(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023030789
(43)【公開日】2023-03-08
(54)【発明の名称】一酸化炭素の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/40 20170101AFI20230301BHJP
C01B 3/02 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
C01B32/40
C01B3/02 H
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021136112
(22)【出願日】2021-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】595177051
【氏名又は名称】中原 勝
(71)【出願人】
【識別番号】521373618
【氏名又は名称】辻野 康夫
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】辻野 康夫
(72)【発明者】
【氏名】中原 勝
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146JA01
4G146JB01
4G146JC02
(57)【要約】
【課題】ギ酸から一酸化炭素を効率良く製造することができる一酸化炭素の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る一酸化炭素の製造方法は、水の存在下において、温度Tが350℃以下、かつ、圧力Pが前記温度Tにおける水の飽和蒸気圧以上の条件下にて、ギ酸を水熱反応によって分解させて一酸化炭素を得るギ酸分解工程を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水の存在下において、温度Tが350℃以下、かつ、圧力Pが前記温度Tにおける水の飽和蒸気圧以上の条件下にて、ギ酸を水熱反応によって分解させて一酸化炭素を得るギ酸分解工程を有する
一酸化炭素の製造方法。
【請求項2】
二酸化炭素と水素とを反応させて前記ギ酸を生成させるギ酸生成工程をさらに有する
請求項1に記載の一酸化炭素の製造方法。
【請求項3】
再生可能エネルギーを利用して、水を電気分解して前記水素を生成させる水素生成工程をさらに有する
請求項2に記載の一酸化炭素の製造方法。
【請求項4】
前記ギ酸分解工程は、前記水及び前記ギ酸を回分式容器に収容し、該回分式容器の内部で前記ギ酸を分解することを含む
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の一酸化炭素の製造方法。
【請求項5】
前記回分式容器は、収容した前記ギ酸と接する内壁面を有し、該内壁面が非金属によって構成されている
請求項4に記載の一酸化炭素の製造方法。
【請求項6】
水の存在下において、温度Tが350℃以下、かつ、圧力Pが前記温度Tにおける水の飽和蒸気圧以上の条件にて、ギ酸を水熱反応にて分解させて一酸化炭素を得るギ酸分解工程を有し、
前記ギ酸分解工程は、前記水及び前記ギ酸を回分式容器に収容し、該回分式容器の内部で前記ギ酸を分解することを含み、
前記ギ酸分解工程では、前記回分式容器の内部の全容積をVTとした場合に、前記回分式容器の内部の全容積VTに占める気相容積VgがVT/2以下となるように、前記水及び前記ギ酸を前記回分式容器に収容する
一酸化炭素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一酸化炭素の製造方法に関し、より詳しくは、水熱条件下でギ酸を分解させて一酸化炭素を得る一酸化炭素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炭化水素であるブタンやナフサに含まれる各種炭化水素を液相にて酸化させることにより、工業的に酢酸を製造する方法が知られている(例えば、下記非特許文献1)。
また、下記非特許文献1には、上記のような酢酸の製造において、ギ酸が副生成物として得られることが記載されている。
さらに、下記非特許文献1には、ペンタエリトリトールの製造においても、ギ酸が副生成物として得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】熊本卓哉、「ギ酸の工業的合成とその利用」、化学と教育、公益社団法人日本化学会、2012年、60巻、8号、p.358-361、インターネット<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/60/8/60_KJ00008195825/_article/-char/ja/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記ギ酸は、生成量に応じた需要が必ずしも十分にある訳ではないことから、一部が廃棄されたりしているものの、一旦生成された化合物を廃棄することは、経済的な観点から好ましくない。
また、一旦生成された化合物を廃棄することは、地球環境負荷を増大させる観点からも好ましくない。
【0005】
ところで、一酸化炭素は、メタノールなどといった各種有機化合物の出発原料として利用され得る。
そのため、ギ酸から一酸化炭素を効率良く製造することができれば、ギ酸を廃棄することなく有効活用することができる。
【0006】
しかしながら、ギ酸から一酸化炭素を効率良く製造する方法について、未だ十分な検討がなされているとは言い難い。
【0007】
上記問題点に鑑み、本発明は、ギ酸から一酸化炭素を効率良く製造することができる一酸化炭素の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意検討したところ、所定の条件下において、水熱反応にてギ酸を分解させることにより、前記ギ酸から一酸化炭素を効率良く製造できることを見出した。
そして、本発明を想到するに至った。
【0009】
本発明に係る一酸化炭素の製造方法は、
水の存在下において、温度Tが350℃以下、かつ、圧力Pが前記温度Tにおける水の飽和蒸気圧以上の条件下にて、ギ酸を水熱反応によって分解させて一酸化炭素を得るギ酸分解工程を有する。
【0010】
斯かる構成によれば、水の存在下において、温度Tが350℃以下、かつ、圧力Pが前記温度Tにおける水の飽和蒸気圧以上の条件下にて、ギ酸を水熱反応によって分解させるので、一酸化炭素をより一層得易くなる。
すなわち、ギ酸から一酸化炭素を効率良く製造することができる。
【0011】
また、上記一酸化炭素の製造方法においては、
二酸化炭素と水素とを反応させて前記ギ酸を生成させるギ酸生成工程をさらに有する、ことが好ましい。
【0012】
斯かる構成によれば、効率良くギ酸を生成させることができる。
【0013】
また、上記一酸化炭素の製造方法においては、
再生可能エネルギーを利用して、水を電気分解して前記水素を生成させる水素生成工程をさらに有する、ことが好ましい。
【0014】
斯かる構成によれば、地球環境負荷が増大することを抑制しつつ、前記ギ酸生成工程において用いられる前記水素を得ることができる。
【0015】
また、上記一酸化炭素の製造方法においては、
前記ギ酸分解工程は、前記ギ酸を回分式容器に収容し、該回分式容器の内部で前記ギ酸を分解することを含む、ことが好ましい。
【0016】
斯かる構成によれば、前記回分式容器の内部で前記ギ酸を分解するので、前記ギ酸分解工程における圧力を比較的維持し易い。
これにより、ギ酸から一酸化炭素をより一層効率良く製造することができる。
【0017】
また、上記一酸化炭素の製造方法においては、
前記回分式容器は、収容した前記ギ酸と接する内壁面を有し、該内壁面が非金属によって構成されている、ことが好ましい。
【0018】
斯かる構成によれば、前記ギ酸が前記回分式容器の内壁面に吸着されることを比較的抑制することができる。
これにより、ギ酸から一酸化炭素をより一層効率良く製造することができる。
【0019】
本発明に係る一酸化炭素の製造方法は、
水の存在下において、温度Tが350℃以下、かつ、圧力Pが前記温度Tにおける水の飽和蒸気圧以上の条件にて、ギ酸を水熱反応にて分解させて一酸化炭素を得るギ酸分解工程を有し、
前記ギ酸分解工程は、前記水及び前記ギ酸を回分式容器に収容し、該回分式容器の内部で前記ギ酸を分解することを含み、
前記ギ酸分解工程では、前記回分式容器の内部の全容積をVTとした場合に、前記回分式容器の内部の全容積VTに占める気相容積VgがVT/2以下となるように、前記水及び前記ギ酸を前記回分式容器に収容する。
【0020】
斯かる構成によれば、前記回分式容器の内部の圧力を前記温度Tにおける水の飽和蒸気圧以上に調整し易くなる。
これにより、ギ酸から一酸化炭素をより一層効率良く製造することができる。
【発明の効果】
【0021】
上記の通り、本発明によれば、ギ酸から一酸化炭素を効率良く製造することができる一酸化炭素の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態に係る一酸化炭素の製造装置の全体構成を示す概略断面図。
【
図2】ギ酸濃度と一酸化炭素生成量との関係を示すグラフ。
【
図3】各種金属材料と一酸化炭素生成量との関係を示すグラフ。
【
図4】ギ酸水溶液の収容割合と一酸化炭素生成量との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の一実施形態に係る一酸化炭素の製造方法は、水の存在下において、温度Tが350℃以下、かつ、圧力Pが前記温度Tにおける水の飽和蒸気圧以上の条件下にて、ギ酸を水熱反応によって分解させて一酸化炭素を得るギ酸分解工程を有する。
なお、温度Tとは、水熱反応を実施する環境が液相である場合には、液相の温度を意味し、水熱反応を実施する環境が超臨界状態である場合には、超臨界流体の温度を意味する。
また、以下では、「本発明の一実施形態に係る」を単に「本実施形態に係る」と称する。
【0024】
本実施形態に係る一酸化炭素の製造方法は、例えば、
図1に示したような一酸化炭素製造装置1を用いて実施される。
【0025】
[一酸化炭素製造装置]
本実施形態に係る一酸化炭素製造装置1は、内部にギ酸(詳しくは、ギ酸を含むギ酸水溶液)を収容可能な収容空間Sを有する回分式反応装置である。
具体的には、本実施形態に係る一酸化炭素製造装置1は、筒状体に形成され、内部にギ酸(ギ酸水溶液)を収容可能な収容空間Sを有する反応槽10と、反応槽10の外側面および底面を覆うジャケット20と、ギ酸を含むギ酸水溶液を貯蔵するギ酸水溶液貯蔵槽30と、を備えている。
また、本実施形態に係る一酸化炭素製造装置1は、反応槽10とギ酸水溶液貯蔵槽30とを接続するための配管Lと、配管Lの開閉状態を調節するためのバルブVと、を備えている。
さらに、本実施形態に係る一酸化炭素製造装置1は、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガスなどの不活性ガスが貯蔵された不活性ガス貯蔵槽(図示せず)と、該不活性ガス貯蔵槽と反応槽10とを接続する配管および該配管の開閉状態を調節するためのバルブと、を備えていることが好ましい。
【0026】
反応槽10は、筒状の側壁部10aと、筒状の側壁部10aの底面側を閉じる底壁部10bと、筒状の側壁部10aの頂面側を閉じる頂壁部10cと、を備えている。
反応槽10では、上記のように、筒状の側壁部10aを底壁部10bおよび頂壁部10cで閉じることによって、収容空間Sを密閉空間としている。
反応槽10の収容空間Sには、配管Lを経由してギ酸水溶液貯蔵槽30から前記ギ酸水溶液が収容される。
収容空間Sへの前記ギ酸水溶液の収容は、減圧ポンプ(図示せず)を用いて収容空間S内を減圧した後に実施してもよいし、収容空間S内を減圧せずに大気圧(1.01325×105Pa(0.101325MPa))条件下において実施してもよい。
収容空間S内を、前記温度T(350℃以下の温度)における水の飽和蒸気圧以上に調整し易くなる観点から、収容空間Sへの前記ギ酸水溶液の収容は、収容空間S内を減圧せずに大気圧条件下において実施することが好ましい。
反応槽10では、収容空間S内に前記ギ酸水溶液を収容した後に、前記不活性ガス貯蔵槽に貯蔵された不活性ガスが収容空間S内に封入されて、収容空間Sの気相部分に含まれる空気の少なくとも一部が前記不活性ガスで置換されていてもよいし、収容空間Sの気相部分に含まれている空気の全部が前記不活性ガスで置換されていてもよい。
なお、反応槽10は、収容空間S内に収容した前記ギ酸水溶液を撹拌するための撹拌装置(図示せず)を備えていてもよい。
反応槽10が前記撹拌装置を備えることにより、収容空間Sに収容した前記ギ酸水溶液を前記撹拌装置で撹拌しながら水熱反応を実施することができる。これにより、前記ギ酸水溶液中に含まれるギ酸の分解反応をより一層効率的に実施することができる。
【0027】
上記したように、本実施形態に係る一酸化炭素製造装置1は、回分式反応装置であることから、反応槽10は、回分式容器となっている。
なお、回分式容器とは、単回処理で用いる前記ギ酸水溶液を密閉可能に収容できるものを意味する。
反応槽10は、収容した前記ギ酸水溶液と接する内壁面を有することから、該内壁面が非金属によって構成されていることが好ましい。
前記内壁面を構成するのに好ましい物質としては、樹脂、ガラス、セラミック、ダイヤモンドライクカーボンなどが挙げられる。
【0028】
前記樹脂は、例えば、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、芳香族ポリエステル(PET,PENなど)、ポリアリレンサルファイド(PAS)などのプラスチックであってもよいし、一般的なゴムなどであってもよい。
本実施形態においては、水熱反応に対する安定性の観点から、前記樹脂は、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、フッ素樹脂、フッ素ゴム、エポキシ樹脂などであることが好ましい。
これらの樹脂の中でも、前記樹脂は、フッ素樹脂であることが好ましい。
前記フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVdF)などが挙げられる。
前記樹脂は、1種単独を内壁面の構成材料としてもよいし、2種以上の混合物を内壁面の構成材料としてもよい。
【0029】
前記ガラスとしては、例えば、ソーダガラス、ホウ珪酸ガラス、石英ガラス、クリスタルガラスなどが挙げられる。
【0030】
前記セラミックとしては、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア(ZrO2)、チタニア(TiO2)、シリカ(SiO2)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si3N4)、ジルコン(ZrO2・SiO2)、アルミノシリケイト(Al2O3・SiO2)チタン酸バリウム(BaTiO3)、窒化アルミニウム(AlN)、ステアタイト(MgO・SiO2)、フォルステライト(2MgO・SiO2)、ムライト(3Al2O3・2SiO2)、コーディエライト(2MgO・2Al2O3・5SiO2)などが挙げられる。
前記セラミックは、1種単独を内壁面の構成材料としてもよいし、2種以上の混合物を内壁面の構成材料としてもよい。
【0031】
反応槽10は、収容空間Sを画定する壁全体が上記材料で構成されていてもよいし、表面層(反応槽10の内壁面を形成する表面層)のみが上記材料で構成されていてもよい。
上記材料は、複数の層となるように形成されていてもよい。
反応槽10は、例えば、金属製の本体を有し、該本体の内壁面にガラス層と樹脂層とが2重に積層されたものであってもよい。
【0032】
前記内壁面の形成材料は、常温(23±2℃)でのギ酸による金属イオンの溶出量が1000ppm以下であることが好ましい。
前記金属イオンの溶出量は、ICP法などによって測定することができる。
【0033】
上記のように、反応槽10の内壁面を非金属によって構成することにより、反応槽10の内壁面は、耐酸性を有するものとなる。
さらに、前記内壁面がステンレスなどの金属で構成されている場合には、ギ酸(HCOOH)に含まれるカルボキシル基(COOH)が、前記金属との間でイオン結合を形成することが懸念されるものの、前記内壁面が非金属によって構成されている場合には、上記のようにイオン結合が形成されることを抑制することができる。
すなわち、前記ギ酸がカルボキシル基を介して前記内壁面とイオン結合を形成することにより、前記内壁面に吸着することを抑制することができる。
これにより、前記ギ酸から一酸化炭素をより一層効率良く製造することができる。
【0034】
ジャケット20は、ヒータなどの加熱装置(図示せず)を備えている。
ジャケット20は、ヒータなどの加熱装置によって、反応槽10を加熱する。
【0035】
ギ酸水溶液貯蔵槽30は、内部にギ酸水溶液を収容する収容空間Sを有する槽であれば、どのようなものでも用いることができる。
一方で、ギ酸水溶液貯蔵槽30は、貯蔵した前記ギ酸水溶液と接する内壁面を有することから、該内壁面が非金属によって構成されていることが好ましい。
前記内壁面を構成するのに好ましい物質としては、樹脂、ガラス、セラミック、ダイヤモンドライクカーボンなどが挙げられる。
前記樹脂、前記ガラス、前記セラミックとしては、上記したものと同様のものを用いることができる。
【0036】
ところで、反応槽10の収容空間Sでのギ酸の分解反応を進行させるに際して、反応槽10の収容空間S内における前記ギ酸水溶液では、ギ酸の濃度は、1.0mol/L以上であることが好ましく、2.0mol/L以上であることがより好ましい。
【0037】
ところで、ギ酸(HCOOH)の(無触媒または触媒存在下における)水熱分解反応には、ギ酸(HCOOH)が一酸化炭素(CO)と水(H2O)とに分解される反応(第1分解反応)と、ギ酸(HCOOH)が二酸化炭素(CO2)と水素(H2)とに分解される反応(第2分解反応)とが存在することが知られている。
また、本発明者らの過去の知見によれば、前記第1分解反応の反応速度定数をk1とし、前記第2分解反応の反応速度定数をk2とすると、ギ酸の分解反応速度は、下記式(1)で表すことができることが分かっている。
【0038】
【0039】
上記式(1)を見ると、前記第1分解反応の反応次数は1.5次であり、前記第2分解反応の反応次数は1次であることから、前記ギ酸水溶液において、ギ酸の濃度が高いほど、前記第1分解反応が進行し易くなることが分かる。
このことから、前記ギ酸水溶液において、ギ酸の濃度は高い方が好ましいことが把握される。
一方で、前記ギ酸水溶液において、ギ酸の濃度が高くなるにつれて、ギ酸を分解することにより得られる一酸化炭素などの気体成分の量が多くなり、それに応じて反応槽10の内部の圧力も上昇するようになる。
そして、反応槽10の内部の圧力が過度に高くなる場合には、反応槽10として、耐圧性が十分に高められた専用設備を用いる必要が生じる。
そのため、汎用設備を用いて、本実施形態に係る一酸化炭素の製造方法を実施することを考慮する場合には、前記ギ酸水溶液では、ギ酸の濃度の上限値として、例えば、3.0mol/Lを採用することが好ましい。
ここで、本実施形態に係る一酸化炭素製造装置1では、
図1に示したように、ギ酸水溶液貯蔵槽30から反応槽10の収容空間S内に供給される前記ギ酸水溶液は、配管Lを通じて収容空間S内に供給している間や、収容空間S内に供給した後において、濃度調整されずに、そのままの状態でギ酸の分解反応に用いられる。
そのため、本実施形態に係る一酸化炭素製造装置1では、ギ酸水溶液貯蔵槽30に収容された状態において、前記ギ酸水溶液における前記ギ酸の濃度が、上記数値範囲内となっている必要がある。
【0040】
一方で、一酸化炭素製造装置1が、ギ酸水溶液貯蔵槽30に加えて水を貯蔵する水貯蔵槽を備えている場合には、前記水貯蔵槽から反応槽10の収容空間Sに水を供給することにより、反応槽10の収容空間Sにおいて、前記ギ酸水溶液におけるギ酸の濃度を調整することができる。
また、一酸化炭素製造装置1において、配管Lが水をラインミキシングできるように構成されている場合には、ギ酸水溶液貯蔵槽30から反応槽10の収容空間Sに前記ギ酸水溶液を供給している間に水をラインミキシングすることにより、反応槽10の収容空間Sにおいて、前記ギ酸水溶液におけるギ酸の濃度を調整することができる。
そのため、このような場合では、前記ギ酸水溶液におけるギ酸の濃度は、ギ酸水溶液貯蔵槽30内に収容された状態において、上記した上限値を超える値となっていてもよい。
さらに、反応槽10が収容空間Sに収容された前記ギ酸水溶液を濃縮できるように構成されている場合には、前記ギ酸水溶液におけるギ酸の濃度は、ギ酸水溶液貯蔵槽30内に収容された状態において、上記した下限値未満の値となっていてもよい。
【0041】
なお、後述するように、前記ギ酸水溶液に、塩酸や硫酸などの脱水反応を促進させる液体酸触媒を加えることにより、ギ酸を一酸化炭素及び水に分解させる前記第1分解反応を進行させ易くなる。
そのため、一酸化炭素製造装置1は、液体酸触媒を貯蔵する液体酸触媒貯蔵槽と、該液体酸触媒貯蔵槽に貯蔵された前記液体酸触媒を、反応槽10内に供給するための配管と、該配管の開閉を調整するためのバルブとを備えていてもよい。
【0042】
配管Lとしては、ステンレスなどの金属で構成された各種公知の配管を用いることができる。
ここで、配管Lは、ギ酸水溶液貯蔵槽30内の前記ギ酸水溶液を反応槽10の収容空間S内に供給する経路であることから、前記ギ酸水溶液の供給時において、配管Lの内壁面は、前記ギ酸水溶液と接触するようになる。
そのため、配管Lも、前記内壁面が非金属によって構成されていることが好ましい。
前記内壁面を構成するのに好ましい物質としては、樹脂、ガラス、セラミック、ダイヤモンドライクカーボンなどが挙げられる。
前記樹脂、前記ガラス、前記セラミックとしては、上記したものと同様のものを用いることができる。
【0043】
バルブVとしては、配管Lの一部に備え付けることができ、かつ、管路を開閉できる機能を備えたものであれば、どのようなものでも使用することができる。
【0044】
[一酸化炭素の製造方法]
次に、上で説明した一酸化炭素製造装置1を用いて、本実施形態に係る一酸化炭素の製造方法を実施する例について、
図1を参照しながら説明する。
【0045】
上記したように、本実施形態に係る一酸化炭素の製造方法は、水の存在下において、温度Tが350℃以下、かつ、圧力Pが前記温度Tにおける水の飽和蒸気圧以上の条件下にて、ギ酸を水熱反応によって分解させて一酸化炭素を得るギ酸分解工程を有する。
【0046】
本実施形態に係る一酸化炭素の製造方法では、反応槽10の収容空間S内において前記ギ酸分解工程を実施する。
前記ギ酸分解工程を行うに際しては、まず、ギ酸水溶液貯蔵槽30内に貯蔵されたギ酸水溶液を、配管Lを通じて、反応槽10の収容空間S内に所定量収容する。
収容空間S内への前記ギ酸水溶液の収容は、収容空間S内を、前記温度T(350℃以下の温度)における水の飽和蒸気圧以上に調整し易くなる観点から、収容空間S内を減圧せずに大気圧条件下において実施することが好ましい。
また、本実施形態に係る一酸化炭素製造装置1が前記不活性ガス貯蔵槽を備えている場合には、反応槽10の収容空間S内に所定量の前記ギ酸水溶液を収容した後に、前記不活性ガス貯蔵槽に貯蔵された前記不活性ガスを収容空間Sに封入して、収容空間Sの気相部分に含まれる空気の少なくとも一部を前記不活性ガスに置換しておいてもよい。
【0047】
次に、ジャケット20に備えられたヒータなどの加熱装置によって、所定量のギ酸水溶液を収容した反応槽10内の温度(温度T)が350℃以下となるように加熱する。
詳しくは、ジャケット20に備えられたヒータなどの加熱装置によって、反応槽10の収容空間Sにおける液相(ギ酸水溶液)の温度が350℃以下となるように加熱する。
なお、大気圧(1.01325×105Pa(0.101325MPa))にて水熱反応を実施する場合には、液相の温度は、通常、100℃を超える温度とされる。
そのため、反応槽10(詳しくは、反応槽10内の液相)は、100℃を超える温度に加熱されることが好ましい。
また、反応槽10は、200℃以上に加熱されることがより好ましく、250℃以上に加熱されることがさらに好ましい。
さらに、反応槽10は、300℃以下に加熱されることが好ましい。
【0048】
ここで、ギ酸(HCOOH)の(無触媒または触媒存在下における)水熱分解反応には、上記したように、ギ酸(HCOOH)が一酸化炭素(CO)と水(H2O)とに分解される反応(第1分解反応)と、ギ酸(HCOOH)が二酸化炭素(CO2)と水素(H2)とに分解される反応(第2分解反応)とが存在することが知られている。
そして、本発明者らの過去の知見によれば、第1分解反応は、速度論支配の影響を受け易く、第2分解反応は、熱力学的支配の影響を受け易いことが分かっている。
また、本発明者らの過去の知見によれば、ギ酸の分解反応において、反応初期においては、速度論支配の影響が大きくなっていることから、前記第1分解反応が進行し易くなっており、一酸化炭素が得られ易くなっていることも分かっている。
さらに、本発明者らの過去の知見によれば、ギ酸の分解反応では、反応時間の経過とともに、熱力学的支配の影響を受け易くなって、前記第2分解反応が進行し易くなり、その結果、熱力学的に安定な二酸化炭素が得られ易くなることも分かっている。
そのため、本発明者らの過去の知見によれば、ギ酸から一酸化炭素を効率良く得るためには、ギ酸の分解反応において、如何にして、速度論支配の影響が及ぼされる期間を長く取ることができるかが重要となる。
すなわち、ギ酸の分解反応において、前記第1分解反応が進行している期間から、前記第2分解反応が進行するようになる期間に切り替わるタイミングを、如何にして遅らせることができるかが重要となる。
【0049】
ここで、本発明者らのさらなる鋭意検討によれば、反応槽10内の温度が高いほど、熱力学的に安定な状態に移行する時間はより短くなること、すなわち、前記第1分解反応が進行している期間から、前記第2分解反応が進行するようになる期間に切り替わる時間はより短くなることが見出された。
そして、この知見から、反応槽10の収容空間S内の温度を350℃以下とすることにより、前記第1分解反応が進行している期間から、前記第2分解反応が進行するようになる期間に切り替わるタイミングを比較的遅らせることができることが見出された。
また、前記第1分解反応によって得られる気体成分は、一酸化炭素の1種のみであるのに対し、前記第2分解反応によって得られる気体成分は、二酸化炭素と水素との2種であることから、反応槽10の収容空間S内の圧力が十分に高い場合には、ルシャトリエの原理により、前記第1分解反応が前記第2分解反応よりも選択的に進行するようになる。
これにより、前記第1分解反応が進行している期間から、前記第2分解反応が進行するようになる期間に切り替わるタイミングを比較的遅らせることにより、前記第1分解反応を比較的十分に進行させることができる。
そして、本実施形態に係る一酸化炭素製造装置1のように、反応槽10の収容空間Sが密閉空間となっている場合には、前記第1分解反応によって得られた一酸化炭素によって反応槽10の収容空間S内の圧力をより十分に高めることができるので、前記第1分解反応が進行している期間から、前記第2分解反応が進行するようになる期間への切り替わりを比較的抑制できることが見出された。
さらに、反応槽10の収容空間S内の温度をTとしたときに、反応槽10の収容空間Sの圧力Pが温度Tにおける水の飽和蒸気圧以上であることにより、前記第1分解反応が進行している期間から、前記第2分解反応が進行するようになる期間への切り替わりをより一層抑制できることが見出された。
すなわち、本発明者らの鋭意検討により、反応槽10の収容空間S内の温度Tを350℃以下とした上で、さらに、反応槽10の収容空間S内の圧力Pを前記温度Tにおける水の飽和蒸気圧以上とすることにより、ギ酸から一酸化炭素を効率よく製造できることが見出された。
【0050】
なお、反応槽10の収容空間S内の圧力は、温度200℃の場合には、1.5549MPa以上であることが好ましく、温度250℃の場合には、3.9776MPa以上であることが好ましく、温度300℃の場合には、8.5927MPa以上であることが好ましく、温度350℃の場合には、16.535MPa以上であることが好ましい。
また、反応槽10の収容空間S内の圧力の上限値は特に限られるものではないが、反応槽10として、耐圧性が十分に高められた専用設備を用いずに、汎用設備を用いることを考慮する場合には、50MPa以下であることが好ましい。
【0051】
前記ギ酸水溶液に含まれるギ酸を分解することによって得られる気体成分によって、収容空間S内を、前記温度T(350℃以下の温度)における水の飽和蒸気圧以上に調整し易くなる観点から、前記ギ酸水溶液は、収容空間Sの全容積をVTとした場合、収容空間Sの全容積VTに占める気相容積VgがVT/2以下となるように、収容空間Sに収容されることが好ましく、VT/3以下となるように、収容空間Sに収容されることがより好ましく、VT/4以下となるように、収容空間Sに収容されることがさらに好ましい。
また、前記ギ酸水溶液は、収容空間SのVTに占める気相容積VgがVT/10以上となるように、収容空間Sに収容されることができる。
さらに、収容空間S内に分解によって得られる気体成分を十分に存在させる観点から、反応槽10の収容空間S内における前記ギ酸水溶液では、ギ酸の濃度は、1.0mol/L以上であることが好ましく、2.0mol/L以上であることがより好ましい。
前記ギ酸水溶液におけるギ酸の濃度の上限値は特に限られるものではないが、反応槽10として、耐圧性が十分に高められた専用設備を用いずに、汎用設備を用いることを考慮する場合には、3.0mol/Lであることが好ましい。
【0052】
なお、塩酸や硫酸などの脱水反応を促進させる液体酸触媒を前記ギ酸水溶液に加えると、ギ酸から水を引き抜き易くなることから、ギ酸が一酸化炭素と水とに分解する前記第1分解反応を進行させ易くなる。
そのため、ギ酸の水熱分解反応は、前記ギ酸水溶液に前記液体酸触媒を加えた上で実施することが好ましい。
前記液体酸触媒は、前記ギ酸水溶液における前記ギ酸のモル濃度を1mol/Lとしたときに、前記ギ酸水溶液中に、0.2mol/L以上の濃度で含まれていることが好ましく、0.5mol/L以上の濃度で含まれていることがより好ましく、1mol/L以上の濃度で含まれていることがさらに好ましい。
前記液体酸触媒が上記のごとき濃度で含まれていることにより、ギ酸の水熱分解反応をより一層進行させ易くすることができる。
また、前記液体酸触媒の濃度の上限値は特に限られるものではないが、反応槽10の内壁面が石英ガラスなどで構成されている場合には、該石英ガラスの表面に腐食やくもりが生ずることを十分に抑制する観点から、前記ギ酸水溶液における前記液体酸触媒の濃度は、2.0mol/L以下であることが好ましい。
また、前記ギ酸水溶液に前記液体酸触媒を加えない場合においても、前記ギ酸水溶液におけるギ酸の濃度を上げることにより、ギ酸により自触媒反応を進行させ易くなる。
これにより、前記ギ酸水溶液に前記液体酸触媒を加えた場合と同様に、ギ酸から水を引き抜き易くなるので、ギ酸が一酸化炭素と水とに分解する前記第1分解反応を進行させ易くなる。
【0053】
なお、上記のギ酸の分解反応においては、前記ギ酸水溶液は、必ずしも、液体状態を維持している必要はなく、超臨界流体となっていてもよい。
前記ギ酸水溶液が超臨界流体となった状態で上記のギ酸の分解反応が進行された場合には、例えば、反応槽10の収容空間S内を常温(23±2℃)程度まで冷却すれば、前記ギ酸水溶液を液体状態とすることができる。
そして、前記ギ酸水溶液が液体状態となれば、反応槽10の収容空間Sの気相中に一酸化炭素が存在するようになるので、この一酸化炭素を反応槽10の収容空間S内から取り出すなどして使用することができる。
【0054】
上記のようにして得られた一酸化炭素は、例えば、水素と反応させることにより、メタン(CH4)やメタノール(CH3OH)を得るために用いられる(例えば、George A.Olah et al,“Chemical Formation of Methanol and Hydrocarbon(“Organic”) Derivatives from CO2 and H2-Carbon Sources for Subsequent Biological Cell Evolution and Life’s Origin”,J.Am.Chem.Soc.2017,139,566-570、および、Nobuyuki Matubayasi and Masaru Nakahara,“Hydrothermal reactions of formaldehyde and formic acid:Free-energy analysis of equilibrium”,J.Chem.Phys.122,074509(2005)などを参照されたい)。
上記のようなメタンやメタノールを得る反応は、反応槽10の収容空間S内に、水素を供給して反応槽10の収容空間S内で実施してもよいし、反応槽10の収容空間S内から前記一酸化炭素を取出した後、反応槽10とは別の反応槽に前記一酸化炭素及び前記水素を供給して、前記別の反応槽内で実施してもよい。
また、上記のメタノールを得る反応においては、反応槽10の収容空間S内または前記別の反応槽内で、得られたメタノールの一部が酸化されてホルムアルデヒドとなっている場合には、反応槽10の収容空間S内または前記別の反応槽内で、該ホルムアルデヒドとギ酸とを水熱反応させることにより、換言すれば、Cannizzaro反応を進行させることにより、前記ホルムアルデヒドから再度メタノールを得てもよい(例えば、Yasuo Tsujino et al,“Noncatalytic Cannizzaro-type Reaction of Formaidehyde in Hot Water”,Chemistry Letters,1999,287-288などを参照されたい)。
なお、反応槽10の収容空間S内で、Cannizzaro反応を進行させる場合には、前記ギ酸として反応槽10内に存在する未反応のギ酸を使用することができ、前記別の反応槽内で、Cannizzaro反応を進行させる場合には、前記ギ酸として前記別の反応槽内に新たに供給したギ酸を使用することができる。
【0055】
本実施形態に係る一酸化炭素の製造方法は、二酸化炭素と水素とを反応させて前記ギ酸を生成させるギ酸生成工程をさらに有していてもよい。
斯かる構成によれば、効率良く、前記ギ酸を得ることができる。
【0056】
本実施形態に係る一酸化炭素の製造方法は、再生可能エネルギーを利用して、水を電気分解して前記水素を生成させる水素生成工程をさらに有していてもよい。
斯かる構成によれば、地球環境負荷が増大することを抑制しつつ、前記ギ酸生成工程において用いられる前記水素を得ることができる。
なお、再生可能エネルギーとは、太陽光発電、風力発電、バイオマス発電、水力発電、地熱発電などが挙げられる。
【0057】
本実施形態に係る一酸化炭素の製造方法は、上記したような回分式反応装置を用いて実施することが好ましい。
具体的には、本実施形態に係る一酸化炭素の製造方法は、回分式反応装置における回分式容器(本実施形態では、反応槽10)に前記ギ酸を収容し、該回分式容器の内部で前記ギ酸を分解することが好ましい。
斯かる構成によれば、前記ギ酸を分解させているときに、前記ギ酸の分解によって得られた気体成分が外部に排出されることにより、反応器内の圧力が低下することを抑制することができる。
すなわち、前記ギ酸分解工程における圧力を比較的維持し易くなる。
これにより、ギ酸から一酸化炭素をより一層効率良く製造することができる。
なお、回分式反応装置ではなくフロー式反応装置を用いた場合では、ギ酸が二酸化炭素と水素とに分解される第2分解反応が支配的となるか、あるいは、ほぼ前記第2分解反応のみが進行するようになる(例えば、J.Yu and P.E.Savage,Ind.Eng.Chem.Res.,37,2(1998)、あるいは、P.G.Maiella and T.B.Brill,J.Phys.Chem.A,102,5886(1998)などを参照されたい)。
【0058】
本発明に係る一酸化炭素の製造方法は、上記実施形態の構成に限定されるものではない。また、本発明に係る一酸化炭素の製造方法は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【実施例0059】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。以下の実施例は本発明をさらに詳しく説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0060】
[ギ酸濃度と一酸化炭素生成量との関係]
ギ酸水溶液中のギ酸濃度と一酸化炭素生成量との関係について調査した。
上記関係の調査は、以下の手順にしたがって行った。
(1)ギ酸濃度が0.1M(mol/L)である第1ギ酸水溶液、ギ酸濃度が0.5M(mol/L)である第2ギ酸水溶液、及び、ギ酸濃度が1.0M(mol/L)である第3ギ酸水溶液を準備する。
(2)第1ギ酸水溶液、第2ギ酸水溶液、及び、第3ギ酸水溶液を石英管内に収容する。
なお、第1ギ酸水溶液、第2ギ酸水溶液、及び、第3ギ酸水溶液は、それぞれ、単独で(他のギ酸水溶液と混合せずに)、前記石英管内に収容する。
また、第1ギ酸水溶液、第2ギ酸水溶液、及び、第3ギ酸水溶液は、石英管の全容積をV
Tとし、該石英管の気相容積をVgとしたときに、VgがV
T/2となるように収容する。
(3)石英管内の温度が300℃になるまで加熱した後、各ギ酸水溶液について、10分間、ギ酸の分解反応を行う。
なお、ギ酸の分解反応において、石英管内の圧力は、300℃における飽和水蒸気圧となっている。
(4)各ギ酸水溶液についてギ酸の分解反応を行った後、石英管の気相部分からガスをサンプリングし、該ガスをC13NMRにて分析して、気相部分に含まれる一酸化炭素の量を調査する。
なお、C13NMRによる分析は、分析装置として日本電子(JEOL)社の型式JNM-ECA600を用いて以下のように行う。
・C13NMRによる分析
石英管を開封することなく内径5mmのガラス製NMRサンプルチューブ内に挿入し、観測中心が前記石英管の気相部分となるように前記分析装置にセットした。
なお、観測中に、前記石英管の内部において、気相が下側となり、液相が上側となった場合でも、内圧及び毛細管現象の影響により、重力が原因となって液相中の液分が下側(気相側)に流れ込むことはなかった。
また、分析温度は30℃とし、1回のラジオ波照射から次のラジオ波照射までの時間は、事前に反応物及び全生成物の縦緩和時間を測定しておいた上で、完全に磁化ベクトルが緩和するように、事前に測定した前記縦緩和時間を考慮して決定した(実際には、60秒とした)。
さらに、プロトンと結合した炭素原子のピーク面積(ピーク高さ)がNOE(オーバーハウザー効果)によって変化すると定量性に影響が及ぼされることから、プロトンの二重照射は行わなかった。
また、重水素化有機化合物によるロックは行わず、事前に5mmNMR管に重水素化有機化合物を充填した別のサンプルを用いてシム調整を行い、決定した微細磁場情報を用いて観測を行った。
さらに、石英管を開封せずに、外部基準を用いて定量化を行った。積算回数は128回とし、ポイント数は約32,000とした。
また、前記石英管が破裂することを防ぐために、プローブ内でサンプルを回転させずに観測を行った。
なお、気相中の気体成分が液相中に溶解していることを考慮して、液相についても、上で説明した気相の場合と同様にして観測を行った。
気相及び液相について、上記の観測を行った後、取得したFID(観測した磁化ベクトル信号の時間変化)信号をフーリエ変換して周波数で表現させて、各ピークの面積比を求めた。
なお、定量化の精度を上げるために、ブロードニングファクター(窓関数)の周波数を0.5Hz以下とした。得られたスペクトルのベースライン補正は行わなかった。S/N比は最小のピーク高さであっても5以上であった。
その結果を
図2に示した。
【0061】
図2より、ギ酸水溶液中のギ酸濃度が高くなるほど、二酸化炭素の生成量に比べて一酸化炭素の生成量が多くなっていることが把握される。
このことから、ギ酸水溶液中のギ酸濃度が高くなるほど、ギ酸が二酸化炭素と水素とに分解される第2分解反応よりも、ギ酸が一酸化炭素と水とに分解される第1分解反応が進行し易くなることが把握される。
また、ギ酸水溶液中のギ酸濃度が1.0Mの場合には、特に、一酸化炭素が選択的に生成されていることが把握される。
【0062】
[各種金属材料と一酸化炭素生成量との関係]
各種金属材料と一酸化炭素生成量との関係について調査した。
上記関係の調査は、以下の手順にしたがって行った。
(1)ギ酸濃度が2M(mol/L)のギ酸重水溶液を調製する。
(2)前記ギ酸重水溶液のみを石英管に収容したものを第1試験体として準備し、前記ギ酸重水溶液とSUS粉末とを石英管に収容したものを第2試験体として準備し、前記ギ酸重水溶液とHastelloy粉末とを石英管に収容したものを第3試験体として準備し、前記ギ酸重水溶液とInconel粉末とを石英管に収容したものを第4試験体として準備する。
なお、SUS粉末は、SUS 316Lを粉砕することにより調製し、Hastelloy粉末は、Hastelloy C-276を粉砕することにより調製し、Inconel粉末は、Inconel 625を粉砕することにより調製する。
また、前記第1試験体~前記第4試験体においては、石英管の全容積をV
Tとし、該石英管の気相容積をVgとしたときに、VgがV
T/2となるように、前記ギ酸重水溶液、または、前記ギ酸重水溶液と各種粉末とを収容する。
(3)前記第1試験体~前記第4試験体について、石英管内の温度が250℃になるまで加熱した後、各ギ酸重水溶液について、1時間、ギ酸の分解反応を行う。
なお、ギ酸の分解反応において、石英管内の圧力は、250℃における飽和水蒸気圧となっている。
(4)各ギ酸重水溶液についてギ酸の分解反応を行った後、石英管の気相部分からガスをサンプリングし、該ガスをRaman分光法にて分析して、気相部分に含まれる一酸化炭素の量を調査する。
なお、Raman分光法による分析は、分析装置としてRenisaw社製の型式RM1000Bを用いて以下のように行う。
・Raman分光法による分析
石英管を開封することなく、観測中心が前記石英管の気相部分となるように前記分析装置にセットした。
測定温度は30℃とした。
なお、石英管のセッティングは、上記のNMR観測で説明したセッティングに準じて行った。
その結果を
図3に示した。
【0063】
図3より、ギ酸重水溶液のみを石英管に収容した第1試験体では、一酸化炭素が選択的に生成されていることが把握される。
これに対し、ギ酸重水溶液とともに各種金属粉末(SUS粉末、Hastelloy粉末、及び、Inconel粉末)を石英管に収容した第2試験体~第4試験体では、一酸化炭素とともに、二酸化炭素及び重水素が生成されていることが把握される。
すなわち、
図1に示したような一酸化炭素製造装置1において、反応槽10の内壁面が金属によって構成されている場合には、ギ酸が二酸化炭素と水素とに分解される第2分解反応が進行し易くなることが把握される。
このことから、反応槽10の内壁面を非金属によって構成することにより、前記第2分解反応の進行を抑制して、ギ酸が一酸化炭素と水とに分解される第1分解反応を選択的に進行させ得ることが把握される。
【0064】
[ギ酸水溶液の収容割合と一酸化炭素生成量との関係]
反応槽へのギ酸水溶液の収容割合と一酸化炭素生成量との関係について調査した。
上記関係の調査は、以下の手順にしたがって行った。
(1)ギ酸濃度が2M(mol/L)のギ酸水溶液を調製する。
(2)石英管の全容積をV
Tとし、該石英管の気相容積をVgとしたときに、Vgが0.8V
Tとなるようにギ酸水溶液を収容したもの(すなわち、ギ酸水溶液の収容割合は0.2V
T)を第1’試験体として準備し、Vgが0.7V
Tとなるようにギ酸水溶液を収容したもの(すなわち、ギ酸水溶液の収容割合は0.3V
T)を第2’試験体として準備し、Vgが0.5V
Tとなるようにギ酸水溶液を収容したもの(すなわち、ギ酸水溶液の収容割合は0.5V
T)を第3’試験体として準備し、Vgが0.3V
Tとなるようにギ酸水溶液を収容したもの(すなわち、ギ酸水溶液の収容割合は0.7V
T)を第4’試験体として準備し、Vgが0.25V
Tとなるようにギ酸水溶液を収容したもの(すなわち、ギ酸水溶液の収容割合は0.75V
T)を第5’試験体とした準備する。
(3)前記第1’試験体~前記第5’試験体について、石英管内の温度が250℃になるまで加熱した後、各ギ酸水溶液について、12時間、ギ酸の分解反応を行う。
なお、ギ酸の分解反応において、石英管内の圧力は、250℃における飽和水蒸気圧となっている。
(4)各ギ酸水溶液についてギ酸の分解反応を行った後、石英管の気相部分からガスをサンプリングし、該ガスをC13NMRにて分析して、気相部分に含まれる一酸化炭素の濃度及び二酸化炭素の濃度を定量する。
そして、一酸化炭素の濃度及び二酸化炭素の濃度を合算した値に対する、一酸化炭素の濃度の百分率を算出する。
なお、C13NMRによる分析は、[ギ酸濃度と一酸化炭素生成量との関係]の項で説明したのと同様にして行った。
その結果を
図4に示した。
【0065】
図4より、ギ酸水溶液の収容割合が高くなるにつれて、換言すれば、気相容積Vgの占める割合が小さくなるにつれて、一酸化炭素の生成量が多くなることが把握される。
特に、ギ酸の収容割合が0.7V以上の場合(換言すれば、気相容積Vgの占める割合が0.3V以下の場合)には、一酸化炭素の濃度及び二酸化炭素の濃度を合算した値に対する、一酸化炭素の濃度の百分率が100%となること、すなわち、一酸化炭素のみが選択的に生成されるようになることが把握される。
水の存在下において、温度Tが350℃以下、かつ、圧力Pが前記温度Tにおける水の飽和蒸気圧以上の条件下にて、ギ酸を水熱反応によって分解させて一酸化炭素を得るギ酸分解工程を有し、
前記ギ酸分解工程は、前記水と前記ギ酸とを含むギ酸水溶液を回分式容器に収容し、該回分式容器の内部で前記ギ酸を分解することを含み、
前記ギ酸分解工程では、前記回分式容器の内部の全容積をV
T
とした場合に、前記回分式容器の内部の全容積V
T
に占める気相容積V
g
が0.3V
T
以下となるように、前記ギ酸水溶液を前記回分式容器に収容し、
前記ギ酸水溶液は、前記ギ酸を2.0mol/L以上含んでいる
一酸化炭素の製造方法。
水の存在下において、温度Tが350℃以下、かつ、圧力Pが前記温度Tにおける水の飽和蒸気圧以上の条件にて、ギ酸を水熱反応によって分解させて一酸化炭素を得るギ酸分解工程を有し、
前記ギ酸分解工程は、前記水と前記ギ酸とを含むギ酸水溶液を回分式容器に収容し、該回分式容器の内部で前記ギ酸を分解することを含み、
前記ギ酸分解工程では、速度論支配で一酸化炭素と水とを生成する反応経路と、熱力学的支配で二酸化炭素と水素とを生成する反応経路とを含むギ酸の水熱分解反応のうち、前記速度論支配の反応経路にて前記ギ酸の水熱分解反応を進行させて一酸化炭素のみを得る
一酸化炭素の製造方法。