(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023031042
(43)【公開日】2023-03-08
(54)【発明の名称】探傷装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/90 20210101AFI20230301BHJP
【FI】
G01N27/90
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021136511
(22)【出願日】2021-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸口 雄介
(72)【発明者】
【氏名】畠中 宏明
(72)【発明者】
【氏名】大橋 タケル
(72)【発明者】
【氏名】北村 俊也
【テーマコード(参考)】
2G053
【Fターム(参考)】
2G053AA11
2G053BA02
2G053BA15
2G053BC02
2G053BC14
2G053CA03
2G053CB10
2G053DA01
(57)【要約】
【課題】鋼床版のきずを舗装体側から検出する。
【解決手段】探傷装置は、励磁コイル132と、励磁コイル132に交流電流を印加し、電磁誘導により鋼床版に誘導電流を発生させる励磁部210と、誘導電流に基づく検出信号を検出する検出部230と、電磁波を送信する送信部と、送信された電磁波に基づく反射波を受信する受信部とを備える電磁波送受信部250と、反射波に基づき、鋼床版との間の距離を算出する距離算出部262と、距離算出部262によって算出された距離に基づく閾値と、検出信号とを比較する比較部264と、を備える。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
励磁コイルと、
前記励磁コイルに交流電流を印加し、電磁誘導により鋼床版に誘導電流を発生させる励磁部と、
前記誘導電流に基づく検出信号を検出する検出部と、
電磁波を送信する送信部と、送信された前記電磁波に基づく反射波を受信する受信部とを備える電磁波送受信部と、
前記反射波に基づき、前記鋼床版との間の距離を算出する距離算出部と、
前記距離算出部によって算出された前記距離に基づく閾値と、前記検出信号とを比較する比較部と、
を備える、探傷装置。
【請求項2】
前記比較部は、
前記検出信号に含まれるきず成分を、前記検出信号に含まれるリフトオフ成分の初期位相に基づいて変換し、
変換された前記きず成分と、前記閾値とを比較する、請求項1に記載の探傷装置。
【請求項3】
前記電磁波送受信部の前記送信部は、前記励磁コイルを通じて前記電磁波を送信し、
前記電磁波送受信部の前記受信部は、前記励磁コイルを通じて前記反射波を受信する、請求項1または2に記載の探傷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、探傷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高速道路、橋梁等の道路は、鋼床版と、鋼床版の上面に積層された、アスファルト等の舗装体で構成される。鋼床版は、舗装体上を車両が通過することによって生じる経年疲労により、亀裂等のきずが生じる場合がある。
【0003】
そこで、鋼床版のきずを検査する技術として、超音波探傷法が利用されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1に記載された超音波探傷法では、鋼床版側、つまり、道路の真下に探触子を接触させなければならない。このため、道路の下に足場等を組む必要があり、きずの検査に要するコストが莫大となるという問題があった。
【0006】
本開示は、このような課題に鑑み、鋼床版のきずを舗装体側から検出することが可能な探傷装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る探傷装置は、励磁コイルと、励磁コイルに交流電流を印加し、電磁誘導により鋼床版に誘導電流を発生させる励磁部と、誘導電流に基づく検出信号を検出する検出部と、電磁波を送信する送信部と、送信された電磁波に基づく反射波を受信する受信部とを備える電磁波送受信部と、反射波に基づき、鋼床版との間の距離を算出する距離算出部と、距離算出部によって算出された距離に基づく閾値と、検出信号とを比較する比較部と、を備える。
【0008】
また、比較部は、検出信号に含まれるきず成分を、検出信号に含まれるリフトオフ成分の初期位相に基づいて変換し、変換されたきず成分と、閾値とを比較してもよい。
【0009】
また、電磁波送受信部の送信部は、励磁コイルを通じて電磁波を送信し、電磁波送受信部の受信部は、励磁コイルを通じて反射波を受信してもよい。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、鋼床版のきずを舗装体側から検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施形態に係る探傷装置の探傷対象である道路を説明する図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る探傷装置を構成する車両を鉛直下方から見た図である。
【
図3】
図3は、電磁誘導探傷法を説明する第1の図である。
【
図4】
図4は、電磁誘導探傷法を説明する第2の図である。
【
図5】
図5は、実施形態に係るプローブの上面図である。
【
図6】
図6は、実施形態に係るプローブの第1の側面図である。
【
図7】
図7は、実施形態に係るプローブの第2の側面図である。
【
図8】
図8は、実施形態に係る探傷装置の機能ブロック図である。
【
図9】
図9は、プローブと鋼床版との間の距離が0であり、きずがない場合の検出信号を説明する図である。
【
図10】
図10は、プローブと鋼床版との間の距離が0であり、きずがある場合の検出信号を説明する図である。
【
図11】
図11は、プローブと鋼床版との間の距離が0超であり、きずがない場合の検出信号を説明する図である。
【
図12】
図12は、プローブと鋼床版との間の距離が0超であり、きずがある場合の検出信号を説明する図である。
【
図13】
図13は、きずがある場合の、変換後の検出信号を説明する図である。
【
図15】
図15は、実施形態に係る探傷方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0013】
図1は、本実施形態に係る探傷装置100の探傷対象である道路10を説明する図である。本実施形態の
図1、および、後述する
図2、
図5~
図7では、垂直に交わるX軸(水平方向、道路幅方向)、Y軸(水平方向、道路長方向)、Z軸(鉛直方向)を図示の通り定義している。
【0014】
図1に示すように、道路10は、鋼床版20と、舗装体30とで構成される。鋼床版20は、鋼製の部材で構成される床版である。鋼床版20は、車両による鉛直下方の荷重を支持する。鋼床版20は、デッキプレート40と、主桁ウェブ42と、垂直補鋼材44と、横リブ46と、Uリブ48とを含む。
【0015】
デッキプレート40は、略水平方向に延在する鋼板である。主桁ウェブ42は、デッキプレート40から鉛直下方に立設するとともに、道路10の延在方向に延在する鋼板である。垂直補鋼材44は、主桁ウェブ42に設けられる鋼板である。垂直補鋼材44は、上面がデッキプレート40に溶接される。横リブ46は、デッキプレート40から鉛直下方に立設するとともに、道路10の幅方向に延在する鋼板である。横リブ46は、主桁ウェブ42に接続される。Uリブ48は、鉛直断面がU字形状の鋼板である。Uリブ48は、道路10の延在方向(道路長方向)に延在するように、デッキプレート40に溶接される。
【0016】
舗装体30は、デッキプレート40上に積層される。舗装体30は、アスファルト等で構成される。
【0017】
上記舗装体30上を車両が通過することによって生じる経年疲労により、鋼床版20における、デッキプレート40とUリブ48との溶接部、および、デッキプレート40と垂直補鋼材44との溶接部等に、亀裂等のきずが生じる場合がある。亀裂は、溶接部からデッキプレート40に向かって進展する。
【0018】
そこで、下記
図2に示す探傷装置100は、舗装体30上から鋼床版20におけるきずの有無を検査する。本実施形態において、探傷装置100は、車両の通過方向(
図1中、Y軸方向、道路10の延在方向、つまり、Uリブ48の延在方向)に道路10を走査しながら、きずの有無を検査する。
【0019】
[探傷装置100]
図2は、本実施形態に係る探傷装置100を構成する車両110を鉛直下方から見た図である。
【0020】
図2に示すように、探傷装置100は、車両110と、アンテナ120と、プローブ130と、エンコーダ140と、マーキング機構150と、制御ユニット200とを含む。
【0021】
車両110は、鋼床版20におけるきずの有無を検査する際、舗装体30上を走行(移動)する。車両110の下面112には、アンテナ120、プローブ130、エンコーダ140、マーキング機構150が一体的に固定される。本実施形態において、アンテナ120、プローブ130、エンコーダ140、および、マーキング機構150は、車両の走行方向の前側からこの順で設けられる。車両110内には、制御ユニット200が設けられる。
【0022】
アンテナ120は、後述する電磁波送受信部250から印加された電流に基づいて電磁波を送信したり、送信された電磁波に基づく反射波を受信したりする。電磁波は、舗装体30(例えば、アスファルト)を透過する。このため、電磁波は、鋼床版20で反射する。アンテナ120は、例えば、ビバルディ型アンテナ、クアドリッチホーンアンテナ、または、ボータイアンテナである。
【0023】
プローブ130は、電磁誘導探傷法(EMIT)用のプローブである。電磁誘導探傷法は、渦電流探傷法とも呼ばれる探傷法である。
【0024】
図3は、電磁誘導探傷法を説明する第1の図である。
図4は、電磁誘導探傷法を説明する第2の図である。なお、
図3、
図4では、励磁と検出とを同一のコイルCで行う場合を例に挙げる。
【0025】
図3に示すように、コイルCに交流電流が印加されると、交流磁場が発生する(励磁)。そうすると、電磁誘導により、鋼床版20において、交流磁場を打ち消す方向に誘導電流(渦電流U)が発生する。
【0026】
図4に示すように、鋼床版20のおけるきずがある箇所では、渦電流Uが、きずによって遮られる。そうすると、きずがある箇所では、きずがない箇所と比較して、渦電流Uに乱れが生じる。
【0027】
したがって、電磁誘導探傷法では、コイルCを通じて取得した渦電流Uの変化量をインピーダンスの変化として検出することで、きずの有無を検出する。
【0028】
図5は、本実施形態に係るプローブ130の上面図である。
図6は、本実施形態に係るプローブ130の第1の側面図である。
図7は、本実施形態に係るプローブ130の第2の側面図である。
【0029】
図5~
図7に示すように、プローブ130は、励磁コイル132と、検出コイル134とを含む。
【0030】
本実施形態において、励磁コイル132は、第1励磁コイル132aと、第2励磁コイル132bとを含む。
【0031】
第1励磁コイル132aおよび第2励磁コイル132bは、略水平方向(
図5~
図7中、Y軸方向)に近接して並置される。第2励磁コイル132bは、第1励磁コイル132aの中心軸と略平行な中心軸を有する。第2励磁コイル132bは、第1励磁コイル132aと巻き方向が逆である。例えば、
図5において、第1励磁コイル132aの巻き方向が時計回りである場合、第2励磁コイル132bの巻き方向は、反時計回りである。第2励磁コイル132bは、第1励磁コイル132aに直列に接続される。
【0032】
第1励磁コイル132aおよび第2励磁コイル132bは、鋼床版20に積層された舗装体30の表面の直交方向(
図5~
図7中、Z軸方向)と、中心軸とが略平行となるように、舗装体30上に設置される。
【0033】
検出コイル134は、第1励磁コイル132aおよび第2励磁コイル132bの中心軸の方向(
図5~
図7中、Z軸方向)の位置を異にして、第1励磁コイル132aおよび第2励磁コイル132bに重畳される。本実施形態において、検出コイル134は、第1励磁コイル132aおよび第2励磁コイル132bの近接部分に重畳される。検出コイル134は、第1励磁コイル132aの中心軸および第2励磁コイル132bの中心軸と略平行な中心軸を有する。
【0034】
図2に戻って説明すると、エンコーダ140は、プローブ130が移動した経路の距離を示す経路情報を取得する。エンコーダ140によって取得された経路情報は、制御ユニット200に出力される。
【0035】
マーキング機構150は、制御ユニット200の制御指令に応じて、舗装体30に指標(マーク)を付す。マーキング機構150は、例えば、チョークと、チョークを駆動するアクチュエータとを含む。
【0036】
図8は、本実施形態に係る探傷装置100の機能ブロック図である。
図8に示すように、制御ユニット200は、励磁部210と、検出部230と、A/D変換器240と、電磁波送受信部250と、中央制御部260と、メモリ270と、表示装置280とを含む。
【0037】
励磁部210は、第1励磁コイル132aおよび第2励磁コイル132bに交流電流を印加し、電磁誘導により鋼床版20に誘導電流を発生させる。本実施形態において、励磁部210は、ファンクションジェネレータ212と、アンプ214とを含む。
【0038】
ファンクションジェネレータ212(
図8中「F/G」で示す)は、所定の周波数の交流信号を発生させる。ファンクションジェネレータ212による交流信号は、アンプ214および検出部230に出力される。
【0039】
アンプ214(
図8中「B/P」で示す)は、ファンクションジェネレータ212による交流信号を増幅し、第1励磁コイル132aおよび第2励磁コイル132bに交流電流を印加する。そうすると、電磁誘導により鋼床版20に誘導電流が発生する。上記したように、第1励磁コイル132aの巻き方向と第2励磁コイル132bの巻き方向とは逆であるため、第1励磁コイル132aおよび第2励磁コイル132bの近接部分では、同方向に電流が印加される。アンプ214は、例えば、バイポーラ電源である。
【0040】
検出部230は、例えば、ロックインアンプ(
図8中「L/I」で示す)で構成される。検出部230は、ファンクションジェネレータ212から出力された交流信号(リファレンス信号)に基づき、検出コイル134によって検出された交流電圧から、第1励磁コイル132aおよび第2励磁コイル132bに印加した電流の周波数成分(誘導電流に基づく検出信号)を抽出する。
【0041】
A/D変換器240(
図8中「A/D」で示す)は、検出部230の出力値(アナログ信号)をデジタル信号に変換する。
【0042】
電磁波送受信部250は、例えば、周波数解析装置(
図8中「N/A」で示す)で構成される。電磁波送受信部250は、アンテナ120に電流を印加し、アンテナ120を通じて、舗装体30の表面に電磁波を送信する送信部として機能する。また、電磁波送受信部250は、アンテナ120を通じて、鋼床版20において反射された反射波(反射電磁波)を受信する受信部として機能する。そして、電磁波送受信部250は、反射波に基づく信号を解析し、反射波の周波数成分(スペクトル)を算出する。
【0043】
中央制御部260は、CPU(中央処理装置)を含む半導体集積回路で構成される。中央制御部260は、ROMからCPUを動作させるためのプログラムやパラメータ等を読み出す。中央制御部260は、ワークエリアとしてのRAMや他の電子回路と協働して探傷装置100全体を管理および制御する。
【0044】
メモリ270は、ROM、RAM、フラッシュメモリ、HDD等で構成される。メモリ270は、中央制御部260に用いられるプログラムや各種データを記憶する。本実施形態において、メモリ270は、後述する検定曲線を記憶する。
【0045】
表示装置280は、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等で構成される。
【0046】
本実施形態において、中央制御部260は、距離算出部262と、比較部264、信号保存部266として機能する。
【0047】
距離算出部262は、電磁波送受信部250によって算出されたスペクトルにおけるピークの時間に基づき、プローブ130と鋼床版20との間の距離を算出する。
【0048】
比較部264は、まず、検出部230によって得られた検出信号からリフトオフ信号を取り除く。リフトオフ信号は、プローブ130と鋼床版20との間の距離に基づくノイズである。
【0049】
具体的に説明すると、検出部230によって得られる、誘導電流に基づく検出信号は、きずに基づくきず信号(交流磁場変化)SFと、プローブ130と鋼床版20との間の距離に基づくリフトオフ信号SLとを含む。
【0050】
きず信号SFは、下記式(1)で示される。リフトオフ信号SLは下記式(2)で示される。
SF=AFexp(iωt) …式(1)
SL=ALexp(iφ) …式(2)
上記式(1)において、AFは、きず信号の振幅を示す。iは、複素定数を示す。ωは、周波数を示す。tは、時間を示す。
上記式(2)において、ALは、リフトオフ信号の振幅を示す。iは、複素定数を示す。φは、初期位相を示す。
【0051】
探傷装置100によって道路10を走査(車両110が道路10を移動)する際に、車両110を構成する1または複数の車輪114が、舗装体30に生じた轍等の凹部に嵌ったり、舗装体30に生じた凸部に乗り上げたりして、車両110の下面112と舗装体30の表面との間の距離、すなわち、プローブ130と舗装体30の表面と間の距離が変動する場合がある。この場合、仮に、舗装体30の厚みが一定であったとしても、舗装体30の表面とプローブ130との間の距離が変動し、プローブ130と鋼床版20との間の距離が変動する。また、車両の走行によって舗装体30が削れたり、舗装体30の補修によって舗装体30の厚みが増加したりして、舗装体30の厚みが変動すると、仮に、舗装体30の表面とプローブ130との間の距離が一定であったとしても、プローブ130と鋼床版20との間の距離が変動する。
【0052】
きず信号SFは、リフトオフ信号SLと異なる位相で検出されるが、プローブ130と鋼床版20との間の距離が大きくなるに従い、きず信号の振幅AFが低下し、検出信号からきず信号SFを識別することができなくなってしまう。
【0053】
図9は、プローブ130と鋼床版20との間の距離が0であり、きずがない場合の検出信号を説明する図である。
図10は、プローブ130と鋼床版20との間の距離が0であり、きずがある場合の検出信号を説明する図である。
図11は、プローブ130と鋼床版20との間の距離が0超であり、きずがない場合の検出信号を説明する図である。
図12は、プローブ130と鋼床版20との間の距離が0超であり、きずがある場合の検出信号を説明する図である。
【0054】
探傷装置100において、リフトオフ信号S
Lが最小であるときに、リサージュ波形の基準点が原点(0,0)となるように調整(原点補正)が行われる。そして、原点補正を行った後に、探傷装置100を用いて探傷が行われる。したがって、
図9、
図10に示すように、プローブ130と鋼床版20との間の距離が0(ゼロ)である場合、リサージュ波形の基準点は、原点(0,0)となる。リサージュ波形は、励磁電圧を基準とした、検出信号のsin成分(振幅、
図9~
図12中、縦軸)およびcos成分(位相、
図9~
図12中、横軸)の変動を示す。つまり、プローブ130と鋼床版20との間の距離が0である場合、リサージュ波形において、原点を基準点として、検出信号のsin成分およびcos成分が変動する。
【0055】
図9に示すように、きずがない場合、検出信号のsin成分およびcos成分の変動幅は、概ねゼロである。また、
図10に示すように、きずがある場合、検出信号のsin成分およびcos成分の変動幅は、きずがない場合と比較して大きくなる。
【0056】
一方、
図11、
図12に示すように、プローブ130と鋼床版20との間の距離が0超である場合、リサージュ波形の基準点は、原点ではない点となる。例えば、
図11、
図12に示す場合において、基準点は、(2.0,1.0)となる。
【0057】
また、プローブ130と鋼床版20との間の距離が大きくなるほど、検出信号のsin成分およびcos成分の変動の基準点は、原点(0,0)から離隔していく。例えば、
図9~
図12に示す例では、プローブ130と鋼床版20との間の距離が大きくなるほど、基準点は、原点から右上方向(リフトオフ信号S
Lと同位相)に離隔する。
【0058】
なお、プローブ130と鋼床版20との間の距離に拘わらず、
図11に示すように、きずがない場合、検出信号のsin成分およびcos成分の変動幅は、概ねゼロである。また、
図12に示すように、きずがある場合、検出信号のsin成分およびcos成分の変動幅は、きずがない場合と比較して大きくなる。
【0059】
きずの評価は、検出信号のsin成分の変動幅に基づいて行われる。ここで、検出信号にリフトオフ信号SLが含まれると、きず信号SFのsin成分の変動幅が不明瞭となってしまう。
【0060】
そこで、比較部264は、検出信号に含まれるきず信号SF(きず成分)を、検出信号に含まれるリフトオフ信号SL(リフトオフ成分)の初期位相φに基づいて変換する。
【0061】
上記したように、きず信号SFとリフトオフ信号SLとは、異なる現象に基づくものである。このため、きず信号SFとリフトオフ信号SLとは、位相が異なる(上記式(1)の「ωt」と、上記式(2)の「φ」)。
【0062】
そこで、本実施形態において、比較部264は、リフトオフ信号SLの位相角が0となるように、検出信号を変換する。そうすると、変換後のリフトオフ信号SL´のsin成分は0となる。また、変換後のきず信号SF´は、下記式(3)で表すことができる。
SF´=AFexp{i(ωt-φ)} …式(3)
【0063】
図13は、きずがある場合の、変換後の検出信号を説明する図である。変換後の検出信号では、リフトオフ信号S
L´のsin成分が0となり、
図13に示すように、きず信号S
F´のsin成分がA
Fsin(ωt-φ)となる。このため、きず信号S
F´のsin成分の変動幅を明瞭に識別することができ、高精度にきずを評価することができる。つまり、変換後の検出信号の信号強度Scを算出することで、高精度にきずを評価することが可能となる。なお、変換後の検出信号の信号強度Scは、リサージュ波形における縦軸(sin成分)の最小値(マイナスのピーク)から最大値(プラスのピーク)までの値(2×A
Fsin(ωt-φ))である。
【0064】
そして、比較部264は、メモリ270に記憶された検定曲線を参照し、距離算出部262によって算出された、プローブ130と鋼床版20との間の距離から閾値を決定する。
【0065】
図14は、検定曲線300を説明する図である。
図14に示すように、検定曲線300は、きずと判定される信号強度Scと、プローブ130と鋼床版20との間の距離(リフトオフ)[mm]とが関連付けられた曲線である。検定曲線300は、所定のきずが形成された試験片を、探傷装置100によって探傷することで予め作成される。
図14に示すように、検定曲線300では、プローブ130と鋼床版20との間の距離が大きくなるほど、信号強度Scが小さくなる。
【0066】
比較部264は、検定曲線300を参照し、距離算出部262によって算出された、プローブ130と鋼床版20との間の距離から閾値を決定する。例えば、プローブ130と鋼床版20との間の距離が80mmである場合、閾値は、0.36に決定される。また、プローブ130と鋼床版20との間の距離が50mmである場合、閾値は、17.3に決定される。
【0067】
そして、比較部264は、決定した閾値と、変換後の信号強度Sc(変換後のきず成分のsin成分)とを比較する。その結果、信号強度Scが閾値以上であると判定した場合、比較部264は、きずがあると判定する。そして、比較部264は、マーキング機構150を駆動して、舗装体30にマークを付す。
【0068】
一方、信号強度Scが閾値未満であると判定した場合、比較部264は、きずがないと判定する。
【0069】
信号保存部266は、検出信号、および、プローブ130と鋼床版20との間の距離を、エンコーダ140によって取得された経路情報に関連付けて、メモリ270に記憶する。
【0070】
[探傷方法]
続いて、上記探傷装置100を用いた、道路10を探傷する探傷方法について説明する。
図15は、本実施形態に係る探傷方法の処理の流れを示すフローチャートである。
図15に示すように、本実施形態に係る探傷方法は、終了判定工程S110、信号取得工程S120、信号変換工程S130、距離算出工程S140、閾値決定工程S150、比較工程S160、マーク工程S170、保存工程S180、移動工程S190を含む。以下、各工程について説明する。
【0071】
[終了判定工程S110]
中央制御部260は、所定の探傷範囲の走査が終了したか否かを判定する。その結果、探傷範囲の走査が終了していないと判定した場合(S110におけるNO)、中央制御部260は、信号取得工程S120に処理を移す。一方、探傷範囲の走査が終了したと判定した場合(S110におけるYES)、中央制御部260は、当該探傷方法を終了する。
【0072】
[信号取得工程S120]
励磁部210は、第1励磁コイル132aおよび第2励磁コイル132bに交流電流を印加する。検出部230は、検出コイル134を通じて検出信号を取得し、A/D変換器240は、検出信号をデジタル信号に変換する。
【0073】
電磁波送受信部250は、アンテナ120に電流を印加し、アンテナ120を通じて、舗装体30の表面に電磁波を送信する。そして、電磁波送受信部250は、アンテナ120を通じて、鋼床版20において反射された反射波を受信する。電磁波送受信部250は、反射波に基づく信号を解析し、スペクトルを算出する。
【0074】
また、エンコーダ140は、経路情報を取得し、制御ユニット200に出力する。
【0075】
[信号変換工程S130]
比較部264は、信号取得工程S120において取得された検出信号に含まれるきず信号SFを、検出信号に含まれるリフトオフ信号SLの初期位相φに基づいて変換する。
【0076】
[距離算出工程S140]
距離算出部262は、信号取得工程S120において取得されたスペクトルに基づき、プローブ130と鋼床版20との間の距離を算出する。
【0077】
[閾値決定工程S150]
比較部264は、メモリ270に記憶された検定曲線300を参照し、距離算出工程S140において算出された、プローブ130と鋼床版20との間の距離から閾値を決定する。
【0078】
[比較工程S160]
比較部264は、信号変換工程S130において変換された検出信号の信号強度Scが、閾値決定工程S150において決定された閾値以上であるか否かを判定する。その結果、信号強度Scが閾値以上であると判定した場合(S160におけるYES)、比較部264は、マーク工程S170に処理を移す。一方、信号強度Scが閾値以上ではない(S160におけるNO)、つまり、信号強度Scが閾値未満であると判定した場合、比較部264は、保存工程S180に処理を移す。
【0079】
[マーク工程S170]
比較部264は、マーキング機構150を駆動して、舗装体30にマークを付す。
【0080】
[保存工程S180]
信号保存部266は、検出信号、および、プローブ130と鋼床版20との間の距離を、エンコーダ140によって取得された経路情報に関連付けて、メモリ270に記憶する。
【0081】
[移動工程S190]
探傷装置100を構成する車両110は、今回、信号取得工程S120を実行した第1位置から第2位置へ、所定時間以内に移動する。第2位置は、車両110の移動方向(
図2中、Y軸方向)の位置が、第1位置とは異なる位置である。
【0082】
以上説明したように、本実施形態に係る探傷装置100は、アンテナ120、プローブ130、および、制御ユニット200を備える。したがって、本実施形態に係る探傷装置100は、鋼床版20のきずを舗装体30側から検出することが可能となる。
【0083】
また、上記したように、比較部264は、検出信号に含まれるきず成分を、検出信号に含まれるリフトオフ成分の初期位相に基づいて変換する。これにより、比較部264は、検出信号からきず成分(きずに起因する信号)を選択的に抽出することが可能となる。
【0084】
また、上記したように、比較部264は、プローブ130と鋼床版20との間の距離に基づく閾値と、信号強度Scとを比較する。これにより、比較部264は、きずを高精度に検出することができる。
【0085】
また、上記したように、本実施形態に係る探傷装置100は、マーキング機構150を備える。これにより、ユーザに、きずの位置を視覚的に把握させることが可能となる。
【0086】
また、上記したように、探傷装置100を用いた探傷方法は、終了判定工程S110から移動工程S190までを繰り返す。つまり、探傷装置100は、車両110の走行に応じて、時分割で、きずの有無を検出する。これにより、探傷装置100は、車両110が走行した、道路10上の領域すべてを網羅的に探傷することができる。
【0087】
以上、添付図面を参照しながら実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0088】
例えば、上述した実施形態において、励磁コイル132が、第1励磁コイル132aおよび第2励磁コイル132bを備える場合を例に挙げた。しかし、プローブ130が備える励磁コイル132の数に限定はない。例えば、プローブ130は、1の励磁コイル132を備えていてもよいし、3以上の励磁コイル132を備えてもよい。同様に、プローブ130は、複数の検出コイル134を備えてもよい。また、プローブ130は、検出コイル134に代えて、磁気センサを備えてもよい。
【0089】
また、上記実施形態において、比較部264が、検出信号に含まれるきず成分を、検出信号に含まれるリフトオフ成分の初期位相に基づいて変換する場合を例に挙げた。しかし、比較部264が、検出信号に含まれるきず成分を、検出信号に含まれるリフトオフ成分の初期位相に基づいて変換せずともよい。この場合、比較部264は、検出部230によって得られた検出信号と、閾値とを比較する。
【0090】
また、上記実施形態において、探傷装置100がアンテナ120を備える場合を例に挙げた。しかし、探傷装置100は、アンテナ120を備えずともよい。この場合、電磁波送受信部250は、アンテナ120に代えて、励磁コイル132を送信部および受信部として機能させてもよい。なお、この際、励磁部210が印加する交流電流の周波数と、電磁波送受信部250が印加する交流電流の周波数とを異ならせるとよい。これにより、探傷装置100は、鋼床版20との間の距離を算出するための専用のアンテナ120を省略することができる。
【0091】
また、上記実施形態において、制御ユニット200が、車両110に設けられる場合を例に挙げた。しかし、制御ユニット200は、車両110と離隔した場所に設けられていてもよい。
【0092】
本開示は、例えば、持続可能な開発目標(SDGs)の目標12「持続可能な消費と生産のパターンを確保する」に貢献することができる。
【符号の説明】
【0093】
100 探傷装置
132 励磁コイル
20 鋼床版
210 励磁部
230 検出部
250 電磁波送受信部
262 距離算出部
264 比較部