(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023031272
(43)【公開日】2023-03-08
(54)【発明の名称】水中緑化用吹付材及び水域設置用構造物の製造方法並びに水中緑化工法
(51)【国際特許分類】
A01K 61/70 20170101AFI20230301BHJP
【FI】
A01K61/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127757
(22)【出願日】2022-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2021136341
(32)【優先日】2021-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】502392711
【氏名又は名称】株式会社グリーン有機資材
(74)【代理人】
【識別番号】100121371
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 和人
(72)【発明者】
【氏名】杉本 晃
(72)【発明者】
【氏名】浜嶋 博昭
(72)【発明者】
【氏名】藤田 博成
(72)【発明者】
【氏名】中野 剛
(72)【発明者】
【氏名】小坂 顕太郎
【テーマコード(参考)】
2B003
【Fターム(参考)】
2B003AA01
2B003BB00
2B003CC03
2B003CC04
2B003DD00
(57)【要約】
【課題】水中微生物担体資材を吹き付けて基質の表面に波浪で剥離しないように強固に保持する水中緑化用吹付材の提供。
【解決手段】水中緑化用吹付材は、酸化マグネシウムと、生竹稈を繊維細胞の細胞壁が裂開するよう圧縮粉砕した綿状生竹繊維と、粒状塩化ナトリウムと、を含む粉粒状吹付基材と、水又は海水に溶解した塩化マグネシウムを含む吹付時添加剤とを備えた。さらに、粉粒状吹付基材には粒状塩化ナトリウムを加えてもよい。酸化マグネシウムを含む粉粒状吹付基材に塩化マグネシウムを含む吹付時添加剤を添加することにより、構造物に対する接着性が極めて大きく向上し、荒天時でも水中において構造物表面に形成される吹付層が剥離消失することが抑制される。綿状生竹繊維を混合することで、窒素固定菌の定着及び繁殖が誘導され、吹付層における水中微生物又は水生植物の繁殖がより大きく促進される。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水底又は水辺に設置する構造物の表面に吹き付けることにより、該構造物の表面に水中微生物又は水生植物の繁殖を促進させるための水中緑化用吹付材であって、
酸化マグネシウムと、生竹稈を繊維細胞の細胞壁が裂開するよう圧縮粉砕した綿状生竹繊維と、を含む粉粒状吹付基材と、淡水又は海水に溶解した塩化マグネシウムを含む吹付時添加液と、を備え、
又は、酸化マグネシウムと、生竹稈を繊維細胞の細胞壁が裂開するよう圧縮粉砕した綿状生竹繊維と、粉粒状の無水塩化マグネシウムと、を含む粉粒状吹付基材と、淡水又は海水を含む吹付時添加液と、を備えた水中緑化用吹付材。
【請求項2】
前記粉粒状吹付基材は、さらに粒状塩化ナトリウムを含むことを特徴とする請求項1記載の水中緑化用吹付材。
【請求項3】
前記粒状塩化ナトリウムは、粒径が0.1mmから12mmの塩化ナトリウム粒体が90wt%以上含有されているものであることを特徴とする請求項2記載の水中緑化用吹付材。
【請求項4】
前記粉粒状吹付基材の酸化マグネシウム1重量部に対し、
淡水又は海水に溶解した塩化マグネシウムを含む前記吹付時添加液を調整する際に使用する塩化マグネシウム六水和物の量は0.5~2.0重量部であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一記載の水中緑化用吹付材。
【請求項5】
前記粉粒状吹付基材の酸化マグネシウム1重量部に対し、
粉粒状の無水塩化マグネシウムを含む前記粉粒状吹付基材の無水塩化マグネシウムは0.02~0.1重量部であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一記載の水中緑化用吹付材。
【請求項6】
前記粉粒状吹付基材は、酸化マグネシウム1重量部に対し、
前記綿状生竹繊維が0.4~0.8重量部含まれていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一記載の水中緑化用吹付材。
【請求項7】
前記粉粒状吹付基材には、リン酸塩を含む粉粒体が混合されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一記載の水中緑化用吹付材。
【請求項8】
前記粉粒状吹付基材には、硫酸第一鉄を含む粉粒体が混合されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一記載の水中緑化用吹付材。
【請求項9】
水底又は水辺に設置する構造物の表面に水中緑化用吹付材を吹き付けて凝固させて水域設置用構造物を製造する吹付工程を有し、
前記水中緑化用吹付材は、
酸化マグネシウムと、生竹稈を繊維細胞の細胞壁が裂開するよう圧縮粉砕した綿状生竹繊維と、粒状の塩化ナトリウムと、を含む粉粒状吹付基材と、
水又は海水に溶解した塩化マグネシウムを含む吹付時添加液とからなり、
前記吹付工程においては、第1の吹付器により前記粉粒状吹付基材を第1の吹付ホースを通して該第1の吹付ホース先端の吹付ノズルに圧送するともに、第2の吹付器により前記吹付時添加液を第2の吹付ホースを通して前記第1の吹付ホースの先端の前記吹付ノズルから2m以内の位置に設けられた混合バルブに圧送し、該混合バルブにおいて前記粉粒状吹付基材と前記吹付時添加液を混合させて、前記構造物の表面に噴射することによって吹き付けを行うことを特徴とする水域設置用構造物の製造方法。
【請求項10】
水底又は水辺に設置する構造物の表面に水中緑化用吹付材を吹き付けて凝固させて水域設置用構造物を製造する吹付工程を有し、
前記水中緑化用吹付材は、
酸化マグネシウムと、生竹稈を繊維細胞の細胞壁が裂開するよう圧縮粉砕した綿状生竹繊維と、粒状の塩化ナトリウムと、粉粒状の無水塩化マグネシウムと、を含む粉粒状吹付基材と、
淡水又は海水を含む吹付時添加液とからなり、
前記吹付工程においては、第1の吹付器により前記粉粒状吹付基材を第1の吹付ホースを通して該第1の吹付ホース先端の吹付ノズルに圧送するともに、第2の吹付器により前記吹付時添加液を第2の吹付ホースを通して前記第1の吹付ホースの先端の前記吹付ノズルから2m以内の位置に設けられた混合バルブに圧送し、該混合バルブにおいて前記粉粒状吹付基材と前記吹付時添加液を混合させて、前記構造物の表面に噴射することによって吹き付けを行うことを特徴とする水域設置用構造物の製造方法。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の製造方法により水域設置用構造物を製造する水域設置用構造物製造工程と、
前記水域設置用構造物を水底に沈降させて設置する沈設工程を有する水中緑化工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中又は水辺に設置する消波ブロック、河川護岸ブロック、魚礁、ケーソン、廃船などの構造物の表面に吹き付けて表面コーティングすることにより、それら構造物の表面に水中微生物又は水生植物の繁殖を誘導する水中緑化用吹付材及び水中緑化工法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、全国各地の沿岸水域の広い領域で、磯焼け(浅海の岩礁・転石域において海藻の群落(藻場)が季節的消長や多少の経年変化の範囲を越えて著しく衰退または消失して貧植生状態となる現象。)に代表される藻場(沿岸の浅海領域に於いて海藻や海草が繁茂している場所、或いはそれらの群落や群落内の動物を含めた群集。)の衰退が生じている(非特許文献1,非特許文献2(19頁),非特許文献3(60-73頁)参照)。藻場が衰退する原因は海域によって様々であり、原因調査を行い原因に応じた対策を行う必要があるが、よく見られる藻場衰退原因の一つとして、浮遊砂による岩礁の埋沒や摩耗、海藻や海草の生長に必要な栄養塩の不足が挙げられる。このような藻場衰退原因に対する対策として、海藻の増殖を促進するための基質(ブロックや石材)の提供や、栄養塩(生物の成長や増殖に欠かせない無機塩類。窒素N,リンP,鉄Feなど。)の人為的供給が実際に行われている(非特許文献2(37,42頁),非特許文献3(195-173頁),非特許文献4参照)。尚、「基質」とは海藻着生表面の材料をいい、「栄養塩」とは生物の成長や増殖に欠かせない無機塩類のことをいう。このような基質提供及び栄養塩供給に関する技術としては、特許文献1~14に記載のものが公知である。
【0003】
(1)栄養塩供給に関する技術
栄養塩供給に関する技術に関する技術としては、窒素N,リンPのような肥料三要素(カリKは海中に豊富に存在)の不足分の供給を行うもの、鉄Feのような不足したミネラルの供給を行うもの、これら双方の供給を行うものがある。また、栄養塩供給の方法として、栄養塩を含む担体を水中に投入するもの(特許文献2-5)と、栄養塩である窒素Nを海底に固定する微生物の定着・増殖を誘導するもの(特許文献1)とがある。
【0004】
特許文献1には、生竹稈を繊維細胞の細胞壁が裂開するよう圧縮粉砕した綿状生竹繊維を袋体の内部に充填し封止し水中微生物担体資材が開示されている。この水中微生物担体資材を水中に沈設すると、水中微生物は、裂開した繊維細胞壁内に入り込み定着・繁殖しこの中で生態系を形成する。この生態系により水中の有機物は効率的に分解され、水中の富栄養化が抑制されて水質浄化が促進される。竹繊維は腐食・消失までに数年程度かかり、数年に亘り微生物担体は消失せずに維持される。また、自然環境水域では細胞壁内に発生する窒素固定菌が窒素固定し、水生植物の繁殖を促し、繁殖した水生植物が水中のリン酸イオンを取り込み、水中の富栄養化が抑制される。
【0005】
また、栄養塩を含む担体を水中に投入して、直接栄養塩を水中に徐放させるものとして、特許文献2-5に記載の技術が開示されている。特許文献2には、石炭灰と鉄とキレート剤とを含有する施肥材を貝類又は藻類の増殖水域に配置し、前記貝類或いは前記藻類の生育を促進させる、水生生物の増殖方法が記載されている。特許文献3には、上面が開放された硬質容器又は1以上の孔部を有した硬質容器(鋼又はコンクリート、或いはそれらの組み合わせで作製されてなる硬質容器)に、鉄鋼スラグを含有する施肥材料、或いはこの施肥材料を充填させた透水性の袋体が収容されていることを特徴とする水域環境保全容器が記載されている。特許文献4には、鉄鋼スラグから供給される二価鉄(Fe2+)とアンモニア化成する窒素化合物から供給されるアンモニア(NH3)との間でつくられる可溶性の錯イオン[Fe(NH3)6]2+からなる鉄系肥料分と、窒素化合物中のリン、窒素からなる有機系肥料分を同時に生物に供給することを特徴とする施肥材料を、透水性の袋体および/または容器に充填し、これを水中に設置する施肥方法が記載されている。特許文献5には、SiO2:63.9~78.3%(重量%、以下同じ)、Al2O3:11.6~14.2%,Fe2O3:3.60~4.40%,MgO:1.52~1.86%,CaO:1.73~2.13%,K2O:2.70~3.32%,P2O5:0.054~0.068%を主成分とし、残部に他の微量元素を含有してなる広域変成岩を、水中に投入して水中動植物の育成場とする水中動植物増殖媒体が記載されている。この水中動植物増殖媒体については、水中動植物増殖媒体としての広域変成岩が有するミネラル分を利用しようとする水中植物の指向性により、水中植物が広域変成岩に良く着生し生育して、良好に生育した水中植物の周りに水中動物が集まる。したがって、製造が容易でコストが低いのに、水中動植物を極めて効率良く保護育成することができる効果があるとの記載がある。
【0006】
(2)基質提供に関する技術
基質提供に関する技術としては、セメント系材料からなるブロックを用いて構成された基質を海底に沈設するもの(特許文献6-13)や、廃船を利用して構成された基質を海底に沈設するもの(特許文献14)などが公知である。また、これらの基質に、栄養塩を徐放する担体を含ませることで、同時に栄養塩供給ものが多く開示されている。
【0007】
特許文献6には、セメント系材料からなるブロックまたは構造物の表面に海草が付着し易いようにするために、硬化前および硬化後のセメント系材料の表面に粗面加工を施す方法または破断面が粗で小さな空隙や窪み・ひび割れ等を有する固形廃棄物または自然石を表面に埋め込む方法などを用いてブロックまたは構造物を製造し、これを海水中へ敷設または設置して藻場の形成や海草の繁茂する人工漁礁を構築し、魚介類の生息環境を保全するものが記載されている。海水中へ敷設または設置する構造物は、硬化前または硬化後の適当な時期にセメント系材料の表面に砂、水または空気等を吹きつけ、あるいはブラッシング等を施してその表面を粗に加工してなるものが記載されている。特許文献7には、少なくとも表面が、廃棄物溶融スラグ(下水汚泥焼却溶融スラグ、ゴミ焼却溶融スラグ、フライアッシュ溶融スラグ、砕石スラッジ溶融スラグ、製紙スラッジ焼却溶融スラグ及び建設廃材焼却溶融スラグなど)を含有するスラグ粉末、アルカリ性刺激材(ポルトランドセメント、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物及び弱酸のアルカリ金属塩)及び水を含む混合物の硬化体で形成された、魚礁、藻場等に用いられる生物易付着性硬化体が記載されている。特許文献8には、コンクリート製人工魚礁の表面にポルトランドセメントより低pHのフォスフェートセメント(リン酸セメント)のアルカリ溶出抑制素材を被覆することに加えて、ミネラル徐放性素材(鋳物廃砂,フライアッシュ,鋳物廃砂,ゼオライト等。)及び/又は藻類付着性向上素材(表面に微細孔を形成する多孔質素材。有孔虫化石土、サンゴ化石、有孔虫化石土等。)で被覆して、アルカリ溶出を抑制しつつ、藻場形成に貢献する鉄分等のミネラルを徐放させ、魚礁の表面に遊走子や受精卵が着生しやすくする人工魚礁の表面改質方法が記載されている。特許文献9には、淡水域、海域または汽水域の岸辺や海岸、床面に設置されるコンクリート成形体であって、表面から露出する多数の空隙を有する微細骨格構造体(徐冷スラグなど)を含み、ポーラス状に形成されたコンクリート成形体が記載されている。微細骨格構造体の空隙は海藻の胞子などが着床し易くなり、ポーラスコンクリートの空隙は水生植物が容易に根を張ることができると共に、水生生物にとって生息に好適な空間となる。特許文献10では、ポルトランドセメント100重量部に対して、粉粒状の木質炭化物(竹炭・木炭・活性炭等)を15~35重量部,細骨材を40~15重量部の割合で配合し、所要量の水で混練し、表面に細突起を多数有する型枠内に流し込んで硬化させて製造された表面に細孔を多数有する多孔質炭入りコンクリート製品(魚礁ブロック,魚巣ブロックなど)が記載されている。このコンクリート製品では、従来の普通セメントでは混合できないとされた木質炭化物を多量混合させることができ、しかも脆性もなく普通コンクリート製品同等程度の強度を有させることができ、また、この多量の木質炭化物によって、水・空気の浄化力が高くなり、又多孔性の炭の構造から微生物の着生を促し、生物的浄化力も高まると記載されている。特許文献11には、海底設置面との間に海流が流通可能な間隙を作る複数の脚部を底面に有する台座ブロックと、当該台座ブロックの上面に着脱自在に取付けられると共に、該台座ブロックを上下に貫通する海水が流通する中央孔を挟んで配置された海流に容易に流されない程度の重量を有する少なくとも一対の上部ブロックと、前記台座ブロック、上部ブロックのいずれか又は複数において、それらの側部に貝類が着生するための溝を有し、前記台座ブロック並びに上部ブロックは、セメントを主たる構成成分とし、これに鉄、必須アミノ酸を加えてなることを特徴とする海藻増殖用ブロックが記載されている。この海藻増殖用ブロックでは、海藻増殖用ブロック周辺での海流を遮断することなく効果的に活用でき,海藻が着生・増殖しやすくなり、台座部分に着生している海藻により、新たな着脱部においてもより迅速な海藻の着生、増殖が期待できる。これらの効果により、より低コストで、迅速な磯焼け対策が可能となると記載されている。特許文献12には、結合材と、120℃以上の蒸気により蒸気加熱した貝殻(水産業や食品加工業等で廃棄物として発生するカキ、帆立貝、アサリ、ハマグリ、アワビ、トコブシ、サザエ等の貝殻)又は少なくとも一部が炭化した木材(丸太状、板状、角材状、チップ状、粉状等の杉、松、楢、桧等の一般の木材や竹など)を含有してなるモルタル・コンクリートを用いてなる構造物及び魚礁が記載されている。この構造物及び魚礁によれば、ゴカイ類や甲殻類等のベントスが早期に付着及び/又は潜入することにより、それらを捕食する魚類が早期に蝟集する効果が早期に発現し長期間保持することが可能であると記載されている。特許文献13には、コンクリートブロック本体と、前記コンクリートブロック本体の内部に配設される複数の木材とを含んで構成され、木材同士の間に隙間が設けられると共に、各木材の長手方向の少なくとも一方の端面が、コンクリートブロック本体の側面に露出した状態で配設された環境改善型魚礁ブロックが記載されている。この環境改善型魚礁ブロックによると、コンクリートブロック本体内に多くの木材を配設することが可能であるため、間伐材の利用促進が図られ、海底沈設後、木材が食害等により消失することにより、コンクリートブロック本体の内部に複数の空間が形成され、当該空間は魚介類にとって格好の隠れ場所、産卵場所として機能し、魚礁としての機能を併せ持った港湾構造物となると記載されている。
【0008】
特許文献14には、繊維強化プラスチックを船体の一部或いは全てに使用した船舶であって、正規用途に使用されなくなった船から、推進装置、操舵装置、デッキ、燃料タンク、その他の付属部品の内少なくとも1個以上を取除いた船体に、躯体内部に空洞部を内包する枠体ユニットを連結し、連結枠体の内部空間に中空構造を破壊した竹材或いは木質有機物を挿入し、連結枠体躯体内の空洞部に加圧空気を注入し或いは排気する事によって浮沈調節が出来、任意の位置に設置出来る事を特徴とする浮沈自在型の有機物漁礁が記載されている。これにより、海面近くに有機物の個体を提供し、浅瀬が再現され、これを食する水棲生物が繁殖する事によって魚類の餌が確保され、海藻が着床し、膨大な小空間が立体的に生まれて稚魚・幼魚の安全が確保され、食物連鎖が完成し、人間の活動によって絶たれた炭素の循環が復活すと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2017-074041号公報
【特許文献2】特開2015-226511号公報
【特許文献3】特開2007-330254号公報
【特許文献4】特開2006-345738号公報
【特許文献5】特開2007-117069号公報
【特許文献6】特開2007-215532号公報
【特許文献7】特開平11-276014公報
【特許文献8】特開2019-216698公報
【特許文献9】特開2004-035366号公報
【特許文献10】特開2001-032402公報
【特許文献11】特許第4904565号明細書
【特許文献12】特開2004-149345号公報
【特許文献13】特開2013-245538号公報
【特許文献14】特開2010-104237号公報
【特許文献15】特開2010-070963号公報
【特許文献16】特開2006-712号公報
【特許文献17】特開2006-255617号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】水産庁,平成18年度環境・生態系保全活動支援調査委託事業「沿岸域の環境・生態系保全活動の進め方(暫定指針)」,[online],平成19年3月,水産庁,[2021年8月12日検索],インターネット<URL:https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/tamenteki/sankou/attach/pdf/index-4.pdf>.
【非特許文献2】水産庁,「藻場の働きと現状」,[online],2021年8月,水産庁,[2021年8月12日検索],インターネット<URL:https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/tamenteki/kaisetu/moba/moba_genjou/>.
【非特許文献3】水産庁,「磯焼け対策ガイドライン(第3版)」,[online],令和3年3月,水産庁,[2021年8月12日検索],インターネット<URL:https://www.jfa.maff.go.jp/j/gyoko_gyozyo/g_gideline/index.html>.
【非特許文献4】水産庁漁港漁場整備部,「磯焼け対策における施肥に関する技術資料」,[online],平成27年3月,水産庁,[2021年8月12日検索],インターネット<URL:http://www.jfa.maff.go.jp/j/gyoko_gyozyo/g_hourei/pdf/sehigijutsusiryou.pdf>.
【非特許文献5】Sam A. Walling and John L. Provis, “Magnesia-Based Cements: A Journey of 150 Years, and Cements for the Future? ”, Chem. Rev. Vol.116 (2016) pp.4170-4204.
【非特許文献6】Zhou, Z.; Chen, H.; Li, Z.; Li, H. “Simulation of the properties of MgO-MgfCl2-H2O system by thermodynamic method”, Cem. Concr. Res. 2015, 68, 105-111.
【非特許文献7】Deng, D. “The mechanism for soluble phosphates to improve the water resistance of magnesium oxychloride cement”, Cem. Concr. Res. 2003, 33, 1311-1317.
【非特許文献8】Tan, Y.; Liu, Y.; Grover, L. “Effect of phosphoric acid on the properties of magnesium oxychloride cement as a biomaterial”, Cem. Concr. Res. 2014, 56, 69-74.
【非特許文献9】鷺猛,三宅泰雄,猿橋勝子,「海水中の窒素および リンについて」,日本海水学会誌,日本海水学会,1982年,第36巻,第4号,pp.253-262.
【非特許文献10】袋昭太,島多義彦,「カキ殻を利用した水環境改善技術の開発-カキ殻覆砂工法およびカキ殻フィルター工法-」,フジタ技術研究報告,株式会社フジタ,2005年,第41号,pp.63-68.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のような、基質提供及び栄養塩供給に関する技術には、次のような課題がある。
【0012】
(1)栄養塩供給に関しては、特許文献2-5に記載の技術のように、栄養塩を含む担体を水中に投入するものは、担体内の栄養塩は徐放されることで消失するため、藻場が回復する前に枯渇する場合がある。そのため、同じ海域に定期的に栄養塩を含む担体を投入する必要があるが、過剰に投入しすぎると過栄養状態となり、逆に赤潮や青潮の発生にも繋がるため、適度な投入量の調節が難しい。一方、特許文献1のように、水中に存在する窒素固定菌を担体内で定着・増殖させ、栄養塩である窒素Nを海底に固定するは、長期間に亘り栄養塩の量が自然に調整されるため、定期的な栄養塩の投入や適度な投入量の調節などは必要ない。然し乍ら、本発明者は実際に海域に於いて試験を行ったところ、数月から数年程度の期間で、水中微生物担体資材(生竹稈を繊維細胞の細胞壁が裂開するよう圧縮粉砕した綿状生竹繊維)を収納する資材包持嚢袋自体が荒天時の波浪の影響などにより流亡したり、海底の漂砂に埋沒して藻場に対する栄養塩供給に支障を来す場合があるという問題があった。
【0013】
(2)海底に沈設するブロックや廃船などの基質(特許文献6-14)に関しては、多くの場合磯焼けした海域では栄養塩が不足しており、そのような海域では、基質に栄養塩を徐放する担体を含ませる必要があるが、どのようにして栄養塩を徐放する担体を基質に固定するかが問題となる。特許文献14のように、基質内部に形成された空洞内に、間伐材や竹などの木材を直接入れる場合、荒天時の波浪の影響などにより木材が外部に流出し、散乱、漂流し、魚網に絡み、魚網破損を招く要因となるため漁業関係者に敬遠される。また、粉粒状の木質炭化物(竹炭・木炭・活性炭等)をセメントなどにより基質内部に封入する場合は、逆に、封入した木質炭化物に含まれる栄養塩が外部に徐放されにくくなるため、藻場の再生に十分な栄養塩が海域に放出されないという問題がある。また、栄養塩を徐放する担体の保持に樹脂製の袋や網や籠などを用いる場合、近年問題となっているマイクロ・プラスチックの海洋放出に繋がるため好ましくない。
【0014】
本発明では、藻場回復のための栄養塩供給及び基質提供を行う技術提供を行うものとし、そのための手段に、海底に沈設するブロックや廃船などの基質の表面に栄養塩である窒素Nを固定する窒素固定菌を誘導増殖させる水中微生物担体資材(生竹稈を繊維細胞の細胞壁が裂開するよう圧縮粉砕した綿状生竹繊維)を海底漂砂に埋沒せず且つ流亡しないよう長期間海底に維持することを目的とする。これには、海底砂の砂面の季節変動幅の最高位よりも高所に水中微生物担体資材を固定し保持する必要があり、その手段として、ブロックや廃船などのように、大重量で海底砂面変動幅よりも大きい高さを持った基質に水中微生物担体資材を吹き付けにより固定する手法を採用する。そして、本発明の目的は、この水中微生物担体資材を吹き付けて基質の表面に波浪で剥離しないように強固に保持するとともに、水中で吹付層内に窒素固定菌の侵入を容易にすることが可能な水中緑化用吹付材及びそれを用いた水域設置用構造物の製造方法並びに水中緑化工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る水中緑化用吹付材の第1の構成は、水底又は水辺に設置する構造物の表面に吹き付けることにより、該構造物の表面に水中微生物又は水生植物の繁殖を促進させるための水中緑化用吹付材であって、
酸化マグネシウムと、生竹稈を繊維細胞の細胞壁が裂開するよう圧縮粉砕した綿状生竹繊維と、粒状塩化ナトリウムと、を含む粉粒状吹付基材と、淡水又は海水に溶解した塩化マグネシウムを含む吹付時添加液と、を備え、
又は、酸化マグネシウムと、生竹稈を繊維細胞の細胞壁が裂開するよう圧縮粉砕した綿状生竹繊維と、粉粒状の無水塩化マグネシウムと、を含む粉粒状吹付基材と、淡水又は海水を含む吹付時添加液と、を備えたことを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、
(1)酸化マグネシウムを含む粉粒状吹付基材に塩化マグネシウム及び水を含む吹付時添加液を添加することにより、又は酸化マグネシウム及び無水塩化マグネシウムを含む粉粒状吹付基材に水を含む吹付時添加液を添加することにより、オキシ塩化マグネシウムセメントが形成されて構造物に対する接着性が極めて大きく向上し、荒天時でも水中において構造物表面に形成される吹付層が剥離消失することが抑制される。また、吹きつけを行う構造物(基質)に、荒天時の波浪の影響で流亡したり海底の漂砂に埋沒しないものを用いれば、特許文献1の場合のような藻場に対する栄養塩供給に支障を来す問題も生じない。
(2)綿状生竹繊維は、吹付層内でフィラーとして機能し、吹付層が構造物から剥がれにくくなる。硬化した吹付層の内部は、水酸化マグネシウムと塩化マグネシウムの水和物(マグネシウムオキシクロライド)により強アルカリ性に維持されるため、竹繊維を腐蝕させる木材腐朽菌の繁殖は抑えられ、長期に亘り強度が維持される。
(3)綿状生竹繊維を混合することで、窒素固定菌の定着及び繁殖が誘導され、吹付層における水中微生物又は水生植物の繁殖がより大きく促進される。窒素固定菌は、綿状生竹繊維の細胞壁内の空間で繁殖し、吹付層の内部のアルカリ性環境でも繁殖することができる。窒素固定菌は、水中の窒素をニトロゲナーゼによる窒素固定反応により還元してアンモニア態窒素に変換するもので、綿状生竹繊維の繊維質自体を分解するものではない。
【0017】
なお、本発明に於いて、構造物表面に形成される吹付層の強度をより大きくするために、粉粒状吹付基材には、砂,廃ガラス,クリンカーアッシュ,バガス(Bagasse)(サトウキビ搾汁後の残渣)などの細骨材を追加で加えることもできる。また、粉粒状吹付基材の各素材を混合しやすくするため、団粒剤などを追加で加えることもできる。
【0018】
また、海底に沈設する水域設置用構造物に対して水中緑化用吹付材を適用する場合、吹付時添加液に、設置現場の海域の海水を利用することで、現場まで水の運搬を行う必要がなくなり、運搬コスト及び労力が大幅に軽減される。また、海水中にはマグネシウムイオンMg2+及び塩化物イオンCl-が、それぞれ約3.69溶質%(0.1272質量%),約55.05溶質%(1.898質量%)含まれており、塩化マグネシウムに換算すると、海水中の塩分(海域により変化するが海水の約3.4質量%が塩分で残りが水)のうち約9.6質量%が塩化マグネシウム(所謂「にがり」)である。この海水中の塩化マグネシウムも酸化マグネシウムと反応してオキシ塩化マグネシウムセメントを形成するため、海水を利用することで、別途添加が必要な塩化マグネシウムの量を減らすことが出来る。
【0019】
本発明に係る水中緑化用吹付材の第2の構成は、前記第1の構成に於いて、前記粉粒状吹付基材は、さらに粒状塩化ナトリウムを含むことを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、粒状塩化ナトリウムを添加することで、構造物表面に形成される吹付層は、溶解していない粒状塩化ナトリウムを含む状態で凝固する。尚、塩化ナトリウムは潮解性はなく、水に溶解するのに時間がかかるため、粒状塩化ナトリウムは吹付層が凝固するまで固体粒のまま残る。そして、この吹付層で表面コーティングされた構造物を水底に沈設すると、吹付層に含まれた粒状塩化ナトリウムは長時間経過すると水中に溶解して消失しボイド(小孔)となり、吹付層はポーラスな状態となる。このポーラスな状態の吹付層の小孔内に微生物や水生植物の根又は付着器が侵入することで、吹付層における水中微生物又は水生植物の繁殖がより大きく促進される。また、塩化ナトリウムはもともと自然界に多量に存在する物質であり、有機系発泡剤を用いる場合と異なり、粒状塩化ナトリウムを吹付層のポーラス化のための資材として使用すれば公害を引き起こす恐れは全くない。
【0021】
本発明に係る水中緑化用吹付材の第3の構成は、前記第2の構成に於いて、前記粒状塩化ナトリウムは、粒径が0.1mmから12mmの塩化ナトリウム粒体が90wt%以上含有されているものであることを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、粒状塩化ナトリウムの粒径を上記範囲とすることで、吹付層で表面コーティングされた構造物を水底に沈設した際に、吹付層は、微生物や水生植物の根又は付着器が侵入しやすく、且つ吹付層の付着強度が維持されて剥離消失しにくいような、適度にポーラスな状態となる。粒状塩化ナトリウムの粒径が0.1mmより小さいと、吹き付け後に凝固する前に粒状塩化ナトリウムが水に溶解して凝固後に塩化ナトリウムの粒状の塊が殆ど残らなくなる。逆に、粒径が12mmよりも大きいと、吹き付け時に粉粒状吹付基材が吹付ホース内に詰まりやすくなるため、作業効率の低下を招く。また、吹き付け後に凝固した吹付層内に生じる塩化ナトリウムの塊の大きさが12mmよりも大くなると、その塊が溶解消失した後に生じる痕跡孔の大きさが大きくなり、吹付層の強度が低下し、水中において構造物表面に形成される吹付層が剥離消失し易くなる。
【0023】
本発明に係る水中緑化用吹付材の第4の構成は、前記第1乃至3の何れか一の構成に於いて、前記粉粒状吹付基材の酸化マグネシウム1重量部に対し、淡水又は海水に溶解した塩化マグネシウムを含む前記吹付時添加液を調整する際に使用する塩化マグネシウム六水和物の量は0.5~2.0重量部であることを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、酸化マグネシウムと塩化マグネシウムの混合比を上記比率とすることで、構造物に対する接着性が非常に大きくなる。塩化マグネシウムが0.5重量部よりも小さくなると、構造物に対する接着性が低下し、水中において構造物表面に形成される吹付層が剥離消失し易くなる。2.0重量部よりも大きくなると、吹き付け時の吹付層の流動性が大きくなりすぎるため、構造物表面に適度な厚みの吹付層を形成するのが困難となる。
【0025】
本発明に係る水中緑化用吹付材の第5の構成は、前記第1乃至3の何れか一の構成に於いて、前記粉粒状吹付基材の酸化マグネシウム1重量部に対し、粉粒状の無水塩化マグネシウムを含む前記粉粒状吹付基材の無水塩化マグネシウムは0.02~0.1重量部であることを特徴とする。
【0026】
この構成によれば、酸化マグネシウムと塩化マグネシウムの混合比を上記比率とすることで、構造物に対する接着性が非常に大きくなる。無水塩化マグネシウムの含有比が0.02重量部よりも小さくなると、構造物に対する接着性が低下し、水中において構造物表面に形成される吹付層が剥離消失し易くなる。無水塩化マグネシウムの含有比が0.1重量部よりも大きくなると、吹き付け時の発熱量が大きくなり過ぎて、吹き付けを行った構造物表面が高温となり過ぎるため好ましくない。
【0027】
本発明に係る水中緑化用吹付材の第6の構成は、前記第1乃至3の何れか一の構成に於いて、前記粉粒状吹付基材は、酸化マグネシウム1重量部に対し、前記綿状生竹繊維が0.4~0.8重量部含まれていることを特徴とする。
【0028】
尚、竹繊維が0.4重量部よりも小さいと、微生物の誘導効果が低くなり、構造物の表面の水中微生物又は水生植物の誘導効果が低くなる。竹繊維が0.8重量部よりも大きいと、吹付層の強度が低下して、水中において構造物表面に形成される吹付層が剥離消失し易くなる。
【0029】
本発明に係る水中緑化用吹付材の第7の構成は、前記第1乃至3の何れか一の構成に於いて、前記粉粒状吹付基材には、リン酸塩を含む粉粒体が混合されていることを特徴とする。
【0030】
この構成によれば、粉粒状吹付基材にリン酸塩を含む粉粒体を混合することで、水中緑化用吹付材を構造物に吹き付けて構造物を吹付層で被覆して、該被覆構造物を水中に設置した際に、リン酸塩が水中の吹付層内部のMg2+イオンレベルを低下させてオキシ塩化マグネシウム(Magnesium Oxychloride;以下「MOC」という。)セメント(MgOとMgCl2とが水和して吹付層内に生成されるセメント)の水和物相を安定化させるため、吹付層の強度の劣化を抑止することができる。また、長期間に亘り吹付層から水中に徐放されるリン酸塩により、被覆構造物の周辺に植物の生長に必要なリンが供給されることとなり、吹付層における水中微生物又は水生植物の繁殖がより大きく促進される。
【0031】
ここで、「リン酸塩」としては、具体的には、Li,Na,K,Mg,Ca等のアルカリ金属の無機リン酸塩のほか、骨りん酸(骨を酸で溶かし、沈降したリン酸分を凝集して粒状にした肥料)、ようりん肥料(リン酸と石灰を含むリン鉱石と、硅酸と苦土を含む硅酸苦土含有鉱滓を主原料とし、これを電気炉又は平炉で1400℃前後で溶かした後、水で急冷して製造される有機農産物適合肥料)などを用いることが出来る。
【0032】
本発明に係る水中緑化用吹付材の第8の構成は、前記第1乃至3の何れか一の構成に於いて、前記粉粒状吹付基材には、硫酸第一鉄を含む粉粒体が混合されていることを特徴とする。
【0033】
この構成によれば、粉粒状吹付基材に硫酸第一鉄を含む粉粒体を混合することで、水中緑化用吹付材を構造物に吹き付けて構造物を吹付層で被覆して、該被覆構造物を水中に設置した際に、吹付層の耐水性が向上する(長時間水中に浸漬しても圧縮強度の減少が抑制される)。また、吹付層が硫酸第一鉄を含むことで、時間の経過と共に吹付層が茶色く変色するため、周囲の環境に違和感なく溶け込ませることができる。また、海藻や海草の生育に必要なミネラルとして鉄分があるが、これは日本の多くの海域で不足している。従って、吹付層が硫酸第一鉄を含むことで、海域に不足した鉄分を補給することにもなり、海藻や海草の生育が促進される。
【0034】
本発明に係る水域設置用構造物の製造方法の第1の構成は、水底又は水辺に設置する構造物の表面に水中緑化用吹付材を吹き付けて凝固させて水域設置用構造物を製造する吹付工程を有し、
前記水中緑化用吹付材は、酸化マグネシウムと、生竹稈を繊維細胞の細胞壁が裂開するよう圧縮粉砕した綿状生竹繊維と、粒状の塩化ナトリウムと、を含む粉粒状吹付基材と、水又は海水に溶解した塩化マグネシウムを含む吹付時添加液からなり、
前記吹付工程においては、第1の吹付器により前記粉粒状吹付基材を第1の吹付ホースを通して該第1の吹付ホース先端の吹付ノズルに圧送するともに、第2の吹付器により前記吹付時添加液を第2の吹付ホースを通して前記第1の吹付ホースの先端の前記吹付ノズルから2m以内の位置に設けられた混合バルブに圧送し、該混合バルブにおいて前記粉粒状吹付基材と前記吹付時添加液を混合させて、前記構造物の表面に噴射することによって吹き付けを行うことを特徴とする。
【0035】
この製法によれば、吹付工程において、水底又は水辺に設置する構造物の表面に水中緑化用吹付材を吹き付けて凝固させることで、該構造物の表面に、綿状生竹繊維を含む吹付層が形成される。吹付層には、セメント基材として酸化マグネシウム(マグネシアセメント)が用いられるが、塩化マグネシウムを添加することによって、構造物の表面への接着強度が極めて大きくなる。一方で、塩化マグネシウムは潮解性が非常に大きいため、空気中の水分を吸収して容易に溶解する。そのため、酸化マグネシウム粉末に塩化マグネシウム粉末を混合した状態では、吹き付け作業時にミキサやホッパ内で酸化マグネシウム粉末が溶解した塩化マグネシウムによって凝固し作業に困難を来す。そこで、酸化マグネシウム粉末を含む粉粒状吹付基材を第1の吹付ホースを通して該第1の吹付ホース先端の吹付ノズルに圧送するともに、第2の吹付器により塩化マグネシウム溶液を含む吹付時添加液を第2の吹付ホースを通して第1の吹付ホースの先端の吹付ノズルから2m以内の位置に設けられた混合バルブに圧送し、該混合バルブにおいて粉粒状吹付基材と吹付時添加液を混合させて、構造物の表面に噴射することによって、吹き付け装置の内部で酸化マグネシウムが凝固することなく吹き付け作業を行うことが可能となる。
【0036】
ここで、吹付時添加液において、塩化マグネシウムは水又は海水に溶解したものを使用できるが、作業現場が淡水水域であれば水を使用し、作業現場が海水水域であれば海水を使用することができる。このように、現場にある淡水又は海水を利用することで、別途で水を現場に運搬する必要がなくなり、作業労力が低減される。また、海水を使用する場合、吹きつけを行ってから吹き付け層が凝固するまでの間に、粒状塩化ナトリウムがより溶解しにくくなるため好適である。
【0037】
本発明に係る水域設置用構造物の製造方法の第2の構成は、水底又は水辺に設置する構造物の表面に水中緑化用吹付材を吹き付けて凝固させて水域設置用構造物を製造する吹付工程を有し、
前記水中緑化用吹付材は、
酸化マグネシウムと、生竹稈を繊維細胞の細胞壁が裂開するよう圧縮粉砕した綿状生竹繊維と、粒状の塩化ナトリウムと、粉粒状の無水塩化マグネシウムと、を含む粉粒状吹付基材と、
淡水又は海水を含む吹付時添加液とからなり、
前記吹付工程においては、第1の吹付器により前記粉粒状吹付基材を第1の吹付ホースを通して該第1の吹付ホース先端の吹付ノズルに圧送するともに、第2の吹付器により前記吹付時添加液を第2の吹付ホースを通して前記第1の吹付ホースの先端の前記吹付ノズルから2m以内の位置に設けられた混合バルブに圧送し、該混合バルブにおいて前記粉粒状吹付基材と前記吹付時添加液を混合させて、前記構造物の表面に噴射することによって吹き付けを行うことを特徴とする。
【0038】
無水塩化マグネシウムは、塩化マグネシウム水和物とは異なり、潮解性を有さないため、酸化マグネシウム,綿状生竹繊維,粒状の塩化ナトリウムと混合しても、吹付機のポンプやホース内に付着することはない。一方、無水塩化マグネシウムは、水と混ぜると激しく発熱するため、吹き付けを行う際には、安全性の観点から、吹付機の内部では水とは分離して取り扱う必要がある。従って、無水塩化マグネシウムを用いる場合には、塩化マグネシウムは粉粒状吹付基材に混合して吹付ノズルへ圧送する。そして、淡水又は海水を含む吹付時添加液は、粉粒状吹付基材とは分離して吹付ノズルへ圧送する。そして、吹き付け直前の混合バルブにおいて、粉粒状吹付基材と吹付時添加液とを混合して構造物の表面に噴射する。これにより、吹付機の内部での発熱は回避され、且つ吹き付け装置の内部で酸化マグネシウムが凝固することなく吹き付け作業を行うことが可能となる。
【0039】
本発明に係る水中緑化工法は、前記水域設置用構造物の製造方法により水域設置用構造物を製造する水域設置用構造物製造工程と、 前記水域設置用構造物を水底に沈降させて設置する沈設工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0040】
以上のように、本発明によれば、(1)酸化マグネシウムを含む粉粒状吹付基材に塩化マグネシウムを含む吹付時添加液を添加することにより、構造物に対する接着性が極めて大きく向上し、荒天時でも水中において構造物表面に形成される吹付層が剥離消失することが抑制され、(2)粒状塩化ナトリウムを添加することで、水中緑化用吹付材の吹付層で表面をコーティングされた構造物を水底に沈設すると、吹付層内の粒状塩化ナトリウムが水中に溶解して消失して吹付層内に小孔を生じ、小孔内に微生物や水生植物の根又は付着器が侵入することが促進され、(3)竹繊維を混合することで、窒素固定菌の定着及び繁殖が誘導され、吹付層における水中微生物、水生動物又は水生植物の繁殖が大きく促進される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図2】綿状生竹繊維を拡大したて撮影した電子顕微鏡写真である。(a)200倍,(b)1000倍,(c)900倍,(d)2000倍.
【
図3】実施例1で実際に使用した粒状塩化ナトリウム(NaCl)及び水(又は海水)に溶解する前の塩化マグネシウム六水和物(MgCl
2・6H
2O)の外観写真である。
【
図4】(a)面剪断試験における試験片、及び(b)割裂引張試験における試験片を表す図である。
【
図5】各供試体の剪断強さと引張強度の比較をグラフで示した図である。
【
図6】一軸圧縮試験で測定された各供試体の平均一軸圧縮強度のグラフを示した図である。
【
図7】実施例2の水域設置用構造物の製造方法に係る設備工程図である。
【
図8】吹付ノズル10及び混合バルブ10aの周辺の模式構造図である。
【
図11】水域設置用構造物に用いる、水中緑化用吹付材の吹付対象とされる構造物の一例を示す図である。
【
図12】(a)水中又は水辺に設置前の吹付層の表面を示す図、(b)水中又は水辺に設置後の吹付層の表面を示す図である。
【
図13】蛎殻に実施例1の水中緑化用吹付材を吹き付けることにより凝結・硬化させたサンプルの写真である。
【
図14】カキ殻充填袋として使用される麻袋の例を示した図である。
【
図15】粉粒状吹付基材として、酸化マグネシウム,綿状生竹繊維,粒状塩化ナトリウム,粉粒状無水塩化マグネシウム,リン酸マグネシウム及び硫酸第一鉄を含む粉粒状吹付基材と、海水からなる吹付時添加液とを用いた水中緑化用吹付材を使用して、海底沈設用のXブロックに吹き付けを行った例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。
【実施例0043】
本実施例では、本発明に係る水中緑化用吹付材の一実施例について説明する。本実施例の水中緑化用吹付材は、粉粒体状の粉粒状吹付基材と液状の吹付時添加液とから構成されている。粉粒状吹付基材は、粉粒体状であり、酸化マグネシウム(マグネシア)MgO,綿状生竹繊維,粒状塩化ナトリウムを基本構成とし、必要に応じて、追加的に細骨材(砂,高炉スラグ,真砂土等),団粒材などが添加される。吹付時添加液は、液状であり、水又は海水に溶解した塩化マグネシウムを含む溶液が用いられる。市販の塩化マグネシウム六水和物は、高い潮解性を有するため、粉粒状吹付基材に混合すると、空気中の水分を吸収して潮解し、吹付機やホースの内部に付着して機械故障の原因となる。従って、市販の塩化マグネシウム六水和物を使用する場合には、塩化マグネシウムは水又は海水に溶解した吹付時添加液として、粉粒状吹付基材とは分離しておき、吹き付け時に、吹付ノズル付近において粉粒状吹付基材と混合するようにする。
【0044】
尚、塩化マグネシウムとして、無水塩化マグネシウムを使用する場合には、粉粒状の無水塩化マグネシウムは潮解性を有しないことから、粒状無水塩化マグネシウムは粉粒状吹付基材の側に添加して用いる。粉粒状吹付基材の側に混合した方が取り扱いが容易であり、また、酸化マグネシウムとの均一な混合も行い易いからである。この場合には、吹付時添加液としては、水又は海水が使用される。尚、無水塩化マグネシウムの粒径は、およそ5mmφ以下の粉粒状のものが使用される。
【0045】
また、さらに粉粒状吹付基材又は吹付時添加液には、さらにリン酸マグネシウム(第一リン酸マグネシウム(Mg(H2PO4)2・4H2O),第二リン酸マグネシウム(MgHPO4・3H2O),第三リン酸マグネシウム(Mg3(PO4)2・8H2O),ピロリン酸マグネシウム(Mg2P2O7),メタリン酸マグネシウム(Mg(PO3)2)等),リン酸カルシウム,骨りん酸,ようりん肥料などのリン酸塩の粉粒体や、硫酸第一鉄を含む粉粒体を添加(吹付時添加液に添加する場合は水に溶かして添加)することもできる。
【0046】
酸化マグネシウムMgOとしては、
(a)マグネサイト(MgCO3)鉱石のか焼により製造されるもの(乾式ルート)や、
(b)溶解採鉱鹹水(MgCl2リッチな塩層に水を注入し、静水圧下で地表に戻して得られる鹹水)又は海水から沈殿によって生成される水酸化マグネシウムMg(OH)2を濾過し、洗浄し、焼成して製造されるもの(湿式ルート)
などを使用することができる(非特許文献5,第1.2章参照)。尚、湿式ルートでは、例えば、溶解採鉱鹹水又は海水をイオン交換樹脂を介して脱ホウし、CaCl2鹹水を添加してCaSO4・2H2Oを沈殿させることにより硫酸塩濃度を下げてMgCl2リッチ鹹水を精製し、これを消石灰又はドライム(dolime)と反応させて水酸化マグネシウムMg(OH)2を沈殿させ、沈殿によって生成される水酸化マグネシウムMg(OH)2を濾過し、洗浄し、焼成して製造される。然し乍ら、マグネサイト鉱石にはMgCO3以外にも不純物としてクロムCrなどの重金属が含まれる場合もあり、本発明の水中緑化用吹付材を水域に投入した際に公害を生じさせない観点から、海水から湿式ルートにより製造される酸化マグネシウム(「海水由来マグネシア」という。)を用いることが好ましい。マグネシアは、一般に、か焼温度によって、(a)軽焼(又は仮焼)(light-burned),700~1000℃、(b)硬焼(hard-burned),1000~1500℃、(c)死焼(dead-burned),1500~2000℃、のようにグレード分けされており(非特許文献5,第1.2章参照。尚、か焼温度のグレードに関しては、本明細書では非特許文献5記載のもので統一する。)、このグレードによりマグネシア粒子の表面積が異なることに起因して水和反応性が異なる。本発明ではか焼温度の限定まではしないが、吹き付け後の硬化強度をできるだけ高くするため、死焼又は硬焼の海水由来マグネシアを使用するのが好適である。軽焼のものは、硬化強度が弱く吹付層が硬くならずに剥がれ落ちやすいため、本発明の用途としてはあまり適さない。
【0047】
綿状生竹繊維は、以前に本発明者らが共同開発したもので、生竹稈を繊維細胞の細胞壁が裂開するように圧縮粉砕することにより製造されるものを使用する(特許文献15参照)。原料としては、生竹を使用する。「生竹」とは、青竹の伐採後乾燥前の状態の竹をいい、稈の表皮が緑色から茶色に変色する(枯れ竹となる)より前の状態の竹をいう。生竹を原料とするのは、枯れて硬くなった竹を使用すると粉砕時に粉状となって繊維状とならないからである。この生竹を、二軸スクリュ押出機の、噛合し又は近接して回転する二本のスクリュ間に通すことによって圧縮し潰砕するとともに、該両スクリュ終端に設けられた固定歯の歯間から圧縮潰砕された竹材を押し出し、該固定歯の歯板面に接して回転する回転刃によって押し出される圧縮潰砕された竹材を切断することによって、綿状に繊維化することにより綿状生竹繊維を製造する。「二軸圧縮粉砕機」とは、長尺筒状のシリンダ内に、螺旋状の磨砕歯(又は磨砕臼)を備えた二本のスクリューが噛合った状態で挿入され、シリンダの後端には多数の透孔が形成された固定歯と、該固定歯の歯板面に接して回転駆動される回転刃とが設けられており、各スクリューは同方向または異方向に回転駆動されることによって、シリンダ内に投入された被磨砕物を圧縮し磨砕しながら前端から後端へ搬送し、固定歯の各歯間から圧縮磨砕された被磨砕物を押し出し、回転刃によって押し出される被磨砕物を切断するように構成された磨砕装置をいう(例えば、特許文献16,17を参照)。
【0048】
図1に綿状生竹繊維の外観写真を示す。
図1(a),(b)は綿状生竹繊維の拡大写真、
図1(c),(d)は、バックに梱包された綿状生竹繊維の全体写真である。この綿状生竹繊維は、通常の竹チップや竹の大鋸屑とは異なり、大半の繊維細胞の細胞壁が裂開した状態にある。
図2に、綿状生竹繊維の繊維組織の電子顕微鏡写真を示す。このように、繊維細胞の細胞壁が裂開した状態とすることで、細胞壁内に水中の窒素固定菌が侵入し、水中に溶け込んだ窒素Nを繊維細胞の細胞壁内に固定するように作用する(特許文献15,1参照)。綿状生竹繊維は、篩分級で目開き1mmの網目を通過する破砕された粒子又は繊維の割合が60重量%以上とされる。または、Hilgard法(一定容器に試料を詰め、底面から自然吸水させてその増加量を計るは最大容水量の測定法。(特許文献15〔0031〕参照))により測定される最大容水量が70%以上とされる。
【0049】
粒状塩化ナトリウムは、粒状のものを固体状態で使用する。粒状塩化ナトリウムは、水中緑化用吹付材を構造物に吹き付けて吹付層を形成した後も、吹付層の内部に粒状を維持したまま固体の塊として残留する。そのため、粒状塩化ナトリウムの粒径は、吹き付けを行ってから吹付層が凝結するまでの間、マグネシアと水和せずに吹付層内に残る遊離水に溶解することなく粒状を保ち続ける程度の大きさが必要とされる。塩化ナトリウムは潮解性はなく、常温では水に溶解するのには時間が掛かるため、比較的小さい粒径でも凝結するまでの間、粒状を保ち続けることができる。そこで本発明では、粒状塩化ナトリウムの粒径は、0.1mmから12mmの塩化ナトリウム粒体が90wt%以上含有されたものを使用する。適度な大きさの粒径を維持すると共に、吹付層の強度を過度に弱めないようにするには、粒状塩化ナトリウムの粒径は、好ましくは3mm~8mmのものが90wt%以上とすることが好適である。また、粒状塩化ナトリウム全体の含有量としては、MgOの重量に対し、5~20Wt%とするのが好ましい。
【0050】
図3に、実施例1で実際に使用した粒状塩化ナトリウム(NaCl)及び水(又は海水)に溶解する前の塩化マグネシウム六水和物(MgCl
2・6H
2O)の外観写真を示す。
図3の上側の写真は粒状塩化ナトリウム(NaCl)、下側の写真は粒状塩化マグネシウム六水和物(MgCl
2・6H
2O)である。塩化マグネシウム六水和物(MgCl
2・6H
2O)については、潮解性が大きいため、大気中に放置すると水分を吸収して溶解するので、海岸などの実際の作業現場で粒体としてハンドリングするのは困難が伴う。そのため、使用時には淡水又は海水に溶かして使用するので粒径は特にどのようなものであってもよい。粒状塩化ナトリウム(NaCl)については、上述のように、吹付層が凝結するまでの間、粒状を保ち続けることができるサイズである必要がある。
図3の上側の写真を解析すると、31個の粒状塩化ナトリウムの球形換算した粒径は、最小値3.68mm,最大値7.76mm,平均値4.97mm,標準偏差値0.97mmである。この粒状塩化ナトリウムで吹き付け試験を行ったところ、吹付層が凝結するまで十分に粒状を保ち続けることができることが確認されている。
【0051】
塩化マグネシウム(MgCl2)は、反応性マグネシア(MgO)の吹き付け後の強度及び構造体との結着力を高めるために、混和剤として添加するものである。塩化マグネシウムを混和したマグネシアセメントは、オキシ塩化マグネシウムセメント(Magnesium oxychloride (MOC) cement)又はソレルセメント(Sorel cement)として知られている(非特許文献5,第5章参照)。反応性マグネシアに塩化マグネシウムを混和して水と混合することにより、例えば、次のような水和反応により水和物xMg(OH2)・yMgCl2・zH2Oを形成して凝結・硬化する。比x/yが3のものを3相(3 phase)、5のものを5相(5 phase)という(非特許文献5,第1.2章参照)。
【0052】
【0053】
本発明者は、反応性マグネシア(MgO)に塩化マグネシウム(MgCl2)及び綿状生竹繊維を混和して凝結・硬化させることにより、吹付層と構造物の結着力が大幅に向上するとともに強度も増加することを、実際に、普通ポルトランドセメントのコンクリート構造物に対して吹きつけを行う吹き付け試験により見いだした。そこで、この吹き付け試験の結果について、結着力及び強度を定量的に測定するため、面剪断試験及び割裂引張試験を行った。以下、この面剪断試験及び割裂引張試験の結果について説明する。
【0054】
(1)供試材料
供試材料としては、次の表の配合物を用いる。尚、今回の試験では用水には淡水を使用した。尚、この試験の目的は、MgCl2混和剤が構造物に対する結着力に及ぼす効果を確認することを目的としているため、粒状塩化ナトリウムは添加しないこととする。
【0055】
【0056】
ここで、用水の比重は1.0kg/lであり、綿状生竹繊維の比重は0.25kg/lである。「飛び砂」及び「真砂土」は骨材である。「飛び砂」は、大きな川の河口付近の砂浜海岸及びその周辺に飛散する粒径の小さい砂であり、今回は福岡県の遠賀川河口の芦屋海岸周辺の飛び砂を使用した。これらの骨材に、綿状生竹繊維をフィラーとして添加すると共にセメントバインダとして反応性マグネシア(MgO)を混合してセメントミキサで混練して粉粒状吹付基材を作る。一方で、塩化マグネシウム(MgCl2)混和剤に用水を加えて溶かし吹付時添加液を作る。そして、この粉粒状吹付基材に吹付時添加液を加えて混練して型枠に流し込み凝結・硬化させることにより、供試体を生成する。
【0057】
(2)試験項目及び試験方法
基盤材と吹付材との付着面のせん断強度(粘着力)を評価する試験は(A)一面せん断試験(JGS 0560 / JGS 0561)により行う。また、基盤材と吹付材の付着面の引張強度を評価する試験は(B)割裂引張強度試験(JISA1113)により行う。
【0058】
(A)面剪断試験(JGS 0560-2020)
内直径が60mmの円筒形の型枠に、普通ポルトランドセメント,砂,水を配合したモルタル(配合比:1:3:0.6)(以下「対接モルタル」という。)を高さ10mmとなるように充填して、常温空気中で48時間放置して凝結・硬化させて、基板構造物を作成する。その後、(表1)の各配合物又は対接モルタルと同配合のモルタル(以下「供試体」という。)を該円筒形型枠内の基板構造物上に高さ10mmとなるように充填して、温度20℃,湿度60%の恒温恒湿状態で2週間養生して凝結・硬化させることにより、
図4(a)に示すような供試体を作成する。この供試体を用いて、一面剪断試験(地盤工学会型 一面剪断試験機MIS-233-1-04:株式会社マルイ)により、
図4(a)に示すような剪断載荷Pを加え、基板構造物に対する供試体の付着面の剪断強度(粘着力)(最大剪断力(最大剪断載荷)及び剪断強さ(最大剪断力を境界面積で割った値))を測定する。剪断載荷をP[N]、付着面の面積をA(=28.27×10
-4m
2)とすると、剪断応力τはτ=S/Aである。垂直応力が0のとき、剪断応力τは付着面の粘着力に等しくなる。
【0059】
(B)割裂引張試験(JIS A1113(2006))
内直径が50mmの円筒形の型枠に円筒中心軸に沿って半分に仕切る仕切板を入れ、その片側に、普通ポルトランドセメント,砂,水を配合したモルタル(配合比:1:3:0.6)(以下「対接モルタル」という。)を高さ100mmとなるように充填して、常温空気中で48時間放置して凝結・硬化させて、基板構造物を作成する。その後、仕切板を除去して、基板構造物の逆側半分の空間に、(表1)の各配合物又は対接モルタルと同配合のモルタル(以下「供試体」という。)を高さ100mmとなるように充填して、温度20℃,湿度60%の恒温恒湿状態で2週間養生して凝結・硬化させることにより、
図4(b)に示すような試験片を作成する。この試験片を用いて、割裂引張試験(万能試験機UH-2000kN1:島津製作所)により、
図4(b)に示すような圧縮載荷Pを加え、基板構造物に対する供試体の最大荷重(最大圧縮載荷)及び引張強度(最大荷重を境界面積で割った値)を測定する。
【0060】
(3)試験結果1
(表2)に面剪断試験の試験結果を示す。(表3)に割裂引張試験の試験結果を示す。(表2)(表3)において「モルタル」は対接モルタルと同配合のモルタルを示す。「配合物1」「配合物2」は(表1)に示した配合物を示す。面剪断試験及び割裂引張試験は、配合物5(MgCl2混和剤無し)についても実施したが、配合物5の供試体は、基板構造物との結着力が極めて弱く、手で押した程度で両者が容易に剥がれてしまったため、測定不能であった。
【0061】
【0062】
【0063】
図5に、各供試体の剪断強さと引張強度の比較をグラフで示す。面剪断試験及び割裂引張試験の結果から、MgCl
2混和剤を添加することによって基板構造物との結着力が飛躍的に増大することが確認された。また、普通ポルトランドセメント,砂,水を配合したモルタルと比較しても、MgCl
2混和剤を添加した、綿状生竹繊維を含むMOCセメントバインダの結着力のほうが大きく、より剥がれにくくなることが確認された。
【0064】
尚、本実施例で示した粉粒状吹付基材には、リン酸塩(Li,Na,K,Mg,Ca等のアルカリ金属の無機リン酸塩、骨りん酸、ようりん肥料など)を含む粉粒体を加えることも出来る。非特許文献5の第5.5章によれば、MOCバインダは、湿った状態では、結合相がMg(OH)2溶液とMgCl2溶液に溶解し、強度が低下することが報告されている。Zou et al.(非特許文献6)の計算では、3相はMg重量モル濃度が2.25mol/kg未満の溶液で不安定であり、5相はMg重量モル濃度が1.47mol/kgの溶液で不安定であることが報告されている。また、少量のリン酸塩を混和すると、リン酸塩が溶液中に必要な遊離Mg2+イオンのレベルを低下させ、5相を安定化させることにより、MOCバインダの強度低下が押さえられることが報告されている(非特許文献5,7,8)。このことから、粉粒状吹付基材にリン酸塩を含む粉粒体を加えることで、水中での吹付層の強度低下を抑制することができる。更に、一般に海水中に於いては、カリウムは十分な濃度があるが(非特許文献3,166頁参照)、窒素やリンは不足する傾向がある。窒素に関しては、上述したように、綿状生竹繊維を含むことにより、窒素固定菌による海水中の溶存窒素(溶存濃度44~48μg at N/l(非特許文献9参照))を固定することで供給を行うことが出来、リンは、上述の粉粒状吹付基材に含まれるリン酸塩が吹付層内に混和されており、これが時間の経過と共に水中に徐放されることで、リン酸が供給される。これにより、吹付層の周辺に植物の生長に必要な窒素及びリンが安定供給されることとなり、吹付層における水中微生物又は水生植物の繁殖がより大きく促進される。
【0065】
(4)試験項目及び試験方法並びに試験結果2
次に、本発明に於いて使用する水中緑化用吹付材の強度特性と耐水性についての試験を行ったので、以下に説明する。この試験では、粉粒状吹付基材に、酸化マグネシウム及び綿状生竹繊維に加えて、リン酸塩(第二リン酸マグネシウム)及び硫酸第一鉄を添加したもので試験を行った。
【0066】
本発明に於いて、水中緑化用吹付材は、水域設置用構造物に対する高い付着性は要求されるものの、機械的強度についてはあまり高い強度が要求されるものではない(寧ろ、粒状塩化ナトリウムを添加しポーラスとしたことで、強度は低下する)。然し乍ら、水中緑化用吹付材を吹き付けた水域設置用構造物を水底に沈設した場合、水中内で生じる水流によってある程度の負荷がかかることから、容易に剥がれ落ちないという観点から、吹付層の強度が高いに超したことはない。そこで、一軸圧縮試験によって強度の測定を行った。また、一般には、リン酸塩や竹繊維などの添加剤を含まない単体のマグネシアセメントは耐水性が低いことが知られていることから、水に浸漬することによる強度特性の変化についても試験を行った。
【0067】
【0068】
供試体としては、(表4)に示すような配合の供試材料を用いた。ここで、表4の「砂」は表1と同じ「飛び砂」である。配合物1(実施例1.11)及び配合物2(実施例1.12)は、酸化マグネシウム(MgO)に対し、塩化マグネシウム(MgCl2)、リン酸塩(第二リン酸マグネシウム)、及び硫酸第一鉄を添加したセメント配合物に、骨材として砂を混合し、さらに竹繊維を混合したものである。配合物3(比較例2)及び配合物4(比較例3)は、(表4)の配合物1,2の成分中の竹繊維の代わりに、竹粉(竹を粉状(大鋸屑状)にしたもの)を添加したものである。配合物5(比較例4)及び配合物6(比較例5)は、(表4)の配合物1,2の成分中から竹繊維を取り除いたものである。
【0069】
(表4)の各配合物は、円筒形状の型枠に流し込んで成型し、凝結・硬化させて供試体を作成した。それぞれの供試体は、高さ10cm、直径5cmの円柱形状とした。また、(表4)の各配合物に対して、それぞれ3つの供試体を作成した。これらの供試体は、室温・空気中で28日間養生してから、一軸圧縮試験(JIS A 1216,JGS 0511)により一軸圧縮強度を測定した。また、(表4)の配合物2,4,6については、28日間の養生後に、海水中に24時間投入した後に一軸圧縮強度を測定した。一軸圧縮試験の測定結果は(表4)の「平均強度」の欄に示した通りである。(表4)の「平均強度」は、各配合物に対し作成した3つの供試体の一軸圧縮強度の平均値である。また、
図6に、各供試体の一軸圧縮試験で測定された平均強度のグラフを示す。
【0070】
竹繊維や竹粉を混合した場合、竹繊維や竹粉が水を吸収するため、配合物の混練時に混ざりにくくなる。そこで、十分均一に混練するために、竹繊維や竹粉を混合した配合物((表4)の配合物1~4)には、竹繊維や竹粉を入れない配合物((表4)の配合物5,6)に比べ、用水を約1.8倍多く添加した。そのため、竹繊維や竹粉を混合した配合物((表4)の配合物1~4)は、竹繊維や竹粉を入れない配合物((表4)の配合物5,6)に比べ、一軸圧縮強度が低下した。然し乍ら、竹繊維を混合した配合物((表4)の配合物1,2)では、平均の一軸圧縮強度は10000kN/m2を超えており、本発明が目的とする、水域設置用構造物への吹付材としては十分な強度であると考えられる。また、竹繊維や竹粉を入れない配合物((表4)の配合物5,6)は、海水中に24時間浸漬しただけで強度の低下が見られたが、竹繊維や竹粉を混合した配合物((表4)の配合物1~4)では、海水中への24時間浸漬では強度低下は見られなかった。従って、竹繊維や竹粉を混合した場合には、これらを入れない場合に比べて耐水性が向上すると考えられる。また、竹繊維を混合した場合は、竹粉を混合した場合に比べ、一軸圧縮強度は大きくなった。このことから、竹繊維はフィラーとして機能し、強度向上に寄与していると考えられる。
水中緑化用吹付材に混合する砂などの骨材は、ダンプトラック1によって輸送され、荷下ろしされる。荷下ろしされた骨材は骨材スタック14として現場の敷地内に積み上げて置かれる。骨材としては、砂(飛砂、海砂、川砂等),高炉スラグ,真砂土等を用いることが出来る。
骨材は、ホイールローダ2により貯溜ホッパ3内に投入され、貯溜ホッパ3の排出口から送出される骨材は、第1コンベヤ4により計量ミキサ5に投入される。計量ミキサ5には、さらに、酸化マグネシウム,綿状生竹繊維,粒状塩化ナトリウムを含む粉粒状吹付基材が投入され、骨材と混合される。粉粒状吹付基材は、実施例1で説明したものが用いられる。骨材と粉粒状吹付基材の混合物は、第2コンベヤ6により計量ミキサ5から第1吹付機7に送られる。第1吹付機7には、コンプレッサ8により圧縮空気が入力されており、骨材・粉粒状吹付基材混合物は、圧縮空気による空気輸送によって第1吹付ホース9を通して吹付ノズル10へと送られる。
一方、溶液タンク11には、淡水又は海水に溶解された塩化マグネシウム溶液である吹付時添加液が貯溜されている。この吹付時添加液は、第2吹付機12により、第2吹付ホース13を通して吹付ノズル10から2m以内の位置に設けられた混合バルブ10aに送られる。混合バルブ10aにおいて、吹付時添加液は骨材・粉粒状吹付基材混合物と混合されて、構造物Bの表面に吹き付けられ、構造物Bの表面に吹付層が形成される。このとき、吹付時添加液を調整する際に使用する塩化マグネシウム六水和物の量が、第1吹付ホース9を通して吹付ノズル10に送られる粉粒状吹付基材中の酸化マグネシウム1重量部に対し、0.5~2.0重量部となるように、第2吹付機12の吐出流量を調整する。吹付層の厚さは、現場水域の状況に応じて適宜設定されるが、通常は1cm~10cm程度とされる。
構造物Bは、消波ブロック、廃船、魚礁、蛎殻を充填した籠など、水底又は水辺に設置する構造物である。構造物Bの表面を吹付層でコーティングした後、吹付層を空気中に放置して凝結・硬化させることにより水域設置用構造物が完成する。
このように、粉粒状吹付基材と吹付時添加液を混合バルブ10aに別々に供給して、混合バルブ10aから吹付ノズル10の間で両者を混合して構造物Bの表面への吹きつけを行うことで、粉粒状吹付基材と吹付時添加液の混合による凝結・硬化反応は構造物Bの表面の吹付層内で進行する。従って、計量ミキサ5や第1吹付機7の内部で凝結・硬化反応が生じることがないため、機械内部での詰まりなどが発生することが防止される。また、混合バルブ10aと吹付ノズル10との間に中間ホース10bを設けた事で、吹き付け作業における作業者の負担が軽減される。
また、吹付時添加液に用いる「水又は海水」には、水域設置用構造物を河川や湖沼に設置する場合にはその設置現場の河川や湖沼から汲み上げた水を使用し、海に設置する場合にはその設置現場の海から汲み上げた海水を使用することができる。これにより、資材の運搬作業で大きな労力を要する水の運搬を行う必要がなくなるため、労力が大幅に低減される。
尚、本実施例では、粉粒状吹付基材として、酸化マグネシウム,綿状生竹繊維,粒状塩化ナトリウムを含む粉粒状吹付基材を使用し、吹付時添加液として、水又は海水に溶解された塩化マグネシウム溶液を使用する例について説明した。
一方、塩化マグネシウムとして無水塩化マグネシウムを使用する場合には、粉粒状吹付基材として、酸化マグネシウム,綿状生竹繊維,粒状塩化ナトリウム,及び粉粒状無水塩化マグネシウムを含む粉粒状吹付基材を使用し、吹付時添加液として、水又は海水を使用する。この場合も、上述した水域設置用構造物の製造方法と同様な方法により、吹きつけを行って水域設置用構造物を製造することができる。無水塩化マグネシウムは、水と水和反応して激しく発熱する性質があるため、吹付機の内部では水と隔離して取り扱う必要がある。従って、粉粒状無水塩化マグネシウムは、水を含まない粉粒状吹付基材に混合して吹き付けを行う。そして、混合バルブ10aにおいて、水(又は海水)と混合して構造物Bへの吹きつけを行い、構造物Bの表面に於いて、無水塩化マグネシウムを水及び酸化マグネシウムと反応させる。従って、吹き付け直後には構造物Bの表面の吹付層は発熱して高温となる。そのため、酸化マグネシウム1重量部に対し、無水塩化マグネシウムは0.02~0.1重量部となる範囲で使用する。無水塩化マグネシウムの割合を0.1重量部より多くすると、吹き付け直後の吹付層は、手で触れないほど高温となるからである。また、無水塩化マグネシウムの割合が0.02重量部より少ないと、塩化マグネシウムと反応しない余剰な酸化マグネシウムが多くなり、これら余剰の酸化マグネシウムが水と反応してゲル状の水酸化マグネシウム相を形成して、強度と耐水性が低下する。そのため、吹付層が構造物Bの表面から剥離し易くなる。