(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023031196
(43)【公開日】2023-03-08
(54)【発明の名称】樹脂組成物およびフィルム
(51)【国際特許分類】
C08L 79/08 20060101AFI20230301BHJP
C08L 33/04 20060101ALI20230301BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20230301BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20230301BHJP
【FI】
C08L79/08 Z
C08L33/04
C08G73/10
C08J5/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021196506
(22)【出願日】2021-12-02
(31)【優先権主張番号】P 2021136477
(32)【優先日】2021-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 紘平
(72)【発明者】
【氏名】上手 純
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
4J043
【Fターム(参考)】
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(57)【要約】
【課題】透明性が高く、かつ十分な機械強度を有する透明フィルム、およびその作製に用いられる樹脂組成物を提供する。
【解決手段】樹脂組成物は、ポリイミドとアクリル系樹脂を含み、ポリイミドはテトラカルボン酸二無水物成分として、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物等の脂環式テトラカルボン酸二無水物を含有する。ポリイミドはジアミン成分として、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン等のフルオロアルキル置換ベンジジンを含んでいてもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミドとアクリル系樹脂を含み、
前記ポリイミドが、テトラカルボン酸二無水物成分として、脂環式テトラカルボン酸二無水物を含有する、
樹脂組成物。
【請求項2】
前記脂環式テトラカルボン酸二無水物が、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、および1,1’-ビシクロヘキサン-3,3’,4,4’テトラカルボン酸-3,4:3’,4’-二無水物からなる群から選択される1種以上である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリイミドが、テトラカルボン酸二無水物成分として、さらに、フッ素含有芳香族テトラカルボン酸二無水物およびビス(無水トリメリット酸)エステルからなる群から選択される1種以上を含有する、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリイミドの酸二無水物成分全量に対する脂環式テトラカルボン酸二無水物の量が、1~80モル%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリイミドの酸二無水物成分全量に対する、脂環式テトラカルボン酸二無水物、フッ素含有芳香族テトラカルボン酸二無水物およびビス(無水トリメリット酸)エステルの含有量の合計が、50モル%以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリイミドが、ジアミン成分としてフルオロアルキル置換ベンジジンを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記フルオロアルキル置換ベンジジンが2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンである、請求項6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記ポリイミドのジアミン成分全量に対するフルオロアルキル置換ベンジジンの量が、50モル%以上である、請求項6または7に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記アクリル系樹脂は、モノマー成分全量に対するメタクリル酸メチルの量が、60重量%以上である、請求項1~8のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記アクリル系樹脂のガラス転移温度が110℃以上である、請求項1~9のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
前記ポリイミドと前記アクリル系樹脂を、98:2~2:98の範囲の重量比で含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の樹脂組成物を含むフィルム。
【請求項13】
厚みが5μm以上300μm以下であり、全光線透過率が85%以上、ヘイズが10%以下、黄色度が2.0以下、引張弾性率が3.5GPa以上、鉛筆硬度がF以上である、請求項12に記載のフィルム。
【請求項14】
少なくとも一方向に延伸された延伸フィルムである、請求項12または13に記載のフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物およびフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶、有機EL、電子ペーパー等の表示装置や、太陽電池、タッチパネル等のエレクトロニクスデバイスにおいて、薄型化や軽量化、さらにはフレキシブル化が要求されている。これらのデバイスに使用されるガラス材料をフィルム材料に代えることにより、フレキシブル化、薄型化、軽量化が図られる。ガラス代替材料として、透明ポリイミドフィルムが開発され、ディスプレイ用基板やカバーフィルム等に用いられている。
【0003】
通常のポリイミドフィルムは、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸溶液を支持体上に膜状に塗布し、高温処理することにより、溶媒除去と同時に熱イミド化を行うことにより得られる。しかしながら、熱イミド化のための加熱温度は高く(例えば300℃以上)、加熱による着色(黄色度の上昇)が生じやすく、ディスプレイ用カバーフィルム等の高い透明性が要求される用途への適用が困難である。
【0004】
高い透明性を有するポリイミドフィルムの製造方法として、有機溶媒に可溶であり、フィルム化後の高温でのイミド化を必要としないポリイミド樹脂を用いる方法が提案されている。例えば、特許文献1には、テトラカルボン酸二無水物成分としてビス無水トリメリット酸エステル類を含むポリイミドが、ジクロロメタン等の低沸点溶媒に可溶であり、かつ透明性および機械強度に優れることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ポリイミドは、剛直な構造を導入すると、機械強度が向上するものの、有機溶媒への溶解性や透明性の低下の要因となり、従来の透明ポリイミド樹脂では、透明性を保持したまま、透明性と高機械強度を両立することは容易ではない。かかる課題に鑑み、本発明は、透明性が高く、かつ十分な機械強度を有する透明フィルム、およびその作製に用いられる樹脂組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、特定の化学構造を有するポリイミドとアクリル系樹脂が相溶性を示し、これらを混合した樹脂組成物により、ポリイミドの優れた機械強度を損なうことなく透明性の高いフィルムを作製可能であることを見出し、上記課題を解決するに至った。
【0008】
本発明の一態様は、ポリイミド樹脂とアクリル系樹脂とを含むフィルムおよび樹脂組成物に関する。樹脂組成物は、ポリイミド樹脂とアクリル系樹脂とを、98:2~2:98の範囲の重量比で含むものであってもよい。
【0009】
ポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物成分として、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物等の脂環式テトラカルボン酸二無水物を含む。ポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物成分として、脂環式テトラカルボン酸二無水物に加えて、フッ素含有芳香族テトラカルボン酸二無水物およびビス(無水トリメリット酸)エステルからなる群から選択される1種以上を含有していてもよい。
【0010】
ポリイミドのテトラカルボン酸二無水物成分全量に対する脂環式テトラカルボン酸二無水物の量は、1~80モル%が好ましい。ポリイミドのテトラカルボン酸二無水物成分全量に対する、脂環式テトラカルボン酸二無水物、フッ素含有芳香族テトラカルボン酸二無水物およびビス(無水トリメリット酸)エステルの含有量の合計は、50モル%以上であってもよい。
【0011】
ポリイミドは、ジアミン成分として、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン等のフルオロアルキル置換ベンジジンを含んでいてもよい。ポリイミドのジアミン成分全量に対するフルオロアルキル置換ベンジジンの量は、50モル%以上であってもよい。
【0012】
本発明の一実施形態のフィルムは、厚みが5μm以上300μm以下であり、ヘイズが10%以下、黄色度が2.0以下、引張弾性率が3.5GPa以上、鉛筆硬度がF以上である。フィルムは、少なくとも一方向に延伸された延伸フィルムであってもよい。
【発明の効果】
【0013】
樹脂組成物に含まれるポリイミド樹脂とアクリル系樹脂が相溶性を示すため、ヘイズが小さい透明フィルムが得られる。また、ポリイミド樹脂とアクリル系樹脂が相溶性を示すため、ポリイミドの優れた機械強度を大幅に低下させることなく、着色を低減可能であり、ディスプレイのカバーフィルム等に適した透明フィルムを作製できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例および比較例のフィルムの平面および断面の透過型電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[樹脂組成物]
本発明の一実施形態は、ポリイミド樹脂とアクリル系樹脂とを含む相溶系の樹脂組成物である。
【0016】
<ポリイミド>
ポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物(以下、「酸二無水物」と記載する場合がある)とジアミンとの付加重合により得られるポリアミド酸を脱水環化することにより得られる。すなわち、ポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの重縮合物であり、酸二無水物由来構造(酸二無水物成分)とジアミン由来構造(ジアミン成分)とを有する。
【0017】
(酸二無水物)
本実施形態で用いるポリイミドは、酸二無水物成分として、脂環式テトラカルボン酸二無水物を含む。酸二無水物成分が脂環構造を有することにより、ポリイミド樹脂とアクリル系樹脂との相溶性が向上する傾向がある。脂環式テトラカルボン酸二無水物は、少なくとも1つの脂環構造を有していればよく、1分子中に脂環と芳香環の両方を有していてもよい。脂環は多環でもよく、スピロ構造を有していてもよい。
【0018】
脂環式テトラカルボン酸二無水物としては、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ジメチルシクロブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-テトラメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物、メソ-ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、1,1’-ビシクロヘキサン-3,3’,4,4’テトラカルボン酸-3,4:3’,4’-二無水物、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2”-ノルボルナン-5,5”,6,6”-テトラカルボン酸二無水物、2,2’-ビノルボルナン-5,5’,6,6’テトラカルボン酸二無水物、3-(カルボキシメチル)-1,2,4-シクロペンタントリカルボン酸1,4:2,3-二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタ-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、4-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-1,2-ジカルボン酸無水物、シクロヘキサン-1,4-ジイルビス(メチレン)ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジハイドロイソベンゾフラン-5-カルボキシレート)、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフリル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、5,5’-[シクロヘキシリデンビス(4,1-フェニレンオキシ)]ビス-1,3-イソベンゾフランジオン、5-イソベンゾフランカルボン酸,1,3-ジハイドロ-1,3-ジオキソ-,5,5’-[1,4-シクロヘキサンジイルビス(メチレン)]エステル、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、3,5,6-トリカルボキシノルボルナン-2-酢酸2,3:5,6-二無水物、デカハイドロ-1,4,5,8-ジメタノナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、トリシクロ[6.4.0.0(2,7)]ドデカン-1,8:2,7-テトラカルボン酸二無水物、オクタヒドロ-1H,3H,8H,10H-ビフェニレノ[4a,4b-c:8a,8b-c’]ジフラン-1,3,8,10-テトロン、エチレングリコールビス(水素化トリメリット酸無水物)エステル、デカハイドロ[2]ベンゾピラノ[6,5,4,-def][2]ベンゾピラン-1,3、6,8-テトロン、等が挙げられる。
【0019】
脂環式テトラカルボン酸二無水物の中でも、ポリイミドの透明性および機械強度の観点から、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA)、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物(CPDA)、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(H-PMDA)または1,1’-ビシクロヘキサン-3,3’,4,4’テトラカルボン酸-3,4:3’,4’-二無水物(H-BPDA)が好ましく、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物が特に好ましい。
【0020】
ポリイミド樹脂とアクリル系樹脂との相溶性を高める観点から、酸二無水物成分全量100モル%に対する脂環式テトラカルボン酸二無水物の含有量は、1モル%以上が好ましく、3モル%以上がより好ましく、5モル%以上がさらに好ましく、6モル%以上、7モル%以上、8モル%以上、9モル%以上、10モル%以上、12モル%以上または15モル%以上であってもよい。アクリル系樹脂との相溶性を持たせるために必要な脂環式テトラカルボン酸二無水物量は、アクリル系樹脂や、脂環式テトラカルボン酸二無水物量の種類等によって異なる場合がある。例えば、脂環式テトラカルボン酸二無水物が1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA)である場合、酸二無水物成分全量100モル%に対するCBDAの含有量は、6モル%以上が好ましく、8モル%以上がより好ましく、10モル%以上がさらに好ましい。
【0021】
ポリイミド樹脂の有機溶媒への溶解性を確保する観点から、酸二無水物成分全量100モル%に対する脂環式テトラカルボン酸二無水物の含有量は、80モル%以下が好ましく、78モル%以下がより好ましく、76モル%以下がさらに好ましく、74モル%以下、72モル%以下、70モル%以下、65モル%以下、60モル%以下、55モル%以下または50モル%以下であってもよい。ポリイミド樹脂を塩化メチレン等の低沸点ハロゲン系溶媒に可溶とするためには、脂環式テトラカルボン酸二無水物の含有量は、45モル%以下が好ましく、40モル%以下がより好ましく、35モル%以下であってもよい。
【0022】
ポリイミド樹脂を有機溶媒に可溶とする観点から、酸二無水物成分として、脂環式テトラカルボン酸二無水物に加えて、フッ素含有芳香族テトラカルボン酸二無水物または/およびビス(無水トリメリット酸)エステルを含むことが好ましい。
【0023】
フッ素含有芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2-ビス{4-[4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物等が挙げられる。
【0024】
ビス(無水トリメリット酸)エステルは、下記一般式(1)で表される。
【0025】
【0026】
一般式(1)におけるXは、任意の2価の有機基であり、Xの両端において、カルボキシ基とXの炭素原子が結合している。カルボキシ基に結合する炭素原子は、環構造を形成していてもよい。2価の有機基Xの具体例としては、下記(A)~(K)が挙げられる。
【0027】
【0028】
式(A)におけるR1は、フッ素原子、炭素原子数1~20のアルキル基、または炭素原子数1~20のフルオロアルキル基であり、mは1~4の整数である。式(A)で表される基は、ベンゼン環上に置換基を有するヒドロキノン誘導体から2つの水酸基を除いた基である。ベンゼン環上に置換基を有するヒドロキノンとしては、tert-ブチルヒドロキノン、2,5-ジ-tert-ブチルヒドロキノン、2,5-ジ-tert-アミルヒドロキノン等が挙げられる。
【0029】
式(B)におけるR2は、フッ素原子、炭素原子数1~20のアルキル基、または炭素原子数1~20のフルオロアルキル基であり、nは0~4の整数である。式(B)で表される基は、ベンゼン環上に置換基を有していてもよいビフェノールから2つの水酸基を除いた基である。ベンゼン環上に置換基を有するビフェノール誘導体としては、2,2’-ジメチルビフェニル-4,4’-ジオール、3,3’-ジメチルビフェニル-4,4’-ジオール、3,3’,5,5’-テトラメチルビフェニル-4,4’-ジオール、2,2’,3,3’,5,5’-ヘキサメチルビフェニル-4,4’-ジオール等が挙げられる。
【0030】
式(C)で表される基は、4,4’-イソプロピリデンジフェノール(ビスフェノールA)から2つの水酸基を除いた基である。式(D)で表される基は、レゾルシノールから2つの水酸基を除いた基である。
【0031】
式(E)におけるpは1~10の整数である。式(E)で表される基は、炭素数1~10の直鎖のジオールから2つの水酸基を除いた基である。炭素数1~10の直鎖のジオールとしては、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール等が挙げられる。
【0032】
式(F)で表される基は、1,4-シクロヘキサンジメタノールから2つの水酸基を除いた基である。
【0033】
式(G)におけるR3は、水素原子、フッ素原子、炭素原子数1~20のアルキル基、または炭素原子数1~20のフルオロアルキル基であり、qは0~4の整数である。式(G)で表される基は、フェノール性水酸基を有するベンゼン環上に置換基を有していてもよいビスフェノールフルオレンから2つの水酸基を除いた基である。フェノール性水酸基を有するベンゼン環上に置換基を有するビスフェノールフルオレン誘導体としては、ビスクレゾールフルオレン等が挙げられる。
【0034】
ビス(無水トリメリット酸)エステルは芳香族エステルであることが好ましく、Xとしては、上記(A)~(K)の中では、(A)(B)(C)(D)(G)(H)(I)が好ましい。中でも、(A)~(D)が好ましく、(B)のビフェニル骨格を有する基が特に好ましい。Xが一般式(B)で表される基である場合、ポリイミド樹脂の溶解性の観点から、Xは、下記の式(B1)で表される2,2’,3,3’,5,5’-ヘキサメチルビフェニル-4,4’-ジイルであること好ましい。
【0035】
【0036】
一般式(1)においてXが式(B1)で表される基である酸二無水物は、下記の式(3)で表されるビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボン酸)-2,2’,3,3’,5,5’-ヘキサメチルビフェニル-4,4’ジイル(略称:TAHMBP)である。
【0037】
【0038】
ポリイミド樹脂を有機溶媒に可溶とする観点から、酸二無水物成分全量100モル%に対するフッ素含有芳香族テトラカルボン酸二無水物とビス(無水トリメリット酸)エステルの含有量の合計は、15モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましく、25モル%以上がさらに好ましく、30モル%以上、35モル%以上、40モル%以上、45モル%以上または50モル%以上であってもよい。酸二無水物成分全量100モル%に対するフッ素含有芳香族テトラカルボン酸二無水物とビス(無水トリメリット酸)エステルの含有量の合計は、99モル%以下が好ましく、95モル%以下がより好ましく、90モル%以下がさらに好ましく、85モル%以下、80モル%以下、75モル%以下または70モル%以下であってもよい。
【0039】
有機溶媒への溶解性、およびアクリル系樹脂との相溶性を兼ね備えたポリイミド樹脂を得る観点から、酸二無水物成分全量100モル%に対する脂環式テトラカルボン酸二無水物、フッ素含有芳香族テトラカルボン酸二無水物およびビス(無水トリメリット酸)エステルの含有量の合計は、50モル%以上が好ましく、60モル%以上がより好ましく、65モル%以上がさらに好ましく、70モル%以上、75モル%以上、80モル%以上、85モル%以上、90モル%以上または95モル%以上であってもよい。
【0040】
ポリイミドは、酸二無水物成分として、脂環式テトラカルボン酸二無水物、フッ素含有芳香族テトラカルボン酸二無水物およびビス(無水トリメリット酸)エステル以外の酸二無水物を含んでいてもよい。上記以外の酸二無水物の例としては、エチレンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、9,9―ビス(3,4―ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物)、1,3-ビス[(3,4-ジカルボキシ)ベンゾイル]ベンゼン二無水物、1,4-ビス[(3,4-ジカルボキシ)ベンゾイル]ベンゼン二無水物、2,2-ビス{4-[4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}プロパン二無水物、2,2-ビス{4-[4-(3,4-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}プロパン二無水物、2,2-ビス{4-[3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}プロパン二無水物、ビス{4-[4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}ケトン二無水物、ビス{4-[3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}ケトン二無水物、4,4’-ビス[4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]ビフェニル二無水物、4,4’-ビス[3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]ビフェニル二無水物、ビス{4-[4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}ケトン二無水物、ビス{4-[3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}ケトン二無水物、ビス{4-[4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}スルホン二無水物、ビス{4-[3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}スルホン二無水物、ビス{4-[4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}スルフィド二無水物、ビス{4-[3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}スルフィド二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8-フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(1,3-ジヒドロ-1,3-ジオキソ-5-イソベンゾフランカルボン酸)-1,4-フェニレンエステルが挙げられる。
【0041】
(ジアミン)
本実施形態で用いるポリイミドのジアミン成分は特に限定されない。溶解性の観点から、ポリイミド樹脂のジアミンとしては、フッ素基、トリフルオロメチル基、スルホン基、フルオレン構造、および脂環構造からなる群から選択される1以上を有するものが好ましい。中でも、ポリイミド樹脂の溶解性と透明性とを両立する観点から、ポリイミドは、ジアミン成分としてフルオロアルキル置換ベンジジンを含むことが好ましい。
【0042】
フルオロアルキル置換ベンジジンの例としては、2-(トリフルオロメチル)ベンジジン、3-(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,5-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2、6-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3,5-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3,6-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3,5,6-テトラキス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3,3’-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,5-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,6-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3’,5-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3’,6,-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,3,3’-テトラキス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,5,5’-テトラキス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,6,6’-テトラキス(トリフルオロメチル)ベンジジン等が挙げられる。
【0043】
中でも、ビフェニルの2位にフルオロアルキル基を有するフルオロアルキル置換ベンジジンが好ましく、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(以下「TFMB」と記載)が特に好ましい。ビフェニルの2位および2’位にフルオロアルキル基を有することにより、フルオロアルキル基の電子求引性によるπ電子密度の低下に加えて、フルオロアルキル基の立体障害によって、ビフェニルの2つのベンゼン環の間の結合がねじれてπ共役の平面性が低下するため、吸収端波長が短波長シフトして、ポリイミドの着色を低減できる。
【0044】
ジアミン成分全量100モル%に対するフルオロアルキル置換ベンジジンの含有量は、50モル%以上が好ましく、60モル%以上がより好ましく、70モル%以上がさらに好ましく、80モル%以上、85モル%以上または90モル%以上であってもよい。フルオロアルキル置換ベンジジンの含有量が大きいことにより、フィルムの着色が抑制されるとともに、鉛筆硬度や弾性率等の機械強度が高くなる傾向がある。
【0045】
ポリイミドは、ジアミン成分として、フルオロアルキル置換ベンジジン以外のジアミンを含んでいてもよい。フルオロアルキル置換ベンジジン以外のジアミンの例としては、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、o-フェニレンジアミン、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ジ(3-アミノフェニル)プロパン、2,2-ジ(4-アミノフェニル)プロパン、2-(3-アミノフェニル)-2-(4-アミノフェニル)プロパン、1,1-ジ(3-アミノフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ジ(4-アミノフェニル)-1-フェニルエタン、1-(3-アミノフェニル)-1-(4-アミノフェニル)-1-フェニルエタン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン、2,6-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゾニトリル、2,6-ビス(3-アミノフェノキシ)ピリジン、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、4,4’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4’-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、4,4’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]ジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4-フェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4-ビフェノキシベンゾフェノン、6,6’-ビス(3-アミノフェノキシ)-3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-スピロビインダン、6,6’-ビス(4-アミノフェノキシ)-3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-スピロビインダン、1,3-ビス(3-アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、1,3-ビス(4-アミノブチル)テトラメチルジシロキサン、α,ω-ビス(3-アミノプロピル)ポリジメチルシロキサン、α,ω-ビス(3-アミノブチル)ポリジメチルシロキサン、ビス(アミノメチル)エーテル、ビス(2-アミノエチル)エーテル、ビス(3-アミノプロピル)エーテル、ビス(2-アミノメトキシ)エチル]エーテル、ビス[2-(2-アミノエトキシ)エチル]エーテル、ビス[2-(3-アミノプロトキシ)エチル]エーテル、1,2-ビス(アミノメトキシ)エタン、1,2-ビス(2-アミノエトキシ)エタン、1,2-ビス[2-(アミノメトキシ)エトキシ]エタン、1,2-ビス[2-(2-アミノエトキシ)エトキシ]エタン、エチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル、ジエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル、トリエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカン、1,2-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、trans-1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,2-ジ(2-アミノエチル)シクロヘキサン、1,3-ジ(2-アミノエチル)シクロヘキサン、1,4-ジ(2-アミノエチル)シクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロへキシル)メタン、2,6-ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,5-ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、1,4-ジアミノ-2-フルオロベンゼン、1,4-ジアミノ-2,3-ジフルオロベンゼン、1,4-ジアミノ-2,5-ジフルオロベンゼン、1、4-ジアミノ-2,6-ジフルオロベンゼン、1,4-ジアミノ-2,3,5-トリフルオロベンゼン、1、4-ジアミノ、2,3,5,6-テトラフルオロベンゼン、1,4-ジアミノ-2-(トリフルオロメチル)ヘンゼン、1,4-ジアミノ-2,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,4-ジアミノ-2,5-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1、4-ジアミノ-2,6-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,4-ジアミノ-2,3,5-トリス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1、4-ジアミノ、2,3,5,6-テトラキス(トリフルオロメチル)ベンゼン、2,2’-ジメチルベンジジン、2-フルオロベンジジン、3-フルオロベンジジン、2,3-ジフルオロベンジジン、2,5-ジフルオロベンジジン、2、6-ジフルオロベンジジン、2,3,5-トリフルオロベンジジン、2,3,6-トリフルオロベンジジン、2,3,5,6-テトラフルオロベンジジン、2,2’-ジフルオロベンジジン、3,3’-ジフルオロベンジジン、2,3’-ジフルオロベンジジン、2,2’,3-トリフルオロベンジジン、2,3,3’-トリフルオロベンジジン、2,2’,5-トリフルオロベンジジン、2,2’,6-トリフルオロベンジジン、2,3’,5-トリフルオロベンジジン、2,3’,6,-トリフルオロベンジジン、2,2’,3,3’-テトラフルオロベンジジン、2,2’,5,5’-テトラフルオロベンジジン、2,2’,6,6’-テトラフルオロベンジジン、2,2’,3,3’,6,6’-ヘキサフルオロベンジジン、2,2’,3,3’,5,5’、6,6’-オクタフルオロベンジジンが挙げられる。
【0046】
例えば、ジアミンとして、フルオロアルキル置換ベンジジンに加えて、ジアミノジフェニルスルホンを用いることにより、ポリイミド樹脂の溶媒への溶解性や透明性が向上する場合がある。ジアミノジフェニルスルホンの中でも、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン(3,3’-DDS)および4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(4,4’-DDS)が好ましい。3,3’-DDSと4,4’-DDSを併用してもよい。
【0047】
ジアミン全量100モル%に対するジアミノジフェニルスホンの含有量は、1~40モル%、3~30モル%または5~25モル%であってもよい。
【0048】
(ポリイミドの調製)
酸二無水物とジアミンとの反応によりポリイミド前駆体としてのポリアミド酸が得られ、ポリアミド酸の脱水環化(イミド化)によりポリイミドが得られる。上記の様に、ポリイミドの組成、すなわち酸二無水物およびジアミンの種類および比率を調整することにより、ポリイミドは、透明性および有機溶媒への溶解性を有するとともに、アクリル系樹脂との相溶性を示す。
【0049】
ポリアミド酸の調製方法は特に限定されず、公知のあらゆる方法を適用できる。例えば、酸二無水物とジアミンとを、略等モル量(95:100~105:100のモル比)で有機溶媒中に溶解させ、攪拌することにより、ポリアミド酸溶液が得られる。ポリアミド酸溶液の濃度は、通常5~35重量%であり、好ましくは10~30重量%である。この範囲の濃度である場合に、重合により得られるポリアミド酸が適切な分子量を有するとともに、ポリアミド酸溶液が適切な粘度を有する。
【0050】
ポリアミド酸の重合に際しては、酸二無水物の開環を抑制するため、ジアミンに酸二無水物を加える方法が好ましい。複数種のジアミンや複数種の酸二無水物を添加する場合は、一度に添加してもよく、複数回に分けて添加してもよい。モノマーの添加順序を調整することにより、ポリイミドの諸物性を制御することもできる。
【0051】
ポリアミド酸の重合に使用する有機溶媒は、ジアミンおよび酸二無水物と反応せず、ポリアミド酸を溶解させ得る溶媒であれば、特に限定されない。有機溶媒としては、メチル尿素、N,N-ジメチルエチルウレア等のウレア系溶媒、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、テトラメチルスルフォン等のスルホキシドあるいはスルホン系溶媒、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N’-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、γ-ブチロラクトン、ヘキサメチルリン酸トリアミド等のアミド系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン化アルキル系溶媒、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキサン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、p-クレゾールメチルエーテル等のエーテル系溶媒が挙げられる。通常これらの溶媒を単独でまたは必要に応じて2種以上を適宜組み合わせて用いる。ポリアミド酸の溶解性および重合反応性の観点から、DMAc、DMF、NMP等が好ましく用いられる。
【0052】
ポリアミド酸の脱水環化によりポリイミドが得られる。ポリアミド酸溶液からポリイミドを調製する方法として、ポリアミド酸溶液に脱水剤、イミド化触媒等を添加し、溶液中でイミド化を進行させる方法が挙げられる。イミド化の進行を促進するため、ポリアミド酸溶液を加熱してもよい。ポリアミド酸のイミド化により生成したポリイミドが含まれる溶液と貧溶媒とを混合することにより、ポリイミド樹脂が固形物として析出する。ポリイミド樹脂を固形物として単離することにより、ポリアミド酸の合成時に発生した不純物や、残存脱水剤およびイミド化触媒等を、貧溶媒により洗浄・除去可能であり、ポリイミドの着色や黄色度の上昇等を防止できる。また、ポリイミド樹脂を固形物として単離することにより、フィルムを作製するための溶液を調製する際に、低沸点溶媒等のフィルム化に適した溶媒を適用できる。
【0053】
ポリイミドの分子量(ゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリエチレンオキシド換算の重量平均分子量)は、10,000~300,000が好ましく、20,000~250,000がより好ましく、40,000~200,000がさらに好ましい。分子量が過度に小さい場合、フィルムの強度が不足する場合がある。分子量が過度に大きい場合、アクリル系樹脂との相溶性に劣る場合がある。
【0054】
ポリイミドは、ケトン系溶媒やハロゲン化アルキル系溶媒等の低沸点溶媒に可溶であるものが好ましい。ポリイミドが溶媒に溶解性を示すとは、5重量%以上の濃度で溶解することを意味する。一実施形態において、ポリイミドは塩化メチレンに対する溶解性を示す。塩化メチレンは、低沸点でありフィルム作製時の残存溶媒の除去が容易であることから、塩化メチレンに可溶のポリイミド樹脂を用いることにより、フィルムの生産性向上が期待できる。
【0055】
樹脂組成物およびフィルムの熱安定性および光安定性の観点から、ポリイミドは反応性が低いことが好ましい。ポリイミドの酸価は、0.4mmol/g以下が好ましく、0.3mmol/g以下がより好ましく、0.2mmol/g以下がさらに好ましい。ポリイミドの酸価は、0.1mmol/g以下、0.05mmol/g以下または0.03mmol/g以下であってもよい。酸価を小さくする観点から、ポリイミドはイミド化率が高いことが好ましい。酸価が小さいことにより、ポリイミドの安定性が高められるとともに、アクリル系樹脂との相溶性が向上する傾向がある。
【0056】
<アクリル系樹脂>
アクリル系樹脂としては、ポリメタクリル酸メチル等のポリ(メタ)アクリル酸エステル、メタクリル酸メチル-(メタ)アクリル酸共重合、メタクリル酸メチル-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸メチル-アクリル酸エステル-(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸メチル-スチレン共重合体等が挙げられる。アクリル系樹脂は、変性により、グルタルイミド構造単位やラクトン環構造単位を導入したものでもよい。
【0057】
透明性およびポリイミドとの相溶性、ならびにフィルム等の成形体の機械強度の観点から、アクリル系樹脂は、メタクリル酸メチルを主たる構造単位とするものが好ましい。アクリル系樹脂におけるモノマー成分全量に対するメタクリル酸メチルの量は、60重量%以上が好ましく、70重量%以上、80重量%以上、85重量%以上、90重量%以上または95重量%以上であってもよい。アクリル系樹脂は、メタクリル酸メチルのホモポリマーであってもよい。また、アクリル系樹脂は、メタクリル酸メチルの含有量が上記範囲であるアクリル系ポリマーに、グルタルイミド構造やラクトン環構造を導入したものであってもよい。
【0058】
フィルムの耐熱性の観点から、アクリル系樹脂のガラス転移温度は100℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましく、115℃以上または120℃以上であってもよい。
【0059】
有機溶媒への溶解性、上記のポリイミドとの相溶性およびフィルム強度の観点から、アクリル系樹脂の重量平均分子量(ポリスチレン換算)は、5,000~500,000が好ましく、10,000~300,000がより好ましく、15,000~200,000がさらに好ましい。
【0060】
樹脂組成物およびフィルムの熱安定性および光安定性の観点から、アクリル系樹脂は、エチレン性不飽和基やカルボキシ基等の反応性官能基の含有量が少ないことが好ましい。アクリル系樹脂のヨウ素価は、10.16g/100g(0.4mmol/g)以下が好ましく、7.62g/100g(0.3mmol/g)以下がより好ましく、5.08g/100g(0.2mmol/g)以下がさらに好ましい。アクリル系樹脂のヨウ素価は、2.54g/100g(0.1mmol/g)以下または1.27g/100g(0.05mmol/g)以下であってもよい。アクリル系樹脂の酸価は、0.4mmol/g以下が好ましく、0.3mmol/g以下がより好ましく、0.2mmol/g以下がさらに好ましい。アクリル系樹脂の酸価は、0.1mmol/g以下、0.05mmol/g以下または0.03mmol/g以下であってもよい。酸価が小さいことにより、アクリル系樹脂の安定性が高められるとともに、ポリイミドとの相溶性が向上する傾向がある。
【0061】
<樹脂組成物の調製>
上記のポリイミド樹脂とアクリル系樹脂とを混合して、樹脂組成物を調製する。上記のポリイミド樹脂とアクリル系樹脂は、任意の比率で相溶性を示し得るため、樹脂組成物におけるポリイミド樹脂とアクリル系樹脂との比率は特に限定されない。ポリイミド樹脂とアクリル系樹脂の混合比(重量比)は、98:2~2:98、95:5~10:90、または90:10~15:85であってもよい。ポリイミド樹脂の比率が高いほど、フィルムの弾性率および鉛筆硬度が高くなり、機械強度に優れる傾向がある。アクリル系樹脂の比率が高いほど、フィルムの着色が少なく透明性が高くなる傾向がある。ポリイミドとアクリル系樹脂との混合による透明性向上の効果を十分に発揮するためには、ポリイミドとアクリル系樹脂の合計に対するアクリル系樹脂の比率は、10重量%以上が好ましく、15重量%以上、20重量%以上、25重量%以上、30重量%以上、35重量%以上、40重量%以上、45重量%以上または50重量%以上であってもよい。
【0062】
ポリイミドは特殊な分子構造を有するポリマーであり、一般には、有機溶媒に対する溶解性が低く、他のポリマーとは相溶性を示さない。本実施形態では、ポリイミドが酸無水物成分として脂環式テトラカルボン酸二無水物を含むことにより、有機溶媒に対して高い溶解性を示すとともに、アクリル系樹脂との相溶性を示す。
【0063】
ポリイミドとアクリル系樹脂を含む樹脂組成物は、示唆走査熱量測定(DSC)および/または動的粘弾性測定(DMA)において単一のガラス転移温度を有することが好ましい。樹脂組成物が単一のガラス転移温度を有するとき、ポリイミドとアクリル系樹脂が完全に相溶しているとみなすことができる。ポリイミドとアクリル系樹脂を含むフィルムも単一のガラス転移温度を有することが好ましい。
【0064】
樹脂組成物は、ポリイミド樹脂とアクリル系樹脂とを含む混合溶液であってもよい。樹脂の混合方法は特に限定されず、固体の状態で混合してもよく、液体中で混合して混合溶液としてもよい。ポリイミド樹脂溶液およびアクリル系樹脂溶液を個別に調製し、両者を混合してポリイミド樹脂とアクリル系樹脂との混合溶液を調製してもよい。
【0065】
ポリイミド樹脂およびアクリル系樹脂を含む溶液の溶媒としては、ポリイミド樹脂およびアクリル系樹脂の両方に対する溶解性を示すものであれば特に限定されない。溶媒の例としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等のアミド系溶媒;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン系溶媒;クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、1,1,2,2-テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、塩化メチレン等のハロゲン化アルキル系溶媒が挙げられる。中でも、ポリイミド樹脂およびアクリル系樹脂の両方に対する溶解性に優れ、かつ低沸点でありフィルム作製時の残存溶媒の除去が容易であることから、ケトン系溶媒およびハロゲン化アルキル系溶媒が好ましい。
【0066】
フィルムの加工性向上や各種機能の付与等を目的として、樹脂組成物(溶液)に、有機または無機の低分子化合物、高分子化合物(例えばエポキシ樹脂)等を配合してもよい。樹脂組成物は、難燃剤、紫外線吸収剤、架橋剤、染料、顔料、界面活性剤、レベリング剤、可塑剤、微粒子、増感剤等を含んでいてもよい。微粒子には、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン等の有機微粒子、コロイダルシリカ、カーボン、層状珪酸塩等の無機微粒子等が含まれ、多孔質や中空構造であってもよい。繊維強化材には、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等が含まれる。
【0067】
[成形体およびフィルム]
上記の組成物は、各種の成形体の形成に使用できる。成形法としては、射出成形、トランスファー成形、プレス成形、ブロー成形、インフレーション成形、カレンダー成形、溶融押出成形等の溶融法が挙げられる。ポリイミドとアクリル系樹脂を含む樹脂組成物は、ポリイミド単体に比べて溶融粘度が小さい傾向があり、射出成形、トランスファー成形、プレス成形、溶融押出成形等の成形性に優れている。
【0068】
また、ポリイミドとアクリル系樹脂を含む樹脂組成物の溶液は、同一の固形分濃度のポリイミド単体の溶液に比べて溶液粘度が低い傾向がある。そのため、溶液の輸送等の取扱性に優れるとともに、コーティング性が高く、フィルムの厚みムラ低減等において有利である。
【0069】
一実施形態において成形体はフィルムである。フィルムの成形方法は、溶融法および溶液法のいずれでもよいが、透明性および均一性に優れるフィルムを作製する観点からは溶液法が好ましい。溶液法では、上記のポリイミド樹脂およびアクリル系樹脂を含む溶液を、支持体上に塗布し、溶媒を乾燥除去することにより、フィルムが得られる。
【0070】
樹脂溶液を支持体上に塗布する方法としては、バーコーターやコンマコーター等を用いた公知の方法を適用できる。支持体としては、ガラス基板、SUS等の金属基板、金属ドラム、金属ベルト、プラスチックフィルム等を使用できる。生産性向上の観点から、支持体として、金属ドラム、金属ベルト等の無端支持体、または長尺プラスチックフィルム等を用い、ロールトゥーロールによりフィルムを製造することが好ましい。プラスチックフィルムを支持体として使用する場合、製膜ドープの溶媒に溶解しない材料を適宜選択すればよい。
【0071】
溶媒の乾燥時には加熱を行うことが好ましい。加熱温度は溶媒が除去でき、かつ得られるフィルムの着色を抑制できる温度であれば特に制限されず、室温~250℃程度で適宜に設定され、50℃~220℃が好ましい。加熱温度は段階的に上昇させてもよい。溶媒の除去効率を高めるために、ある程度乾燥が進んだ後に、支持体から樹脂膜を剥離して乾燥を行ってもよい。溶媒の除去を促進するために、減圧下で加熱を行ってもよい。
【0072】
アクリル系フィルムは、靭性が低い場合があるが、ポリイミドとアクリル系樹脂との相溶系を採用することによりフィルムの強度が向上する場合がある。フィルムの機械強度向上等を目的として、一方向または複数の方向に延伸を行ってもよい。フィルムを延伸するとポリマー鎖が延伸方向に配向するため、フィルムの面内方向の強度が向上し、フィルムの割れやクラックの発生が抑制される傾向がある。
【0073】
特に、ポリイミドとアクリル系樹脂との相溶系では、延伸方向の引張弾性率が大きくなりこれに伴って耐屈曲性が向上する傾向がある。アクリル系樹脂のモノマー成分におけるメタクリル酸メチルの比率が高いほど、延伸方向の引張弾性率の上昇傾向が顕著となる。
【0074】
例えば、折りたたみ可能な表示装置(フォルダブルディスプレイ)のカバーフィルムや基板材料として用いられるフィルムは、同一箇所で折り曲げ軸に沿って折り曲げが繰り返されるため、折り曲げ軸と直交する方向の機械強度が高いことが求められる。そのため、フィルムの延伸方向が折り曲げ軸と直交するように配置することにより、折り曲げを繰り返しても、折り曲げ箇所でのフィルムの割れやクラックが生じ難く、折り曲げ耐性の高いデバイスを提供できる。
【0075】
フィルムの延伸条件は特に限定されない。例えば、延伸温度は、フィルムのガラス転移温度±40℃程度であり、120~300℃、150~250℃または180~230℃程度であってもよい。延伸倍率は、1~200%程度であり、5~150%、10~120%、20~100%であってもよい。延伸倍率が大きいほど、延伸方向の引張弾性率が大きくなる傾向がある。一方、延伸倍率が過度に大きい場合は、延伸方向と直交する方向の機械強度が低下する傾向があり、フィルムのハンドリング性が低下する場合がある。
【0076】
面内の任意の方向における強度を高める観点から、フィルムを二軸延伸してもよい。二軸延伸は同時二軸延伸でもよく、逐次二軸延伸でもよい。二軸延伸では、一方向の延伸倍率と、その直交方向の延伸倍率とが、同一でもよく異なっていてもよい。延伸倍率に差を設けると、延伸倍率が大きい方向の機械強度が相対的に大きくなる傾向がある。延伸倍率に異方性がある二軸延伸フィルムをフォルダブルデバイスに使用する場合は、延伸倍率が大きい方向を折り曲げ軸と直交するように配置することが好ましい。
【0077】
フィルムの厚みは特に限定されず、用途に応じて適宜設定すればよい。フィルムの厚みは、例えば5~300μmである。自己支持性と可撓性とを両立し、かつ透明性の高いフィルムとする観点から、フィルムの厚みは20μm~100μmが好ましく、30μm~90μm、40μm~85μm、または50μm~80μmであってもよい。ディスプレイのカバーフィルム用途としてのフィルムの厚みは、50μm以上が好ましい。フィルムを延伸する場合は、延伸後の厚みが上記範囲であることが好ましい。
【0078】
フィルムのヘイズは10%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、4%以下がさらに好ましく、3.5%以下、3%以下、2%以下または1%以下であってもよい。フィルムのヘイズは低いほど好ましい。上記の様に、ポリイミドとアクリル系樹脂が相溶性を示すため、ヘイズが低く、透明性の高いフィルムが得られる。ポリイミドとアクリル系樹脂を混合した樹脂組成物は、厚み50μmのフィルムを作製した際のヘイズが10%以下であることが好ましい。
【0079】
フィルムの黄色度(YI)は、2.0以下が好ましく、1.5以下または1.0以下であってもよい。上記のように、ポリイミド樹脂とアクリル系樹脂とを混合することにより、ポリイミド樹脂を単独で用いる場合に比べて、着色が少なく、YIの小さいフィルムが得られる。
【0080】
強度の観点から、フィルムの引張弾性率は3.5GPa以上が好ましく、4.0GPa以上であってもよい。上記のように、引張弾性率が異方性を有していてもよく、少なくとも一方向の引張弾性率が、4.5GPa以上、5.0GPa以上、5.5GPa以上、6.0GPa以上、6.5GPa以上または7.0GPa以上であってもよい。フィルムの鉛筆硬度は、F以上が好ましく、H以上または2H以上であってもよい。ポリイミドとアクリル系樹脂との相溶系においては、アクリル系樹脂の比率を高めても鉛筆硬度が低下し難い。そのため、ポリイミド特有の優れた機械強度を大きく低下させることなく、着色が少なく透明性に優れるフィルムを提供できる。
【0081】
ポリイミドとアクリル系樹脂を含む樹脂組成物により形成されるフィルムは、着色が少なく、透明性が高いことから、ディスプレイ材料として好適に用いられる。特に、機械的強度が高いフィルムは、ディスプレイのカバーウインドウ等の表面部材への適用が可能である。本発明のフィルムは、実用に際して、表面に帯電防止層、易接着層、ハードコート層、反射防止層等を設けてもよい。
【実施例0082】
以下、実施例を示して本発明の実施形態についてさらに具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0083】
[ポリイミド樹脂の製造例]
セパラブルフラスコにジメチルホルムアミドを投入し、窒素雰囲気下で撹拌した。そこに、表1に示す比率(モル%)で、ジアミンおよび酸二無水物を投入し、窒素雰囲気下にて5~10時間撹拌して反応させ、固形分濃度18重量%のポリアミド酸溶液を得た。
【0084】
ポリアミド酸溶液100gに、イミド化触媒としてピリジン5.5gを添加し、完全に分散させた後、無水酢酸8gを添加し、90℃で3時間攪拌した。室温まで冷却した後、溶液を攪拌しながら、2-プロピルアルコール(以下、IPAと記載)100gを、2~3滴/秒の速度で投入し、ポリイミドを析出させた。さらにIPA150gを添加し、約30分撹拌後、桐山ロートを使用して吸引ろ過を行った。得られた固体をIPAで洗浄した後、120℃に設定した真空オーブンで12時間乾燥させて、ポリイミド樹脂を得た。
【0085】
[フィルム作製例]
<実施例1~10,17~19、比較例1~3>
塩化メチレンに、上記の製造例で得られたポリイミド(PI)と市販のポリメタクリル酸メチル樹脂(クラレ製「パラペットHM1000」、ガラス転移温度:120℃、酸価:0.0mmol/g、以下「アクリル樹脂1」)を、表1に示す比率で混合し、樹脂分11重量%の塩化メチレン溶液を調製した。この溶液を無アルカリガラス板上に塗布し、60℃で15分、90℃で15分、120℃で15分、150℃で15分、180℃で15分、200℃で15分、大気雰囲気下で加熱乾燥し、厚さ約50μmのフィルムを作製した。
【0086】
<実施例11~16>
アクリル樹脂1に代えて、下記のアクリル系樹脂2~7(いずれも、メタクリル酸メチルを主たるモノマー成分とするアクリル系共重合体またはその変性体である)を用いたこと以外は、上記と同様の条件でフィルムを作製した。
アクリル樹脂2:クラレ製「パラペットHR-G」、ガラス転移温度116℃、酸価0.0mmol/g
アクリル樹脂3:メタクリル酸メチル/アクリル酸メチル(モノマー比81/19)の共重合体(クラレ製「パラペットGF」)、ガラス転移温度102℃、酸価0.0mmol/g
アクリル樹脂4:メタクリル酸メチル/アクリル酸メチル(モノマー比87/13)の共重合体(クラレ製「パラペットG」)ガラス転移温度109℃、酸価0.0mmol/g
アクリル樹脂5:メタクリル酸メチル/アクリル酸メチル(モノマー比96/4)の共重合体(クラレ製「パラペットEH」)、ガラス転移温度116℃、酸価0.0mmol/g
アクリル樹脂6:シンジオタクチック型ポリメタクリル酸メチル(クラレ製「パラペットSP-01」)、ガラス転移温度130℃、酸価0.0mmol/g
アクリル樹脂7:グルタルイミド環を有するアクリル系樹脂(特開2018-70710号公報の「アクリル系樹脂製造例2」に従って作製した「アクリル系樹脂(A2)」)、グルタルイミド含有量4重量%、ガラス転移温度125℃、酸価0.4mmol/g
【0087】
<実施例17>
溶媒として、塩化メチレンに代えてメチルエチルケトンを用いたこと以外は、上記と同様の条件でフィルムを作製した。
【0088】
<参考例1~4>
参考例1,3,4では、ポリイミド樹脂の塩化メチレン溶液を調製し、上記と同様の条件で厚さ約50μmのフィルムを作製した。参考例2ではアクリル樹脂1の塩化メチレン溶液を調製し、乾燥時の加熱条件を、60℃で30分、80℃で30分、100℃で30分、110℃で30分に変更したこと以外は、上記と同様の条件で厚さ約50μmのフィルムを作製した。
【0089】
[評価]
<ヘイズおよび全光線透過率>
フィルムを3cm角に切り出し、スガ試験機製のヘイズメーター「HZ-V3」により、JIS K7136およびJIS K7361-1に従って、ヘイズおよび全光線透過率(TT)を測定した。ヘイズが20%を超えたものについては、全光線透過率、ならびに以下の黄色度、引張弾性率および鉛筆硬度の測定は実施しなかった。
【0090】
<黄色度>
フィルムを3cm角に切り出し、スガ試験機製の分光測色計「SC-P」により、JIS K7373に従って黄色度(YI)を測定した。
【0091】
<引張弾性率>
フィルムを幅10mmの短冊状に切り出し、23℃/55%RHで1日静置して調湿した後、島津製作所製の「AUTOGRAPH AGS-X」を用いて、次の条件で引張弾性率を速成した。
つかみ具間距離:100mm
引張速度:20.0mm/min
測定温度:23℃
【0092】
<鉛筆硬度>
JIS K5600-5-4「鉛筆引っかき試験」により、フィルムの鉛筆硬度を測定した。
【0093】
<折り曲げ耐性>
フィルムを20mm×100mmの短冊状に切り出し、長さ方向の中央で180°折り曲げ、フィルムが割れなかったものを「〇」、フィルムが割れたものを「×」とした。
【0094】
<透過電子顕微鏡(TEM)観察>
実施例9および比較例2のフィルムの平面(フィルム面)および断面を、透過型電子顕微鏡(倍率10,000倍)により観察した。後述の実施例53の延伸フィルムについてもTEM観察を実施した。TEM像を
図1に示す。
【0095】
[評価結果]
樹脂の組成(ポリイミドの組成、アクリル系樹脂の種類、および混合比)、ならびにフィルムの評価結果を表1に示す。
【0096】
表1において、化合物は以下の略称により記載している。
<酸二無水物>
CBDA:1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物
H-PMDA:1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物
H-BPDA:1,1’-ビシクロヘキサン-3,3’,4,4’テトラカルボン酸-3,4:3’,4’-二無水物
TAHMBP:ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボン酸)-2,2’,3,3’,5,5’-ヘキサメチルビフェニル-4,4’ジイル
6FDA:2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物
BPDA:3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
ODPA:4,4’-オキシジフタル酸二無水物
<ジアミン>
TFMB:2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン
3,3’-DDS:3,3’-ジアミノジフェニルスルホン
【0097】
【0098】
ポリイミド樹脂のみを用いて作製した参考例1のポリイミドフィルムは、YIが2を超えており、透明性が不十分であった。参考例4のポリイミドフィルムも同様であった。一方、アクリル樹脂1のみを用いて作製した参考例2のアクリルフィルムは、引張弾性率が低く、鉛筆硬度がHBであり、機械強度が不十分であった。また、参考例2のアクリルフィルムは、折り曲げ耐性も不十分であった。
【0099】
参考例4と同一のポリイミド樹脂とアクリル樹脂1とを混合した樹脂組成物を用いた比較例1では、フィルムのヘイズが大幅に上昇していた。比較例2~4も同様であり、比較例1~4のフィルムは、参考例2のアクリルフィルムと同様、折り曲げ耐性が不十分であった。
図1に示すように比較例2のフィルムは、TEM像において、海島構造が確認されたことから、比較例1~4では、ポリイミド樹脂とアクリル系樹脂の相溶性が低いために、透明性および機械強度が低いと考えられる。
【0100】
参考例1と同一のポリイミド樹脂とアクリル樹脂1とを混合した樹脂組成物を用いた実施例1では、参考例1に比べてYIが小さく、全光線透過率も上昇していた。実施例1では、比較例1~4に比べてヘイズの上昇が抑制されていた。実施例1では、参考例1に比べると引張弾性率および鉛筆硬度が低下していたものの、十分な機械強度を示し、アクリル系樹脂単体の参考例2に比べて折り曲げ耐性が向上していた。
【0101】
実施例1とは異なるポリイミド樹脂を用いた実施例2~10,17においても、実施例1と同様、フィルムのヘイズの上昇が抑制され、YIが小さく、かつ機械強度に優れていた。
図1に示すように実施例9のフィルムは、TEM像において海島構造が確認されなかったことから、ポリイミド樹脂とアクリル系樹脂が完全相溶していた。これらの結果から、実施例1~10,17では、ポリイミドがテトラカルボン酸二無水物成分として脂環式構造を有するCBDAを含むことにより、ポリイミドとアクリル系樹脂との相溶性が向上し、ヘイズの上昇が抑制されたと考えられる。
【0102】
脂環式構造を有するテトラカルボン酸二無水物としてH-PMDAを含むポリイミドを用いた実施例18,19、および脂環式構造を有するテトラカルボン酸二無水物としてH-BPDAを含むポリイミドを用いた実施例20も、実施例1~10と同様、フィルムの透明性および機械強度に優れていた。また、アクリル樹脂2~7を用いた実施例11~16も、実施例1~10等と同様、フィルムの透明性および機械強度に優れていた。
【0103】
以上の結果から、テトラカルボン酸二無水物成分として脂環式テトラカルボン酸二無水物を含むポリイミドは、アクリル系樹脂との相溶性を示し、これらを混合した樹脂組成物を用いることにより、透明性が高く、かつ機械強度に優れるフィルムが得られることが分かる。
【0104】
[延伸フィルムの作製および評価]
<実施例31,41,51~55,61~67、参考例21,22>
上記の各実施例と同様にしてポリイミド樹脂とアクリル系樹脂を含むフィルムを作製し、表2に示す温度および延伸倍率で自由端一軸延伸を行い、延伸フィルムを得た。参考例21,22では、参考例2と同様にアクリル樹脂1のフィルムを作製し、延伸を行った。
【0105】
得られた延伸フィルムについて、上記と同様の評価を実施した。引張弾性率については、延伸方向(「MD」と記載)および延伸方向と直交する方向(「TD」と記載)のそれぞれの引張弾性率を評価した。さらに、以下の耐屈曲試験を実施した。
【0106】
<耐屈曲試験>
フィルムを、TDに20mm、MDに120mmの短冊状に切り出した。この試験片の短辺を、U字伸縮試験冶具(ユアサシステム機器製「DMX-FS」)に取り付け、温度23℃、相対湿度55%の環境下にて、卓上型耐久試験機(ユアサシステム機器製「DMLHB)により、屈曲半径1.0mm、屈曲角度180℃、屈曲速度:1回/秒の条件で繰り返し屈曲試験を行い、MDの耐屈曲回数(フィルムが破断するまでの屈曲回数)を測定した。延伸フィルムについては、TDを長辺とする短冊状試料についても同様の試験を行い、TDの耐屈曲回数を測定した。屈曲回数10万回でもフィルムが破断しなかった場合の耐屈曲回数は10万回とした。
【0107】
実施例31,41,51~55,61~67および参考例21,22の樹脂の組成(ポリイミドの組成、アクリル系樹脂の種類、および混合比)、延伸条件、ならびにフィルムの評価結果を表2に示す。表2には、実施例7~16および参考例2のデータもあわせて示している。引張弾性率および耐屈曲試験について評価を実施していないものは、表中「ND」と記載した。
【0108】
【0109】
アクリル樹脂フィルム単体の樹脂フィルムを延伸した参考例21,22では、MDとTDの引張弾性率に明確な差異はみられず、延伸を行っていない参考例2のフィルムと同等の引張弾性率を示した。一方、実施例51~55では、延伸を行っていない実施例9のフィルムに比べて、MDの引張弾性率が大きく、延伸倍率の増大に伴って、MDの引張弾性率が大きくなる傾向がみられた。また、実施例51~55では、実施例9に比べて、MDおよびTDの両方向の耐屈曲性が向上していた。
図1に示すように、実施例53のフィルムは、実施例9と同様、TEM像において海島構造が確認されなかったことから、延伸後も完全相溶系を維持していることが分かる。
【0110】
実施例31,41,61~67においても、無延伸フィルムに比べてMDの引張弾性率が大きくなっており、MDおよびTDの両方向の耐屈曲性が向上していた。
【0111】
無延伸フィルムである実施例9,12~16では、引張弾性率に明確な差がみられなかった。一方、これらと同一組成のフィルムを延伸倍率90%で延伸した実施例54,63~67では、アクリル系樹脂のモノマー組成におけるメタクリル酸メチルの比率が高いアクリル系樹脂1,6,7を用いた実施例66,67が、MDの引張弾性率が7GPaを超えており、メタクリル酸メチルの比率が高いほど、延伸方向の引張弾性率がより大きくなる傾向がみられた。