(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023031003
(43)【公開日】2023-03-08
(54)【発明の名称】カウンターの衝立スライドシステム
(51)【国際特許分類】
A47G 5/00 20060101AFI20230301BHJP
A47F 9/00 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
A47G5/00 E
A47F9/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021136448
(22)【出願日】2021-08-24
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】521374028
【氏名又は名称】兵頭 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100161746
【弁理士】
【氏名又は名称】地代 信幸
(72)【発明者】
【氏名】兵頭 昌彦
(57)【要約】
【課題】上方から吊り下げる飛沫防止用の衝立について、主に飲食店でのカウンターにおける需要に対応するため、少ない数の衝立で顧客の来店状況に応じた適切な配置に、最小限の労力で変更できるようにする。
【解決手段】カウンター10に沿って、カウンター10の上部に設置された3本以上のレール12,13と、複数枚の、レール12,13に沿って移動する一組のスライド体15に吊り下げられた可動衝立21とを有し、レール12,13のうち、少なくとも2本が客間仕切レール13であり、少なくとも1本がマスター側レール12であり、客間仕切レール13のレール間隔が可動衝立21の固定部22の間隔に対応し、マスター側レール12と客間仕切レール13との間、および客間仕切レール13,13同士の間でスライド体15を移動可能にする渡りレール16を設けた構造とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カウンターに沿って、カウンターの上部に設置された3本以上のレールと、
複数枚の、前記レールに沿って移動する一組のスライド体に吊り下げられた可動衝立と、
を有し、
前記可動衝立は板状体であり、上方に幅dを離して2か所の固定部を有し、この固定部が前記スライド体と紐状物によって直接的に又は間接的に繋がり、
前記レールのうち、少なくとも2本が客間仕切レールであり、少なくとも1本がマスター側レールであり、
前記客間仕切レールのレール間隔が前記の幅dに対応し、
前記マスター側レールと前記客間仕切レールとの間、および前記客間仕切レール同士の間で前記スライド体を移動可能にする渡りレールを設けた、
カウンターの衝立スライドシステム。
【請求項2】
前記マスター側レール又は前記客間仕切レールの端部近傍に、レールが分岐した先にそれぞれ前記可動衝立の横幅以上の長さの退避レールを有する衝立退避部を有する請求項1に記載のカウンターの衝立スライドシステム。
【請求項3】
前記紐状物の下端に永久磁石を有する第一のブロックを有し、前記固定部に、前記第一のブロックと磁力で接着できる第二のブロックを取り付けた、請求項1又は2に記載のカウンターの衝立スライドシステム。
【請求項4】
前記レールに、前記スライド体を取り外し可能な取外部を設けた、請求項1乃至3のいずれかに記載のカウンターの衝立スライドシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、主に飲食店のカウンターに設置する飛沫防止のための仕組みに関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウイルスの世界的な蔓延に対抗するため、飲食店を始めとして接客を行う各種窓口やカウンターでは、ウイルスを含む飛沫によって感染が広がらないように対策が求められている。飛沫による感染を防止するためには、向き合う顧客と店員との間に物理的な壁を設けるのが具体的な対策となる。このため、各種の透明な樹脂板や樹脂シートによる衝立(パーティション)を立てることが一般に行われている。
【0003】
ただし、床面やテーブル面に衝立を立てることが難しい場合もある。そこで特許文献1には、透明フィルム装置を吊り下げ用ワイヤにより吊り下げた飛沫感染防止用フィルム装置が提案されている。ワイヤを天井への固定フックに吊り下げる形態の他に、ワイヤの上端部を天井部に設けたレール状長尺装置の溝に係合させたり、パイプの上面部にワイヤの上端部のフック部材を引っ掛けて透明フィルム装置1をスライド可能とする形態も提案されている(段落[0021])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
飲食店のカウンターでは、隣接する顧客同士の間には距離を離していても衝立を設けることが望ましくなる。しかし、スペースを確保しにくい店内でカウンターに常に衝立を設けておくと営業上の妨げにもなるため、位置を自在に動かせることが望ましい。一方で、カウンターのマスター側から顧客側へ料理や飲料を提供する際には、衝立を適宜動かす必要に迫られることがある。
【0006】
そこでこの発明は、上方から吊り下げる飛沫防止用の衝立について、主に飲食店でのカウンターにおける需要に対応するため、少ない数の衝立で顧客の来店状況に応じた適切な配置に、最小限の労力で変更できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、
カウンターに沿って、カウンターの上部に設置された3本以上のレールと、
複数枚の、前記レールに沿って移動する一組のスライド体に吊り下げられた可動衝立と、
を有し、
前記可動衝立は板状体であり、上方に幅dを離して2か所の固定部を有し、この固定部が前記スライド体と紐状物によって直接的に又は間接的に繋がり、
前記レールのうち、少なくとも2本が客間仕切レールであり、少なくとも1本がマスター側レールであり、
前記客間仕切レールのレール間隔が前記の幅dに対応し、
前記マスター側レールと前記客間仕切レールとの間、および前記客間仕切レール同士の間で前記スライド体を移動可能にする渡りレールを設けた、
カウンターの衝立スライドシステムにより、上記の課題を解決したのである。
【0008】
上記マスター側レールに位置した一組のスライド体から吊り下げられた可動衝立は、カウンターのマスター側と客側との間を仕切る。通常時はこの可動衝立によって仕切られることで、マスター側から客側、又は客側からマスター側への飛沫の拡散を防止する。そのために、これらの可動衝立は複数枚設けられ、できるだけ間にすき間が空かないようにする。マスター側レールが2本以上あったら、可動衝立の一部が重なるように配置するとより確実に隙間がなくなるため特に好ましい。マスター側から客側へと飲食物を提供する際には、この可動衝立の一部を、スライド体ごとマスター側レールに沿って動かすことで、一時的に可動衝立同士の間にすき間を空けて提供する。提供が終わったらスライド体ごと可動衝立を元の位置に戻す。
【0009】
一方の客間仕切レールのそれぞれに位置した一組のスライド体から吊り下げられた可動衝立は、カウンターに座った客同士の間を仕切る。飛沫が隣の客に拡散することを防止する役目を担う。このように客間に配置した可動衝立は、客の数が少ない場合には配置数が少なくてよいが、客の数が多くなると客席の間ごとに配置することが必要となる。そこで、客の数が少ないときにはマスター側レールに位置したスライド体から吊り下げられた可動衝立を待機させておく。客の数が増えてきたときには、スライド体を渡りレールへと通してそれぞれの客間仕切レールへと移動させることで、その可動衝立を客間に配置変更することができる。逆に、客の数が減ったときには、スライド体を客間仕切レールから渡りレールを介してマスター側レールに戻すことで、客間を仕切る可動衝立を容易に減らすことができる。
【0010】
また、この発明にかかる衝立スライドシステムでは、マスター側レール又は客間仕切レールの端部近傍に、レールが分岐した先にそれぞれ可動衝立の横幅以上の長さの退避レールを有する衝立退避部を設ける実施形態を選択できる。客の数が少なく客間に配置する可動衝立を減らすためにマスター側レールに全て退避させようとすると、マスター側レールの幅が足りなくなる場合がある。この実施形態によると、必要に応じて衝立退避部に一部の可動衝立のスライド体を退避可能にしておき、客の数が増えたときには、衝立退避部から可動衝立を引き出して、渡りレールを使って適当な位置に可動衝立を配置させるように運用できる。
【0011】
さらに、この発明にかかる衝立スライドシステムでは、前記紐状物の下端に永久磁石を有する第一のブロックを有し、前記固定部に、前記第一のブロックと磁力で接着できる第二のブロックを取り付けた実施形態を選択できる。可動衝立が長期間不要になった場合には、レールとスライド体と紐状物のみ残し、可動衝立を取り外して保管しておくことができ、必要になれば磁石同士を合わせて接着することで可動衝立を取り付けるだけでレールやスライド体に関する手間のかかる工事を行うことなく、容易に可動衝立の運用を再開することができる。
【0012】
さらにまた、この発明にかかる衝立スライドシステムでは、上記レールに、上記スライド体を取り外し可能な取外部を設けた実施形態を選択できる。紐状物をレールの下に残すことなく上記可動衝立を取り外して保管しておくことができる。
【発明の効果】
【0013】
この発明により、飲食店でのカウンターにおいて、飲食物の提供や客の増減に応じて容易に可動衝立の数や配置を変更できる、利便性の高い飲食店環境を実現することができる。
【0014】
またこの発明にかかる衝立スライドシステムでは、テーブル、カウンターに取り付けたり立ててあったりするパーティションとは違い、可動衝立は宙に浮いているので、例えば酔った客などが誤って倒してしまうということがない。
【0015】
永久磁石を有するブロックで可動衝立を取り付けている実施形態では、可動衝立が何かに引っかかっても磁石により可動衝立のみが外れ、上部のレールにまで至る致命的な破損には繋がりにくい。
【0016】
また、磁石や取外部により可動衝立を取り外しできる実施形態では、単に吊ってあるだけのパーティションに比べて工事などもなく容易に取り外し、また取り付けることができるので、都度行き届いた清掃が可能であり、可動衝立の表面に汚れが残りにくく、かつ消毒もしやすい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】この発明にかかるカウンターの衝立スライドシステムを設置した飲食店カウンターの外観例図
【
図3】
図1のカウンターに沿って天井に設置されたレール配置を下から見た配線図
【
図4】(a)
図3の配線図の平行部分拡大図、(b)(a)で飲食物を提供する際の可動衝立の移動状態を示す図
【
図5】(a)マスター側レールから客間仕切レールへの移動状態を示す図、(b)客間仕切レール間の移動状態を示す図、(c)客間仕切レールへの移動が完了した状態を示す図
【
図6】(a)レールの斜視図、(b)(a)のB-B断面図、(c)(b)のC-C断面図、(d)(b)のD-D断面図
【
図9】(a)磁石で可動衝立を取り付けた構成例図、(b)(a)の磁石を外した状態図
【
図10】(a)取外部を設けたレールの平面図、(b)(a)の側面断面図、(c)取外部からボールを外す際の平面図、(d)(c)の側面断面図、(e)取外部を封鎖した状況の側面断面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ、この発明にかかるカウンターの衝立スライドシステムについて説明する。この発明を設置するカウンターとは、主に飲食店において、飲食物を提供する店員が位置するマスター側(図中Mで表示する。)と、客が座る客席側(図中Gで表示する。)との間に設置される横長のカウンターに好適に設置できる。なお、このカウンターは一直線である必要はなく、マスター側を囲むように曲線状に配されているカウンターでもよいし、逆に客席側を囲むように曲線状に配されているカウンターでもよい。さらに、それらの形状が組み合わさった複雑な形状のカウンターであっても、この発明は好適に利用できる。また、飲食店に限らず、マスター側と客席側との間で時折物品の受け渡しが発生する受付カウンターや、客数の増減幅が大きいカウンターで好適に利用できる。
図1ではマスター側を囲む曲線状のカウンター10に取り付けられた衝立スライドシステムを例として示す。
【0019】
カウンター10に沿って、カウンターの上部に3本以上のレール12、13(12a,12b,13a,13b)が設置される。レール12、13の設置位置はカウンター10に沿った真上であればよく、例えば天井に直接レールを取り付けてもよいし、天井から吊り下げて梁のように取り付けてもよい。
図1では天井に取り付けている実施形態を示す。カウンター10が曲線状である部分では、それに対応するレール12,13も同様の曲線状に曲がるように配する。レール12,13は、取り付けられたスライド体15を落下しないように保持したまま、レール12,13に沿って移動できる構造を有する。
【0020】
スライド体15から吊り下げられた可動衝立21の実施形態例を
図2に示す。可動衝立21は透明な材質の板状体からなる。具体的な材質としては、アクリル板、ポリカーボネート板などの、透明なプラスチック板を用いるのが望ましい。ガラスでも利用可能であるが、後述する移動時に可動衝立21が衝突する際に割れるおそれがあるため、割れにくく耐久性の高いプラスチック板であると望ましい。
【0021】
上記板状体の厚さは特に限定されないが、耐久性の点から1mm以上あると好ましい。一方で、厚すぎるとその分重量が増加し動かしにくくなるため、5mm以下であると好ましい。板状体の面積や形状は特に限定されるものではなく、カウンターの大きさや形状、天井までの高さなどに応じて適宜選択できる。ただし、一つの可動衝立21が小さすぎると、十分な飛沫防止効果が得られにくいため、上記板状体の横幅は20cm以上あると好ましい。一方で、一枚あたりの横幅が長すぎると、移送が難しくなったり、飲食物を出すためにわずかにずらすといったことが難しくなったりするため、2m以下であると好ましい。
【0022】
可動衝立21の上端側近傍には、横方向に幅dを離して2か所に固定部22が設けてある。固定部22はスライド体15から吊り下げられた紐状物14から吊り下げられる固定された部位である。
図2の実施形態例では、固定部22として可動衝立21のプラスチック板を貫通させた貫通孔を形成させた形態を示す。この貫通孔である固定部22に、スライド体15に繋がる紐状物14の下端に吊るされたフック23を通すことで、スライド体15から吊り下げられた可動衝立21として利用できる。なお固定部22の形態はこれに限定されるものではなく、ネジや磁石、その他の金具などを可動衝立21に取り付け、紐状物14の下端にそれらに対応する器具を取り付けたものでもよい。紐状物14によって固定部22とスライド体15とが繋がる。紐状物14のみによって直接的に繋がっていてもよいし、その他のパーツなどを介して間接的に繋がっていてもよい。
【0023】
上記の紐状物14は、特に材質は限定されないが長さが変動しにくいものであると好ましい。ゴムのように伸び縮みする素材であると、可動衝立21を移動させた際に、長時間にわたって振動し続けてしまうことがある。具体的には、ビニール紐などの繊維製の紐でもよいし、スチールワイヤーなどの金属製の紐状物でもよい。
【0024】
次に、レール12,13の構成について説明する。
図3に、
図1に示すカウンター10に沿って天井に配したレールを下から見た配線図を示す。図中左上側がマスター側Mであり、それを囲むカウンター10の外が客席側Gである。なお、レール同士の幅や可動衝立21のサイズは模式化しており、かならずしも実際の縮尺とは一致しない。カウンター10よりもマスター側に、マスター側レール12a,12bが並行して設けてある。マスター側レール12は1本でも本発明は実現可能であるが、2本あると、可動衝立21の運用の自由度が高くなるので好ましい。なお、3本以上あってもよいが、3本以上あっても運用の自由度は2本の場合に比べて著しく向上するわけではない。このため、ここではマスター側レール12a,12bの2本を取り付けた例を示す。
【0025】
また、カウンター10上のマスター側に客間仕切レール13aの一方が配され、カウンター10上の客席側に客間仕切レール13bの他方が配される。客間仕切レール13aと客間仕切レール13bとのレール間隔は、上記の可動衝立21に設けた固定部22、22同士の幅dに対応したものとする。ここで、対応とは、完全一致している必要はないが、客間仕切レール13a,13bのそれぞれに位置したスライド体15から吊り下げられた2本の紐状物14によって、固定部22を介して可動衝立21を吊り下げることができる程度の近い幅であることを意味し、幅が同一に近いほど吊り下げられた紐状物14が水平に近い配置となるため、見た目にも好ましく、スライド体15がレールに掛ける負荷も少なくなるため好ましい。ここでは、客間仕切レール13a,13bの間隔が幅dである形態を示す。
【0026】
それぞれのレール12,13との間には、隣接するレールとの間でスライド体15を相互に移動可能にする渡りレール16(16a,16b,16c)を設けてある。マスター側レール12a,12bの間を渡す第一渡りレール16a、マスター側レール12bと客間仕切レール13aとの間を渡す第二渡りレール16b、客間仕切レール13aと客間仕切レール13bとの間を渡す第三渡りレール16cが設けてある。これらの渡りレール16を介してスライド体15を移動させることで、スライド体15に吊り下げられた可動衝立21を、マスター側でも、客席側でも自在に配置変更することができる。
【0027】
その配置変更の具体的形態を
図4及び
図5を用いて説明する。
図4(a)は
図3に示すレールの平行になっている部分を抜き出したものである。
図4(a)の配置では、客席側には可動衝立21を配していない状態である。マスター側レール12a、12bのいずれか一方から吊り下げられる一の可動衝立21は、客席から見たときに左右方向の一部が、マスター側レール12b,12aの他方から吊り下げられる他の位置の可動衝立21と重なっている。これにより、客席から見たときに、マスター側レール12bのみを用いた場合に生じやすい可動衝立21同士の間に生じる隙間がなくなり、マスター側との間で飛沫の行き来をより確実に防止できるように配置されている。
【0028】
マスター側から客席側へと飲食物を提供しようとするときの形態を
図4(b)に示す。マスター側レール12a,12bのどちらか一方から吊り下げられた可動衝立21のうちの一つを左右方向へずらす。一時的に隙間が空くので、飲食物をカウンター10に置き、動かした可動衝立21を戻すと、速やかに隙間を閉ざすことができる。
【0029】
さらに、可動衝立21の配置を変更する際の実施形態を
図5に示す。客が複数になったことで、客間の仕切りとなる可動衝立21を新たに配置する際の移動を例に説明する。マスター側レール12bから吊り下げていた可動衝立21の一つを動かし、この可動衝立21に繋がる2つのスライド体15、15が、順に一つの第二渡りレール16bを通り、客間仕切レール13aへと移るようにする。この状況を
図5(a)に示す。続いてこの可動衝立21をさらに動かし、この可動衝立21に繋がる2つのスライド体15,15のうち、一方のスライド体15を、第三渡りレール16cを通して客間仕切レール13bへと移るようにする。この状況を
図5(b)に示す。こうして、一つの可動衝立21に繋がるスライド体15、15のうち、一方を客間仕切レール13aに、他方を客間仕切レール13bに位置するようにして、カウンター10に対して垂直に可動衝立21が立つようにできる。このまま、客間仕切レール13a,13bにそれぞれのスライド体15,15が位置したまま、可動衝立21をスライドさせることができ(
図5(c))、客が座った席に合わせて可動衝立21を配置させることができる。
【0030】
渡りレール16の構造は特に限定されるものではない。ただし、転轍機を有する構造にすると、天井付近に配した転轍機の切り替えが必要になるため、利便性が低下する。このため、転轍機がなく、レールの分岐点で可動衝立21に掛かる力の向きだけでスライド体15の行く先を変更できる構成としておくと望ましい。このようなレール構造の構成例を
図6及び
図7を用いて説明する。
【0031】
図6(a)にレール12,13の斜視図と、レール12,13の格納部41に格納されたスライド体15のボール31とを示す。レール12,13は下方の中央部分がレールに沿って開放された角柱型となっている。内部にはスライド体15の本体となるボール31を格納する格納部41となる空間を有している。ボール31は摩擦の少ないプラスチックなどの材質でできており、レール12,13の受け部43に対して小さい摩擦で移動しやすいようになっている。ボール31からは下方に固定用のリング32が突き出ており、このリング32に対して回動できるように取り付けた引掛部33が吊り下げられ、引掛部33から紐状物14が下方に伸びている。可動衝立21を動かすと、紐状物14が引っ張られて、スライド体15のボール31をレール12,13内で滑らせる。
【0032】
図6(a)のB-B断面図を
図6(b)に示す。これはすなわち、レールの長さ方向に沿った断面図である。受け部43は平坦でよいが、通常時に可動衝立21を配置させる位置が決まっている場合は、その位置に可動衝立21を配した際にスライド体15のボール31が位置する箇所を、わずかに他の部位よりも凹ませた凹み部45を設けておくと好ましい。空調の風が当たったり、客や店員が僅かに当たった程度では可動衝立21の位置がずれにくくなり、気が付かないうちにすき間ができていた、という事態を防止しやすくなる。
【0033】
図6(b)のC-C断面図を
図6(c)に、
図6(b)のD-D断面図を
図6(d)に示す。下方に開放された開放部42は、リング32や引掛部33などが通る程度の幅を有する。ただしその幅はボール31の直径よりも小さく、ボール31が落下しないようになっている。開放部42の奥には受け部43があり、ボール31をレール12,13に沿って支える。受け部43の断面から見て左右方向には、ボール31が意図せぬ位置に動いてしまうことを防止する壁部44が立ててあり、ボール31がレールの長さ方向に動かしやすくなっている。凹み部45では開放部42の受け部43までの高さH2が、凹み部45の無い部分の高さH1よりも低くなっている。
【0034】
レール12,13から渡りレール16へと分岐する部分の例を
図7に示す。ボール31がマスター側レール12aに沿って動いており、第一渡りレール16aへボール31を動かすときには、可動衝立21をわずかに客席側へと向くように力を掛けて、第一渡りレール16aへと向かうようにする。ここでは渡りレール16がレール12,13から斜め方向に分岐する例を示したが、レール12,13から垂直方向に分岐するようにしてもよい。
【0035】
この渡りレール16のような分岐51をレール間に設けるだけでなく、レール12,13の端部近傍に設けて、分岐した先に、可動衝立21の横幅以上の長さの退避レール52を設けておくと、使わない可動衝立21を退避保管しておくことができる衝立退避部53として利用可能になる。この衝立退避部53のレール配線例を
図8に示す。退避レール52は複数本形成させておくと好ましく、その分だけレールは分岐する。衝立退避部53へ向かう分岐51は、マスター側レール12aか客間仕切レール13bといった、マスター側か客席側の外側に設けておくと、店内の構成上設置しやすい。
【0036】
また、このような衝立退避部53を設けるスペースが無い場合には、可動衝立21を紐状物14から容易に取り付け及び取り外しできる構造にしておくと好ましい。保管時にはレール12,13上の端部に、複数個のボール31とそこから吊り下げられた紐状物14が集めてあり、可動衝立21自体は倉庫などに保管しておく。可動衝立21が追加で必要になった場合には、倉庫から取り出した可動衝立21を紐状物14に取り付けるだけで、天井部分に届くような作業は不要となる。このような取り付け及び取り外しができる構造の例を
図9(a)(b)に示す。紐状物14の下端に、永久磁石のブロック27(第一のブロック)を吊り下げておく。一方で、可動衝立21の固定部22である貫通孔には、上記のブロック27と磁力で接着できるように磁極を配置した永久磁石のブロック26(第二のブロック)を有するストラップ紐25が通して固定されている。永久磁石同士の磁力は、通常の可動衝立21を移動させる際の力では外れず、意図的に外そうと力を掛けたら外れるという程度に調整してあると好ましい。
【0037】
また、スライド体15自体、又はスライド体15に付属する部品として、レール12、13に対してスライド体15を移動させる自走装置を取り付けておいてもよい。この自走装置は、マスター側に立っている人間が脚立などに乗る必要なく、カウンター内に居ながらにして、専用のリモコンやアプリをインストールしたスマートフォン、パソコンなどから電波や赤外線で信号を伝達され、この信号に従って走行するものであるとよい。レール12,13の取り付け位置が高く、可動衝立21を引っ張るだけではスライド体15が動かしにくくなる場合に好ましい。また、可動衝立21を手作業で動かすよりも自動で動かす方が演出上好まれるような場合にも有効である。
【0038】
また、レール12,13からスライド体15を容易に外すことができる機構を備えていてもよい。
図9の実施形態で、ブロック26,27の間で分離して可動衝立21のみを倉庫などに収納すると、紐状物14がレール12,13から吊り下がっていることになる。カウンター10の周囲に、この紐状物14を隠す設備やスペースが無い場合には、紐状物14からスライド体15までをレール12,13から外すことができる機構があると好ましい。レール12,13からスライド体15を容易に外すことができる機構としては、レール12,13の端部を開放してそこから外してもよいし、レール12,13の途中に、スライド体15を外しやすくした部分(取外部)を設けてもよい。
【0039】
取外部61を設けた実施形態を
図10に示す。レール12,13の端部近傍に、ボール31を通過可能な大きさ及び形状に開放部42の幅を広げた取外部61を形成させる。
図10(a)に取外部61付近の平面図を、
図10(b)に側面断面図を示す。取外部61の内側は円筒の一部を切り出した形状となっている。レール12,13の途中に取外部61を設けると、移動中にボール31が通る際に落下するおそれがあるため、端部近傍か、普段の使用時にはボール31が通過しない箇所に設けることが望ましい。取り外す際にはスライド体15に繋がる可動衝立21を引いて、ボール31が取外部61に到達するまで移動させる。この状況の平面図を
図10(c)に、側面断面図を
図10(d)に示す。一対のスライド体15のうち、片方のスライド体15のボール31をこのようにレール12,13から取り外したら、もう片方のスライド体15のボール31も、同じ取外部61から同様にして取り外す。取り付け直す際には、一方のスライド体15のボール31を取外部61から上方へと押込み、受け部43の高さにまで乗ったところで横方向へスライドさせる。続いて他方のスライド体15のボールも同様に取外部61から押込み、受け部43に乗せる。
【0040】
なお、取外部61を普段から開放していると、何かの拍子にスライド体15が到達してボール31が落下してしまうおそれがある。このため、普段は取外部61を塞いでおく蓋62などを取り付けておき、取り外し、取り付けの際にのみ蓋62を外して作業を行うとよい。
【符号の説明】
【0041】
10 カウンター
11 客席
12,12a,12b マスター側レール
13,13a,13b 客間仕切レール
14 紐状物
15 スライド体
16 渡りレール
16a 第一渡りレール(マスター側レールの間)
16b 第二渡りレール(マスター側レールと客間仕切レールの間)
16c 第三渡りレール(客間仕切レールの間)
21 可動衝立
22 固定部
23 フック
25 ストラップ紐
26、27 ブロック
31 ボール
32 リング
33 引掛部
41 格納部
42 開放部
43 受け部
44 壁部
45 凹み部
51 分岐
52 退避レール
53 衝立退避部
61 取外部
62 蓋
G 客席側
M マスター側
H1 ボール受け部高さ
H2 ボール受け部高さ
W 壁