(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023030657
(43)【公開日】2023-03-08
(54)【発明の名称】電子制御燃料噴射装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
F02M 51/00 20060101AFI20230301BHJP
【FI】
F02M51/00 A
F02M51/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021135904
(22)【出願日】2021-08-23
(71)【出願人】
【識別番号】307043902
【氏名又は名称】ザマ・ジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092864
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100098154
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 克彦
(72)【発明者】
【氏名】宇夫方 大雄
(72)【発明者】
【氏名】下山 勇暢
【テーマコード(参考)】
3G066
【Fターム(参考)】
3G066AB02
3G066BA22
3G066BA31
3G066CC56
3G066CC63
3G066CE22
3G066DB01
(57)【要約】
【課題】アマチャーが戻しばねによりインナーヨークに当接して生じる衝撃音の発生およびアマチャーおよびインナーヨークの損傷を部品の追加することなしに防止する。
【解決手段】電磁コイル4を励磁して待機位置にあるアマチャー9をプランジャー7方向に移動させて加圧室3内に嵌挿されたプランジャー7を噴射ノズル2から燃料を噴射させない程度に戻しばね8に抗して先端方向に移動させ、燃料タンクから燃料取入れ管路10およびインレットチェックバルブ11を介して加圧室3に供給された燃料を加圧して加圧室3内の燃料中に含まれるベーパーをスピルバルブ12と戻し通路13を介して燃料戻り管路14へと排出させた後、電磁コイル4の励磁を停止してアマチャー9およびプランジャー7を戻しばね8により待機位置に到達させる前に電磁コイル4を再励磁してアマチャー9の戻り速度を減速させてアマチャー9がストッパ15に当接する際の衝撃を緩和する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加圧室に嵌挿されるプランジャーを、常時は戻しばねによりストッパに当接させた待機位置にあって電磁コイルの励磁により移動させるアマチャーにより往復運動させて加圧室に供給された燃料を加圧して噴射ノズルからエンジンに噴射するとともに前記加圧室へ供給された燃料の一部を戻し通路を介して燃料戻り管路から燃料タンクに戻すことで前記燃料に混入するベーパーを排出する電子制御燃料噴射装置において、
エンジンを始動させる際に、前記電磁コイルを励磁して前記待機位置にあるアマチャーをプランジャー方向に移動させて前記加圧室内に嵌挿されたプランジャーを前記噴射ノズルから燃料を噴射させない程度に戻しばねに抗して先端方向に移動させ、加圧室に供給された燃料を加圧して前記加圧室内の燃料中に含まれるベーパーを燃料戻り管路へと排出させた後、前記電磁コイルの励磁を停止して前記アマチャーおよびプランジャーを前記戻しばねによる待機位置に到達させる前に前記電磁コイルを再励磁してアマチャーの戻り速度を減速させて前記アマチャーがストッパに当接する際の衝撃を緩和して静音化を図ることを特徴とする電子制御燃料噴射装置の制御方法。
【請求項2】
前記再励磁の励磁時間および励磁時期が、アマチャーおよびプランジャーを所定の待機位置に押し戻すための前記戻しばねの付勢力に応じて決定されることを特徴とする請求項1記載の電子制御燃料噴射装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、往復運動するプランジャーにより加圧室に供給された燃料を圧送して噴射ノズルからエンジンの吸気口に噴射する電子制御燃料噴射装置の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電磁駆動されるプランジャーのポンプ作用により燃料を圧送して噴射ノズルから燃料をエンジンの吸気口に噴射するようにした電子制御燃料噴射装置が例えば特開2007-263016号公報などに提示されている。
【0003】
この従来の電子制御燃料噴射装置は、
図1に示すように、先端方向にエンジンの吸気口(図示せず)へ向けた噴射弁1と噴射ノズル2を備えた筒状の加圧室3の基端方向に内周面が前記加圧室3よりも大径の筒状で外周に電線を巻回して電磁コイル4を形成した筒状のボビン5の内側に配置した図示する上下に配置された一対のインナーヨーク6,6が間にスペーサー61を介して連設されており、前記インナーヨーク6,6内に軸線方向に往復運動するように嵌挿、配置され、その先端方向に配置された前記加圧室3に軸線方向に往復運動可能に嵌挿されたプランジャー7と連動するアマチャー9が常時は基端方向に向けて付勢する戻しばね8によりストッパ15に当接させた状態で軸線方向に所定の待機位置にあり、前記電磁コイル4を励磁してアマチャー9を戻しばね8に抗して先端方向に移動させてプランジャー7を先端方向に移動させ、燃料タンク(図示せず)から燃料取入れ管路10およびインレットチェックバルブ11を介して前記加圧室3に供給された燃料を加圧して前記噴射弁1を介して前記噴射ノズル2からエンジン(図示せず)に噴射と、電磁コイル4の励磁を解除してアマチャー9と一体のプランジャー7を戻しばね8の付勢力により基端方向に移動させ、再度、燃料を加圧室3に供給する操作を繰り返すものである。
【0004】
そして、従来のこの種の電子制御燃料噴射装置は、電磁コイル4により駆動されるプランジャー7で燃料ポンプと噴射弁1を一体化したものであり、燃料ポンプ部分が圧力レギュレーターとしての機能も併有することから、インレットチェックバルブ11を介して加圧室3へ燃料を供給する際に生じる圧力損失により燃料内にベーパーが生じることになる。
【0005】
そこで、前記燃料を供給する際に生じるベーパーを、燃料に自然に流入しているベーパーを含めて加圧室3に設けられた排出燃料を調整するスピルバルブ12からアマチャー9を囲むインナーヨーク6の外側面とその外周に配置される電磁コイル4を巻回するボビン5の内壁面との間に形成した戻し通路13に送るとともに、
図2に示すように、この戻し通路13に連通して形成された図示する上側のインナーヨーク6に形成された切込み窓62を介して前記加圧室3へ供給された燃料の一部を図示する上部に被せたヘッドキャップ63に備えた燃料戻り管路14から燃料タンク(図示せず)に戻すことが行われている。
【0006】
しかしながら、この種の電子制御燃料噴射装置では、エンジン停止後においてもエンジンのから伝わる熱により高温にさらされることでエンジン停止後の再始動の際には加圧室3内が多量のベーパーで満たされる結果、その後におけるエンジンの再始動を妨げる要因の1つになっていた。
【0007】
そこで、エンジン停止後に加圧室3内が多量のベーパーで満たされたことが原因でエンジンの再始動が困難なときに、噴射弁1を開放してエンジンを始動させる前に、前記電磁コイル4に噴射ノズル2から燃料を噴射させない程度に電流を印可してアマチャー9(プランジャー7)を駆動させ、加圧室3内の燃料中に含まれるベーパーをスピルバルブ12から戻し通路13を介して燃料戻り管路14へと排出することでエンジンの再始動を容易にすることが行われている。
【0008】
ところで、
図4は前記再始動時前における再始動を容易にする制御方法における電磁コイル4への電流の制御とそのときの前記電子制御燃料噴射装置における振動の状態を経時的に示した状態図であり、初めに前記
図1に示した電磁コイル4に噴射ノズル2から燃料を噴射しない程度の時間(T1)だけパルス電流(I1)を印加してアマチャー9(プランジャー7)を駆動させ、加圧室3内の燃料中に含まれるベーパーをスピルバルブ12から戻し通路13を介して燃料戻り管路14へと排出した後、前記噴射パルスの電流(I1)を停止すると、アマチャー9(プランジャー7)が戻しばね8により基端方向に押されてストッパ15に当接する元の待機位置に復帰するが、そのときにアマチャー9がストッパ15に衝突して振動が生じる。
【0009】
このとき、未だエンジンが停止している静寂な状況であり、振動が駆動音として外部に伝わるが、前記衝突するアマチャー9は磁性体である硬質の金属により形成されるとともに、ストッパ15は硬質の合成樹脂などにより形成されるのでアマチャー9とストッパ15が衝突するときに生じる駆動音(振動)が使用者に不快感を与えることになり、また、互いに衝突するアマチャー9とストッパ15は硬度の高い材質により形成されるので損傷し易いという問題があり、特に、前記噴射ノズル2から燃料を噴出させない程度に電流を印加してアマチャー9(プランジャー7)を駆動させて加圧室3内の燃料中に含まれるベーパーを排出するには多くの場合に一度のプランジャー7の駆動では困難で、必然的に複数回にわたってアマチャー9(プランジャー7)の往復運動することになり、問題を大きくしている。
【0010】
また、この種の電子制御燃料噴射装置において、アマチャー9とストッパ15との当接による磨耗、損傷を防止する手段として、例えばゴム材などの衝撃吸収体を設けたものが特開昭55-35135号公報に提示されているが、別部品を付加することは部品管理を含めて製造行程が複雑となるばかりか使用により衝撃吸収体が劣化或いは損傷するので保守や修理が必要であるという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007-263016号公報
【特許文献2】特開昭55-35135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記のような電子制御燃料噴射装置における問題点を解決しようとするものであり、停止後に加圧室内が多量のベーパーで満たされたことが原因でエンジンの再始動が困難なときに、電磁コイルに噴射ノズルから燃料を噴射させない程度に電流を印可してプランジャーを駆動させ、加圧室内の燃料中に含まれるベーパーをスピルバルブと戻し通路を介して燃料戻り管路へと排出させる際にアマチャーが戻しばねによりストッパに当接して生じる衝撃音の発生およびアマチャーおよびストッパの損傷を部品の追加することなしに防止或いは軽減する制御方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するためになされた本発明は、加圧室に嵌挿されるプランジャーを、常時は戻しばねによりストッパに当接させた待機位置にあって電磁コイルの励磁により移動させるアマチャーにより往復運動させて加圧室に供給された燃料を加圧して噴射ノズルからエンジンに噴射するとともに前記加圧室へ供給された燃料の一部を戻し通路を介して燃料戻り管路から燃料タンクに戻すことで前記燃料に混入するベーパーを排出する電子制御燃料噴射装置において、前記電磁コイルを励磁して前記待機位置にあるアマチャーをプランジャー方向に移動させて前記加圧室内に嵌挿されたプランジャーを前記噴射ノズルから燃料を噴射させない程度に戻しばねに抗して先端方向に移動させ、加圧室に供給された燃料を加圧して前記加圧室内の燃料中に含まれるベーパーを燃料戻り管路へと排出させた後、前記電磁コイルの励磁を停止して前記アマチャーおよびプランジャーを前記戻しばねによる待機位置に到達させる前に前記電磁コイルを再励磁してアマチャーの戻り速度を減速させて前記アマチャーがストッパに当接する際の衝撃を緩和して静音化を図ることを特徴とする。
【0014】
また、本発明において、前記再励磁の励磁時間および励磁時期が、アマチャーおよびプランジャーを所定の待機位置に押し戻すための前記戻しばねの付勢力に応じて決定されることにより再励磁による効果を確実に発揮させるとともに無駄な電力を要しない。
【発明の効果】
【0015】
本発明である電子制御燃料噴射装置の制御方法によると、停止後に加圧室内が多量のベーパーで満たされたことが原因でエンジンの再始動が困難なときに、電磁コイルに噴射ノズルから燃料を噴射させない程度に電流を印可してプランジャーを駆動させ、加圧室内の燃料中に含まれるベーパーをスピルバルブと戻し通路を介して燃料戻り管路へと排出させる際にアマチャーが戻しばねによりストッパに当接して生じる衝撃音の発生およびアマチャーおよびストッパの損傷を部品の追加することなしに防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の好ましい実施の形態および従来例に用いられる電子燃料噴射装置を示す正面縦断面図である。
【
図2】
図1に示した実施の形態の一部を切裁した電子燃料噴射装置を示す正面縦断面図である。
【
図3】本発明である電子燃料噴射装置の制御方法における再始動時の電磁コイルへの電流の制御とそのときの電子燃料噴射装置における振動の状態を経時的に示した状態図である。
【
図4】従来例である電子燃料噴射装置の制御方法における再始動時の電磁コイルへの電流の制御とそのときの電子燃料噴射装置における振動の状態を経時的に示した状態図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の電子制御燃料噴射装置における実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明である電子制御燃料噴射装置の制御方法を実施する際に使用する電子制御燃料噴射装置の一例を示すものであるが、構造自体および燃料噴射の作動状況は前記従来例に示したものと同様であり、詳細な説明は省略する。
【0019】
次に、
図3に示した本発明における電子燃料噴射装置の制御方法におけるエンジン再始動時の電磁コイルへの電流の制御とそのときの電子燃料噴射装置における振動状態を経時的に示した状態図を参照して更に説明すると、加圧室3にベーパーが混入した状態でエンジンを始動させる際に、噴射ノズル2から燃料を噴射させない程度にアマチャー9(プランジャー7)を往復運動させて加圧室3内の燃料中に含まれるベーパーをスピルバルブ12と戻し通路13を介して燃料戻り管路14へと排出させる際に、前記
図4に示した従来例の場合と同様に、電磁コイル4にパルス電流(I1)を(T1)時間だけ印加して励磁し、戻しばね8により待機位置にあるアマチャー9をプランジャー7方向に移動させて加圧室3内に嵌挿されたプランジャー7を噴射ノズル2から燃料を噴射させない程度に戻しばね8に抗して先端方向に移動させ、燃料タンク(図示せず)から燃料取入れ管路10およびインレットチェックバルブ11を介して加圧室3に供給された燃料を加圧して加圧室3の燃料中に含まれるベーパーをスピルバルブ12から戻し通路13を介して燃料戻り管路14へと排出させた後、電磁コイル4の励磁を停止する。
【0020】
このとき、前記従来例では、
図4に示したように、噴射パルスの電流(I1)を停止すると、アマチャー9(プランジャー7)が戻しばね8により基端方向に押されてストッパ15に当接する元の待機位置に復帰する際にアマチャー9がストッパ15に衝突して振動が生じたが、本実施の形態では、電磁コイル4の励磁を停止してアマチャー9およびプランジャー7を戻しばね8により待機位置(アマチャー9の基端がストッパ15に当接する位置)に到達させる前、即ち、
図3に示した前記電磁コイル4の励磁を停止してから所定の時間(T2)経過後に電磁コイル4に所定の再励磁パルス電流(I2)を所定の時間(T3)印加して戻りばね8の付勢力に抗してアマチャー9の戻り速度を減速させる。
【0021】
そのため、
図4に示した従来例のように前記アマチャー9がストッパ15に当接する際の衝撃が緩和されて静音化および部品損傷の低減を図ることができる。
【0022】
このように、本実施の形態によると、エンジンの再始動時において加圧室3内の燃料に含まれるベーパーを排除するために噴射ノズル2から燃料を噴射させない程度にアマチャー9(プランジャー7)を往復運動させて加圧室3内の燃料中に含まれるベーパーをスピルバルブ12と戻し通路13を介して燃料戻り管路14へと排出させた後に、アマチャー9(プランジャー7)を戻しばね8により待機位置に戻させる際の衝撃を防ぐことが可能で、使用者に不快音を与えることを防止して加圧室3にベーパーを含む燃料が存在する際のエンジンの再始動を容易にし、且つ、従来例のような衝撃がないので部品の損傷を目的とした保守や修理も不要である。
【0023】
また、本実施の形態である電子燃料噴射装置の制御方法は、従来のように非衝撃部材のような部品をストッパ15やアマチャー9に装着する必要がなく、前記電磁コイル4の励磁を停止してから所定の時間(T2)だけ経過後に電磁コイル4に所定の再励磁パルス電流(I2)を所定の時間(T3)だけ印可するという電気的な制御を行うだけであり、部品の管理や組み立てが複雑になることがなく、また、既存の電子燃料噴射装置にも簡単に適用することができる。
【0024】
更に、前記
図3に示した再励磁の時間T3およびその励磁時期(T1+T2)は、アマチャー9およびプランジャー7を所定の待機位置に押し戻すための戻しばね8の付勢力に応じて算出し、決定されることにより再励磁による効果を確実に発揮させるとともに無駄な電力を要しない。
【0025】
尚、本実施の形態は、加圧室3にベーパーが混入した状態でエンジンを始動させる際に、噴射ノズル2から燃料を噴射させない程度にアマチャー9(プランジャー7)を往復運動させて加圧室3内の燃料中に含まれるベーパーをスピルバルブ12と戻し通路13を介して燃料戻り管路14へと排出させるための制御に係るものであり、アマチャー9(プランジャー7)の往復動作が比較的緩慢なときに適用されるので制御し易いが、通常のエンジンの運転時についても適用することはいうまでもない。
【符号の説明】
【0026】
1 噴射弁、2 噴射ノズル、3 加圧室、4 電磁コイル、5 ボビン、6 インナーヨーク、7 プランジャー、8 戻しばね、9 アマチャー、10 燃料取入れ管路、11 インレットチェックバルブ、12 スピルバルブ、13 戻し通路、14 燃料戻り管路、15 ストッパ、61 スペーサー、62 切込み窓、63 ヘッドカバー