(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023030788
(43)【公開日】2023-03-08
(54)【発明の名称】移動体の燃費向上方法、移動体および燃費向上分を実施報酬額とする方法
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20230301BHJP
【FI】
C09D201/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021136111
(22)【出願日】2021-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】514007966
【氏名又は名称】合資会社GS工事
(74)【代理人】
【識別番号】100181940
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 禎浩
(72)【発明者】
【氏名】成田 明
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038KA21
4J038MA04
4J038PB07
(57)【要約】
【課題】 移動体の燃費向上方法を提供する。
【解決手段】 弾力性を有する中空ビーズを含む塗料を移動と空調の稼働のためのエネルギーの系統を同じくする移動体のルーフ部の外面に塗布して断熱性の塗布膜を形成し、前記移動体起動時に前記空調の負荷を低減することで前記エネルギーの使用量を低減する移動体の燃費向上方法を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動と空調の稼働のためのエネルギーの系統を同じくする移動体の燃費向上方法であって、弾力性を有する中空ビーズを含む塗料を前記移動体のルーフ部の外面に塗布して断熱性の塗布膜を形成し、前記移動体起動時に前記空調の負荷を低減することで前記エネルギーの使用量を低減する移動体の燃費向上方法。
【請求項2】
移動と空調の稼働のためのエネルギーの系統を同じくする移動体の燃費向上方法であって、弾力性を有する第1の中空ビーズと前記第1の中空ビーズの素材より硬質な素材である第2の中空ビーズを含む塗料を前記移動体のルーフ部の外面に塗布して断熱性の塗布膜を形成し、前記移動体起動時に前記空調の負荷を低減することで前記エネルギーの使用量を低減する移動体の燃費向上方法。
【請求項3】
移動と空調の稼働のためのエネルギーの系統を同じくする移動体の燃費向上方法であって、弾力性を有する中空ビーズを含む塗料を前記移動体の外装装飾前の所定のボディ面に塗布し、断熱性の塗膜層を形成することで、前記移動体起動時に前記空調の負荷を低減することで前記エネルギーの使用量を低減する移動体の燃費向上方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の移動体の燃費向上方法が適用された移動体。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の移動体の燃費向上方法適用前の燃費に係る情報(少なくともエネルギーの使用量と移動体の移動距離を含む情報)と前記方法適用後の燃費に係る情報を取得し、それらの差分から燃費向上分を導き出し、前記燃費向上分に応じた金額を前記方法の実施報酬額とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体の燃費向上方法、移動体および燃費向上分を実施報酬額とする方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題やエネルギー問題から、様々な分野で省エネルギー化(省エネ)の取組みがなされている。その中でも、建築物の屋根や壁の断熱は、事後的にできる省エネとして広く取り組まれるようになってきた。このような省エネ技術の一つとして、断熱塗装が挙げられる。
【0003】
一方、自動車等の移動体に対する事後的な省エネは、通常、車内へのサンシェード設置等にとどまり、建築物に比べて進んでいない。また、自動車の製造段階における省エネに関しても、ドアガラス等の遮熱ガラスやルーフの内部の断熱材が挿入される程度である。これらの省エネは、車内空間にできるだけ熱が入らないようにするものであるが、真夏の日差しの中では、効果が十分ではなく、空調がフル稼働しているのが現状である。
【0004】
また、移動体は、移動するものであるため、庇のようなものの設置には限界がある。また、移動体は、外観デザインが重視される場合が多いため、外観に影響を与え得る省エネはほとんど行われていない。すなわち、移動体への事後的な断熱塗装によって移動体の省エネ(燃費向上)を実現する発想がない。
【0005】
ここで、省エネ技術の一つである断熱塗装の具体例としては、アルミノ珪酸ソーダガラスと、顔料と、樹脂エマルジョンと、分散剤と、粘着剤とを含んでなる塗布式断熱材であって、該アルミノ珪酸ソーダガラスが、中空ビーズ構造であると共に粒径が10~50μmであり、かつその含有量が該断熱材の全重量の10~20重量%であることを特徴とする塗布式断熱材(特許文献1)が挙げられる。
【0006】
しかしながら、中空ビーズとしてセラミック系中空粒子のみからなる断熱塗膜はひび割れしやすい等の問題があった。
【0007】
また、自動車等、多くの移動体は、上記省エネや衝突時の衝撃緩和のためボディの軽量化、薄化が進んでいる。このため、ボディ等は、衝撃吸収のため、たわみ易く、このような面に、上記塗料を塗布すると、塗膜にひび割れ等がより発生しやすいため、移動体の塗装に適さない問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
解決しようとする課題は、移動体の燃費向上を目指す方法等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、移動と空調の稼働のためのエネルギーの系統を同じくする移動体の燃費向上方法であって、弾力性を有する中空ビーズを含む塗料を前記移動体のルーフ部の外面に塗布して断熱性の塗布膜を形成し、前記移動体起動時に前記空調の負荷を低減することで前記エネルギーの使用量を低減する移動体の燃費向上方法である、また、第2の発明は、移動と空調の稼働のためのエネルギーの系統を同じくする移動体の燃費向上方法であって、弾力性を有する第1の中空ビーズと前記第1の中空ビーズの素材より硬質な素材である第2の中空ビーズを含む塗料を前記移動体のルーフ部の外面に塗布して断熱性の塗布膜を形成し、前記移動体起動時に前記空調の負荷を低減することで前記エネルギーの使用量を低減する移動体の燃費向上方法である。また、第3の発明は、移動と空調の稼働のためのエネルギーの系統を同じくする移動体の燃費向上方法であって、弾力性を有する中空ビーズを含む塗料を前記移動体の外装装飾前の所定のボディ面に塗布し、断熱性の塗膜層を形成することで、前記移動体起動時に前記空調の負荷を低減することで前記エネルギーの使用量を低減する移動体の燃費向上方法である。また、第4の発明は、第1~3の発明のいずれかの移動体の燃費向上方法が適用された移動体である。また、5の発明は、第1~3の発明のいずれかの移動体の燃費向上方法適用前の燃費に係る情報(少なくともエネルギーの使用量と移動体の移動距離を含む情報)と前記方法適用後の燃費に係る情報を取得し、それらの差分から燃費向上分を導き出し、前記燃費向上分に応じた金額を前記方法の実施報酬額とする方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、移動体の塗装に適した弾力性を有する中空ビーズを含む塗料によって、移動体のルーフ部の外面に断熱性の塗布膜を形成することで輻射熱等の影響を低減し、これにより空調の負荷を低減することで、空調と稼働のためのエネルギーの系統を同じくする移動体の燃費向上等が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図4】ルーフ部に形成された塗布膜を示す図である。
【
図5】塗装後の自動車外観(左)とそのサーモグラフィー(右)である。
【
図6】塗装有無の自動車外観(左(左が塗装無、右が塗装有))とそのサーモグラフィー(右)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をその実施形態に基づき詳細に説明する。
【0014】
<用語>
本発明における移動体とは、ガソリン、軽油、重油、エタノール等を燃料とするエンジン、または、2次電池、燃料電池等の電気エネルギーによるモータで移動し、かつ、それらと同一のエネルギーの系統で空調を稼働させる機能を有すものを意味する。具体的には、空調を備えるバス、トラック、乗用車等の自動車、汽車、電車等の鉄道車両、飛行機、船舶が、移動体の例として挙げられる。
【0015】
本発明における燃費とは、消費エネルギーの量(言い換えると、燃料等のエネルギー源の消費量)に対する移動距離を意味する。従って、本発明における移動体の燃費向上とは、本発明に係る燃費向上方法の適用前後において、消費エネルギー量に対する移動距離が長くなることを意味する。
【0016】
本発明における移動と空調の稼働のためのエネルギーとは、移動体の走行のための動力に供されるエネルギーおよび冷房・暖房の熱源(冷媒を循環させるための圧縮機の稼働や熱の直接または間接的な利用のためのヒーター等の稼働)に供されるエネルギーである。また、ガソリン、軽油等の従来的な燃料に由来するエネルギーだけでなく、電気等に由来するエネルギーでもよい。そして、本発明における移動体は、同一系統からのエネルギーで移動と空調を行うものであればよい。これは、移動に係る内燃機関、電動機等のエネルギーと空調に係る圧縮機のエネルギーの系統が一部でもつながっている(分離独立した系ではない)移動体を意味する。
【0017】
このように移動と空調の稼働のためのエネルギーの系統を同じくする移動体は、夏季には、輻射熱等の影響により移動体内の温度が上昇し、冬季には放射冷却によって移動体内の温度が低下し、空調負荷が増大し、結果として、燃費が低下する等の問題が起こる。本発明は、そのような移動体を対象とするものである。
【0018】
本発明における中空ビーズとは、ビーズ内部に空隙、空間を有する粒子のことであり、ビーズ内外で空気が遮断された閉系、多孔構造やドーナツ構造等、ビーズ内外が通じた開放系のいずれであってもよい。
【0019】
<本発明の概念>
図1は、本発明に係る移動体および塗布膜の概念図である。
図1では、移動体1のルーフ部1aの外気と接触する外面に塗料が塗られ、断熱性の塗布膜2が形成されている。ルーフ部1aの外面は、空調領域3の上部に位置し、輻射熱等の外的要因を空調領域3に伝えやすい箇所である。この部分に断熱性の塗布膜2が形成されることで、夏季には、空調領域3の温度上昇が抑制される(
図2)。
【0020】
図2は、塗布膜2の形成箇所の拡大概念図である。移動体1のルーフ部1aの外面に断熱性の塗布膜2が形成される。塗布膜2は、塗膜形成材4、弾力性を有する軟質の中空ビーズ5、硬質の中空ビーズ6からなる(詳細は後述)。この塗布膜2が輻射熱7の影響を低減し、移動体1内部の空調領域3の温度上昇を抑制する。塗布膜2は、ルーフ部1aの外面の他に、移動体1の前面、背面、側面等に形成されてもよい。また、冬季には、塗布膜2が、放射冷却の影響を低減して、空調領域3から熱が逃げることを防ぎ、移動体1内部の空調領域3の温度降下を抑制する。
【0021】
<移動体>
本実施形態に係る移動体1は、ガソリン車である。
図1が示すように、自動車のエネルギー源(ガソリン貯蔵部)、エンジン、圧縮機は、エネルギー系統としてつながっている。ガソリン車の場合、ガソリンは燃焼に供され、エンジンを稼働させ、エンジンが空調の圧縮機を稼働させる。例えば、内燃機関であるエンジンを動力源として、空調のコンプレッサが稼働する。このように、燃料であるガソリンが、移動だけでなく、車内の空調にも利用される。このようなエネルギー系統を有する移動体が本発明に係る方法の対象である。また、エネルギー源は、一つに限られる必要はなく、併用されるものでもよいし、エネルギーが全部または一部変換(例えば、動力が電気に変換)されるものであってもよい。また、移動と空調の稼働のためのエネルギーの系統を同じくする一例として、エンジンに接続する発電機により発電された電力が、バッテリーに充電され、発電機またはバッテリーからの電力で、空調のコンプレッサが稼働するものが挙げられる。
【0022】
ガソリン車以外の例としては、電気自動車、水素自動車、燃料電池車、ハイブリット車等が挙げられる。例えば、電気自動車では、移動に関しては、バッテリーから受け取られた電気が移動の動力として使用されるとともに、空調に関しては、バッテリーから受け取られた電気が冷媒の循環のための動力(PTCヒーターによる暖房の場合はヒーターの通電、燃焼式ヒーターの場合は電気の代わりに化石燃料の燃焼)に使用される。この場合、空調に使用される電気と、移動に使用される電気の系統がつながっている移動体が本発明に係る方法の対象である。水素自動車や燃料電池車においても、水素の燃焼や水素と酸素の化学反応で得られた電気が移動だけでなく、空調にも使用される移動体が本発明に係る方法の対象である。ハイブリッド車においても同様である。すなわち、空調に使用される動力または熱源がガソリン燃焼による移動体だけでなく、走行時の発電によって得られる電気が使用される移動体も、エネルギー系統がつながっているため、本発明に係る方法の対象である。このように、エネルギー源と、移動に関わる動力変換機構(エンジン等)と、空調に関わる動力変換機構(圧縮機等)または熱源がエネルギー系統としてつながっている移動体が本発明に係る方法の対象である。
【0023】
<塗料>
図3は、本実施形態に係る塗料によって掲載された塗布膜2の拡大画像である。
図3は、弾力性を有する軟質の中空ビーズ5と硬質の中空ビーズ6が混合、隣接した状態を示している。中空ビーズは、複数種類あってもよい。
【0024】
塗膜形成材4として、例えば、アクリルエマルジョン樹脂が挙げられる。塗膜形成材4は、アクリル系以外にウレタン系、シリコン系、フッ素系成分を主成分とする樹脂の塗膜形成材でよい。
【0025】
弾力性を有する軟質の中空ビーズ5の材質として、例えば、アクリル、ポリスチレン、ポリカーボネート等のプラスチック、ゴム等のエラストマが挙げられる。軟質の中空ビーズ5は、塗膜形成材4と同じ素材が好ましく、例えば、塗膜成形材3がアクリルエマルジョン樹脂の場合、アクリル中空ビーズである。
【0026】
硬質の中空ビーズ6は、例えば、セラミック中空ビーズ、ガラス中空ビーズである。セラミック中空ビーズとして、二酸化ケイ素65~73%、酸化アルミニウム12~18%を主成分とする火山灰を原料とするものが挙げられる。
【0027】
軟質の中空ビーズ5と硬質の中空ビーズ6との割合は、重量ベースまたは体積ベースで1対1またはその近傍が好ましい。軟質の中空ビーズ5の割合が高くなると、塗料が乾燥した際、塗装膜の柔軟性が高くなるが、1回の塗布による塗装膜の厚みが十分取れない。すなわち、塗布の回数を増加させる必要がある。一方、硬質の中空ビーズ6の割合が高くなると、塗料が乾燥した際、1回の塗布による塗装膜の厚みが厚くなるが、塗装膜の柔軟性が損なわれる。経年経過を考慮すると、軟質の中空ビーズ2の割合は、体積ベースまたは重量ベースで、50%以上が好ましい。
【0028】
このように性質の異なる素材を複数用いるのは、それぞれの素材が有するビーズ特性(形状や成分から得られる断熱効果、成形効果、防音効果、耐久性能等)を活かすためである。なお、下記の実施例では、中空ビーズは、アクリル中空ビーズおよびセラミック中空ビーズが重量ベースで1対1の割合である。
【0029】
軟質の中空ビーズ5および硬質の中空ビーズ6等の中空ビーズの粒径は、最大粒径を基準として、粒径差として所定の幅(例えば、粒径80μmから50μmの幅)を有することが好ましい。粒径の分布に幅あることで、塗料から水等の溶媒が揮発して塗料膜が形成された際、最大粒径の中空ビーズ同士の間に、小さい粒径の中空ビーズが入り込むことにより、中空ビーズが、より稠密になる。なお、中空ビーズの最大粒径は、中空ビーズのフィルタリングに使用されるフィルタの目の粗さ、メッシュサイズ等により規定されてもよい。
【0030】
中空ビーズは、いずれの成分においても3つ粒径のラインナップ(粒径ラインナップ)からなる。ここで、粒径ラインナップとは、中空ビーズの粒径が意図する複数の粒径構成になっていることを意味するものである。本実施例では、各素材の中空ビーズの粒径は、粒径80μm、60μm、50μmに中空率(粒径ごとの中空部分の体積の総和が塗膜中に占める割合)のピークを有し、重量比は5対3対2である(製造過程で生じた微細なビーズも含まれる)。
【0031】
本実施例では、80μmの中空ビーズが体積、重量ともに最大である。また、各粒径の中空ビーズの膜厚は約1μmから数μmであり、一般的にビーズ内の中空部分の体積は、ビーズの80%以上である。
【0032】
中空ビーズの粒径分布の確認方法は様々である。例えば、
図3の拡大画像の中空ビーズの面積から相当する粒子径を測定する方法がある。また、個々の粒子の体積を計測して相当する粒径を測定するコールター法、その他、いわゆる遠心沈降法、レーザ回折・散乱法等がある。なお、中空ビーズは非常に微細であることから、正確な粒径の中空ビーズの製造は技術的に困難である。そのため、製造誤差を前提に粒径分布が確認されるべきである。例えば、80μmから±5μmの範囲の粒径の中空ビーズを80μmの粒径の中空ビーズとしてカウントされる方法が挙げられる。
【0033】
また、軟質の中空ビーズ5および硬質の中空ビーズ6等の中空ビーズの形状は、
図3に示すように、球形状が好ましいが、球形状でなくてもよい。中空ビーズが、破片のような歪な形で、球形でない場合の粒径は、中空ビーズの最大幅と最小幅の平均、中空ビーズの最大幅、または、中空ビーズの最小幅でもよい。
【0034】
<コーティング剤>
メタノール(90重量%以上)、水(4重量%以上)、酸化スズ(SnO2)(0.1重量%)の混合物が主な塗膜コーティング剤である。コーティング剤は、特開2019-002671号公報に記載の親水コートまたはこれに準じたものでよい。ただし、必ずしも必要なものではない。
【0035】
コーティング剤は、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ等の光触媒等、断熱以外の効果を目的とした成分を含んでもよい。この場合、塗膜は断熱のための下層部と別の機能を有する上層部の多機能構造となる。例えば、コーティング剤中の酸化チタン等の光触媒はその親水性と光触媒反応によって塗装表面を清浄にする。
【0036】
(実施例1)
本発明に係る方法の塗膜形成と断熱効果の評価について以下、説明する。本実施例では、運送事業者の自動車(乗用車およびバス)が評価対象である。
【0037】
塗布は、対象設備の表面の汚れを高圧水洗で取り除く工程、ローラー刷毛で塗料を膜厚約300~400μm(乾燥時)とする工程からなる。塗布方法は限定されるものではない。例えば吹き付けによるものが挙げられる。上記のローラー刷毛により1回目の塗布で約200μm(乾燥時)、2回目の塗布で約400μm(乾燥時)の膜厚が形成された。この膜厚の状態は、1年経過後もほぼ変化がなかった。
【0038】
図4は、ルーフ部に塗布膜2が形成された様子を示すものである(バスについては省略)。点線で囲まれた部分が塗布膜2の形成部である。塗布膜2は、いずれの自動車においても、ルーフの水平面、傾斜面ともに、所定の厚さであることが確認された。また、この塗布膜2は様々な走行条件(各種天候、道の状態、移動速度)における走行試験によっても、塗布膜の亀裂や割れ等の異常は認められなかった。
【0039】
図5は、塗装後の自動車外観(左)と当該自動車の赤外線サーモグラフィー(右)である。これらの図は、屋外に一定時間放置された自動車についてのものである。断熱塗膜が形成されたルーフ部の温度は35~40℃、一方、ボンネット部は55~60℃である。塗膜形成部とその他の部分で約20℃の温度差が確認された。バスに関しても同様である。また、走行後の自動車についても同様の傾向であった。
【0040】
図6は、塗装有無の自動車外観(左(左が塗装無、右が塗装有))とそのサーモグラフィー(右)である。これらの図も、屋外に一定時間放置された自動車についてのものである。自動車のルーフ部以外の温度はいずれも約50℃で同程度であった。一方、ルーフ部の温度は、塗装無が約50℃なのに対し、塗装有は30~35℃であった。観測条件によって表面温度は異なるが、塗装の有無で約20℃の温度差が確認された。バスに関しても同様である。また、走行後の自動車についても同様の傾向であった。
【0041】
これらの塗装の有無、塗装の前後における車内温度の上昇率および最高温度は、全ての自動車において。塗装無>塗装有、塗装前>塗装後、であった。すなわち、塗装無、塗装前の車内温度は、塗装有、塗装後に比べて急激に上昇し、その最高温度も高いことが確認された。
【0042】
また、自動車の走行等によってルーフ部には一定の振動等が起こる。これによりルーフ部外面に形成された塗布膜2には応力が生じる。この問題について、走行後の塗布膜2の外観および膜内部に異常は確認されなかった。
【0043】
(実施例2)
本発明に係る方法の検証について以下、説明する。
【0044】
本発明に係る方法は、車内空調空間が高温化するのを軽減することが確認された。すなわち、移動体のルーフ部の外面への塗装は、事後的な(例えば、自動車購入後の)処置による燃費向上効果が期待できる。これは、自動車等の移動体における2つの問題を解決するものである。一つ目は、ルーフ部が輻射熱の影響を受け、空調空間の空調負荷が増大することである。二つ目は、ルーフ部が不安定であり、塗布膜形成および維持が難しくなってきたことである。
【0045】
一つ目の問題に対して、駐車時等においては、車庫や庇等が有効であるが、走行時(特に日差しの強い日中の長時間走行)には有効な手立てがなかった。これが本発明に係る方法によって、空調空間の温度上昇を20℃以上低下できることが確認された。空調負荷の軽減は、空調に係る動力源の消費を抑制し、燃費を向上させることが示唆された。
【0046】
建築物のエアコン電力削減試験からも上記の示唆が得られている。建築物のエアコン電力削減試験とは、上記塗料によって断熱化された建築物の屋根等がエアコンの電力量をどの程度削減するかの確認試験である。この試験では、乗員数数や走行状態等の変動要因が多い自動車試験に比べ、より精密な評価が可能である。この試験結果は、塗料使用前後で年間平均約17%の電力削減量であった。
【0047】
二つ目の問題に対して、近年、用いられることが多くなったセラミック塗料の適用が考えられるが、セラミックのような硬質素材の中空ビーズでは、亀裂やひび割れてしまうことが多いことがわかっている。移動に伴ってルーフ部が振動し、塗布膜に応力が生じる環境において、セラミック塗料は、中空ビーズの密度が大きいとより割れが発生しやすいという問題があり、密度が小さいと断熱性が低下する問題がある。
【0048】
本発明に係る塗料中のビーズ(硬質素材のセラミック中空ビーズおよび軟質素材のアクリル中空ビーズ)の割れはほとんど認められなかった。これはアクリル中空ビーズの弾性によるものと考えられる。すなわち、弾力性を有する中空ビーズとこれよりも硬質な中空ビーズを含む塗料は、不安定な部材への塗膜形成が期待できる。このように、一方の素材の中空ビーズの応力に耐えることができる素材が選択された塗料によって、ルーフ部への所望の膜厚の形成と維持の両立が可能になることが示唆された。
【0049】
また、本実施例は、外装装飾後のルーフ部外面に塗料が塗布されるものであるが、外装装飾前のルーフ等、移動体1のボディ面への適用も可能であることが示唆された。本実施例とは別の評価によって、自動車のボディ素材やその他、セラミック、金属、プラスチック等に対して塗膜形成が可能であることが確認されている。このように、外装装飾前のボディ部材への塗装は、燃費のよい移動体が完成品として得られることが期待できる。
【0050】
また、本発明に係る燃費向上方法は、中古車等、市場流通後の移動体に対する課金方法に適用し得る。具体的には、本発明に係る燃費向上方法の適用による燃費向上分に応じた金額が当該方法の実施報酬額とされる方法である。ガソリン車であれば、少なくとも、所定の走行距離におけるガソリンの使用量の差(ガソリン購入費用の差)が実施報酬額の基準となる。その他、乗員数、気温等、間接的に燃費に影響を与える要因についても実施報酬額の基準とし得る。このように、燃費向上分に応じた実施報酬額は、本発明に係る方法の提供サービス化および普及につながることが期待できる。
【0051】
(実施例3)
本発明に係る塗料の有用な形態の検証について、以下、説明する。
【0052】
上述のように、中空ビーズとして硬質素材の中空ビーズのみを用いた塗料では、塗膜形成は容易であるものの、塗布膜の亀裂やひび割れの問題があるため、中空ビーズを密にすることができない。一方、本発明に係る塗料のように、硬質素材の中空ビーズと軟質素材の中空ビーズの組み合わせは、互いのビーズが接触するほど密にできることが可能であることが示唆された。
【0053】
ここで、材料の弾性の指標としてヤング率がある。合成樹脂のヤング率は4以下であることが多い。ガラスのヤング率は80、セラミックを形成する二酸化ケイ素、酸化アルミニウム等の無機化合物のヤング率は100以上であると言われている。これらの技術常識と本実施例の結果を踏まえると、少なくともヤング率4以下の軟質素材と、80以上の硬質素材の組み合わせが、密な中空ビーズ層を塗料中に形成し得ることが示唆された。
【0054】
また、本実施例において、塗膜形成材、軟質中空ビーズともに素材はアクリル樹脂である。このような素材の選択は、塗膜の強度に大きく関係する。アクリルの塗膜形成材と、軟質の中空ビーズがアクリルよりもさらに軟質な素材との組み合わせの場合、塗膜全体の強度はさらに低下する。従って、塗膜形成材と軟質中空ビーズの素材を少なくとも同一にする必要がある。
【0055】
さらに、こうした知見からは、アクリルの塗膜形成材と、アクリルよりも硬質な中空ビーズとの組み合わせが塗膜の強度を高めることが示唆された。このように軟質の中空ビーズは塗膜形成材の素材より軟質であってはならないが、硬質であれば塗膜形成材と同じ素材でなくてもよい。例えば、塗膜形成材の素材がアクリルの場合に中空ビーズの素材をウレタンやシリコン等にする場合が挙げられる。
【0056】
また、塗膜形成材としては、アクリル系以外に、ウレタン系、シリコン系、フッ素系でも断熱効果が得られることが確認された。すなわち、合成樹脂全般が本発明に係る塗膜形成材として適用できることが示唆された。ただし、塗膜の成形性においては本発明に係る塗膜形成材にはアクリルが最も優れている。
【0057】
中空ビーズの使用量は、塗膜の厚さやビーズの粒径によって変わるものである。また、
図3に示す中空ビーズの密度レベルは、所望の膜厚形成のための目安となる。
【0058】
また、本実施例において各素材の中空ビーズの粒径は、80μm、60μm、50μmで、重量比は、5対3対2である。
図3が示すように、体積比でも最大粒径の中空ビーズの割合が最も大きい。このように最大粒径の中空ビーズの体積比が最大の場合に、最大の断熱効果となる知見が得られている。
【0059】
本実施例では、主に、最大粒径80μm、最小粒径50μm(粒径差30μm)の中空ビーズが使用された。経験的に、最大粒径は、50~100μmの範囲内にあることが好ましい。最小粒径は、限定されるものではなく、1μm未満でもよい。中空ビーズの密度を高めるのに寄与し得るからである。
【0060】
また、粒径ラインナップは、中空ビーズの密な構造を可能にし、これにより断熱効果を大きくする。また、2つ以上の粒径分布のピークを有する中空ビーズの組み合わせも同様である。そのようなピークは、60μmや50μm、さらに小さくてもよい。例えば、隣接する最大粒径の中空ビーズの隙間を埋める粒径のものでもよい。そのような粒径の中空ビーズは、理論的には、中空ビーズの密な状態を最大化することができる。
【0061】
また、本実施例では、主に80μmから50μmの中空ビーズが使用された。このことから、最低30μmの粒径差の中空ビーズの構成が有用であることが示唆される。粒径は限定されるものではないが、例えば、最大粒径100μm、最小粒径70μmの中空ビーズの構成が挙げられる。また、最小粒径を1μm未満とする中空ビーズから、30μm以上の粒径の中空ビーズの構成でもよい。
【0062】
また、最大粒径(例えば80μm)では、セラミック中空ビーズの割合が大きく、それより小さい粒径(例えば60μmや50μm)ではアクリル中空ビーズの割合が大きいことが膜厚形成に有用であることが示唆される。最大粒径のビーズがセラミックの場合、アクリル中空ビーズは、セラミック中空ビーズ同士が接触しないよう隔てることができる粒径のものでもよい。
【0063】
また、最大粒径のアクリル中空ビーズの割合が大きいほど、断熱に有用であることが示唆される。すなわち、最大粒径の中空ビーズがアクリル中空ビーズであって、このアクリル中空ビーズ同士の隙間を埋める粒径のビーズがセラミック中空ビーズでもよい。さらに、アクリル中空ビーズより硬質なウレタン中空ビーズやシリコン中空ビーズが、アクリル中空ビーズの代替物の例として挙げられる。これらの素材は、セラミック中空ビーズの使用量が少なくても、塗膜の成形を維持する可能性がある。このように、塗膜の成形性を維持と中空ビーズ同士の接触による割れ等の悪影響を回避する粒径と素材の構成であればよい。
【0064】
また、塗料の膜厚は様々な要因によって変化する。例えば、塗装直後と塗料乾燥後では後者の膜厚の方が小さい。これは塗料中の水等が揮発するためである。また、膜厚は温度や湿度等の影響を受けることでも伸縮する。そのため、隣り合う硬質の中空ビーズと軟質の中空ビーズは、塗膜収縮時には、前者が後者を凹状に変形させることが想定される。このような塗膜収縮に係る応力に耐えて、ビーズの中空構造を維持する素材が選択されることが重要である。
【0065】
所望の膜厚形成には塗膜形成材の素材選択も重要である。塗膜形成材の素材と軟質素材の中空ビーズの素材の組み合わせ次第で塗膜の成形性が向上(低下)する。少なくとも、塗膜形成材の素材と軟質素材の中空ビーズの素材が同一であることが塗膜の成形性にとって重要である。このように、塗膜形成材、軟質素材の中空ビーズ、硬質素材の中空ビーズの3つの素材選択(さらには中空ビーズの粒径)が塗膜の性質を左右する。本実施例からは、これらの要因に基づき、所望の特性を有する塗料が得られることが示唆される。
【0066】
その一例として、本実施例では、ルーフ部外面に形成された約400μmの塗膜が、その状態を維持し、断熱効果を発揮した。中空ビーズの充填量がさらに多いもの、また、400μmを超える膜厚のもの(600μmや800μm、それ以上の膜厚)も実現可能である。
【0067】
(実施例4)
本発明に係る方法の他の用途展開について、以下、説明する。
【0068】
他の用途として、防音が挙げられる。本発明に係る塗料の膜厚と評価者に聞こえてくる外部音(機械等からの低周波音や雨音等)の影響についての官能評価によると、膜厚400μm以上で外部音を大きく低減できることがわかっている。移動体の空調領域を取り囲む移動体の部材の表面に、本発明に係る塗料が塗布され、所望の膜厚の塗布膜が形成されることで、空調領域の防音が高まることが示唆される。これは、燃費向上効果とともに実現されるものでもよいし、移動と空調の稼働のためのエネルギーの系統が異なる移動体に対して、防音のみ実現されるものでもよい。
【0069】
また、他の用途として、熱中症の予防が挙げられる。これも、防音効果と同様に、塗料の膜厚が大きくなるほどその効果は大きくなり、輻射熱等による空調領域の温度の上昇を一定程度防ぐことがわかっている。熱中症の予防は、断熱塗料が本来有する効果の一つとして考えられるものであるが、本発明に係る塗料の特性として、ルーフ部のようなたわみ易い面に所望の膜厚の塗布膜形成が可能な点は、一般的な断熱塗料による効果を大きく上回る可能性がある。また、輻射熱等による空調領域の温度上昇(温度勾配や最大温度)は、移動体を構成する部材の材質や厚さ、表面処理等によって異なることが予想される。そうすると、例えば、空調領域の温度勾配が急な移動体に対しては、膜厚を大きくする(600μmや800μm等、400μm以上の膜厚にする)ことで、温度上昇を緩やかにする等、移動体の特性に合わせた熱中症予防対策となることが示唆される。これは、燃費向上効果とともに実現されるものでもよいし、移動と空調の稼働のためのエネルギーの系統が異なる移動体に対して、熱中症予防対策のみ実現されるものでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、自動車、鉄道車両、船舶、飛行機等、様々な移動体の断熱によって燃費向上に利用することができる。また、断熱塗膜中の密な中空ビーズによって移動体の防音にも利用することができる。また、本発明は、夏季に、移動体の空調領域が高温化するのを防ぎ、内部の人の熱中症の予防にも利用することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 移動体
2 塗布膜
3 空調領域
4 塗膜形成材
5 軟質の中空ビーズ
6 硬質の中空ビーズ