(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023030961
(43)【公開日】2023-03-08
(54)【発明の名称】温度刺激装置および温度刺激方法
(51)【国際特許分類】
A61B 10/00 20060101AFI20230301BHJP
【FI】
A61B10/00 Y
A61B10/00 X
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021136391
(22)【出願日】2021-08-24
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】512156280
【氏名又は名称】インタークロス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】506111240
【氏名又は名称】学校法人 愛知医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001830
【氏名又は名称】弁理士法人東京UIT国際特許
(72)【発明者】
【氏名】小田 一之
(72)【発明者】
【氏名】深澤 総一
(72)【発明者】
【氏名】小出 英之
(72)【発明者】
【氏名】石井 里枝
(72)【発明者】
【氏名】牛田 享宏
(72)【発明者】
【氏名】西原 真理
(72)【発明者】
【氏名】青野 修一
(57)【要約】
【課題】比較的低い温度でも痛覚が生じるようにする。
【解決手段】温度刺激装置1の刺激部3の上面にある刺激面4には第1の刺激面31、第2の刺激面41および第3の刺激面51が含まれている。第1の刺激面31と第2の刺激面41との間隔および第2の刺激面41と第3の刺激面51との間隔は実質的に接している。被験者の皮膚を刺激面4に載せた状態で中央の第2の刺激面41と両側の第1の刺激面31と第3の刺激面51との間に温度差が生じさせた場合に、比較的低い温度でも被験者が痛覚を認識でき、安全に被験者に温度刺激を与えることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣り合った刺激面が2mm以下の間隔で配置されている少なくとも2つの刺激面、
上記少なくとも2つの刺激面のそれぞれの温度を調整する温度調整素子、および
上記少なくとも2つの刺激面のうち、隣り合った2つの刺激面の温度差が徐々に大きくなるように上記温度調整素子を制御する素子制御手段、
を備えた温度刺激装置。
【請求項2】
上記少なくとも2つの刺激面には、刺激面の温度を一定に保つ一定温度刺激面と刺激面の温度が上昇させられる温度上昇刺激面とが含まれており、
上記素子制御手段は、
上記一定温度刺激面の温度を一定に保ち、かつ上記温度上昇刺激面の温度を徐々に上昇させるように上記温度調整素子を制御する、
請求項1に記載の温度刺激装置。
【請求項3】
被験者が痛覚を感じたときに、被験者から上記温度刺激装置に指令を与える指令手段をさらに備え、
上記素子制御手段は、
上記一定温度刺激面の温度を一定に保ち、上記温度上昇刺激面の温度を徐々に上昇させ、かつ上記指令手段から指令が与えられたことに応じて、上記温度上昇刺激面の温度を下降させるように上記温度調整素子の制御を繰り返す、
請求項2に記載の温度刺激装置。
【請求項4】
上記素子制御手段は、
上記一定温度刺激面の温度を、上記温度上昇刺激面の初期の温度よりも低い温度に一定に保つものである、
請求項2または3に記載の温度刺激装置。
【請求項5】
上記素子制御手段は、
上記一定温度刺激面の温度を、上記温度上昇刺激面の初期の温度と初期の温度から摂氏6度低い温度との間の温度に一定に保つものである、
請求項2から4のうち、いずれか一項に記載の温度刺激装置。
【請求項6】
上記刺激面に接する皮膚の初期の温度を測定する皮膚温度測定手段をさらに備え、
上記素子制御手段は、
上記一定温度刺激面の温度を、上記皮膚温度測定手段において測定された皮膚の初期の温度よりも低い温度に一定に保つものである、
請求項2に記載の温度刺激装置。
【請求項7】
上記素子制御手段は、
上記一定温度刺激面の温度を、上記皮膚温度測定手段において測定された皮膚の初期の温度と皮膚の温度から摂氏6度低い温度との間の温度に一定に保つものである、
請求項6に記載の温度刺激装置。
【請求項8】
少なくとも3つの刺激面を持ち、
中央に上記一定温度刺激面が配置され、かつ上記一定温度刺激面を挟んで両側に上記温度上昇刺激面が配置されている3つの刺激面、または、中央に上記温度上昇刺激面が配置され、かつ上記温度上昇刺激面を挟んで両側に上記一定温度刺激面が配置されている3つの刺激面を含むものである、
請求項1から7のうち、いずれか一項に記載の温度刺激装置。
【請求項9】
上記素子制御手段は、
上記一定温度刺激面の温度調整を一括して行い、かつ上記温度上昇刺激面の温度調整を一括して行うように上記温度調整素子を制御する、
請求項1から8のうち、いずれか一項に記載の温度刺激装置。
【請求項10】
上記少なくとも2つの刺激面は、実質的に接した状態で隣り合って配置されている、
請求項1から10のうち、いずれか一項に記載の温度刺激装置。
【請求項11】
隣り合った少なくとも2つの刺激面が、2mm以下の間隔で配置されており、
温度調整素子が、上記少なくとも2つの刺激面のそれぞれの温度を調整し、
温度制御手段が、上記少なくとも2つの刺激面のうち、隣り合った2つの刺激面の温度差が徐々に大きくなるように上記温度調整素子を制御する、
温度刺激方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、温度刺激装置および温度刺激方法に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性疼痛は、国民の13%が罹患し、2兆円の国民医療費を毎年支出する点で大きな問題となっている。その原因は、器質性、神経障害性、心因性に大別されている。中でもその30%を占め問題となっている神経障害性疼痛は、診断方法がヨーロッパで確立し(非特許文献1)日本でも導入が検討されるに至っている。その方法は、温度刺激を皮膚に提示し生じた感覚を患者に応答してもらう方法である。
【0003】
たとえば、特定の温度から温度を上昇させ、被験者が温覚を自覚する温度の計測を複数回繰り返す温覚検査の後、特定の温度から温度を下降させ、被験者が冷覚を自覚する温度の計測を複数回繰り返す冷覚検査などが行われる(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献1】R. Rolke et al.,”Quantitative sensory testing: a comprehensive protocol for clinical trials”, European Journal of Pain, 10(2006), 77-88
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、摂氏50度近くといった比較的高い温度での温度刺激を被験者に与えており、安全な温度での温度刺激をできるようにすることが求められている。非特許文献1の84ptable1においては痛覚(HPT)においてばらつきを含めると50度近い温度まで上昇していることがわかる。一方本国においてはJIST0601-1において医療機器が皮膚に接触する最高許容温度として1分以内の接触時51℃以下にすることが定められている。疼痛の検査は痛み刺激の閾値検査として確立しているが、一方安全な刺激方法が求められている。
【0006】
この発明は、被験者に低い温度で痛みを感じさせることができる安全な温度刺激を達成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明による温度刺激装置は、隣り合った刺激面が2mm以下の間隔で配置されている少なくとも2つの刺激面、上記少なくとも2つの刺激面のそれぞれの温度を調整する温度調整素子、および上記少なくとも2つの刺激面のうち、隣り合った2つの刺激面の温度差が徐々に大きくなるように上記温度調整素子を制御する温度制御手段を備えていることを特徴とする。
【0008】
この発明は、温度刺激装置に適した温度刺激方法も提供している。すなわち、この方法は、隣り合った少なくとも2つの刺激面が2mm以下の間隔で、配置されており、温度調整素子が、上記少なくとも2つの刺激面のそれぞれの温度を調整し、温度制御手段が、上記少なくとも2つの刺激面のうち、隣り合った2つの刺激面の温度差が徐々に大きくなるように上記温度調整素子を制御するものである。
【0009】
上記少なくとも2つの刺激面には、たとえば、刺激面の温度を一定に保つ一定温度刺激面と刺激面の温度が上昇させられる温度上昇刺激面とが含まれている。この場合、上記素子制御手段は、たとえば、上記一定温度刺激面の温度を一定に保ち、かつ上記温度上昇刺激面の温度を徐々に上昇させるように上記温度調整素子を制御する。
【0010】
被験者が痛覚を感じたときに、被験者から上記温度刺激装置に指令を与える指令手段をさらに備えてもよい。この場合、上記素子制御手段は、たとえば、上記一定温度刺激面の温度を一定に保ち、上記温度上昇刺激面の温度を徐々に上昇させ、かつ上記指令手段から指令が与えられたことに応じて、上記温度上昇刺激面の温度を下降させるように上記温度調整素子の制御を繰り返す。
【0011】
上記素子制御手段は、たとえば、上記一定温度刺激面の温度を、上記温度上昇刺激面の初期の温度(初期の温度は、あらかじめ定められた温度でもよいし、温度上昇刺激面の温度調節が行われていない状態での温度でもよい)よりも低い温度に一定に保ってもよい。
【0012】
上記素子制御手段は、たとえば、上記一定温度刺激面の温度を、上記温度上昇刺激面の初期の温度と初期の温度から摂氏6度低い温度との間の温度に一定に保ってもよい。
【0013】
上記刺激面に接する皮膚の初期の温度を測定する皮膚温度測定手段をさらに備えてもよい。この場合、上記素子制御手段は、たとえば、上記一定温度刺激面の温度を、上記皮膚温度測定手段において測定された皮膚の初期の温度よりも低い温度に一定に保つ。
【0014】
上記素子制御手段は、たとえば、上記一定温度刺激面の温度を、上記皮膚温度測定手段において測定された皮膚の初期の温度と皮膚の初期の温度から摂氏6度低い温度との間の温度に一定に保ってもよい。
【0015】
刺激面を少なくとも3つで構成した場合、たとえば、中央に上記一定温度刺激面が配置され、かつ上記一定温度刺激面を挟んで両側に上記温度上昇刺激面が配置されている3つの刺激面、または、中央に上記温度上昇刺激面が配置され、かつ上記温度上昇刺激面を挟んで両側に上記一定温度刺激面が配置されている3つの刺激面である。
【0016】
上記素子制御手段は、たとえば、上記一定温度刺激面の温度調整を一括して行い、かつ上記温度上昇刺激面の温度調整を一括して行うように上記温度調整素子を制御する。
【0017】
上記少なくとも2つの刺激面は、実質的に接した状態で隣り合って配置されていてもよい。
【発明の効果】
【0018】
この発明によると、隣り合った刺激面が2mm以下の間隔で配置されているから隣り合った2つの刺激面に温度差を与えた場合に、従来よりも低い温度で被験者に温度刺激が生じるようなる。被験者に比較的安全な温度刺激を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】温度刺激装置の電気的構成を示すブロック図である。
【
図5】温度刺激装置の処理手順を示すフローチャートである。
【
図6】温度刺激装置の処理手順を示すフローチャートである。
【
図7】第1の刺激面から第3の刺激面の温度制御の様子を示している。
【
図8】刺激面の間隔、平均閾値温度および標準偏差との関係を示している。
【
図9】一定に保つ温度、平均閾値温度および標準偏差との関係を示している。
【
図11】温度刺激装置の処理手順を示すフローチャートである。
【
図12】温度刺激装置の処理手順を示すフローチャートである。
【
図13】第1の刺激面から第3の刺激面の温度制御の様子を示している。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、この発明の実施例を示すもので、温度刺激装置1の斜視図である。
【0021】
温度刺激装置1は、手前側が低く奥側が高くなっている台2を含んでいる。台2の手前側の部分2Aに刺激部3が形成されており、台2の奥側の部分2Bに表示装置5が配置されている。表示装置5には表示画面6が形成されている。
【0022】
刺激部3の上面には、刺激面4が露出している。刺激部3には、第1の刺激部S1、第2の刺激部S2および第3の刺激部S3が含まれている。第1の刺激部S1、第2の刺激部S2および第3の刺激部S3のそれぞれの上面には刺激面4を構成する第1の刺激面31、第2の刺激面41および第3の刺激面51(3つの刺激面)が露出している。刺激面4は、第1の刺激面31、第2の刺激面41および第3の刺激面51の3つの刺激面から構成されているが2つまたは4つ以上の刺激面から構成されていてもよい。
【0023】
温度刺激装置1には、ボタン8(指令手段)が形成されている入力装置7も設けられている。このボタン8を押すことにより押下信号が温度刺激装置1のCPU10(
図2参照)に入力する。
【0024】
図2は、温度刺激装置1の電気的構成を示すブロック図である。
【0025】
温度刺激装置1の全体の動作はCPU10(素子制御手段)によって統括される。
【0026】
医用規格AC-DC電源19からDC/DCコンバータ18に電圧が供給され、DC/DCコンバータ18において電圧値が変換される。DC/DCコンバータ18において電圧値が変換された電圧が、温度刺激装置1の各部に供給されるとともに温度制御装置17(素子制御手段)にも供給される。
【0027】
温度制御装置17はCPU10によって制御される。温度制御装置17は、刺激部3を構成する第1の刺激部S1、第2の刺激部S2および第3の刺激部S3を制御し、第1の刺激部S1の第1の刺激面31、第2の刺激部S2の第2の刺激面41および第3の刺激部S3の第3の刺激面51のそれぞれの温度を調整する。
【0028】
第1の刺激面31の下方には第1の刺激面31の上に載せられた被験者の皮膚と第1の刺激面31との間に流れる熱流を検出する熱流センサ34Aおよび第1の刺激面31の温度を検出する温度センサ34B(
図3参照)が設けられている。熱流センサ34Aから出力された熱流を表す信号はアナログ/ディジタル変換回路21Aにおいてディジタル・データに変換されてCPU10に入力し、温度センサ34Bから出力された第1の刺激面31の温度を表す信号はアナログ/ディジタル変換回路21Bにおいてディジタル・データに変換されてCPU10に入力する。
【0029】
同様に、第2の刺激面41の下方には第2の刺激面41の上に載せられた被験者の皮膚と第2の刺激面41との間に流れる熱流を検出する熱流センサ44Aおよび第2の刺激面41の温度を検出する温度センサ44B(
図3参照)が設けられている。熱流センサ44Aから出力される熱流を表す信号はアナログ/ディジタル変換回路22Aにおいてディジタル・データに変換されてCPU10に入力し、温度センサ44Bから出力された第2の刺激面41の温度を表す信号はアナログ/ディジタル変換回路22Bにおいてディジタル・データに変換されてCPU10に入力する。
【0030】
また、第3の刺激面51の下方にも第3の刺激面51の上に載せられた被験者の皮膚と第3の刺激面51との間に流れる熱流を検出する熱流センサ54Aおよび第3の刺激面51の温度を検出する温度センサ54B(
図3参照)が設けられている。熱流センサ54Aから出力される熱流を表す信号はアナログ/ディジタル変換回路23Aにおいてディジタル・データに変換されてCPU10に入力し、温度センサ54Bから出力された第3の刺激面51の温度を表す信号はアナログ/ディジタル変換回路23Bにおいてディジタル・データに変換されてCPU10に入力する。
【0031】
第1の刺激面31、第2の刺激面41および第3の刺激面51のそれぞれの下方に熱流センサ34A、44Aおよび54Aが設けられているが、第1の刺激面31、第2の刺激面41および第3の刺激面51のうちいずれかの刺激面の下方にのみ熱流センサが設けられるようにしてもよい。第1の刺激面31、第2の刺激面41および第3の刺激面51のそれぞれの下方に熱流センサ34A、44Aおよび54Aが設けられている場合には、熱流センサ34A、44Aおよび54Aから得られる皮膚の温度の平均を算出してもよい。
【0032】
CPU10は、第1の刺激面31、第2の刺激面41および第3の刺激面51のそれぞれの温度データにもとづいて、第1の刺激面31、第2の刺激面41および第3の刺激面51のそれぞれの温度が所望の温度となるように温度制御装置17を制御する。とくに、両側の第1の刺激面31および第3の刺激面51のように2つ以上の刺激面を同じ温度となるように制御する場合には、それらの刺激面31および51を別々に制御するのではなく一括で制御することが好ましい。
【0033】
上述のように温度刺激装置1には表示装置5が含まれている。表示装置5は、CPU10によって制御される表示制御装置11によって制御される。表示装置5の表示画面6にはタッチ・パネル13が形成されており、タッチ・パネル13をタッチしたことを示す信号は、インターフェイス14を介してCPU10に入力する。
【0034】
また、上述のように入力装置7に形成されているボタン8からの押下信号もインターフェイス15を介してCPU10に入力する。
【0035】
さらに、CPU10には所定のデータなどを記憶するメモリ16も接続されている。
【0036】
図3は、刺激部3を構成する第1の刺激部S1、第2の刺激部S2および第3の刺激部S3の詳細を示している。
【0037】
第1の刺激部S1には、冷却ユニット35(たとえば、空冷式ヒートシンク、水冷式ヒートシンクなど)が含まれており、この冷却ユニット35上にペルチェ素子33(温度調整素子)が設けられている。ペルチェ素子33の上面には伝熱板32(たとえば、金属板)が接している。伝熱板32の上面が上述した第1の刺激面31である。伝熱板32の下面とペルチェ素子33の上面との間に熱流センサ34Aおよび温度センサ34Bが設けられている。
【0038】
熱流センサ34Aによって検出された熱流が0となるようにペルチェ素子33で伝熱板32の温度が変えられる。熱流が0となったときに温度センサ34Bにおいて検出された温度が、第1の刺激面31上に載せられた皮膚の温度となる。また、上述のように、温度制御装置17によってペルチェ素子33が制御され、温度センサ34Bによって伝熱板32の下面の温度が検出される。温度センサ34Bからの出力信号はアナログ/ディジタル変換回路21Bにおいてディジタル・データに変換されて上述のようにCPU10に入力する。第1の刺激面31が所望の温度となるように、ペルチェ素子33の温度が調整され上昇または下降させられる。ペルチェ素子33は温度制御装置17によって制御させられる。冷却ユニット35が温度制御装置17によって制御されることにより、ペルチェ素子33が所望の温度まで下降させられる。
【0039】
第2の刺激部S2も第1の刺激部S1と同様に、冷却ユニット45の上部にペルチェ素子43が設けられており、ペルチェ素子43の上部に伝熱板42が設けられている。伝熱板42の上面が第2の刺激面41である。伝熱板42の下面とペルチェ素子43との間には熱流センサ43Aおよび温度センサ43Bが設けられている。ペルチェ素子43および冷却ユニット45は温度制御装置17によって制御される。熱流センサ44Aによって検出された熱流が0となるようにペルチェ素子43で伝熱板42の温度が変えられる。熱流が0となったときに温度センサ44Bにおいて検出された温度が、第2の刺激面41上に載せられた皮膚の温度となる。また、温度センサ44Bによって第2の刺激面41の温度が検出される。
【0040】
第3の刺激部S3も第1の刺激部S1および第2の刺激部S2と同様に、冷却ユニット55の上部にペルチェ素子53が設けられており、ペルチェ素子53の上部に伝熱板52が設けられている。伝熱板52の上面が第3の刺激面51である。伝熱板52の下面とペルチェ素子53との間にも熱流センサ54Aおよび温度センサ54Bが設けられている。ペルチェ素子53および冷却ユニット55は温度制御装置17によって制御される。熱流センサ54Aによって検出された熱流が0となるようにペルチェ素子53で伝熱板52の温度が変えられる。熱流が0となったときに温度センサ54Bにおいて検出された温度が、第3の刺激面51上に載せられた皮膚の温度となる。熱流センサ54Aによって第3の刺激面51上に載せられた皮膚の温度が検出され、また、温度センサ54Bによって第3の刺激面51の温度が検出される。
【0041】
【0042】
温度刺激装置1の奥側から手前側に向かって、第1の刺激面31、第2の刺激面41および第3の刺激面51が1列に配置されている。隣り合っている第1の刺激面31の側面と第2の刺激面41の側面との間隔Δ12は2mm以下であり、接していてもよい。隣り合っている第2の刺激面41の側面と第3の刺激面51の側面との間隔Δ23も2mm以下である。間隔Δ12およびΔ23は、実質的に接していることが好ましい(0.5mm以下であれば実質的に接しているということができる)。
図4に示す刺激面4は、第1の刺激面31、第2の刺激面41および第3の刺激面51の3つの刺激面から構成されているが、隣りあった少なくとも2つの刺激面の間隔が2mm以下となるように構成されていてもよい。たとえば、円形の刺激面である第1の刺激面とその第1の刺激面の周囲に形成される円環状の第2の刺激面とから構成され、第1の刺激面と第2の刺激面との間隔が2mm以下としてもよい。この場合、円形の刺激面である第1の刺激面が温度上昇刺激面とし、円環の刺激面である第2の刺激面が一定温度刺激面としてもよいし、円形の刺激面である第1の刺激面を一定温度刺激面とし、円環の刺激面である第2の刺激面を温度上昇刺激面としてもよい。
【0043】
図5および
図6は、第1の実施例を示すもので温度刺激装置1の処理手順を示すフローチャートである。この実施例では、第1の刺激面31および第3の刺激面51(いずれも一定温度刺激面)が摂氏30度の温度に一定に保たれ、第2の刺激面41(温度上昇刺激面)の温度が徐々に上昇させられる。
【0044】
温度刺激装置1の電源ボタン(図示略)が押されることで温度刺激装置1の電源がオンとされると(ステップ61)、第1の刺激面31および第3の刺激面51の温度が摂氏30度に、第2の刺激面41の温度が摂氏32度になるように、温度制御装置17によってペルチェ素子33、43および53が制御される(ステップ62)。
【0045】
つづいて、被験者の皮膚のうち刺激を与える皮膚の部位が刺激面4に載せられる(ステップ63)。刺激面4に載せる皮膚の部位は、たとえば、手のひら、足のうら、前腕部、上腕部などのように、刺激面4を構成する第1の刺激面31、第2の刺激面41および第3の刺激面51のほぼ全体を覆うように皮膚が連続している部位が好ましい。しかし、1本目の指を第1の刺激面31に載せ、2本目の指を第2の刺激面41に載せ、3本目の指を第3の刺激面51に載せるように、刺激面4を構成する第1の刺激面31、第2の刺激面41および第3の刺激面51のほぼ全体を覆わない皮膚の部位を、それぞれ別々に刺激面4に載せるようにしてもよい。
【0046】
刺激を与える皮膚の部位が刺激面4の全体を覆うように載せられると、両側の第1の刺激面31および第3の刺激面51の温度制御と中央の第2の刺激面41の温度制御とに分かれる。
【0047】
両側の第1の刺激面31および第3の刺激面51の温度制御においては、摂氏30度の温度を一定に保つようにペルチェ素子33および53が制御される(ステップ66)。
【0048】
中央の第2の刺激面41の温度制御においては、まず、温度が上昇するように第2の刺激面41の下方に設けられているペルチェ素子44が制御される(ステップ71)。温度が上昇し被験者が痛覚(温覚)を感じ、ボタン8が押されると(ステップ72でYES)、ボタン8が押されたときの中央の第2の刺激面41の温度(このように痛覚を感じたときの温度を閾値温度ということにする)を表すデータがメモリ16に記憶させられる(ステップ73)。
【0049】
この実施例では、両側の第1の刺激面31および第3の刺激面51の温度が一定の温度である摂氏30度に保たれた状態で中央の第2の刺激面41の温度上昇および下降が複数の所定回繰り返され、閾値温度が検出される。所定回数の繰り返しが行われていなければ(ステップ74でNO)、中央の第2の刺激面41の温度が下降させられるようにペルチェ素子44が制御される(ステップ75)。第2の刺激面41の温度が摂氏34度まで下降させられるまで温度制御が続けられる(ステップ76でNO、ステップ75)。第2の刺激面41の温度が摂氏32度まで下降させられると(ステップ76でYES)、ステップ71からの処理が繰り返される。すなわち、中央の第2の刺激面41の温度の上昇(ステップ71)、被験者が痛覚を感じることによるボタン8の押下(ステップ72でYES)、閾値温度の記憶(ステップ73)が行われる。
【0050】
所定回数、繰り返されると(ステップ74でYES)、検出された閾値温度の平均温度がCPU10によって算出され(ステップ77)、算出された平均温度が表示画面6に表示される(ステップ78)。
【0051】
図7は、第1の刺激面31、第2の刺激面41および第3の刺激面51の温度変化の様子を示している。
図7において横軸は時間、縦軸は温度(摂氏)を示している。
【0052】
温度刺激装置1の電源をオンして、時間t12において第1の刺激面31および第3の刺激面51の温度が摂氏32度となり、第2の刺激面41の温度が摂氏30度となったものとする。上述のように、第2の刺激面41(温度上昇刺激面)の温度が徐々に上昇させられ、第1の刺激面31および第3の刺激面51(一定温度刺激面)のそれぞれの温度が第2の刺激面41の初期の温度である32度よりも低い摂氏30度の温度に一定に保たれるようにCPU10が温度制御装置17を制御する。一定に保たれる第1の刺激面31および第3の刺激面51の温度は、第2の刺激面41の初期の温度よりも低ければよいが、初期の温度から摂氏6度低い温度以上の温度に一定に保つことが好ましい。あまり低い温度にすると被験者がその低い温度に痛覚として反応してしまうので、そのようなことを未然に防止するためである。たとえば、初期の温度が摂氏32度であるとすると、摂氏32度よりも6度低い温度は摂氏26度であるから、一定に保たれる第1の刺激面31および第3の刺激面51の温度は摂氏32度未満であり、かつ摂氏26度以上であることが好ましい。後述のように一定に保つ温度は摂氏30度以下が好ましいので第2の刺激面41の初期の温度は30度より高いことが好ましい。
【0053】
第1の刺激面31および第3の刺激面51の温度は破線で示されているように摂氏30度に保たれる。
【0054】
図7を参照して、第2の刺激面41の温度は徐々に上昇(たとえば、1秒間に摂氏0.5度ずつ)させられる(
図7において実線で示されている。時間t12以降)。
【0055】
第1の刺激面31および第3の刺激面51のそれぞれの温度が摂氏30度に保たれており、かつ第2の刺激面41の温度が徐々に上昇させられていても(
図7時間t12からt13の間)、被験者が痛覚を感じなければ被験者はボタン8を押さない。このため、第1の刺激面31および第3の刺激面51のそれぞれの温度が摂氏30度に保たれつつ、第2の刺激面41の温度上昇が続けられる(時間t12からt13の間)。第1の刺激面31および第3の刺激面51のそれぞれと第2の刺激面41との間に温度差が生じることとなる。
【0056】
時間t13になると、第2の刺激面41の温度は摂氏C11度に達する。第1の刺激面31および第3の刺激面51のそれぞれの温度は依然として摂氏30度に保たれている。第2の刺激面41の温度が摂氏C11度に達した時間t13において被験者が痛覚を感じると被験者はボタン8を押す。すると、CPU10により、上述のように、ボタン8が押された時の第2の刺激面41の温度である摂氏C11度を表すデータがメモリ16に記憶させられる。
【0057】
被験者によってボタン8が押されても、第1の刺激面31および第3の刺激面51の温度は摂氏30度に保たれつつ(時間t13からt14の間)、第2の刺激面41の温度が徐々に下降させられる(時間t13からt14の間)。第2の刺激面41の温度が摂氏34度の温度となるまで第2の刺激面41の温度が徐々に下降させられる。
【0058】
時間t14において第2の刺激面41の温度が摂氏34度となると、再び第2の刺激面41の温度が徐々に上昇させられ(時間t14からt15)、時間t15において被験者によってボタン8が再び押されると、そのボタン8が再び押された時間t15の時の第2の刺激面41の温度(摂氏C12度)が検出され、その摂氏C12度を表す温度データがメモリ16に記憶される。
【0059】
第2の刺激面41の温度が再び下降させられ(時間t15からt16)、時間t16において、第2の刺激面41の温度が摂氏34度の温度にまで下がると、第2の刺激面41の温度が再び徐々に上昇させられる(時間t16からt17)。時間t17において被験者によってボタン8が再び押されると、そのボタン8が再び押された時間t17の時の第2の刺激面41の温度(摂氏C13度)が検出され、その摂氏C13度を表す温度データがメモリ16に記憶される。
【0060】
上述した処理があらかじめ定められた所定回数、繰り返されると、第1の刺激面31、第2の刺激面41および第3の刺激面51の温度制御が停止させられる。
【0061】
図4に示したように、第1の刺激面31と第2の刺激面41との間隔Δ12が2mm以下であり、かつ第2の刺激面41と第3の刺激面51との間隔Δ23も2mm以下であるから、比較的低い温度(摂氏C11度、摂氏C12度、摂氏C13度)でも被験者は痛覚を感じる。安全な温度での痛み刺激の実現ができるようになる。
【0062】
図8は、第1の刺激面31と第2の刺激面41との間の間隔および第2の刺激面41と第3の刺激面51との間の間隔を変えて、複数の被験者に上述の方法で温度刺激を与えたときの結果を示している。
【0063】
両側の第1の刺激面31および第3の刺激面51の温度を摂氏28度、中央の第2の刺激面41の温度を摂氏32度に設定し、両側の第1の刺激面31および第3の刺激面51は摂氏28度の一定温度に保ち、中央の第2の刺激面41は摂氏0.5度/秒で徐々に上昇させていった。刺激面4に接する被験者の皮膚の部位右側前腕部であり、被験者は目を閉じた状態で行った。
【0064】
第1の刺激面31と第2の刺激面41と間隔Δ12および第2の刺激面41と第3の刺激面51との間隔Δ23はいずれも0.0mm(完全に接している状態)、2.0mmおよび5.0mmの3種類である。
【0065】
間隔Δ12およびΔ23が0.0mmのときの平均閾値温度は摂氏43.8度、標準偏差は1.8であった。間隔Δ12およびΔ23が2.0mmのときの平均閾値温度は摂氏45.0度、標準偏差は2.6であった。間隔Δ12およびΔ23が5.0mmのときの平均閾値温度は摂氏45.5度、標準偏差は2.5であった。
【0066】
この実験結果から分かるように、第1の刺激面31と第2の刺激面41との間隔Δ12および第2の刺激面41と第3の刺激面51との間隔Δ23が2.0mm以下であるとそれらの間隔Δ12およびΔ23が開いているときよりも平均閾値温度が低くなり、被験者に安全な温度刺激を与えることができることができることが分かった。また、そのときの標準偏差が小さいので実験結果に対する信頼度も高いことが理解できる。温度刺激を与える時間は通常1分以内であり、医用電気機器におけるJIS規格では1分以内で金属が皮膚に接触する場合の最高許容温度は51度である。間隔Δ12およびΔ23を2.0mm以下とすることで、最高許容温度よりも低い温度で温度刺激を与えることができる。また、間隔Δ12およびΔ23を2.0mm以下(好ましくは実質的に接している0.5mm以下)とすることで、刺激面4の面積を小さくできるので温度刺激装置1自体も小型化できる。
【0067】
図9は、一定に保つ温度を変えて、複数の被験者に上述の方法で温度刺激を与えたときの結果を示している。
【0068】
中央の第2の刺激面41は摂氏0.5度/秒で徐々に上昇させていき、両側の第1の刺激面31および第3の刺激面51の温度を摂氏26度、摂氏28度、摂氏30度および摂氏32度の4種類とした。刺激面4に接する被験者の皮膚の部位は右側前腕部であり、被験者は目を閉じた状態で行った。
【0069】
両側の第1の刺激面31および第3の刺激面51の温度を摂氏26度にした場合の平均閾値温度は摂氏41.1度、標準偏差は4.3、両側の第1の刺激面31および第3の刺激面51の温度を摂氏28度にした場合の平均閾値温度は摂氏43.0度、標準偏差は2.5、両側の第1の刺激面31および第3の刺激面51の温度を摂氏30度にした場合の平均閾値温度は摂氏42.1度、標準偏差は1.8、両側の第1の刺激面31および第3の刺激面51の温度を摂氏32度にした場合の平均閾値温度は摂氏43.9度、標準偏差は1.6であった。
【0070】
一定温度が摂氏26度であれば平均閾値温度が比較的低いが標準偏差が4.3でありばらつきが比較的大きく信頼度が低い。一定温度が摂氏30度では平均閾値温度が摂氏42.1度と比較的低く、標準偏差も1.8でばらつきが少ないので信頼度も高いと判断できる。低い温度で一定温度に保つのは比較的電力が必要であるが摂氏30度程度に保つことにより電力も比較的抑えることができるようになる。また、平均閾値温度も比較的低いので安全な温度刺激を被験者に与えることができる。
【0071】
上述の実施例においては、両側の第1の刺激面31および第3の刺激面51の温度を一定に保ち、中央の第2の刺激面41の温度を上昇または下降させているが、両側の第1の刺激面31および第3の刺激面51の温度を上昇または下降させ、中央の第2の刺激面41の温度を一定に保つようにしてもよい。
【0072】
図10は、
図4などに示す刺激面4の変形例を示すもので、
図4に対応する平面図である。
【0073】
図10に示す刺激面4Aは、第1の刺激面31、第2の刺激面41および第3の刺激面51に加えて第4の刺激面81(第4の刺激部S4)が設けられている。このように、刺激面4が4つの刺激面31、41、51および81から構成されるようにしてもよい。第4の刺激部S4は第1の刺激部S1などと同じ構成である。
【0074】
図10に示す刺激面4Aにおいても、第1の刺激面31と第2の刺激面41との間の間隔Δ12、第2の刺激面41と第3の刺激面51との間隔Δ23、第3の刺激面51と第4の刺激面81との間隔Δ34は実質的に接している。
【0075】
また、第1の刺激面31および第3の刺激面51のそれぞれの温度が一定となるように保たれ、第2の刺激面41および第4の刺激面81のそれぞれの温度が上昇または下降するようにしてもよいし、それらの逆に第1の刺激面31および第3の刺激面51のそれぞれの温度が上昇または下降し、第2の刺激面41および第4の刺激面81のそれぞれの温度が一定の温度に保たれるようにしてもよい。
【0076】
さらに、第1の刺激面31および第4の刺激面81のそれぞれの温度が一定となるように保たれ、第2の刺激面41および第3の刺激面51のそれぞれの温度が上昇または下降すようにしてもよいし、それらの逆に第1の刺激面31および第4の刺激面81のそれぞれの温度が上昇または下降するようにし、第2の刺激面41および第3の刺激面51のそれぞれの温度が一定となるようにしてもよい。
【0077】
さらに、
図4に示す例では、第1の刺激面31、第2の刺激面41および第3の刺激面51ならびに
図10に示す例では、第1の刺激面31、第2の刺激面41、第3の刺激面51および第4の刺激面81の大きさが同じであるが、隣接する刺激面同士が2mm以下の間隔で隣り合っていれば必ずしも同じ大きさでなくともよい。また同じ大きさであっても2mm以下の間隔で隣り合っていれば、行方向にずれていてもよい。
【0078】
図11および
図12は、他の実施例を示すもので温度刺激装置1の処理手順を示すフローチャートである。
図11および
図12の処理手順は、
図5および
図6の処理手順に対応する。
図12において、
図6に示す処理と同一の処理については
図6に示す符号と同一の符号が付されている。この実施例では被験者の皮膚の温度が測定され、その皮膚の温度を利用して第1の刺激面31、第2の刺激面41および第3の刺激面51の温度制御が行われる。
【0079】
温度刺激装置1の電源ボタン(図示略)が押されることで温度刺激装置1の電源がオンとされる(ステップ80)。すると、第1の刺激面31、第2の刺激面41および第3の刺激面51の温度が初期温度に保たれる(ステップ81)。つづいて被験者の皮膚のうち刺激を与える皮膚の部位が刺激面4に載せられる(ステップ82)。
【0080】
刺激を与える皮膚の部位が刺激面4の全体を覆うように載せられると、刺激面4の中央に配置されている第2の刺激面41の下方に設けられている熱流センサ44A(皮膚温度測定手段)から得られる熱流にもとづいて被験者の皮膚の温度(皮膚の初期の温度)が測定される(ステップ83)。第2の刺激面41に温度センサを設け、その設けられた温度センサに直接、被験者の皮膚の部位が接するようにして被験者の皮膚の温度を測定してもよい。また、第1の刺激面31、第2の刺激面41および第3の刺激面51のそれぞれの下方に設けられている熱流センサ34A、44Aおよび54Aから得られる熱流にもとづいて手えられる皮膚の温度の平均を算出し、その平均の温度を皮膚の温度としてもよい。測定された皮膚の温度を表すデータは一時的にメモリ16に記憶させられる。
【0081】
両側の第1の刺激面31および第3の刺激面51の温度制御については、第1の刺激面31および第3の刺激面51の初期の温度から下降(または上昇)させられるようにペルチェ素子33および53が制御させられる(ステップ84)。第1の刺激面31および第3の刺激面51の温度が測定された皮膚の温度(皮膚の初期の温度)から摂氏2度低い温度(皮膚の温度-摂氏2度)となるまでペルチェ素子33および53が制御される(ステップ85)。
【0082】
第1の刺激面31および第3の刺激面51の温度が皮膚の温度(皮膚の初期の温度)から摂氏2度低い温度となると(ステップ85でYES)、第1の刺激面31および第3の刺激面51の温度が皮膚の温度(皮膚の初期の温度)から摂氏2度低い温度に保たれるようにペルチェ素子33および53が制御される(ステップ86)。
【0083】
中央の第2の刺激面41の温度制御については上述したのと同様に、被験者がボタン8を押すまで、第2の刺激面41の温度が上昇するように第2の刺激面41の下方に配置されているペルチェ素子43が制御される(ステップ71、72)。第2の刺激面41の温度上昇により被験者が痛覚を感じボタン8を押すと(ステップ72でYES)、ボタン8が押されたときの第2の刺激面41の温度が温度センサ44Bによって検出され、検出された温度(閾値温度)がメモリ16に記憶される(ステップ73)。
【0084】
上述した処理が、所定回数繰り返されていなければ(ステップ74でNO)、第2の刺激面41の温度が、測定された皮膚の温度(皮膚の初期の温度)となるまで下降するように、第2の刺激面41の下方に設けられているペルチェ素子43が制御される(ステップ75、76AでNO)。第2の刺激面41の温度が皮膚の温度(皮膚の初期の温度)となると(ステップ76AでYES)、再び被験者によってボタン8が押されるまで第2の刺激面41の温度が上昇させられ(ステップ71、72)、ボタン8が押された時の温度(閾値温度)がメモリ16に記憶される(ステップ73)。
【0085】
第2の刺激面41の温度上昇、被験者によるボタン8の押し下げ、ボタン8が押された時の第2の刺激面41の温度のメモリ16への記憶という処理が所定回数、繰り返されると(ステップ74でYES)、ボタン8が押された時(被験者が痛覚を感じた時)の第2の刺激面41の平均温度が算出され(ステップ77)、算出された平均温度が表示画面6に表示される(ステップ78)。
【0086】
図13は、
図7に対応するもので、
図11および
図12に示す処理手順によって温度制御される第1の刺激面31、第2の刺激面41および第3の刺激面51の温度変化の様子を示している。
図13において横軸は時間、縦軸は温度(摂氏)を示している。
【0087】
温度刺激装置1の電源をオンした時の時間t20の第1の刺激面31、第2の刺激面41および第3の刺激面51の温度が初期温度として示されている。第1の刺激面31および第3の刺激面51のそれぞれの温度は初期温度に保たれ、第2の刺激面41は手のひらが載せられるとその手のひらの温度となるように高く(または低く)なる(時間t20からt21の間)。時間t20において第2の刺激面41の温度が手のひらの皮膚の温度と同じとなり第2の刺激面41の温度上昇(温度下降)が停止すると、その時の第2の刺激面41の温度が手のひらの温度となる。第2の刺激面41の温度は皮膚の温度に保たれる(時間t21からt23)。
【0088】
時間t21において第2の刺激面41の温度が皮膚の温度と同じとなり、皮膚の温度が分かると上述のように、皮膚の温度(皮膚の初期温度)から摂氏2度低い温度(皮膚の温度-摂氏2度)まで下げられる。時間t22に(皮膚の温度-摂氏2度)となると(皮膚の温度-摂氏2度)の温度に一定に保たれるようにCPU10が温度制御装置17を制御する(破線で示されている)。(皮膚の温度-摂氏2度)の温度に保っているのは、あまり低い温度にすると被験者がその低い温度に痛覚として反応してしまうので、そのようなことを未然に防止するためである。
【0089】
第2の刺激面41(温度上昇刺激面)の温度が徐々に上昇させられ、第2の刺激面41の下方に設けられている熱流センサ44Aによって測定された皮膚の温度(皮膚の初期温度)を時間t23において超えて、さらに上昇させられる(実線で示されている)。
【0090】
第1の刺激面31および第3の刺激面51のそれぞれの温度が(皮膚の温度-摂氏2度)の温度に保たれており、かつ第2の刺激面41の温度が徐々に上昇させられていても(時間t23からt24)、被験者が痛覚を感じなければ被験者はボタン8を押さない。このため、第1の刺激面31および第3の刺激面51のそれぞれの温度が(皮膚の温度-摂氏2度)の温度に保たれつつ、第2の刺激面41の温度上昇が続けられる(時間t23からt24)。
【0091】
時間t24になると、第2の刺激面41の温度は摂氏C12度に達する。第1の刺激面31および第3の刺激面51のそれぞれの温度は依然として(皮膚の温度-摂氏2度)の温度に保たれている。第2の刺激面41の温度が摂氏C12度に達した時間t24において被験者が痛覚(温覚)を感じると被験者はボタン8を押す。すると、CPU10により、上述のように、ボタン8が押された時の第2の刺激面41の温度である摂氏C12度を表すデータがメモリ16に記憶させられる。第1の刺激面31および第3の刺激面51の温度は皮膚の初期の温度よりも低くされているので、第2の刺激面41の温度が比較的低くても痛覚を生じさせる。被験者に安全に温度刺激を与えることができる。
【0092】
被験者によってボタン8が押されても、第1の刺激面31および第3の刺激面51の温度は(皮膚の温度-摂氏2度)の温度に保たれつつ(時間t24からt25の間)、第2の刺激面41の温度が徐々に下降させられる(時間t24からt25の間)。第2の刺激面41の温度が皮膚の温度(皮膚の初期温度)となるまで第2の刺激面41の温度が徐々に下降させられる。
【0093】
時間t25において第2の刺激面41の温度が皮膚の温度となると、再び第2の刺激面41の温度が徐々に上昇させられ(時間t25からt26)、時間t26において被験者によってボタン8が再び押されると、そのボタン8が再び押された時間t26の時の第2の刺激面41の温度(摂氏C22度)が検出され、その摂氏C22度を表す温度データがメモリ16に記憶される。
【0094】
時間t27において、第2の刺激面41の温度が皮膚の温度にまで下がると、第2の刺激面41の温度が再び徐々に上昇させられる(時間t27からt28)。時間t28において被験者によってボタン8が再び押されると、そのボタン8が再び押された時間t28の時の第2の刺激面41の温度(摂氏C32度)が検出され、その摂氏C32度を表す温度データがメモリ16に記憶される。
【0095】
上述した処理があらかじめ定められた所定回数、繰り返されると、第1の刺激面31、第2の刺激面41および第3の刺激面51の温度制御が停止させられる。
【0096】
上述の実施例においては、第1の刺激面31および第3の刺激面51のそれぞれの温度を(皮膚の初期の温度-摂氏2度)に一定に保っているが、(皮膚の初期の温度)と(皮膚の初期の温度から摂氏6度低い温度)との間のいずれかの温度に保つようにしてもよい。
【符号の説明】
【0097】
1:温度刺激装置、2:台、2A:台の手前側の部分、2B:台の奥側の部分、3:刺激部、4-4A:刺激面、5:表示装置、6:表示画面、7:入力装置、8:ボタン、10:CPU、11:表示制御装置、13:タッチ・パネル、14-15:インターフェイス、16:メモリ、17:温度制御装置、18:DC-DCコンバータ、19:医用規格AC-DC電源、21A:ディジタル変換回路、21B:ディジタル変換回路、22A:ディジタル変換回路、22B:ディジタル変換回路、23A:ディジタル変換回路、23B:ディジタル変換回路、31:第1の刺激面、32:伝熱板、33:ペルチェ素子、34A:熱流センサ、34B:温度センサ、35:冷却ユニット、41:第2の刺激面、42:伝熱板、43:ペルチェ素子、43A:熱流センサ、43B:温度センサ、44:ペルチェ素子、44A:熱流センサ、44B:温度センサ、45:冷却ユニット、51:第3の刺激面、52:伝熱板、53:ペルチェ素子、54A:熱流センサ、54B:温度センサ、55:冷却ユニット、81:第4の刺激面、S1:第1の刺激部、S2:第2の刺激部、S3:第3の刺激部、S4:第4の刺激部
Δ12:間隔、Δ23:間隔
【手続補正書】
【提出日】2022-10-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの刺激面が隣り合って配置されており、
上記少なくとも2つの刺激面のそれぞれの温度を調整する温度調整素子、および
被験者の皮膚が上記少なくとも2つの刺激面に接した状態で、上記少なくとも2つの刺激面のうち、隣り合った2つの刺激面の温度差が徐々に大きくなるように上記温度調整素子を制御する素子制御手段、
を備えた温度刺激装置において、
上記少なくとも2つの刺激面を2mm以下の間隔で隣り合って配置したことを特徴とする温度刺激装置。
【請求項2】
上記少なくとも2つの刺激面には、刺激面の温度を一定に保つ一定温度刺激面と刺激面の温度が上昇させられる温度上昇刺激面とが含まれており、
上記素子制御手段は、
上記一定温度刺激面の温度を一定に保ち、かつ上記温度上昇刺激面の温度を徐々に上昇させるように上記温度調整素子を制御する、
請求項1に記載の温度刺激装置。
【請求項3】
被験者が痛覚を感じたときに、被験者から上記温度刺激装置に指令を与える指令手段をさらに備え、
上記素子制御手段は、
上記一定温度刺激面の温度を一定に保ち、上記温度上昇刺激面の温度を徐々に上昇させ、かつ上記指令手段から指令が与えられたことに応じて、上記温度上昇刺激面の温度を下降させるように上記温度調整素子の制御を繰り返す、
請求項2に記載の温度刺激装置。
【請求項4】
上記素子制御手段は、
上記一定温度刺激面の温度を、上記温度上昇刺激面の初期の温度よりも低い温度に一定に保つものである、
請求項2または3に記載の温度刺激装置。
【請求項5】
上記素子制御手段は、
上記一定温度刺激面の温度を、上記温度上昇刺激面の初期の温度と初期の温度から摂氏6度低い温度との間の温度に一定に保つものである、
請求項2から4のうち、いずれか一項に記載の温度刺激装置。
【請求項6】
上記刺激面に接する皮膚の初期の温度を測定する皮膚温度測定手段をさらに備え、
上記素子制御手段は、
上記一定温度刺激面の温度を、上記皮膚温度測定手段において測定された皮膚の初期の温度よりも低い温度に一定に保つものである、
請求項2に記載の温度刺激装置。
【請求項7】
上記素子制御手段は、
上記一定温度刺激面の温度を、上記皮膚温度測定手段において測定された皮膚の初期の温度と皮膚の温度から摂氏6度低い温度との間の温度に一定に保つものである、
請求項6に記載の温度刺激装置。
【請求項8】
少なくとも3つの刺激面を持ち、
中央に上記一定温度刺激面が配置され、かつ上記一定温度刺激面を挟んで両側に上記温度上昇刺激面が配置されている3つの刺激面、または、中央に上記温度上昇刺激面が配置され、かつ上記温度上昇刺激面を挟んで両側に上記一定温度刺激面が配置されている3つの刺激面を含むものである、
請求項1から7のうち、いずれか一項に記載の温度刺激装置。
【請求項9】
上記素子制御手段は、
上記一定温度刺激面の温度調整を一括して行い、かつ上記温度上昇刺激面の温度調整を一括して行うように上記温度調整素子を制御する、
請求項1から8のうち、いずれか一項に記載の温度刺激装置。
【請求項10】
上記少なくとも2つの刺激面は、実質的に接した状態で隣り合って配置されている、
請求項1から10のうち、いずれか一項に記載の温度刺激装置。
【請求項11】
上記少なくとも2つの刺激面を0.5mm以下の間隔で隣り合って配置したことを特徴とする、請求項1から10のうち、いずれか一項に記載の温度刺激装置。
【請求項12】
上記少なくとも2つの刺激面を接して配置したことを特徴とする、請求項1から11のうち、いずれか一項に記載の温度刺激装置。
【請求項13】
少なくとも2つの刺激面が隣り合って配置されており、
温度調整素子が、上記少なくとも2つの刺激面のそれぞれの温度を調整し、
温度制御手段が、上記少なくとも2つの刺激面のうち、隣り合った2つの刺激面の温度差が徐々に大きくなるように上記温度調整素子を制御する、
温度刺激方法において、
上記少なくとも2つの刺激面を2mm以下の間隔で隣り合って配置し、被験者の皮膚が上記少なくとも2つの刺激面に接した状態で、隣り合った2つの上記刺激面の温度差が徐々に大きくなるように上記温度調整素子を制御する、
温度刺激方法。