(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023030724
(43)【公開日】2023-03-08
(54)【発明の名称】トグル型締装置の型締力多段制御方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/66 20060101AFI20230301BHJP
B29C 33/22 20060101ALI20230301BHJP
B29C 45/76 20060101ALI20230301BHJP
B22D 17/26 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
B29C45/66
B29C33/22
B29C45/76
B22D17/26 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021136004
(22)【出願日】2021-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】300041192
【氏名又は名称】UBEマシナリー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】有馬 祐一朗
(72)【発明者】
【氏名】岡本 昭男
(72)【発明者】
【氏名】福田 裕一郎
【テーマコード(参考)】
4F202
4F206
【Fターム(参考)】
4F202AP06
4F202AP13
4F202AP15
4F202AP20
4F202AR01
4F202AR09
4F202AR11
4F202AR16
4F202AR20
4F202CA11
4F202CB01
4F202CL01
4F202CL22
4F202CL32
4F206AP06
4F206AP13
4F206AP15
4F206AP20
4F206AR01
4F206AR09
4F206AR11
4F206AR16
4F206AR20
4F206JA07
4F206JM02
4F206JM05
4F206JN33
4F206JP13
4F206JQ83
4F206JT32
4F206JT38
(57)【要約】
【課題】電動サーボモータで駆動するトグル型締装置を用いた、金型キャビティ内への溶融樹脂の射出充填率に基づいて、型締力を段階的に増大させる射出成形において、電動サーボモータの過負荷状態を回避する、トグル型締装置の型締力多段制御方法を提供することを目的とする。
【解決手段】トグル型締装置は、電動サーボモータの回転動作をボールネジ機構で直線動作に変換してトグルリンク機構を動作する電動トグル型締装置であって、前記電動サーボモータの負荷率が予め設定した閾値を超えると、前記負荷率を低減させる回避行動を行い、前記回避行動は、前記型締力が増大する方向に前記電動サーボモータを回転させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型キャビティ内への溶融樹脂の射出充填率に基づいて、型締力を段階的に増大させるトグル型締装置の型締力多段制御方法において、
前記トグル型締装置は、電動サーボモータの回転動作をボールネジ機構で直線動作に変換してトグルリンク機構を動作する電動トグル型締装置であって、前記電動サーボモータの負荷率が予め設定した閾値を超えると、前記負荷率を低減させる回避行動を行う、ことを特徴とするトグル型締装置の型締力多段制御方法。
【請求項2】
前記回避行動は、前記型締力が増大する方向に前記電動サーボモータを回転させる、請求項1記載のトグル型締装置の型締力多段制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型キャビティ内への溶融樹脂の射出充填率に基づいて型締力を段階的に増大させる、トグル型締装置の型締力多段制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂材料を用いた射出成形機による射出成形は、以下の手順で行われる。先ず、射出シリンダ内に樹脂材料を供給する。供給された樹脂材料は、螺旋状のフライトを設けたスクリュの回転運動によるせん断発熱と、射出シリンダに設けたヒータ等の熱量によって、可塑化され溶融樹脂となってスクリュ先端の射出シリンダ内に貯蔵される。次いで、型締装置に取り付けられた固定金型と可動金型を型締して(型締工程という)、形成される金型キャビティに向けて、スクリュを前進させて射出シリンダ内に貯蔵される溶融樹脂を射出充填する(射出工程という)。溶融樹脂の冷却固化に伴う固化収縮を補う保圧充填と、金型キャビティ内で冷却保持を経て、型開して金型キャビティから成形品を取り出す。この一連の成形動作を必要な成形品の個数を得るまで繰り返す。
【0003】
ここで、型締工程の固定金型と可動金型の押付力(型締力という)は、金型キャビティの大きさによって設定される。具体的には、金型キャビティの型締方向の投影面積(製品投影面積という)に、成形樹脂圧を乗じた計算数値とする。なお、この成形樹脂圧は、使用する樹脂材料の種類、金型キャビティのゲート位置及び点数、溶融樹脂や金型の温度、製品重量、製品厚み、射出充填に要する時間等により変動する。そのために、先の計算数値に余裕代を加えた型締力を最大型締力として設定し、型締装置で型締される。そのため、固定金型と可動金型の合わせ面(金型PL面という)は、強固に押圧されている。
【0004】
この最大型締力の型締工程後に射出工程を行うと、金型キャビティ内に残っている空気や、溶融樹脂から放出される揮発性ガス等は、強固に押圧されている金型PL面から排出されずに残存し(ガス残りという)、製品意匠模様の転写不良、ガス溜りによる未充填不良、ウエルド模様やガス流れ模様等の外観不良、ガス巻き込みによるボイド不良、等のガス残りに起因する成形不良の原因となる。そのために、射出工程と型締工程を連動させて射出成形する方法が提案されている。つまり、金型キャビティ内の溶融樹脂の射出充填の増加に応じて、型締力を段階的に増大させる型締力多段制御方法である。
【0005】
一方で型締装置は、省エネや作動油レスによる環境改善の効果や、高い繰返し精度による射出成形の安定性の効果から、電動サーボモータでトグルリンク機構を駆動させる電動トグル型締装置が広く使われている。この電動トグル型締装置の型締力多段制御方法は、金型PL面は合わさっているが型締力は発生しない状態(金型タッチ点という)から、最大型締力の範囲内で、トグルリンク機構の位置を任意に保持させることで行う。この時のトグルリンク機構は屈折した状態から直線状態の範囲内である。電動サーボモータの高精度制御と、トグルリンク機構の倍力特性を利用して、精度の高い型締力多段制御を容易に行うことができる。その反面、トグルリンク機構の特性上、ある位置でトグルリンク機構を保持させると、電動サーボモータの負荷が過大となって保持できない不具合(過負荷状態という)が確認されている。そのため、電動サーボモータの容量アップを必要とし、型締装置の大型化とコストアップが課題となっている。
【0006】
そこで、例えば、特許文献1に示すような、電動トグル型締装置において、設定された型締力に達した後は、型締力の許容範囲内でボールネジを逆回転させて、許容範囲内で型締力を下げる型締力多段制御方法が提案されている。トグルリンク機構は、金型タッチ点から最大型締力の範囲内の屈折した状態である。これによると、電動サーボモータのトルク(または負荷率)を低減することができ、省エネ効果と型締装置の小型化を図ることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に示す手段は、ボールネジを逆回転させることで、トグルリンク機構は金型タッチ点に向かって後退し、許容範囲内とは言え型締力は確実に低下する。これに対して、金型キャビティ内への溶融樹脂の射出充填は継続しており、充填率は増加している。溶融樹脂の充填率の増加に伴い、必要とする型締力は増加しなければいけない。特許文献1に示す手段は、この理屈に反しており、型締力が不足して金型PL面に隙間が生じ、金型PL面から溶融樹脂が漏れ出す(樹脂バリ不良という)ことになる。つまり、金型キャビティ内への溶融樹脂の充填率の増加に応じて、型締力を増大させて、金型PL面からのガス抜きを積極的に行う射出成形の型締力多段制御方法には、特許文献1に示す手段は適用できない。
【0009】
そこで本発明は、電動サーボモータで駆動するトグル型締装置を用いた、金型キャビティ内への溶融樹脂の射出充填率に基づいて、型締力を段階的に増大させる射出成形において、電動サーボモータの過負荷状態を回避する、トグル型締装置の型締力多段制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のトグル型締装置の型締力多段制御方法は、
金型キャビティ内への溶融樹脂の射出充填率に基づいて、型締力を段階的に増大させるトグル型締装置の型締力多段制御方法において、
前記トグル型締装置は、電動サーボモータの回転動作をボールネジ機構で直線動作に変換してトグルリンク機構を動作する電動トグル型締装置であって、前記電動サーボモータの負荷率が予め設定した閾値を超えると、前記負荷率を低減させる回避行動を行う、ことを特徴とする。
【0011】
本発明のトグル型締装置の型締力多段制御方法において、
前記回避行動は、前記型締力が増大する方向に前記電動サーボモータを回転させる、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電動サーボモータで駆動するトグル型締装置を用いた、金型キャビティ内への溶融樹脂の射出充填率に基づいて、型締力を段階的に増大させる射出成形において、電動サーボモータの過負荷状態を回避する、トグル型締装置の型締力多段制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係るトグル型締装置の概念図である。
【
図2】
図1のトグル型締装置の型開閉動作を示す図である。
【
図3】本発明に係るトグル型締装置の型締力多段制御方法を示すフロー図である。
【
図4】電動サーボモータの負荷率特性を示す図である。
【
図5】電動サーボモータの負荷率を低減させる回避行動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組合せの全てが、各請求項に係る発明の解決手段に必須であるとは限らない。また、本実施形態においては、各構成要素の尺度や寸法が誇張されて示されている場合や、一部の構成要素が省略されている場合がある。
【0015】
[トグル型締装置]
先ず、本発明に係るトグル型締装置について、
図1を用いて説明する。
図1はトグル型締装置の概念図を示す。なお、以下の説明では、本発明に係るトグル型締装置として、トグルリンク機構が内側に屈折する横型配置のトグル型締装置をベースとしたが、これに限定されるものではなく、例えば、トグルリンク機構が外側に屈折するものであっても良く、トグルリンク機構が竪型配置であっても良い。
図1に示すトグル型締装置100は、型締本体部20と、トグルリンク機構30と、ダイハイト調整部40と、型締駆動部50と、型締制御部60と、を備える。
【0016】
型締本体部20は、固定盤21と、可動盤22と、リンクハウジング23と、が一列に配置し、固定盤21とリンクハウジング23が複数のタイバー24で連結されている。可動盤22は複数のタイバー24に支持され、固定盤21とリンクハウジング23との間で摺動可能に配置される。固定盤21に固定金型11が取付けられ、可動盤22に可動金型12が取付けられる。固定金型11と可動金型12が合わさって、金型PL面14で囲まれた金型キャビティ13が形成される。この金型PL面14は、金型キャビティ13から溶融樹脂の漏れ防止や、金型キャビティ13内の空気や溶融樹脂から放出される揮発性ガス等を排出する役目をもつ。
【0017】
トグルリンク部30は、可動盤22とリンクハウジング23の間に配置され、複数のリンク33で可動盤22とリンクハウジング23が接続される。また、リンク33の他端はクロスヘッド32と接続されている。リンク33とクロスヘッド32と可動盤22及びリンクハウジング23の各接続部は、リンクピン33Pで回転摺動可能に接続され、クロスヘッド32の位置に応じて、トグルリンク機構30の屈折状態や直線状態を調整できるようになっている。また、リンクハウジング32は、回転動作を直線動作に変換するボールネジ31が組み込まれており、ボールネジ31の先端部は電動サーボモータ34に接続される。この構成により、電動サーボモータ34の回転動作をボールネジ31で直線動作に変換し、クロスヘッド32を直線動作させる。クロスヘッド32の直線動作に応じて、リンク33を介して可動盤22が動作される。電動サーボモータで駆動するトグル型締装置を電動トグル型締装置という。
【0018】
ここで、可動盤22または可動金型12の動作に関して、固定盤21及び固定金型11に近づく方向を前方F、離れる方向を後方B、前方Fに向かう動作を型閉動作、後方Bに向かう動作を型開動作と定義する。電動サーボモータ34には、回転方向と回転量または回転角度を計測する測定機器(エンコーダという)が内蔵されており、電動サーボモータ34の回転運動の回転方向の調整で、型閉動作及び型開動作が調整される。また、電動サーボモータ34の回転運動の回転量や回転角度の調整で、クロスヘッド32の位置が調整でき、可動盤22及び可動金型12の移動速度と移動量を調整することができる。型締制御部60の制御指令に基づいて、型締駆動部50により電動サーボモータ34の回転動作が調整される。詳しくは、
図2を用いて説明する。
【0019】
図2はトグル型締装置の型開閉動作を示すものであり、
図2(a)はトグルリンク機構が大きく屈折して固定金型11と可動金型12が完全に離れた状態(型開完了という)を示し、
図2(b)はトグルリンク機構の屈折度は小さくなり固定金型11と可動金型12が合わさった状態(金型タッチ点という)を示し、
図2(c)はトグル機構が完全に伸びきって直線状態になった状態(型締完了という)を示す。金型タッチ点では型締力はゼロに近い状態であり、型締完了で型締力は最大値を示す。
【0020】
型閉動作は、型開完了(a)から金型タッチ点(b)までの移動状態を示し、この時の電動サーボモータ34の回転方向を型閉回転と定義する。型開動作は、金型タッチ点から型開完了までの移動状態を示し、この時の電動サーボモータ34の回転方向を型開回転と定義する。電動サーボモータ34の回転量または回転角度の調整により、型開完了から金型タッチ点の範囲内で可動盤22または可動金型12の停止位置が調整される。さらには、電動サーボモータ34の回転速度の調整により、型開動作の移動速度(型開速度という)と型閉動作の移動速度(型閉速度という)も精度良く調整できる。
【0021】
金型タッチ点(b)では、固定金型11と可動金型12が合わさって、金型PL面と金型キャビティ13が形成されているが、金型PL面には押付力(型締力という)は発生していない状態である。この時の、固定盤21からリンクハウジング23を連結するタイバー24の長さをL1と定義する。
【0022】
金型タッチ点(b)から型締完了(c)までの移動(型締動作という)によって、タイバー24は、L1からL2に伸張される(L1<L2)。このタイバー24の伸張量に応じて圧縮力が発生し、金型PL面の押付力、つまり型締力が作用する。型締完了から金型タッチ点までの移動(降圧動作という)は、タイバー24の伸張を緩和することになり、型締力も低下する。電動サーボモータの回転制御により、金型タッチ点から型締完了の範囲内で、任意の型締力を調整することができる。金型キャビティ13への溶融樹脂の射出充填に応じて型締力を段階的に増大させる型締力多段制御方法の射出成形は、この金型タッチ点から型締完了までの型締力の調整範囲を利用する。
【0023】
図1の説明に戻る。ダイハイト調整部40は、型締完了時のタイバー24の伸張量に応じた型締力を調整するものであって、リンクハウジング24に配置される。ダイハイトモータ41により、駆動プーリ42と伝達ベルト44を介して従動プーリ43を回転させる。従動プーリ43は、タイバー24の後方B側のネジ部24Gとネジ結合されており、従動プーリ43の回転により、可動金型12と可動盤22とトグルリンク部30とリンクハウジング23が一体で型開閉方向に動く(ダイハイト調整という)。ダイハイトモータの回転方向の調整により、ダイハイト駆動の動作方向を調整できる。また、ダイハイトモータ41の回転量の調整により、ダイハイト調整の移動量が調整できる。ダイハイトモータ41の回転調整は、ダイハイト制御部47の制御指令値に基づいて、ダイハイト駆動部46で行う。ダイハイト制御部47は型締制御部60と接続され、型締制御部60で設定された型締力設定値に基づいて、ダイハイト制御部47でタイバー24の延伸量が演算される。なお、ダイハイト調整は、金型タッチ点から型開完了の範囲内で行う。また、回転自在な従動プーリ43とリンクハウジング23は、支持部45で連結される。
図1においては、駆動プーリ42と伝達ベルト44と従動プーリ43の構成としたが、これに限定されることなく、例えば、駆動ギアとギアチェーンと従動チェーンの構成であっても良く、ギアチェーンの代わりに伝達ギアを使った構成としても良い。
【0024】
型締力設定値に基づいて演算されたタイバー24の延伸量に相当するダイハイト調整に引き続いて型締力調整を行う。型締力調整は、電動サーボモータ34を駆動させて型締動作を行い型締完了とする。この時、実際のタイバー24の延伸量をタイバーセンサTSで計測し、金型PL面に作用する型締力に変換(型締力計測値という)する。この型締力計測値と、型締制御部60で設定した型締力設定値が許容範囲内に収まっていることを確認すると、型締力調整を終える。許容範囲から外れている場合は、降圧動作と型開動作を行い、ダイハイト調整をやり直す。この場合、許容範囲との差異に応じて、タイバー24の延伸量を補正する。ダイハイト調整のやり直し後に、許容範囲に収まることを確認すると、型締力調整を終える。このダイハイト調整と型締力調整を合わせて型締力設定といい、型締力設定の自動運転を型締力自動設定という。この型締力設定では、型締完了時に発生する最大型締力を調整する。この型締完了時の最大型締力から金型タッチ点の型締力がゼロに近い状態の範囲内で、型締力多段制御方法の射出成形を行う。
【0025】
[型締力多段制御方法]
次に、
図1に示す電動トグル型締装置を用いた型締力多段制御方法について、
図3から
図5を用いて説明する。
図3は型締力多段制御方法のフローを示し、
図4は電動サーボモータ34の負荷率特性を示し、
図5は電動サーボモータ34の負荷率を低減させる回避行動を示す。なお負荷率とは、電動サーボモータ34の定格トルクに対しての実行トルクとの相対比を示し、負荷率100%以上を過負荷状態と定義する。
【0026】
先ず、
図3に示すように、工程1が開始され、金型キャビティ13に応じた最大型締力を型締力制御部60に設定する。ここで、最大型締力とは、金型キャビティ13の型開閉方向の投影面積(製品投影面積という)に、成形樹脂圧を乗じて型締力を算出し、この算出結果に余裕率を加算した型締力とする。この余裕率は、使用する樹脂材料の種類、金型キャビティのゲート位置及び点数、溶融樹脂や金型の温度、製品重量、製品厚み、射出充填に要する時間等により成形樹脂圧は変動するために設けることが好ましい。型締制御部60の最大型締力設定値の情報を受けて、ダイハイト制御部47でタイバー24の伸張量を演算し、型締力自動設定を行う。タイバーセンサTSで計測した型締力計測値と最大型締力設定値が、予め設定した許容範囲に収まっていることを確認して、型締力自動設定を終了する。
【0027】
ここで、型締力自動設定で設定した最大型締力は、製品投影面積に成形樹脂圧等を乗じた型締力である。これに対して、溶融樹脂の射出充填(射出工程)の開始前の金型キャビティ13内は、樹脂が全く無く、成形樹脂圧も存在しないので、最大型締力は明らかに過大であり、金型PL面は強固に押圧された状態である。この最大型締力で型締した後に射出工程を開始すると、金型キャビティ13内に残っている空気や、溶融樹脂から放出される揮発性ガス等は、強固に押圧されている金型PL面から排出されずに残存し(ガス残り)、製品意匠模様の転写不良、ガス溜りによる未充填不良、ウエルド模様やガス流れ模様等の外観不良、ガス巻き込みによるボイド不良、等のガス残りに起因する成形不良の原因となる。
【0028】
そのため、
図4(a)に示すように、金型キャビティ13への樹脂充填率に応じた適正型締力を設定することで、金型PL面の押圧の適正化が図れて、ガス残りを解消することができる。なお、樹脂充填率とは、金型キャビティ13内に射出充填された溶融樹脂の流動面積を型開閉方向に投影した流動投影面積であり、射出工程の進行に伴い流動投影面積は増大し、溶融樹脂の充填完了で流動投影面積と製品投影面積が同じとなる。適正型締力とは、この流動投影面積に成形樹脂圧等を乗じた型締力とする。従って、適正型締力より下方の領域A(斜線部)は、ガス残りを解消できる範囲であり、適正型締力より上方の領域Bは、ガス残りの危険性が高い範囲である。なお、領域Aよりも更に下方の領域Zは、型締力が足りずに金型PL面に隙間が生じて溶融樹脂が漏れ出て樹脂バリ不良が発生する範囲であり、例えば、金型PL面が凹凸状に勘合する特殊な構造を有するものに適用され、一般的なフラット構造の金型PLに適用することは好ましくない。
【0029】
また、型締力自動設定の工程の中で、
図4(b)に示すような、電動サーボモータ34の負荷率の変化を型締制御部60で同時に計測する。
図4(b)は、横軸に型締力、縦軸に電動サーボモータ34の負荷率とする。金型タッチ点(型締力=0)から型締完了(最大型締力Pmax)に向かって、型締力の増大とともに負荷率も増大する。特定の型締力の状態で負荷率は最大値を示し、その後、最大型締力Pmaxに向かって負荷率は減少する。これはトグル型締装置の特有の現象であり、この負荷率の最大値を示す範囲(領域C)をトグルリンク機構のデットポイントという。
【0030】
次に、
図4(b)に示す電動サーボモータ34の負荷率の計測データと、電動サーボモータ34の性能を示す設計データを型締制御部60で編集して、
図4(c)に示すような、型締力制限範囲を設定する。
図4(c)は、横軸に電動サーボモータ34の負荷率、縦軸に電動サーボモータ34を連続使用できる許容時間とする。ここで、金型キャビティ内への溶融樹脂の射出充填率に基づいて型締力を段階的に増大させる型締力多段制御方法であるので、少なくとも、射出工程中において、電動サーボモータ34は過負荷状態を避けて安心して連続使用できなければいけない。そのため、閾値Yは射出時間より長めに設定されることが好ましい。閾値Yよりも許容時間の短い領域Hは、成形運転中に電動サーボモータ34が過負荷状態となる危険性が高い型締力危険範囲とし、閾値Yよりも許容時間の長い領域Dは、電動サーボモータ34の過負荷状態が発生せずに安心して連続使用できる型締力許容範囲とする。また、型締力危険範囲においては、電動サーボモータ34の負荷率と許容時間の関係から、過負荷状態となる限界許容時間YTを求めて、後述する過負荷状態の回避行動に利用する。
【0031】
ここで、
図4(a)に示すように、樹脂充填率の増加と同調させて型締力を連続的に増大させることが理想的であるが、
図5(a)に示すように、型締力を段階的に増大させる設定であっても良い。
図5(a)は、横軸に樹脂充填率を射出装置のスクリュの移動量(射出位置という)に置き替え、縦軸に型締力とする。射出位置は、充填開始(S0)から充填完了(SE)までを9分割(S1~S8)とした。また、射出位置の分割数に合わせて、適正型締力に相当する分割型締力を9段階(P0~Pmax、図中の黒丸印)に設定した。なお、射出位置の分割数は、製品重量や使用樹脂及び射出充填の速度等から適宜選択される。射出充填率の射出位置への置き換えや、射出位置の分割と分割型締力の設定は、型締制御部60で行う。
【0032】
図3の説明に戻る。射出位置の分割と分割型締力の設定を終えると工程2に進む。先ず、型締制御部60の制御指令に基づいて、型締駆動部50により電動サーボモータ34を型閉回転させて、初期型締(
図5(a)の分割型締力P0の状態)した後に、射出工程を開始する。射出工程の開始後は、金型キャビティ13への樹脂充填率に基づいて、型締力を段階的に増大させる型締力多段制御を行う。上述したように、樹脂充填率を分割した射出位置に置き替え、射出位置を基準に型締力多段制御を行う。また、充填完了時の流動投影面積は製品投影面積と同じであるので、充填完了時の型締力は最大型締力とする。その後、溶融樹脂の冷却固化に伴う固化収縮を補う保圧充填と(保圧工程という)、金型キャビティ13内で余裕樹脂を冷却保持させて(冷却工程という)、型開して金型キャビティ13から成形品を取り出す。
【0033】
初期型締から最大型締力までの型締力多段制御において、電動サーボモータ34の負荷率の監視を行う。詳しくは、
図3と
図5を用いて説明する。型締力多段制御は、
図5(a)に示すように、初期型締(射出位置S0、型締力P0)の状態で射出工程が開始され、金型キャビティ13内に溶融樹脂の射出充填が開始する。樹脂の充填率に相当する射出位置の移動(S0からSE)に基づいて、型締力を段階的に増大させる(P0からPmax)。この型締力多段制御に電動サーボモータ34の負荷率を重ね書きさせたものを、
図5(b)に示す。型締力の段階的な増加に合わせて負荷率も上昇し、特定の射出位置で負荷率は最大値のピークを示し、その後は、型締力の段階的な増加に合わせて負荷率は低下し、最大型締力で負荷率は最も低くなった。この負荷率の最大値を示す範囲は、トグルリンク機構のデットポイントに相当する。図中の白丸印は、型締力(P0~Pmax)に相当する電動サーボモータ34の監視負荷率(F0~F8)である。
【0034】
ここで、監視負荷率が
図4(c)で求めた型締力危険範囲(領域H)から外れる場合は、型締力多段制御を継続させる。監視負荷率が型締力危険範囲に含まれる場合は(図中では負荷率F4とF5が該当)、監視タイマが起動し、監視タイマの経過時間が、
図4(c)で求めた限界許容時間YTに到達すると、電動サーボモータ34の負荷率を低減させる回避行動を行う。回避行動としては、型締力が増大する方向に電動サーボモータ34を型閉回転させる。具体的には、型締力P4から型締力P6に増加させる。その結果、領域Hの型締力危険範囲の負荷率F4から、型締力許容範囲の負荷率F6に低下し、電動サーボモータ34の過負荷状態を回避することができる。当然であるが、型締力は増大する方向であるので、金型PL面から溶融樹脂が漏れ出る樹脂バリ不良の発生は確実に防止できる。また、型締力も過大に増大させていないので、金型PL面の押付力の適正化を維持でき、金型PL面からのガス抜きを阻害するものではない。
【0035】
仮に、型締力P4において、監視タイマの経過時間が限界許容時間YTの範囲内であって、型締力多段制御が継続されて型締力P5に移行した場合は、以下の回避行動を行うことが好ましい。つまり、型締力P4の段階で、電動サーボモータ34の負荷率は上昇しているため、型締力P4の経過時間を加算して型締力P5で経過時間の監視を行う。合算された経過時間が限界許容時間YTに到達すると、電動サーボモータ34を型閉回転させて、型締力P5から型締力P6に増加させる回避行動を行う。なお、回避行動は、型締力が増大する方向で、かつ、電動サーボモータ34の負荷率を低減させ、型締力危険範囲から型締力許容範囲に移行させることが目的であるので、型締力P6から型締力Pmaxの範囲内で移行後の型締力を選択するものであって良い。なお、型締力危険範囲であっても、経過時間が限界許容時間YTの範囲内であれば、型締力多段制御はそのまま継続される。
【0036】
このように、金型キャビティ内へ溶融樹脂の射出充填率に基づいて、型締力を段階的に増大させる、電動トグル型締装置の型締力多段制御方法において、電動サーボモータの負荷率を監視し、負荷率が閾値を超えると負荷率を低減させる回避行動を行うものとする。これにより、電動サーボモータの過負荷による成形の中断等の事態を回避することができる。また、電動サーボモータの容量アップを必要とせず、トグル型締装置の小型化とコスト低減を図ることができる。当然であるが、電動サーボモータの省エネ効果も得られる。
【0037】
また、金型キャビティ内の溶融樹脂の流動投影面積に基づいた適正型締力の設定により、金型PL面の押付力は適正状態を維持でき、金型PL面から金型キャビティ内に残っている空気や、溶融樹脂から放出される揮発性ガス等を効率よく排出でき、高いガス抜き効果により、製品意匠模様の転写不良、ガス溜りによる未充填不良、ウエルド模様やガス流れ模様等の外観不良、ガス巻き込みによるボイド不良、等のガス残りに起因する成形不良を確実に回避できる。また、適正型締力の設定により過大な型締力を回避でき、金型やトグル型締装置の寿命アップの効果も期待できる。
【0038】
さらに、電動サーボモータの負荷率を低減させる回避行動は、型締力が増大する方向に電動サーボモータを型閉回転させる。これによって、型締力が不足して金型PL面に隙間が生じ、溶融樹脂が漏れ出る樹脂バリ不良の発生は皆無である。つまり、溶融樹脂の射出充填率の増加に反して、電動サーボモータを型締力が低下する方向に型開回転させて、樹脂バリ不良を誘発する等の危険な行為は絶対に行わない。
【0039】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術範囲は、上述した実施形態に記載された範囲には限定されない。上記の実施形態には多様な変更または改良を加えることが可能である。
【0040】
例えば、樹脂充填率を射出位置に置き替えて型締力多段制御方法としたが、射出位置を充填開始からの経過時間(射出時間という)としても良い。また、電動サーボモータの負荷率を採用したが、負荷率と相似した挙動を示す電動サーボモータのトルク値や電流値を用いても良い。また、例えば、タイバーセンサ等の計測手段で計測した型締力を用いて、型締力多段制御や回避行動を行うとしたが、トグルリンク機構の倍力特性から計算される型締力計算値を用いても良く、トグルリンク機構の屈折状態を制御するクロスヘッド位置で代用しても良い。なお、クロスヘッド位置で代用する場合は、電動サーボモータの回転量をクロスヘッド位置としても良い。
【符号の説明】
【0041】
100 トグル型締装置
11 固定金型
12 可動金型
13 金型キャビティ
14 金型PL面
20 型締本体部
21 固定盤
22 可動盤
23 リンクハウジング
24 タイバー
24G ネジ部
30 トグルリンク機構
31 ボールネジ
32 クロスヘッド
33 リンク
33P リンクピン
34 電動サーボモータ
40 ダイハイト調整部
41 ダイハイトモータ
42 駆動プーリ
43 従動プーリ
44 伝達ベルト
45 支持部
46 ダイハイト駆動部
47 ダイハイト制御部
50 型締駆動部
60 型締制御部
TS タイバーセンサ