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特開2023-31254カーボンナノファイバー群の製造方法及び該製造方法で製造されるカーボンナノファイバー群、並びに、該カーボンナノファイバーを含有する樹脂及びそれを用いた成型体
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  • 特開-カーボンナノファイバー群の製造方法及び該製造方法で製造されるカーボンナノファイバー群、並びに、該カーボンナノファイバーを含有する樹脂及びそれを用いた成型体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023031254
(43)【公開日】2023-03-08
(54)【発明の名称】カーボンナノファイバー群の製造方法及び該製造方法で製造されるカーボンナノファイバー群、並びに、該カーボンナノファイバーを含有する樹脂及びそれを用いた成型体
(51)【国際特許分類】
   D01F 9/145 20060101AFI20230301BHJP
   B29B 15/08 20060101ALI20230301BHJP
   C01B 32/15 20170101ALI20230301BHJP
   B29K 105/12 20060101ALN20230301BHJP
【FI】
D01F9/145
B29B15/08
C01B32/15
B29K105:12
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022114688
(22)【出願日】2022-07-19
(31)【優先権主張番号】P 2021157259
(32)【優先日】2021-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】599011377
【氏名又は名称】株式会社アルメディオ
(74)【代理人】
【識別番号】110002136
【氏名又は名称】弁理士法人たかはし国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 典之
(72)【発明者】
【氏名】冨山 昌雄
【テーマコード(参考)】
4F072
4G146
4L037
【Fターム(参考)】
4F072AA02
4F072AA07
4F072AA08
4F072AB10
4F072AC08
4F072AH23
4F072AL01
4G146AA01
4G146AB06
4G146AC02A
4G146AC03A
4G146AD37
4G146BA22
4G146BA23
4G146BA42
4G146CB09
4G146CB10
4G146CB35
4G146CB36
4G146DA07
4G146DA27
4L037CS03
4L037FA02
4L037FA03
4L037PP38
(57)【要約】
【課題】アスペクト比が大きく、所定のサイズに特定されたカーボンナノファイバーを、略1本ずつ単離可能な状態にするか、又は、略1本ずつの分散状態にするカーボンナノファイバー群の製造方法を提供すること。
【解決手段】直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下のカーボンナノファイバーが、上記範囲に全体の50個数%以上が分布しているカーボンナノファイバー群の製造方法であって、
ランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維を原料とし、数平均長さが100μm以下になるまで乾式粉砕した後に湿式粉砕をすることによって上記分布にするカーボンナノファイバー群の製造方法、該製造方法で製造されるカーボンナノファイバー群、該カーボンナノファイバー群を含有するカーボンナノファイバー分散液、該カーボンナノファイバー含有樹脂、及び、それを用いた成型体。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下のカーボンナノファイバーが、上記範囲に全体の50個数%以上が分布しているカーボンナノファイバー群の製造方法であって、
ランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維を原料とし、数平均長さが100μm以下になるまで乾式粉砕した後に湿式粉砕をすることによって上記分布にすることを特徴とするカーボンナノファイバー群の製造方法。
【請求項2】
前記カーボンナノファイバーが、1本ずつ単離可能な状態になっているか、又は、1本ずつの分散状態若しくは分散可能状態になっている請求項1に記載のカーボンナノファイバー群の製造方法。
【請求項3】
前記カーボンナノファイバーの数平均アスペクト比が3以上200以下である請求項1に記載のカーボンナノファイバー群の製造方法。
【請求項4】
前記ランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維を構成するフィラメントを構成する素フィラメントの数平均厚さ又は数平均太さが、10nm以上200nm以下である請求項1に記載のカーボンナノファイバー群の製造方法。
【請求項5】
前記フィラメントを構成する前記素フィラメントが2本以上20本以下の範囲で集合して前記カーボンナノファイバーが構成されている請求項4に記載のカーボンナノファイバー群の製造方法。
【請求項6】
前記乾式粉砕が、気流式粉砕、カッター式粉砕、又は、気流式粉砕とカッター式粉砕の両方を同時に行う粉砕である請求項1に記載のカーボンナノファイバー群の製造方法。
【請求項7】
前記乾式粉砕を、ブレードを有し、剪断と衝撃とを与える乾式粉砕機で行う請求項1に記載のカーボンナノファイバー群の製造方法。
【請求項8】
前記乾式粉砕と前記湿式粉砕の間に加熱処理を行って混在樹脂を除去する請求項1に記載のカーボンナノファイバー群の製造方法。
【請求項9】
前記湿式粉砕が、界面活性剤が存在している水系媒体中で行うビーズミル粉砕又はボールミル粉砕である請求項1に記載のカーボンナノファイバー群の製造方法。
【請求項10】
前記界面活性剤が、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、又は、両性界面活性剤である請求項9に記載のカーボンナノファイバー群の製造方法。
【請求項11】
前記界面活性剤の存在量が、炭素繊維100質量部に対して、0.1質量部以上30質量部以下である請求項9に記載のカーボンナノファイバー群の製造方法。
【請求項12】
更に、前記湿式粉砕をした後に得られる、カーボンナノファイバー群のスラリーの中に、金属含有凝集防止剤、コブロックポリマー、櫛型コブロックポリマー、及び、界面活性剤からなる群より選ばれた1種又は2種以上の凝集防止剤を含有させて凝集防止処理を行う請求項1に記載のカーボンナノファイバー群の製造方法。
【請求項13】
前記凝集防止剤を、湿式粉砕後のスラリー全体に対して、0.0001質量%以上0.1質量%以下で加える、又は、カーボンナノファイバー群である凝集防止対象物の全体量に対して、0.001質量%以上1質量%以下で加える請求項12に記載のカーボンナノファイバー群の製造方法。
【請求項14】
前記湿式粉砕が、界面活性剤が存在している水系媒体中で行うビーズミル粉砕又はボールミル粉砕である請求項1ないし請求項13の何れかの請求項に記載のカーボンナノファイバー群の製造方法。
【請求項15】
請求項1ないし請求項13の何れかの請求項に記載のカーボンナノファイバー群の製造方法で製造されるものであることを特徴とするカーボンナノファイバー群。
【請求項16】
請求項15に記載のカーボンナノファイバー群を含有することを特徴とするカーボンナノファイバー分散液。
【請求項17】
請求項15に記載のカーボンナノファイバー群、及び、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を含有することを特徴とするカーボンナノファイバー含有樹脂及びそれを用いた成型体。
【請求項18】
請求項15に記載のカーボンナノファイバー群、及び、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を含有することを特徴とする繊維強化プラスチック用マトリックス樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の形状を有するカーボンナノファイバーを有するカーボンナノファイバー群、該製造方法で製造されるカーボンナノファイバー群、及び、該カーボンナノファイバー群を含有するカーボンナノファイバー分散液、並びに、該カーボンナノファイバーを含有する樹脂及びそれを用いた成型体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維や、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)(carbon fiber reinforced plastics)は、軽量であり、強靭さとしなやかさを合わせ持っているため、金属の代替等として種々の成型品に多く利用されている。
中でも最も短い炭素繊維は、ミルドファイバーとも言われ、一般には平均繊維長は70μm以上200μm以下であり、平均繊維径は約3~10μmであり、そのサイズの細かさから、研磨剤、補強補助剤等に利用されていることが多い。
【0003】
ミルドファイバーより長い平均繊維長を持つチョップドファイバーや長繊維は、プリプレグ、フォージド等の成型品に用いられることが主流である。
また、これ以外のサイズとして、ミルドファイバーを更に粉砕し、繊維長を短くした微粒CFRPは、例えばコンクリートの補強材等に利用されている。
しかし、これらは、短くなるほど加工性が難しくなり、粉砕された後も凝集し易くなることから、良分散が要求される分野には、現在のところ利用価値は少ないと考えられている。
【0004】
炭素繊維の実際の分散性(1本1本の存在性)や、該炭素繊維の利用価値から離れて、単純にその形状(サイズ)から定義すると、現在の一般的定義では、直径3μm~10μm、長さ500μm~10000μmと定義されているカーボンファイバー;直径50nm~1000nm、長さ0.2μm~200μmのカーボンナノファイバー;直径0.4nm~100nm、長さ50nm~20000nmのカーボンナノチューブ;が知られている。
【0005】
炭素繊維の直径やアスペクト比が記載された文献はあるが(例えば、特許文献1、2)、現在のところ、本発明のようにサイズが小さく、アスペクト比が大きく、かつ、略1本ずつ単離(分離)可能な状態になっているか、又は、略1本ずつ分散(可能)な状態になっているカーボンナノファイバーの炭素繊維群は殆ど存在しない。
すなわち、現在、上記で定義されるカーボンナノファイバーサイズの炭素繊維の利用度は、その分散性又は再分散性が悪い等のために極めて低い。
【0006】
また、アスペクト比が大きいナノサイズの炭素繊維が分散している又は分散可能な状態になっているものは、市場には(商業的には)存在せず、かかる炭素繊維が安定して分散している分散液も知られていない。
【0007】
アスペクト比が大きく、分散可能で分散安定性もあるカーボンナノファイバー群は、例えば、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂に含有させてカーボンナノファイバー含有樹脂(複合材)とする等、種々の広い需要(用途)が考えられるものの良好なものは実現できていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2012-188790号公報
【特許文献2】特開2017-066546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、アスペクト比が大きく、更にサイズが特定されたカーボンナノファイバー群であって、略1本ずつ単離可能な状態にするか、又は、略1本ずつの分散状態又は分散可能状態にするカーボンナノファイバー群の製造方法を提供することである。また、該製造方法で製造されるカーボンナノファイバー群、及び、該カーボンナノファイバー群を含有するカーボンナノファイバー分散液を提供することである。
【0010】
更に、該カーボンナノファイバー群を含有するカーボンナノファイバー含有樹脂及びそれを用いた成型体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、原料として特定の炭素繊維を用い、乾式粉砕をしてから湿式粉砕をすることによって初めて、サイズが特定されたカーボンナノファイバーを、略1本ずつ単離可能な状態にするか、又は、略1本ずつの分散状態又は分散可能状態にできることを見出した。
また、原料となる炭素繊維を更に限定したり、乾式粉砕の方法及び/又は湿式粉砕の方法を更に限定したり、各段階で用いる界面活性剤や分散剤を限定することで、より好適にカーボンナノファイバー(群)を分散(可能)状態(上記した状態)にできることを見出して本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下のカーボンナノファイバーが、上記範囲に全体の50個数%以上が分布しているカーボンナノファイバー群の製造方法であって、
ランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維を原料とし、数平均長さが100μm以下になるまで乾式粉砕した後に湿式粉砕をすることによって上記分布にすることを特徴とするカーボンナノファイバー群の製造方法を提供するものである。
【0013】
また、本発明は、前記カーボンナノファイバーの数平均アスペクト比が3以上200以下である前記のカーボンナノファイバー群の製造方法を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、前記ランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維を構成するフィラメントを構成する素フィラメントの数平均厚さ又は数平均太さが、10nm以上200nm以下である前記のカーボンナノファイバー群の製造方法を提供するものである。
【0015】
また、本発明は、前記フィラメントを構成する前記素フィラメントが2本以上20本以下の範囲で集合して前記カーボンナノファイバーが構成されている前記のカーボンナノファイバー群の製造方法を提供するものである。
【0016】
また、本発明は、前記乾式粉砕が、気流式粉砕、カッター式粉砕、又は、気流式粉砕とカッター式粉砕の両方を同時に行う粉砕である前記のカーボンナノファイバー群の製造方法を提供するものである。
【0017】
また、本発明は、前記湿式粉砕が、界面活性剤が存在している水系媒体中で行うビーズミル粉砕又はボールミル粉砕である前記のカーボンナノファイバー群の製造方法を提供するものである。
【0018】
また、本発明は、前記乾式粉砕と前記湿式粉砕の間に加熱処理を行って混在樹脂を除去する前記のカーボンナノファイバー群の製造方法を提供するものである。
【0019】
また、本発明は、更に、前記湿式粉砕をした後に得られる、カーボンナノファイバー群のスラリーの中に、金属含有凝集防止剤、コブロックポリマー、櫛型コブロックポリマー、及び、界面活性剤からなる群より選ばれた1種又は2種以上の凝集防止剤を含有させて凝集防止処理を行う前記のカーボンナノファイバー群の製造方法を提供するものである。
【0020】
また、本発明は、前記のカーボンナノファイバー群の製造方法で製造されるカーボンナノファイバー群を提供するものである。
【0021】
また、本発明は、前記のカーボンナノファイバー群を含有するカーボンナノファイバー分散液を提供するものである。
【0022】
また、本発明は、前記のカーボンナノファイバー群、及び、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を含有するカーボンナノファイバー含有樹脂及びそれを用いた成型体を提供するものである。
【0023】
また、本発明は、前記のカーボンナノファイバー群、及び、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を含有する繊維強化プラスチック用マトリックス樹脂及びそれを用いた成型体を提供するものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明の製造方法によれば、前記問題点や上記課題を解決し、直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下と言った、アスペクト比が大きいカーボンナノファイバーを、(略)1本ずつ単離可能又は(略)1本ずつの分散状態又は分散可能状態にできるカーボンナノファイバー群を製造できる。
【0025】
本発明は、原料となる炭素繊維がランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維であることに特徴がある。
すなわち、PAN系炭素繊維では、どのような方法で粉砕しても、上記形状・形態・性状のものは得られない。
また、ピッチ系炭素繊維であっても、等方性ピッチ系炭素繊維では、どのような粉砕方法でも、上記形状・形態・性状のものは得られず、メソフェーズピッチ系炭素繊維を採用することで初めて達成される。
PAN系炭素繊維や等方性ピッチ系炭素繊維では、最終的に本発明のカーボンナノファイバーのサイズを製造する湿式粉砕の段階で、特にアスペクト比が小さくなってしまい、例えば、3以上のアスペクト比を有するものが得られない。
【0026】
また、メソフェーズピッチ系炭素繊維であっても、オニオン型メソフェーズピッチ系炭素繊維やラジアル型メソフェーズピッチ系炭素繊維では、上記形状・形態・性状のものは得られず、特にアスペクト比が小さいものしか得られない(例えば3未満のものしか得られない)。
本発明によると、意外にも、ランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維を原料として採用することで、初めて、上記形状・形態・性状のものが得られた。
【0027】
カーボンナノファイバーは、通常知られている広い意味での炭素繊維の中に、強固に周囲と結合して一体となっていた(例えば、図1~3)。従来は、そこから、高いアスペクト比を維持しながらカーボンナノファイバーを製造することができなかった。
言い換えれば、カーボンナノファイバーを、高いアスペクト比を維持させながら粉砕等によって製造し、凝集をさせずに、再現性良く安定的に、単離(分離)可能な状態若しくは(再)分散可能な状態にすることは現行技術ではできなかった。
【0028】
本発明の製造方法を使用することで得られるカーボンナノファイバー群は、再凝集が抑制され、カーボンナノファイバーが、(略)1本ずつ単離可能な状態になっているか、又は、(略)1本ずつの分散状態又は分散可能状態になっていて、好適に種々の用途に、そのままでも適用・使用可能である。
【0029】
具体的には、例えば、水系媒体中で湿式粉砕して得られたスラリーから、媒体である水を除去し固化(ドライアップ)させたものであっても、その先の用途に応じた、樹脂エマルジョン中へも、水溶性樹脂の水溶液中へも、マトリクス樹脂中へも、再分散が可能である。例えば、該スラリーから水を留去して半ドライアップ品を得た後、例えば100℃以上で乾固させたとしても、該塊を(略)1本ずつに再分散ができる。
固化させずにスラリー又は半ドライアップ品の段階で、その先の用途に供した場合には、尚更、(再)分散が可能である。
【0030】
更に、本発明のカーボンナノファイバー群を、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂に含有することで得られたカーボンナノファイバー含有樹脂は、機械的性質や電気的性質に優れる。
特に、本発明のカーボンナノファイバー群を含有する樹脂は、繊維強化プラスチック用マトリックス(樹脂)として優れており、特に、炭素繊維強化プラスチック用マトリックス(樹脂)として優れている。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】粉砕前の原料であるメソフェーズピッチ系炭素繊維の横断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。 (左)ラジアル型メソフェーズピッチ系炭素繊維 (中)本発明において原料として使用するランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維 (右)オニオン型メソフェーズピッチ系炭素繊維
図2】メソフェーズピッチ系炭素繊維の横断面の概略図である。 (a)(a’)本発明において原料として使用するランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維 (b)ラジアル型メソフェーズピッチ系炭素繊維 (c)オニオン型メソフェーズピッチ系炭素繊維
図3】本発明において原料として使用するランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維1本の横断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図4】原料として使用することが好ましいランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維(粉砕前)の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。(a)400倍 (b)1300倍
図5】本発明における乾式粉砕後の炭素繊維の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。(a)600倍 (b)1500倍
図6】本発明における湿式粉砕の途中の光学顕微鏡(生物顕微鏡)による700倍の写真である(参考図)。
図7】本発明における湿式粉砕後の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。(a)1500倍 (b)6500倍
図8】本発明において、原料として使用する(ランダム型)メソフェーズピッチ系炭素繊維のフィラメントの製造工程を示す模式図である。
図9】本発明において、乾式粉砕に用いられる装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明について説明するが、本発明は、以下の具体的形態に限定されるものではなく、技術的思想の範囲内で任意に変形することができる。
【0033】
本発明の「カーボンナノファイバー群の製造方法」は、
直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下のカーボンナノファイバーが、上記範囲に全体の50個数%以上が分布しているカーボンナノファイバー群の製造方法であって、
ランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維を原料とし、数平均長さが100μm以下になるまで乾式粉砕した後に湿式粉砕をすることによって上記分布にすることを特徴とする。
【0034】
<カーボンナノファイバー(群)>
本発明において、「炭素繊維」とは、グラフェン構造を有するあらゆる炭素質物のうち細長いものを言い、カーボンファイバー、カーボンナノファイバー、及び、それらに近似するサイズの炭素質物等が含まれる。また、「炭素繊維」には、グラフェン構造を有する炭素質物のフィラメント、それを構成する素フィラメント、該フィラメントが縦に並列してなるストランド等が含まれる。
【0035】
本発明で製造されるカーボンナノファイバー群は、直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下のカーボンナノファイバーが、上記範囲に全体の50個数%以上が分布しているものである。
上記範囲に全体の50個数%以上が分布していることが必須であるが、好ましくは70個数%以上、より好ましくは80個数%以上、更に好ましくは90個数%以上、特に好ましくは95個数%以上が分布しているものである。上記個数%以上のものは製造することができるので、分布はシャープなほど好ましいが、生産性を考えるとブロードの方が好ましい。
【0036】
該カーボンナノファイバーの直径は、30nm以上1000nm以下であるが、50nm以上900nm以下が好ましく、100nm以上850nm以下がより好ましく、300nm以上800nm以下が特に好ましい。上記範囲の直径のものならば収率良く製造することができる。
直径が小さ過ぎると、製造が難しくなる場合や、同時に長さも短くなってしまうためにアスペクト比が小さくなってしまう場合等がある。一方、直径が大き過ぎると、使用先での性能が劣ったり、カーボンナノファイバー群の用途が限定されたりする場合がある。
【0037】
該カーボンナノファイバーの長さは、0.2μm以上70μm以下であるが、1μm以上50μm以下がより好ましく、2μm以上30μm以下が更に好ましく、5μm以上20μm以下が特に好ましい。上記範囲の長さのものならば収率良く製造することができる。
長さが短過ぎると、アスペクト比が小さくなってしまう場合や、使用先での性能が劣る場合、カーボンナノファイバー群の用途が限定される場合、凝集を防止し難くなる場合等がある。一方、長さが長過ぎると、カーボンナノファイバー群の用途が限定される場合、アスペクト比を大きく保ったままでの製造が難しくなる場合等がある。
【0038】
本発明で製造される、単離・分散可能なカーボンナノファイバーは、アスペクト比が大きいことが特徴である。
該カーボンナノファイバーの数平均アスペクト比は、3以上200以下が好ましく、5以上160以下がより好ましく、7以上130以下が更に好ましく、15以上100以下が特に好ましく、20以上70以下が最も好ましい。
アスペクト比が小さ過ぎると、カーボンナノファイバー群の使用先での性能が劣ったり、用途が限定されたりする場合がある。一方、アスペクト比が大き過ぎると、製造が難しくなる場合等がある。
【0039】
本発明で製造されるカーボンナノファイバー群に含有されるカーボンナノファイバーの直径と長さは、光学顕微鏡又は走査型電子顕微鏡(SEM)で、無作為に100本選択し、1本ずつその直径と長さを測定して相加平均をとることによって求める。該光学顕微鏡はサイズ測定用のゲージが付属しているものが測定精度の向上と測定時間短縮のために好ましい。拡大倍率を上げなくては測定し難いときは、光学顕微鏡に代えて走査型電子顕微鏡(SEM)写真を用いる。
本発明で製造されるカーボンナノファイバーは、アスペクト比が大きいので、粒度分布計による測定より、顕微鏡を用いて1本ずつその直径と長さを測定する。自動の粒度分布計では、直径と長さを好適には測定できないので、上記のようにせざるを得ない。
本発明における、直径、長さ、アスペクト比等のサイズは、上記のように測定したものとして定義される。
【0040】
カーボンナノファイバー群は、固体(粉末)で存在していても、分散液中に存在していてもよい。固体(粉末)で存在している場合は、1本ずつ単離可能な状態になっているか、又は、1本ずつの分散が可能な状態になっている。分散液中に存在している場合は、1本ずつの分散状態になっている。本発明で製造されるカーボンナノファイバー群は、上記の状態にすることが可能である。
【0041】
<製造工程>
本発明における、上記したような形状(直径と長さ)を有するカーボンナノファイバー、及び、上記したような分布を有するカーボンナノファイバー群は、少なくとも、乾式粉砕を行い、それに次いで湿式粉砕することによって得られる。原料となる炭素繊維を特定のものとすることによって、上記形状と分布を有する、(再)分散可能なカーボンナノファイバー群が得られる。
該乾式粉砕の前、上記粉砕の途中、又は、該湿式粉砕の後に、必要に応じて他の処理(操作)を加えることも好ましい。また、上記乾式粉砕と上記湿式粉砕は、それぞれ1段階でも2段階以上で行ってもよい。
【0042】
特に好ましい工程を順番に以下に示す。
原料炭素繊維用意、前粉砕、乾式粉砕、加熱処理、湿潤処理、湿式粉砕、凝集防止処理、水除去処理。
上記のうち、少なくとも、特定の原料炭素繊維を用意すること、乾式粉砕、及び、湿式粉砕は必須であり、そうであれば、本発明のカーボンナノファイバーが製造可能である。
上記のうち、前粉砕、加熱処理、湿潤処理、凝集防止処理、水除去処理は、何れも必須ではないが、良好に製造するために、必要に応じて、そのうちの幾つか又は全部を行うことが好ましい。特に加熱処理は、原料がサイジング材等の樹脂を含有するときは行うことが好ましく、原料がサイジング処理等されていないときは行わなくてもよい。
以下、処理順に各処理工程を説明する。
【0043】
<原料炭素繊維用意>
本発明は、粉砕前の炭素繊維(原料の炭素繊維)として、ランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維を用意する。
図4に、原料として使用するランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維(粉砕前)の一例の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。図4(a)は400倍、図4(b)は1300倍である。
PAN系炭素繊維や、等方性ピッチ系炭素繊維では、どのような粉砕方法を用いても、直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下のカーボンナノファイバー群であって、高い数平均アスペクト比を有するものは得られない。
【0044】
メソフェーズピッチ系炭素繊維は、その断面形状(すなわち内部形状)から、少なくとも、ラジアル型(図1(左)、図2(b))、ランダム型(図1(中)、図2(a)(a’)、図3)、オニオン型(図1(右)、図2(c))に分類されている。「ランダム型」とは、繊維断面がランダム型になっているものである。そのことから、ランダム型と名付けられた。
【0045】
本発明において、メソフェーズピッチ系炭素繊維であっても、ラジアル型メソフェーズピッチ系炭素繊維又はオニオン型メソフェーズピッチ系炭素繊維では、上記サイズ・形状・分布のカーボンナノファイバー群がやや得られ難い場合がある。原料となる炭素繊維として、ラジアル型やオニオン型を用いると、上記形状・形態・分布のものは、好適には得られない場合があり、特に個数平均アスペクト比が大きいカーボンナノファイバー群が好適には得られない(例えばアスペクト比が3未満のものしか得られない)場合がある。
【0046】
「上記ランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維を構成するフィラメント」は、棒状又は板状(シート状)の更に小さいサイズのものが集合してできている。例えば、図3では、板状(シート状)のものが縦に集合している。
本明細書では、フィラメントを構成する該「棒状又は板状(シート状)の更に小さいサイズのもの」を「素フィラメント」と略記する。
1つの素フィラメント(内で)は、ベンゼン環の縮合したグラフェン構造が同方向を向いて積み重なって1つとなっているか、カーボンナノチューブの1本又は2本以上が同方向を向いて束ねられて1つとなっている、等と考えられる。
【0047】
本発明において原料である炭素繊維は、フィラメントを構成する該素フィラメントの数平均厚さ又は数平均太さが、10nm以上200nm以下のものであることが好ましい。より好ましくは15nm以上150nm以下であり、更に好ましくは20nm以上100nm以下であり、特に好ましくは30nm以上70nm以下である。
原料の炭素繊維の素フィラメントのサイズが、上記下限以上であると、該素フィラメントを含有するフィラメントの熱伝導率[W/(m・K)]が急激に上昇するので、該素フィラメントを含有する本発明のカーボンナノファイバーの「熱伝導率を含む種々の物性」も向上する。
一方、上記上限以下であると、該素フィラメントを含有する「フィラメントや炭素繊維」を原料として用意できる。
【0048】
図8に、メソフェーズピッチ系炭素繊維のフィラメント10の製造工程の概略を示す。ランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維も、図8において、紡糸粘度、ノズル形状、原料ピッチの流動状態等を調整することで得られる。
メソフェーズピッチ系炭素繊維の製造工程には延伸工程が存在しない。紡糸工程で制御されたミクロ構造が、ほぼそのままフィラメント10の結晶構造となり、結晶構造の向きが異なる境界ができ、素フィラメント20が見られる(存在する)ようになる。
【0049】
図8において、原料となるフィラメント10の太さは、通常4000nm~10000nm、多くは5000nm~7000nmであり、一方、本発明において原料となる炭素繊維フィラメント10中の素フィラメント20の数平均厚さ又は数平均太さは、好ましくは10nm以上200nm以下、より好ましくは15nm以上100nm以下であるので、原料となる炭素繊維において、1本のフィラメント10中に、通常40~700本、殆どの場合60~400本の素フィラメント20が存在している。
結晶構造の向きが異なる境界で、1本の素フィラメント20を分ける(定義する)と、上記本数の素フィラメント20が束ねられて1本のフィラメント10ができている。なお、図8では、概略的に見易いように、たまたま3本の素フィラメント20で、1本のフィラメント10ができているように描かれている。
【0050】
本発明において、原料としてランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維を用いるときは、限定はされないが、上記のような態様のものであることが特に好ましい。
本発明のような形態のカーボンナノファイバー群の製造方法においては、形状・分布等、及び、そもそもそのようなカーボンナノファイバー群ができるか否かをも含めて、原料である炭素繊維の種類が何であるかに大きく依存する。
【0051】
<本発明のカーボンナノファイバーと素フィラメントの関係>
本発明によって製造されるカーボンナノファイバーは、「原料となる上記フィラメントを構成する上記素フィラメント」が、2本以上20本以下の範囲で集合して構成されていることが好ましい。より好ましくは3本以上16本以下、特に好ましくは4本以上12本以下である。上記素フィラメントの数は、カーボンナノファイバー群において、カーボンナノファイバー毎に平均を採った値である。
カーボンナノファイバーを製造する際に、該素フィラメントの結晶性や外形等が若干崩れる場合もあるが「本数」と言う。また、素フィラメントがもともと板状の場合であっても、粉砕後、略細長くなるので「本数」と言う。
【0052】
<前粉砕>
原料となる炭素繊維は、チョップドファイバー形状でも、ミルドファイバー形状でもよいが、チョップドファイバー形状であることが好ましい。ミルドファイバー形状の場合、長さが1μm程度の短いものが多く混在するので、アスペクト比の大きいカーボンナノファイバーを得るために、チョップドファイバー形状であることが好ましい。ミルドファイバー形状の場合、例えば「平均長さ70μm」と言っていても、長さが1μm程度の短いものが多く混在する場合がある。
【0053】
限定はされないが、前粉砕で原料となる炭素繊維を、平均で1mm~15mmにすることが好ましく、2mm~10mmにすることがより好ましく、5mm~8mmにすることが特に好ましい。例えば、長繊維ボビンタイプの場合は、前粉砕する必要が生じる場合がある。最初から、上記範囲であれば、前粉砕は行わないことが好ましい。
【0054】
前粉砕の粉砕方式は特に限定はなく、市販の乾式粉砕機が何れも使用可能であるが、例えば装置としてカッターミル等が挙げられる。
【0055】
<乾式粉砕>
本発明における乾式粉砕は、気流式粉砕、カッター式粉砕、又は、「気流式粉砕とカッター式粉砕の両方を同時に行う粉砕」であることが好ましい。「気流式粉砕とカッター式粉砕の両方を同時に行う粉砕」とは、「気流式粉砕機構・機能とカッター式粉砕機構・機能の両方を同時に有しているような粉砕」の意味である。
乾式粉砕後の炭素繊維の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図5に示す。図5(a)は600倍、図5(b)は1500倍である。
【0056】
<<気流式粉砕>>
気流式粉砕としては、例えば、サイクロンミル等の気流粉砕機や、ジェットミル等を用いた粉砕が挙げられる。
サイクロンミルによる気流式粉砕は、インペラ(回転翼)の回転によって気流を発生させ、気流中に投入された対象物を乾式で粉砕して微粒子を製造するものである。また、ジェットミルによる気流粉砕は、衝突板に対象物を衝突させて対象物を乾式で粉砕して微粒子を製造するものである。
インペラ、回転翼、ブレード、回転刃等の回転体を有さない粉砕機(ジェットミル等)より、それらを有する気流粉砕機や、<<気流式粉砕とカッター式粉砕の両方を同時に行う粉砕>>で後述する粉砕機の方が、湿式粉砕で所定の形状のカーボンナノファイバー群を得るために、「湿式粉砕の前の乾式粉砕」として好ましい。
【0057】
サイクロンミルとしては、市販されている装置も好適に使用できる。市販品としては、例えば、静岡製機株式会社製のサイクロンミル、株式会社西村機械製作所製のスーパーパウダーミル、三庄インダストリー株式会社製のトルネードミル、古河産機システムズ株式会社製のドリームミル等が挙げられる。
【0058】
上記サイクロンミルの構造は、特に限定はないが、1個又は2個以上のインペラを有し、該インペラが発生させる旋回気流によって主に粉砕対象物同士を衝突させて粉砕するものであることが、前記気流粉砕機を使用することによる前記効果を奏し易い;金属コンタミが非常に少ない;等の点から特に好ましい。
【0059】
ジェットミルとしては、市販されている装置も好適に使用できる。市販しているメーカーとしては、例えば、株式会社セイシン企業、ホソカワミクロン株式会社、日本ニューマチック株式会社、日清エンジニアリング株式会社が挙げられる。
【0060】
<<カッター式粉砕>>
また、カッター式粉砕としては、クラッシャーミル、ピンミル、カッターミル、ハンマーミル、軸流ミル等を用いた粉砕が挙げられる。
【0061】
<<気流式粉砕とカッター式粉砕の両方を同時に行う粉砕>>
本発明における乾式粉砕としては、気流式粉砕とカッター式粉砕の両方を同時に行う粉砕であることが特に好ましい。
特に、本発明における乾式粉砕は、ブレードを有し、剪断と衝撃とを与える乾式粉砕機で行うことが好ましい。又は、「ブレードによる剪断と衝撃」とを加える乾式粉砕機で行うことが好ましい。
かかる乾式粉砕機の一例の概略図を図9に示す。
【0062】
ジェットミル、サイクロンミル、トルネードミル、ドリームミル(登録商標)等の「インペラ等で粉砕させない全気流式粉砕機」の場合は、原料によっては、乾式粉砕の段階で直径が小さくなり過ぎる等のために、次の湿式粉砕でアスペクト比が小さくなり過ぎる(丸い形状になる)場合もあるため、限定はされないが、湿式粉砕の前に行う粉砕としては、あまり向かない場合もある。
【0063】
乾式粉砕する場合の雰囲気温度又は設定温度は、特に限定はなく使用する装置の使用方法に従えばよいが、好ましくは0℃以上50℃以下、特に好ましくは5℃以上35℃以下である。
また、インペラ回転数も、使用する装置の使用方法に従えばよいが、好ましくは4000rpm以上20000rpm以下、特に好ましくは8000rpm以上15000rpm以下である。
【0064】
上記したような装置を用いて、上記した粉砕方法で、数平均長さが100μm以下になるまで乾式粉砕した後に、次の工程に供される。
100μm以下になるまで乾式粉砕してから湿式粉砕をすることによって、カーボンナノファイバーの、直径、長さ、アスペクト比、形状分布等が前記した必須の範囲又は好適な範囲に収まり易くなる。
【0065】
乾式粉砕によって、数平均長さを100μm以下にすることが必須であるが、好ましくは5μm以上70μm以下、より好ましくは7μm以上50μm以下、特に好ましくは10μm以上40μm以下にしておく。
乾式粉砕後の数平均長さが長過ぎると、次の工程である湿式粉砕で、該湿式粉砕の条件を調整しても、最終的にカーボンナノファイバーの直径や長さが、前記した範囲に入り難い場合がある。
一方、乾式粉砕後の長さが短過ぎると、湿式粉砕後にカーボンナノファイバーの長さがそれ以上にはなり得ないので、最終的にカーボンナノファイバーの長さや個数平均アスペクト比が前記した好ましい範囲になり難い場合等がある。特に、最終的に得られるカーボンナノファイバーのアスペクト比が小さくなり過ぎる場合がある。
【0066】
乾式粉砕後の数平均直径については、そもそも乾式粉砕のみでは小さくし難く、すなわちアスペクト比が大きくなるように粉砕し難く、また、乾式粉砕で無理に直径を小さくしてしまっては、長さも短くなってしまい、湿式粉砕後の最終的なアスペクト比が好適な範囲に収まり難くなる。
乾式粉砕後の直径は、3000nm以上が好ましく、5000nm以上15000nm以下がより好ましく、7000nm以上12000nm以下が特に好ましい。この範囲になるように乾式粉砕を行っておくことが望ましい。
【0067】
乾式粉砕後の数平均アスペクト比は、特に限定はないが、10以下であることが好ましく、より好ましくは1.2以上7以下、特に好ましくは1.5以上5以下である。
乾式粉砕によっては、そもそも数平均アスペクト比を上記下限より大きくし難い。すなわち、数平均アスペクト比を上記下限より大きくできる程度に平均繊維径を小さくし難い。
本発明は、乾式粉砕によって、数平均長さを100μm以下にしておき、比較的大きな直径や比較的小さな数平均アスペクト比にしておいても、或いは、しておくことによって、後の湿式粉砕によって、最終的に前記したような、好適な「直径や長さ、大きな数平均アスペクト比」のカーボンナノファイバー群が得られることを見出してなされた。
【0068】
<加熱処理>
乾式粉砕物に樹脂が混在している場合、加熱処理を行って該樹脂を除去することが好ましい。言い換えると、本発明のカーボンナノファイバー群の製造方法は、上記乾式粉砕と湿式粉砕の間に加熱処理を行って混在樹脂を除去することが好ましい。ここで、樹脂が混在する場合とは、例えば、原料等にサイジング剤等が含まれている場合等が挙げられる。すなわち、上記混在樹脂としてはサイジング剤等が挙げられる。
サイジング剤等の樹脂の混在がない場合には、該加熱処理を省略することができる。
【0069】
加熱処理の条件は、限定はされないが、例えば、空気中又は不活性雰囲気中で、炉の温度320℃~480℃で、5分~15分間加熱し、樹脂の含有を、好ましくは0.1質量%以下に、特に好ましくは0.01質量%以下にまでする。
加熱処理をすることで、後の工程である(湿潤処理を行う場合は)湿潤処理や湿式粉砕の際に使用する湿潤剤や界面活性剤が有する粉砕・分散効果が上がる。
【0070】
<湿潤処理>
限定はされないが、更に湿潤処理をすることが好ましい。特に、前記乾式粉砕後又は前記加熱処理後に湿潤処理をすることが特に好ましい。
該湿潤処理は、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、又は、両性界面活性剤を含有する水溶液に上記で得られたものを浸漬することが好ましい。該界面活性剤は、後の湿式粉砕でも好適に使用できる。
【0071】
上記陰イオン界面活性剤は、高分子陰イオン界面活性剤(「高分子」にはオリゴマーも含まれる)であることが好ましく、酸基を有する(共)重合物の、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩、アルキロールアンモニウム塩等であることがより好ましい。
上記した陰イオン界面活性剤は、単独で用いてもよく、複数種類を併用してもよい。
【0072】
上記「酸基を有する(共)重合物」は、(メタ)アクリル酸の(共)重合物、(無水)フタル酸の(共)重合物、ビニルベンゼンスルホン酸の(共)重合物、及び、ナフタレンスルホン酸の(共)縮合物からなる群より選ばれた少なくとも1種以上の(共)重合物であることが特に好ましい。ここで、「(共)」、「(メタ)」、「(無水)」と言う記載は、括弧がある場合もない場合も含むことを示す。共重合物の場合の共重合モノマーとしては、特に限定はないが、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、スチレン、酢酸ビニル等が挙げられる。
ナフタレンスルホン酸の(共)縮合物とは、ホルムアルデヒド等のアルデヒドで環を結合したものが挙げられる。共縮合物の場合の共縮合モノマーとしては、フェノール、クレゾール、ナフトール等が挙げられる。
【0073】
また、上記陽イオン界面活性剤は、第四級アンモニウムが親水基である界面活性剤であることが好ましく、第四級アンモニウムの「N」への置換基としては、特に限定はないが、ステアリル基、パルミチル基、ドデシル基、メチル基、ベンジル基、ブチル基等の(置換基を有していてもよい)アルキル基等が好ましい。また、炭素数が12個以上の長鎖アルキル基が好ましい。
対アニオンとしては、特に限定はないが、塩素イオン、臭素イオン等のハロゲンイオンが特に好ましい。
【0074】
両性界面活性剤としては、アルキルベタイン型、脂肪酸アミドプロピルベタイン型、アルキルイミダゾール型、アミノ酸型、アミンオキシド型等が挙げられる。
【0075】
中でも、陰イオン界面活性剤又は両性界面活性剤を用いることが好ましい。
界面活性剤の含有量、及び、水系の分散媒中の(乾式粉砕後の)炭素繊維の含有量は、下記する<湿式粉砕>の数値範囲と同様である。
【0076】
界面活性剤を用いることによって、更には、上記した好ましい陰イオン界面活性剤又は両性界面活性剤を用いることによって、炭素繊維を縦に解く効果を奏し、長さを長いまま保ちつつ直径を細くすることができ、平均アスペクト比の大きなカーボンナノファイバー(群)を得ることができる。
【0077】
<湿式粉砕>
本発明においては、乾式粉砕の後に湿式粉砕をすることが必須である。該湿式粉砕は、特に限定はされないが、ビーズミル粉砕又はボールミル粉砕であることが好ましい。特に好ましくは、界面活性剤が存在している水系媒体中でビーズミル粉砕又はボールミル粉砕を行うことが好ましい。
なお、乾式粉砕と湿式粉砕の間には、上記した湿潤処理以外の他の処理を挟んでもよい。該「他の処理」としては、予備混合、予備調液等が挙げられる。
【0078】
上記界面活性剤としては、上記湿潤処理をした場合であっても、上記湿潤処理をしなかった場合であっても、何れの場合でも、上の<湿潤処理>の項で記載した界面活性剤が挙げられる。
好ましい界面活性剤も同様のものが挙げられる。すなわち、<湿潤処理>の項で上記したような、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤又は両性界面活性剤が好ましいものとして挙げられる。なお、湿潤処理の際に用いた界面活性剤をそのまま湿式粉砕において用いてもよいし、湿式粉砕の際に、新たに配合したり、追加したり、湿潤処理のときとは異なる別種類の界面活性剤を配合したりすることができる。
【0079】
界面活性剤の使用量は、特に限定はないが、粉砕・分散の対象である炭素繊維(粉砕途中のカーボンナノファイバー)100質量部に対して、(界面活性剤を2種以上併用するときはその合計量として)、好ましくは30質量部以下であり、より好ましくは0.1質量部以上20質量部以下であり、特に好ましくは0.5質量部以上10質量部以下である。すなわち、本発明のカーボンナノファイバー群の製造方法においては、上記界面活性剤の存在量が、炭素繊維100質量部に対して、0.1質量部以上30質量部以下であることが望ましい。
【0080】
界面活性剤の使用量が多過ぎると、炭素繊維が縦に解けていく途中で凝集を招く場合がある。その結果、カーボンナノファイバーが凝集した状態の分散液になるので、対象物に付与した場合、得られたものの物性に影響が出る場合等がある。
【0081】
湿潤処理をした場合、湿式粉砕に際しては、新たに界面活性剤を加えてもよいし、湿潤処理の際に配合してあった界面活性剤をそのまま使用してもよい。
湿式粉砕に際して新たに界面活性剤を加える場合は、湿潤処理の界面活性剤と同一のものでもよいし、異なるものでもよい。
【0082】
<<湿式粉砕の方式・装置・条件>>
湿式粉砕をすることによって、はじめて、前記したような特定の形状(直径、長さ、アスペクト比)や粒度分布を有するカーボンナノファイバー群を製造することができる。
湿式粉砕の条件は、本発明の前記した特定の形状(直径、長さ、アスペクト比)のカーボンナノファイバー(群)が得られるように調整する。
湿式粉砕の途中の光学顕微鏡(生物顕微鏡)写真を図6に示し、湿式粉砕後の走査型電子顕微鏡(SEM)写真の例を図7に示す。図7(a)は1500倍、図7(b)は6500倍である。
【0083】
湿式粉砕に用いられる粉砕メディアの材質としては、ガラス、アルミナ、ジルコン(ジルコニア・シリカ系セラミックス)、ジルコニア、金属(スチール)等が好ましいものとして挙げられる。
【0084】
ビーズミルを例にすると、用いられるビーズのビーズ径は、0.1mm以上3mm以下が好ましく、0.2mm以上2mm以下がより好ましく、0.3mm以上1mm以下が特に好ましい。
ビーズ径が大き過ぎると、ビーズミル容器内のビーズ個数が減り、接触点が減ることになり、好適に粉砕・分散ができない場合、直径を十分小さく粉砕できない場合等がある。一方、ビーズ径が小さ過ぎると、好適に粉砕・分散できない場合、粉砕に時間がかかり過ぎる場合等がある。
【0085】
ビーズミルに用いられるビーズ充填率としては、45%以上90%以下が好ましく、55%以上87%以下がより好ましく、65%以上85%以下が特に好ましい。
ビーズ充填率が小さ過ぎると、炭素繊維が縦割れし難くなり、アスペクト比の大きなカーボンナノファイバーができ難い場合等がある。一方、ビーズ充填率が大き過ぎると、ビーズミルの撹拌羽根が回り難くなる場合等がある。
【0086】
ビーズミル処理の対象となるスラリー全体に対して、乾式粉砕後の炭素繊維が、1質量%以上20質量%以下が好ましく、3質量%以上15質量%以下がより好ましく、5質量%以上10質量%以下が特に好ましい。
【0087】
上記ビーズミル処理に用いる撹拌羽根の形状は、特に限定はされない。
撹拌羽根(アジテータ)の回転数は、撹拌羽根の差し渡し長さやビーズミルの容量にも依るが、容量2Lの場合に換算して、600rpm以上4500rpm以下が好ましく、800rpm以上4000rpm以下がより好ましく、1000rpm以上3500rpm以下が特に好ましい。
撹拌羽根(アジテータ)の先端の周速度は、撹拌羽根の差し渡し長さにも依るが、直径20cmとして、上記回転数から計算できる範囲が好ましい。具体的には、5m/s以上40m/s以下が好ましく、7m/s以上30m/s以下がより好ましく、9m/s以上20m/s以下が特に好ましい。
【0088】
ビーズミルの粉砕分散の運転方式は、循環式でもバッチ式でもよいが、循環式が好ましい。循環式の場合は、バッチ式のように容器に受け渡しすることがないので、その際に凝集が進んでしまうことがない。
循環式で行う場合、パス回数で微細化の程度が変わってくる。例えば、1パス当たりの滞留時間を長くした場合、処理物のショートパスがないことで、粒度分布はシャープになるが、カーボンナノファイバーのアスペクト比も小さくなってしまう。そのため、例えば、4Lに換算した場合、好ましくは70分以上270分以下、より好ましくは80分以上230分以下、特に好ましくは90分以上180分以下で循環させてビーズミル処理する。
【0089】
湿式処理における温度は、好ましくは0℃以上50℃以下、特に好ましくは5℃以上35℃以下である。ビーズミルは、縦型でも横型でもよい。
また、ビーズミルは、市販の装置も使用できる。市販の装置としては、例えば、ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社のダイノーミル、ネッチ社(米)のビーズミル等が挙げられる。
【0090】
1パス当たりの時間(連続運転時間)、パス回数、及び、トータルの時間は、装置構造、スラリー濃度、粉砕分散条件、界面活性剤の種類等に依存する場合があるので、湿式粉砕した後に又は途中から抜き出し、粒子径分布測定装置、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)等で逐一観察して適宜調節することが好ましい。
【0091】
前記した「乾式粉砕と湿式粉砕を必須とする製造方法」を使用し、前記した範囲で粉砕条件等を適宜調整すれば、直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下のカーボンナノファイバー(群)が得られる。カーボンナノファイバーが、1本ずつ単離可能な状態になっているか、又は、1本ずつの分散状態又は分散可能状態になっているカーボンナノファイバー群が得られる。また、数平均アスペクト比が5以上200以下のカーボンナノファイバー(群)を得ることができる。
本発明は、上記のカーボンナノファイバー群の製造方法で製造されるカーボンナノファイバー群でもある。
【0092】
<凝集防止処理>
湿式粉砕した後、限定はされないが、更に、凝集防止処理をすることが特に好ましい。
該凝集防止処理としては、限定はされないが、更に、上記湿式粉砕をした後に得られる、カーボンナノファイバー群のスラリーの中に、金属含有凝集防止剤、コブロックポリマー、櫛型コブロックポリマー、及び、界面活性剤からなる群より選ばれた1種又は2種以上の凝集防止剤を含有させて凝集防止処理を行うことが望ましい。
【0093】
具体的には、特に限定はされないが、(複合)金属キレート化合物、(複合)金属酸化物の微粒子、金属を含有するワックス、(複合)金属イオン水等の金属含有凝集防止剤;ポリエステル、ポリアクリレート、ポリウレタン等を単位として有するコブロックポリマー;該ポリマーを単位として有する櫛型コブロックポリマー;又は;界面活性剤を配合することによって行うことが好ましい。
該凝集防止処理は、前記した湿式粉砕した直後に行ってもよいし、後記する水除去処理後に行ってもよく、両方の段階で行ってもよい。
【0094】
凝集防止処理において使用する凝集防止剤として、上記したような金属含有凝集防止剤を用いる場合は、(複合)金属キレート化合物がより好ましく、HEDTA、EDTA、PDTA、NTA、エチレンジアミン、ビピリジン、フェナントロリン、ポルフィリン等の金属塩が更に好ましい。
中でも、HEDTA(hydroxyethyl ethylene diamine triacetic acid)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA(ethylenediaminetetraacetic acid))、PDTA(1,3-propanediamine tetraacetic acid)、NTA(nitrilo triacetic acid)等の金属塩等が特に好ましい。
【0095】
また、凝集防止処理において使用する界面活性剤としては、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、又は、両性界面活性剤が好ましいものとして挙げられ、陰イオン界面活性剤又は両性界面活性剤がより好ましいものとして挙げられる。限定はされないが、特に好ましい具体的界面活性剤としては、前記<湿潤処理>や<湿式粉砕>の項に記載したものと同様のものが挙げられる。
【0096】
金属含有凝集防止剤、「凝集防止処理において使用する界面活性剤」、コブロックポリマー等の凝集防止剤については、該凝集防止処理直前の凝集防止対象物の表面状態を勘案してその種類を決定する。
金属含有凝集防止剤、界面活性剤、コブロックポリマー等の凝集防止剤の種類が上記であると、分散媒(水)の除去処理工程、その後の経時等で、凝集し難くなり、保存安定性が良くなる。
【0097】
「(複合)金属キレート化合物等の金属含有凝集防止剤;凝集防止処理において使用する界面活性剤;コブロックポリマー;等の凝集防止剤」の使用量は、特に限定はないが、湿式粉砕後のスラリー全体量に対して(凝集防止剤を2種以上併用するときはその合計量として)、0.1質量%以下で加えることが好ましく、0.0001質量%以上0.06質量%以下で加えることがより好ましく、0.0002質量%以上0.03質量%以下で加えることが特に好ましい。
【0098】
また、上記凝集防止剤の使用量は、特に限定はないが、カーボンナノファイバー群と言った凝集防止対象物の全体量に対して(凝集防止剤を2種以上併用するときはその合計量として)、1質量%以下で加えることが好ましく、0.001質量%以上0.5質量%以下で加えることがより好ましく、0.002質量%以上0.3質量%以下で加えることが更に好ましく、0.003質量%以上0.1質量%以下で加えることが特に好ましい。
【0099】
すなわち、本発明のカーボンナノファイバー群の製造方法では、上記凝集防止剤を、湿式粉砕後のスラリー全体に対して、0.0001質量%以上0.1質量%以下で加える、又は、カーボンナノファイバー群である凝集防止対象物の全体量に対して、0.001質量%以上1質量%以下で加えることが望ましい。
【0100】
「金属含有凝集防止剤、界面活性剤、コブロックポリマー等の凝集防止剤」の使用量が上記範囲であると、分散媒(水)の除去処理工程、その後の経時等で、凝集し難くなり、保存安定性が良くなる。
【0101】
凝集防止処理中の撹拌は、特に限定はないが、例えば、ハンドミキサー等による撹拌が挙げられる。撹拌速度は、特に限定はないが、300~1200rpmが好ましく、500~1000rpmが特に好ましい。
凝集防止処理の温度は、特に限定はないが、20℃~100℃が好ましく、40℃~90℃がより好ましく、60℃~80℃が特に好ましい。
【0102】
<水除去処理>
本発明は、上記のカーボンナノファイバー群の製造方法で製造されるカーボンナノファイバー群でもある。
すなわち、湿式粉砕後のスラリーに含有されているカーボンナノファイバー群でもよく、上記凝集防止処理をした後のスラリーに含有されているカーボンナノファイバー群でもよく、該スラリーから水を除去した後の粉末状のカーボンナノファイバー群でもよい。
上記何れの状態のカーボンナノファイバー群であっても、製品(完成品)として、種々の用途に使用することができる。
(水除去処理後の)カーボンナノファイバー群の形態は、湿式粉砕後の形態とほぼ同一なので、本発明のカーボンナノファイバー群は、図7に示した湿式粉砕後の走査型電子顕微鏡(SEM)写真と同様である。図7(a)は1500倍、図7(b)は6500倍である。
【0103】
水除去処理における方法は、特に限定はなく、減圧及び/又は昇温によって行うことができる。サイクロン分離回収方法で半ドライアップした後、オーブン内で減圧及び/又は昇温によって水を除去(乾燥)させることが特に好ましい。
水除去処理の温度は、特に限定はないが、40℃~160℃が好ましく、55℃~150℃がより好ましく、70℃~130℃が特に好ましい。
【0104】
更に、界面活性剤等を除去するため、例えば、250℃以上400℃以下で焼成することも好ましい。
本発明の製造方法で製造されるカーボンナノファイバー群を構成するカーボンナノファイバーは、該カーボンナノファイバー自体の分散性が良いので、その表面に分散剤や界面活性剤が付着していないものであることも好ましい。
【0105】
前記した凝集防止処理を、上記水除去処理の後に行うことも好ましい。すなわち、前記した凝集防止剤や界面活性剤を、上記水除去処理の後の、濃縮されたスラリー又は粉末に配合することも好ましい。
【0106】
本発明の製造方法で製造された、粉末状のカーボンナノファイバー群は(固形化したものであっても)、用途先の、樹脂エマルジョンや樹脂に、容易に分散し凝集せず拡散する。該樹脂としては、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂が挙げられ、熱硬化性樹脂については、主剤にでも硬化剤にでも良好に分散する。
用途先の樹脂エマルジョンとしては、限定はされないが、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン・(無水)マレイン酸樹脂、ウレタン樹脂等が、特に分散性が良いものとして挙げられ、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂としては、後記するものが好ましいものとして挙げられる。
【0107】
<カーボンナノファイバー分散液>
本発明は、「前記したカーボンナノファイバー群の製造方法で製造されたカーボンナノファイバー群」を含有するカーボンナノファイバー分散液でもある。
該カーボンナノファイバー分散液は、上記湿式粉砕後の又は上記凝集防止処理後のスラリーそのものでもよく、該スラリーに対して新たな分散媒を加えたり、新たな分散媒で分散媒を置換したりして得られたものでもよく、上記した水除去処理後のカーボンナノファイバーの粉体を改めて分散させたものであってもよい。
【0108】
カーボンナノファイバー分散液も、用途先の樹脂又は樹脂エマルジョンに、凝集させることなく、分散状態のまま適用可能である。
【0109】
<カーボンナノファイバー含有樹脂及びそれを用いた成型体>
本発明は、前記した本発明のカーボンナノファイバー群、及び、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を含有することを特徴とするカーボンナノファイバー含有樹脂及びそれを用いた成型体でもある。
該熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、熱可塑性ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、(変性)ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、環状ポリオレフィン、ポリフェニレンスルファイド、ポリテトラフロロエチレン、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド、及び、ポリアミドイミドからなる群より選ばれた1種以上の熱可塑性樹脂であることが特に好ましい。
本発明のカーボンナノファイバー(群)は、熱可塑性樹脂に好適に分散されて、他のカーボンナノファイバー(群)に比べて、前記した優れた効果を奏する。
【0110】
該熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂(ウレア樹脂)、不飽和ポリエステル樹脂、アルキッド、熱硬化性ポリウレタン、熱硬化性ポリイミド等が挙げられる。
本発明のカーボンナノファイバー群は、熱硬化性樹脂の主剤(官能基を有する未反応樹脂)及び/又は(該官能基を架橋・反応・重合させる)硬化剤に好適に分散されて、他のカーボンナノファイバー(群)に比べて、機械的・電気的・熱的に前記した優れた効果を奏する。
【0111】
熱可塑性樹脂であっても熱硬化性樹脂であっても、カーボンナノファイバー含有樹脂全体に対して、本発明のカーボンナノファイバー(群)を、1質量%以上80質量%以下で含有することが好ましく、2質量%以上70質量%以下で含有することがより好ましく、5質量%以上60質量%以下で含有することが特に好ましい。
【0112】
<繊維強化プラスチック用マトリックス樹脂>
本発明は、前記した本発明のカーボンナノファイバー群、及び、樹脂を含有することを特徴とする繊維強化カーボンナノファイバー含有樹脂でもある。繊維基材によって強化される対象の樹脂を「マトリックス樹脂」と言うことにすれば、上記を言い換えれば、本発明は、前記した本発明のカーボンナノファイバー群、及び、樹脂を含有することを特徴とする繊維強化プラスチック用マトリックス樹脂でもある。
【0113】
該樹脂としては、熱硬化性樹脂が、機械的強度等に優れ、更に繊維基材で強化されてその特性を発揮し易いために好ましい。
本発明の前記したカーボンナノファイバー(群)は、樹脂に分散されて、好ましくは熱硬化性樹脂に分散され、マトリックス(樹脂)として種々の繊維基材に含浸されて、前記した効果を発揮する。
【0114】
繊維強化プラスチック用マトリックス(樹脂)全体における、本発明のカーボンナノファイバー群の(特に)好ましい含有量等は、前記した範囲である。
また、好ましい熱硬化性樹脂としては、前記したものが挙げられる。
【実施例0115】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限りこれらの実施例に限定されるものではない。
【0116】
実施例1
<原料炭素繊維用意>
<乾式粉砕>
サイジング処理がされていないランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維である「約6mmのチョップドファイバー」を、前粉砕をせずに、図9に示したような、「ブレードを持った剪断と衝撃による粉砕機」を用いて、直径10μm、かつ、長さについては、10μm~40μmの範囲に全体の90個数%が入るように、1000gを、10分かけて、30℃で乾式粉砕を行った。
【0117】
<湿潤処理>
乾式粉砕された炭素繊維(例えば、図5(a)(b))で、加熱処理を行っていないもの100質量部;湿潤剤(界面活性剤)1質量部;及び;精製水1500質量部を混合し撹拌して、スラリーを得た。
ここで、上記湿潤剤(界面活性剤)は、酸基を有する化合物のアンモニウム塩とした。
【0118】
上記スラリーを、30℃で、10分間、ハンドミキサーで、800rpmで撹拌させることで、湿潤処理を行った。
【0119】
<湿式粉砕>
容積0.6Lのビーズミルを用い、ビーズの直径0.3mmφ、ビーズ充填量60%、ベッセルモーター回転数1500rpm、循環ポンプはチューブ式ポンプを用い、移送量毎分500mLで、上記で得たスラリー4Lを90分以上循環させた。
【0120】
<凝集防止処理>
得られたスラリーを、3500mLだけ、上記ビーズミルの容器から別容器に移した後、凝集防止剤として、コブロックポリマーを、スラリー全体(3500mL)に対して、0.01質量%を添加した。
添加後、常温(15~25℃)にて、ハンドミキサーを用いて800rpmで5分間撹拌して、凝集防止処理を行った。
【0121】
<水除去処理>
加熱と減圧を加えて、サイクロン分離回収方法で、半ドライアップしたものを回収し、150℃のオーブンで、240分間加熱して、水を除去して、固体状のカーボンナノファイバー群を調製した。その後、260℃のオーブンで1時間加熱して、界面活性剤等を除去した。
【0122】
<評価>
得られた固体状のカーボンナノファイバー群、及び、水除去処理前の分散液(スラリー)中のカーボンナノファイバー群を、光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡で観測して前記のように測定したところ、直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下のカーボンナノファイバーが、上記範囲に全体の90個数%が分布しているカーボンナノファイバー群が得られた。
【0123】
得られた固体状のカーボンナノファイバー群を、アクリル樹脂の水性エマルジョン、スチレン・(無水)マレイン酸樹脂の水性エマルジョン、ポリウレタン樹脂の水性エマルジョンに、それぞれ投入し、通常に撹拌することで、固体状のカーボンナノファイバー群から、カーボンナノファイバーが、略1本ずつ好適に水中に分散した。分散中に凝集せず、経時でも凝集しなかった。
【0124】
また、得られた固体状のカーボンナノファイバー群を、汎用のあらゆる熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とし、該樹脂中に常用の混錬機(ニーダー)を用いて分散させたところ、略1本ずつ好適にマトリックス樹脂中に分散した。
【0125】
また、得られた固体状のカーボンナノファイバー群を、汎用のあらゆる熱硬化性樹脂の硬化剤側に、常用の撹拌機を用いて分散させたところ、略1本ずつ好適に硬化剤中に分散した。
カーボンナノファイバーが分散した硬化剤と、エポキシ樹脂又はウレタン樹脂をそれぞれ含有する主剤とを混合したところ、何れも分散が保持され凝集せずに、熱硬化性樹脂として好適に使用できた。
【0126】
なお、前記<水除去処理>において、加熱と減圧を加えて、サイクロン分離回収方法で、半ドライアップしたものを回収し、120℃のオーブンで、240分間加熱して、水を除去して、固体状のカーボンナノファイバー群を調製したものについても、上記と同様の結果が得られた。
【0127】
原料として、ランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維に代えて、比較のために、等方性ピッチ系炭素繊維、ラジアル型メソフェーズピッチ系炭素繊維、オニオン型メソフェーズピッチ系炭素繊維を使用した以外は、上記と同様にして、カーボンナノファイバー群を調製した。
【0128】
「直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下、好ましくは数平均アスペクト比が3以上のカーボンナノファイバー」の製造し易さは、以下の通りであった。
なお、「>>」「>」「≒」に関しては、上(左)に行く程、優れていることを示す。また、優劣の程度も、「>>」「>」「≒」で示す。
ランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維
>>ラジアル型メソフェーズピッチ系炭素繊維
≒ オニオン型メソフェーズピッチ系炭素繊維
>>等方性ピッチ系炭素繊維(比較例1(後記)、実際は製造できなかった)
≒ PAN系炭素繊維(比較例1(後記)、実際は製造できなかった)
【0129】
また、分散性、分散安定性、高濃度分散性、熱的特性、機械的特性、及び、電気的特性についても、概ね上記の順番であった。また、優劣の程度も、上記「>>」「>」「≒」のようであった。
【0130】
比較例1
原料として、ランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維ではなく、PAN系炭素繊維、等方性ピッチ系炭素繊維、ラジアル型メソフェーズピッチ系炭素繊維、オニオン型メソフェーズピッチ系炭素繊維を使用した以外は、実施例1と同様にして、カーボンナノファイバー群を調製しようとしたが、何れも、数平均アスペクト比が3未満であり、直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下のカーボンナノファイバーが、上記範囲に全体の50個数%以上が分布しているカーボンナノファイバー群が得られなかった。
【0131】
実施例2
原料を、チョップドファイバーに代えて、直径10μm、長さ70μmのミルドファイバーを用いた以外は、実施例1と同様にして、カーボンナノファイバー群を得た。
長さが約1μmと言った短いものが多く混在するため、数平均アスペクト比が小さくなる傾向があったが、良好にカーボンナノファイバー群が得られ、分散性等の評価も良好であった。
【0132】
実施例3
実施例1の「6mmのチョップドファイバー」に代えて、原料として、長繊維ボビンタイプを用いた。カッターミルでの前粉砕が必要であったが、実施例1と同様にして、良好にカーボンナノファイバー群が得られ、分散性等の評価も良好であった。
【0133】
実施例4
実施例1の乾式粉砕の段階で、「ブレードを持った剪断と衝撃による粉砕機」に代えて、ジェットミル、サイクロンミル、トルネードミル、ドリームミルと言った、インペラ、ブレード等で粉砕しない(又はインペラ等を使用していない)全気流式粉砕機を用いた以外は、実施例1と同様に処理した。
【0134】
好適にカーボンナノファイバー群が得られ、分散性等の評価も良好であったが、若干、乾式粉砕の段階で、数平均アスペクト比が小さくなる傾向があり、次の湿式粉砕を行った後も、数平均アスペクト比が小さくなる傾向が残存した。
【0135】
実施例5
実施例1において、サイジング処理がされていないランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維に代えて、サイジング処理がされているランダム型メソフェーズピッチ系炭素繊維を原料として用い、更に、乾式粉砕後に加熱処理を行った以外は、実施例1と同様にして、カーボンナノファイバー群を得た。
加熱処理は、不活性雰囲気中、電気炉内で、温度400℃で10分間、加熱した。
【0136】
原料に含まれていたエポキシ樹脂が、0.01質量%以下にまで減少した。その結果、フィラメント内に(素フィラメント同士の隙間に)、界面活性剤(湿潤剤)が効果的に入っていって、好適に数平均アスペクト比の大きいカーボンナノファイバーができたことが示唆された。
【0137】
実施例6
実施例1において、湿潤処理を行わず、その代わりに、実施例1で湿潤処理に用いた湿潤剤(界面活性剤)と同一のものを、湿式粉砕において界面活性剤として、凝集防止対象物(スラリー)の全体量に対して、0.06質量部を配合した。
それ以外は、混合量(配合量)等を含め、実施例1と同様にして、カーボンナノファイバー群を得た。
【0138】
若干、実施例1より、湿潤剤(界面活性剤)の効果が下がり、数平均アスペクト比が小さくなる傾向ではあったが、良好にカーボンナノファイバー群が得られ、分散性等の評価も良好であった。
【0139】
実施例7
実施例6において使用した界面活性剤(実施例1で湿潤処理に用いた湿潤剤(界面活性剤))に代えて、カルボベタイン型、イミダゾリン型、アミドベタイン型、アミドスルホベタイン型、又は、アミドアミンオキシド型の両性界面活性剤を用いた以外は、実施例6と同様にして、複数種類のカーボンナノファイバー群を得た。両性界面活性剤を用いたものは、硬水及び幅広いpH領域で高い起泡性を示し良好であった。
カルボベタイン型の両性界面活性剤としては、ソフタゾリン(川研ファインケミカル株式会社製)を用いた。
【0140】
実施例1や実施例6と同様に、良好にカーボンナノファイバー群が得られ、分散性等の評価も良好であった。
【0141】
実施例8
実施例5の原料を用い、実施例1において、凝集防止処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、カーボンナノファイバー群を得た。
【0142】
良好にカーボンナノファイバー群が得られ、分散性等の評価も良好であった。
ただ、得られたカーボンナノファイバー分散液は、実施例1で得られた分散液より、経時で若干凝集する方向であったが、問題にならないレベルであった。
【0143】
実施例9
実施例1において、水除去処理を行わず、カーボンナノファイバー分散液を得た。分散性に優れ、分散液のまま次の用途に提供することができた。
【0144】
実施例10
実施例1において、凝集防止処理と水除去処理の順番を逆にして、水除去処理を行って濃厚なスラリー又は粉末とした対象物に、実施例1の「凝集防止剤であるコブロックポリマー」を配合した以外は、実施例1と同様にして、カーボンナノファイバー群を得た。
【0145】
良好にカーボンナノファイバー群が得られ、分散性等の評価も分散安定性の評価も良好であった。
【0146】
比較例2
実施例1において、湿式粉砕を行わずに乾式粉砕だけで、カーボンナノファイバーを得ようとしたが、直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下のカーボンナノファイバーが、上記範囲に全体の50個数%以上が分布しているカーボンナノファイバー群は得られなかった。
【0147】
比較例3
実施例1において、乾式粉砕を行わずに湿式粉砕だけで、カーボンナノファイバーを得ようとしたが、粉砕が進行せず、直径30nm以上1000nm以下であり、かつ、長さ0.2μm以上70μm以下のカーボンナノファイバーが、上記範囲に全体の50個数%以上が分布しているカーボンナノファイバー群は得られなかった。
【0148】
実施例11
実施例1及び実施例8で得られたカーボンナノファイバー群を、熱可塑性樹脂であるポリカーボネート(帝人(株)製、パンライトL-1225Z 100(登録商標))に、全体に対して10質量%となるように混合して、カーボンナノファイバー含有樹脂を得た。
【0149】
得られた上記カーボンナノファイバー含有樹脂の成型体について、機械的強度である曲げ強度と剛性を、専用の測定装置で測定した。
その結果、カーボンナノファイバー群を含有しない同様のポリカーボネートに比較して、10質量%混合品は、20%以上の上記物性の向上が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明のカーボンナノファイバー群の製造方法を使用して得られたカーボンナノファイバー群は、アスペクト比が大きい、微細である等、極めて優れた形状をしたカーボンナノファイバー1本1本の集合であり、更にカーボンナノファイバー自身以外の不純物が殆どなく、液体(水系媒体等)にも、(融解した)固体(マトリックス樹脂等)にも分散性が良く、凝集もし難く、樹脂に含有させて成型もできるので、分散液、フィルム、塗料、構造体、層(膜)、回路、粉末、等の形態で、耐熱性物体、熱伝導性物体、電気伝導性物体、高機械強度物体、耐摩耗物体、電波遮蔽・吸収物体、漆黒性物体等、種々の性能が要求される種々の分野に広く利用されるものである。
【符号の説明】
【0151】
10・・・フィラメント
20・・・素フィラメント

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9