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特開2023-31153線状電磁デバイス及び巻線状電磁デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023031153
(43)【公開日】2023-03-08
(54)【発明の名称】線状電磁デバイス及び巻線状電磁デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01F 30/10 20060101AFI20230301BHJP
   H01F 17/06 20060101ALI20230301BHJP
   H01F 27/00 20060101ALI20230301BHJP
   H01F 27/34 20060101ALI20230301BHJP
   H01F 27/28 20060101ALI20230301BHJP
   H01F 27/24 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
H01F30/10 A
H01F30/10 C
H01F17/06 A
H01F17/06 D
H01F17/06 F
H01F27/00 160
H01F27/34 160
H01F27/28 K
H01F27/24 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021136678
(22)【出願日】2021-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】592032636
【氏名又は名称】学校法人トヨタ学園
(71)【出願人】
【識別番号】597110836
【氏名又は名称】丸嘉工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104776
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100119194
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 明夫
(72)【発明者】
【氏名】藤▲崎▼ 敬介
【テーマコード(参考)】
5E043
5E058
5E070
【Fターム(参考)】
5E043AA01
5E043AB05
5E043BA01
5E058BB09
5E058BB19
5E070AA11
5E070AB07
5E070BA14
5E070BA20
5E070BB10
5E070CA13
(57)【要約】
【課題】漏れ磁場が小さく磁気結合がよい電磁デバイスを提供する。
【解決手段】この線状電磁デバイス1は、複数本の一次銅線2と、複数本の二次銅線3と、珪素鋼で形成された線状磁性部材としての鋼線4とを有し、一次銅線2、二次銅線3及び鋼線4は、エナメルで被膜されて絶縁されており、複数本の一次銅線2と複数本の二次銅線3とが束ねられ、複数本の一次銅線2と複数本の二次銅線3との束の周囲には、鋼線4が巻き付けられている。この複数本の一次銅線2に交流電流が流れると一次銅線2の周辺に交流的に変化する磁場が生じ、この磁場により鋼線4に磁束が発生し、この磁束の変化に起因する電磁誘導によって複数本の二次銅線3には、交流電圧が発生する。また、この線状電磁デバイス1を巻回して巻線状電磁デバイス20とした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次電線に流れる交流電流に基づいて、二次電線に交流電圧が発生する線状電磁デバイスであって、
導電性材料で形成された一本以上の前記一次電線と、
導電性材料で形成された一本以上の前記二次電線と、
強磁性材料で形成された線状磁性部材とを有し、
前記一次電線、前記二次電線及び前記線状磁性部材は、絶縁材料で被膜されており、
一本以上の前記一次電線と一本以上の前記二次電線とが束ねられ、一本以上の前記一次電線と一本以上の前記二次電線との束の周囲には、前記線状磁性部材が巻き付けられており、
一本以上の前記一次電線に交流電流が流れると前記一次電線の周辺に交流的に変化する磁場が生じ、該磁場により前記線状磁性部材に磁束が発生し、該磁束の変化に起因する電磁誘導によって一本以上の前記二次電線に交流電圧が発生することを特徴とする線状電磁デバイス。
【請求項2】
前記一次電線と前記二次電線は、銅で形成されており、
前記線状磁性部材は、断面形状が略円形又は略四角形の鉄の合金で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の線状電磁デバイス。
【請求項3】
前記線状磁性部材の略円形の断面形状の直径又は略四角形の断面形状の短辺の長さが、浸透深さ以下であることを特徴とする請求項2に記載の線状電磁デバイス。
【請求項4】
一本以上の前記一次電線と一本以上の前記二次電線との前記束は、ツイストされていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の線状電磁デバイス。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか一項に記載されている線状電磁デバイスを巻回して円筒形状に形成されていることを特徴とする巻線状電磁デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高周波変圧に使用できる電磁デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電力用半導体素子を用いてスイッチング動作を行うことにより、電力変換や制御を行うパワーエレクトロニクスでは、小型軽量化や制御特性向上および大電力化などのため、スイッチング動作周波数を高周波化することが求められている。最近のGaN(窒化ガリウム)やSiC(炭化珪素)などの半導体デバイスの研究により、1MHz程度の高周波動作が実現されつつある。パワーエレクトロニクス回路の変圧器やモータに使用される磁心には、損失を低減するため、積層鉄心が使用される。積層鉄心は、鉄などの強磁性体の薄板が、電気絶縁層を間に挟んで多数積層された構造をなしている。強磁性体の薄板の使用により、積層鉄心に交流磁界が印加されたときに発生する渦電流損が小さくなり、高いスイッチング周波数で回路を動作させることができる。
【0003】
例えば、特許文献1には、板厚0.05mmのけい素鋼板の短冊積層コアを有する高周波トランスが記載されており、周波数が1kHz以上で動作する。鉄心に使われているけい素鋼板は、板厚方向表層のSi(珪素)濃度が中心層のSi濃度より0.3%以上高くなっており、これにより高周波鉄損が改善されている。トランス(変圧器)は、一次コイルに印加される交流電圧に基づいてこの一次コイルに交流電流が流れ、この交流電流により鉄心に磁束が生じ、この磁束が二次コイルに鎖交することで誘導起電圧が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-307351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されているトランスのように、鉄心に巻線が巻きつけられた構造では、漏れ磁場が生じ、一次コイルに流れる交流電流によって発生する磁場の一部が漏れてしまい、二次コイルに磁束が鎖交しないという現象がおこる。この漏れ磁場による磁気結合の悪化により、損失が生ずるという問題がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、漏れ磁場が小さく磁気結合がよい電磁デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、一次電線に流れる交流電流に基づいて、二次電線に交流電圧が発生する線状電磁デバイスであって、導電性材料で形成された一本以上の前記一次電線と、導電性材料で形成された一本以上の前記二次電線と、強磁性材料で形成された線状磁性部材とを有し、前記一次電線、前記二次電線及び前記線状磁性部材は、絶縁材料で被膜されており、一本以上の前記一次電線と一本以上の前記二次電線とが束ねられ、一本以上の前記一次電線と一本以上の前記二次電線との束の周囲には、前記線状磁性部材が巻き付けられており、一本以上の前記一次電線に交流電流が流れると前記一次電線の周辺に交流的に変化する磁場が生じ、該磁場により前記線状磁性部材に磁束が発生し、該磁束の変化に起因する電磁誘導によって一本以上の前記二次電線に交流電圧が発生することを特徴とする。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の構成に加えて、前記一次電線と前記二次電線は、銅で形成されており、前記線状磁性部材は、断面形状が略円形又は略四角形の鉄の合金で形成されていることを特徴とする。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の構成に加えて、前記線状磁性部材の略円形の断面形状の直径又は略四角形の断面形状の短辺の長さが、浸透深さ以下であることを特徴とする。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3の何れか一項に記載の構成に加えて、一本以上の前記一次電線と一本以上の前記二次電線との前記束は、ツイストされていることを特徴とする。
【0011】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至4の何れか一項に記載されている線状電磁デバイスを巻回して円筒形状に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、一本以上の一次電線と一本以上の二次電線とが束になっているため、漏れ磁場が極めて少なく高い磁気結合が得られる。また、形状が線状になっているため、曲げたり、撓めたりできる。すなわち、可撓性を有する。また、一次電線に流れる交流電流に基づいて、二次電線に交流電圧が発生するため、電圧変換用に使用することができる。線状磁性部材として断面形状が極薄い細線を使用することにより、高周波でも渦電流損失が抑えられ、高周波用に使用できる。
【0013】
請求項2の発明によれば、線状磁性部材の断面形状が略円形又は略四角形に形成されているため、製造が容易であり、生産性が向上する。
【0014】
請求項3の発明によれば、線状磁性部材の略円形の断面形状の直径又は略四角形の断面形状の短辺の長さが、浸透深さ以下になっているため、渦電流による損失が低減される。
【0015】
請求項4の発明によれば、一本以上の一次電線と一本以上の二次電線との束が、ツイストされているため、一本一本がばらけず、まとまっており、取り扱いが容易になる。
【0016】
請求項5の発明によれば、線状電磁デバイスが巻回されて形成されているため、長い線状電磁デバイスを巻くことによりコンパクトにできる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】この発明の実施の形態1に係る線状電磁デバイスの構造を説明する図であり、(a)は概略外観図、(b)は線状電磁デバイスを太さ方向に沿う面で切断した概略断面図、(c)は線状電磁デバイスを長さ方向に沿う面で切断した概略断面図、(d)は一次銅線と二次銅線の周囲に巻き付けられている鋼線を示す図である。
図2】同実施の形態1に係る線状電磁デバイスの製造装置を示す概略図である。
図3】この発明の実施の形態2に係る線状電磁デバイスの構造を説明する図であり、(a)は概略外観図、(b)は線状電磁デバイスを太さ方向に沿う面で切断した概略断面図、(c)は線状電磁デバイスを長さ方向に沿う面で切断した概略断面図、(d)は一次銅線と二次銅線の周囲に巻き付けられている鋼線を示す図である。
図4】この発明の実施の形態3に係る線状電磁デバイスの構造を説明する図であり、(a)は概略外観図、(b)は線状電磁デバイスを太さ方向に沿う面で切断した概略断面図、(c)は線状電磁デバイスを長さ方向に沿う面で切断した概略断面図、(d)は一次銅線と二次銅線の周囲に巻き付けられている鋼線を示す図である。
図5】この発明の実施の形態4に係る巻線状電磁デバイスの構造を説明する図であり、(a)は概略外観図、(b)は巻線状電磁デバイスを円筒形状の長さ方向に沿う面で切断した概略断面図である。
図6】同実施の形態4に係る巻線状電磁デバイスの巻回の方法について説明する図である。
図7】同実施の形態4に係る巻線状電磁デバイスの使用法の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[発明の実施の形態1]
この発明の実施の形態1について、図1図2を用いて説明する。
<線状電磁デバイス>
図1(a)に、本実施の形態1に係る線状電磁デバイス1の概略外観図を示す。
【0019】
この線状電磁デバイス1は、「導電性材料」である銅で形成された一本以上の「一次電線」としての一次銅線2と、「導電性材料」である銅で形成された一本以上の「二次電線」としての二次銅線3と、「強磁性材料」の「鉄の合金」である珪素鋼で形成された「線状磁性部材」としての鋼線4で構成されている。また、一次銅線2の表面5、二次銅線3の表面6及び鋼線4の表面7は、エナメルなどの「絶縁材料」で被膜されており、一次銅線2、二次銅線3及び鋼線4は、それぞれ絶縁されている。
【0020】
そして、一本以上の一次銅線2と一本以上の二次銅線3とが束ねられ、一本以上の一次銅線2と一本以上の二次銅線3との束の周囲に、鋼線4が巻き付けられた構造をなしている。鋼線4は、一次銅線2と二次銅線3の長さ方向に沿って、一次銅線2と二次銅線3の束の全長を覆うように巻き付けられている。また、一次銅線2と二次銅線3の束の両端部では、一次銅線2と二次銅線3がむき出しになっている。
【0021】
図1(b)は線状電磁デバイス1を太さ方向に沿う面で切断した概略断面図である。この図の中央部の複数の白色の円は、一次銅線2の断面を示し、複数の灰色の円は、二次銅線3の断面を示している。実際には、一次銅線2と二次銅線3とは、同一の部材を使用することができ、見かけ上の相違はないが、説明のため、一次銅線2を白色、二次銅線3を灰色として表現している。複数の一次銅線2と複数の二次銅線3の束の周囲を、鋼線4が何重にも積層するように取り巻いている。
【0022】
動作周波数が1MHz程度の高周波を想定すると、一次銅線2と二次銅線3の直径を50μm程度とし、鋼線4の直径を3μm程度としてもよく、また、線状電磁デバイス1の直径Dを、300μm程度としてもよい。
【0023】
同図に示すように、複数の一次銅線2と複数の二次銅線3は、満遍なく分散して配置するほうが好ましい。これは、一次銅線2と二次銅線3とを密に近接させて配置することにより、漏れ磁場が極めて小さくなり磁気結合がより高くなるためである。
【0024】
また、一次銅線2の本数と二次銅線3の本数の比率は、任意に定めることができる。一次銅線2と二次銅線3は、あらかじめ定まっているものでなく、使用時に線状電磁デバイス1の銅線について、どの銅線を一次銅線2として使用し、その他の銅線を二次銅線3として使用するかを決めるようにしてもよい。
【0025】
図1(c)は、この線状電磁デバイス1を長さ方向に沿う面で切断した概略断面図である。複数の一次銅線2と複数の二次銅線3の束の周囲を、一次銅線2と二次銅線3の長さ方向と直交する面内に鋼線4が何重にも積層するように、一次銅線2と二次銅線3の長さ方向に沿って隙間なく密に巻き付けられている。この図では、複数の一次銅線2と複数の二次銅線3が平行に配置されているが、複数の一次銅線2と複数の二次銅線3との束を捩じり、ツイストさせるようにしてもよい。ツイストすることにより、一次銅線2と二次銅線3とがばらけなくなり取り扱いが容易になる。
【0026】
図1(a)~(c)に示す複数の一次銅線2に交流電流が流れると、一次銅線2の周辺に交流的に変化する磁場が生ずる。この磁場により鋼線4に磁束が発生し、この磁束の交流的な変化に起因して、複数の二次銅線3には、電磁誘導により交流の誘導起電圧が発生する。このため、この線状電磁デバイス1は、高周波変圧用デバイスとして使用できる。また、この線状電磁デバイス1は、一次銅線2と二次銅線3とが絶縁されているため、変圧器に使用した場合に、絶縁やノイズ遮断の効果を示す。
【0027】
図1(d)は鋼線4を示す図である。この鋼線4は、断面形状が略円形の一本の細線となっている。一次銅線2に電流が流れると、鋼線4に磁束が生ずるが、それに伴い、この鋼線4には渦電流が流れる。この渦電流により損失が発生するため、渦電流の発生を抑制する目的で、鋼線4の太さを細くする。例えば、鋼線4の直径を、浸透深さδ以下になるようにしてもよい。
【0028】
浸透深さδとは、渦電流が流れる際、表面に流れる電流の大きさに対して、自然対数eの逆数(1/e)である約0.368倍となる大きさの電流が流れる深さのことである。浸透深さδは、周波数f(Hz)、強磁性体の導電率σ(S/m)、強磁性体の周波数fでの等価な磁気透磁率μ(H/m)から算出され、円周率πとすると、(πfμσ)-1/2となる。
【0029】
ここで、強磁性体の周波数fでの等価な磁気透磁率μは、強磁性体の周波数fでの比透磁率μと、真空の透磁率μとの積として求められる。
【0030】
鉄の周波数fに対する浸透深さδを表1に示す。
【0031】
【表1】
鉄の浸透深さδは、周波数fが、100kHzのとき7μm程度、200kHzのとき5μm程度、1MHz(1000kHz)のとき4μm程度、10MHz(10000kHz)のとき1μm程度となる。
【0032】
上述したように、1MHz程度の高周波動作を想定する場合、鋼線4の直径を、浸透深さδ以下の3μm程度にすると、渦電流の発生が抑制され、低損失となる。このため、高周波化が可能となる。
【0033】
この鋼線4は、例えば、珪素鋼で形成することができる。珪素鋼は、強磁性体である鉄に珪素を含有させた合金である。珪素を含ませることにより、電気抵抗率が増加するため、渦電流が小さくなり、渦電流損が低減される。珪素鋼に含有する珪素の量は、重量割合で2%以上であることが好ましい。特に、珪素を6.5%含有する珪素鋼は、磁歪定数がほぼ0になり、応力感受性が低く、さらに好ましい。
【0034】
なお、線状電磁デバイス1を構成する材料は、銅線や珪素鋼で形成された鋼線に限定されず、銅線に代えて、その他の導電性材料で形成されている線材を使用してもよいし、珪素鋼で形成された鋼線に代えて、その他の強磁性材料で形成されている線材を使用してもよい。
【0035】
また、線状電磁デバイス1を構成する一次銅線2と二次銅線3は、上述のようにそれぞれ複数本で構成してもよいし、一本として構成してもよい。
【0036】
また、一次銅線2、二次銅線3及び鋼線4は、エナメルの絶縁被膜により、それぞれが絶縁されているが、一次銅線2、二次銅線3及び鋼線4の絶縁膜は、エナメルに限らず、その他の絶縁材料で構成してもよい。
【0037】
また、一本の鋼線4を一次銅線2と二次銅線3の束の全長に巻き付けるようにしてもよいし、複数本の鋼線4で全長を巻き付けるようにしてもよい。
<線状電磁デバイスの製造方法>
次に、この線状電磁デバイス1の製造方法について説明する。図2は、線状電磁デバイス1の製造装置16を示す概略図である。
【0038】
この製造装置16は、一次銅線2が巻き付けられている一次銅線ドラム10と、二次銅線3が巻き付けられている二次銅線ドラム11と、複数本の一次銅線2と複数本の二次銅線3を束ねるロール13と、製造された線状電磁デバイス1を巻き取る巻取ドラム12と、鋼線4が巻き付けられている鋼線ドラム14と、複数本の一次銅線2と複数本の二次銅線3の束の周囲に鋼線4を巻き付ける巻付装置15とを含むように構成されている。
【0039】
一次銅線ドラム10には、一本の一次銅線2が巻き付けられている。同様に、二次銅線ドラム11には、一本の二次銅線3が巻き付けられている。そして、一次銅線ドラム10の数と二次銅線ドラム11の数は、線状電磁デバイス1を構成する複数本の一次銅線2の数と複数本の二次銅線3の数にそれぞれ対応している。
【0040】
対向する2個のロール13は、一次銅線2と二次銅線3を束にするように作用する。巻付装置15は、鋼線ドラム14から鋼線4を取り出し、鋼線4を一次銅線2と二次銅線3の束の周囲に巻き付ける機構を備えており、この装置15によって線状電磁デバイス1の形態に構成される。最後に、このように製造された線状電磁デバイス1が、巻取ドラム12に巻き取られる。
<本発明の実施の形態1の効果>
本発明の実施の形態1によれば、複数本の一次銅線2と複数本の二次銅線3とが束になっているため、漏れ磁場が極めて少なく高い磁気結合が得られる。また、線状電磁デバイス1の形状が線状になっているため、曲げたり、撓めたりできる。すなわち、可撓性を有する。また、一次銅線2に流れる交流電流に基づいて、二次銅線3に交流電圧が発生するため、電圧変換用に使用することができる。鋼線4には断面形状が極薄い細線が用いられており、高周波でも渦電流損失が小さく抑えられ、高周波用に使用できる。
【0041】
また、本実施形態1によれば、鋼線4の断面形状が略円形に形成されているため、製造が容易であり、生産性が向上する。
【0042】
また、本実施形態1によれば、鋼線4の略円形の断面形状の直径が、浸透深さ以下になっているため、渦電流による損失が低減される。
【0043】
また、本実施形態1によれば、複数本の一次銅線2と複数本の二次銅線3との束が、ツイストされているため、一本一本がばらけず、まとまっており、取り扱いが容易になる。
【0044】
[発明の実施の形態2]
次に、この発明の実施の形態2について、図3を用いて説明する。なお、上述した本発明の実施の形態1と同一又は対応する構成には、同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0045】
図3は、本発明の実施の形態2に係る線状電磁デバイス1Aの構造を説明する図であり、(a)は概略外観図、(b)はこの線状電磁デバイス1Aを太さ方向に沿う面で切断した概略断面図、(c)は線状電磁デバイス1Aを長さ方向に沿う面で切断した概略断面図、(d)は一次銅線2と二次銅線3の周囲に巻き付けられている鋼線4Aを示す図である。
【0046】
鋼線4Aが、一次銅線2と二次銅線3の束の長さ方向に沿って隙間なく密に巻き付けられており、一次銅線2と二次銅線3の束の全長を覆っている。
【0047】
この実施形態2の線状電磁デバイス1Aと、上述の実施形態1の線状電磁デバイス1とを比較すると、鋼線4Aの断面形状が相違している。図3(c)及び(d)に示すように、鋼線4Aの断面形状は略四角形をしており、鋼線4Aは、薄板状の一本の細線となっている。1MHz程度の動作周波数を想定する場合、この鋼線4Aの略四角形の断面形状の短辺の長さ、すなわち、厚さは、3μm程度にするとよい。この鋼線4Aの板厚は、浸透深さに基づいて定めるようにしてもよい。また、鋼線4Aの略四角形の断面形状の長辺の長さは、板厚に比べて長くしてもよく、例えば、50μm、100μm、500μm、1mm、3mm、5mmなどとしてもよい。
【0048】
鋼線4Aの断面形状を略四角形にすることにより、例えば、略四角形の長辺の長さを3mmにすると、一次銅線2と二次銅線3の束の周囲に一巻きすれば、3mm厚の鋼線4Aの層を形成することができる。一方、上述の実施形態1の鋼線4のように、例えば、略円形の断面形状の直径を3μmとすると、3mm厚の鋼線4の層を形成するには、一次銅線2と二次銅線3の束の周囲に1000回積層するように巻き付ける必要が生ずる。このように、実施形態1の鋼線4に比較して、実施形態2の鋼線4Aを使用する方が、生産性がより向上する。
【0049】
本発明の実施の形態2の効果としては、実施の形態1とほぼ同様の効果を生ずる。
【0050】
[発明の実施の形態3]
次に、この発明の実施の形態3について、図4を用いて説明する。なお、上述した実施形態1と実施形態2と同一又は対応する構成には、同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0051】
図4は、本発明の実施の形態3に係る線状電磁デバイス1Bの構造を説明する図であり、(a)は概略外観図、(b)はこの線状電磁デバイス1Bを太さ方向に沿う面で切断した概略断面図、(c)は線状電磁デバイス1Bを長さ方向に沿う面で切断した概略断面図、(d)は一次銅線2と二次銅線3の周囲に巻き付けられている鋼線4Bを示す図である。
【0052】
鋼線4Bが、一次銅線2と二次銅線3の束の長さ方向に沿って隙間なく密に巻き付けられている。
【0053】
この実施形態3の線状電磁デバイス1Bと、実施形態1の線状電磁デバイス1及び実施形態2の線状電磁デバイス1Aとの相違は、鋼線4Bである。実施形態1の鋼線4と実施形態2の鋼線4Aは、一本の長い細線になっていたが、この実施形態3の鋼線4Bは、薄板状の線状部材を円環状に形成した形態となっている。
【0054】
図4(c)及び(d)に示すように、鋼線4Bの断面形状は略四角形をしており、鋼線4Bは、薄板状の線状部材を円環状につないだ円環形状となっている。1MHz程度の動作周波数を想定する場合、この鋼線4Bの略四角形の断面形状の短辺の長さ、すなわち、厚さは、3μm程度にするとよい。この鋼線4Bの板厚は、浸透深さに基づいて定めるようにしてもよい。また、鋼線4Bの略四角形の断面形状の長辺の長さは、板厚に比べて長くしてもよく、例えば、50μm、100μm、500μm、1mm、3mm、5mmなどとしてもよい。
【0055】
多数の鋼線4Bを用意して、鋼線4Bの円環の中央の穴部に、一次銅線2と二次銅線3の束の全長にわたり貫通させることにより、線状電磁デバイス1Bが製造される。
【0056】
本発明の実施の形態3の効果としては、実施の形態1及び実施の形態2とほぼ同様の効果を生ずる。
【0057】
[発明の実施の形態4]
次に、この発明の実施の形態4について、図5図7を用いて説明する。なお、上述した本発明の実施の形態1と同一又は対応する構成には、同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
<巻線状電磁デバイス>
図5は、この発明の実施の形態4に係る巻線状電磁デバイス20の概略外観図である。
【0058】
この巻線状電磁デバイス20は、上述の実施形態1の線状電磁デバイス1をボビン21に巻回して円筒形状に形成したものである。もちろん、実施形態2の線状電磁デバイス1Aや、実施形態3の線状電磁デバイス1Bをボビン21に巻き付けて巻線状電磁デバイスを形成してもよい。
【0059】
図5(b)は、この巻線状電磁デバイス20を円筒形状の長さ方向に沿う面で切断した概略断面図である。ボビン21には、線状電磁デバイス1が何重にも隙間なく積層されるように巻き付けられている。このように、長い線状電磁デバイス1を隙間なく巻き付けた状態にすることで、コンパクトにできる。
【0060】
線状電磁デバイス1のボビン21への巻回の方法は、図6(a)に示すように、ボビン21の軸方向にボビン21の軸に沿って上から下に向けて巻き付け、ボビン21の下端に達したところで、すでに巻き付けた線状電磁デバイス1の上に重ねるように上方向に巻き付けていき、上端に達したところで下方向に巻き付けていくようにしてもよい。また、図6(b)に示すように、ボビン21の半径方向に積層させるように線状電磁デバイス1を巻き付けていってもよい。線状電磁デバイス1の巻回の方法は、巻回されていれば、どのように巻き付けてもよい。また、巻き付けた巻線状電磁デバイス20の外観の形状は、円筒形状に限らず、例えば、円筒側面の中央部が膨らんだ形状や、中央部がへこんだ形状であってもよい。
<巻線状電磁デバイスの使用方法>
図7は、本実施の形態4に係る巻線状電磁デバイス20の使用法の例を示す図である。この例では、DC-DCコンバータ35の変圧器として、巻線状電磁デバイス20を使用している。DC-DCコンバータ35とは、ある直流電源から、異なる電圧の直流電源を構成するために使用される電源回路のことである。
【0061】
図7に示すように、このDC-DCコンバータ35は、直流電圧を交流電圧に変換するインバータ31と、巻線状電磁デバイス20と、交流電圧を整流して直流電圧を出力するコンバータ32とから構成されている。そして、巻線状電磁デバイス20の複数本の一次銅線2は、インバータ31の出力端子に接続され、巻線状電磁デバイス20の複数本の二次銅線3は、コンバータ32の入力端子に接続されている。
【0062】
また、この図では、このDC-DCコンバータ35の入力側に直流電源30が接続され、出力側に負荷33が接続されている。直流電源30からの直流電圧V1が、インバータ31に入力されると、インバータ31では、スイッチング回路により交流電圧に変換される。この変換された交流電圧が、巻線状電磁デバイス20の一次銅線2に印加されると、一次銅線2には交流電流が流れる。この一次銅線2に流れる交流電流により、一次銅線2の周辺に交流的に変化する磁場が生ずる。この磁場により鋼線4に磁束が発生し、この磁束の交流的な変化に起因して、二次銅線3には、電磁誘導により交流の誘導起電圧が発生する。二次銅線3は、コンバータ32の入力端子に接続されているため、コンバータ32には、交流電圧が入力される。このコンバータ32では、整流回路や平滑回路により入力された交流電圧を直流電圧V2に変換する。コンバータ32の出力端子には、負荷33が接続されており、この負荷33は、コンバータ32からの直流電圧V2を電源電圧として動作する。
【0063】
このように、巻線状電磁デバイス20を変圧器として使用する場合、一次銅線2と二次銅線3が絶縁されているため、絶縁やノイズ遮断の効果を示す。
【0064】
また、この巻線状電磁デバイス20は、高周波特性に優れているため、インバータ31から入力される交流電圧の周波数が例えば、1MHz程度の高周波であっても動作する。このように高周波化することにより、小型化も実現できる。
<本発明の実施の形態4の効果>
本発明の実施の形態4によれば、実施の形態1の線状電磁デバイス1を使用しているため、実施の形態1と同様の効果を生ずる。
【0065】
また、本実施形態4によれば、線状電磁デバイス1が巻回されて形成されているため、長い線状電磁デバイス1を巻くことによりコンパクトにできる。
【符号の説明】
【0066】
1,1A,1B 線状電磁デバイス
2 一次銅線(一次電線)
3 二次銅線(二次電線)
4,4A,4B 鋼線(線状磁性部材)
5,6,7 絶縁膜
10 一次銅線ドラム
11 二次銅線ドラム
12 巻取ドラム
ロール13
14 鋼線ドラム
15 巻付装置
16 線状電磁デバイス製造装置
20 巻線状電磁デバイス
21 ボビン
30 直流電源
31 インバータ
32 コンバータ
33 負荷
35 DC-DCコンバータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7