(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023031045
(43)【公開日】2023-03-08
(54)【発明の名称】探傷装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/904 20210101AFI20230301BHJP
【FI】
G01N27/904
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021136514
(22)【出願日】2021-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塚田 啓二
(72)【発明者】
【氏名】大橋 タケル
(72)【発明者】
【氏名】畠中 宏明
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸口 雄介
(72)【発明者】
【氏名】北村 俊也
(72)【発明者】
【氏名】鳩 昌洋
【テーマコード(参考)】
2G053
【Fターム(参考)】
2G053AA11
2G053AB21
2G053BA03
2G053BA15
2G053BB08
2G053BC02
2G053BC07
2G053BC14
2G053CA03
2G053CB10
2G053CB24
2G053DA01
2G053DB02
(57)【要約】
【課題】鋼床版のきずを舗装体側から検出する。
【解決手段】探傷装置100は、励磁コイル(第1励磁コイル132a、第2励磁コイル132b)と、第1周波数の交流電流と、第1周波数よりも低周波数の第2周波数の交流電流とを励磁コイルに印加し、電磁誘導により鋼床版に誘導電流を発生させる励磁部210と、誘導電流に基づく検出信号を検出する検出部230と、第1周波数の交流電流に応じた誘導電流に基づく第1周波数検出信号と、第2周波数の交流電流に応じた誘導電流に基づく第2周波数検出信号とに基づいて、鋼床版に形成されたきずの深さを推定する深さ推定部268と、を備える。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
励磁コイルと、
第1周波数の交流電流と、前記第1周波数よりも低周波数の第2周波数の交流電流とを前記励磁コイルに印加し、電磁誘導により鋼床版に誘導電流を発生させる励磁部と、
前記誘導電流に基づく検出信号を検出する検出部と、
前記第1周波数の交流電流に応じた前記誘導電流に基づく第1周波数検出信号と、前記第2周波数の交流電流に応じた前記誘導電流に基づく第2周波数検出信号とに基づいて、前記鋼床版に形成されたきずの深さを推定する深さ推定部と、
を備える、探傷装置。
【請求項2】
電磁波を送信する送信部と、送信された前記電磁波に基づく反射波を受信する受信部とを備える電磁波送受信部と、
前記反射波に基づき、前記鋼床版との間の距離を算出する距離算出部と、
算出された前記距離に基づいて、前記第1周波数検出信号および前記第2周波数検出信号を補正する補正部と、
を備え、
前記深さ推定部は、前記補正部によって補正された、前記第1周波数検出信号および前記第2周波数検出信号に基づいて、前記鋼床版に形成されたきずの深さを推定する、請求項1に記載の探傷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、探傷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高速道路、橋梁等の道路は、鋼床版と、鋼床版の上面に積層された、アスファルト等の舗装体で構成される。鋼床版は、舗装体上を車両が通過することによって生じる経年疲労により、亀裂等のきずが生じる場合がある。
【0003】
そこで、鋼床版のきずを検査する技術として、超音波探傷法が利用されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1に記載された超音波探傷法では、鋼床版側、つまり、道路の真下に探触子を接触させなければならない。このため、道路の下に足場等を組む必要があり、きずの検査に要するコストが莫大となるという問題があった。
【0006】
本開示は、このような課題に鑑み、鋼床版のきずを舗装体側から検出することが可能な探傷装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る探傷装置は、励磁コイルと、第1周波数の交流電流と、第1周波数よりも低周波数の第2周波数の交流電流とを励磁コイルに印加し、電磁誘導により鋼床版に誘導電流を発生させる励磁部と、誘導電流に基づく検出信号を検出する検出部と、第1周波数の交流電流に応じた誘導電流に基づく第1周波数検出信号と、第2周波数の交流電流に応じた誘導電流に基づく第2周波数検出信号とに基づいて、鋼床版に形成されたきずの深さを推定する深さ推定部と、を備える。
【0008】
また、上記探傷装置は、電磁波を送信する送信部と、送信された電磁波に基づく反射波を受信する受信部とを備える電磁波送受信部と、反射波に基づき、鋼床版との間の距離を算出する距離算出部と、算出された距離に基づいて、第1周波数検出信号および第2周波数検出信号を補正する補正部と、を備え、深さ推定部は、補正部によって補正された、第1周波数検出信号および第2周波数検出信号に基づいて、鋼床版に形成されたきずの深さを推定してもよい。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、鋼床版のきずを舗装体側から検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態に係る探傷装置の探傷対象である道路を説明する図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る探傷装置を構成する車両を鉛直下方から見た図である。
【
図3】
図3は、電磁誘導探傷法を説明する第1の図である。
【
図4】
図4は、電磁誘導探傷法を説明する第2の図である。
【
図5】
図5は、実施形態に係るプローブの上面図である。
【
図6】
図6は、実施形態に係るプローブの第1の側面図である。
【
図7】
図7は、実施形態に係るプローブの第2の側面図である。
【
図8】
図8は、実施形態に係る探傷装置の機能ブロック図である。
【
図9】
図9は、プローブと鋼床版との間の距離と、信号強度との関係を説明する図である。
【
図10】
図10は、探傷周波数、表皮深さ、および、信号強度の関係を説明する図である。
【
図11】
図11は、探傷周波数に応じた検出信号の信号強度と、きずの深さとの関係を説明する図である。
【
図12】
図12は、実施形態に係る探傷方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図13】
図13は、変形例に係るプローブ430を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0012】
図1は、本実施形態に係る探傷装置100の探傷対象である道路10を説明する図である。本実施形態の
図1、および、後述する
図2、
図5~
図7、
図11では、垂直に交わるX軸(水平方向、道路幅方向)、Y軸(水平方向、道路長方向)、Z軸(鉛直方向)を図示の通り定義している。
【0013】
図1に示すように、道路10は、鋼床版20と、舗装体30とで構成される。鋼床版20は、鋼製の部材で構成される床版である。鋼床版20は、車両による鉛直下方の荷重を支持する。鋼床版20は、デッキプレート40と、主桁ウェブ42と、垂直補鋼材44と、横リブ46と、Uリブ48とを含む。
【0014】
デッキプレート40は、略水平方向に延在する鋼板である。主桁ウェブ42は、デッキプレート40から鉛直下方に立設するとともに、道路10の延在方向に延在する鋼板である。垂直補鋼材44は、主桁ウェブ42に設けられる鋼板である。垂直補鋼材44は、上面がデッキプレート40に溶接される。横リブ46は、デッキプレート40から鉛直下方に立設するとともに、道路10の幅方向に延在する鋼板である。横リブ46は、主桁ウェブ42に接続される。Uリブ48は、鉛直断面がU字形状の鋼板である。Uリブ48は、道路10の延在方向(道路長方向)に延在するように、デッキプレート40に溶接される。
【0015】
舗装体30は、デッキプレート40上に積層される。舗装体30は、アスファルト等で構成される。
【0016】
上記舗装体30上を車両が通過することによって生じる経年疲労により、鋼床版20における、デッキプレート40とUリブ48との溶接部、および、デッキプレート40と垂直補鋼材44との溶接部等に、亀裂等のきずが生じる場合がある。亀裂は、溶接部からデッキプレート40内に向かって進展する。つまり、亀裂は、鋼床版20(デッキプレート40)の表面の直交方向に、下から上に向かって進展する。
【0017】
そこで、下記
図2に示す探傷装置100は、舗装体30上から鋼床版20におけるきずの有無を検査する。本実施形態において、探傷装置100は、車両の通過方向(
図1中、Y軸方向、道路10の延在方向、つまり、Uリブ48の延在方向)に道路10を走査しながら、きずの有無を検査する。
【0018】
[探傷装置100]
図2は、本実施形態に係る探傷装置100を構成する車両110を鉛直下方から見た図である。
【0019】
図2に示すように、探傷装置100は、車両110と、アンテナ120と、プローブ130と、エンコーダ140と、マーキング機構150と、制御ユニット200とを含む。
【0020】
車両110は、鋼床版20におけるきずの有無を検査する際、舗装体30上を走行(移動)する。車両110の下面112には、アンテナ120、プローブ130、エンコーダ140、マーキング機構150が一体的に固定される。本実施形態において、アンテナ120、プローブ130、エンコーダ140、および、マーキング機構150は、車両の走行方向の前側からこの順で設けられる。車両110内には、制御ユニット200が設けられる。
【0021】
アンテナ120は、後述する電磁波送受信部250から印加された電流に基づいて電磁波を送信したり、送信された電磁波に基づく反射波を受信したりする。電磁波は、舗装体30(例えば、アスファルト)を透過する。このため、電磁波は、鋼床版20で反射する。アンテナ120は、例えば、ビバルディ型アンテナ、クアドリッチホーンアンテナ、または、ボータイアンテナである。
【0022】
プローブ130は、電磁誘導探傷法(EMIT)用のプローブである。電磁誘導探傷法は、渦電流探傷法とも呼ばれる探傷法である。
【0023】
図3は、電磁誘導探傷法を説明する第1の図である。
図4は、電磁誘導探傷法を説明する第2の図である。なお、
図3、
図4では、励磁と検出とを同一のコイルCで行う場合を例に挙げる。
【0024】
図3に示すように、コイルCに交流電流が印加されると、交流磁場が発生する(励磁)。そうすると、電磁誘導により、鋼床版20において、交流磁場を打ち消す方向に誘導電流(渦電流U)が発生する。
【0025】
図4に示すように、鋼床版20のおけるきずがある箇所では、渦電流Uが、きずによって遮られる。そうすると、きずがある箇所では、きずがない箇所と比較して、渦電流Uに乱れが生じる。
【0026】
したがって、電磁誘導探傷法では、コイルCを通じて取得した渦電流Uの変化量をインピーダンスの変化として検出することで、きずの有無を検出する。
【0027】
図5は、本実施形態に係るプローブ130の上面図である。
図6は、本実施形態に係るプローブ130の第1の側面図である。
図7は、本実施形態に係るプローブ130の第2の側面図である。
【0028】
図5~
図7に示すように、プローブ130は、励磁コイル132と、第1検出コイル134aと、第2検出コイル134bと、第3検出コイル134cと、第4検出コイル134dと、第1相殺コイル136aと、第2相殺コイル136bとを含む。
【0029】
本実施形態において、励磁コイル132は、第1励磁コイル132aと、第2励磁コイル132bとを含む。
【0030】
第1励磁コイル132aおよび第2励磁コイル132bは、略水平方向(
図5~
図7中、Y軸方向)に近接して並置される。第2励磁コイル132bは、第1励磁コイル132aの中心軸と略平行な中心軸を有する。第2励磁コイル132bは、第1励磁コイル132aと巻き方向が逆である。例えば、
図5において、第1励磁コイル132aの巻き方向が時計回りである場合、第2励磁コイル132bの巻き方向は、反時計回りである。第2励磁コイル132bは、第1励磁コイル132aに直列に接続される。
【0031】
第1励磁コイル132aおよび第2励磁コイル132bは、鋼床版20に積層された舗装体30の表面の直交方向(
図5~
図7中、Z軸方向)と、中心軸とが略平行となるように、舗装体30上に設置される。
【0032】
第1検出コイル134aは、第1励磁コイル132aの中心軸の方向(
図5~
図7中、Z軸方向)に離隔して第1励磁コイル132aに重畳される。第1検出コイル134aは、第1励磁コイル132aの中心軸と略平行な中心軸を有する。
【0033】
第2検出コイル134bは、第1検出コイル134aの略水平方向(
図5~
図7中、Y軸方向)に並置される。第2検出コイル134bは、第2励磁コイル132bの中心軸の方向(
図5~
図7中、Z軸方向)に離隔して第2励磁コイル132bに重畳される。第2検出コイル134bは、第2励磁コイル132bの中心軸と略平行な中心軸を有する。第2検出コイル134bは、第1検出コイル134aとは逆の巻き方向を有する。例えば、
図5において、第1検出コイル134aの巻き方向が時計回りである場合、第2検出コイル134bの巻き方向は、反時計回りである。
【0034】
第1励磁コイル132aおよび第2励磁コイル132bの近接部分から第1検出コイル134aまでの距離と、近接部分から第2検出コイル134bまでの距離とは、実質的に等しい。
【0035】
第3検出コイル134cは、第1検出コイル134aと第2検出コイル134bとの間に設けられる。本実施形態において、第3検出コイル134cは、第1検出コイル134aおよび第2検出コイル134bと同一平面(
図5~
図7中、XY平面)に設けられる。第3検出コイル134cは、第2検出コイル134bの中心軸と略平行な中心軸を有する。第3検出コイル134cは、第2検出コイル134bとは逆の巻き方向を有する。例えば、
図5において、第2検出コイル134bの巻き方向が反時計回りである場合、第3検出コイル134cの巻き方向は、時計回りである。
【0036】
第4検出コイル134dは、第1検出コイル134aと第2検出コイル134bとの間であって、第3検出コイル134cの中心軸の方向(
図5~
図7中、Z軸方向)に離隔して第3検出コイル134cに重畳される。第4検出コイル134dは、第1検出コイル134aの中心軸と略平行な中心軸を有する。第4検出コイル134dは、第1検出コイル134aとは逆の巻き方向を有する。例えば、
図5において、第1検出コイル134aの巻き方向が時計回りである場合、第4検出コイル134dの巻き方向は、反時計回りである。
【0037】
つまり、第1検出コイル134aおよび第3検出コイル134cの巻き方向は同じである。第2検出コイル134bおよび第4検出コイル134dの巻き方向は同じである。第1検出コイル134aおよび第3検出コイル134cの巻き方向と、第2検出コイル134bおよび第4検出コイル134dの巻き方向とは、逆である。
【0038】
第1検出コイル134aと第4検出コイル134dとは、直列に接続される。また、第2検出コイル134bと第3検出コイル134cとは直接に接続される。
【0039】
第1相殺コイル136aは、第1検出コイル134aの中心軸の方向に離隔して第1検出コイル134aに重畳される。第1相殺コイル136aは、第1励磁コイル132aによって形成される磁界と逆方向の磁界を発生させる。
【0040】
詳しくは後述するが、第1検出コイル134aを通じて、誘導電流に基づく検出信号が検出される。しかし、第1検出コイル134aには、誘導電流に基づく電圧に加え、第1励磁コイル132aに基づく電圧が直接印加されてしまう。そこで、第1励磁コイル132aによって形成される磁界と逆方向の磁界を発生させる第1相殺コイル136aを、第1検出コイル134aに重畳する。これにより、第1相殺コイル136aは、第1励磁コイル132aから第1検出コイル134aに直接印加される電圧を相殺することができる。したがって、第1検出コイル134aには、第1励磁コイル132aに基づく電圧が低減されて印加されることになる。このため、第1検出コイル134aは、誘導電流に基づく電圧を高精度に取得することが可能となる。
【0041】
第2相殺コイル136bは、第2検出コイル134bの中心軸の方向に離隔して第2検出コイル134bに重畳される。第2相殺コイル136bは、第2励磁コイル132bによって形成される磁界と逆方向の磁界を発生させる。
【0042】
詳しくは後述するが、第2検出コイル134bを通じて、誘導電流に基づく検出信号が検出される。しかし、第2検出コイル134bには、誘導電流に基づく電圧に加え、第2励磁コイル132bに基づく電圧が直接印加されてしまう。そこで、第2励磁コイル132bによって形成される磁界と逆方向の磁界を発生させる第2相殺コイル136bを、第2検出コイル134bに重畳する。これにより、第2相殺コイル136bは、第2励磁コイル132bから第2検出コイル134bに直接印加される電圧を相殺することができる。したがって、第2検出コイル134bには、第2励磁コイル132bに基づく電圧が低減されて印加されることになる。このため、第2検出コイル134bは、誘導電流に基づく電圧を高精度に取得することが可能となる。
【0043】
第1検出コイル134a、第2検出コイル134b、第3検出コイル134c、第4検出コイル134d、第1相殺コイル136a、および、第2相殺コイル136bは、鋼床版20に積層された舗装体30の表面の直交方向(
図5~
図7中、Z軸方向)と、中心軸とが略平行となるように、舗装体30上に設置される。
【0044】
図2に戻って説明すると、エンコーダ140は、プローブ130が移動した経路の距離を示す経路情報を取得する。エンコーダ140によって取得された経路情報は、制御ユニット200に出力される。
【0045】
マーキング機構150は、制御ユニット200の制御指令に応じて、舗装体30に指標(マーク)を付す。マーキング機構150は、例えば、チョークと、チョークを駆動するアクチュエータとを含む。
【0046】
図8は、本実施形態に係る探傷装置100の機能ブロック図である。
図8に示すように、制御ユニット200は、励磁部210と、検出部230と、A/D変換器240と、電磁波送受信部250と、中央制御部260と、メモリ280と、表示装置290とを含む。
【0047】
励磁部210は、第1周波数の交流電流を、第1励磁コイル132aおよび第2励磁コイル132bに実質的に同時に印加し、電磁誘導により鋼床版20に誘導電流を発生させる。また、励磁部210は、第1周波数よりも低周波数の第2周波数の交流電流を、第1励磁コイル132aおよび第2励磁コイル132bに実質的に同時に印加し、電磁誘導により鋼床版20に誘導電流を発生させる。
【0048】
第1周波数および第2周波数は、模擬試験体等を用いて事前に実施した探傷試験の結果に基づいて決定される。また、第1周波数および第2周波数は、電磁気シミュレーション等を用いて解析的に決定されてもよい。さらに、検出対象とするきずの性状を加味して、第1周波数および第2周波数を決定してもよい。なお、きずの性状は、例えば、きずの深さ(亀裂の深さ)、きずの長さ、きずが貫通しているか否か等である。例えば、舗装体30からの距離が遠い位置にあるきずの検出を試みる場合、周波数を小さくする。また、舗装体30からの距離が近い位置にあるきずの検出を試みる場合、検出感度の高い周波数(例えば、700Hz程度)とする。
【0049】
以下、第1周波数の交流電流を「高周波交流電流」と称する場合がある。また、第2周波数の交流電流を「低周波交流電流」と称する場合がある。本実施形態において、励磁部210は、ファンクションジェネレータ212と、アンプ214とを含む。
【0050】
ファンクションジェネレータ212(
図8中「F/G」で示す)は、第1周波数の交流信号と、第2周波数の交流信号とを異なるタイミングで発生させる。ファンクションジェネレータ212による第1周波数の交流信号および第2周波数の交流信号は、アンプ214および検出部230に出力される。また、ファンクションジェネレータ212による第1周波数の交流信号に基づく交流電流(高周波交流電流)は、第1相殺コイル136aおよび第2相殺コイル136bに印加される。同様に、ファンクションジェネレータ212による第2周波数の交流信号に基づく交流電流(低周波交流電流)は、第1相殺コイル136aおよび第2相殺コイル136bに印加される。
【0051】
アンプ214(
図8中「B/P」で示す)は、ファンクションジェネレータ212による第1周波数の交流信号を増幅し、第1励磁コイル132aおよび第2励磁コイル132bに高周波交流電流を印加する。そうすると、電磁誘導により鋼床版20に誘導電流が発生する。同様に、アンプ214は、ファンクションジェネレータ212による第2周波数の交流信号を増幅し、第1励磁コイル132aおよび第2励磁コイル132bに低周波交流電流を印加する。そうすると、電磁誘導により鋼床版20に誘導電流が発生する。上記したように、第1励磁コイル132aの巻き方向と第2励磁コイル132bの巻き方向とは逆であるため、第1励磁コイル132aおよび第2励磁コイル132bの近接部分では、同方向に電流が印加される。アンプ214は、例えば、バイポーラ電源である。
【0052】
検出部230は、例えば、ロックインアンプ(
図8中「L/I」で示す)で構成される。検出部230は、ファンクションジェネレータ212から出力された交流信号(リファレンス信号)に基づき、第1検出コイル134aによって検出された交流電圧から、第1励磁コイル132aおよび第2励磁コイル132bに印加した電流の周波数成分(誘導電流に基づく検出信号)を抽出する。以下、第1検出コイル134aを通じて検出された検出信号を第1の検出信号と称する。なお、検出部230は、高周波交流電流に応じた誘導電流に基づく第1の検出信号(第1周波数検出信号)と、低周波交流電流に応じた誘導電流に基づく第1の検出信号(第2周波数検出信号)とを検出する。以下、高周波交流電流に応じた誘導電流に基づく第1の検出信号を「第1の高周波検出信号」という場合がある。また、低周波交流電流に応じた誘導電流に基づく第1の検出信号を「第1の低周波検出信号」という場合がある。
【0053】
同様に、検出部230は、リファレンス信号に基づき、第2検出コイル134bの交流電圧から、第1励磁コイル132aおよび第2励磁コイル132bに印加した電流の周波数成分(誘導電流に基づく検出信号)を抽出する。以下、第2検出コイル134bを通じて検出された検出信号を第2の検出信号と称する。なお、検出部230は、高周波交流電流に応じた誘導電流に基づく第2の検出信号(第1周波数検出信号)と、低周波交流電流に応じた誘導電流に基づく第2の検出信号(第2周波数検出信号)とを検出する。以下、高周波交流電流に応じた誘導電流に基づく第2の検出信号を「第2の高周波検出信号」という場合がある。また、低周波交流電流に応じた誘導電流に基づく第2の検出信号を「第2の低周波検出信号」という場合がある。
【0054】
また、検出部230は、リファレンス信号に基づき、第3検出コイル134cの交流電圧から、第1励磁コイル132aおよび第2励磁コイル132bに印加した電流の周波数成分(誘導電流に基づく検出信号)を抽出する。以下、第3検出コイル134cを通じて検出された検出信号を第3の検出信号と称する。なお、検出部230は、高周波交流電流に応じた誘導電流に基づく第3の検出信号(第1周波数検出信号)と、低周波交流電流に応じた誘導電流に基づく第3の検出信号(第2周波数検出信号)とを検出する。以下、高周波交流電流に応じた誘導電流に基づく第3の検出信号を「第3の高周波検出信号」という場合がある。また、低周波交流電流に応じた誘導電流に基づく第3の検出信号を「第3の低周波検出信号」という場合がある。
【0055】
また、検出部230は、リファレンス信号に基づき、第4検出コイル134dの交流電圧から、第1励磁コイル132aおよび第2励磁コイル132bに印加した電流の周波数成分(誘導電流に基づく検出信号)を抽出する。以下、第4検出コイル134dを通じて検出された検出信号を第4の検出信号と称する。なお、検出部230は、高周波交流電流に応じた誘導電流に基づく第4の検出信号(第1周波数検出信号)と、低周波交流電流に応じた誘導電流に基づく第4の検出信号(第2周波数検出信号)とを検出する。以下、高周波交流電流に応じた誘導電流に基づく第4の検出信号を「第4の高周波検出信号」という場合がある。また、低周波交流電流に応じた誘導電流に基づく第4の検出信号を「第4の低周波検出信号」という場合がある。
【0056】
A/D変換器240(
図8中「A/D」で示す)は、検出部230の出力値(アナログ信号)をデジタル信号に変換する。
【0057】
電磁波送受信部250は、例えば、周波数解析装置(
図8中「N/A」で示す)で構成される。電磁波送受信部250は、アンテナ120に電流を印加し、アンテナ120を通じて、舗装体30の表面に電磁波を送信する送信部として機能する。また、電磁波送受信部250は、アンテナ120を通じて、鋼床版20において反射された反射波(反射電磁波)を受信する受信部として機能する。そして、電磁波送受信部250は、反射波に基づく信号を解析し、反射波の周波数成分(スペクトル)を算出する。
【0058】
中央制御部260は、CPU(中央処理装置)を含む半導体集積回路で構成される。中央制御部260は、ROMからCPUを動作させるためのプログラムやパラメータ等を読み出す。中央制御部260は、ワークエリアとしてのRAMや他の電子回路と協働して探傷装置100全体を管理および制御する。
【0059】
メモリ280は、ROM、RAM、フラッシュメモリ、HDD等で構成される。メモリ280は、中央制御部260に用いられるプログラムや各種データを記憶する。
【0060】
表示装置290は、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等で構成される。
【0061】
検出部230によって得られる、誘導電流に基づく検出信号は、きずに基づくきず信号(交流磁場変化)SFと、プローブ130と鋼床版20との間の距離に基づくリフトオフ信号SLとを含む。
【0062】
きず信号SFは、下記式(1)で示される。リフトオフ信号SLは下記式(2)で示される。
SF=AFexp(iωt) …式(1)
SL=ALexp(iφ) …式(2)
上記式(1)において、AFは、きず信号の振幅を示す。iは、複素定数を示す。ωは、周波数を示す。tは、時間を示す。
上記式(2)において、ALは、リフトオフ信号の振幅を示す。iは、複素定数を示す。φは、初期位相を示す。
【0063】
探傷装置100によって道路10を走査(車両110が道路10を移動)する際に、車両110を構成する1または複数の車輪114が、舗装体30に生じた轍等の凹部に嵌ったり、舗装体30に生じた凸部に乗り上げたりして、車両110の下面112と舗装体30の表面との間の距離、すなわち、プローブ130と舗装体30の表面と間の距離が変動する場合がある。この場合、仮に、舗装体30の厚みが一定であったとしても、舗装体30の表面とプローブ130との間の距離が変動し、プローブ130と鋼床版20との間の距離が変動する。また、車両の走行によって舗装体30が削れたり、舗装体30の補修によって舗装体30の厚みが増加したりして、舗装体30の厚みが変動すると、仮に、舗装体30の表面とプローブ130との間の距離が一定であったとしても、プローブ130と鋼床版20との間の距離が変動する。
【0064】
きず信号SFは、リフトオフ信号SLと異なる位相で検出されるが、プローブ130と鋼床版20との間の距離が大きくなるに従い、きず信号の振幅AFが低下し、検出信号からきず信号SFを識別することができなくなってしまう。
【0065】
そこで、本実施形態に係る探傷装置100は、4つの検出コイル(第1検出コイル134a、第2検出コイル134b、第3検出コイル134c、第4検出コイル134d)を備え、それぞれの検出信号を用いて、リフトオフ信号を取り除く。
【0066】
本実施形態において、中央制御部260は、差分算出部262と、距離算出部264と、補正部266、深さ推定部268、信号保存部270として機能する。
【0067】
差分算出部262は、第1の高周波検出信号と第4の高周波検出信号の差分DaHと、第2の高周波検出信号と第3の高周波検出信号との差分DbHとの差分DcH(=|DaH-DbH|)を算出する。同様に、差分算出部262は、第1の低周波検出信号と第4の低周波検出信号の差分DaLと、第2の低周波検出信号と第3の低周波検出信号との差分DbLとの差分DcL(=|DaL-DbL|)を算出する。
【0068】
上記したように、第1検出コイル134aと第4検出コイル134dとは、巻き方向が逆である。したがって、第1の検出信号および第4の検出信号には、同じリフトオフ信号が反対向きに含まれることになる。このため、第1の検出信号と第4の検出信号の差分Daを算出すると、リフトオフ信号が相殺され、リフトオフ信号以外の信号(きず信号)を抽出することが可能となる。
【0069】
同様に、第2検出コイル134bと第3検出コイル134cとは、巻き方向が逆である。したがって、第2の検出信号および第3の検出信号には、同じリフトオフ信号が反対向きに含まれることになる。このため、第2の検出信号と第3の検出信号の差分Dbを算出すると、リフトオフ信号が相殺され、リフトオフ信号以外の信号(きず信号)を抽出することが可能となる。
【0070】
距離算出部264は、電磁波送受信部250によって算出されたスペクトルにおけるピークの時間に基づき、プローブ130と鋼床版20との間の距離を算出する。
【0071】
補正部266は、距離算出部264によって算出された距離に基づいて、差分算出部262によって算出された差分DcHおよび差分DcLを補正する。
【0072】
図9は、プローブ130と鋼床版20との間の距離と、信号強度との関係を説明する図である。
図9中、縦軸は、信号強度(振幅)を示す。
図9中、横軸は、プローブ130と鋼床版20との間の距離(リフトオフ)[mm]を示す。
【0073】
きずに基づく検出信号の信号強度は、プローブ130と鋼床版20との間の距離に応じて変化する。具体的に説明すると、
図9に示すように、きずに基づく検出信号の信号強度は、プローブ130と鋼床版20との間の距離が大きくなるに従って小さくなる。
【0074】
そこで、本実施形態において、補正部266は、距離算出部264によって算出された距離に応じた補正係数を差分DcHおよび差分DcLに乗算する。補正係数は、距離算出部264によって算出された距離が大きいほど小さい値となる。
【0075】
深さ推定部268は、補正部266によって補正された差分DcHおよび差分DcLに基づいて、鋼床版20に形成されたきずの深さを推定する。
【0076】
本実施形態に係る探傷装置100で用いられる電磁誘導探傷法では、鋼床版20の透磁率および電気抵抗率により、鋼床版20の内部に入るほど誘導電流によって磁場が打ち消されていく。したがって、励磁部210によって印加される交流電流の周波数が高くなるほど鋼床版20の内部に磁束が到達せず、鋼床版20の表面に渦電流が集中する。ここで、電流密度が1/eとなる深さを表皮深さdといい、下記式(A)で表される。
d=√(2ρ/ωμ) …式(A)
ω=2πf …式(B)
上記式(A)において、dは、表皮深さである。ρは、電気抵抗率である。μは、絶対透磁率である。上記式(B)において、fは、励磁部210によって印加される交流電流の周波数である。以下、励磁部210によって印加される交流電流の周波数を「探傷周波数」という場合がある。
【0077】
図10は、探傷周波数、表皮深さ、および、信号強度の関係を説明する図である。
図10中、左の縦軸は、表皮深さ[mm]を示す。
図10中、右の縦軸は、信号強度(振幅)を示す。
図10中、横軸は、探傷周波数[Hz]を示す。
【0078】
上記したように、探傷周波数が高い場合、渦電流Uの大部分は、鋼床版20の表面に集中する。このため、
図10に示すように、探傷周波数が高い場合、亀裂等のきずに基づく検出信号の信号強度は高いものの、表皮深さdは浅い(短い)。つまり、探傷周波数が高い場合、きずに基づく検出信号の信号強度は高いが、きずの深さが長くないと、きずを検出できない。なお、きずの深さとは、きずの進展方向における、基端から先端までの長さ(例えば、亀裂の鉛直方向の長さ)である。
【0079】
一方、探傷周波数が低い場合、鋼床版20の内部にまで磁束が到達する。このため、
図10に示すように、探傷周波数が低い場合、表皮深さdは深い(長い)ものの、亀裂等のきずに基づく検出信号の信号強度は小さい。つまり、探傷周波数が低い場合、きずの深さが短くてもきずを検出できるが、検出信号の信号強度は小さい。
【0080】
図11は、探傷周波数に応じた検出信号の信号強度と、きずの深さとの関係を説明する図である。
図11中、縦軸は、信号強度を示す。
図11中、横軸は、きずの深さを示す。また、
図11中、黒丸は、探傷周波数が高い場合の検出信号の信号強度を示す。
図11中、白丸は、探傷周波数が低い場合の検出信号の信号強度を示す。
【0081】
図11に示すように、探傷周波数が高い場合、亀裂等のきずに基づく検出信号の信号強度は、探傷周波数が低い場合よりも高い。一方、探傷周波数が高い場合の検出信号の検出下限におけるきずの深さHf-Dは、探傷周波数が低い場合の検出信号の検出下限におけるきずの深さLf-Dよりも長い。つまり、探傷周波数が低い場合、探傷周波数が高い場合よりも、きずの深さが短いきずを検出できる。
【0082】
そこで、深さ推定部268は、高周波交流電流に基づく差分DcH(補正値)、および、低周波交流電流に基づく差分DcL(補正値)に基づいて、鋼床版20に形成されたきずの深さを推定する。本実施形態において、深さ推定部268は、下記式(C)を用いてきずの深さDを算出する。
D={log(DcL´/DcH´)+α}/β …式(C)
上記式(C)において、Dは、きずの深さである。DcH´は、補正部266によって補正された差分DcHである。DcL´は、補正部266によって補正された差分DcLである。αおよびβは、第1周波数、および、第2周波数に基づいて決定される値である。αおよびβは、例えば、模擬試験体等を用いて事前に実施した探傷試験の結果(実測値(マスターカーブ))から算出される。なお、αおよびβは、鋼床版20(デッキプレート40)の材質等の性状、舗装体30の厚み等によって変動すると考えられる。
【0083】
そして、深さ推定部268は、推定したきずの深さDが、閾値以上である場合に、きずがあると判定する。閾値は、鋼床版20の残存強度に基づいて決定される。そして、深さ推定部268は、マーキング機構150を駆動して、舗装体30にマークを付す。
【0084】
一方、深さ推定部268は、推定したきずの深さDが、閾値未満である場合に、きずがないと判定する。
【0085】
信号保存部270は、第1の高周波検出信号、第2の高周波検出信号、第3の高周波検出信号、第4の高周波検出信号、第1の低周波検出信号、第2の低周波検出信号、第3の低周波検出信号、第4の低周波検出信号、および、プローブ130と鋼床版20との間の距離を、エンコーダ140によって取得された経路情報に関連付けて、メモリ280に記憶する。
【0086】
[探傷方法]
続いて、上記探傷装置100を用いた、道路10を探傷する探傷方法について説明する。
図12は、本実施形態に係る探傷方法の処理の流れを示すフローチャートである。
図12に示すように、本実施形態に係る探傷方法は、終了判定工程S110、信号取得工程S120、差分算出工程S130、距離算出工程S140、補正工程S150、深さ推定工程S160、判定工程S170、マーク工程S180、保存工程S190、移動工程S200、残存強度推定工程S210を含む。以下、各工程について説明する。
【0087】
[終了判定工程S110]
中央制御部260は、所定の探傷範囲の走査が終了したか否かを判定する。その結果、探傷範囲の走査が終了していないと判定した場合(S110におけるNO)、中央制御部260は、信号取得工程S120に処理を移す。一方、探傷範囲の走査が終了したと判定した場合(S110におけるYES)、中央制御部260は、残存強度推定工程S210に処理を移す。
【0088】
[信号取得工程S120]
励磁部210は、第1励磁コイル132aおよび第2励磁コイル132bに、高周波交流電流を実質的に同時に印加する。励磁部210は、第1励磁コイル132aおよび第2励磁コイル132bに、低周波交流電流を実質的に同時に印加する。また、励磁部210は、高周波交流電流と低周波交流電流とを異なるタイミングで印加する。検出部230は、第1の高周波検出信号、第2の高周波検出信号、第3の高周波検出信号、第4の高周波検出信号、第1の低周波検出信号、第2の低周波検出信号、第3の低周波検出信号、および、第4の低周波検出信号を取得し、A/D変換器240は、これらの検出信号をデジタル信号に変換する。
【0089】
電磁波送受信部250は、アンテナ120に電流を印加し、アンテナ120を通じて、舗装体30の表面に電磁波を送信する。そして、電磁波送受信部250は、アンテナ120を通じて、鋼床版20において反射された反射波を受信する。電磁波送受信部250は、反射波に基づく信号を解析し、スペクトルを算出する。
【0090】
また、エンコーダ140は、経路情報を取得し、制御ユニット200に出力する。
【0091】
[差分算出工程S130]
差分算出部262は、信号取得工程S120において取得された、第1の高周波検出信号、第2の高周波検出信号、第3の高周波検出信号、および、第4の高周波検出信号に基づき、第1の高周波検出信号と第4の高周波検出信号の差分DaHと、第2の高周波検出信号と第3の高周波検出信号との差分DbHとの差分DcH(=|DaH-DbH|)を算出する。同様に、差分算出部262は、信号取得工程S120において取得された、第1の低周波検出信号、第2の低周波検出信号、第3の低周波検出信号、および、第4の低周波検出信号に基づき、第1の低周波検出信号と第4の低周波検出信号の差分DaLと、第2の低周波検出信号と第3の低周波検出信号との差分DbLとの差分DcL(=|DaL-DbL|)を算出する。
【0092】
[距離算出工程S140]
距離算出部264は、信号取得工程S120において取得されたスペクトルに基づき、プローブ130と鋼床版20との間の距離を算出する。
【0093】
[補正工程S150]
補正部266は、距離算出工程S140において算出された距離に基づいて、差分算出工程S130において算出された差分DcHおよび差分DcLを補正する。
【0094】
[深さ推定工程S160]
深さ推定部268は、補正工程S150によって補正された差分DcH´(補正値)および差分DcL´(補正値)に基づいて、鋼床版20に形成されたきずの深さDを推定する。
【0095】
[判定工程S170]
深さ推定部268は、深さ推定工程S160において推定したきずの深さDが、閾値以上であるか否かを判定する。その結果、きずの深さDが閾値以上であると判定した場合(S170におけるYES)、深さ推定部268は、マーク工程S180に処理を移す。一方、きずの深さDが閾値以上ではない(S170におけるNO)、つまり、きずの深さDが閾値未満であると判定した場合、深さ推定部268は、保存工程S190に処理を移す。
【0096】
[マーク工程S180]
深さ推定部268は、マーキング機構150を駆動して、舗装体30にマークを付す。
【0097】
[保存工程S190]
信号保存部270は、第1の高周波検出信号、第2の高周波検出信号、第3の高周波検出信号、第4の高周波検出信号、第1の低周波検出信号、第2の低周波検出信号、第3の低周波検出信号、第4の低周波検出信号、および、プローブ130と鋼床版20との間の距離を、エンコーダ140によって取得された経路情報に関連付けて、メモリ280に記憶する。
【0098】
[移動工程S200]
探傷装置100を構成する車両110は、今回、信号取得工程S120を実行した第1位置から第2位置へ、所定時間以内に移動する。第2位置は、車両110の移動方向(
図2中、Y軸方向)の位置が、第1位置とは異なる位置である。
【0099】
[残存強度推定工程S210]
深さ推定部268は、深さ推定工程S160において推定されたきずの深さD(
図1中、Z軸方向の長さ)と、きずの長さ(
図1中、XY平面上の長さ)とに基づき、鋼床版20におけるきずの周囲の残存強度を推定する。
【0100】
以上説明したように、本実施形態に係る探傷装置100は、アンテナ120、プローブ130、および、制御ユニット200を備える。したがって、本実施形態に係る探傷装置100は、鋼床版20のきずを舗装体30側から検出することが可能となる。
【0101】
また、上記したように、本実施形態に係る探傷装置100は、第1検出コイル134a、第4検出コイル134d、および、差分算出部262を備える。第1検出コイル134aと、第4検出コイル134dとは、逆の巻き方向を有する。これにより、差分算出部262によって算出される、差分DaH、DaLから、プローブ130と鋼床版20との間の距離等の環境ノイズが低減された信号を得ることができる。
【0102】
同様に、本実施形態に係る探傷装置100は、第2検出コイル134b、第3検出コイル134c、および、差分算出部262を備える。第2検出コイル134bと、第3検出コイル134cとは、逆の巻き方向を有する。これにより、差分算出部262によって算出される、差分DbH、DbLから、プローブ130と鋼床版20との間の距離等の環境ノイズが低減された信号を得ることができる。
【0103】
さらに、上記したように、差分算出部262は、差分DaHと差分DbHとの差分DcH、および、差分DaLと差分DbLとの差分DcLを算出する。これにより、差分算出部262は、プローブ130と鋼床版20との間の距離等の環境ノイズがさらに低減された信号を得ることができる。
【0104】
このように、本実施形態に係る探傷装置100は、プローブ130と鋼床版20との間の距離等の環境ノイズが低減された信号を得ることができるため、舗装体30を取り除くことなく、きずを検出することが可能となる。
【0105】
また、上記したように、本実施形態に係る探傷装置100は、第1相殺コイル136aを備える。これにより、第1検出コイル134aをゼロ磁場環境下におくことができる。したがって、第1検出コイル134aに対する、第1励磁コイル132aによる磁界の影響を削減することが可能となる。
【0106】
同様に、本実施形態に係る探傷装置100は、第2相殺コイル136bを備える。これにより、第2検出コイル134bをゼロ磁場環境下におくことができる。したがって、第2検出コイル134bに対する、第2励磁コイル132bによる磁界の影響を削減することが可能となる。
【0107】
なお、第4検出コイル134dは、第3検出コイル134cに重畳され、また、巻き方向が逆である。このため、第3検出コイル134cおよび第4検出コイル134dは、ゼロ磁場環境となる。したがって、第3検出コイル134cおよび第4検出コイル134dに対する、第1励磁コイル132aおよび第2励磁コイル132bによる磁界の影響を削減することが可能となる。
【0108】
また、上記したように、探傷装置100は、補正部266を備える。これにより、補正部266は、プローブ130と鋼床版20の表面との間の距離に応じた信号強度の変動を補正することができる。したがって、プローブ130と鋼床版20の表面との間の距離が変動したとしても、深さ推定部268は、きずの深さDを高精度に推定することができる。
【0109】
また、上記したように、深さ推定部268は、高周波交流電流に基づく差分DcH、および、低周波交流電流に基づく差分DcLに基づいて、鋼床版20に形成されたきずの深さを推定することができる。
【0110】
溶接部からデッキプレート40内に向かって進展する亀裂は、デッキプレート40を貫通した際、降雨時などの漏水により発見される。つまり、溶接部からデッキプレート40内に向かって進展する亀裂は、デッキプレート40を貫通するまで発見することができない。デッキプレート40を貫通する亀裂は、舗装体30を陥没させてしまうおそれがある。
【0111】
そこで、深さ推定部268は、亀裂等のきずがデッキプレート40を貫通する前に、きずを検出して、きずの深さDおよび長さを推定する。そして、深さ推定部268は、きずの深さDおよび長さに基づき、鋼床版20におけるきずの周囲の残存強度を推定する。これにより、鋼床版20における残存強度が低い箇所を、優先して補修させることができる。
【0112】
また、上記したように、本実施形態に係る探傷装置100は、マーキング機構150を備える。これにより、ユーザに、きずの位置を視覚的に把握させることが可能となる。
【0113】
また、上記したように、探傷装置100を用いた探傷方法は、終了判定工程S110から移動工程S200までを繰り返す。つまり、探傷装置100は、車両110の走行に応じて、時分割で、きずの有無を検出する。これにより、探傷装置100は、車両110が走行した、道路10上の領域すべてを網羅的に探傷することができる。
【0114】
以上、添付図面を参照しながら実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0115】
例えば、上述した実施形態において、プローブ130は、第1検出コイル134a、第2検出コイル134b、第3検出コイル134c、第4検出コイル134d、第1相殺コイル136a、および、第2相殺コイル136bをそれぞれ1つずつ備える場合を例に挙げた。しかし、プローブ430は、これらを複数備えていてもよい。
【0116】
図13は、変形例に係るプローブ430を説明する図である。
図13に示すように、プローブ430は、第1励磁コイル132aと、第2励磁コイル132bと、複数のコイルユニット440とを備える。
【0117】
コイルユニット440は、第1検出コイル134a、第2検出コイル134b、第3検出コイル134c、第4検出コイル134d、第1相殺コイル136a、および、第2相殺コイル136bを備える。コイルユニット440における第1検出コイル134a、第2検出コイル134b、第3検出コイル134c、第4検出コイル134d、第1相殺コイル136a、および、第2相殺コイル136bの位置関係は、上記実施形態の位置関係と実質的に等しい。
【0118】
コイルユニット440は、
図13中、X軸方向に並列して設けられる。つまり、コイルユニット440は、道路長方向(
図13中、Y軸方向)と直交する方向に設けられる。
【0119】
複数のコイルユニット440分のX軸方向の長さを有する、第1検出コイル134a、第2検出コイル134b、第3検出コイル134c、第4検出コイル134d、第1相殺コイル136a、および、第2相殺コイル136bを1つ備える場合、コイル面積に対する平均的な交流電圧が得られることになり、きずの検出下限が大きくなってしまう。
【0120】
そこで、プローブ430が複数のコイルユニット440を備えることにより、きずの検出限界を向上させることが可能となる。
【0121】
また、上記実施形態において、第1相殺コイル136aが、第1検出コイル134aの鉛直上方に設けられる場合を例に挙げた。しかし、第1相殺コイル136aは、第1検出コイル134aの鉛直方向に設けられればよい。したがって、第1相殺コイル136aは、第1検出コイル134aの鉛直下方に設けられてもよい。
【0122】
同様に、第2相殺コイル136bが、第2検出コイル134bの鉛直上方に設けられる場合を例に挙げた。しかし、第2相殺コイル136bは、第2検出コイル134bの鉛直方向に設けられればよい。したがって、第2相殺コイル136bは、第2検出コイル134bの鉛直下方に設けられてもよい。
【0123】
また、上記実施形態において、探傷装置100が、第1相殺コイル136aおよび第2相殺コイル136bを備える場合を例に挙げた。しかし、探傷装置100は、第1相殺コイル136aおよび第2相殺コイル136bを備えずともよい。
【0124】
また、上記実施形態において、探傷装置100が、第3検出コイル134cおよび第4検出コイル134dを備える場合を例に挙げた。しかし、探傷装置100は、第3検出コイル134cおよび第4検出コイル134dを備えずともよい。この場合、差分算出部262は、第1検出コイル134aを通じて検出された第1の検出信号と、第2検出コイル134bを通じて検出された第2の検出信号との差分を算出する。そして、補正部266は、第1の検出信号と第2の検出信号との差分を補正する。そして、深さ推定部268は、第1の検出信号と第2の検出信号との差分に基づいて、鋼床版20に形成されたきずの深さを推定する。また、この場合、第1検出コイル134aおよび第2検出コイル134bに代えて、磁気センサを備えてもよい。
【0125】
また、上記実施形態において、励磁コイル132が、第1励磁コイル132aおよび第2励磁コイル132bで構成される場合を例に挙げた。しかし、励磁コイル132は、1つのコイルであってもよい。
【0126】
同様に、上記実施形態において、プローブ130は、第1検出コイル134a、第2検出コイル134b、第3検出コイル134c、第4検出コイル134dを備える場合を例に挙げた。しかし、プローブ130は、1つの検出コイルを備えていればよい。この場合、差分算出部262を省略することができる。したがって、この場合、深さ推定部268は、1つの検出コイルによって取得された、第1周波数の交流電流に応じた誘導電流に基づく第1周波数検出信号と、第2周波数の交流電流に応じた誘導電流に基づく第2周波数検出信号とに基づいて、鋼床版20に形成されたきずの深さを推定する。また、この場合、検出コイルに代えて、磁気センサを備えてもよい。
【0127】
また、上記実施形態において、補正部266が、差分算出部262によって算出された差分DcHおよび差分DcLを補正する場合を例に挙げた。しかし、補正部266は、距離算出部264によって算出された距離に基づいて、第1の高周波検出信号、第2の高周波検出信号、第3の高周波検出信号、第4の高周波検出信号、第1の低周波検出信号、第2の低周波検出信号、第3の低周波検出信号、第4の低周波検出信号を補正してもよい。この場合、差分算出部262は、補正後の第1の高周波検出信号、第2の高周波検出信号、第3の高周波検出信号、第4の高周波検出信号、第1の低周波検出信号、第2の低周波検出信号、第3の低周波検出信号、第4の低周波検出信号に基づき、差分DcHおよび差分DcLを算出する。
【0128】
また、上記実施形態において、探傷装置100が、電磁波送受信部250、距離算出部264、および、補正部266を備える構成を例に挙げた。しかし、プローブ130から鋼床版20までの距離の変動が所定範囲内である場合等のプローブ130から鋼床版20までの距離による信号強度の変動が無視できる程度に小さい場合には、探傷装置100は、電磁波送受信部250、距離算出部264、および、補正部266を省略してもよい。
【0129】
また、上記実施形態において、ファンクションジェネレータ212が、第1周波数の交流信号と、第2周波数の交流信号とを異なるタイミングで発生させる場合を例に挙げた。しかし、ファンクションジェネレータ212は、第1周波数の交流信号と、第2周波数の交流信号とを並行して、合成波として発生させてもよい。
【0130】
また、上記実施形態において、検出部230がロックインアンプで構成される場合を例に挙げた。しかし、検出部230は、第1の高周波検出信号、第2の高周波検出信号、第3の高周波検出信号、第4の高周波検出信号、第1の低周波検出信号、第2の低周波検出信号、第3の低周波検出信号、第4の低周波検出信号を検出できれば構成に限定はない。例えば、検出部230は、リファレンス信号および検出コイルの入力値(交流電圧)から、解析的に、第1周波数の信号強度および第2周波数の信号強度を算出してもよい(デジタルロックイン)。また、検出部230は、リファレンス信号から第1周波数および第2周波数を解析し、検出コイルの入力値(交流電圧)をフーリエ変換することで、第1周波数および第2周波数の検出信号を取り出してもよい(デジタルロックイン)。また、検出部230は、リファレンス信号の位相と強度を調整し、検出コイルの入力値(交流電圧)と一致するように調整した後、その位相の強度を信号強度としてもよい(デジタルロックイン)。
【0131】
また、上記実施形態において、制御ユニット200が、車両110に設けられる場合を例に挙げた。しかし、制御ユニット200は、車両110と離隔した場所に設けられていてもよい。
【0132】
本開示は、例えば、持続可能な開発目標(SDGs)の目標12「持続可能な消費と生産のパターンを確保する」に貢献することができる。
【符号の説明】
【0133】
100 探傷装置
132 励磁コイル
210 励磁部
230 検出部
250 電磁波送受信部
264 距離算出部
266 補正部
268 深さ推定部