(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023030770
(43)【公開日】2023-03-08
(54)【発明の名称】油汚染土壌の原位置浄化方法
(51)【国際特許分類】
B09C 1/02 20060101AFI20230301BHJP
【FI】
B09C1/02 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021136085
(22)【出願日】2021-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】秦 浩司
【テーマコード(参考)】
4D004
【Fターム(参考)】
4D004AA41
4D004AB02
4D004CA34
4D004CA40
4D004CA41
4D004CC05
4D004DA03
4D004DA10
(57)【要約】
【課題】従来よりも洗浄効果の高い油汚染土壌の原位置浄化方法を提供すること
【解決手段】油汚染土壌に界面活性剤を含む洗浄水を注入する注入工程と、前記洗浄水を前記油汚染土壌に浸透させるために十分な時間静置する静置工程と、前記静置工程後に前記油汚染土壌から剥離された油を前記洗浄水ごと揚水回収する回収工程と、を有する油汚染土壌の原位置浄化方法である。この発明によれば、注入工程後に静置工程を経ることで油汚染土壌中に界面活性剤を浸透させることができ、その結果、いわゆる漬け置き洗いの効果が発揮され、従来よりも油汚染土壌の洗浄効果を向上させることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油汚染土壌の原位置浄化方法であって、
油汚染土壌に界面活性剤を含む洗浄水を注入する注入工程と、
前記洗浄水を前記油汚染土壌に浸透させるために十分な時間静置する静置工程と、
前記静置工程後に前記油汚染土壌から剥離された油を前記洗浄水ごと揚水回収する回収工程と、
を有することを特徴とする油汚染土壌の原位置浄化方法。
【請求項2】
前記静置工程の静置時間が6時間以上48時間以下であることを特徴とする請求項1に記載の油汚染土壌の原位置浄化方法。
【請求項3】
前記界面活性剤が、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを主成分とし、10以上13以下の範囲のHLB値を有する非イオン界面活性剤であることを特徴とする請求項1または2に記載の油汚染土壌の原位置浄化方法。
【請求項4】
前記注入工程において、前記界面活性剤の濃度が、油汚染土壌および前記界面活性剤を含む洗浄水の総質量に対して0.2質量%以上2.0質量%以下であることを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の油汚染土壌の原位置浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油汚染土壌の原位置浄化方法に関し、特に、洗浄処理による油汚染土壌の原位置浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油による土壌汚染については、法的な基準は設定されていないものの、土壌が鉱油類などの油で汚染されると、その土地またはその周辺の土地を使用している者に油臭や油膜による生活環境保全上の支障を生じさせることから、油臭・油膜が感じられなくなる程度に浄化する必要がある。
【0003】
鉱油類には、ガソリン、灯油、軽油、重油、潤滑油などがあり、油の種類ごとに炭素数や沸点が大きく異なり、そのため、油の種類ごとに処理方法の適用範囲が異なる。油含有土壌の浄化方法としては、例えば、場外搬出処理、洗浄処理、酸化剤処理、バイオ処理、揚水処理、ガス吸引処理などが挙げられる。
【0004】
特許文献1は、このうちの洗浄処理の一例を開示する。
図6は、従来の油汚染土壌の原位置浄化方法を示す概念図である。図示のように、土壌103中における鉱物油の存在領域103aの一端側に界面活性剤を含有する液体104を注入する注入井戸101を設け、他端側に界面活性剤を含有する液体104および土壌中の鉱物油を回収する回収井戸102を設け、注入井戸101から界面活性剤を含有する液体104を注入するとともに回収井戸102から界面活性剤を含有する液体104および土壌中の鉱物油を回収することで、油含有土壌を浄化する方法を開示する。
【0005】
特許文献1の方法によれば、原位置で鉱油類などの油で汚染された土壌を浄化することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の方法によれば、洗浄水の界面活性剤濃度が高いほど洗浄効果は高いが、界面活性剤の使用量が多くなると材料コストが増大する問題がある。また、注入井戸および回収井戸間の通水量が多くなると施工コストが増大する。界面活性剤の使用量を減らすためには界面活性剤を含有する液体中の界面活性剤濃度を小さくすることが考えられるが、そうすると土壌の浄化効果を高めるために通水量を多くする必要があり、二律背反となる問題を抱えていた。
【0008】
上記課題を鑑みた本願発明の目的は、従来よりも洗浄効果の高い油汚染土壌の原位置浄化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的達成に向け鋭意検討を行った。その結果、油汚染土壌を界面活性剤を含む洗浄水で洗浄するに際し、単に油汚染土壌にこの洗浄水を通水するのではなく、この洗浄水を注入した後に静置期間をとることで界面活性剤が油汚染土壌中に浸透し、いわゆる漬け置き洗いの効果が発揮されて油汚染土壌の洗浄効果が向上することを見出し、なされたものである。
【0010】
すなわち、上記目的を達成するための請求項1に記載の発明は、油汚染土壌の原位置浄化方法であって、
油汚染土壌に界面活性剤を含む洗浄水を注入する注入工程と、前記洗浄水を前記油汚染土壌に浸透させるために十分な時間静置する静置工程と、前記静置工程後に前記油汚染土壌から剥離された油を前記洗浄水ごと揚水回収する回収工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、注入工程後に静置工程を経ることで油汚染土壌中に界面活性剤を浸透させることができ、その結果、いわゆる漬け置き洗いの効果が発揮され、従来よりも油汚染土壌の洗浄効果を向上させることができる。
【0012】
また、本発明の油汚染土壌の原位置浄化方法は、前記静置工程の静置時間が6時間以上48時間以下であることが好ましい。
【0013】
さらに、本発明の油汚染土壌の原位置浄化方法は、前記注入工程において、前記界面活性剤の濃度が、油汚染土壌および前記界面活性剤を含む洗浄水の総質量に対して0.2質量%以上2.0質量%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、注入工程後に静置工程を経ることで油汚染土壌中に界面活性剤を浸透させることができ、その結果、いわゆる漬け置き洗いの効果が発揮され、従来よりも油汚染土壌の洗浄効果を向上させることができる。
【0015】
したがって、従来の原位置での洗浄処理と比較して、土壌への界面活性剤を含む洗浄水の注入量およびその揚水回収量を削減することができ、さらに、界面活性剤の使用量の削減効果、または界面活性剤の使用量を従来と同量とした場合にはより高い油汚染土壌の浄化効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の油汚染土壌の原位置浄化方法のフローチャートである。
【
図2】(A)本発明の油汚染土壌の原位置浄化方法を適用する土壌の平面図であり、(B)本発明の油汚染土壌の原位置浄化方法の注入工程の説明図であって、同図(A)のII
B-II
B線断面図である。
【
図3】(A)本発明の油汚染土壌の原位置浄化方法の静置工程の説明図であり、(B)本発明の油汚染土壌の原位置浄化方法の回収工程の説明図であって、
図2(A)のIII
B-III
B線断面に対応する図である。
【
図4】(A)実施例で用いた土壌を充填したカラムの縦断面図であり、(B)このカラムに界面活性剤を含む洗浄水や蒸留水を注入するための注射器が接続された試験装置の縦断面図である。
【
図5】本発明の油汚染土壌の原位置浄化方法による油汚染土壌の浄化効果を比較した棒グラフであり、縦軸は土壌中の油の残存率(%)を示し、横軸は区分(サンプル毎の処理条件の違い)を示す。
【
図6】従来の油汚染土壌の原位置浄化方法を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の油汚染土壌の原位置浄化方法のフローチャートである。図示のように、本発明の油汚染土壌の原位置浄化方法は、注入工程(S100)と、静置工程(S110)と、回収工程(S120)と、を有する。
【0018】
油汚染土壌とは、鉱油類を含む土壌であり、土壌中への鉱油類の含有量に特に規定は無いが、目安として乾燥土壌重量中の油濃度が1000(mg-油/kg-土壌)以上、好ましくは2000(mg-油/kg-土壌)以上、特に3000(mg-油/kg-土壌)以上含まれる土壌である。土壌中の油濃度の測定については、実施例の<3.処理後の土壌中の油の濃度の分析・評価>の項目で述べる。
【0019】
また、本発明の油汚染土壌の原位置浄化方法は、基本的に土壌の帯水層に対してのみ実施可能である。
【0020】
[注入工程(S100)]
本工程では、油汚染土壌に界面活性剤を含む洗浄水を注入する。
【0021】
界面活性剤は、非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、または両性界面活性剤を使用することができる。
【0022】
非イオン界面活性剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルおよびショ糖脂肪酸エステルなどの、多価アルコールと脂肪酸がエステル結合したエステル型の非イオン界面活性剤;高級アルコールやアルキルフェノールなど水酸基を持つ原料に、主として酸化エチレンを付加させてつくられるエーテル型の非イオン界面活性剤;グリセリンやソルビトールなどの多価アルコールと脂肪酸とからなるエステルに酸化エチレンを付加した、分子中にエステル結合とエーテル結合の両方を有するエステル・エーテル型の非イオン界面活性剤;疎水基と親水基がアミド結合で結合した脂肪酸アルカノールアミド型や糖と高級アルコールがグリコシド結合したアルキルグリコシドなどのその他の非イオン界面活性剤が挙げられる。
【0023】
上記エーテル型の非イオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールなどが挙げられる。
【0024】
アニオン界面活性剤としては、石けんなどのカルボン酸塩;直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)、α-スルホ脂肪酸メチルエステル塩(MES)、α-オレフィンスルホン酸塩(AOS)、スルホこはく酸塩などのスルホン酸塩;アルキル硫酸エステル塩(AS)、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩(AES)などの硫酸エステル塩;高級アルコールやその酸化エチレン付加物などのリン酸エステル塩;アシル-N-メチルタウリン酸などのアミノ酸型のアニオン界面活性剤が挙げられる。
【0025】
両性界面活性剤としては、ラウリルベタイン、ステアリルベタインなどのベタイン型の両性界面活性剤;ラウリルアジメチルアミンオキサイドなどのアミノ酸型の両性界面活性剤が挙げられる。
【0026】
中でも、界面活性剤が非イオン界面活性剤であることが好ましく、特にポリオキシエチレンアルキルエーテルを主成分とする非イオン界面活性剤であることが好ましい。
【0027】
界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテルを主成分とする非イオン界面活性剤を使用する場合、そのHLB値の範囲は7以上18以下の範囲であり、好ましくは8以上15以下の範囲であり、特に好ましくは10以上13以下の範囲である。
【0028】
界面活性剤は適宜に蒸留水などの溶媒で希釈し、界面活性剤を含む洗浄水を得る。界面活性剤を含む洗浄水中の界面活性剤の濃度は、後述する目標とする土壌中の界面活性剤濃度から逆算して決定されるが、目安としては1質量%以上20質量%以下であり、3質量%以上15質量%以下であることが好ましく、4質量%以上10質量%以下であることが特に好ましい。
【0029】
図2(A)は本発明の油汚染土壌の原位置浄化方法を適用する土壌の平面図であり、同図(B)は本発明の油汚染土壌の原位置浄化方法の注入工程の説明図であって、同図(A)のII
B-II
B線断面図である。
【0030】
図示のように、油汚染土壌2aへの界面活性剤を含む洗浄水3の注入は、油汚染土壌2aの範囲に洗浄水3が行き渡るように、土壌2に対して平面視で適当な間隔をおいて注入井戸1を設け、この注入井戸1に洗浄水3を注入することにより行われる。注入井戸1は、汚染範囲に均等に界面活性剤を含む洗浄水3を注入できるように、図示のように小さい井戸を密にたくさん設けることが好ましい。一方、回収井戸4はある程度間隔を空けて揚水能力の大きい井戸を設けることができる。
【0031】
この注入工程において、好ましくは、界面活性剤の濃度は、油汚染土壌および界面活性剤を含む洗浄水の総質量に対して0.2質量%以上2.0質量%以下、特に0.5質量%以上1.5質量%以下である。
【0032】
したがって、界面活性剤を含む洗浄水を浸透させる油汚染土壌の範囲の土壌重量を予め計算し、そこから逆算して界面活性剤を蒸留水などで希釈し、界面活性剤を含む洗浄水を調製することとなる。
【0033】
上記計算した添加量で界面活性剤を含む洗浄水を油汚染土壌に注入した時点で、本工程は終了する(以上、注入工程(S100))。
【0034】
[静置工程(S110)]
本工程では、界面活性剤を含む洗浄水を油汚染土壌に浸透させるために十分な時間静置する。
【0035】
図3(A)は本発明の油汚染土壌の原位置浄化方法の静置工程の説明図である。なお、同図において、注入井戸1の記載は省略する。
【0036】
静置時間をとることで、同図に示すように、土壌中に注入された界面活性剤を含む洗浄水3が油汚染土壌中に浸透し、さらにはその浸透した状態で静置時間をおくことで界面活性剤による乳化・分散作用が促進される。
【0037】
本工程の静置時間は、例えば2時間以上であり、好ましくは4時間以上48時間以下であり、より好ましくは6時間以上48時間以下であり、特に12時間以上48時間以下である。
【0038】
このように静置期間をとることで、洗浄液3中の界面活性剤が油汚染土壌中に浸透し、静置期間中にその浸透した状態でさらに油汚染土壌中の油と水との乳化が促進され、さらに土壌中の疎水性粒子を洗浄水3中に分散させることができる。(以上、静置工程(S110))。
【0039】
[回収工程(S120)]
本工程では、静置工程後に油汚染土壌から剥離された油を界面活性剤を含む洗浄水ごと揚水回収する。
【0040】
図3(B)は本発明の油汚染土壌の原位置浄化方法の回収工程の説明図であって、
図2(A)のIII
B-III
B線断面に対応する図である。
【0041】
図2(A)に示すように、土壌には回収井戸4が所定間隔をおいて配置されており、
図3(B)に示すように、この回収井戸4から油汚染土壌から剥離された油および界面活性剤を含む洗浄水3を揚水回収する。
【0042】
揚水回収された油と洗浄水3との乳化液は、化学的処理または物理的処理により油水分離され、分離後の水相部分については例えば活性炭に通水後に再利用または下水放流され、油相部分については回収後場外処分(焼却等)により処理される。
【0043】
したがって、本発明によれば、注入工程後に静置工程を経ることで油汚染土壌中に界面活性剤を浸透させることができ、その結果、いわゆる漬け置き洗いの効果が発揮され、従来よりも油汚染土壌の洗浄効果を向上させることができる。さらに、静置工程で油汚染土壌中に界面活性剤を浸透させるので、界面活性剤を従来よりも高濃度且つ少量の洗浄水として注入することができ、注入井戸からの注水量が減少し、施工コストを削減することができる。
【0044】
また、界面活性剤の使用量の削減による材料コストの低下も期待でき、界面活性剤の使用量を従来と同量とした場合にはより高い油汚染土壌の浄化効果を得ることができる。
【実施例0045】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0046】
<1.模擬汚染土壌と試験用カラムの調製>
市販の川砂をバットに拡げて3~7日程度、含水率が1%以下となるまで風乾し、2mm篩下物を試験に使用した。土壌数百グラムに対し、土壌とA重油の合計重量あたりの油濃度が5000mg/kgとなるようにA重油を添加・混合し、模擬の油含有土壌を調製した。
【0047】
図4(A)は実施例で用いた土壌を充填したカラムの縦断面図であり、同図(B)はこのカラムに界面活性剤を含む洗浄水や蒸留水を注入するための注射器が接続された試験装置の縦断面図である。同図(A)に示すように、カラム12(市販の注射器のシリンジ)の先端14(注射針取付部)にグラスウールを詰め、上記のようにして得られた模擬の油含有土壌18を60g取り、体積36mLとなるようにカラム12中に充填した。同じ試験用カラムを全部で6個調製した。
【0048】
この油含有土壌18を充填した各カラム12を、先端14を下側に向けて図示しないスタンドでそれぞれ固定し、カラム12の上部は、中央に管を差し込んだシリコン製のゴム栓16で栓をした。
【0049】
<2.界面活性剤を含む洗浄水の注入、洗浄処理>
図4(B)に示すように、カラム12の先端14に別の注射器20を接続した。6個の試験用カラム中、4個の試験用カラムに接続した注射器20のシリンジ20aには、それぞれ界面活性剤(HLB値を12に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル)を蒸留水で希釈し、界面活性剤の濃度が6質量%となるように調整した溶液X(ここでは、界面活性剤を含む洗浄水である)が充填されていた。一方、1個の試験用カラムに接続した注射器20のシリンジ20aには、溶液Xとして蒸留水が充填されていた。
【0050】
次に、各試験用カラムについて、プランジャ20bを
図4(B)の上方へと押し込み、カラム中の土壌全体がこの溶液Xに満たされる量(以下、間隙水量ともいう)となるまで注入した。本試験において、間隙水量は12mLであった。このときの土壌への界面活性剤の添加率は1質量%であり、以下のように計算される。
【0051】
界面活性剤の添加率:(界面活性剤の質量%濃度/100×界面活性剤を含む洗浄水の添加量)÷土壌および水の重量=(6/100×12g)÷(60g+12g)=0.01 ⇒ 1質量%
(なお、洗浄水の比重を1として計算した。)
なお、溶液Xが蒸留水であるものについては、界面活性剤の添加率は0質量%である。
【0052】
次に、4(B)の溶液Xを蒸留水に交換し、4個の試験用カラムに対してそれぞれプランジャ20bを
図4(B)の上方へと押し込み、間隙水量(12mL)の4倍量となる48mLの溶液X、すなわち、蒸留水をカラム12内部に導入し、カラム内部の土壌を洗浄した。このとき、カラム内部の洗浄を、上記溶液X(界面活性剤を含む洗浄液)の注入直後(0時間)、6時間後、24時間後、および48時間後に行ったものの4区分に分け、それぞれ、区分2、区分3、区分4、区分5とした。
【0053】
さらに、残る1個の試験用カラムに接続した注射器20のシリンジ20aには、試験用カラムに接続した注射器20のシリンジ20aに、界面活性剤(HLB値を12に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル)を蒸留水で界面活性剤の濃度が1.2質量%となるように調整した溶液X(ここでは、界面活性剤を含む洗浄水である)が充填されていた。この試験用カラムについて、プランジャ20bを
図4(B)の上方へと押し込み、間隙水量(12mL)の5倍量、すなわち、60mLの溶液Xをカラム中に通水し、洗浄を行った。このときの土壌への界面活性剤の添加率は1質量%であり、以下のように計算される。
【0054】
界面活性剤の添加率:(界面活性剤の質量%濃度/100×界面活性剤を含む洗浄水の添加量)÷土壌および水の重量=(12/100×60g)÷(60g+12g)=0.01 ⇒ 1質量%
(なお、洗浄水の比重を1として計算した。)
その後、蒸留水による洗浄は行わなかった。この区分を区分1とした。
【0055】
上記区分1~5の試験用カラムから土壌を回収した。また、溶液Xとして界面活性剤を含む洗浄水を一度も通水しなかった試験用カラムからも土壌を回収し、これを対照試料とした。
【0056】
<3.処理後の土壌中の油の濃度の分析・評価>
回収した土壌中に残存する油の濃度(TPH:全石油系炭化水素:Total Petroleum Hydrocarbon)について、中央環境審議会土壌農薬部会土壌汚染技術基準等専門委員会著、油汚染対策ガイドライン、2006年3月出版、第二編第二部第1章資料3「GC-FID法によるTPH試験法」の「2.溶媒抽出GC-FID法による土壌中のTPHの定量方法」の第14頁の「土壌のTPH試験法フロー」により土壌試料を調製した。
【0057】
具体的には、回収した土壌試料10g程度を共栓付き三角フラスコに分取し、無水硫酸ナトリウム30gを混合して脱水した。二硫化炭素30mlを加えボルテックスミキサーで3分間または振とう機で3分間振とう抽出後、2時間静置した。この操作を3回繰り返した後(2回目以降の静置時間は1時間)、抽出液を正確に100mlに定容した。最後に抽出液を孔径0.45μmのメンブランフィルターでろ過した溶液を、GC-FID(水素炎イオン化検出器付きガスクロマトグラフ)に導入した。
【0058】
GC-FIDで得られた試料面積を、予め作成した検量線に当てはめ(上記「2.溶媒抽出GC-FID法による土壌中のTPHの定量方法」の2.5.2(3)参照)、試料抽出溶液中のTPH(全石油系炭化水素:Total Petroleum Hydrocarbon)濃度を求め、次の式(I)により土壌中の油分を求めた。計算は有効桁数3桁で行った後、2桁に丸めて報告するものとする。なお、分析値は炭素範囲n-C6H14~n-C44H90の結果である。
【0059】
【0060】
(式(I)中、Csは土壌中TPH濃度[μg/g]を示し、Asは抽出溶液中のTPH濃度[μg/ml]を示し、Vtは抽出溶媒量[ml]を示し、Wsは抽出した試料の重量[g]を示し、Swは含水率[%]を示す。)
図5は本発明の油汚染土壌の原位置浄化方法による油汚染土壌の浄化効果を比較した棒グラフであり、縦軸は土壌中の油の残存率(%)を示し、横軸は区分、すなわち、サンプル毎の処理条件の違いを示す。具体的には、下記式(II)のように、洗浄後の区分1~5の土壌中油の残存率を、対照試料の土壌中の油濃度を100とした時の百分率(下記式参照)で示す。
【0061】
洗浄後の区分1~5の土壌中油の残存率(%)=油e/油b×100 (II)
(式(II)中、油eは区分1~5の洗浄後の土壌中TPH濃度であり、油bは対照試料の土壌中TPH濃度である。)
結果としては、界面活性剤を通水量全体に希薄に溶かして土壌洗浄した区分1と、一旦高濃度で界面活性剤を注入した直後に蒸留水を通水した区分2との間には土壌中油の残存率に大きな差はなかったが、一定の「漬け置き洗い」時間を設ける区分3~5では洗浄後の土壌中油の残存率が大きく低下していた。
【0062】
そして、区分1と区分3~5との比較から、界面活性剤の添加量を同じにした場合、界面活性剤の注入井戸と回収井戸との間で常に洗浄水を動かし続ける従来技術の洗浄処理よりも一旦高濃度で界面活性剤を注入した後に静置して一定の「漬け置き洗い」時間を設ける本発明の洗浄処理の方が土壌の洗浄効果が高いことがわかった。