(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023003110
(43)【公開日】2023-01-11
(54)【発明の名称】回転切削工具
(51)【国際特許分類】
B23D 77/02 20060101AFI20221228BHJP
【FI】
B23D77/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021104083
(22)【出願日】2021-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】000220103
【氏名又は名称】株式会社アライドマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 祐満
(72)【発明者】
【氏名】東上床 正己
【テーマコード(参考)】
3C050
【Fターム(参考)】
3C050EB09
(57)【要約】
【課題】切り屑が小さい回転切削工具を提供する。
【解決手段】軸線方向に延び、その内部には軸線方向に延びる部分を有するクーラント供給孔が設けられている工具本体としての台金10と、台金10の先端に設けられた、超硬質工具材料の切れ刃を有するチップ11とを備え、台金10にはクーラント供給孔の出口となる排出口21が設けられており、排出口21からチップ11と台金10との境界まで連続的に溝22が設けられている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に延び、その内部には前記軸線方向に延びる部分を有するクーラント供給孔が設けられている工具本体と、
前記工具本体の先端に設けられた、超硬質工具材料の切れ刃を有するチップとを備え、
前記工具本体には前記クーラント供給孔の出口となる排出口が設けられており、
前記排出口から前記チップと前記工具本体との境界まで連続的に溝が設けられている、回転切削工具。
【請求項2】
前記溝の深さは0.1mm以上前記排出口付近での前記クーラント供給孔の直径の1/2以下である、請求項1に記載の回転切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回転切削工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、回転切削工具は、たとえば、実開昭58-44135号公報(特許文献1)、実開平5-12039号公報(特許文献2)、特開2010-94766号公報(特許文献3)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭58-44135号公報
【特許文献2】実開平5-12039号公報
【特許文献3】特開2010-94766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の回転切削工具においては切り屑が長くなるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、軸線方向に延び、その内部には軸線方向に延びる部分を有するクーラント供給孔が設けられている工具本体と、工具本体の先端に設けられた、超硬質工具材料の切れ刃を有するチップとを備え、工具本体にはクーラント供給孔の出口となる排出口が設けられており、排出口からチップと工具本体との境界まで連続的に溝が設けられている、回転切削工具に関するものである。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、実施の形態1に従った4枚刃の回転切削工具の斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1中の矢印IIで示す方向から見た4枚刃の回転切削工具の平面図である。
【
図3】
図3は、実施の形態2に従った1枚刃の回転切削工具の平面図である。
【
図4】
図4は、
図3中の矢印IVで示す方向から見た1枚刃の回転切削工具の側面図である。
【
図5】
図5は、比較例1に従った、溝22が設けられていない1枚刃の回転切削工具の平面図である。
【
図6】
図6は、
図5中の矢印VIで示す方向から見た1枚刃の回転切削工具の側面図である。
【
図7】
図7は、比較例2に従った、短い溝22が設けられた1枚刃の回転切削工具の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0008】
本開示は、軸線方向に延び、その内部には軸線方向に延びる部分を有するクーラント供給孔が設けられている工具本体と、工具本体の先端に設けられた、超硬質工具材料の切れ刃を有するチップとを備え、工具本体にはクーラント供給孔の出口となる排出口が設けられており、排出口からチップと工具本体との境界まで連続的に溝が設けられている、回転切削工具に関するものである。
【0009】
このように構成された回転切削工具においては、排出口からチップと工具本体との境界まで連続的に溝が設けられているため、この溝を経由して排出口からチップまでスムーズにクーラントが供給される。その結果、クーラントにより確実にチップを冷却および潤滑できる。
【0010】
より具体的には、排出口から空気中に排出された流体は、排出口から遠ざかるにつれ、放射状に幅が広がり、流速は次第に減少することが一般的に知られている。この規則は内部給油式クーラントにも当てはまるため、排出口から排出されたクーラントは、刃先に到達するまでに放射状に拡散する。上記の溝によって、クーラントの拡散を低減できるため、クーラントが勢いを維持して刃先近傍で生成される切りくずに衝突する。その打力によって、切りくずのせん断角が小さくなり、切りくずが細分化されると考えられている。
【0011】
好ましくは、溝の深さは0.1mm以上排出口付近でのクーラント供給孔の直径の1/2以下である。溝の深さが0.1mm以上であれば溝がクーラントを案内する効果が大きくなる。溝の深さがクーラント供給孔の直径の1/2以下であれば溝が適度な深さになり溝がクーラントを案内する効果が大きくなる。
【0012】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に従った4枚刃の回転切削工具の斜視図である。
図2は、
図1中の矢印IIで示す方向から見た4枚刃の回転切削工具の平面図である。
【0013】
図1および
図2で示すように、回転切削工具としてのリーマ1は、工具本体としての台金10を有する。
図1および
図2はリーマ1の先端部を示している。台金10は、たとえば、超硬合金、鋼材(ステンレス鋼を含む)などにより構成される。
【0014】
台金10には、4枚のチップ11,12,13,14が設けられている。各々のチップ11,12,13,14には、切刃が設けられている。各々のチップ11,12,13,14は、たとえば、超硬合金、ダイヤモンドまたは立方晶窒化ホウ素などの超硬質工具材料により構成される。
【0015】
台金10には、長手方向に延びる第一面(シャンク壁面)15と第二面(シャンクすくい面)16とが設けられている。第一面15および第二面16が、長手方向に延びるフルートを構成する。第二面16にチップ11が埋め込まれる。
【0016】
第一面15に、クーラントを排出するための排出口21が設けられている。排出口21は、台金10内を延びる図示しないクーラント供給孔に接続されている。これによりクーラント供給孔から供給されるクーラントは排出口21から排出される。
【0017】
排出口21から、チップ11と台金10との境界まで連続的に溝22が設けられている。溝22はこの図では直線状に延びているが、曲線状に延びていてもよい。溝22の深さは均一であってもよく、不均一であってもよい。
【0018】
溝22は他のチップ12,13,14近傍に設けられてこれらのチップ12,13,14にクーラントを供給するように設けられていてもよく、設けられていなくてもよい。すなわちチップ11,12,13,14の一部のみに溝22が設けられていてもよい。
【0019】
4枚のチップ11,12,13,14は、台金10の外周面を均等な角度で分割するように配置されていてもよく、台金10の外周面を不均等な角度で分割するように配置されていてもよい。
【0020】
(実施の形態2)
図3は、実施の形態2に従った1枚刃の回転切削工具の平面図である。
図4は、
図3中の矢印IVで示す方向から見た1枚刃の回転切削工具の側面図である。
【0021】
図3および
図4で示すように、実施の形態2に従ったリーマ1は、1枚刃のリーマ1である。リーマ1の外周に一つのチップ11のみが設けられている。なお、一つのリーマ1におけるチップ11の数は、1より多くてもよい。
【0022】
リーマ1の長手方向に延びる孔23から斜め方向に枝孔24が延びている。孔23と枝孔24とがクーラント供給孔を構成する。枝孔24の出口開口が排出口21である。排出口21は楕円形状とされている。排出口21からチップ11と台金10との境界まで連続的に溝22が設けられている。
【0023】
溝22の深さは0.1mm以上排出口21付近での枝孔24の直径の1/2以下である。この直径は、枝孔24の延びる方向に対して直交する方向における枝孔24の直径をいう。
【0024】
このように構成された実施の形態2に従ったリーマ1においても実施の形態1のリーマ1と同様の効果がある。
【0025】
(比較例1)
図5は、比較例1に従った、溝22が設けられていない1枚刃の回転切削工具の平面図である。
図6は、
図5中の矢印VIで示す方向から見た1枚刃の回転切削工具の側面図である。
【0026】
図5および
図6で示すように、比較例1のリーマでは、排出口21とチップ11との間に溝が設けられていない点において、実施の形態1および2におけるリーマ1と異なる。
【0027】
(比較例2)
図7は、比較例2に従った、短い溝22が設けられた1枚刃の回転切削工具の平面図である。
図7で示すように、比較例2に従ったリーマ1においては溝22が設けられる。溝22はチップ11に接続されているものの、排出口21に接続されていない点において、実施の形態1および2に従ったリーマ1と異なる。
【0028】
[本開示の実施形態の詳細]
まず、表1で示す試料番号1-9、101および102のリーマを準備した。
【0029】
【0030】
表中の「孔径D」は、
図3,5,7で示す、枝孔24の直径Dを示す。「溝深さ」とは、第二面16の表面から測定した溝22の深さをいう。溝22の深さが一様でないときは、溝22において最も深い部分の深さを「溝深さ」とした。
【0031】
このリーマを用いて、内径が20mmの下孔をリーマで加工して内径を21mmとする加工テストをした。加工条件は以下の通りである。
【0032】
チップの材質:多結晶ダイヤモンド
台金の材質:超硬合金
工具径:21mm
工具突き出し長さL:70mm
被削材の材質:ADC12(アルミダイキャスト)
下孔の寸法および形状:内径20mm
加工数:5
周速:200m/min
送り(mm/rev):0.15
回転数:3700min-1
加工深さ:30mm貫通孔
設備:立形マシニングセンタ(主軸BT30)
切削油:エマルション系水溶性クーラント 希釈率8%
切削油供給圧:1.2MPa
加工の結果、切り屑のサイズを調べた。その結果を表1に示す。切り屑のサイズは、切削加工中に発生した複数の切り屑から最も長いものを選択し、カールする切り屑の最長距離部を切り屑長さとした。
【0033】
表1より、
図3および4で示すように溝22がチップ11から排出口21まで連続して設けられた試料番号1から9においては切り屑のサイズが小さかった。これに対して溝22が設けられていないか、溝22がチップ11から排出口21まで連続しておらず溝22が排出口21に到達してない試料番号101,102において、切り屑のサイズが大きくなることが分かった。
【0034】
溝22の深さは0.1mm以上排出口付近でのクーラント供給孔としての枝孔24の直径の1/2以下であれば、切り屑がより細分化されることが分かった。アルミニウム合金などの延性材料であっても切り屑を細分化できる。
【0035】
なお、リーマに限らず、ドリル、エンドミルなどの他の回転切削工具においても同様の効果が得られることが確認された。
【0036】
さらに、切り屑細分化のためのブレーカーと比較して低コストで製作できる。さらに、ブレーカー付きの回転切削工具で見られる刃先欠損、ブレーカー凹部への切り屑の溶着による加工面の荒れも観察されなかった。
【0037】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0038】
1 リーマ、10 台金、11,12,13,14 チップ、15 第一面、16 第二面、21 排出口、22 溝、23 孔、24 枝孔。