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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023030634
(43)【公開日】2023-03-08
(54)【発明の名称】表面処理鋼板
(51)【国際特許分類】
   C23C 28/00 20060101AFI20230301BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20230301BHJP
   B32B 15/18 20060101ALI20230301BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
C23C28/00 A
B32B15/08 G
B32B15/18
B32B27/18 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021135868
(22)【出願日】2021-08-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】河村 保明
(72)【発明者】
【氏名】東新 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】古賀 敦雄
(72)【発明者】
【氏名】上田 大地
【テーマコード(参考)】
4F100
4K044
【Fターム(参考)】
4F100AA20C
4F100AA25C
4F100AB02C
4F100AB03B
4F100AB11C
4F100AB18A
4F100AB31C
4F100AK36C
4F100AK41C
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10B
4F100CA15C
4F100DE01C
4F100EH71A
4F100EJ64C
4F100GB32
4F100JA12C
4F100JB02C
4F100JG01C
4F100YY00C
4K044AA02
4K044AA06
4K044AB02
4K044BA10
4K044BA12
4K044BA19
4K044BA21
4K044BB03
4K044BC02
4K044BC08
4K044CA11
4K044CA53
(57)【要約】
【課題】温塩水浸漬試験において塗膜におけるブリスターの発生を抑制して耐食性が高められた表面処理鋼板を開示する。
【解決手段】亜鉛含有めっき層を有するめっき鋼板と、前記めっき鋼板の少なくとも一方の主面に設けられた表面処理層と、を有する、表面処理鋼板であって、前記表面処理層が、塗膜を有し、前記塗膜が、バインダー樹脂と、防錆剤と、導電剤と、を含み、前記塗膜の付着量が、2g/m以上30g/m以下であり、前記表面処理鋼板に対して所定のイオン交換水浸漬試験を行った場合に得られる浸漬水の電気伝導度が、10μS/cm以上25μS/cm以下である、表面処理鋼板。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛含有めっき層を有するめっき鋼板と、
前記めっき鋼板の少なくとも一方の主面に設けられた表面処理層と、
を有する、表面処理鋼板であって、
前記表面処理層が、塗膜を有し、
前記塗膜が、バインダー樹脂と、防錆剤と、導電剤と、を含み、
前記塗膜の付着量が、2g/m以上30g/m以下であり、
前記表面処理鋼板に対して下記のイオン交換水浸漬試験を行った場合に得られる浸漬水の電気伝導度が、10μS/cm以上25μS/cm以下である、
表面処理鋼板。
イオン交換水浸漬試験:前記表面処理鋼板を0.5cm×4.5cmの主面サイズに切断したサンプルを100個用意し、用意した100個の前記サンプルのすべてを、50℃の温度及び4μS/cm以下の電気伝導度を有する200mlのイオン交換水に、40kHzの超音波振動付与下で30分間浸漬することで、前記浸漬水を得る。
【請求項2】
前記防錆剤が、以下の性質を有する、
請求項1に記載の表面処理鋼板。
性質:50℃の温度及び4μS/cm以下の電気伝導度を有するイオン交換水に、前記防錆剤を0.1質量%の濃度で溶解させて溶液を得た場合、前記溶液の電気伝導度が100μS/cm以下となる。
【請求項3】
前記導電剤が、ドープ型酸化物粒子、50質量%以上のSiを含有するSi合金、50質量%以上のSiを含有するSi化合物、又は、これらの複合体であり、
前記塗膜における前記導電剤の含有量が、5vol%以上30vol%以下である、
請求項1又は2に記載の表面処理鋼板。
【請求項4】
前記ドープ型酸化物粒子が、ドープ型酸化亜鉛粒子である、
請求項3に記載の表面処理鋼板。
【請求項5】
前記Si合金又は前記Si化合物が、70質量%以上のSiを含有するフェロシリコンである、
請求項3又は4に記載の表面処理鋼板。
【請求項6】
前記防錆剤が、0.5μm以上10μm以下の粒子径を有する非晶質シリカであり、
前記塗膜における前記非晶質シリカの含有量が、5vol%以上30vol%以下である、
請求項1~5のいずれか1項に記載の表面処理鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は表面処理鋼板を開示する。
【0002】
自動車等の構成材として表面処理鋼板が用いられている。表面処理鋼板は、例えば、めっき鋼板と、めっき鋼板の少なくとも一方の主面に設けられた表面処理層とを有する。従来技術においては、表面処理層として塗膜を採用し、且つ、塗膜を構成する成分の種類や含有量や塗膜の厚みを調整することで、表面処理鋼板の溶接性や耐食性を向上させている。
【0003】
例えば、特許文献1には、Zn含有めっき鋼板の少なくとも片面に2層以上の塗膜を形成してなる塗装鋼板において、前記塗膜の最外層を所定の厚みとし、前記塗膜の最外層に所定の非クロム化合物を含ませ、且つ、前記塗装鋼板を所定の条件でイオン交換水に浸漬したときの浸漬水の電気伝導度が30μS/cm以上となるように前記塗膜の構成を工夫することで、塗装鋼板の端面の耐食性を向上させる技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、めっき鋼板の少なくとも片面に塗膜を有する表面処理鋼板において、前記塗膜に、バインダー樹脂と、Vを含む非酸化物セラミックス粒子と、ドープ型酸化亜鉛粒子とを所定量含ませることで、表面処理鋼板の溶接性や耐食性を向上させる技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、金属材の表面に有機皮膜を有する塗装金属材において、前記有機皮膜に、ウレタン結合を有する所定の樹脂と、所定の導電性粒子とを含ませることで、塗装金属材の溶接性や耐食性を向上させる技術が開示されている。
【0006】
また、特許文献4には、金属板の表面に被覆層を有する被覆金属板において、前記被覆層に所定の粒径の導電性粒子を所定量含ませることで、被覆金属板の溶接性や耐食性を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012-136025号公報
【特許文献2】国際公開第2018/092244号
【特許文献3】特開2004-042622号公報
【特許文献4】特開2004-183080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
自動車等の構成材としての表面処理鋼板は、上記したような溶接性や耐食性に加え、電着塗装後の塗膜密着性が要求される場合がある。ここで、電着塗装後の塗膜密着性を評価する試験として温塩水浸漬試験(SDT)がある。本発明者の新たな知見によると、従来の表面処理鋼板においては、SDTの際に塗膜表面にブリスターが発生する場合がある。表面処理鋼板において塗膜表面にブリスターが発生すると、当該ブリスターの部分から赤錆が発生し易い。従来の表面処理鋼板においては、SDTにおけるブリスターの発生を抑制して耐食性を高めることについて、十分な検討がなされておらず、改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、
亜鉛含有めっき層を有するめっき鋼板と、
前記めっき鋼板の少なくとも一方の主面に設けられた表面処理層と、
を有する、表面処理鋼板であって、
前記表面処理層が、塗膜を有し、
前記塗膜が、バインダー樹脂と、防錆剤と、導電剤と、を含み、
前記塗膜の付着量が、2g/m以上30g/m以下であり、
前記表面処理鋼板に対して下記のイオン交換水浸漬試験を行った場合に得られる浸漬水の電気伝導度が、10μS/cm以上25μS/cm以下である、
表面処理鋼板
を開示する。
【0010】
イオン交換水浸漬試験:前記表面処理鋼板を0.5cm×4.5cmの主面サイズに切断したサンプルを100個用意し、用意した100個の前記サンプルのすべてを、50℃の温度及び4μS/cm以下の電気伝導度を有する200mlのイオン交換水に、40kHzの超音波振動付与下で30分間浸漬することで、前記浸漬水を得る。
【0011】
本開示の表面処理鋼板において、
前記防錆剤が、以下の性質を有するものであってもよい。
【0012】
性質:50℃の温度及び4μS/cm以下の電気伝導度を有するイオン交換水に、前記防錆剤を0.1質量%の濃度で溶解させて溶液を得た場合、前記溶液の電気伝導度が100μS/cm以下となる。
【0013】
本開示の表面処理鋼板において、
前記導電剤が、ドープ型酸化物粒子、50質量%以上のSiを含有するSi合金、50質量%以上のSiを含有するSi化合物、又は、これらの複合体であってもよく、
前記塗膜における前記導電剤の含有量が、5vol%以上30vol%以下であってもよい。
【0014】
本開示の表面処理鋼板において、
前記ドープ型酸化物粒子が、ドープ型酸化亜鉛粒子であってもよい。
【0015】
本開示の表面処理鋼板において、
前記Si合金又は前記Si化合物が、70質量%以上のSiを含有するフェロシリコンであってもよい。
【0016】
本開示の表面処理鋼板において、
前記防錆剤が、0.5μm以上10μm以下の粒子径を有する非晶質シリカであってもよく、
前記塗膜における前記非晶質シリカの含有量が、5vol%以上30vol%以下であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本開示の表面処理鋼板は、SDTにおけるブリスターの発生が抑制され、優れた耐食性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、これらの説明は、本発明の実施形態の単なる例示を意図するものであって、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0019】
1.表面処理鋼板
本実施形態に係る表面処理鋼板は、亜鉛含有めっき層を有するめっき鋼板と、前記めっき鋼板の少なくとも一方の主面に設けられた表面処理層と、を有する。前記表面処理層は、塗膜を有する。前記塗膜は、バインダー樹脂と、防錆剤と、導電剤と、を含む。前記塗膜の付着量は、2g/m以上30g/m以下である。本実施形態に係る表面処理鋼板に対して下記のイオン交換水浸漬試験を行った場合に得られる浸漬水の電気伝導度は、10μS/cm以上25μS/cm以下である。
【0020】
イオン交換水浸漬試験:前記表面処理鋼板を0.5cm×4.5cmの主面サイズに切断したサンプルを100個用意し、用意した100個の前記サンプルのすべてを、50℃の温度及び4μS/cm以下の電気伝導度を有する200mlのイオン交換水に、40kHzの超音波振動付与下で30分間浸漬することで、前記浸漬水を得る。
【0021】
1.1 めっき鋼板
めっき鋼板は、例えば、母材鋼板と、母材鋼板の少なくとも一方の主面に設けられた亜鉛含有めっき層とを有していてよい。本願にいう「主面」とは板の表側又は裏側に相当する面である。亜鉛含有めっき層は、母材鋼板の一方の主面のみに設けられていてもよいし、両方の主面に設けられていてもよい。また、亜鉛含有めっき層は、母材鋼板の主面の全体に設けられていてもよいし、主面の一部に設けられていてもよい。
【0022】
母材鋼板としては、種々の化学組成や金属組織を有するものを採用し得る。母材鋼板は、普通鋼板であっても、クロム等の添加元素を含む鋼板であってもよく、目的とする機械特性や成形性等を考慮して母材鋼板の化学組成や金属組織を調整すればよい。また、母材鋼板の厚みも特に限定されるものではなく、例えば、0.2mm以上であってもよく、6.0mm以下であってもよい。
【0023】
亜鉛含有めっき層は、当業者に公知の化学組成を有するめっき層であってよい。例えば、亜鉛含有めっき層は、Zn以外にAl等の添加元素を含んでいてよく、また、合金化処理が施されてなる場合はFe等を含んでいてよい。一例として、亜鉛含有めっき層は、少なくともAlとMgとを含有するZn-Al-Mg合金めっき層であってもよく、さらにSiを含有するZn-Al-Mg-Si合金めっき層であってもよい。これらの各含有量(濃度)は、質量%で、Al:0.01~60%、Mg:0.001~10%、Si:0~2%であってよく、残部がZn及び不純物であってよい。亜鉛含有めっき層は、合金化溶融亜鉛めっき層、溶融亜鉛めっき層又は電気亜鉛めっき層であってもよい。母材鋼板に対する亜鉛含有めっき層の付着量は特に限定されるものではなく、一般的な付着量であってよい。
【0024】
1.2 表面処理層
表面処理層は、めっき鋼板の少なくとも一方の主面に設けられる。表面処理層は、めっき鋼板の一方の主面のみに設けられていてもよいし、両方の主面に設けられていてもよい。また、表面処理層は、めっき鋼板の主面の全体に設けられていてもよいし、主面の一部に設けられていてもよい。表面処理層は、上記のめっき鋼板の表面のうち、亜鉛含有めっき層の表面に積層され得る。
【0025】
表面処理層は、塗膜を有する。また、表面処理層は、塗膜のみからなるものであってもよいし、外層としての塗膜と、内層としての化成処理層と、の二層構成を有するものであってもよい。表面処理層が当該二層構成を有するものである場合、より優れた耐食性等を発揮し得る。一方で、表面処理層が内層としての化成処理を有していない場合、より優れたスポット溶接性を発揮し得る。
【0026】
1.2.1 塗膜
本実施形態に係る表面処理鋼板において、塗膜は、バインダー樹脂と、防錆剤と、導電剤と、を含む。
【0027】
(バインダー樹脂)
塗膜に含まれるバインダー樹脂は、例えば、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂及びアクリル樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂であってよい。バインダー樹脂としてポリエステル樹脂が採用される場合、当該ポリエステル樹脂は、-20~70℃のガラス転移温度Tgを有するものであってもよく、3000~30000の数平均分子量を有するものであってもよい。バインダー樹脂としてウレタン樹脂が採用される場合、当該ウレタン樹脂は、0~50℃のTgを有するものであってもよく、5000~25000の数平均分子量を有するものであってもよい。バインダー樹脂としてアクリル樹脂が採用される場合、当該アクリル樹脂は、0~50℃のTgを有するものであってもよく、3000~25000の数平均分子量を有するものであってもよい。バインダー樹脂は硬化剤によって硬化されたものであってもよい。硬化剤としては、例えば、メラミン樹脂、イソシアネート樹脂、又はエポキシ樹脂等が採用され得る。塗膜におけるバインダー樹脂の含有量は、特に限定されるものではなく、例えば、50vol%以上又は60vol%以上であってもよく、90vol%以下、80vol%以下又は70vol%以下であってもよい。
【0028】
(防錆剤)
塗膜に含まれる防錆剤は、無機防錆剤であってもよいし、有機防錆剤であってもよい。防錆剤の形態は、例えば、粒子状であってよい。防錆剤は水溶性であっても非水溶性であってもよい。特に、本実施形態に係る表面処理鋼板においては、塗膜に含まれる防錆剤として水に対する溶解性が低いものを採用するとよい。具体的には、防錆剤は、以下の性質を有するものであってよい。
【0029】
性質:50℃の温度及び4μS/cm以下の電気伝導度を有するイオン交換水に、前記防錆剤を0.1質量%の濃度で溶解させて溶液を得た場合、前記溶液の電気伝導度が100μS/cm以下となる。
【0030】
防錆剤の上記性質に関して、上記溶液の電気伝導度が大き過ぎる場合、塗膜に含まれる防錆剤が過剰に溶出し易く、後述するように温塩水浸漬試験(SDT)において塗膜にブリスターが発生し易くなる。この点、上記の溶液の電気伝導度が100μS/cm以下である場合、ブリスター発生の問題を回避し易い。上記の溶液の電気伝導度は、90μS/cm以下、80μS/cm以下、70μS/cm以下、60μS/cm以下、50μS/cm以下、40μS/cm以下、30μS/cm以下又は20μS/cm以下であってもよい。上記の溶液の電気伝導度の下限は、特に限定されるものではないが、例えば、1μS/cm以上、5μS/cm以上又は10μS/cm以上であってもよい。
【0031】
本実施形態に係る表面処理鋼板においては、防錆剤が上記の性質を有する場合、当該表面処理鋼板に対して上記のイオン交換水浸漬試験を行った場合に得られる浸漬水の電気伝導度が10μS/cm以上25μS/cm以下の範囲に制御され易くなる。このような性質を有する防錆剤としては、種々のものが挙げられる。
【0032】
例えば、防錆剤は、防錆機能を発揮する元素であるP及びVのうちの少なくとも1種を含むものであってもよい。Pを含む防錆剤としては、例えば、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸等のリン酸類、リン酸三アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム等のアンモニウム塩、Na、Mg、Al、K、Ca、Mn、Ni、Zn、Fe等との金属リン酸塩、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)等のホスホン酸類及びそれらの塩、フィチン酸等の有機リン酸類及びそれらの塩等が挙げられるが、本実施形態に係る表面処理鋼板においては、これらの中から、上記の性質を満たす防錆剤を選択するとよい。また、Vを含む防錆剤としては、五酸化バナジウム、メタバナジン酸HVO3、メタバナジウム酸アンモニウム、オキシ三塩化バナジウムVOCl、三酸化バナジウムV、二酸化バナジウム、オキシ硫酸バナジウムVOSO、バナジウムオキシアセチルアセトネートVO(OC(=CH)CHCOCH、バナジウムアセチルアセトネートV(OC(=CH)CHCOCH、三塩化バナジウムVCl等が挙げられるが、本実施形態に係る表面処理鋼板においては、これらの中から、上記の性質を満たす防錆剤を選択するとよい。
【0033】
防錆剤は、グアニジノ基含有化合物、ピグアニジノ基含有化合物、チオカルボニル基含有化合物等を含むものであってもよい。
【0034】
防錆剤として防錆顔料を用いることもできる。防錆顔料としては、シリカ粒子やリン酸金属塩(例えば、トリポリリン酸アルミニウム等)等が挙げられる。防錆剤として防錆顔料を用いる場合、その粒子径や含有量は特に限定されるものではない。特に、防錆剤が非晶質シリカである場合、中でも、0.5μm以上10μm以下の粒子径を有する非晶質シリカである場合、当該非晶質シリカの水に対する溶解性が低いこともあり、温塩水浸漬試験(SDT)におけるブリスターの発生がより抑制され易い。この場合、塗膜における非晶質シリカの含有量は、例えば、5vol%以上30vol%以下であってもよい。防錆剤としてシリカを採用する場合、当該シリカは、イオン交換によって一部元素がカルシウム等の他の元素に交換されたものであってもよい。シリカは、カルシウム等の他の元素によるイオン交換率の大小によって、水に対する溶解性が変化し得る。シリカに対して他の元素をイオン交換する場合は、水に対する溶解性が大きくなり過ぎないよう、イオン交換率を制御するとよい。
【0035】
塗膜における防錆剤の含有量は、目的とする防錆効果に応じて調整され得る。本実施形態に係る表面処理鋼板においては、当該表面処理鋼板に対して上記のイオン交換水浸漬試験を行った場合に得られる浸漬水の電気伝導度が10μS/cm以上25μS/cm以下となるように、防錆剤の含有量が制限される。塗膜における防錆剤の含有量は、防錆剤の種類にもよるが、例えば、0.5vol%以上、1vol%以上又は5vol%以上であってもよく、40vol%以下、30vol%以下又は20vol%以下であってもよい。
【0036】
(導電剤)
塗膜に含まれる導電剤は、塗膜の導電性を向上させて、表面処理鋼板の溶接性を向上させる機能を有する。本願においては、例えば、1.0×10Ω/cm以下の体積抵抗率を有するものが導電剤となり得る。導電剤としては、例えば、金属や金属化合物が挙げられる。具体的には、マグネシウム、アルミニウム、シリコン、カルシウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ストロンチウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、インジウム、錫等の金属;マグネシウム、アルミニウム、シリコン、リン、カルシウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ヒ素、ストロンチウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、インジウム、錫、アンチモン、テルル等の合金;又は上記した金属元素の酸化物等の化合物であってよい。中でも、マグネシウム、アルミニウム、シリコン、クロム、鉄、ニッケル、亜鉛、錫、亜鉛-アルミニウム合金、亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金、亜鉛-アルミニウム-マグネシウム-シリコン合金、亜鉛-鉄合金、亜鉛-クロム合金、亜鉛-ニッケル合金、鉄-ニッケル合金、鉄-クロム合金、ステンレス鋼、フェロシリコン、フェロマンガン、フェロホスホル、酸化亜鉛等が入手し易い。塗膜における導電剤の含有量は特に限定されるものではなく、目的とする溶接性と耐食性とを考慮して適宜決定されればよい。
【0037】
特に、導電剤が、ドープ型酸化物粒子、50質量%以上のSiを含有するSi合金、50質量%以上のSiを含有するSi化合物、又は、これらの複合体である場合、導電性(溶接性)とともに塗膜に対する電着塗装膜の密着性等を向上させ易い。この場合、塗膜における導電剤の含有量は、5vol%以上又は10vol%以上であってもよく、30vol%以下又は25vol%以下であってもよい。
【0038】
導電剤がドープ型酸化物粒子である場合、当該ドープ型酸化物粒子の具体例としては、ドープ型酸化亜鉛粒子が挙げられる。ドープ型酸化亜鉛粒子としては、例えば、B、Al、Ga、In等の周期表13族元素、及び、P、As等の周期表15族元素よりなる群から選ばれる少なくとも一種のドープ元素を、酸化亜鉛粒子にドープすることによって導電性を向上させたものが挙げられる。ドープ元素がAl又はGaである場合、導電性を一層向上させ易い。ドープ元素の含有量は、未ドープの酸化亜鉛粒子に対して、例えば、0.05atom%以上又は0.1atom%以上であってよく、5atom%以下であってよい。
【0039】
導電剤がSi合金又はSi化合物である場合、当該Si合金又はSi化合物の具体例としては、70質量%以上のSiを含有するフェロシリコンが挙げられる。塗膜に導電剤としてフェロシリコンを含ませることで、導電性とともに耐食性を向上させ易い。特に、70質量%以上のSiを含有するフェロシリコンは、耐食性と成形性とに優れる。
【0040】
導電剤は例えば粒子状であってよい。導電剤が粒子状である場合、その平均粒子径は、特に限定されるものではなく、塗膜の厚み等を考慮して適切な大きさのものが選択されればよい。導電剤の粒子径が塗膜に対して小さ過ぎると、導電性が低下し易い。一方で、導電剤の粒子径が塗膜の厚みに対して大き過ぎると、導電剤が塗膜から欠落し易くなる。この点、導電剤の粒子径は、塗膜の厚みの1/10以上又は1/5以上であってよく、また、2倍以下であってよい。導電剤の平均粒子径は、例えば、0.1μm以上、0.3μm以上、0.5μm以上又は1.0μm以上であってもよく、また、20μm以下、10μm以下、8.0μm以下、6.0μm以下、5.0μm以下、4.0μm以下又は2.5μm以下であってもよい。尚、「平均粒子径」とは、塗膜に存在する粒子が一次粒子として存在する場合は平均一次粒子径をいい、凝集して存在する場合は平均二次粒子径をいう。平均粒子径は、以下の通りにして測定する。すなわち、塗膜が形成された表面処理鋼板を切断し、その断面を露出させたうえで研磨し、このようにして得られた研磨後断面を走査型電子顕微鏡で観察して、観察像を得る。観察像の視野に存在する粒子から数個を任意に選び出し、それぞれの粒子の円相当直径を求め、その平均値を平均粒子径とする。観察像中の粒子が導電剤であるか否かは、元素分析等を行うことで容易に判断することができる。
【0041】
(付着量)
本実施形態に係る表面処理鋼板において、塗膜の付着量は、2g/m以上30g/m以下である。塗膜の付着量が少な過ぎると、耐食性が低下し易い。塗膜の付着量が多過ぎると、溶接性が低下し易い。本実施形態に係る表面処理鋼板において、塗膜の付着量は3g/m以上又は4mg/m以上であってもよく、また、25g/m以下、20g/m以下又は15g/m以下であってもよい。尚、表面処理鋼板における塗膜の付着量は、重量法や断面観察によって測定することができる。重量法での付着量測定としては、所定サイズに切断した鋼板の初期重量を測定した後、バインダー樹脂を溶解可能な溶剤や専用の薬剤を用いて塗膜を取り除く方法や樹脂ビーズ、アルミナビーズを用いたブラスト処理により塗膜を取り除く方法、を用いることで塗膜を取り除いた鋼板の重量測定を行い、これら差分を求めることで算出することが可能である。
【0042】
1.2.2 化成処理層
本実施形態に係る表面処理鋼板において、表面処理層は、上記の塗膜に加えて、化成処理層を含んでいてもよい。すなわち、表面処理層は、外層としての塗膜と、内層としての化成処理層との二層構成を有するものであってもよい。
【0043】
めっき鋼板の表面に内層として化成処理層を設け、さらに当該化成処理層の表面に上述の塗膜を設けることで、鋼板に対する塗膜の密着性等が向上する。化成処理層は、クロムを実質的に含有しない層(クロメートフリー層)であってもよい。化成処理に用いられるクロメートフリーの処理液としては、液相シリカ、気相シリカ、ケイ酸塩等のケイ素化合物を主成分とするシリカ系処理液、ジルコン系化合物を主成分とするジルコン系処理液、これらの混合物等が挙げられる。化成処理層はバインダー樹脂を含んでいてもよい。例えば、化成処理層は、上述の塗膜を構成し得るバインダー樹脂として例示されたもののうちの少なくとも1種を含んでいてもよく、ポリエステル樹脂を含んでいてもよい。化成処理層におけるバインダー樹脂の含有量やバインダー樹脂以外の成分(上記のケイ素化合物等)の含有量は、特に限定されるものではない。例えば、化成処理層におけるバインダー樹脂の含有量は0vol%以上50vol%以下であってもよく、また、バインダー樹脂以外の成分の含有量は50vol%以上100vol%以下であってもよい。内層としての化成処理層は、バインダーとして無機成分を含む無機系の皮膜であってもよい。
【0044】
表面処理鋼板において、化成処理層の付着量は、特に限定されるものではない。例えば、化成処理層の付着量が、200mg/m以上2000mg/m以下である場合、表面処理鋼板の耐食性を一層向上させ易い。尚、表面処理鋼板における化成処理層の付着量は、蛍光X線ならびに断面分析によって測定することができる。具体的には、各化成処理に対して検量線板を作製する。化成処理板ならびに検量線板を蛍光X線で測定し、含有される元素のX線強度と検量線板のX線強度より、作製した化成処理板の付着量を算出する。
【0045】
1.2.3 その他
塗膜や化成処理層には、上記した成分以外のその他の成分が含まれていてもよい。その他の成分としては、各種添加剤が挙げられる。例えば、上記した防錆顔料以外の顔料(意匠性の向上を目的とした光輝顔料等)、潤滑剤、消泡剤、増粘剤等である。表面処理層におけるその他の成分の含有量は特に限定されるものではない。
【0046】
1.3 イオン交換水浸漬試験における浸漬水の電気伝導度
本実施形態に係る表面処理鋼板は、当該表面処理鋼板に対して上記のイオン交換水浸漬試験を行った場合に得られる浸漬水の電気伝導度が、10μS/cm以上25μS/cm以下である。当該浸漬水の電気伝導度は、11μS/cm以上、12μS/cm以上又は13μS/cm以上であってもよく、24μS/cm以下、23μS/cm以下又は22μS/cm以下であってもよい。
【0047】
表面処理鋼板に設けられる塗膜は、一般的に、水蒸気等の水分を不可避的に透過し得るものである。塗膜への水分の侵入によって防錆剤等が溶出して防錆機能や塗膜の密着機能が発現し得る。上記のイオン交換水浸漬試験によって得られる浸漬水の電気伝導度が高い場合とは、表面処理鋼板の塗膜に、水に対する溶解性が高くイオンとして溶出し易い防錆剤等が含まれていることを意味する。本発明者の知見によると、上記のイオン交換水浸漬試験によって得られる浸漬水の電気伝導度が大き過ぎる場合(すなわち、イオンとして過剰に溶出し易い防錆剤等が塗膜に含まれる場合)、塗膜に水分が浸入した場合に防錆剤の溶出によって耐食性等の向上が期待される一方で、当該塗膜において局所的にイオン濃度が高い領域が生じ得る。当該領域は、温塩水浸漬試験(SDT)における温塩水よりもイオン濃度が高いことから、SDT時に浸透圧の関係で当該領域へと水分が浸入していき、塗膜に局所的なブリスターが発生し易い。ブリスター発生場所としては、より表面自由エネルギーの高い塗膜/化成処理層界面または、塗膜/めっき鋼板界面で発生し易い。特に、塗膜の上に電着塗装が施されている場合は、塗膜から塗膜外への水の排出がさらに抑制されることから、ブリスターの発生が一層顕著となる。塗膜においてブリスターが発生した場所は、乾燥後空洞となり、腐食試験を実施すると、空洞部に腐食因子が滞留するため、これを起点として赤錆等が発生し易くなる。これに対し、本実施形態に係る表面処理鋼板は、上記のイオン交換水浸漬試験を行った場合に、浸漬水の電気伝導度が25μS/cm以下となるような性質を有することから、塗膜に水分が侵入しても、当該塗膜中に局所的にイオン濃度が高い領域が生じ難く、結果として、SDT後においてもブリスターが発生し難い。
【0048】
一方で、上記のイオン交換水浸漬試験によって得られる浸漬水の電気伝導度が小さ過ぎる場合、塗膜に水分が侵入したとしても塗膜における防錆剤等の溶出が生じず、防錆機能や密着性向上機能が発揮され難い。これに対し、本実施形態に係る表面処理鋼板は、上記のイオン交換水浸漬試験を行った場合に、浸漬水の電気伝導度が10μS/cm以上となるような性質を有することから、塗膜に水分が侵入した場合に、防錆剤等をある程度溶出させることができ、十分な防錆機能や密着性向上機能が発揮される。
【0049】
表面処理鋼板に対するイオン交換水浸漬試験における浸漬水の電気伝導度は、上述したように、塗膜に含まれる防錆剤の性質、塗膜に含まれる防錆剤の含有量、塗膜の厚み(付着量)等によって制御され得る。
【0050】
2.表面処理鋼板の製造方法
上記の表面処理鋼板は、例えば、以下の方法によって製造することができる。すなわち、表面処理鋼板の製造方法は、
亜鉛含有めっき層を有するめっき鋼板を得ること、及び、
前記めっき鋼板の少なくとも一方の主面にバインダー樹脂と、防錆剤と、導電剤とを含む塗料を塗布することで、塗膜を形成すること、
を含んでいてもよい。
【0051】
或いは、表面処理鋼板の製造方法は、
亜鉛含有めっき層を有するめっき鋼板を得ること、
前記めっき鋼板の少なくとも一方の主面に化成処理を施すことで、化成処理層を形成すること、及び、
前記化成処理層の表面にバインダー樹脂と、防錆剤と、導電剤とを含む塗料を塗布することで、塗膜を形成すること、
を含んでいてよい。
【0052】
2.1 めっき鋼板の作製
亜鉛含有めっき層を有するめっき鋼板は、例えば、連続鋳造によってスラブを得ること、前記スラブに対して熱間圧延を施して熱延板を得ること、前記熱延板を巻き取ること、前記熱延板に対して冷間圧延を施して冷延版を得ること、前記冷延板を焼鈍すること、焼鈍後の板に対してめっき処理を施すこと、及び、任意にスキンパスを行うこと、等を経て得ることができる。連続鋳造条件、熱間圧延条件、巻き取り条件、冷間圧延条件、焼鈍条件、及び、めっき条件については、従来公知の一般的な条件であってよい。
【0053】
2.2 化成処理
本開示の製造方法においては、上記のようにして得られためっき鋼板の少なくとも一方の主面に化成処理を施すことで、内層としての化成処理層を形成してもよい。化成処理は、上述したような各種の処理液を鋼板表面に塗布して乾燥することによって行うことができる。
【0054】
2.3 塗膜の形成
本開示の製造方法においては、上記のようにして得られためっき鋼板の表面、又は、上記のようにして形成された化成処理層の表面に、バインダー樹脂、防錆剤及び導電剤を含む塗料を塗布して乾燥することで、外層としての塗膜を形成してもよい。ここで、塗膜に含まれる防錆剤の種類、防錆剤の含有量、塗膜の厚み等を調整することで、上記のイオン交換水浸漬試験において浸漬水の電気伝導度が所定の範囲内となる表面処理鋼板を得ることができる。
【実施例0055】
以下、実施例を示しつつ本発明についてさらに説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱せず、その目的を達する限りにおいては、種々の条件を採用可能とするものである。
【0056】
1.表面処理鋼板の製造
1.1 めっき鋼板の準備
以下の5種の亜鉛系めっき鋼板と冷延鋼板を準備し、水系アルカリ脱脂剤(日本パーカライジング(株)製FC-301)の水溶液(濃度2.5質量%、40℃)に2分間浸漬して表面を脱脂した後、水洗、乾燥して表面処理用の金属板とした。
【0057】
GA:合金化溶融亜鉛めっき鋼板(板厚0.8mm、10質量%Fe、めっき付着量45g/m
ZL:電気Zn-10質量%Ni合金めっき鋼板(板厚0.8mm、めっき付着量40g/m
GI:溶融亜鉛めっき鋼板(板厚0.8mm、めっき付着量60g/m
EG:電気亜鉛めっき鋼板(板厚0.8mm、めっき付着量40g/m
CR:冷延鋼板(板厚0.8mm)
【0058】
1.2 化成処理層の形成
次に、一部の金属板について化成処理層を形成した。具体的には、以下の化成処理用の処理液Sを準備し、この組成物を乾燥後の付着量が500mg/mとなるようにバーコートの番手を変更し、金属板上に塗布し、これを熱風炉にて金属表面到達温度70℃で乾燥し、風乾することで、金属板の表面に化成処理層を形成した。
【0059】
S:Zr化合物、シランカップリング剤、シリカ微粒子、ポリエステル樹脂からなるNv10%の下層処理皮膜形成用の処理液
【0060】
1.3 塗膜の形成
次に、表1に示される組成(vol%)を有する塗膜を形成するため、表1と同様の固形分濃度となるように各成分を混合し、塗膜形成用の塗料組成物を準備した。この組成物を表2に記載の付着量となるようにバーコートの番手や希釈率を変更しつつ、鋼板又は化成処理層上にバーコータで塗布し、最高到達温度200℃となる条件でオーブンを用いて乾燥することにより、表面処理層として塗膜を有する表面処理鋼板を得た。尚、塗料組成物に含まれる成分を以下に示す。
【0061】
(防錆顔料)
PA :トリポリリン酸アルミニウム(平均粒径1~2μm)
PM :リン酸マグネシウム(平均粒径1~2μm)
SC1:カルシウムイオン交換シリカ(Ca交換率6%)(平均粒径1~2μm)
SC2:カルシウムイオン交換シリカ(Ca交換率9%)(平均粒径1~2μm)
Si :シリカ(吸油量100~1000ml/100g、比表面積200~1000m/g、平均粒径1~30μmの非晶質シリカ)(富士シリシア製サイロマスク02)
HP :ハイドロカルマイト処理されたリン酸亜鉛(東邦顔料製EXPERT NP-530 N5)(平均粒径1~2μm)
PN :三リン酸五ナトリウム(一般試薬)(平均粒径3~5μm)
PK :リン酸二水素カリウム(一般試薬)(平均粒径3~5μm)
CS :クロム酸ストロンチウム(平均粒径2~3μm)
【0062】
尚、上記の防錆顔料の各々について、50℃の温度及び4μS/cm以下の電気伝導度を有するイオン交換水に0.1質量%の濃度で溶解させて溶液を得た場合における、当該溶液の電気伝導度の測定結果を表3に示す。
【0063】
(導電顔料)
FeSi:フェロシリコン粒子(平均粒径3~7μm)
SUS :SUS粒子(平均粒径3~7μm)
ZnO :ドープ型酸化亜鉛粒子導電性酸化亜鉛粒子(ハクスイテック(株)23-Kt(平均粒径=0.5μm))
【0064】
(バインダー樹脂)
B1:ポリエステル樹脂(東洋紡社製バイロン200)にメラミン(三井サイテック社製サイメル325)を固形分比率で70:30にブレンドした樹脂を用いた。
B2:水系エポキシ樹脂(ADEKA社製0434AN)
【0065】
2.性能評価試験
2.1 イオン交換水浸漬試験(浸漬水の電気伝導度)
(1)各々の表面処理鋼板について、0.5cm×4.5cmの主面サイズ(端面長さの和は10cm)の試験片をシャーリングにて100個ずつ切り出した(各サンプルにおける合計端面長さは10cm×100=10m)。
(2)これら100個の試験片を、超音波振動装置に載置したビーカー内の50℃のイオン交換水200ml中に一緒に浸漬した。
(3)50℃の温度を保持したまま、ビーカーに40kHzの超音波振動を30分間付与した。尚、超音波振動装置としてアズワン社製US CLEANERを使用した。
(4)超音波振動の付与が終了した後、試験片を直ちに取り除き、得られた水溶液(浸漬水)を用いて、電気伝導度計(堀場製作所社製D-54SE)にて電気伝導度を測定した。
【0066】
2.2 温塩水浸漬試験
(事前準備)
各々の表面処理鋼板に対して、日本パーカライジング株式会社製の表面調整処理剤プレパレンX(商品名)を用いて、表面調整を室温で20秒実施した。更に、日本パーカライジング株式会社製の化成処理液(リン酸亜鉛処理液)「パルボンド3020(商品名)」を用いて、化成処理(リン酸塩処理)を実施した。化成処理液の温度は43℃とし、表面処理鋼板を化成処理液に120秒間浸漬後、水洗・乾燥を行った。その後、上記化成処理(リン酸塩処理)を実施した後、日本ペイント株式会社製のカチオン型電着塗料を、電圧160Vのスロープ通電で電着塗装し、更に、焼き付け温度170℃で20分間焼き付け塗装した。電着塗装後の電着塗装膜の膜厚の平均は、いずれのサンプルも10μmであった。
【0067】
(温塩水浸漬試験(SDT))
上記電着塗装後、表面処理鋼板の端面をシールテープし、50℃の温度を有する3%NaCl水溶液に、500時間浸漬した。浸漬試験後取り出したサンプルを乾燥し、電着塗膜表面に存在するブリスターの面積率を目視で測定した。かかる耐食性試験において、「3」、「4」又は「5」である場合、耐食性に優れると判断した。結果を表2に示す。
1:評価面からのブリスター面積率が50%以上
2:評価面からのブリスター面積率が5%以上50%未満
3:評価面からのブリスター面積率が1%以上5%未満
4:評価面からブリスターが発生するものの、その面積率が1%未満
5:ブリスター発生なし
【0068】
2.3 温塩水試験後耐食性試験
温塩水浸漬試験後の電着塗装を施した表面処理鋼板に対して、下記サイクル条件のサイクル腐食試験を120サイクル実施した。
【0069】
(サイクル条件)
塩水噴霧(SST、5%NaCl、35℃雰囲気)2hr、乾燥(60℃)2hr、及び湿潤(50℃、98%RH)4hrを1サイクルとして、実施した。
【0070】
その後、平面部からの腐食状況を観察し、下記評点を付与した。かかる耐食性試験において、「3」、「4」又は「5」である場合、耐食性に優れると判断した。結果を表2に示す。
1:評価面からの白錆発生面積率が50%以上又は、評価面からの赤錆発生が確認
2:評価面からの白錆発生面積率が10%以上50%未満
3:評価面からの白錆発生面積率が5%以上10%未満
4:評価面からの白錆発生面積率が1%以上5%未満
5:評価面からの白錆発生面積率が1%未満
【0071】
2.4 スポット溶接性
作製した表面処理を、先端径5mm、R40のCF型Cr-Cu電極を用い、加圧力1.96kN、溶接電流8kA、通電時間12サイクル/50Hzにてスポット溶接の連続打点性試験を行い、ナゲット径が3√t(tは板厚)を下回る直前の打点数を求めた。以下の評価点を用いてスポット溶接性の優劣を評価した。かかる溶接性試験において、「4」、「5」又は「6」である場合、溶接性に優れると判断した。結果を表2に示す。
1:ナゲットが生成せず1点も溶接できない、又は、打点数が10打点未満
2:打点数が10打点以上50打点未満
3:打点数が50打点以上200打点未満
4:打点数が200点以上1000打点未満
5:打点数が1000点以上2000打点未満
6:打点数が2000点以上
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【0075】
表1~3に示される結果から以下のことが分かる。
【0076】
表2のNo.3~9については、イオン交換水浸漬試験によって得られる浸漬水の電気伝導度が高過ぎたため、温水浸漬試験においてブリスターが発生し、温水浸漬試験後の耐食性が低下した。これは以下のメカニズムによるものと推定される。すなわち、イオン交換水浸漬試験によって得られる浸漬水の電気伝導度が高い場合とは、塗膜に含まれる防錆剤がイオンとして溶出し易い防錆剤(PM、SC1、SC2、HP、PN、PK、CS)である場合を意味する。この場合、塗膜に水分が侵入した際、防錆剤の過剰な溶出によって、当該塗膜において局所的にイオン濃度が高い領域が生じ得る。当該領域は、温塩水浸漬試験における温塩水よりもイオン濃度が高いことから、試験時に浸透圧の関係で当該領域へと水分が侵入していき、塗膜に局所的なブリスターが発生する。特に、上記の例のように、塗膜の上に電着塗装が施されている場合は、塗膜から塗膜外への水の排出がさらに抑制されることから、ブリスターの発生が一層顕著となる。このように、塗膜にブリスターが発生すると、当該ブリスターの部分が空洞化する等して、これを起点として赤錆等が発生する。
【0077】
No.25については、塗膜中に導電顔料が含まれていないことから、塗膜に必要な導電性が確保できず、溶接性が低下した。
【0078】
No.31については、塗膜の付着量が多過ぎたため、スポット溶接時の導電パスが得られ難くなり、表面処理鋼板の溶接性が低下した。
【0079】
No.33については、塗膜の付着量が少な過ぎたため、表面処理鋼板の温水浸漬試験後の耐食性が低下した。
【0080】
No.38については、基材としての亜鉛含有めっき層を有しない鋼板を用いたことから、温水浸漬試験後の耐食性が低下した。
【0081】
これに対し、No.1、2、10~24、26~30、32、34~37については、基材として亜鉛含有めっき層を有する鋼板を用い、塗膜の付着量が所定範囲内であり、且つ、イオン交換水浸漬試験によって得られる浸漬水の電気伝導度が所定範囲内であったため、温水浸漬試験におけるブリスターの発生が抑制され、また、温水浸漬試験後も十分な耐食性が確保され、さらに、溶接性にも優れていた。
【0082】
以上の結果から、以下の表面処理鋼板は、温塩水浸漬試験におけるブリスターの発生が抑制され、優れた耐食性を有し、さらには、優れた溶接性を有するものといえる。
【0083】
亜鉛含有めっき層を有するめっき鋼板と、
前記めっき鋼板の少なくとも一方の主面に設けられた表面処理層と、
を有する、表面処理鋼板であって、
前記表面処理層が、塗膜を有し、
前記塗膜が、バインダー樹脂と、防錆剤と、導電剤と、を含み、
前記塗膜の付着量が、2g/m以上30g/m以下であり、
前記表面処理鋼板に対して下記のイオン交換水浸漬試験を行った場合に得られる浸漬水の電気伝導度が、10μS/cm以上25μS/cm以下である、
表面処理鋼板。
イオン交換水浸漬試験:前記表面処理鋼板を0.5cm×4.5cmの主面サイズに切断したサンプルを100個用意し、用意した100個の前記サンプルのすべてを、50℃の温度及び4μS/cm以下の電気伝導度を有する200mlのイオン交換水に、40kHzの超音波振動付与下で30分間浸漬することで、前記浸漬水を得る。
【0084】
尚、No.13に示される結果から、塗膜に含まれる防錆剤の水に対する溶解性がやや高い(溶液の電気伝導度が100μS/cm近傍)場合であったとしても、その含有量を抑えることで、イオン交換水浸漬試験によって得られる浸漬水の電気伝導度が所定範囲内となり、温水浸漬試験におけるブリスターの発生が抑制され、また、温水浸漬試験後も耐食性が確保され、さらに、溶接性も確保できることが分かる。No.13等の結果からすると、表面処理鋼板において、塗膜に含まれる防錆剤は、以下の性質を有するものが好ましいといえる。
【0085】
性質:50℃の温度及び4μS/cm以下の電気伝導度を有するイオン交換水に、前記防錆剤を0.1質量%の濃度で溶解させて溶液を得た場合、前記溶液の電気伝導度が100μS/cm以下となる。