(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023030895
(43)【公開日】2023-03-08
(54)【発明の名称】中性子モニタ装置及び使用済み核燃料の臨界管理方法
(51)【国際特許分類】
G21C 17/06 20060101AFI20230301BHJP
G21C 19/40 20060101ALI20230301BHJP
G21C 17/12 20060101ALI20230301BHJP
G01T 3/00 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
G21C17/06 070
G21C19/40 100
G21C17/12 100
G01T3/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021136299
(22)【出願日】2021-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 研一
(72)【発明者】
【氏名】杉田 宰
(72)【発明者】
【氏名】小田 直敬
(72)【発明者】
【氏名】小田中 滋
【テーマコード(参考)】
2G075
2G188
【Fターム(参考)】
2G075FA06
2G075FA19
2G075FD07
2G188AA20
2G188BB09
2G188GG09
(57)【要約】
【課題】中性子計数率の変動の原因が未臨界度の変動かプルトニウムの同位体組成の変動やキュリウム等の妨害核種による中性子発生数の変動かを、時間遅れなく判定することのできる中性子モニタ装置等を提供する。
【解決手段】中性子計数率測定手段と、中性子計数率からプルトニウム濃度を算出し、プルトニウム濃度が設定値を超えた場合警報を発生する手段と、中性子計数率の時系列データからペリオドを算出し、ペリオドが設定値を超えた場合に警報を発生する手段と、中性子計数率の時系列データから、ある測定時間幅に対する複数の中性子計数率のデータの分散対平均比を算出し、分散対平均比が設定値を超えた場合に警報を発生する手段と、原子炉雑音法に基づき、即発中性子減衰定数αを算出し、このαと、予め解析で求めておいた遅発中性子割合βと、即発中性子寿命Lを用いて未臨界度を求める手段とを具備する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プルトニウムからの中性子計数率を測定する中性子計数率測定手段と、
前記中性子計数率からプルトニウム濃度を算出し、当該プルトニウム濃度が設定値を超えた場合警報を発生する手段と、
前記中性子計数率の時系列データからペリオドを算出し、当該ペリオドが設定値を超えた場合に警報を発生する手段と、
前記中性子計数率の時系列データから、ある測定時間幅に対する複数の中性子計数率のデータの分散対平均比を算出し、当該分散対平均比が設定値を超えた場合に警報を発生する手段と、
原子炉雑音法に基づき、即発中性子減衰定数αを算出し、当該即発中性子減衰定数αと、予め解析で求めておいた遅発中性子割合βと、即発中性子寿命Lとを用いて中性子増倍率を算出して未臨界度を求める手段と、
を具備することを特徴とする中性子モニタ装置。
【請求項2】
前記時系列データにおいて、時間間隔ti~ti+Δtの中性子カウントM(i)の、imax個のデータから、
【数1】
により平均を算出し、
【数2】
により分散を算出し、
【数3】
により前記分散対平均比を算出し、
前記Δtを変化させた時のYをプロットし、定数Ysatと
Y=Ysat[1-{1-exp(-αΔt)}/αΔt]
により、フィッティングによって即発中性子減衰定数αを算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の中性子モニタ装置。
【請求項3】
前記時系列データから逆動特性法により、中性子増倍率を算出する手段をさらに具備することを特徴とする請求項1又は2に記載の中性子モニタ装置。
【請求項4】
前記ペリオドの算出時に、過去の前記中性子計数率を用いたフィルター処理を行うことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の中性子モニタ装置。
【請求項5】
前記分散として、2つの中性子検出器の共分散をとることを特徴とする請求項1に記載の中性子モニタ装置。
【請求項6】
前記分散の算出に、MSV(mean square voltage)モードを用いることを特徴とする請求項1に記載の中性子モニタ装置。
【請求項7】
プルトニウムからの中性子計数率を測定する中性子計数率測定ステップと、
前記中性子計数率からプルトニウム濃度を算出し、当該プルトニウム濃度が設定値を超えた場合警報を発生するステップと、
前記中性子計数率の時系列データからペリオドを算出し、当該ペリオドが設定値を超えた場合に警報を発生するステップと、
前記中性子計数率の時系列データからある測定時間幅に対する複数の中性子計数率のデータから分散対平均比を算出し、当該分散対平均比が設定値を超えた場合に警報を発生するステップと、
原子炉雑音法に基づき、即発中性子減衰定数αを算出し、当該即発中性子減衰定数αと、予め解析で求めておいた遅発中性子割合βと、即発中性子寿命Lとを用いて中性子増倍率を算出して未臨界度を求めるステップと、
を具備することを特徴とする使用済み核燃料の臨界管理方法。
【請求項8】
前記時系列データにおいて、時間間隔ti~ti+Δtの中性子カウントM(i)の、imax個のデータから、
【数4】
により平均を算出し、
【数5】
により分散を算出し、
【数6】
により前記分散対平均比を算出し、
前記Δtを変化させた時のYをプロットし、定数Ysatと
Y=Ysat[1-{1-exp(-αΔt)}/αΔt]
により、フィッティングによって即発中性子減衰定数αを算出する
ことを特徴とする請求項7に記載の使用済み核燃料の臨界管理方法。
【請求項9】
前記時系列データから逆動特性法により、中性子増倍率を算出するステップをさらに具備することを特徴とする請求項7又は8に記載の使用済み核燃料の臨界管理方法。
【請求項10】
前記ペリオドの算出時に、過去の前記中性子計数率を用いたフィルター処理を行うことを特徴とする請求項7乃至9の何れか1項に記載の使用済み核燃料の臨界管理方法。
【請求項11】
前記分散として、2つの中性子検出器の共分散をとることを特徴とする請求項7に記載の使用済み核燃料の臨界管理方法。
【請求項12】
前記分散の算出に、MSV(mean square voltage)モードを用いることを特徴とする請求項7に記載の使用済み核燃料の臨界管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、中性子モニタ装置及び使用済み核燃料の臨界管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に原子力発電プラントで使用された使用済み核燃料は、所定期間冷却された後に輸送容器に収納されて、中間貯蔵施設または再処理施設へ運ばれる。この中間貯蔵施設に送られた使用済み核燃料は、数10年の間さらに冷却された後に永久処分されるか再処理施設へ送られる。
【0003】
再処理施設では、輸送容器から使用済み核燃料を取り出して、発電プラントからの輸送データと実物との照合、あるいは燃焼度などの非破壊検査により、使用済み核燃料が正しく輸送されたことを確認する。そして、この使用済み核燃料は、適当な期間貯蔵された後に、所定のスケジュールに従って再処理される。
【0004】
再処理施設における再処理工程については、先ず、被覆管の内部に核燃料ペレットを充填した棒状の使用済燃料棒は、3~5cm程度の長さに剪断され、沸騰硝酸にて溶解されて燃料溶液(水相)となる。しかし、被覆管は溶解されずに溶解残査(ハル)として処理される。
【0005】
燃料溶液は、臨界安全性確保の基準に沿って濃度調節が行われ、その後に核分裂生成物や、超プルトニウム元素の除去が行われる。次いで残留したウラン(U)及びプルトニウム(Pu)がTBP(リン酸トリブチル)有機相で互いに分離精製される。これらの工程は、多段のプロセスに亘って行われるが、各段においても多くの処理槽や処理搭が存在する。
【0006】
ところで、上記再処理施設の再処理工程において、プルトニウムやウランなどの核燃料物質を常時取り扱う装置においては、中性子実効増倍率が1未満となるようにして、臨界にならないように臨界安全設計を行っている。すなわち、これらの各装置においては、供給される溶液の酸性度、その中のプルトニウム及びウランなどの核燃料物質濃度、さらに硝酸水溶液、有機溶媒中のプルトニウム、ウラン成分濃度の異常時も考慮し、変動し得る変化に対しても常に未臨界になるように形状寸法や、容積などを制限した設計をしている。
【0007】
一方、上記各機器に附属するプルトニウム濃度による臨界管理を行う機器は、通常の運転時にはプルトニウム量は少量であるか、または、ほとんど流れ込まないために、処理効率を考慮して機器の形状寸法、容積の制限を緩めた設計としている。
【0008】
しかし、万一何らかの原因によってプルトニウムが漏洩して、臨界となる可能性も考えられることから、中性子検出器やγ線検出器を各所に設置することにより、放射線レベルの上昇を検出すると共に警報を発して、運転員や各所要員に危険を知らせたり、運転員の判断によって再処理工程の一部を停止するなどの措置が採られている。
【0009】
再処理工程における臨界管理上で、特に重要な核種はプルトニウムであり、上記のように従来は、プルトニウムからの中性子発生数のレベルを測定して未臨界となるように管理をしているが、プルトニウムからの中性子発生数とプルトニウムの濃度は必ずしも比例するものではない。これはプルトニウムからの中性子発生数が、プルトニウム同位体組成比によって大きく変化し、また、プルトニウムの同位体組成比は、再処理燃料の初期ウラン濃縮度や照射履歴によっても大きく異なるためである。
【0010】
また、使用済み混合酸化物(MOX)燃料の再処理を行う場合は、プルトニウム取扱量が増え、さらに、プルトニウム同位体組成の幅が大きくなる可能性もある。MOX燃料の場合は、ウランではなくプルトニウムが核分裂性物質である。プルトニウムには、核分裂性の同位体であるPu239やPu241の他に核分裂を起こしにくいPu240やPu242も含まれる。MOX燃料の新燃料中のプルトニウム同位体組成にはある程度ばらつきがある。これは、使用済みウラン燃料の運転履歴により、生成されるプルトニウム同位体組成がばらつくことによる。例えば、より高燃焼度のウラン燃料は、低燃焼度のウラン燃料より全Pu同位体中のPu240やPu242の割合が大きいことが知られている。また、MOX燃料の製造時は、反応度のばらつきを抑えるために、Pu中の核分裂性同位体(Pu239とPu241)を保存するように燃料中に全プルトニウム同位体が含まれる量(プルトニウム初期富化度)が調整される。これは「反応度補償設計」と呼ばれる。この結果、Pu240やPu242の核分裂性でないPuの割合のばらつきはさらに増加する。
【0011】
また、使用済み燃料中にはキュリウム等のプルトニウムより多くの中性子を発生する元素が少量であるが存在し、通常、これらの元素は前工程で取り除かれるが、何らかの工程の異常により本工程に混入した場合、中性子計数率の上昇が生じ、誤警報を発生する可能性がある。上記キュリウム等の混入も、MOX燃料においては含有率が高く、誤警報のリスクが増加する可能性がある。
【0012】
このために、中性子発生数より未臨界の程度(未臨界度)を一意に決定することはできず、一般に臨界安全管理を行う上では最も保守的な値を採用するため、最も大きなマージンをとらざるを得ない。
【0013】
その結果、臨界警報設定値に相当する中性子発生率のレベルは、最も安全側となるレベル、すなわち、考え得る中性子発生率の最低値に設定しなければならなかった。この設定によると、場合によっては十分未臨界である状態でも、中性子発生率が警報レベルに達してしまうことから、その都度再処理施設の運転を停止するということになり、再処理施設の稼動効率が低下する可能性があった。
【0014】
従来の方法は、プルトニウム同位体組成を何らかの方法で推定し、プルトニウム濃度と中性子数の関係の精度を向上させるものであったが、追加設備としての計測装置や分析装置が必要であることや、キュリウム等の混入に対する中性子計数率の変動には、対応が困難等の課題があった。
【0015】
未臨界度の指標としては、中性子実効増倍率kが用いられる。kは中性子生成と中性子消滅の比であり、k=1で臨界、k<1の時、未臨界である。未臨界度を表す際に、ドル単位が用いられることがある。遅発中性子生成割合βを用いて、k/β がドルと呼ばれる。実際に燃料が臨界となった場合でも、即時に爆発的なエネルギーが放出されるわけではない。kがβを超えたときに、“即発臨界”と呼ばれる制御不能の状態になる。この時に1ドルの反応度が投入されたとされる。1ドルの1/100としてセントが使われるときもある。未臨界の際はk<1であるが、kが1から離れて小さい時に未臨界度が“深い”、kが1に近い時、未臨界度が“浅い”ともいう。
【0016】
現在知られている未臨界度測定技術としては、
(1)負のペリオド法、(2)制御棒落下法、(3)補償法、(4)中性子源増倍法、(5)逆動特性法、(6)炉雑音解析法、(7)パルス中性子源法、
が挙げられる。これらの方法の内、(1)、(2)、(3)の方法は臨界となる原子炉に使用されるものであり、常に未臨界である再処理工程には適さない。また(7)の方法は、原子炉を臨界状態にすることなく、未臨界度の絶対測定が可能であるが、原子炉内に中性子パルスを入射する加速器を必要とする点で、新たな大型の追加設備が必要となり、既存の再処理工程への適用は困難である。このため、(4)~(6)の方法が適している。
【0017】
(4)の中性子源増倍法は、数十ドル程度の深い未臨界度まで測定可能であるが、既知の未臨界状態での校正が必要である。従来技術で示したプルトニウムからの中性子を測定し、未臨界を監視する技術は、(4)の中性子源増倍法に相当し、通常、校正用中性子源を用いた校正が定期的に行われる。一方、上述のように、プルトニウム組成変動やキュリウムの混入といった中性子強度の変動による誤警報という課題がある。
【0018】
また、(5)の逆動特性法、あるいは、(6)の炉雑音解析法がその校正値を与える手段となり得ること、が例えば非特許文献1に報告されている。
【0019】
(5)の逆動特性法は、未臨界の状態が変動した時に、その時間変化から未臨界度を推定するものであり、例えば特許文献2では、時系列データから中性子源強度を推定し、未臨界度を推定する手法が述べられている。また、臨界に近づくほど感度が高くなるため、急激に臨界に近づいた場合の警報に適している。
【0020】
また、逆動特性法よりシンプルな方法として、ペリオド監視も同様に臨界に近づいた際の警報に適している。ペリオドは中性子計数率がe倍になる時間として定義される。ペリオドから直接未臨界度を算出することは困難であるが、例えばペリオドが100秒程度より短くなったら警報を出すなどで臨界近接を検知することは可能である。ペリオド監視は原子炉の運転においても適用されているため、実績のある方法である。逆動特性法のような、複雑な時系列データの処理が不要であるため、シンプルな回路構成とすることができる。また、逆動特性法と併用することも可能である。一方、逆動特性法もペリオド法も臨界に近づいた場合や、未臨界度が時間的に変化する場合には適しているが、深い未臨界度や、未臨界度の時間的変化が小さい場合には適用が難しい。
【0021】
(6)の炉雑音解析法には、(8)ロッシα法、(9)ファインマンα法、(10)折れ点周波数法、(11)ミハルゾ法があり、非特許文献1で用いられている炉雑音解析法は(10)の折れ点周波数法である。
【0022】
(8)のロッシα法は、原子炉で観測される中性子パルス相互間の時間間隔τの分布がポアソン分布からずれてe-ατに比例する成分を持つことから即発中性子減衰定数αを得て、即発中性子減衰定数αと中性子増倍率kの関係
α={1-(1-β)k}/L ……(1)
より、遅発中性子生成割合β、即発中性子寿命Lを与えて中性子増倍率を得るものである(例えば「原子炉物理実験」 コロナ社 参照。)。
【0023】
(9)のファインマンα法は、一定時間幅内の中性子パルスの計数値Mの分散対平均比がポアソン分布の場合の「1」からずれることを利用して、(8)のロッシα法と同様に即発中性子減衰定数αを得るものである(例えば非特許文献2参照。)。
【0024】
(10)の折れ点周波数法は、中性子計数率の周波数特性が未臨界状態における原子炉伝達関数で定まり、その折点角周波数が即発中性子減衰定数αに一致することを利用するものである。
【0025】
このように(8)~(10)の方法はいずれも即発中性子減衰定数αを求め、式(1)に遅発中性子生成割合β、即発中性子寿命Lを与えて中性子増倍率を得るものである。これらに対して、(11)のミハルゾ法は、中性子増倍率の絶対測定が可能であるが、中性子源Cf-252を内蔵した特殊な中性子検出器を原子炉の炉心や対象とする体系に設置する必要があり、既存の再処理工程に新たな設備導入が必要であり、適用は難しい。
【0026】
以上の技術はいずれも原子炉の中性子増倍率を測定する目的で開発されたものであるが、特許文献1では原子炉から取り出した使用済み燃料集合体を収納ラック、輸送・貯蔵容器に収納する場合に、(8)のロッシα法あるいは(9)のファインマンα法を適用して臨界安全性を監視する技術が開示されている。
【0027】
遅発中性子割合βや即発中性子寿命Lは、解析で事前に与える。再処理工程の場合、溶解槽などの形状は固定されており、また、溶液と核分裂物質の割合もほぼ一定であることから、βやLの変化は小さく、解析で与えることによる誤差の影響は小さいと考えられる。
【0028】
上述した(8)~(10)の方法は、既存の中性子検出器からの時系列データを処理することで未臨界度を推定できることから、新たな設備導入が不要である。(8)~(10)の方法の内、深い未臨界度でも適用可能と考えられるのは、(9)のファインマンα法のみであり、再処理工程に適した方法である。
【0029】
一方、特許文献1にも記載の通り、ファインマンα法は、減衰定数αの導出に、分散と平均から得られる係数Yの測定時間に関する分布からフィッティングによる操作が必要であり、フィッティングを行うためには統計精度を向上させるため、数分から数十分の時間が必要であり、時間遅れが生じる。このため、アラームが出た際に即時に異常の判断を行うことが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0030】
【特許文献1】特開2005-106611号公報
【特許文献2】特開2014-137259号公報
【特許文献3】特開平3-237392号公報
【特許文献4】特許登録第3524203号公報
【非特許文献】
【0031】
【非特許文献1】米国ORNLレポート、ORNL-TM-3716、1973.
【非特許文献2】京大炉KUCA実験テキスト「中性子相関実験 Feynman-α法」、www.rri.kyoto-u.ac.jp/CAD/Insei/2003Text/Chap4_7‐2_r0.pdf.
【非特許文献3】日本原子力研究所レポート、JAERI 1187、75~78ページ、1970.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0032】
本発明は、このような従来の事情を考慮してなされたもので、中性子計数率の変動があった場合に、その原因が未臨界度の変動か、プルトニウムの同位体組成の変動やキュリウム等の妨害核種による中性子発生数の変動かを、時間遅れなく判定することができ、再処理施設の稼動率を向上することのできる中性子モニタ装置及び臨界管理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0033】
実施形態の中性子モニタ装置は、プルトニウムからの中性子計数率を測定する中性子計数率測定手段と、前記中性子計数率からプルトニウム濃度を算出し、当該プルトニウム濃度が設定値を超えた場合警報を発生する手段と、前記中性子計数率の時系列データからペリオドを算出し、当該ペリオドが設定値を超えた場合に警報を発生する手段と、前記中性子計数率の時系列データから、ある測定時間幅に対する複数の中性子計数率のデータの分散対平均比を算出し、当該分散対平均比が設定値を超えた場合に警報を発生する手段と、原子炉雑音法に基づき、即発中性子減衰定数αを算出し、当該即発中性子減衰定数αと、予め解析で求めておいた遅発中性子割合βと、即発中性子寿命Lとを用いて中性子増倍率を算出して未臨界度を求める手段と、を具備する。
【発明の効果】
【0034】
実施形態によれば、中性子計数率の変動があった場合に、その原因が未臨界度の変動か、プルトニウムの同位体組成の変動やキュリウム等の妨害核種による中性子発生数の変動かを、時間遅れなく判定することができ、再処理施設の稼動率を向上させることのできる中性子モニタ装置及び臨界管理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】第1実施形態に係る中性子モニタ装置及び使用済み核燃料の臨界管理方法の構成を模式的に示すブロック図。
【
図2】第1実施形態に係る中性子モニタ装置及び使用済み核燃料の臨界管理方法の手順を示すフロー図。
【
図3】第2実施形態に係る中性子モニタ装置及び使用済み核燃料の臨界管理方法の構成を模式的に示すブロック図。
【
図4】第2実施形態に係る中性子モニタ装置及び使用済み核燃料の臨界管理方法の手順を示すフロー図。
【
図5】臨界実験装置で得られた実験結果の一例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、実施形態に係る中性子モニタ装置及び使用済み核燃料の臨界管理方法を、図面を参照して説明する。
【0037】
図1、
図2は、実施形態に係る中性子モニタ装置及び使用済み核燃料の臨界管理方法を、再処理施設における溶解槽のプルトニウム濃度監視に適用した例の構成を示しており、
図1はブロック図、
図2はフロー図である。
【0038】
図1に示すように、溶解槽3には、中性子検出器1と、中性子検出器2の2つの検出器が設けられている。また、実施形態に係る中性子モニタ装置は、中性子計数率測定部101、プルトニウム濃度監視部102、時系列データ分析部103、ペリオド監視部104、分散対平均比監視部105、ファインマンα監視部106、未臨界度算出部107を備えている。
【0039】
通常の工程では、中性子はプルトニウムから発生し、また、プルトニウム組成も一定の範囲に収まっているため、プルトニウム濃度と中性子計数率は比例する。このため、制限したいプルトニウム濃度に対応する中性子計数率を予め設定し、中性子検出器1、中性子検出器2から得られた検出信号から中性子計数率測定部101にて中性子計数率を求め(
図2のステップ201)、プルトニウム濃度監視部102にて中性子計数率を設定値と比較して監視する(
図2のステップ202)。
【0040】
そして、中性子計数率が設定値以下の場合は異常なしと判断して監視を継続する(
図2のステップ202のYes)。一方、中性子計数率が設定値を超えた場合は(
図2のステップ202のNo)、警報を発生する(
図2のステップ203)。
【0041】
警報発生後、時系列データ分析部103にて中性子計数率の時系列データを分析し(
図2のステップ204)、ペリオド監視部104にてペリオド監視を行う。そして、ペリオドを設定値と比較してペリオドが設定値より早い場合は(
図2のステップ205のYes)、異常ありと判断して工程を停止する(
図2のステップ206)。
【0042】
一方、ペリオドが設定値以下の場合は(
図2のステップ205のNo)、分散対平均比監視部105にて分散対平均比を算出し(
図2のステップ207)、その監視を行う。そして、分散対平均比の値を設定値と比較して分散対平均比が設定値より高い場合は(
図2のステップ208のYes)、異常ありと判断して工程を停止する(
図2のステップ209)。
【0043】
一方、分散対平均比が設定値以下の場合は(
図2のステップ208のNo)、異常がなく、未臨界度の変動がないと判断するが、工程を停止することなく、念のため、測定時間をかけてファインマンα監視部106により、ファインマンα法による分析を開始し(
図2のステップ210)、未臨界度算出部107にて未臨界度を算出する(
図2のステップ211)。
【0044】
ファインマンαの監視では、後述の
図5に示されるように、α値の導出にはY値と測定時間間隔(ゲート幅)の精度良い分布が必要であるが、ゲート幅が大きくなった時にY値が飽和するYsatそのものも大きく変化する。Ysatは分散対平均比から1を引いたものであり、分散対平均比もまた同様の動きをする。したがって、本実施形態のように、あるゲート幅、例えば0.1秒での、分散対平均比のみを監視しているだけでも異常を検知することができる。この場合、例えば、数十秒程度の計測でも判断が可能であり、時間遅れなく異常を検知できる。
【0045】
以下に、ファインマンα法の具体的な処理方法を述べる。
放射性崩壊の頻度はポアソン分布に基づいているが、中性子が同時に複数個発生する場合や、核分裂性物質による連鎖反応が生じる場合は、ポアソン分布からずれることが知られている(例えば、非特許文献2参照。)。ポアソン分布からのずれの指標として、分散と平均の比(分散対平均比)が用いられる。ある時間間隔ti~ti+Δtの中性子カウントをM(i)とし、imax個のデータがあるとすると、平均、分散、分散/平均比は以下のように表せる。
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
Y=Ysat[1-{1-exp(-αΔt)}/αΔt]
ここでYsatは定数である。
【0050】
Δtと得られたYをプロットし、上記の関数でフィッティングすることで即発中性子減衰定数α値を得る。
図5のグラフは、臨界実験装置(Toshiba Critical Assembly:NCA)で得られた実験の一例の結果を示しているが、ゲート幅(Δt)とYの関係から即発中性子減衰定数αを得ることができていることがわかる。なお、図中に示される水位は、臨界実験装置の炉心タンクの水位(mm)を示している。高い水位の方が中性子増倍率が高く、水位1000は900より臨界に近い状態である。ゲート幅が上述のΔtに相当する。なお、定数Cもフィッティングにより同時に求めることができる。
【0051】
予め中性子輸送解析で求めておいた遅発中性子割合βと即発中性子寿命Lと、以下に示す前述した関係式(1)を用いて中性子増倍率kを得る。
α={1-(1-β)k}/L (1)
【0052】
この方法は、中性子計数率の絶対値に依存しないので、キュリウム等の妨害核種の影響やプルトニウム組成変動による中性子計数率の変動に影響されず、中性子増倍率kを推定できるという利点がある。
【0053】
なお、
図1では、ファインマンα法による時系列データの分析を行っているが、ロッシα法や折れ点周波数法を用いてもよい。Cf-252中性子源という特殊な中性子検出器が準備できるなら、ミハルゾ法を用いてもよい。
【0054】
予め通常時に行っておいた未臨界度の推定値と比較し、未臨界度が変動している場合は、プルトニウム濃度そのものの上昇が考えられる。未臨界度に変動がない場合は、妨害核種や想定外のプルトニウム組成の原因が考えられる。
【0055】
複数の情報を元に分析することで、原因を早期に突き止め、工程中止の判断を行った場合でも、早期の復旧につなげることができる。
【0056】
なお、時系列データの分析は常時、バックアップとして実行しておき、通常時は工程の異常の有無には使用せず、中性子計数率が異常に上昇した時のみに使用してもよい。
【0057】
図3、
図4は、
図1、
図2に示した実施形態の変形例(第2実施形態)を示しており、
図1、
図2に対応する部分には同一の符号が付してある。
図3、
図4に示す実施形態では、
図1、
図2に示した実施形態の構成に加えて、逆動特性監視を行う逆動特性監視部108と、逆動特性監視の結果に基づいて未臨界度を算出する未臨界度算出部109を設けたものである(
図4のステップ212、ステップ213)。逆動特性法によっても未臨界度を算出できるが、未臨界度が深い場合は感度が低い。未臨界度が浅い場合、すなわち中性子増倍率kが1に近い場合は、感度が高く、応答も早い。一方、原子炉雑音解析は、計数を蓄積させる必要があるため、数分から数十分の時間が必要となる。したがって、中性子増倍率kが1に近いような場合に逆動特性監視による未臨界度算出を行うことが有効である。
【0058】
また、ペリオドを算出する場合、計数率の変動が大きく、正しい値を算出できない場合がある。その場合は、1次遅れフィルターや移動平均等のフィルター処理を行うことで、時間変動を緩和することができる。
例えば、一次遅れフィルターの場合、以下のような処理を行う。
N(i)=(1-w)・n(i)+w・N(i-1)
N(i):i番目のフィルター処理後の係数率
n(i):i番目のフィルター処理前の係数率
w:一次遅れのウェイト(0~1)
【0059】
また、ファインマンα法において、分散の代わりに中性子検出器1と中性子検出器2の共分散を用いてもよい。共分散を用いる原子炉雑音解析は、例えば、「日本原子力学会誌vol.37,No.6 (1995) 共分散法に基づく実効遅発中性子割合の測定」等の文献にも示されている。
【0060】
原子力発電所の核計装では、γ線バックグラウンドの低減のため、しばしば検出器からの信号の2乗平均をとることがあり、これはMSV(Mean Squre Voltage)モードと呼ばれる。この2乗平均は上述の分散と同じ意味である。十分な信号強度がある場合は、分散の代わりにMSVモード信号を用いて、MSVモード信号の強度と平均信号強度の比をとることで分散対平均比を算出してもよい。
【0061】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として掲示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0062】
1……中性子検出器、2……中性子検出器、3……溶融槽、101……中性子計数率測定部、102……プルトニウム濃度監視部、103……時系列データ分析部、104……ペリオド監視部、105……分散対平均比監視部、106……ファインマンα監視部、107……未臨界度算出部。