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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023030879
(43)【公開日】2023-03-08
(54)【発明の名称】導体の検査装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/54 20200101AFI20230301BHJP
   G01R 31/58 20200101ALI20230301BHJP
【FI】
G01R31/54
G01R31/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021136267
(22)【出願日】2021-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤牧 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】宮寺 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】久米 直人
(72)【発明者】
【氏名】杉田 宰
(72)【発明者】
【氏名】隅田 晃生
【テーマコード(参考)】
2G014
【Fターム(参考)】
2G014AA02
2G014AB31
(57)【要約】
【課題】主要部から分岐する分岐部を備えた導体に生ずる断線等の損傷検査を高精度に実施することができる。
【解決手段】主要部2から分岐する分岐部3、4を備えた導体1への入射波の入射パルス信号Sと導体1からの反射波の反射パルス信号P1~P5とを受信するパルス信号受信器14と、入射パルス信号及び反射パルス信号に対応したインパルスを含むパルス列情報Iに基づいてパルス列信号Lを生成するパルス列信号生成部17と、パルス信号受信器からの入射パルス信号S及び反射パルス信号P1~P5の波形とパルス列信号生成部からのパルス列信号Lの波形とを比較して差分を算出する波形比較部18と、この波形比較部により算出される差分が設定値以下になるようにパルス列情報Iを調整してパルス列信号Lを変更し、入射パルス信号S及び反射パルス信号P1~P5を評価すると共に、調整したパルス列情報Iを特定する評価部19と、を有するものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主要部から分岐する分岐部を備えた導体への入射波の入射パルス信号と前記導体からの反射波の反射パルス信号とを受信するパルス信号受信器と、
前記入射パルス信号及び前記反射パルス信号に対応したインパルスを含むパルス列情報に基づいてパルス列信号を生成するパルス列信号生成部と、
前記パルス信号受信器からの前記入射パルス信号及び前記反射パルス信号の波形と前記パルス列信号生成部からの前記パルス列信号の波形とを比較して差分を算出する波形比較部と、
前記波形比較部により算出される前記差分が設定値以下になるように前記パルス列情報を調整して前記パルス列信号を変更し、前記入射パルス信号及び前記反射パルス信号を評価すると共に、調整した前記パルス列情報を特定する評価部と、を有して構成されたことを特徴とする導体の検査装置。
【請求項2】
パルス信号を発生させるパルス信号発生器と、
導体の基端に接続されて、前記パルス信号を入射波の入射パルス信号として前記導体に伝搬させる接続部と、
前記パルス信号発生器からの前記パルス信号を入力すると共に、前記パルス信号発生器の出力インピーダンスを前記導体に対して調整するインピーダンス調整回路と、を更に有し、
前記接続部と前記インピーダンス調整回路との連絡経路の途中から延びる分岐経路にパルス信号受信器が接続されて構成されたことを特徴とする請求項1に記載の導体の検査装置。
【請求項3】
前記導体の識別情報を含む診断情報を入力する診断情報入力手段と、
パルス列情報を内部に保持し、このパルス列情報を前記診断情報に基づいてパルス列信号生成部に入力するパルス列情報保持手段と、を更に有して構成されたことを特徴とする請求項1または2に記載の導体の検査装置。
【請求項4】
前記パルス列情報保持手段には、導体の健全時及び故障時における前記導体のパルス列情報が予め複数保持されて構成されたことを特徴とする請求項3に記載の導体の検査装置。
【請求項5】
前記パルス列情報保持手段には、導体の形状判断が可能な設計図や写真の情報から推定される前記導体のパルス列情報が予め複数保持されて構成されたことを特徴とする請求項3または4に記載の導体の検査装置。
【請求項6】
前記波形比較部は、波形比較時に、パルス信号受信器からの入射パルス信号及び反射パルス信号とパルス列信号生成部からのパルス列信号とを、前記入射パルス信号または波高値の大きな前記反射パルス信号を基準として正規化した上で比較するよう構成されたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の導体の検査装置。
【請求項7】
前記評価部は、パルス列情報におけるインパルスのうち、導体の主要部の先端に対応したインパルスの位置の変化に着目して、前記導体に生じた断線を検出するよう構成されたことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の導体の検査装置。
【請求項8】
主要部から分岐する分岐部を備えた導体への入射波の入射パルス信号と前記導体からの反射波の反射パルス信号とを、パルス信号受信器が受信するステップと、
前記入射パルス信号及び前記反射パルス信号に対応したインパルスを含むパルス列情報に基づいて、パルス列信号生成部がパルス列信号を生成するステップと、
前記パルス信号受信器からの前記入射パルス信号及び前記反射パルス信号の波形と前記パルス列信号生成部からの前記パルス列信号の波形とを、波形比較部が比較して差分を算出するステップと、
前記波形比較部により算出される前記差分が設定値以下になるように、評価部が前記パルス列情報を調整して前記パルス列信号を変更し、前記入射パルス信号及び前記反射パルス信号を評価すると共に、調整した前記パルス列情報を特定するステップと、を有することを特徴とする導体の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、導体に生ずる断線等の損傷を検査する導体の検査装置及び導体の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
避雷針からの雷電流を大地に還流するダウンコンダクタ(避雷導線)の健全性確認手法としては、ダウンコンダクタの両端にアクセスして抵抗値を測定する方法が広く一般的に用いられている。電気的なパルス信号を用いて信号経路を検査する方法としては、Time Domain Reflectometry(TDR)法が広く用いられている。これは、信号経路の一端に矩形波やステップ波等の電気的なパルス信号を入力し、信号経路内を伝搬したパルス信号が再び入力端に戻ってくるまでの時間や、反射したパルス信号の波形及び周波数特性等から信号経路の状態を判定する手法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-29351号公報
【特許文献2】特開2020-148724号公報
【特許文献3】特開平2-234521号公報
【特許文献4】特開昭53-136641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
TDR法を用いて通信線路の故障位置を探索する装置が特許文献3に記載されている。この特許文献3のようなTDR法による検査手法や、特許文献4に記載のパルスレーダ法は、明示的あるいは暗黙的に、信号線とGND線もしくはシールド線とのペア(対)、または差動信号を伝送する電線と信号線とのペアを対象としている。しかしながら、避雷針に用いられるダウンコンダクタは、通信や電力輸送に用いられる電線とは異なり、対の存在しない一本の電線で構成されている。従って、ダウンコンダクタに対して、これまで一般的に用いられてきた、信号線と対になるGND線やシールド線の存在を想定する検査手法をそのまま適用することができない。
【0005】
このような中で、健全性検査を簡易に実施する方法として、特許文献1に記載のステップ波や特許文献2に記載のパルス波の信号を、対のない単独の電線、すなわち直流もしくは交流の閉ループを持たない「単線のケーブル」もしくは「一本の導体」に印加して検査する手法が提案されている。
【0006】
このステップ波やパルス波の信号を用いた特許文献1、2に記載の検査手法は、直流もしくは交流の閉ループを持たない「単線のケーブル」もしくは「一本の導体」の検査を可能にする手法であるが、実用される風車のブレードに適用されるダウンコンダクタは、複数の着雷部を設けるために分岐した構造になっている。このため、上述の検査手法を用いて分岐構造のある導体を検査する際には、分岐部が不要な反射波源になってS/N比が低下してしまう課題がある。
【0007】
本発明の実施形態は、上述の事情を考慮してなされたものであり、主要部から分岐する分岐部を備えた導体であっても、この導体に生ずる断線等の損傷検査を高精度に実施することができる導体の検査装置及び導体の検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態における導体の検査装置は、主要部から分岐する分岐部を備えた導体への入射波の入射パルス信号と前記導体からの反射波の反射パルス信号とを受信するパルス信号受信器と、前記入射パルス信号及び前記反射パルス信号に対応したインパルスを含むパルス列情報に基づいてパルス列信号を生成するパルス列信号生成部と、前記パルス信号受信器からの前記入射パルス信号及び前記反射パルス信号の波形と前記パルス列信号生成部からの前記パルス列信号の波形とを比較して差分を算出する波形比較部と、前記波形比較部により算出される前記差分が設定値以下になるように前記パルス列情報を調整して前記パルス列信号を変更し、前記入射パルス信号及び前記反射パルス信号を評価すると共に、調整した前記パルス列情報を特定する評価部と、を有して構成されたことを特徴とするものである。
【0009】
本発明の実施形態における導体の検査方法は、主要部から分岐する分岐部を備えた導体への入射波の入射パルス信号と前記導体からの反射波の反射パルス信号とを、パルス信号受信器が受信するステップと、前記入射パルス信号及び前記反射パルス信号に対応したインパルスを含むパルス列情報に基づいて、パルス列信号生成部がパルス列信号を生成するステップと、前記パルス信号受信器からの前記入射パルス信号及び前記反射パルス信号の波形と前記パルス列信号生成部からの前記パルス列信号の波形とを、波形比較部が比較して差分を算出するステップと、前記波形比較部により算出される前記差分が設定値以下になるように、評価部が前記パルス列情報を調整して前記パルス列信号を変更し、前記入射パルス信号及び前記反射パルス信号を評価すると共に、調整した前記パルス列情報を特定するステップと、を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態によれば、主要部から分岐する分岐部を備えた導体であっても、この導体に生ずる断線等の損傷検査を高精度に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態に係る導体の検査装置の構成を、検査対象の導体と共に示すブロック図。
図2図1の導体内を伝搬する入射パルス信号、反射パルス信号の時間差と導体長さとの関係を示すグラフ。
図3図1の導体内を伝搬する入射パルス信号、反射パルス信号の波形を示すグラフ。
図4図1のパルス列信号生成部がパルス列信号を生成する状況を説明する説明図。
図5】(A)、(B)及び(C)は、導体における断線発生位置とパルス列情報とを関連づけてそれぞれ示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態を、図面に基づき説明する。
図1は、一実施形態に係る導体の検査装置の構成を、検査対象の導体と共に示すブロック図である。この図1に示す導体の検査装置10は、検査対象としての導体1に断線等の損傷が発生しているか否かを検査する装置であり、パルス信号発生器11、インピーダンス調整回路12、接続部13、パルス信号受信器14、診断情報入力手段15、パルス列情報保持手段16、パルス列信号生成部17、波形比較部18及び評価部19を有して構成される。このうち、診断情報入力手段15、パルス列情報保持手段16、パルス列信号生成部17、波形比較部18及び評価部19が、入射パルス信号S及び反射パルス信号P1~P5(共に後述)の波形を分析する波形分析ユニット20を構成する。
【0013】
ここで、導体1は、主要部2から複数本の分岐部(本実施形態では分岐部3、4)が分岐した構造である。この導体1は、例えば避雷針から雷電流を大地に還流するダウンコンダクタ(避雷導線)等である。
【0014】
パルス信号発生器11は、電気的なパルス信号Oを発生させる。また、インピーダンス調整回路12は、パルス信号発生器11からのパルス信号を入力すると共に、パルス信号発生器11の出力インピーダンスを導体1に対して調整する。即ち、インピーダンス調整回路12は、手動による設定またはインピーダンス調整回路12自身の機能によって、パルス信号発生器11の出力インピーダンスを導体1の入力インピーダンスにマッチさせるよう調整する。
【0015】
接続部13は、導体1の主要部2の基端2Bに接続されて、パルス信号発生器11にて発生し、インピーダンス調整回路12を経たパルス信号Oを、入射波の入射パルス信号Sとして導体1に入射させ伝搬させる。接続部13から導体1に入射された入射パルス信号Sは、導体1内を光よりも若干遅い速度で伝搬し、分岐部3の分岐部位3B、分岐部3の先端3A、分岐部4の分岐部位4B、分岐部4の先端4A、主要部2の先端2Aでそれぞれ反射し、反射パルス信号P1、P2、P3、P4、P5となって接続部13に戻る。
【0016】
反射パルス信号P1は、導体1の分岐部3の分岐部位3Bからの反射波の反射パルス信号であり、反射パルス信号P2は、導体1の分岐部3の先端3Aからの反射波の反射パルス信号である。また、反射パルス信号P3は、導体1の分岐部4の分岐部位4Bからの反射波の反射パルス信号であり、反射パルス信号P4は、導体1の分岐部4の先端4Aからの反射波の反射パルス信号である。反射パルス信号P5は、導体1の主要部2の先端2Aからの反射波の反射パルス信号である。
【0017】
パルス信号受信器14は、インピーダンス調整回路12と接続部13との連絡経路21の途中から延びる分岐経路22に接続されて、導体1への入射パルス信号Sと導体1からの反射パルス信号P1~P5とを受信する。このパルス信号受信器14にて受信された入射パルス信号S及び反射パルス信号P1~P5を図3に示す。パルス信号受信器14は、受信した入射パルス信号S及び反射パルス信号P1~P5を、波形比較部18で比較可能な信号形式に変換して波形比較部18に入力する。
【0018】
上述の信号変換方式は、例えばAnalog to Digital Converterによる方法、または単一もしくは複数のコンパレータにより電圧値が所定閾値を超えた時間を信号受信時間として用いる方法が適用される。また、パルス信号受信器14での入射パルス信号Sの受信時間と反射パルス信号P1~P5の受信時間との時間差と、導体1の長さとの関係は、導体1が例えば直径2~4mm程度である場合に図2の通りである。
【0019】
診断情報入力手段15は、作業員、または導体の検査装置10に接続されたコンピュータ等の制御機器から導体1の識別情報を含む診断情報を受け取り、パルス列情報保持手段16に入力する。つまり、診断情報入力手段15は、導体の検査装置10の外部から検査対象の導体1に関する診断情報を入力するための手段であって、作業員、もしくは例えばUSBケーブル等のインターフェースを介して接続されたコンピュータ等から診断情報を受取り、パルス列情報保持手段16に入力する。診断情報は、導体1を識別するためのシリアルナンバーや導体1が敷設されているプラント名、装置名、過去の検査記録等が含まれる。また、導体の検査装置10の外部からパルス列情報保持手段16にパルス列情報Iを入力する際にも、この診断情報入力手段が使用される。
【0020】
パルス列情報保持手段16は、主要部2及び分岐部3、4を備えた導体1について入射パルス信号S及び反射パルス信号P1~P5のそれぞれに対応したインパルス(各パルス信号のパルス位置及び波高値を表したもの)を複数列記録したパルス列情報(インパルス列)Iを内部に保持する。このパルス列情報Iは、例えば図4に示すものであり、インパルスLSが入射パルス信号Sに対応し、インパルスI1が反射パルス信号P1に対応し、インパルスI2が反射パルス信号P2に対応し、インパルスI3が反射パルス信号P3に対応し、インパルスI4が反射パルス信号P4に対応し、インパルスI5が反射パルス信号P5に対応する。
【0021】
そして、パルス列情報保持手段16は、導体1の過去の検査時における健全時のパルス列情報I、図面または写真などの形状判断が可能な情報から推定(算出)された健全時の導体1のパルス列情報I、及び過去の故障事例に紐付けられた導体1のパルス列情報I等が予め複数保持される。このパルス列情報保持手段16は、診断情報入力手段15からの診断情報もしくは評価部19からの入力に基づいて、保持しているパルス列情報Iをパルス列信号生成部17に入力する。
【0022】
パルス列信号生成部17は、パルス列情報保持手段16または評価部19から入力されたパルス列情報Iに基づいて、図4に示すパルス列信号Lを生成する。即ち、パルス列信号生成部17は、上記パルス列情報Iと、パルス信号発生器11が発生したパルス信号O(基準波形)とを畳み込み演算することでパルス列信号Lを生成する。このパルス列信号Lは、出力信号LSが入射パルス信号Sに相当し、出力信号L1が反射パルス信号P1に相当し、出力信号L2が反射パルス信号P2に相当し、出力信号L3が反射パルス信号P3に相当し、出力信号L4が反射パルス信号P4に相当し、出力信号L5が反射パルス信号P5に相当する。パルス列信号生成部17にて生成されたパルス列信号Lは、波形比較部18に入力される。
【0023】
波形比較部18は、パルス信号受信器14からの図3に示す入射パルス信号S及び反射パルス信号P1~P5の各波形を、パルス列信号生成部17にて生成された図4に示すパルス列信号L(出力信号LS、L1~L5)の各波形と比較して差分(時間方向の乖離率及び波高方向の残差)を算出する。波形比較部18は、算出した差分を評価部19に入力する。上記差分の計算は、一例として、入射パルス信号S及び反射パルス信号P1~P5とパルス列信号Lの出力信号LS、L1~L5同士の差の総和を用いる方法が適用可能である。
【0024】
上記差分を計算する他の例としては、パルス信号受信器14からの入射パルス信号S、反射パルス信号P1~P5とパルス列信号生成部17からのパルス列信号L(出力信号LS、L1~L5)とを、入射パルス信号Sまたは反射パルス信号P1~P5のいずれかの波高値(例えば波高値の大きな反射パルス信号P5の波高値)を基準として正規化した上で、比較して差分を算出する方法が適用可能である。
【0025】
評価部19は、入射パルス信号S及び反射パルス信号P1~P5の各波形とパルス列信号L(出力信号LS、L1~L5)の各波形との比較により波形比較部18で算出された差分が、設定値以下になるようにパルス列情報Iを調整してパルス列信号Lを変更し、入射パルス信号S及び反射パルス信号P1~P5を評価する。更に、評価部19は、調整したパルス列情報Iを特定して図示しない表示器に表示させる。
【0026】
つまり、導体1に例えば断線が生じている場合には、パルス信号受信器14が受信する反射パルス信号P1~P5に変化が生じ、波形比較部18は、パルス列信号生成部17からのパルス列信号Lとパルス信号受信器14からの入射パルス信号S及び反射パルス信号P1~P5との差分を評価部19に入力する。評価部19は、この差分が設定値以上の場合には、パルス列信号生成部17にて生成されたパルス列信号Lとパルス信号受信器14にて受信された入射パルス信号S及び反射パルス信号P1~P5とが異なるものとみなす。そして、評価部19は、パルス列信号生成部17が生成するパルス列信号Lを、パルス信号受信器14にて受信された入射パルス信号S及び反射パルス信号P1~P5に近づけるように、パルス列情報保持手段16またはパルス列信号生成部17を制御する。
【0027】
制御を受けたパルス列情報保持手段16は、現在のパルス列情報Iを、過去の故障事例に紐付けられたパルス列情報Iに調整してパルス列信号生成部17に入力し、このパルス列信号生成部17にて生成されるパルス列信号Lを変更させる。また、制御を受けたパルス列信号生成部17は、自身が生成するパルス列信号L(出力信号LS、L1~5)がパルス信号受信器14からの入射パルス信号S及び反射パルス信号P1~P5に近づくように、パルス列情報IのインパルスIS及びI1~I5の相対位置及び強度を調整して、パルス列信号Lを変更して生成する。
【0028】
以後、評価部19は、波形比較部18にて算出される差分が設定値以下になるまで上述の操作を反復実行し、上記差分が設定値以下になった際のパルス列情報I(インパルスIS、I1~I5)を特定して表示器に表示させる。
【0029】
図5(A)に示すように、導体1の主要部2における端部2A付近で断線が発生し、パルス信号受信器14にて受信された入射パルス信号S及び反射パルス信号P1~P5のうち、反射パルス信号P5が図3の破線に示すように左方にずれて変化した場合には、評価部19は、波形比較部18にて算出された差分に基づいて例えばパルス列信号生成部17を制御する。そして、評価部19は、図5(A)に示すように、パルス列信号生成部17によりパルス列情報IのインパルスI5を左位置にずらして調整させ、パルス列信号Lを変更、即ち図4の破線に示すように出力信号L5を左位置にずらして生成させる。更に、評価部19は、パルス列信号生成部17により調整されたパルス列情報Iを特定して表示器に表示させる。
【0030】
導体1の主要部2に生ずる断線が、図5(B)に示すように分岐部3と4との間に発生した場合、または図5(C)に示すように接続部13と分岐部3との間に発生した場合にも、評価部19は、図5(A)の場合と同様にして例えばパルス列信号生成部17を制御する。そして、評価部19は、図5(B)、(C)にそれぞれ示すように、パルス列信号生成部17によりパルス列情報IのインパルスI5を左位置にずらして調整させて、インパルス列信号Lを変更して生成させると共に、パルス列信号生成部17により調整されたパルス列情報Iを特定して表示器に表示させる。
【0031】
導体1の分岐部3または4、例えば分岐部4に断線が発生した場合には、パルス信号受信器14にて受信される入射パルス信号S及び反射パルス信号P1~P5(図3)のうちの反射パルス信号P4が左方にずれるように変化する。そこで、評価部19は、例えばパルス列信号生成部17を制御して、パルス列信号生成部17によりパルス列情報IのインパルスI4を左位置にずらして調整させて、パルス列信号Lを変更して生成させると共に、パルス列信号生成部17により調整されたパルス列情報Iを表示器に表示させる。
【0032】
導体1に断線が発生している場合で且つ波形比較部18にて算出される差分が設定値以下にならない場合には、波形比較部18は、パルス信号受信器14からの入射パルス信号Sと反射パルス信号P5との時間差ΔTfを、健全時の導体1についてパルス信号受信器14が受信する入射パルス信号Sと反射パルス信号P5との時間差ΔThと比較して、それらの差分(ΔTh-ΔTf)を算出する。この場合、評価部19は、上記差分(ΔTh-ΔTf)が規定値を上回った場合には導体1に断線が生じていると判断して、断線発生の通知を、時間差ΔTfと共に表示器に表示させる。
【0033】
上述のように表示器に表示されたパルス列情報I、時間差ΔTfに基づいて、作業者が導体1の断線位置を算出する。例えば、図5(A)、(B)及び(C)に示すように、作業者は、パルス列情報IにおいてインパルスISと、位置が調整されたインパルスI5との時間差Tα、Tβ、Tγを算出し、この時間差Tα、Tβ、Tγと時間差-導体長さの関係(図2)とから、導体1における接続部13からの断線位置を求める。また、作業者は、パルス信号受信器14にて受信された入射パルス信号Sと反射パルス信号P5との時間差ΔTfと、時間差-導体長さの関係(図2)とから、導体1における接続部13からの断線位置を求める。
【0034】
ここで、上述の作業者による断線位置の算出を評価部19が実施してもよい。つまり、評価部19は、波形比較部18により算出された差分が設定値以下になるように調整されたパルス列情報Iにおけるインパルスのうち、導体1の主要部2の先端2Aに対応したインパルスI5の位置の変化に着目し、このインパルスI5とインパルスISとの時間差(例えば図5の時間差Tα、Tβ、Tγ)を時間差-導体長さの関係(図2)に適用して、導体1に生じた断線の位置を算出してもよい。
【0035】
以上のように構成されたことから、本実施形態によれば、次の効果(1)~(4)を奏する。
(1)図1図3及び図4に示すように、導体1への入射パルス信号S並びに導体1の主要部2及び分岐部3、4からの反射パルス信号P1~P5と、パルス列信号生成部17にて生成されるパルス列信号Lとは、波形比較部18にて波形同士が比較される。このうち、パルス列信号Lは、導体1への入射パルス信号Sと導体1の主要部2及び分岐部3、4からの反射パルス信号P1~P5にそれぞれ対応したインパルスIS、I1~I5を含むパルス列情報Iに基づいて生成されている。このため、導体1の分岐部3及び4に起因する反射パルス信号P1~P4をノイズとせず、信号として、入射パルス信号S及び反射パルス信号P5と同様に評価対象とするので、主要部2及び分岐部3、4を備えた導体1であっても、この導体1に生ずる断線等の損傷検査を、検査精度(例えばS/N比)を低下させることなく高精度に実施することができる。
【0036】
(2)図1に示すパルス列情報保持手段16には、導体1の健全時及び故障時における導体1のパルス列情報I、更に、導体1の形状判断が可能な設計図や写真等の情報から推定される導体1の健全時のパルス列情報Iが、共に予め複数保持されている。このため、これらのパルス列情報Iに基づきパルス列信号生成部17により生成されたパルス列信号Lを用いて、パルス信号受信器14にて受信された導体1への入射パルス信号S及び導体1からの反射パルス信号P1~P5を、波形比較部18及び評価部19により高精度に評価することができる。
【0037】
(3)波形比較部18は、パルス信号受信器14からの入射パルス信号S及び反射パルス信号P1~P5とパルス列信号生成部17からのパルス列信号Lとを、入射パルス信号Sまたは波高値の大きな反射パルス信号P5を基準として正規化した上で、それらの波形を比較している。この結果、波形の比較に際し、例えば導体1と接続部13との接続誤差を含む誤差に起因する誤判定の確率を低減することができる。
【0038】
(4)評価部19は、パルス列情報IにおけるインパルスIS、I1~I5のうち、導体1の主要部2の先端2Aに対応したインパルスI5の位置の変化に着目し、このインパルスI5とインパルスISとの時間差に基づいて導体1の断線を検出している。インパルスI5は、インパルスISと同様に他のインパルスに比べて波高値が大きいことから、断線位置の検出に際して評価部19の計算負荷を低減することができる。
【0039】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができ、また、それらの置き換えや変更は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0040】
1…導体、2…主要部、2A…先端、2B…基端、3、4…分岐部、10…導体の検査装置、11…パルス信号発生器、12…インピーダンス調整回路、13…接続部、14…パルス信号受信器、15…診断情報入力手段、16…パルス列情報保持手段、17…パルス列信号生成部、18…波形比較部、19…評価部、21…連絡経路、22…分岐経路、O…パルス信号、S…入射パルス信号、P1~P5…反射パルス信号、I…パルス列情報、IS、I1~I5…インパルス、L…パルス列信号、LS、L1~L5…出力信号
図1
図2
図3
図4
図5