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特開2023-31002半導体ナノ粒子の製造方法及び発光デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023031002
(43)【公開日】2023-03-08
(54)【発明の名称】半導体ナノ粒子の製造方法及び発光デバイス
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/08 20060101AFI20230301BHJP
   C09K 11/62 20060101ALI20230301BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20230301BHJP
   B82Y 20/00 20110101ALI20230301BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20230301BHJP
【FI】
C09K11/08 A ZNM
C09K11/62
C09K11/08 G
B82Y40/00
B82Y20/00
H01L33/50
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021136447
(22)【出願日】2021-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(71)【出願人】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【弁理士】
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】桑畑 進
(72)【発明者】
【氏名】上松 太郎
(72)【発明者】
【氏名】鳥本 司
(72)【発明者】
【氏名】亀山 達矢
(72)【発明者】
【氏名】久保 朋也
【テーマコード(参考)】
4H001
5F142
【Fターム(参考)】
4H001CA02
4H001CC09
4H001CC13
4H001CF01
4H001XA16
4H001XA29
4H001XA31
4H001XA47
4H001XA49
5F142DA02
5F142DA12
5F142DA14
5F142DA22
5F142DA23
5F142DA46
5F142DA64
5F142DA72
5F142DA73
5F142GA12
5F142GA14
5F142HA01
(57)【要約】
【課題】高収率で半導体ナノ粒子を得ることが可能な半導体ナノ粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】銀を含む金属硫化物と、インジウム及びガリウムの少なくとも一方を含む塩と、硫黄源と、有機溶剤と、を含む第1混合物を125℃以上260℃以下の範囲にある温度まで昇温することと、前記昇温することに続いて、125℃以上260℃以下の範囲にある温度を保持して前記第1混合物を3秒以上熱処理して第1半導体ナノ粒子を得ることと、を含む半導体ナノ粒子の製造方法である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀(Ag)を含む金属硫化物と、インジウム(In)及びガリウム(Ga)の少なくとも一方を含む塩と、硫黄(S)源と、有機溶剤と、を含む第1混合物を125℃以上260℃以下の範囲にある温度まで昇温することと、
前記昇温することに続いて、125℃以上260℃以下の範囲にある温度を保持して前記第1混合物を3秒以上熱処理して第1半導体ナノ粒子を得ることと、を含む半導体ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記第1混合物は、前記In及びGaの少なくとも一方を含む塩と、前記硫黄源と、前記有機溶剤と、を含む溶液に、前記金属硫化物を添加して得られる請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第1混合物は、In-S結合を有する化合物を含むIn塩を含む請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記金属硫化物は、銅(Cu)を更に含む請求項1から3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の製造方法で得られる第1半導体ナノ粒子と、第13族元素を含む化合物と、第16族元素の単体又は第16族元素を含む化合物と、を含む第2混合物を得ることと、
前記第2混合物を熱処理して第2半導体ナノ粒子を得ることと、を含む半導体ナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか1項に記載の製造方法で得られる第1半導体ナノ粒子と、Ga-S結合を有する第1化合物と、Gaを含みSを含まない第2化合物と、有機溶剤と、を含む第3混合物を得ることと、
前記第3混合物を熱処理して第3半導体ナノ粒子を得ることと、を含む半導体ナノ粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項1から4のいずれか1項に記載の製造方法で得られる第1半導体ナノ粒子、請求項5に記載の製造方法で得られる第2半導体ナノ粒子、及び請求項6に記載の製造方法で得られる第3半導体ナノ粒子からなる群から選択される少なくとも1種を含む光変換部材と、半導体発光素子と、を備える発光デバイス。
【請求項8】
前記半導体発光素子は、LEDチップである請求項7に記載の発光デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体ナノ粒子の製造方法及び発光デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体粒子はその粒径が例えば10nm以下になると、量子サイズ効果を発現することが知られており、そのようなナノ粒子は量子ドット(半導体量子ドットとも呼ばれる)と呼ばれる。量子サイズ効果とは、バルク粒子では連続とみなされる価電子帯と伝導帯のそれぞれのバンドが、ナノ粒子では離散的となり、粒径に応じてバンドギャップエネルギーが変化する現象を指す。
【0003】
量子ドットは、光を吸収して、そのバンドギャップエネルギーに対応する光に波長変換可能であるため、量子ドットの発光を利用した白色発光デバイスが提案されている(例えば特許文献1及び2参照)。具体的には、発光ダイオード(LED)チップから発せられる光の一部を量子ドットに吸収させて、量子ドットからの発光とLEDチップからの発光との混合色として白色光を得ることが提案されている。これらの特許文献では、CdSe及びCdTe等の第12族-第16族、PbS及びPbSe等の第14族-第16族の二元系の量子ドットを使用することが提案されている。またCd、Pb等を含む化合物の毒性を考慮して、これらの元素を含まないコアシェル構造型半導体量子ドットを使用した波長変換フィルムが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-212862号公報
【特許文献2】特開2010-177656号公報
【特許文献3】国際公開第2014/129067号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の一態様は、高収率で半導体ナノ粒子を得ることが可能な半導体ナノ粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第一態様は、銀(Ag)を含む金属硫化物と、インジウム(In)及びガリウム(Ga)の少なくとも一方を含む塩と、硫黄(S)源と、有機溶剤と、を含む第1混合物を125℃以上260℃以下の範囲にある温度まで昇温することと、昇温することに続いて、125℃以上260℃以下の範囲にある温度を保持して第1混合物を3秒以上熱処理して第1半導体ナノ粒子を得ることと、を含む半導体ナノ粒子の製造方法である。
【0007】
第二態様は、第一態様の製造方法で得られる第1半導体ナノ粒子と、第13族元素を含む化合物と、第16族元素の単体又は第16族元素を含む化合物と、を含む第2混合物を得ることと、第2混合物を熱処理して第2半導体ナノ粒子を得ることと、を含む半導体ナノ粒子の製造方法である。
【0008】
第三態様は、第一態様の製造方法で得られる第1半導体ナノ粒子と、Ga-S結合を有する第1化合物と、Gaを含みSを含まない第2化合物と、有機溶剤と、を含む第3混合物を得ることと、第3混合物を熱処理して第3半導体ナノ粒子を得ることと、を含む半導体ナノ粒子の製造方法である。
【0009】
第四態様は、第一態様の製造方法で得られる第1半導体ナノ粒子、第二態様の製造方法で得られる第2半導体ナノ粒子、及び第三態様の製造方法で得られる第3半導体ナノ粒子からなる群から選択される少なくとも1種を含む光変換部材と、半導体発光素子と、を備える発光デバイスである。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一態様によれば、高収率で半導体ナノ粒子を得ることが可能な半導体ナノ粒子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例及び比較例に係る第1半導体ナノ粒子の発光スペクトルの一例を示す図である。
図2】実施例及び比較例に係る第2半導体ナノ粒子の発光スペクトルの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。さらに本明細書に記載される数値範囲の上限及び下限は、当該数値を任意に選択して組み合わせることが可能である。本明細書において、色名と色度座標との関係、光の波長範囲と単色光の色名との関係等は、JIS Z8110に従う。蛍光体の半値幅は、蛍光体の発光スペクトルにおいて、最大発光強度に対して発光強度が50%となる発光スペクトルの波長幅(半値全幅;FWHM)を意味する。以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための、半導体ナノ粒子の製造方法及び発光デバイスを例示するものであって、本発明は、以下に示す半導体ナノ粒子の製造方法及び発光デバイスに限定されない。
【0013】
半導体ナノ粒子の製造方法
第一態様の半導体ナノ粒子の製造方法は、銀(Ag)を含む金属硫化物と、インジウム(In)及びガリウム(Ga)の少なくとも一方を含む塩と、硫黄(S)源と、有機溶剤と、を含む第1混合物を125℃以上260℃以下の範囲にある温度まで昇温する昇温工程と、昇温工程に続いて、125℃以上260℃以下の範囲にある温度を保持して前記第1混合物を3秒以上熱処理して第1半導体ナノ粒子を得る第1合成工程と、を含んでいてよい。
【0014】
一般的に銀(Ag)と、インジウム(In)と、硫黄(S)とを含む半導体ナノ粒子(Ag-In-S)は、硫化銀とインジウム源とが反応することにより生成すると考えられる。原料として硫化銀を用いて、熱処理温度の範囲を半導体ナノ粒子が合成されるのに必要な125℃以上とすることで、粒子状の硫化銀が硫化インジウム又は硫化ガリウム及びその混合物と反応して転換反応を生じ、半導体ナノ粒子が生成するため、高い収率で半導体ナノ粒子を得ることができると考えられる。また、得られる半導体ナノ粒子は、硫化銀の粒径に応じて粒径が制御されると考えられる。
【0015】
半導体ナノ粒子の製造方法は、昇温工程の前に、銀(Ag)を含む金属硫化物と、インジウム(In)及びガリウム(Ga)の少なくとも一方を含む塩と、硫黄(S)源と、有機溶剤と、を含む第1混合物を得る第1準備工程を有していてよい。
【0016】
製造方法に用いられる金属硫化物は、化学量論組成を有していてもよいし、化学量論組成とは異なる組成を有していてもよい。金属硫化物が硫化銀の場合、例えばAgSで表される組成を有していてよい。xは、例えば1以上3以下の数であってよく、好ましくは1.8以上2.2以下の数であってよい。金属硫化物が銀と銅(Cu)を含む場合、金属硫化物は、(Ag,Cu)Sで表される組成を有していてよい。yは、例えば1以上3以下の数であってよく、好ましくは1.8以上2.2以下の数であってよい。ここで、組成を表す式中、カンマ(,)で区切られて記載されている複数の元素は、これらの複数の元素のうち少なくとも1種の元素を組成中に含有することを意味する。
【0017】
金属硫化物が銀と銅を含む場合、銀と銅の総モル数に対する銅のモル数の比は、例えば0.001以上0.99以下であってよく、好ましくは0.01以上、又は0.02以上であってよく、また好ましくは0.5以下、又は0.2以下であってよい。
【0018】
製造方法に用いられる金属硫化物は、金属硫化物ナノ粒子であってよい。金属硫化物の平均粒径は、例えば1nm以上10nm以下であってよく、好ましくは2nm以上、又は3nm以上であってよく、また好ましくは5nm以下、又は4nm以下であってよい。金属硫化物の平均粒径は後述する半導体ナノ粒子の平均粒径と同様にして測定される。
【0019】
金属硫化物は、金属硫化物の分散液又は溶液として用いられてよい。金属硫化物の分散液又は溶液を構成する溶媒は、有機溶剤であってよい。有機溶剤としては、炭素数4以上20以下の炭化水素基を有する含窒素化合物、炭素数4以上20以下の炭化水素基を有する含硫黄化合物等が挙げられ、これらの有機溶剤は2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、有機溶剤は、クロロホルム等のハロゲン系溶剤を含んでいてもよく、実質的にハロゲン系溶剤であってもよい。
【0020】
金属硫化物は、購入されるものであってもよいし、公知の方法で製造されるものであってもよい。銀を含む金属硫化物ナノ粒子は、例えば学術文献である、He Hら、Small.2018,14,1703296等の記載を参照して製造することができる。
【0021】
第1混合物における銀を含む金属硫化物の濃度は、金属硫化物に含まれる金属の原子としての濃度を基準として例えば0.1mM以上10mM以下であってよく、好ましくは0.5mM以上、又は1mM以上であってよい。また、金属硫化物の濃度の上限は、好ましくは5mM以下、又は4mM以下であってよい。
【0022】
製造方法に用いられるIn及びGaの少なくとも一方を含む塩としては、有機酸塩及び無機酸塩が挙げられる。具体的に無機酸塩としては、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物及びスルホン酸塩が挙げられる。ハロゲン化物には、例えば塩化物、臭化物、ヨウ化物等が含まれる。有機酸塩としては、ギ酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、アセチルアセトナート塩、含硫黄化合物塩、オレイン酸塩、ステアリン酸塩等が挙げられる。中でも有機溶剤への溶解度が高い点から有機酸塩が好ましい。In及びGaの少なくとも一方を含む塩は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
含硫黄化合物塩を構成する含硫黄化合物としては、チオカルバミン酸、ジチオカルバミン酸、チオ炭酸、ジチオ炭酸(キサントゲン酸)、トリチオ炭酸、チオカルボン酸、ジチオカルボン酸及びそれらの誘導体等を挙げることができる。含硫黄化合物の具体例としては、例えば、脂肪族チオカルバミン酸、脂肪族ジチオカルバミン酸、脂肪族チオ炭酸、脂肪族ジチオ炭酸、脂肪族トリチオ炭酸、脂肪族チオカルボン酸、脂肪族ジチオカルボン酸等が挙げられ、脂肪族チオカルバミン酸、脂肪族ジチオカルバミン酸には、ジアルキルチオカルバミン酸、ジアルキルジチオカルバミン酸が含まれる。これらにおける脂肪族基としては、炭素数1以上12以下のアルキル基、アルケニル基等を挙げることができる。ジアルキルチオカルバミン酸、ジアルキルジチオカルバミン酸におけるアルキル基は、例えば、炭素数1以上12以下であってよく、好ましくは炭素数1以上4以下であり、2つのアルキル基は、同一でも異なっていてもよい。
【0024】
In及びGaの少なくとも一方を含む塩としては、In塩、Ga塩並びにIn及びGaを含む塩が挙げられる。In及びGaの少なくとも一方を含む塩は、In-S結合及びGa-S結合の少なくとも一方を有する化合物を含んでいてよく、少なくともIn-S結合を有する化合物を含んでいてよい。ここで、In-S結合及びGa-S結合はそれぞれ、共有結合、イオン結合、配位結合等のいずれであってもよい。In-S結合を有する化合物の具体例としては、トリスジメチルジチオカルバミン酸インジウム、トリスジエチルジチオカルバミン酸インジウム(In(DDTC))、クロロビスジエチルジチオカルバミン酸インジウム(InCl(DDTC))、エチルキサントゲン酸インジウム(In(EX))等を挙げることができる。また、Ga-S結合を有する化合物の具体例としては、トリスジメチルジチオカルバミン酸ガリウム、トリスジエチルジチオカルバミン酸ガリウム(Ga(DDTC))、クロロビスジエチルジチオカルバミン酸ガリウム(GaCl(DDTC))、エチルキサントゲン酸ガリウム(Ga(EX))等を挙げることができる。
【0025】
第1混合物におけるIn及びGaの少なくとも一方を含む塩の含有量は、金属硫化物に含まれる金属の総モル数に対する、In及びGaの総モル数の比として、例えば0.5以上2以下であってよく、好ましくは0.8以上、又は0.9以上であってよく、また好ましくは1.2以下、又は1.1以下であってよい。
【0026】
一態様において第1混合物は、In及びGaの少なくとも一方を含む塩として、含硫黄化合物塩と、含硫黄化合物塩以外の有機酸塩とを含んでいてもよい。その場合、含硫黄化合物塩は、後述する硫黄源を兼ねていてもよい。第1混合物が、In及びGaの少なくとも一方を含む塩の一部として含硫黄化合物塩を含む場合、In及びGaの少なくとも一方を含む塩に含まれる金属の総モル数に対する含硫黄化合物塩に含まれる金属のモル数の比は、例えば0.05以上5以下であってよく、好ましくは0.1以上2以下、又は0.2以上1以下であってよい。
【0027】
有機溶剤としては、炭素数4以上20以下の炭化水素基を有するアミン、特に、炭素数4以上20以下のアルキルアミンもしくはアルケニルアミン、炭素数4以上20以下の炭化水素基を有するチオール、特に炭素数4以上20以下のアルキルチオールもしくはアルケニルチオール、炭素数4以上20以下の炭化水素基を有するホスフィン、特に炭素数4以上20以下のアルキルホスフィンもしくはアルケニルホスフィンである。これらの有機溶剤は、最終的には、得られる第1半導体ナノ粒子を表面修飾するものとなり得る。これらの有機溶剤は2以上組み合わせて使用してよく、特に、炭素数4以上20以下の炭化水素基を有するチオールから選択される少なくとも1種と、炭素数4以上20以下の炭化水素基を有するアミンから選択される少なくとも1種とを組み合わせた混合溶媒を使用してよい。これらの有機溶剤はまた、他の有機溶剤と混合して用いてよい。また、125℃以上で溶解するのであれば、常温で固体であってもよい。
【0028】
第1混合物は、硫黄(S)源を含んでいてもよい。硫黄源は、固体状化合物であってもよく、固体状化合物は常温(25℃)で固体であればよい。硫黄源としては、例えば、ジエチルジチオカルバミド酸塩;チオ尿素;ジメチルチオ尿素、ジエチルチオ尿素等のアルキルチオ尿素等が挙げられる。また、硫黄源として液体状化合物を用いてもよい。硫黄源となる液体状化合物としては、例えば、4-ペンタンジチオンなどのβ-ジチオン類;1,2-ビス(トリフルオロメチル)エチレン-1,2-ジチオールなどのジチオール類等が挙げられる。硫黄源は、1種単独であってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。さらに硫黄源は、In及びGaの少なくとも一方を含む塩を兼ねていてもよい。
【0029】
第1混合物における硫黄(S)源の含有量は、金属硫化物に含まれる金属の総モル数に対するSのモル数の比として、例えば1以上10以下であってよく、好ましくは1.5以上、又は1.8以上であってよく、また好ましくは6以下、又は5以下であってよい。
【0030】
第1準備工程において第1混合物は、銀を含む金属硫化物と、In及びGaの少なくとも一方を含む塩と、硫黄源と、有機溶剤と、を混合することにより得られる。また第1混合物は、In及びGaの少なくとも一方を含む塩と、硫黄源と、有機溶剤と、を含む溶液に金属硫化物を添加して調製してもよい。さらに第1混合物は、In及びGaの少なくとも一方を含む塩と、硫黄源と、有機溶剤と、を調製し、これを加熱した状態で、金属硫化物を添加して調製してもよい。加熱温度は、例えば、30℃以上100℃以下であり、好ましくは40℃以上95℃以下、又は80℃以上95℃以下である。
【0031】
昇温工程では、第1混合物を125℃以上260℃以下の範囲にある温度まで昇温する。昇温する温度の範囲は125℃以上260℃以下であり、中でも130℃以上160℃以下が好ましく、135℃以上150℃以下がより好ましい。昇温速度は、昇温中の最高温度が260℃を越えないように調整すれば、特に限定されないが、例えば1℃/分以上50℃/分以下であってよい。
【0032】
混合及び昇温の雰囲気は、不活性ガス雰囲気、特にアルゴンガス雰囲気又は窒素ガス雰囲気が好ましい。不活性ガス雰囲気とすることで、酸化物の副生を、低減ないしは防止することができる。
【0033】
第1合成工程では、昇温工程に続いて125℃以上260℃以下の範囲にある温度を保持して、第1混合物を3秒以上熱処理する。これにより、第1半導体ナノ粒子が合成される。
【0034】
温度の範囲は、125℃以上260℃以下であってよく、量子収率の点から130℃以上160℃以下が好ましく、135℃以上150℃以下がより好ましい。
【0035】
温度を保持する時間は量子収率の点から3秒以上が好ましく、1分以上がより好ましい。熱処理時間の上限については特に限定はないが、例えば、60分以下、又は30分以下とすることができる。熱処理する時間は上述の温度範囲にて設定した温度に到達した時点(例えば140℃に設定した場合は140℃に到達した時点)を熱処理の開始時間とし、降温のための操作を行った時点を熱処理の終了時間とする。
【0036】
熱処理の雰囲気は、不活性ガス雰囲気、特にアルゴンガス雰囲気又は窒素ガス雰囲気が好ましい。不活性ガス雰囲気とすることで、酸化物の副生及び得られる第1半導体ナノ粒子表面の酸化を、低減ないしは防止することができる。
【0037】
半導体ナノ粒子の製造方法は、上述の第1合成工程に続いて第1半導体ナノ粒子を含む反応混合物の温度を降温する冷却工程を有していてよい。冷却工程は、降温のための操作を行った時点を開始とし、50℃以下まで冷却された時点を終了とする。
【0038】
冷却工程は、生成した第1半導体ナノ粒子表面で反応が継続し、意図しない硫化インジウム、硫化ガリウム、及び硫化インジウムと硫化ガリウムの合金が堆積することを防止する観点から、降温速度が50℃/分以上である期間を含むことが好ましい。特に降温のための操作を行った後、降温が開始した時点において50℃/分以上とすることが好ましい。
【0039】
冷却工程の雰囲気は、不活性ガス雰囲気、特にアルゴンガス雰囲気又は窒素ガス雰囲気が好ましい。不活性ガス雰囲気とすることで、酸化物の副生及び得られる第1半導体ナノ粒子表面の酸化を、低減ないしは防止することができる。
【0040】
冷却工程が終了した後、第1半導体ナノ粒子を反応混合物から分離してよく、必要に応じて、さらに精製してよい。分離は、例えば、冷却工程の終了後、第1半導体ナノ粒子を含む反応混合物を遠心分離に付して、第1半導体ナノ粒子を含む上澄み液を取り出すことにより行うことができる。精製では、例えば、得られる上澄み液に、アルコール等の適当な有機溶剤を添加して遠心分離に付し、第1半導体ナノ粒子を沈殿物として取り出すことができる。なお、上澄み液を揮発させることによっても第1半導体ナノ粒子を取り出すことができる。取り出した沈殿物は、例えば、減圧乾燥、もしくは自然乾燥、又は減圧乾燥と自然乾燥との組み合わせにより、乾燥させてよい。自然乾燥は、例えば、大気中に常温常圧にて放置することにより実施してよく、その場合、20時間以上、例えば、30時間程度放置してよい。アルコールの添加と遠心分離による精製は必要に応じて複数回実施してよい。精製に用いるアルコールとして、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール等の炭素数1から4の低級アルコールを用いてよい。
【0041】
取り出した沈殿物は、適当な有機溶剤に分散させてもよい。沈殿物を有機溶剤に分散させる場合、有機溶剤として、クロロホルム等のハロゲン系溶剤、トルエン、シクロヘキサン、ヘキサン、ペンタン、オクタン等の炭化水素系溶剤等を用いてもよい。
【0042】
第二態様の半導体ナノ粒子の製造方法は、第一態様の製造方法で得られる第1半導体ナノ粒子と、第13族元素を含む化合物と、第16族元素の単体又は第16族元素を含む化合物と、を含む第2混合物を得る第2準備工程と、第2混合物を熱処理して第2半導体ナノ粒子を得る第2合成工程と、を含んでいてよい。
【0043】
第二態様の半導体ナノ粒子の製造方法では、第1半導体ナノ粒子と、第13族元素を含む化合物と、第16族元素の単体又は第16族元素を含む化合物と、を含む第2混合物を熱処理することにより、第1半導体ナノ粒子の表面上にAgを実質的に含まず、第13族元素及び第16族元素を含む付着物(以下、「シェル」とも言う)が形成された第2半導体ナノ粒子、もしくは第1半導体ナノ粒子内部の表面近傍にAgを実質的に含まず、第13族元素及び第16族元素を含む半導体層(以下、「シェル」ともいう)が形成された第2半導体ナノ粒子を得ることができる。第1半導体ナノ粒子の表面に形成される付着物は、第1半導体ナノ粒子を被覆していてよい。また、得られる第2半導体ナノ粒子は、例えばコアシェル型半導体ナノ粒子であってよい。ここで「実質的に含まず」とは、Ag以外の元素に対するAgの割合が、例えば、10モル%以下であり、好ましくは5モル%以下、より好ましくは1モル%以下であることを意味する。
【0044】
第二態様の半導体ナノ粒子の製造方法では、第1半導体ナノ粒子は、第1半導体ナノ粒子を含む分散液として用いることができる。第1半導体ナノ粒子が分散した液体においては、散乱光が生じないため、分散液は一般に透明(有色又は無色)のものとして得られる。第1半導体ナノ粒子を分散させる溶媒は、第1半導体ナノ粒子を作製するときと同様、任意の有機溶剤とすることができる。有機溶剤は、表面修飾剤、又は表面修飾剤を含む溶液とすることができる。例えば、有機溶剤は、炭素数4以上20以下の炭化水素基を有する含窒素化合物から選ばれる少なくとも1種とすることができ、あるいは、炭素数4以上20以下の炭化水素基を有する含硫黄化合物から選ばれる少なくとも1種とすることができ、あるいは炭素数4以上20以下の炭化水素基を有する含窒素化合物から選ばれる少なくとも1種と炭素数4以上20以下の炭化水素基を有する含硫黄化合物から選ばれる少なくとも1種との組み合わせとすることができる。具体的な有機溶剤としては、オレイルアミン、テトラデシルアミン、ドデカンチオール、又はその組み合わせが挙げられる。さらに、これらの有機溶剤は他の有機溶剤(例えば、ハロゲン系溶剤)と混合して用いてもよい。
【0045】
第1半導体ナノ粒子を含む分散液には、有機溶剤として、クロロホルム等のハロゲン系溶剤、トルエン、シクロヘキサン、ヘキサン、ペンタン、オクタン等の炭化水素系溶剤等を用いてもよい。
【0046】
第1半導体ナノ粒子を含む分散液は、分散液に占める粒子の濃度が、例えば、5.0×10-7モル/リットル以上5.0×10-5モル/リットル以下、特に1.0×10-6モル/リットル以上1.0×10-5モル/リットル以下となるように調製してよい。分散液に占める粒子の割合が小さすぎると貧溶媒による凝集・沈澱プロセスによる生成物の回収が困難になり、大きすぎるとコアを構成する材料のオストワルド熟成、衝突による融合の割合が増加し、粒径分布が広くなる傾向にある。
【0047】
第13族元素を含む化合物は、第13族元素源となるものであり、例えば、第13族元素の有機酸塩、無機酸塩、有機金属化合物等である。第13族元素を含む化合物としては、硝酸塩、酢酸塩、硫酸塩、塩酸塩、スルホン酸塩、アセチルアセトナート錯体等が挙げられ、好ましくは酢酸塩等の有機酸塩、又は有機金属化合物である。有機酸塩及び有機金属化合物は有機溶媒への溶解度が高く、反応をより均一に進行させやすいことによる。
【0048】
第16族元素の単体又は第16族元素を含む化合物は、第16族元素源となるものである。例えば、第16族元素として、硫黄(S)をシェルの構成元素とする場合には、高純度硫黄のような硫黄単体を用いることができる。あるいは、ブタンチオール、イソブタンチオール、ペンタンチオール、ヘキサンチオール、オクタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオール、ヘキサデカンチオール、オクタデカンチオール等のチオール、ジベンジルスルフィドのようなジスルフィド、チオ尿素、1,3-ジメチルチオ尿素、チオカルボニル化合物等の含硫黄化合物を用いることができる。中でも1,3-ジメチルチオ尿素を第16族元素源(硫黄源)として用いると、シェルが十分に形成されて、強いバンド端発光を与える第2半導体ナノ粒子が得られやすい。
【0049】
第16族元素として、酸素(O)をシェルの構成元素とする場合には、アルコール、エーテル、カルボン酸、ケトン、N-オキシド化合物を、第16族元素源として用いてよい。第16族元素として、セレン(Se)をシェルの構成元素とする場合には、セレン単体、又はセレン化ホスフィンオキシド、有機セレン化合物(ジベンジルジセレニド、ジフェニルジセレニド等)もしくは水素化物等の化合物を、第16族元素源として用いてよい。第16族元素として、テルル(Te)をシェルの構成元素とする場合には、テルル単体、テルル化ホスフィンオキシド、又は水素化物を、第16族元素源として用いてよい。
【0050】
第2混合物における第16族元素源は、第13族元素源の少なくとも一部を兼ねていてもよい。例えば、第16族元素として、硫黄(S)をシェルの構成元素とする場合には、第16族元素源は、第13族元素-硫黄結合を有する化合物を含んでいてもよい。第13族元素-硫黄結合を有する化合物としては、例えば含硫黄化合物の第13族元素塩が挙げられ、第13族元素-硫黄の含硫黄有機酸塩、含硫黄無機酸塩、含硫黄有機金属化合物等であってよい。含硫黄化合物については既述の通りである。例えば、第13族元素としてガリウム(Ga)を含む場合の具体例としては、トリスジメチルジチオカルバミン酸ガリウム、トリスジエチルジチオカルバミン酸ガリウム(Ga(DDTC))、クロロビスジエチルジチオカルバミン酸ガリウム(GaCl(DDTC))、エチルキサントゲン酸ガリウム(Ga(EX))等を挙げることができる。
【0051】
第2混合物は、有機溶剤を含んでいてもよい。有機溶剤は、第1半導体ナノ粒子を含む分散液を構成する有機溶剤と同一の有機溶剤であってもよいし、異なる有機溶剤であってもよい。第2混合物における有機溶剤としては、アミン類、チオール類、ホスフィン類等の第一態様の半導体ナノ粒子の製造方法における有機溶剤と同様のものを挙げることができる。有機溶剤は、例えば、最終的には、得られる第2半導体ナノ粒子を表面修飾してもよい。有機溶剤は2種以上を組み合わせて使用してよく、例えば炭素数4以上20以下の炭化水素基を有するチオール類から選択される少なくとも1種と、炭素数4以上20以下の炭化水素基を有するアミン類から選択される少なくとも1種とを組み合わせた混合溶剤を使用してよい。また、2種以上のアミン類を組み合わせて使用してもよい。さらに、これらの有機溶剤は他の有機溶剤(例えば、ハロゲン系溶剤)と混合して用いてもよい。
【0052】
第2混合物は、ハロゲン化合物をさらに含んでいてもよい。第2混合物がハロゲン化合物を含むことで、発光効率がより向上する場合がある。これは例えば、ハロゲン化合物から生成するハロゲンイオンによって、溶媒への溶解性が良好なハロゲン化ガリウムが生成し、これによって付着物又は半導体層を形成する半導体の格子欠陥等が修復されて、原子配列が整った付着物又は半導体層が形成されるためと考えることができる。
【0053】
ハロゲン化合物としては、ハロゲン原子を含む有機化合物及びハロゲン原子を含む無機化合物が挙げられる。ハロゲン化合物が含むハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、好ましくは塩素原子又は臭素原子である。ハロゲン化合物が含むハロゲン原子は1種単独でも、2種以上の組み合わせであってもよい。また、第2混合物が含むハロゲン化合物は1種単独でも、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0054】
ハロゲン原子を含む有機化合物としては、例えば、ハロゲン化炭化水素、ハロゲン化テトラアルキルアンモニウム等が挙げられる。ハロゲン原子を含む有機化合物の炭素数は、例えば、1以上20以下であってよく、好ましくは1以上12以下又は1以上6以下であってよい。ハロゲン化炭化水素の具体例としては、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン、ブロモホルム、ヘキサクロロベンゼン、クロロベンゼン等を挙げることができる。ハロゲン化テトラアルキルアンモニウムの具体例としては、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム等を挙げることができる。
【0055】
ハロゲン原子を含む無機化合物としては、例えば、ハロゲン化水素、金属ハロゲン化物等が挙げられる。ハロゲン化水素には、塩化水素及び臭化水素が含まれる。金属ハロゲン化物には、塩化ガリウム等が含まれる。
【0056】
第2混合物が、ハロゲン化合物を含む場合、その含有量は、第2混合物に対して、例えば0.1質量%以上1.0質量%以下であってよく、好ましくは0.15質量%以上0.3質量%以下であってよい。また、第2混合物に含まれる第1半導体ナノ粒子の粒子数に対する比が、例えば3000以上50000以下であってよく、好ましくは4500以上9000以下であってよい。
【0057】
第二態様の半導体ナノ粒子の製造方法としては、第1半導体ナノ粒子を含む分散液を昇温して、そのピーク温度が200℃以上310℃以下となるようにし、ピーク温度に達してから、ピーク温度を保持した状態で、予め第13族元素源及び第16族元素源を、有機溶媒に分散又は溶解させた混合液を少量ずつ加え、その後、降温させる方法で、シェル層を形成してよい(スローインジェクション法)。この場合、第1半導体ナノ粒子を含む分散液と混合液が混合されて第2混合物が得られた直後に熱処理が起こる。混合液は、0.1mL/時間以上10mL/時間以下、特に1mL/時間以上5mL/時間以下の速度で添加してよい。ピーク温度は、混合液の添加を終了した後も必要に応じて保持してよい。
【0058】
ピーク温度が200℃以上であると、第1半導体ナノ粒子を修飾している表面修飾剤が十分に脱離し、又はシェル生成のための化学反応が十分に進行する等の理由により、半導体の層(例えば、シェル)の形成が十分に行われる傾向がある。ピーク温度が310℃以下であると、第1半導体ナノ粒子に変質が生じることが抑制され、良好なバンド端発光が得られる傾向がある。ピーク温度を保持する時間は、混合液の添加が開始されてからトータルで1分間以上300分間以下、特に10分間以上120分間以下とすることができる。ピーク温度の保持時間は、ピーク温度との関係で選択され、ピーク温度がより低い場合には保持時間をより長くし、ピーク温度がより高い場合には保持時間をより短くすると、良好なシェル層が形成されやすい。昇温速度及び降温速度は特に限定されず、降温は、例えばピーク温度で所定時間保持した後、加熱源(例えば電気ヒーター)による加熱を停止して放冷することにより実施してよい。
【0059】
あるいは、第二態様の半導体ナノ粒子の製造方法としては、第1半導体ナノ粒子を含む分散液と第13族元素源及び第16族元素源とを混合して、第2混合物を得た後、第2混合物を熱処理することにより、第13族元素及び第16族元素を含む半導体層を第1半導体ナノ粒子の表面に形成してよい(ヒーティングアップ法)。具体的には、第2混合物を徐々に昇温して、そのピーク温度が200℃以上310℃以下となるようにし、ピーク温度で1分間以上300分間以下保持した後、徐々に降温させるやり方で加熱してよい。昇温速度は例えば1℃/分以上50℃/分以下としてよいが、第1半導体ナノ粒子の変質を最小限に留めるため200℃までは50℃/分以上100℃/分以下が好ましい。また、200℃以上にさらに昇温したい場合は、それ以降は1℃/分以上5℃/分以下とすることが好ましい。降温速度は、例えば1℃/分以上50℃/分以下としてよい。所定のピーク温度が前記範囲であることの有利な点は、スローインジェクション法で説明したとおりである。
【0060】
ヒーティングアップ法によれば、スローインジェクション法で半導体層を形成する場合と比較して、より強いバンド端発光を与える第2半導体ナノ粒子が得られる傾向にある。
【0061】
いずれの方法で第13族元素源及び第16族元素源の仕込み比は、第13族元素と第16族元素とからなる半導体化合物の化学量論組成比に対応させて仕込み比を決めてもよく、必ずしも化学量論組成比にしなくてもよい。例えば、第13族元素に対する第16族元素の仕込み比として0.75以上1.5以下とすることができる。
【0062】
また、分散液中に存在する第1半導体ナノ粒子に所望の厚さの付着物又は半導体層が形成されるように、仕込み量は、分散液に含まれる第1半導体ナノ粒子の量を考慮して選択する。例えば、第1半導体ナノ粒子の、粒子としての物質量10nmolに対して、第13族元素及び第16族元素から成る化学量論組成の半導体化合物が1μmol以上10mmol以下、特に5μmol以上1mmol以下生成されるように、第13族元素源及び第16族元素源の仕込み量を決定してよい。ただし、粒子としての物質量というのは、第1半導体ナノ粒子1つを巨大な分子と見なしたときのモル量であり、分散液に含まれる第1半導体ナノ粒子の粒子数を、アボガドロ数(NA=6.022×1023)で除した値に等しい。
【0063】
第二態様の半導体ナノ粒子の製造方法においては、第13族元素源として、酢酸インジウム又はガリウムアセチルアセトナートを用い、第16族元素源として、硫黄単体、チオ尿素又はジベンジルジスルフィドを用いて、分散液として、オレイルアミンとドデカンチオールの混合液を用いて、硫化インジウム又は硫化ガリウムを含むシェルを形成することが好ましい。
【0064】
また、ヒーティングアップ法で、分散液にオレイルアミンとドデカンチオールの混合液を用いると、欠陥発光に由来するブロードなピークの強度がバンド端発光のピークの強度よりも十分に小さい発光スペクトルを与える第2半導体ナノ粒子が得られる。上記の傾向は、第13族元素源としてガリウム源を使用した場合にも、有意に認められる。
【0065】
このようにして、第2半導体ナノ粒子が形成される。得られた第2半導体ナノ粒子は、溶剤から分離してよく、必要に応じて、さらに精製及び乾燥してよい。分離、精製及び乾燥の方法は、先に第1半導体ナノ粒子に関連して説明したとおりであるから、ここではその詳細な説明を省略する。
【0066】
第二態様の半導体ナノ粒子の製造方法は、第2合成工程で得られる第2半導体ナノ粒子の表面に表面修飾剤を配置する修飾工程をさらに含んでいてもよい。修飾工程は、例えば、第2合成工程で得られる第2半導体ナノ粒子と表面修飾剤とを接触させることを含んでいてよく、第2合成工程で得られる第2半導体ナノ粒子と酸化数が負のリン(P)を含む特定修飾剤とを接触させることを含んでいてよい。これにより、より優れた量子収率でバンド端発光を示す半導体ナノ粒子が製造される。
【0067】
特定修飾剤は、第15族元素として負の酸化数を有するPを含む。Pの酸化数は、Pに水素原子又は炭化水素基が1つ結合することで-1となり、酸素原子が単結合で1つ結合することで+1となり、Pの置換状態で変化する。例えば、トリアルキルホスフィン及びトリアリールホスフィンにおけるPの酸化数は-3であり、トリアルキルホスフィンオキシド及びトリアリールホスフィンオキシドでは-1となる。
【0068】
特定修飾剤は、負の酸化数を有するPに加えて、他の第15族元素を含んでいてもよい。他の第15族元素としては、N、As、Sb等を挙げることができる。
【0069】
特定修飾剤は、例えば、炭素数4以上20以下の炭化水素基を有する含リン化合物であってよい。炭素数4以上20以下の炭化水素基としては、n-ブチル基、イソブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、オクチル基、エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基などの直鎖又は分岐鎖状の飽和脂肪族炭化水素基;オレイル基などの直鎖又は分岐鎖状の不飽和脂肪族炭化水素基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基などの脂環式炭化水素基;フェニル基、ナフチル基などの芳香族炭化水素基;ベンジル基、ナフチルメチル基などのアリールアルキル基などが挙げられ、このうち飽和脂肪族炭化水素基や不飽和脂肪族炭化水素基が好ましい。特定修飾剤が、複数の炭化水素基を有する場合、それらは同一であっても、異なっていてもよい。
【0070】
特定修飾剤として具体的には、トリブチルホスフィン、トリイソブチルホスフィン、トリペンチルホスフィン、トリヘキシルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリス(エチルヘキシル)ホスフィン、トリデシルホスフィン、トリドデシルホスフィン、トリテトラデシルホスフィン、トリヘキサデシルホスフィン、トリオクタデシルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィンオキシド、トリイソブチルホスフィンオキシド、トリペンチルホスフィンオキシド、トリヘキシルホスフィンオキシド、トリオクチルホスフィンオキシド、トリス(エチルヘキシル)ホスフィンオキシド、トリデシルホスフィンオキシド、トリドデシルホスフィンオキシド、トリテトラデシルホスフィンオキシド、トリヘキサデシルホスフィンオキシド、トリオクタデシルホスフィンオキシド、トリフェニルホスフィンオキシド等を挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0071】
第2半導体ナノ粒子と特定修飾剤との接触は、例えば、第2半導体ナノ粒子を含む分散液と特定修飾剤とを混合することで行うことができる。また第2半導体ナノ粒子を、液状の特定修飾剤と混合して行ってもよい。特定修飾剤には、その溶液を用いてもよい。第2半導体ナノ粒子を含む分散液は、第2半導体ナノ粒子と適当な有機溶媒とを混合することで得られる。分散に用いる有機溶剤としては、例えばクロロホルム等のハロゲン溶剤;トルエン等の芳香族炭化水素溶剤;シクロヘキサン、ヘキサン、ペンタン、オクタン等の脂肪族炭化水素溶剤などを挙げることができる。第2半導体ナノ粒子を含む分散液における物質量の濃度は、例えば、1×10-7mol/L以上1×10-3mol/L以下であり、好ましくは1×10-6mol/L以上1×10-4mol/L以下である。
【0072】
特定修飾剤の第2半導体ナノ粒子に対する使用量は、例えば、モル比で1倍以上50,000倍以下である。また、第2半導体ナノ粒子を含む分散液における物質量の濃度が1.0×10-7mol/L以上1.0×10-3mol/L以下である第2半導体ナノ粒子を含む分散液を用いる場合、分散液と特定修飾剤とを体積比で1:1000から1000:1で混合してもよい。
【0073】
第2半導体ナノ粒子と特定修飾剤との接触時の温度は、例えば、-100℃以上100℃以下又は30℃以上75℃以下である。接触時間は特定修飾剤の使用量、分散液の濃度等に応じて適宜選択すればよい。接触時間は、例えば、1分以上、好ましくは1時間以上であり、100時間以下、好ましくは48時間以下である。接触時の雰囲気は、例えば、窒素ガス、希ガス等の不活性ガス雰囲気である。
【0074】
第三態様の半導体ナノ粒子の製造方法は、第一態様の製造方法で得られる第1半導体ナノ粒子と、ガリウム(Ga)-硫黄(S)結合を有する第1化合物と、Gaを含みSを含まない第2化合物と、有機溶剤と、を含む第3混合物を得る第3準備工程と、第3混合物を熱処理して第3半導体ナノ粒子を得る第3合成工程と、を含んでいてよい。
【0075】
第三態様の半導体ナノ粒子の製造方法では、第1半導体ナノ粒子と、Ga-S結合を有する第1化合物と、Gaを含みSを含まない第2化合物と、有機溶剤と、を含む第3混合物を熱処理することにより、第1半導体ナノ粒子の表面上にAgを実質的に含まず、ガリウム及び硫黄を含む付着物(以下、「シェル」とも言う)が形成された第3半導体ナノ粒子、もしくは第1半導体ナノ粒子内部の表面近傍にAgを実質的に含まず、ガリウム及び硫黄を含む半導体層(以下、「シェル」ともいう)が形成された第3半導体ナノ粒子を得ることができる。第1半導体ナノ粒子の表面に形成される付着物は、第1半導体ナノ粒子を被覆していてよい。また、得られる第3半導体ナノ粒子は、例えばコアシェル型半導体ナノ粒子であってよい。ここで「実質的に含まず」とは、Ag以外の元素に対するAgの割合が、例えば、10モル%以下であり、好ましくは5モル%以下、より好ましくは1モル%以下であることを意味する。
【0076】
第3準備工程では、第1半導体ナノ粒子、Ga-S結合を有する第1化合物、Gaを含みSを含まない第2化合物及び有機溶剤を混合して第3混合物を得る。第3混合物は、第1半導体ナノ粒子と、第1化合物と、第2化合物とを有機溶剤中で混合することで得られてもよい。有機溶剤としては、炭素数4以上20以下の炭化水素基を有する含窒素化合物から選ばれる少なくとも1種とすることができ、あるいは、炭素数4以上20以下の炭化水素基を有する含硫黄化合物から選ばれる少なくとも1種とすることができ、これらの混合物であってもよい。
【0077】
第三態様の半導体ナノ粒子の製造方法では、第1半導体ナノ粒子は、第1半導体ナノ粒子を含む分散液として用いることができる。第1半導体ナノ粒子を含む分散液の詳細は、第二態様の半導体ナノ粒子の製造方法で説明したとおりである。
【0078】
第1化合物は、Ga-S結合を有する化合物である。Ga-S結合は、共有結合、イオン結合、配位結合等のいずれであってもよい。第1化合物としては、例えば含硫黄化合物のGa塩が挙げられ、Gaの有機酸塩、無機酸塩、有機金属化合物等であってよい。含硫黄化合物として具体的には、チオカルバミン酸、ジチオカルバミン酸、チオ炭酸、ジチオ炭酸(キサントゲン酸)、トリチオ炭酸、チオカルボン酸、ジチオカルボン酸及びそれらの誘導体等を挙げることができる。中でも比較的低温で分解することからキサントゲン酸及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。含硫黄化合物の具体例は、上記と同様である。Ga-S結合を有する化合物の具体例としては、トリスジメチルジチオカルバミン酸ガリウム、トリスジエチルジチオカルバミン酸ガリウム(Ga(DDTC))、クロロビスジエチルジチオカルバミン酸ガリウム(GaCl(DDTC))、エチルキサントゲン酸ガリウム(Ga(EX))等を挙げることができる。第3混合物は、Ga-S結合を有する化合物を1種単独で含んでいてもよく、2種以上を組み合わせて含んでいてもよい。
【0079】
第2化合物は、Gaを含みSを含まない化合物である。第2化合物は、例えばGaの有機酸塩、無機酸塩、有機金属化合物等であってよい。第2化合物の具体例としては、硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩、スルホン酸塩等の無機酸塩;酢酸塩、アセチルアセトナート塩等の有機酸塩が挙げられ、有機溶剤への溶解度が高く、反応がより均一に進行することから、好ましくは酢酸塩、アセチルアセトナート塩等の有機酸塩である。
【0080】
第2化合物はGaを含み、実質的にSを含まない化合物であってもよい。ここで「実質的に」という用語は、不純物の混入等に起因して不可避的にSが含まれることを考慮して使用している。具体的に実質的にSを含まないとは、第2化合物中のSの含有率が、例えば10モル%以下であり、好ましくは5モル%以下、より好ましくは1モル%以下であることを意味する。
【0081】
第3混合物における第1化合物及び第2化合物の仕込み量は、分散液中に存在する第1半導体ナノ粒子に所望の厚さの付着物又は半導体層が形成されるように、分散液に含まれる第1半導体ナノ粒子の量を考慮して選択してよい。例えば、第1半導体ナノ粒子の、粒子としての物質量10nmolに対して、Ga及びSから成る化学量論組成の半導体化合物が0.1μmol以上10mmol以下、特に5μmol以上1mmol以下生成されるように、第1化合物及び第2化合物の仕込み量を決定してよい。ただし、粒子としての物質量というのは、第1半導体ナノ粒子1つを巨大な分子と見なしたときのモル量であり、分散液に含まれる第1半導体ナノ粒子の粒子数を、アボガドロ数(NA=6.022×1023)で除した値に等しい。
【0082】
第3混合物における第1半導体ナノ粒子の物質量に対する第1化合物の含有量は、第1半導体ナノ粒子の粒子数(モル)に対するSのモル比として、例えば5.3×10以上であってよく、好ましくは5.3×10以上であってよく、また例えば8.5×10以下であってよく、好ましくは4.3×10以下であってよい。また、第3混合物における第2化合物の含有モル比は、第1化合物の含有モル数に対してGa基準で、例えば1以上10以下であってよく、好ましくは2以上8以下、より好ましくは2以上6以下であってよい。
【0083】
第3混合物における有機溶剤としては、アミン類、チオール類、ホスフィン類等の第一態様の半導体ナノ粒子の製造方法における有機溶剤と同様のものを挙げることができる。有機溶剤は、例えば、最終的には、得られる第3半導体ナノ粒子を表面修飾してもよい。有機溶剤は2種以上を組み合わせて使用してよく、例えば炭素数4以上20以下の炭化水素基を有するチオール類から選択される少なくとも1種と、炭素数4以上から20以下の炭化水素基を有するアミン類から選択される少なくとも1種とを組み合わせた混合溶剤を使用してよい。また、2種以上のアミン類を組み合わせて使用してもよい。さらに、これらの有機溶剤は他の有機溶剤(例えば、ハロゲン系溶剤)と混合して用いてもよい。
【0084】
第3混合物は、ハロゲン化合物をさらに含んでいてもよい。第3混合物がハロゲン化合物を含むことで、発光効率がより向上する場合がある。これは例えば、ハロゲン化合物から生成するハロゲンイオンによって、溶媒への溶解性が良好なハロゲン化ガリウムが生成し、これによって付着物又は半導体層を形成する半導体の格子欠陥等が修復されて、原子配列が整った付着物又は半導体層が形成されるためと考えることができる。
【0085】
ハロゲン化合物としては、ハロゲン原子を含む有機化合物及びハロゲン原子を含む無機化合物が挙げられる。ハロゲン化合物が含むハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、好ましくは塩素原子又は臭素原子である。ハロゲン化合物が含むハロゲン原子は1種単独でも、2種以上の組み合わせであってもよい。また、第3混合物が含むハロゲン化合物は1種単独でも、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0086】
ハロゲン原子を含む有機化合物としては、例えば、ハロゲン化炭化水素、ハロゲン化テトラアルキルアンモニウム等が挙げられる。ハロゲン原子を含む有機化合物の炭素数は、例えば、1以上20以下であってよく、好ましくは1以上12以下又は1以上6以下であってよい。ハロゲン化炭化水素の具体例としては、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン、ブロモホルム、ヘキサクロロベンゼン、クロロベンゼン等を挙げることができる。ハロゲン化テトラアルキルアンモニウムの具体例としては、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム等を挙げることができる。
【0087】
ハロゲン原子を含む無機化合物としては、例えば、ハロゲン化水素、金属ハロゲン化物等が挙げられる。ハロゲン化水素には、塩化水素及び臭化水素が含まれる。金属ハロゲン化物には、塩化ガリウム等が含まれる。
【0088】
第3混合物が、ハロゲン化合物を含む場合、その含有量は、第3混合物に対して、例えば0.1質量%以上1.0質量%以下であってよく、好ましくは0.15質量%以上0.3質量%以下であってよい。また、第3混合物に含まれる第1半導体ナノ粒子の粒子数に対する比が、例えば3000以上50000以下であってよく、好ましくは4500以上9000以下であってよい。
【0089】
第3合成工程では、第3混合物を熱処理してGa及びSを含む半導体を第1半導体ナノ粒子の表面に析出させて、第3半導体ナノ粒子を得る。第三態様の半導体ナノ粒子の製造方法における第3合成工程の一態様では、例えば、第3混合物を所定の温度で熱処理して、Ga及びSを含む半導体層を第1半導体ナノ粒子の表面に形成して第3半導体ナノ粒子を得る(ヒーティングアップ法)。具体的には、第3混合物を徐々に昇温して、そのピーク温度が200℃以上310℃以下となるようにし、ピーク温度で所定の時間保持した後、徐々に降温させるやり方で加熱してよい。昇温速度は例えば1℃/分以上50℃/分以下としてよいが、第1半導体ナノ粒子の変質を最小限に留めるため200℃までは50℃/分以上100℃/分以下が好ましい。また、200℃以上にさらに昇温したい場合は、それ以降は1℃/分以上5℃/分以下とすることが好ましい。降温速度は、例えば1℃/分以上50℃/分以下としてよい。ピーク温度が200℃以上であると、Ga及びSを含む半導体生成のための化学反応が十分に進行する等の理由により、半導体の層(例えば、シェル)の形成が十分に行われる傾向がある。ピーク温度が310℃以下であると、第1半導体ナノ粒子に変質が生じることが抑制され、良好なバンド端発光が得られる傾向がある。ピーク温度を保持する時間は、例えば1分間以上300分間以下、特に10分間以上120分間以下とすることができる。ピーク温度の保持時間は、ピーク温度との関係で選択され、ピーク温度がより低い場合には保持時間をより長くし、ピーク温度がより高い場合には保持時間をより短くすると、良好な第3半導体ナノ粒子が形成されやすい。
【0090】
第三態様の半導体ナノ粒子の製造方法における第3合成工程の別の態様は、第1温度で熱処理した後、第1温度よりも高い第2温度で熱処理する2段階の熱処理工程であってもよい。熱処理を2段階で実施することにより、例えば、より良好な再現性で、バンド端発光の強度が高い第3半導体ナノ粒子を製造することができる。ここで、第1温度での熱処理と第2温度での熱処理とは、連続して行ってもよく、第1温度での熱処理後に降温し、次いで第2温度に昇温して熱処理してもよい。
【0091】
第3混合物の熱処理を2段階の熱処理工程で行う場合、第1温度は、例えば30℃以上であってよく、好ましくは100℃以上である。また、第1温度は、例えば200℃以下であってよく、好ましくは180℃以下である。第1温度での熱処理の時間は、例えば、1分以上であってよく、好ましくは5分以上、より好ましくは7分以上である。また、第1温度での熱処理の時間は、例えば、120分以下であってよく、好ましくは60分以下、より好ましくは30分以下又は20分以下である。
【0092】
第2温度は、例えば180℃以上であってよく、好ましくは200℃以上である。また、第2温度は、例えば350℃以下であってよく、好ましくは330℃以下又は310℃以下である。第2温度での熱処理の時間は、例えば、1分以上であってよく、好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上又は20分以上である。また、第2温度での熱処理の時間は、例えば、120分以下であってよく、好ましくは90分以下、より好ましくは60分以下又は40分以下である。
【0093】
第三態様の半導体ナノ粒子の製造方法における第3合成工程の別の態様は、第1半導体ナノ粒子を含む分散液を昇温して、そのピーク温度が200℃以上310℃以下となるようにし、ピーク温度に達してから、ピーク温度を保持した状態で、予め第1化合物及び第2化合物を、有機溶剤に分散又は溶解させた混合液を少量ずつ加え、その後、降温させる方法で、Ga及びSを含む半導体層を形成してよい(スローインジェクション法)。この場合、第1半導体ナノ粒子を含む分散液と混合液が混合されて第3混合物が得られた直後に熱処理が開始される。第1化合物及び第2化合物を含む混合液は、0.1mL/時間以上10mL/時間以下、特に1mL/時間以上5mL/時間以下の速度で添加してよい。ピーク温度は、混合液の添加を終了した後も必要に応じて保持してよい。
【0094】
ピーク温度が200℃以上であると、Ga及びSを含む半導体を生成するための化学反応が十分に進行する等の理由により、Ga及びSを含む半導体の層(例えば、シェル)の形成が十分に行われる傾向がある。ピーク温度が310℃以下であると、第1半導体ナノ粒子に変質が生じることが抑制され、良好なバンド端発光が得られる傾向がある。ピーク温度を保持する時間は、第1化合物及び第2化合物を含む混合液の添加が開始されてからトータルで1分間以上300分間以下、特に10分間以上120分間以下とすることができる。ピーク温度の保持時間は、ピーク温度との関係で選択され、ピーク温度がより低い場合には保持時間をより長くし、ピーク温度がより高い場合には保持時間をより短くすると、良好なGa及びSを含む半導体の層が形成されやすい。昇温速度及び降温速度は特に限定されず、降温は、例えばピーク温度で所定時間保持した後、加熱源(例えば電気ヒーター)による加熱を停止して放冷することにより実施してよい。
【0095】
なお、熱処理工程における熱処理の時間は、所定の温度に到達した時点を熱処理の開始時間とし、降温又は昇温のための操作を行った時点をその所定温度における熱処理の終了時間とする。また所定の温度に到達するまでの昇温速度は、例えば、1℃/分以上100℃/分以下、又は1℃/分以上50℃/分以下である。また、熱処理後における降温速度は、例えば1℃/分以上100℃/分以下であり、必要に応じて冷却してもよく、加熱を停止して放冷するだけでもよい。
【0096】
熱処理の雰囲気は、不活性ガス雰囲気、例えば、アルゴン雰囲気又は窒素雰囲気が好ましい。不活性ガス雰囲気とすることで、酸化物の副生を、低減ないしは防止することができる。
【0097】
第3合成工程は、加熱中の第3混合物にハロゲン化合物を添加する添加工程をさらに含んでいてもよい。ハロゲン化合物を添加することで、発光効率がより向上する場合がある。添加するハロゲン化合物の詳細及びその添加量については既述の通りである。ハロゲン化合物を添加する温度は、例えば、30℃以上330℃以下であってよく、好ましくは200℃以上310℃以下であってよい。
【0098】
第三態様の半導体ナノ粒子の製造方法は、第3合成工程終了後に得られた第3半導体ナノ粒子に、ハロゲン化合物を接触させる接触工程をさらに含んでいてもよい。第3半導体ナノ粒子にハロゲン化合物を接触させることで、発光効率がより向上する場合がある。接触させるハロゲン化合物の詳細及び接触に供する量については既述の通りである。第3半導体ナノ粒子とハロゲン化合物との接触は、第3混合物の熱処理物とハロゲン化合物とを混合することで実施することができる。接触の温度は例えば80℃以上330℃以下であってよく、好ましくは180℃以上260℃以下であってよい。接触の時間は例えば10分以上12時間以下であってよい。
【0099】
このようにして、第3半導体ナノ粒子(例えば、コアシェル構造を有するコアシェル型半導体ナノ粒子)として半導体ナノ粒子が形成される。得られた半導体ナノ粒子は、分散液から分離してよく、必要に応じて、さらに精製及び乾燥してよい。分離、精製及び乾燥の方法は、先に第1半導体ナノ粒子に関連して説明したとおりであるから、ここではその詳細な説明を省略する。
【0100】
第三態様の半導体ナノ粒子の製造方法は、熱処理工程で得られる第3半導体ナノ粒子の表面に表面修飾剤を配置する修飾工程をさらに含んでいてもよい。修飾工程の詳細については、第二態様の半導体ナノ粒子の製造方法で説明したとおりである。
【0101】
半導体ナノ粒子
半導体ナノ粒子の一態様である第1半導体ナノ粒子は、Agと、In及びGaの少なくとも一方と、Sとを含む。第1半導体ナノ粒子は、その組成中のAgの含有率が、例えば10モル%以上30モル%以下であってよく、好ましくは、15モル%以上25モル%以下である。第1半導体ナノ粒子の組成中のAgの含有率は、例えば、15モル%以上35モル%以下であり、好ましくは、20モル%以上30モル%以下である。第1半導体ナノ粒子の組成中のSの含有率は、例えば、35モル%以上55モル%以下であり、好ましくは、40モル%以上55モル%以下である。第1半導体ナノ粒子は、例えば、既述の第一態様の半導体ナノ粒子の製造方法で効率的に製造することができる。
【0102】
第1半導体ナノ粒子の組成におけるInとGaの原子数の和に対するInの原子数の比(In/(In+Ga))は、例えば、0.01以上1.0未満であり、好ましくは0.1以上0.99以下である。また、第1半導体ナノ粒子の組成におけるInとGaの総原子数に対するAgの原子数の比は、例えば、0.3以上1.2以下であり、好ましくは0.5以上1.1以下である。第1半導体ナノ粒子の組成におけるAg、並びにIn及びGaの原子数の和に対するSの原子数の比は、例えば、0.8以上1.5以下であり、好ましくは0.9以上1.2以下である。
【0103】
第1半導体ナノ粒子の組成は、例えば、エネルギー分散型X線分析法(EDX)、蛍光X線分析法(XRF)、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法等によって同定される。Ag/(In+Ga)、S/(Ag+In+Ga)等の組成比はこれらの方法のいずれかで同定される組成に基づいて算出される。
【0104】
第1半導体ナノ粒子におけるAgは、その一部がCuに置換されていてもよい。Agの一部がCuに置換される場合、AgとCuの総原子数に対するAgの原子数の比(Ag/(Ag+Cu))は、例えば0.1以上0.99以下であってよく、好ましくは0.6以上0.98以下であってよい。
【0105】
第1半導体ナノ粒子におけるAgは、その一部が置換されてAuを含んでいてもよいが、実質的にAg及びCuから構成されることが好ましい。ここで「実質的に」とは、Agに対するAuの割合が、例えば10%以下であり、好ましくは5%以下、より好ましくは1%以下であることを示す。
【0106】
第1半導体ナノ粒子におけるIn及びGaの少なくとも一方は、その一部が置換されてAl及びTlの少なくとも一方の元素を含んでいてもよいが、実質的にIn及びGaの少なくとも一方から構成されることが好ましい。ここで「実質的に」とは、In及びGaの合計に対するIn及びGa以外の元素の割合が、例えば10%以下であり、好ましくは5%以下、より好ましくは1%以下であることを示す。
【0107】
第1半導体ナノ粒子におけるSは、その一部が置換されてSe及びTeの少なくとも一方の元素を含んでいてもよいが、実質的にSから構成されることが好ましい。ここで「実質的に」とは、Sに対するS以外の元素の割合が、例えば10%以下であり、好ましくは5%以下、より好ましくは1%以下であることを示す。
【0108】
第1半導体ナノ粒子は、実質的にAg、In、Ga、S及び前述のそれら一部が置換した元素から構成され得る。ここで「実質的に」という用語は、不純物の混入等に起因して不可避的にAg、In、Ga、S及び前述のそれら一部が置換した元素以外の他の元素が含まれることを考慮して使用している。
【0109】
第1半導体ナノ粒子の結晶構造は、正方晶、六方晶及び斜方晶からなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでいてよい。例えば、Ag、In及びSを含み、かつその結晶構造が正方晶、六方晶、又は斜方晶である半導体ナノ粒子は、一般的には、AgInSの組成式で表されるものとして、文献等において紹介されている。本実施形態に係る第1半導体ナノ粒子は、例えば、第13族元素であるInの一部を同じく第13族元素であるGaで置換したものと考えることができる。第1半導体ナノ粒子の組成は例えば、Ag-In-Ga-S等で表されてもよい。
【0110】
なお、Ag-In-Ga-Sなどの組成式で表される半導体ナノ粒子であって、六方晶の結晶構造を有するものはウルツ鉱型であり、正方晶の結晶構造を有する半導体はカルコパイライト型である。結晶構造は、例えば、X線回折(XRD)分析により得られるXRDパターンを測定することによって同定される。具体的には、第1半導体ナノ粒子から得られたXRDパターンを、AgInSの組成式で表される半導体ナノ粒子と仮定して既知のXRDパターン、又は結晶構造パラメータからシミュレーションを行って求めたXRDパターンと比較する。既知のパターン及びシミュレーションのパターンの中に、第1半導体ナノ粒子のパターンと一致するものがあれば、当該第1半導体ナノ粒子の結晶構造は、その一致した既知又はシミュレーションのパターンの結晶構造であるといえる。
【0111】
第1半導体ナノ粒子の集合体においては、異なる結晶構造の半導体ナノ粒子が一部混在していてもよい。その場合、XRDパターンにおいては、複数の結晶構造に由来するピークが観察される。
【0112】
第1半導体ナノ粒子は、例えば、50nm以下の平均粒径を有してよい。第1半導体ナノ粒子の平均粒径は、例えば、20nm以下、10nm以下、又は7.5nm未満であってよい。第1半導体ナノ粒子の平均粒径が50nm以下であると量子サイズ効果が得られ易く、バンド端発光が得られ易い傾向がある。また第1半導体ナノ粒子の平均粒径の下限は例えば、1nmである。
【0113】
第1半導体ナノ粒子の粒径は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて撮影されたTEM像から求めることができる。具体的には、ある粒子についてTEM像で観察される粒子の外周の任意の2点を結ぶ線分であって、当該粒子の内部を通過する線分のうち、最も長い線分の長さをその粒子の粒径とする。
【0114】
ただし、粒子がロッド形状を有するものである場合には、短軸の長さを粒径とみなす。ここで、ロッド形状の粒子とは、TEM像において短軸と短軸に直交する長軸とを有し、短軸の長さに対する長軸の長さの比が1.2より大きいものを指す。ロッド形状の粒子は、TEM像で、例えば、長方形状を含む四角形状、楕円形状、又は多角形状等として観察される。ロッド形状の長軸に直交する面である断面の形状は、例えば、円、楕円、又は多角形であってよい。具体的にはロッド状の形状の粒子について、長軸の長さは、楕円形状の場合には、粒子の外周の任意の2点を結ぶ線分のうち、最も長い線分の長さを指し、長方形状又は多角形状の場合、外周を規定する辺の中で最も長い辺に平行であり、かつ粒子の外周の任意の2点を結ぶ線分のうち、最も長い線分の長さを指す。短軸の長さは、外周の任意の2点を結ぶ線分のうち、前記長軸の長さを規定する線分に直交し、かつ最も長さの長い線分の長さを指す。
【0115】
第1半導体ナノ粒子の平均粒径は、50,000倍以上150,000倍以下のTEM像で観察される、すべての計測可能な粒子について粒径を測定し、それらの粒径の算術平均とする。ここで、計測可能な粒子は、TEM像において粒子全体が観察できるものである。したがって、TEM像において、その一部が撮像範囲に含まれておらず、切れているような粒子は計測可能なものではない。1つのTEM像に含まれる計測可能な粒子数が100以上である場合には、そのTEM像を用いて平均粒径を求める。一方、1つのTEM像に含まれる計測可能な粒子の数が100未満の場合には、撮像場所を変更して、TEM像をさらに取得し、2以上のTEM像に含まれる100以上の計測可能な粒子について粒径を測定して平均粒径を求める。
【0116】
第1半導体ナノ粒子は、バンド端発光が可能であってよい。第1半導体ナノ粒子は、200nm以上500nm未満の範囲内にある波長の光を照射することにより、500nm以上650nm以下の範囲に発光ピーク波長を有して発光してよい。第1半導体ナノ粒子の発光スペクトルにおける半値幅は、250meV以下であり、好ましくは200meV以下、より好ましくは150meV以下である。この半値幅の下限値は例えば30meV以上である。半値幅が250meV以下であるとは、発光ピーク波長が600nmの場合には半値幅が73nm以下であり、発光ピーク波長が700nmの場合には半値幅が100nm以下であり、発光ピーク波長が800nmの場合には半値幅が130nm以下であることを意味し、半導体ナノ粒子がバンド端発光することを意味する。
【0117】
第1半導体ナノ粒子は、バンド端発光とともに、他の発光、例えば欠陥発光を与えるものであってよい。欠陥発光は一般に発光寿命が長く、またブロードなスペクトルを有し、バンド端発光よりも長波長側にそのピークを有する。バンド端発光と欠陥発光がともに得られる場合、バンド端発光の強度が欠陥発光の強度よりも大きいことが好ましい。
【0118】
第1半導体ナノ粒子のバンド端発光は、第1半導体ナノ粒子の形状及び平均粒径の少なくとも一方、特に平均粒径を変化させることによって、その発光ピーク波長を変化させることができる。例えば、第1半導体ナノ粒子の平均粒径をより小さくすれば、量子サイズ効果により、バンドギャップエネルギーがより大きくなり、バンド端発光の発光ピーク波長を短波長側にシフトさせることができる。
【0119】
また第1半導体ナノ粒子のバンド端発光は、第1半導体ナノ粒子の組成を変化させることによって、その発光ピーク波長を変化させることができる。例えば、組成におけるInとGaの原子数の和に対するGaの原子数の比であるGa比(Ga/(In+Ga))を大きくすることでバンド端発光の発光ピーク波長を短波長側にシフトさせることができる。また、例えば、組成におけるSの一部をSeで置換し、SとSeの原子数の和に対するSの原子数の比であるS比(S/(S+Se))を大きくすることでバンド端発光の発光ピーク波長を短波長側にシフトさせることができる。また、例えば、組成におけるAgの一部をCuで置換し、AgとCuの原子数の和に対するAgの原子数の比であるAg比(Ag/(Ag+Cu))を小さくすることでバンド端発光の発光ピーク波長を長波長側にシフトさせることができる。
【0120】
第1半導体ナノ粒子は、その吸収スペクトルがエキシトンピークを示してよい。エキシトンピークは、励起子生成により得られるピークであり、これが吸収スペクトルにおいて発現しているということは、粒径の分布が小さく、結晶欠陥の少ないバンド端発光に適した粒子から第1半導体ナノ粒子群が構成されていることを意味する。また、エキシトンピークが急峻になるほど、粒径がそろった結晶欠陥の少ない粒子が第1半導体ナノ粒子の集合体により多く含まれていることを意味する。したがって、エキシトンピークが急峻であると、発光の半値幅は狭くなり、発光効率が向上すると予想される。第1半導体ナノ粒子の吸収スペクトルにおいて、エキシトンピークは、例えば、350nm以上900nm以下の範囲内で観察される。
【0121】
第1半導体ナノ粒子は、ストークスシフトにより吸収スペクトルのエキシトンピークより長波長側に発光ピーク波長を有して発光してよい。第1半導体ナノ粒子の吸収スペクトルがエキシトンピークを示す場合、エキシトンピークと発光ピーク波長のエネルギー差は、例えば、300meV以下である。
【0122】
半導体ナノ粒子の一態様である第2半導体ナノ粒子では、第1半導体ナノ粒子の表面上にAgを実質的に含まず、第13族元素及び第16族元素を含む付着物が形成されているか、もしくは第1半導体ナノ粒子内部の表面近傍にAgを実質的に含まず、第13族元素及び第16族元素を含む半導体層が形成されている。第2半導体ナノ粒子は、例えばコアシェル型半導体ナノ粒子であってよい。
【0123】
第13族元素及び第16族元素を含む付着物又は半導体層(以下、まとめて「第2半導体」ともいう)は、第1半導体ナノ粒子を構成する半導体(以下、「第1半導体」ともいう)よりも大きいバンドギャップエネルギーを有する半導体である。第13族元素としては、B、Al、Ga、In及びTlが挙げられ、第16族元素としては、O、S、Se、Te及びPoが挙げられる。シェルを構成する半導体には、第13族元素が1種類だけ、又は2種類以上含まれてよく、第16族元素が1種類だけ、又は2種類以上含まれていてもよい。
【0124】
第2半導体は、実質的に第13族元素及び第16族元素からなる半導体から構成されていてもよい。ここで「実質的に」とは、第2半導体に含まれるすべての元素の原子数の合計を100%としたときに、第13族元素及び第16族元素以外の元素の割合が、例えば10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは1%以下であることを示す。
【0125】
第2半導体は、上述の第1半導体ナノ粒子を構成する第1半導体のバンドギャップエネルギーに応じて、その組成等を選択して構成してもよい。あるいは、第2半導体の組成等が先に決定されている場合には、第1半導体のバンドギャップエネルギーが第2半導体のそれよりも小さくなるように、第1半導体を設計してもよい。一般にAg-In-Sからなる半導体は、1.8eV以上1.9eV以下のバンドギャップエネルギーを有する。
【0126】
具体的には、第2半導体は、例えば2.0eV以上5.0eV以下、特に2.5eV以上5.0eV以下のバンドギャップエネルギーを有してよい。また、第2半導体のバンドギャップエネルギーは、第1半導体のバンドギャップエネルギーよりも、例えば0.1eV以上3.0eV以下程度、特に0.3eV以上3.0eV以下程度、より特には0.5eV以上1.0eV以下程度大きいものであってよい。第2半導体のバンドギャップエネルギーと第1半導体のバンドギャップエネルギーとの差が前記下限値以上であると、第1半導体ナノ粒子からの発光において、バンド端発光以外の発光の割合が少なくなり、バンド端発光の割合が大きくなる傾向がある。
【0127】
さらに、第1半導体及び第2半導体のバンドギャップエネルギーは、第1半導体及び第2半導体のヘテロ接合において、第2半導体のバンドギャップエネルギーが第1半導体のバンドギャップエネルギーを挟み込むtype-Iのバンドアライメントを与えるように選択されることが好ましい。type-Iのバンドアライメントが形成されることにより、第1半導体ナノ粒子からのバンド端発光をより良好に得ることができる。type-Iのバンドアライメントにおいて、第1半導体のバンドギャップエネルギーと第2半導体のバンドギャップエネルギーとの間には、少なくとも0.1eVの障壁が形成されることが好ましく、例えば0.2eV以上、又は0.3eV以上の障壁が形成されてよい。障壁の上限は、例えば1.8eV以下であり、特に1.1eV以下である。障壁が前記下限値以上であると、第1半導体ナノ粒子からの発光において、バンド端発光以外の発光の割合が少なくなり、バンド端発光の割合が大きくなる傾向がある。
【0128】
第2半導体は、第13族元素としてIn又はGaを含むものであってよい。また第2半導体は、第16族元素としてSを含むものであってよい。In又はGaを含む、あるいはSを含む半導体は、上述の第1半導体よりも大きいバンドギャップエネルギーを有する半導体となる傾向にある。
【0129】
第2半導体の晶系は、第1半導体の晶系となじみのあるものであってよく、またその格子定数が、第1半導体のそれと同じ又は近いものであってよい。晶系になじみがあり、格子定数が近い(ここでは、第2半導体の格子定数の倍数が、第1半導体の格子定数に近いものも格子定数が近いものとする)半導体は、第1半導体ナノ粒子の周囲を良好に被覆することがある。例えば、上述の第1半導体は、一般に正方晶系であるが、これになじみのある晶系としては、正方晶系、斜方晶系が挙げられる。Ag-In-Sが正方晶系である場合、その格子定数は5.828Å(0.5828nm)、5.828Å(0.5828nm)、11.19Å(1.119nm)であり、これを被覆する第2半導体は、正方晶系又は立方晶系であって、その格子定数又はその倍数が、Ag-In-Sの格子定数と近いものであることが好ましい。あるいは、第2半導体はアモルファス(非晶質)であってもよい。
【0130】
第2半導体は、第13族元素及び第16族元素の組み合わせとして、InとSとの組み合わせ、GaとSとの組み合わせ、又はInとGaとSとの組み合わせを含んでよいが、これらに限定されるものではない。InとSとの組み合わせは硫化インジウムの形態であってよく、また、GaとSとの組み合わせは硫化ガリウムの形態であってよく、また、InとGaとSとの組み合わせは硫化インジウムガリウムであってよい。第2半導体を構成する硫化インジウムは、化学量論組成のもの(In)でなくてよく、その意味で、本明細書では硫化インジウムを式InSx(xは整数に限られない任意の数字、例えば0.8以上1.5以下)で表すことがある。同様に、硫化ガリウムは化学量論組成のもの(Ga)でなくてよく、その意味で、本明細書では硫化ガリウムを式GaSx(xは整数に限られない任意の数字、例えば0.8以上1.5以下)で表すことがある。硫化インジウムガリウムは、In2(1-y)Ga2y(yは0よりも大きく1未満である任意の数字)で表される組成のものであってよく、あるいは、InGa1-a(aは0よりも大きく1未満である任意の数字であり、bは整数に限られない任意の数字である)で表されるものであってよい。
【0131】
硫化インジウムは、そのバンドギャップエネルギーが2.0eV以上2.4eV以下であり、晶系が立方晶であるものについては、その格子定数は10.775Å(1.0775nm)である。硫化ガリウムは、そのバンドギャップエネルギーが2.5eV以上2.6eV以下程度であり、晶系が正方晶であるものについては、その格子定数が5.215Å(0.5215nm)である。ただし、ここに記載された晶系等は、いずれも報告値であり、実際の第2半導体ナノ粒子において、第2半導体がこれらの報告値を満たしているとは限らない。
【0132】
硫化インジウム及び硫化ガリウムは、第1半導体ナノ粒子の表面に配置される第2半導体として好ましく用いられる。特に、硫化ガリウムは、バンドギャップエネルギーがより大きいことから好ましく用いられる。硫化ガリウムを使用する場合には、硫化インジウムを使用する場合と比較して、より強いバンド端発光を得ることができる。
【0133】
第2半導体ナノ粒子の粒径は、例えば、50nm以下の平均粒径を有してよい。平均粒径は、製造のしやすさとバンド端発光の量子収率の点より、1nm以上20nm以下の範囲が好ましく、1.5nm以上7.5nm以下がより好ましい。
【0134】
第2半導体ナノ粒子における第2半導体の厚みは、例えば0.1nm以上50nm以下の範囲内、0.1nm以上10nm以下の範囲内、特に0.3nm以上3nm以下の範囲内にあってよい。第2半導体の厚みが前記下限値以上である場合には、第2半導体が第1半導体ナノ粒子を被覆することによる効果が十分に得られ、バンド端発光を得られ易い。
【0135】
第1半導体ナノ粒子の平均粒径及び第2半導体の厚みは、第2半導体ナノ粒子を、例えば、HAADF-STEMで観察することにより求めてよい。特に、第2半導体がアモルファスである場合には、HAADF-STEMによって、第1半導体ナノ粒子とは異なる部分として観察されやすい第2半導体の厚みを容易に求めることができる。第2半導体の厚みが一定でない場合には、最も小さい厚みを、当該粒子における第2半導体の厚みとする。
【0136】
第2半導体ナノ粒子は、結晶構造が実質的に正方晶であることが好ましい。結晶構造は、上述と同様にX線回折(XRD)分析により得られるXRDパターンを測定することによって同定される。実質的に正方晶であるとは、正方晶であることを示す26°付近のメインピークに対する六方晶及び斜方晶であることを示す48°付近のピーク高さの比が、例えば、10%以下、又は5%以下であることをいう。
【0137】
第2半導体ナノ粒子は、紫外光、可視光又は赤外線などの光が照射されると、照射された光よりも長い波長の光を発するものである。具体的には、第2半導体ナノ粒子は、例えば、紫外光、可視光又は赤外線が照射されると、照射された光よりも長い波長を有し、かつ、主成分の発光の寿命が200ns以下及び/又は発光スペクトルの半値幅が70nm以下である発光をすることができる。
【0138】
第2半導体ナノ粒子は、450nm付近にピークを有する光を照射することにより、500nm以上600nm以下の範囲に発光ピーク波長を有して発光する。発光ピーク波長は、510nm以上590nm以下、520nm以上585nm以下、又は550nm以上580nm以下であってよい。発光スペクトルにおける発光ピークの半値幅は例えば、70nm以下、60nm以下、55nm以下、50nm以下又は40nm以下であってよい。半値幅の下限値は、例えば、10nm以上、20nm以上又は30nm以上であってよい。例えば第1半導体がAg-In-Sの場合に対して、第13族元素であるInの一部又は全部を同じく第13族元素であるGaとしたAg-In-Ga-S、Ag-Ga-Sとした場合、発光ピークが短波長側へシフトする。
【0139】
第2半導体ナノ粒子の発光は、バンド端発光に加えて欠陥発光(例えば、ドナーアクセプター発光)を含むものであってもよいが、実質的にバンド端発光のみであることが好ましい。欠陥発光は一般に発光寿命が長く、またブロードなスペクトルを有し、バンド端発光よりも長波長側にそのピークを有する。ここで、実質的にバンド端発光のみであるとは、発光スペクトルにおけるバンド端発光成分の純度が40%以上であることをいい、好ましくは50%以上、60%以上、65%以上、又は70%以上であってよい。バンド端発光成分の純度の上限値は、例えば、100%以下、100%未満、又は95%以下であってよい。「バンド端発光成分の純度」とは、発光スペクトルに対し、バンド端発光のピークと欠陥発光のピークの形状をそれぞれ正規分布と仮定したパラメータフィッティングを行って、バンド端発光のピークと欠陥発光のピークの2つに分離し、それらの面積をそれぞれa1、a2とした時、下記の式で表される。
バンド端発光成分の純度(%) = a1/(a1+a2)×100
発光スペクトルがバンド端発光を全く含まない場合、すなわち欠陥発光のみを含む場合は0%、バンド端発光と欠陥発光のピーク面積が同じ場合は50%、バンド端発光のみを含む場合は100%となる。
【0140】
バンド端発光の量子収率は量子収率測定装置を用いて、励起波長450nm、温度25℃で測定し、506nmから882nmの範囲で計算された内部量子収率に上記バンド端発光成分の純度を乗じ、100で除した値として定義される。第2半導体ナノ粒子のバンド端発光の量子収率は、例えば10%以上であり、好ましくは20%以上、30%以上、40%以上、又は50%以上であってよい。また、量子収率の上限値は、例えば、100%以下、100%未満、又は95%以下であってよい。
【0141】
第2半導体ナノ粒子が発するバンド端発光は、第2半導体ナノ粒子の粒径を変化させることによって、ピークの位置を変化させることができる。例えば、第2半導体ナノ粒子の粒径をより小さくすると、バンド端発光のピーク波長が短波長側にシフトする傾向にある。さらに、第2半導体ナノ粒子の粒径をより小さくすると、バンド端発光のスペクトルの半値幅がより小さくなる傾向にある。
【0142】
第2半導体ナノ粒子がバンド端発光に加えて欠陥発光する場合、バンド端発光の最大ピーク強度及び欠陥発光の最大ピーク強度より求められるバンド端発光の強度比は、例えば、0.75以上であり、好ましくは0.85以上であり、より好ましくは0.9以上であり、特に好ましくは0.93以上であり、上限値は、例えば、1以下、1未満、又は0.99以下であってよい。なお、バンド端発光の強度比は、発光スペクトルに対し、バンド端発光のピークと欠陥発光のピークの形状をそれぞれ正規分布と仮定したパラメータフィッティングを行って、バンド端発光のピークと欠陥発光のピークの2つに分離し、それらのピーク強度をそれぞれb1、b2とした時、下記の式で表される。
バンド端発光の強度比 = b1/(b1+b2)
発光スペクトルがバンド端発光を全く含まない場合、すなわち欠陥発光のみを含む場合は0、バンド端発光と欠陥発光のピーク強度が同じ場合は0.5、バンド端発光のみを含む場合は1となる。
【0143】
第2半導体ナノ粒子はまた、その吸収スペクトル又は励起スペクトル(蛍光励起スペクトルともいう)がエキシトンピークを示すものであることが好ましい。エキシトンピークは、励起子生成により得られるピークであり、これが吸収スペクトル又は励起スペクトルにおいて発現しているということは、粒径の分布が小さく、結晶欠陥の少ないバンド端発光に適した粒子であることを意味する。エキシトンピークが急峻になるほど、粒径がそろった結晶欠陥の少ない粒子が第2半導体ナノ粒子の集合体により多く含まれていることを意味する。したがって、発光の半値幅は狭くなり、発光効率が向上すると予想される。第2半導体ナノ粒子の吸収スペクトル又は励起スペクトルにおいて、エキシトンピークは、例えば、350nm以上1000nm以下、好ましくは450nm以上590nm以下の範囲内で観察される。エキシトンピークの有無を見るための励起スペクトルは、観測波長をピーク波長付近に設定して測定してよい。
【0144】
半導体ナノ粒子の一態様である第3半導体ナノ粒子では、第1半導体ナノ粒子の表面上にAgを実質的に含まず、Ga及びSを含む付着物が形成されているか、もしくは第1半導体ナノ粒子内部の表面近傍にAgを実質的に含まず、Ga及びSを含む半導体層が形成されている。第3半導体ナノ粒子は、例えばコアシェル型半導体ナノ粒子であってよく、第2半導体ナノ粒子における付着物又は半導体層の第13族元素をGaに、第16族元素をSにそれぞれ限定した態様と理解することができる。
【0145】
発光デバイス
発光デバイスは、光変換部材及び半導体発光素子を備え、光変換部材に上記において説明した製造方法で得られる半導体ナノ粒子、好ましくは第2半導体ナノ粒子又は第3半導体ナノ粒子を含むものである。この発光デバイスによれば、例えば、半導体発光素子からの発光の一部を、半導体ナノ粒子が吸収してより長波長の光が発せられる。そして、半導体ナノ粒子からの光と半導体発光素子からの発光の残部とが混合され、その混合光を発光デバイスの発光として利用できる。
【0146】
上記の製造方法で得られる半導体ナノ粒子は、その製造方法に起因して発光効率に優れる。上記の製造方法で製造される半導体ナノ粒子では、従来の製造方法で得られる半導体ナノ粒子に比べて、例えば、粒子表面の半導体層(例えば、シェル)における格子欠陥等の発生が抑制されて発光効率が向上すると考えられる。粒子表面の半導体層の結晶構造については、例えば、X線回折等の手法で調べることが考えられる。しかしながら、粒子表面の半導体層における格子欠陥等の有無は、結晶構造上の微差に過ぎず、その分析は技術的に困難であると考えられる。したがって、粒子表面の半導体層における結晶構造の詳細な態様を具体的に明らかにすることは、現時点では、技術的に不可能であるか、およそ実際的であるとはいえない。
【0147】
発光デバイスとして具体的には、半導体発光素子としてピーク波長が400nm以上490nm以下程度の青紫色光又は青色光を発するものを用い、半導体ナノ粒子として青色光を吸収して黄色光を発光するものを用いれば、白色光を発光する発光デバイスを得ることができる。あるいは、半導体ナノ粒子として、青色光を吸収して緑色光を発光するものと、青色光を吸収して赤色光を発光するものの2種類を用いても、白色発光デバイスを得ることができる。
【0148】
あるいは、ピーク波長が400nm以下の紫外線を発光する半導体発光素子を用い、紫外線を吸収して青色光、緑色光、赤色光をそれぞれ発光する、三種類の半導体ナノ粒子を用いる場合でも、白色発光デバイスを得ることができる。この場合、発光素子から発せられる紫外線が外部に漏れないように、発光素子からの光をすべて半導体ナノ粒子に吸収させて変換させることが望ましい。
【0149】
あるいはまた、ピーク波長が490nm以上510nm以下程度の青緑色光を発するものを用い、半導体ナノ粒子として上記の青緑色光を吸収して赤色光を発するものを用いれば、白色光を発光するデバイスを得ることができる。
【0150】
あるいはまた、半導体発光素子として可視光を発光するものを用い、例えば波長700nm以上780nm以下の赤色光を発光するものを用いる。半導体ナノ粒子として、可視光を吸収して近赤外線を発光するものを用いれば、近赤外線を発光する発光デバイスを得ることもできる。
【0151】
半導体ナノ粒子は、他の半導体量子ドットと組み合わせて用いてよく、あるいは他の量子ドットではない蛍光体(例えば、有機蛍光体又は無機蛍光体)と組み合わせて用いてよい。他の半導体量子ドットは、例えば、背景技術の欄で説明した二元系の半導体量子ドットである。量子ドットではない蛍光体としては、アルミニウムガーネット系等のガーネット系蛍光体を用いることができる。ガーネット系蛍光体としては、セリウムで賦活されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体、セリウムで賦活されたルテチウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体が挙げられる。他にユウロピウム及び/又はクロムで賦活された窒素含有アルミノ珪酸カルシウム系蛍光体、ユウロピウムで賦活されたシリケート系蛍光体、β-SiAlON系蛍光体、CASN系又はSCASN系等の窒化物系蛍光体、LnSi11系又はLnSiAlON系等の希土類窒化物系蛍光体、BaSi:Eu系又はBaSi12:Eu系等の酸窒化物系蛍光体、CaS系、SrGa系、ZnS系等の硫化物系蛍光体、クロロシリケート系蛍光体、SrLiAl:Eu蛍光体、SrMgSiN:Eu蛍光体、マンガンで賦活されたフッ化物錯体蛍光体としてのKSiF:Mn蛍光体、K(Si,Al)F:Mn蛍光体などを用いることができる。ここで、蛍光体の組成を表す式中、カンマ(,)で区切られて記載されている複数の元素は、これらの複数の元素のうち少なくとも1種の元素を組成中に含有することを意味する。また、蛍光体の組成を表す式中、コロン(:)の前は母体結晶を表し、コロン(:)の後は賦活元素を表す。
【0152】
発光デバイスにおいて、半導体ナノ粒子を含む光変換部材は、例えばシート又は板状部材であってよく、あるいは三次元的な形状を有する部材であってよい。三次元的な形状を有する部材の例は、表面実装型の発光ダイオードにおいて、パッケージに形成された凹部の底面に半導体発光素子が配置されているときに、発光素子を封止するために凹部に樹脂が充填されて形成された封止部材である。
【0153】
光変換部材の別の例は、平面基板上に半導体発光素子が配置されている場合にあっては、半導体発光素子の上面及び側面を略均一な厚みで取り囲むように形成された樹脂部材である。あるいはまた、光変換部材のさらに別の例は、半導体発光素子の周囲にその上端が半導体発光素子と同一平面を構成するように反射材を含む樹脂部材が充填されている場合にあっては、半導体発光素子及び前記反射材を含む樹脂部材の上部に、所定の厚みで平板状に形成された樹脂部材である。
【0154】
光変換部材は半導体発光素子に接してよく、あるいは半導体発光素子から離れて設けられていてよい。具体的には、光変換部材は、半導体発光素子から離れて配置される、ペレット状部材、シート状部材、板状部材又は棒状部材であってよく、あるいは半導体発光素子に接して設けられる部材、例えば、封止部材、コーティング部材(モールド部材とは別に設けられる発光素子を覆う部材)又はモールド部材(例えば、レンズ形状を有する部材を含む)であってよい。
【0155】
また、発光デバイスにおいて、異なる波長の発光を示す2種類以上の半導体ナノ粒子を用いる場合には、1つの光変換部材内で2種類以上の半導体ナノ粒子が混合されていてもよいし、あるいは1種類の半導体ナノ粒子のみを含む光変換部材を2つ以上組み合わせて用いてもよい。この場合、2種類以上の光変換部材は積層構造を成してもよいし、平面上にドット状ないしストライプ状のパターンとして配置されていてもよい。
【0156】
半導体発光素子としてはLEDチップが挙げられる。LEDチップは、GaN、GaAs、InGaN、AlInGaP、GaP、SiC、及びZnO等から成る群より選択される1種又は2種以上から成る半導体層を備えたものであってよい。青紫色光、青色光、又は紫外線を発光する半導体発光素子は、例えば、組成がInAlGa1-X-YN(0≦X、0≦Y、X+Y<1)で表わされるGaN系化合物を半導体層として備えたものである。
【0157】
発光デバイスは、光源として液晶表示装置に組み込まれることが好ましい。半導体ナノ粒子によるバンド端発光は発光寿命の短いものであるため、これを用いた発光デバイスは、比較的速い応答速度が要求される液晶表示装置の光源に適している。また、本実施形態の半導体ナノ粒子は、バンド端発光として半値幅の小さい発光ピークを示し得る。したがって、発光デバイスにおいて:青色半導体発光素子によりピーク波長が420nm以上490nm以下の範囲内にある青色光を得るようにし、半導体ナノ粒子により、ピーク波長が510nm以上550nm以下、好ましくは530nm以上540nm以下の範囲内にある緑色光、及びピーク波長が600nm以上680nm以下、好ましくは630nm以上650nm以下の範囲内にある赤色光を得るようにする;又は発光デバイスにおいて、半導体発光素子によりピーク波長400nm以下の紫外光を得るようにし、半導体ナノ粒子によりピーク波長が430nm以上470nm以下、好ましくは440nm以上460nm以下の範囲内にある青色光、ピーク波長が510nm以上550nm以下、好ましくは530nm以上540nm以下の範囲内にある緑色光、及びピーク波長が600nm以上680nm以下、好ましくは630nm以上650nm以下の範囲内にある赤色光を得るようにすることによって、濃いカラーフィルターを用いることなく、色再現性の良い液晶表示装置が得られる。発光デバイスは、例えば、直下型のバックライトとして、又はエッジ型のバックライトとして用いられる。
【0158】
あるいは、半導体ナノ粒子を含む、樹脂もしくはガラス等からなるシート、板状部材、又はロッドが、発光デバイスとは独立した光変換部材として液晶表示装置に組み込まれていてよい。
【実施例0159】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0160】
参考例
硫化銀ナノ粒子の合成
酢酸銀(0.2mmol)を溶解した1-オクタンチオール(10mL)を調製し、室温で真空脱気を5分間行い、アルゴン置換した後165℃まで昇温した。続いてビス(トリメチルシリル)スルフィド(0.2mmol)を含むオクタンチオール溶液2mLを添加して溶液が黒色になったところで、室温まで冷却した。得られた黒色溶液にアセトンを加えて硫化銀ナノ粒子の沈殿物を得た後、遠心分離により回収し、クロロホルム1mLに分散させた。得られた硫化銀ナノ粒子について透過型電子顕微鏡(TEM、(株)日立ハイテクノロジーズ製、商品名H-7650)にて平均粒径を測定したところ、平均粒径は3.5nm、標準偏差は0.8nmであった。また得られた硫化銀ナノ粒子についてXRDパターンを測定したところアカンサイト結晶相であることを確認できた。
【0161】
実施例1
第1半導体ナノ粒子の合成
50mL二口フラスコに、インジウム源として31.3μmolの酢酸インジウム(In(OAc))と、硫黄源として47μmolのチオ尿素と、8mLのオレイルアミンを入れ、真空脱気しながら90℃まで昇温して、原料を溶解させて二口フラスコ内にアルゴンを導入して反応溶液を調製した。参考例で合成した硫化銀ナノ粒子(Agとしての物質量18.8μmol)のクロロホルム溶液を反応溶液にシリンジを用いて注入し、直ちに140℃まで昇温して25分間反応を継続した後、室温まで急冷した。反応溶液を遠心分離して上澄み液を回収し、回収した上澄み液にメタノールを加えた後、遠心分離によりAgInSナノ粒子を沈殿物として回収した。得られたAgInSナノ粒子をヘキサン1mLに分散させて、第1半導体ナノ粒子を含む分散液を得た。
【0162】
得られた第1半導体ナノ粒子の収率は、硫化銀ナノ粒子の合成に用いた酢酸銀を基準として44%であった。
【0163】
第2半導体ナノ粒子の合成
50mL二口フラスコに、上記で得られたAgInSナノ粒子(30nmol)を含む分散液、ガリウムアセトナート(Ga(OAc))80μmol、トリスジエチルジチオカルバミン酸ガリウム(Ga(DDTC))20μmol、テトラデシルアミン7gを加えた。真空脱気を行いながら65℃まで昇温して、テトラデシルアミンを溶解させた。アルゴンを導入した後、クロロホルム50μLを注入した。反応溶液を3分間で230℃まで昇温し、230℃からは2℃/分で280℃まで昇温した。その温度を2分間保持した後、140℃まで急冷し、気泡が発生しなくなるまで真空脱気を行った。脱気後にアルゴン置換を行い、反応溶液の温度が90℃となったところで、ヘキサン5mL及びエタノール1.5mLを加えた。室温まで冷却した後、第2半導体ナノ粒子を回収し、クロロホルムに分散させた。
【0164】
実施例2
インジウム源及び硫黄源として、トリスジエチルジチオカルバミン酸インジウム(In(DDTC))26.7μmolと、酢酸インジウム(In(OAc))93.3μmolを用いたこと以外は、実施例1と同様にしてAgInSナノ粒子である第1半導体ナノ粒子を得た。
【0165】
得られたAgInSナノ粒子の収率は、硫化銀ナノ粒子の合成に用いた酢酸銀を基準として46%であった。
【0166】
実施例2で得られた第1半導体ナノ粒子を用いたこと以外は、実施例1と同様にして実施例2の第2半導体ナノ粒子を得た。
【0167】
実施例3
インジウム源及び硫黄源として、クロロビスジエチルジチオカルバミン酸インジウム(InCl(DDTC))35μmolと、酢酸インジウム(In(OAc))35μmolを用いたこと以外は、実施例1と同様にしてAgInSナノ粒子である第1半導体ナノ粒子を得た。
【0168】
得られたAgInSナノ粒子の収率は、硫化銀ナノ粒子の合成に用いた酢酸銀を基準として52%であった。
【0169】
実施例3で得られた第1半導体ナノ粒子を用いたこと以外は、実施例1と同様にして実施例3の第2半導体ナノ粒子を得た。
【0170】
比較例1
50mL二口フラスコに、酢酸銀(0.4mmol)、酢酸インジウム(In(OAc))(0.4mmol)及びオレイルアミン(8mL)と1-ドデカンチオール(300μL,1.25mmol)の混合溶液を加え、真空脱気を行いながら70℃まで昇温した。アルゴンの導入後、140℃まで昇温した。これとは別に1,3-ジメチルチオ尿素(0.8mmol)のオレイルアミン溶液2mLを調製し、シリンジポンプを用いて4mL/hの速度で前記溶液に滴下した。滴下終了後、140℃で30分間反応させた後、室温まで急冷した。暗褐色の析出物(粗大AgS粒子)を含む反応溶液を遠心分離して上澄み液を回収した。回収した上澄み液にメタノールを加えた後、遠心分離によりAgInSナノ粒子を沈殿物として回収した。得られたAgInSナノ粒子をヘキサン1mLに分散させて、半導体ナノ粒子を含む分散液を得た。
【0171】
得られた半導体ナノ粒子の収率は、使用した酢酸銀を基準として8%であった。
【0172】
比較例1で得られた半導体ナノ粒子を用いたこと以外は、実施例1と同様にして比較例1のコアシェル型半導体ナノ粒子を得た。
【0173】
発光特性及び量子収率の測定
上記で得られた第1半導体ナノ粒子と第2半導体ナノ粒子について、発光スペクトルを測定した。その結果を図1及び図2に示す。発光スペクトルは、マルチチャンネル分光器(浜松ホトニクス社製、商品名PMA12)を用いて、励起波長450nmにて測定した。量子収率については、蛍光スペクトル測定装置PMA-12(浜松ホトニクス社製)に積分球を取り付けた装置を用いて、室温(25℃)、励起波長450nmで、350nmから1100nmの波長範囲で測定し、506nmから882nmの波長範囲より計算した。発光ピーク波長と量子収率を表1に示す。
【0174】
【表1】
【0175】
表1より、実施例1から実施例3において、比較例1と比べて第1半導体ナノ粒子の収率が高くなることを確認できた。
図1
図2