IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-焼結鉱の比表面積の測定方法 図1
  • 特開-焼結鉱の比表面積の測定方法 図2
  • 特開-焼結鉱の比表面積の測定方法 図3
  • 特開-焼結鉱の比表面積の測定方法 図4
  • 特開-焼結鉱の比表面積の測定方法 図5
  • 特開-焼結鉱の比表面積の測定方法 図6
  • 特開-焼結鉱の比表面積の測定方法 図7
  • 特開-焼結鉱の比表面積の測定方法 図8
  • 特開-焼結鉱の比表面積の測定方法 図9
  • 特開-焼結鉱の比表面積の測定方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023003115
(43)【公開日】2023-01-11
(54)【発明の名称】焼結鉱の比表面積の測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/24 20060101AFI20221228BHJP
   G01N 13/00 20060101ALI20221228BHJP
【FI】
G01N33/24 A
G01N13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021104092
(22)【出願日】2021-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(72)【発明者】
【氏名】矢部 英昭
(57)【要約】
【課題】 高炉に装入される焼結鉱のサイズのまま、焼結鉱の比表面積を測定する。
【解決手段】 本発明は、ガス吸着法に基づいて焼結鉱の比表面積を測定する方法であって、直径が10mm以上である焼結鉱を用いるとともに、ガス吸着法で用いられる吸着ガスとしてクリプトンガスを用いる。焼結鉱の粒子を測定用のセルに収容し、クリプトンガスをセルに供給することができる。また、相対圧P/P0が0.10~0.25の範囲内における吸着等温線に基づいて、焼結鉱の比表面積を求めることができる。
【選択図】 図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス吸着法に基づいて焼結鉱の比表面積を測定する方法であって、
前記焼結鉱の直径が10mm以上であり、
ガス吸着法で用いられる吸着ガスがクリプトンガスであることを特徴とする焼結鉱の比表面積の測定方法。
【請求項2】
前記焼結鉱を測定用のセルに収容し、前記クリプトンガスを前記セルに供給することを特徴とする請求項1に記載の焼結鉱の比表面積の測定方法。
【請求項3】
相対圧P/P0が0.10~0.25の範囲内における吸着等温線に基づいて、前記焼結鉱の比表面積を求めることを特徴とする請求項1又は2に記載の焼結鉱の比表面積の測定方法。
【請求項4】
前記焼結鉱を測定用のセルに収容して測定した場合のガス吸着量から、焼結鉱を前記セルに収容しないで測定した場合のガス吸着量を差し引くことによって求めた差分吸着等温線に基づいて、前記焼結鉱の比表面積を求めることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の焼結鉱の比表面積の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結鉱の比表面積を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉に装入される焼結鉱の気孔構造は、高炉内における焼結鉱及び還元ガスの反応性(被還元性)に影響を与えることが知られている。焼結鉱の気孔構造を把握する方法としては、非特許文献1に記載された方法がある。
【0003】
非特許文献1には、真空包装器を利用した気孔率測定法(PAC法:Pore And Concave法)が記載されている。PAC法では、まず、焼結鉱を入れた袋状のフィルムを真空包装器内にセットして、所定の減圧条件下でフィルムの開口部をシールする。真空包装器内の圧力を常圧に戻す過程において、フィルムが焼結鉱に収縮密着することにより、包装が完了する。
【0004】
次に、包装された焼結鉱を浮力測定装置の水中に浸漬することにより、水面上昇による重量の増加分から焼結鉱の見掛体積Vaを求める。そして、下記式(1)に基づいて、焼結鉱の見掛比重Daを求めるとともに、下記式(2)に基づいて、焼結鉱の気孔率Pを求める。
【0005】
【数1】
【0006】
上記式(1)において、Daは焼結鉱の見掛比重[-]、Wsは焼結鉱の乾重量[g]、Vaは焼結鉱の見掛体積[cm]、Wfはフィルムの重量[g]、ρfはフィルムの密度[g/cm]、ρ0は4℃における水の密度(=1.000)[g/cm]である。上記式(2)において、Pは焼結鉱の気孔率[%]、Daは焼結鉱の見掛比重[-]、Dsは焼結鉱の真比重[-]である。
【0007】
一方、細孔を有する粒子の比表面積を測定する方法としては、水銀圧入法(水銀圧入式ポロシメーター)やガス吸着法(BET法)がある。水銀圧入法では、表面張力の高い水銀に圧力を加えて粒子の細孔内に圧入し、圧力と圧入された水銀容積との関係から細孔分布を求めることにより、比表面積を求めることができる。ガス吸着法では、主に窒素ガスを固体表面に吸着させ、吸着した窒素ガスの量から比表面積を求めることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「真空包装を利用した焼結鉱の気孔率測定方法の開発とその焼結鉱品質評価への応用」、鉄と鋼Vоl.83(1997)No.2、第109~114頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非特許文献1に記載の気孔率測定法によって求められる気孔率は、気孔径を考慮していないため、焼結鉱の表面積と相関があるとはいえない。
【0010】
水銀圧入法では、細孔分布を比表面積に換算するために、気孔形状が円筒であるなどの幾つかの仮定をしなければならないが、実際の焼結鉱の気孔は極めて複雑な形状を有しているため、上述した仮定に沿うものではない。また、焼結鉱では、入り口の径が内部の径よりも小さい気孔(いわゆる、インクボトル型気孔)が多くみられ、インクボトル型気孔については、水銀圧入法によって細孔分布を測定することができない。ここで、径が小さい気孔を測定する場合には、水銀に加えられる圧力を高くしなければならず、測定対象である焼結鉱において、変形や歪あるいは破壊や亀裂が生じてしまう。このような理由により、水銀圧入法を用いた焼結鉱の比表面積の測定には、大きな誤差が発生してしまう。
【0011】
ガス吸着法では、小径のサンプルしか測定することができず、高炉に装入されるサイズ(一般的に5~50mmの粒径)のままで焼結鉱の比表面積を測定することはできない。ここで、焼結鉱を粉砕して微粉にすれば、ガス吸着法を用いて比表面積を測定できるが、粉砕によって主として外部表面積に起因する焼結鉱の表面積が増加するため、高炉に装入される焼結鉱(粉砕前)の比表面積を評価する上では適切ではない。
【0012】
本発明の目的は、高炉に装入される焼結鉱のサイズのまま、焼結鉱の比表面積をより正確に測定することができる焼結鉱の比表面積の測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、ガス吸着法に基づいて焼結鉱の比表面積を測定する方法であって、直径が10mm以上である焼結鉱を用いるとともに、ガス吸着法で用いられる吸着ガスとしてクリプトンガスを用いる。
【0014】
焼結鉱の粒子を測定用のセルに収容し、クリプトンガスをセルに供給することができる。また、相対圧P/P0が0.10~0.25の範囲内における吸着等温線に基づいて、焼結鉱の比表面積を求めることができる。また、焼結鉱を測定用のセルに収容して測定した場合のガス吸着量から、焼結鉱をセルに収容しないで測定した場合のガス吸着量を差し引くことによって求めた差分吸着等温線に基づいて、焼結鉱の比表面積を求めることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、直径が10mm以上である焼結鉱を測定対象とすることにより、高炉に装入される焼結鉱自体の比表面積を測定することができる。また、焼結鉱の直径が10mm以上であれば、焼結鉱の比表面積と、焼結鉱の比表面積に依存する焼結鉱の還元率(JIS-RI)との間に高い相関を確認でき、焼結鉱の比表面積をより正確に測定できると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】比表面積の測定装置の構成を示す概略図である。
図2】吸着等温線(BETプロット)を示す図である。
図3】比較例4において、比表面積及び還元率JIS-RIの関係を示す図である。
図4】比較例5において、比表面積及び還元率JIS-RIの関係を示す図である。
図5】参考例1において、気孔率及び還元率JIS-RIの関係を示す図である。
図6】参考例2において、比表面積及び還元率JIS-RIの関係を示す図である。
図7】実施例1において、比表面積及び還元率JIS-RIの関係を示す図である。
図8】実施例2において、比表面積及び還元率JIS-RIの関係を示す図である。
図9】実施例3において、比表面積及び還元率JIS-RIの関係を示す図である。
図10】実施例4において、比表面積及び還元率JIS-RIの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施形態は、高炉に装入される焼結鉱のサイズのまま、言い換えれば、高炉に装入される焼結鉱を粉砕することなく、焼結鉱の比表面積を測定する方法である。
【0018】
(測定対象の焼結鉱)
高炉に装入される焼結鉱としては、高炉内における焼結鉱の目詰まりなどを防止するために、直径が5mm以上である焼結鉱が用いられる。その代表粒子径は20mm程度とされており、被還元性や還元粉化性といった焼結鉱の高炉用原料としての品質を測定する対象の試料は、それぞれ19~21mm、15mm~20mmと規定されている。以下の実施例で説明するように、焼結鉱の比表面積の測定においても、より代表的な値を得るために、直径が10mm以上である焼結鉱を測定対象とする。なお、測定対象となる焼結鉱の直径の上限は、何ら制限されるものではないが、例えば、25mmとすることができる。
【0019】
(比表面積の測定装置)
図1は、焼結鉱の比表面積を測定する測定装置の構成を示す。測定装置100は、セル1と、セル1が収容される試料室2を有する。セル1には、測定対象である焼結鉱が収容される。セル1は、直径が10mm以上である焼結鉱(少なくとも1粒)を収容可能なサイズを有する。
【0020】
本実施形態では、試料室2に3つのセル1を設置しているが、試料室2に設置するセル1の総数は、1つであってもよいし、複数であってもよく、適宜決めることができる。なお、試料室2に複数のセル1を設置すれば、互いに異なる種類の焼結鉱を複数のセル1にそれぞれ収容して、比表面積の測定を同時に行うことができ、測定効率を向上できる。
【0021】
試料室2には測定器3が接続されており、測定器3は、吸着ガス供給ユニット31及びガス圧測定ユニット32を有する。吸着ガス供給ユニット31は、試料室2の各セル1に対して吸着ガス(後述するクリプトンガス)を供給し、ガス圧測定ユニット32は、試料室2の各セル1におけるガス圧を測定する。
【0022】
冷却ユニット4は、各セル1に収容された焼結鉱を冷却するために用いられる。焼結鉱の比表面積を測定するときには、焼結鉱を所定温度(例えば、液体窒素の沸点)まで冷却するため、冷却ユニット4が用いられる。制御ユニット5は、測定装置3(吸着ガス供給ユニット31及びガス圧測定ユニット32)や冷却ユニット4の動作を制御する。
【0023】
(比表面積の測定方法)
本実施形態である比表面積の測定方法は、JIS Z8830に規定されているガス吸着法に従う。比表面積の測定方法の詳細は、JIS Z8830に規定されているとおりであり、以下では、本実施形態の特徴を含む比表面積の測定方法の概要について説明する。
【0024】
比表面積の測定を行う前に、焼結鉱に予め付着している水分や焼結鉱に予め吸着しているガス成分を除去するための前処理を行うことが好ましい。この前処理としては、焼結鉱を所定温度及び所定時間で加熱することができる。例えば、真空減圧状態において、焼結鉱を200℃まで加熱し、200℃のまま2時間保持することができる。この前処理を行う場合において、比表面積の測定装置に前処理を行う機能が付帯している場合にはその機能を使用することが簡便である。また、比表面積の測定装置とは別の前処理装置を使用して前処理を実施しても良いが、前処理が終了して前処理装置から取り出したサンプルは、できるだけ速やかに比表面積の測定に供することが望ましい。
【0025】
1粒の焼結鉱をセル1に収容し、この焼結鉱について、比表面積の測定を開始する。まず、冷却ユニット4は、セル1に収容された焼結鉱を所定温度(例えば、液体窒素の沸点)まで冷却する。次に、吸着ガス供給ユニット31は、吸着ガスであるクリプトンガスをセル1に供給する。本実施形態では、吸着ガスとしてクリプトンガスを用いているが、クリプトンガスは、飽和蒸気圧P0が低いとともに、焼結鉱への吸着に伴う圧力変化が大きいため、焼結鉱の比表面積の測定に適している。
【0026】
焼結鉱に吸着ガス(クリプトンガス)を供給することにより、焼結鉱の表面に吸着ガス(クリプトンガス)が物理的に吸着して単分子層が形成される。これにより、焼結鉱の表面に形成された単分子層に相当する吸着ガスの量(以下、「吸着ガス量」という)を求めることができる。吸着ガス量の測定方法としては、JIS Z8830に記載されている静的容量法、連続容量法、キャリヤガス法(流動法、動的流動法とも呼ぶ。)を用いることができる。
【0027】
次に、相対圧P/P0(吸着平衡圧Pと飽和蒸気圧P0の比)が0.10~0.25の範囲内におけるガス吸着量を測定し、吸着等温線を作成する。そして、ガス吸着量及び相対圧P/P0の関係(吸着等温線)と、下記式(3),(4)とに基づいて、焼結鉱の比表面積(BET比表面積)を算出する。
【0028】
【数2】
【0029】
上記式(3)において、Pはガス圧測定ユニット32による測定圧力[Pa]、P0は吸着ガス(クリプトンガス)の飽和蒸気圧[Pa]、P/P0は吸着ガス(クリプトンガス)の相対圧力[-]、Qは吸着量[mоl/g]、Qmは単分子層吸着量[mоl/g]、CはBETパラメータ[-]である。
【0030】
上記式(4)において、Sは比表面積[m/g]、sは分子占有断面積[nm]、Qmは単分子層吸着量[mоl/g]、KAはアボガドロ定数[mоl-1]である。吸着ガス(クリプトンガス)の分子占有断面積sは0.202[nm]である。なお、窒素ガスの分子占有断面積sは0.162[nm]である。
【0031】
図2には、相対圧P/P0及び上記式(3)の左辺(P/Q(P0-P))の関係(いわゆるBETプロット)の一例を示す。本実施形態では、相対圧P/P0が0.10~0.25の範囲内において、相対圧P/P0及び「P/Q(P0-P)」の関係が直線性を示す。したがって、比表面積Sを算出するときには、相対圧P/P0が0.10~0.25の範囲内における相対圧P/P0及び「P/Q(P0-P)」の関係を用いることが好ましい。
【0032】
本実施形態によれば、高炉に装入される焼結鉱のサイズのまま、焼結鉱をセル1に収容して比表面積を測定しているため、高炉に装入される焼結鉱自体の比表面積を測定することができる。また、以下の実施例で説明するとおり、被還元性が互いに異なる3種類の焼結鉱については、焼結鉱の比表面積と、焼結鉱の比表面積に依存する還元率JIS-RIとの間に相関を確認できるとともに、この相関は、焼結鉱の直径が10mm以上であれば、より高いことを確認できる。したがって、本実施形態の測定方法によれば、焼結鉱の比表面積をより正確に測定できると考えられる。
【0033】
なお、本実施形態においては、焼結鉱を粉砕することなく比表面積を測定するため、セル1および試料室2は通常の測定装置よりも大型とする必要がある。更に、特に小さな比表面積を有するサンプルを測定するのに適したクリプトンガスを吸着ガスとして用いることから、サンプル以外のセル1や試料室2に吸着するガスも焼結鉱に対する吸着ガス量として測定値に内包される。サンプル以外に吸着したガスの量を測定値の吸着ガス量に内包することは誤差要因となる。そこで、サンプルを投入した状態で測定したガス吸着量から、サンプルを投入しない状態で測定したサンプル以外に吸着したガス吸着量(以下、「サンプル以外のガス吸着量」とも記載する。)を差し引いた、サンプルの正味のガス吸着量を算出し、それらと相対圧P/P0の関係を表した差分吸着等温線を作成してもよい。このようにして正味のガス吸着量に基づき作成した差分吸着等温線と、上記式(3)及び式(4)とに基づいて焼結鉱の比表面積(BET比表面積)を求めても良い。この場合、より精度よく焼結鉱の比表面積を求めることができる。なお以下の説明において、以上のようにして算出した比表面積を、「正味のガス吸着量に基づき算出される比表面積」とも記載する。
【実施例0034】
被還元性が互いに異なる3種類の焼結鉱(No.1~No.3)を用意した。吸着ガスとしては、窒素ガス(N)又はクリプトンガス(Kr)を用いた。比表面積の測定装置としては、図1に示す測定装置100である測定装置Aと、従来の測定装置(トライスターII3020、マイクロメリティックス社製)Bとを用いた。測定装置Aのセル1のサイズについては、内径が25mmであり、高さが20mmである。比表面積の測定では、焼結鉱No.1~No.3を-196℃まで冷却した。また、前処理として、真空減圧状態において、焼結鉱No.1~No.3を200℃まで加熱し、200℃のまま2時間保持した。
【0035】
一方、焼結鉱No.1~No.3について、JIS M8713の規定に従い、到達JIS還元率(JIS-RI)を測定した。ここで、各焼結鉱No.1~No.3の粒径は、篩網を用いて調整し、19~21mmとした。
【0036】
(実施例1)
測定装置Aを用いるとともに、吸着ガスとしてクリプトンガスを用い、ガス吸着法によって求めた吸着等温線に基づいて焼結鉱の比表面積を測定した。焼結鉱No.1~No.3の粒径は、篩網を用いて調整し、10~15mmとした。1種類の焼結鉱(No.1~No.3のうちの1種類)を3つのセル1に収容した。1つのセル1には2粒の焼結鉱を収容してそれぞれのセルについて測定を行った。これにより、1種類の焼結鉱(No.1~No.3のうちの1種類)につき、合計6粒の焼結鉱の比表面積を測定した。各セルの測定値から比表面積の平均値を求めて、その焼結鉱の比表面積とした。以上の測定をNo.1~No.3の3種類の焼結鉱についてそれぞれ行い、No.1~No.3の焼結鉱の比表面積をそれぞれ求めた。
【0037】
(実施例2)
測定装置Aを用いるとともに、吸着ガスとしてクリプトンガスを用い、ガス吸着法によって正味のガス吸着量を求めて得た差分吸着等温線に基づいて焼結鉱の比表面積を測定した。焼結鉱No.1~No.3の粒径は、篩網を用いて調整し、10~15mmとした。1種類の焼結鉱(No.1~No.3のうちの1種類)を3つのセル1に収容した。1つのセル1には2粒の焼結鉱を収容してそれぞれのセルについて測定を行った。また別途、焼結鉱をセルに収容しない状態においてサンプル以外のガス吸着量の測定を行った。測定したサンプル以外のガス吸着量に基づき、焼結鉱の正味のガス吸着量を算出し、正味のガス吸着量に基づき算出される比表面積を求めた。これにより、1種類の焼結鉱(No.1~No.3のうち1種類)につき、合計6粒の焼結鉱の比表面積を測定した。セルごとの正味のガス吸着量に基づき算出される比表面積の平均値を算出し、その焼結鉱の比表面積とした。以上の測定をNo.1~No.3の3種類の焼結鉱についてそれぞれ行い、No.1~No.3の焼結鉱の比表面積をそれぞれ求めた。
【0038】
(実施例3)
測定装置Aを用いるとともに、吸着ガスとしてクリプトンガスを用い、ガス吸着法によって求めた吸着等温線に基づいて焼結鉱の比表面積を測定した。焼結鉱No.1~No.3の粒径は、篩網を用いて調整し、15~19mmとした。1種類の焼結鉱(No.1~No.3のうちの1種類)を3つのセル1に収容した。1つのセル1には1粒の焼結鉱を収容してそれぞれ測定を行った。1種類の焼結鉱(No.1~No.3のうちの1種類)につき、合計6粒の焼結鉱の比表面積を測定した。実施例1と同様に各セルの測定値から比表面積の平均値を求めて、その焼結鉱の比表面積とした。以上の測定をNo.1~No.3の3種類の焼結鉱についてそれぞれ行い、No.1~No.3の焼結鉱の比表面積をそれぞれ求めた。
【0039】
(実施例4)
測定装置Aを用いるとともに、吸着ガスとしてクリプトンガスを用い、ガス吸着法によって正味のガス吸着量を求めて得た差分吸着等温線に基づいて焼結鉱の比表面積を測定した。焼結鉱No.1~No.3の粒径は、篩網を用いて調整し、15~19mmとした。1種類の焼結鉱(No.1~No.3のうちの1種類)を3つのセル1に収容した。1つのセル1には1粒の焼結鉱を収容してそれぞれ測定を行った。また別途、焼結鉱をセルに収容しない状態においてサンプル以外のガス吸着量の測定を行った。測定したサンプル以外のガス吸着量に基づき、焼結鉱の正味のガス吸着量を算出し、正味のガス吸着量に基づき算出される比表面積を求めた。1種類の焼結鉱(No.1~No.3のうち1種類)につき、合計6粒の焼結鉱の比表面積を測定した。セルごとの正味のガス吸着量に基づき算出される比表面積の平均値を算出し、その焼結鉱の比表面積とした。以上の測定をNo.1~No.3の3種類の焼結鉱についてそれぞれ行い、No.1~No.3の焼結鉱の比表面積をそれぞれ求めた。
【0040】
(比較例1)
測定装置Bを用いるとともに、吸着ガスとして窒素ガスを用いることにより、ガス吸着法に基づいて焼結鉱の比表面積を測定した。焼結鉱No.1~No.3の粒径は、0.15mm未満とした。ここで、15~19mmの焼結鉱(1粒)を粉砕し、この粉砕物を篩い分けすることによって、粒径が0.15mm未満である焼結鉱を用意した。粒径が0.15mm未満である焼結鉱の量は、すべての焼結鉱No.1~No.3について同等とした。3種類の焼結鉱No.1~No.3は、3つのセル1にそれぞれ収容した。
【0041】
(比較例2)
測定装置Bを用いるとともに、吸着ガスとして窒素ガスを用いることにより、ガス吸着法に基づいて焼結鉱の比表面積を測定した。焼結鉱No.1~No.3の粒径は、0.15~0.25mmとした。ここで、15~19mmの焼結鉱(1粒)を粉砕し、この粉砕物を篩い分けすることによって、粒径が0.15~0.25mmである焼結鉱を用意した。粒径が0.15~0.25mmである焼結鉱の量は、すべての焼結鉱No.1~No.3について同等とした。3種類の焼結鉱No.1~No.3は、3つのセル1にそれぞれ収容した。
【0042】
(比較例3)
測定装置Aを用いるとともに、吸着ガスとして窒素ガスを用いることにより、ガス吸着法に基づいて焼結鉱の比表面積を測定した。焼結鉱No.1~No.3の粒径は、15~19mmとした。1種類の焼結鉱(No.1~No.3のうち1種類)を3つのセル1に収容した。1つのセル1には1粒の焼結鉱をそれぞれ収容した。1種類の焼結鉱(No.1~No.3のうち1種類)につき、合計6粒の焼結鉱の測定を行って比表面積を求めようとした。しかし、No.1~No.3のいずれの焼結鉱についても比表面積を測定することができなかった。比較例3では、吸着ガス量が少なすぎたため、正常な吸着等温線およびBETプロットを得ることができず、比表面積を測定することができなかった。
【0043】
(比較例4)
測定装置Aを用いるとともに、吸着ガスとしてクリプトンガスを用い、ガス吸着法によって求めた吸着等温線に基づいて焼結鉱の比表面積を測定した。焼結鉱No.1~No.3の粒径は、篩網を用いて調整し、5~10mmとした。3種類の焼結鉱(No.1~No.3)を3つのセル1にそれぞれ収容し、1つのセル1には15粒の焼結鉱を収容して測定を行った。各セルの測定結果から、それぞれの焼結鉱(No.1~No.3)について比表面積を求めた。
【0044】
(比較例5)
測定装置Aを用いるとともに、吸着ガスとしてクリプトンガスを用い、ガス吸着法によって正味のガス吸着量を求めて得た差分吸着等温線に基づいて焼結鉱の比表面積を測定した。焼結鉱No.1~No.3の粒径は、篩網を用いて調整し、5~10mmとした。3種類の焼結鉱(No.1~No.3)を3つのセル1にそれぞれ収容し、1つのセル1には15粒の焼結鉱を収容してそれぞれ測定を行った。また別途、焼結鉱をセルに収容しない状態においてサンプル以外のガス吸着量の測定を行った。測定したサンプル以外のガス吸着量に基づき、焼結鉱の正味のガス吸着量をそれぞれ算出し、正味のガス吸着量に基づき算出される比表面積をそれぞれの焼結鉱(No.1~No.3)について求めた。
【0045】
(参考例1)
非特許文献1に記載のPAC法に基づいて、各焼結鉱No.1~No.3の気孔率を測定した。各焼結鉱No.1~No.3の粒径は、実施例2と同様に15~19mmとした。PAC法の測定条件は、非特許文献1に記載の測定条件とした。
【0046】
(参考例2)
水銀圧入法に基づいて、各焼結鉱No.1~No.3の比表面積を測定した。ここで、水銀ポロシメータとしてAutoPore model 9620(マイクロメリティックス社製)を用い、各焼結鉱No.1~No.3の粒径は、実施例2と同様に15~19mmとした。
【0047】
上述した測定条件及び測定結果を下記表1に示す。焼結鉱No.1~No.3に示す値は、指標の値であり、実施例1~4における比表面積は、上述したとおりに平均値である。
【0048】
【表1】
【0049】
被還元性試験方法(JIS M8713)によれば、焼結鉱No.3、焼結鉱No.2、焼結鉱No.1の順に、還元率JIS-RIが高くなった。つまり還元率JIS-RIは、焼結鉱No.3<焼結鉱No.2<焼結鉱No.1であった。焼結鉱の比表面積が大きいほど、被還元性が良好となり、還元率JIS-RIが高くなるため、還元率JIS-RIを考慮すると、焼結鉱No.3、焼結鉱No.2、焼結鉱No.1の順に、比表面積が大きくなることになる。つまり、還元率JIS-RIの結果に基づくと、比表面積は焼結鉱No.3<焼結鉱No.2<焼結鉱No.1となる。
【0050】
比較例1では、焼結鉱No.2、焼結鉱No.3、焼結鉱No.1の順に、比表面積が大きくなった。このため、焼結鉱No.1~No.3について、比較例1で測定された比表面積と、還元率JIS-RIとの間に相関は認められなかった。この理由は、焼結鉱を粉砕したことによるものと考えられ、比較例1で測定された比表面積は、粉砕前の焼結鉱の気孔構造を正確に反映していないものと推察される。
【0051】
比較例2では、焼結鉱No.3、焼結鉱No.1、焼結鉱No.2の順に、比表面積が大きくなった。このため、焼結鉱No.1~No.3について、比較例2で測定された比表面積と、還元率JIS-RIとの間に相関は認められなかった。この理由は、焼結鉱を粉砕したことによるものと考えられ、比較例2で測定された比表面積は、粉砕前の焼結鉱の気孔構造を正確に反映していないものと推察される。
【0052】
比較例4および比較例5では、焼結鉱No.3、焼結鉱No.2、焼結鉱No.1の順に、比表面積が大きくなった。このため、焼結鉱No.1~No.3について、比較例4および比較例5で測定された比表面積と、還元率JIS-RIとの間に相関が認められた。図3には、比較例4で測定された比表面積(BET比表面積)及び還元率JIS-RIの関係を示すが、相関係数Rは0.7917であった。図4には、比較例5で測定された比表面積(BET比表面積)及び還元率JIS-RIの関係を示すが、相関係数Rは0.8995であった。焼結鉱No.1~No.3の直径が10mm未満である場合には、図3および図4から分かるように、焼結鉱No.1~No.3の種類に応じた比表面積の差が発生しにくいことが分かった。また、粒径が5~10mmである焼結鉱については、焼結鉱の製造時に充分な加熱を受けずに同化しなかった原料成分(鉄鉱石や石灰石など)を多く含む。これが比表面積を測定する上での大きな誤差要因になると推察される。
【0053】
参考例1では、焼結鉱No.2、焼結鉱No.3、焼結鉱No.1の順に、気孔率が大きくなった。図5には、参考例1で測定された気孔率及び還元率JIS-RIの関係を示すが、相関係数Rは0.5285であった。図5から分かるように、焼結鉱No.1~No.3について、参考例1で測定された気孔率と、還元率JIS-RIとの間に相関は認められなかった。この理由は、参考例1の測定方法では、気孔径を考慮していないためであると考えられる。
【0054】
参考例2では、焼結鉱No.3、焼結鉱No.1、焼結鉱No.2の順に、比表面積が大きくなった。図6には、参考例2で測定された比表面積及び還元率JIS-RIの関係を示すが、相関係数Rは0.0729であった。図6から分かるように、焼結鉱No.1~No.3について、参考例2で測定された比表面積と、還元率JIS-RIとの間に相関は認められなかった。この理由は、焼結鉱に存在するインクボトル型気孔によって、比表面積の測定に誤差が発生したためであると考えられる。
【0055】
実施例1~4では、焼結鉱No.3、焼結鉱No.2、焼結鉱No.1の順に、比表面積が大きくなった。図7には、実施例1で測定された比表面積(BET比表面積)及び還元率JIS-RIの関係を示し、相関係数Rは0.9615であった。図8には、実施例2で測定された比表面積(BET比表面積)及び還元率JIS-RIの関係を示し、相関係数Rは0.9887と更に高くなった。また、図9には、実施例3で測定された比表面積(BET比表面積)及び還元率JIS-RIの関係を示し、相関係数Rは0.9993であった。図10には、実施例4で測定された比表面積(BET比表面積)及び還元率JIS-RIの関係を示し、相関係数Rは0.9996と更に高くなった。
【0056】
図7図10から分かるように、焼結鉱No.1~No.3について、実施例1~4で測定された比表面積と、還元率JIS―RIとの間に相関が認められた。また、実施例1~4の相関係数(R=0.9615,0.9887,0.9993,0.9996)は、比較例4,5の相関係数(R=0.7917,0.8995)よりも高く、実施例1~4で測定された比表面積及び還元率JIS-RIの相関がより高いことが分かった。このため、比表面積の測定対象となる焼結鉱について、実施例のように直径が10mm以上である焼結鉱を用いることにより、還元率JIS-RIの測定結果に合ったより正確な比表面積を把握しやすくなり、焼結鉱の比表面積をより正確に測定できると考えられる。
【0057】
また、吸着ガスがNガスである比較例3の場合には、上述のように吸着ガス量が少なすぎたため、正常な吸着等温線およびBETプロットを得ることができず、比表面積を測定することができなかった。一方で、粒径が同じ実施例3の場合にはクリプトンガスを用いることにより比表面積をより正確に測定することができた。
【符号の説明】
【0058】
1:セル、2:試料室、3:測定器、31:吸着ガス供給ユニット、
32:ガス圧測定ユニット、4:冷却ユニット、5:制御ユニット、100:測定装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10