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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023030921
(43)【公開日】2023-03-08
(54)【発明の名称】熱量計
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/28 20060101AFI20230301BHJP
   G01K 17/00 20060101ALI20230301BHJP
   G01K 7/02 20210101ALI20230301BHJP
【FI】
G01N25/28
G01K17/00 A
G01K7/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021136347
(22)【出願日】2021-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】501418498
【氏名又は名称】矢崎エナジーシステム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000220262
【氏名又は名称】東京瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145908
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 信雄
(74)【代理人】
【識別番号】100136711
【弁理士】
【氏名又は名称】益頭 正一
(72)【発明者】
【氏名】小澤 尚史
(72)【発明者】
【氏名】波多野 博憲
(72)【発明者】
【氏名】名川 良春
(72)【発明者】
【氏名】井関 孝弥
(72)【発明者】
【氏名】南 辰志
(72)【発明者】
【氏名】河越 雅雄
(72)【発明者】
【氏名】角田 雄亮
【テーマコード(参考)】
2F056
2G040
【Fターム(参考)】
2F056KC06
2G040AB15
2G040AB16
2G040BA04
2G040BA23
2G040BB09
2G040CA02
2G040DA03
2G040DA12
2G040DA21
2G040EA02
2G040EB02
2G040GA05
(57)【要約】
【課題】燃料ガスの熱量測定の精度を向上させると共に排ガス中の未燃ガス濃度を低下させることができる熱量計を提供する。
【解決手段】熱量計は、測定対象の燃料ガスが流入する管材211と、管材211に挿入され測温接点Pを備えるシース熱電対212と、管材211の内側に充填された顆粒状触媒214と、測温接点Pの周囲に形成された触媒層212Sと、顆粒状触媒214と触媒層212Sとを加熱するヒーター213とを備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象の燃料ガスが流入する管材と、
前記管材に挿入され測温接点を備える測温体と、
前記管材の内側に充填された顆粒状触媒と、
前記測温体における前記測温接点の周囲に形成された触媒層と、
前記顆粒状触媒と前記触媒層とを加熱する加熱部と
を備える熱量計。
【請求項2】
前記顆粒状触媒は、前記測温接点が前記顆粒状触媒から露出するように前記管材の内側に充填されている請求項1に記載の熱量計。
【請求項3】
前記管材の内側に設けられ、前記燃料ガスが通過するストッパー部材を備え、
前記顆粒状触媒は、前記ストッパー部材により堰き止められるように前記管材の内側に充填されている請求項1又は2に記載の熱量計。
【請求項4】
前記管材に固定された固定部を備え、
前記測温体は、前記固定部に固定され、前記固定部から前記管材の内側に挿入され前記ストッパー部材を貫通している請求項3に記載の熱量計。
【請求項5】
前記ストッパー部材は、前記測温体の被覆材に固定されている請求項4に記載の熱量計。
【請求項6】
前記ストッパー部材は、板材であり、前記板材の中心部に前記被覆材が挿通される孔が形成され、前記板材における前記中心部の周囲の全域に直径が前記顆粒状触媒の粒径よりも小さい複数の通気孔が形成されている請求項5に記載の熱量計。
【請求項7】
前記顆粒状触媒の粒径は、100μm以上1000μm以下である請求項1から6までの何れか1項に記載の熱量計。
【請求項8】
前記管材は縦向きに配されている請求項1から7までの何れか1項に記載の熱量計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱量計に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料ガスの熱量測定に用いられる熱量計として、燃料ガスの通路内に熱電対と触媒とを設け、通路内を通過する燃料ガスの触媒燃焼による発熱量を熱電対で測定するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の熱量計では、ガラス管内の燃焼室に粒径が300オングストロームの粉末状のパラジウム及びアルミナが触媒として充填され、この燃焼室の上流側と下流側とにガラスウールが充填されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60-44855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
粉末状の触媒は、熱電対の測温接点に対して接触は良いが、次の理由から実用上困難という課題がある。(1)圧損のため流量を上げられない。(2)振動等による触媒の動きにより充填状態が変化する。(3)粉末状の触媒が後段に流出してしまう。(4)圧損の抑制のために粉末状の触媒をガラス管内に密に詰め込まない場合には、未燃ガスが触媒を通過し易くなり、排ガス中の未燃ガス濃度が高くなる。
【0005】
そこで、触媒を粉末状から顆粒状にすることが考えられるが、顆粒状の触媒では、熱電対の測温接点との接触が悪くなるという課題がある。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、燃料ガスの熱量測定の精度を向上させると共に排ガス中の未燃ガス濃度を低下させることができる熱量計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る熱量計は、測定対象の燃料ガスが流入する管材と、前記管材に挿入され測温接点を備える測温体と、前記管材の内側に充填された顆粒状触媒と、前記測温体における前記測温接点の周囲に形成された触媒層と、前記顆粒状触媒と前記触媒層とを加熱する加熱部とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱量計によれば、測温体における測温接点の周囲に触媒層が形成されているので、測温接点の周囲において燃料ガスの燃焼反応が生じ、さらに管内に顆粒状触媒が充填されているので、測温体で測定される温度上昇幅が大きくなる。これにより、測温体で測定される温度上昇幅から算出される燃料ガスの燃焼時の発熱量が大きくなる。これにより、燃料ガスの燃焼時の発熱量の分解能および測定精度を向上させることができる。また、管内に充填された顆粒状触媒により、圧損を抑えつつ未燃ガスの触媒間の通過を抑えることができるので、排ガス中の未燃ガス濃度を低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る熱量計を備える測定システムの概略を示すブロック図である。
図2図2は、図1に示す熱量計の構成を模式的に示す断面図である。
図3図3は、図2に示す熱量計の燃焼機能部を拡大して示す断面図である。
図4図4は、図3に示す燃焼機能部のストッパー部材を示す平面図である。
図5図5は、第1比較例の実験結果を示すグラフ及び表である。
図6図6は、第2比較例の実験結果を示すグラフ及び表である。
図7図7は、第1実施例の実験結果を示すグラフ及び表である。
図8図8は、第2実施例の実験結果を示すグラフ及び表である。
図9図9は、第3実施例の実験結果を示すグラフ及び表である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を好適な実施形態に沿って説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下に示す実施形態においては、一部構成の図示や説明を省略している箇所があるが、省略された技術の詳細については、以下に説明する内容と矛盾が発生しない範囲内において、適宜公知又は周知の技術が適用される。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態に係る熱量計20を備える測定システム1の概略を示すブロック図である。この図に示すように、測定システム1は、ガス混合装置10と、熱量計20とを備える。ガス混合装置10は、可燃ガスと空気とを混合することにより混合ガスを燃料ガスとして熱量計20に供給する。熱量計20は、ガス混合装置10から供給された燃料ガスを燃焼させて発熱量を測定する。
【0012】
ガス混合装置10は、第1配管11と、第2配管12と、第3配管13と、第1流量計14Aと、第2流量計14Bと、第1バルブ15Aと、第2バルブ15Bと、混合器16と、第1レギュレーターR1と、第2レギュレーターR2とを備える。
【0013】
第1配管11は、第1レギュレーターR1と混合器16とを接続し、第1レギュレーターR1を通して供給される可燃ガスを混合器16まで導く。第1流量計14Aは、第1配管11に設けられ、第1配管11を流れる可燃ガスの流量を測定する。第1バルブ15Aは、第1配管11における第1流量計14Aより下流側に設けられ、混合器16に供給される可燃ガスの流量を調整するニードルバルブ等の流量調整バルブである。
【0014】
第2配管12は、第2レギュレーターR2と混合器16とを接続し、第2レギュレーターR2を通して供給される空気を混合器16まで導く。第2流量計14Bは、第2配管12に設けられ、第2配管12を流れる空気の流量を測定する。第2バルブ15Bは、第2配管12における第2流量計14Bより下流側に設けられ、混合器16に供給される空気の流量を調整するニードルバルブ等の流量調整バルブである。
【0015】
混合器16は、第1配管11から供給された可燃ガスと第2配管12から供給された空気とを混合する。この混合器16には、第3配管13が接続されている。この第3配管13は、混合器16において混合された混合ガスを燃料ガスとして熱量計20に供給する。
【0016】
熱量計20は、燃焼機能部21と、定電圧源(電圧源)22と、データロガー23と、演算装置24とを備える。燃焼機能部21には、第3配管13から燃料ガスが供給される。定電圧源22は、燃焼機能部21に電力を供給する。燃焼機能部21は、定電圧源22から供給される電力により駆動され、第3配管13から供給された燃料ガスを燃焼させる。
【0017】
図2は、図1に示す熱量計20の構成を模式的に示す断面図である。この図に示すように、燃焼機能部21は、管材211と、シース熱電対212と、ヒーター213と、顆粒状触媒214と、ストッパー部材215とを備える。管材211は、燃料ガスの燃焼時の温度に対する耐熱性と、燃焼時の燃料ガスの管材211外への放熱を抑える低い伝熱性とを有する管材である。本実施形態の管材211は、内径が4mmの円筒状のセラミックチューブである。なお、管材211の内径は、2mm以上10mm以下が好ましい。また、管材211はステンレスチューブでもよい。
【0018】
管材211は縦向きに配されており、管材211の上端に第3配管13が接続されている。管材211の下端の近傍には、排気孔211Aが形成されている。
【0019】
シース熱電対212は、熱電対素線212Aと、シース212Bと、スリーブ212Cと、アダプター212Dと、ケーブル212Eとを備え、ゼーベック効果を利用して温度を測定する。熱電対素線212Aは、一端(上端)に測温接点Pが設けられている。シース212Bは、直線性の高い形状を維持する硬質で細い管材であり、熱電対素線212Aを被覆している。本実施形態のシース212Bは、外径が0.5mmの金属製の管材である。シース212B内には絶縁物が充填されている。本実施形態のシース熱電対212は、非接地型である。なお、シース熱電対212を接地型や露出型に変えてもよい。
【0020】
スリーブ212Cは、直線性の高い形状を維持する硬質で細い管材であり、熱電対素線212Aの他端側を被覆している。このスリーブ212Cの一端とシース212Bの他端とが銀ろう付け等により接合されている。本実施形態のスリーブ212Cは、外径が6mmで金属製である。
【0021】
アダプター212Dは、円筒状の管材取付部212Zと、ナット形状の張出部212Yとを備える。管材取付部212Zと張出部212Yとは、一体で形成され同軸的に配されている。張出部212Yは、管材取付部212Zの外面から径方向外側に張り出す部位である。管材取付部212Zと張出部212Yとには、スリーブ212Cが挿通されている。管材取付部212Zは、管材211の下端から管材211内に挿入されている。張出部212Yとスリーブ212Cとは、溶接等により接合されている。また、張出部212Yと管材211の下端とは、接着等により接合されている。なお、張出部212Yが、ナット形状であることは必須ではない。また、張出部212Yと管材211の下端とを接着等で接合することによりアダプター212Dと管材211の下端とを接合することは必須ではなく、管材取付部212Zと管材211の下端とを相互に螺合させることによりアダプター212Dと管材211の下端とを接合してもよい。
【0022】
ここで、管材211の下端は、アダプター212Dにより閉塞されている。他方で、管材211に形成された排気孔211Aは、管材取付部212Zの上端よりも上側に配されている。これによって、管材211内を下向きに流れた燃料ガスは、排気孔211Aを通して管材211外へ流出する。ここで、管材211内での燃料ガスの燃焼が促進され未燃ガスの管材211からの排出量が少なくなり排ガス中の未燃ガス濃度が低下されることが望ましい。
【0023】
ケーブル212Eは、柔軟性のある補償導線であり、このケーブル212Eの一端が熱電対素線212Aの他端(下端)に接続されている。このケーブル212Eの他端には不図示の圧着端子が取り付けられており、この圧着端子がデータロガー23に取り付けられている。ケーブル212Eの一部は、スリーブ212Cに挿入されている。
【0024】
ヒーター213は、管材211が挿通されたコイル型のヒーターである。このヒーター213のコイル部213Aは、少なくとも管材211の燃焼室211Bを含む範囲の周囲に巻回されている。コイル部213Aは、リード部213Bを介して定電圧源22に接続されており、定電圧源22から電圧を印加されることにより発熱する。
【0025】
顆粒状触媒214は、燃焼室211Bに充填された顆粒状の触媒である。顆粒状触媒214の粒径は、粉末の粒径に比して数十倍~数百倍と大きい。顆粒状触媒214の粒径は、100μm未満に篩にかけて整粒するのは困難であり、1000μmより大きくすると管材211の内径と近くなって燃料ガスとの接触が悪くなるという観点から、100μm以上1000μm以下が好ましく、355μm以上420μm以下がより好ましい。また、顆粒状触媒214は、例えば、パラジウム(Pd)や白金(Pt)等の金属や金属酸化物が担持したもの等である。
【0026】
燃焼室211Bに充填された顆粒状触媒214の質量及び充填高さは、測温接点Pが顆粒状触媒214から露出するように適宜設定すればよく、例えば、管材211の内径が4mmの場合で0.075g、約3mm等である。なお、測温接点Pが顆粒状触媒214から露出することは必須ではなく、顆粒状触媒214が測温接点Pを覆うように燃焼室211Bに充填されてもよい。
【0027】
ストッパー部材215は、燃焼室211Bの下側に配されている。このストッパー部材215は、管材211の内周面に嵌合したステンレス等の金属製の板である。本実施形態のストッパー部材215は円板である。また、本実施形態のストッパー部材215の厚みは約1mmである。なお、ストッパー部材215は、ガラスウールにより構成してもよい。
【0028】
図3は、図2に示す熱量計20の燃焼機能部21を拡大して示す断面図である。この図に示すように、シース212Bの一端側(上端側、先端側)の表面には、触媒層212Sが測温接点Pを覆うように形成されている。この触媒層212Sは、パラジウムや白金等の触媒により構成された塗膜である。触媒層212Sの形成方法としては、粉末状の触媒と蒸留水等とを混合した液状の触媒をシース212Bに塗布して乾燥させる方法を例示できる。
【0029】
触媒層212Sのシース212Bの一端(先端)からの長さは例えば約1mmであり、触媒層212Sは、測温接点Pの位置を含むシース212Bの一端から約1mmの範囲を覆っている。この触媒層212Sの大部分又は全体は顆粒状触媒214から露出している。なお、触媒層212Sが顆粒状触媒214から露出することは必須ではなく、触媒層212Sは顆粒状触媒214に覆われるように配されてもよい。
【0030】
図4は、図3に示す燃焼機能部21のストッパー部材215を示す平面図である。図3及び図4に示すように、ストッパー部材215には複数の通気孔215Aが形成されている。この通気孔215Aの直径は、顆粒状触媒214の粒径(平均値)よりも小さい。これにより、燃料ガスは、通気孔215Aを通過するが、顆粒状触媒214は、通気孔215Aを通過せずにストッパー部材215の上に堆積する。本実施形態の通気孔215Aの直径は0.3mmである。
【0031】
通気孔215Aは、ストッパー部材215の中心部を除く全域に密に形成されている。それに対して、ストッパー部材215の中心部には、通気孔215Aに比して大径の孔215Bが形成されている。この孔215Bにはシース212Bが挿通されている。ここで、ストッパー部材215の中心部とシース212Bとはセラミック接着剤等の接着剤により接着されている。この接着剤により、孔215Bとシース212Bとの隙間が埋められている。
【0032】
ここで、熱電対素線212Aの先端の測温接点Pは、顆粒状触媒214から露出した状態で燃焼室211Bに配されている。測温接点Pの位置は、燃焼室211Bの径方向の中央部が好ましい。また、燃焼室211Bの下端(ストッパー部材215の上面)から測温接点Pまでの距離は、例えば約4mmである。
【0033】
コイル部213Aが定電圧源22から電圧を印加されることにより発熱すると、触媒層212S及び顆粒状触媒214が所定の温度に加熱される。データロガー23(図2参照)は、シース熱電対212から出力される信号、すなわち、測温接点Pの周囲の温度を記録する。
【0034】
演算装置24(図1及び図2参照)は、データロガー23の記録内容に基づいて燃焼機能部21に供給された燃料ガスの燃焼時の発熱量を演算する。発熱量を演算するに際し、演算装置24には、第1流量計14A及び第2流量計14Bの測定値も入力される。演算装置24としては、例えばPC(Personal Computer)を用いることができる。
【0035】
ここで、燃焼機能部21の作製方法について説明する。まず、ストッパー部材215をシース212Bに接着する。次に、触媒層212S(図3参照)を一端側に形成したシース熱電対212をストッパー部材215と共に管材211に挿入する。次に、シース熱電対212のアダプター212Dを管材211の下端に接着する。次に、顆粒状触媒214を、管材211の上端からストッパー部材215の上に充填する。この際、測温接点Pが顆粒状触媒214から露出するように、顆粒状触媒214の充填量及び充填高さを調整する。
【0036】
図2に示すように、保護容器29は、縦方向の寸法が横方向の寸法に比して大きい断熱性の筐体であり、管材211の上端側を除く全体と、この管材211に収納された顆粒状触媒214等を収容する。この保護容器29は、例えば風の影響により、シース熱電対212の測定温度が変動することを抑制している。
【0037】
保護容器29の天板29Aには、管材211が挿通される開口が形成されている。他方で、保護容器29の底板29Bには、スリーブ212Cが挿通される開口が形成されている。保護容器29の側板29Cには、リード部213Bが挿通される溝が形成されている。保護容器29の底板29Bは、シース熱電対212の張出部212Yを支持することで燃焼機能部21を支持している。なお、側板29Cがリード部213Bを支持することで燃焼機能部21が保護容器29に支持されるようにしてもよい。
【0038】
保護容器29の背板29Dには、開口29Fが形成されており、この開口29Fには、金属製の網目状の部材である金網29Gが設けられている。即ち、背板29Dには、網目状に仕切られた多数の開口が形成されている。これにより、燃料ガスの燃焼により燃焼室211Bで発生した排ガスが、排気孔211Aを通して管材211内から保護容器29へ排出され、背板29Dの多数の開口を通して保護容器29外へ排出される。
【0039】
以上のような構成の熱量計20において、演算装置24は、シース熱電対212により測定されてデータロガー23に記録された温度に基づいて、燃料ガスの燃焼時の発熱量を演算する。演算装置24には、シース熱電対212の測定温度の変化と燃料ガスの燃焼時の発熱量との相関関係を示す相関データが記憶されており、演算装置24は、この相関データを利用して、燃料ガスの燃焼時の発熱量を演算する。
【0040】
具体的には、制御装置(図示省略)が、図1に示す第1バルブ15A、第2バルブ15B、及び混合器16を制御し、可燃ガスを第1配管11に流し、空気を第2配管12に流し、可燃ガスと空気とを混合器16にて混合する。これにより、所定濃度の可燃ガスを含む燃料ガスを生成する。この燃料ガスは、第3配管13を通じて熱量計20に供給される。この際、第1流量計14Aは、第1配管11を流れる可燃ガスの流量を測定して測定情報を演算装置24に出力し、第2流量計14Bは、第2配管12を流れる空気の流量を測定して測定情報を演算装置24に出力する。
【0041】
定電圧源22はヒーター213(図2参照)に電圧を印加しており、シース熱電対212のベース温度は例えば250~400℃程度となる。この状態において、燃料ガスの燃焼時の発熱によって測温接点Pの周囲の温度が上昇する。シース熱電対212は、測温接点Pの周囲の温度に応じた信号をデータロガー23に送信し、データロガー23はこれを記憶する。
【0042】
演算装置24は、予め記憶している相関データと、データロガー23が記憶したシース熱電対212の測温情報と、第1流量計14A及び第2流量計14Bの流量情報とから、燃料ガスの燃焼時の発熱量を演算する。
【0043】
以下、本実施形態に係る燃焼機能部21の燃焼特性を確認するために実施された実験について説明する。本実験では、複数の実施例(第1~第3実施例)の燃焼特性と複数の比較例(第1及び第2比較例)の燃焼特性とについて確認した。本実験では、測温接点Pに対する加熱温度(ベース温度)を約260℃から約330℃まで上昇させ、シース熱電対212による燃焼時の測定温度と燃焼前のベース温度との差ΔT(℃)(以下、単にΔT(℃)という)の変化、及び排ガス濃度(メタン(CH)濃度)(%)の変化とを確認した。本実験ではメタン濃度3.0%の燃料ガスを用いた。
【0044】
第1~第3実施例の仕様の共通事項は以下のとおりである。まず、顆粒状触媒214の粒径は、355μm以上420μm以下である。管材211の内径は4.0mmであり、管材211の材質はセラミックである。なお、管材211の材質はステンレスでもよい。燃焼室211Bの下端から測温接点Pまでの距離は約4mmである。そして、触媒層212Sが、シース熱電対212のシース212Bの先端側(測温接点P側)に先端から約1mmの長さで形成されている。
【0045】
第1~第3実施例では、顆粒状触媒214の質量及び充填高さが相互に異なる。第1実施例では、顆粒状触媒214の質量は0.075g、顆粒状触媒214の充填高さは約3mmである。第2実施例では、顆粒状触媒214の質量は0.0375g、顆粒状触媒214の充填高さは約1mmである。第3実施例では、顆粒状触媒214の質量は0.1125g、顆粒状触媒214の充填高さは約4mmである。
【0046】
比較例の仕様は以下のとおりである。まず、第1比較例では顆粒状触媒214が燃焼室211Bに充填されているのに対して、第2比較例では顆粒状触媒214が燃焼室211Bに充填されていない。第1比較例では、顆粒状触媒214の粒径は、355μm以上420μm以下であり、顆粒状触媒214の質量は0.1125g、顆粒状触媒214の充填高さは約5mmである。第1及び第2比較例の何れも、管材211の内径は4.0mmであり、管材211の材質はセラミックであり、燃焼室211Bの下端から測温接点Pまでの距離は約4mmである。なお、管材211の材質はステンレスでもよい。ここで、第1比較例では、測温接点Pが顆粒状触媒214により覆われており、顆粒状触媒214の上面から測温接点Pまでの距離は約1mmである。そして、第1比較例では、触媒層212Sがシース熱電対212のシース212Bに形成されていないのに対して、第2比較例では、触媒層212Sがシース熱電対212のシース212Bの先端側に先端から約1mmの長さで形成されている。
【0047】
図5は、第1比較例の実験結果を示すグラフ及び表である。第1比較例では、シース212Bの先端側に触媒層212Sが形成されておらず、測温接点Pが覆われるように顆粒状触媒214が燃焼室211Bに充填されている。図5のグラフ及び表に示すように、ベース温度(℃)が259.7℃ではΔT(℃)は25.8℃と僅かであり、排ガスのメタン濃度(%)も0.372%と高い。それに対して、ベース温度(℃)が279.7℃ではΔT(℃)は146.0℃と高くなり、排ガスメタン濃度(%)も0.002%と低くなる。
【0048】
図5のグラフ及び表から、第1比較例では、反応開始温度が約280℃であり、反応開始温度でのΔT(℃)が146℃であることを確認できる。また、反応開始温度を超えてからの排ガスメタン濃度(%)が0.002(%)と低くなり、排ガス中の未燃ガス濃度が極めて低く抑えられることを確認できる。
【0049】
図6は、第2比較例の実験結果を示すグラフ及び表である。第2比較例では、触媒層212Sがシース212Bの先端側に形成されているが、顆粒状触媒214は燃焼室211Bに充填されていない。図6のグラフ及び表に示すように、ベース温度(℃)が300.1℃ではΔT(℃)は6.3℃と僅かであり、排ガスメタン濃度(%)も0.355%と高い。それに対して、ベース温度(℃)が330.9℃ではΔT(℃)は222.4℃と高くなるが、排ガスメタン濃度(%)は0.348%と変わらず高い。
【0050】
図6のグラフ及び表から、第2比較例では、反応開始温度が約331℃であり、反応開始温度でのΔT(℃)が約222℃であることを確認できる。第2比較例は、第1比較例に比して、反応開始温度が高温側にシフトする一方で、反応開始後のΔT(℃)は相対的に高いことを確認できる。他方で、反応開始温度を超える前から超えた後にかけて排ガスメタン濃度(%)が0.3%を超えており、排ガス中の未燃ガス濃度を十分には抑えられないことを確認できる。
【0051】
図7は、第1実施例の実験結果を示すグラフ及び表である。第1実施例では、触媒層212Sがシース212Bの先端側に形成されていると共に、顆粒状触媒214が燃焼室211Bに充填されている。そして、顆粒状触媒214の質量は0.075g、顆粒状触媒214の充填高さは約3mmであり、測温接点P及び触媒層212Sが顆粒状触媒214から露出している。
【0052】
図7のグラフ及び表に示すように、ベース温度(℃)が259.9℃ではΔT(℃)は11.5℃と僅かであり、排ガスのメタン濃度(%)も0.371%と高い。それに対して、ベース温度(℃)が280.5℃ではΔT(℃)は311.0℃と高くなり、排ガスメタン濃度(%)も0.004%と低くなる。
【0053】
図7のグラフ及び表から、第1実施例では、反応開始温度が約280℃であり、反応開始温度でのΔT(℃)が311℃、反応開始後(ベース温度約300℃)のΔT(℃)が304℃であることを確認できる。第1実施例は、第1比較例に比して、反応開始後のΔT(℃)が2倍以上と高くなることを確認できる。また、第1実施例は、第2比較例に比して、反応開始温度が50℃ほど低温側にシフトすることを確認できる。さらに、第1実施例は、第2比較例とは異なり、反応開始温度を超えてからの排ガスメタン濃度(%)が0.003~0.004(%)と低くなり、排ガス中の未燃ガス濃度が極めて低く抑えられることを確認できる。
【0054】
第2及び第3実施例は、第1実施例の顆粒状触媒214の充填量及び充填高さを変更した実施例である。第2実施例では、顆粒状触媒214の質量は0.0375g、顆粒状触媒214の充填高さは約1mmであり、測温接点P及び触媒層212Sが顆粒状触媒214から露出している。
【0055】
図8は、第2実施例の実験結果を示すグラフ及び表である。このグラフ及び表に示すように、ベース温度(℃)が260.3℃ではΔT(℃)は3.5℃と僅かであり、排ガスのメタン濃度(%)も0.376%と高い。それに対して、ベース温度(℃)が279.7℃ではΔT(℃)は294.1℃と高くなり、排ガスメタン濃度(%)も0.037%と低くなる。
【0056】
図8のグラフ及び表から、第2実施例では、反応開始温度が約280℃であり、反応開始温度でのΔT(℃)が約294℃、反応開始後(ベース温度300℃)のΔT(℃)が約296℃であることを確認できる。第2実施例は、第1実施例に比して、反応開始後のΔT(℃)が僅かに劣ることを確認できる。また、第2実施例は、第1実施例に比して、反応開始温度を超えてからの排ガスメタン濃度(%)が0.015~0.037(%)と高くなり、排ガス中の未燃ガス濃度が高くなることを確認できる。
【0057】
第3実施例では、顆粒状触媒214の質量は0.1125g、顆粒状触媒214の充填高さは約4mmであり、測温接点P及び触媒層212Sが顆粒状触媒214に覆われている。
【0058】
図9は、第3実施例の実験結果を示すグラフ及び表である。このグラフ及び表に示すように、ベース温度(℃)が259.2℃ではΔT(℃)は28.6℃と僅かであり、排ガスのメタン濃度(%)も0.349%と高い。それに対して、ベース温度(℃)が280.1℃ではΔT(℃)は204.2℃と高くなり、排ガスメタン濃度(%)も0.006%と低くなる。
【0059】
図9のグラフ及び表から、第3実施例では、反応開始温度が約280℃であり、反応開始温度でのΔT(℃)が約204℃、反応開始後(ベース温度300℃)のΔT(℃)が約200℃であることを確認できる。第3実施例は、第1実施例に比して、反応開始後のΔT(℃)が約2/3と劣ることを確認できる。また、第3実施例は、第1実施例と同様、反応開始温度を超えてからの排ガスメタン濃度(%)が0.002~0.006(%)と低くなり、排ガス中の未燃ガス濃度が極めて低く抑えられることを確認できる。
【0060】
第1~第3実施例の実験結果から、ベース温度が約280℃以上の場合に、燃料ガスの燃焼による発熱量がシース熱電対212の測定値に顕著に出現すると共に、反応開始温度付近で発熱量の測定値が安定することを確認できる。また、ベース温度が300℃という条件でΔT(℃)について第1~第3実施例と第1比較例とを比較すると、第1~第3実施例が第1比較例の140℃よりも高くなること、特に第1及び第2実施例については2倍強と高くなることを確認できる。ここで、ΔT(℃)が大きいほどシース熱電対212による測温の分解能が高くなり、シース熱電対212による測温の精度が向上する。また、第1~第3実施例の反応開始温度は280℃付近であるのに対して、第2比較例の反応開始温度は330℃付近であること、即ち、第1~第3実施例が第2比較例よりも速応性に優れることを確認できる。
【0061】
さらに、反応開始温度を超えてからの排ガスメタン濃度(%)について、第1~第3実施例と第2比較例とを比較すると、第1~第3実施例が第2比較例の0.348~0.355%よりも格段に低い0.01%未満であること、即ち、第1~第3実施例が第2比較例よりも排ガス中の未燃ガス濃度を極めて低く抑えることができることを確認できる。
【0062】
以上説明したように、本実施形態の熱量計20では、顆粒状触媒214が、管材211内の燃焼室211Bに充填され、ストッパー部材215により堰き止められている。ここで、顆粒に比して粒径が小さい粉末状の触媒を用いる場合には、燃料ガスの流体抵抗の観点から、触媒を燃焼室211Bに密に充填することができない。それに対して、本実施形態の熱量計20によれば、顆粒状触媒214を燃焼室211Bに密に充填した場合でも、顆粒状触媒214間の通気路を確保でき、燃料ガスの流体抵抗を抑えることができる。また、燃料ガスと顆粒状触媒214との燃焼反応の促進により未燃ガスの通過を抑制でき、排ガス中の未燃ガス濃度を低下させることができる。
【0063】
他方で、顆粒状触媒214を熱電対素線212Aの先端側の測温接点Pを覆うように管材211内の燃焼室211Bに充填する場合には、顆粒状触媒214を均等に充填することが難しいことから、測温接点Pの周囲に空洞ができる場合がある。その場合、測温接点Pの周囲における燃料ガスと顆粒状触媒214との反応が促進されない。それに対して、本実施形態の熱量計20によれば、触媒層212Sを測温接点Pの周囲に形成したことにより、測温接点Pの周囲における燃料ガスの燃焼反応を促進させることができる。さらに、本実施形態の熱量計20によれば、燃料ガスと顆粒状触媒214との燃焼反応による燃焼室211Bの昇温効果も相俟って、測温接点Pの周囲における燃料ガスの燃焼時の発熱量を大きくすることができ、シース熱電対212による測温の分解能を高め、熱量計20による燃料ガスの燃焼時の発熱量の測定精度を向上させることができる。
【0064】
また、本実施形態の熱量計20によれば、顆粒状触媒214が測温接点Pが顆粒状触媒214から露出するように燃焼室211Bに充填されていることにより、測温接点Pが顆粒状触媒214に覆われている場合に比して、測温接点Pの周囲における燃料ガスの燃焼時の発熱量をより一層大きくすることができることが上述の実験により確認されている。
【0065】
また、本実施形態の熱量計20によれば、シース熱電対212のシース212Bがアダプター212Dに固定され、このアダプター212Dが管材211の下端に固定されることにより、熱電対素線212Aの測温接点Pと管材211とが相対的に位置決めされている。さらに、ストッパー部材215がシース212Bに固定されることで、ストッパー部材215と測温接点Pとが相対的に位置決めされている。従って、測温接点Pを燃焼室211B内の所望の位置に配置することができる。
【0066】
また、本実施形態の熱量計20には、管材211におけるアダプター212Dとストッパー部材215との間に排気孔211Aが形成されている。これにより、熱電対素線212Aの測温接点Pと管材211との相対的な位置決めを行ったうえで、燃焼機能部21での燃料ガスの燃焼により生じた排ガスを管材211外へ排出することができる。
【0067】
また、本実施形態の熱量計20では、板材であるストッパー部材215の中心部に、シース212Bが挿通される孔215Bが形成され、ストッパー部材215の中心部の周囲の全域に、複数の通気孔215Aが密に形成されている。これにより、ストッパー部材215を多孔質体にする場合に比して、燃料ガスの流体抵抗を抑えることができる。
【0068】
また、本実施形態の熱量計20では、顆粒状触媒214の粒径が、100μm以上1000μm以下である。即ち、本実施形態の顆粒状触媒214は、粉末状の触媒に比して、粒径が格段に大きい。従って、顆粒状触媒214を燃焼室211Bに密に充填した場合でも、粉末状の触媒を用いる場合に比して、燃料ガスの流体抵抗を抑えることができる。
【0069】
また、本実施形態の熱量計20では、管材211とシース熱電対212とは縦向きに配されている。このため、顆粒状触媒214を管材211内に充填する作業を、管材211の上端から管材211内に流し込むという簡易な作業で実施できる。
【0070】
以上、上記実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよいし、適宜公知や周知の技術を組み合わせてもよい。
【0071】
例えば、上記実施形態では、管材211を縦向きとしたが、管材211を横向きにしてもよい。また、上記実施形態では、シース熱電対212を管材211の下流端から管材211内に挿入したが、熱電対素線212Aを管材211の上流端や中間部から管材211内に挿入してもよい。また、燃焼機能部21の構造は、上記実施形態の構成には限らず、適宜変更してもよい。
【0072】
また、上記実施形態では、測温体として熱電対を用いたが、測温抵抗体等の他の測温体を用いてもよい。
【符号の説明】
【0073】
20 熱量計
211 管材
211A 排気孔
212 シース熱電対(測温体)
212B シース(被覆材)
212D アダプター(固定部)
212S 触媒層
213 ヒーター(加熱部)
214 顆粒状触媒
215 ストッパー部材
215A 通気孔
215B 孔
P 測温接点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9