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特開2023-30683スチレン系樹脂組成物及びスチレン系樹脂組成物の製造方法
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  • 特開-スチレン系樹脂組成物及びスチレン系樹脂組成物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023030683
(43)【公開日】2023-03-08
(54)【発明の名称】スチレン系樹脂組成物及びスチレン系樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 25/04 20060101AFI20230301BHJP
   C08L 71/12 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
C08L25/04
C08L71/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021135940
(22)【出願日】2021-08-23
(71)【出願人】
【識別番号】500199479
【氏名又は名称】PSジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【弁理士】
【氏名又は名称】神 紘一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141601
【弁理士】
【氏名又は名称】貴志 浩充
(72)【発明者】
【氏名】池田 佳生
(72)【発明者】
【氏名】山本 剛弘
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BC033
4J002BC03W
4J002CH07X
4J002EA036
(57)【要約】      (修正有)
【課題】低臭気性、成形性、及び外観に優れるスチレン系樹脂組成物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】スチレン系樹脂を含むポリスチレン成分(A)49.6~98.6質量%と、一般式(I):

で表される基を末端に有する改質ポリフェニレンエーテル系樹脂を含むポリフェニレンエーテル成分(B)1~50質量%と、スチレンオリゴマーを含むオリゴマー成分(C)0.4質量%以下と、を含有する、スチレン系樹脂組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系樹脂を含むポリスチレン成分(A)49.6~98.6質量%と、
下記一般式(I):
【化1】
(上記一般式(I)中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素原子数1~4のアルキル基を表し、Rは、置換基Lにより置換される又は無置換のフェニル基、-COO-R(Rは、炭素原子数1~8のアルキル基)、又はニトリル基を表し、R、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を表し、置換基Lは、炭素原子数1~4のアルキル基を表し、当該炭素原子数1~4のアルキル基中の1以上の水素原子はハロゲン原子に置換されてもよい。但し、R及びRが同時にメチル基となることはない。)で表される基を末端に有する改質ポリフェニレンエーテル系樹脂を含むポリフェニレンエーテル成分(B)1~50質量%と、
スチレンオリゴマーを含むオリゴマー成分(C)0.4質量%以下と、を含有する、スチレン系樹脂組成物。
【請求項2】
前記化学式(I)で表される末端構造は、前記ポリフェニレンエーテル成分(B)全体の主鎖構造1000単位に対して、0.5単位以上10単位以下含む、請求項1に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項3】
ポリスチレン成分(A)と、末端にアミノ基又はイミノ基を有するポリフェニレンエーテル系樹脂(b1)を含むポリフェニレンエーテル原料成分(B1)と、芳香族ビニル系化合物と、を含む配合物を60℃以上250℃以下の温度範囲で加熱する工程(I)と、
前記配合物又は前記工程(I)で得られた混合物を200℃以上250℃以下の温度条件で脱揮する工程(II)と、を有する、スチレン系樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記芳香族ビニル系化合物を、ポリフェニレンエーテル原料成分(B1)の添加量100重量部に対し、1~1000重量部添加することを特徴とする、請求項3に記載のスチレン系樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
前記配合物は、予め前記ポリフェニレンエーテル原料成分(B1)と前記芳香族ビニル系化合物とを混合した後、前記ポリスチレン成分(A)と混合して得られる、請求項3又は4に記載のスチレン系樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
前記芳香族ビニル系化合物は、スチレン単量体であり、
前記工程(I)は、前記ポリフェニレンエーテル原料成分(B1)とスチレン単量体との共存下で前記スチレン単量体を重合させてポリスチレン成分(A)を生成し、当該ポリスチレン成分(A)と、前記ポリフェニレンエーテル原料成分(B1)と、前記芳香族ビニル系化合物である前記スチレン単量体と、を含む配合物を60℃以上250℃以下の温度範囲で加熱する工程である、請求項3~5のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン系樹脂組成物及びスチレン系樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂は、成形性、寸法安定性に加え、耐衝撃性に優れていることから、広範囲な用途に使用されている。なかでも、スチレン系樹脂と、優れた高周波特性、難燃性、耐熱性を有するポリフェニレンエーテル系樹脂とのポリマーアロイに関する技術は、従来から多数検討されてきた系の一つである。
例えば、特許文献1には、ポリフェニレンエーテル系樹脂とスチレン系樹脂とのアロイに関する技術が開示されている。具体的には、ポリフェニレンエーテル系樹脂及びスチレン系樹脂を含有する溶液を揮発物除去帯域に通して製品中の臭気性不純物の含有率を減少させることを含む方法によって低臭気ポリフェニレンエーテル/ポリスチレン材料を製造する方法が記載されている。また、特許文献2には、ポリフェニレンエーテルと、スチレン系樹脂と、遷移アルミナを主成分とする中心粒径が150μm以下でBET表面積が10m/g以上であるアルミナとを含む低臭気ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2-215856号
【特許文献2】特開平8-143764号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1及び2に記載の通り、ポリフェニレンエーテル系樹脂を製造又は加工する際に当該ポリフェニレンエーテル系樹脂由来の成分による臭気が発生するため、製造又は加工を行う屋内作業場の臭気を換気により屋外へ排出しなければならないという問題がある。そのため、特許文献1の技術では、ポリフェニレンエーテル系樹脂を含む溶液を脱揮することによって臭気性不純物を低減させている。一方、特許文献2の技術は、臭気性不純物をアルミナに吸着させることにより臭気を低減している。
しかしながら、上記特許文献1及び2の技術では、低臭気ポリフェニレンエーテル/ポリスチレン材料の製造過程で大量の分解物が生じ、成形品の外観が悪化してしまうという新たな課題については検討されていない。
そこで、本発明の課題は、低臭気性、成形性、及び外観に優れるスチレン系樹脂組成物及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意研究を進めた結果、スチレン系樹脂及び特定のポリフェニレンエーテル系樹脂を含有する組成物にすることにより、低臭気性と成形性、及び外観に優れた樹脂組成物及びその製造方法が得られることを見出し、発明を完成するに至った。
【0006】
本発明は下記に示すとおりである。
〔1〕本発明は、スチレン系樹脂を含むポリスチレン成分(A)49.6~98.6質量%と、
下記一般式(I):
【化1】
(上記一般式(I)中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素原子数1~4のアルキル基を表し、Rは、置換基Lにより置換される又は無置換のフェニル基、-COO-R(Rは、炭素原子数1~8のアルキル基)、又はニトリル基を表し、R、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を表し、置換基Lは、炭素原子数1~4のアルキル基を表し、当該炭素原子数1~4のアルキル基中の1以上の水素原子はハロゲン原子に置換されてもよい。但し、R及びRが同時にメチル基となることはない。)
で表される基を末端に有する改質ポリフェニレンエーテル系樹脂を含むポリフェニレンエーテル成分(B)1~50質量%と、
スチレンオリゴマーを含むオリゴマー成分(C)0.4質量%以下と、を含有する、スチレン系樹脂組成物である。
〔2〕本発明において、前記改質ポリフェニレンエーテル系樹脂の化学式(I)で表される末端構造は、前記ポリフェニレンエーテル成分(B)全体の主鎖構造1000単位に対して、0.5単位以上10単位以下含むことが好ましい。
〔3〕本発明に係るスチレン系樹脂組成物の製造方法は、ポリスチレン成分(A)と、末端にイミノ基を有する改質ポリフェニレンエーテル系樹脂を含むポリフェニレンエーテル成分(B)と、芳香族ビニル系化合物と、を含む配合物を、60℃以上250℃以下の温度範囲で加熱溶融して溶融物を調製する工程(I)と、
前記配合物又は前記溶融物を200℃以上250℃以下の温度条件で脱揮する工程(II)と、を有する。
〔4〕本発明に係るスチレン系樹脂組成物の製造方法おいて、前記芳香族ビニル系化合物を、ポリフェニレンエーテル成分(B)の添加量100重量部に対し、1~1000重量部添加することが好ましい。
〔5〕本発明に係るスチレン系樹脂組成物の製造方法おいて、前記配合物は、予め前記ポリフェニレンエーテル成分(B)と前記芳香族ビニル系化合物とを混練した後、前記ポリスチレン成分(A)と溶融混練することが好ましい。
〔6〕本発明に係るスチレン系樹脂組成物の製造方法おいて、前記芳香族ビニル系化合物は、スチレン単量体であり、
前記工程(I)は、前記ポリフェニレンエーテル原料成分(B1)とスチレン単量体との共存下で前記スチレン単量体を重合させてポリスチレン成分(A)を生成し、当該ポリスチレン成分(A)と、前記ポリフェニレンエーテル原料成分(B1)と、前記芳香族ビニル系化合物である前記スチレン単量体と、を含む配合物を60℃以上250℃以下の温度範囲で加熱する工程であることが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、低臭気性、成形性、及び外観に優れるスチレン系樹脂組成物及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本実施形態のスチレン系樹脂組成物の製造方法の一例を示す概略図であり、原料である、固形状の、ポリスチレン成分(A)及びポリフェニレンエーテル原料成分(B1)を加熱溶融及び混練する方法を示す。
図2図2は、本実施形態のスチレン系樹脂組成物の製造方法の他の一例を示す概略図であり、重合溶媒を用いて原料を加熱溶融及び混練する方法を示す。
図3図3は、本実施形態のスチレン系樹脂組成物の製造方法の他の一例を示す概略図であり、図2に記載の実施形態より大量の重合溶媒を用いることによって原料を溶液状態にした後、加熱する方法を示す。
図4図4は、本実施形態のスチレン系樹脂組成物の製造方法の他の一例を示す概略図であり、ポリスチレン系樹脂の重合と、ポリフェニレンエーテル原料成分(B1)との混合とを同一工程で行う方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」という。)について説明するが、本発
明は本実施形態に限定されるものではない。
「スチレン系樹脂組成物」
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、ポリスチレン成分(A)(以下、成分(A))と、ポリフェニレンエーテル成分(B)(以下、成分(B))と、オリゴマー成分(C)(以下、成分(C))と、を含有する。そして、スチレン系樹脂組成物全体の総量(100質量%)に対して、成分(A):49.6~98.6質量%、成分(B):1~50質量%及び成分(C):0.4質量%以下を含有する。また、成分(A)はスチレン系樹脂を含み、成分(B)は下記一般式(I):
【化2】
(上記一般式(I)中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素原子数1~4のアルキル基を表し、Rは、置換基Lにより置換される又は無置換のフェニル基、-COO-R(Rは、炭素原子数1~8のアルキル基である。)、又はニトリル基を表し、R、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を表し、置換基Lは、炭素原子数1~4のアルキル基を表し、当該炭素原子数1~4のアルキル基中の1以上の水素原子はハロゲン原子に置換されてもよい。但し、R及びRが同時にメチル基となることはない。なお、上記一般式中(I)中の*は他の原子との結合を表す。)で表される基を末端に有する改質ポリフェニレンエーテル系樹脂を含み、成分(C)はスチレンオリゴマーを含む。
これにより、低臭気性、成形性、及び外観に優れるスチレン系樹脂組成物を提供できる。
【0010】
以下、各成分(A)~(D)について説明する。
「ポリスチレン成分(A)」
本実施形態で用いることができるポリスチレン成分(A)は、スチレン系樹脂を主成分として含有する成分である。当該スチレン系樹脂は、スチレン系単量体と、必要に応じてこれと共重合可能な他のビニル単量体及びゴム質重合体より選ばれる1種以上を重合して得られる樹脂である。当該スチレン系樹脂は特に限定されることはないが、例えば、ポリスチレン等のスチレン系樹脂マトリックス中にゴム状重合体(a)の粒子が分散されたゴム変性スチレン系樹脂、又はスチレン系共重合樹脂が挙げられる。そのため、本発明に係るスチレン系樹脂は、スチレン系単量体を必須成分として含有し、必要により、他のビニル単量体単位及び/又はゴム質重合体単量体単位を有する。
【0011】
本実施形態において、ポリスチレン成分(A)の主成分であるスチレン系樹脂は、ポリスチレン又はスチレン系共重合樹脂が好ましい。
また、本明細書において「スチレン系樹脂を主成分として含有する」とは、ポリスチレン成分(A)の総量(100質量%)に対して90質量%以上スチレン系樹脂が占めることをいう。
本実施形態において、スチレン系樹脂組成物全体の総量(100質量%)に対するポリスチレン成分(A)の含有量は、49.6~98.6質量%であることが好ましく、55~95質量%であることがより好ましく、60~90質量%であることがさらに好ましい。
【0012】
本実施形態において、ポリスチレンとはスチレン系単量体の単独重合体であり、一般的に入手できるものを適宜選択して用いることができる。ポリスチレンを構成するスチレン系単量体としては、スチレンの他に、α-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン、ο-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、イソブチルスチレン、及びt-ブチルスチレン又はブロモスチレン及びインデン等のスチレン誘導体が挙げられる。特に工業的観点からスチレンが好ましい。これらのスチレン系単量体は、1種又は2種以上使用することができる。ポリスチレンは、上記のスチレン系単量体単位以外の単量体単位を、本発明の効果を損なわない範囲で更に含有することを排除しないが、典型的にはスチレン系単量体単位からなる。
本実施形態において、ポリスチレンの重量平均分子量(Mw)は100,000~350,000であることが好ましく、より好ましくは120,000~300,000、さらに好ましくは140,000~240,000である。重量平均分子量(Mw)が100,000~350,000である場合、機械的強度と流動性とのバランスにより優れる樹脂が得られ、またゲル物の混入も少ない。なお、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用い、標準ポリスレン換算で得られる値である。
【0013】
-ゴム変性スチレン系樹脂-
本実施形態において、ゴム変性スチレン系樹脂とは、マトリクスとしてのスチレン系樹脂中にゴム状重合体(a)の粒子(ゴム状重合体(a)粒子とも称する。)が分散したものであり、ゴム状重合体(a)の存在下でスチレン系単量体を重合させることにより製造することができる。
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂を構成するスチレン系単量体は、上記のポリスチレンで使用可能なスチレン系単量体と同一である。特に、スチレンが好ましい。これらのスチレン系単量体は、1種若しくは2種以上使用することができる。
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂に含まれるゴム状重合体(a)粒子は、例えば、内側に上記のスチレン系単量体より得られるスチレン系単量体単位を含有する樹脂を内包してもよく、及び/又は外側にスチレン系単量体単位を含有する樹脂がグラフトされたものであってよい。
前記ゴム状重合体(a)としては、例えば、ポリブタジエン(ポリスチレン又はアクリル系樹脂を内包する形態も含む)、ポリイソプレン、天然ゴム、ポリクロロプレン、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体等を使用できるが、ポリブタジエン又はスチレン-ブタジエン共重合体が好ましい。ポリブタジエンには、シス含有率の高いハイシスポリブタジエン及びシス含有率の低いローシスポリブタジエンの双方を用いることができる。また、スチレン-ブタジエン共重合体の構造としては、ランダム構造及びブロック構造の双方を用いることができる。これらのゴム状重合体(a)は1種若しくは2種以上使用することができる。また、ブタジエン系ゴムを水素添加した飽和ゴムを使用することもできる。
このようなゴム変性スチレン系樹脂の例としては、HIPS(高衝撃ポリスチレン)、ABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)、AAS樹脂(アクリロニトリル-アクリルゴム-スチレン共重合体)、AES樹脂(アクリロニトリル-エチレンプロピレンゴム-スチレン共重合体)等が挙げられる。
ゴム変性スチレン系樹脂がHIPS系樹脂である場合、これらのゴム状重合体(a)の中で特に好ましいのは、シス1,4結合が90モル%以上で構成されるハイシスポリブタジエンである。該ハイシスポリブタジエンにおいては、ビニル1,2結合が6モル%以下で構成されることが好ましく、3モル%以下で構成されることが特に好ましい。
なお、該ハイシスポリブタジエンの構成単位に関する異性体としてシス1,4、トランス1,4、又はビニル1,2構造を有する化合物の含有率は、赤外分光光度計を用いて測定し、モレロ法によりデータ処理することにより算出できる。
また、該ハイシスポリブタジエンは、公知の製造法、例えば有機アルミニウム化合物とコバルト又はニッケル化合物を含んだ触媒を用いて、1,3ブタジエンを重合して容易に得ることができる。
【0014】
ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるゴム状重合体(a)の含有量は、当該ゴム変性スチレン系樹脂100質量%に対して、3~20質量%が好ましく、更に好ましくは5~15質量%である。ゴム状重合体(a)の含有量が3質量%より少ないとスチレン系樹脂の耐衝撃性が低下する虞がある。また、ゴム状重合体(a)の含有量が20質量%を超えると難燃性が低下する虞がある。
なお本開示で、ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるゴム状重合体(a)の含有量は、熱分解ガスクロマトグラフィーを用いて算出される値である。
【0015】
ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるゴム状重合体(a)粒子の平均粒子径は、耐衝撃性や難燃性の観点から、0.5~4.0μmであることが好ましく、更に好ましくは0.8~3.5μmである。
なお本開示で、ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるゴム状重合体(a)粒子の平均粒子径は、以下の方法により測定することができる。
四酸化オスミウムで染色したゴム変性スチレン系樹脂から厚さ75nmの超薄切片を作製し、電子顕微鏡を用いて倍率10000倍の写真を撮影する。写真中、黒く染色された粒子がゴム状重合体(a)粒子である。写真から、下記数式(N1):
平均粒子径=ΣniDri /ΣniDri (N1)
(上記数式(N1)中、niは、粒子径Driのゴム状重合体(a)粒子の個数であり、粒子径Driは、写真中の粒子の面積から円相当径として算出した粒子径である。)により面積平均粒子径を算出し、ゴム状重合体(a)粒子の平均粒子径とする。本測定は、写真を200dpiの解像度でスキャナーに取り込み、画像解析装置IP-1000(旭化成社製)の粒子解析ソフトを用いて測定する。
【0016】
ゴム変性スチレン系樹脂の還元粘度(これは、ゴム変性スチレン系樹脂の分子量の指標となる。)は、0.50~0.85dL/gの範囲にあることが好ましく、更に好ましくは0.55~0.80dL/gの範囲である。0.50dL/gより小さいと衝撃強度が低下する虞があり、0.85dL/gを超えると流動性の低下により成形性が低下する虞がある。
なお本開示で、ゴム変性スチレン系樹脂の還元粘度は、トルエン溶液中で30℃、濃度0.5g/dLの条件で測定される値である。
【0017】
ゴム変性スチレン系樹脂の製造方法は、特に制限されるものではないが、ゴム状重合体(a)の存在下、スチレン系単量体(及び溶媒)を重合する塊状重合(若しくは溶液重合)、又は反応途中で懸濁重合に移行する塊状-懸濁重合、又はゴム状重合体(a)ラテックスの存在下、スチレン系単量体を重合する乳化グラフト重合にて製造することができる。塊状重合においては、ゴム状重合体(a)とスチレン系単量体、並びに必要に応じて有機溶媒、有機過酸化物、及び/又は連鎖移動剤を添加した混合溶液を、完全混合型反応器又は槽型反応器と複数の槽型反応器とを直列に連結し構成される重合装置に連続的に供給することにより製造することができる。
【0018】
-スチレン系共重合樹脂-
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂とは、スチレン系単量体単位を必須に含有し、且つ不飽和カルボン酸系単量体単位及び/又は不飽和カルボン酸エステル系単量体単位を任意に含む樹脂である。スチレン系共重合樹脂は、スチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、スチレン系単量体単位の含有量は69~98質量%であることが好ましく、より好ましくは74~96質量%であり、さらに好ましくは77~92質量%の範囲である。
スチレン系共重合樹脂において、不飽和カルボン酸系単量体単位は耐熱性を向上させる役割を果たす。スチレン系共重合樹脂中のスチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、不飽和カルボン酸系単量体単位の含有量は0~16質量%であることが好ましく、より好ましくは0~14質量%であり、さらに好ましくは0~13質量%である。
一般に、スチレン-メタクリル酸-メタクリル酸メチル共重合樹脂を含むスチレン-メタクリル酸系樹脂は、工業的規模ではほとんどの場合、ラジカル重合で生産されているが、本実施形態において、脱揮工程のゲル化反応を抑制するために、種々のアルコールを重合系中に添加して重合を行なうことができる。
【0019】
不飽和カルボン酸エステル系単量体は、不飽和カルボン酸系単量体との分子間相互作用によって不飽和カルボン酸系単量体の脱水反応を抑制するために、及び、樹脂の機械的強度を向上させるために用いることができる。更には、不飽和カルボン酸エステル系単量体は、耐候性、表面硬度等の樹脂特性の向上にも寄与する。
【0020】
本実施形態において、スチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の含有量は0~15質量%であることが好ましく、より好ましくは1~12質量%、さらに好ましくは2~10質量%である。当該含有量を15質量%以下とすることにより、樹脂の流動性を向上させ、且つ吸水性を抑制することができる。また、不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の含有量を0質量%とすることにより、耐熱性の向上やコスト削減をすることができるが、上記の観点から不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の含有量を0質量%超とすることもできる。
なお、不飽和カルボン酸系単量体と不飽和カルボン酸エステル系単量体単位とが隣り合わせで結合した場合、高温、高真空の脱揮装置を用いると、条件によっては脱アルコール反応が起こり、六員環酸無水物が形成される場合がある。本実施形態の共重合樹脂は、この六員環酸無水物を含んでいてもよいが、流動性を低下させることから、生成される六員環酸無水物はより少ない方が好ましい。
【0021】
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂中の、スチレン系単量体単位(例えば、スチレン単量体単位)、不飽和カルボン酸系単量体単位(例えば、メタクリル酸単量体単位)及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位(例えば、メタクリル酸メチル単量体単位)の含有量は、それぞれ、プロトン核磁気共鳴(H-NMR)測定機で測定したスペクトルの積分比から求めることができる。
【0022】
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂は、スチレン系単量体単位、任意成分である、不飽和カルボン酸系単量体単位及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位以外の単量体単位を、本発明の効果を損なわない範囲で更に含有することを排除しない。しかし、本発明におけるスチレン系共重合樹脂は、典型的には、スチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位を構成成分とすることが好ましい。
【0023】
本実施形態のスチレン系共重合樹脂を構成するスチレン系単量体としては、上記のポリスチレンで使用可能なスチレン系単量体と同一である。
本実施形態のスチレン系共重合樹脂を構成する不飽和カルボン酸系単量体としては、特に限定されないが例えば、メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられる。不飽和カルボン酸系単量体としては、耐熱性の向上効果が大きく、常温にて液状でハンドリング性に優れることからメタクリル酸が好ましい。これらの不飽和カルボン酸系単量体は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0024】
本実施形態の共重合樹脂を構成する不飽和カルボン酸エステル系単量体としては、特に限定されないが例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、耐熱性低下に対する影響が小さいことから(メタ)アクリル酸メチルが好ましい。これらの不飽和カルボン酸エステル系単量体は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂の重量平均分子量(Mw)は100,000~350,000であることが好ましく、より好ましくは120,000~300,000、さらに好ましくは140,000~240,000である。重量平均分子量(Mw)が100,000~350,000である場合、機械的強度と流動性とのバランスにより優れる樹脂が得られ、またゲル物の混入も少ない。なお、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用い、標準ポリスレン換算で得られる値である。
本実施形態において、共重合樹脂の重合方法は、特に制限はないが例えば、ラジカル重合法として、塊状重合法又は溶液重合法を好適に採用できる。重合方法は、主に、重合原料(単量体成分)を重合させる重合工程と、重合生成物から未反応モノマー、重合溶媒等の揮発分を除去する脱揮工程とを備える。
【0025】
「ポリフェニレンエーテル成分(B)」
本実施形態にかかるスチレン系樹脂組成物は、ポリフェニレンエーテル成分(B)を必須に含有する。そして、本実施形態におけるポリフェニレンエーテル成分(B)は、一般式(I)で表される化学構造を有する改質ポリフェニレンエーテル系樹脂を含有する成分である。換言すると、ポリフェニレンエーテル成分(B)は、当該改質ポリフェニレンエーテル系樹脂と、当該改質ポリフェニレンエーテル系樹脂とは化学構造が異なる、ポリフェニレンエーテル系樹脂(b1)及びポリフェニレンエーテル系樹脂(b2)と、を含有する。ポリフェニレンエーテル系樹脂(b1)はその末端の水酸基が封止されていない構造であり、末端にアミノ基又はイミノ基を有するポリフェニレンエーテル系樹脂である。例えば、ポリフェニレンエーテル系樹脂(b1)は後述の通り、下記一般式(II)で表される繰返し単位構造と下記一般式(III)で表される末端基とを有しうる。
また、ポリフェニレンエーテル系樹脂(b2)は、下記一般式(II)で表される繰返し単位構造を有し、かつ改質ポリフェニレンエーテル系樹脂及びポリフェニレンエーテル系樹脂(b1)以外のポリフェニレンエーテル系樹脂でありうる。
【0026】
本実施形態において、スチレン系樹脂組成物全体の総量(100質量%)に対するポリフェニレンエーテル成分(B)の含有量は、1~50質量%であることが好ましく、5~45質量%であることがより好ましく、10~40質量%であることがさらに好ましい。本実施形態において、ポリフェニレンエーテル成分(B)の主鎖の繰返し構造単位(ポリフェニレンエーテル成分(B)中に含まれる化学式(II)で表される繰返し単位)1000単位に対し、一般式(I)の末端構造は0.5~10単位含有することが好ましく、1~10単位含有することがより好ましく、1~8単位含有することがさらに好ましく、2~6単位含有することが特に好ましい。
化学式(II)で表される繰返し単位1000単位に対して一般式(I)で表される末端構造が10単位を超えると、分子量が低い樹脂をポリフェニレンエーテル成分(B)中に多く含むため、種々の物性が低下する傾向を示す。また、化学式(II)で表される繰返し単位1000単位に対して一般式(I)で表される末端構造が0.5単位未満であると、ポリフェニレンエーテル成分(B)特有の臭気を高いレベルで低減し難くなる。なお、一般式(I)の末端構造の繰返し単位数の個数は、実施例の欄に記載のように、H-NMRを用いて算出している。
【0027】
本実施形態におけるポリフェニレンエーテル成分(B)全体の重量平均分子量(Mw)は、19,000~150000が望ましく、より好ましくは30,000~110,000、更に好ましくは40,000~800,000である。重量平均分子量(Mw)が19,000未満になると強度が不足し、150,000超になると流動性が低下する。
【0028】
-改質ポリフェニレンエーテル系樹脂-
上述した特許文献1及び2に記載のように、一般的にポリフェニレンエーテルは、加熱加工時に臭気が発生することがあり、加熱加工時の作業性の向上が望まれていたという現状がある。そこで本実施形態では、ポリフェニレンエーテルの臭気の原因の一つである末端水酸基の変性を抑制する目的で、当該末端水酸基を封止した改質ポリフェニレンエーテル系樹脂を使用している。
【0029】
本実施形態における改質ポリフェニレンエーテル系樹脂は、下記一般式(I):
【化3】
(上記一般式(I)中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素原子数1~4のアルキル基を表し、Rは、置換基Lにより置換される又は無置換のフェニル基、-COO-R(Rは、炭素原子数1~8のアルキル基)、又はニトリル基を表し、R、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を表し、置換基Lは、炭素原子数1~4のアルキル基を表し、当該炭素原子数1~4のアルキル基中の1以上の水素原子はハロゲン原子に置換されてもよい。但し、R及びRが同時にメチル基となることはない。)で表される基を1又は2以上の末端に有し、かつ後述の一般式(II)で表される繰返し単位構造を有するポリフェニレンエーテル系重合体をいう。換言すると、当該改質ポリフェニレンエーテル系樹脂は、ポリフェニレンエーテル系樹脂(b1)の1又は2以上の末端部を、上記一般式(I)で表される基に改質された重合体をいう。
【0030】
上記一般式(I)において、Rは、水素原子又は炭素原子数1~4のアルキル基を表すことが好ましい。上記一般式(I)において、Rは、置換基Lにより置換される又は無置換のフェニル基を表すことが好ましい。上記一般式(I)において、置換基Lは、炭素原子数1~4のアルキル基を表すことが好ましい。
上記一般式(I)において、R、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を表すことが好ましい。
【0031】
本明細書において、炭素原子数1~8のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基又はオクチル基等が挙げられる。また、炭素原子数1~4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基又はtert-ブチル基等が挙げられる。
本実施形態に係る改質ポリフェニレンエーテルは、ポリフェニレンエーテル系樹脂(b1)を、キャッピング化合物(例えば、後述の芳香族ビニル化合物)により変性することにより得られる。
【0032】
本実施形態で用いるポリフェニレンエーテル系樹脂(b1)は、下記一般式(II)で表される繰返し単位構造と下記一般式(III)で表される末端基とを有し、かつ当該末端基の合計数が、当該ポリフェニレンエーテル系樹脂(b1)を構成するフェニレンエーテルユニット(=下記一般式(II)で表される繰返し単位構造)100個あたりに対して0.8個以下であることが好ましく、0.01個以下であることが好ましい。
【化4】
(上記一般式(II)中、R、R、R、及びRはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~8のアルキル基、置換基Lにより置換される又は無置換のフェニル基、ハロアルキル基、アミノアルキル基、炭化水素オキシ基、又は少なくとも2個の炭素原子がハロゲン原子と酸素原子とを隔てているハロ炭化水素オキシ基からなる群から選択されるものである。)
【化5】
(上記一般式(III)中、R、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を表し、R、R、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~8のアルキル基を表し、これらR、R、R及びRは同時に水素原子であることはない。)
【0033】
一般に、ポリフェニレン系樹脂を合成する際に、当該ポリフェニレン系樹脂の中間体の末端の芳香環に置換基が付加し、当該付加した置換基が活性化し副反応を起こすと、ポリフェニレンエーテル系樹脂自体が着色(黄変)することがある。また高温下でポリフェニレン系樹脂又は前記中間体を暴露すると、フリース型転移が生じて、フルオレノン環などの縮合環を形成して着色することがある。しかし、上記一般式(III)で表される末端基のような、例えば、溶剤等が当該中間体の活性化部位に付加(例えば、アミン又はイミンが付加)する構造を形成すると、着色の原因となる副反応を抑制することができる反面、加熱加工時の臭気の原因となる。そのため、ポリフェニレン系樹脂においては、低臭気と黄色度とはトレードオフの関係になりうる。
なお、ポリフェニレンエーテル末端のアミノ基が置換したユニット(一般式(III))の割合は、後述する実施例に記載の方法でH-NMR等によって算出される。
【0034】
上記一般式(II)において、R、R、R、及びRはそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~4のアルキル基を表すことが好ましい。
本実施形態のポリフェニレンエーテル系樹脂(b1)の好ましい形態は、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-エチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-フェニル-1,4-フェニレンエーテル)及びポリ(2,6-ジクロロ-1,4-フェニレンエーテル)からなる群から選択される1以上の重合体であって、上記一般式(III)で表される末端基を有し、かつ当該末端基の合計数が、当該重合体を構成するフェニレンエーテルユニット100個あたりに対して0.8個以下であることが好ましい。
【0035】
本実施形態におけるポリフェニレンエーテル系樹脂(b1)の重量平均分子量(Mw)は、20,000~120,000が好ましく、より好ましくは30,000~100,000、更に好ましくは40,000~70,000である。重量平均分子量(Mw)が20,000以下になると強度が不足し、120,000超になると流動性が低下する。
上記重量平均分子量(Mw)は、酸化カップリング重合時における雰囲気、溶媒種、触媒種、反応温度、反応時間等の条件、特に、触媒種を適切に選択することにより調整可能である。なお本開示で、重量平均分子量(Mw)は、ポリスチレン換算分子量としてGPCにて測定することができる。
本実施形態におけるポリフェニレンエーテル成分(B)に含有されうるポリフェニレンエーテル系樹脂(b2)は特に制限されることはなく、上記一般式(II)で表される繰返し単位構造を有する単独重合体及び/又は共重合体であればよく、公知の樹脂を使用することができる。また、ポリフェニレンエーテル系樹脂(b2)は、上記一般式(II)で表される末端基を有する点以外はポリフェニレンエーテル系樹脂(b1)と同一の化学構造であってもよい。当該ポリフェニレンエーテル系樹脂(b2)は、例えば、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-エチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-フェニル-1,4-フェニレンエーテル)及びポリ(2,6-ジクロロ-1,4-フェニレンエーテル)からなる群から選択される1以上の重合体が挙げられる。
【0036】
本実施形態におけるポリフェニレンエーテル系樹脂(b2)の重量平均分子量(Mw)は、2万~12万が望ましく、より好ましくは3万~10万、更に好ましくは4万~7万である。重量平均分子量(Mw)が2万以下になると強度が不足し、Z平均分子量(Mz)が12万より大きくなると流動性が低下する。
【0037】
<ポリフェニレンエーテル成分(B)の製造方法〉
本実施形態において、ポリフェニレンエーテル成分(B)(例えば、ポリフェニレンエーテル系樹脂(b1)及び(b2))の製造方法は、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。例えば、米国特許第3306874号明細書に記載の第一銅塩とアミンのコンプレックスを触媒として用い、例えば2,6-キシレノールを酸化重合することにより容易に製造できる。或いは、米国特許第3306875号明細書、米国特許第3257357号明細書、米国特許第3257358号明細書、特公昭52-17880号公報、特開昭50-51197号公報、特開昭63-152628号公報等に記載された方法等によって製造することができる。
【0038】
本実施形態において、ポリフェニレンエーテル成分(B)は、フェノール化合物の酸化カップリングにより製造される。ポリフェニレンエーテル系樹脂(B)の酸化カップリング反応触媒としては、特に制限はないが、銅、マンガン、コバルト等の重金属化合物の少なくとも1種を用いる(米国特許第4,042,056号、同第3,306,874号、同第3,306,875号公報等参照)。
上記フェノール化合物の具体例としては、フェノール、o-,m-,p-クレゾール、2,6-、2,5-、2,4-又は3,5-ジメチルフェノール、2-メチル-6-フェニルフェノール、2,6-ジフェニルフェノール、2,6-ジエチルフェノール、2-メチル-6-t-ブチルフェノール等が挙げられる。上記フェノール化合物は二種以上を共重合してもよく、更に得られるホモポリマー若しくはコポリマーを二種以上混合使用してよい。上記フェノール化合物の中でも特に2,6-ジメチルフェノールが好適であり、従って本実施形態においてはこれを重合して得られるポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレン)エーテルが良好な結果を与える。
【0039】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物において、ポリスチレン成分(A)とポリフェニレンエーテル成分(B)とは次の方法で分離し、各成分の分子量を測定することができる。スチレン系樹脂組成物を5質量%となるようにクロロホルムに溶解した後、3倍量メタノールを加えて再沈させ、その後、濾過・乾燥して固形分を回収する。次に回収した固形分を5質量%となるよう約50℃のジクロロメタンに溶解した後、-30℃で24時間静置する。その後、固形分が析出するため、当該固形分を濾過した後、乾燥させてポリフェニレンエーテル成分(B)を分離回収する。そして、残ったジクロロメタン溶液に3倍量のメタノールを加え再沈させた後、濾過・乾燥によりポリスチレン成分(A)を回収する。
【0040】
(オリゴマー成分(C))
本実施形態におけるスチレン系樹脂組成物は、オリゴマー成分(C)を必須に含有する。そして、本実施形態のスチレン系樹脂組成物におけるオリゴマー成分(C)は、当該スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、0.4質量%以下含有する。本実施形態におけるオリゴマー成分(C)は、ポリスチレン成分(A)(より詳細には、スチレン系樹脂)の不純物として含まれるものであり、スチレン系単量体単位を2以上有し、重量平均分子量(Mw)が10000以下のスチレンオリゴマーであり、特にポリスチレン成分(A)の主成分であるスチレン系樹脂を重合する際に生じるスチレン系単量体の二量体(ダイマー)及び三量体(トリマー)をいう。したがって、オリゴマー成分(C)は、スチレンオリゴマーでありうる。
本実施形態において、スチレンオリゴマー(例えば、スチレン系単量体の二量体(ダイマー)及び三量体(トリマー))の合計量が、スチレン系樹脂組成物全体に対して、所定量(例えば、0.4質量%)以上含有すると、ダイマーやトリマーの酸化物により黄変が生じたり、或いは臭気の原因になる。また本樹脂組成物を成形して成形体とする際、ガス化して成形機への付着物となり、結果成形体へ付着して汚染物となるため、外観上好ましくない。
【0041】
本実施形態におけるスチレンオリゴマーは、スチレン系樹脂組成物全体(100質量%)に対して、0.4質量%以下であり、好ましくは0.38質量%以下、より好ましくは0.36質量%以下である。
また、スチレンオリゴマー(例えば、スチレンダイマー及びトリマー)の化学構造は、後述の通り、使用するスチレン系樹脂に含まれるスチレン系単量体に依存する。
なお、本実施形態のスチレン系樹脂組成物におけるスチレンオリゴマー(例えば、スチレンダイマー及びトリマー)の合計量は、ガスクロマトグラフィーを用いて測定している。具体的には、以下の測定条件を使用している。
装置:Agilent 6850series GC system
試料:樹脂組成物1gをMEK10mlに溶解後、3mlのメタノールを加えて重合体を沈降させ、溶液中の成分濃度を測定した。
カラム:Agilent 19091Z-413E
入り口温度:250℃
検出器温度:280℃
なお、スチレン系樹脂組成物中のダイマー及びトリマーの量を所定値以下にする方法としては、スチレン系樹脂又はポリスチレン成分(A)を蒸留精製する手段が挙げられる。
【0042】
本実施形態におけるスチレン系樹脂組成物は、上記成分(A)~(C)以外に必要より本発明の効果を阻害しない範囲で添加剤を含有してもよい。当該添加剤としては特に限定されることはなく、例えば、シリカ、ケイ酸カルシウム、ワラストナイト、カオリン、クレイ、マイカ、酸化亜鉛、酸化チタン、炭酸カルシウム等の無機化合物;ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸バリウム、流動パラフィン、オレフィン系ワックス、ステアリルアミド系化合物等の可塑剤;フェノール系酸化防止剤、リン系、窒素系又はイオウ系安定剤;ベンゾトリアゾール類又はヒンダードアミン類等の耐光剤、公知の難燃剤、帯電防止剤、顔料等の着色剤等が挙げられる。当該添加剤は、1種を単独で使用しても、あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0043】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、実質的に(A)成分~(C)成分及び任意の添加剤のみからなっていてもよい。また、(A)成分~(C)成分のみからなっていてもよい。
「実質的に(A)成分~(C)成分及び任意の添加剤のみからなる」とは、スチレン系樹脂組成物の95~100質量%(好ましくは98~100質量%)が(A)成分~(C)成分であるか、又は(A)成分~(C)成分及び任意の添加剤であることを意味する。
【0044】
「スチレン系樹脂組成物の製造方法」
本実施形態におけるスチレン系樹脂組成物の製造方法は、ポリスチレン成分(A)、末端にアミノ基又はイミノ基を有するポリフェニレンエーテル系樹脂(b1)を含むポリフェニレンエーテル原料成分(B1)、及び芳香族ビニル系化合物を含む配合物を60℃以上250℃以下の温度範囲、好ましくは60℃以上230℃以下の温度範囲で加熱溶融する工程(I)と、前記配合物又は前記工程(I)で得られた混合物を200℃~250℃で脱揮する工程(II)と、を有する。
【0045】
本実施形態における製造方法は、ポリスチレン成分(A)とポリフェニレンエーテル原料成分(B)とを60~250℃という比較的低温下で加熱(又は加熱溶融)しているため、スチレンオリゴマー及びフリース型転移によるフルオレノン環などの縮合環の生成を抑えることにより、黄色度(YI)を抑制することができる。例えば、後述の比較例3のように、290℃で加熱溶融すると、スチレンオリゴマーが形成し、衝撃強度が向上しないことが確認できる。さらには、溶融温度が高いため反応が進みやすく、フルオレノン環などの縮合環の生成を抑制できず、黄変を抑制できないと考えられる。
また、本実施形態では、加熱する前の配合物、あるいは加熱した後の配合物を脱揮しているため、ポリフェニレンエーテル特有の臭気も低減できる。
【0046】
以下、各工程について説明する。
(工程(I))
本実施形態における工程(I)は、ポリスチレン成分(A)、末端にアミノ基又はイミノ基を有するポリフェニレンエーテル系樹脂(b1)を含むポリフェニレンエーテル原料成分(B1)、及び芳香族ビニル系化合物を含む配合物を60℃~250℃の温度範囲で加熱溶融する工程である。
上記工程(I)は、ポリスチレン成分(A)、ポリフェニレンエーテル原料成分(B)及び芳香族ビニル系化合物を含む配合物が、60℃以上250℃以下、好ましくは60℃以上230℃以下の温度範囲で加熱溶融されていればよい。したがって、例えば、芳香族ビニル系化合物が、当初からポリスチレン成分(A)及びポリフェニレンエーテル原料成分(B1)と共存していてもよいし、ポリフェニレンエーテル原料成分(B1)に芳香族ビニル化合物を混合したのちにポリスチレン成分(A)を混合してもよく、あるいは、芳香族ビニル系化合物を後からポリフェニレンエーテル原料成分(B1)に対して添加してもよい。
また、例えば、ポリスチレン成分(A)の前駆体として、芳香族ビニル系化合物(スチレン系単量体)を使用し、かつ当該芳香族ビニル系化合物(例えば、例えば、スチレン系単量体)が重合した重合体をポリスチレン成分(A)としてもよい。すなわち、本実施形態の工程(I)は、ポリフェニレンエーテル原料成分(B1)及び芳香族ビニル系化合物であるスチレン単量体を混合し、例えば120~170℃の温度条件でスチレンを重合させてポリスチレン成分(A)を生成させることで、ポリスチレン成分(A)の重合、ポリフェニレンエーテル原料成分(B1)との混練、及び末端にアミノ基又はイミノ基を有するポリフェニレンエーテル系樹脂(b1)と芳香族ビニル系化合物との反応の3つを効率よく同工程で行うこともできる。この際、重合溶媒を用いてもよい。
なお、ポリフェニレンエーテル原料成分(B1)は、ポリフェニレンエーテル成分(B)の原料をいい、ポリフェニレンエーテル系樹脂(b1)及びポリフェニレンエーテル系樹脂(b2)と、を含有する。ポリフェニレンエーテル系樹脂(b1)及びポリフェニレンエーテル系樹脂(b2)は上記と同義である。
【0047】
本実施形態の工程(I)において使用するポリスチレン成分(A)は、スチレン系樹脂を主成分として含有する成分であり、上記のポリスチレン成分(A)と同様の材料を使用できる。また、当該ポリスチレン成分(A)の含有量は、配合物の総量(100質量%)に対して、49.6~98.6質量%であることが好ましく、55~95質量%であることがより好ましい。また、ポリスチレン成分(A)の総量(100質量%)に対するスチレン系樹脂の含有量は、90質量%であることが好ましく、95~100質量%であることがより好ましい。
【0048】
本実施形態の工程(I)において使用するポリフェニレンエーテル原料成分(B1)は、末端にアミノ基又はイミノ基を有するポリフェニレンエーテル系樹脂(b1)を含有する成分であり、ポリフェニレンエーテル系樹脂(b1)及び前記ポリフェニレンエーテル系樹脂(b1)以外のポリフェニレンエーテル系樹脂(b2)から構成されている。
前記ポリフェニレンエーテル系樹脂(b1)及び前記ポリフェニレンエーテル系樹脂(b2)は、上記のポリフェニレンエーテル系樹脂(b1)及びポリフェニレンエーテル系樹脂(b2)と同様の材料を使用できる。
なお、ポリフェニレンエーテル原料成分(B1)中のポリフェニレンエーテル系樹脂(b1)と、芳香族ビニル系化合物とが反応することにより、一般式(I)表される基を末端に有する改質ポリフェニレンエーテル系樹脂が形成されることから、ポリフェニレンエーテル原料成分(B1)は、ポリフェニレンエーテル成分(B)の前駆体である。
【0049】
本実施形態の工程(I)において使用する芳香族ビニル系化合物は、上記スチレン系単量体と同様の材料が挙げられ、なかでも、スチレン、α-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン、ο-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、イソブチルスチレン、及びt-ブチルスチレンが好ましい。また、当該芳香族ビニル系化合物は、ポリフェニレンエーテル原料成分(B1)の添加量100重量部に対し、1~1000重量部添加することが好ましく、3~500重量部添加することがより好ましい。また、本実施形態の芳香族ビニル系化合物を重合溶媒として使用してもよい。
【0050】
本実施形態の製造方法における配合物は、必要により重合溶媒を含有してもよい。当該重合溶媒としては、芳香族ビニル系化合物、芳香族炭化水素類、例えば、エチルベンゼン、ジアルキルケトン類、例えば、メチルエチルケトン等が挙げられ、それぞれ、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、本実施形態の製造方法において、本発明の効果を阻害しない範囲で配合物、配合物(溶融物及び混合物を含む)に対して上記の添加剤を加えてもよい。
【0051】
本実施形態において、加熱温度は、使用するポリスチレン成分及びポリフェニレンエーテル成分(C)が溶融する温度以上であり、かつ各成分の熱劣化を抑制する温度であることが好ましい。具体的には、250℃以下の温度範囲であり、210以上250℃以下の温度範囲であることが好ましく、220℃以上240℃以下の温度範囲であることがより好ましい。ここでいう温度範囲は、配合物の温度範囲をいう。また、加熱の時間は、特に制限されることはなく、単位時間当たりの押出量又は溶融混練に使用する押出機の種類によって適宜調整できる。
本実施形態において、配合物は、予めポリフェニレンエーテル原料成分(B1)と芳香族ビニル系化合物とを混合した後、ポリスチレン成分(A)とさらに混合して得られることが好ましい。
すなわち、末端にアミノ基又はイミノ基を有するポリフェニレンエーテル系樹脂(b1)と芳香族ビニル系化合物とを予め混合することにより、上記一般式(I)で表される末端基を有する改質ポリフェニレンエーテル系樹脂を形成しやすくなる。
本実施形態において、配合物は、ポリフェニレンエーテル成分(B)とスチレン単量体との共存下で、前記スチレン単量体を重合させたスチレン系樹脂を含む前記ポリスチレン成分(A)と、前記ポリフェニレンエーテル成分(B)と、未重合の前記スチレン単量体とを含むことが好ましい。
【0052】
(工程(II))
本実施形態の工程(II)は、配合物又は工程(I)で得られた混合物を所定の条件で脱揮する工程である。したがって、工程(II)は、上記工程(I)の途中であっても、あるいは工程(I)の後であっても行うことができる。
本実施形態における脱揮は、所定の温度及び真空下において、未反応の単量体及び副生成物等の揮発分、重合溶媒等を除去する処理をいう。上記脱揮手段として、フラッシュドラム、二軸脱揮機、薄膜蒸発器、押出機等の通常の脱揮装置を用いることができるが、滞留部の少ない脱揮装置が好ましい。なお、脱揮処理の温度は、好ましくは190~250℃であり、より好ましくは200~240℃、さらに好ましくは210~235℃である。また脱揮処理の絶対真空度(圧力)は、好ましくは0.13~4kPaであり、より好ましくは0.13~3kPaであり、さらに好ましくは0.13~2.0kPaである。脱揮方法としては、例えば加熱下で減圧して揮発分を除去する方法、及び揮発分除去の目的に設計された押出機等を通して除去する方法が好ましい。
【0053】
以下、図1~4を用いて、本実施形態の好ましいスチレン系樹脂組成物の製造方法の一例について説明する。
図1に示す実施形態は、原料として、固形状の、ポリスチレン成分(A)及びポリフェニレンエーテル原料成分(B1)を使用して加熱溶融と混練とを行う方法である。すなわち、ポリスチレン成分(A)としてポリスチレン系樹脂1と、ポリフェニレンエーテル原料成分(B1)としてポリフェニレンエーテル系樹脂(b1)2と、必要により添加される芳香族ビニル系化合物と、必要により所望の添加剤と、を秤量し、原料供給ホッパーから押出機5内に投入して、原料である配合物を210℃以上250℃以下の温度範囲で加熱溶融し、混練しながら溶融物をダイ側に移送する。その際に、必要により芳香族ビニル系化合物を溶融物に添加して混合した後、210℃以上250℃以下の温度範囲で加熱し、所定の温度(例えば、200~250℃℃)及び真空下(10.0kPa以下)で脱揮を行う。
原料のポリスチレン系樹脂1及び/又はポリフェニレンエーテル系樹脂(b1)2は、ペレット状又は顆粒状にして事前に良く混合してから1つの原料供給ホッパーから投入してもよく、あるいは例えば複数のロットを用いる場合はロットごとに供給量を調整した複数の原料供給ホッパーから投入し、押出機5内でそれらを混合してもよい。
【0054】
図2に示す実施形態は、重合溶媒を用いて加熱溶融と混練とを行う方法である。すなわち、原料として、ポリスチレン成分(A)としてポリスチレン系樹脂1と、ポリフェニレンエーテル原料成分(B1)として粉末状のポリフェニレンエーテル系樹脂(b1)4と、重合溶媒3と、必要により添加される芳香族ビニル系化合物と、所望の添加剤とを秤量し、原料供給ホッパーから押出機5内に投入して、原料である配合物を210℃以上250℃以下の温度範囲で加熱溶融し、混練しながら溶融物をダイ側に移送する。その際に、必要により芳香族ビニル系化合物を溶融物に添加して混合した後、210℃以上250℃以下の温度範囲で加熱し、所定の温度(例えば、200~250℃)及び真空下(10.0kPa以下)で脱揮を行う。
図2に示す実施形態では、粉末状のポリフェニレンエーテル系樹脂(b1)4を使用しているため、当該ポリフェニレンエーテル系樹脂(b1)4の流動性を向上させる量の重合溶媒3を用いて半固形状にした後、ポリスチレン系樹脂1と接触させる。
【0055】
図3に示す実施形態は、図2の実施形態より大量の重合溶媒を用いることによって原料を溶液状態にした後、加熱する方法である。すなわち、原料として、ポリスチレン成分(A)としてポリスチレン系樹脂1と、ポリフェニレンエーテル原料成分(B1)としてポリフェニレンエーテル系樹脂(b1)4と、重合溶媒3と、必要により添加される芳香族ビニル系化合物と、所望の添加剤とを秤量し、原料供給ホッパーから溶解槽6内に投入して、原料である配合物を210℃以上250℃以下の温度範囲で加熱する。その際に、必要により芳香族ビニル系化合物を配合物に添加して混合した後、210℃以上250℃以下の温度範囲で加熱してもよい。その後、脱揮装置7により所定の温度(例えば、200~250℃)及び真空下(10.0kPa以下)で脱揮を行う。
【0056】
図4に示す実施形態は、ポリスチレン系樹脂の重合と、ポリフェニレンエーテル原料成分(B1)との混合とを同一工程で行う方法である。すなわち、原料として、ポリスチレン成分(A)の前駆体であるスチレン系単量体9と、ポリフェニレンエーテル原料成分(B1)としてポリフェニレンエーテル系樹脂(b1)4と、重合溶媒3と、所望の添加剤、また必要に応じてポリスチレン系樹脂1とを秤量し、原料供給ホッパーから溶解槽6内に投入して、当該溶解槽6内の配合物を撹拌しながら120℃以上180以下の温度範囲で保持して、重合溶媒3及びスチレン系単量体9にポリフェニレンエーテル系樹脂(b1)4を溶解させることにより溶液を調製する。そして、当該溶液を反応槽8に移送して、スチレン系単量体9を重合させることによりスチレン成分(A)を合成する。この際、必要によりさらに芳香族ビニル系化合物を溶融物に添加して混合した後、210℃以上250℃以下の温度範囲で加熱し、脱揮装置7により所定の温度(例えば、200~250℃)及び真空下(10.0kPa以下)で脱揮を行う。
【0057】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物の製造方法において、原料の配合、溶融、混練、加熱、造粒する方法は特に限定されず、一般的なスチレン系樹脂組成物の製造で常用されている方法を用いることができる。例えば、ドラムタンブラー、ヘンシェルミキサー等で配合(混合)した上記各成分をバンバリーミキサー、単軸押出機、二軸押出機、ニーダー等を用いて加熱、溶融、混練し、ロータリーカッター、ファンカッター等で造粒することによってスチレン系樹脂組成物を得ることができる。目標とする樹脂温度にするためには、押出機等のシリンダー温度は樹脂温度よりも10~20℃低い温度に設定することが好ましい。
【0058】
本実施形態の成形体は、上記の本発明に係るスチレン系樹脂組成物を成形して得ることができる。本実施形態の成形体は、上記の本発明に係る実施形態の樹脂組成物を成形して得たものであれば特に限定されない。
本実施形態において、スチレン系樹脂組成物から成形体を得る製造方法は、特に限定されず、公知の成形方法、例えば押出成形加工や射出成形加工により製造することができる。具体的には押出成形加工としては、例えば、押出成形、カレンダ成形、中空成形、押出発泡成形、異形押出成形、ラミネート成形、インフレーション成形、Tダイフィルム成形、シート成形、真空成形、圧空成形、ダイレクトブロー成形などが挙げられる。また、射出成形加工としては、例えば、射出成形、RIM成形、射出発泡成形、インジェクションブロー成形、射出延伸ブロー成形などが挙げられる。
【実施例0059】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明の実施形態を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
1.測定及び評価方法
各実施例及び比較例で得られたスチレン系樹脂組成物の物性の測定及び評価は、次の方法に基づいて行った。
【0060】
(1)一般式(I)及び一般式(III)で表される末端基量及び水酸基末端量
原料のポリフェニレンエーテル成分、並びに各実施例及び比較例で得られたスチレン系樹脂組成物の試料を、重水素化クロロホルム(TMS含有)に溶解したものをH-NMRで測定して、ピーク面積比から、試料中の一般式(I)及び一般式(III)で表される末端基量及び水酸基末端量の量を定量した。
【0061】
(2)オリゴマー成分(C)(スチレン系単量体のダイマー及びスチレン系単量体のトリマー)量の評価
実施例・比較例で調製したスチレン系樹脂組成物の総量を100質量部としたときの、オリゴマー成分(C)(スチレン系単量体のダイマー及びスチレン系単量体のトリマー)量の含有量の合計を、ガスクロマトグラフィーにて測定した。
・試料調製:樹脂2.0gをクロロホルム20mLに溶解後、更に標準物質(トリフェニルメタン)入りのメタノール5mLを加えポリマー成分を再沈させ、上澄み液を採取し、測定液とした。
・測定条件
機器:Agilent社製 6850シリーズ GCシステム
検出器:FID
カラム:HP-1(100%ジメチルポリシロキサン)30m、膜厚0.25μm、0.32mmφ
注入量:1μL(スプリットレス)
カラム温度:40℃で2分保持→20℃/分で320℃まで昇温→320℃で15分保持
注入口温度:250℃
検出器温度:280℃
キャリアガス:ヘリウム
【0062】
(3)成形性
実施例及び比較例で得られたスチレン系樹脂組成物をベント付き30mm短軸押出機とハンガーダイからなるシート成形機にて、シリンダー温度及びダイス温度を260℃に設定して押出成形を行った。成形性を以下の基準により評価した。
◎:シートに汚れがなく、黒点異物がない
○:シートに汚れが少なく、黒点異物がない
×:シートに汚れがあり、黒点異物がある
【0063】
(5)色調(Y.I.)
以下の実施例及び比較例で得られた樹脂組成物から得られた、厚さ2.0mmの射出成形試験片を用い、JIS K 7373に準拠して、日本電色株式会社製 色差濁度測定器 COH300A(商品名)にてスチレン系樹脂組成物のイエローインデックスを測定した。調色目的を考慮して、40以下を合格した。
【0064】
(6)臭気
原料のポリフェニレンエーテル成分、並びに各実施例及び比較例で得られたスチレン系樹脂組成物の試料をサンプル瓶に入れ、蓋を取り付け、80℃で30分間加熱した。その後、蓋を開けた際の臭気を嗅ぎ、以下の1~5の5段階基準を用いて10人の評価者により臭気評価を行った。また、臭気評価の結果は、10人の評価者による臭気評価結果の相加平均値とした。
1: 無臭
2: かすかに臭いを感じる
3: はっきり臭いを感じる
4: 強い臭い
5: 強烈な臭い
【0065】
2.実施例及び比較例において使用した原料
(a-1)ポリスチレン成分(A)として、スチレン系樹脂(a-1)(PSジャパン製ポリスチレン GX156)を使用した。
(b-1)ポリフェニレンエーテル原料成分(B1)として、ポリフェニレンエーテル系樹脂(b-1)(旭化成製ポリフェニレンエーテル S202A)を使用した。
当該ポリフェニレンエーテル系樹脂(b-1)中の一般式(III)で表される末端基量は、当該ポリフェニレンエーテル系樹脂(b-1)を構成するフェニレンエーテルユニット(一般式(II)で表される繰返し単位構造)100単位あたりに対して、0.8単位以下であった。
(c-1)芳香族ビニル系化合物:スチレン単量体を使用した。
【0066】
3.実施例1~6及び比較例1~3
(実施例1)
脱揮装置を備えたタンデム押出機の前段に、ポリフェニレンエーテル系樹脂(b-1)粉末を投入し、さらにスチレン単量体を前記ポリフェニレンエーテル系樹脂(b-1)100質量%に対して9.0質量%になるように投入し、100℃のバレル温度で混練を実施した。その後、サイドフィーダーを用いて、スチレン系樹脂(a-1)を投入し、210℃まで加熱し、これらを十分に混合させ、多段ベントを備えた後段の脱揮押出機にてバレル温度230℃、真空度100kPa~2kPaにて脱揮し、目的のスチレン系樹脂組成物(1)を得た。実施例1で得られたスチレン系樹脂組成物(1)について、上述した成形性、色調及び臭気等の評価を行った。評価結果と併せてスチレン系樹脂組成物(1)の組成比を表1に示す。
【0067】
(実施例2)
芳香族ビニル化合物としてスチレン単量体の添加量をポリフェニレンエーテル系樹脂(b-1)粉末に対して12.0質量%とした以外は、実施例1と同様の方法で、表1の組成を示す目的のスチレン系樹脂組成物(2)を得た。その後、実施例1と同様の評価を行った。評価結果と併せてスチレン系樹脂組成物(2)の組成比を表1に示す。
【0068】
(実施例3)
芳香族ビニル化合物としてスチレン単量体の添加量を、スチレンモノマーの添加量をポリフェニレンエーテル系樹脂(b-1)に対して4.0質量%とした以外は、実施例1と同様の方法で、表1の組成を示す目的のスチレン系樹脂組成物(3)を得た。その後、実施例1と同様の評価を行った。評価結果と併せてスチレン系樹脂組成物(3)の組成比を表1に示す。
【0069】
(実施例4)
ポリスチレン成分(A)としてスチレン系樹脂(a-1)40質量部と、ポリフェニレンエーテル原料成分(B1)としてポリフェニレンエーテル系樹脂(b-1)粉末20質量部とを含む溶解槽中に、芳香族ビニル化合物としてスチレン単量体45質量部及び溶媒としてエチルベンゼン5質量部を加え80℃で混合し溶解した。溶解槽の温度を110℃から170℃へ段階的に上昇させ、20時間スチレンの重合を行った。その後、エチルベンゼンをさらに15質量部加え、バレル温度を230℃に加熱した多段ベントを備えた脱揮押出機にて、真空度100~2kPa(abs)にて溶媒を脱揮し、表1の組成を示す目的のスチレン系樹脂組成物(4)を得た。その後、実施例1と同様の評価を行った。評価結果と併せてスチレン系樹脂組成物(4)の組成比を表1に示す。
【0070】
(実施例5)
ポリフェニレンエーテル系樹脂(b-1)粉末45質量部を溶解槽中で芳香族ビニル化合物としてスチレン単量体45質量部及びエチルベンゼン10質量部を加えて80℃で混合し、溶解した。以降の操作は実施例4と同様に行い、表1の組成を示す目的のスチレン系樹脂組成物(5)を得た。その後、実施例1と同様の評価を行った。評価結果と併せてスチレン系樹脂組成物(5)の組成比を表1に示す。
【0071】
(実施例6)
芳香族ビニル化合物としてスチレン単量体の添加量をポリフェニレンエーテル系樹脂(b-1)粉末に対して1.0質量%とした以外は、実施例1と同様の方法で、表1の組成を示す目的のスチレン系樹脂組成物(6)を得た。その後、実施例1と同様の評価を行った。評価結果と併せてスチレン系樹脂組成物(6)の組成比を表1に示す。
【0072】
(比較例1)
実施例1のスチレン単量体の代わりにエチルベンゼンを使用した以外は、実施例1と同様の方法で、表1の組成を用いてスチレン系樹脂組成物(6)を得た。その後、実施例1と同様の評価を行った。評価結果と併せてスチレン系樹脂組成物(6)の組成比を表1に示す。
【0073】
(比較例2)
二軸押出機を使い、スチレン系樹脂(a-1)とポリフェニレンエーテル系樹脂(b-1)とをそれぞれホッパーから投入し、290℃の温度で溶融混練することにより、表1の組成に示すスチレン系樹脂組成物(7)を得た。その後、実施例1と同様の評価を行った。評価結果と併せてスチレン系樹脂組成物(7)の組成比を表1に示す。
【0074】
(比較例3)
スチレン系樹脂(a-1)の投入後の混練温度を290℃とした以外は実施例1と同様の方法でスチレン系樹脂組成物(8)を得た。その後、実施例1と同様の評価を行った。評価結果と併せてスチレン系樹脂組成物(8)の組成比を表1に示す。
【0075】
【表1】
【符号の説明】
【0076】
1 ポリスチレン系樹脂(ペレット)
2 ポリフェニレンエーテル系樹脂(b1)(ペレット)
3 重合溶媒
4 ポリフェニレンエーテル系樹脂(b1)(粉末)
5 脱揮装置を備えた押出機
6 溶解槽
7 脱揮装置
8 反応槽
9 スチレン系単量体
図1
図2
図3
図4