(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023031292
(43)【公開日】2023-03-08
(54)【発明の名称】電気解剖学的マップ内の渦の識別
(51)【国際特許分類】
A61B 18/14 20060101AFI20230301BHJP
A61B 34/20 20160101ALI20230301BHJP
【FI】
A61B18/14
A61B34/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022131585
(22)【出願日】2022-08-22
(31)【優先権主張番号】17/409,429
(32)【優先日】2021-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】511099630
【氏名又は名称】バイオセンス・ウエブスター・(イスラエル)・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Biosense Webster (Israel), Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】アサフ・ゴバリ
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160KK03
4C160KK04
4C160KK18
4C160KK23
4C160KK62
4C160MM38
(57)【要約】
【課題】複数のベクトルを含むベクトルマップ内の渦を識別するためのシステムを提供すること。
【解決手段】システムは、プロセッサ及び出力デバイスを含む。プロセッサは、(i)ベクトルマップ上で1つ又は2つ以上の閉ループを画定することと、(ii)各閉ループについて、閉ループと交差する複数のベクトルを識別し、識別されたベクトルのベクトル和を計算し、ベクトル和に基づいて、渦が閉ループの内側に位置しているかどうかを決定することと、を行うように構成されている。出力デバイスは、1つ又は2つ以上の識別された渦をユーザに示すように構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のベクトルを含むベクトルマップ内の渦を識別するためのシステムであって、
プロセッサであって、
前記ベクトルマップ上に1つ又は2つ以上の閉ループを画定することと、
各閉ループについて、前記閉ループと交差する複数の前記ベクトルを識別し、前記識別されたベクトルのベクトル和を計算し、前記ベクトル和に基づいて、渦が前記閉ループの内側に位置しているかどうかを決定することと、を行うように構成されている、プロセッサと、
1つ又は2つ以上の識別された渦をユーザに示すように構成されている、出力デバイスと、を備える、システム。
【請求項2】
前記閉ループのうちの少なくとも1つが、円を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記プロセッサが、前記ベクトル和が閾値未満であることに応答して、前記渦が前記閉ループの内側に位置していると決定するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記プロセッサが、前記渦を識別するために、前記閉ループのうちの少なくとも1つのサイズ及び形状の一方又は両方を調整するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記プロセッサが、前記渦を識別するために、前記閉ループのうちの少なくとも1つの位置を調整するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記ベクトルマップが、患者心臓の電気解剖学的(EA)マップを含み、前記複数のベクトルが、前記患者心臓の表面上を伝搬する電気信号を示し、前記渦を識別することによって、前記プロセッサが、前記患者心臓の1つ又は2つ以上のリエントラント不整脈を識別するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
複数のベクトルを含むベクトルマップ内の渦を識別するための方法であって、
前記ベクトルマップ上の1つ又は2つ以上の閉ループを画定し、各閉ループについて、前記閉ループと交差する複数の前記ベクトルを識別することと、
前記識別されたベクトルのベクトル和を計算し、前記ベクトル和に基づいて、渦が前記閉ループの内側に位置しているかどうかを決定することと、
1つ又は2つ以上の識別された渦をユーザに示すことと、を含む、方法。
【請求項8】
前記閉ループを画定することが、前記閉ループの中で少なくとも円を画定することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ベクトル和に基づいて決定することが、前記ベクトル和が閾値未満であることに応答して、前記渦が前記閉ループの内側に位置していると決定することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記渦を識別するために、前記閉ループのうちの少なくとも1つのサイズ及び形状の一方又は両方を調整することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記渦を識別するために、前記閉ループのうちの少なくとも1つの位置を調整することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記ベクトルマップが、患者心臓の電気解剖学的(EA)マップを含み、前記複数のベクトルが、前記患者心臓の表面上を伝搬する電気信号を示し、前記渦を識別することが、前記患者心臓の1つ又は2つ以上のリエントラント不整脈を識別することを含む、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、医療用デバイスに関し、具体的には、電気解剖学的マップ内の渦を識別するための方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
電気解剖学的マップ内で不整脈を識別するための様々な技術が公開されている。
【0003】
例えば、米国特許出願公開第2019/0104958号は、空間及び時間を通して波面運動を特徴付けるベクトル場の判定及びマッピングのための方法及びシステムを説明している。本発明の方法及びシステムは、空間的に分布した場所からのデータを利用し、波面ベクトル流れ場を完全に自動化された様式でマッピングする。これらのマップは、活性化を平面的、遠心的、回転的に特徴付けるために使用される。更に、回転又は発散の強度は、これらの場から判定され、回転又は焦点の活動が大幅に増加した空間点を選択するために使用することができる。患者の心拍障害中に記録された電気生理学的データに適用することで、本発明の方法は、複雑な活性化マップの視覚的解釈の手段を提供する。不整脈の発現中の回転及び遠心活動の強度及び場所に関する情報は、そのような障害を治療するように設計された治療を誘導することができる。
【0004】
米国特許出願公開第2020/0375489号は、プロセッサにおいて、患者の器官の腔の少なくとも一部分の内面の二次元(two-dimensional、2D)電気解剖学的(electroanatomical、EA)マップを受信することを含む方法を説明しており、この2D EAマップは、内面上のそれぞれの場所において測定された電気生理学的(electrophysiological、EP)値を含む。複素解析関数は、2D EAマップの所与の領域内で測定された一組のEP値に適合される。特異点は、適合された複素解析関数において識別される。領域は、内面の三次元(3D)EAマップ上に投影される。3D EAマップの少なくとも一部は、ユーザに提示され、適合された複素解析関数において識別された特異点に対応する、3D EAマップ上の場所における催不整脈EP活動を示すことを含む。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書に説明される本発明の実施形態は、複数のベクトルを含むベクトルマップ内の渦を識別するためのシステムを提供し、システムは、プロセッサ及び出力デバイスを含む。プロセッサは、(i)ベクトルマップ上で1つ又は2つ以上の閉ループを画定することと、(ii)各閉ループについて、閉ループと交差する複数のベクトルを識別し、識別されたベクトルのベクトル和を計算し、ベクトル和に基づいて、渦が閉ループの内側に位置しているかどうかを決定することと、を行うように構成されている。出力デバイスは、1つ又は2つ以上の識別された渦をユーザに示すように構成されている。
【0006】
いくつかの実施形態では、閉ループのうちの少なくとも1つは、円を含む。他の実施形態では、プロセッサは、ベクトル和が閾値未満であることに応答して、渦が閉ループの内側に位置していると決定するように構成されている。更に他の実施形態では、プロセッサは、渦を識別するために、閉ループのうちの少なくとも1つのサイズ及び形状の一方又は両方を調整するように構成されている。
【0007】
実施形態では、プロセッサは、渦を識別するために、閉ループのうちの少なくとも1つの位置を調整するように構成されている。別の実施形態では、ベクトルマップは、患者心臓の電気解剖学的(EA)マップを含み、複数のベクトルは、患者心臓の表面の上を伝搬する電気信号を示し、渦を識別することによって、プロセッサは、患者心臓の1つ又は2つ以上のリエントラント不整脈を識別するように構成されている。
【0008】
更に、本発明の実施形態によれば、複数のベクトルを含むベクトルマップ内の渦を識別するための方法が提供され、この方法は、ベクトルマップ上の1つ又は2つ以上の閉ループを画定すること、及び各閉ループについて、閉ループと交差する複数のベクトルを識別することを含む。識別されたベクトルのベクトル和を計算し、ベクトル和に基づいて、渦が閉ループの内側に位置しているかどうかを決定する。1つ又は2つ以上の識別された渦は、ユーザに示される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
本発明は、以下の「発明を実施するための形態」を図面と併せて考慮することで、より完全に理解されよう。
【
図1】本発明の例示的な実施形態による、カテーテルベースの追跡及びアブレーションシステムの概略描画図である。
【
図2】本発明の例示の実施形態による、波数ベクトルを有する三次元(3D)電気解剖学的(EA)マップの概略描画図である。
【
図3】本発明の例示の実施形態による、複数の波数ベクトルを含むベクトルマップ内で渦を識別するための方法を概略的に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
概論
リエントラント不整脈は、電気インパルスが心臓の一端から他端まで移動してその後停止するのではなく、心臓内で狭い円を描くように繰り返し移動する場合に、患者心臓で発生する。患者心臓の少なくとも一部分の電気解剖学的(EA)マッピングを実施する場合、少なくともいくつかのリエントラント不整脈は、EAマッピング中に生成された波数ベクトルの渦として現れ得る。患者心臓で渦が発生すると、波数ベクトルの方向は、典型的には対称的に分布され、したがって、渦と関連付けられた波数ベクトルは相互に相殺される。
【0011】
原則として、本明細書では医師とも称される、経験豊富な心臓電気生理学者は、EAマップ上に提示された波数ベクトルの配置を視覚的に検査することにより、1つ又は2つ以上の渦を識別し得る。しかしながら、EAマップの上に提示されるデータポイント及び波数ベクトルの数が多くなると、医師から1つ又は2つ以上の渦が隠されてしまう可能性がある。更に、(視覚的アセスメントを使用する)渦の定性的識別は、例えば、異なる医師の中で、同じ解剖学的現象の異なるアセスメントをもたらし得る。したがって、EAマップ内の渦を識別するための定量的基準を開発することが重要である。
【0012】
以下に説明される本発明の実施形態は、患者心臓のEAマップの上に提示されたベクトルマップの波数ベクトルに基づいて、渦を識別するための改善された技術を提供する。本開示の状況において、かつ特許請求の範囲において、「ベクトル」及び「波数ベクトル」という用語は、互換的に使用され、患者心臓の表面の上を伝搬する電気信号を示す表示オブジェクトを指す。
【0013】
いくつかの実施形態では、EAマップは、患者心臓の解剖学的マップの上に提示される、ベクトルマップの波数ベクトルなどの様々なタイプの表示オブジェクトを含むが、これらに限定されない。
【0014】
いくつかの実施形態では、プロセッサ及び出力デバイスを備えるシステムは、複数の波数ベクトルを有するベクトルマップ内で渦を識別するように構成されている。
【0015】
いくつかの実施形態では、プロセッサは、ベクトルマップ上の1つ又は2つ以上の閉ループを画定するように構成され、閉ループは、円の形状又は任意の他の好適な形状を有し得る。閉ループ内に渦が発生した場合、閉ループ形状と交差する波数ベクトルの方向は閉ループを中心に対称的に分布し、したがって、合計すると相互に相殺すると予想される。
【0016】
いくつかの実施形態では、各閉ループについて、プロセッサは、閉ループと交差する複数のベクトルを識別するように構成されている。プロセッサは、識別されたベクトルのベクトル和を計算し、ベクトル和に基づいて、渦が閉ループの内側に位置しているかどうかを決定するように更に構成されている。
【0017】
いくつかの実施形態では、プロセッサは、閾値を保持し、ベクトル和と閾値との間を比較するように構成されている。比較に基づいて、プロセッサは、ベクトル和が閾値よりも小さいときに、渦が閉ループの内側に位置していると決定するように構成されている。
【0018】
いくつかの実施形態では、プロセッサは、EAマップの上に提示されたベクトルマップ内の1つ以上の渦を識別するために、閉ループのサイズ、形状、及び位置のうちの少なくとも1つを調整するように構成されている。プロセッサは、1つ又は2つ以上の識別された渦を示す出力、及び各識別された渦の位置を生成するように更に構成されている。
【0019】
いくつかの実施形態では、出力デバイス、例えば、ディスプレイは、任意の好適な表示オブジェクトを使用して、EAマップ上でプロセッサによって生成された出力を提示するように構成されている。上で説明されるように、ベクトルマップの波数ベクトルは、患者心臓の表面の上を伝搬する電気信号を示す。したがって、渦を識別することにより、プロセッサは、患者心臓で発生した1つ又は2つ以上のリエントラント不整脈を識別するように構成されている。
【0020】
開示された技術は、心臓電気生理学者に、患者心臓の電気解剖学的(EA)マップ内の渦の識別及びマッピングを提供する。識別は、リエントラント不整脈を有する疑いがある、心臓の選択したセクションの定量的分析に基づく。更に、EAマップの上に表示される情報の混雑により渦の識別を誤る可能性がある心臓電気生理学者とは対照的に、開示された技術は、心臓のEAマップの上に提示される電気生理学的測定値の量の増加に応答して、心臓の渦の識別精度を改善する。
【0021】
システムの説明
図1は、本発明の例示的な実施形態による、カテーテルベースの追跡及びアブレーションシステム20の概略描画図である。
【0022】
いくつかの実施形態では、システム20は、本実施例では心臓カテーテルであるカテーテル22と、制御コンソール24と、を備える。本明細書に説明される実施形態では、カテーテル22は、電気解剖学的信号を感知すること、及び/又は患者28の心臓26内の組織のアブレーションなど、任意の好適な治療目的及び/又は診断目的で使用され得る。
【0023】
いくつかの実施形態では、コンソール24は、カテーテル22を介して信号を受信すること、及び本明細書に説明されるシステム20の他の構成要素を制御することに好適なフロントエンド回路及びインターフェース回路を有する、典型的には汎用コンピュータである、プロセッサ34を備える。コンソール24は、プロセッサ34から心臓26のマップ27を受信し、かつマップ27を表示するように構成されたユーザディスプレイ35を更に備える。
【0024】
いくつかの実施形態では、マップ27は、任意の好適な技術を使用して生成された任意の好適な種類の3次元(3D)解剖学的マップを含むことができる。例えば、解剖学的マップは、好適な医療用撮像システムを使用することによって生成された解剖学的画像を使用して、又はBiosenseWebster Inc.(Irvine,Calif.)により製造されているCARTO(商標)システムで利用可能な高速解剖学的マッピング(fast anatomical mapping、FAM)技術を使用して、又は任意の他の好適な技術を使用して、又は上記の任意の好適な組み合わせを使用して生成され得る。
【0025】
ここで、挿入
図23を参照する。いくつかの実施形態では、アブレーション処置を実行する前に、医師30は、心臓26の対象とする組織の電気解剖学的(EA)マッピングを実行するために、テーブル29上に横たわる患者28の脈管系を通してカテーテル22を挿入する。
【0026】
いくつかの実施形態では、カテーテル22は、複数の感知電極(図示せず)を有する遠位端アセンブリ40を備える。例えば、遠位端アセンブリ40は、(i)複数のスプラインを有するバスケットカテーテルであって、それぞれのスプラインが複数の感知電極を有する、バスケットカテーテル、(ii)バルーンの表面上に配置された複数の感知電極を有するバルーンカテーテル、又は(iii)複数の感知電極を有するフォーカルカテーテル、を備え得る。それぞれの感知電極は、心臓26の組織における電気生理学的(EP)信号の感知に応答して、感知されたEP信号を示す1つ以上の信号を生成するように構成されている。
【0027】
いくつかの実施形態では、カテーテル22の近位端は、EAマッピングを実行するために、これらの信号をプロセッサ34に転送するために、とりわけインターフェース回路(図示せず)に接続されている。いくつかの実施形態では、EAマッピング中に、遠位端アセンブリ40の感知電極によって生成された信号は、数千のデータポイント、例えば、約50,000個又は更にそれより多いデータポイントを含むことができ、これらはコンソール24のメモリ38内に記憶され得る。データポイントに基づいて、プロセッサ34は、心臓26の表面の上を伝搬する電気信号を示す、本明細書ではベクトル(以下の
図2に示される)とも称される、波数ベクトルをマップ27上に提示するように構成されている。
【0028】
いくつかの実施形態では、提示されたベクトルに基づいて、医師30及び/又はプロセッサ34は、心臓26で発生した1つ又は2つ以上のタイプの不整脈を識別し得る。更に、医師30は、例えば、心臓26の組織をアブレーションすることによって、不整脈を治療するための1つ又は2つ以上の部位を判定し得る。しかしながら、医師30は、前述の多数のデータポイント及びベクトルを精査して分析することが困難であり得、これにより、アブレーション処置の継続時間を長引かせることがある。更に、大量のデータポイント及びベクトルは、医師30を困惑させるおそれがあり、したがって、EA分析及び対応する治療、例えば、組織アブレーションの品質を低下させることがある。
【0029】
本開示及び特許請求の範囲の文脈において、任意の数値又は数値の範囲に関する用語「約」又は「およそ」とは、構成要素の部分又は構成要素の集合が、本明細書に説明されたその意図された目的に沿って機能することを可能とする、好適な寸法の許容誤差を示すものである。
【0030】
場合によっては、心臓26は、本明細書では「リエントリ」とも称される、リエントラント不整脈の1つ又は2つ以上の部位を有し得る。いくつかの実施形態では、プロセッサ34は、心臓26のEAマップ(例えば、マップ27)において、リエントリを示す、形状に配置された複数のベクトルを識別するように構成されている。リエントラント不整脈を識別する技術は、下記の
図2及び
図3に詳細に説明される。
【0031】
他の実施形態では、カテーテル22は、遠位端アセンブリ40に連結された1つ以上のアブレーション電極(図示せず)を備え得る。アブレーション電極は、心臓26に対象とする組織のEAマッピングの分析に基づいて判定される、心臓26の標的場所において組織をアブレーションするように構成されている。アブレーション計画を判定した後、医師30は、例えば、カテーテル22を操作するためのマニピュレータ32を使用することによって、心臓26内の標的場所のすぐ近くに遠位端アセンブリ40をナビゲートする。その後、医師30は、アブレーション電極のうちの1つ又は2つ以上を標的組織と接触させて配置し、組織に1つ又は2つ以上のアブレーション信号を適用する。追加的又は代替的に、医師30は、前述のアブレーション計画を実行するために、心臓26の組織をアブレーションするための任意の異なる種類の好適なカテーテルを使用し得る。
【0032】
いくつかの実施形態では、心腔内の遠位端アセンブリ40の位置は、磁気位置追跡システムの位置センサ(図示せず)を使用して測定される。本実施例では、コンソール24は、駆動回路41を備え、この駆動回路41は、テーブル29に横たわった患者28の外部の既知の位置、例えば、患者の胴体の下に配置された磁界発生器36を駆動するように構成されている。位置センサは、遠位端に連結され、磁界発生器36からの感知された外部磁界に応じて位置信号を生成するように構成されている。位置信号は、位置追跡システムの座標系におけるカテーテル22の遠位端の位置を示す。
【0033】
この位置感知の方法は、様々な医療用途において、例えば、Biosense Webster Inc.(Irvine,Calif.)により製造されているCARTO(商標)システムにおいて実施されており、米国特許第5,391,199号、同第6,690,963号、同第6,484,118号、同第6,239,724号、同第6,618,612号及び同第6,332,089号、PCT特許出願国際公開第96/05768号、並びに米国特許出願公開第2002/0065455(A1)号、同第2003/0120150(A1)号及び同第2004/0068178(A1)号に詳細に説明されており、これらの開示は全て、参照により本明細書に組み込まれている。
【0034】
いくつかの実施形態では、位置追跡システムの座標系は、システム20及びマップ27の座標系と位置合わせされており、その結果、プロセッサ34は、解剖学的又はEAマップ(例えば、マップ27)の上に遠位端アセンブリ40の位置を表示するように構成されている。
【0035】
いくつかの実施形態では、プロセッサ34は、典型的には、汎用コンピュータを備え、この汎用コンピュータは、本明細書で説明される機能を実行するようにソフトウェアでプログラムされている。ソフトウェアは、例えば、ネットワーク上で、コンピュータに電子形態でダウンロードされ得るか、あるいは、それは、代替的に又は追加的に、磁気メモリ、光学メモリ、若しくは電子メモリなどの、非一時的実体的媒体上に提供及び/又は記憶され得る。
【0036】
システム20のこの特定の構成は、本発明の実施形態によって対処される特定の問題を示すために、かつこのようなシステムの性能を向上させる際のこれらの実施形態の適用を実証するために、例として示されている。しかしながら、本発明の実施形態は、この特定の種類の例示的なシステムに決して限定されるものではなく、本明細書に説明される原理は、他の種類の医療システムにも同様に適用され得る。
【0037】
リエントラント不整脈を示す渦を自動的に識別すること
図2は、本発明の例示の実施形態による、三次元(3D)電気解剖学的(EA)マップ50の概略描画図である。EAマップ50は、心臓26の少なくとも一部分の3D解剖学的マップを含み、とりわけ、心臓26の表面の上を伝搬する電気信号を示す複数のベクトル55を有する。簡潔にするために本明細書ではマップ50とも称されるEAマップ50は、例えば、上記の
図1のマップ27を置き換えることができる。
【0038】
場合によっては、心臓26は、リエントラント、又は他の種類の不整脈を有し得る。リエントラント不整脈は、典型的には、電気インパルスが心臓の一端から他端まで移動してその後停止するのではなく、閉ループ内で、典型的には心臓26内で狭い円を描くように移動する場合に、発生する。一種のリエントリとして、心臓26の心筋における励起の渦は、生命を脅かす心不整脈のメカニズムであると考えられる。原則として、医師30は、EAマップ50の上に提示された波数ベクトル55の配置を視覚的に検査することによって、1つ又は2つ以上の渦を識別し得る。しかしながら、EAマップ(それぞれ
図1及び
図2のEAマップ27及び50)内のデータポイント及び波数ベクトル55の数が増加すると、1つ又は2つ以上の渦が医師30から隠れてしまう可能性がある。更に、(視覚的検査を使用する)渦の定性的識別は、例えば、異なる医師の中で、同じ解剖学的現象の異なるアセスメントをもたらし得る。したがって、EAマップ50内の渦を識別するための定量的基準を開発することが重要である。
【0039】
いくつかの実施形態では、プロセッサ34は、EAマップ50上に、1つ又は2つ以上の閉ループ、本実施例において、円52及び54を画定するように構成されている。上で説明されるように、EAマップ50は、複数のベクトル55を有するベクトルマップを含む。いくつかの実施形態では、円52及び54は、EAマップ50上で医師30によって選択される心臓26のセクション内に画定され得る。追加的又は代替的に、プロセッサ34は、EAマップ50の少なくとも一部分を走査するように構成されており、走査された領域におけるベクトル55の配置に基づいて、プロセッサ34は、EAマップ50の上に画定及び配置されている閉ループの位置、サイズ、形状、及び量を画定し得る。
【0040】
ここで、円52及び54をそれぞれ示す挿入
図62及び64を参照する。いくつかの実施形態では、円52は、ベクトル55の中からの複数のベクトル55Aが円52の外周と交差するように、EAマップ50上に画定される。同様に、円54は、ベクトル55の中からの複数のベクトル55Bが円54の外周と交差するように、EAマップ50上に画定される。
【0041】
いくつかの実施形態では、プロセッサ34は、それぞれ、円52及び54と交差するベクトル55A及び55Bを識別するように構成されている。更に、プロセッサ34は、前述の円の各々について、識別されたベクトルのベクトル和を計算し、ベクトル和に基づいて、渦がそれぞれの円の内側に位置しているかどうかを決定するように構成されている。
【0042】
いくつかの実施形態では、プロセッサ34は、ベクトル和が円内、又はプロセッサによって画定される閉ループの任意の他の形状(例えば、楕円)内の渦を示すかどうか定義する、円52及び54と交差するベクトル55A及び55Bの正規化範囲のパーセンテージ(例えば、正規化範囲の約10%よりも小さい)として、医師30によって事前定義され得る閾値を保持し得る。
【0043】
そのような実施形態では、プロセッサ34は、ベクトル和と閾値との間を比較するように構成されており、ベクトル和が閾値よりも小さい場合、プロセッサ34は、それぞれの閉ループ内の渦を識別する。
【0044】
ここで再び挿入
図62を参照する。心臓26で渦が発生すると、ベクトル55Aの方向は、典型的には対称的に分散され、したがってベクトル55Aは相互に相殺される。円52の例では、ベクトル55Aのベクトル和の大きさは、ほぼゼロであり、これは閾値よりも小さい。いくつかの実施形態では、ベクトル和及び閾値に基づいて、プロセッサ34は、渦が円52内に位置していることを決定するように構成されている。
【0045】
いくつかの実施形態では、プロセッサ34は、渦が円52内で識別されることを示す出力を生成するように構成されている。更に、ディスプレイ35又は任意の他の好適な出力デバイスは、識別された渦を医師30に、例えば、EAマップ50上の円52の元の位置において表示し得る。
【0046】
ここで再び挿入
図64を参照する。円54の例では、ベクトル65は、方向及び大きさを有するベクトル55Bの計算されたベクトル和を示す。本実施例では、ベクトル65の大きさは、閾値よりも大きいベクトル55Bの正規化範囲の約10パーセントよりも大きい。したがって、ベクトル和及び閾値に基づいて、プロセッサ34は、渦が円54内に位置していることを決定するように構成されている。更に、プロセッサ34は、ディスプレイ35又は任意の他の好適な出力デバイスに、波数ベクトル55Bのベクトル和がベクトル65の方向に心臓26を横切って伝搬しているという指標を出力するように構成されている。
【0047】
他の実施形態では、円52及び54に加えて、又はその代わりに、プロセッサ34は、任意の好適な形状及び/又はサイズを有する他の種類の閉ループを、EAマップ50上に画定するように構成されている。更に、プロセッサ34は、EAマップ50内で1つ又は2つ以上の渦を識別するために、閉ループのうちの1つ又は2つ以上のサイズ及び/又は形状を調整するように構成されている。
【0048】
他の実施形態では、プロセッサ34は、EAマップ50上の円54の調整位置において渦を識別するために、EAマップ50上の閉ループ(例えば、円54)の位置を調整するように構成されている。更に、プロセッサ34は、EAマップ50が追加の渦を有するかどうかをチェックするために、閉ループのうちの1つ又は2つ以上のサイズ、形状、及び位置の任意の組み合わせを調整するように構成されている。
【0049】
いくつかの実施形態では、ディスプレイ35(又は任意の他の好適なタイプの出力デバイス)は、任意の好適な技術を使用して、医師30に(又はシステム20の任意の他のユーザに)1つ又は2つ以上の識別された渦を示すように構成されている。例えば、識別された渦の位置において表示されるポップアップ、識別された渦を示す閉ループ(例えば、円52)に適用される色、識別された渦の位置及び特性を有するリスト、又は任意の他の好適なタイプの指標である。
【0050】
いくつかの実施形態では、プロセッサ34によって識別される1つ又は2つ以上の渦の存在に基づいて、医師30は、(i)心臓26が1つ又は2つ以上のリエントラント不整脈を有するかどうかを決定することができ、(ii)各リエントラント不整脈の位置に基づいて、医師30は、心臓26の組織における、標的場所及び高周波(radiofrequency、RF)アブレーションのパラメータなどの治療を判定し得る。
【0051】
他の実施形態では、プロセッサ34は、(i)EA50上の異なる位置における複数の要素を画定し、(ii)複数の要素によって囲まれた領域内、又は複数の要素を囲む外周に沿って、ベクトルを識別し、(iii)(ベクトル和に基づいて)渦が複数の要素のうちの3つ以上に囲まれた領域の内側に位置しているかどうかを決定するために、ベクトルのベクトル和を計算するように構成されている。
【0052】
図3は、本発明の例示の実施形態による、複数の波数ベクトル55、55A、及び55Bを有するEAマップ50内で渦を識別するための方法を概略的に示すフローチャートである。
【0053】
この方法は、円画定ステップ100で始まり、プロセッサ34は、(i)複数のベクトル55、55A及び55Bを有するEAマップ50を受信し、(ii)上記の
図2に詳細に説明されるように、EAマップ50上に、円52及び54などであるが、これらに限定されない1つ又は2つ以上の閉ループを画定する。
【0054】
渦識別ステップ102では、画定された円の各々について、プロセッサ34は、(i)円の外周と交差する複数のベクトルを識別し、(ii)識別されたベクトルのベクトル和を計算し、(iii)ベクトル和に基づいて、渦が円の内側に位置しているかどうかを決定する。いくつかの実施形態では、プロセッサ34は、上記の
図2に詳細に説明されるように、渦が円の内側に位置しているかどうかを決定するために、閾値を保持し、ベクトル和と閾値とを比較する。円52の例では、ベクトル和は、円52内で渦が識別されるように、閾値よりも小さい。円54の例では、ベクトル和は、円54内で渦が識別されないように、閾値よりも大きい。
【0055】
方法を終了する提示ステップ104で、プロセッサ34は、EAマップ50内で識別された1つ又は2つ以上の渦を示す出力を医師30に(例えば、ディスプレイ35上に)提示する。渦の提示に関するいくつかの実施形態は、上記の
図2に詳細に説明されている。
【0056】
いくつかの実施形態では、EAマップ50は、心臓26の少なくとも一部分の3D解剖学的マップを含み、ベクトル55、55A及び55Bは、上記の
図2に説明されるように、心臓26の表面の上を伝搬する電気信号を示す波数ベクトルを含む。いくつかの実施形態では、プロセッサ34は、渦を識別するために、閉ループ(例えば、円52及び54)のうちの少なくとも1つのサイズ及び形状の一方又は両方を調整するように構成されている。更に、プロセッサ34は、追加の渦を識別するために、閉ループ(例えば、円54)のうちの少なくとも1つの位置を調整するように構成されている。
図2に詳細に説明されるように、1つ又は2つ以上の渦の識別に基づいて、プロセッサは、患者28の心臓内の1つ又は2つ以上のリエントラント不整脈を識別するように構成されている。1つ又は2つ以上のリエントラント不整脈を識別することに応答して、医師30は、リエントラント不整脈を治療するために、心臓組織のRFアブレーションなどであるが、これらに限定されない治療を判定し得る。
【0057】
本明細書に説明される実施形態は主に、患者心臓のリエントラント不整脈を示す1つ又は2つ以上の渦の識別に対処しているが、本明細書に説明される方法及びシステムは、他の心臓用途でも使用することができる。
【0058】
したがって、上述の実施形態は、例として引用したものであり、本発明は、上記に具体的に示し、かつ説明したものに限定されないことが理解されよう。むしろ、本発明の範囲は、上で説明される様々な特徴の組み合わせ及び部分的組み合わせの両方、並びに前述の説明を読むことで当業者に想到されるであろう、先行技術において開示されていないそれらの変形例及び修正例を含むものである。参照により本特許出願に組み込まれる文献は、これらの組み込まれた文献において、いずれかの用語が本明細書において明示的又は暗示的になされた定義と矛盾する様式で定義される程度まで、本明細書における定義のみを考慮するものとする点を除き、本出願の不可欠な部分と見なすものとする。
【0059】
〔実施の態様〕
(1) 複数のベクトルを含むベクトルマップ内の渦を識別するためのシステムであって、
プロセッサであって、
前記ベクトルマップ上に1つ又は2つ以上の閉ループを画定することと、
各閉ループについて、前記閉ループと交差する複数の前記ベクトルを識別し、前記識別されたベクトルのベクトル和を計算し、前記ベクトル和に基づいて、渦が前記閉ループの内側に位置しているかどうかを決定することと、を行うように構成されている、プロセッサと、
1つ又は2つ以上の識別された渦をユーザに示すように構成されている、出力デバイスと、を備える、システム。
(2) 前記閉ループのうちの少なくとも1つが、円を含む、実施態様1に記載のシステム。
(3) 前記プロセッサが、前記ベクトル和が閾値未満であることに応答して、前記渦が前記閉ループの内側に位置していると決定するように構成されている、実施態様1に記載のシステム。
(4) 前記プロセッサが、前記渦を識別するために、前記閉ループのうちの少なくとも1つのサイズ及び形状の一方又は両方を調整するように構成されている、実施態様1に記載のシステム。
(5) 前記プロセッサが、前記渦を識別するために、前記閉ループのうちの少なくとも1つの位置を調整するように構成されている、実施態様1に記載のシステム。
【0060】
(6) 前記ベクトルマップが、患者心臓の電気解剖学的(EA)マップを含み、前記複数のベクトルが、前記患者心臓の表面上を伝搬する電気信号を示し、前記渦を識別することによって、前記プロセッサが、前記患者心臓の1つ又は2つ以上のリエントラント不整脈を識別するように構成されている、実施態様1に記載のシステム。
(7) 複数のベクトルを含むベクトルマップ内の渦を識別するための方法であって、
前記ベクトルマップ上の1つ又は2つ以上の閉ループを画定し、各閉ループについて、前記閉ループと交差する複数の前記ベクトルを識別することと、
前記識別されたベクトルのベクトル和を計算し、前記ベクトル和に基づいて、渦が前記閉ループの内側に位置しているかどうかを決定することと、
1つ又は2つ以上の識別された渦をユーザに示すことと、を含む、方法。
(8) 前記閉ループを画定することが、前記閉ループの中で少なくとも円を画定することを含む、実施態様7に記載の方法。
(9) 前記ベクトル和に基づいて決定することが、前記ベクトル和が閾値未満であることに応答して、前記渦が前記閉ループの内側に位置していると決定することを含む、実施態様7に記載の方法。
(10) 前記渦を識別するために、前記閉ループのうちの少なくとも1つのサイズ及び形状の一方又は両方を調整することを含む、実施態様7に記載の方法。
【0061】
(11) 前記渦を識別するために、前記閉ループのうちの少なくとも1つの位置を調整することを含む、実施態様7に記載の方法。
(12) 前記ベクトルマップが、患者心臓の電気解剖学的(EA)マップを含み、前記複数のベクトルが、前記患者心臓の表面上を伝搬する電気信号を示し、前記渦を識別することが、前記患者心臓の1つ又は2つ以上のリエントラント不整脈を識別することを含む、実施態様7に記載の方法。
【外国語明細書】