることにより、肉厚が過大な不良品の製造を事前に防止しつつ、歩留まりの低下を最小限に抑えることに寄与できる。
【0090】
制御部100は、取得された誤差が第1の範囲よりも大きくなっていないと判定した場合(ステップS3:No)、現製造品の肉厚は、発注者が要求する精度(誤差許容値)を満足しているものと判断し、ステップS3の判定を繰り返し行う。
【0091】
一方、制御部100は、取得された誤差が第1の範囲よりも大きくなったと判定した場合(ステップS3:Yes)、現製造品の肉厚が大き目である(肥大傾向にある)と判断し、ステップS4に移行する。
【0092】
このように、現製造品の肉厚の肥大傾向が生じている場合、アダプタ50を通過する領域の流路(アダプタ流路P1)内で、溶融樹脂の熱低下が発生している、言い換えると、溶融樹脂の熱がアダプタ50に奪われているものと考えられる。したがって、この状態を放置すると、溶融樹脂の熱低下に伴って圧力の損失が発生することにより、溶融樹脂にガスが発生し、射出成形された成形品Mの肉厚部(
図10の矢印xおよびzで測定される部分を参照)にボイドが発生する等の不具合が起きやすくなる。このため、制御部100は、上述のような状態を解消させるべく、ステップS4の処理を実行する。
【0093】
ステップS4において、制御部100は、アダプタ50のアダプタ用第1ヒータ70(以下は簡明のため、専ら「アダプタヒータ70」という)を稼働させる(ONにする)。以後は、アダプタヒータ70から出力される熱がアダプタ50に加えられる(伝熱する)ことにより、アダプタ50の内部の流路(アダプタ流路P1)ひいてはこの流路を通過する溶融樹脂等に多くの熱が供給されるので、溶融樹脂の熱がアダプタ50に奪われている状態を解消することができる。また、この状態では、アダプタ50を通過する領域の流路(アダプタ流路P1)内での溶融樹脂の熱(温度)の変動ひいては温度のばらつきを抑制することができる。
【0094】
一方で、アダプタヒータ70から出力(伝熱)される熱が多すぎると、溶融樹脂の熱がアダプタ50に奪われる状態とは逆の状態、すなわち、アダプタ50から加えられる熱により溶融樹脂が過度に熱せられる状態となり、この場合、肉厚が理想値よりも小さくなる現象が発生する。このような事態となることを防止ないし抑制すべく、制御部100は、ステップS4の処理の後、ステップS5以下の処理を実行する。
【0095】
ステップS5において、制御部100は、上述した誤差(理想値との乖離)が第1の範囲内に収まったか否かを判定する。
【0096】
ここで、制御部100は、取得された誤差が第1の範囲内に収まっていないと判定した場合(ステップS5:No)、現製造品の肉厚が理想値よりも未だ大きいと判断し、ステップS5の判定を繰り返し行う。
【0097】
一方、制御部100は、取得された誤差が第1の範囲内に収まったと判定した場合(ステップS5:Yes)、現製造品の肉厚は、発注者が要求する精度(誤差許容値)を満足しているものと判断し、ステップS6に移行する。
【0098】
ステップS6において、制御部100は、アダプタ50内の流路(アダプタ流路P1)の温度を保持する(一定範囲に保つ)ように、アダプタヒータ70の出力ないし温度を制御する。上述のように、本実施形態では、アダプタ50内の流路の温度を検知または推定するために、アダプタ50(例えば流路に沿った内壁など)に温度センサ72を配置し、かかる温度センサ72による検知結果(測定された温度の値)を制御部100に出力する構成としている。
【0099】
続くステップS7において、制御部100は、上述した誤差(理想値との乖離)が第2の範囲よりも下回ったか否かを判定する。
【0100】
ここで、「第2の範囲」は、現製造品の発注者が要求する精度または誤差許容値、この例では肉厚の許容上限値および許容下限値のうち、「肉厚の許容下限値」に対応する範囲であり、より厳密には、肉厚の許容下限値よりも幾分上の値に設定される。このような設定とすることにより、肉厚が過少な不良品の製造を事前に防止しつつ、歩留まりの低下を最小限に抑えることに寄与できる。
【0101】
制御部100は、取得された誤差が第2の範囲よりも下回っていない(言い換えると第2の範囲内である)と判定した場合(ステップS7:No)、現製造品の肉厚は、発注者が要求する精度(誤差許容値)を満足しているものと判断し、ステップS7の判定を繰り返し行う。
【0102】
一方、制御部100は、取得された誤差が第2の範囲よりも下回っていると判定した場合(ステップS7:Yes)、現製造品の肉厚が小さ目である(肉厚減少傾向にある)と判断し、ステップS8に移行する。
【0103】
ステップS8において、制御部100は、アダプタヒータ70の出力ないし温度を下げる処理を行う。ここでは、制御部100は、必要に応じてアダプタヒータ70の出力をゼロ(OFF)にしてもよい。このように、アダプタヒータ70の出力(温度)を下げることにより、アダプタ50の温度が下がり、アダプタ50と、アダプタ50内の流路(アダプタ流路P1)を通過する溶融樹脂と、の温度関係が適正化されるようになる。
【0104】
続くステップS9において、制御部100は、本装置の稼働を終了させる旨の信号を検知したか否かを判定する。ここで、「本装置の稼働を終了させる旨の信号」には、主電源のスイッチがOFFになった旨、ユーザの操作入力に基づく終了指示、装置の異常が自動検出された場合の異常信号などが含まれる。
【0105】
ここで、制御部100は、本装置の稼働を終了させる旨の信号を検知していないと判定した場合(ステップS9:No)、ステップS3に移行し、上述したステップS3~ステップS9の処理を繰り返し実行する。
【0106】
すなわち、アダプタヒータ70の出力(温度)を下げることにより、アダプタ50の温度が下がり続けると、今度は、アダプタ50内の流路を通過する溶融樹脂の熱がアダプタ50に奪われる状態(上述した肉厚の肥大傾向)に戻る。このため、制御部100は、ステップS8の処理後に再びステップS3の判定(言い換えると「肉厚の肥大傾向」が生じているか否かの監視)を行い、本装置の稼働が終了するまでステップS3~ステップS9の処理を繰り返す。
【0107】
このように、本開示の射出成形機1は、アダプタ50内の樹脂流路(アダプタ流路P1)を通過している溶融樹脂の温度が変動することを抑制するようにアダプタヒータ70(アダプタ用ヒータ)の出力を制御する構成を備える。かかる射出成形機1によれば、製造される成形品の寸法精度を高い水準に確保し、本装置の実質的な稼働率ひいては生産性を格段に向上させることができる。
【0108】
なお、
図8で上述した例では、本装置の稼働中(ステップS1以降)に、アダプタヒータ70(アダプタ用ヒータ)以外のヒータ(35,45,86)を、常に(すなわち継続的に)固定出力値でONとする場合を前提とした。
【0109】
他の例として、温度調整等の必要に応じて、本装置の稼働中(ステップS1以降)に、シリンダ用ヒータ35,ノズル用ヒータ45,アダプタ用第2ヒータ86の出力を、適宜OFFにする期間を設けてもよい。
【0110】
例えば、制御部100は、アダプタ50内の樹脂流路P1の温度と他の流路(ノズル流路P2や加熱シリンダ30内の流路)の温度とのバランスを図るように、アダプタ用第1ヒータ70以外の上記ヒータ(35,45,86)の出力を断続的にON/OFFに切り替えるなどの制御を行ってもよい。このような制御を行うことで、アダプタ50内の樹脂流路P1を通過している溶融樹脂の温度変動の抑制効果を一層高めることが実現ないし期待できる。
【0111】
本実施形態の射出成形機1によって成形される樹脂成形品の材料は、特に限定されない。樹脂成形品の材料の一例としては、熱可塑性樹脂が挙げられる。より特定的には、ポリプロピレン(PP),ポリフェニレンサルファイド(PPS),アクリル樹脂,ポリエステル樹脂,ウレタン樹脂などが樹脂成形品の材料の一例として挙げられる。
【0112】
一方、剪断発熱によって溶融させた熱可塑性樹脂の温度が低下すると、ガス揮発成分が発生しやすい。つまり、剪断発熱によって溶融させた熱可塑性樹脂からなる樹脂成形品にはボイドが発生しやすい。特に、粘度が低いポリプロピレンやポリフェニレンサルファイドからなる樹脂成形品にはボイドが発生しやすい。
【0113】
また、アクリル樹脂,ポリエステル樹脂,ウレタン樹脂などの透明な樹脂や、透明度の高い樹脂からなる樹脂成形品に発生したボイドは、発見が容易であり、樹脂成形品の品質を低下させる原因となりやすい。
【0114】
これまでは、樹脂成形品にボイドが発生した場合、金型における急激な肉厚変動を無くすなどの対応策がとられていた。しかし、コストをかけて金型を修正してもボイドの発生を十分に防止することはできなかった。
【0115】
これに対し、射出ノズル40の手前に配置されているアダプタ50の温度を調節可能な本実施形態の射出成形機1では、射出ノズル40内において、ボイドの原因となるガス揮発成分の発生を抑制することができる。したがって、金型修正に要するコストを省きつつ、ボイドの発生を十分に防止又は抑制できる。
【0116】
なお、溶融樹脂の温度維持や温度調節は、シャットオフノズルを備えていない射出装置に対しても求められる。シャットオフノズルを備えていない他の射出装置の加熱シリンダに、本実施形態のアダプタ50を用いて射出ノズルを取り付ければ、当該射出装置でも溶融樹脂の温度維持や温度調節が可能となる。
【0117】
以上、本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0118】
ヒータ70をフィードバック制御することは必須ではない。例えば、温度センサ72の測温結果に基づいてヒータ70を作動状態と非作動状態とに択一的に切り替えてもよい。また、アダプタ用第1ヒータ70のみならず、アダプタ用第2ヒータ86の出力(温度)も制御部100で制御する構成としてもよい。
【0119】
アダプタ50は、単一の部材であってもよい。つまり、アダプタ本体51及び鍔部52を含む1つの金属部材によってアダプタ50を形成してもよい。もっとも、分割式のアダプタ50には、ヒータ70や断熱材71の組付けが容易になるという利点がある。また、アダプタ50は、鍔部52を有するものに限られない。
【0120】
温度センサ72は1つに限られない。例えば、中間部54に複数の挿入穴55を設け、それぞれの挿入穴55に温度センサ72を挿入してもよい。複数の温度センサ72を配置する場合、それら温度センサ72は、アダプタ流路P1の長手方向に沿って配置してもよく、アダプタ流路P1の周方向に沿って配置してもよい。尚、温度センサ72は、熱電対を用いた温度センサに限られない。
【符号の説明】
【0121】
1 射出成形機
2 型締装置
3 射出装置
11,12 金型
13 ベッド
14 固定盤
15 型締ハウジング
16 可動盤
17 タイバー
18 型締機構
20 基台
21 ノズルタッチ装置
30 加熱シリンダ
31 ホッパ
32 スクリュ
33 カバー
35 ヒータ(シリンダ用ヒータ)
40 射出ノズル
41 射出口
42 鍔部
43 ニードル孔
45 ヒータ(ノズル用ヒータ)
50 ノズルアダプタ(アダプタ)
51A,51B 金属部材
52 鍔部
52b 端面
53 接続端部
53a 端面
54 中間部
54c 外周面
55 挿入穴
56 連結部
60 溝
61,62 内側面
63 底面
70 ヒータ(アダプタ用第1ヒータ)
86 ヒータ(アダプタ用第2ヒータ)
71 断熱材
72 温度センサ
81,82 押え部材
81a ボルト孔
82a 貫通孔
83,84 位置決めピン
85 ボルト
90 シャットオフノズル
91 ニードル弁
C コンベヤ
M 成形品
I 画像検査装置
R ロボット
P 樹脂流路
P1 樹脂流路(アダプタ流路)
P2 樹脂流路(ノズル流路)
T 回転テーブル