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特開2023-30559蓄電池の放電及び充電に関連する処理方法、処理装置、及び、処理プログラム
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  • 特開-蓄電池の放電及び充電に関連する処理方法、処理装置、及び、処理プログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023030559
(43)【公開日】2023-03-08
(54)【発明の名称】蓄電池の放電及び充電に関連する処理方法、処理装置、及び、処理プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/367 20190101AFI20230301BHJP
   H01M 10/42 20060101ALI20230301BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20230301BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
G01R31/367
H01M10/42 P
H01M10/48 301
H01M10/48 P
H02J7/00 Y
H02J7/00 X
H02J7/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021135758
(22)【出願日】2021-08-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】井出 誠
(72)【発明者】
【氏名】水谷 麻美
(72)【発明者】
【氏名】門田 行生
(72)【発明者】
【氏名】峯野 勝也
(72)【発明者】
【氏名】川出 大佑
【テーマコード(参考)】
2G216
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
2G216BA01
2G216BA21
2G216BA71
2G216CB11
2G216CB51
5G503BB02
5G503CA08
5G503CB06
5G503DB03
5G503EA05
5G503EA08
5G503GD02
5G503GD06
5H030AA01
5H030AS08
5H030FF22
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
(57)【要約】
【課題】放電又は充電における内部抵抗等の経時的な変化を考慮して、蓄電池の放電又は充電の対象時からの実施可能時間を適切に算出する処理方法を抵抗すること。
【解決手段】実施形態では、蓄電池の放電及び充電に関連する処理方法が提供される。処理方法では、蓄電池の劣化の度合いを示す劣化情報、放電又は充電の開始時以後のある対象時での蓄電池の状態を示す状態情報、及び、放電又は充電を終止する終止条件を含む放電又は充電における蓄電池の運用条件を蓄電池のモデルに適用することにより、放電又は充電において蓄電池の状態が終止条件に到達するまでの対象時からの到達時間を、放電又は充電の実施可能時間として算出する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電池の放電及び充電に関連する処理方法であって、
前記蓄電池の劣化の度合いを示す劣化情報、前記放電又は前記充電の開始時以後のある対象時での前記蓄電池の状態を示す状態情報、及び、前記放電又は前記充電を終止する終止条件を含む前記放電又は前記充電における前記蓄電池の運用条件を前記蓄電池のモデルに適用することにより、前記放電又は前記充電において前記蓄電池の状態が前記終止条件に到達するまでの前記対象時からの到達時間を、前記放電又は前記充電の実施可能時間として算出することを具備する、
処理方法。
【請求項2】
前記実施可能時間の算出において、前記蓄電池の電池容量、及び/又は、前記蓄電池のSOC及び温度の少なくとも一方に対する前記蓄電池の内部抵抗の関係を、前記劣化情報として前記蓄電池の前記モデルに適用する、請求項1の処理方法。
【請求項3】
前記実施可能時間の算出において、
前記放電又は前記充電における前記蓄電池の電流又は電力についての条件として設定した設定値を、前記運用条件として前記蓄電池の前記モデルに適用し、
前記状態情報に含まれる前記対象時での前記蓄電池のSOC及び温度として、設定された設定値、又は、前記蓄電池について計測された計測値を、前記蓄電池の前記モデルに適用する、
請求項1又は2の処理方法。
【請求項4】
前記実施可能時間の算出において、
前記蓄電池の状態を示すパラメータの前記対象時以後の経時的な変化として、前記蓄電池のSOC、電圧及び温度のいずれかの前記対象時以後の経時的な変化を算出し、
前記蓄電池の状態を示す前記パラメータの経時的な変化の算出結果に基づいて、前記蓄電池の状態が前記終止条件に到達する時点を算出する、
請求項1乃至3のいずれか1項の処理方法。
【請求項5】
前記蓄電池を放電又は充電している状態において、現時点を前記対象時として、前記実施可能時間の算出を定期的に繰返し行うことと、
前記実施可能時間を算出する度に、算出された算出値に前記実施可能時間を更新することと、
をさらに具備する、請求項1乃至4のいずれか1項の処理方法。
【請求項6】
算出した前記実施可能時間を告知させることをさらに具備する、請求項1乃至5のいずれか1項の処理方法。
【請求項7】
蓄電池の放電及び充電に関連する処理装置であって、
前記蓄電池の劣化の度合いを示す劣化情報、前記放電又は前記充電の開始時以後のある対象時での前記蓄電池の状態を示す状態情報、及び、前記放電又は前記充電を終止する終止条件を含む前記放電又は前記充電における前記蓄電池の運用条件を前記蓄電池のモデルに適用することにより、前記放電又は前記充電において前記蓄電池の状態が前記終止条件に到達するまでの前記対象時からの到達時間を、前記放電又は前記充電の実施可能時間として算出するプロセッサを具備する、
処理装置。
【請求項8】
蓄電池の放電及び充電に関連する処理プログラムであって、コンピュータに、
前記蓄電池の劣化の度合いを示す劣化情報、前記放電又は前記充電の開始時以後のある対象時での前記蓄電池の状態を示す状態情報、及び、前記放電又は前記充電を終止する終止条件を含む前記放電又は前記充電における前記蓄電池の運用条件を前記蓄電池のモデルに適用することにより、前記放電又は前記充電において前記蓄電池の状態が前記終止条件に到達するまでの前記対象時からの到達時間を、前記放電又は前記充電の実施可能時間として算出させる、
処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、蓄電池の放電及び充電に関連する処理方法、処理装置、及び、処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二次電池等の蓄電池が広く用いられている。また、蓄電池の放電及び充電に関連する処理として、放電又は充電においてある対象時から終止条件に到達するまでの到達時間に相当する放電又は充電の実施可能時間を算出する技術が、開発されている。例えば、蓄電池の放電においては、対象時における蓄電池の残存電荷量を蓄電池の放電電流で除算する等して、放電の実施可能時間を算出する。
【0003】
ここで、蓄電池を放電又は充電している状態では、時間の経過に伴って、蓄電池の温度及びSOC等の蓄電池の状態が変化する。このため、蓄電池を放電又は充電している状態では、蓄電池の温度及びSOC等の経時的な変化に対応して、内部抵抗が経時的に変化する。放電又は充電の実施可能時間の算出では、内部抵抗等の経時的な変化を考慮して、実施可能時間を適切に算出することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-45523号公報
【特許文献2】特開2018-147827号公報
【特許文献3】特開2020-92598号公報
【特許文献4】特開2019-132655号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】乾 義尚,外2名,“インピーダンスと起電力測定に基づくリチウムイオン電池の劣化と電圧応答の検討”,電気学会論文誌B(電力・エネルギー部門誌),2016年7月1日, 第136巻,第7号,p.636-644
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、放電又は充電における内部抵抗等の経時的な変化を考慮して、蓄電池の放電又は充電の対象時からの実施可能時間を適切に算出する処理方法、処理装置、及び、処理プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態では、蓄電池の放電及び充電に関連する処理方法が提供される。処理方法では、蓄電池の劣化の度合いを示す劣化情報、放電又は充電の開始時以後のある対象時での蓄電池の状態を示す状態情報、及び、放電又は充電を終止する終止条件を含む放電又は充電における蓄電池の運用条件を蓄電池のモデルに適用することにより、放電又は充電において蓄電池の状態が終止条件に到達するまでの対象時からの到達時間を、放電又は充電の実施可能時間として算出する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1の実施形態に係る処理装置を示す概略図である。
図2図2は、第1の実施形態において時間演算部によって実施される、放電又は充電の実施可能時間の演算処理を概略的に示すフローチャートである。
図3図3は、第2の実施形態に係る処理装置が用いられるシステムを示す概略図である。
図4図4は、第2の実施形態において、蓄電池の放電時又は充電時に処理装置のプロセッサ等によって実施される処理の一例を概略的に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について、図面を参照して説明する。
【0010】
(第1の実施形態)
まず、実施形態の一例として、第1の実施形態について説明する。図1は、第1の実施形態に係る処理装置1を示す概略図である。図1に示す処理装置1は、蓄電池の放電及び充電に関連する処理を実施する。また、処理装置1は、蓄電池を疑似したモデル(電池モデル)を用いて、処理を実施する。モデルにおいて疑似される蓄電池は、例えば二次電池であり、蓄電池は、単セル(単電池)から形成されてもよく、複数の単セルを電気的に接続することにより形成される電池モジュール又はセルブロックであってもよい。また、蓄電池は、複数の電池モジュールが電気的に接続される電池ストリング又は電池アレイであってもよい。
【0011】
処理装置1は、劣化情報設定部11、状態情報設定部12、運用条件設定部13、時間演算部15及びデータ記憶部16を備える。ある一例では、処理装置1は、コンピュータを構成し、プロセッサ及び記憶媒体を備える。プロセッサは、CPU(Central Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、マイコン、FPGA(Field Programmable Gate Array)及びDSP(Digital Signal Processor)等のいずれかを含む。記憶媒体には、メモリ等の主記憶装置に加え、補助記憶装置が含まれ得る。記憶媒体としては、磁気ディスク、光ディスク(CD-ROM、CD-R、DVD等)、光磁気ディスク(MO等)、及び、半導体メモリ等が挙げられる。この場合、処理装置1では、プロセッサ及び記憶媒体のそれぞれは、1つのみ設けられてもよく、複数設けられてもよい。そして、処理装置1では、プロセッサは、記憶媒体等に記憶されるプログラム等を実行することにより、処理を行う。また、処理装置1では、時間演算部15は、プロセッサ等によって行われる処理の一部を実施し、記憶媒体が、データ記憶部16として機能する。
【0012】
また、コンピュータを構成する処理装置1は、ヒューマンインタフェース(ユーザインタフェース)を備える。ヒューマンインタフェースでは、操作者等によって操作指令等の操作を入力可能であるとともに、画面表示及び音声等のいずれかによって情報を告知可能である。図1の一例等では、ヒューマンインタフェースの一部が、劣化情報設定部11、状態情報設定部12及び運用条件設定部13として機能する。なお、ヒューマンインタフェースは、処理装置1とは別体で設けられてもよい。
【0013】
また、ある一例では、処理装置1は、クラウド環境に構成されるクラウドサーバであってもよい。クラウド環境のインフラは、仮想CPU等の仮想プロセッサ及びクラウドメモリによって、構成される。このため、処理装置1がクラウドサーバである場合、仮想プロセッサによって行われる処理の一部を、時間演算部15が実施し、クラウドメモリが、データ記憶部16として機能する。また、ヒューマンインタフェースが、クラウドサーバとは別に設けられ、ヒューマンインタフェースの一部が、劣化情報設定部11、状態情報設定部12及び運用条件設定部13として機能する。
【0014】
また、ある一例では、処理装置1は、時間演算部15を備えるが、データ記憶部16が、処理装置1とは別のコンピュータ、又は、クラウド環境のサーバ等に設けられてもよい。また、処理装置1のプロセッサによって実行されるプログラム等が、インターネット等のネットワークを介して接続されたコンピュータ(サーバ)、又は、クラウド環境のサーバ等に格納されてもよい。この場合、処理装置1のプロセッサは、ネットワーク経由でプログラムをダウンロードする。以下、処理装置1での処理について、詳細に説明する。
【0015】
劣化情報設定部11では、蓄電池の劣化の度合いを示す劣化情報が、操作者等の操作入力によって設定される。蓄電池の劣化の度合いは、処理装置1の処理が行われる前に予め推定又は計測され、蓄電池の劣化の度合いについての推定結果又は計測結果が、劣化情報設定部11において劣化情報として設定される。劣化情報は、蓄電池の電池容量、及び、蓄電池の内部抵抗に関する情報の少なくとも一方を含む。蓄電池の内部抵抗に関する情報では、蓄電池のSOC及び温度の少なくとも一方に対する内部抵抗の関係が示される。ある一例では、蓄電池の内部抵抗に関する情報において、互いに対して異なる複数の温度ごとに、SOCに対する内部抵抗の関係が示される。時間演算部15は、劣化情報設定部11において設定された劣化情報を取得し、劣化情報を用いて処理を実施する。
【0016】
ここで、蓄電池では、端子間の電圧Vについて、下限電圧Vlow及び上限電圧Vupが規定される。ある一例では、所定の条件での充電で電圧Vが上限電圧Vupに到達した状態から、所定の条件での放電において電圧Vが下限電圧Vlowになるまでの放電容量(放電電荷量)、又は、所定の条件での放電で電圧Vが下限電圧Vlowに到達した状態から、所定の条件での充電において電圧Vが上限電圧Vupになるまでの充電容量(充電電荷量)が、蓄電池の電池容量として規定される。また、別のある一例では、端子間の開回路電圧Vocvが上限電圧Vup及び下限電圧Vlowの一方から他方になるまでの容量(電荷量)が、蓄電池の電池容量として規定される。
【0017】
また、蓄電池では、所定の条件での放電又は充電における電圧V、又は、開回路電圧Vocvが下限電圧Vlowになる状態が、SOCが0(0%)の状態として規定され、所定の条件での放電又は充電における電圧V、又は、開回路電圧Vocvが上限電圧Vupになる状態が、SOCが1(100%)の状態として規定される。したがって、蓄電池では、電池容量は、SOCが0の状態とSOCが1の状態との間の容量(電荷量)に相当する。また、蓄電池では、電池容量に対するSOCが0の状態までの残存電荷量の比率が、SOCとなる。蓄電池の残量電荷量は、蓄電池の電荷量についての使用開始時等における初期値、及び、蓄電池に流れる電流Iの時間積算値を用いて、算出可能である。蓄電池の使用等によって、蓄電池が劣化すると、電池容量は、蓄電池の使用開始時等に比べて、低下する。また、蓄電池が劣化すると、内部抵抗は、蓄電池の使用開始時等に比べて、上昇する。したがって、蓄電池の電池容量、及び、蓄電池の内部抵抗に関する情報によって、蓄電池の劣化の度合いが示される。また、蓄電池のSOC(電荷量)及び温度のいずれかが変化すると、蓄電池の内部抵抗が変化する。したがって、蓄電池の状態の変化に対応して、蓄電池の内部抵抗が変化する。
【0018】
以下、蓄電池の電池容量及び内部抵抗等を含む劣化の度合いを推定及び/又は計測する方法について、第1の例乃至第3の例を挙げて説明する。第1の例では、蓄電池を放電又は充電し、蓄電池の電流I及び電圧Vのそれぞれについて、放電又は充電している状態での経時的な変化(時間履歴)を計測する。そして、電流I及び電圧Vのそれぞれの経時的な変化についての計測結果、及び、蓄電池の内部状態に対する蓄電池の端子間の電圧Vの関係を示すデータを用いて、蓄電池の内部状態を推定する。この際、内部状態に関する情報として、蓄電池の内部抵抗に関する情報が、推定される。蓄電池の内部状態に対する蓄電池の端子間の電圧Vの関係を示すデータでは、例えば、蓄電池の内部状態パラメータ及び電流Iから蓄電池の電圧Vを算出する演算式等が示される。この場合、蓄電池の電流I及び電圧Vのそれぞれの経時的な変化についての計測結果、及び、内部状態パラメータ及び電流Iから蓄電池の電圧Vを算出する演算式を用いて、フィッティング計算を行う。フィッティング計算では、演算式での電圧Vの算出結果と電圧Vの計測結果との差が可能な限り小さくなる状態に、内部状態パラメータの値を決定し、内部状態を推定する。
【0019】
例えば、蓄電池を放電している状態での電流I及び電圧Vのそれぞれの経時的な変化についての計測結果、及び、内部状態パラメータ及び電流Iから蓄電池の電圧Vを算出する以下の式(1)を用いて、フィッティング計算を行うものとする。式(1)では、Ep(xp,…)は、内部状態パラメータxp等の正極に関連する内部状態パラメータを用いて正極の開回路電位を算出する関数を示し、En(xn,…)は、内部状態パラメータxn等の負極に関連する内部状態パラメータを用いて負極の開回路電位を算出する関数を示す。また、式(1)では、蓄電池の内部抵抗R、端子間の電圧V、及び、電流Iが示される。放電における電圧Vの経時的変化(電圧Vの放電曲線)、及び、式(1)を用いたフィッティング計算では、電流Iとして、蓄電池を放電している状態での計測結果が、用いられる。また、フィッティング計算では、式(1)での電圧Vの算出結果と電圧Vの計測結果との差が可能な限り小さくなる状態に、内部状態パラメータxp,xn及び内部抵抗Rを含む内部状態パラメータの値を決定する。
【0020】
V=Ep(xp,…)-En(xn,…)-R・I (1)
【0021】
なお、内部状態パラメータxp等の正極に関連する内部状態パラメータとしては、正極質量(正極容量)及び正極の初期充電量等が挙げられ、内部状態パラメータxn等の負極に関連する内部状態パラメータとしては、負極質量(負極容量)及び負極の初期充電量等が挙げられる。これらの内部状態パラメータは、特許文献2(特開2018-147827号公報)及び特許文献3(特開2020-92598号公報)等と同様にして、規定される。また、特許文献2及び特許文献3等のある一例では、蓄電池を充電している状態での電流I及び電圧Vの経時的な変化(時間履歴)についての計測結果、及び、内部状態パラメータ及び電流Iから蓄電池の電圧Vを算出する演算式を用いて、フィッティング計算を行い、内部状態を推定する。第1の例では、特許文献2及び特許文献3等の一例と同様にしてフィッティング計算を行い、内部状態パラメータを推定してもよい。
【0022】
第1の例では、放電又は充電によってSOCと経時的に変化させる。そして、互いに対して異なる複数のSOCのそれぞれについて、前述したフィッティング計算によって蓄電池の内部抵抗を推定することにより、蓄電池の内部抵抗に関する情報として、蓄電池のSOCに対する蓄電池の内部抵抗の関係が推定される。また、互いに対して異なる複数の温度において蓄電池を放電又は充電し、複数の温度のそれぞれについて、前述したフィッティング計算によって、蓄電池のSOCに対する蓄電池の内部抵抗の関係を推定する。これにより、蓄電池の温度及びSOCのそれぞれに対する蓄電池の内部抵抗の関係が、蓄電池の内部抵抗に関する情報として推定される。
【0023】
また、第1の例では、蓄電池の内部抵抗は、複数の抵抗部分に分離された状態で推定されてもよい。このため、内部抵抗に関する情報では、蓄電池の温度及びSOCの少なくとも一方に対する複数の抵抗部分のそれぞれの関係が示されてもよい。特許文献2及び特許文献3等のある一例では、オーミック抵抗、反応抵抗及び拡散抵抗の3つの抵抗部分に内部抵抗を分離し、3つの抵抗部分に分離された状態で内部抵抗を推定する。第1の例では、特許文献2及び特許文献3等の一例と同様にして、3つの抵抗部分を規定し、内部抵抗を3つの抵抗部分に分離してもよい。
【0024】
また、第1の例では、内部抵抗を含む内部状態を前述のフィッティング計算によって推定すると、推定された内部状態を用いて、電池容量及び開回路電圧等を含む蓄電池の電池特性を推定する。例えば、前述した式(1)を用いたフィッティング計算によって内部状態を推定した場合、推定された内部パラメータ、及び、式(1)で示される関数Ep(xp,…),En(xn,…)等を用いて、正極及び負極のそれぞれの開回路電位を算出する。そして、正極及び負極のそれぞれの開回路電位に基づいて、蓄電池の開回路電圧を算出し、開回路電圧曲線等の蓄電池のSOC(電荷量)に対する開回路電圧Vocvの関係を推定する。
【0025】
開回路電圧Vocvに基づいて前述のように蓄電池の電池容量が規定される場合は、蓄電池のSOCに対する開回路電圧Vocvの関係に基づいて、蓄電池の電池容量を推定する。また、所定の条件での放電又は充電における電圧Vに基づいて前述のように蓄電池の電池容量が規定される場合は、蓄電池のSOCに対する開回路電圧Vocvの関係、所定の条件での放電又は充電における蓄電池の電流I、及び、推定した内部抵抗等に基づいて、蓄電池の電池容量を推定する。なお、特許文献2及び特許文献3等のある一例では、フィッティング計算によって推定された内部状態に基づいて、電池容量を含む蓄電池の電池特性を推定する。第1の例では、特許文献2及び特許文献3等の一例と同様にして、推定された内部状態から電池容量を推定してもよい。
【0026】
また、第2の例では、所定の条件での放電又は充電における電圧Vに基づいて、前述のように蓄電池の電池容量が規定される。そして、所定の条件での充電において電圧Vが上限電圧Vupから下限電圧Vlowになるまでの放電容量(放電電荷量)、又は、所定の条件での充電において電圧Vが下限電圧Vlowから上限電圧Vupになるまでの充電容量(充電電荷量)を、計測する。これにより、放電容量又は充電容量についての計測結果が、電池容量として算出される。
【0027】
第3の例では、交流電流波形等の周期的に電流値が変化する電流波形で蓄電池に電流を流す。そして、周期的に電流値が変化する電流波形で蓄電池に電流を流している状態において、蓄電池の電流及び電圧のそれぞれの経時的な変化(時間履歴)を計測する。そして、蓄電池の電流及び電圧のそれぞれの経時的な変化についての計測結果に基づいて、蓄電池のインピーダンス(内部抵抗)の周波数特性を算出する。ある一例では、蓄電池の電流の経時的な変化に基づいて、蓄電池の電流の周期的な変化におけるピーク-ピーク値(変動幅)を算出し、蓄電池の電圧の経時的な変化に基づいて、電池5の電圧の周期的な変化におけるピーク-ピーク値(変動幅)を算出する。そして、電流のピーク-ピーク値に対する電圧のピーク-ピーク値の比率から、蓄電池のインピーダンスを算出する。そして、互いに対して周波数が異なる複数の電流波形で、前述のように蓄電池のインピーダンスを算出することにより、蓄電池のインピーダンスの周波数特性が計測される。
【0028】
また、別のある一例では、基準周波数の電流波形で蓄電池に電流を流し、蓄電池の電流及び電圧のそれぞれの経時的な変化を計測する。そして、蓄電池の電流及び電圧のそれぞれの経時的な変化をフーリエ変換する等して、蓄電池の電流及び電圧のそれぞれの周波数特性として、蓄電池の電流及び電圧のそれぞれの周波数スペクトル等を算出する。算出された蓄電池の電流及び電圧のそれぞれの周波数スペクトルでは、前述の基準周波数の成分に加え、基準周波数の整数倍の成分が示される。そして、蓄電池の電流及び電圧のそれぞれの周波数特性に基づいて、蓄電池の電流の経時的な変化の自己相関関数、及び、蓄電池の電流の経時的な変化と蓄電池の電圧の経時的な変化との相互相関関数を算出する。そして、自己相関関数及び相互相関関数を用いて、蓄電池のインピーダンスの周波数特性を算出する。蓄電池のインピーダンスの周波数特性は、例えば、相互相関関数を自己相関関数で除算することにより、算出する。
【0029】
蓄電池のインピーダンスの周波数特性の計測結果として、例えば、インピーダンスの複素インピーダンスプロット(Cole-Coleプロット)が、取得される。複素インピーダンスプロットでは、複数の周波数のそれぞれについて、蓄電池のインピーダンスが示される。そして、複素インピーダンスプロットでは、複数の周波数のそれぞれについて、蓄電池のインピーダンスの実数成分及び虚数成分が示される。なお、周期的に電流値が変化する電流波形で蓄電池に電流を流すことにより蓄電池のインピーダンスの周波数特性を計測する方法、及び、蓄電池のインピーダンスの周波数特性の計測結果である複素インピーダンスプロット等は、特許文献4(特開2019-132655号公報)及び非特許文献1(乾 義尚,外2名,“インピーダンスと起電力測定に基づくリチウムイオン電池の劣化と電圧応答の検討”,電気学会論文誌B(電力・エネルギー部門誌),2016年7月1日, 第136巻,第7号,p.636-644)等に示される。第3の例では、特許文献4及び非許文献1のいずれかと同様にして、蓄電池のインピーダンスの周波数特性が計測されてもよい。
【0030】
第3の例では、蓄電池のインピーダンスの周波数特性についての計測結果、及び、蓄電池の等価回路データを用いて、蓄電池の内部抵抗が算出される。等価回路データでは、蓄電池のインピーダンスに関連するパラメータが、回路定数として示される。等価回路データで示される回路定数には、蓄電池のインピーダンスの抵抗成分に関連するパラメータが含まれ、蓄電池のインピーダンスのリアクタンス成分に関連するパラメータが含まれてもよい。
【0031】
また、第3の例では、等価回路データに関連するデータとして、周波数及び等価回路データの回路定数のそれぞれに対する蓄電池のインピーダンスの関係を示すデータを用いて、蓄電池の内部抵抗を算出する。周波数及び等価回路データの回路定数のそれぞれに対する蓄電池のインピーダンスの関係を示すデータでは、例えば、周波数及び回路定数からインピーダンスの実数成分及び虚数成分のそれぞれを算出する演算式等が示される。この場合、蓄電池のインピーダンスの周波数特性についての計測結果、及び、周波数及び回路定数からインピーダンスの実数成分及び虚数成分のそれぞれを算出する演算式を用いて、フィッティング計算を行う。
【0032】
フィッティング計算では、インピーダンスの計測が行われた周波数範囲において、演算式でのインピーダンスの実数成分の算出結果とインピーダンスの実数成分の計測結果との差、及び、演算式でのインピーダンスの虚数成分の算出結果とインピーダンスの虚数成分の計測結果との差が可能な限り小さくなる状態に、回路定数の値を決定する。そして、フィッティング計算によって算出した回路定数を用いて、蓄電池の内部抵抗に関する情報を算出する。なお、ある一例では、等価回路データにおいて複数の回路定数が設定され、内部抵抗に関する情報として、蓄電池の温度及びSOCの少なくとも一方に対する複数の回路定数のそれぞれの関係が示されてもよい。
【0033】
非特許文献1では、回路定数が規定された等価回路データの一例が示される。また、非特許文献1のある一例では、蓄電池のインピーダンスの周波数特性についての計測結果、及び、周波数及び等価回路データの回路定数からインピーダンスの実数成分及び虚数成分のそれぞれを算出する演算式を用いて、フィッティング計算を行い、回路定数(内部抵抗)を算出する。第3の例では、非特許文献1等の一例と同様にしてフィッティング計算を行い、等価回路データの回路定数(内部抵抗)を算出してもよい。
【0034】
第3の例では、蓄電池のSOC及び温度の少なくとも一方が互いに対して異なる複数の状態について、前述したフィッティング計算によって等価回路データの回路定数を算出し、蓄電池の内部抵抗を推定する。これにより、蓄電池の内部抵抗に関する情報として、蓄電池のSOC及び温度の少なくとも一方に対する蓄電池の内部抵抗の関係が推定される。
【0035】
また、第3の例と同様にして蓄電池の内部抵抗を推定した後に、第1の例と同様のフィッティング計算によって、蓄電池の内部状態を推定してもよい。この場合、蓄電池を放電又は充電している状態での電流I及び電圧Vの経時的な変化(時間履歴)についての計測結果、及び、内部状態パラメータ及び電流Iから蓄電池の電圧Vを算出する演算式に加えて、第3の例と同様にして推定した内部抵抗に関する情報を用いて、フィッティング計算を行い、内部抵抗以外の内部状態パラメータを推定する。そして、第1の例と同様にして、推定した内部状態に基づいて、蓄電池の電池容量を推定する。
【0036】
状態情報設定部12では、対象時での蓄電池の状態を示す状態情報が、操作者等の操作入力によって設定される。状態情報には、対象時での蓄電池のSOC及び温度が含まれる。蓄電池の温度は、蓄電池自体の温度であってもよく、蓄電池が配置される環境の環境温度であってもよい。蓄電池のSOC及び温度は、蓄電池の状態を示すパラメータである。時間演算部15は、状態情報設定部12において設定された状態情報を取得し、状態情報を用いて処理を実施する。このため、時間演算部15は、対象時の蓄電池のSOC及び温度を含む対象時の蓄電池の状態を示すパラメータについて、状態情報設定部12で設定された設定値を取得する。
【0037】
ここで、時間演算部15の処理によって、放電又は充電における蓄電池の状態の経時的な変化についてシミュレーションされる。状態情報設定部12において設定される対象時の蓄電池の状態は、蓄電池の状態を示すパラメータのシミュレーションにおける初期値となる。すなわち、状態情報に含まれる対象時の蓄電池のSOCは、シミュレーションにおける蓄電池のSOCの初期値となり、状態情報に含まれる対象時の蓄電池の温度は、シミュレーションにおける蓄電池の温度の初期値となる。
【0038】
また、時間演算部15の処理によって、蓄電池においてリアルタイムで実施されている放電又は充電についてシミュレーションされてもよく、蓄電池において実際には実施されていない放電又は充電についてシミュレーションされてもよい。また、シミュレーションでは、状態情報において蓄電池のSOC及び温度等が設定される対象時は、放電又は充電の開始時以後のある時点に、設定される。ある一例では、放電又は充電の開始時が対象時として設定され、別のある一例では、放電又は充電において開始時と終了時との間のある時点が対象時として設定される。
【0039】
運用条件設定部13では、シミュレーションされる放電又は充電における蓄電池の運用条件が設定される。運用条件には、放電又は充電における蓄電池の電流又は電力についての条件が含まれる。例えば、放電についてシミュレーションする場合は、放電における運用条件として、放電レート、放電パターン、蓄電池から出力される電流の電流値、及び、蓄電池から出力される電力の電力値等のいずれかが、設定される。また、充電についてシミュレーションする場合は、充電における運用条件として、充電レート、充電パターン、蓄電池に入力される電流の電流値、及び、蓄電池に入力される電力の電力値等のいずれかが、設定される。
【0040】
また、運用条件には、シミュレーションされる放電又は充電を終止する終止条件が含まれる。終止条件では、蓄電池の状態を示す1つ以上のパラメータについて、放電又は充電を終止する基準となる閾値が設定される。そして、閾値が設定されるパラメータのいずれか1つ以上が閾値に到達することが、蓄電池の状態が終止条件に到達することの基準として、規定される。ある一例では、蓄電池の電圧V、SOC(電荷量)η及び温度Tのそれぞれについて、放電又は充電を終止する基準となる閾値が設定される。そして、電圧V、SOCη及び温度Tのいずれか1つ以上が閾値に到達することが、蓄電池の状態が終止条件に到達することの基準となる。なお、前述の対象時には、閾値が設定されるパラメータのいずれもが閾値に到達してなく、蓄電池の状態が終止条件に到達していない。
【0041】
例えば、放電についてシミュレーションする場合は、電圧Vについての閾値Vthlow、SOCηについての閾値ηthlow、及び、温度Tについての閾値Tthが、設定される。閾値Vthlowは、前述した下限電圧Vlowと同一の値であってもよく、下限電圧Vlowより高い値であってもよい。また、閾値ηthlowは、0(0%)であってもよく、0.1(10%)等の0より高い値であってもよい。そして、電圧Vが閾値Vthlow以下になること、SOCηが閾値ηthlow以下になること、及び、温度Tが閾値Tth以上になることのいずれか1つ以上を満たすことが、放電を終止する終止条件に蓄電池の状態が到達することの基準となる。
【0042】
充電についてシミュレーションする場合は、電圧Vについての閾値Vthup、SOCηについての閾値ηthup、及び、温度Tについての閾値Tthが、設定される。閾値Vthupは、放電における閾値Vthlowより高い値であり、閾値ηthupは、放電における閾値ηthlowより高い値である。閾値Vthupは、前述した上限電圧Vupと同一の値であってもよく、上限電圧Vupより低い値であってもよい。また、閾値ηthupは、1(100%)であってもよく、0.9(90%)等の1より低い値であってもよい。また、閾値Tthは、放電における閾値Tthと同一の値である。そして、電圧Vが閾値Vthup以上になること、SOCηが閾値ηthup以上になること、及び、温度Tが閾値Tth以上になることのいずれか1つ以上を満たすことが、充電を終止する終止条件に蓄電池の状態が到達することの基準となる。
【0043】
時間演算部15は、運用条件設定部13において設定された運用条件を取得し、運用条件を用いて処理を実施する。このため、時間演算部15は、シミュレーションされる放電又は充電における蓄電池の電流又は電力についての条件として設定した設定値を、取得する。また、時間演算部15は、シミュレーションされる放電又は充電を終止する条件として設定された終止条件を取得する。
【0044】
データ記憶部16には、蓄電池を疑似したモデル及びモデルに関連するデータが、記憶される。時間演算部15は、前述のようにして設定された劣化情報、状態情報及び運用条件を蓄電池のモデルに適用し、放電又は充電についてシミュレーションを行う。シミュレーションにおいて、時間演算部15は、対象時からの放電又は充電の実施可能時間を算出する。そして、時間演算部15は、実施可能時間を算出する過程において、蓄電池の状態を示すパラメータの対象時以後の経時的な変化を算出する。例えば、蓄電池のSOC(電荷量)、電圧及び温度のそれぞれについて、シミュレーションされる放電又は充電における対象時以後の経時的な変化が、算出される。
【0045】
蓄電池の状態を示すパラメータの対象時以後の経時的な変化の算出では、所定のサンプリング周期Ysが規定され、サンプリング周期Ysごとに、蓄電池の状態を示すパラメータが算出される。したがって、シミュレーションされる放電又は充電の終了時まで、対象時からサンプリング周期Ysごとに、蓄電池のSOC(電荷量)、電圧及び温度等のそれぞれが算出される。ここで、対象時を時間t(0)とするとともに、対象時からの経過時間を示す時間t(n)を規定する。nは、自然数であり、時間t(n)は、サンプリング周期Ysのn倍に相当する。蓄電池の状態を示すパラメータの対象時以後の経時的な変化の算出では、時間t(n)における蓄電池の状態を示すパラメータが、時間t(1)から順に算出される。
【0046】
時間t(n)での蓄電池のSOCを算出においては、時間t(n)よりサンプリング周期Ys前の時間t(n-1)での蓄電池のSOC、及び、時間t(n-1)からの蓄電池に流れる電流Iの時間積算値が、用いられる。電流Iは、運用条件に含まれる放電又は充電における蓄電池の電流又は電力についての条件に基づいて規定されるため、シミュレーションされる放電又は充電における電流Iの時間積算値を算出可能である。また、対象時である時間t(0)からサンプリング周期Ysを経過した時間t(1)でのSOCは、状態情報に含まれる対象時での蓄電池のSOCを用いて算出される。
【0047】
そして、時間t(n-1)での蓄電池のSOC及び電流Iの時間積算値に基づいて、時間t(n)での蓄電池の残存電荷量が算出される。また、SOCηは、電池容量Mに対する残存電荷量の比率である。時間t(n)での蓄電池のSOCは、劣化情報に含まれる電池容量M、及び、前述のようにして算出された時間t(n)での残存電荷量を用いて、算出される。なお、蓄電池のモデルには、電池容量MからSOCηを算出する関数η(M)等の電池容量Mに対するSOCηの関係を示すデータが、含まれる。前述のようにして、対象時からサンプリング周期Ysごとに蓄電池のSOCηが算出されることにより、対象時以後の蓄電池のSOCηの経時的な変化が算出される。
【0048】
また、時間t(n)での蓄電池の温度の算出においては、時間t(n-1)での蓄電池の温度、及び、時間t(n-1)での蓄電池の温度の時間変化率等が、用いられる。温度の時間変化率の算出では、時間t(n-1)において蓄電池で発生するジュール熱を算出する。ジュール熱は、例えば、蓄電池の電流I及び内部抵抗Rを用いて算出され、I・Rがジュール熱の算出値となる。ここで、電流Iは、前述のように、運用条件に含まれる放電又は充電における蓄電池の電流又は電力についての条件に基づいて規定される。
【0049】
また、時間演算部15は、蓄電池の温度T及びSOCηの少なくとも一方に対する蓄電池の内部抵抗Rの関係を示す情報を、劣化情報として取得する。例えば、温度T及びSOCηのそれぞれに対する蓄電池の内部抵抗Rの関係を示す情報として、時間演算部15は、SOCη及び温度Tを用いて内部抵抗Rを算出する関数R(η,T)を取得する。時間t(n-1)において発生するジュール熱の算出では、時間t(n-1)でのSOC及び温度、及び、関数R(η,T)を用いて、時間t(n-1)での内部抵抗を算出する。対象時である時間t(0)からサンプリング周期Ysを経過した時間t(1)での温度の算出においては、対象時(時間t(0))での蓄電池の温度、及び、対象時において発生するジュール熱を算出する必要がある。この際、状態情報に含まれる対象時での蓄電池のSOC及び温度が用いられる。
【0050】
蓄電池のモデルでは、蓄電池で発生するジュール熱と温度の時間変化率との関係が示される。時間演算部15は、時間t(n-1)でのジュール熱、及び、ジュール熱と温度の時間変化率との関係を用いて、時間t(n-1)での温度の時間変化率を算出する。そして、時間演算部15は、時間t(n-1)での蓄電池の温度及び温度の時間変化率に基づいて、時間t(n)での蓄電池の温度を算出する。ある一例では、時間t(n-1)での温度の時間変化率にサンプリング周期Ysを乗算し、時間変化率とサンプリング周期との乗算値を時間t(n-1)での温度に加算することにより、時間t(n)での温度を算出する。前述のようにして、対象時からサンプリング周期Ysごとに蓄電池の温度Tが算出されることにより、対象時以後の蓄電池の温度Tの経時的な変化が算出される。
【0051】
また、蓄電池のモデルには、蓄電池のSOCη及び温度Tの少なくとも一方に対する蓄電池の端子間の電圧Vの関係を示すデータが含まれる。時間t(n)での蓄電池の電圧の算出においては、蓄電池のSOCη及び温度Tの少なくとも一方に対する蓄電池の端子間の電圧Vの関係を示すデータを用いて、演算が行われる。ある一例では、放電についてシミュレーションが行われ、SOCη及び温度Tから放電における電圧Vを算出する以下の式(2)が、蓄電池のモデルに含まれる。そして、式(2)を用いて、時間t(n)での電圧が算出される。
【0052】
V=Vocv(η(M),T)-R(η(M),T)・I (2)
【0053】
式(2)において、Vocv(η(M),T)は、SOCη(M)及び温度Tを用いて開回路電圧Vocvを算出する関数であり、R(η(M),T)は、SOCη(M)及び温度Tを用いて内部抵抗Rを算出する関数である。関数R(η(M),T)は、前述のように、蓄電池の温度及びSOCのそれぞれに対する蓄電池の内部抵抗の関係を示す情報であり、劣化情報として、時間演算部15によって取得される。また、式(2)では、SOCηは、電池容量Mを用いて算出される関数η(M)として示され、電流Iが示される。
【0054】
時間t(n)での電圧の算出では、時間t(n)でのSOC及び温度についての算出値を、式(2)に代入する。時間t(n)でのSOC及び温度は、前述した方法で算出される。また、運用条件に含まれる放電における蓄電池の電流又は電力についての条件に基づいた値を、電流Iとして式(2)に代入する。したがって、式(2)を用いて、時間t(n)での蓄電池の電圧が、算出される。前述のようにして、対象時からサンプリング周期Ysごとに蓄電池の電圧Vが算出されることにより、対象時以後の蓄電池の電圧Vの経時的な変化が算出される。
【0055】
また、非特許文献1のある一例では、蓄電池のインピーダンス(内部抵抗)に関連するパラメータとして前述の等価回路データの回路定数が規定され、蓄電池の開回路電圧(起電力)及び回路定数を用いて、放電における蓄電池の端子間の電圧が算出される。本実施形態では、非特許文献1の一例と同様にして、開回路電圧Vocv及び回路定数を用いて、時間t(n)での電圧を算出してもよい。この場合、蓄電池のモデルには、前述の等価回路データ及び回路定数に関する情報が含まれ、蓄電池のモデルでは、SOCη及び温度Tを用いて開回路電圧Vocvを算出する関数等が示される。また、蓄電池の温度T及びSOCηのそれぞれに対する複数の回路定数のそれぞれの関係を、時間演算部15は、劣化情報として取得する。そして、時間t(n)での電圧の算出では、時間t(n)でのSOC及び温度の算出値を用いて演算が行われるとともに、放電における蓄電池の電流又は電力についての条件に基づいた値を電流Iとして用いて演算が行われる。
【0056】
また、蓄電池の放電では、内部抵抗による過電圧だけ電圧降下が発生する。このため、放電についてのシミュレーションでは、式(2)のR(η(M),T)・Iの項等の内部抵抗による過電圧に相当する項を開回路電圧Vocvから減算することにより、端子間の電圧Vが算出される。これに対し、蓄電池の充電では、内部抵抗による過電圧だけ電圧上昇が発生する。このため、充電についてのシミュレーションでは、内部抵抗による過電圧に相当する項を開回路電圧Vocvに加算することにより、端子間の電圧Vが算出される。したがって、充電についてシミュレーションする場合も、対象時からサンプリング周期Ysごとに蓄電池の電圧Vを算出可能となり、電圧Vの経時的な変化を算出可能となる。
【0057】
また、時間演算部15は、前述のようにして算出した蓄電池の状態を示すパラメータの対象時以後の経時的な変化に基づいて、シミュレーションされる放電又は充電において蓄電池の状態が終止条件に到達する時点を算出する。ある一例では、前述のように、終止条件において、電圧V、SOCη及び温度Tのそれぞれについて閾値が設定され、電圧V、SOCη及び温度Tのいずれか1つ以上が閾値に到達することが、蓄電池の状態が終止条件に到達することの基準として設定される。この場合、時間演算部15は、電圧V、SOCη及び温度Tのそれぞれの対象時以後の経時的な変化に基づいて、電圧V、SOCη及び温度Tのいずれか1つ以上が閾値に到達しているか否かを判定する。終止条件で設定される閾値に基づいた前述の判定は、対象時以後について、例えば、前述のサンプリング周期Ysごとに実施される。
【0058】
また、時間演算部15は、対象時以後について、電圧V、SOCη及び温度Tのいずれか1つ以上が閾値に到達する時点まで、電圧V、SOCη及び温度Tのそれぞれの経時的な変化を前述のようにして算出する。すなわち、電圧V、SOCη及び温度Tのいずれもが閾値に到達していない期間については、放電又は充電が継続されているとして、電圧V、SOCη及び温度Tのそれぞれの経時的な変化が、算出される。そして、対象時以後において電圧V、SOCη及び温度Tのいずれかが1つ以上が閾値に初めて到達する時点が、蓄電池の状態が終止条件に到達する時点として、算出される。
【0059】
例えば、前述したように放電での終止条件において、電圧Vについての閾値Vthlow、SOCηについての閾値ηthlow、及び、温度Tについての閾値Tthが、設定されたものとする。この場合、電圧Vが閾値Vthlow以下になること、SOCηが閾値ηthlow以下になること、及び、温度Tが閾値Tth以上になることのいずれか1つ以上を対象時以後において最初に満たした時点が、蓄電池の状態が終止条件に到達する時点として、算出される。
【0060】
そして、時間演算部15は、放電又は充電において蓄電池の状態が終止条件に到達するまでの対象時からの到達時間を、放電又は充電の対象時からの実施可能時間とし算出する。ある一例では、蓄電池の状態が終止条件に到達しているか否かについての前述の判定が、前述のサンプリング周期Ysごとに実施され、サンプリング周期Ysのn倍の期間を対象時から経過した時間t(n)が、蓄電池の状態が終止条件に到達する時点として算出される。この場合、対象時からの経過時間を示す時間t(n)が、放電又は充電において蓄電池の状態が終止条件に到達するまでの対象時からの到達時間として算出され、放電又は充電の対象時からの実施可能時間として算出される。
【0061】
図2は、本実施形態において時間演算部15によって実施される、放電又は充電の実施可能時間の演算処理(S100)を示す。図2の処理は、放電又は充電についての1回のシミュレーションを実施するたびに、時間演算部15によって実施される。図2の処理を開始すると、時間演算部15は、劣化情報設定部11で設定された劣化情報、状態情報設定部12で設定された状態情報、及び、運用条件設定部13で設定された運用条件を取得する(S101)。そして、時間演算部15は、蓄電池のモデルをデータ記憶部16から読出し、取得した劣化情報をモデルに適用させる(S102)。そして、時間演算部15は、取得した状態情報を、対象時(時間t(0))における蓄電池の状態として設定する(S103)。これにより、状態情報に含まれる温度T及びSOCη等が、対象時での蓄電池の温度及びSOC等として設定される。
【0062】
また、時間演算部15は、対象時を時間t(0)とするとともに、対象時からの経過時間を示す時間t(n)を前述のように規定する。そして、時間演算部15は、時間t(0)を示す数値を0に設定するとともに、時間t(n)のnを1に設定する(S104)。S104での設定を行った後、時間演算部15は、時間t(n-1)を示す数値にサンプリング周期Ysを加算して、時間t(n)を示す数値を算出する(S105)。初回のS105の処理では、時間t(1)を示す数値として、サンプリング周期Ysの1倍値が算出され、k回目のS105の処理では、時間t(k)を示す数値として、サンプリング周期Ysのk倍値が算出される。そして、時間演算部15は、時間t(n)での蓄電池の状態を算出する(S106)。この際、前述のようにして、時間t(n)での蓄電池の状態を示すパラメータが算出され、前述のようにして、時間t(n)での蓄電池のSOC(電荷量)、温度及び電圧等が算出される。
【0063】
そして、時間演算部15は、算出した時間t(n)での蓄電池の状態に基づいて、蓄電池の状態が終止条件に到達したか否かを判定する(S107)。蓄電池の状態が終止条件に到達しているか否かについての判定は、前述したようにして実施される。蓄電池の状態が終止条件に到達していない場合は(S107-No)、時間演算部15は、算出した時間t(n)での蓄電池の状態に、蓄電池の状態を更新する(S108)。すなわち、時間t(n)でのSOC、温度及び電圧等に、蓄電池のSOCη、温度T及び電圧V等が更新される。そして、時間演算部15は、nを1加算する(S109)。そして、処理は、S105に戻り、時間演算部15は、S105以後の処理を順次に実施する。したがって、時間t(n)での蓄電池の状態が終止条件に到達するまでは、サンプリング周期Ysごとに、S105~S109の処理が繰返し実施される。
【0064】
初回のS108の処理では、時間t(1)での蓄電池の状態に、蓄電池の状態が更新され、初回のS109の処理では、nが1から2に変更される。また、k回目のS108の処理では、時間t(k)での蓄電池の状態に、蓄電池の状態が更新され、k回目のS109の処理では、nがkからk+1に変更される。また、時間t(n)での蓄電池の状態が終止条件に到達している場合は(S107-Yes)、時間演算部15は、時間t(n)を放電又は充電の対象時からの実施可能時間として算出する(S110)。すなわち、蓄電池の状態が終止条件に到達するまでの対象時(時間t(0))からの到達時間が、実施可能時間として算出される。なお、初回のS107の判定処理において蓄電池の状態が終止条件に到達している場合は、時間t(1)が実施可能時間として算出され、k回目のS107の判定処理において蓄電池の状態が終止条件に到達している場合は、時間t(k)が実施可能時間として算出される。
【0065】
時間演算部15は、前述のようにして算出した対象時からの放電又は充電の実施可能時間を出力する。また、時間演算部15は、算出した実施可能時間を告知させてもよい。この場合、処理装置1のヒューマンインタフェース、又は、処理装置1とは別に設けられるヒューマンインタフェースによって、実施可能時間が告知される。実施可能時間は、例えば、画面表示及び音声等のいずれかによって、告知される。
【0066】
本実施形態では、前述のように、蓄電池の劣化の度合いを示す劣化情報、放電又は充電の開始時以後のある対象時での蓄電池の状態を示す状態情報、及び、放電又は充電を終止する終止条件を含む放電又は充電における蓄電池の運用条件を、蓄電池のモデルに適用して、放電又は充電についてシミュレーションする。このため、蓄電池のSOC、温度及び電圧等の蓄電池の状態を示すパラメータの放電又は充電における経時的な変化が、シミュレーションにおいて算出される。そして、蓄電池の状態の経時的な変化の算出結果に基づいて、放電又は充電において蓄電池の状態が終止条件に到達するまでの対象時からの到達時間が算出され、算出した到達時間が、放電又は充電の実施可能時間となる。
【0067】
ここで、蓄電池を放電又は充電している状態では、時間の経過に伴って、蓄電池の温度及びSOC等の蓄電池の状態が変化する。このため、蓄電池を放電又は充電している状態では、蓄電池の温度及びSOC等の経時的な変化に対応して、内部抵抗が経時的に変化する。本実施形態では、蓄電池のSOC、温度及び電圧等の蓄電池の状態を示すパラメータの放電又は充電における経時的な変化が前述のように算出されるため、放電又は充電における内部抵抗等の経時的な変化を考慮して、実施可能時間が算出される。例えば、放電についてのシミュレーションでは、内部抵抗に起因する電圧降下の経時的な変化が適切に算出される。したがって、蓄電池の放電又は充電の対象時からの実施可能時間が、適切に算出される。
【0068】
また、本実施形態では、実施可能時間を算出する処理が行われる前に、蓄電池の劣化情報が予め推定等される。そして、蓄電池の電池容量、及び/又は、蓄電池のSOC及び温度の少なくとも一方に対する蓄電池の内部抵抗の関係が、劣化情報として蓄電池のモデルに適用される。ここで、蓄電池の劣化によって電池容量が低下すると、蓄電池に蓄えられるエネルギー量が少なくなるため、放電及び集電のそれぞれにおいて終止条件に到達するまでの到達時間が短くなる。また、蓄電池の劣化によって内部抵抗が上昇すると、放電において内部抵抗に起因する電圧降下が大きくなる。このため、放電において終止条件に到達するまでの到達時間が短くなる。本実施形態では、前述のように劣化情報が蓄電池のモデルに適用されるため、劣化に起因する電池容量の変化、及び/又は、劣化に起因する内部抵抗の変化を考慮して、放電又は充電の実施可能時間が算出される。したがって、蓄電池の放電又は充電の対象時からの実施可能時間が、さらに精度高く算出される。
【0069】
また、本実施形態では、前述のように放電又は充電の実施可能時間が適切に算出されるため、実施に蓄電池から放電する場合等に、蓄電池から電力を供給する負荷を適切に選択可能となる。また、放電又は充電の実施可能時間が適切に算出されるため、蓄電池の保守においても、算出した実施可能時間が有効に用いられる。さらに、運用条件及び劣化情報等は、ヒューマンインタフェース等で設定される。このため、劣化状態及び運用条件の少なくとも一方が互いに対して異なる多数のパターンのそれぞれにおける放電又は充電の実施可能時間を予めデータベース化することなく、実施可能時間を算出可能になる。
【0070】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について、説明する。第2の実施形態では、第1の実施形態から以下のような変形が行われる。以下の説明では、第1の実施形態等と同様の部分については、説明を省略する。図3は、本実施形態に係る処理装置1が用いられるシステムを示す。システムは、前述の処理装置1及び蓄電装置3を備える。蓄電装置3は、蓄電池30を備え、図3の一例では、蓄電池30は、複数の電池モジュール31から構成される。蓄電池30では、複数の電池モジュール31は、例えば、電気的に直列に接続される。
【0071】
また、蓄電装置3は、CMU(cell monitoring unit)32を電池モジュール31と同一の数備え、BMU(battery management unit)33を備える。CMU32のそれぞれは、電池モジュール31の対応する1つについて電圧及び温度等を計測する。また、BMU33は、電池モジュール31のそれぞれについての電圧及び温度等の計測結果をCMU32の対応する1つから受信するとともに、電池モジュール31(蓄電池30)を流れる電流を計測する。そして、BMU33は、電池モジュール31のそれぞれの電圧及び温度、及び、蓄電池30に流れる電流等を監視及び制御する。また、BMU33は、電流、電圧及び温度等の計測結果に基づいて、蓄電池30のSOC及び劣化情報等を算出する。SOC及び劣化情報の算出は、第1の実施形態等で前述したようにして実施される。
【0072】
蓄電装置3は、計測回路及び処理回路を備える。蓄電装置3の処理回路は、プロセッサ及び記憶媒体等から構成される。また、蓄電装置3では、計測回路及び処理回路のそれぞれは、1つのみ設けられてもよく、複数設けられてもよい。蓄電装置3では、CMU32のそれぞれ及びBMU33の処理は、計測回路及び処理回路によって実施される。なお、蓄電池30のSOC及び劣化情報の算出は、必ずしもBMU33で実施される必要はなく、処理装置1、又は、処理装置1及び蓄電装置3とは別の処理装置等のBMU33に対して上位の処理装置で実施されてもよい。ある一例では、蓄電装置3は、無停電電源装置(UPS:uninterruptible power supply)である。また、蓄電装置3は、車両に搭載される電源装置、定置用の電源装置、ロボット又はドローン等に搭載される電源装置のいずれかであってもよい。
【0073】
本実施形態でも、処理装置1は、運用条件設定部13、時間演算部15及びデータ記憶部16を備える。ただし、本実施形態では、処理装置1は、劣化情報設定部11の代わりに劣化情報受信部21を備え、状態情報設定部12の代わりに状態情報受信部22を備える。劣化情報受信部21及び状態情報受信部22は、処理装置1のインタフェース等から構成される。図3の一例では、蓄電装置3のBMU33が算出した劣化情報を処理装置1の劣化情報受信部21が受信し、時間演算部15は、劣化情報受信部21が受信した劣化情報を取得する。
【0074】
また、蓄電装置3のCMU32及びBMU33等で計測及び算出された蓄電池30の温度及びSOCを、前述した対象時の蓄電池30の温度及びSOCとして、状態情報受信部22が受信する。そして、時間演算部15は、状態情報受信部22が受信した対象時の蓄電池30の温度及びSOCを、状態情報として取得する。このため、図3の一例では、時間演算部15は、対象時の蓄電池のSOC及び温度を含む対象時の蓄電池の状態を示すパラメータについて、蓄電装置3で計測された計測値を取得する。なお、ある一例では、処理装置1は、蓄電池30の電圧、電流及び温度等についての計測結果を蓄電装置3から受信する。そして、受信した計測結果に基づいて、処理装置1のプロセッサ等が、蓄電池30のSOC及び劣化情報等を算出する。
【0075】
本実施形態でも、時間演算部15は、取得した劣化情報、状態情報及び運用条件に基づいて、前述の実施形態等と同様にして処理を行う。このため、本実施形態でも、前述した実施形態等と同様にして、放電又は充電の実施可能時間が算出される。また、本実施形態では、蓄電池30のリアルタイムのSOC及び温度を含む蓄電池30のリアルタイムの状態が計測される。このため、処理装置1は、蓄電池30のリアルタイムの状態を状態情報として用いて、すなわち、蓄電池30のリアルタイムの状態を対象時での蓄電池30の状態として、前述のシミュレーションを実施可能となる。したがって、蓄電池30のリアルタイムの状態を対象時での蓄電池30の状態として、対象時からの放電又は充電の実施可能時間を算出可能となる。
【0076】
図4は、本実施形態において、蓄電池30の放電時又は充電時に処理装置1のプロセッサ等によって実施される処理の一例を示す。図4の処理を開始すると、処理装置1のプロセッサ等は、蓄電池30の放電又は充電が開始されたか否かを判定する(S111)。放電又は充電が開始されていない場合は(S111-No)、処理は、S111に戻る。したがって、蓄電池30の放電又は充電が開始されるまで、S111で待機する。一方、放電又は充電が開始された場合は(S111-Yes)、前述した放電又は充電の実施可能時間の演算処理(S100)を時間演算部15が実施する。この際、リアルタイムの蓄電池30の状態が対象時での蓄電池30の状態として演算処理が行われ、現時点を対象時として実施可能時間が算出される。
【0077】
実施可能時間の演算処理によって放電又は充電の実施可能時間が算出されると、処理装置1のプロセッサ等は、リアルタイムで実施されている放電又は充電が終了したか否かを判定する(S112)。放電又は充電が終了した場合は(S112-Yes)、処理は終了する。一方、放電又は充電が終了していない場合は(S112-No)、直近で行われた実施可能時間の演算処理での算出結果に、実施可能時間を更新する(S113)。そして、処理は、S100に戻り、処理装置1のプロセッサ等は、S100以降の処理を順次に実施する。実施可能時間の演算処理を再度行う場合、時間演算部15は、リアルタイムの蓄電池30の状態(SOC及び温度等)を再度取得し、リアルタイムの蓄電池30の状態を対象時での蓄電池30の状態として、放電又は充電の実施可能時間を算出する。
【0078】
図4の処理が行われることにより、蓄電池30を放電又は充電している状態では、放電又は充電の実施可能時間の演算処理が、定期的に繰返し実施される。このため、現時点を対象時とする対象時からの放電又は充電の実施可能時間の算出が、定期的に繰返し実施される。また、本実施形態では、放電又は充電が実施されている間は、実施可能時間の演算処理が実施される度に、直近で行われた実施可能時間の演算処理での算出結果に、実施可能時間が更新される。このため、蓄電池30の放電又は充電が実施されている間は、蓄電池30の状態変化に対応させて、放電又は充電の実施可能時間が逐次に更新される。したがって、放電又は充電の実施可能時間が、さらに精度高く算出される。
【0079】
前述の少なくとも一つの実施形態又は実施例では、蓄電池の劣化の度合いを示す劣化情報、放電又は充電の開始時以後のある対象時での蓄電池の状態を示す状態情報、及び、放電又は充電を終止する終止条件を含む放電又は充電における蓄電池の運用条件を蓄電池のモデルに適用することにより、放電又は充電において蓄電池の状態が終止条件に到達するまでの対象時からの到達時間を、放電又は充電の実施可能時間として算出する。これにより、放電又は充電における内部抵抗等の経時的な変化を考慮して、蓄電池の放電又は充電の対象時からの実施可能時間を適切に算出する処理方法、処理装置、及び、処理プログラムを提供することができる。
【0080】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0081】
1…処理装置、3…蓄電装置、11…劣化情報設定部、12…状態情報設定部、13…運用条件設定部、15…時間演算部、16…データ記憶部、30…蓄電池、31…電池モジュール、32…CMU、33…BMU。
図1
図2
図3
図4