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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023030633
(43)【公開日】2023-03-08
(54)【発明の名称】VCO利得制御方法及び回路
(51)【国際特許分類】
   H03L 7/099 20060101AFI20230301BHJP
【FI】
H03L7/099
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021135864
(22)【出願日】2021-08-23
(71)【出願人】
【識別番号】504371734
【氏名又は名称】株式会社ファイ・マイクロテック
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】野口 健吾
(72)【発明者】
【氏名】結城 直彦
【テーマコード(参考)】
5J106
【Fターム(参考)】
5J106AA01
5J106CC01
5J106CC32
5J106DD05
5J106DD13
5J106FF08
5J106GG01
5J106HH03
5J106JJ01
5J106KK05
5J106KK38
(57)【要約】
【課題】本発明は、VCO利得の非線形性とVCO利得の可変性とを切り分けて制御でき、回路規模が大きくならず、且つ汎用性の高いVCO利得制御回路を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係るVCO利得制御回路は、VCO103のVCO利得を制御するVCO利得制御回路であって、VCO103の出力周波数に応じたモニタ電圧Vfmoと基準電圧Vsetとの差分を、可変である第1の利得αで増幅してVCO103への入力電圧Vcontにフィードバックするフィードバック回路を備え、基準電圧Vsetが入力電圧Vcontを第2の利得β(112)で増幅又は減衰した電圧であることを特徴とする。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧制御発振器(VCO:Voltage-controlled oscillator)の利得を制御するVCO利得制御方法であって、
前記VCOの出力周波数に応じたモニタ電圧と基準電圧との差分を、可変である第1の利得で増幅して前記VCOへの入力電圧にフィードバックすること、及び
前記入力電圧を第2の利得で増幅又は減衰して前記基準電圧とすること
を特徴とするVCO利得制御方法。
【請求項2】
電圧制御発振器(VCO:Voltage-controlled oscillator)の利得を制御するVCO利得制御回路であって、
前記VCOの出力周波数に応じたモニタ電圧と基準電圧との差分を、可変である第1の利得で増幅して前記VCOへの入力電圧にフィードバックするフィードバック回路を備え、 前記基準電圧が前記入力電圧を第2の利得で増幅又は減衰した電圧であることを特徴とするVCO利得制御回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、VCO利得を調整可能とするVCO利得制御方法及びその回路に関する。
【背景技術】
【0002】
入力電圧に対して出力信号の周波数が変化する電圧制御発振器(VCO:Voltage-controlled oscillator:以後VCOと記す)は、位相同期回路(PLL :phase locked loop:以後PLLと記す)、周波数変復調回路等に用いられており、無線伝送装置やセンサ等に幅広く用いられている。
【0003】
VCOの性能を表す重要な要素として、入力制御電圧と出力周波数の関係がある。
【0004】
VCOの入力制御電圧(Vcont)と出力周波数の関係は、VCO利得(K)として示さる。Kは、入力制御電圧の変化量に対し、出力周波数(fo)の変化量を表した値であり、単位は〔Hz/V〕である。VCOの入力制御電圧と出力周波数との関係を示す基本的な式は、VCOオフセット周波数をfoffvcoとすると、
【数0】
で表される。
【0005】
VCO利得の特性は、VCOの発振周波数帯域においてVCO利得が一定値であることが理想である。すなわち、上記の式のようにVCOの発振周波数帯域において入力制御電圧と出力周波数とが線形であることが望ましい。
【0006】
(第1の課題)
しかし、一般的にVCO利得の特性は非線形である。VCO利得が非線形であることによる課題は、例えばPLL回路においては、位相雑音の増加やループ安定性の低下によるループの発振を引き起こすことが特許文献1で示されている。また、レーダーシステムに用いられる周波数連続変調波(FMCW:Frequency Modulated Continuous Wave)をVCOで発生させる場合、VCO利得の非線形性により距離分解能が劣化することが特許文献2に示されている。
【0007】
(第2の課題)
また、VCO利得の線形性の他に、VCO利得の値もVCOの性能を表す重要な要素である。VCO利得の大小は、特に出力周波数を短時間に変更するPLLにおいて重要な要素である。
【0008】
出力周波数を短時間で変更するPLLにおいては、ロックアップタイムの低減と位相雑音の低減の相反する要求を解決するため、PLLの開ループ利得(あるいは閉ループ利得)をロックアップ時には高く(あるいは広く)、ロックアップ後には低く(あるいは狭く)することが行われている。例えば、特許文献3ではバラクタを用いたVCOのVCO利得を可変とすることでPLLの開ループ利得を可変とし、ロックアップタイムの低減と位相雑音の低減を実現する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10-154934号公報
【特許文献2】特開2011-127923号公報
【特許文献3】特開2009-200844号公報
【特許文献4】特開2008-224350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
・特許文献1について
VCO利得の非線形性を改善する方法として、特許文献1ではPLLの構成要素であるループフィルタからの出力信号をアナログ信号からデジタル信号に変換し、デジタル信号処理によりVCO利得の非直線性を検出し、PLLの構成要素である位相変換機の利得、ループフィルタの容量や抵抗を調整し、VCO利得の非線形性に起因する特性の劣化をループ利得を調整することで解決する方法が記載されている。
【0011】
また、特許文献1には明記されていないが、ループ利得を調整する手法であることから、ロックアップタイムの低減と位相雑音の低減のための手法としても応用可能である。
【0012】
一方、VCO利得の非直線性の検出のためアナログ‐デジタル変換器およびデジタル信号処理回路が必要となり、回路規模が増加する課題がある。また、特許文献1で示された方法は、PLL回路構成において有効な方法であり他の目的でVCOを使用する場合にはその適用は困難である。
【0013】
つまり、特許文献1の技術は、上述した第1の課題と第2の課題を解決できるが、回路規模及び汎用性についての新たな課題が発生することになる。
【0014】
・特許文献2について
特許文献2では、FMCW信号発生を目的としてVCO利得の非直線性を補正する手段が記載されているが、特許文献1と同様にVCO利得の非直線性の検出のためアナログ-デジタル変換器およびデジタル信号処理回路が必要となり、回路規模が増加する課題がある。また、VCO利得の非直線性の補正のみであり、VCO利得の大小を制御する技術と効果については記載されていない。
【0015】
つまり、特許文献2の技術は、上述した第1の課題を解決することができるが、第2の課題を解決できず、且つ回路規模についての新たな課題が発生することになる。
【0016】
・特許文献3について
特許文献3では、VCO利得を可変とすることでロックアップタイムの低減と位相雑音の低減を実現する技術である。特許文献3の技術は、VCOの回路構成がバラクタを用いたVCOに限定されており、またVCO利得の非直線性を改善する技術と効果については記載されていない。
【0017】
つまり、特許文献3の技術は、上述した第2の課題を解決することができるが、第1の課題を解決できず、且つ汎用性についての新たな課題が発生することになる。
【0018】
・特許文献4について
特許文献4は、VCO利得の非直線性を補正する手段として、VCOの出力周波数信号を周波数-電圧変換器(F/V変換器:Frequency/Voltage変換器)を介して入力周波数に対応した電圧信号に変換し、VCOの制御電圧と比較し誤差を求め、この誤差信号がなくなるようVCOの制御電圧を制御する方法を開示している。しかし、特許文献4の技術は、VCO利得の非直線性の補正方法しか実現できていない。
【0019】
つまり、特許文献4の技術は、上述した第1の課題を解決することができるが、第2の課題を解決できないことになる。
【0020】
そこで、本発明は、上記の課題を全て解決するために、VCO利得の非線形性とVCO利得の可変性とを切り分けて制御でき、回路規模が大きくならず、且つ汎用性の高いVCO利得制御方法及び回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するために、本発明に係るVCO利得制御方法及び回路は、VCOの出力周波数に応じたモニタ電圧と基準電圧との差分を増幅して前記VCOへの入力電圧にフィードバックするときに、その増幅量でVCO利得の可変と線形性の改善をすることとした。
【0022】
具体的には、本発明に係るVCO利得制御方法は、電圧制御発振器(VCO)の利得を制御するVCO利得制御方法であって、前記VCOの出力周波数に応じたモニタ電圧と基準電圧との差分を、可変である第1の利得で増幅して前記VCOへの入力電圧にフィードバックすること、及び前記入力電圧を第2の利得で増幅又は減衰して前記基準電圧とすることを特徴とする。
【0023】
また、本発明に係るVCO利得制御回路は、電圧制御発振器(VCO)の利得を制御するVCO利得制御回路であって、前記VCOの出力周波数に応じたモニタ電圧と基準電圧との差分を、可変である第1の利得で増幅して前記VCOへの入力電圧にフィードバックするフィードバック回路を備え、 前記基準電圧が前記入力電圧を第2の利得で増幅又は減衰した電圧であることを特徴とする。
【0024】
具体的な説明は後述するが、フィードバック回路の第1利得αを調整することでVCO利得の可変と線形性の改善をすることができる。また、第2利得βを設定することで、VCO利得の線形性と可変性とを切り分けて制御することができる。本回路には、アナログ-デジタル変換器およびデジタル信号処理回路が不要であるため、回路規模が大きくならない。また、本回路は、どのようなタイプのVCOであっても適用可能であるため汎用性が高い。
【0025】
従って、本発明は、VCO利得の非線形性とVCO利得の可変性とを切り分けて制御でき、回路規模が大きくならず、且つ汎用性の高いVCO利得制御方法及び回路を提供することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、VCO利得の非線形性とVCO利得の可変性とを切り分けて制御でき、回路規模が大きくならず、且つ汎用性の高いVCO利得制御方法及び回路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明に係るVCO利得制御回路を説明する図である。
図2】本発明に係るVCO利得制御回路を説明する図である。
図3】本発明に係るVCO利得制御回路の効果を説明する図である。
図4】本発明に係るVCO利得制御回路の効果を説明する図である。
図5】本発明に係るVCO利得制御回路を説明する図である。
図6】本発明に係るVCO利得制御回路を説明する図である。
図7】本発明に係るVCO利得制御回路の効果を説明する図である。
図8】本発明に係るVCO利得制御回路の効果を説明する図である。
図9】本発明に係るVCO利得制御回路の効果を説明する図である。
図10】本発明に係るVCO利得制御回路の効果を説明する図である。
図11】本発明に係るVCO利得制御回路を説明する図である。
図12】本発明に係るVCO利得制御回路を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0029】
(実施形態1)
図1は、本実施形態のVCO利得制御回路100を説明するブロック図である。VCO利得制御回路100は、VCO103のVCO利得を制御するVCO利得制御回路であって、
VCO103の出力周波数に応じたモニタ電圧Vfmoと基準電圧Vsetとの差分を、可変である第1の利得αで増幅してVCO103への入力電圧Vcontにフィードバックするフィードバック回路を備えることを特徴とする。
図1においてフィードバック回路とは、周波数に応じた電圧を出力するF/V変換器108、加算器107、増幅器106、及び加算器102で構成される閉ループ回路である。
【0030】
VCO103は、入力信号であるVo(109)を入力としVoに対応した周波数fo(104)を有する信号を出力する。周波数foはF/V変換器108の入力となり、foの周波数に対応した電圧Vfmo(111)を出力する。
【0031】
加算器107は、基準電圧のVset(105)からVfmoを減じた信号を生成する。増幅器106は当該信号をα倍に増幅して電圧Vre(110)を生成する。加算器102は、VCO103が出力する周波数を指示する入力制御電圧Vcont(101)と電圧Vreを加算して電圧Voを生成しVCO103へ入力する。なお、本実施形態では、基準電圧Vset(105)は一定値である。
【0032】
電圧Vreは(1)式で表される。
【数1】
電圧Voは(2)式で表される。
【数2】
(2)式に(1)式を代入することで電圧Voは(3)で表される。
【数3】
F/V変換器108の入力信号周波数と出力信号が線形であるとすると、モニタ電圧Vfmoは(4)式で表される。
【数4】
ここで、LvはF/V変換器108の利得、すなわち入力信号の周波数の変化量に対する出力信号の変化量の割合であり、その単位は〔V/Hz〕である。また、Lvは定数である。
【0033】
(3)式に(4)式を代入すると(5)式を得る。
【数5】
(5)式を変更すると(6)式で表される。
【数5a】
故に
【数6】
【0034】
F/V変換器108の入力信号周波数と出力信号が線形であると仮定したことから、Lvは定数となり1/Lvも定数となる。また、Lvは〔V/Hz〕の単位をもつ量であることから、1/Lvの単位は〔Hz/V〕となる。
【0035】
(6)式において、Vcont、Vset、及びVoは、電圧の単位をもつ量であることから、3つの項はそれぞれ[Hz]の単位となり、foの周波数と一致する。ただし、Voは、(5)式からVcontの関数であることから(6)式は、(7)式で表せる。
【数7】
【0036】
ここで、利得制御回路100の全体の利得Kvtotal(単位電圧当たりの周波数変化量;感度特性)は入力制御信号Vcontに対するVCO103の出力信号周波数foの変化の割合であるから、(7)式をVcontで微分することにより求められ(8)式となる。
【数7a】
故に
【数8】
【0037】
(8)式の
【数8a】
は利得制御回路100全体の利得Kvtotalを示している。つまり、[Hz/V]の単位をもつ1/Lvをαで割っていることから、αを調整することで利得制御回路100全体の利得Kvtotalを調整することが可能といえる。
【0038】
また、(8)式の
【数8b】
は、VCO103の非線形性による影響をうけ非線形性を有する。このため、(8)式のαを大きくすれば、利得制御回路100全体としてVCO103の非線形性による影響を小さくすることができる。つまり、利得αは、フィードバック回路内の誤差を調整することが可能であり、その値を大きくするとVCO103のVF特性の線形性を改善するように誤差を抑圧する。
【0039】
従って、利得制御回路100は、増幅器106の利得αで利得制御回路100の利得Kvtotalを調整できるとともに、利得αを大きくすることでVCO103の非線形の影響も小さくできる。
【0040】
(実施例1)
図2は、利得制御回路100の具体的な回路例である。図3は、図2の利得制御回路100におけるVF特性(制御電圧Vcontに対する出力周波数fの特性)の利得α依存性を説明する図である。図4は、図2の利得制御回路100におけるゲイン特性(制御電圧Vcontに対するVCO利得(K)の特性)の利得α依存性を説明する図である。
【0041】
図3に示されるように、利得αで入力制御電圧と出力周波数との傾き(利得)を調整できる。また、図4に示されるように、利得αを大きくすることでVCO利得(Kv)が小さくなり、入力制御電圧とVCO利得との非線形性も改善される。このため、図3に示されるαをさらに大きくし、無限大に近づけると一定の周波数(図3のVF特性では、Vcont=-1~+1Vの全範囲でfo≒2.5GHz)に収束する。その結果、図4では、Vcont=-1~+1Vの全範囲で利得=0.0[GHz/V]に近づく。
つまり、本発明に係るVCO利得制御回路は、利得αを調整することでVCOのVF特性の傾き(利得)を調整し、その利得の非線形性も改善することができる。
【0042】
(実施形態2)
実施形態1のVCO利得制御回路100は、利得αを大きくすればするほど、図3のようにVF特性の傾きが緩やかになり、図4のようにVCO利得の非線形性も改善する。ただし、図4に示されるように、利得αによりVCO利得(Kv)の値が変動する。つまり、VCO利得の非線形性を改善しようと利得αを大きくすると、利得αの値でVCO利得(Kv)の値が決定することになる。
【0043】
そこで、本実施形態では、利得αによりVCO利得が変動することを改善する回路を説明する。図5は、本実施形態のVCO利得制御回路150を説明する図である。VCO利得制御回路150は、図1のVCO利得制御回路100に対し、基準電圧Vsetが入力電圧Vcontを第2の利得β(112)で増幅又は減衰した電圧であることが相違する。
【0044】
VCO利得制御回路150の動作原理を説明する。
図5のVoは、VCO利得制御回路100で示した(5)式で表される。VCO利得制御回路100では外部から基準電圧のVset(一定値)を印加した。VCO利得制御回路150では、基準電圧のVsetは入力制御電圧のVcontに比例する。つまり、本実施形態の基準電圧Vsetは入力制御電圧のVcontをβ倍した(9)式で表される。
【数9】
【0045】
(9)式を(5)式に代入すると(10)式を得る。
【数10】
【0046】
実施形態1で説明した通り、VはVcontの関数であることから(10)式は(11)式で表せる。
【数11】
【0047】
VCO利得制御回路150全体の利得は入力制御信号(Vcont)に対するVCO出力信号周波数(f)の変化の割合であるから、(11)式をVcontで微分することにより求められ(12)式となる。
【数12】
【0048】
(12)式の第1項の
【数12a】
は、実施形態1のVCO利得制御回路100の(8)式と同じであり、αで利得調整と非線形性を同時に調整できる。さらに、利得制御回路150は、第2項のβ/Lvのβを変えることでも利得の調整が可能となる。
【0049】
従って、第1項のαを非線形性の抑圧に使えることになり、αを大きくする事でΔfに寄与する第1項の非線形性は小さくなり、Δfは第2項であるβ/Lvの値に接近する。その結果、ΔfはVcontの変化に対して一定となり、本構成要素であるVCOに非線形性が存在したとしても、系全体として線形な利得を有する回路として動作する。
【0050】
以上の説明から明らかなように、VCO利得制御回路150の回路構成を用いることで、VCO利得の値を利得βで調整し、利得調整とは別にVCO利得の非線形性の補正が利得αで可能となる。
【0051】
(実施例2)
図6は、VCO利得制御回路150の具体的な回路例である。
図7は、図6のVCO利得制御回路150におけるVF特性(制御電圧Vcontに対する出力周波数fの特性)の利得α依存性を説明する図である(利得β=0.095固定)。
図8は、図6のVCO利得制御回路150におけるゲイン特性(制御電圧Vcontに対するVCO利得(K)の特性)の利得α依存性を説明する図である(利得β=0.095固定)。
図9は、図6のVCO利得制御回路150におけるVF特性(制御電圧Vcontに対する出力周波数fの特性)の利得β依存性を説明する図である(利得α=10固定)。
図10は、図6のVCO利得制御回路150におけるゲイン特性(制御電圧Vcontに対するVCO利得(K)の特性)の利得β依存性を説明する図である(利得α=10固定)。
【0052】
前述のように、利得αは、フィードバック回路内の誤差を調整でき、その値を大きくすることでVCO103のVF特性の線形性を改善する。一方、利得βは、VF特性が収束する利得(傾斜)を決定しており、その値を小さくすると利得が小さくなる。つまり、利得αと利得βでVCO利得の非線形性とその値を調整可能となる。
【0053】
図7図8において実施形態1の説明と同様に利得αをさらに大きくし、無限大に近づけると、VCO利得制御回路100と異なりβ=0.095できまる、ある傾きのVF特性に収束する。例えば、図7のVF特性であれば、利得αを無限大に近づけても図7のα=20と同程度の傾斜のVF特性となる。その結果、図8では、Vcont≒-0.7~+0.7Vの範囲でVCO利得≒2.5[Hz/V]で一定となる。
【0054】
図9図10においてβをさらに小さくし、0にすると、VCO利得制御回路150の特性は、実施形態1で説明したVCO利得制御回路100の特性(図3図4のα=10)と同じになる。
ここで、図9の各βに対してαをさらに大きくし、無限大に近づけると、VF特性は、図9のそれぞれの傾きに近いところで誤差が改善されて収束する。例えば、図10であれば、下記の利得で一定の値になる。
β=0.095(点線) 利得≒2.5[Hz/V]
β=0.055(破線) 利得≒2.0[Hz/V]
β=0.025(一点鎖線) 利得≒1.5[Hz/V]
【0055】
実施形態1と2を通したVCO利得制御回路の利得α及びβに対する特性をまとめると次の通りである。
VCO利得制御回路100はVCO利得制御回路150においてβ=0に対応する。このため、図3は、利得αでVF特性の傾斜を調整できることを説明しており、図4は、利得αでVCO利得が変動すると共にVCO利得の非線形性を抑圧することを説明する。そして、利得αが無限大であればβ=0.000で決まるVCO利得=0.0[GHz/V]に収束することを説明している。
【0056】
図7も利得αでVF特性の傾斜を調整できることを説明しており、図8は、利得αでVCO利得の非線形性を抑圧できることを説明する。そして、利得αが無限大であればβ=0.095で決まるVCO利得≒2.5[GHz/V]に収束することを説明している。
【0057】
図9図10は利得βでVF特性の傾斜が変化し、VCO利得が変化することを説明している。
【0058】
(実施形態3)
図11は、本実施形態のVCO利得制御回路160を説明するブロック図である。VCO利得制御回路160は、図5のVCO利得制御回路150に対し、基準電圧Vsetにオフセット電圧Voftを加算する加算回路114をさらに備えることが相違する。
【0059】
例えば、F/V変換器108の入力信号周波数と出力信号が線形であっても、オフセットが存在する場合もある。F/V変換器108以外にもフィードバック回路を構成する機能部にオフセットが存在することもある。このような場合、VCO103を正しく制御することができない。そこで、VCO利得制御回路160は、当該オフセットを補正するために基準電圧Vsetにオフセット電圧Voftを加算する。
【0060】
つまり、VCO利得制御回路160はフィードバック回路に存在するオフセットをオフセット電圧Voftで補正することができる。なお、図11では、図5のVCO利得制御回路150の利得器112の出力にオフセット電圧Voftを加算する構成であるが、図1のVCO利得制御回路100の基準電圧Vsetにオフセット電圧Voftを加算する構成であってもよい。
【0061】
(実施形態4)
図12は、本実施形態のVCO利得制御回路170を説明するブロック図である。利得制御回路170は、図5の利得制御回路150に対し、フィードバック回路は、VCO103の出力周波数を分周した周波数に基づいてモニタ電圧Vfmoを生成することが相違する。具体的には、VCO利得制御回路170は、図5のVCO利得制御回路150に対し、分周器115をさらに備える。
【0062】
分周器115でVCO103の出力周波数fを分周することで、低周波用のF/V変換器108を使用することができ、VCO利得制御回路のコストを低減することができる。なお、図12では、図5のVCO利得制御回路150のフィードバック回路に分周器115を配置する構成であるが、図1のVCO利得制御回路100のフィードバック回路に分周器115を配置する構成であってもよい。
【0063】
(発明の効果)
以上の説明から明らかなように、本発明により、VCO利得の非直線性の検出手段としてアナログ‐デジタル変換器を必要とするデジタル信号処理によらず、VCOの出力周波数信号をF/V変換器を介して入力周波数に対応した電圧信号に変換し、入力電圧を増減した基準電圧とF/V変換器の出力と比較して誤差を求め、この誤差信号を入力制御電圧に加減算し、VCOの制御電圧とする方式を基本とし、VCOの回路形式によらずVCO利得の値の調整とVCO利得の非線形性の補正を可能とするVCO利得調整方法および回路を提供することができる。
【0064】
(付録)
本発明に係るVCO利得制御方法及びその回路と、特許文献4との相違点を以下にまとめる。
本発明のVCO利得制御回路と特許文献4に記載される回路とは構造が異なっている。具体的には、特許文献4に記載される回路は、誤差増幅器、第1の傾き・オフセット調整器、及び可変電圧器を含む帰還回路と、入力制御電圧(周波数変調器)を調整する第2の傾き・オフセット調整器で構成される。このため、特許文献4に記載される回路は、周波数-電圧変換器の出力と入力(周波数変調器)との関係、および誤差増幅器の動作特性を考慮し、誤差増幅器の「利得」、第1の傾き・オフセット調整器の「傾き」と「オフセット」、第2の傾き・オフセット調整器の「傾き」と「オフセット」、且つ「可変電圧器」の合計6つのパラメータの調整を行う必要がある。
一方、本発明のVCO利得制御回路は、図1であれば1つの増幅器106を含む帰還回路、図5の回路であればさらに入力制御電圧(Vcont)を調整する利得器112を含む回路で構成される。このため、本発明のVCO利得制御回路は、F/V変換器108の性能で調整が不要なので、「利得α」、「基準電圧VsetまたはVoft」、「利得β」の最大3つのパラメータの調整ですむ。
以上の説明のように、本発明のVCO利得制御回路は、特許文献4に記載される回路に対して、少ないパラメータで入力制御電圧VcontとVCO利得との非線形性を改善できる。さらに、本発明のVCO利得制御回路は、特許文献4に記載される回路では不可能であったVCO利得値の調整も可能となる(前記第2の課題の解決)。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、広い線形性を有し、VCO利得の値を特定の値もしくは可変とするVCOを必要とする発振器を製造する産業で利用される。
【符号の説明】
【0066】
100、150、160、170:VCO利得調整回路
101:入力制御電圧
102:2入力加減算器
103:VCO
104:VCO出力信号(f
105:基準電圧(Vset
106:増幅器(利得α)
107:2入力加減算器
108:F/V変換器
109:VCO入力信号(Vo)
110:電圧(Vre)
111:モニタ電圧(Vfmo
112:利得器(利得又は減衰β)
113:オフセット電圧(Vofs
114:2入力加減算器
115:分周器
図1
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図12