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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023003106
(43)【公開日】2023-01-11
(54)【発明の名称】複層シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20221228BHJP
   B32B 15/082 20060101ALI20221228BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20221228BHJP
【FI】
B32B15/08
B32B15/082 B
B32B15/08 J
H05K1/03 610H
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021104072
(22)【出願日】2021-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】392030184
【氏名又は名称】エステック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】514045843
【氏名又は名称】APC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081673
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100141483
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 生吾
(72)【発明者】
【氏名】永島 正嗣
(72)【発明者】
【氏名】崔 源煥
(72)【発明者】
【氏名】與倉 三好
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AB01B
4F100AB33B
4F100AK17A
4F100AK41A
4F100AK57A
4F100AK80A
4F100AT00A
4F100BA02
4F100BA07
4F100EJ60A
4F100EJ61A
4F100GB43
4F100JG05
4F100JK06
4F100JK14A
4F100YY00A
(57)【要約】
【課題】基材と金属箔とを生産性を低下させることなく高い強度で接合し、その伝送損失が小さく、その構成も簡略化された複層シート及びその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】シート状に成形され且つ樹脂が含有された基材と、前記基材に重ね合わせるようにして接合され且つ導電性を有する金属箔とを備え、前記金属箔は、プラズマ処理により前記基材の表面に形成した官能基によって、該基材の融点以下の温度で該基材に接合された。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状に成形され且つ樹脂が含有された基材と、
前記基材に重ね合わせるようにして接合され且つ導電性を有する金属箔とを備え、
前記金属箔は、プラズマ処理により前記基材の表面に形成した官能基によって、該基材の融点以下の温度で該基材に接合された
ことを特徴とする複層シート。
【請求項2】
前記基材の前記金属箔を接合させた面の面粗度が0.8μm以下である
請求項1に記載の複層シート。
【請求項3】
前記樹脂は、フッ素樹脂、液晶ポリマー又はポリフェニレンサルファイドである
請求項1又は2の何れかに記載の複層シート。
【請求項4】
前記フッ素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン又はパーフルオロアルコキシアルカンである
請求項3に記載の複層シート。
【請求項5】
導電性を有する金属箔を、樹脂が含有され且つシート状に成形された基材に、重ね合わされるようにして接合する複層シートの製造方法であって、
前記基材の表面に官能基を形成するプラズマ処理を行うプラズマ処理工程と、
前記金属箔を、前記基材の融点以下の温度で、該基材の官能基を形成した前記面に接合させる接合工程とを有する
ことを特徴とする複層シートの製造方法。
【請求項6】
前記プラズマ処理工程では、官能基を形成する面の面粗度が0.8μmよりも大きくならないように前記プラズマ処理を行う
請求項5に記載の複層シートの製造方法。
【請求項7】
前記プラズマ処理工程では、前記プラズマ処理を行う際のE値を50~10000W・min/mの範囲に設定する
請求項6に記載の複層シートの製造方法。
【請求項8】
前記プラズマ処理は減圧プラズマ処理である
請求項5乃至7の何れかに記載の複層シートの製造方法。
【請求項9】
前記減圧プラズマ処理の際には酸素及びアルゴンが導入される
請求項8に記載の複層シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナの回路やその他の電子回路に用いる複層シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シート状に成形され且つ樹脂が含有された基材と、該基材に接合され且つ導電性を有する金属箔とを備えた複層シートが従来公知である。この複層シートは、金属箔にエッチング等のパターン加工を行って基材上に回路を形成する。基材上に回路の形成された複層シートは回路基板として機能する。
【0003】
ところで、近年、高周波の電波を用いた高速通信が普及している。MHz帯域からGHz帯域の高周波帯域では、伝送損失も大きくなる。このため、電気的な特定に優れた回路基板(複層シート)を用いる必要がある。具体的には、液晶ポリマーやフッ素樹脂等の誘電率が低い材料によって基材を構成する必要がある。
【0004】
ただし、液晶ポリマーやフッ素樹脂等の誘電率が低い材料を基材に用いた場合、その吸水性が低さ等に起因して、該基材への接着性が低下するという問題がある。
【0005】
この問題を改善するため、金属箔を基材に接着させる接着層と、該基材との間に、中間層を介在させ、この中間層の機能によって接着性を向上させた複層シート及びその製造方法が開発され、公知になっている(例えば、特許文献1,2を参照。)。
【0006】
しかし、中間層(特許文献1では「中間層」、特許文献2では「改質層」)自体が構造を複雑化させ、製造コストの増加の一因になる他、中間層を介在させることによって金属箔と基材との間隔の広がり、損失が増大する。
【0007】
なお、液晶ポリマーやフッ素樹脂等の誘電率が低い材料から構成された基材に、金属箔を熱圧着させる方法も考えられるが、液晶ポリマーやフッ素樹脂等の誘電率が低い材料は、融点が300℃程度と高く、その作業自体が生産性を低下させ、製造コストを増加させる原因になる他、その接合強度も低いという問題がある。
【0008】
ちなみに、熱圧着の接合強度を向上させるために、基材における金属箔との接合面に粗化処理を施すことも考えられるが、この場合、基材の接合面に形成された凹凸によって伝送損失が大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第6748338号公報
【特許文献2】特開2021-054012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、基材と金属箔とを生産性を低下させることなく高い強度で接合し、その伝送損失が小さく、その構成も簡略化された複層シート及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の複層シートは、シート状に成形され且つ樹脂が含有された基材と、前記基材に重ね合わせるようにして接合され且つ導電性を有する金属箔とを備え、前記金属箔は、プラズマ処理により前記基材の表面に形成した官能基によって、該基材の融点以下の温度で該基材に接合されたことを特徴とする。
【0012】
前記基材の前記金属箔を接合させた面の面粗度(具体的には十点平均粗さ(Rz)を意味し、以下同様とする)が0.8μm以下であるものとしてもよい。
【0013】
前記樹脂は、フッ素樹脂、液晶ポリマー又はポリフェニレンサルファイドであるものとしてもよい。
【0014】
前記フッ素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン又はパーフルオロアルコキシアルカンであるものとしてもよい。
【0015】
一方、本発明の複層シートの製造方法は、導電性を有する金属箔を、樹脂が含有され且つシート状に成形された基材に、重ね合わされるようにして接合する複層シートの製造方法であって、前記基材の表面に官能基を形成するプラズマ処理を行うプラズマ処理工程と、前記金属箔を、前記基材の融点以下の温度で、該基材の官能基を形成した前記面に接合させる接合工程とを有することを特徴とする。
【0016】
前記プラズマ処理工程では、官能基を形成する面の面粗度が0.8μmよりも大きくならないように前記プラズマ処理を行うものとしてもよい。
【0017】
前記プラズマ処理工程では、前記プラズマ処理を行う際のE値を50~10000W・min/mの範囲に設定するものとしてもよい。
【0018】
前記プラズマ処理は減圧プラズマ処理であるものとしてもよい。
【0019】
前記減圧プラズマ処理の際には酸素及びアルゴンが導入されるものとしてもよい。
【発明の効果】
【0020】
金属箔が、基材の表面に形成された官能基によって、該基材の融点以下の温度で、該基材に化学結合するため、生産性を低下させることのない作業によって、基材と金属箔とを高い強度で接合させることが可能であり、金属箔と基材との間に接着層等を介在させる必要もないため、その構成も簡略化され、基材を構成する材料の制約も少なく、誘電率の低い材料を基材の材料として選択することによって、伝送損失を低減させることも容易である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明を適用した複層シートの構成を示す断面図である。
図2】本発明を適用した複層シートの構成を示す分解断面図である。
図3】回路基板の製造方法の手順を示すフロー図である。
図4】プラズマ処理装置の構成を簡略的に説明する説明図である。
図5】プラズマ処理を施す前の接合面の状態を模式的に示す説明図である。
図6】プラズマ処理を施した後の接合面の状態を模式的に示す説明図である。
図7】(A)は本発明を適用した複層シートの拡大断面図であり、(B)は比較例に係る複層シートの拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1図2は本発明を適用した複層シートの構成を示す断面図及び分解断面図である。図示する複層シート1は、フレキシブルに変更可能なプリント基板等の回路基板の製造に用いるものである。この複層シート1は、フレキシブルに変形可能なシート状の基材2と、導電性を有する金属箔3とを有している。
【0023】
基材2の片方又は両方(図示する例では両方)の面の少なくとも一部(本例では全部)と、金属箔3の片方の面の少なくとも一部(本例では全部)とは、互いを接合させる接合面2a,3aになる。基材2及び金属箔3が互いに重ね合うようにして、その接合面2a,3a同士を、全体的に面接触させた状態で、接着剤を用いることなく、接合させることによって、複数の層を有し且つフレキシブルに変形可能なシートである複層シート1を製造する。
【0024】
基材2は、誘電率の低い樹脂(低伝送損失材料)が含有されている。この低伝送損失材料が基材2を構成する成分中で最も高い含有率になるように、該基材2に含有させることが望ましい。すなわち、基材2の主成分を低伝送損失材料とする。さらに言えば、低伝送損失材料の基材2への含有率は、50%以上であることが望ましい。
【0025】
低伝送損失材料としては、フッ素樹脂、液晶ポリマー(LCP)又はポリフェニレンサルファイド(PPS)等が挙げられる。フッ素樹脂としてはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、テトラフルオロエチレンとエチレンの共重合体の樹脂(ETFE)又はFEP(パーフルオロエチレンプロペンコポリマー)等が挙げられる。
【0026】
基材2の厚みは、回路基板の用途及び目的によって適宜調整する。回路基板は、例えば、高い周波数を有する電波用の高周波基板として用いることが考えらえる。
【0027】
金属箔3は、銅から構成されている。しかし、金属箔3の構成材料は、銅に限定されるものではなく、アルミ等の導電性を有する金属材料であれば、どのような金属であってもよい。
【0028】
金属箔3の厚みも回路基板の用途及び目的によって適宜調整する。例えば、回路基板を高周波基板として用いる場合、その厚みは1~36μmの範囲で適宜調整する。
【0029】
基材2及び金属箔3の夫々の接合面2a,3aは、互いを接合させる前段階において、プラズマ処理により官能基を形成させる。そして、官能基が形成された接合面2a,3a同士は、圧着等の接合手段によって、接着剤を用いることなく、基材2及び金属箔3の融点よりも低い温度で接合される。
【0030】
なお、基材2の接合面2aにプラズマ処理を行うことによって該接合面2aに官能基を形成することは必須である一方で、金属箔3の接合面3aにプラズマ処理を施すことは必須ではなく、金属箔3の材料や状態によっては省略することも可能である。
【0031】
基材2に金属箔3を圧着させる際の圧力を0.1MPa~30MPaの範囲で適宜調整する。接合時の温度は基材2の融点以下(好ましくは融点未満)であればよく、状況に応じて適宜調整する。
【0032】
接合面2a,3a同士は、前記官能基によって化学結合されるため、基材2と金属箔3との接合強度が飛躍的に向上する。
【0033】
このようにして製造した複層シート1を利用してフレキシブルに変形可能なプリント基板等の回路基板を製造する。
【0034】
次に、図3乃至図6に基づいて、上述した回路基板の製造方法について説明する。
【0035】
図3は、回路基板の製造方法の手順を示すフロー図である。回路基板の製造方法は、基材2及び金属箔3の各接合面2a,3aにプラズマ処理を施すプラズマ処理工程と、プラズマ処理によって官能基が形成された接合面2a,3a同士を接合して複層シート1を完成させる接合工程と、製造された複層シート1の金属箔3に対してエッチング等のパターン加工を施すことによって基材2の表面(具体的には、接合面2a)に5Gや6G等の高速通信用のアンテナ回路や一般の電子回路等の回路を形成するパターン加工工程と、リフロー方式によるハンダ付け等によって、基材2上の回路に電子部品を実装して回路基板を完成させる部品実装工程と、を有している。
【0036】
図4は、プラズマ処理装置の構成を簡略的に説明する説明図である。同図に示すプラズマ処理装置50は、チャンバー51と、該チャンバー51に各別に接続された排出管52及び供給管53と、排出管52に接続され且つチャンバー51内の気体をその外部に排出する減圧ポンプ54と、チャンバー51内に配置された一対の電極55,56と、一対の電極55,56間に電圧を印加する電源57と、を備えている。
【0037】
減圧ポンプ54による気体の外部への排出によって、大気圧よりも低い気圧に保持された雰囲気(低圧雰囲気)をチャンバー51内に形成することが可能になる。さらには、減圧ポンプ54による真空引きによってチャンバー51内に真空雰囲気を形成することができる。すなわち、チャンバー51は真空チャンバーとして機能させることが可能であるとともに、減圧ポンプ54は真空ポンプとして機能させることが可能である。
【0038】
チャンバー51内には、供給管53を介して、処理ガスが導入される。この処理ガスによって、プラズマ処理に適した処理ガスで満たされた減圧雰囲気を、チャンバー51内に形成することが可能になる。言い換えると、チャンバー51と、処理ガスが充填されたボンベ等の容器とは供給管53を介して接続されている。
【0039】
ちなみに、排気管52及び供給管53の夫々には、その流路を開閉して気体の流動の有無の切換を行う開閉弁58,59が設けられている。これらの開閉弁58,59を閉状態に切り換えることによって、チャンバー51内を真空状態または所定の気体(ガス)が導入された状態で密閉させることが可能である。
【0040】
電源57は高周波電源である。この電源の出力は1kW~20kWであり、その実行電圧は50V~100kV(好ましくは100V~6kV、さらに好ましくは200V~5kV)である。電圧や周波数が適宜調整できる電源57を用いてもよい。一対の電極55,56の一方は電気的に接地されたアース電極55であり、他方は電源57によって電圧が印加される印加電極56である。図示する例では、水平なアース電極55上に、プラズマ処理の対象となる基材2又は金属箔3が、その接合面2a,3aを上に向けた状態で設置されている。
【0041】
該構成のプラズマ処理装置50によって上述したプラズマ処理工程を実行する。プラズマ処理工程の詳細について説明すると、まず、チャンバー51内に基材2又は金属箔3を導入して設置する。そして、排出管52側の開閉弁58を開状態に切り換えるとともに供給管53側の開閉弁59を閉状態に切り換えた状態で、減圧ポンプ54によりチャンバー51内に低圧雰囲気(さらに具体的には真空雰囲気)を形成する。
【0042】
続いて、排出管52側の開閉弁58を閉状態に切り換えるとともに、供給管53側の開閉弁59を開状態に切り換え、チャンバー51内の気圧を、5~150Paの範囲に保って前記低圧雰囲気を保持させながら、該チャンバー51内にアルゴン(Ar)ガス、空気、酸素(O)又はこれらの混合ガス混合ガス等の処理ガスを導入する。特に、酸素を含むガスを用いるのが好ましい。圧力測定等によって所定量の処理ガスがチャンバー51内の導入されたことが確認されると、2つの開閉弁58,59の夫々を閉状態とし、チャンバー51内を密閉する。
【0043】
続いて、電源57によって、上述した状態の交流電圧を、一対の電極55,56の間に印加し、チャンバー51内に低温プラズマを生じさせ、基材2又は金属箔3の接合面2a,3aにプラズマ処理を施す。プラズマ処理を継続させる時間は、プラズマ処理する接合面2a,3aの面積や電源57の出力や電圧や周波数によって異なるが、例えば、E値を50~10000W・min/mの範囲で調整する。E値とは、単位時間あたりの単位面積あたりの電力量である。その他、チャンバー51内の状態又は接合面2a,3aの状態を示唆する所定の物理量(例えば、後述する面粗度)を検出し、該物理量からプラズマ処理の進捗の程度を認識してもよい。
【0044】
図5は、プラズマ処理を施す前の接合面の状態を模式的に示す説明図であり、図6は、プラズマ処理を施した後の接合面の状態を模式的に示す説明図である。プラズマ処理は、様々な目的に用いられるが、本例では、処理対象面である接合面2a,3aへの官能基の表出(形成)を主目的としている。
【0045】
ちなみに、接合面2a,3aに表出させる官能基としては、主に、水酸基、カルボキシル基等が考えられる。そして、官能基を高密度で接合面2a,3aに表出させた方が基材2への金属箔3の接合強度は高くなるが、そのためには、プラズマ処理を継続する時間をできるだけ長く設定する必要がある。具体的には、上述したE値を増加させる。
【0046】
ところが、これらの官能基を表出させる目的で、接合面2a,3aにプラズマ処理を施した場合、この接合面2a,3aに対するエッチング処理も意図せずに施されることになる。このエッチングによって、その処理前は図5に示すようなフラットな接合面2a,3aであったとしても、該接合面2a,3aには図6に示すような凹凸が形成される。
【0047】
さらに、この凹凸が所定以上に大きい場合、基材2上に形成される回路(金属箔3)上を移動する電子の移動距離が、該凹凸の分だけ長くなり、その結果、この回路の抵抗値が増大し、高速通信用の回路として用いることが困難になる場合がある。
【0048】
なお、この凹凸の大きさ等の物理量は、接合面2a,3aの面粗度を知ることによって客観的に把握可能である。
【0049】
以上の要素を加味し、エッチング処理の進捗度合いを最小限に抑制しつつ、官能基の表出が最大限進むように、接合面2a,3aに対してプラズマ処理を施す必要があり、具体的には、一対の電極55,56の間に印加する電圧の値を上述した低い範囲に設定しつつ、互いを接合させた状態の接合面2a,3aの境界の面粗度が0.8μm以下(好ましくは、0.4μm以下)になるように、プラズマ処理を行う際の前記E値を上述した範囲に設定する。
【0050】
また、プラズマ処理の前における接合面2a,3aの境界の面粗度が、その処理後の面粗度よりも小さくなることは無いため、プラズマ処理工程の前段階において、接合面2a,3aの面粗度は当然0.8μm未満(好ましくは、0.4μm未満)である必要がある。
【0051】
図3に示す接合工程では、基材2の接合面2aと、金属箔3の接合面3aとを、上述した所定温度で、基材2及び金属箔3を融解させることなく、上述した所定圧力で圧着させる。基材2及び金属箔3の接合面2a,3aは、その前段階のプラズマ処理工程が実行され、官能基が形成されているが、金属箔3へのプラズマ処理は上述した通り、必須ではなく、処理の要否を適宜選択する。また、基材2が融解させないように該基材2及び金属箔3を接合させることが必要であるが、この際に金属箔3を融解させないことは必須ではない。このような構成によって、接合面2a,3a同士は、接着剤等を用いることなく、官能基同士の共有結合により強固に接合される。
【0052】
以上のように構成される回路基板及びその製造方法によれば、金属箔3の材料によって構成される回路が、強固にフラットな状態で、基材2上に形成されるため、5Gや6G等の高速通信のための回路として用いることが可能になる他、自動運転時等に車同士の通信に用いるミリ波レーダ用の回路として用いることも容易である。
【0053】
なお、図4におけるパターン加工工程の後であって且つ部品実装工程の前に、基材2の表面に形成された回路上にさらに別の回路を形成して階層化させる複層化工程を行うようにしてもよい。
【0054】
次に、図7に基づき、比較実験の結果について説明する。
【0055】
図7(A)は本発明を適用した複層シートの拡大断面図であり、(B)は比較例に係る複層シートの拡大断面図である。
【0056】
図7(A)に示す複層シート1は、接着剤を用いることなく、200℃以下の温度で、基材2と金属箔3とを直接に接合したものであり、基材2としてはフッ素樹脂(具体的には、PTFE)を用いるとともに、金属箔3としては銅箔を用いた。また、基材2及び金属箔3の夫々の接合面2a,3aにおける面粗度が0.85μmになるように、プラズマ処理工程を実行する際の処理時間及び印加電圧の調整を行った。
【0057】
この複層シート1は、比誘電率が80GHzの周波数で2.0の値を示し、誘電正接(tanδ)が80GHzの周波数で0.0008の値を示し、伝送損失が80GHzの周波数で-2.89dB/100mmの値を示し、基材2と金属箔3との接合強度は10N/cmの値を示した。
【0058】
図7(B)に示す複層シートは、300℃の温度で、基材と金属箔とを熱圧着させたものであり、基材としてはLCPを用いるとともに、金属箔としては接合面の面粗度を増大させた銅箔を用いた。
【0059】
比較例の複層シートと、本発明を適用した図7(A)に示す複層シートとを比較すると、比誘電率、誘電正接及び伝送損失の全てにおいては、本発明を適用した前記複層シートの方が比較例の複層シートよりも優れた値が示す結果になり、明らかな優位性が認められた。
【符号の説明】
【0060】
1 複層シート
2 基材
3 金属箔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7