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特開2023-30673磁性部品の製造方法、磁性部品および電子部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023030673
(43)【公開日】2023-03-08
(54)【発明の名称】磁性部品の製造方法、磁性部品および電子部品
(51)【国際特許分類】
   C23C 10/12 20060101AFI20230301BHJP
   C23C 10/06 20060101ALI20230301BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20230301BHJP
   C21D 8/12 20060101ALN20230301BHJP
【FI】
C23C10/12
C23C10/06
C22C38/00 303U
C22C38/00 303S
C21D8/12 A
C21D8/12 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021135927
(22)【出願日】2021-08-23
(71)【出願人】
【識別番号】591023767
【氏名又は名称】滲透工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(72)【発明者】
【氏名】増村 哲洋
(72)【発明者】
【氏名】山口 晃一
【テーマコード(参考)】
4K033
【Fターム(参考)】
4K033PA04
(57)【要約】
【課題】表面を清浄な状態に保ちながら、表面に形成された拡散浸透層を有する磁性部品を得る。
【解決手段】磁性部品の製造方法は、磁性部品Wの母材1表面にCr、V、Ti、Al、SiおよびBからなる群より選択された1以上の元素を拡散浸透させる工程を備える。選択された元素を拡散浸透させる工程は、容器11内に母材1と、選択された元素を含む金属ハロゲン化物の流体を生成する金属ハロゲン化物生成体35Aとを互いに分離して配置する工程と、容器11を加熱して金属ハロゲン化物生成体35Aから金属ハロゲン化物の流体を生成する工程を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄系材料からなる磁性部品の製造方法において、
前記鉄系材料からなる磁性部品の母材を準備する工程と、
前記磁性部品の母材表面にCr、V、Ti、Al、SiおよびBからなる群より選択された1以上の元素を拡散浸透させる工程、を備え、
前記選択された1以上の元素を拡散浸透させる工程は、容器内に前記母材と、前記選択された元素を含む金属ハロゲン化物の流体を生成する金属ハロゲン化物生成体を互いに分離して配置する工程と、
前記容器を加熱して前記金属ハロゲン化物生成体から前記金属ハロゲン化物の流体を生成し、前記金属ハロゲン化物の流体を前記母材表面に送って、前記母材表面に前記選択された1以上の元素を拡散浸透させる工程を有する、磁性部品の製造方法。
【請求項2】
前記金属ハロゲン化物生成体は、前記選択された1以上の元素の粒子と、ハロゲン化物の粒子を含む、請求項1記載の磁性部品の製造方法。
【請求項3】
前記ハロゲン化物の粒子は、F又はClを含むことを特徴とする、請求項2記載の磁性部品の製造方法。
【請求項4】
前記容器内において、前記母材と、前記金属ハロゲン化物生成体は開口を有する隔壁により互いに分離される、請求項1記載の磁性部品の製造方法。
【請求項5】
前記容器内において、前記母材と、前記金属ハロゲン化物生成体は網状体により互いに分離される、請求項1記載の磁性部品の製造方法。
【請求項6】
前記母材表面に前記選択された1以上の元素を拡散浸透させる際、前記容器内に不活性ガス、H2ガス、Cl2ガス、またはそれらの混合ガスを供給し、前記容器から前記不活性ガス、前記H2ガス、前記Cl2ガス、または前記それらの混合ガスを排出することを特徴とする、請求項1記載の磁性部品の製造方法。
【請求項7】
請求項1記載の磁性部品の製造方法により製造された磁性部品。
【請求項8】
請求項7記載の磁性部品を備えた電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、磁性部品の製造方法、磁性部品および電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁継電器(以下、リレーとも称する)等の電子部品に用いられる磁性部品には、耐食性を付与することを目的としてその表面に金属元素の拡散浸透層を形成することが考えられている。
【0003】
しかしながら、埋設法による金属元素の拡散浸透層を製造する方法では磁性部品の表面を清浄な状態に保つことが難しく、磁性部品の表面や凹部に存在する焼結した金属の粒子またはアルミナ等の異物により磁性部品の動作不良あるいは性能不良を招いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-216354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示はこのような点を考慮してなされたものであり、磁性部品の表面を清浄な状態に保ちながら、磁性部品の表面に拡散浸透層を形成することができる磁性部品の製造方法、磁性部品および電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、鉄系材料からなる磁性部品の製造方法において、前記鉄系材料からなる磁性部品の母材を準備する工程と、前記磁性部品の母材表面にCr、V、Ti、Al、SiおよびBからなる群より選択された1以上の元素を拡散浸透させる工程を備え、前記選択された1以上の元素を拡散浸透させる工程は、容器内に前記母材と、前記選択された元素を含む金属ハロゲン化物の流体を生成する金属ハロゲン化物生成体を互いに分離して配置する工程と、前記容器を加熱して前記金属ハロゲン化物生成体から前記金属ハロゲン化物の流体を生成し、前記金属ハロゲン化物の流体を前記母材表面に送って、前記母材表面に前記選択された1以上の元素を拡散浸透させる工程を有する、磁性部品の製造方法である。
【0007】
本開示は、前記金属ハロゲン化物生成体は、前記選択された1以上の元素の粒子と、ハロゲン化物の粒子を含む、磁性部品の製造方法である。
【0008】
本開示は、前記ハロゲン化物の粒子は、F又はClを含むことを特徴とする、磁性部品の製造方法である。
【0009】
本開示は、前記容器内において、前記母材と、前記金属ハロゲン化物生成体は開口を有する隔壁により互いに分離される、磁性部品の製造方法である。
【0010】
本開示は、前記容器内において、前記母材と、前記金属ハロゲン化物生成体は網状体により互いに分離される、磁性部品の製造方法である。
【0011】
本開示は、前記母材表面に前記選択された1以上の元素を拡散浸透させる際、前記容器内に不活性ガス、H2ガス、Cl2ガス、またはそれらの混合ガスを供給し、前記容器から前記不活性ガス、前記H2ガス、前記Cl2ガス、またはそれらの混合ガスを排出することを特徴とする、磁性部品の製造方法である。
【0012】
本開示は、上記記載の磁性部品の製造方法により製造された磁性部品である。
【0013】
本開示は、上記記載の磁性部品を備えた電子部品である。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、磁性部品の表面を清浄な状態に保ちながら、表面に形成された拡散浸透層を有する磁性部品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は本開示による磁性部品の製造方法を示す概略図。
図2図2は容器内に配置された内容器を示す図。
図3A図3Aは本開示による磁性部品の製造方法により作製された磁性部品を示す斜視図。
図3B図3B図3AのA-A’線断面図。
図4図4は磁性部品を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下図面を参照して本開示の実施の形態について説明する。まず、図3および図4により本開示による磁性部品の製造方法により作製される磁性部品Wについて述べる。
【0017】
本開示による磁性部品の製造方法により作製される磁性部品Wは、鉄系材料を加工して作製される。ここで「鉄系材料」とは、鉄を主成分とする鉄合金全般を意味する。上記鉄系材料としては、例えば純鉄、鋼を挙げることができ、鋼としては、冷間圧延鋼鈑、熱間圧延鋼鈑、電磁鋼鈑等が挙げられる。また、上記鉄系材料は、ケイ素を含んでいてもよく、例えばケイ素鋼鈑等であってもよい。上記鉄系材料の形状は、特に限定されず、例えば帯状、棒状等が挙げられる。
【0018】
このような磁性部品Wは鉄系材料を所望の形状に加工した部品からなり、例えばリレー、スイッチ等の電子部品に使用される。鉄系材料から磁性部品Wを加工する方法は特に限定されないが、例えばプレス加工等が挙げられる。また、磁性部品Wの形状および大きさ等は、使用目的に応じて適宜決定されうる。
【0019】
本実施の形態において、磁性部品Wは断面L字状をなす2面W1,W2を有し、面W1に開口W3が形成され、面W2の表面に凸部W4が形成され、面w2の裏面に凹部W5が形成されている(図3Aおよび図3B参照)。ここで、図3Aは本開示による磁性部品の製造方法により作製された磁性部品を示す図であり、図3B図3AのA-A’線断面図である。
【0020】
鉄系材料の炭素含有量は、0重量%以上0.15重量%以下であることが好ましく、0重量%以上0.05重量%未満であることがより好ましく、0重量%以上0.01重量%未満であることが特に好ましい。上記構成によれば、鉄系材料の炭素含有量が少ないため、後述する合金層形成工程にて加熱処理を行うことで、鉄系材料を加工してなる磁性部品Wの金属組織を十分に成長させることができ、優れた磁気特性を有する磁性部品Wを提供することができる。
【0021】
本実施の形態によれば、上述した鉄系材料からなる磁性部品Wの母材1を準備し、この母材1表面にCr、V、Ti、Al、SiおよびBからなる群より選択された1以上の元素を拡散浸透させることにより、磁性部品Wが得られる。
【0022】
この場合、磁性部品Wの母材1表面に、元素を拡散浸透させることにより拡散浸透層2が形成される(図4参照)。この拡散浸透層2はその厚みが5~20μm(ミクロン)となっている。
【0023】
本明細書において、「鉄系材料からなる磁性部品Wの母材表面」とは、磁性部品Wの母材1が有する全ての表面のうち、少なくとも一部の表面を意味する。好ましくは、磁性部品Wの母材1が有する全ての表面において拡散浸透層が形成されている。また、上記母材1表面は、母材1表面の一部分に上記元素が拡散浸透しているものでもよいが、母材1表面においてできるだけ広い範囲に上記元素が拡散浸透していることが好ましく、母材1表面全体に上記元素が拡散浸透していることがより好ましい。このような構成によれば、磁性部品の全ての面において、優れた耐摩耗性、耐食性を示し、優れた磁気特性を有する磁性部品Wを提供することができる。
【0024】
次に磁性部品Wの母材1に拡散浸透して拡散浸透層2を形成する元素について述べる。このような磁性部品Wの母材1に拡散浸透する元素としては、Cr、V、Ti、Al、SiおよびBからなる群より選ばれる1つ以上の元素が挙げられ、このような元素を磁性部品Wの母材1表面に拡散浸透させることによって、磁性部品Wの母材1表面に拡散浸透層を形成することができる。
【0025】
Cr、V、Ti、Al、SiおよびBからなる群より選ばれる1つ以上の元素は、後述のように例えば粉末の形状、すなわち粒子の形状をもつ。当該粒子としては、Cr、V、Ti、Al、SiおよびBからなる群より選ばれる1つの元素の粒子を使用していてもよく、上記元素のうちの2つ以上を含む粒子を使用していてもよい。上記2つ以上の元素を含む粒子を使用する場合、優れた耐摩耗性、耐食性および磁気特性を実現できる範囲であれば、当該2つ以上の元素を混合する割合は任意である。また、粒子は、Cr、V、Ti、Al、SiおよびBからなる群より選ばれる1つ以上の元素の単体の粒子であってもよく、上記元素を含む化合物または合金の粒子であってもよい。上記元素を含む合金としては、例えば上記元素と鉄との合金が挙げられる。
【0026】
また、上述のようにCr、V、Ti、Al、SiおよびBからなる群より選ばれる1つ以上の元素を含む粒子は、他の材料と混合した浸透剤として用いられる。例えば、上記元素を含む粒子と、アルミナ粒子と、塩化アンモニウム粒子とを任意の割合にて混合して浸透剤を作製し、このようにして混合して得られた浸透剤を用いることができる。
【0027】
次に本開示による磁性部品の製造方法を実施するための磁性部品の製造装置について図1および図2により説明する。
【0028】
図1および図2に示すように、磁性部品の製造装置は、水平方向に延びる四角筒状容器11と、四角筒状容器11の外側に位置する囲い体12とを備えている。このうち囲い体12には四角筒状容器11を外方から加熱する加熱ヒータ22が内蔵されている。
【0029】
また四角筒状容器11および囲い体12は、いずれも鋼製となっている。
【0030】
また四角筒状容器11は一端11aが密閉され、他端11bが開口している。そして四角筒状容器11の開口する他端11bには、蓋体21が取り外し自在に設けられている。
【0031】
さらに、四角筒状容器11の一端11aには、水素ガスを供給する水素ガス源16が供給ガスライン18を介して接続され、この供給ガスライン18には水素ガス源16側から順次、バルブ18a、流量計18bおよびバルブ18cが設けられている。この場合、供給ガスライン18の先端18Aは四角筒状容器11の一端11aから四角筒状容器11の内側に向かって突出している。
【0032】
また四角筒状容器11を密閉する蓋体21には、排気ガスライン19を介して排気装置17が接続されている。
【0033】
また蓋体21を取り外すことにより四角筒状容器11内に、四角筒状容器11の開口する他端11b側から内容器30を収納することができる。
【0034】
本実施の形態において、内容器30は四角筒状容器11の内側形状よりわずかに小さい外側形状を有する四角筒状体からなる。四角筒状体からなる内容器30の両端には、四角筒状容器11の一端11a近傍に位置する第1取り外し自在板32と、四角筒状容器11の他端11b側に向かう第2取り外し自在板33が各々設けられている。
【0035】
このうち第1取り外し自在板32は、内容器30から取り外し可能となっており、内容器30に取り付けられた際、内容器30を密閉する。
【0036】
また第2取り外し自在板33も内容器30から取り外し可能となっており、多数の開口33aを有する。このため第2取り外し自在板33を内容器30に取り付けた場合、内容器30内部は第2取り外し自在板33の開口33aを介して外部と連通可能となっている。
【0037】
また内容器30の略中央部には、多数の開口31aを有する隔壁31が設置され、この隔壁31により内容器30内は、第1取り外し自在板32側の第1空間30Aと第2取り外し自在板33側の第2空間30Bとに区画されている。
【0038】
後述のように内容器30の第1空間30A内には、拡散浸透する元素の粒子35と、ハロゲン化物の粒子36とが収納され、第2空間30B内には磁性部品Wの母材1が収納される。
【0039】
また、拡散浸透する元素の粒子35とハロゲン化物の粒子36とにより金属ハロゲン化物の気体、例えば塩化クロムの気体を生成することができる。このため本明細書において、拡散浸透する元素の粒子35とハロゲン化物の粒子36は金属ハロゲン化物生成体35Aを構成する。
【0040】
なお、上述した四角筒状体からなる内容器30は鋼製となっており、また第1取り外し自在板32、第2取り外し自在板33および隔壁31も同様に鋼製となっている。
【0041】
次に磁性部品の製造方法について述べる。まず空の内容器30を準備する。そして内容器30から第1取り外し自在板32を取り外し、内容器30の第1空間30A内に磁性部品Wの母材1に拡散浸透させる元素の粒子35、例えばCrの粒子(クロム粒子)と、ハロゲン化物の粒子36、例えば塩化アンモニウムの粒子を充てんする。このようにして元素の粒子35とハロゲン化物の粒子36とにより金属ハロゲン化物生成体35Aが得られ、この金属ハロゲン化物生成体35Aにより、金属ハロゲン化物を生成することができる。
【0042】
この場合、内容器30の第1空間30A内には、Crの粒子と塩化アンモニウムの粒子が任意の割合にて混合して充てんされ、Crの粒子と塩化アンモニウムの粒子により、金属ハロゲン化物生成体35Aが得られる。なおCr粒子と塩化アンモニウムの粒子に加えて、アルミナの粒子を第1空間30A内に充填してもよい。その後、内容器30に第1取り外し自在板32を取り付けて、内容器30の第1空間30A内を密閉する。
【0043】
本実施の形態において、内容器30の第1空間30A内において、塩化アンモニウムの粒子はCr粒子に対して1~5wt%充てんされる。
【0044】
次に、未だ拡散浸透処理が施されていない磁性部品Wの母材1を準備する。そして第2取り外し自在板33を取り外し、内容器30の第2空間30B内に、磁性部品Wの母材1を収納する。その後、内容器30に第2取り外し自在板33を取り付ける。
【0045】
このようにして内容器30の第1空間30A内にCr粒子と塩化アンモニウムの粒子を充てんするとともに、第2空間30B内に磁性部品Wの母材1を収納した後、内容器30を四角筒状容器11内に配置する。
【0046】
この場合、予め蓋体21が四角筒状容器11から取り外され、かつ四角筒状容器11内は空となっている。そして空となっている四角筒状容器11内に開口された他端11b側から内容器30が挿着される。
【0047】
その後、四角筒状容器11内において、内容器30は四角筒状容器11の一端11a側へ押し付けられる。本実施の形態において、内容器30の第1取り外し自在板32には、予め開口32aが形成され、四角筒状容器11内において、内容器30が四角筒状容器11の一端11a側へ押し付けられた際、四角筒状容器11の一端11aから四角筒状容器11の内側に突出する供給ガスライン18の先端18Aは、第1取り外し自在板32の開口32aを貫通して内容器30内に進入する。
【0048】
その後、四角筒状容器11の開口する他端11bに蓋体21が取り付けられて、四角筒状容器11が密閉される。
【0049】
次に囲い体12の加熱ヒータ22により四角筒状容器11が外方から加熱され、磁性部品Wの母材1表面にCrが拡散浸透する。
【0050】
この間、水素ガス源16から供給ガスライン18を介して水素ガス(Hガス)が四角筒状容器11内に供給され、四角筒状容器11内の水素ガスは排気ガスライン19を介して排気装置17へ送られる。
【0051】
そしてこの水素ガスなどにより内容器30内を酸素の無い雰囲気としておく。
【0052】
なお磁性部品Wの母材1表面に対してCrが拡散浸透する間、四角筒状容器11は加熱ヒータ22によって、拡散浸透処理の時間中(約5~30時間)、約800~1200℃まで加熱される。
【0053】
さらに水素ガス(Hガス)などは、供給ガスライン18を介して四角筒状容器11内に、約0.3~9.0リットル/分の流量で供給される。
【0054】
次に磁性部品Wの母材1表面に対してCrが拡散浸透する作用について詳述する。
【0055】
図1および図2に示すように、四角筒状容器11内に内容器30が収納され、内容器30の第1空間30A内に磁性部品Wの母材1表面に拡散浸透する元素の粒子35、例えばCrの粒子と、ハロゲン化物の粒子36、例えば塩化アンモニウムの粒子が充てんされる。このとき、Crの粒子と塩化アンモニウムの粒子を含む金属ハロゲン化物生成体35Aが構成され、この金属ハロゲン化物生成体35Aが第1空間30A内に配置されることになる。
【0056】
他方、内容器30の第2空間30B内には磁性部品Wの母材1が配置され、内容器30の第1空間30A内の金属ハロゲン化物生成体35Aと、第2空間30B内の磁性部品Wの母材1とは、隔壁31により互いに分離して配置されることになる。
【0057】
そして、四角筒状容器11と内容器30が、加熱ヒータ22により加熱されると、まず第1空間30A内において、金属ハロゲン化物生成体35A中のCrの粒子と塩化アンモニウムの粒子とが互いに反応して、流体である塩化クロムの気体(金属ハロゲン化物の気体)が生成される。
【0058】
このように第1空間30A内において、Crの粒子(元素の粒子)と、塩化アンモニウムの粒子(ハロゲン化物の粒子)が反応して塩化クロムの気体(金属ハロゲン化物の気体)が生成され、第1空間30A内で生成された塩化クロムの気体は隔壁31の開口31aを通って第2空間30B内に達する。
【0059】
次に第2空間30B内に塩化クロムの気体が進入すると、塩化クロムの気体中のCrが磁性部品Wの母材1表面に到る。
【0060】
その後、塩化クロムの気体中のCrが磁性部品Wの母材1表面から拡散浸透して母材1の表面にCrの拡散浸透層2を形成する。
【0061】
この間、上述のように内容器30内に水素ガス源16から供給ガスライン18を介して水素ガスが供給される。内容器30内には、Crの粒子と塩化アンモニウムの粒子が反応する以前から水素ガスを供給しておき、内容器30内を酸素の無い雰囲気としておくことが好ましい。
【0062】
またCrの粒子と塩化アンモニウムの粒子が反応して塩化クロムの気体が内容器30内に達する間も、引き続いて内容器30内に水素ガスが供給され、Crの粒子と塩化アンモニウムの粒子が反応する間、内容器30内を酸素の無い雰囲気としておく。
【0063】
このようにして、内容器30の第2空間30B内において母材1表面にCrの拡散浸透層2が形成された磁性部材Wを得ることができる。
【0064】
この間、四角筒状容器11および内容器30内には水素ガスが引き続いて供給され、この水素ガスにより磁性部品Wの母材1に対するCrの拡散浸透反応が促進される。
【0065】
以上のように本実施の形態によれば、磁性部品Wの母材1表面にCrを拡散浸透させる際、内容器30の第1空間30A内にCrの粒子と塩化アンモニウムの粒子を含む金属ハロゲン化物生成体35Aを収納し、第2空間30B内に磁性部品Wの母材1を収納し、金属ハロゲン化物生成体35Aと磁性部品Wの母材1を隔壁31により互いに分離して配置することができる。このことにより、Crの拡散浸透中に磁性部品Wの母材1表面にCrの粒子が直接、接することはなく、よって母材1表面にCr粒子が、焼結して付着することもない。このように磁性部品Wの母材1表面にCrの粒子が付着して磁性部品Wの完成品に異物が付着することはなく、磁性部品Wの動作不良あるいは性能不良を招くことはない。
【0066】
すなわち、磁性部品の母材1表面にCrを拡散浸透させる際、磁性部品の母材をCr及びアルミナの粒子中に埋没させ、Crを磁性部品の母材表面に拡散浸透させることも可能であるが、磁性部品の母材をCr及びアルミナの粒子中に埋没させた場合、Crの拡散浸透中に磁性部品の母材表面にCrの粒子及びアルミナの粒子が焼結して、特に製品凹部W5に焼き付いたCrの粒子及びアルミナの粒子が磁性部品の動作不良あるいは性能不良を招いている。
【0067】
本実施の形態によれば、Crの粒子と塩化アンモニウムの粒子を含む金属ハロゲン化物生成体35Aと、磁性部品Wの母材1を隔壁31により互いに分離して配置したので、Crの拡散浸透中に磁性部品Wの母材1表面にCrの粒子が焼結して付着することを確実に防ぐことができる。
【0068】
なお上記実施の形態において、内容器30の第1空間30A内に拡散浸透する元素として用いられるCrの粒子と、ハロゲン化物として用いられる塩化アンモニウムの粒子からなる金属ハロゲン化物生成体35Aを収納した例を示したが、これに限らず拡散浸透する元素の粒子としてCrの粒子の代わりに、Cr、V、Ti、Al、SiおよびBからなる群より選ばれるCr以外の他の1つの元素の粒子を使用してもよく、あるいは上記群より選ばれる2つ以上の元素を含む粒子を使用してもよい。
【0069】
2つ以上の元素を含む粒子を使用する場合、耐摩耗性、耐食性および磁気特性を考慮して、当該2つ以上の元素を混合する割合は任意である。また粒子はCr、V、Ti、Al、SiおよびBからなる群より選ばれるCr以外の他の1つの元素の単体の粒子、あるいはこれら元素を含む化合物または合金の粒子であってもよく、元素を含む合金としては、当該元素と鉄の合金であってもよい。
【0070】
また内容器30の第1空間30A内にハロゲン化物として塩化アンモニウムの粒子を充てんした例を示したが、これに限らずハロゲン化物として塩化カリウムや塩化コバルト、あるいはフッ化カルシウムやフッ化アルミニウムを用いてもよい。
【0071】
さらに上記実施の形態において、内容器30内に開口31aを有する隔壁31を設け、内容器30内を第1空間30Aと第2空間30Bに区画した例を示したが、これに限らず隔壁31の代わりに、内容器30内に網状体を配置してもよい。
【0072】
さらに、磁性部品Wの母材1表面にCrを拡散浸透させる間、四角筒状容器11内に水素ガスを供給する例を示したが、これに限らず塩化金属ガス生成を活性化させる塩素ガス(Cl2ガス)、Arガス等の不活性ガス、またはそれらの混合ガスを四角筒状容器11内に供給してもよい。
【0073】
さらに四角筒状容器11内に四角筒状体からなる内容器30を配置した例を示したが、これに限らず四角筒状容器11の代わりに円筒状容器を用いるとともに、円筒状容器内に円筒状の内容器を配置し、円筒状容器と円筒状の内容器を各々の軸線回りに回転させてもよい。
【符号の説明】
【0074】
1 磁性部品の母材
2 拡散浸透層
10 磁性部品の製造装置
11 四角筒状容器
12 囲い体
13 支持部
14 保持フレーム
15 駆動機構
16 水素ガス源
17 排気装置
18 供給ガスライン
18A 先端
19 排気ガスライン
21 蓋体
22 加熱ヒータ
30 内容器
30A 第1空間
30B 第2空間
31 隔壁
31a 開口
32 第1取り外し自在板
33 第2取り外し自在板
33a 開口
W 磁性部品
図1
図2
図3A
図3B
図4