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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023030686
(43)【公開日】2023-03-08
(54)【発明の名称】ブレーキディスク及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16D 65/12 20060101AFI20230301BHJP
【FI】
F16D65/12 S
F16D65/12 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021135945
(22)【出願日】2021-08-23
(71)【出願人】
【識別番号】000154303
【氏名又は名称】株式会社フジコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100095614
【弁理士】
【氏名又は名称】越川 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】横田 光宏
【テーマコード(参考)】
3J058
【Fターム(参考)】
3J058AA43
3J058AA48
3J058AA53
3J058AA66
3J058AA69
3J058AA73
3J058AA77
3J058AA84
3J058AA87
3J058BA35
3J058BA68
3J058CB12
3J058CB15
3J058CB17
3J058CB28
3J058DD06
3J058EA04
3J058EA08
3J058FA02
(57)【要約】
【課題】放熱効果を一層向上させることができるブレーキディスク及びその製造方法を提供する。
【解決手段】車両の車軸に取り付けられ、ブレーキパッド5が押圧されて当該車両を制動するためのブレーキディスク1であって、周方向に亘る所定領域において一方の表面Saから他方の表面Sbに貫通した水切り孔3aが複数形成されるとともに、水切り孔3aは、一方の表面Saに形成された開口3aaと他方の表面Sbに形成された開口3abとが少なくともディスクの径方向Hにオフセットした位置とされたことを特徴とする。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車軸に取り付けられ、ブレーキパッドが押圧されて当該車両を制動するためのブレーキディスクであって、
周方向に亘る所定領域において一方の表面から他方の表面に貫通した水切り孔が複数形成されるとともに、前記水切り孔は、一方の表面に形成された開口と他方の表面に形成された開口とが少なくともディスクの径方向にオフセットした位置とされたことを特徴とするブレーキディスク。
【請求項2】
前記水切り孔は、前記一方の表面の開口の中心位置と他方の表面の開口の中心位置とを結ぶ中心線がディスクの回転軸と交わる方向に延設されたことを特徴とする請求項1記載のブレーキディスク。
【請求項3】
前記水切り孔は、前記回転軸に対して前記中心線が10~30°の角度で傾斜して形成されたことを特徴とする請求項2記載のブレーキディスク。
【請求項4】
前記水切り孔は、一方の表面に形成された開口と他方の表面に形成された開口とがディスクの径方向及び周方向にオフセットした位置とされたことを特徴とする請求項1記載のブレーキディスク。
【請求項5】
車両の車軸に取り付けられるブラケット部と、前記ブレーキパッドが押圧されるディスク部と、前記ブラケット部及びディスク部を相対移動可能に連結する連結手段とを有して構成され、前記水切り孔は、前記ディスク部に形成されたことを特徴とする請求項1~4の何れか1つに記載のブレーキディスク。
【請求項6】
車両の車軸に取り付けられ、ブレーキパッドが押圧されて当該車両を制動するためのブレーキディスクの製造方法であって、
ブランク材を所定角度傾斜させつつダイ上に載置させるとともに、前記ブランク材に対してパンチを鉛直方向に下降させて孔明け加工、又はブランク材をダイ上に載置させるとともに、前記ブランク材に対してパンチを所定角度傾斜させつつ下降させて孔明け加工することにより、前記ブレーキパッドの押圧領域における複数個所にディスクを貫通する水切り孔を形成するとともに、前記水切り孔は、一方の表面に形成された開口と他方の表面に形成された開口とが少なくともディスクの径方向にオフセットした位置とすることを特徴とするブレーキディスクの製造方法。
【請求項7】
前記ダイの載置面が所定角度傾斜して成ることを特徴とする請求項6記載のブレーキディスクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車軸に取り付けられ、ブレーキパッドが押圧されて当該車両を制動するためのブレーキディスク及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
乗用車や二輪車等の車両に配設されて当該車両を制動可能なブレーキ装置として、ブレーキディスクとブレーキパッドとを具備したディスクブレーキ装置が普及するに至っている。かかるディスクブレーキ装置は、車両の車輪にブレーキディスクを取り付けて一体に回転可能とするとともに、そのブレーキディスクにブレーキパッドを押圧させることで、制動力を得るよう構成されている。
【0003】
このようなブレーキディスクは、例えば特許文献1にて開示されているように、ブレーキパッドの押圧領域における複数個所にディスクを貫通する水切り孔が形成されている。かかる水切り孔は、例えばパンチング加工等の孔明け加工装置により形成されたもので、表面積の増大による放熱性の向上やブレーキディスクの軽量化等を図り得るものとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-48787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のブレーキディスクは、水切り孔により放熱効果を向上し得るものの、近時においては、さらなる放熱効果が要望されており、本出願人は、水切り孔の形態について鋭意検討するに至った。なお、このような水切り孔による放熱対策は、ブラケット部とディスク部とが分割構成とされたフローティング型のブレーキディスクに限らず、車両の車軸に取り付けられる部位とブレーキパッドが押圧される部位とが一体の所謂ソリッド型と称されるブレーキディスクにおいても同様に求められている。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、放熱効果を一層向上させることができるブレーキディスク及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、車両の車軸に取り付けられ、ブレーキパッドが押圧されて当該車両を制動するためのブレーキディスクであって、周方向に亘る所定領域において一方の表面から他方の表面に貫通した水切り孔が複数形成されるとともに、前記水切り孔は、一方の表面に形成された開口と他方の表面に形成された開口とが少なくともディスクの径方向にオフセットした位置とされたことを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のブレーキディスクにおいて、前記水切り孔は、前記一方の表面の開口の中心位置と他方の表面の開口の中心位置とを結ぶ中心線がディスクの回転軸と交わる方向に延設されたことを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項2記載のブレーキディスクにおいて、前記水切り孔は、前記回転軸に対して前記中心線が10~30°の角度で傾斜して形成されたことを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項1記載のブレーキディスクにおいて、前記水切り孔は、一方の表面に形成された開口と他方の表面に形成された開口とがディスクの径方向及び周方向にオフセットした位置とされたことを特徴とする。
【0011】
請求項5記載の発明は、請求項1~4の何れか1つに記載のブレーキディスクにおいて、車両の車軸に取り付けられるブラケット部と、前記ブレーキパッドが押圧されるディスク部と、前記ブラケット部及びディスク部を相対移動可能に連結する連結手段とを有して構成され、前記水切り孔は、前記ディスク部に形成されたことを特徴とする。
【0012】
請求項6記載の発明は、車両の車軸に取り付けられ、ブレーキパッドが押圧されて当該車両を制動するためのブレーキディスクの製造方法であって、ブランク材を所定角度傾斜させつつダイ上に載置させるとともに、前記ブランク材に対してパンチを鉛直方向に下降させて孔明け加工、又はブランク材をダイ上に載置させるとともに、前記ブランク材に対してパンチを所定角度傾斜させつつ下降させて孔明け加工することにより、前記ブレーキパッドの押圧領域における複数個所にディスクを貫通する水切り孔を形成するとともに、前記水切り孔は、一方の表面に形成された開口と他方の表面に形成された開口とが少なくともディスクの径方向にオフセットした位置とすることを特徴とする。
【0013】
請求項7記載の発明は、請求項6記載のブレーキディスクの製造方法において、前記ダイの載置面が所定角度傾斜して成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、周方向に亘る所定領域において一方の表面から他方の表面に貫通した水切り孔が複数形成されるとともに、水切り孔は、一方の表面に形成された開口と他方の表面に形成された開口とが少なくともディスクの径方向にオフセットした位置とされたので、放熱効果を一層向上させることができる。
【0015】
請求項2、3の発明によれば、水切り孔は、一方の表面の開口の中心位置と他方の表面の開口の中心位置とを結ぶ中心線がディスクの回転軸と交わる方向に延設され、回転軸に対して中心線が10~30°の角度で傾斜して形成されたので、放熱効果をより一層向上させることができる。
【0016】
請求項4の発明によれば、水切り孔は、一方の表面に形成された開口と他方の表面に形成された開口とがディスクの径方向及び周方向にオフセットした位置とされたので、任意の放熱効果を持つブレーキディスクを容易に得ることができる。
【0017】
請求項5の発明によれば、車両の車軸に取り付けられるブラケット部と、ブレーキパッドが押圧されるディスク部と、ブラケット部及びディスク部を相対移動可能に連結する連結手段とを有して構成され、水切り孔は、ディスク部に形成されたので、ブラケット部とディスク部とが分割構成とされたフローティング型のブレーキディスクの放熱効果を向上させることができる。
【0018】
請求項6の発明によれば、ブランク材を所定角度傾斜させつつダイ上に載置させるとともに、前記ブランク材に対してパンチを鉛直方向に下降させて孔明け加工、又はブランク材をダイ上に載置させるとともに、前記ブランク材に対してパンチを所定角度傾斜させつつ下降させて孔明け加工することにより、ブレーキパッドの押圧領域における複数個所にディスクを貫通する水切り孔を形成するとともに、水切り孔は、一方の表面に形成された開口と他方の表面に形成された開口とが少なくともディスクの径方向にオフセットした位置とするので、放熱効果が向上されたブレーキディスクを容易に製造することができる。
【0019】
請求項7の発明によれば、ダイの載置面が所定角度傾斜して成るので、放熱効果が向上されたブレーキディスクを容易且つ確実に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係るブレーキディスクを示す斜視図
図2】同ブレーキディスク及びブレーキパッドとの位置関係を示す正面図
図3】同ブレーキディスクにおける水切り孔を示す断面模式図
図4】同ブレーキディスクにおける水切り孔を示す平面図
図5】本発明の他の実施形態に係るブレーキディスク及びブレーキパッドとの位置関係を示す正面図
図6】同ブレーキディスクにおける水切り孔を示す断面模式図
図7】同ブレーキディスクにおける水切り孔を示す平面図
図8】同ブレーキディスクに適用されるブレーキパッドを示す断面図
図9】本発明の実施形態に係るブレーキディスクにおける水切り孔の傾斜角度とディスク温度との関係を示すグラフ
図10】本発明の他の実施形態に係るブレーキディスクにおける水切り孔の傾斜角度とディスク温度との関係を示すグラフ
図11】本発明の実施形態に係るブレーキディスクを製造するための孔明け加工装置を示す模式図
図12】本発明の実施形態に係るブレーキディスクを製造するための他の孔明け加工装置を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
本実施形態に係るブレーキディスクは、自動二輪車等の車両の車輪に取り付けられて当該車輪と一体的に回転可能とされ、ブレーキパッドが押圧されることにより制動力を得るための部材から成るもので、図1、2に示すように、ブラケット部2と、ディスク部3と、連結手段4とを有して構成されている。
【0022】
ブラケット部2は、例えばアルミニウム合金等から成る金属製板材をプレス加工して得られたもので、その所定位置には、複数の取付孔2aが形成されている。これら取付孔2aは、ボルト等の締結手段を挿通させ、ブレーキディスク1を自動二輪車等の車両における車輪(不図示)に固定させるものである。また、ブラケット部2の外周縁部には、連結手段4(フローティングピン)によりディスク部3が連結されており、全体形状として円板状のブレーキディスク1を構成している。
【0023】
ディスク部3は、例えばステンレス等の金属製板材を略円環状にプレス加工して得られたもので、周方向に亘る所定領域(ブレーキパッド5の押圧領域)における複数箇所には、複数の水切り孔3aが形成されている。これら水切孔3aは、ディスク部3の一方の表面Saから他方の表面Sbに貫通した貫通孔から成り、例えばパンチング加工等の孔明け加工により形成されたもので、表面積の増大による放熱性の向上、ブレーキディスク1の軽量化等を図り得るものとされている。
【0024】
かかるディスク部3は、車両の走行に伴ってディスクの回転軸Xを中心に回転するとともに、その一方の表面Sa及び他方の表面Sbにブレーキパッド5(図2、8参照)が押圧されて制動可能とされている。なお、ディスク部3における一方の表面Sa及び他方の表面Sbは、例えば高周波焼き入れ等、耐摩耗性向上のための表面処理が施されるのが好ましい。
【0025】
本実施形態に適用されるブレーキパッド5は、所定の摩擦材から成るもので、図8に示すように、キャリパー6に保持された一対のピストン7にそれぞれ形成されている。そして、運転者がブレーキレバー等の操作手段を操作すると、ブレーキ液が流路bを流れてピストン7を変位させ、車輪と共に回転するディスク部3の一方の表面Sa及び他方の表面Sbにブレーキパッド5を押圧して摺動させることにより制動力を得るよう構成されている。
【0026】
なお、本実施形態においては、一対のピストン7を有する対向ピストンタイプが適用されているが、他のタイプ(例えば、ピストンをブレーキディスク1の一方の表面Sa及び他方の表面Sbの何れか一方側のみに配設するとともに、ブレーキパッド5を押圧した力の反力でキャリパー6自体を反対側に変位させ、ピストン7のない側のブレーキパッド5をブレーキディスク1に押圧するタイプ等)を適用してもよい。
【0027】
ここで、本実施形態に係る水切り孔3aは、図3、4に示すように、一方の表面Saに形成された開口3aaと他方の表面Sbに形成された開口3abとが少なくともディスクの径方向Hにオフセットした位置(ずれた位置)とされている。すなわち、水切り孔3aは、回転軸Xに向かって所定角度だけ傾斜して形成されており、開口3aaと開口3abとがオフセットした状態となっているのである。
【0028】
特に、本実施形態に係る水切り孔3aは、一方の表面Saの開口3aaの中心位置と他方の表面Sbの開口3abの中心位置とを結ぶ中心線Cがディスクの回転軸Xと交わる方向に延設されている。すなわち、本実施形態に係る水切り孔3aは、一方の表面Saに形成された開口3aaと他方の表面Sbに形成された開口3abとがディスクの径方向Hのみにオフセットしており、ディスクの周方向Yにはオフセットしていない(周方向Yの傾斜角度β=0)のである。
【0029】
また、本実施形態に係る水切り孔3aは、回転軸Xに対して中心線Cが10~30°の角度αで傾斜して形成されている。このように、水切り孔3aは、その中心軸Cが専ら径方向Hに角度αだけ傾斜しており、その傾斜角度αが10~30°とされることにより、図9に示すように、ディスク温度を低下させることができ、従来に比べて放熱効果が高くなっている。
【0030】
より具体的には、従来の如く中心軸Cが表面(一方の表面Sa又は他方の表面Sb)に対して垂直に延設された(すなわち、傾斜しない)水切り孔3aを有したブレーキディスクの場合、約253℃となる使用環境下において、回転軸Xに対して中心線Cが10~30°の角度αで傾斜した水切り孔3aを有したブレーキディスク1の温度を計測すると、図9に示すような結果となった。
【0031】
したがって、図9によれば、回転軸Xに対して中心線Cが10~30°の角度αで傾斜した水切り孔3aを有したブレーキディスク1は、従来のブレーキディスクに比べてディスク温度を低下させて放熱効果が高くなっており、特に傾斜角度αが20°のとき、ディスク温度が最も低く、放熱効果が最も高いことが分かる。
【0032】
次に、本発明に係る他の実施形態について説明する。
本実施形態に係るブレーキディスクは、自動二輪車等の車両の車輪に取り付けられて当該車輪と一体的に回転可能とされ、ブレーキパッドが押圧されることにより制動力を得るための部材から成るもので、図5に示すように、ブラケット部2と、ディスク部3と、連結手段4とを有して構成されている。なお、先の実施形態と同様の構成要素については、詳細な説明を省略する。
【0033】
本実施形態に係る水切り孔3aは、図6、7に示すように、一方の表面Saに形成された開口3aaと他方の表面Sbに形成された開口3abとが少なくともディスクの径方向H及び周方向Yの両方にオフセットした位置(ずれた位置)とされている。すなわち、水切り孔3aは、その中心軸Cが回転軸Xと交わらない方向に向かって所定角度だけ傾斜して形成されており、開口3aaと開口3abとがオフセットした状態となっているのである。
【0034】
具体的には、本実施形態に係る水切り孔3aは、一方の表面Saに形成された開口3aaの中心位置と他方の表面Sbに形成された開口3abの中心位置とを結ぶ中心線Cが回転軸Xに対して交わらない状態(ねじれの位置関係)で角度αだけ傾斜しつつ周方向Y(厳密には、開口3aa又は開口3abの接線方向)に角度βだけ傾斜して形成されている。
【0035】
また、本実施形態に係る水切り孔3aは、その中心軸Cが回転軸Xに対して30°(α=30)、且つ、周方向Yに対して角度βだけそれぞれ傾斜して形成されている。このように、水切り孔3aは、その中心軸Cが径方向Hに30°(角度α)だけ傾斜しつつ周方向Yに角度βだけ傾斜して形成されることにより、図10に示すように、ディスク温度を低下させることができ、従来に比べて放熱効果が高くなっている。
【0036】
より具体的には、従来の如く中心軸Cが表面(一方の表面Sa又は他方の表面Sb)に対して垂直に延設された(すなわち、傾斜しない)水切り孔3aを有したブレーキディスクの場合、約253℃となる使用環境下において、中心軸Cが径方向Hに30°(角度α)だけ傾斜しつつ周方向Yに角度βだけ傾斜した水切り孔3aを有したブレーキディスク1の温度を計測すると、図10に示すような結果となった。
【0037】
したがって、図10によれば、中心軸Cが径方向Hに30°(角度α)だけ傾斜しつつ周方向Yに角度βだけ傾斜した水切り孔3aを有したブレーキディスク1は、従来のブレーキディスクに比べてディスク温度を低下させて放熱効果が高くなっており、特に傾斜角度βが0°(すなわち、周方向Yに対する傾斜角度βが0°)のとき、ディスク温度が最も低く、放熱効果が最も高いことが分かる。
【0038】
次に、本実施形態に係るブレーキディスク1の製造方法について説明する。
本実施形態に係るブレーキディスク1は、図11に示すように、ブランク材Bを所定角度γ傾斜させつつダイD上に載置させるとともに、ブランク材Bに対してパンチPを鉛直方向に下降させて孔明け加工することにより、ブレーキパッド5の押圧領域における複数個所にディスクを貫通する水切り孔3aを形成するようになっている。
【0039】
ここで、本実施形態においては、ダイDの載置面Daが所定角度γ傾斜して成るものとされている。これにより、一方の表面Saに形成された開口3aaと他方の表面Sbに形成された開口3abとが少なくともディスクの径方向Hにオフセットした水切り孔3aを形成することができる。なお、ブランク材Bに対するパンチPの位置を任意変更することにより、任意の傾斜角度の水切り孔3aとすることができる。
【0040】
また、図12に示すように、ブランク材BをダイD上に水平状態で載置させるとともに、ブランク材Bに対してパンチPを所定角度γ傾斜させつつ下降させて孔明け加工することにより、ブレーキパッド5の押圧領域における複数個所にディスクを貫通する水切り孔3aを形成するようにしてもよい。この場合であっても、一方の表面Saに形成された開口3aaと他方の表面Sbに形成された開口3abとが少なくともディスクの径方向Hにオフセットした水切り孔3aを形成することができる。
【0041】
上記実施形態によれば、周方向に亘る所定領域において一方の表面Saから他方の表面Sbに貫通した水切り孔3aが複数形成されるとともに、水切り孔3aは、一方の表面Saに形成された開口3aaと他方の表面Sbに形成された開口3abとが少なくともディスクの径方向Hにオフセットした位置とされたので、放熱効果を一層向上させることができる。
【0042】
特に、水切り孔3aは、一方の表面Saの開口3aaの中心位置と他方の表面Sbの開口3abの中心位置とを結ぶ中心線Cがディスクの回転軸Xと交わる方向に延設され、ディスク表面と直交する方向に対して中心線Cが10~30°の角度で傾斜して形成されたものとすれば、放熱効果をより一層向上させることができる。また、水切り孔3aは、一方の表面Saに形成された開口3aaと他方の表面Sbに形成された開口3abとがディスクの径方向H及び周方向Yにオフセットした位置とすれば、任意の放熱効果を持つブレーキディスク1を容易に得ることができる。
【0043】
さらに、適用されるブレーキディスクは、車両の車軸に取り付けられるブラケット部2と、ブレーキパッド5が押圧されるディスク部3と、ブラケット部2及びディスク部3を相対移動可能に連結する連結手段4とを有して構成され、水切り孔3aは、ディスク部3に形成されたので、ブラケット部2とディスク部3とが分割構成とされたフローティング型のブレーキディスク1の放熱効果を向上させることができる。
【0044】
またさらに、ブランク材Bを所定角度γ傾斜させつつダイD上に載置させるとともに、ブランク材Bに対してパンチPを鉛直方向に下降させて孔明け加工、又はブランク材BをダイD上に載置させるとともに、ブランク材Bに対してパンチPを所定角度γ傾斜させつつ下降させて孔明け加工することにより、ブレーキパッド5の押圧領域における複数個所にディスクを貫通する水切り孔3aを形成するとともに、水切り孔3aは、一方の表面Saに形成された開口3aaと他方の表面Sbに形成された開口3abとが少なくともディスクの径方向Hにオフセットした位置とするので、放熱効果が向上されたブレーキディスク1を容易に製造することができる。特に、ダイDの載置面Daが所定角度傾斜して成るものとすれば、放熱効果が向上されたブレーキディスク1を容易且つ確実に製造することができる。
【0045】
以上、本実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えばブラケット部2とディスク部3とが分割構成とされたフローティング型のブレーキディスク1に代えて、一体型のブレーキディスク(所謂ソリッドタイプ)に適用してもよい。また、水切り孔3aは、パンチPを有した孔明け加工装置に代えて、レーザー加工機等の他の加工装置により形成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0046】
周方向に亘る所定領域において一方の表面から他方の表面に貫通した水切り孔が複数形成されるとともに、水切り孔は、一方の表面に形成された開口と他方の表面に形成された開口とが少なくともディスクの径方向にオフセットした位置とされたブレーキディスクであれば、他の形状のもの或いは他の機能を有したもの等であってもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 ブレーキディスク
2 ブラケット部
2a 取付孔
3 ディスク部
3a 水切り孔
3aa 一方の表面の開口
3ab 他方の表面の開口
4 連結手段
5 ブレーキパッド
6 キャリパー
7 ピストン
Sa 一方の表面
Sb 他方の表面
X 回転軸
Y 周方向
H 径方向
C 中心線
B ブランク材
D ダイ
Da 載置面
P パンチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12