(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023030823
(43)【公開日】2023-03-08
(54)【発明の名称】樹脂組成物および成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 59/00 20060101AFI20230301BHJP
C08L 75/04 20060101ALI20230301BHJP
C08K 5/30 20060101ALI20230301BHJP
C08L 77/00 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
C08L59/00
C08L75/04
C08K5/30
C08L77/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021136168
(22)【出願日】2021-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】594137579
【氏名又は名称】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】石井 崇
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CB001
4J002CK022
4J002CL003
4J002CL043
4J002ER016
4J002FD206
4J002GB00
4J002GG01
4J002GL00
4J002GM00
4J002GM02
4J002GM04
4J002GM05
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】 ウェルドラインが伸び、かつ、低温でも衝撃強さが低下しにくい樹脂組成物、および、前記樹脂組成物から形成された成形品の提供。
【解決手段】 ポリアセタール樹脂100質量部に対し、部分架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂を15~50質量部含む樹脂組成物であって、樹脂組成物を溶融し、両端から左右対称に充填しウェルドラインを形成させたASTM D638 TypeI形状のダンベル試験片に成形し、ダンベル試験片を10mm/分の速度で引張試験を行った際に、破断点が降伏点よりも大きく、かつ、樹脂組成物をJIS K 7111に準拠した方法で成形し、ノッチ加工を施したときの-40℃の温度下におけるノッチ付シャルピー衝撃強さが9kJ/m
2以上である、樹脂組成物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアセタール樹脂100質量部に対し、部分架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂を15~50質量部含む樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物を溶融し、両端から左右対称に充填しウェルドラインを形成させたASTM D638 TypeI形状のダンベル試験片に成形し、前記ダンベル試験片を10mm/分の速度で引張試験を行った際に、破断点が降伏点よりも大きく、かつ、
前記樹脂組成物をJIS K 7111に準拠した方法で成形し、ノッチ加工を施したときの-40℃の温度下におけるノッチ付シャルピー衝撃強さが9kJ/m2以上である、
樹脂組成物。
【請求項2】
さらに、前記ポリアセタール樹脂100質量部に対し、ホルムアルデヒド捕捉剤を0.01~5質量部含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記ホルムアルデヒド捕捉剤が、式(1)で表されるジヒドラゾン化合物を含む、請求項2に記載の樹脂組成物。
【化1】
(式(1)中、R
1は炭素数4~20の脂肪族炭化水素基、炭素数6~10の脂環式炭化水素基、または、炭素数6~10の芳香族炭化水素基を示す。R
2~R
5は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、または、エチル基を表し、R
2およびR
3のうち少なくとも一方は、メチル基、または、エチル基を表し、R
4およびR
5のうち少なくとも方は、一メチル基、または、エチル基を表す。)
【請求項4】
前記式(1)において、R1が炭素数6~12の脂肪族炭化水素基である、請求項3に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記式(1)において、R2およびR4がエチル基である場合には、R3およびR5が水素原子であり、R2およびR4がメチル基である場合には、R3およびR5が水素原子またはメチル基である、請求項3または4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記樹脂組成物を100mm×40mm×2mmの平板試験片に成形し、ドイツ自動車工業組合規格VDA275法に基づいて測定したホルムアルデヒド発生量がポリアセタール樹脂1g当たり5質量ppm以下である、請求項2~5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
さらに、前記ポリアセタール樹脂100質量部に対し、ポリアミド0.01~10.0質量部を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記ポリアミドが重合脂肪酸ポリアミドおよびポリアミドエラストマーからなる群より選ばれた少なくとも1種のポリアミドである、請求項7に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記部分架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂の示差走査熱量測定に従ったガラス転移温度が-40℃以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記ポリアセタール樹脂が、オキシメチレン基と、炭素数2以上のオキシアルキレン基とを含み、前記オキシアルキレン基が前記オキシメチレン基100mol当たり0molより大きく1.3mol以下の割合で含まれている、請求項1~9のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
ポリアセタール樹脂100質量部に対し、部分架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂を15~50質量部含み、
前記部分架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂のガラス転移温度が-40℃以下であり、
前記ポリアセタール樹脂が、オキシメチレン基と、炭素数2以上のオキシアルキレン基とを含み、前記オキシアルキレン基が前記オキシメチレン基100mol当たり0molより大きく1.3mol以下の割合で含まれている、樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成された成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂組成物および成形品に関する。特に、ポリアセタール樹脂を主成分とする樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール樹脂は、機械的強度および剛性が高く、耐油性および耐有機溶剤性に優れ、広い温度範囲でバランスがとれた樹脂であり、かつ、その加工性が容易である。したがって、ポリアセタール樹脂は、代表的なエンジニアリングプラスチックスとして、OA機器、デジタル家電、自動車部品およびその他工業部品などに多く用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対し、熱可塑性ポリウレタン(B)が1~120質量部の割合で配合され、ホルムアルデヒド捕捉剤(C)が0.01~5質量部の割合で配合され、前記ホルムアルデヒド捕捉剤(C)が、所定のジヒドラゾン化合物(C1)およびヒドラジド化合物(C2)からなる群より選ばれる少なくとも1種からなり、前記熱可塑性ポリウレタン(B)が、0.10質量%以下の残存イソシアネート量を有し、3000質量ppm以下の含水率を有し、180℃において20万ポアズ以上の溶融粘度を示すポリアセタール樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記ポリアセタール樹脂組成物は、優れた耐衝撃性を有することが記載されているが、低温での耐衝撃性については何ら検討されていない。特に、-40℃程度の低温域における衝撃強さは低下しやすく、1kJ/m2でも高く維持することが非常に困難である。
また、樹脂組成物を射出成形する場合、ウェルドが形成されてしまうが、かかるウェルドの伸びに優れていない場合、用途によっては、割れてしまったりすることがある。
本発明はかかる課題を解決することを目的とするものであって、ウェルドラインが伸び、かつ、低温でも衝撃強さが低下しにくい樹脂組成物、および、前記樹脂組成物から形成された成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題のもと、本発明は、下記手段により、解決された。
<1>ポリアセタール樹脂100質量部に対し、部分架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂を15~50質量部含む樹脂組成物であって、前記樹脂組成物を溶融し、両端から左右対称に充填しウェルドラインを形成させたASTM D638 TypeI形状のダンベル試験片に成形し、前記ダンベル試験片を10mm/分の速度で引張試験を行った際に、破断点が降伏点よりも大きく、かつ、前記樹脂組成物をJIS K 7111に準拠した方法で成形し、ノッチ加工を施したときの-40℃の温度下におけるノッチ付シャルピー衝撃強さが9kJ/m
2以上である、
樹脂組成物。
<2>さらに、前記ポリアセタール樹脂100質量部に対し、ホルムアルデヒド捕捉剤を0.01~5質量部含む、<1>に記載の樹脂組成物。
<3>前記ホルムアルデヒド捕捉剤が、式(1)で表されるジヒドラゾン化合物を含む、<2>に記載の樹脂組成物。
【化1】
(式(1)中、R
1は炭素数4~20の脂肪族炭化水素基、炭素数6~10の脂環式炭化水素基、または、炭素数6~10の芳香族炭化水素基を示す。R
2~R
5は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、または、エチル基を表し、R
2およびR
3のうち少なくとも一方は、メチル基、または、エチル基を表し、R
4およびR
5のうち少なくとも方は、一メチル基、または、エチル基を表す。)
<4>前記式(1)において、R
1が炭素数6~12の脂肪族炭化水素基である、<3>に記載の樹脂組成物。
<5>前記式(1)において、R
2およびR
4がエチル基である場合には、R
3およびR
5が水素原子であり、R
2およびR
4がメチル基である場合には、R
3およびR
5が水素原子またはメチル基である、<3>または<4>記載の樹脂組成物。
<6>前記樹脂組成物を100mm×40mm×2mmの平板試験片に成形し、ドイツ自動車工業組合規格VDA275法に基づいて測定したホルムアルデヒド発生量がポリアセタール樹脂1g当たり5質量ppm以下である、<2>~<5>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<7>さらに、前記ポリアセタール樹脂100質量部に対し、ポリアミド0.01~10.0質量部を含む、<1>~<6>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<8>前記ポリアミドが重合脂肪酸ポリアミドおよびポリアミドエラストマーからなる群より選ばれた少なくとも1種のポリアミドである、<7>に記載の樹脂組成物。
<9>前記部分架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂の示差走査熱量測定に従ったガラス転移温度が-40℃以下である、<1>~<8>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<10>前記ポリアセタール樹脂が、オキシメチレン基と、炭素数2以上のオキシアルキレン基とを含み、前記オキシアルキレン基が前記オキシメチレン基100mol当たり0molより大きく1.3mol以下の割合で含まれている、<1>~<9>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<11>ポリアセタール樹脂100質量部に対し、部分架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂を15~50質量部含み、前記部分架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂のガラス転移温度が-40℃以下であり、前記ポリアセタール樹脂が、オキシメチレン基と、炭素数2以上のオキシアルキレン基とを含み、前記オキシアルキレン基が前記オキシメチレン基100mol当たり0molより大きく1.3mol以下の割合で含まれている、樹脂組成物。
<12><1>~<11>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成された成形品。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、ウェルドラインが伸び、かつ、低温でも衝撃強さが低下しにくい樹脂組成物、および、前記樹脂組成物から形成された成形品を提供可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、ウェルド部を有する成形品について、引張試験を行ったときの、破断点と降伏点の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
本明細書で示す規格が年度によって、測定方法等が異なる場合、特に述べない限り、2021年1月1日時点における規格に基づくものとする。
【0010】
本実施形態の樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂100質量部に対し、部分架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂を15~50質量部含む樹脂組成物であって、前記樹脂組成物を溶融し、両端から左右対称に充填しウェルドラインを形成させたASTM D638 TypeI形状のダンベル試験片に成形し、前記ダンベル試験片を10mm/分の速度で引張試験を行った際に、破断点が降伏点よりも大きく、かつ、前記樹脂組成物をJIS K 7111に準拠した方法で成形し、ノッチ加工を施したときの-40℃の温度下におけるノッチ付シャルピー衝撃強さが9kJ/m2以上であることを特徴とする。
このような構成とすることにより、ウェルドラインが伸び、かつ、低温でも衝撃強さが低下しにくい樹脂組成物が得られる。
【0011】
上記ウェルドラインの伸びおよび低温での衝撃性は、ポリアセタール樹脂の種類の選択、部分架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂を用いること、部分架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂のガラス転移温度、混練条件などを調整することによって達成される。混練条件としては、具体的には、混練の度合いを高くすることが挙げられる。このように混練の度合いを高くすると、部分架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂の粒が小さくなり、ポリアセタール樹脂中でよく分散させることができ、部分架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂を用いる効果がより効果的に発揮される。
【0012】
<ポリアセタール樹脂>
本実施形態の樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂を含む。
ポリアセタール樹脂は、その種類等、特に限定されるものではなく、2価のオキシメチレン基のみを構成単位として含むホモポリマーであっても、2価のオキシメチレン基と炭素数が2以上の2価のオキシアルキレン基とを構成単位として含むコポリマーであってもよい。
炭素数が2以上のオキシアルキレン基の炭素数は、好ましくは6以下であり、より好ましくは4以下であり、2であることがさらに好ましい。炭素数が2以上のオキシアルキレン基の具体例としては、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、および、オキシブチレン基などが挙げられ、オキシエチレン基が好ましい。
【0013】
ポリアセタール樹脂は、オキシメチレン基と、炭素数2以上のオキシアルキレン基とを含み、前記オキシアルキレン基が前記オキシメチレン基100mol当たり0molより大きく2.0mol以下の割合で含まれていることが好ましい。前記割合は、前記オキシメチレン基100mol当たり、0.3mol以上であることがより好ましく、0.5mol以上であることがさらに好ましい。また、前記割合の上限としては、1.5mol以下であることが好ましく、1.3mol以下であることがより好ましく、1.1mol%以下であることがさらに好ましい。前記上限値以下とすることにより、低温(例えば、-40℃)における耐衝撃性をより向上させることができる。
【0014】
上記ポリアセタール樹脂を製造するためには通常、主原料としてトリオキサンが用いられる。また、ポリアセタール樹脂中に炭素数2~6のオキシアルキレン基を導入するには、例えば環状ホルマールや環状エーテルを用いることができる。環状ホルマールの具体例としては、1,3-ジオキソラン、1,3-ジオキサン、1,3-ジオキセパン、1,3-ジオキソカン、1,3,5-トリオキセパンおよび1,3,6-トリオキソカン等が挙げられる。環状エーテルの具体例としては、エチレンオキシド、プロピレンオキシドおよびブチレンオキシド等が挙げられる。ポリアセタール樹脂中にオキシエチレン基を導入するには、例えば1,3-ジオキソランを用いればよく、オキシプロピレン基を導入するには、1,3-ジオキサンを用いればよく、オキシブチレン基を導入するには、1,3-ジオキセパンを導入すればよい。
【0015】
なお、ポリアセタール樹脂においては、ヘミホルマール末端基量、ホルミル末端基量、熱や酸、塩基に対して不安定な末端基量が少ない方がよい。ここで、ヘミホルマール末端基とは、-OCH2OHで表されるものであり、ホルミル末端基とは-CHOで表されるものである。
【0016】
上記ポリアセタール樹脂の溶融指数(MI)値は、0.5g/10分以上であることが好ましく、50g/10分以上であることがより好ましい。このような値とすることにより、押出機のモーターの負荷を下げることができ、樹脂組成物(例えば、ペレット)の生産性を向上させることができる。また、前記MIは、150g/10分以下であることが好ましく、100g/10分以下であることがより好ましい。前記上限値以下とすることにより、真空ボイドをより発生しにくくすることができる。
なお、ポリアセタール樹脂のMI値は、ASTM-D1238に準拠し、190℃、2.16kg荷重下の条件での測定値である。
【0017】
本実施形態の樹脂組成物におけるポリアセタール樹脂の含有量は、60質量%以上であることが好ましく、65質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましく、75質量%以上であることが一層好ましく、78質量%以上であることがより一層好ましい。上限は、樹脂組成物におけるポリアセタール樹脂と部分架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂の合計量が100質量%となる量である。
本実施形態の樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0018】
<部分架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂>
本実施形態の樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂100質量部に対し、部分架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂を15~50質量部含む。部分架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂を含むことにより、低温での耐衝撃性に優れた樹脂組成物が得られる。
本実施形態で用いる部分架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂は、2官能ポリオールと、多官能ポリオールと、鎖伸長剤と、ジイソシアネートから形成されたものであることが好ましい。このような部分架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂を用いることにより、よりウェルド伸びに優れており、かつ、強度に優れた外皮が得られる。
【0019】
<<2官能ポリオール>>
2官能ポリオールは、ヒドロキシ基を2つ有するポリオールであり、ポリウレタン樹脂の合成に一般的に用いられる2官能ポリオールを広く用いることができ、1級ヒドロキシ基を両末端に持った線状のポリエーテルグリコールであることがより好ましく、ポリテトラメチレングリコールエーテルであることがより好ましい。
2官能ポリオールの数平均分子量は500~3000であることが好ましく、800~2500であることがより好ましい。数平均分子量は、GPCに従い、ポリスチレン換算で算出される値とする。
2官能ポリオールは、1種のみ用いてもよいし、2種以上用いてもよい。
【0020】
<<多官能ポリオール>>
多官能ポリオールは、ヒドロキシ基を末端に2つ超有する化合物であって、ポリウレタン樹脂の合成に一般的に用いられるポリオールを広く用いることができる。多官能ポリオールが有するヒドロキシ基の数の上限は、3つ以下が好ましい。
本実施形態で用いるポリオールの平均官能基数(一分子当たりのヒドロキシ基の数)は、2.01~3.0であることが好ましく、2.1~2.5がより好ましい。このような範囲とすることにより、目的および用途に応じた柔軟性を付与することができ、また、各種物性の向上がより効果的に発揮される。
具体的には、ポリウレタン樹脂の合成に用いるポリオールは、ポリエーテルポリオール、ポリマーポリオール、ポリエステルポリオール等が例示され、ポリエステルポリオールが好ましい。
ポリエステルポリオールは、脂肪族2官能ポリオールおよび/または脂肪族ポリオール(好ましくは脂肪族トリオール)とカルボン酸とで重縮合させ得られるポリエステルであることがより好ましい。
ポリエステルポリオールの原料としての2官能ポリオールとしては、炭素数3~10の脂肪族2官能ポリオールが好ましく、1,4-ブタンジオールがより好ましい。ポリエステルポリオールの原料としてのポリオールとしては、トリオールおよび/またはテトラオールが好ましく、炭素数3~12の脂肪族トリオールが好ましく、トリメチロールプロパンがより好ましい。ポリエステルポリオールの原料としてのジカルボン酸としては、炭素数4~10のジカルボン酸が好ましく、炭素数4~10の脂肪族ジカルボン酸がより好ましく、アジピン酸、セバシン酸がさらに好ましく、アジピン酸が一層好ましい。
【0021】
ポリウレタン樹脂の合成に用いる多官能ポリオールの数平均分子量は300~3000であることが好ましく、500~2500であることがより好ましい。数平均分子量は、GPCに従い、ポリスチレン換算で算出される値とする。
多官能ポリオールは、1種のみ用いてもよいし、2種以上用いてもよい。
【0022】
<<鎖伸長剤>>
部分架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂の合成に際し、鎖伸長剤の種類は、特に限定されず、例えば、2個以上の末端ヒドロキシ基を有する低分子化合物を用いることができ、2~3個の末端ヒドロキシ基を有する低分子化合物が好ましい。鎖伸長剤としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオールおよび1,6-ヘキサンジオールなどの炭素数2~10の2官能ポリオール類が挙げられる。
鎖伸長剤の分子量は、62~380であることが好ましい。
鎖伸長剤は、1種のみ用いてもよいし、2種以上用いてもよい。
鎖伸長剤の配合量は、2官能ポリオール、多官能ポリオール、およびジイソシアネートの合計100モルに対し20~30モルであることが好ましい。
【0023】
<<ジイソシアネート>>
ジイソシアネートは、ポリウレタン樹脂の合成に一般的に用いられるジイソシアネートを広く採用することができる。
ジイソシアネートとしては、特に限定されず、例えば、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’-ジイソシアン酸メチレンジフェニル)、および2,4-トリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート、ならびに、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネートを挙げることができ、芳香族ジイソシアネートが好ましく、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートがより好ましい。
ジイソシアネートは、1種のみ用いてもよいし、2種以上用いてもよい。
【0024】
<<部分架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂の製造方法>>
本実施形態で用いる部分架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂の製造方法は、2官能ポリオールと多官能ポリオールと鎖伸長剤とジイソシアネートとを反応させる工程を含む。2官能ポリオールと多官能ポリオールとジイソシアネートとを反応させてプレポリマーを得た後、鎖伸長剤を添加してもよい。
部分架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂の原料としての、2官能ポリオールと多官能ポリオールは、モル比(2官能ポリオール/多官能ポリオール)で0.99/0.01~0.5/0.5であることが好ましい。
また、部分架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂の原料としての2官能ポリオール、多官能ポリオールおよび鎖伸長剤の合計に対するジイソシアネートの反応モル比である、[ジイソシアネート/(2官能ポリオール+多官能ポリオール+鎖伸長剤)]が1.10~0.95であることが好ましく、1.08~0.99であることがさらに好ましい。このような範囲とすることにより、目的、用途に応じた柔軟性、物性がより効果的に発揮される。
【0025】
<<部分架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂の物性>>
本実施形態で用いる部分架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂は、示差走査熱量測定に従ったガラス転移温度が-40℃以下であることが好ましく、-45℃以下であることがより好ましく、-48℃以下であることがさらに好ましい。前記上限値以下のものを用いることにより、低温での耐衝撃性に優れた樹脂組成物および成形品が得られる。下限値は、-100℃以上であることが好ましく、-70℃以上であることがより好ましい。
部分架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂を2種以上含む場合のTgは、高い方の値を採用するものとする。
ガラス転移温度は動的粘弾性測定装置を用いて加振周波数10Hz、3℃/minの昇温速度で昇温させた際に得られたtanδのピーク温度に従って測定される。
【0026】
本実施形態の樹脂組成物における、部分架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂の含有量は、ポリアセタール樹脂100質量部に対し、15質量部以上であり、17質量部以上であることが好ましく、19質量部以上であることがより好ましい。前記下限値以上とすることにより、耐衝撃性がより向上する傾向にある。また、前記部分架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂の含有量は、ポリアセタール樹脂100質量部に対し、50質量部以下であり、40質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であることがより好ましく、25質量部以下であることがさらに好ましく、22質量部以下であることが一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、得られる成形品の硬度をより向上させることができる。
【0027】
本実施形態の樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂と部分架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂の合計が90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、97質量%以上であることがさらに好ましく、98質量%以上であることが一層好ましい。上限は、100質量%である。
本実施形態の樹脂組成物は、部分架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0028】
<ホルムアルデヒド捕捉剤>
本実施形態の樹脂組成物は、さらに、ポリアセタール樹脂100質量部に対し、ホルムアルデヒド捕捉剤を0.01~5質量部含むことが好ましい。ホルムアルデヒド捕捉剤を含むことにより、得られる成形品のホルムアルデヒドの発生量を効果的に減らすことができる。
【0029】
ホルムアルデヒド捕捉剤は、ヒドラゾン化合物を含むことが好ましく、式(1)で表されるジヒドラゾン化合物を含むことがより好ましい。ヒドラゾン化合物を用いることにより、アミド交換反応を抑制でき、部分架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂の分子量の低下を抑制でき、ホルムアルデヒド発生を抑制しつつ、耐衝撃性の低下を抑制できると推測される。
【化2】
(式(1)中、R
1は炭素数4~20の脂肪族炭化水素基、炭素数6~10の脂環式炭化水素基、または、炭素数6~10の芳香族炭化水素基を示す。R
2~R
5は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、または、エチル基を表し、R
2およびR
3のうち少なくとも一方は、メチル基、または、エチル基を表し、R
4およびR
5のうち少なくとも方は、一メチル基、または、エチル基を表す。)
【0030】
式(1)中、R1は、炭素数4~20の脂肪族炭化水素基、炭素数6~10の脂環式炭化水素基または炭素数6~10の芳香族炭化水素基を表し、炭素数4~20の脂肪族炭化水素基であることが好ましく、炭素数6~12の脂肪族炭化水素基であることがより好ましい。
【0031】
上記脂肪族炭化水素基は、飽和または不飽和であってもよく、直鎖状または分岐状であってもよく、直鎖状のアルキレン基であることがより好ましい。
脂肪族炭化水素基の具体例としては、例えば、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、トリデシレン基、テトラデシレン基、ペンタデシレン基、ヘキサデシレン基、ヘプタデシレン基、オクタデシレン基、ノナデシレン基およびイコシレン基などのアルキレン基などが挙げられる。
上記脂肪族炭化水素基は、炭素数6~12の脂肪族炭化水素基(好ましくは炭素数6~12の直鎖のアルキル基)であることが好ましい。この場合、ジヒドラゾン化合物とホルムアルデヒドとの反応性がより高くなり、ホルムアルデヒドの発生がより効果的に抑制される。また、成形加工時の金型の汚染をより十分に抑制できる。
【0032】
上記脂環式炭化水素基は、飽和または不飽和であってもよい。
脂環式炭化水素基としては、炭素数6~10のシクロアルキレン基などが挙げられる。シクロアルキレン基としては、例えばシクロへキシレン基などが挙げられる。
【0033】
芳香族炭化水素基としては、例えばフェニレン基およびナフチレン基などのアリーレン基が挙げられる。
芳香族炭化水素基の炭素原子の少なくとも一部に置換基が結合していてもよい。この置換基としては、例えばハロゲン基、ニトロ基、炭素数1~20のアルキル基などが挙げられる。
【0034】
式(1)において、R2~R5は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基またはエチル基を表し、R2およびR3のうち少なくとも一方はメチル基またはエチル基を表し、R4およびR5のうち少なくとも一方はメチル基またはエチル基を表す。
式(1)において、R2およびR4がエチル基である場合には、R3およびR5が水素原子であり、R2およびR4がメチル基である場合には、R3およびR5が水素原子またはメチル基であることが好ましく、R2~R5のいずれもメチル基であることがより好ましい。この場合、ジヒドラゾン化合物とホルムアルデヒドとの反応性がより高くなり、ホルムアルデヒドの発生がより効果的に抑制される。また、成形加工時の金型の汚染をより十分に抑制できる。
【0035】
式(1)で表されるジヒドラゾン化合物の具体例としては、例えば、1,12-ビス[2-(1-メチルエチリデン)ヒドラジノ]]-1,12-ドデカンジオン、1,12-ビス(2-エチリデンヒドラジノ)-1,12-ドデカンジオン、1,12-ビス(2-プロピリデンヒドラジノ)-1,12-ドデカンジオン、1,12-ビス[2-(1-メチルプロピリデン)ヒドラジノ]-1,12-ドデカンジオン、1,12-ビス[2-(1-エチルプロピリデン)ヒドラジノ]-1,12-ドデカンジオン、1,10-ビス[2-(1-メチルエチリデン)ヒドラジノ]]-1,10-デカンジオン、1,10-ビス(2-プロピリデンヒドラジノ)-1,10-デカンジオン、1,10-ビス(2-プロピリデンヒドラジノ)-1,10-デカンジオン、1,10-ビス[2-(1-メチルプロピリデン)ヒドラジノ]-1,10-デカンジオン、1,10-ビス[2-(1-エチルプロピリデン)ヒドラジノ]-1,10-デカンジオン、1,6-ビス[2-(1-メチルエチリデン)ヒドラジノ]-1,6-ヘキサンジオン、1,6-ビス(2-エチリデンヒドラジノ)-1,6-ヘキサンジオン、1,6-ビス(2-プロピリデンヒドラジノ)-1,6-ヘキサンジオン、1,6-ビス[2-(1-メチルプロピリデン)ヒドラジノ]-1,6-ヘキサンジオン、1,6-ビス[2-(1-エチルプロピリデン)ヒドラジノ]-1,6-ヘキサンジオン、1,3-ビス[2-(1-メチルエチリデン)ヒドラジノカルボニル]ベンゼンなどが挙げられる。
【0036】
本実施形態の樹脂組成物におけるホルムアルデヒド捕捉剤(好ましくは、ヒドラゾン化合物)の含有量は、ポリアセタール樹脂100質量部に対し、0.01質量部以上であることが好ましく、0.02質量部以上であることがより好ましく、0.05質量部以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、滞留時間が長い場合のホルムアルデヒドの発生をより効果的に抑制できる傾向にある。また、前記ホルムアルデヒド捕捉剤(好ましくは、ヒドラゾン化合物)の含有量は、ポリアセタール樹脂100質量部に対し、5質量部以下であることが好ましく、4質量部以下であることがより好ましく、3質量部以下であることがさらに好ましく、2質量部以下であることが一層好ましく、1質量部以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、金型汚染をより効果的に抑制できる傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物は、ホルムアルデヒド捕捉剤を1種のみ、または2種以上を含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0037】
<ポリアミド>
本実施形態の樹脂組成物は、さらに、ポリアセタール樹脂100質量部に対し、ポリアミド0.01~10.0質量部を含むことが好ましい。ポリアミドを含むことにより、低温耐衝撃性を高くすることができる。
本実施形態において、ポリアミドは、重合脂肪酸ポリアミドおよびポリアミドエラストマーからなる群より選ばれた少なくとも1種のポリアミドであることが好ましく、重合脂肪酸であることがより好ましく、ダイマー酸であることがさらに好ましい。
ここで、重合脂肪酸ポリアミドとは、重合脂肪酸とジアミンとの重縮合体で構成されるポリアミドをいう。
【0038】
重合脂肪酸とは、不飽和脂肪酸の重合体またはこの重合体を水素添加して得られるものであり、重合脂肪酸としては、例えば10~24の炭素数を有し、二重結合または三重結合を1個以上有する一塩基性脂肪酸の二量体(ダイマー酸)またはその水素添加物が挙げられる。ダイマー酸としては、例えば、オレイン酸、リノール酸およびエルカ酸等の二量体が挙げられる。ダイマー酸ポリアミドのアミン価としては、1.0~5.0mgKOH/gが好ましい。
【0039】
ジアミンとしては、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、デカメチレンジアミンおよびメタキシリレンジアミン等が挙げられる。
【0040】
ポリアミドエラストマーとは、ハードセグメントとソフトセグメントとを有し、ハードセグメントがポリアミドで構成され、ソフトセグメントがポリアミド以外のポリマーで構成されるポリアミドをいう。ハードセグメントを構成するポリアミドとしては、例えばナイロン-6、ナイロン-6,6、ナイロン-6,10、これらの3元共重合体、重合脂肪酸ポリアミド等が挙げられる。ポリアミド以外のポリマーとしては、例えば脂肪族ポリエステルおよび脂肪族ポリエーテルが挙げられる。脂肪族ポリエステルとしては、例えば、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペートおよびポリブチレンサクシネート等が挙げられる。脂肪族ポリエーテルとしては、例えばポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド等のポリオキシアルキレングリコールが挙げられる。
【0041】
上記ポリアミド(好ましくはダイマー酸)の含有量は、ポリアセタール樹脂100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましく、0.05質量部以上であることがより好ましく、0.1質量部以上であることがさらに好ましく、0.3質量部以上であることが一層好ましい。前記ポリアミドの含有量は、ポリアセタール樹脂100質量部に対して、10.0質量部以下であることが好ましく、9.0質量部以下であることがより好ましく、7.0質量部以下であることがさらに好ましく、5.0質量部以下であることが一層好ましく、1.0質量部以下であることがより一層好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、ポリアミドを1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0042】
<他の成分>
本実施形態の樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲内で、従来公知の任意の添加剤や充填剤を含んでいてもよい。本実施形態に用いる添加剤や充填剤としては、例えば、ポリアセタール樹脂および部分架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂以外の熱可塑性樹脂、紫外線吸収剤、酸化防止剤、安定剤、帯電防止剤、炭素繊維、ガラス繊維、ガラスフレーク、チタン酸カリウムウイスカー等が挙げられる。これらの詳細は、特開2017-025257号公報の段落0113~0124の記載を参酌することができ、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0043】
本実施形態の樹脂組成物の第1の形態は、上記樹脂組成物であって、ポリアセタール樹脂と、部分架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂と、ホルムアルデヒド捕捉剤と、必要に応じ配合されるポリアミドの合計が、樹脂組成物の95質量%以上を占める態様であり、99質量%以上占めることがより好ましい。
【0044】
本実施形態の樹脂組成物の第2の形態は、ポリアセタール樹脂100質量部に対し、部分架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂を15~50質量部含み、前記部分架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂のガラス転移温度が-40℃以下であり、前記ポリアセタール樹脂が、オキシメチレン基と、炭素数2以上のオキシアルキレン基とを含み、前記オキシアルキレン基が前記オキシメチレン基100mol当たり0molより大きく1.3mol以下の割合で含まれている、樹脂組成物である。上記ポリアセタール樹脂、部分架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂およびその詳細の好ましい範囲は上述の実施形態の樹脂組成物と同様である。
【0045】
本実施形態の樹脂組成物は、コアシェル型エラストマー、さらにはエラストマー(部分架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂は含まない)を実質的に含まない構成とすることができる。実質的に含まないとは、コアシェル型エラストマー、さらにはエラストマーの含有量が樹脂組成物に含まれる部分架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂の含有量の5質量%以下であることをいい、3質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。
【0046】
<樹脂組成物の物性>
本実施形態の樹脂組成物は、前記樹脂組成物をJIS K 7111に準拠した方法で成形し、ノッチ加工を施したときの-40℃の温度下におけるノッチ付シャルピー衝撃強さが9kJ/m2以上である。このような低温における耐衝撃性は、例えば、ポリアセタール樹脂の種類の選択、部分架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂を用いること、部分架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂のTgが低いものを用いること、あるいは、混練の条件の調整などによって達成される。より具体的には、オキシエチレン単位の割合が少ないポリアセタール樹脂を用いること、ガラス転移温度-40℃以下のポリウレタン樹脂を用いること、および、溶融混練の際の練りを強くすることの少なくとも1つを行うことによって達成される。溶融混練の際の練りを強くすることにより、部分架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂の粒が小さくなり、ポリアセタール樹脂中でよく分散するようになり、その効果がより効果的に発揮されると推測される。
【0047】
本実施形態の樹脂組成物は、100mm×40mm×2mmの平板試験片に成形し、ドイツ自動車工業組合規格VDA275法に基づいて測定したホルムアルデヒド発生量がポリアセタール樹脂1g当たり、通常、45質量ppm以下であり、5質量ppm以下であることが好ましく、4質量ppm以下であることがより好ましい。下限値は0が理想であるが、0.1質量ppm以上が実際的である。
【0048】
本実施形態の樹脂組成物は、前記樹脂組成物を溶融し、両端から左右対称に充填しウェルドラインを形成させたASTM D638 TypeI形状のダンベル試験片に成形し、前記ダンベル試験片を10mm/分の速度で引張試験を行った際に、破断点が降伏点よりも大きい。ポリアセタール樹脂と熱可塑性ポリウレタン樹脂を混練させた場合、ウェルドラインが存在するダンベル試験片においては、ウェルド部の密着性が低いことにより降伏点を向かえる前に破断に至ってしまう。本実施形態においては、部分架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂を用いることにより、ウェルド部を有したダンベル試験片の破断点が降伏点より大きいことをウェルドラインの密着度の尺度とすることができる。
【0049】
<樹脂組成物および成形品の製造方法>
本実施形態の樹脂組成物は、上述した必須成分および必要に応じ上述した任意の成分を含有させてなる。そしてその製造方法としては、従来公知の任意のポリアセタール樹脂組成物の製造方法を使用し、これらの原料を混合・溶融混練すればよい。
【0050】
混練機は、ニーダー、バンバリーミキサー、押出機等が例示される。混合・溶融混練の各種条件や装置についても、特に制限はなく、従来公知の任意の条件から適宜選択して決定すればよい。溶融混練はポリアセタール樹脂が溶融する温度以上、例えば、融点+5℃以上、好ましくは、融点+5℃~融点+70℃で行う。また、低温耐衝撃性を高めるために、練りが強くなるようにスクリューの種類や回転数を調整してもよい。
【0051】
本実施形態の成形品は、本実施形態の樹脂組成物から形成される。
本実施形態の樹脂組成物は、溶融混練して、成形品に製造される。具体的には、本実施形態の樹脂組成物をペレタイズして得られたペレットを各種の成形法で成形して成形品としてもよいし、ペレットを経由せずに、押出機で溶融混練された樹脂組成物を直接、成形して成形品にすることもできる。
成形品の形状としては、特に制限はなく、成形品の用途、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、板状、プレート状、ロッド状、シート状、フィルム状、円筒状、環状、円形状、楕円形状、歯車状、多角形形状、異形品、中空品、枠状、箱状、パネル状、キャップ状のもの等が挙げられる。本実施形態の成形品は、完成品であってもよいし、部品であってもよい。
【0052】
成形品を成形する方法としては、特に制限されず、従来公知の成形法を採用でき、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、異形押出法、トランスファー成形法、中空成形法、ガスアシスト中空成形法、ブロー成形法、押出ブロー成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、回転成形法、多層成形法、2色成形法、インサート成形法、サンドイッチ成形法、発泡成形法、加圧成形法等が挙げられる。
【0053】
<用途>
本実施形態の樹脂組成物および成形品は、ホルムアルデヒド発生量の低減が強く求められる用途、例えば、自動車部品、電気・電子部品、精密機械部品、建材・配管部品、日用品、化粧品用部品、医療用機器部品、屋内使用部品などに好適に使用できる。
より具体的には、自動車部品としては、インナーハンドル、フェーエルトランクオープナー、シートベルトバックル、アシストラップ、各種スイッチ、ノブ、レバー、クリップなどの内装部品、メーターやコネクターなどの電気系統部品、オーディオ機器やカーナビゲーション機器などの車載電気・電子部品、ウインドウレギュレーターのキャリアープレートに代表される金属と接触する部品、ドアロックアクチェーター部品、ミラー部品、ワイパーモーターシステム部品、燃料系統の部品などの機構部品が例示できる。
【0054】
電気・電子部品としては、金属接点が多数存在する機器の構成部品または部材、例えば、カセットテープレコーダ、CD・DVDプレイヤーなどのオーディオ機器、VTR、8mmビデオカメラ、デジタルビデオカメラなどのビデオ機器、コピー機、ファクシミリ、ワードプロセサー、コンピューターなどのOA機器などの構成部品または部材が例示できる。これらの構成部品または部材の具体例としては、シャーシ、ギヤー、レバー、カム、プーリー、軸受けなどが挙げられる。さらに、少なくとも一部が成形品で構成された光および磁気メディア部品、例えば、音楽用メタルテープカセット、デジタルオーディオテープカセット、8mmビデオテープカセット、デジタルビデオカセット、フロッピーディスクカートリッジ、ミニディスクカートリッジ、DVDディスクカートリッジなどの部品にも適用可能である。
【0055】
さらに、本実施形態の成形品は、照明器具、建具、配管、コック、蛇口、トイレ周辺機器部品などの建材・配管部品、ファスナー類、文具、リップクリーム・口紅容器、洗浄器、浄水器、スプレーノズル、スプレー容器、エアゾール容器、一般的な容器、注射針のホルダーなどの広範な生活関係部品・化粧関係部品・医療用関係部品に好適に使用される。
【0056】
特に自動車分野においては、車内が閉じられた環境下に置かれる場合が多く、また、車内が相当の高温に達する場合もあり、ホルムアルデヒド発生量の少ない本実施形態の樹脂組成物はかかる分野の成形品に特に好適に用いられるものである。
【実施例0057】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
【0058】
原料
<ポリアセタール樹脂(A)>
(A-1)ユピタールA10-03:トリオキサンと1,3-ジオキソランとのオキシメチレンコポリマーであり、オキシエチレンユニット1.0mol%を含有するポリアセタール樹脂(MI:50g/10分)(溶融指数(MI)は、ASTM-D1238に準拠し、190℃、2.16kg荷重下の条件での測定値である。)、融点:168℃
(A-2)ユピタールF30-03:トリオキサンと1,3-ジオキソランとのオキシメチレンコポリマーであり、オキシエチレンユニット1.5mol%を含有するポリアセタール樹脂(MI:50g/10分)、融点:166℃
<熱可塑性ポリウレタン樹脂(B)>
(B-1)ガムセンARX-650:部分架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂、オカダエンジニアリング社製、-50℃
(B-2)エラストランS80A:非架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂、BASF社製、ガラス転移温度-30℃
(B-3)エラストランET870:非架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂、BASF社製、ガラス転移温度-55℃
(B-4)ミラクトランE385:非架橋型の熱可塑性ポリウレタン樹脂、日本ミラクトラン社製、ガラス転移温度-50℃
上記ガラス転移温度は、動的粘弾性測定装置を用いて加振周波数10Hz、3℃/minの昇温速度で昇温させた際に得られたtanδのピーク温度に従って測定した値である。
<ホルムアルデヒド捕捉剤(C)>
(C-1):1,6-ビス[2-(1-メチルエチリデン)ヒドラジノ]-1,6-ヘキサンジオン
(C-2):アジピン酸ジヒドラジド
<ポリアミド(D)>
(D-1)TXM-272:ダイマー酸ポリアミド、T&K TOKA社製、アミン価3.0mgKOH/g
【0059】
実施例1~3および比較例1~6
<コンパウンド>
下記表1および表2に示すとおり各成分を配合し(表1および表2における各成分の配合量の単位は質量部である)、プリブレンドした後、1ヶ所のベント口を有する26mm径の二軸押出機の主フィード口に投入して溶融混合(押出条件:L/D=48、押出温度=215℃、スクリュー回転数=240rpm)し、ペレット(樹脂組成物)を調製した。
【0060】
<試験片の成形>
上記ペレットを用いて射出成形により下記の試験片を用意した。
(1)ISOダンベル試験片
金型温度40℃、シリンダ温度200℃の設定で1点ゲートから4mm厚のISOダンベル試験片を成形した。
(2)ASTM D638 TypeI形状ダンベル試験片
金型温度40℃、シリンダ温度200℃の設定で両端から左右対称に溶融した樹脂組成物を充填しウェルドラインを形成させた形状のダンベル試験片を成形した。
(3)ホルムアルデヒド発生量用平板
金型温度80℃、シリンダ温度215℃の設定で100mm×40mm×2mmの平板試験片を成形した。
【0061】
<ウェルド伸び>
ASTM TypeI形状のダンベル試験片を10mm/minの速度で引張試験を行い、破断点を確認した。破断点が降伏点よりも大きい場合をA、小さい場合をBとしてウェルド伸びを評価した。ウェルドが伸びない材料は、降伏点を迎える前に破断してしまう。
図1に示すように、降伏点を越えても破断しない材料はウェルド伸びが強いという指標となる。
【0062】
<ノッチ付シャルピー衝撃強さ>
上記で得られたISOダンベル試験片について、JISK7111に従いノッチングマシンを用いてノッチR0.25mm、深さ2mmのノッチ加工を施した。その後、恒温槽付シャルピー衝撃試験機にてISO179-1に従い、1Jのハンマーを用いて、23℃および-40℃の温度下のシャルピー衝撃強さをそれぞれ測定した。単位は、kJ/m2で示した。
【0063】
<ホルムアルデヒド発生量>
平板試験片を作製した翌日に、ドイツ自動車工業組合規格VDA275(自動車室内部品-改訂フラスコ法によるホルムアルデヒド放出量の定量)に記載された方法に準拠して、下記の(1)~(3)の方法により上記平板試験片のホルムアルデヒド発生量を測定した。
(1)ポリエチレン容器中に蒸留水50mLを入れ、上記平板試験片を空中に吊るした状態で蓋を閉め、密室状態で60℃にて3時間加熱した。
(2)続いて室温で60分間放置した後、平板試験片を取り出した。
(3)ポリエチレン容器中の蒸留水中に吸収されたホルムアルデヒド量を、UVスペクトロメーターにより、アセチルアセトン比色法で測定した。このホルムアルデヒド量を平板試験片中のポリアセタール樹脂の質量で割った値をホルムアルデヒド発生量とした。
単位は、質量ppm/POM1g(ポリアセタール樹脂1g当たりのホルムアルデヒドの発生量(質量ppm))で示した。
【0064】
【0065】
上記結果から明らかなとおり、本実施形態の樹脂組成物(実施例1~3)は、ウェルド伸びに優れ、かつ、低温でのシャルピー衝撃強さを高く維持できた。特に、シャルピー衝撃強さは、常温で2kJ/m2レベル、低温で1kJ/m2レベルで向上せるのが非常に困難であることを考慮すると、比較例1~6の樹脂組成物に対し、極めて顕著を奏していることが分かる。
さらに、実施例1に対して、ホルムアルデヒド捕捉剤を配合した実施例2は、ホルムアルデヒドの発生量を格段に低減できた。また、実施例1と実施例2とでは、常温に加え、低温でのシャルピー衝撃強さが低下してしまった。しかしながら、実施例2に対し、さらに、ポリアミドを配合することにより、ホルムアルデヒドの発生量を低く維持しつつ、低温シャルピー衝撃強さを実施例1(ホルムアルデヒド捕捉剤を非配合)と同等とすることができた(実施例3)。これは、技術的に極めて驚くべきことであり、また実際の利用面でも価値が高いものである。