(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023030757
(43)【公開日】2023-03-08
(54)【発明の名称】車体下部構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/20 20060101AFI20230301BHJP
【FI】
B62D25/20 F
B62D25/20 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021136068
(22)【出願日】2021-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】園部 蒼馬
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203BB06
3D203BB12
3D203BB22
3D203CA25
3D203CA37
3D203CA52
3D203DB05
(57)【要約】
【課題】衝突荷重に対するクロスメンバの耐力を高め、車体下部構造のエネルギー吸収性能を向上させる。
【解決手段】車体下部構造1において、フロアパネル10と、サイドシル20と、クロスメンバ30と、フロアパネル10とクロスメンバ30の接合部40と、を備え、サイドシル20は、中空部20aと、衝撃吸収部23と、を有し、衝撃吸収部23は、サイドシル20の車幅方向車内側の壁部25に接続され、クロスメンバ30は、天壁部31を含む複数の壁部と、複数の稜線部34と、を有し、複数の稜線部34は、接合部40から天壁部31までの間に第1稜線部Aと、第2稜線部Bと、を有し、第1稜線部Aと第2稜線部Bは、車幅方向から見て、衝撃吸収部23の配置領域Rと重なる領域に位置している。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体下部に配置されるフロアパネルと、
前記フロアパネルの車幅方向端部に設けられた、車長方向に延伸するサイドシルと、
前記サイドシルに接続された、車幅方向に延伸するクロスメンバと、
前記フロアパネルと前記クロスメンバの接合部と、を備え、
前記サイドシルは、
車長方向に延伸する中空部と、
前記中空部に配置された衝撃吸収部と、を有し、
前記衝撃吸収部は、前記サイドシルの車幅方向車内側の壁部に接続され、
前記クロスメンバは、
天壁部を含む複数の壁部と、
各壁部の間に挟まれた、車幅方向に延伸する複数の稜線部と、を有し、
前記複数の稜線部は、前記接合部から前記天壁部までの間に第1稜線部と、第2稜線部と、を有し、
前記第1稜線部の曲げ中心は、前記クロスメンバの内側に位置し、
前記第2稜線部の曲げ中心は、前記クロスメンバの外側に位置し、
前記第1稜線部と前記第2稜線部は、車幅方向から見て、前記衝撃吸収部の配置領域と重なる領域に位置している、車体下部構造。
【請求項2】
前記天壁部に凹部が形成され、
前記凹部は、底壁部と、2つの側壁部と、を有し、
前記底壁部は、前記2つの側壁部の間に位置し、
前記底壁部と前記2つの側壁部に挟まれた稜線部は、車幅方向に延伸している、請求項1に記載の車体下部構造。
【請求項3】
前記クロスメンバは、第1の部品と、第2の部品と、を有し、
前記第1の部品と前記第2の部品は、それぞれが前記第1稜線部と前記第2稜線部を有し、
前記第1の部品と前記第2の部品は、前記底壁部において互いに接続されている、請求項2に記載の車体下部構造。
【請求項4】
前記天壁部は、車幅方向から見て、前記衝撃吸収部の前記配置領域と重なる領域に位置している、請求項1~3のいずれか一項に記載の車体下部構造。
【請求項5】
前記クロスメンバを補強する補強部材を備え、
前記補強部材は、底面部と、2つの側面部と、を有し、
前記底面部は、前記2つの側面部の間に位置し、
前記底面部と前記2つの側面部の間に挟まれた稜線部は、車幅方向に延伸し、
前記底面部は、前記クロスメンバの前記天壁部の上方に位置し、
前記2つの側面部は、前記クロスメンバの前記天壁部以外の壁部にそれぞれ接合されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の車体下部構造。
【請求項6】
前記補強部材は、車幅方向に間隔をおいて複数設けられている、請求項5に記載の車体下部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車体下部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、世界中で自動車の燃費規制が厳格化され、電気自動車(EV)の開発が推進されている。電気自動車は床下にバッテリーが配置されることから、衝突時にバッテリーを保護するためには、車体下部の構造によって衝突エネルギーを吸収する必要がある。例えば電柱と車体側面が接触するような衝突形態では、サイドシル、クロスメンバ、バッテリーケース等の車体下部に設けられる部品によって衝突エネルギーが吸収される。一方で、エネルギー吸収性能の向上を図るために、高強度材料を採用することや部品の板厚を増加させることは、大幅な重量増とコスト増を招く。このため、エネルギー吸収性能の向上は、車体下部の構造的な改良によって実現されることが望ましい。
【0003】
車体下部構造に関する技術として、特許文献1には、中空状の自動車骨格部材の内方に、凹凸を有する補強部材が配置される構造が開示されている。特許文献2には、一対のロッカ(サイドシル)と複数のクロスメンバを備え、隣り合うクロスメンバの離間距離を、側面衝突時の入力荷重に対するロッカの曲げ反力が入力荷重以上となるように設定することが開示されている。特許文献3には、一対の縦壁を有するハット形状の衝撃吸収部材がサイドシル内部に配置され、上側の縦壁の車幅方向車内側にクロスメンバが、下側の縦壁の車幅方向車内側にバッテリーサイドフレームが配置される構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2020/085383号
【特許文献2】特開2019-031219号公報
【特許文献3】特許第6734709号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
側面衝突時に衝撃吸収部材のエネルギー吸収性能を最大限引き出すためには、衝撃吸収部材の全体を塑性変形させて圧潰させることが好ましい。しかし、側面衝突時において、衝撃吸収部材が接続されたサイドシルの壁部が早期に座屈すると、サイドシルの面外変形に追従して衝撃吸収部材の姿勢が変化し、衝撃吸収部材に入力される衝突荷重が当初の想定通りに伝達されない可能性がある。この場合、衝撃吸収部材が所望の変形挙動を示さず、衝撃吸収部材の未変形部が残存しやすくなる。したがって、衝撃吸収部材のエネルギー吸収性能を最大限引き出すためには、衝撃吸収部材が接続されたサイドシルの壁部の面外変形を抑えることが好ましい。
【0006】
ところで、サイドシルに接続されたクロスメンバに伝達される衝突荷重は、主に衝撃吸収部材を介して伝達される。このため、側面衝突時のクロスメンバには、衝撃吸収部材が配置された領域から局所的に衝突荷重が入力される。そして、このような局所荷重がクロスメンバに入力されると、クロスメンバを構成する平面部が撓み、その平面部に過大な面外変形が生じる場合がある。この場合、クロスメンバが接続されたサイドシルの車内側壁部の面外変形が誘発され、前述のようにサイドシルの面外変形に追従する衝撃吸収部材の姿勢変化が起こり、衝撃吸収部材の未変形部が残存しやすくなる。
【0007】
すなわち、側面衝突時に衝撃吸収部材の塑性変形を促進させてエネルギー吸収性能を向上させるためには、サイドシルの車内側壁部の面外変形を抑制する必要があるが、そのためには衝撃吸収部材を介して伝達される衝突荷重に対するクロスメンバの耐力を高める必要がある。
【0008】
しかしながら、特許文献1~3には、衝突荷重に対するクロスメンバの耐力を高めるための構造は開示されていない。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、衝突荷重に対するクロスメンバの耐力を高め、車体下部構造のエネルギー吸収性能を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明は、車体下部構造であって、車体下部に配置されるフロアパネルと、前記フロアパネルの車幅方向端部に設けられた、車長方向に延伸するサイドシルと、前記サイドシルに接続された、車幅方向に延伸するクロスメンバと、前記フロアパネルと前記クロスメンバの接合部と、を備え、前記サイドシルは、車長方向に延伸する中空部と、前記中空部に配置された衝撃吸収部と、を有し、前記衝撃吸収部は、前記サイドシルの車幅方向車内側の壁部に接続され、前記クロスメンバは、天壁部を含む複数の壁部と、各壁部の間に挟まれた、車幅方向に延伸する複数の稜線部と、を有し、前記複数の稜線部は、前記接合部から前記天壁部までの間に第1稜線部と、第2稜線部と、を有し、前記第1稜線部の曲げ中心は、前記クロスメンバの内側に位置し、前記第2稜線部の曲げ中心は、前記クロスメンバの外側に位置し、前記第1稜線部と前記第2稜線部は、車幅方向から見て、前記衝撃吸収部の配置領域と重なる領域に位置していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、衝突荷重に対するクロスメンバの耐力を高め、車体下部構造のエネルギー吸収性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る車体下部構造の概略を示す図である。
【
図2】サイドシルの軸方向(車長方向)に垂直な断面を示す図である。
【
図4】
図3の衝撃吸収部材を車幅方向から見た図である。
【
図6】クロスメンバの軸方向(車幅方向)に垂直な断面を示す図である。
【
図9】第1稜線部と第2稜線部を有するクロスメンバの形状例を示す図である。
【
図10】第1稜線部と第2稜線部の一方または両方を有しないクロスメンバの形状例を示す図である。
【
図11】クロスメンバに補強部材が接合された例を示す図である。
【
図13】中空部を有するクロスメンバの形状例を示す図である。
【
図14】中空部を有するクロスメンバに補強部材が接合された例を示す図である。
【
図15】ポール側突シミュレーションの解析モデルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係る車体下部構造の概略を示す図である。
図2は、サイドシルの軸方向(車長方向)に垂直な断面を示す図である。
図3は、衝撃吸収部材の形状を示す斜視図である。
図4は、
図3の衝撃吸収部材を車幅方向から見た図である。なお、本明細書で参照する図面に示される「X方向」は車幅方向、「Y方向」は車長方向、「Z方向」は車高方向である。なお、本明細書における部品同士の「接続」には、部品同士が接触している状態の他、部品同士が接合されている状態も含まれる。また、本明細書における部品同士の「接合」には、溶接による接合の他、例えば接着剤による接合も含まれる。
【0015】
車体下部構造1は、自動車の車体下部に配置されるフロアパネル10と、サイドシル20と、クロスメンバ30を備えている。車体下部構造1は、ハイブリットカーや電気自動車の他、例えば内燃機関を動力源とする他の自動車など、フロアパネル、サイドシルおよびクロスメンバを有した車体下部構造を備える自動車に適用することができる。
【0016】
サイドシル20は、車長方向(Y方向)に延伸する中空部20aを有した部材であり、フロアパネル10の車幅方向(X方向)の端部に配置されている。
【0017】
サイドシル20は、アウター部品21と、インナー部品22と、衝撃吸収部23を有している。なお、
図1では衝撃吸収部23の形状を模式的に示し、
図2~
図4において具体的な形状を示している。
【0018】
アウター部品21とインナー部品22は、それぞれハット形状の部品であり、アウター部品21のフランジとインナー部品22のフランジが互いに接合されることによって、サイドシル20は中空状に形成される。サイドシル20の車幅方向車外側の壁部(以下、「車外側壁部24」)には、側面衝突時に衝突荷重が入力される。また、サイドシル20の車幅方向車内側の壁部(以下、「車内側壁部25」)には、前述のフロアパネル10が接続される。
【0019】
衝撃吸収部23は、衝突時に自身の塑性変形により衝突エネルギーを吸収する部材であり、サイドシル20の車長方向(Y方向)に延伸している。本実施形態における衝撃吸収部23は、アウター部品21およびインナー部品22の車高方向(Z方向)の中央部において、車外側壁部24と車内側壁部25の間に架設されるようにして両壁部24、25の内面に接続されている。
【0020】
図2~
図4に示すように、衝撃吸収部23は、複数の底面部23aと、その底面部23aを間に挟む2つの側面部23bと、各側面部23bの上端部に接続される天面部23cを有している。各面23a~23cの間にある稜線部23dは、それぞれ車幅方向(X方向)に延びている。衝撃吸収部23は、このような底面部23a、2つの側面部23bおよび天面部23cが車長方向(Y方向)に沿って連続して設けられている。このため、衝撃吸収部23の形状は、車長方向に沿って連続する凹凸を有した波形状となっている。
【0021】
なお、本明細書では、車幅方向(X方向)から見た際の衝撃吸収部23が配置された領域を「衝撃吸収部23の配置領域R」と称す。例えば
図4に示す衝撃吸収部23においては、底面部23aから天面部23cまでの領域が衝撃吸収部23の配置領域Rである。
【0022】
サイドシル20の概略構成の説明は以上の通りであるが、サイドシル20の構成は特に限定されず、公知の構成を適用してもよい。また、
図5に示すように、サイドシル20は、例えば押出成形によって、中空部20aと、衝撃吸収部23を有する構成であってもよい。なお、
図5の例における衝撃吸収部23の配置領域Rは、衝撃吸収部23の下面と上面の間の領域である。
【0023】
クロスメンバ30は、車幅方向(X方向)に延伸する部材である。本実施形態におけるクロスメンバ30は、車長方向(Y方向)に延伸する一対のサイドシル20に架設されるように延伸し、クロスメンバ30の車幅方向における両端部がサイドシル20の車内側壁部25に接続されている。なお、クロスメンバ30は例えば車幅方向における一端部がサイドシル20の車内側壁部25に接続され、他端部がフロアトンネル(図示せず)に接続されてもよい。また、クロスメンバ30の数は特に限定されず、クロスメンバ30は、車長方向(Y方向)に間隔をおいて複数設けられてもよい。
【0024】
以下、クロスメンバ30の形状について説明する。
図6は、クロスメンバ30の軸方向(車幅方向)に垂直な断面を示す図である。
図7および
図8は、クロスメンバ30の形状例を示す図である。
【0025】
図6に示すように、クロスメンバ30は、天壁部31と、2つの縦壁部32と、2つのフランジ部33を含む複数の壁部を有している。
【0026】
縦壁部32の上端は、天壁部31の車長方向(Y方向)の端部に接続されている。縦壁部32の下端は、フランジ部33に接続されている。天壁部31、縦壁部32およびフランジ部33の各壁部の間に挟まれた稜線部34は、車幅方向(X方向)に延伸している。このような形状のクロスメンバ30は、フランジ部33がフロアパネル10に接合されることによって、車幅方向に延伸する中空部30aが形成されている。なお、本明細書で参照する図面中の黒丸部は、隣り合う2部品の接合部40を示している。
【0027】
縦壁部32は、第1壁部32aと、第2壁部32bと、第3壁部32cを有している。第1壁部32aと第3壁部32cはそれぞれ車高方向(Z方向)に延伸し、第2壁部32bは、第1壁部32aの上端と第3壁部32cの下端に接続されている。各壁部32a~32cの間に挟まれた各稜線部34は、車幅方向(X方向)に延伸している。第1壁部32aと第2壁部32bに挟まれた稜線部34は、曲げ中心がクロスメンバ30の内側(中空部30aの内側)に位置している。第2壁部32bと第3壁部32cに挟まれた稜線部34は、曲げ中心がクロスメンバ30の外側(中空部30aの外側)に位置している。
【0028】
縦壁部32は、上記の構成を有していることにより段状に形成されている。そして、第1壁部32aと第2壁部32bに挟まれた稜線部34と、第2壁部32bと第3壁部32cに挟まれた稜線部34は、車幅方向(X方向)から見て、衝撃吸収部23の配置領域Rと重なる位置に存在している。
【0029】
以降の説明では、フロアパネル10との接合部40から天壁部31までに存在する複数の稜線部34のうち、曲げ中心がクロスメンバ30の内側(中空部30aの内側)に位置し、かつ、車幅方向(X方向)から見て衝撃吸収部23の配置領域Rと重なる領域に位置する稜線部34を「第1稜線部A」と称す場合がある。また、曲げ中心がクロスメンバ30の外側(中空部30aの外側)に位置し、かつ、車幅方向から見て衝撃吸収部23の配置領域Rと重なる領域に位置する稜線部34を「第2稜線部B」と称す場合がある。例えば
図6に示すクロスメンバ30においては、第1壁部32aと第2壁部32bの間の稜線部34が第1稜線部Aであり、第2壁部32bと第3壁部32cの間の稜線部34が第2稜線部Bである。
【0030】
すなわち、本実施形態におけるクロスメンバ30は、車幅方向(X方向)から見て、第1稜線部A、第2稜線部B、および第1稜線部Aと第2稜線部Bの間の第2壁部32bが、衝撃吸収部23の配置領域Rと重なる領域に位置している。また、第1稜線部Aから下方に延びる第1壁部32aの一部が配置領域R内に位置し、残部は配置領域R外に位置している。また、第2稜線部Bから上方に延びる第3壁部32cの一部が配置領域R内に位置し、残部は配置領域R外に位置している。
【0031】
車体下部構造1が備えるフロアパネル10、サイドシル20およびクロスメンバ30の概略構成の説明は以上の通りである。なお、フロアパネル10、サイドシル20、クロスメンバ30は、例えば引張強さが440~2500MPaの鋼材やアルミニウム合金部材、マグネシウム合金部材等の金属材料で形成される。
【0032】
本実施形態に係る車体下部構造1によれば、クロスメンバ30の縦壁部32が複数の壁部32a~32cで構成されていることによって縦壁部32の面剛性が向上する。詳述すると、本実施形態における縦壁部32は、縦壁部全体の高さ(車高方向長さ)が単一の壁部で構成される従前の縦壁部と同一の高さであっても、縦壁部32を構成する一つあたりの壁部の高さが低いため、各壁部の面剛性が高まる。その結果、縦壁部32全体の面剛性も高まるため、縦壁部32の面外変形が抑制され、衝突荷重に対するクロスメンバ30の耐力が向上する。
【0033】
また、クロスメンバ30に入力される衝突荷重は、衝撃吸収部23の配置領域Rから主に伝達されるが、本実施形態におけるクロスメンバ30においては、第1稜線部Aと第2稜線部Bが、車幅方向(X方向)から見て、衝撃吸収部23の配置領域Rと重なる位置にある。このため、配置領域Rから伝達される衝突荷重を第1稜線部Aと第2稜線部Bで受けることができるため、衝突荷重に対するクロスメンバ30の耐力が向上する。
【0034】
したがって、本実施形態に係る車体下部構造1によれば、側面衝突時の衝突荷重に対するクロスメンバ30の耐力を高めることができ、クロスメンバ30の縦壁部32の面外変形を抑制することができる。その結果、クロスメンバが接続されたサイドシル20の車内側壁部の面外変形も抑制することができ、衝撃吸収部23の塑性変形を促進させることが可能となる。これにより、後述の実施例でも示すように、車体下部構造1のエネルギー吸収性能を向上させることができる。
【0035】
なお、段状に形成された縦壁部32の段数が過度に多くなって各段の壁部の高さが過度に低くなると、各段の境界が曖昧となり、衝突時における縦壁部32の変形挙動が、縦壁部が一つの壁部で構成されている場合と同様の変形挙動となる可能性がある。縦壁部32の段数としての好ましい上限は、クロスメンバ30の形状や衝撃吸収部23の配置領域Rの大きさに応じて異なるが、縦壁部32の面剛性向上の効果を高めるためには、縦壁部32の段数は例えば2~3段であることが好ましい。
【0036】
図7に示すように、クロスメンバ30の天壁部31は、車幅方向(X方向)から見て、衝撃吸収部23の配置領域Rと重なる領域に位置してもよい。この場合、第1壁部32aと第2壁部32bの間の稜線部34に加え、天壁部31と第3壁部32cの間の稜線部34も第1稜線部Aとなり、衝撃吸収部23の配置領域Rから伝達される衝突荷重を受ける稜線部の数が増加する。これにより、衝突荷重に対するクロスメンバ30の耐力を効果的に高めることができる。
【0037】
図8に示すように、クロスメンバ30の天壁部31には、凹部35が形成されてもよい。
図8に示す凹部35は、底壁部35aと、側壁部35bを有している。側壁部35bは、底壁部35aと天壁部31の間にある壁部であり、底壁部35aと側壁部35bに挟まれた稜線部34は車幅方向(Y方向)に延伸している。このような凹部35が天壁部31に形成されていることにより、衝突荷重を受ける稜線部の数が増加し、クロスメンバ30の耐力を高めることができる。
【0038】
また、クロスメンバ30は、
図8のように複数の部品で構成されてもよい。
図8に示す例では、クロスメンバ30が第1の部品36と第2の部品37で構成されている。第1の部品36と第2の部品37は、それぞれ第1稜線部Aと第2稜線部Bを有していて、凹部35の底壁部35aにおいて両部品が接合されている。
【0039】
クロスメンバ30の形状は以上で説明した形状に限定されず、例えば
図9に示す形状であってもよい。
図9(a)は、2つの縦壁部32のうちの一方の縦壁部32のみが段状に形成された例である。
図9(b)は、凹部35の底壁部35aがフロアパネル10に接していない例である。
図9(c)は、凹部35の底壁部35aが衝撃吸収部23の配置領域R内に位置する例である。
図9(d)は、縦壁部32の段数が4段の例である。
図9(e)は、縦壁部32が傾斜部を有している例である。
【0040】
図9(f)は、縦壁部32が段状に形成されていないが、凹部35の側壁部35bが段状に形成された例である。この例では、凹部35の底壁部35aとフロアパネル10が接合され、その接合部40から天壁部31までの間に第1稜線部Aと第2稜線部Bが存在している。このため、側壁部35bの面剛性が高まり、衝突荷重に対するクロスメンバ30の耐力を高めることができる。すなわち、段状に形成される壁部は、縦壁部32に限定されず、フロアパネル10との接合部40から天壁部31までの間にある壁部であればよい。
【0041】
図10は、第1稜線部Aと第2稜線部Bの一方または両方を有しないクロスメンバ30の形状例を示す図である。
図10(a)は、一般的なハット形状のクロスメンバ30を示す例である。
図10(b)は、天壁部31が衝撃吸収部23の配置領域Rと重なる領域に位置していることにより第1稜線部が存在するが、第2稜線部Bが存在しない例である。
図10(c)は、縦壁部32が段状に形成されているが、各壁部の稜線部34が衝撃吸収部23の配置領域R外に位置する例である。
図10(d)は、天壁部31に凹部35が形成されているが、第1稜線部Aと第2稜線部Bが存在しない例である。
【0042】
図10(e)は、
図9(f)に示すクロスメンバ30と同一の形状であるが、凹部35の底壁部35aとフロアパネル10が接合されていない例である。このクロスメンバ30においては、凹部35の側壁部35bが段状に形成されているが、底壁部35aがフロアパネル10に接合されていないために、クロスメンバ30の耐力向上への寄与度が低い。
【0043】
以上、クロスメンバ30の形状について説明したが、
図11に示すように、クロスメンバ30に補強部材50が接合されてもよい。この補強部材50は、軸方向(X方向)の断面がコ字状となるように形成されていて、底面部51と、その底面部51を間に挟む2つの側面部52を有している。
図11に示す例では、補強部材50の底面部51がクロスメンバ30の天壁部31の外面に接合され、補強部材50の側面部52がクロスメンバ30の第1壁部32aの外面に接合されている。このような補強部材50が設けられることによって、クロスメンバ30と補強部材50で囲まれる閉断面が形成され、クロスメンバ30の各壁部の面剛性を向上させることができる。なお、補強部材50の底面部51は、クロスメンバ30の天壁部31に接してなくてもよい。
【0044】
補強部材50は、クロスメンバ30の全長にわたって延伸する形状であってもよいが、
図12に示すように、複数の補強部材50が車幅方向(X方向)に沿って間隔をおいて配置されてもよい。
【0045】
また、以上の説明では、クロスメンバ30がフロアパネル10に接合されることで、車幅方向(X方向)に延伸する中空部30aが形成されていたが、
図13に示すように、クロスメンバ30は、例えば押出成形によって中空状に形成されてもよい。このクロスメンバ30は、天壁部31と、2つの縦壁部32と、2つの縦壁部32の間に挟まれた底壁部38を有していて、2つの縦壁部32とフロアパネル10は例えば隅肉溶接によって接合されている。この例においても、フロアパネル10との接合部40から天壁部31までの間に、衝撃吸収部23の配置領域Rと重なる領域に位置する第1稜線部Aと第2稜線部Bが存在している。これにより縦壁部32が複数の壁部で構成され、縦壁部32の面剛性が向上する。
【0046】
なお、
図14に示すように、中空部20aを有するクロスメンバ30に前述の補強部材50が設けられてもよい。また、
図14に示す補強部材50とクロスメンバ30が例えば押出成形によって一体成形されてもよい。
【0047】
以上、本発明の実施形態の一例について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【実施例0048】
図15に示す車体下部構造の解析モデルを用いて、側面衝突を模擬したポール側突シミュレーションを実施した。
【0049】
この解析モデルのサイドシル20は、2つのハット形状部品がフランジ部で互いに接合された構成である。衝撃吸収部23は、直方体形状であって、サイドシル20の中空部において、サイドシル20の車外側壁部と車内側壁部の内面に接続されている。フロアパネル10は、サイドシル20の車内側壁部に接続されている。クロスメンバ30は、車長方向(Y方向)に間隔をおいて2つ配置されている。各部品の材料には引張強さが1180MPaの鋼板が設定されている。
【0050】
本シミュレーションでは、半径127mmのポールをサイドシル20の車外側壁部に当接させ、1m/sの速度でポールを車内側に侵入させた。車長方向(Y方向)におけるポールの当接位置は、2つのクロスメンバ30の間の位置である。また、フロアパネル10とクロスメンバ30の車内側端面と、サイドシル20の軸方向端面には拘束面を設定している。具体的には、フロアパネル10とクロスメンバ30の車内側端面を剛体面として完全拘束し、サイドシル20の軸方向端面については軸方向(Y方向)の変形のみを拘束している。
【0051】
以上の条件でシミュレーションを行い、ポールが85mm侵入したときのエネルギー吸収効率(衝撃吸収部のエネルギー吸収量/クロスメンバの質量)を算出した。この結果を
図16~
図18に示す。なお、本シミュレーションは、クロスメンバの形状や補強部材の有無が異なる複数のモデルで実施されている。各モデルを作成する際には、車体下部構造の総質量が互いに等しくなるようにクロスメンバの板厚tの値を変更している。
【0052】
図16に示すように、実施例1のモデルは、クロスメンバの縦壁部が段状に形成され、かつ、衝撃吸収部の配置領域に重なる第1稜線部Aと第2稜線部Bが存在するモデルである。この実施例1のモデルは、第1稜線部Aと第2稜線部Bが存在しない比較例1および比較例2のモデルよりもエネルギー吸収効率に優れている。
【0053】
図17に示すように、実施例2と比較例3のモデルは、
図16に示すモデルとは異なり、補強部材を有しないモデルである。このように補強部材が設けられていない場合であっても、第1稜線部Aと第2稜線部Bが存在する実施例2のモデルは、第1稜線部Aと第2稜線部Bが存在しない比較例3のモデルよりもエネルギー吸収効率に優れている。特に、実施例2のモデルは、比較例3のモデルよりもクロスメンバの板厚が薄いにも関わらず、エネルギー吸収効率が上昇していることから、第1稜線部Aと第2稜線部Bが存在することによる面剛性の向上効果が大きいことがわかる。
【0054】
図18に示すように、いずれの実施例のモデルにおいても、第1稜線部Aと第2稜線部Bが存在しない比較例2(
図16)のモデルよりもエネルギー吸収効率が優れている。