(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023031185
(43)【公開日】2023-03-08
(54)【発明の名称】眼鏡レンズ用シール
(51)【国際特許分類】
G02C 7/10 20060101AFI20230301BHJP
G02C 7/12 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
G02C7/10
G02C7/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021157261
(22)【出願日】2021-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】521419983
【氏名又は名称】鳥居 憂汰
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 憂汰
(72)【発明者】
【氏名】田中 康高
【テーマコード(参考)】
2H006
【Fターム(参考)】
2H006BE02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】レンズの各種機能が低下しても、レンズを買い替えたり、工場で再加工したりする必要がない眼鏡レンズ用シール及びその素材を提供すること。
【解決手段】機能性を眼鏡レンズに付加する眼鏡レンズ用シール11。両面粘着積層体13と機能性フィルム層15とを備えている。両面粘着積層体13は、無延伸フィルムからなる基材層17と、該基材層17の片面に弱粘着層19を他面に強粘着層21とを備えている。強粘着層21には機能性フィルム層19を貼着する。該レンズ用シールは、弱粘着層19を介して眼鏡レンズに貼り直し(リワーク)可能である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能性を眼鏡レンズに付加する眼鏡レンズ用シールであって、
両面粘着積層体と機能性フィルム層とを備え、
前記両面粘着積層体は、無延伸フィルムからなる基材層と、該基材層の片面に形成され、眼鏡レンズに貼り直し可能な弱粘着層と、前記基材層の他面に形成され機能性フィルム層が貼着される強粘着層とを備え、
該基材層及び前記機能性フィルム層は、前記眼鏡レンズの球面に対して追従可能な肉厚とされている、
ことを特徴とする眼鏡レンズ用シール。
【請求項2】
前記両面粘着積層体の基材層が無延伸アクリル樹脂フィルムで形成され、さらに、前記強粘着層がアクリル系粘着剤で形成されているとともに、前記弱粘着層がシリコーン系粘着剤により形成されていることを特徴とする眼鏡レンズ用シール。
【請求項3】
前記機能性フィルム層が防曇フィルムで形成されてなることを特徴とする請求項1又は2記載の眼鏡レンズ用シール素材。
【請求項4】
前記機能性フィルム層が、調光フィルムで形成されてなることを特徴とする請求項1又は2記載の眼鏡レンズ用シール素材。
【請求項5】
前記機能性フィルム層が、偏光フィルムで形成されてなることを特徴とする請求項1又は2記載の眼鏡レンズ用シール。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかの裁断された眼鏡レンズ用シールが所定枚数毎に包装されていることを特徴とする眼鏡レンズ用シールセット。
【請求項7】
請求項1~5の眼鏡レンズ用シールに裁断される前の素材ともに各種サイズの楕円型紙が同梱されていることを特徴とする眼鏡レンズ用シールセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所要の機能性付加を目的として貼着し、さらには、リワーカブル(貼り替え可能)な眼鏡レンズ用シールに係る。ここで、眼鏡レンズとは、視力矯正用ばかりでなく、サングラス、ゴーグル、偏光眼鏡等における度なしレンズをも含む。
【背景技術】
【0002】
昨今、種々の機能(性能)、例えば、調光性、特定波長吸収性(紫外線・青色光カット等)等の機能を有する光学機能性樹脂層を備えた透明樹脂基体からなる眼鏡レンズは周知である(特許文献1[要約],[請求項1],[請求項3],[
図1],[
図4]等]等、特許文献2[要約],[請求項1],[
図1]等)。また、有機ガラス製の眼鏡レンズの場合、通常、ハードコートにより耐擦傷性を付与することも周知である(特許文献1第19~21行)。また、偏光性等を付与するために偏光フィルム等の光学フィルムを埋設させた偏光眼鏡レンズ・サングラスも周知である(特許文献1[請求項4],[
図4]等)。
【0003】
なお、上記機能性樹脂層に替えて、または、機能性樹脂層が経時的に機能低下した際、眼鏡のユーザ自身が、又は、眼鏡店で容易にレンズに機能性を付加ないし回復できる素材に係る発明については、本発明者らは、寡聞にして知らない。
【0004】
また、携帯やスマートフォン、テレビ等のディスプレイ画面、さらには、自動車の目隠しシートとして、リワーク(貼り直し)可能な両面保護用粘着シートは周知である(特許文献3[請求項10],[0014]等、特許文献4[請求項17],[請求項18],[0019]、特許文献5[請求項5],[0007]等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開2003/008171号
【特許文献2】特開2014-156067号公報
【特許文献3】特開2015-131945号公報
【特許文献4】特開2019-31610号公報
【特許文献5】特開2020-164761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、レンズこれらの機能性を付与する場合、機能性樹脂層(偏光フィルム層を含む)を形成する成形工数が嵩むとともに、それらの機能性を長期間維持することは困難であった。このため、これらの機能が低下したときは、通常、レンズの買い替え、ないし、工場での再加工が必要であった。
【0004】
本発明は、レンズの各種機能が低下しても、レンズを買い替えたり、工場で再加工する必要がない眼鏡レンズ用シール及びその素材を提供することを目的(課題)とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を下記発明特定事項(構成)からなる眼鏡レンズ用シールにより解決するものである(
図1の図符号を付す。)。
【0006】
機能性を眼鏡レンズに付加する眼鏡レンズ用シール11であって、
両面粘着積層体13と機能性フィルム層15とを備え、
両面粘着積層体13は、無延伸フィルムからなる基材層17と、該基材層17の片面に形成され眼鏡レンズに貼り直し(リワーク)可能な弱粘着層19と、基材層17の他面に形成され機能性フィルム層19が貼着される強粘着層21とを備え、
基材層17及び機能性フィルム層15の各肉厚は、前記眼鏡レンズの球面に対して追従性を阻害しないものとされている。
【0007】
上記構成のレンズ用シール11は、眼鏡レンズに弱粘着層19を介して貼着して使用する。この際、両面粘着積層体13の基材層17が無延伸であることにより、前記最終段の構成により、レンズが球面であっても良好な追従性が担保されてシール貼着作業性に優れる。そして、レンズ用シール11(機能性フィルム層15)の機能性が劣化した使用済みシール11は、新レンズ用シール11と貼り替える。こうして、レンズを買い替えたり、工場で再加工する必要がなくなる。
【0008】
従来、このようなレンズ用シールを記載した文献が見当たらずにも市場に現れていない。そもそも、眼鏡業界では、スマホ等の電子機器画面に適用する表面保護用粘着テープ(画面保護部材)を眼鏡レンズに適用する発想自体がない。その理由は、下記の如くであると考えられる。
【0009】
、
通常の両面テープの弱粘着面は、平滑(平ら)な面への貼着を予定している。例えば、特許文献3[発明の効果]の欄には、「特にガラス面や鏡面などの平滑な表面を有する被着体への密着性に優れ、ディスプレイ、タッチパネル、スマートフォン、タブレットPC、薄膜基板等の各種部材の表面保護に有用である。」との記載がある。また、特許文献4「発明の効果」の欄には、「本発明により、・・・具体的にはディスプレイ、より具体的にはフレキシブルディスプレイを提供することができる。」との記載がある。なお、フレキシブルディスプレイは、あくまで、シート貼着時の製品被貼着面はあくまで平らであることを想定しており、その後における耐屈曲性を予定している。すなわち、眼鏡レンズのような固定曲面に対する貼着を予定していないことは、[実施例]及びそれらのの試験結果を示す表1等から明白である。
【0010】
なお、特許文献5[発明の効果]の欄には、「本明細書に開示された画面保護用両面粘着テープを用いれば、電子機器等の画面に貼り付けた場合に、虹ムラの発生が低減され、曲面追従性に優れる画面保護部材を実現することができる。」との記載がある。しかし、発明の名称「画面保護用両面粘着テープ」からして、眼鏡レンズを想定していないことは明白である。確かに、特許文献5には、上記の如く「曲面追従性に優れる」との記載はあるが、眼鏡レンズの如く、全方向が曲面である球面に対する曲面追従性にも優れていることは明記されていない。エッジリフト試験が直径20mm円柱に巻き付けて測定するものであることからも支持される。
【0011】
上記構成において、両面粘着積層体の基材層を無延伸のアクリル樹脂フィルムで形成するとともに、強粘着層をアクリル系の粘着剤で形成し、さらに、弱粘着層をシリコーン系粘着剤で形成することが望ましい。前二者の構成により、透明性に優れ低リタデーションであることにより、眼鏡レンズの光学特性を低下させ難い。後者の構成により、貼り直しが容易となり、貼着作業性およびリワーク性に優れる。
【0012】
上記各構成において、機能性フィルムとして画面保護シートと同様に、ハードコートフィルムや保護フィルムとすることも可能である。しかし、機能性フィルムを防曇フィルムとして、シールを防曇フィルムとすることがさらに望ましい。従来の撥水コートの如く加工コストがかからず、また、特殊クロスや防曇液の如く、使用時毎に対処する必要がなく、所要期間、防曇性が維持できるとともに、防曇性が低下してきたときは、貼り替えるだけで、防曇性を簡単に回復できる。
【0013】
また、上記構成において、防曇フィルムを調光フィルム又は偏光フィルムに置換することができる。調光剤層を射出成形や偏光フィルム層を埋設成形する場合に比して、格段にそれらの機能を眼鏡レンズに付加できるとともに、それらの機能が低下してきた場合も、シートを貼り替えるだけで、容易にそれらの機能を回復できる。
【0014】
なお、本発明は、眼鏡レンズ用シールが所定枚数毎に包装されている態様や、眼鏡レンズ用シールに裁断される前の素材ともに各種サイズの楕円型紙が同梱されている態様も本発明の技術的範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】 本発明の眼鏡レンズ用シールの一例を示す平面図及び断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の眼鏡レンズ用シールの各構成について、詳細に説明する。
【0017】
両面粘着積層体13の裁断前の素材は、テープ状ないしシート状のどちらでもよい。そして、両粘着積層体13の素材は、基材層17、弱粘着層19及び強粘着層21を備えており、必要により、強粘着層21さらには弱粘着層19の外側には剥離層(ライナー)23が形成されている。両面粘着積層体としては、光透過性を有し、且つ、レンズ球面に対する追従性を有するものなら特に限定されず、両面テープ・シートの上市品から適宜選択できるが、下記構成の両面粘着積層体が望ましい。
【0018】
通常、基材層17は、レンズ球面に対する追従性及び低リタデーションの観点から無延伸フィルム(当然透明)が望ましい。フィルム材料としては、アクリル系、ポリカーボネート(PC)、ポリウレタン(PU)、シクロオレフィンポリマー(COP)系、ポリエチレンテレフタレート(PET)等、レンズ球面に追従可能な柔軟性を有すれば任意である。特に、透過率が高いものが得やすいアクリル系フィルムが望ましい。なお、基材層17の肉厚は、アクリル系フィルムの場合、5~60μm、さらには10~40μm(特許文献5[0024]参照)。
【0019】
弱粘着層はシリコーン系粘着剤で形成することがリワーク性の観点から望ましい(特許文献3[請求項1]、特許文献4[請求項1]、特許文献5[請求項1],[0023]等参照)。弱粘着層の厚みは、シリコーン系粘着層の場合、例えば30~80μmとする。強粘着層はウレタン系等であってもよいが、基材層をアクリル系フィルムとした場合、アクリル系粘着剤で形成することが基材層17と機能性フィルム層15との密着性を確保しやすくて望ましい(特許文献3[請求項1]、特許文献5[0031]等参照)。この強粘着層の厚みは、アクリル系粘着剤の場合、例えば10~30μmとする。そして、両面粘着積層体13の「基材層17+弱粘着層19+強粘着層21」の厚みは、50~200μm、さらには、50~100μmが望ましい。厚すぎると、レンズ球面に対する追従性を確保し難いおそれがある(特許文献5[0023]参照)。
【0020】
上記両面粘着積層体11の強粘着層21には、各種機能性フィルム層を貼着させる。機能性フィルム層を2種以上使用する場合は、機能性フィルム層15間に強粘着剤を塗布して積層する。
【0021】
上記機能性フィルムとしては、防曇、フォトクロミック(調光)、各種フィルター(紫外線・ブルーライト・赤外線・特定波長カット)及び偏光などの光学的機能を備えたものや、さらには、保護フィルム、防汚フィルム、抗菌・ウィルスフィルム等を挙げることができる。これらの機能性フィルムは、現行ないし未来の上市品から適宜選択できる。なしお、これらの機能性フィルムのベース材は、透明軟質であれば、特に限定されず、ポリエチレンテレフタレート(PET)、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリカーボネート(PC)系,アクリル系、シクロオレフィンポリマー(COP)系、ポリウレタン系等を使用可能である。
【実施例0022】
以下に、実施例について、比較例とともに説明する。各実施例及び各比較例に使用した両面粘着積層体は、特許文献5[0030],「0031」の「-両面粘着テープの製造-」において、
「設定厚さ」を無延伸アクリル基材層:20μm、シリコーン系弱粘着層:50μm、アクリル系強粘着層:15μm(三層合計膜厚:85μm)となるように調製したものを用いた。また、比較例に使用した両面粘着積層体は、実施例の両面粘着積層体において、基材層を二軸延伸PET基材層としたものを使用した。
【0023】
<実施例・比較例1>
上記実施例用・比較例用の各両面積層体をA4に切断後、強粘着層側のライナーをはがし、同じくA4に切断したTAC系の市販防曇フィルム(肉厚:120μm)を市販ラミネータで張り合わせた。その後、
図1に示す楕円型(軸径:40mm、天地径:25mmにトムスン型で打ち抜いて(裁断して)各試験片を調製した。
【0024】
<実施例・比較例2>
実施例1・比較例1において、機能性フィルムを市販防曇フィルムを市販調光フイルム(肉厚:100μm)とした以外は、同様にして、試験片を調製した。
【0025】
<実施例・比較例3>
実施例1・比較例1において、機能性フィルムを市販PVA偏光フイルム(肉厚:40μm)とした以外は、同様にして、試験片を調製した。
【0026】
上記で調製した各試験片について、下記各項目の試験を行った。
(a)ヘイズ(曇り価)試験:
下記ヘイズ値をJIS-K-7136に準じてヘイズメーターで計測した。
ヘイズ(%)=Td/Ttx100(但しTd:拡散透過率 Tt:全光線透過率)
(b)シール浮きの有無試験:
試験片調製24時間後の貼着シールの浮き状態を目視観察し、下記基準で評価した。
○:まったく浮き無し、△:外周がわずかに(1mm以内)浮いて見える、
×:外周1mm以上の内側まで浮いて見える。
(c)シールシワ生成有無の試験:しわ
試験片調製24時間後の貼着シールのシワ発生状態を目視観察し、下記基準で評価した。
○:まったくシワ無し、△:外周シワ(うねり)が見られる、
×:すべての面にシワ(うねり)が見られる。
【0027】
これらの試験結果を示す表1から、各実施例の評価項目は各対応比較例に比して優れていることが分かる。すなわち、各実施例は、各対応比較例に比して、ヘイズ値が小さく剥れやしわ等が全く発生しないのに対し、同一機能性フィルム層を備えた、各比較例は、ヘイズ値が大きく、且つ、気泡やしわが発生することが確認できた。
【0028】