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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023030651
(43)【公開日】2023-03-08
(54)【発明の名称】ロータリ圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04C 29/00 20060101AFI20230301BHJP
   F04C 18/356 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
F04C29/00 C
F04C18/356 H
F04C29/00 U
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021135893
(22)【出願日】2021-08-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006611
【氏名又は名称】株式会社富士通ゼネラル
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片山 大輝
(72)【発明者】
【氏名】古川 基信
【テーマコード(参考)】
3H129
【Fターム(参考)】
3H129AA05
3H129AB03
3H129BB31
3H129BB32
3H129BB43
3H129CC03
3H129CC38
(57)【要約】
【課題】冷媒を圧縮する効率を向上させる。
【解決手段】ロータリ圧縮機は、上偏心軸部分を有する駆動軸と、駆動軸を回転させるモータと、駆動軸が回転することにより冷媒を圧縮する圧縮部とを備えている。圧縮部は、上シリンダ121Tと上ピストン125Tと上シリンダ内周面皮膜41Tとを備えている。上ピストン125Tは、上偏心軸部分に嵌合し、駆動軸が回転することにより、上シリンダ121Tの内部に形成される上シリンダ室で公転する。上シリンダ内周面皮膜41Tは、上シリンダ121Tのうちの上ピストン125Tに対向する上シリンダ121Tの内周面129Tを被覆する。上シリンダ内周面皮膜41Tの硬さは、上ピストン125Tの硬さより低い。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏心軸部分を有する駆動軸と、
前記駆動軸を回転させるモータと、
前記駆動軸が回転することにより冷媒を圧縮する圧縮部とを備え、
前記圧縮部は、
シリンダと、
前記偏心軸部分に嵌合し、前記駆動軸が回転することにより、前記シリンダの内部に形成されるシリンダ室で公転するピストンと、
前記シリンダのうちの前記ピストンに対向するシリンダ内周面を被覆する皮膜とを有し、
前記皮膜の硬さは、前記ピストンの硬さより低い
ロータリ圧縮機。
【請求項2】
前記皮膜は、固体潤滑剤から形成される
請求項1に記載のロータリ圧縮機。
【請求項3】
前記皮膜は、リン酸塩を含有する
請求項2に記載のロータリ圧縮機。
【請求項4】
前記皮膜は、二硫化モリブデンを含有する
請求項2に記載のロータリ圧縮機。
【請求項5】
前記皮膜の膜厚は、20μm以下である
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のロータリ圧縮機。
【請求項6】
前記シリンダと前記ピストンとは、前記圧縮部が冷媒を圧縮しているときに前記シリンダと前記ピストンとの間の隙間が10μmより狭くならないように、形成される
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のロータリ圧縮機。
【請求項7】
前記皮膜は、前記シリンダ内周面の全部を被覆する
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のロータリ圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータリ圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動軸とシリンダとピストンとベーンとが設けられたロータリ圧縮機が知られている。シリンダの内部に形成されたシリンダ室は、ピストンとベーンとにより、高圧のガス冷媒が充填される圧縮室と、低圧のガス冷媒が充填される吸入室とに区画されている。ピストンは、駆動軸の偏心部分に嵌合し、駆動軸の回転に追従して、シリンダの内部に形成されたシリンダ室で公転する。ロータリ圧縮機は、ピストンが公転することにより、冷媒を圧縮する。ロータリ圧縮機は、ピストンがシリンダ室で適切に公転するように、ピストンの外周面とシリンダの内周面との間に、予め定められた大きさの隙間が形成されている(特許文献1、2)。ピストンの外周面とシリンダの内周面との間の隙間には、潤滑油が供給され、ロータリ圧縮機は、その隙間を介して冷媒が漏洩することを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2013/179677号
【特許文献2】特開2018-115566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ピストンは、圧縮室と吸入室とに充填されるガス冷媒の圧力により力が加わることにより移動し、このため、シリンダとピストンとの間の隙間の大きさは、上ピストン125Tが公転することとともに変動する。ロータリ圧縮機は、その隙間が大きくなる部分では圧縮室から吸入室に漏洩するガス冷媒が多くなり、その隙間が小さくなる部分ではピストンが公転する力に逆らう抵抗が大きくなり、その結果、冷媒を圧縮する効率が低下するという問題がある。
【0005】
開示の技術は、かかる点に鑑みてなされたものであって、冷媒を圧縮する効率を向上させるロータリ圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様によるロータリ圧縮機は、偏心軸部分を有する駆動軸と、前記駆動軸を回転させるモータと、前記駆動軸が回転することにより冷媒を圧縮する圧縮部とを備えている。前記圧縮部は、シリンダと、前記偏心軸部分に嵌合し前記駆動軸が回転することにより前記シリンダの内部に形成されるシリンダ室で公転するピストンと、前記シリンダのうちの前記ピストンに対向するシリンダ内周面を被覆する皮膜とを有している。前記皮膜の硬さは、前記ピストンの硬さより低い。
【発明の効果】
【0007】
本開示のロータリ圧縮機は、冷媒を圧縮する効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施例のロータリ圧縮機を示す縦断面図である。
図2図2は、実施例のロータリ圧縮機の圧縮部を示す上方分解斜視図である。
図3図3は、実施例のロータリ圧縮機の駆動軸を示す上方分解斜視図である。
図4図4は、実施例のロータリ圧縮機の上シリンダ内周面皮膜を示す断面図である。
図5図5は、実施例のロータリ圧縮機が冷媒を圧縮している途中の圧縮部を示す断面図である。
図6図6は、実施例のロータリ圧縮機の上ピストンのうちの上シリンダの内周面に最も接近する部分が移動する軌跡を示す断面図である。
図7図7は、実施例のロータリ圧縮機の上ピストンのうちの上シリンダの内周面に最も接近する部分が移動する他の軌跡を示す断面図である。
図8図8は、実施例のロータリ圧縮機の使用後の上シリンダ内周面皮膜を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本願が開示する実施形態にかかるロータリ圧縮機について、図面を参照して説明する。なお、以下の記載により本開示の技術が限定されるものではない。また、以下の記載においては、同一の構成要素に同一の符号を付与し、重複する説明を省略する。
【実施例0010】
図1は、実施例のロータリ圧縮機1を示す縦断面図である。ロータリ圧縮機1は、密閉された縦置き円筒状の圧縮機筐体10内の下部に配置された圧縮部12と、圧縮部12の上方に配置され、駆動軸15を介して圧縮部12を駆動するモータ11と、圧縮機筐体10の側部に固定された縦置き円筒状のアキュムレータ25と、を備えている。
【0011】
アキュムレータ25は、上吸入管105及びアキュムレータ上湾曲管31Tを介して上シリンダ121Tの上吸入室131T(図2参照)と接続し、下吸入管104及びアキュムレータ下湾曲管31Sを介して下シリンダ121Sの下吸入室131S(図2参照)と接続している。
【0012】
モータ11は、外側にステータ111を、内側にロータ112を備えている。ステータ111は、圧縮機筐体10の内周面に焼嵌めあるいは溶接によって固定されている。ロータ112は、駆動軸15に焼嵌めにより固定されている。
【0013】
圧縮機筐体10の内部には、圧縮部12を構成する部品の潤滑と上圧縮室133T(図2参照)及び下圧縮室133S(図2参照)のシールのために、潤滑油18が圧縮部12をほぼ浸漬する量だけ封入されている。潤滑油18により潤滑される部品としては、上ピストン125T、下ピストン125S、上シリンダ121T、下シリンダ121S、上端板160T、下端板160S、中間仕切板140が例示される。圧縮機筐体10の下側には、ロータリ圧縮機1全体を支持する取付脚310が固定されている。
【0014】
図2は、実施例のロータリ圧縮機1の圧縮部12を示す上方分解斜視図である。圧縮部12は、上からドーム状の膨出部を有する上端板カバー170T、上端板160T、上シリンダ121T、中間仕切板140、下シリンダ121S、下端板160S及び平板状の下端板カバー170Sを積層して構成されている。圧縮部12全体は、上下から略同心円上に配置された複数の通しボルト174,175及び補助ボルト176によって固定されている。
【0015】
環状の上シリンダ121Tには、上吸入管105と嵌合する上吸入孔135Tが設けられている。環状の下シリンダ121Sには、下吸入管104と嵌合する下吸入孔135Sが設けられている。また、上シリンダ121Tの上シリンダ室130Tには、上シリンダ121Tの内周面129Tが上ピストン125Tに対向するように、上ピストン125Tが配置されている。上ピストン125Tの外周面は、上シリンダ121Tの内周面129Tに当接している。下シリンダ121Sの下シリンダ室130Sには、下シリンダ121Sの内周面129Sが下ピストン125Sに対向するように、下ピストン125Sが配置されている。下ピストン125Sの外周面は、下シリンダ121Sの内周面129Sに当接している。
【0016】
上シリンダ121Tには、上シリンダ室130Tの中心から径方向に外方へ延びる上ベーン溝128Tが設けられ、上ベーン溝128Tには上ベーン127Tが配置されている。上ベーン127Tは、クロムを含有する金属材料から母材が形成されている。その金属材料としては、SUS440C、SHK51、SUJ2が例示される。下シリンダ121Sには、下シリンダ室130Sの中心から径方向に外方へ延びる下ベーン溝128Sが設けられ、下ベーン溝128Sには下ベーン127Sが配置されている。下ベーン127Sは、上ベーン127Tと同様にして、クロムを含有する金属材料から母材が形成されている。
【0017】
上シリンダ121Tには、外側面から上ベーン溝128Tと重なる位置に上シリンダ室130Tに貫通しない深さで上スプリング穴124Tが設けられ、上スプリング穴124Tには上スプリング126Tが配置されている。下シリンダ121Sには、外側面から下ベーン溝128Sと重なる位置に下シリンダ室130Sに貫通しない深さで下スプリング穴124Sが設けられ、下スプリング穴124Sには下スプリング126Sが配置されている。
【0018】
上シリンダ室130Tは、上シリンダ121Tの一方側の端部である上端部に上端板160Tが密着し、上シリンダ121Tの他方側の端部である下端部に中間仕切板140が密着することにより、上シリンダ121Tの内部に形成されている。すなわち、上シリンダ室130Tは、上端部が上端板160Tで閉塞され、下端部が中間仕切板140で閉塞されている。下シリンダ室130Sは、下シリンダ121Sの一方側の端部である上端部に中間仕切板140が密着し、下シリンダ121Sの他方側の端部である下端部に下端板160Sが密着することにより、下シリンダ121Sの内部に形成されている。すなわち、下シリンダ室130Sは、上端部が中間仕切板140で閉塞され、下端部が下端板160Sで閉塞されている。
【0019】
上シリンダ室130Tは、上ベーン127Tが上スプリング126Tに押圧されて上ピストン125Tの外周面に当接することによって、上吸入孔135Tに連通する上吸入室131Tと、上端板160Tに設けられた上吐出孔190Tに連通する上圧縮室133Tと、に区画される。下シリンダ室130Sは、下ベーン127Sが下スプリング126Sに押圧されて下ピストン125Sの外周面に当接することによって、下吸入孔135Sに連通する下吸入室131Sと、下端板160Sに設けられた下吐出孔190Sに連通する下圧縮室133Sと、に区画される。
【0020】
上端板160Tには、上端板160Tを貫通して上シリンダ121Tの上圧縮室133Tと連通する上吐出孔190Tが設けられ、上吐出孔190Tの出口側には、上吐出孔190Tを囲む環状の上弁座(図示せず)が形成されている。上端板160Tには、上吐出孔190Tの位置から上端板160Tの外周に向かって溝状に延びる上吐出弁収容凹部164Tが形成されている。
【0021】
上吐出弁収容凹部164Tには、後端部が上吐出弁収容凹部164T内に上リベット202Tにより固定され前部が上吐出孔190Tを開閉するリード弁型の上吐出弁200T及び後端部が上吐出弁200Tに重ねられて上吐出弁収容凹部164T内に上リベット202Tにより固定され前部が上吐出弁200Tが開く上側に湾曲して(反って)いて上吐出弁200Tの開度を規制する上吐出弁押さえ201T全体が収容されている。
【0022】
下端板160Sには、下端板160Sを貫通して下シリンダ121Sの下圧縮室133Sと連通する下吐出孔190Sが設けられ、下吐出孔190Sの出口側には、下吐出孔190Sを囲む環状の下弁座が形成されている。下端板160Sには、下吐出孔190Sの位置から下端板160Sの外周に向かって溝状に延びる下吐出弁収容凹部が形成されている。
【0023】
下吐出弁収容凹部には、後端部が下吐出弁収容凹部内に下リベット202Sにより固定され前部が下吐出孔190Sを開閉するリード弁型の下吐出弁200S及び後端部が下吐出弁200Sに重ねられて下吐出弁収容凹部内に下リベット202Sにより固定され前部が下吐出弁200Sが開く下側に湾曲して(反って)いて下吐出弁200Sの開度を規制する下吐出弁押さえ201Sの全部が収容されている。
【0024】
互いに密着固定された上端板160Tとドーム状の膨出部を有する上端板カバー170Tとの間には、上端板カバー室180Tが形成される。互いに密着固定された下端板160Sと平板状の下端板カバー170Sとの間には、下端板カバー室180Sが形成される。下端板160S、下シリンダ121S、中間仕切板140、上端板160T及び上シリンダ121Tを貫通し下端板カバー室180Sと上端板カバー室180Tとを連通する冷媒通路孔136が設けられている。
【0025】
図3は、実施例のロータリ圧縮機1の駆動軸15を示す上方分解斜視図である。駆動軸15は、概ね棒状に形成され、副軸部分151と主軸部分153と下偏心軸部分152Sと上偏心軸部分152Tと中間軸部分154とを備えている。副軸部分151には、駆動軸15の下端が形成されている。副軸部分151は、回転自在に副軸受部161Sに支持されている。すなわち、副軸部分151は、副軸受部161Sに嵌合し、副軸部分151の外周面の一部は、副軸受部161Sに対向している。主軸部分153には、駆動軸15の上端が形成されている。主軸部分153は、ロータ112に固定され、回転自在に主軸受部161Tに支持されている。すなわち、主軸部分153は、主軸受部161Tに嵌合し、主軸部分153の外周面の一部は、主軸受部161Tに対向している。
【0026】
下偏心軸部分152Sは、副軸部分151と主軸部分153との間に配置され、副軸部分151に隣接し、副軸部分151に一体に形成されている。下偏心軸部分152Sは、下ピストン125Sに嵌合され、すなわち、下偏心軸部分152Sの外周面は、下ピストン125Sに対向している。上偏心軸部分152Tは、下偏心軸部分152Sと主軸部分153との間に配置され、主軸部分153に隣接し、主軸部分153に一体に形成されている。上偏心軸部分152Tは、上ピストン125Tに嵌合され、すなわち、上偏心軸部分152Tの外周面は、上ピストン125Tに対向している。下偏心軸部分152Sと上偏心軸部分152Tとは、互いに180度の位相差をつけて設けられている。
【0027】
中間軸部分154は、下偏心軸部分152Sと上偏心軸部分152Tとの間に配置され、下偏心軸部分152Sに隣接し、下偏心軸部分152Sに一体に形成され、上偏心軸部分152Tに隣接し、上偏心軸部分152Tに一体に形成されている。中間軸部分154は、中間仕切板140に囲まれ、中間軸部分154の外周面は、中間仕切板140に対向している。駆動軸15は、給油羽根158を備えている。駆動軸15には、下端から上端まで貫通する給油縦孔155が形成されている。給油羽根158は、給油縦孔155に圧入され、駆動軸15に固定されている。駆動軸15には、図示されていない複数の給油横孔がさらに形成されている。複数の給油横孔の一端は、給油縦孔155に接続され、複数の給油横孔の他端は、下偏心軸部分152Sと下ピストン125Sとの間の隙間、上偏心軸部分152Tと上ピストン125Tとの間の隙間にそれぞれ接続されている。
【0028】
圧縮部12は、図4に示されているように、上シリンダ内周面皮膜41Tをさらに備えている。図4は、実施例のロータリ圧縮機1の上シリンダ内周面皮膜41Tを示す断面図である。上シリンダ内周面皮膜41Tは、固体潤滑剤であるリン酸マンガンから形成されている。上シリンダ内周面皮膜41Tの硬さは、仮に上シリンダ内周面皮膜41Tと上ピストン125Tとが接触したときに上シリンダ内周面皮膜41Tが変形する程度が、上ピストン125Tが変形する程度より大きくなるように、上ピストン125Tの硬さより小さい。硬さとしては、ビッカース硬さ、ブリネル硬さが例示される。さらに、上シリンダ内周面皮膜41Tは、仮に上シリンダ内周面皮膜41Tと上ピストン125Tとが接触したときに上シリンダ内周面皮膜41Tが摩耗する程度が、上ピストン125Tが摩耗する程度より大きくなるように、上ピストン125Tより脆い。上シリンダ121Tの内周面129Tは、上シリンダ内周面皮膜41Tにより被覆されている。上シリンダ内周面皮膜41Tは、上シリンダ内周面皮膜41Tの膜厚が20μm以下であるように、形成されている。上シリンダ内周面皮膜41Tは、さらに、上シリンダ内周面皮膜41Tが上ピストン125Tにより摩耗した場合でも、上シリンダ121Tの内周面129Tが露出しないように、予め定められた値(たとえば、1μm)より厚く形成されている。上シリンダ内周面皮膜41Tは、上シリンダ121Tの内周面129Tが表面処理されることにより形成される。
【0029】
上ピストン125Tと上シリンダ121Tとは、ロータリ圧縮機1が冷媒を圧縮しているときに上ピストン125Tの外周面と上シリンダ121Tの内周面129Tとの間の隙間が10μmより狭くならないように、形成されている。上ピストン125Tと上シリンダ121Tとは、さらに、上ピストン125Tの外周面と上シリンダ121Tの内周面129Tとの間の隙間が予め定められた値(たとえば、30μm)より小さくなるように、形成されている。
【0030】
圧縮部12は、下シリンダ内周面皮膜をさらに備えている。下シリンダ内周面皮膜は、上シリンダ内周面皮膜41Tと同様に、固体潤滑剤から形成されている。下シリンダ121Sの内周面129Sは、上シリンダ121Tの内周面129Tと同様に、下シリンダ内周面皮膜により被覆されている。下ピストン125Sと下シリンダ121Sとは、上ピストン125Tと上シリンダ121Tとに同様に、下ピストン125Sと下シリンダ121Sとの間の隙間が適切になるように、形成されている。
【0031】
[実施例のロータリ圧縮機1の動作]
以下に、駆動軸15の回転による冷媒の流れを説明する。上シリンダ室130T内において、駆動軸15の回転によって、駆動軸15の上偏心軸部分152Tに嵌合された上ピストン125Tが、上シリンダ121Tの内周面129Tに沿って公転することにより、上吸入室131Tが容積を拡大しながら上吸入管105から冷媒を吸入し、上圧縮室133Tが容積を縮小しながら冷媒を圧縮し、圧縮した冷媒の圧力が上吐出弁200Tの外側の上端板カバー室180Tの圧力より高くなると、上吐出弁200Tが開いて上圧縮室133Tから上端板カバー室180Tへ冷媒が吐出される。上端板カバー室180Tに吐出された冷媒は、上端板カバー170Tに設けられた上端板カバー吐出孔172T(図1参照)から圧縮機筐体10内に吐出される。
【0032】
また、下シリンダ室130S内において、駆動軸15の回転によって、駆動軸15の下偏心軸部分152Sに嵌合された下ピストン125Sが、下シリンダ121Sの内周面129Sに沿って公転することにより、下吸入室131Sが容積を拡大しながら下吸入管104から冷媒を吸入し、下圧縮室133Sが容積を縮小しながら冷媒を圧縮し、圧縮した冷媒の圧力が下吐出弁200Sの外側の下端板カバー室180Sの圧力より高くなると、下吐出弁200Sが開いて下圧縮室133Sから下端板カバー室180Sへ冷媒が吐出される。下端板カバー室180Sに吐出された冷媒は、冷媒通路孔136及び上端板カバー室180Tを通って上端板カバー170Tに設けられた上端板カバー吐出孔172T(図1参照)から圧縮機筐体10の内部に吐出される。
【0033】
圧縮機筐体10の内部に吐出された冷媒は、ステータ111の外周に設けられた上下を連通する切欠き(図示せず)、又はステータ111の巻線部の隙間(図示せず)、又はステータ111とロータ112との隙間115(図1参照)を通ってモータ11の上方に導かれ、圧縮機筐体10の上部の吐出管107から吐出される。
【0034】
以下に、潤滑油18の流れを説明する。圧縮機筐体10に貯留された潤滑油18は、駆動軸15が回転するときに、給油羽根158により給油縦孔155に吸い上げられ、複数の給油横孔を介して圧縮部12に供給される。圧縮部12に供給された潤滑油18は、上シリンダ121Tの内周面129Tと、上ピストン125Tの外周面との間の隙間に供給され、下シリンダ121Sの内周面129Sと、下ピストン125Sの外周面との間の隙間に供給される。上シリンダ121Tの内周面129Tと上ピストン125Tの外周面との間の隙間に供給された潤滑油は、上ピストン125Tと上シリンダ121Tの内周面129Tとが接触することを防止し、上シリンダ121Tと上ピストン125Tとを潤滑する。上シリンダ121Tの内周面129Tと上ピストン125Tの外周面との間の隙間に供給された潤滑油は、さらに、上圧縮室133Tから上吸入室131Tに漏洩するガス冷媒の量が低減するように、上シリンダ121Tと上ピストン125Tとの間の隙間をシールする。下シリンダ121Sの内周面129Sと下ピストン125Sの外周面との間の隙間に供給された潤滑油は、下ピストン125Sと下シリンダ121Sの内周面129Sとが接触することを防止し、下シリンダ121Sと下ピストン125Sとを潤滑する。下シリンダ121Sの内周面129Sと下ピストン125Sの外周面との間の隙間に供給された潤滑油は、さらに、下圧縮室133Sから下吸入室131Sに漏洩するガス冷媒の量が低減するように、下シリンダ121Sと下ピストン125Sとの間の隙間をシールする。
【0035】
図5は、実施例のロータリ圧縮機1が冷媒を圧縮している途中の圧縮部12を示す断面図である。上ピストン125Tには、上圧縮室133Tと上吸入室131Tとに充填されるガス冷媒の圧力により、力が加わる。たとえば、上圧縮室133Tに充填されるガス冷媒の圧力は、比較的高圧であることにより、上ピストン125Tを上吸入室131Tの方向に押す力を上ピストン125Tに加える。すなわち、その力の向きと大きさとは、上ピストン125Tが公転することにより、変動する。
【0036】
圧縮部12は、圧縮部12が冷媒を圧縮しないで上ピストン125Tが公転するときに、図6に示されているように、上ピストン125Tのうちの上シリンダ121Tの内周面129Tに最も近い点が設計値軌跡42に沿って移動する。図6は、実施例のロータリ圧縮機1の上ピストン125Tが公転する過程で、上ピストン125Tが上シリンダ121Tの内周面129Tに最も接近する点が移動する軌跡を示す断面図である。設計値軌跡42は、上シリンダ121Tの内周面129Tが沿う円と同心円であり、駆動軸15が回転する回転軸44を中心とする円に沿っている。
【0037】
上ピストン125Tのうちの上シリンダ121Tの内周面129Tに最も近い点は、ロータリ圧縮機1が設けられた空気調和機が暖房中間運転を実行するときに、軌跡43に沿って移動する。暖房中間運転は、通年エネルギー消費効率APF(Annual Performance Factor)で大きなウェイトを占める運転であり、たとえば、冷媒R32を用いる場合、吐出圧力がおよそ1.8MPaG(凝縮約29℃)であり、吸込圧力がおよそ0.8MPaG(蒸発約3℃)である運転である。軌跡43は、ガス冷媒の圧力による力が上ピストン125Tに加わることにより、上シリンダ121Tの内周面129Tのうちの部分47が上シリンダ121Tの内周面129Tに最も接近するように、設計値軌跡42からずれている。
【0038】
図7は、実施例のロータリ圧縮機1の上ピストン125Tのうちの上シリンダ121Tの内周面129Tに最も接近する部分が移動する他の軌跡を示す断面図である。ロータリ圧縮機1が設けられた空気調和機が寒冷地の暖房運転を実行するときに、上ピストン125Tのうちの上シリンダ121Tの内周面129Tに最も近い点の軌跡46は、ガス冷媒の圧力による力が上ピストン125Tに加わることにより、設計値軌跡42からずれている。寒冷地の暖房運転は、暖房中間運転と異なる運転であり、たとえば、冷媒R32を用いる場合、吐出圧力が4.3MPaGであり、吸込圧力が0.4MPaGである運転である。軌跡46に関しても、ガス冷媒の圧力による力が上ピストン125Tに加わっていることにより、軌跡43と同様に、設計値軌跡42からずれている。
【0039】
上圧縮室133Tと上吸入室131Tとに充填されるガス冷媒が上ピストン125Tを押す力の向きと大きさとは、ロータリ圧縮機1が設けられた空気調和機が使用される状況により変動する。このため、軌跡46は、上シリンダ121Tの内周面129Tのうちの上シリンダ121Tの内周面129Tに最も接近する部分48が部分47と異なるように、軌跡46からずれている。また、軌跡46が設計値軌跡42からずれる程度は、軌跡43が設計値軌跡42からずれる程度より大きい。すなわち、上ピストン125Tのうちの上シリンダ121Tの内周面129Tに最も近い点の軌跡が設計値軌跡42からずれる程度に関しても、一般的に、ロータリ圧縮機1が設けられた空気調和機が使用される状況により変動する。
【0040】
図8は、実施例のロータリ圧縮機1の使用後の上シリンダ内周面皮膜41Tを示す断面図である。上シリンダ内周面皮膜41Tは、上ピストン125Tが公転するときに、弾性変形したり、上シリンダ内周面皮膜41Tの表面に形成される凹凸が摩耗して滑らかになったりして上ピストン125Tの外周面になじむことにより、薄くなる。このとき、上シリンダ内周面皮膜41Tは、上ピストン125Tの外周面と上シリンダ121Tの内周面129Tとの間の隙間が小さくなる領域にあるものほど、薄くなる。このため、上ピストン125Tの外周面と上シリンダ121Tの内周面129T上の上シリンダ内周面皮膜41Tとの間の隙間の大きさは、適正な大きさに自動的に調整される。ロータリ圧縮機1は、上ピストン125Tの外周面と上シリンダ121Tの内周面129T上の上シリンダ内周面皮膜41Tとの間の隙間が適正化されることにより、冷媒の漏洩と抵抗とを低減することができ、冷媒を圧縮する効率を向上させることができる。
【0041】
また、ロータリ圧縮機1は、上シリンダ121Tの内周面129Tが回転軸44を中心とする円に沿うように形成されている場合でも、ロータリ圧縮機1が設けられた空気調和機が運転されることにより、上ピストン125Tの外周面と上シリンダ121Tの内周面129T上の上シリンダ内周面皮膜41Tとの間の隙間が適正化され、冷媒を圧縮する効率を向上させることができる。上シリンダ121Tの内周面129Tが予め定められた軌跡(たとえば、軌跡43または軌跡46)に沿うように形成された比較例のロータリ圧縮機は、仮に、予め定められた環境で運転する空気調和機に設けられるときに、上ピストン125Tの外周面と上シリンダ121Tの内周面129Tとの間の隙間が適正であり、冷媒を圧縮する効率を向上させることができる。しかしながら、内周面129Tを予め定められた軌跡(たとえば、軌跡43または軌跡46)に沿うように上シリンダ121Tを製造することは、ミクロンオーダの制御を含み、比較的困難である。ロータリ圧縮機1は、上シリンダ121Tの内周面129Tが回転軸44を中心とする円に沿うように形成されることにより、比較例のロータリ圧縮機に比較して、容易に作製され、製造コストを低減することができる。
【0042】
[実施例のロータリ圧縮機1の効果]
実施例のロータリ圧縮機1は、上偏心軸部分152Tを有する駆動軸15と、駆動軸15を回転させるモータ11と、駆動軸15が回転することにより冷媒を圧縮する圧縮部12とを備えている。圧縮部12は、上シリンダ121Tと上ピストン125Tと上シリンダ内周面皮膜41Tとを備えている。上ピストン125Tは、上偏心軸部分152Tに嵌合し、駆動軸15が回転することにより、上シリンダ121Tの内部に形成される上シリンダ室130Tで公転する。上シリンダ内周面皮膜41Tは、上シリンダ121Tのうちの上ピストン125Tに対向する上シリンダ121Tの内周面129Tを被覆する。上シリンダ内周面皮膜41Tの硬さは、仮に上シリンダ内周面皮膜41Tと上ピストン125Tとが接触したときに上ピストン125Tが変形しないで上シリンダ内周面皮膜41Tが変形するように、上ピストン125Tの硬さより低い。または、上シリンダ内周面皮膜41Tは、仮に上シリンダ内周面皮膜41Tと上ピストン125Tとが接触したときに上ピストン125Tが摩耗しないで上シリンダ内周面皮膜41Tが摩耗するように、上ピストン125Tより脆い。
【0043】
実施例のロータリ圧縮機1は、上シリンダ121Tと上ピストン125Tとの間の隙間が大きく作製された場合でも、上シリンダ121Tの内周面129Tに上シリンダ内周面皮膜41Tが形成されていることにより、上シリンダ内周面皮膜41Tと上ピストン125Tとの間の隙間を小さくすることができる。実施例のロータリ圧縮機1は、上シリンダ内周面皮膜41TTと上ピストン125Tとの間の隙間が小さくなることにより、上圧縮室133Tから上吸入室131Tに漏洩するガス冷媒を低減することができ、冷媒を圧縮する効率を向上させることができる。
【0044】
実施例のロータリ圧縮機1は、さらに、上ピストン125Tが公転するときに、上シリンダ内周面皮膜41Tが上ピストン125Tの外周面となじむことにより上シリンダ内周面皮膜41Tが薄くなり、上ピストン125Tの外周面と上シリンダ内周面皮膜41Tとの間の隙間の大きさが適正化される。実施例のロータリ圧縮機1は、その隙間が適正化されることにより、上シリンダ121Tと上ピストン125Tとの間の隙間が小さく作製された場合でも、上ピストン125Tの公転に逆らう抵抗を低減することができる。実施例のロータリ圧縮機1は、漏洩するガス冷媒の量が低減し、かつ、上ピストン125Tの公転に逆らう抵抗が低減されることにより、ガス冷媒を圧縮する効率を向上させることができる。
【0045】
ところで、既述の実施例のロータリ圧縮機1の上シリンダ内周面皮膜41Tは、リン酸マンガンから形成されているが、リン酸マンガンと異なる他の固体潤滑剤から形成されることもできる。その固体潤滑剤としては、リン酸マンガンを含有するもの、リン酸マンガンと異なる他のリン酸塩を含有するもの、二硫化モリブデンを含有するものが例示される。また、上シリンダ内周面皮膜41Tは、固体潤滑剤と異なる他の材料から形成されることもできる。その材料は、仮に上シリンダ内周面皮膜41Tと上ピストン125Tとが接触したときに上シリンダ内周面皮膜41Tが摩耗する程度が、上ピストン125Tが摩耗する程度より大きくなるように、上ピストン125Tが形成される材料より脆い。その材料の硬さは、仮に上シリンダ内周面皮膜41Tと上ピストン125Tとが接触したときに上シリンダ内周面皮膜41Tが変形する程度が、上ピストン125Tが変形する程度より大きくなるように、上ピストン125Tが形成される材料の硬さより小さい。上シリンダ内周面皮膜41Tがこのような材料から形成される場合でも、ロータリ圧縮機1は、上シリンダ内周面皮膜41Tが上ピストン125Tの外周面となじみ、上ピストン125Tと上シリンダ121Tとの間の隙間の大きさを適正化することができ、冷媒を圧縮する効率を向上させることができる。
【0046】
ところで、既述の実施例のロータリ圧縮機1の上シリンダ内周面皮膜41Tは、上シリンダ121Tの内周面129Tの全部を被覆しているが、内周面129Tの一部を被覆してもよい。内周面129Tのうちの上シリンダ内周面皮膜41Tに被覆される一部としては、内周面129Tのうちの上ピストン125Tの外周面に最も接近する部分が例示される。このような場合でも、ロータリ圧縮機1は、上シリンダ内周面皮膜41Tが上ピストン125Tの外周面となじみ、上ピストン125Tと上シリンダ121Tとの間の隙間の大きさを適正化することができ、冷媒を圧縮する効率を向上させることができる。
【0047】
ところで、既述の実施例のロータリ圧縮機1は、上シリンダ121Tの内周面129Tに上シリンダ内周面皮膜41Tが形成され、下シリンダ121Sの内周面129Sに下シリンダ内周面皮膜が形成されているが、内周面129Tと内周面129Sとのうちの一方に皮膜が形成されていなくてもよい。既述の実施例のロータリ圧縮機1は、2シリンダ式ロータリ圧縮機に形成されているが、単シリンダ式ロータリ圧縮機に形成されてもよく、3シリンダ以上のロータリ圧縮機に形成されてもよい。たとえば、圧縮部12は、単シリンダ式ロータリ圧縮機に形成されるときに、下シリンダ121Sと下ピストン125Sと下ベーン127Sと中間仕切板140とが省略されている。このようなロータリ圧縮機も、上シリンダ内周面皮膜41Tが上ピストン125Tの外周面となじみ、上ピストン125Tと上シリンダ121Tとの間の隙間の大きさを適正化することができ、冷媒を圧縮する効率を向上させることができる。
【0048】
以上、実施例を説明したが、前述した内容により実施例が限定されるものではない。また、前述した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、前述した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。さらに、実施例の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換及び変更のうち少なくとも1つを行うことができる。
【符号の説明】
【0049】
1 :ロータリ圧縮機
11 :モータ
15 :駆動軸
152T:上偏心軸部分
152S:下偏心軸部分
12 :圧縮部
121T:上シリンダ
121S:下シリンダ
129T:内周面
129S:内周面
130T:上シリンダ室
130S:下シリンダ室
125T:上ピストン
125S:下ピストン
131T:上吸入室
131S:下吸入室
133T:上圧縮室
133S:下圧縮室
41T :上シリンダ内周面皮膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8