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  • 特開-細胞外粒子の産生方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023031224
(43)【公開日】2023-03-08
(54)【発明の名称】細胞外粒子の産生方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20230301BHJP
   C12N 7/00 20060101ALN20230301BHJP
【FI】
C12N5/10
C12N7/00
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022051748
(22)【出願日】2022-03-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2021136067
(32)【優先日】2021-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】521023953
【氏名又は名称】VAXOSOME合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085257
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 有
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 貞俊
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA95X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065CA45
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ブタの感染症ワクチンに利用可能な細胞外粒子の産生方法を提供する。
【解決手段】PRRSウイルスが感染し得るブタの細胞に、moi(multiple of infection)1.0~0.01の濃度でウイルスを感染させると同時にインターフェロンを添加し、その後洗浄して溶解した細胞を除き、溶解せずに培養器に残った細胞(ウイルス持続感染細胞が多く残った細胞)に培養液を加える。この洗浄と培養液を加える工程を所定回数繰り返し、残ったウイルス持続感染細胞から細胞外粒子を分離精製する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程からなる細胞外粒子の産生方法。
工程1:ウイルスとしてPRRS(豚繁殖・呼吸障害症候群:Porcine Reproductive and Respiratory Synfrome)ウイルスを用意する。
工程2:ウイルスが感染し得る細胞としてブタの上皮細胞またはブタの肺細胞を用意する。
工程3:工程2で用意した細胞に、moi (multiple of infection) 1.0~0.01の割合でウイルスを感染させ、同時に1ng/ml~50ng/mlの濃度のインターフェロン(IFN)を添加する。
工程4:1~2日経過後に、工程3でウイルス感染させた細胞を洗う。
工程5:工程4で溶解せずに培養器に残った細胞(ウイルス持続感染細胞が多く残っている可能性が高い細胞)に、前記ウイルス由来のタンパク質が含まれているかを確認する。
工程6:前記ウイルス由来のタンパク質が含まれていることが確認できた細胞に培養液を加えて培養する。
工程7:工程6を少なくとも1回以上繰り返して、ウイルス感染持続細胞をクローン化する。
工程8:工程7で得たウイルス感染持続細胞からエクソゾームを含む細胞外粒子を分離精製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブタの肺細胞または上皮細胞から感染症免疫ワクチンを製造する出発物質としての細胞外粒子(Extracellular Vesicle;EV)を製造する方法に関する。
この細胞外粒子にはエクソゾーム(Exosome)の他にマイクロベシクル、アポトーシス小体などが含まれるが、性状的に極めて類似しており、2016年の細胞外粒子国際会議では、一括して細胞外粒子と呼ぶことが提唱されている。そこで、本明細書では細胞外粒子をエクソゾーム(Exosome)を含んだ意味で用いる。
【背景技術】
【0002】
PRRS(豚繁殖・呼吸障害症候群:Porcine Reproductive and Respiratory Syndrome)は、PRRSウイルスを原因とする感染症であり、世界の養豚業に大きな経済的損失を与えている疾病の1つであり、届出伝染病に指定されている。
【0003】
エクソゾームなどの細胞外粒子は、細胞内に存在する膜小胞が細胞外に分泌された直径が30~200nmの粒子で、内部には核酸(マイクロRNA、mRNA、DNAなど)の他に細胞内のタンパク質と同じタンパク質を含んでいる
【0004】
ウイルスに感染した細胞から分泌されるエクソゾームには、ウイルス特有のタンパク質が含まれている。そこで、ウイルスに感染から分泌されたエクソゾームを樹状細胞(dendritic cell)と融合させると、融合した樹状細胞はウイルス特有のタンパク質を分泌するため融合細胞は抗原提示細胞(APC)として機能する。つまり、融合細胞はワクチンとして機能する。
【0005】
このようなエクソゾームをがんの免疫療法に用いる提案が、特許文献1及び特許文献2になされている。これら特許文献には、がん細胞から放出されたエクソゾームを樹状細胞やT細胞などの免疫細胞に電気穿孔処理(エレクトロポレーション)によって挿入して融合させ、これをワクチンとして患者に投与することが開示されている。
【0006】
特許文献3には、ウイルス持続感染細胞を用いてワクチン(ウイルス抗原)を製造すること、ウイルス持続感染細胞を得るためにウイルスレセプターを有する細胞(株化細胞)に直接感染させる方法(cell-free感染法)が開示されている。
【0007】
特許文献4には、エクソゾームにヒートショックを与え、エクソゾーム内に免疫細胞への親和性を高めるヒートショック誘導タンパク質を形成することが開示されている。
【0008】
非特許文献1には、ウイルス(SARS-CoV-2 COVID-19ウイルス)がACE受容体を介して胚細胞に感染し、ウイルスのタンパク質や核酸がエクソゾームに封入されて細胞外に分泌されること、エクソゾームが免疫細胞応答を誘導すること、エクソゾームを抗ウイルスワクチンとして使用し得ることが記載されている。
【0009】
非特許文献2には、エクソゾームを抗ウイルスワクチンとして使用し得ることが記載されている。
更に、非特許文献3には、コロナウイルスが持続感染する症例が挙げられ、非特許文献4及び非特許文献5には、ウイルス感染細胞から細胞外粒子が分泌されることについて記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2013-523824号公報
【特許文献2】特許第6635637号公報
【特許文献3】特開2006-061057号公報
【特許文献4】特開2020-090476号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Infection, Genetics and Evolution, 2020年 6月, Vol, 85, article number 104422, pp 1-22
【非特許文献2】Virology, 2007年, Vol. 362, pp. 26-37
【非特許文献3】European Journal of Case Reports in Internal Medicine, 2020年11月, Vol. 7, doi: 10,12890/2020_001707
【非特許文献4】The Open Virology Journal, 2018年, Vol. 12, pp. 134-148
【非特許文献5】Biotechnology Journal, 2018年, Vol. 13, article number 1700443, pp. 1-7
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、エクソゾーム(細胞外粒子)はそれが放出された元の細胞に含まれるタンパク質を含んでいる。元の細胞がウイルスに感染していれば当該ウイルスが産生するタンパク質も含まれる。
【0013】
そこで、ウイルスに感染した細胞から分泌されるエクソゾーム(細胞外粒子)を感染症免疫ワクチンまたはその出発物質として利用することが考えられる。しかしながら、これを感染症の免疫ワクチンとして実現するには、ウイルスが産生するタンパク質を含むエクソゾーム(細胞外粒子)を安定して分泌する細胞が必要となる。
【0014】
従来技術を組み合わせることにより、エクソゾーム(細胞外粒子)を安定して分泌する細胞としてウイルス持続感染細胞を選定し、この持続感染細胞が分泌するエクソゾーム(細胞該粒子)をワクチンとすること、若しくは樹状細胞と融合することを想定することができる。
【0015】
パンデミックを想定した場合、大量のワクチンを短時間で製造することが要求される。ウイルス持続感染細胞をワクチンの供給源とする場合には、ウイルス持続感染細胞を短時間で大量に産生する必要がある。
しかしながら、従来技術はウイルス持続感染細胞を効率よく短時間で大量に産生する手段については何ら示唆していない。
【0016】
ここで、細胞がウイルスに接すると細胞はインターフェロン(IFN)を発現し、ウイルス感染が阻止され、例外的にインターフェロン(IFN)によるウイルス阻止機能が部分的にしか働かない細胞があり、この細胞がウイルス持続感染細胞となる。即ち、ウイルスに感染してはいるが細胞としての機能を発揮し、細胞外粒子を分泌する細胞である。
しかしながら、インターフェロン(IFN)によるウイルス阻止機能が部分的にしか働かない細胞の出現を待っていたのでは、ワクチンとするための細胞外粒子を短期間で大量に生産することができず、感染症対策に遅れをとることになる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
細胞には、ウイルス感染した場合にインターフェロン(IFN)が強く発現する細胞と発現力が弱い細胞があり、線維芽細胞(真皮線維芽細胞)などはインターフェロン(IFN)が強く発現され、ウイルス感染が阻止され持続感染系になりにくい。
【0018】
一方、上皮細胞(Epithelial cell)や癌腫(Carcinoma)系の細胞はウイルス感染によるインターフェロン(IFN)の発現は弱く、ウイルスが感染すると細胞の溶解が起こり持続感染系になりにくい。
【0019】
インターフェロン(IFN)に着目してウイルス持続感染細胞を人為的に作成する場合、線維芽細胞(真皮線維芽細胞)などについてはインターフェロン(IFN)の働きを弱めることが考えられる。インターフェロン(IFN)の働きを弱める(阻害する)タンパク質やRNAはあるが、コントロールが極めて困難で、実験では全ての線維芽細胞はウイルス感染してもウイルス抵抗性を示し、ウイルス抗原は極少量かもしくは全く発現していなかった。即ち、線維芽細胞(真皮線維芽細胞)から持続感染細胞を作成するのは困難である。
【0020】
一方、上皮細胞(Epithelial cell)や癌腫(Carcinoma)系の細胞については、インターフェロン(IFN)を強く発現させることで人為的にウイルス持続感染細胞とすることができる可能性がある。インターフェロン(IFN)を強く発現させるにはインターフェロン(IFN)を細胞に供給すればよく、線維芽細胞(真皮線維芽細胞)に比べてコントロールが容易である。
【0021】
本発明者はウイルス持続感染細胞から分泌される細胞外粒子はワクチンの材料になり得ること、ウイルス持続感染細胞になるか否かにはインターフェロン(IFN)が影響していること、細胞にはウイルスに感染した際にインターフェロン(IFN)の発現が強い種類と弱い種類がある知見に基づき本発明を成したものである。
【0022】
本発明は、以下の工程で感染症免疫のワクチンの材料となり得る細胞外粒子を産生する。
工程1:ウイルスとしてPRRS(豚繁殖・呼吸障害症候群:Porcine Reproductive and Respiratory Syndrome)ウイルスを用意する。
工程2:ウイルスが感染し得る細胞としてブタの上皮細胞またはブタの肺細胞を用意する。
工程3:工程2で用意した細胞に、moi (multiple of infection) 1.0~0.01の濃度でウイルスを感染させ、このウイルス感染と同時にインターフェロン(IFN)を添加してウイルス増殖を抑制する。
添加するインターフェロン(IFN)としては、Type1 IFNまたはType 2 IFNをウイルス感染細胞に添加しウイルス増殖を抑制させる。Type1 IFNまたはType 2 IFNの濃度は1ng/ml~50ng/mlが好ましい。
工程4:1~2日経過後に、工程3でウイルス感染させた細胞を洗う。
工程5:工程4で溶解せずに培養器に残った細胞(ウイルス持続感染細胞が多く残っている可能性が高い細胞)に、前記ウイルス由来のタンパク質が含まれているかを確認する。
工程6:前記ウイルス由来のタンパク質が含まれていることが確認できた細胞に培養液を加えて培養する。
工程7:工程6を少なくとも1回以上繰り返して、ウイルス感染持続細胞をクローン化する。
工程8:工程7で得たウイルス感染持続細胞からエクソゾームを含む細胞外粒子を分離精製する。
【0023】
工程3において、感染濃度をmoi 1.0~0.01としたのは、moi 1.0よりも大きくなると、ウイルス感染拡大が速くなって殆どの細胞がウイルス産生のみを行い溶解するためであり、moi 0.01よりも小さくなると、感染しにくくなるためである。
また、添加するインターフェロン(IFN)濃度を1ng/ml~50ng/mlとするのは、1ng/ml未満ではウイルスにより細胞が溶解しやすく、50ng/mlを超えるとウイルスに感染しにくくなるためである。
【0024】
また、細胞外粒子の分離精製については、一般的には超遠心分離法、またはカラム法を用いて行う。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る細胞外粒子の産生方法によれば、細胞外粒子を分泌するウイルス持続感染細胞から短期間のうちに大量に生産することができる。具体的には、ウイルス持続感染細胞を確立させるまでに3~5日、細胞のクローン化に1~2カ月あれば十分である。
【0026】
ウイルス持続感染細胞となる前駆体細胞として、上皮細胞(Epithelial cell)や肺細胞(肺がん細胞)を採用したことで以下の効果を発揮する。
(1)線維芽細胞に比べ確立した細胞系は多数あり、細胞外粒子生産に適した細胞を選択するのが容易である。また、ウイルス感染に適合する細胞を選択する可能性が高くなる。
(2)タンパク分解酵素への抵抗性が強く細胞植え継ぎ(継代)は非常に容易である。
(3)すでに浮遊細胞系として確立された系が多く存在し、そのため細胞による物質生産を増やし、その物質を単離するのが容易になる。
(4)接着性の上皮細胞(Epithelial cell)や肺細胞を浮遊細胞へ変えるのが比較的容易である。
(5)細胞が丈夫である故、植え継ぎ時に死滅する細胞が少なく、多数の細胞を培養することが可能であり、細胞外粒子生産系としては線維芽細胞よりはるかに有利である。
【0027】
本発明にかかるウイルス持続感染細胞が分泌した細胞外粒子は、そのままワクチンとして利用できる可能性があるが、ウイルス持続感染細胞が分泌した細胞外粒子を樹状細胞(DC)と融合させて利用することもできる。
この場合は融合樹状細胞を抗原提示細胞(APC)となり、ナイーブT細胞を教育し、獲得免疫およびウイルス感染の記憶(memory)を作ることが可能となる。
【0028】
細胞外粒子を樹状細胞(DC)と融合させる手段としてはエレクトロポレーション法、PEG(ポリエチレングリコール)法などが考えられる。
【0029】
また本発明によれば、ウイルスの種類に左右されずまた変異したウイルスに対しても短期間のうちに大量の細胞外粒子を製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明に係る細胞外粒子の産生方法の工程を説明した図
図2】ウイルスに感染させたブタの細胞形態を示す顕微鏡写真(400倍)
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下に本発明の実施例を説明する。
図1に示すように、ブタの上皮細胞またはブタの肺細胞に、PRRSウイルスを感染させる。
【0032】
上記のウイルス感染と同時に細胞にインターフェロンとしてType1 IFNまたはType 2 IFNを添加しウイルス増殖を抑制する。
【0033】
感染させるコロナウイルスの濃度は、moi 1.0~0.01とした。これは、moi 1.0よりも濃くすると、ウイルス感染拡大が速くなって殆どの細胞がウイルス産生のみを行い溶解するためであり、moi 0.01よりも薄くすると、感染しにくくなるためである。
また、添加するType1 IFNまたはType 2 IFNの濃度は1ng/ml~50ng/mlとした。これは、1ng/mlよりも希釈するとウイルス増殖を抑制できず細胞が溶解し、50ng/mlよりも濃くするとウイルスの感染が阻止される割合が高くなるためである。
【0034】
感染させた細胞を培養器内で室温(25℃)で24~48時間培養し、培養器を洗浄する。
この洗浄で溶解した細胞は除去され、感染していない細胞とウイルス持続感染細胞が培養器内に残る。残った培養器に再び培養液を加え、再度培養する。
以上の洗浄と培養の操作を繰り返すことで、培養器内の細胞は殆どがウイルス持続感染細胞となる。繰り返し回数は任意であるが数回行えば十分である。
【0035】
上記によって得た培養器内の細胞(ウイルス持続感染細胞)にPRRSウイルス特異タンパク質が含まれているかは、蛍光免疫染色法で確認する。
【0036】
図2は、PRRS(豚繁殖・呼吸障害症候群:Porcine Reproductive and Respiratory Syndrome)に対して本発明を適用した例である。実験方法は、以下の通りである。
(1)ブタの肺細胞に、PRRSウイルスをmoi 0.1で感染させ、同時に濃度10ng/ml のType1 IFNを添加し、37℃インキュベータに保存した。
(2)1日ごとに浮遊してきた細胞をピペットで取り除き、培養液(ダルベッコMEM 5%牛胎児血清含む)で洗浄した。
(3)(2)の作業を2~3日ごとに繰り返した。
(4)その後、5日ほどで浮遊細胞の出現はほとんど無くなり、細胞はシャーレに付着していた。
(5)感染細胞を抗PRRSウイルス、ポリクローン抗体で直接染色し、顕微鏡で観察した。
【0037】
感染後10日の感染細胞にはウイルス由来のタンパク質の発現がみられ、その後ウイルス由来のタンパク質の発現は徐々に失われたが、感染後60日経過した感染細胞からは安定してタンパク質が発現された。更に感染後90日まで観察したが、細胞形態、免疫染色図に変化は見られず、PRRSウイルスによる持続感染系が完成したと思われる。
【0038】
PRRSウイルスの濃度をmoi 0.1に固定し、添加するType1 IFNの濃度を1ng/ml、5ng/ml、25ng/ml、50ng/mlとし、他の条件を上記実験例と同様にして行った。
結果は、PRRSウイルスによる持続感染系が確認できた。
【0039】
Type1 IFNの濃度を10ng/mlに固定し、PRRSウイルスの濃度をmoi 0.01、moi 0.05、moi0.25、moi1.0とし、他の条件を上記実験例と同様にして行った。
結果は、PRRSウイルスによる持続感染系が確認できた。
【0040】
ブタの肺細胞の代わりにブタの上皮細胞を用いて、上記と同様の検証を行ったところ、同じ結果が得られた。またIFNに関してはType1 IFNとType2 IFNに変化はなかった。
【0041】
上記の安定して発現しているタンパク質の中にワクチンとして使用できるタンパク質が存在しているかを検証し、これらのタンパク質を発現している感染持続細胞をクローン化(細胞集団の作製)する。
【0042】
細胞には個体差(個性)があり、インターフェロン(IFN)への感受性も異なる。このため実験条件が同じでも全て持続感染細胞となるわけではない。図2の実験2では、同じ実験条件でもウイルス持続感染細胞とならない例を示している。
そのため、ウイルスに感染させた後に細胞が発現するタンパク質を解析し、ワクチン化に最も有望な持続感染細胞を選択しクローン化する必要がある。

図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2022-05-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程からなる細胞外粒子の産生方法。
工程1:ウイルスとしてPRRS(豚繁殖・呼吸障害症候群:Porcine Reproductive and Respiratory Syndrome)ウイルスを用意する。
工程2:ウイルスが感染し得る細胞としてブタの上皮細胞またはブタの肺細胞を用意する。
工程3:工程2で用意した細胞に、moi (multiple of infection) 0.01~1.0の割合でウイルスを感染させ、同時に1ng/ml50ng/mlの濃度のインターフェロン(IFN)を添加する。
工程4:1~2日経過後に、工程3でウイルス感染させた細胞を洗う。
工程5:工程4で溶解せずに培養器に残った細胞(ウイルス持続感染細胞が多く残っている可能性が高い細胞)に、前記ウイルス由来のタンパク質が含まれているかを確認する。
工程6:前記ウイルス由来のタンパク質が含まれていることが確認できた細胞に培養液を加えて培養する。
工程7:工程6を少なくとも1回以上繰り返して、ウイルス感染持続細胞をクローン化する。
工程8:工程7で得たウイルス感染持続細胞からエクソゾームを含む細胞外粒子を分離精製する。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0022
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0022】
本発明は、以下の工程で感染症免疫のワクチンの材料となり得る細胞外粒子を産生する。
工程1:ウイルスとしてPRRS(豚繁殖・呼吸障害症候群:Porcine Reproductive and Respiratory Syndrome)ウイルスを用意する。
工程2:ウイルスが感染し得る細胞としてブタの上皮細胞またはブタの肺細胞を用意する。
工程3:工程2で用意した細胞に、moi (multiple of infection) 0.01~1.0の割合でウイルスを感染させ、このウイルス感染と同時にインターフェロン(IFN)を添加してウイルス増殖を抑制する。
添加するインターフェロン(IFN)としては、Type1 IFNまたはType 2 IFNをウイルス感染細胞に添加しウイルス増殖を抑制させる。Type1 IFNまたはType 2 IFNの濃度は1ng/ml50ng/mlが好ましい。
工程4:1~2日経過後に、工程3でウイルス感染させた細胞を洗う。
工程5:工程4で溶解せずに培養器に残った細胞(ウイルス持続感染細胞が多く残っている可能性が高い細胞)に、前記ウイルス由来のタンパク質が含まれているかを確認する。
工程6:前記ウイルス由来のタンパク質が含まれていることが確認できた細胞に培養液を加えて培養する。
工程7:工程6を少なくとも1回以上繰り返して、ウイルス感染持続細胞をクローン化する。
工程8:工程7で得たウイルス感染持続細胞からエクソゾームを含む細胞外粒子を分離精製する。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0023
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0023】
工程3において、感染濃度をmoi 0.01~1.0としたのは、moi 1.0よりも大きくなると、ウイルス感染拡大が速くなって殆どの細胞がウイルス産生のみを行い溶解するためであり、moi 0.01よりも小さくなると、感染しにくくなるためである。
また、添加するインターフェロン(IFN)濃度を1ng/ml50ng/mlとするのは、1ng/ml未満ではウイルスにより細胞が溶解しやすく、50ng/mlを超えるとウイルスに感染しにくくなるためである。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0033
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0033】
感染させるコロナウイルスの濃度は、moi 0.01~1.0とした。これは、moi 1.0よりも濃くすると、ウイルス感染拡大が速くなって殆どの細胞がウイルス産生のみを行い溶解するためであり、moi 0.01よりも薄くすると、感染しにくくなるためである。
また、添加するType1 IFNまたはType 2 IFNの濃度は1ng/ml50ng/mlとした。これは、1ng/mlよりも希釈するとウイルス増殖を抑制できず細胞が溶解し、50ng/mlよりも濃くするとウイルスの感染が阻止される割合が高くなるためである。